【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業・研究加速課題「光機能性プローブによるin vivo微小がん検出プロジェクト」、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束される
ことはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実
施することができる。
【0029】
本明細書において、アルキル基は直鎖状、分枝鎖状、環状、又はそれらの組み合わせか
らなるアルキル基のいずれであってもよい。アルキル基の炭素数は特に限定されないが、
例えば炭素数1〜6個程度、好ましくは炭素数1〜4個程度である。本明細書において、
アルキル基は任意の置換基を1個以上有していてもよい。該置換基としては、例えば、ア
ルコキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子のいずれ
であってもよい)、アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、置換シリル基、又はアシル
基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。アルキル基が2個以上
の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。アルキル部分を含む
他の置換基(例えばアルキルオキシ基やアラルキル基など)のアルキル部分についても同
様である。
【0030】
また、本明細書において、アリール基は単環性アリール基又は縮合多環性アルール基の
いずれであってもよく、環構成原子としてヘテロ原子(例えば、酸素原子、窒素原子、又
は硫黄原子など)を1個以上含んでいてもよい。本明細書において、アリール基はその環
上に任意の置換基を1個以上有していてもよい。該置換基としては、例えば、アルコキシ
基、ハロゲン原子、アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、置換シリル基、又はアシル
基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。アリール基が2個以上
の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。アリール部分を含む
他の置換基(例えばアリールオキシ基やアラルキル基など)のアリール部分についても同
様である。
【0031】
(1)蛍光プローブ分子
本発明の蛍光プローブは、一態様において、以下の一般式(I)で表される構造を有す
る化合物である。
【化7】
【0032】
上記一般式(I)において、R
1は水素原子又はベンゼン環に結合する1個ないし4個
の置換基を示す。置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、
アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、置換シリル基、又はアシル基などを挙げること
ができるが、これらに限定されることはない。ベンゼン環上に2個以上の置換基を有する
場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。R
1としては水素原子が好ましい。
【0033】
R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、及びR
7はそれぞれ独立に水素原子、水酸基、アルキ
ル基、又はハロゲン原子を示す。R
2及びR
7が水素原子であることが好ましい。また、
R
3、R
4、R
5、R
6が水素原子であることも好ましい。R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、及びR
7がいずれも水素原子であることがさらに好ましい。
【0034】
R
8及びR
9はそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示す。R
8及びR
9がともに
アルキル基を示す場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。例えば、R
8及びR
9の両者が水素原子である場合、及びR
8がアルキル基であり、かつR
9が水素原子であ
る場合が好ましく、R
8及びR
9の両者が水素原子である場合がさらに好ましい。
【0035】
XはC
1−C
3アルキレン基を示す。アルキレン基は直鎖状アルキレン基又は分枝鎖状
アルキレン基のいずれであってもよい。例えば、メチレン基(−CH
2−)、エチレン基
(−CH
2−CH
2−)、プロピレン基(−CH
2−CH
2−CH
2−)のほか、分枝鎖
状アルキレン基として−CH(CH
3)−、−CH
2−CH(CH
3)−、−CH(CH
2CH
3)−なども使用することができる。これらのうち、メチレン基又はエチレン基が
好ましく、メチレン基がさらに好ましい。
【0036】
Aはアミノ酸残基又はN−置換アミノ酸残基を示す。本明細書において、「アミノ酸残
基」とは、アミノ酸のカルボキシ基から水酸基を除去した残りの部分構造と等しく、いわ
ゆるN−末端残基と同様の構造を有するものを意味する。ただし、これは、Aが複数のア
ミノ酸残基が連結して構成される場合を除外するものではなく、かかる場合はC−末端の
アミノ酸残基が、上記のようにアミノ酸のカルボキシ基から水酸基を除去し、且つアミノ
基から水素原子を除去した部分構造となれば良く、中間及びN−末端のアミノ酸残基は通
常のペプチド鎖と同様に連結することができる。
【0037】
従って、Aは隣接する式中のNHとアミド結合を形成して連結しており、すなわち、ア
ミノ酸残基のカルボニル部分と式(I)NHとがアミド結合を形成することで、キサンテ
ン骨格と連結している。また、「N−置換アミノ酸残基」とは、上記アミノ酸残基のアミ
ノ基における水素原子が置換されているものをいう。
【0038】
本明細書において、「アミノ酸」は、アミノ基とカルボキシ基の両方を有する化合物で
あれば任意の化合物を用いることができ、天然及非天然のものを含む。中性アミノ酸、塩
基性アミノ酸、又は酸性アミノ酸のいずれであってもよく、それ自体が神経伝達物質など
の伝達物質として機能するアミノ酸のほか、生理活性ペプチド(ジペプチド、トリペプチ
ド、テトラペプチドのほか、オリゴペプチドを含む)やタンパク質などのポリペプチド化
合物の構成成分であるアミノ酸を用いることができ、例えばαアミノ酸、βアミノ酸、γ
アミノ酸などであってもよい。アミノ酸としては、光学活性アミノ酸を用いることが好ま
しい。例えば、αアミノ酸についてはD-又はL-アミノ酸のいずれを用いてもよいが、生体
において機能する光学活性アミノ酸を選択することが好ましい場合がある。
【0039】
ここで、特定のプロテアーゼを特異的に検出するという観点からは、Aは標的とするプ
ロテアーゼによって加水分解されて、式(I)におけるA−NHのアミド結合が切断可能
