(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6346522
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】交差偏波干渉除去装置
(51)【国際特許分類】
H04J 11/00 20060101AFI20180611BHJP
H04B 1/10 20060101ALI20180611BHJP
H04B 7/005 20060101ALI20180611BHJP
【FI】
H04J11/00 B
H04B1/10 L
H04B7/005
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-169985(P2014-169985)
(22)【出願日】2014年8月25日
(65)【公開番号】特開2016-46689(P2016-46689A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2017年6月27日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100143568
【弁理士】
【氏名又は名称】英 貢
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 敬文
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽一
(72)【発明者】
【氏名】土田 健一
(72)【発明者】
【氏名】木村 武史
(72)【発明者】
【氏名】田中 祥次
(72)【発明者】
【氏名】橋本 明記
【審査官】
福田 正悟
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/005585(WO,A1)
【文献】
特開2010−193092(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/069798(WO,A1)
【文献】
欧州特許出願公開第02219310(EP,A1)
【文献】
特開2003−298546(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0163271(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04J 11/00
H04B 1/10
H04B 7/005
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種の偏波を利用して伝送されるデジタル信号を受信する際の交差偏波の干渉成分を除去する交差偏波干渉除去装置であって、
受信した複数種の偏波のデジタル信号を希望波と交差偏波に分配する分配手段と、
前記交差偏波の信号を処理して前記希望波に対する干渉成分のレプリカ信号を生成する交差偏波処理手段と、
前記希望波と前記交差偏波の符号化・変調方式の情報から、該符号化・変調方式の情報に対して予め定められた所要C/Nの値を比較し、前記交差偏波の所要C/Nが前記希望波の所要C/N以下であると判定した際に、前記交差偏波処理手段による当該干渉成分のレプリカ信号の生成を行うよう制御する所要C/N判定制御手段と、
前記希望波の信号から前記干渉成分のレプリカ信号を減算して復調する希望波処理手段と、
を備えることを特徴とする交差偏波干渉除去装置。
【請求項2】
前記デジタル信号は、複数種の偏波を利用した放送波で伝送されることを特徴とする、請求項1に記載の交差偏波干渉除去装置。
【請求項3】
前記交差偏波処理手段は、前記希望波に対して、予め定めた複数の異なる周波数帯の交差偏波について、それぞれの当該干渉成分のレプリカ信号を生成するよう構成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の交差偏波干渉除去装置。
【請求項4】
前記所要C/N判定制御手段は、前記交差偏波の所要C/Nが前記希望波の所要C/N以下でないと判定した際には、前記分配手段によって分配された前記希望波の信号を復調するよう前記希望波処理手段を制御することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の交差偏波干渉除去装置。
【請求項5】
前記交差偏波処理手段は、各交差偏波のパイロット信号を用いた等化処理に伴う伝送路応答の推定により伝送路歪を付加して前記希望波に対する干渉成分のレプリカ信号を生成することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の交差偏波干渉除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種の偏波を利用して伝送されるデジタル信号を受信する際の交差偏波の干渉成分を除去する交差偏波干渉除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
