特許第6346323号(P6346323)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6346323-液晶ポリエステル組成物の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6346323
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】液晶ポリエステル組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/20 20060101AFI20180611BHJP
【FI】
   C08J3/20 Z
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-19726(P2017-19726)
(22)【出願日】2017年2月6日
(62)【分割の表示】特願2011-165193(P2011-165193)の分割
【原出願日】2011年7月28日
(65)【公開番号】特開2017-75339(P2017-75339A)
(43)【公開日】2017年4月20日
【審査請求日】2017年3月8日
(31)【優先権主張番号】特願2010-171898(P2010-171898)
(32)【優先日】2010年7月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】福原 義行
(72)【発明者】
【氏名】松見 泰夫
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−143996(JP,A)
【文献】 特開2000−026743(JP,A)
【文献】 特開平07−304935(JP,A)
【文献】 特開2001−288342(JP,A)
【文献】 特開2009−108297(JP,A)
【文献】 特開平11−246654(JP,A)
【文献】 特開2003−268089(JP,A)
【文献】 特開平02−208353(JP,A)
【文献】 特開2009−179693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J67/00〜67/08
C08J 3/00〜 3/28
99/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベント部を有する押出機に、液晶ポリエステルと多価アルコール脂肪酸エステルと無機充填材とを供給し、前記ベント部の減圧度がゲージ圧で−0.06MPa以下の状態で、溶融混練し、
前記押出機は、メインフィード口と、前記メインフィード口から下流側に設けられたサイドフィード口と、を備え、
前記液晶ポリエステルと前記多価アルコール脂肪酸エステルとを前記メインフィード口のみから供給し、
前記無機充填材を前記サイドフィード口のみから供給して溶融混練し、
前記多価アルコール脂肪酸エステルの多価アルコールがペンタエリスリトールまたはジペンタエリスリトールである組成物の製造方法。
【請求項2】
前記多価アルコール脂肪酸エステルの脂肪酸の炭素数が10〜22である請求項に記載の組成物の製造方法。
【請求項3】
前記多価アルコール脂肪酸エステルの供給量が、液晶ポリエステル100質量部に対して、0.1〜1.0質量部である請求項1または2に記載の組成物の製造方法。
【請求項4】
熱重量分析により求められる前記多価アルコール脂肪酸エステルの5%重量減少温度が、250℃以上である請求項1〜のいずれか1項に記載の組成物の製造方法。
【請求項5】
前記液晶ポリエステルの流動開始温度が、280℃以上である請求項1〜のいずれか1項に記載の組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法により組成物を得、この組成物を成形する液晶ポリエステル成形体の製造方法。
【請求項7】
前記液晶ポリエステル成形体が、厚さ1mm以下の薄肉部を有する成形体である請求項に記載の液晶ポリエステル成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステルに離型剤が配合されてなる組成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステルは、耐熱性や強度が高く、溶融流動性に優れることから、電気・電子部品をはじめ各種製品・部品を製造するための成形材料として用いられている。特に溶融流動性に優れるという特長を生かして、液晶ポリエステルは、薄肉部を有する成形体や複雑な形状を有する成形体を製造するための成形材料として、好ましく用いられているが、その成形の際、成形に用いた金型から成形品が取り出し難い、すなわち離型性に劣ることがあり、成形体の取出しに手間がかかったり、成形体が変形したりすることがある。このため、液晶ポリエステルに離型剤を配合することが検討されており、例えば、特許文献1には、離型剤としてペンタエリスルトール脂肪酸エステルを用いることが記載されており、特許文献2には、離型剤として所定の多価アルコール脂肪酸エステルを用いることが記載されている。また、液晶ポリエステルにこれら離型剤を配合してなる組成物は、押出機に、液晶ポリエステルと離型剤とを供給し、溶融混練することにより製造されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−208353号公報
【特許文献2】特開2009−108297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法では、得られる液晶ポリエステル組成物の離型性が必ずしも十分でない。また、特許文献2に記載の方法では、得られる液晶ポリエステル組成物は、離型性に優れるものの、半田処理時等の高温下でブリスター(表面の膨れ)が発生し易い。そこで、本発明の目的は、離型性に優れ、高温下でブリスターが発生し難い液晶ポリエステル組成物を製造しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明は、ベント部を有する押出機に、液晶ポリエステルと多価アルコール脂肪酸エステルとを供給し、前記ベント部の減圧度がゲージ圧で−0.06MPa以下の状態で、溶融混練する組成物の製造方法を提供する。
