(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した基板処理装置の一実施形態を説明する。本実施形態では、基板処理装置を、電子部品を実装する基板の両面に、配線の下地となる密着層と、配線をめっきによって形成するためのシード層とをスパッタ法により形成する装置に例示して説明する。また、成膜対象となる基板は、フィルム状の基板(以下、フィルム基板)である。
【0020】
フィルム基板は、樹脂を主成分とする。フィルム基板の材料には、例えば、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、セルロース、および、これらの共重合樹脂等が用いられる。又はフィルム基板の材料には、ゼラチン、及びカゼイン等の有機天然化合物が用いられる。
【0021】
より詳しくは、フィルム基板の形成材料には、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチレンメタクリレート、アクリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、トリアセテート、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、エチレン‐酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、金属イオン架橋エチレン‐メタクリル酸共重合体、ポリウレタン、セロファン等が用いられる。このうち、フィルム基板の形成材料には、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメチレンメタクリレート、及び、トリアセテートのいずれかが用いられることが好ましい。
【0022】
なお、本実施形態による効果を高めるうえでは、厚さが1mm以下のフィルム基板が用いられることが好ましく、厚さが100μm以下のフィルム基板が用いられることが更に好ましい。また、例えば、フィルム基板は、一辺の長さ(平面視での幅及び高さ)が500mm〜600mmの大きさを有する。
【0023】
図1〜
図5を参照して、基板処理装置10の概略構成について説明する。
基板処理装置10は、基板装着部11、及び第1基板昇降部13を備える。基板装着部11は、成膜前のフィルム基板15を基板保持部14に装着するとともに、成膜後のフィルム基板15を基板保持部14から取り外す装置である。基板装着部11及び第1基板昇降部13は、制御装置12によって制御される。
【0024】
図2に示すように、基板保持部14は、枠体16と、枠体16の内周面に設けられた基板固定具17を備えている。基板固定具17は、磁石からなり、枠体16の4辺に複数設けられる。
【0025】
図3に示すように、枠体16は、第1枠体16a及び第2枠体16bから構成されている。第1枠体16a及び第2枠体16bの内周面側には、溝状の被嵌合部16c,16dが形成されている。第1枠体16a及び第2枠体16bは、図示しない固定具等により互いに固定される。また、第1枠体16aのうち基板固定具17が配置される位置、又は第1枠体16aの全域には、磁石16eが埋設されている。基板固定具17は、一対の固定片17a,17bからなる。また、基板固定具17は、その一端に溝部17cを備えている。溝部17cには、フィルム基板15の縁が差し込まれる。なお、フィルム基板15の厚さに応じて溝部17cは省略できる。
【0026】
基板保持部14にフィルム基板15が装着される際には、例えば第2枠体16bの被嵌合部16dに基板固定具17の固定片17bを配置した状態で、フィルム基板15を第2枠体16bに対する所定の位置に配置する。また、第1枠体16aの被嵌合部16cに固定片17aを配置する。この固定片17aは磁石16eの磁力により第1枠体16aに向かって吸引される。そして、固定片17b上にフィルム基板15を載置した第2枠体16bに、固定片17aを配置した第1枠体16aを重ねる。これにより枠体16に基板固定具17を介してフィルム基板15が固定される。
【0027】
図1に示すように、基板装着部11で基板保持部14に装着されたフィルム基板15は、第1基板昇降部13によって上昇し、基板装着部11よりも鉛直方向上方に設けられた往路構造体21内に搬送される。
【0028】
