(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6346475
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】パラジウムめっき液、パラジウムめっき方法、パラジウムめっき製品、摺動接点材料及び摺動接点
(51)【国際特許分類】
C25D 3/52 20060101AFI20180611BHJP
H02K 13/00 20060101ALI20180611BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20180611BHJP
【FI】
C25D3/52
H02K13/00 Q
C25D7/00 H
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-53810(P2014-53810)
(22)【出願日】2014年3月17日
(65)【公開番号】特開2015-175049(P2015-175049A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2017年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】596133201
【氏名又は名称】松田産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】津山 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】久保 孝文
(72)【発明者】
【氏名】堀江 徹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智
(72)【発明者】
【氏名】鍵田 裕俊
(72)【発明者】
【氏名】菅原 親人
【審査官】
祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−034593(JP,A)
【文献】
特開2013−023693(JP,A)
【文献】
米国特許第04673472(US,A)
【文献】
特開2001−355093(JP,A)
【文献】
特開2001−335986(JP,A)
【文献】
特開2008−081765(JP,A)
【文献】
特開昭56−163294(JP,A)
【文献】
特開平07−102392(JP,A)
【文献】
特開2011−084774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性パラジウム化合物をパラジウム量換算で、1〜50g/Lと、
スルファミン酸またはその塩を、0.1〜300g/Lと、
グリコール酸、グリシン、クエン酸、およびエチレンジアミンからなる群より選択される1以上からなる結晶表面形成剤を、0.001〜100g/Lと
を必須成分として含んでなる、電解パラジウムめっき液。
【請求項2】
水溶性パラジウム化合物の含有量が、パラジウム量換算として1〜25g/Lであり、
スルファミン酸またはその塩の含有量が0.1〜180g/L
である、請求項1に記載の電解パラジウムめっき液。
【請求項3】
水溶性パラジウム化合物が、パラジウムのアンミン錯塩の塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫化物、硝酸塩、亜硝酸塩、および亜硫酸塩からなる群より選択される1種以上である、請求項1または2に記載の電解パラジウムめっき液。
【請求項4】
結晶表面形成剤が、グリコール酸、グリシン、またはこれらの混合物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電解パラジウムめっき液。
【請求項5】
0.1〜50g/Lのリン酸またはその塩をさらに含んでなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電解パラジウムめっき液。
【請求項6】
リン酸またはリン酸塩として、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、およびリン酸アンモニウムからなる群より選択される1以上を用いる、請求項5に記載の電解パラジウムめっき液。
【請求項7】
硝酸塩、塩化物、硫酸塩、しゅう酸塩、酒石酸塩、水酸化物、ホウ酸、ホウ酸塩、および炭酸塩からなる群より選択される1種以上の導電性電解質をさらに含んでなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の電解パラジウムめっき液。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の電解パラジウムめっき液を用いためっき浴中において、浴温度を30〜70℃、陰極電流密度を0.2〜50A/dm2、として、基材を電解めっき処理することを特徴とする、パラジウムめっき方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の電解パラジウムめっき液を用いて、基材を電解めっき処理することによって製造された、パラジウムめっき製品。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の電解パラジウムめっき液を用いて製造される、摺動接点材料。
【請求項11】
