(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
血管は、血管内皮細胞と血管壁細胞(血管平滑筋細胞やペリサイト)とが、細胞外マトリックスを介して間接的に、又は直接的に接着する構造を有しており、酸素及び栄養素を生体組織に供給し、生体組織から老廃物を除去する機能を有している。
【0003】
一般に、血管の形成は、新たに血管が形成される血管発生(vasculogenesis)と、形成された既存の血管が伸長し、分岐することにより、新たな血管のネットワークが形成される血管新生(angiogenesis)との2段階に分けられる。前者は、血管内皮増殖因子(VEGF)が作用し、脈管形成とよばれる血管の初期発生からその後の血管新生に至るまで非常に広い範囲の血管形成に関与するものであり、後者は、アンジオポエチン(Ang)が作用し、血管内皮細胞と血管壁細胞との接着の制御、血管の構造的安定化に関与するものである。
【0004】
血管は通常の酸素状況においては、血管内皮細胞とその周囲を裏打ちする血管壁細胞とが強固に接着しており、血管構造が安定に保たれているが、組織で低酸素が生じると血管壁細胞が血管内皮細胞から脱離し、無秩序な血管が増生することがある。このような現象(血管新生)は、腫瘍、慢性関節リウマチ、糖尿病網膜症、高脂血症、高血圧などの血管病変を主体とした疾患において、しばしば観察されている。
【0005】
これらの血管新生は、血管内皮細胞に発現する受容体型チロシンキナーゼTie2(Tyrosine kinase with Ig and EGF homology domain2)を活性化させることにより、抑制されることが知られている(特許文献1参照)。血管狭小化あるいは血管拡大化の抑制が原因となって生じる虚血性疾患においては、Tie2の活性化により、血管腔が拡大化されることが報告されている(非特許文献1参照)。また、Tie2の活性化により、血管内皮細胞の細胞死を抑制することも報告されている(非特許文献2参照)。
【0006】
このように、Tie2の活性化により、血管新生が抑制されることが知られているだけでなく、血管を成熟化、正常化、及び安定化させることも知られている。
例えば、血管再生医療においては、Tie2の活性化により、血管における血管内皮細胞と血管壁細胞との接着を誘導して、血管を成熟化させることが知られている。
例えば、腫瘍や糖尿病性網膜症などで観察される血管壁細胞が血管内皮細胞に接着しないことによる無秩序な血管が増生するような疾患においては、Tie2の活性化により、血管壁細胞を内皮細胞に接着させ、血管を正常化させることが知られている。
【0007】
また、例えば、種々の細胞内外の血管構造を破たんさせる環境因子に対しては、Tie2の活性化により、血管の不安定化を抑制し、血管を安定化させることが知られている。
このようなTie2の活性化により血管新生を抑制する天然物としては、桂皮の抽出物などが提案されている(特許文献1参照)。しかし、この提案の桂皮の抽出物のTie2活性では不十分である。また、血管新生を抑制する物質としては、例えば、スラミン(ポリスルホン化ナフチルウレア化合物)が知られている(特許文献2参照)。しかし、このスラミンは、合成品であり、安全性に劣るという問題がある。
【0008】
したがって、優れたTie2活性化作用、血管新生抑制作用、血管の成熟化作用、血管の正常化作用、及び血管の安定化作用を有する安全性の高い物質について、速やかな開発が強く求められているのが現状である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(Tie2活性化剤、血管新生抑制剤、血管の成熟化剤、血管の正常化剤、及び血管の安定化剤)
本発明のTie2活性化剤、血管の成熟化剤、血管の正常化剤、血管の安定化剤、及び血管新生抑制剤は、ケイカの抽出物、アクテオシド、ボダイジュの抽出物及びマロニエの抽出物から選択される少なくとも1種を有効成分として含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0016】
前記Tie2活性化剤は、Tie2をリン酸化することで、その活性体(リン酸化Tie2)に変換するTie2活性化作用を有する。即ち、Tie2活性化剤はTie2のホモ2量体の形成を促すことで、Tie2の細胞内チロシンキナーゼ活性により、Tie2の自己リン酸化が惹起される。Tie2の自己リン酸化により、アダプタータンパク質であるGRB2や、GRB2結合性グアニンヌクレオチド交換因子であるSOSを細胞膜付近にリクルートすることなどを介し、細胞内シグナル伝達系が活性化し、最終的に血管内皮細胞と血管壁細胞との接着が誘導される。血管狭小化あるいは血管拡大化の抑制が原因となって生じる虚血性疾患においては、Tie2の活性化により、血管腔が拡大化される。また、Tie2の活性化により、血管内皮細胞の細胞死が抑制される。