往路構造体21は、長尺状の筐体21aと、筐体21a内に設けられた往路搬送路23とを備えている。往路搬送路23は、基板保持部14に装着されたフィルム基板15を、第1基板昇降部13から、第1基板昇降部13と反対側に設けられた第2基板昇降部30に向かって搬送する。
【0029】
図4に示すように、往路搬送路23は、搬送レール24と、複数の搬送ローラ25とを備えている。搬送ローラ25は、搬送レール24に対し回転ができる状態で設けられている。搬送ローラ25は、搬送モータ26等の駆動源によって駆動される。搬送モータ26は、制御装置12によって制御される。搬送レール24、搬送ローラ25、搬送モータ26及び制御装置12は、フィルム基板15を搬送する搬送機構を構成する。
【0030】
図1に示すように、筐体21aの長手方向における一部には、複数のヒータ31が設けられている。ヒータ31は、往路搬送路23を挟んだ両側方に設けられ、往路搬送路23に沿って搬送されるフィルム基板15を両側から加熱する。また複数のヒータ31は、筐体21aの長手方向に沿って並べられている。フィルム基板15は、材料の特性上、吸湿性であるため、複数のヒータ31によって連続的に加熱されることによって脱ガスされる。
【0031】
このヒータ31は、例えば、発熱線を、絶縁体を介して金属パイプに収容したシーズヒータ等からなり、制御装置12によって、フィルム基板15の変形を防止できる上限温度Tmax以下に温度調整される。この上限温度Tmaxは、フィルム基板15の材料に応じて設定される。
【0032】
また、ヒータ31の個数は、往路構造体21における加熱時間が、フィルム基板15の脱ガスに必要な時間以上、またはその時間とほぼ同じとなるように調整されている。
脱ガス処理されたフィルム基板15は、制御装置12によって制御される第2基板昇降部30によって順次下降して、往路構造体21の鉛直方向下方に設けられた復路構造体22に搬送される。
【0033】
復路構造体22は、逆スパッタ装置50、第1スパッタ装置70、及び第2スパッタ装置90を備える。逆スパッタ装置50は、フィルム基板15の両面を清浄化する逆スパッタを行う装置である。第1スパッタ装置70は、フィルム基板15に密着層を形成する装置であり、第2スパッタ装置90は、密着層の上にシード層を形成する装置である。
【0034】
第2基板昇降部30と逆スパッタ装置50との間には、搬入口35a(
図5参照)を有する搬入室35、及び第1予備室36が設けられている。第2スパッタ装置90と基板装着部11との間には、第2予備室37、及び搬出口38a(
図5参照)を有する搬出室38が設けられている。
【0035】
搬入室35、第1予備室36、逆スパッタ装置50、第1スパッタ装置70、第2スパッタ装置90、第2予備室37、及び搬出室38には、復路搬送路32が設けられている。復路搬送路32は、往路搬送路23と同様に、搬送レール24、搬送ローラ25を備えている。搬送ローラ25は、搬送モータ26に接続されている。復路搬送路32の搬送モータ26もまた、制御装置12によって制御される。フィルム基板15は、この復路搬送路32に沿って、復路構造体22内を第2基板昇降部30から基板装着部11に向かって直線状に搬送される。
【0036】
搬入室35の搬入口35a、及び搬入室35と第1予備室36との間、及び第1予備室36の出口にはゲートバルブ41〜43が設けられている。搬入室35及び第1予備室36は、図示しない排気部によって所定の圧力範囲に調整される。また、第2スパッタ装置90及び第2予備室37の間、第2予備室37及び搬出室38の間、搬出室38の出口には、ゲートバルブ46〜48が設けられている。第2予備室37及び搬出室38は、図示しない排気部によって所定の圧力範囲に調整される。
【0037】
第1予備室36内であって、復路搬送路32を挟んで対向する両側方にはヒータ40が設けられている(
図5参照)。ヒータ40は、例えばシーズヒータ等からなり、制御装置12によって、上述した上限温度以下に温度調整される。第1予備室36では、フィルム基板15の両面を加熱することによって、成膜前における最終的な脱ガス処理を行う。
【0038】
第1予備室36のヒータ40に設定される加熱温度と、往路構造体21のヒータ31に設定される加熱温度とは、互いに同じであってもよいし、互いに異なる温度であってもよい。なお、第1予備室36のヒータ40に設定される加熱温度が、往路構造体21のヒータ31に設定される加熱温度よりも高い場合には、フィルム基板15の温度が成膜の直前まで上がり続けるため、フィルム基板15の温度が下がることによるガスの吸着も抑えられる。