摺動部表面に、請求項1〜7のいずれか一項に記載の電解パラジウムめっき液によるめっきが施されてなる、摺動接点。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラジウムめっき液に関する。より詳しくは、本発明は、例えば、摺動接点材料の摺動部の作成に適したパラジウムめっき液に関する。本発明はまた、パラジウムめっき液を用いて製造されたパラジウムめっき製品、摺動接点材料および摺動接点に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、小型モータなどにおける摺動接点用のブラシ材料には、一般的に、Cu−Be、Cu−Ni、Cu−Sn,Cu−Ni−Zn、Cu−TiなどのようなCuベースの合金からなるブラシ基材に、AgPd合金をクラッドした材料が用いられている。例えば、AgPdの細長いテープ材を用意し、このテープ材形状に一致する溝を、板状のCuベース合金からなるブラシ基材表面に形成した後、このAgPdのテープ材をCuベース合金表面の溝に嵌合して、圧延加工等をすることによって、拡散層を形成したクラッド材となる。次いで、形成されたAgPdクラッド材から、多数のブラシをプレス加工によって同時にブラシ形状に打ち抜くことにより、ブラシ材料を得る。
【0003】
Cuベース合金に比べて格段に高価なAgPd合金を、整流子との摺動部に限定して用いることによりブラシの材料費を下げることができる。コスト削減のため、使用するAgPdの厚さを薄くすることも考えられるが、薄くすればする程、加工費が上昇するので、AgPdの厚さを薄くしてコストを削減するには限りがあった。
【0004】
また、AgPdクラッド材の製造歩留まりは一般的に70%前後であり、生産効率が悪く、リードタイム(発注から完成までの時間)が長い。また、AgPdクラッド材中のAgPd位置は、溝加工により決定されてしまう要素が大きく、通常、寸法精度はあまり良くない。さらに、通常は、比較的に厚い5〜10μmの厚さのAgPdが用いられていることもコスト削減の観点からは不利である。
【0005】
ブラシ装置と組み合わせて用いられる整流子片についても、従来は、主としてクラッド技術を用いて構成されていた。整流子片は、基材表面にAgCuNiのような貴金属をクラッドすることにより構成されている。このようなクラッド貴金属は、ブラシ材料に関して前述したのと同様に、その厚さを薄くするには限界があり、しかも、モータ回転中には、整流子表面上に常にブラシが摺動接触することを考慮すれば、必要な寿命を達成するために貴金属層を単純に薄くすることも困難である。
【0006】
このように、摺動接点用のブラシ材料などに、クラッド材を用いると、材料費と加工費を合わせた製造コストは比較的高くなり、これをさらに下げていくには限界があった。
【0007】
例えば、特公平2−59236号公報(特許文献1)には、クラッド材ではなく、めっきによりブラシ材料を構成することが開示されている。ここでは、Cuベース合金の表面に3層からなる被覆をめっきにより構成する。すなわち、第1層はCr、Ni、Ni合金、Reのいずれかを厚さ0.1〜10μm、第2層はRh、Pt、Pd、Ruのいずれかを厚さ0.1〜10μm、第3層はAu、Ag、Au−Agのいずれかを厚さ0.1〜10μmに、それぞれ被覆する。
【0008】
しかしながら、めっきによって貴金属を薄く被覆することはできるが、めっき層を薄くし過ぎると性能が維持できなくなる虞があるため、めっき層を薄く形成するにも限界がある。このため、Cu基合金表面を全体的にめっき層で覆うとすると、貴金属めっきの場合、材料費は上昇せざるを得なかった。
【0009】
材料費を下げるため、ブラシ基材表面を「全体的に」めっきするのではなく、例えば整流子摺動部にのみ「部分的に」めっきすることが考えられるが、この場合には、広い範囲にではなく、狭い幅(ブラシ長さ方向)に、しかも、所望の性能を発揮するように所定の厚さ以上にめっきする必要がでてくる。このようなめっきをすると、今度は、めっき「はがれ」とか、マイクロクラックがめっき層に生じる危険性が高まる。
【0010】
また、例えば、モータ用のブラシ材料は、整流子との間に電流を流しつつ摺動使用し、かつ長時間使用後も所定の性能を維持する必要があるため、めっきされたブラシ基材が所定の性能を長時間維持できる(長寿命である)こと、また耐久性にも優れることも重要となる。
【0011】
このような摺動接点材にも使用されうるパラジウムめっき液としては、例えば、特開2001−262930号公報(特許第4570213号)(特許文献2)などが知られている。これまで知られているめっき液を使用して、めっきプロセスやめっき条件などを工夫することによって、上記の課題を解決することが試みられてきた。しかしながら、めっき処理過程での煩雑さは避けがたく、このため、パラジウムめっき液自体の性能として、かかる課題を解決できるものが望まれていた。
【0012】
パラジウムめっき液についてはこれまで多くの検討がなされている。
パラジウムめっき液に、グリシンやアラニンなどのアミノ酸を加えたものについては、例えば、特開平8−193290号公報(特許文献3)や特開2008−81765号公報(特許文献4)などが知られている。しかしながら、これらのパラジウムめっき液は、装飾品用途などに好適に使用できるものであって、アミノ酸はパラジウムの錯化剤として使用する。また、スルファミン酸の塩などは含まれていない。このような錯化剤を含むことによって、これらパラジウムめっき液では、凸凹やクラックの無い、均一で光沢のあるめっき面を得ることができるとされており、摺動接点材料としては必ずしも適当なものとは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特公平2−59236号公報