衛星放送システム及び衛星通信システムにおいて、周波数資源の有効利用のために右旋及び左旋の円偏波や水平及び垂直の直線偏波などが使用される。これにより同一周波数帯において2チャンネル分の信号を送ることが可能となる。
【0003】
例えば、衛星放送システムでは、
図5に示すように、送信装置1から右旋及び左旋の円偏波を利用してデジタル信号を実衛星の中継器2に向けて送信し、中継器2は、このデジタル信号を中継して受信装置3に伝送する。受信装置3は、復調処理部31及び復号処理部32で構成される。復調処理部31は、復号処理部32側から所望されるチャンネルに関するチャンネル選択信号を受け付け、当該チャンネルに該当する偏波の変調波を受信して、まず伝送制御信号(TMCC信号)を復調・復号し、この伝送制御信号(TMCC信号)に従って受信する偏波の変調波から希望波(主信号)を復調し、復調した希望波(主信号)を、対応するTMCC信号とともに復号処理部32に出力する。復号処理部32は、当該TMCC信号の制御情報(符号化率等)を基に、復号処理部32にて復調した希望波に対して復号処理を施し、デジタル信号を復元する。
【0004】
このような複数種の偏波を利用してデジタル信号を伝送される態様としては、その理解を高めるために個別のチャンネル番号を示して説明するに、
図6(A)に示すように、奇数チャンネルの右旋円偏波と偶数チャンネルの左旋円偏波とが互いに跨る周波数帯でデジタル信号を伝送することや、
図6(B)に示すように、奇数チャンネルの右旋円偏波の周波数帯とは別の周波数帯で偶数チャンネルの左旋円偏波のデジタル信号を伝送することが可能である。
【0005】
一般に、大別して、
図6に示す奇数チャンネルの右旋円偏波と偶数チャンネルの左旋円偏波とは異なる変調方式(及び異なる符号化率)でデジタル信号の符号化・変調が施されて伝送され、奇数チャンネルの右旋円偏波のほうが偶数チャンネルの左旋円偏波よりも低い所要C/N(Carrier to Noise)となるよう構成することができる。尚、チャンネル毎に個別の変調方式及び符号化率を随意、設定可能である。
【0006】
図6(A),(B)のいずれの態様においても、所望されるチャンネルの希望波に対して、交差偏波が干渉波となることがあり、この希望波と交差偏波のレベル差を交差偏波識別度(XPD:Cross Polarization Discrimination)と云い、現在の一般家庭における衛星放送受信用のアンテナの交差偏波識別度は晴天時においては20dB程度である。
【0007】
現行のBS(Broadcasting Satellite)デジタル放送及び広帯域CS(Communications Satellite)デジタル放送にて用いられている、放送方式ISDB-S(Integrated Services Digital Broadcasting for Satellite)では、変調方式TC8PSK(Trellis Coded 8 Phase-Shift Keying)、符号化率2/3が採用されており、その所要C/Nは10.7dBである。
【0008】
一方、HDTV(High-definition television)を超える高画質サービスである超高精細度テレビジョンサービスのための伝送方式として、標準規格ARIB STD−B44の高度広帯域衛星デジタル放送の伝送路符号化方式をベースとした、変調方式16APSK(Amplitude and Phase-Shift Keying)の利用が検討されている(例えば、非特許文献1参照)。超高精細度テレビジョンサービスである8Kスーパーハイビジョンは100Mbps程度の伝送速度が想定されており、その伝送速度に該当する16APSKの所要C/Nは12dB以上であり、一般家庭用受信アンテナの受信C/Nは18dB程度である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】総務省 情報通信審議会、“情報通信技術分科会(第101回)配付資料・議事概要・議事録(資料101−3−1 放送システム委員会報告 概要、資料101−3−2 放送システム委員会報告、資料101−3−3 答申書(案)”、[online]、平成26年3月25日、放送システム委員会、[平成26年6月4日検索]、インターネット〈URL:http://www.soumu.go.jp/main_content/000282014.pdf〉,〈URL:http://www.soumu.go.jp/main_content/000282016.pdf〉,〈URL:http://www.soumu.go.jp/main_content/000282017.pdf〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述したように、衛星放送システムでは、