【0006】
また、本発明によれば、前記製造方法により組成物を得、この組成物を成形する成形体の製造方法も提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、離型性に優れ、高温下でブリスターが発生し難い液晶ポリエステル組成物を製造することができ、これを成形することにより、薄肉部を有する成形体や複雑な形状を有する成形体を有利に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例において離型抵抗の測定で用いた金型を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0010】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる化合物とを重合(重縮合)させてなるもの、複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる化合物とを重合させてなるもの、及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを重合させてなるものが挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのそれぞれの一部又は全部に代えて、その重縮合可能な誘導体を用いてもよい。
【0011】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重縮合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基やアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの、カルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるものが挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重縮合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるものが挙げられる。芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重縮合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるものが挙げられる。
【0012】
液晶ポリエステルは、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有するものであることが好ましく、さらに、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有するものであることがより好ましい。
【0013】
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
【0014】
(Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。Ar、Ar又はArで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0015】
(4)−Ar−Z−Ar
【0016】
(Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0017】
ここで、ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子及び臭素原子が挙げられる。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基及び2−エチルヘキシル基が挙げられ、その炭素数は通常1〜10である。アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は通常6〜20である。アルキリデン基の例としては、メチリデン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は通常1〜10である。
【0018】
繰返し単位(1)は、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位であり、Arとしては、p−フェニレン基(p−ヒドロキシ安息香酸に由来)及び2,6−ナフチレン基(2,6−ナフチレンジカルボン酸に由来)が好ましい。
【0019】
繰返し単位(2)は、芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位であり、Arとしては、p−フェニレン基(テレフタル酸に由来)、m−フェニレン基(イソフタル酸に由来)及び2,6−ナフチレン基(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来)が好ましい。
【0020】
繰返し単位(3)は、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位であり、Arとしては、p−フェニレン基(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来)及び4,4’−ビフェニリレン基(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来)が好ましい。
【0021】
繰返し単位(1)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量を各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、好ましくは30モル%以上であり、より好ましくは30〜80モル%であり、さらに好ましくは40〜70モル%である。繰返し単位(1)の含有量が多いほど、液晶ポリエステルの液晶性が向上し易いが、あまり高いと、液晶ポリエステルの溶融温度が高くなり、成形し難くなる。
【0022】
繰返し単位(2)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下であり、より好ましくは10〜35モル%であり、さらに好ましくは15〜30モル%である。