【特許文献2】特開2001−262930号公報
【特許文献3】特開平8−193290号公報
【特許文献4】特開2008−81765号公報
【発明の概要】
【0014】
本発明者らは今般、水溶性パラジウム化合物と、スルファミン酸塩とを含むパラジウムめっき液に、さらに、特定の化合物(結晶表面形成剤)を加えためっき液を使用すると、形成されためっき皮膜の表面が、無光沢で特徴的な結晶性表面状態となり、まためっき皮膜自体の応力が低く、柔軟性に優れ、基材との密着性に優れたものとなることを、予想外にも見いだした。このように形成されためっき被膜の表面は、無光沢で、微視的には適度な凹凸面を有するため、接点材料に使用すると、接点グリスやオイルなどのような潤滑物質を保持しやすいものであった。さらに、本発明によるめっき液により製造された摺動接点材料は、長時間の使用後も性能を維持でき、耐摩耗性に優れ、長寿命であることもわかった。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0015】
よって本発明は、無光沢で特徴的なマットな結晶表面をもち、被膜の柔軟性、密着性、耐摩擦性、耐久性に優れためっきを形成しうるパラジウムめっき液であって、摺動接点用のブラシ材料の作成にも好適に使用可能なパラジウムめっき液を提供することをその目的とする。
本発明はまた、摩擦による製品劣化が少なく、性能の低下も起こりに難い、高品質長寿命の摺動接点材料を提供することもその目的とする。
【0016】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0017】
<1> 水溶性パラジウム化合物をパラジウム量換算で、1〜50g/Lと、
スルファミン酸またはその塩を、0.1〜300g/Lと、
グリコール酸、グリシン、クエン酸、およびエチレンジアミンからなる群より選択される1以上からなる結晶表面形成剤を、0.001〜100g/Lと
を必須成分として含んでなる、パラジウムめっき液。
【0018】
<2> 前記<1>のパラジウムめっき液において、水溶性パラジウム化合物の含有量が、パラジウム量換算として1〜25g/Lであり、
スルファミン酸またはその塩の含有量が0.1〜180g/L
であるのがよい。
【0019】
<3> 前記<1>または<2>のパラジウムめっき液において、水溶性パラジウム化合物が、パラジウムのアンミン錯塩の塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫化物、硝酸塩、亜硝酸塩、および亜硫酸塩からなる群より選択される1種以上であるのがよい。
【0020】
<4> 前記<1>〜<3>のいずれかのパラジウムめっき液において、結晶表面形成剤として、グリコール酸、グリシン、またはこれらの混合物を用いるのがよい。
【0021】
<5> 前記<1>〜<4>のいずれかのパラジウムめっき液において、0.1〜50g/Lのリン酸またはその塩をさらに含んでなるのがよい。
【0022】
<6> 前記<5>のパラジウムめっき液において、リン酸またはリン酸塩として、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、およびリン酸アンモニウムからなる群より選択される1以上を用いるのがよい。
【0023】
<7> 前記<1>〜<6>のいずれかのパラジウムめっき液において、パラジウムめっき液が、硝酸塩、塩化物、硫酸塩、しゅう酸塩、酒石酸塩、水酸化物、ホウ酸、ホウ酸塩、および炭酸塩からなる群より選択される1種以上の導電性電解質をさらに含んでなるのがよい。
【0024】
<8> 前記<1>〜<7>のいずれかのパラジウムめっき液を用いためっき浴中において、浴温度を30〜70℃、陰極電流密度を0.2〜50A/dm
2、として、基材を電解めっき処理することを特徴とする、パラジウムめっき方法。
【0025】
<9> 前記<1>〜<7>のいずれかのパラジウムめっき液を用いて、基材を電気めっき処理することによって製造された、パラジウムめっき製品。
【0026】
<10> 前記<1>〜<7>のいずれかのパラジウムめっき液を用いて製造される、摺動接点材料。
【0027】
<11> 摺動部表面に、前記<1>〜<7>のいずれかのパラジウムめっき液によるめっきが施されてなる、摺動接点。
【0028】
本発明のめっき液によれば、形成されためっき層は、めっき外観、はんだ濡れ性に優れたものになる。そして、めっき液に更にリン酸またはその塩を所定濃度で添加すると、そのめっき液を用いてパラジウムの厚めっきが可能となり、しかも形成されためっき層は、めっき外観とはんだ濡れ性に優れていることはもちろんのこと、耐蝕性や相手材との接触抵抗の経時変化も小さくなる。したがって、そのめっき液を用いることにより、電子部品用の接点材料の製造が可能となり、工業的価値は大である。
【0029】
さらに、本発明のパラジウムめっき液によれば、無光沢でマットな特徴的な結晶表面をもち、被膜の柔軟性、密着性、耐摩擦性、耐久性に優れためっきを、容易に形成することができる。また本発明によるパラジウムめっき液により形成されるめっき表面は、特徴的な凸凹のあるものであり、これは摺動接点材料などにおける接点部分に有利に使用することができる。例えば、摺動接点材料にグリスと共に使用することで、その凸凹表面にグリスが保持され易くなるため、長時間の使用によっても、グリスを追加することなく、動摩擦の上昇を抑えることができる。本発明によれば、擦による製品劣化が少なく、性能の低下も起こりに難い、高品質長寿命の摺動接点材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】実施例の[1]において形成したサンプルのめっき表面の電子顕微鏡写真を示す。