【0017】
前記血管新生抑制剤は、既存の血管から形成される新たな血管のネットワークを抑制する血管新生抑制作用を有する。低酸素状態では、Tie2の活性化が一時的に抑制され、血管内皮細胞と血管壁細胞との接着が乖離し、接着が乖離された血管内皮細胞から新しい血管のネットワークが形成される。血管新生抑制剤は、このような血管壁細胞が内皮細胞に接着しないことによる無秩序な血管の増生を抑制することができる。
【0018】
前記血管の成熟化剤は、血管内皮細胞と血管壁細胞との接着を誘導して、血管内環境因子(細胞及び液性因子)が容易には血管外に漏出しないような血管内皮細胞間の接着斑を形成する成熟化作用を有する。また、血管再生医療においては、Tie2の活性化により、血管における血管内皮細胞と血管壁細胞との接着を誘導して、血管を成熟化させることが可能である。
【0019】
前記血管の正常化剤は、血管内皮細胞同士の接着を高め、血管壁細胞の血管内皮細胞への裏打ちを促進することにより、血管透過性の破綻した血管や血管の無秩序な増生を招くような異常な血管を、正常な状態にする正常化作用を有する。また、腫瘍や糖尿病性網膜症などで観察される血管壁細胞が血管内皮細胞に接着しないことによる無秩序な血管が増生するような疾患においては、Tie2の活性化により、血管壁細胞を内皮細胞に接着させ、血管を正常化させることが可能である。
【0020】
前記血管の安定化剤は、既存の血管に対する障害、血管内皮細胞同士の解離、及び血管内皮細胞と血管壁細胞の解離を抑制する作用、及び血管内皮細胞の細胞死を抑制する安定化作用を有する。また、種々の細胞内外の血管構造を破たんさせる環境因子に対しては、Tie2の活性化により、血管の不安定化を抑制し、血管を安定化させることが可能である。
【0021】
<ケイカの抽出物>
前記ケイカ(桂花)は、モクセイ科モクセイ属に属する常緑小高木であり、学名は、
Osmanthus fragrans var. aurantiacusであり、日本名:キンモクセイと呼ばれ、中国南部が原産地であり、このような地域から容易に入手することができる。
前記ケイカの抽出部位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、葉部、枝部、樹皮部、幹部、茎部、果実部、花部等の地上部、根部又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、花部が好ましい。
ここで、「花」とは、一般に、種子植物の有性生殖にかかわる器官の総体をいい、葉の変形である花葉と茎の変形である花軸とから構成され、花葉には、萼、花弁、雄しべ、心皮等の器官が含まれる。本発明において抽出原料として使用する「花部」には、種子植物の有性生殖にかかわる器官の総体の他、その一部、例えば、花葉、花被(萼と花冠)、花冠、花弁等も含まれる。
前記ケイカの抽出部位の調製方法としては、そのまま又は粗砕機を用い粉砕して溶媒抽出に供することにより得ることができる。
【0022】
<アクテオシド>
前記アクテオシド(Acteoside)は、下記構造式(I)で表される化学構造を有するポリフェノール化合物である。
【化1】
【0023】
前記アクテオシドは、アクテオシドを含有する植物抽出物から単離・精製することにより製造することができる。このようなアクテオシドを含有する植物抽出物は、植物の抽出に一般に用いられている方法によって得ることができる。アクテオシドを含有する植物としては、例えば、ケイカ(桂花)などが挙げられる。前記ケイカについては、上述したとおりである。
【0024】
<ボダイジュの抽出物>
前記ボダイジュは、シナノキ科の落葉樹であり、学名は、
Tilia cordataであり、別名シナノキとも呼ばれる。前記ボダイジュは、ヨーロッパに広く分布しており、これらの地域から容易に入手することができる。
【0025】
前記ボダイジュの抽出部位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、葉部、枝部、茎部、花部、蕾部、果実部、果皮部等の地上部又はこれらの混合物が挙げられるが、これらの中でも、花部が好ましい。
前記ボダイジュの抽出部位の調製方法としては、そのまま又は粗砕機を用い粉砕して溶媒抽出に供することにより得ることができる。
【0026】
<マロニエの抽出物>
前記マロニエは、トチノキ科トチノキ属の落葉広葉樹であり、学名は、
Aesculus hippocastanumであり、「セイヨウトチノキ」とも言われる。前記マロニエは、世界各地で栽培されており、これらの地域から容易に入手可能である。
【0027】