【0039】
図5に示すように、逆スパッタ装置50は、静電チャック53を2つ備えている。静電チャック53は、高周波電力が供給されるバイアス電極を有している。逆スパッタ装置50は、逆スパッタチャンバ51(
図6参照)の内部空間に、電子及びスパッタガスの正イオンを含むプラズマを生成するとともに、静電チャック53にバイアス電圧を印加することで、プラズマ中の正イオンをフィルム基板15の表面に引き込んで、フィルム基板15の付着物等を除去する。
【0040】
一方の静電チャック53は、フィルム基板15の搬送方向である基板搬送方向の前段に設けられ、他方の静電チャック53は、基板搬送方向の後段に設けられている。前段の静電チャック53は、逆スパッタ装置50の入口側からみて左側に設けられ、後段の静電チャック53は、入口側から見て右側に設けられている。
【0041】
第1スパッタ装置70は、ターゲットを有する第1カソードユニット72及び静電チャック73を2対備えている。ターゲットは、例えばチタンを主成分とする。一方の対の第1カソードユニット72及び静電チャック73は、基板搬送方向の前段に設けられ、他方の対の第1カソードユニット72及び静電チャック73は、基板搬送方向の後段に設けられている。2対の第1カソードユニット72及び静電チャック73は、基板搬送方向において重複しない位置に設けられている。前段の第1カソードユニット72及び後段の第1カソードユニット72は、復路搬送路32に対して互いに異なる側方に設けられている。即ち、2つの第1カソードユニット72は、フィルム基板15の搬送方向において相違する位置、及び搬送方向と直交する方向において相違する位置に設けられている。
【0042】
第2スパッタ装置90は、第1スパッタ装置70との間、第2予備室37との間にゲートバルブ45,46を備えている。また、第2スパッタ装置90は、ターゲットを有する第2カソードユニット92及び静電チャック93を2対備えている。ターゲットは、例えば銅を主成分とする。
【0043】
一方の対の第2カソードユニット92及び静電チャック93は、基板搬送方向の前段に設けられ、他方の対の第2カソードユニット92及び静電チャック93は、基板搬送方向の後段に設けられている。2対の第2カソードユニット92及び静電チャック93は、基板搬送方向において重複しない位置に設けられている。前段の第2カソードユニット92及び後段の第2カソードユニット92は、復路搬送路32に対して互いに異なる側方に設けられている。即ち、2つの第2カソードユニット92は、フィルム基板15の搬送方向において相違する位置、及び搬送方向と直交する方向において相違する位置に設けられている。
【0044】
このように、第1スパッタ装置70の2つの第1カソードユニット72、第2スパッタ装置90の2つの第2カソードユニット92は、フィルム基板15の搬送方向の一側方及び他側方に交互に配置されている。また、逆スパッタ装置50も、静電チャック53が搬送方向の側方に交互に配置されている。
【0045】
制御装置12による搬送モータ26の制御によって、フィルム基板15は、搬送レール24上に垂直に立てられた状態で、逆スパッタ装置50、第1スパッタ装置70、及び第2スパッタ装置90を通過する。逆スパッタ装置50では、フィルム基板15は、逆スパッタ装置50の入口側からみて、一方の成膜面である右側面15a、他方の成膜面である左側面15bの順に逆スパッタされる。
【0046】
第1スパッタ装置70では、右側面15a、左側面15bの順に薄膜が形成される。続いて第2スパッタ装置90では、右側面15a、左側面15bの順に薄膜が形成される。このように、逆スパッタ装置50、第1スパッタ装置70、及び第2スパッタ装置90を搬送されるフィルム基板15は、右側面15a、左側面15bの順に交互に基板処理される。このため、一方の成膜面が処理された後、続けて他方の成膜面を処理する間は、その反対側となる一方の成膜面は冷却される。
【0047】
[逆スパッタ装置の構成]
次に
図6及び
図7を参照して、逆スパッタ装置50の構成及び動作について説明する。
図6に示すように、逆スパッタチャンバ51内であって、入口側に設けられたゲートバルブ43と出口側に設けられたゲートバルブ44との間には、復路搬送路32が直線状に延びている。
