(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6346402
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】コバルトの回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20180611BHJP
C22B 3/24 20060101ALI20180611BHJP
C22B 3/38 20060101ALI20180611BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20180611BHJP
C22B 15/00 20060101ALI20180611BHJP
C25C 1/08 20060101ALI20180611BHJP
C25C 7/06 20060101ALI20180611BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B3/24 101
C22B3/38
C22B7/00 G
C22B15/00 104
C25C1/08
C25C7/06 301A
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-17794(P2013-17794)
(22)【出願日】2013年1月31日
(65)【公開番号】特開2014-29008(P2014-29008A)
(43)【公開日】2014年2月13日
【審査請求日】2015年9月30日
【審判番号】不服2017-12778(P2017-12778/J1)
【審判請求日】2017年8月29日
(31)【優先権主張番号】特願2012-152805(P2012-152805)
(32)【優先日】2012年7月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小野 瑛基
(72)【発明者】
【氏名】安部 吉史
(72)【発明者】
【氏名】波多野 和浩
(72)【発明者】
【氏名】保坂 広司
【合議体】
【審判長】
千葉 輝久
【審判官】
河本 充雄
【審判官】
金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−208272(JP,A)
【文献】
特開平1−104729(JP,A)
【文献】
特許第5939910(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
C25C 1/08, 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅濃度が10g/L以上、コバルト濃度が5g/L以下であって、前記銅濃度/前記コバルト濃度の比が5以上である水溶液からコバルトを回収する方法であって、
銅を、カルボン酸系抽出剤を用いて溶媒抽出する銅抽出ステップと、
銅を含む抽出後液を、酸性キレート樹脂に通液する銅吸着ステップと、
銅が除去された溶液に含まれるコバルトを溶媒抽出するコバルト抽出ステップと、
コバルトを含む溶液を電解処理することによってコバルトを回収するコバルト回収ステップとを含み、
前記銅抽出ステップは、pH4.0以下で行い、コバルトを共抽出しない程度で、銅濃度を200mg/L以下とすることで、
前記酸性キレート樹脂の破過までの時間を90分以上とすることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記銅吸着ステップでは、酸性キレート樹脂の官能基を、置換してナトリウムイオンを対イオンとした後に用いることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、
前記銅吸着ステップでは、液中の銅濃度を2mg/L以下に低下させることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法において、
前記コバルト抽出ステップでは、リン酸エステル系抽出剤を用いることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルトの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コバルトは合金材料として耐磨耗、耐高温、高強度、高靭性用鋼に使用され、産業上の重要性が高いものの、その大半を輸入に頼っているのが実情である。そのため低濃度であってもコバルト含有水溶液からの金属コバルト回収は有意である。
【0003】
一般的に電解採取によって電気コバルトを得る場合、電解液にコバルトよりも卑な金属を含有する場合、この金属がコバルトよりも先に電析するため、得られる電気コバルトの品質を低下させてしまうことが知られている。そのため高品質の電気コバルトを得るためには、コバルトの電解精製前に電解液からコバルト以外の不純物元素を除去する必要がある。