図5に示すように、送信装置1から右旋及び左旋の円偏波を利用してデジタル信号を実衛星の中継器2に向けて送信し、中継器2は、このデジタル信号を中継して受信装置3に伝送する。この受信装置3へ入力される信号は、希望波C[dB]に干渉成分I及び雑音成分Nが付加され、C/(N+I)[dB]となる。C/(N+I)とC/N[dB]及びC/I[dB]の関係は、次式で表される。
【0011】
【数1】
【0012】
上記の式で表されるように、交差偏波識別度(XPD)が小さいとC/Iが小さくなることから、交差偏波存在時のC/(N+I)は小さくなり、所要C/Nに対する受信C/Nの余裕(希望波の受信マージン)が小さくなってしまう。
【0013】
また、右旋及び左旋の円偏波を利用する各チャンネルで、異なる符号化・変調方式(異なる符号化率及び/又は異なる変調方式)が利用される場合、それぞれ所要C/Nが異なるものとなり、交差偏波の所要C/Nが希望波の所要C/N以下となるときは希望波の受信マージンが交差偏波の受信マージンと比較して小さくなるため、交差偏波は良好に受信可能な環境においても、受信した希望波の信号に現れる交差偏波の干渉成分の影響は無視できないほど大きくなり、希望波の所要C/Nの劣化を生じさせる。
【0014】
したがって、交差偏波の所要C/Nが希望波の所要C/N以下であるときに、希望波に交差偏波による干渉が発生した際、所要C/Nが高い希望波に対する所要C/N劣化を抑圧する技法が望まれる。
【0015】
本発明の目的は、上述の問題を鑑みて、複数種の偏波を利用して伝送されるデジタル信号を受信する際の交差偏波の干渉成分を除去する交差偏波干渉除去装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の交差偏波干渉除去装置は、干渉波である交差偏波に希望波よりも所要C/Nの低い符号化・変調方式が利用されている場合、受信した信号から交差偏波に対応した信号を復調後、再変調し、干渉成分を推定した伝送路歪を付加した後、受信した信号から減算することで希望波を得るように構成される。
【0017】
即ち、本発明の交差偏波干渉除去装置は、複数種の偏波を利用して伝送されるデジタル信号を受信する際の交差偏波の干渉成分を除去する交差偏波干渉除去装置であって、受信した複数種の偏波のデジタル信号を希望波と交差偏波に分配する分配手段と、前記交差偏波の信号を処理して前記希望波に対する干渉成分のレプリカ信号を生成する交差偏波処理手段と、前記希望波と前記交差偏波の符号化・変調方式の情報から、該符号化・変調方式の情報に対して予め定められた所要C/Nの値を比較し、前記交差偏波の所要C/Nが前記希望波の所要C/N以下であると判定した際に、前記交差偏波処理手段による当該干渉成分のレプリカ信号の生成を行うよう制御する所要C/N判定制御手段と、前記希望波の信号から前記干渉成分のレプリカ信号を減算して復調する希望波処理手段と、を備えることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の交差偏波干渉除去装置において、前記デジタル信号は、複数種の偏波を利用した放送波で伝送されることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の交差偏波干渉除去装置において、前記交差偏波処理手段は、前記希望波に対して、予め定めた複数の異なる周波数帯の交差偏波について、それぞれの当該干渉成分のレプリカ信号を生成するよう構成されていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の交差偏波干渉除去装置において、前記所要C/N判定制御手段は、前記交差偏波の所要C/Nが前記希望波の所要C/N以下でないと判定した際には、前記分配手段によって分配された前記希望波の信号を復調するよう前記希望波処理手段を制御することを特徴とする。
【0021】
また、本発明の交差偏波干渉除去装置において、前記交差偏波処理手段は、各交差偏波のパイロット信号を用いた等化処理に伴う伝送路応答の推定により伝送路歪を付加して前記希望波に対する干渉成分のレプリカ信号を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、希望波が交差偏波よりも高い所要C/Nとなる符号化・変調方式である場合、この希望波に対する所要C/N劣化を抑圧することが可能となる。
【0023】
即ち、希望波が交差偏波よりも高い所要C/Nである場合、希望波の受信マージンは交差偏波と比較して小さくなるが、このような場合でも、本発明による交差偏波干渉除去装置を既存の変調処理部の代わりに受信装置に設けることにより、交差偏波による干渉の影響を効果的に抑圧して受信装置の受信性能を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明による一実施形態の交差偏波干渉除去装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明による一実施形態の交差偏波干渉除去装置における交差偏波処理部に入力される、希望波による干渉成分が重畳した交差偏波の一例を示す図である。