【0048】
また、逆スパッタチャンバ51には、その内部空間を排気する排気部56と、内部空間にアルゴンを含むスパッタガスを供給するスパッタガス供給部57が接続されている。スパッタガスとしては、アルゴンの他に、窒素ガス、酸素ガス、及び水素ガスのいずれかを用いてもよく、アルゴンを含むこれら4種のガスの少なくとも2つが混合されたガスでもよい。排気部56、及びスパッタガス供給部57は、制御装置12により制御される。
【0049】
また、逆スパッタ装置50は、前段の逆スパッタ部50A及び後段の逆スパッタ部50Bを有する。前段の逆スパッタ部50A及び後段の逆スパッタ部50Bは同様の構成であるため、前段の逆スパッタ部50Aの構成のみについて説明する。
【0050】
逆スパッタ部50Aは、1つの静電チャック53を有する。なお、前段の静電チャック53は、復路搬送路32の両側方のうち、入口側からみて左側に設けられている。また後段の静電チャック53は、復路搬送路32の入口側からみて右側に設けられている。
【0051】
静電チャック53は、フィルム基板15との間に発生する力によってフィルム基板15を吸着する。また、逆スパッタにより温度が上昇したフィルム基板15の熱を吸収することによってフィルム基板15を冷却する。静電チャック53には、静電チャック変位部54が連結され、静電チャック53を、復路搬送路32上のフィルム基板15と接触する接触位置、及び復路搬送路32上のフィルム基板15と接触しない非接触位置との間で変位させる。
【0052】
図7に示すように、静電チャック53は、絶縁プレート60、銅プレート61、及びバイアス電極62が積層された積層体を有する。最上層に設けられた絶縁プレート60は、酸化アルミニウム等のセラミックスや、ポリイミド等の樹脂等の基材を有し、矩形状且つ板状に形成されている。
【0053】
絶縁プレート60には、複数の正電極63と複数の負電極64とが埋設されている。正電極63及び負電極64は、細長状に形成されおり、互いに間隔を設けて交互に配置されている。正電極63には正電極電源65が電気的に接続され、負電極64には負電極電源66が電気的に接続されている。正電極電源65は、相対的に正の電圧を正電極63に印加する。負電極電源66は、相対的に負の電圧を負電極64に印加する。正電極63及び負電極64に電圧が印加されると、フィルム基板15が絶縁プレート60に吸着される。
【0054】
バイアス電極62には、バイアス用高周波電源67が接続されている。バイアス電極62には、バイアス用高周波電源67によって高周波電力が供給される。高周波電力としては、例えば1MHz以上6MHz以下の周波数を有することが好ましい。あるいは、バイアス用高周波電源67は、相対的に高い周波数の高周波電力と、相対的に低い周波数の高周波電力とを供給する構成でもよい。この場合には、13MHz以上28MHz以下の高周波電力と、100kHz以上1MHz以下の高周波電力とを供給することが好ましい。
【0055】
また、バイアス電極62には、冷媒が通過する冷媒通路68が形成されている。冷媒通路68は、例えば、板状のバイアス電極62内を複数回屈曲する屈曲形状を有している。冷媒通路68には冷媒循環部69が接続され、冷媒循環部69は冷媒通路68内において冷媒を循環させる。冷媒は、冷却水、フッ素系溶液、及びエチレングリコール溶液等の冷却液や、ヘリウムガスやアルゴンガス等の冷却ガスが用いられる。
【0056】
ゲートバルブ43から基板保持部14に装着されたフィルム基板15が逆スパッタチャンバ51内に搬送されると、搬送モータ26が駆動されることにより、フィルム基板15が、所定の位置に配置される。また、静電チャック変位部54が駆動され、静電チャック53が接触位置まで変位する。さらに、正電極電源65及び負電極電源66から正電極63及び負電極64に電力が供給され、フィルム基板15が絶縁プレート60に吸着される。
【0057】
また、排気部56が駆動され、プラズマ生成空間Sにスパッタガスが供給されることにより逆スパッタチャンバ51内が所定の圧力に調整される。また、逆スパッタチャンバ51内が所定の圧力に調整された状態で、バイアス用高周波電源67によりバイアス電極62に高周波電力が供給されると、プラズマ生成空間Sにはスパッタガスの正イオン及び電子を含むプラズマが形成される。プラズマ中の正イオンは、負電位の状態のフィルム基板15の表面に引き込まれる。これにより、静電チャック53に接触する面とは反対側の成膜面の付着物等が取り除かれて、清浄化される。