【0004】
コバルト含有水溶液に含まれる銅などの親硫黄元素不純物を除去する場合、硫化沈殿除去する方法が一般的である。これにより、銅を選択的に除去することは可能であるが、硫化水素ガスの発生や、硫化剤が非常に高価であること、さらには沈殿銅の回収工程が必要となり、コスト的に不利である。また、その他の方法としては、金属鉄や金属アルミニウムなどを添加し、セメンテーションによって溶液中の銅をメタルとして分離回収する方法がある。この方法では添加する金属が溶液中に溶け出すため、この溶けた金属を液中から除去する工程が必要となり、この方法もコスト的に不利である。
【0005】
一方、近年では、特開2004−162135号(特許文献1)で示されるように溶媒抽出によって銅を除去する方法が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−162135号公報
【特許文献2】特開2011−208272号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】N.B. Devi a, K.C. Nathsarma a, V. Chakravortty,“Separation of divalent manganese and cobalt ions from sulphate solutions using sodium salts of D2EHPA, PC 88A and Cyanex 272”,Hydrometallurgy, 54 (2000), p.117-131
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、溶媒抽出は、溶液に含まれる不純物の銅が比較的低濃度なもの、もしくは溶液中のコバルト濃度が不純物に対して高濃度で含有するよう液に対し有用であり、液中のCu濃度/Co濃度の比が5以上の銅が高濃度で含まれる酸性水溶液からの銅の分離については言及されておらず、このような高濃度の不純物を含む溶液についても同じようにコバルトを効率よく抽出できるかどうかは不明である。
【0009】
特許文献2では、このような課題を解決するために、銅濃度を溶媒抽出により低減した後、抽出後液を樹脂に通液してさらに銅を除去して、電解精製前の溶液における銅濃度を下げることにより、高純度の電気コバルトを得る技術が提案されている。
【0010】
ここで、特許文献2の方法では、得られる電気コバルトの純度を上げることは可能になったが、製品コバルトの価値を高めるため、高純度でコバルトを得るとともに、より高いコバルト回収率を達成するという観点から、さらに改善の余地があるのが実情であった。
【0011】
そこで、本発明は、銅及びコバルトを少なくとも含み、Cu濃度がCo濃度の5倍以上であるような高不純物濃度の酸性水溶液からほとんどの銅を取り除きつつ、コバルトの逸損を最小限に抑えて、高純度コバルトを高い回収率にて回収することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
高純度コバルトを電解精製により回収するという観点から、高濃度の銅が含まれている酸性水溶液から銅を溶媒抽出により除去するにあたり、可能な限り銅を除去することが望まれる。しかしながら、溶媒抽出にて過多に銅を除くとコバルトまで一緒に抽出されてしまうため、コバルトの純度を上げることはできても、回収率が落ちてしまう。
【0013】
一方で、特許文献2に記載の技術のように、溶媒抽出を抽出平衡に達する前に止めて、残りの銅を樹脂吸着により除去すればよいことは明らかであるが、樹脂に吸着される銅の許容量の観点から、溶媒抽出後の銅濃度があまり高すぎても樹脂吸着にて取り除けない銅が溶液中に残存する可能性があり、この銅がコバルトの純度を下げてしまい、コバルトの品質が一定しなくなってしまう。
【0014】
本発明者らは、以上の観点から、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、銅の溶媒抽出について、銅が一定の濃度まで下がったところを終点とすることにより、溶媒抽出の後段の銅の樹脂吸着を一層高いパフォーマンスで行うことができることから、高純度のコバルトが、さらに高い回収率にて得られることを見出して、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち
(1)銅濃度が10g/L以上、コバルト濃度が5g/L以下であって、前記銅濃度/前記コバルト濃度の比が5以上である水溶液からコバルトを回収する方法であって、
銅を、カルボン酸系抽出剤を用いて溶媒抽出する銅抽出ステップと、
銅を含む抽出後液を、酸性キレート樹脂に通液する銅吸着ステップと、