なアミノ酸残基を用いることが好ましい。そのようなアミノ酸の非限定的な例としては、
タンパク質を構成する20種類のL-アミノ酸のほか、セレノシステイン、ピロリシン、シ
スチン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、チロキシン、O-ホスホセリン、又は
デスモシンや、β-アラニン、サルコシン、オルニチン、クレアチン、γアミノ酪酸、又
はオパインなどが挙げられる。
【0040】
例えば、膵液中に含まれるキモトプシンを蛍光検出の標的とする場合、Aにおけるアミ
ノ酸残基は、芳香族アミノ酸又は疎水性アミノ酸により構成されることが好ましい。その
ようなアミノ酸の非限定的な例は、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、ロイ
シン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、メチオニン、及びそれらのN
−置換残基が挙げられるが、好ましくは、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン
、及びそれらのN−置換残基であり、より好ましくは、フェニルアラニン及びN−置換フ
ェニルアラニン残基、チロシン及びN−置換チロシンである。
【0041】
また、膵液中に含まれるγ-グルタミルトランスフェラーゼを蛍光検出の標的とする場
合、Aは、γ−グルタミルであることが好適である。
【0042】
Aの好ましい態様は、以下式(II)で示されるN−置換フェニルアラニン残基及びN
−置換チロシン残基であり、これは、上記のようにキモトプシンを標的とする場合に好ま
しい。
【化8】
【0043】
式(II)中のカルボニル基と式(I)中のNHがアミド結合を形成し、それによって
、式(I)のキサンテン骨格と連結している。
【0044】
R
10は、置換又は無置換のアシル基である。ここで、該アシル基は、1個又は2個以
上のヘテロ原子を含んでいてもよく、任意の置換基を1個以上有していてもよい。該置換
基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルコキ
シ基、アミド基、ハロゲン原子、アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、置換シリル基
、又はアシル基などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。2個以
上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。置換アシル基とし
てはカルボキシ基から水酸基を除いたアミノ酸残基であってもよい。より好ましくは、R
10は、脂肪族アシル基又は芳香族アシル基であり、芳香族基を置換基として有する脂肪
族アシル基であってもよい。これらの置換基もまた、1個又は2個以上のヘテロ原子を含
んでいてもよく、上記と同様、更に任意の置換基を1個以上有していてもよい。さらに、
R
10は、カルボキシ基、アミノ基、カルボニル基、アミド基、水酸基などの極性基をR
10の末端に有するアシル基が好ましい。1つの態様において、R
10は、アセチル基(
CH
3CO−)、カルボベンゾキシ基(cbz基)(C
6H
5CH
2OCO−)、ベンゾ
イル基(C
6H
5CO−)、スクシニル基(HOOC−CH
2CH
2CO−)、グルタリ
ル基(HOOC−CH
2CH
2CH
2CO−)、又はこれらを一部に含む置換基であるこ
とが好ましい。R
10が、カルボキシ基から水酸基を除いたアミノ酸残基、あるいは1個
乃至5個のアミノ酸よりなるペプチド鎖のC末端カルボキシ基から水酸基を除いた基であ
る場合には、いずれもN末端がアミノ酸残基のN末端が、アセチル基、カルボベンゾキシ
基、ベンゾイル基、スクシニル基、グルタリル基、又はこれらを一部に含む置換基から選
択される基であることが好ましい。また、R
11は水素原子又は水酸基を表し、水酸基で
ある場合には、R
11は、好ましくはパラ位である。
【0045】
Aの好ましい態様の一つは、以下式(III)〜(VI)で表される基から選択される
1の置換基である。これは、上記のようにキモトプシンを標的とする場合に好ましい。
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【0046】
上記一般式(I)で表される化合物(Aが式(II)〜式(VI)の態様の場合を含む
。以下の記載においても同じ。)は塩として存在する場合がある。塩としては、塩基付加
塩、酸付加塩、アミノ酸塩などを挙げることができる。塩基付加塩としては、例えば、ナ
トリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などの金属塩、アンモニウム塩
、又はトリエチルアミン塩、ピペリジン塩、モルホリン塩などの有機アミン塩を挙げるこ
とができ、酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの鉱酸塩、メタンス
ルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩などの有機酸塩を挙げ
ることができる。アミノ酸塩としてはグリシン塩などを例示することができる。もっとも
、本発明の化合物の塩はこれらに限定されることはない。
【0047】
一般式(I)で表される化合物は、置換基の種類に応じて1個または2個以上の不斉炭
素を有する場合があり、光学異性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体が存在する
場合がある。純粋な形態の立体異性体、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体などはいず
れも本発明の範囲に包含される。
【0048】
一般式(I)で表される化合物又はその塩は、水和物又は溶媒和物として存在する場合
もあるが、これらの物質はいずれも本発明の範囲に包含される。溶媒和物を形成する溶媒
の種類は特に限定されないが、例えば、エタノール、アセトン、イソプロパノールなどの
溶媒を例示することができる。
【0049】
一般式(I)で表される化合物は、例えば、3位及び6位にアミノ基を有し、9位に2
−カルボキシフェニル基又は2−アルコキシカルボニルフェニル基を有するキサンテン化
合物などを原料として用い、9位の2−カルボキシフェニル基又は2−アルコキシカルボ
ニルフェニル基をヒドロキシアルキル基に変換した後に3位のアミノ基にアミノ酸残基又
はN−置換アミノ酸残基を結合させることにより容易に製造することができる。原料とし
て使用可能な3,6−ジアミノキサンテン化合物としては、例えば、いずれも市販されて
いるローダミン110やローダミン123などを例示することができるが、これらに限定
されることはなく目的化合物の構造に応じて適宜のキサンテン化合物を選択することがで
きる。また、一般式(I)で表される化合物におけるキサンテン骨格部分の酸素原子を、