【0031】
パラジウムめっき液
前記したように、本発明によるパラジウムめっき液は、
水溶性パラジウム化合物をパラジウム量換算で、1〜50g/Lと、
スルファミン酸またはその塩を、0.1〜300g/Lと、
グリコール酸、グリシン、クエン酸、およびエチレンジアミンからなる群より選択される1以上からなる結晶表面形成剤を、0.001〜100g/Lと
を必須成分として含んでなるものである。本発明によるめっき液は、通常、電解(電気)めっき処理において使用される、電解めっき液である。
【0032】
本発明の好ましい態様によれば、前記パラジウムめっき液は、
水溶性パラジウム化合物をパラジウム量換算で、1〜50g/Lと、
スルファミン酸またはその塩を、0.1〜300g/Lと、
グリコール酸、グリシン、クエン酸、およびエチレンジアミンからなる群より選択される1以上からなる結晶表面形成剤を、0.001〜100g/Lと、
リン酸またはその塩を、0.1〜50g/Lと、
を必須成分として含んでなる。
【0033】
(1) 水溶性パラジウム化合物
本発明のめっき液において主剤として使用される、水溶性パラジウム化合物は、水性であるめっき液に対して可溶性であって、かつ、めっき液中にパラジウムイオンを供給することができるものであれば特に制限はないが、例えば、パラジウムのアンミン錯塩の塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫化物、硝酸塩、亜硝酸塩、および亜硫酸塩を好適例として挙げることができる。前記アンミン錯塩としては、ジアンミン錯塩またはテトラアンミン錯塩が好ましいものとして挙げることができる。
【0034】
水溶性パラジウム化合物としては、具体的には例えば、ジクロロテトラアンミンパラジウム([Pd(NH
3)
4]Cl
2)、ジブロモテトラアンミンパラジウム([Pd(NH
3)
4]Br
2)、ジイオドテトラアンミンパラジウム([Pd(NH
3)
4]I
2)、ジニトライトテトラアンミンパラジウム([Pd(NH
3)
4](NO
2)
2)、ジニトロテトラアンミンパラジウム([Pd(NH
3)
4](NO
3)
2)、サルファイトテトラアンミンパラジウム([Pd(NH
3)
4](SO
3))、サルフェイトテトラアンミンパラジウム([Pd(NH
3]
4)(SO
4))、のようなテトラアンミンパラジウム化合物;ジクロロジアミンパラジウム([Pd(NH
3)
2Cl
2])、ジブロモジアンミンパラジウム([Pd(NH
3)
2Br
2])、ジイオドジアンミンパラジウム([Pd(NH
3)
2I
2])、ジニトロジアンミンパラジウム([Pd(NH
3)
2(NO
3)
2])、サルファイトジアンミンパラジウム([Pd(NH
3)
2(SO
3)])、サルフェイトジアンミンパラジウム([Pd(NH
3)
2(SO
4)])のようなジアンミンパラジウム化合物などを使用することができる。これらの水溶性パラジウム化合物は単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
本発明によるパラジウムめっき液において、水溶性パラジウム化合物の濃度は、パラジウム量換算で1〜50g/Lに設定される。ここで、「水溶性パラジウム化合物をパラジウム量換算で、1〜50g/L」とは、調製するめっき液中のパラジウム(Pd)量が1〜50g/Lとなるような量の水溶性パラジウム化合物の量のことをいう。
【0036】
本発明において、水溶性パラジウム化合物の使用濃度の下限値は、パラジウム量換算で、好ましくは、2g/L以上であり、より好ましくは4g/L以上である。一方、水溶性パラジウム化合物の使用濃度の上限値は、パラジウム量換算で、好ましくは40g/L以下であり、より好ましくは35g/L以下であり、さらに好ましくは30g/L以下であり、さらにより好ましくは25g/L以下である。
【0037】
本発明のめっき液における水溶性パラジウム化合物の濃度が1g/Lより低い場合は、パラジウムが電着しなくなることがあり、また仮にめっき層が形成されても、析出速度の低下、めっき層の光沢不良や展延性の著しい低下、耐食性や耐摩耗性の低下などの問題が生じることがある。また前記濃度が50g/Lより高濃度となると、水溶性パラジウム化合物が溶解しにくくなってめっき液の均質性に問題が生ずることがあるとともに、めっきの過程でめっき液の持ち出しに基づくPd成分のロスが起こって不経済になることがある。
【0038】
(2) スルファミン酸またはその塩
本発明のパラジウムめっき液は、必須成分として、スルファミン酸またはその塩を含んでなる。本発明において、スルファミン酸またはその塩は、高い電流密度でめっきを行っても、焼けのない半光沢のめっき外観を得るために有益である。
【0039】
本発明において、スルファミン酸の塩としては、めっき液中にスルファミン酸を供給でき、かつ、めっき液の電導性に影響を及ぼすものでない限り、特に制限はなく、例えば、スルファミン酸のアルカリ金属塩、スルファミン酸のアルカリ土類金属塩、およびスルファミン酸のアンモニウム塩等を例示することができる。スルファミン酸の塩としては、具体的には、例えば、スルファミン酸ナトリウム、スルファミン酸カリウム、スルファミン酸アンモニウム、スルファミン酸カルシウムなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