銅が除去された溶液に含まれるコバルトを溶媒抽出するコバルト抽出ステップと、
コバルトを含む溶液を電解処理することによってコバルトを回収するコバルト回収ステップとを含み、
前記銅抽出ステップでは、銅濃度を200mg/L以下とする
ことを特徴とする方法。
(2)(1)記載の方法において、前記銅抽出ステップは、pH5.0以下で行うことを特徴とする方法。
(3)(1)または(2)に記載の方法において、
前記銅吸着ステップでは、酸性キレート樹脂の官能基を、置換してナトリウムイオンを対イオンとした後に用いることを特徴とする方法。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の方法において、
前記銅吸着ステップでは、液中の銅濃度を2mg/L以下に低下させることを特徴とする方法。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の方法において、
前記コバルト抽出ステップでは、リン酸エステル系抽出剤を用いることを特徴とする方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高不純物濃度の酸性水溶液からほとんどの銅を取り除きつつ、コバルトの逸損を最小限に抑えて、高純度コバルトを高い回収率にて回収することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】pHと、銅およびコバルトの抽出率との関係を示すグラフである。
【
図3】樹脂に通液する溶液の銅濃度と破過までの時間との関係を示すグラフである。
【
図4】樹脂の末端の形態と、銅の吸着能力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において、対象と成る水溶液は、銅及び低濃度のコバルトを含む酸性水溶液である。より詳しくは、銅濃度が10g/L以上、コバルト濃度が5g/L以下でそのCu濃度/Co濃度の比が5以上の銅を含有する酸性水溶液である。
【0019】
本発明の実施形態としては、
図1に示すように、このような銅含有水溶液からコバルトを回収する方法であって、銅を、カルボン酸系抽出剤を用いて溶媒抽出する銅抽出ステップ(S1)と、銅を含む抽出後液を、酸性キレート樹脂に通液する銅吸着ステップ(S2)と、銅が除去された溶液に含まれるコバルトを溶媒抽出するコバルト抽出ステップ(S3)と、コバルトを含む溶液を電解処理することによってコバルトを回収するコバルト回収ステップ(S4)とを含む方法である。
【0020】
以下、本実施形態について説明する。
ステップ(S1)では、銅の溶媒抽出を行う。
この溶媒抽出の一例を挙げると、酸性水溶液(水相)とカルボン酸系抽出剤(有機相)とを接触させ、典型的にはミキサーでこれらを攪拌混合し、銅を抽出剤と反応させる。
【0021】
図2は、カルボン酸系抽出剤としてVersatic Acid 10(シェル化学社製、以下VA−10と表記)を用いたときの抽出pHと、銅およびコバルトの抽出率との関係を示すグラフである。すなわち、VA−10を流動パラフィン(シェル化学社製、シェルゾール)で希釈し20vol.%に調整し、銅含有の酸性水溶液と抽出剤との体積比を1:2.5、抽出pHを2〜8の間で変動させて抽出を行った結果をプロットして得られたグラフである。
【0022】
図2によれば、抽出pHは、コバルトが抽出されず、かつ、銅が選択的に抽出される範囲であり、好ましくは3.0以上、より好ましくは3.5以上、および好ましくは5.0以下、好ましくは4.0以下である。なお、溶媒抽出は、常温(例:15〜25℃)〜60℃以下や大気圧下の条件で実施するのが好ましい。
【0023】
図3に、銅の溶媒抽出後液(樹脂に通液する前の溶液:前液)を後段の樹脂吸着に供した際の、当該銅の溶媒抽出後液に含まれる銅の濃度と破過までの時間との関係を示す。特に低濃度のところでは、銅濃度の増加に対して破過までの時間は早く、
図3によれば樹脂吸着による不純物除去の観点から破過までの時間が現実的である90分以上となるのは、樹脂に通液させる溶液中の銅濃度がおよそ200mg/L以下のときであることが分かる。銅濃度200mg/Lを超える範囲では、使用する樹脂量を増やしたとしても破過までの時間が大きく変化しないことがわかったことから、仮に使用する樹脂の量が増加したとしても銅濃度200mg/L以下まで溶媒抽出で銅を除くことに意義があることは明白である。
【0024】
このようにステップ(S1)では、後段のステップ(S2)における樹脂吸着に過大な負荷をかけず、一方で、コバルトを共抽出しない程度まで銅を除去する。例えば、銅濃度が一般的に樹脂に負担をかけないとされる200mg/L以下とするまで溶媒抽出を行うとよい。
【0025】
ステップ(S2)では、ステップ(S1)で残留した銅を樹脂吸着処理により除去する。