特定の置換基を有する炭素原子やケイ素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子或いは鉛原子
に置換した態様の骨格を有する化合物を用いて、本発明における一般式(I)と同様の機
能を有する蛍光プローブを製造することもできる。
【0050】
本明細書の実施例には、一般式(I)で表される本発明の化合物に包含される代表的化
合物についての製造方法が具体的に示されているので、当業者は本明細書の開示を参照す
ることにより、及び必要に応じて出発原料や試薬、反応条件などを適宜選択することによ
り、一般式(I)に包含される任意の化合物を容易に製造することができる。
【0051】
(2)蛍光プローブ分子の発光機構
本発明の蛍光プローブは、一般式(I)で示されるキサンテン骨格上部が閉環状態では
、中性領域(例えばpH5ないし9の範囲)において当該蛍光プローブ自体は実質的に無
蛍光である。一方、A−NHとのアミド結合がプロテアーゼにより加水分解されると速や
かに開環した互変異性体となって強蛍光性の下記化合物が生じる。
【化13】
【0052】
すなわち、一般式(I)で表される化合物又はその塩を有効成分として含む本発明の蛍
光プローブは、膵液中に存在するプロテアーゼによって加水分解され、強い蛍光を発する
上記開環化合物を与える性質を有しており、体液等の被検体に添加することによって、数
十秒から数分で強い蛍光を発するようになる。従って、本発明の蛍光プローブを用いるこ
とによって、プロテアーゼ活性を蛍光強度の変化により測定し、当該プロテアーゼを含む
膵液の存在を検出することが可能となる。
【0053】
より詳細には、例えば、一般式(I)で表される化合物又はその塩は、中性領域におい
て例えば440〜500nm程度の励起光を照射した場合にはほとんど蛍光を発しないが
、上記開環化合物は同じ条件下において極めて強い蛍光(例えばemission:52
4nm)を発する性質を有している。従って、本発明の蛍光プローブを用いて検出を行う
場合には、通常は440〜500nm程度の可視光、好ましくは445〜490nm程度
、さらに好ましくは450〜480nm程度の可視光を照射すればよい。観測すべき蛍光
波長は通常は510〜800nm程度であり、例えば516〜556nm程度の蛍光を観
測することが好ましい。
【0054】
(3)蛍光プローブを用いた膵液検出方法。
本発明の膵液検出方法では、上記蛍光プローブを体液試料と接触させ、当該試料中に含
まれるプロテアーゼと蛍光プローブの反応による蛍光応答を観測することにより、膵液の
存在を検出することができる。好ましい態様では、上記プロテアーゼは、キモトリプシン
又はγ−グルタミルトランスフェラーゼであり、より好ましくは、キモトリプシンである
。本明細書において「検出」という用語は、定量、定性など種々の目的の測定を含めて最
も広義に解釈されるべきである。なお、一般式(I)で表される化合物又はその塩は、中
性領域において350nm以上の波長の光をほとんど吸収しないが、膵液中に存在するプ
ロテアーゼによって加水分解されて上記開環化合物に変化すると、その構造変化に伴って
、紫外可視領域の吸収スペクトルが変化して350nm以上の波長の光も吸収するように
なるので、場合によって、紫外可視吸光スペクトルの変化(例えば、特定の吸収波長にお
ける吸光度の変化)によって上記プロテアーゼと蛍光プローブの反応を検出することも可
能である。
【0055】
キモトリプシンは、膵液中に前駆体であるキモトリプシノーゲンとして分泌されるが、
トリプシンとの反応によって活性化されることが知られている。従って、トリプシンの添
加によって活性型のキモトリプシンに変換させた後、本発明の蛍光プローブによる測定を
行うため、蛍光プローブを測定試料に添加等を行う前又は同時に当該測定試料中にトリプ
シンを添加することが好ましい。
【0056】
蛍光検出の被検体である体液試料の形態は、特に限定されるものではないが、例えば、
術中又は術後に患者等の腹腔内から採取した液体、切除した膵臓をろ紙等の紙片やタオル
など吸水性の任意の材料に付着させたもの、或いは、腫瘍部の切除後に体内に残っている
膵臓自体の表面等に付着或いは流出している液体などが挙げられる。
【0057】
被検体である体液試料と蛍光プローブを接触させる手段としては、代表的には、蛍光プ
ローブを含む溶液を試料添加、塗布、或いは噴霧することが挙げられるが、上記体液試料
の形態や測定環境等に応じて適宜選択することが可能である。
【0058】
蛍光応答を観測する手段は、広い測定波長を有する蛍光光度計を用いることができるが
、蛍光発光部位を2次元画像として表示可能な蛍光イメージング装置を用いることもでき
る。蛍光イメージングの手段を用いることによって、蛍光応答を二次元で可視化できるた
め、膵管の位置、或いは膵液漏が生じている箇所を瞬時に視認することが可能となる。特
に、手術中等において被験者から採取した体液試料をその場で測定を行うために、小型で
持ち運び可能な蛍光検出器及び蛍光イメージング装置が好ましい。
【0059】
本発明の膵液検出方法は、例えば手術中、検査中、手術後に行うことができる。本明細
書において「手術」の用語は、内視鏡又は腹腔鏡などの鏡視下手術などを含めて、膵臓が
ん等の膵臓疾患や胆管がん等の治療のために適用される任意の手術を包含する。また、「
検査」の用語は、内視鏡を用いた検査及び検査に伴う組織の切除や採取などの処置のほか
、生体から分離・採取された組織に対して行う検査などを包含する。これらの用語は最も
広義に解釈しなければならず、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。
【0060】
本発明の方法によるプロテアーゼの測定は、一般的には中性条件下に行うことができ、
例えば、pH5.0〜9.0の範囲、好ましくはpH6.0〜8.0の範囲、より好まし
くはpH6.8〜7.6の範囲で行うことができる。PHを調整する手段としては、例え
ば、リン酸バッファー等の当該技術分野において周知の任意のpH調節剤や緩衝液を用い
ることができる。
【0061】
本発明の蛍光プローブの適用濃度は特に限定されないが、例えば1〜1,000μM程
度の濃度の溶液を適用することができる。
【0062】
本発明の蛍光プローブとしては、上記一般式(I)で表される化合物又はその塩をその
まま用いてもよいが、必要に応じて、試薬の調製に通常用いられる添加剤を配合して組成
物として用いてもよい。例えば、生理的環境で試薬を用いるための添加剤として、溶解補
助剤、pH調節剤、緩衝剤、等張化剤などの添加剤を用いることができ、これらの配合量
は当業者に適宜選択可能である。これらの組成物は、一般的には、粉末形態の混合物、凍
結乾燥物、顆粒剤、錠剤、液剤など適宜の形態の組成物として提供されるが、使用時に注
射用蒸留水や適宜の緩衝液に溶解して適用すればよい。
【0063】
(4)膵液検出用キット
本発明の膵液検出方法においては、上記蛍光プローブを含む膵液検出用キットを用いる
ことが好ましい。特に、上記プロテアーゼがキモトリプシンである場合、上記蛍光プロー