【
図3】本発明による一実施形態の交差偏波干渉除去装置における希望波処理部に入力される、交差偏波による干渉成分が重畳した希望波の一例を示す図である。
【
図4】本発明による一実施形態の交差偏波干渉除去装置にて利用する所要C/Nテーブルの一例を示す図である。
【
図5】衛星放送システムの概略構成を示す図である。
【
図6】(A),(B)は、複数種の偏波を利用してデジタル信号を伝送する態様の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明による一実施形態の交差偏波干渉除去装置5を説明する。
図1は、本発明による一実施形態の交差偏波干渉除去装置5の概略構成を示すブロック図である。交差偏波干渉除去装置5は、
図5に示す衛星放送システムにおいて、受信装置3の復調処理部31に置き換えて設置可能となっている。従って、従来と同様に、送信装置1から右旋及び左旋の円偏波を利用してデジタル信号を実衛星の中継器2に向けて送信し、中継器2は、このデジタル信号を中継して受信装置3に伝送する。ここで、受信装置3は、交差偏波干渉除去装置5及び復号処理部32で構成される。交差偏波干渉除去装置5は、復号処理部32側から所望されるチャンネルに関するチャンネル選択信号を受け付け、当該チャンネルに該当する偏波の変調波を受信して、まず伝送制御信号(TMCC信号)を復調・復号し、この伝送制御信号(TMCC信号)に従って受信する偏波の変調波から希望波(主信号)を復調し、復調した希望波(主信号)を、対応するTMCC信号とともに復号処理部32に出力する。復号処理部32は、当該TMCC信号の制御情報(符号化率等)を基に、復号処理部32にて復調した希望波に対して復号処理を施し、デジタル信号を復元する。
【0026】
ここで、交差偏波干渉除去装置5は、複数種の偏波を利用して伝送されるデジタル信号を受信する際の交差偏波の干渉成分を除去するように構成される。以下、
図1を参照して、一実施形態の交差偏波干渉除去装置5について詳細に説明する。
【0027】
図1に示すように、交差偏波干渉除去装置5は、受信アンテナ5aにより受信した複数種の偏波のデジタル信号を入力し、希望波に対する交差偏波の干渉成分を除去するために、分配器50,51、第1交差偏波処理部52、第2交差偏波処理部53、希望波処理部54、所要C/N判定制御部55、及びチャンネル制御部56を備える。第1交差偏波処理部52及び第2交差偏波処理部53は、それぞれTMCC復号部520,530、復調処理部521,531、復号処理部522,532、符号化処理部523,533、変調処理部524,534、伝送路歪付加部525,535を備える。また、希望波処理部54は、遅延処理部541、減算処理部542、復調処理部543及びTMCC復号部544を備える。
【0028】
まず、チャンネル制御部56は、復号処理部32側から所望されるチャンネルに関するチャンネル選択信号を受け付け、このチャンネル選択信号に対応する帯域を希望波とし、この希望波の干渉成分となりうる帯域を交差偏波(本例では、2つの交差偏波)とし、希望波と2つの交差偏波について、受信アンテナ5aにより受信した複数種の偏波のデジタル信号を分配するよう分配器50,51を制御する。同時に、チャンネル制御部56は、希望波と当該2つの交差偏波を分配する旨を示す情報を所要C/N判定制御部55に出力する。
【0029】
分配器50は、所定の交差偏波識別度(主にアンテナ5aに依存する交差偏波識別度)で、受信アンテナ5aにより受信した複数種の偏波のデジタル信号のうち希望波の信号を希望波処理部54に電力分配し、当該2つの交差偏波の帯域を含む信号を分配器51に電力分配する。
【0030】
分配器51は、所定の交差偏波識別度(主にアンテナ5aに依存する交差偏波識別度)で、分配器50から得られる当該2つの交差偏波の帯域を含む信号を個別の交差偏波の信号となるよう、当該2つの交差偏波の信号の各々をそれぞれ第1交差偏波処理部52及び第2交差偏波処理部53に電力分配する。
【0031】
例えば、
図6(A)の例を基に説明するに、希望波のチャンネル番号(2n−1)に対して(nは1以上の整数)、この希望波の干渉成分となりうる帯域がチャンネル番号(2n−2)とチャンネル番号(2n)とすると、
図2に示すように、第1交差偏波処理部52にはチャンネル番号(2n−2)の交差偏波の信号w1が入力され、第2交差偏波処理部53にはチャンネル番号(2n)の交差偏波の信号w2が入力される。このとき、分配器51によって分配される各交差偏波の信号は、所定の交差偏波識別度(主にアンテナ5aに依存する交差偏波識別度)で、希望波よりも電力振幅が大きく、希望波成分が干渉した態様でそれぞれ第1交差偏波処理部52及び第2交差偏波処理部53に入力される。