なお、銅はコバルトより貴な金属であるが、例えばステップ(S1)で得られる抽出後液に対しコバルト電解を行うと、銅を巻き込んで品位の低い電気コバルトを得ることになる。よって、更に銅濃度を低減する必要がある。そのため溶媒抽出工程の後、樹脂に通液し、電気コバルトの品質を損なわない程度の銅濃度、例えば2mg/L以下まで低減する。この時、溶媒抽出後液は、pHなどを調整することなく樹脂に通液することが可能である。
【0026】
このステップ(S2)の吸着手順は常法に従えばよい。一例としてカラム法を挙げる。酸性キレート樹脂をカラムに充填し、そこへ金属イオン含有した酸性水溶液(すなわち、銅の溶媒抽出後液)を通液し、銅と樹脂を反応させる。樹脂との接触温度は常温(例:15〜25℃)〜100℃で行う。
酸性キレート剤の一例として、具体的には官能基がイミノジ酢酸であるUR−10S、UR−40H(ユニチカ社製)などが挙げられる。
【0027】
図4は、銅吸着樹脂の末端の形態と、銅の吸着能との関係を示すグラフである。すなわち、各種類の樹脂を内径16mmのカラムに、樹脂層高さが80mmとなるように充填し(樹脂量は20mL)、そこに銅800mg/L、コバルト2000mg/Lの水溶液1リットル(0.001m
3)を6時間かけて通液して、溶離した後液中の銅濃度を測定して、各樹脂の銅吸着能を評価した。
図4において、「UR−40H」とは、酸性キレート樹脂の末端官能基がフリーベース(水素)のものであり、「UR−10S」とは、「UR−40H」と同じ樹脂であって、ナトリウムイオンを対イオンとする末端官能基を有するものである。また、「UR−40H」を、0.1mol/L、0.2mol/L、0.3mol/L、0.5mol/LのNaOHで予め処理して、末端官能基をナトリウムイオンに置換して用いた結果も併せて示す。
【0028】
図4によれば、銅吸着ステップ(S2)では、酸性キレート樹脂の末端官能基がナトリウムイオンを対イオンとしたものが、銅含有溶液を多く流しても銅の吸着能が維持されていることから、ステップ(S2)の銅吸着樹脂として好適に用いられることがわかる。なお、末端官能基がナトリウムイオンを対イオンである酸性キレート樹脂は、フリーベースの酸性キレート樹脂を、予め水酸化ナトリウム水溶液などを用いて、末端官能基をナトリウム置換し、ナトリウムイオンを対イオンとして用いてもよい。
【0029】
なお、ステップ(S1)で、大方の銅を除去したのは、ステップ(S2)の樹脂吸着処理において吸着できる銅の有効量が存在するためである。したがって、ステップ(S2)により有効に除去可能な銅濃度になるまで、ステップ(S1)の溶媒抽出にて銅の除去ができれば、コバルトを含む銅含有水溶液から、コバルトを無駄に失わずに、銅を効率よく除去することができるため、結果として高純度のコバルトが、高回収率にて得られることにつながる。
【0030】
続いて、ステップ(S3)では、銅が除去されたコバルト含有水溶液に含まれるコバルトを溶媒抽出する。
この溶媒抽出の一例を挙げると、コバルト含有水溶液(水相)と抽出剤(有機相)とを接触させ、典型的にはミキサーでこれらを攪拌混合し、コバルトを抽出剤と反応させる。
コバルト抽出剤としては、酸性リン酸エステル系抽出剤であるPC−88A(大八化学社製)などが挙げられる。また、非特許文献1にも記されているように、一般にコバルトの抽出率は抽出pHが高いほど良好になる傾向があるが、試薬コストの低減、他金属の沈殿の防止等の観点から、コバルトの抽出pHとしては、好ましくは6.3以下、さらに好ましくは4.5以下である。
また、溶媒抽出は、常温(例:15〜25℃)〜60℃以下や大気圧下の条件で実施するのが抽出剤の劣化防止の上で好ましい。
【0031】
ステップ(S4)では、ステップ(S3)で得られたコバルトを含む溶液を電解処理することによってコバルトを回収する。
ここでの電解条件であるが、通常のコバルト含有水溶液の電解精製の条件を採用することができる。例えば、特願平11−75438に見られるように電解条件をpH:1〜3、電流密度:10〜1000A/m
2として電解すればよい。
【0032】
高純度のコバルトを得るという観点から、その原料となる電解コバルトには不純物として含有される銅は8ppm以下であることが求められている。これを達成するには電解液中の銅濃度が0.2mg/L以下であることが必要であり、コバルト抽出ステップ(S3)における銅の分配比が0.83であることから、銅吸着ステップにおいて銅は2mg/L以下に低減されている必要がある。
【0033】
また、銅抽出ステップ(S1)にて有機相中に抽出された銅は簡単な洗浄を経て、硫酸で逆抽出することにより硫酸銅溶液が得られる。また、銅吸着ステップ(S2)にて樹脂に吸着された銅は、例えば硫酸を通液して、銅を溶離させて硫酸銅溶液が得られる。