本発明によるめっき液において、スルファミン酸またはその塩の濃度は0.1〜300g/Lに設定される。
【0041】
ここで、スルファミン酸またはその塩の使用濃度の下限値は、好ましくは、0.5g/L以上であり、より好ましくは1g/L以上である。一方、スルファミン酸またはその塩の使用濃度の上限値は、好ましくは270g/L以下であり、より好ましくは240g/L以下であり、さらに好ましくは210/L以下であり、さらにより好ましくは180g/L以下である。
【0042】
本発明のめっき液におけるスルファミン酸またはその塩の濃度が0.1g/Lより低い場合には、スルファミン酸またはその塩に関する上記した効果が充分に発揮されないことがあり、例えば高い電流密度でめっきを行うと、めっき層に焼けなどの外観不良が発生するようになることがある。また、300g/Lより高濃度にすると、めっき液の化学的な安定性が低下することがある。
【0043】
(3) 結晶表面形成剤
本発明のパラジウムめっき液は、必須成分として、結晶表面形成剤を含んでなる。結晶表面形成剤により、それを含むめっき液により形成されるめっき被膜に、本発明の特徴である無光沢でマットな特徴的な結晶表面を形成させることができる。また、結晶表面形成剤は、被膜の柔軟性、密着性、耐摩擦性、耐久性に優れためっきを、容易に形成する上で有益である。
【0044】
本発明者らは、めっき液に、特定の化合物(結晶表面形成剤)を添加することで、予想外にも、特徴的な結晶表面をめっき被膜上に形成することに成功した。このような表面を形成できる化合物は、本発明で見いだされた特定のものであり、例えば、乳酸、アラニン、ギ酸、エチレングリコールなど一見するとそれに似た構造を持つ化合物であっても、所望の表面を形成することはできなかった。
【0045】
本発明において、結晶表面形成剤は、グリコール酸、グリシン、クエン酸、およびエチレンジアミンからなる群より選択される1以上からなる。好ましくは、結晶表面形成剤は、グリコール酸、グリシン、およびエチレンジアミンからなる群より選択される1以上からなる。より好ましくは、結晶表面形成剤は、グリコール酸、グリシン、またはこれらの混合物であり、さらに好ましくは、グリコール酸、またはグリシンである。
【0046】
本発明によるめっき液において、結晶表面形成剤の濃度は0.001〜100g/Lに設定される。
【0047】
ここで、結晶表面形成剤の使用濃度の下限値は、好ましくは、0.005g/L以上であり、より好ましくは0.01g/L以上であり、さらに好ましくは0.1g/L以上である。一方、結晶表面形成剤の使用濃度の上限値は、好ましくは50g/L以下であり、より好ましくは30g/L以下であり、さらに好ましくは20g/L以下であり、さらにより好ましくは15g/L以下である。
【0048】
本発明のめっき液における結晶表面形成剤の濃度が0.001g/Lより低い場合には、所望する特徴的な結晶状のめっき表面が得られないことがあり、また密着性、耐久性、柔軟性、耐摩耗性などが十分でなくなる場合がある。また、100g/Lより高濃度にすると、めっき液の化学的な安定性が低下することがある。
【0049】
(4) リン酸またはその塩
本発明の一つの好ましい態様によれば、パラジウムめっき液は、リン酸またはその塩をさらに含んでなる。本発明のパラジウムめっき液におけるリン酸またはその塩の使用は、厚めっきを行う上で有益である。本発明のめっき液に、リン酸またはその塩を含有させると、高い電流密度でめっきを行ってもワレ、カケが発生せず、焼けも起こり難くなる。よって、厚めっきを目的とするめっき液を建浴するときには、リン酸またはその塩をさらに配合するのが望ましい。
【0050】
リン酸またはその塩は、めっき層における内部応力を低減させるのでその厚めっきを可能とし、展延性のある緻密で密着性に富むめっき層の形成に資すると考えられる。更に、高い電流密度を適用して、焼けのない良好な金属光沢を有するめっき層の形成に資すると考えられる。
【0051】
本発明において、リン酸またはその塩とてしては、めっき液中にリン酸を供給でき、かつ、めっき液の電導性に影響を及ぼすものでない限り、特に制限はなく、例えば、リン酸のアンモニウム塩、リン酸のアルカリ金属塩、リン酸のアルカリ土類金属塩などを例示することができる。
【0052】
リン酸の塩としては、具体的には、例えば、リン酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
本発明によるめっき液において、リン酸またはその塩が使用される場合、リン酸またはその塩の濃度は0.1〜50g/Lに設定される。好ましい濃度は5〜25g/Lである。
【0054】
本発明のめっき液におけるリン酸またはその塩の濃度が0.1g/Lより低い場合には、上記した効果が充分に発揮されず、厚めっきは困難になることがある。また、前記濃度が50g/Lより高い場合には、電流効率が低下することがある。
【0055】
(5) 電導性電解質
本発明によるパラジウムめっき液は、電導性電解質をさらに含んでなることが好ましい。本発明のめっき液に更に電導性電解質を溶解させると、めっき時にめっき層に悪影響を与える成分が副生し難くなって、液劣化が抑制され、長期に亘って安定した特性のめっき層を形成できることとなる。
【0056】
本発明においては、電導性電解質は、めっき液の電導性、およびめっき効率を向上させるために加えられるものであって、めっき処理に有害とならないものであれば、特に制限はなく、例えば、各種単純塩、強酸、および強塩基等が使用可能である。よって、電導性電解質としては、電解により物性に悪影響を与えるような副生成物を生じるものが包含されることは望ましくない。