ブとトリプシンを含み、測定が行われるまでの期間において蛍光プローブとトリプシンが
混合することなく格納されていることが好ましい。これは、蛍光プローブとトリプシンと
を長時間混在させた場合には、それらが反応するおそれもあり得るため、検体を測定する
直前まで別々に保管させることが望ましいことによる。しかしながら、キットの利便性等
の観点から、蛍光プローブとトリプシンは、必ずしも別個の独立した容器に格納されてい
る必要はなく、これらが混合されない環境である限り、一体化した或いは連結した複数の
格納領域を有する容器を用いることができる。
【0064】
当該キットにおいて、通常、本発明の蛍光プローブ或いはトリプシンは溶液として調製
されているが、例えば、粉末形態の混合物、凍結乾燥物、顆粒剤、錠剤、液剤など適宜の
形態の組成物として提供され、使用時に注射用蒸留水や適宜の緩衝液に溶解して適用する
こともできる。
【0065】
また、当該キットには、必要に応じてそれ以外の試薬等を適宜含んでいてもよい。例え
ば、添加剤として、溶解補助剤、pH調節剤、緩衝剤、等張化剤などの添加剤を用いるこ
とができ、これらの配合量は当業者に適宜選択可能である。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定さ
れるものではない。
【実施例1】
【0067】
以下のスキームに従って、本発明の蛍光プローブであるgPhe−HRMG(グルタリ
ル−フェニルアラニン ヒドロキシメチル ローダミングリーン)を合成した。
【化14】
【0068】
(a)化合物1の合成
HMRG 55mg(0.174mmol、1eq.)とトリエチルアミン 53.6
μL(0.167mmol、2.2eq.)をジメチルホルムアミド(DMF)2mLに
溶かしアルゴン雰囲気下にて0℃で10分間撹拌した。続いて、クロロぎ酸9−フルオレ
ニルメチル67mg(0.261mmol、1.5eq.)を溶解したDMF 0.5m
Lを加え15時間攪拌した。反応溶媒を減圧除去し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィ
ーで精製して(ジクロルメタン/メタノール=95/5)目的化合物(36mg、22%
)を得た。なお、HMRGの合成については、実施例2(a)を参照。
【0069】
1H NMR (400 MHz, CD
3OD): δ 7.78 (d, 2H, J = 8
.1 Hz), 7.61 (d, 2H, J = 7.3 Hz), 7.44−7.32 (
m, 4H), 6.89−6.87 (m ,3H), 6.74−6.71 (m, 2H
), 6.49−6.45 (m, 1H), 6.35 (dd, 1H, J = 8.4 H
z, 1.8Hz), 5.27 (s, 2H), 4.55 (d, 2H, J = 6.6
Hz), 4.27 (t, 1H, J = 6.6 Hz). HRMS (ESI
+) C
alcd FOR [M+H]
+, 539.19708, Found, 539.1952
1 (−1.87 mmu).
【0070】
(b)化合物2の合成
化合物1 36mg(0.067mmol、1eq.)とN,N−ジイソプロピルエチ
ルアミン(DIEA)30.0μL(0.167mmol、2.5eq.)をDMF2m
Lに溶かしアルゴン雰囲気下にて0℃で10分間撹拌した。続いてBoc−Phe−OH
(N−(tert−ブトキシカルボニル)−L−フェニルアラニン)44.4mg(0.
167 mmol、2.5eq.)とO−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−
N,N,N',N'−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(HATU)6
3.5mg(0.167mmol、2.5 eq.)を溶かしたDMF 0.5mLを加
え15時間撹拌した。反応溶媒を減圧除去し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィーで精
製して(n−ヘキサン/酢酸エチル=66/34)目的化合物(42mg、81%)を得
た。
【0071】
1H NMR (400 MHz, CD
3OD): δ 8.01 (s, 1H), 7.7
7 (d, 2H, J = 7.3 Hz), 7.61 (d, 2H, J = 7.3 Hz
), 7.41 (d, 2H, J = 7.3 Hz), 7.37 (s, 1H), 7.
34−7.29 (m, 5H), 7.23−7.21 (m ,5H), 7.06 (s
, 1H), 6.98−6.94 (m, 2H), 6.84−6.81 (m, 3H)
, 5.28 (s, 2H), 4.54 (d, 2H, J = 6.6 Hz), 4.5
1−4.48 (m, 1H), 4.26 (t, 1H, J = 6.6 Hz), 3.1
3−3.11(m, 2H), 1.40 (s, 9H). HRMS (ESI
+) Ca
lcd FOR [M+H]
+, 786.31792, Found, 786.31652
(−1.41 mmu).
【0072】
(c)gPhe−HMRGの合成
化合物2 42mg(0.053 mmol、1eq.)を20%トリフルオロ酢酸(
TFA)/ジクロルメタン溶液に溶解し、30分間室温で撹拌した。溶媒を減圧除去し、
得られた固体をジクロルメタン及び炭酸水素ナトリウムの飽和水溶液で抽出した。有機層
に硫酸ナトリウム加えてろ過した後に、溶媒を除去し固体を得た。得られた固体を5mL
のジクロルメタンに溶解し、グルタル酸無水物22.8mg(0.200mmol、3.
8eq.)とTEA 28.2μL(0.200mmol、3.8eq.)を加え、アル
ゴン雰囲気下に室温で15時間撹拌した。続いて溶媒を減圧除去し、20%ピペリジン/
DMF溶液を加え、30分間室温で攪拌した。溶媒を除去し、HPLCを用いて精製を行
い(eluent A (H
2O 0.1%TFA) and eluent B(CH
3CN 80%,H
2O 20%)(A/B=80/20to0/100 40min)
)目的化合物(13.7mg,45%) を得た。
【0073】
1H NMR (400 MHz, CD
3OD): δ 8.42 (s, 1H), 7.7
2−7.70 (m, 2H), 7.58 (1H, t, J = 6.8 Hz), 7.42−
7.18 (m, 9H), 7.03 (1H, d, J = 9.3 Hz), 6.95 (
s, 1H), 4.75 (t, 1H, J = 7.6 Hz), 4.34 (s, 2H
), 3.19−3.13 (m, 1H), 3.03−3.00 (m, 1H), 2.
29−2.21 (m, 4H), 1.85−1.78 (m, 2H).
13C NMR (100 MHz, CD
3OD): d 176.8, 175.5, 173
.4, 164.6, 161.7, 160.1, 156.9, 148.3, 141.