前記マロニエの抽出部位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、葉部、枝部、幹部、樹皮部、花部、種子部、根部などが挙げられるが、これらの中でも、種子部が好ましい。
前記マロニエの抽出部位の調製方法としては、そのまま又は粗砕機を用い粉砕して溶媒抽出に供することにより得ることができる。
【0028】
<抽出方法>
前記ケイカの抽出物、前記ボダイジュの抽出物、及び前記マロニエの抽出物は、植物の抽出に一般に用いられる方法を利用することによって、容易に得ることができる。また、前記ケイカの抽出物、前記ボダイジュの抽出物、及び前記マロニエの抽出物としては、市販品を使用してもよい。なお、前記ケイカの抽出物、前記ボダイジュの抽出物、及び前記マロニエの抽出物には、前記ケイカ、前記ボダイジュ、及び前記マロニエの抽出液、該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、該抽出液の乾燥物、又は、これらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0029】
前記ケイカの抽出物、前記ボダイジュの抽出物、及び前記マロニエの抽出物の抽出溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、親水性溶媒、又はこれらの混合溶媒が挙げられる。
前記水としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水などが挙げられる。
【0030】
前記親水性溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコールなどが挙げられる。
前記水と前記親水性溶媒との混合溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、低級アルコールを使用する場合は、水10質量部に対して1質量部〜90質量部、低級脂肪族ケトンを使用する場合は、水10質量部に対して1質量部〜40質量部、多価アルコールを使用する場合は、水10質量部に対して1質量部〜90質量部、添加することが好ましい。なお、前記抽出溶媒は、室温乃至溶媒の沸点以下の温度で用いることが好ましい。
これらの中でも、前記としては、水、含水エタノールが好ましい。
【0031】
前記ケイカの抽出物、前記ボダイジュの抽出物、及び前記マロニエの抽出物の抽出方法としては、前記ケイカ、前記ボダイジュ、及び前記マロニエの抽出原料に含まれる脂溶性成分を前記溶媒に溶出させることが可能であれば、特に限定されるものではなく、常法に従って行うことができる。また、抽出処理の際には、特殊な抽出方法を採用する必要はなく、室温乃至還流加熱下において任意の装置を使用することができる。
具体的には、前記ケイカの抽出物、前記ボダイジュの抽出物、及び前記マロニエの抽出物の抽出方法としては、例えば、エタノール水溶液などの前記溶媒を満たした処理槽に、前記ケイカ、前記ボダイジュ、及び前記マロニエの抽出原料を投入し、必要に応じて適宜攪拌しながら、還流抽出器で80℃にて2時間加熱抽出し、熱時濾過して脂溶性成分を溶出した後、エバポレーターを用いて減圧下で濃縮し、更に同様の濾過処理を行う方法が挙げられる。
この際、抽出条件は、前記抽出原料などに応じて適宜調整し得るが、前記抽出溶媒量は、前記抽出原料に対して5倍量〜20倍量(質量比)が好ましく、抽出時間は1時間〜3時間が好ましく、抽出温度は20℃〜95℃が好ましい。
【0032】
なお、得られた前記ケイカの抽出物、前記ボダイジュの抽出物、及び前記マロニエの抽出物は、前記ケイカの抽出物、前記ボダイジュの抽出物、及び前記マロニエの抽出物の希釈物、濃縮物、乾燥物、粗精製物、精製物などを得るために、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製などの処理を施してもよい。
また、得られた前記ケイカの抽出物、前記ボダイジュの抽出物、及び前記マロニエの抽出物は、そのままでも前記Tie2活性化剤、前記血管新生抑制剤、前記血管の成熟化剤、前記血管の正常化剤、及び前記血管の安定化剤のいずれかとして使用することができるが、利用しやすい点で、前記濃縮液、前記乾燥物が好ましい。前記乾燥物を得るに当たって、吸湿性を改善するためにデキストリン、シクロデキストリンなどのキャリアーを加えてもよい。
【0033】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定化剤、矯味剤、矯臭剤、などが挙げられる。
【0034】