【0058】
こうして前段の逆スパッタ部50Aによって、フィルム基板15の一方の成膜面(右側面15a)に対し逆スパッタが所定時間継続されると、静電チャック変位部54が駆動され、接触位置から非接触位置に変位する。
【0059】
さらに搬送モータ26が駆動されることにより、フィルム基板15は、後段の逆スパッタ部50Bにおける所定の位置に配置される。以降、後段の逆スパッタ部50Bでも、前段の逆スパッタ部50Aと同様に、他方の成膜面(左側面15b)に対し逆スパッタが行われる。この間、前段の逆スパッタ部50Aで逆スパッタされた一方の成膜面(右側面15a)は、静電チャック53に接触することにより冷却される。
【0060】
[スパッタ装置の構成]
次に
図8及び
図9を参照して、第1スパッタ装置70及び第2スパッタ装置90の構成及びその動作について説明する。第1スパッタ装置70及び第2スパッタ装置90は、ターゲットの材料のみが相違し、その他の構成は同様であるため、第1スパッタ装置70の構成のみを説明し、第2スパッタ装置90の構成の説明は省略する。
【0061】
第1スパッタ装置70内には、入口側に設けられたゲートバルブ44から出口側に設けられたゲートバルブ45に向かって直線状に延びる復路搬送路32が設けられている。この復路搬送路32は、逆スパッタ装置50の復路搬送路32及び第2スパッタ装置90の復路搬送路32と同一直線上に配置されている。
【0062】
また、スパッタチャンバ71には、その内部空間を排気する排気部78と、内部空間にスパッタガスを供給するスパッタガス供給部79が接続されている。スパッタガスは、逆スパッタ装置50と同じものを用いることができる。
【0063】
また、第1スパッタ装置70は、前段のスパッタ部70A及び後段のスパッタ部70Bを有する。前段のスパッタ部70A及び後段のスパッタ部70Bは、復路搬送路32に対して互いに異なる側方に配置される。前段のスパッタ部70A及び後段のスパッタ部70Bは同様の構成であるため、前段のスパッタ部70Aの構成のみについて説明する。
【0064】
前段のスパッタ部70Aは、第1カソードユニット72及び静電チャック73を1対備えている。第1カソードユニット72には、プラズマ生成空間Sを介して、静電チャック73が対向している。
【0065】
第1カソードユニット72は、バッキングプレート74、及びチタンを主成分とするターゲット75を備えている。ターゲット75は、バッキングプレート74のうち静電チャック73に近い側の面に設けられている。なお、第2スパッタ装置90のターゲット75は、銅を主成分とする。
【0066】
バッキングプレート74には、ターゲット電源76が電気的に接続されている。また、バッキングプレート74の裏面側には、プラズマ生成空間Sに磁場を形成する磁気回路77が設けられている。
【0067】
静電チャック73は、フィルム基板15との間に発生する力によってフィルム基板15を吸着する。また、スパッタにより温度が上昇したフィルム基板15の熱を吸収することによってフィルム基板15を冷却する。静電チャック73には、静電チャック変位部80が連結され、静電チャック73を、復路搬送路32上のフィルム基板15と接触する接触位置、及び復路搬送路32上のフィルム基板15と接触しない非接触位置との間で変位させる。
【0068】
図9に示すように、第1スパッタ装置70の静電チャック73は、逆スパッタ装置50の静電チャック53とほぼ同じ構成であるが、バイアス電極62を備えていない点で逆スパッタ装置50の静電チャック53と異なる。
【0069】
即ち、第1スパッタ装置70の静電チャック73は、正電極84及び負電極85が埋設された絶縁プレート81、冷媒通路88が形成された冷却プレート82を備える。正電極84には、正電極電源86が電気的に接続され、負電極85には負電極電源87が電気的に接続されている。また、冷媒通路88には、冷媒循環部89が接続されている。
【0070】
ゲートバルブ44から基板保持部14に装着されたフィルム基板15がスパッタチャンバ71内に搬送されると、搬送モータ26が駆動されることにより、フィルム基板15が、前段の第1カソードユニット72に対向する位置である対向位置に配置される。また、静電チャック変位部80が駆動され、静電チャック73が接触位置まで変位する。さらに、正電極電源86及び負電極電源87から正電極84及び負電極85に電力が供給され、フィルム基板15が絶縁プレート81に吸着される。