2, 137.9, 134.8, 131.7, 130.5, 130.3, 129.8
, 129.5, 129.0, 128.0, 121.5, 119.5, 119.4,
118.6, 107.1, 98.5, 63.1, 57.3, 38.9, 35.6
, 33.9, 22.1. HRMS (ESI
+) Calcd FOR [M+H]
+, 5
78.22911, Found, 578.22659 (−2.52 mmu).
【実施例2】
【0074】
以下のスキームに従って、本発明の蛍光プローブであるgGlu−HRMG(γ−グル
タミル ヒドロキシメチル ローダミングリーン)を合成した。
【化15】
【0075】
(a)化合物3(HMRG)の合成
ローダミン110 285mg(0.8mmol、1eq.)をメタノール 10mL
に溶かし硫酸を加えてアルゴン雰囲気下に80℃で10時間攪拌した。反応溶媒を減圧除
去し、残渣を飽和重曹水および水で洗浄した。得られた固体をテトラヒドロフラン(TH
F)10mLに溶解させ、アルゴン雰囲気下に0℃で5M ナトリウムメトキシド溶液(
メタノール中)400μL(0.8mmol、1eq.)を加えて10分間攪拌した。続
いてリチウムアルミニウムハイドライド 333mg(8mmol,10eq.)を加え
て3時間攪拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液を5mL加え、溶媒を減圧除去し、得ら
れた固体をジクロルメタン及び酒石酸4水和物カリウム・ナトリウム塩の飽和水溶液で抽
出した。有機層に硫酸ナトリウムを加えてろ過した後、溶媒を除去し、固体を得た。得ら
れた固体をジクロルメタンに溶解し、クロラニル 196mg(1mmol、1eq.)
を加えて30分間室温で攪拌した。溶媒を減圧下で除去し、残渣をシリカゲルクロマトグ
ラフィーで精製して(ジクロルメタン/メタノール=10:1)目的化合物(104 m
g,41%)を得た。
【0076】
1H NMR (300 MHz, CD
3OD): δ 7.64 (d, 1H, J = 7
.7 Hz), 7.56 (t, 1H, J = 7.6 Hz), 7.44 (t, 1H
, J = 7.5 Hz), 7.17 (d, 1H, J = 7.5 Hz), 7.03
− 7.00 (m, 2H), 6.71−6.74 (m, 4H), 4.23 (s, 2H
)
13C NMR (75 MHz, CD
3OD): δ 161.5, 159.9, 159
.6, 141.0, 133.4, 132.2, 131.3, 130.3, 129.
5, 128.8, 118.0, 115.0, 98.4, 62.8
HRMS (ESI
+) Calcd FOR [M+H]
+, 317.12900, Fou
nd, 317.12862 (−0.38 mmu)
【0077】
(b)gGlu−HMRGの合成
化合物3(0.05mmol 1eq.)、HATU(0.11mmol、2eq.)
、及びN,N−ジイソプロピルエチルアミン(0.11mmol、2eq.)をジメチル
ホルムアミド(DMF)2mLに溶解し、アルゴン雰囲気下に0℃で10分間攪拌した。
続いてBoc−Glu−OtBu(0.05mmol、1eq.)を溶解したDMF 0
.5mLを加え15時間攪拌した。反応溶媒を減圧除去した後に得られた固体をジクロル
メタン2mLとトリフルオロ酢酸(TFA)2mLに溶かし、30分間攪拌した。溶媒を
除去し、HPLCを用いて精製を行い(eluent A:H
2O 0.1%TFA及び
eluent B:CH
3CN 80%,H
2O 20% 0.1% TFA;A/B=
80/20 to 0/100 FOR 40 min.)、目的化合物を得た。
【0078】
1H NMR (400 MHz, CD
3OD): δ 8.39 (s, 1H), 7.6
2−7.61 (m, 2H), 7.50−7.47 (m, 1H), 7.39 (d, 1H
, J = 7.8 Hz), 7.24 −7.22 (m, 3H), 6.94 (d, 1
H, J = 8.3 Hz), 6.86 (s, 1H), 4.25 (s, 2H), 3.96
(t, 1H, J = 6.3 Hz), 2.71−2.69 (m, 2H), 2.30
−2.27 (m, 2H)
13C NMR (75 MHz,CD
3OD): δ173.4, 171.8, 164.
5, 163.1, 160.7, 157.1, 148.7, 141.2, 134.9
, 131.9, 131.7, 130.5, 129.8, 129.0, 121.4,
119.4, 118.5, 106.9, 98.5, 63.1, 53.5, 33.
4, 26.6
HRMS (ESI
+) Calcd FOR [M+H]
+, 446.17160, Fou
nd, 446.17195 (+0.36 mmu).
【実施例3】
【0079】
以下のスキームに従って、本発明の蛍光プローブであるBz−Tyr−HMRG(ベン
ゾイルチロシン ヒドロキシメチル ローダミングリーン)を合成した。
【化16】
【0080】
(a)化合物4(Bz−Tyr(Ac)−OH、N−ベンゾイル−O−アセチル−チロシ
ン)の合成
水酸化ナトリウム 263mg(6.56mmol)を水 1.75mLに溶解した。
この水酸化ナトリウム水溶液中にBz−Tyr−OH 500mg(1.75mmol)
を加えて溶解し、氷片を数個加えて0℃に冷却した。無水酢酸 620μL(6.56m
mol)を加え、0℃で20分間攪拌した。次いで、酢酸エチル 20mLと水 50m
Lを加え、3M塩酸でpH2とした。有機層を分液し、再度酢酸エチル 20mLを加え
て分液後、有機層を合わせて硫酸ナトリウムで乾燥した。酢酸エチルを減圧除去し、酢酸
エチルとヘキサンを用いて再結晶して化合物4(379mg、66%)を得た。
1H NMR (400MHz,CDCl
3): δ 7.68(m,2H),δ 7.
51(m,1H),δ 7.41(m,2H),δ 7.20(d,J=8.3,2H)
,7.02(d,J=8.3,2H),δ 6.66(d,J=7.3,1H),δ 5
.08(m,1H),δ 3.35(dd,J=14.2,5.5、1H)δ 3.27
(dd,J=14.2,5.5、1H),δ 2.30(s,3H)
13C NMR(100MHz,CDCl
3): δ 174.1,169.9,16
7.8,149.9,133.5,133.4,132.2,130.6,128.8.