【0023】
繰返し単位(3)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下であり、より好ましくは10〜35モル%であり、さらに好ましくは15〜30モル%である。
【0024】
繰返し単位(2)と繰返し単位(3)との含有割合は、[繰返し単位(2)]/[繰返し単位(3)](モル/モル)で表して、0.9/1〜1/0.9であることが、液晶ポリエステルの分子量が高くなり易く、液晶ポリエステルの耐熱性や強度が向上し易いので、好ましい。
【0025】
繰返し単位(3)は、X及びYがそれぞれ酸素原子であること、すなわち、芳香族ジオールに由来する繰返し単位であることが、液晶ポリエステルの溶融時の粘度が低くなり易いので、好ましい。
【0026】
液晶ポリエステルは、原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。前記溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0027】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、好ましくは270℃以上、より好ましくは280℃以上であり、また、通常400℃以下、好ましくは380℃以下である。液晶ポリエステルの流動開始温度が高いほど、液晶ポリエステルの耐熱性や強度が向上し易いが、あまり高いと、液晶ポリエステルの溶融温度が高くなり、成形し難くなる。
【0028】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、内径1mm、長さ10mmのノズルを持つ毛細管レオメータを用い、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下において、4℃/分の昇温速度で液晶ポリエステルの加熱溶融体をノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48,000ポイズ)を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0029】
液晶ポリエステルに配合される多価アルコール脂肪酸エステルは、脂肪酸と多価アルコールとが縮合してなる部分エステル又はフルエステルであり、2種以上の混合物であってもよい。なお、部分エステルは、多価アルコールの一部のヒドロキシル基が脂肪酸でアシル化されてなるものであり、フルエステルは、多価アルコールの全てのヒドロキシル基が脂肪酸でアシル化されてなるものである。
【0030】
脂肪酸としては、炭素原子数10〜32の高級脂肪酸が好ましく、その例としては、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)、ノナデカン酸、イコサン酸、ドコサン酸、ヘキサコサン酸等の飽和脂肪酸、及び、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコセン酸、エイコサペンタエン酸、セトレイン酸等の不飽和脂肪酸が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。中でも炭素数10〜22のものが好ましく、炭素数14〜20のものがより好ましい。
【0031】
多価アルコールは、分子内にアルコール性ヒドロキシル基を2個以上有する化合物であり、その炭素原子数が3〜32のものが好ましい。その例としては、グリセリン、ジグリセリン、デカグリセリン等のポリグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ジエチレングリコール及びプロピレングリコールが挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。中でも、ペンタエリスリトール及びジペンタエリスリトールが、得られる多価アルコール脂肪酸エステルの耐熱性の点で、好ましい。
【0032】
多価アルコール脂肪酸エステルは、多価アルコールと脂肪酸とを、脱水重縮合によりエステル化させることにより得ることができる。なお、エステル化の際、多価アルコールのヒドロキシル基の量と、脂肪酸の量とを適宜調整することにより、部分エステル又はフルエステルを作り分けることができる。
【0033】
多価アルコール脂肪酸エステルは、熱重量分析(TGA)で求められる5%重量減少温度(TB)が250℃以上であることが好ましく、280℃以上であることがより好ましい。この5%重量減少温度があまり低いと、組成物の成形の際、多価アルコール脂肪酸エステルが熱分解する恐れがある。
【0034】
多価アルコール脂肪酸エステルの配合量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0.1〜1質量部であり、より好ましくは0.1〜0.5質量部である。多価アルコール脂肪酸エステルの配合量があまり多いと、成形体表面に偏在する多価アルコール脂肪酸エステルの量が多くなり過ぎて、ブリスターの発生を十分防止することが困難になり、あまり少ないと、成形体表面に偏在する多価アルコール脂肪酸エステルの量が不十分になり、良好な離型性を発現し難くなる。
【0035】
液晶ポリエステルには、必要に応じて、無機充填材を1種以上配合してもよい。この無機充填材は、繊維状充填材であってもよいし、板状充填材であってもよいし、粒状充填材であってもよい。繊維状充填材としては、例えば、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、炭化珪素繊維、石コウ繊維、セラミック繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維等の金属繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナシリケート繊維、酸化チタン繊維、ボロン繊維、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ウォラストナイトウィスカー、ほう酸アルミニウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、炭化珪素ウィスカー及びアスベストが挙げられる。