【0071】
また、排気部78が駆動され、プラズマ生成空間Sにスパッタガスが供給されることによりスパッタチャンバ71内が所定の圧力に調整される。また、ターゲット電源76に高周波電力が供給されると、プラズマ生成空間Sにはスパッタガスの正イオン及び電子を含むプラズマが形成される。プラズマ中の正イオンは、負電位の状態のターゲット75の表面に引き込まれる。これにより、ターゲット75の表面が正イオンによってスパッタされ、チタン粒子がフィルム基板15の一方の成膜面(右側面15a)に到達してチタンを主成分とする薄膜であるTi層を形成する。
【0072】
さらに搬送モータ26が駆動されることにより、フィルム基板15は、後段のスパッタ部70Bの第1カソードユニット72に対向する位置に配置される。以降、後段のスパッタ部70Bでも、前段のスパッタ部70Aと同様に、他方の成膜面(左側面15b)に対しスパッタが行われる。この間、前段のスパッタ部70AでTi層が形成された一方の成膜面(右側面15a)は、静電チャック73に接触することにより冷却される。
【0073】
[基板処理装置全体の動作]
次に、
図5を参照して、復路構造体22を中心に基板処理装置10の動作について説明する。
【0074】
制御装置12は、第1基板昇降部13及び搬送モータ26を駆動させて、基板装着部11で基板保持部14に装着されたフィルム基板15を、往路構造体21に搬入する。
制御装置12は、往路構造体21のヒータ31を駆動するとともに往路構造体21の搬送モータ26を制御して、基板保持部14に装着されたフィルム基板15を加熱しながら搬送する。従って、フィルム基板15は、復路構造体22に搬入される前に往路構造体21内での搬送中に予め加熱されることによって脱ガスされる。
【0075】
ここで、往路構造体21が基板保持部14のみを搬送し、復路構造体22の入口側で基板保持部14にフィルム基板15を装着する場合には、第1予備室36のヒータ40のみによって加熱処理が行われることとなる。しかし、本実施形態では、第1スパッタ装置70にフィルム基板15が搬入される前の往路搬送の間、基板保持部14に装着された状態でフィルム基板15が加熱される。このときの加熱時間は、第1予備室36における加熱時間よりも長い。このため、脱ガス処理の時間が十分確保できる。
【0076】
また、制御装置12は、搬送ローラ25等を駆動して、復路構造体22から1つのフィルム基板15を搬出すると、第2基板昇降部30を駆動させて、往路構造体21の終端位置に到達したフィルム基板15を復路構造体22に搬送する。即ち、復路構造体22内に存在するフィルム基板15の数は、ほぼ一定となるように制御装置12によって制御されている。
【0077】
制御装置12は、搬送モータ26を駆動させることによって、搬入室35の入口手前にあるフィルム基板15を、搬入室35を介して、第1予備室36に搬送する。また、制御装置12は、第1予備室36のヒータ40を、上述した上限温度以下となるように温度調整しながら駆動する。これにより、成膜前の最終的な脱ガス工程が行われる。
【0078】
制御装置12は、搬送モータ26を駆動させることによって、第1予備室36で所定時間加熱されたフィルム基板15を、逆スパッタ装置50内に搬送し、フィルム基板15を、基板搬送方向における前段の所定の位置に搬送する。そして、制御装置12は、逆スパッタ装置50を制御して、フィルム基板15の右側面15aを逆スパッタする。
【0079】
制御装置12は、右側面15aに対する逆スパッタを所定時間継続すると、搬送モータ26を駆動させることによって、フィルム基板15を、後段の所定の位置に搬送する。そして、制御装置12は、逆スパッタ装置50を制御して、フィルム基板15の左側面15bを逆スパッタする。
【0080】
逆スパッタ工程が終了すると、制御装置12は、搬送モータ26を駆動して、フィルム基板15を第1スパッタ装置70内に搬送し、前段の第1カソードユニット72に対向する対向位置に配置する。そして、制御装置12は、第1スパッタ装置70を制御して、第1カソードユニット72に対向する右側面15aにTi層を形成する。
【0081】