127.2,121.8,53.6,36.7,21.2
【0081】
(b)化合物5(Bz−Tyr−HMRG)の合成
化合物4 15.1mg(0.046mmol、5eq.)とHATU 17.5mg(
0.046mmol,5eq.)をDMF 1mLに溶かし窒素雰囲気下に0℃に冷却し
た。続いて、N,N−ジイソプロピルエチルアミン 9.9μL(0.055mmol、
6eq.)を加え、3分間攪拌した。これを、化合物1 5mg(0.009mmol)
をDMF 1mLに溶解して、窒素雰囲気下に0℃に冷却した溶液中に加え、ゆっくりと
室温に戻して24時間攪拌した。反応溶媒を減圧除去し、残渣に20mLのジクロロメタ
ンを加え、1M塩酸 20mLで洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、ジクロロ
メタンを減圧除去し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィーで精製した(ヘキサン/酢酸
エチル=7/3→5/5)。目的化合物を含む分画を減圧下濃縮し、残渣をTHF 2m
Lに溶解後、ジエチルアミン96μL(0.92mmol)を加えて室温で24時間攪拌
した。反応溶媒を減圧除去し、残渣を2mLのメタノールに溶解して0.1M水酸化ナト
リウム水溶液100μLを加え、室温で1時間攪拌した。1M塩酸 100μLを加えた
後、反応溶媒を減圧除去し、残渣をHPLCで精製して(eluent A:H
2O 0
.1%TFA及びeluent B:アセトニトリル 0.1%TFA;A/B=80/
20 to 0/100 FOR 30min.)、化合物5を得た。
HRMS(ESI
+) Calcd FOR [M+H]
+,584.21800, F
ound,584.21887(0.87mmu).
【実施例4】
【0082】
以下のスキームに従って、本発明の蛍光プローブであるGlt−Ala−Ala−Ph
e−HMRG(Glt−AAF−HMRG;グルタリル−アラニン−アラニン−フェニル
アラニン ヒドロキシメチル ローダミングリーン)及びSuc−Ala−Ala−Pr
o−Phe−HMRG(Suc−AAPF−HMRG;スクシニル−アラニン−アラニン
−プロリン−フェニルアラニン ヒドロキシメチル ローダミングリーン)を合成した。
【化17】
【化18】
【0083】
(a)N−Boc保護ペプチドBoc−AAF−OH(化合物6)及びBoc−AAPF
−OH(化合物9)の合成
N−Boc保護ペプチドである化合物6及び9はProtein Technolog
ies社製のPrelude自動固相合成装置を使って、H−Phe−Trt(2−Cl
)−Resin(0.94mmol/g、100−200mesh、1%DVB(ジビニ
ルベンゼン))を用いて以下に示す通常のFmoc固相合成法で合成した。
(1)ペプチドカップリングサイクル:Fmocアミノ酸(レジンの4当量)とO−(ベ
ンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’,−テトラメチルウロニウムヘキサ
フルオロりん酸塩(HBTU:レジンの4当量)をDMFに溶解させ、ジイソプロピルエ
チルアミン(DIPEA:レジンの8当量)を加えて攪拌した。この溶液を、N末脱保護
ペプチドをカップリングさせたレジンに加えて2.5分攪拌した。
(2)Fmoc脱保護サイクル:Fmoc保護基の脱保護は、20%(v/v)ピペリジ
ン/DMF溶液をレジンに加え、12分攪拌することで行った。
(3)レジンからの切り出し: 酢酸10%、2,2,2−トリフルオロエタノール20
%、ジクロロメタン70%の溶液をレジンに加え、1時間攪拌してペプチドをレジンから
切り出した。レジンを濾過で除き、ろ液を減圧除去し、残渣に過剰量の冷却ジイソプロピ
ルエーテルを加えて生じた沈殿をろ取し、N−Boc保護ペプチドの化合物6及び9を得
た。
N−Boc保護ペプチド(化合物6) Boc−AAF−OH
ESI-MS : m/z 407[M]
+
N−Boc保護ペプチド(化合物9) Boc−AAPF−OH
ESI-MS : m/z 504[M]
+
【0084】
(b)化合物7の合成
N−Boc保護ペプチドの化合物6 30.0mg(0.074mmol、4eq.)
とHATU 35.0mg(0.092mmol,5eq.)をDMF 1mLに溶かし
窒素雰囲気下に0℃に冷却した。続いて、N,N−ジイソプロピルエチルアミン 19.
7μL(0.11mmol、6eq.)を加え、3分間攪拌した。これを、化合物1 1
0mg(0.018mmol)をDMF 1mLに溶解して、窒素雰囲気下に0℃に冷却
した溶液中に加え、 ゆっくりと室温に戻して24時間攪拌した。反応溶媒を減圧除去し
、残渣をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し(ヘキサン/酢酸エチル=5/5)、化
合物7を得た。
ESI-MS : m/z 928[M]
+
【0085】
(c)化合物8(Glt−Ala−Ala−Phe−HMRG(Glt−AAF−HMR
G;グルタリル−アラニン−アラニン−フェニルアラニン ヒドロキシメチル ローダミ
ングリーン))の合成
(b)で得られた化合物7を20%TFA/ジクロロメタン溶液に溶解し、室温で30
分間攪拌した。次いで、反応溶媒を減圧除去し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液10mL
とジクロロメタン10mLを加えて分液し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。有機溶
媒を減圧除去し、ジクロロメタン 5mL、無水グルタル酸 9.7mg(0.085m
mol、4.7eq.)及びトリエチルアミン 11.8μL(0.085mmol、4
.7eq.)を加え室温で20時間攪拌した。次いで、反応溶媒を減圧除去し、20%ピ
ペリジン/DMF溶液1mLを加え室温で1時間攪拌した。反応溶媒を減圧除去し、残渣
をHPLCで精製して(eluent A:H
2O 0.1%TFA及びeluent
B:アセトニトリル 0.1%TFA;A/B=80/20 to 0/100 FOR
30min.)、化合物8のGlt−AAF−HMRGを得た(3.0mg、23%(
2工程))。
HRMS(ESI
+) Calcd FOR [M+Na]
+,742.28473,
Found,742.28268(−2.05mmu).