さらに、ステップ(S5)では、この硫酸銅溶液を電解処理して電気銅を得て、銅も回収される。なお、銅が除去された有機相の溶媒は、ステップ(S1)での銅抽出ステップの抽出溶媒に繰り返し用いることができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明は実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
表1に示す組成を有する酸性のCu抽出前液について、カルボン酸系抽出剤VA−10(シェル化学社製)を用いて、抽出前液と抽出剤との体積比を1:2.5、常温、大気圧下で、銅の2段階抽出を行った。VA−10は、シェルゾールで希釈し、20vol.%に調整したものを用いて、各段階とも抽出pHを4.5とし、ミキサーで撹拌混合後、二層分離のために15分間静置した。抽出後の水相(Cu抽出後液)、有機相(Cu抽出後有機相)のそれぞれにおける各成分の含有量を測定した結果を、表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
表1によれば、銅の抽出にて、銅が選択的に有機相に抽出され、一方で、コバルトは水相に残ったことがわかる。
【0037】
続いて、表2に示す組成を有するCu抽出後液について、非キレート樹脂として、DP−8R(大八化学社製)を用いて、Cu抽出後液と抽出剤との体積比を1:1、常温、大気圧下で、カルシウムの3段階抽出を行った。DP−8Rは、IsoperMで希釈し10vol.%に調整したものを用いて、各段階とも抽出pHを2.0とし、ミキサーで撹拌混合後、二層分離のために15分間静置した。抽出後の水相(Ca抽出後液)、有機相(Ca抽出後有機相)のそれぞれにおける各成分の含有量を測定した結果を、表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
表2によれば、カルシウムの抽出にて、カルシウムが選択的に有機相に抽出され、一方で、コバルトはほとんど水相に残ったことがわかる。
【0040】
続いて、酸性キレート樹脂としてUR−10Sを用いて、カラムに脱気後の樹脂20mLを充填し、このカラムに表3に示す組成を有するCa抽出後液を線速度(LV)1m/hrの条件で通液した。酸性キレート樹脂をとおして得られたCa抽出後液をCu吸着後液として得て、各成分の含有量を測定した。一方で、Cu吸着後樹脂に吸着された各金属成分の量は、Ca抽出後液の通液後、硫酸を通液して、樹脂に吸着された金属を溶離させて得られた溶離液について、各成分の含有量を測定した。結果を表3に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
表3によれば、酸性キレート樹脂には、Ca抽出後液に残存する銅、すなわちステップ(S1)の銅抽出ステップで残っていた銅の多くが吸着され、Cu吸着後液に含まれる銅濃度を選択的にさらに小さくしていることがわかる。
【0043】
続いて、表4に示す組成を有するCu吸着後液について、酸性リン酸エステル系抽出剤であるPC−88A(大八化学社製)を用いて、Cu吸着後液と抽出剤との体積比を1:0.2、常温、大気圧下で、コバルトの2段階抽出を行った。PC−88AはIsoperMで希釈し20vol.%に調整したものを用いて、各段階とも抽出pHを4.5とし、ミキサーで撹拌混合後、油液分離のために15分間静置した。抽出後の水相(Co抽出後液)、油相(Co抽出後油)のそれぞれにおける各成分の含有量を測定した結果を、表4に示す
【0044】
【表4】
【0045】
続いて、表4に示す組成を有するCo抽出後の有機相について、ニッケルスクラビング処理を行ってニッケルを除去した。具体的には、Co抽出後の有機相におけるCo濃度よりも高いCo濃度であって、かつ、同ニッケル濃度よりも低いニッケル濃度を持つニッケルスクラビング前液、例えば表5に示す組成を有するNiスクラビング前液を、Co抽出後の有機相に接触させて、有機相に取り込まれているニッケルをコバルトと置換した。この操作は、Niスクラビング前液と、Co抽出後油との体積比を1:0.2とする2段階抽出であり、各段階とも抽出pHが4.5であった。こうしてNiスクラビング後油が得られ、このNiスクラビング後油を後述する電解処理に供した。なお、Niスクラビング後液(水相)は回収され、再度Niスクラビング処理に供することができる。
【0046】
【表5】
【0047】
表4、5によれば、コバルトの抽出にて、コバルトが選択的に抽出され、Niスクラビング処理にて、コバルトと一緒に抽出されたニッケルが除去されたことがわかる。
【0048】
さらに、表5に示す組成を有するNiスクラビング後の有機相について、1Nの硫酸でストリップした。ストリップ液は電流密度200A/m
2の条件で40時間通電して、コバルトの電解精製を行った。得られた電気コバルトの純度は、99.98%であり、当初のCu抽出前液を基準としたコバルトの回収率は95%であった。