また、板状充填材としては、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ソーコナイト、スチーブンサイト、Naヘクトライト、Liヘクトライト等のスメクタイト;カネマイト、ケニヤイト等の層状ポリケイ酸塩;金雲母、白雲母、セリサイト、フッ素金雲母、K四珪素雲母、Na四珪素雲母、Naテニオライト、Liテニオライト等のマイカ;鉛白、タルク、ウォラストナイト、ベントナイト、カオリン、ハロイサイト、バーミキュライト、クロライト、パイロフィライト、クレー、燐酸ジルコニウム、燐酸チタニウム、黒鉛、アルミナ、ゼオライト、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム及びガラスフレークが挙げられる。また、粒状充填材としては、例えば、シリカ、酸化チタン、セラミックビ−ズ、ガラスビーズ、中空ガラスビーズ、カーボンブラック、アルミナ、ゼオライト、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、炭化珪素、酸化鉄、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム等が挙げられる。
【0036】
また、液晶ポリエステルには、必要に応じて、染料や顔料のような着色剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤等の添加剤を1種以上配合してもよい。
【0037】
本発明では、液晶ポリエステルと多価アルコール脂肪酸エステルとを、必要に応じて他の成分と共に、溶融混練することにより、組成物を製造する。そして、この溶融混練は、ベント部を有する押出機に各成分を供給し、ベント部の減圧度がゲージ圧で−0.06MPa以下、好ましくは−0.07MPa以下の状態で行われる。これにより、高温下でブリスターが発生し難い組成物を得ることができる。
【0038】
押出機としては、例えば、一段又は多段ベント付きの単軸押出機や二軸押出機が挙げられ、二軸押出機では同方向回転の1条ネジのものから3条ネジのものまで使用可能であり、異方向回転の平行軸型、斜軸型又は不完全噛み合い型のものであってもよい。これらの中でも、1つ以上のベントを有する同方向回転の二軸押出機が好ましい。
【0039】
押出機のスクリュー径は、50mm以下であることが好ましく、45mm以下であることがより好ましい。また、押出機のシリンダーの全幅(D)に対する全長(L)の割合(L/D)は、50以上であることが好ましく、60以上であることがより好ましい。スクリュー径が前記所定値以上であり、また、L/Dが前記所定値以上であることにより、ベント部を減圧にすることによる脱気が十分に行われ、揮発成分が組成物に残存し難くなるので、高温下でのブリスターの発生がより抑制された組成物を得ることができる。
【0040】
スクリューデザインを決定するスクリューエレメントは、通常、順フライトからなる搬送用エレメントと、可塑化部用エレメントと、混練部用エレメントとからなる。二軸押出機の場合、可塑化部や混練部には、逆フライト、シールリング、順ニーディングディスク、逆ニーディングディスク等のスクリューエレメントが組み合わされて構成されるのが一般的である。
【0041】
ベント部の開口長さは、スクリュウー径の0.5〜5倍であることが好ましい。ベント部の開口長さがあまり小さいと、脱気効果が不十分であり、あまり大きいと、ベント部から異物が混入したり、ベントアップ(溶融樹脂がベント部より上昇すること)が起こったり、搬送混練能力が低下したりする恐れがある。
【0042】
ベント部の開口幅は、スクリュウー径の0.3〜1.5倍であることが好ましい。ベント部の開口幅があまり小さいと、脱気効果が不十分であり、あまり大きいと、ベント部から異物が混入したり、ベントアップ(溶融樹脂がベント部より上昇すること)が起こったり、搬送混練能力が低下したりする恐れがある。
【0043】
ベント部の減圧は、通常、ポンプを用いて行われ、その例としては、水封式ポンプ、ロータリーポンプ、油拡散ポンプ、ターボポンプが挙げられる。
【0044】
ベント部の上流側には、溶融した組成物が完全に充填されるシール部を設けることが好ましい。シール部を構成するスクリュー形状は、二軸押出機の場合、逆フライトの他、シールリング、逆ニーディング等、幾何学的にスクリュー回転に対して昇圧能力を有するものが好適に用いられる。また、必要に応じてニーディングディスク等のエレメントが組み合わされて構成されていてもよい。
【0045】
ベント部のスクリューエレメントの構造としては、ベント部におけるベントアップを防止する為に、順フライト、順ニーディングディスク等のバレル内圧が低くなるような構造にすることが好ましい。また、順フライト部のピッチは大きい方が、バレル内圧が低くなるため、好ましい。これらのベント部分の前方には同様の理由で搬送能力の高いスクリュー構造にすることが好ましい。
【0046】
フィード口への各成分の供給は、通常、定質量又は定容量供給装置を介して行われる。定量供給装置の供給方式としては、例えば、ベルト式、スクリュー式、振動式、テーブル式が挙げられる。
【0047】
各成分の供給位置は、適宜選択されるが、繊維状充填材を用いる場合、溶融混練を均一に行うためには、液晶ポリエステルと多価アルコール脂肪酸エステルとを上流側フィード口から供給し、繊維状充填材を下流側フィード口から供給することが好ましい。
【0048】
ベント部は、下流側フィード口の下流側に設けることが、高温下でのブリスターの発生がより抑制された組成物を得ることができて、好ましい。そして、下流側フィード口の上流側及び下流側に各々ベント部を設けることが、高温下でのブリスターの発生がさらに抑制された組成物を得ることができて、より好ましい。上流側フィード口付近や下流側フィード口の上流側にベント部を設けると、その付近では液晶ポリエステルの溶融が不十分になることがあり、脱気の効果が十分に得られないことがある。
【0049】