制御装置12は、右側面15aに対するスパッタを所定時間継続すると、復路構造体22の搬送モータ26を駆動して、後段の第1カソードユニット72に対向する位置に配置する。そして、制御装置12は、第1スパッタ装置70を制御して、第1カソードユニット72に対向する左側面15bにTi層を形成する。
【0082】
左側面15bに対するTi層の成膜工程が終了すると、制御装置12は、復路構造体22の搬送モータ26を駆動して、フィルム基板15を第2スパッタ装置90内に搬送し、前段の第2カソードユニット92に対向する対向位置に配置する。そして、制御装置12は、第1スパッタ装置70によるTi層の成膜工程と同様に、右側面15a及び左側面15bの順にCu層を形成する。
【0083】
Cu層の成膜が終了すると、制御装置12は、搬送モータ26を駆動して、フィルム基板15を、第2予備室37内に搬送する。さらに、制御装置12は、搬送モータ26を駆動して、第2予備室37のフィルム基板15を、搬出室38を介して、基板装着部11内に搬送する。基板装着部11では、基板保持部14からフィルム基板15が取り外される。
【0084】
このように、複数のフィルム基板15は、往路構造体21及び復路構造体22を直線的に搬送される。復路構造体22では、複数のフィルム基板15に対する逆スパッタ処理、Ti層の成膜処理、Cu層の成膜処理が平行して行われる。また、フィルム基板15は、復路構造体22の第1スパッタ装置70及び第2スパッタ装置90によって、片面ずつ交互に両面成膜されるため、フィルム基板15を回転させて成膜面を反転させる必要がない。また、基板処理による温度上昇を抑えるために、カソードユニット等の間の搬送距離の拡大、スパッタ装置の出力の低下等を行わなくても、フィルム基板15の温度上昇を抑制することができる。従って、復路構造体22にフィルム基板15を搬入してから、復路構造体22からフィルム基板15を搬出するまでの時間を短縮化し、片面ずつ両面成膜する場合において基板処理装置10の生産効率を高めることができる。
【0085】
また、基板保持部14を復路構造体22の入口に搬送するまでの間、往路構造体21においてフィルム基板15が加熱される。フィルム基板15に吸収された水分等を上限温度以下で加熱しながら除去するには所定の時間以上の加熱する必要があるが、往路構造体21でフィルム基板15が加熱されることによって、加熱室として第1予備室36のみを設ける場合と比較して、第1予備室36での加熱時間を短縮化することができる。
【0086】
さらに、スパッタ装置の静電チャックにバイアス電極を設けることにより、逆スパッタ装置50及びスパッタ装置を一体化させることは可能である。しかし、逆スパッタ装置50及びスパッタ装置を一体化させた場合、装置内でフィルム基板15を回転させるか、フィルム基板15を上記した基板搬送方向と逆方向に搬送させる必要がある。しかし、逆スパッタ装置50、第1スパッタ装置70及び第2スパッタ装置90を別の基板処理装置とすることで、フィルム基板15の回転や、基板搬送方向とは逆方向に搬送させたりすることも不要となる。
【0087】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)第1スパッタ装置70では、復路搬送路32の前段に配置された第1カソードユニット72によって、この第1カソードユニット72と対向するフィルム基板15の一方の成膜面(右側面15a)に薄膜が形成される。さらに、フィルム基板15は、後段に配置された第1カソードユニット72によって、この第1カソードユニット72と対向するフィルム基板15の他方の成膜面(左側面15b)に薄膜が形成される。また、第2スパッタ装置90でも、第1スパッタ装置70と同様に、片面ずつ薄膜が形成される。このため、フィルム基板15を回転させることなく、2つの成膜面に対し片方ずつ成膜することができるので、両面成膜における生産効率を高めることができる。
【0088】
(2)第1スパッタ装置70の2つの第1カソードユニット72及び第2スパッタ装置90の2つの第2カソードユニット92からなる4つの成膜部が、復路搬送路32の一側方及び他側方に交互に配置される。このため、フィルム基板15の両面に対し成膜が2回ずつ行われる際も、フィルム基板15を回転させることなく、片面ずつ成膜することができるので、両面成膜における生産効率を高めることができる。
【0089】