【0032】
また、
図3に示すように、分配器50によって分配される希望波の信号w0は、所定の交差偏波識別度(主にアンテナ5aに依存する交差偏波識別度)で、当該2つの交差偏波よりも電力振幅が大きく、当該2つの交差偏波成分が干渉した態様で希望波処理部54に入力される。
【0033】
第1交差偏波処理部52及び第2交差偏波処理部53は、それぞれの交差偏波の信号w1,w2を入力し、まず、復調処理部521,531により、交差偏波の信号w1,w2のそれぞれの主信号とは別に多重されているTMCC信号を復調し、続いて、TMCC復号部520,530により、TMCC信号を復号する。
【0034】
また、希望波処理部54は、希望波の信号w0を入力し、まず、復調処理部543により、希望波の信号w0の主信号とは別に多重されているTMCC信号を復調し、続いて、TMCC復号部544により、TMCC信号を復号する。このとき、遅延処理部541は、第1交差偏波処理部52及び第2交差偏波処理部53の処理時間に相当する遅延量で希望波の信号w0を遅延させるが、希望波の信号w0に多重されているTMCC信号の復調及び復号には影響しない。
【0035】
また、減算処理部542は、希望波の信号から第1交差偏波処理部52及び第2交差偏波処理部53から得られる干渉成分を減算するよう動作するが、TMCC信号の処理時には、第1交差偏波処理部52及び第2交差偏波処理部53からの入力が無い、又はNull値の信号が入力され、TMCC信号の復調及び復号には影響しない。尚、TMCC信号は例えばISDB−Sにおいては変調方式BPSK(Binary Phase-Shift Keying)、ARIB STD−B44においては変調方式π/2シフトBPSKが用いられており、主信号と比較して、より低C/Nで誤りなく受信することが可能である。
【0036】
所要C/N判定制御部55は、TMCC復号部520,530,544から希望波と2つの交差偏波の各TMCC信号に含まれる符号化・変調方式の情報を取得して比較し、交差偏波の所要C/Nが希望波の所要C/N以下であることを確認する。この条件を満たすとき、所要C/N判定制御部55は、希望波に対する干渉成分が無視できないほど大きいと判断し、第1交差偏波処理部52及び第2交差偏波処理部53による干渉成分の生成動作、並びに、希望波処理部54による希望波からの干渉成分の除去動作を行うようTMCC復号部520,530,544に指示する。この指示に応じて、TMCC復号部520,530,544は、それぞれ第1交差偏波処理部52、第2交差偏波処理部53及び希望波処理部54の動作を制御する制御信号を各部に供給する。
【0037】
尚、所要C/N判定制御部55において、符号化・変調方式の情報から交差偏波の所要C/Nが希望波の所要C/N以下であることを確認するために、例えば、
図4に示すような変調方式と符号化率の関係に対応付けた所要C/Nの値を示すテーブルを保持するのが好適である。テーブルで保持する所要C/Nの値は、実際の伝送方式と合致する値が好ましいが、厳密性を要求するものではない。したがって、テーブルを保持する代わりに、変調方式と符号化率の関係に対応付けた所要C/Nの値が得られるような簡易式を定めて保持するように構成してもよい。
【0038】
一方、所要C/N判定制御部55は、TMCC復号部520,530,544から希望波と2つの交差偏波の各TMCC信号に含まれる符号化・変調方式の情報を取得して比較し、交差偏波の所要C/Nが希望波の所要C/N以下でない場合、既存の復調処理(例えば、
図5に示す復調処理部31)と同等の動作を行うよう、TMCC復号部520,530,544に指示する。この指示に応じて、TMCC復号部520,530,544は、それぞれ第1交差偏波処理部52、第2交差偏波処理部53及び希望波処理部54の動作を制御する制御信号を各部に供給する。この場合、希望波処理部54は、復調処理部543により希望波に関する復調処理を実行するよう動作する。このとき、演算処理部542には、第1交差偏波処理部52及び第2交差偏波処理部53からの入力が無い、又はNull値の信号が入力されるよう構成され、希望波の主信号の復調及び復号には影響しないよう動作する。
【0039】
以下、交差偏波の所要C/Nが希望波の所要C/N以下である場合の動作を説明する。第1交差偏波処理部52及び第2交差偏波処理部53の各々は、それぞれ入力された交差偏波の主信号について、それぞれのTMCC信号の情報を基に復調処理部521,531により復調した後、復号処理部522,532により誤り訂正の復号処理を行う。
【0040】