こうして得られる組成物を溶融成形することにより、高温下でブリスターが発生し難い成形体を得ることができる。成形方法としては射出成形法が好ましく、射出成形は組成物に含まれる液晶ポリエステルの流動開始温度より10〜80℃高い温度で行うことがより好ましい。成形温度がこの範囲にあれば、組成物が優れた溶融流動性を発現し、肉厚1mm以下の薄肉部を有するコネクターや複雑な形状を有するコネクターに成形する場合でも、良好な成形性を発現できる。
【0050】
成形体として得られる製品・部品の例としては、電気・電子機器用の筐体や発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、遮断機、ナイフスイッチ、他極ロッド、電気部品キャビネット、ソケット、リレーケース等の電気機器部品が挙げられる。また、センサー、LEDランプ、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、コネクタ、小型スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハードディスクドライブ部品(ハードディスクドライブハブ、アクチュエーター、ハードディスク基板等)、DVD部品(光ピックアップ等)等の電子部品も挙げられる。さらに、半導体素子、コイル等の封止用樹脂、カメラ等の光学機器用部品、軸受け等の高い摩擦熱が発生する部品、自動車・車両関連部品等の放熱部材や電装部品絶縁板も挙げられる。これらの中でも、比較的複雑な形状を必要とし、薄肉部を有することもあるコイルボビンやコネクタが好適である。
【実施例】
【0051】
実施例1〜2、比較例1〜3
〔液晶ポリエステル(1)〕
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を仕込み、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で30分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。その後、1−メチルイミダゾールを2.4g添加し、留出する副生酢酸と未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められた時点で、内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粗粉砕機で粉砕し、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温した後、250℃から295℃まで5時間かけて昇温し、次いで295℃で3時間保持することにより、固相重合を行い、流動開始温度が320℃の液晶ポリエステル(1)を得た。
【0052】
〔液晶ポリエステル(2)〕
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸239.2g(1.44モル)、イソフタル酸159.5g(0.96モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を仕込み、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で30分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。その後、1−メチルイミダゾールを2.4g添加し、留出する副生酢酸と未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められた時点で、内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粗粉砕機で粉砕し、窒素雰囲気下、室温から220℃まで1時間かけて昇温した後、220℃から240℃まで0.5時間かけて昇温し、次いで240℃で10時間保持することにより、固相重合を行い、流動開始温度が290℃の液晶ポリエステル(2)を得た。
【0053】
〔離型剤〕
離型剤として、次のものを用いた。
離型剤(1):コグニス・オレオケミカル・ジャパン(株)の「VPG2571」(ジペンタエリスリトールとステアリン酸とのフルエステル(ヘキサステアレート)及び部分エステルの混合物。5%重量減少温度260℃)。
離型剤(2):コグニス・オレオケミカル・ジャパン(株)の「VPG861」(ペンタエリスリトールとステアリン酸とのフルエステル(テトラステアレート)及び部分エステルの混合物。5%重量減少温度310℃)
【0054】
なお、離型剤(1)及び(2)の前記重量減少温度は、次のようにして求めた。
〔5%重量減少温度の測定〕
熱重量測定装置((株)島津製作所の「DTG―60」)を用いて、窒素雰囲気下、開始温度30℃、終了温度500℃、昇温速度20℃/分の条件で、熱重量分析を実施し、開始温度30℃におけるサンプルの重量を100%とし、温度上昇によりサンプル重量が95%に達した時の温度を5%重量減少温度とした。
【0055】
〔液晶ポリエステル組成物〕
液晶ポリエステル、離型剤、チョップドガラス繊維(オーウェンスコーニング社の「CS03JAPX−1」)、タルク(日本タルク(株)の「X−50」)及びマイカ((株)ヤマグチマイカ「AB−25S」)を、表1に示す割合で、ベント部を設けた同方向2軸押出機(池貝鉄工(株)の「PCM−30」)に供給し、ベント部の減圧度を表1に示す値に保って、340℃で溶融混練してペレット化し、液晶ポリエステル組成物を得た。なお、液晶ポリエステル及び離型剤はメインフィード口から供給し、チョップドガラス繊維、タルク及びマイカはサイドフィード口から供給した。
【0056】
〔ブリスター評価〕
得られた液晶ポリエステル組成物を、射出成型機(日精樹脂工業(株)の「ES−400型」)を用いて、ミニダンベル(JIS K7113 1(1/2))の試験片に成形し、加熱した半田浴に1分間浸漬して、試験片の変形又はブリスターの発生が見られなかった最高温度を半田耐熱温度とした。
【0057】
〔離型抵抗測定〕
得られた液晶ポリエステル組成物を、射出成型機(日精樹脂工業(株)の「ES−400型」)と図1に示す金型を用いて、シリンダー温度350℃、金型温度130℃、保圧1400kg/cm又は1700kg/cmとして、射出速度一定で、図1に示す金型に射出した後、金型内から試験片(φ11×φ15×20mmでコア・キャビとも抜きテーパー0の試験片)を取り出すために要した圧力を測定し、この圧力を離型抵抗とした。
【0058】
【表1】
図1