【0057】
このような電導性電解質としては、硝酸塩、塩化物、硫酸塩、しゅう酸塩、酒石酸塩、水酸化物、ホウ酸、ホウ酸塩、および炭酸塩からなる群より選択される1種以上のものが挙げられる。
具体的には、例えば、硝酸アンモニウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウムのような硝酸塩;塩化アンモニウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムのような塩化物;硫酸アンモニウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウムのような硫酸塩;リン酸アンモニウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウムのようなリン酸塩;しゅう酸アンモニウム、しゅう酸ナトリウムのようなしゅう酸塩;酒石酸アンモニウム、酒石酸ナトリウムのような酒石酸塩;水酸化ナトリウムのような水酸化物;ほう酸;ほう酸アンモニウム、ほう酸ナトリウムのようなほう酸塩;炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウムのような炭酸塩の1種以上を挙げることができる。
【0058】
本発明のめっき液において、電導性電解質は、その濃度が0.1〜300g/Lとなるように溶解させることが好ましい。濃度が0.1g/Lより低い場合は、上記した効果が充分に発揮されず、また300g/Lより高くなると、外観の低下やめっき液の安定性の低下などの不都合が生じてくることがある。好ましい濃度は、20〜200g/Lであり、より好ましくは40〜100g/Lである。
【0059】
(6) 他の任意成分
本発明のめっき液は、必要に応じて、他の任意成分をさらに含んでなることができる。このような他の任意成分としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、緩衝剤、分散剤等が挙げられる。
【0060】
本発明のめっき液に必要に応じて添加しても良い界面活性剤としては、公知の非イオン系界面活性剤やカチオン系界面活性剤などが挙げられる。
【0061】
本発明のめっき液を用いてパラジウムめっきを行う場合には、例えばアンモニア水や希硫酸または希塩酸などのpH調整剤を用いて、めっき液のpH値を5〜9、好ましくは6〜8、より好ましくは6.5〜7.5に調整することが望ましい。
【0062】
また、本発明のめっき液においては、液のpHを一定の範囲に維持するために、緩衝剤をさらに含んでなることができる。緩衝剤としては、慣用の緩衝剤を適宜選択して用いることができる。
【0063】
めっき処理
本発明のパラジウムめっき液を用いて電解めっき処理を行う場合には、典型的には、前記したように、めっき液のpHを5〜9の範囲内、好ましくは6.5〜7.5の範囲内に調整する。また、めっき液の温度は、典型的には30〜70℃、好ましくは45℃〜65℃の範囲内に調整し、めっき処理を行うことが好ましい。
【0064】
さらに、めっき処理における陰極電流密度は、典型的には0.2〜50A/dm
2、好ましくは1〜25A/dm
2に設定されるとよい。
形成されるパラジウムめっき層の厚みは、特に制限はされないが、適用される電流密度およびめっき時間等により適宜変更することができる。
【0065】
本発明のパラジウムめっき液は、慣用のめっき処理方法を必要に応じて適用することによって、めっき処理を実施ことができる。したがって、めっき処理の過程において、めっき液を適宜撹拌しながらめっき処理を行ってもよく、また、必要に応じてめっき液の濾過処理をめっき処理と同時もしくはその前後に行ってもよい。さらに、めっき処理の進行に伴って、めっき液中のパラジウム濃度が低下した場合には、該めっき液に水溶性パラジウム化合物成分を添加してめっき処理を続けることもできる。
【0066】
さらに、本発明の別の態様においては、本発明によるパラジウムめっき液を用いて、基材を電解めっきすることによって形成されたパラジウムめっき製品も提供される。好ましくはこのめっき製品は前記した本発明によるめっき方法により形成されたものである。
【0067】
摺動接点材料および摺動接点
本発明のさらに別の態様においては、本発明によるパラジウムめっき液を用いて製造される摺動接点材料も提供される。摺動接点材料とは、小型モータやスライドスイッチ等の電気、機械的な摺動部に使用される接点材料のことをいう。ここでいう摺動接点材料は、典型的には、本発明によるめっき液を用いて製造されるものであり、例えば、めっき被膜として形成されるものである。本発明による摺動接点材料は、長時間の使用後も性能を維持でき、耐摩耗性に優れ、長寿命なものである。本発明によれば、このような長寿命の摺動接点材料を、比較的低コストで提供することができる。
【0068】
本発明の別の一つの態様によれば、導電性基材からなるベース層上に、表面層として、本発明のパラジウムめっき液を用いてめっき被膜を形成してなる、めっき部材も提供される。
ここで、導電性基材としては、銅、ニッケル、鉄若しくはこれらの合金、または鋼材やアルミニウム材等に銅または銅合金を被覆した複合素材等が挙げられる。好ましい導電性基材としては、銅または銅合金が挙げられる。
このようなめっき部材は、摺動特性や耐摩耗性に優れることから、摺動接点の部材の一部として好適に使用することができる。例えば、このめっき部材をモータの整流子またはブラシとして使用してもよい。
【0069】