【0086】
(d)化合物10の合成
N−Boc保護ペプチドの化合物9 37.3mg(0.074mmol、4eq.)
とHATU 35.0mg(0.092mmol,5eq.)をDMF 1mLに溶かし
窒素雰囲気下に0℃に冷却した。続いて、N,N−ジイソプロピルエチルアミン 19.
7μL(0.11mmol、6eq.)を加え、3分間攪拌した。これを、化合物1 1
0mg(0.018mmol)をDMF 1mLに溶解して、窒素雰囲気下に0℃に冷却
した溶液中に加え、 ゆっくりと室温に戻して24時間攪拌した。反応溶媒を減圧除去し
、残渣をシリカゲルクロマトグラフィーで精製して(ヘキサン/酢酸エチル=7/3 t
o 3/7)、化合物10を得た。
ESI-MS : m/z 1025[M]
+
【0087】
(e)化合物11(Suc−Ala−Ala−Pro−Phe−HMRG(Suc−AA
PF−HMRG;スクシニル−アラニン−アラニン−プロリン−フェニルアラニン ヒド
ロキシメチル ローダミングリーン))の合成
(d)で得られた化合物10を20%TFA/ジクロロメタン溶液に溶解し、室温で3
0分間攪拌した。次いで、反応溶媒を減圧除去し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液10m
Lとジクロロメタン10mLを加えて分液し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。有機
溶媒を減圧除去し、ジクロロメタン 5mL、無水コハク酸 7.8mg(0.078m
mol、4eq.)及びトリエチルアミン 10.9μL(0.078mmol、4eq
.)を加え室温で20時間攪拌した。次いで、反応溶媒を減圧除去し、20%ピペリジン
/DMF溶液1mLを加え室温で1時間攪拌した。反応溶媒を減圧除去し、残渣をHPL
Cで精製して(eluent A:H
2O 0.1%TFA及びeluent B:アセ
トニトリル 0.1%TFA;A/B=80/20 to 0/100 FOR 30m
in.)、化合物8のSuc−AAPF−HMRGを得た(4.1mg、28%(2工程
))。
HRMS(ESI
+) Calcd FOR [M+Na]
+,825.32185,
Found,825.32122(−0.63mmu).
【実施例5】
【0088】
キモトリプシンを用いた蛍光アッセイ
実施例1で合成した、N−置換フェニルアラニンに基づくアミノ酸残基を有するgPh
e−HMRG化合物を中性リン酸バッファーに溶解して、キモトリプシンを作用させ、そ
の蛍光アッセイを行った。gPhe−HMRGの2.4mM ジメチルスルホキシド(D
MSO)溶液 3μLを3mLの0.1M リン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)
に最終濃度2.4μMとなるように溶解し、キモトリプシン(ウシ膵臓由来のa−キモト
リプシン:SIGMA C4129−250MG)4.6 Uを加えて37℃で酵素反応
を行った。励起波長は501nmとした。得られた結果を
図1及び2に示す。
【0089】
蛍光アッセイの結果、キモトリプシンの添加によって、吸収及び蛍光強度の顕著な増加
が認められた(
図1)。その応答速度についても、蛍光のピーク波長である524nmに
ついて、キモトリプシン添加直後から蛍光強度の急激な増大が観測され、ほぼ600秒後
には飽和に至ることが認められた(
図2)。これらの結果は、キモトリプシンとgPhe
−HMRGとの酵素反応により、gPhe−HMRGのアミド結合が加水分解されて開環
体を生じること、すなわち、gPhe−HMRGがキモトリプシンに対するon/off
蛍光プローブとして機能することを示すものである。また、
図1の吸収スペクトル変化に
おいて、500nm付近の吸光度の大きな変化が見られたことから、当該波長領域におけ
る吸光度の変化を観測することによっても、キモトリプシンとgPhe−HMRGの反応
を認識できることが分かる。
【実施例6】
【0090】
ヒト膵液を用いたin vitro蛍光アッセイ(gPhe−HMRG、gGlu−HM
RG)
実施例1で合成したgPhe−HMRG、及び実施例2で合成したグルタミン酸残基を
有するgGlu−HMRGを蛍光プローブとして用いて膵臓がんあるいは胆管がん患者か
ら得られた膵液の酵素活性を評価した。蛍光プローブのDMSO溶液(1mM)のうち1
μLを180μLの0.1M リン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)に最終濃度0
.9μMとなるように溶解し、膵液20μLを加え、37℃で30分間、酵素反応を行っ
た。gPhe−HMRGの場合には、57 BAEE unitsのトリプシン(ウシ膵
臓由来のトリプシン:SIGMA T1426−100MG)を添加したプローブ溶液を
用いて同様の酵素反応を行った。また、比較のための阻害剤処理に関しては、gGlu−
HMRGの場合、γ−グルタミルトランスフェラーゼ阻害剤(GGs−Top:和光純薬
075−05471)の水溶液(10mM)のうち1μL、gPhe−HMRGの場合、
キモトリプシン阻害剤(キモスタチン:SIGMA C7268)のDMSO溶液(10
mM)のうち1μLをプローブ溶液にそれぞれ加えた。蛍光測定装置の励起波長は478
−492nm、蛍光波長は523−548nmを用いた。gGlu−HMRG及びgPh
e−HMRGについて得られた結果をそれぞれ
図3及び4に示す。
【0091】
gGluーHMRGによるアッセイの結果、いずれの膵液サンプル(No.1〜No.