(3)逆スパッタ装置50では、復路搬送路32の前段に配置されたバイアス電極62によって、このバイアス電極62とは反対側の成膜面に正イオンが引き込まれ、その成膜面が逆スパッタされる。さらに、後段のバイアス電極62によって、このバイアス電極62とは反対側の成膜面が逆スパッタされる。このため、基板を回転させることなく、片方ずつ逆スパッタすることができるので、両面成膜における生産効率を高めることができる。
【0090】
(4)基板保持部14に装着されたフィルム基板15を復路構造体22の搬出口側から復路構造体22の搬入口側に搬送する往路構造体21に設けられたヒータ31によりフィルム基板15を加熱することができる。また、ヒータ31は、フィルム基板15の変形が防止される上限温度以下でフィルム基板15を加熱するため、フィルム基板15の変形等を防止しつつ、フィルム基板15の脱ガス処理を行うことができる。
【0091】
(5)制御装置12によって、復路構造体22からのフィルム基板15の搬出に合わせて、復路構造体22へのフィルム基板15の搬入が行われる。このため、予め加熱したフィルム基板15を、復路構造体22での処理が可能となったタイミングで順次送り出すことができるため、両面成膜における生産効率を高めることができる。
【0092】
尚、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・基板保持部は、上記実施形態以外の構成であってもよい。
例えば
図10に示すように、基板保持部14は、枠体16と、枠体16の内周面に沿って設けられる四角枠状の基板固定具95とを備えていてもよい。基板固定具95は、フィルム基板15の縁を全周に亘って固定するため、フィルム基板15を強固に固定できる。
【0093】
・成膜対象の基板を、樹脂からなるフィルム基板15としたが、樹脂以外の材料から形成されていてもよい。また、成膜対象の基板は、プリント基板を構成する基板、例えば、紙フェノール基板、ガラスエポキシ基板、テフロン基板(テフロンは登録商標)、アルミナ等のセラミックス基板、低温同時焼成セラミックス(LTCC)基板等のリジッド基板であってもよい。あるいは、これらの基板に金属で構成された配線層が形成されたプリント基板であってもよい。また、成膜対象の基板は、電子部品を実装するための基板としたが、薄膜二次電池のセルを構成する基板等、これ以外の基板であってもよい。
【0094】
・上記実施形態では、第1スパッタ装置70のターゲット75を、チタンを主成分とするものとし、第2スパッタ装置90のターゲット75を、銅を主成分とするものとしたが、これ以外のものであってもよい。例えば、第1スパッタ装置70のターゲット75及び第2スパッタ装置90のターゲット75のいずれか一方を、クロムを主成分とするものとしてもよいし、チタン、銅、及びクロムのうち少なくとも2つを主成分とするものとしてもよい。
【0095】
・上記実施形態では、往路構造体21の加熱部を基板搬送方向に並べられた複数のヒータ31から構成したが、往路構造体21の長手方向に延びるヒータから構成してもよい。
・フィルム基板15が吸湿性の低い材料からなる場合等には、往路構造体21のヒータ31を省略してもよい。
【0096】
・第1スパッタ装置70及び第2スパッタ装置90は、上記した構成以外の構成を有していてもよい。例えば、第1スパッタ装置70の静電チャック73、及び第2スパッタ装置90の静電チャック93は、バイアス電極を備える構成であってもよい。また第1スパッタ装置70及び第2スパッタ装置90は、磁気回路77を省略した構成であってもよい。
【0097】
・基板保持部14は、枠体16及び基板固定具17を備える構成としたが、両方の成膜面に成膜を行うことができる構成であればよい。例えば、基板保持部は、一対の枠体にフィルム基板15の縁部を挟む構成や、成膜面を露出する開口を有するトレイであってもよい。
【0098】
・上記実施形態では、基板処理装置10は、逆スパッタ装置50を備える構成としたが、フィルム基板15の成膜面の清浄化のための前処理が行われる場合には、逆スパッタ装置50を省略してもよい。
【0099】
・上記実施形態では、スパッタ装置を2つ連結したが、成膜する薄膜の構造に応じてスパッタ装置の数は適宜変更可能である。例えば、スパッタ装置は1つでもよい。また、3つ以上のスパッタ装置を連結してもよい。
【0100】
・基板処理装置10は、フィルム基板15等の薄型基板以外の基板を処理するものであってもよい。処理対象となる基板は、比較的低い温度での成膜が好ましい基板であれば、本実施形態と同様の効果を得ることができる。