本発明のさらに別の一つの態様によれば、摺動部表面に、本発明によるパラジウムめっき液によるめっきが施されてなる摺動部を具備してなる、摺動接点が提供される。このような摺動接点は、例えば、導電性のバネ用基材に本発明のパラジウムめっきを施してモータ用(例えばマイクロモータ用ブラシ材)、スイッチ用(例えばロータリーエンコーダーのブラシ材)等に使用することができる。本発明による摺動接点は、摺動部という部分的なめっきのみで足りることから製造コストを低減することができる。また本発明によるめっき液によるめっきは、被膜の柔軟性、密着性、耐摩擦性、耐久性に優れることから、それを摺動部に用いることで、摺動特性や耐摩耗性に優れ、長寿命な摺動接点を製造することができる。
【実施例】
【0070】
以下において、本発明を下記の実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0071】
[1] パラジウムめっき液の調製およびめっき被膜の形成
【0072】
実施例1
(1) ジクロロテトラアンミンパラジウム 20 g/L(Pd量換算として)
(2) スルファミン酸アンモニウム 160 g/L
(3) グリコール酸 2 g/L
(4) リン酸アンモニウム 20 g/L
(5) 塩化アンモニウム 80 g/L
【0073】
以上のような組成からなるめっき液を建浴した。
このめっき液を水酸化アンモニウムと希硫酸にてpH7.0に調整し、液温を60℃に保持しためっき浴中にて、めっき液を攪拌しながら、予め無光沢Niめっきを0.5μm施した板厚0.1mmの銅合金C5210Rに対して、陰極電流密度10A/dm
2の条件にてめっき処理を行い、1.0μmPdのめっき層を得た。これを実施例1のめっきサンプルとした。
【0074】
比較例1
めっき液の組成が、グリコール酸の代わりに公知の光沢剤を2g/Lを使用した以外は、実施例1と同様にして、めっき層を形成した。これを比較例1のめっきサンプルとした。
【0075】
評価試験A
得られためっきサンプル(めっき被膜)について、めっき外観と、めっき表面の状態とを以下のようにして観察した。
<めっき外観>
各めっきサンプルのめっき表面を目視で観察し、めっき表面の光沢の状態を評価した。
【0076】
<めっき表面の状態>
各めっきサンプルのめっき表面を、フィールドエミッション走査電子顕微鏡(SEM)(日本電子株式会社製:JSM−7000F)を用いて観察し(測定条件:5000倍)、めっき表面の状態を評価し、そこに特徴的な凸凹のある結晶が形成されたか否かを確認した。
【0077】
結果は下記表1に示される通りであった。
めっき表面の状態に関しては、
図1に示した電子顕微鏡写真からわかるように、実施例1のめっきサンプル(本発明)は、特徴的な凸凹のある結晶表面を持つことが明らかで有る一方、比較例1のめっきサンプルの表面は、平滑であって、両者の表面状態が全く異なることがわかった。
【0078】
【表1】
【0079】
実施例2〜14および比較例2〜10
めっき液の組成またはめっき条件を、表2および表3に示したものに変更した以外は、実施例1と同様にして、めっき層を形成した。それぞれを各めっきサンプルとし、評価試験に付した。
【0080】
評価試験B
前記した評価試験Aと同様にして、得られためっきサンプル(めっき被膜)のめっき外観と、めっき表面の状態とを観察し、以下の基準に従って、「めっき被膜の状態の良否」を評価した。
<評価基準>
○: めっき外観は無光沢でマットであり、めっき表面に、特徴的な凸凹のある結晶表面が見られた
△: めっき外観は無光沢であり、特徴的な凸凹のある結晶表面が見られたが、めっき表面の結晶表面の形成が部分的であったり、その形成度合いが十分でなかったりした
×: めっき外観は光沢性であり、めっき表面は平滑であった
【0081】
結果は下記の表2および表3に示される通りであった。
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
[2] グリスを塗布した摺動接点材料の動摩擦試験
摩耗を低減するための一つの方法としてグリスを用いる方法がある。グリスを用いることで摩耗を低減することができるが、通常は、グリスが徐々に減少していき定期的に補給する必要がでてくる。一方で摺動接点材料は用いられる製品によっては製造後、グリスを追加することが容易でない場合もある。
このため、摺動接点材料において、グリスを保持したまま使用しつづけられるということは、重要である。そこで、実施例1と比較例1のめっき液を用いて製造された摺動接点材料の表面に、グリスを塗り、動摩擦係数の経時的に測定した。
【0085】
具体的には、前記[1]において調製した実施例1と比較例1のめっき液をそれぞれ用いて、摺動接点材料の可動片としてプローブ(0.5μmPd−0.5μmNi−銅合金C7701R 0.06mmtを、先端2Rにダボ加工)を実施例1と同様の条件にてめっきし、供試用の可動片サンプルを得た。
摺動接点材料の固定片としては、プレート(20μmAg10%Ni合金クラッド銅合金C1100R 0.3mmt)を使用した。
これら可動片と固定片からなる摺動接点材料について、両片の間にグリス(C−5500(株式会社テトラ製))をさし、これに加重(F)として10gを負荷しつつ、Bowden型摩耗試験機(山崎精機研究所製)にて、摺動距離:10mm、摺動速度:100mm/分、摺動回数:往復1000回の条件にて、動摩擦係数を測定した。
【0086】
これら試験条件をまとめると下記の通りであった。また試験の模式図を
図2に示した。
【0087】
【表4】
【0088】
動摩擦係数の測定結果は、