5)においても、蛍光強度の増加が観測された。また、γ−グルタミルトランスフェラー
ゼ特異的阻害剤を添加した場合には蛍光強度が有意に減少したことから、gGluーHM
RGは膵液中のγ−グルタミルトランスフェラーゼ活性を特異的に検出できることが確認
された。
【0092】
gPhe−HMRGによるアッセイの場合、キモトリプシン阻害剤の有無による影響に
加えて、ターゲットのキモトリプシンは前駆体(キモトリプシノーゲン)として膵液中に
存在していることから、当該前記体を活性化するトリプシンの添加の有無による影響につ
いても併せて測定を行った(
図4)。その結果、溶液中にトリプシンを含む場合には、い
ずれの膵液サンプル(No.1〜No.5)においても蛍光強度の顕著な増大が認められ
た。すなわち、gPhe−HMRGは、前駆体であるキモトリプシノーゲンには蛍光応答
をほとんど示さないが、トリプシンによる活性後のキモトリプシンに対して優れた蛍光応
答を示した。また、キモトリプシンの阻害剤であるキモスタチンを添加した場合には、蛍
光強度が有意に減少した。これらの結果から、gPhe−HMRGは膵液中のキモトリプ
シン活性を特異的に検出できることが確認された。
【0093】
さらに、膵臓の切除手術を受けた患者から採取したドレーンサンプルを用いて、膵液以
外の体液に対する蛍光プローブの応答挙動の比較を行った。18人の患者から採取した、
膵液、腹水、及び腸液の計76サンプルについて、gGlu−HMRG、gPhe−HM
RG、及び、トリプシン添加gPhe−HMRG(gPhe−HMRG−Try)の蛍光
強度変化を測定した。
【0094】
96ウェルのマイクロプレートリーダー(SH−8000、日立)の各ウェルに、18
0μLのプローブ溶液(1.1μM)を入れ、次いで20μLの採取サンプルを添加混合
し、37℃でインキュベーションしてそれぞれ5分後、15分後、30分後の蛍光応答を
測定した。gPhe−HMRG−Tryには、トリプシンを最終濃度が0.525μBT
EE/μLとなるよう添加した。蛍光測定装置の励起波長は490nm、蛍光波長は52
0nmを用いた。得られた蛍光応答の結果を各サンプルの平均値として
図5に示す。
【0095】
図5より、トリプシン添加しないgPhe−HMRG単独の場合はいずれの体液に対し
ても有意な蛍光応答は観測されなかったが、トリプシンを添加したgPhe−HMRG−
Tryでは、膵液に対してのみ大きな蛍光強度の増加が見られた。これは、膵液中におい
て、gPhe−HMRGが、トリプシン添加によって活性化されたキモトリプシンと特異
的に反応することを示すものである。一方、gGlu−HMRGでは、膵液に対して蛍光
強度の増加が見られたものの、腹水及び腸液に対しても蛍光強度の増加が観測され、特に
、腸液に対しては膵液の場合よりも大きな蛍光強度の増加が観測された。これは、腸液中
に含まれるγ−グルタミルトランスフェラーゼに応答したものと考えられる。これらの結
果から、他の体液と膵液を区別して特定するためにキモトリプシン活性を指標とすること
が非常に有効であり、かつ、gPhe−HMRGとトリプシンを併用することで膵液を選
択的に検出できることが実証された。
【0096】
なお、上述のように、gPhe−HMRG(トリプシン添加)のほうが、gGlu−H
MRGに比べて優れた蛍光応答を示したが、蛍光プローブ分子単独で(すなわち、トリプ
シン添加を要せず)膵液を検出できるという点で、腸液等が存在しない環境の場合にはg
Glu−HMRGが非常に有益であると考えられる。
【実施例7】
【0097】
in vitro蛍光アッセイ(化合物5、8、及び11)
上記実施例6と同様に、実施例3で合成したBz−Tyr−HMRG(化合物5)、及
び実施例4で合成したGlt−AAF−HMRG(化合物8)とSuc−AAPF−HM
RG(化合物11)を蛍光プローブとして用いて、キモトリプシンとの反応性を評価した
。測定条件は、以下のとおりである。
<測定条件>
基質終濃度:1μM(pH3での吸光度からストック濃度を算出、調整)
緩衝液:PBS、pH7.4
阻害剤(キモスタチン):10μM
キモトリプシン:2U
インキュベーション時間:10分、20分、30分(
図6は、30分後の蛍光強度値)
測定装置:コロナプレートリーダー(SH8000)
励起蛍光波長:501nm、524nm
【0098】
得られた蛍光応答の結果をそれぞれ複数サンプルの平均値として
図6に示す。その結果
、全ての蛍光プローブにおいて蛍光強度の増加が観測された。また、キモトリプシン阻害
剤(キモスタチン)を添加した場合には蛍光強度が有意に減少したことから、これらの蛍
光プローブはいずれも膵液中のキモトリプシン活性を特異的に検出できることが実証され
た。
【実施例8】
【0099】
ヒト膵液の蛍光イメージング
蛍光プローブとしてgPhe−HMRG及びgGlu−HMRGを用いて、膵離断面の
膵液の蛍光イメージングを行った。測定対象である膵液を保持される材料として、手術中
で使用する場合等を想定し、医療現場で使用されている拭きタオルおよび実験用のろ紙(
紙自体のバックグラウンド蛍光が低いもの)を用いた。具体的な手順は、外科手術で摘出
した直後の膵臓片を採取し、その離断面に拭きタオルおよびろ紙を接着させて膵液を付着
させた。その後、接着させた紙にgPhe−HMRG(トリプシンを含む)及びgGlu−
HMRGのプローブ溶液を噴霧してイメージングを開始した。プローブ溶液は、プローブ
のDMSO溶液(10mM)の10μLを2mLのRPMI1640培地(GINBO
11835)に最終濃度50μMとなるよう溶解させ、gPhe−HMRGにはトリプシ
ン(52.6 BTEE units)を加えた溶液を用いた。励起フィルターは435
−480nm、蛍光フィルターは490nmのロングパスフィルターを用いた。得られた
イメージ画像を
図7及び
図8に示す。
【0100】
図7a及び
図8aは、膵液の付着箇所を白色光画像で示したものである。
図7b及び図
8bの左側は、500−720nmにおけるカラーイメージであり、右側は540nmに
おける蛍光イメージを示す。その結果、gPhe−HMRG及びgGlu−HMRGのい
ずれにおいても、プローブを噴霧してから数分で膵液付着部分の可視化に成功した。特に
、gPhe−HMRGでは、噴霧から1分後には、肉眼で判別可能な明確な蛍光応答が認
められた。加えて、gPhe−HMRGでは、膵液以外の体液付着部分(
図7a中の青色
実線枠内)については、蛍光応答が観測されなかったことから、蛍光応答を確認すること
によって、膵液の存在を選択的に検出及びイメージング可能であることが実証された。