続いて、第1交差偏波処理部52及び第2交差偏波処理部53の各々は、復号処理部522,532により復号した主信号のデジタル信号について、再度、希望波に対する干渉成分のレプリカ信号を生成するために、それぞれのTMCC信号の情報を基に、符号化処理部523,533により誤り訂正の符号化処理を実行した後、変調処理部524,534により変調する。この変調波に対して、伝送路歪付加部525,535により、各交差偏波のパイロット信号を用いた等化処理に伴う伝送路応答の推定により伝送路歪を付加して希望波に対する干渉成分のレプリカ信号を生成する。この伝送路歪の付加により高精度の希望波に対する干渉成分のレプリカ信号を生成することができる。
【0041】
また、このレプリカ信号は、希望波に対する干渉成分の電力振幅と同等となるよう、所定の交差偏波識別度(主にアンテナ5aに依存する交差偏波識別度)に対応して電力減衰させた状態で第1交差偏波処理部52及び第2交差偏波処理部53の各々から出力される。この電力減衰を実現するために、予め定めた減衰量を設定してもよいし、利用するアンテナ5aに応じて外部から設定可能に構成することもできる。また、希望波と交差偏波のそれぞれについて復調して得られるパイロット信号を用いた伝送路応答により、希望波と交差偏波との間の交差偏波電力比を求める交差偏波電力比演算部(図示せず)を交差偏波干渉除去装置5内に設け、求めた交差偏波電力比を基準に当該減衰量を加えるように構成することもできる。
【0042】
このように、第1交差偏波処理部52及び第2交差偏波処理部53の各々は、各交差偏波の変調・符号化方式に応じて、希望波に対する干渉成分のレプリカ信号を生成する。従って、本例では、希望波に対する干渉成分のレプリカ信号が2つ生成される。
【0043】
即ち、伝送路歪付加部525,535により生成されるレプリカ信号は、希望波処理部54に入力される
図3に示す希望波w0に対する交差偏波の干渉成分w1,w2とほぼ等しい電力振幅となり、希望波処理部54の減算処理部542に入力される。
【0044】
一方、希望波処理部54では、遅延処理部541により、分配器50から入力される希望波を第1交差偏波処理部52及び第2交差偏波処理部53の処理時間に相当する遅延量で遅延させ、減算処理部542により、伝送路歪付加部525,535から得られるレプリカ信号を入力し、希望波の信号からレプリカ信号を減算する。
【0045】
このようにして、本実施形態の交差偏波干渉除去装置5は、交差偏波の所要C/Nが希望波の所要C/N以下である場合に、交差偏波の干渉成分を抑制した希望波の信号(主信号)を得ることが可能となるように構成される。
【0046】
減算処理部542により交差偏波の干渉成分が除去された希望波の信号(主信号)は、TMCC信号の情報を基に、復調処理部543により復調される。復調処理部543は、希望波の主信号をTMCC信号とともに、復号処理部32(
図5参照)に出力する。
【0047】
復号処理部32は、TMCC信号の情報を基に、送信装置1の誤り訂正の符号化処理に対応する復号処理で、希望波の主信号を復号する。
【0048】
従って、本実施形態の交差偏波干渉除去装置5によれば、希望波が交差偏波よりも高い所要C/Nとなる符号化・変調方式である場合、この希望波に対する所要C/N劣化を抑圧することが可能となる。特に、希望波に所要C/Nが大きい変調方式及び符号化率を用いた場合、受信マージンはより小さくなるため、本実施形態の交差偏波干渉除去装置5の作用・効果はより大きくなり、交差偏波による干渉の影響を効果的に抑圧することが可能となる。
【0049】
本発明は、上述の実施形態の例によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲によってのみ制限される。例えば、右旋及び左旋の円偏波を例に説明したが、水平偏波・垂直偏波を利用する態様にも適用することができる。また、右斜め45°の偏波及び左斜め45°の偏波を利用する態様にも適用可能である。
【0050】
また、上述の実施形態の説明では、2種類の偏波について、2つの干渉波成分のレプリカ信号を生成する例を説明したが、1以上の干渉波成分のレプリカ信号を生成するよう構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、希望波が交差偏波よりも高い所要C/Nとなる符号化・変調方式である場合、この希望波に対する所要C/N劣化を抑圧することが可能となるので、放送波に関する交差偏波の干渉成分を除去する用途に有用である。
【符号の説明】
【0052】
1 送信装置
2 中継器
3 受信装置
5 交差偏波干渉除去装置
5a 受信アンテナ
31 復調処理部
32 復号処理部
50,51 分配器
52 第1交差偏波処理部
53 第2交差偏波処理部
54 希望波処理部
55 所要C/N判定制御部
56 チャンネル制御部
520,530 TMCC復号部
521,531 復調処理部
522,532 復号処理部
523,533 符号化処理部
524,534 変調処理部
525,535 伝送路歪付加部
541 遅延処理部
542 減算処理部
543 復調処理部
544 TMCC復号部