図3のグラフに示される通りであった。
比較例1のめっき液を使用した場合には、摺動当初はグリスの効果で動摩擦係数が低い値を示したものの、摺動回数が増加するにつれて、皮膜表面からグリスがなくなり、動摩擦係数は上昇した。
一方、実施例1のめっきを使用した場合には、摺動接点材料の表面の凹凸がグリスを保持し、摺動回数が増加しても動摩擦係数を一定に保つことができた。
【0089】
[3] めっき被膜の応力の測定
めっき皮膜の応力が高いと、製造した材料が変形してしまったり、下地から剥がれたりするなどの不具合が生じる場合が起こり得る。このため、製造の条件や加工を工夫する必要がある。摺動接点材の可動部はバネ性のある材料の上に貴金属めっきをしているが、このめっき皮膜の応力が高くバネ性が変わってしまうことは好ましくない。
そこで以下の条件にて応力の測定を実施した。
【0090】
前記[1]の実施例1および比較例1のめっき液を用い、このめっき液を水酸化アンモニウムと希硫酸にてpH7.0に調整し、液温を60℃に保持しためっき浴中にて、めっき液を攪拌しながら、母材(テストストリップC194)に対して、陰極電流密度10A/dm
2の条件にて、めっき処理を行い、それぞれについて、膜厚0.5μmと1.0μmのめっき皮膜を形成させた。
得られためっき被膜について、ストリップ電着応力測定器(683ECアナライザー、Specialty Testing & Development社製)を用いて、その応力(変形に対する抗する力)を測定した。
【0091】
結果は、
図4に示されるとおりであった。
応力測定の結果、比較例1のめっき皮膜に比べ、実施例1のめっき皮膜の方が、応力が低いことが分かった。すなわち、実施例1を用いて摺動接点材料を製造するとめっき皮膜の応力による変形を抑制できることがわかった。
【0092】
[4] めっき被膜の密着性および柔軟性の測定
めっき被膜の基材への密着性を評価するため、下記の試験を行った。
実施例1と比較例1のめっき液それぞれを、基材(銅合金C7701R+全面Ni下地)上に実施例1と同様の条件にてめっきして、試験用のサンプルを、それぞれについて作成した。
作成されたサンプルを、事務用パンチ(穴あけパンチ)で孔をあけ、開いたパンチ孔の周辺部を電子顕微鏡(フィールドエミッション走査電子顕微鏡(SEM)(日本電子株式会社製:JSM−7000F)(測定倍率1000倍)にて観察し、孔周辺部でのめっきの「剥がれ」の有無、めっき被膜のクラック発生の有無を確認した。
【0093】
結果は下記表5に示される通りであった。
【0094】
【表5】
【0095】
比較例1のめっき液を使用したサンプルでは、パンチで孔を開けると、めっき剥がれが発生したものが確認された。一方、実施例1のめっき液を使用したサンプルでは、めっき剥がれの発生は確認できなかった。これらから、本発明によるめっき液によるめっき被膜は基材との密着性が良好であることがわかった。
【0096】
比較例1のめっき液により形成された皮膜では、皮膜にクラックの発生が観察された。一方、実施例1のめっき液により形成された皮膜では、クラックの発生は観察できなかった。このため、本発明によるめっき液により形成された皮膜の硬度は、従来品である比較例と比べ軟質であることがわかった。よって、本発明によるめっき液による皮膜は軟質であり、すなわち柔軟性が高いといえることから、加工性にも優れていることが判明した。また、皮膜が軟質化しているということは、皮膜の劣化が抑制されることも意味していると考えられた。
【0097】
[5] グリスを使用しない摺動接点材料の摩擦試験
前記した[2]の動摩擦試験とは異なり、摺動接点の可動部が固定部に与えるダメージ(摩耗量、摩耗深さ)を測定するために、グリスを用いずに摺動による接点材料の摩擦試験を行った。
【0098】
具体的には、前記[1]において調製した実施例1と比較例1のめっき液をそれぞれ用いて、摺動接点材料の可動片としてプローブ(0.5μmPd−0.5μmNi−C7701R 0.06mmtを、先端2Rにダボ加工)を実施例1と同様の条件にてめっきし、供試用の可動片サンプルを得た。
摺動接点材料の固定片としては、プレート(20μmAg10%Ni合金クラッド銅合金C1100R 0.3mmt(Ag10%Ni被覆厚10μm))を使用した。
これら可動片と固定片からなる摺動接点材料について、両片の間にグリスをさすこと無く、これに加重(F)として10gを負荷しつつ、高速摺動試験機(山崎精機研究所製)にて、摺動径:5mm、回転速度:300RPMの条件にて、摩擦深さを測定した。
【0099】
これら試験条件をまとめると下記の通りであった。また試験の模式図を
図5に示した。
【0100】
【表6】
【0101】
結果は、
図6のグラフに示される通りであった。
【0102】
比較例1のめっき液を使用した場合に比べ、実施例1のめっき液を使用した場合の方が、摩耗深さが小さかった。すなわち、実施例1のめっき液を使用した場合の方が、固定部に与えるダメージが少なくなることがわかった。
【0103】
前記[2]の動摩擦試験における、実施例1のめっき液を使用した場合には、グリスの保持による動摩擦係数が小さくなったという結果と合わせると、本発明による摺動接点材料は、摩耗による製品劣化が少なく、また性能の低下も起きにくいため、高品質長寿命となりうることがわかった。
【符号の説明】
【0104】
1・・・銅合金(C1100R)
2・・・銀―10%ニッケル合金
3・・・パラジウムめっき
4・・・銅合金(C7701R)
5・・・固定片
6・・・可動片
7・・・荷重(F)
8・・・可動片のスライド方向
9・・・可動片の回転方向