前記賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸、などが挙げられる。前記結合剤としては、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン、などが挙げられる。前記崩壊剤としては、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖、などが挙げられる。前記滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコール、などが挙げられる。前記安定化剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸、などが挙げられる。また、前記矯味剤乃至矯臭剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸、などが挙げられる。
【0035】
<アクテオシドの製造方法>
前記アクテオシドは、アクテオシドを含有する植物抽出物(例えば、ケイカ(桂花)の抽出物)から単離・精製することにより製造することができる。このようなアクテオシドを含有する植物抽出物は、上述したとおりである。
得られた抽出液、当該抽出液の濃縮物又は当該抽出液の乾燥物からアクテオシドを単離・精製する方法は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、植物抽出物を、シリカゲルやアルミナ等の多孔質物質、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体やポリメタクリレート等の多孔性樹脂等を用いたカラムクロマトグラフィーに付して、水、アルコールの順で溶出させることで、アルコールで溶出される画分としてアクテオシドを得ることができる。
カラムクロマトグラフィーにて溶出液として用いられるアルコールは、特に限定されるものではなく、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール又はそれらの水溶液等が挙げられる。さらに、カラムクロマトグラフィーにより得られたアルコール画分を、ODSを用いた逆相シリカゲルクロマトグラフィー、再結晶、液−液向流抽出、イオン交換樹脂を用いたカラムクロマトグラフィー等の任意の有機化合物精製手段を用いて精製してもよい。
【0036】
以上のようにして得られる前記ケイカの抽出物、前記アクテオシド、前記ボダイジュの抽出物、及び前記マロニエの抽出物は、Tie2活性化作用、血管新生抑制作用、血管の成熟化作用、血管の正常化作用、及び血管の安定化作用の少なくともいずれかを有し、これらの作用に基づき、本発明のTie2活性化剤、血管新生抑制剤、血管の成熟化剤、血管の正常化剤、及び血管の安定化剤の少なくともいずれかの有効成分として好適に利用可能なものである。
【0037】
本発明のTie2活性化剤、血管新生抑制剤、血管の成熟化剤、血管の正常化剤、及び血管の安定化剤は、優れたTie2活性化作用、血管新生抑制作用、血管の成熟化作用、血管の正常化作用、及び血管の安定化作用を有するため、腫瘍、慢性関節リウマチ、糖尿病網膜症、高脂血症、高血圧などの血管病変を主体とした疾患、アトピー性皮膚炎、及び花粉症などのアレルギー性疾患に関する医薬品、並びにこれらの疾患に関する安全な予防薬として好適に用いることができ、その配合量、用法、及び剤型としては、その使用目的に応じて適宜選択することができる。
また、本発明のTie2活性化剤、血管の成熟化剤、血管の正常化剤、血管の安定化剤、及び血管新生抑制剤は、消化管で消化されるようなものではないことが確認されているので、美容用飲食品、健康用飲食品などの飲食品として好適に用いることができ、その配合量、用法、及び剤型としては、その使用目的に応じて適宜選択することができる。
【0038】
前記配合量としては、前記ケイカの抽出物、前記アクテオシド、前記ボダイジュの抽出物、及び前記マロニエの抽出物の生理活性等によって適宜調整することができるが、前記ケイカの抽出物、前記ボダイジュの抽出物、及び前記マロニエの抽出物の精製物、並びに前記アクテオシドに換算して、0.0001質量%〜20質量%が好ましく、0.0001質量%〜10質量%がより好ましい。
【0039】
前記用法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、経口、非経口、外用などの用法が挙げられる。
【0040】
前記剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、錠剤、粉剤、カプセル剤、顆粒剤、エキス剤、及びシロップ剤等の経口投与剤、注射剤、点滴剤、及び坐剤等の非経口投与剤、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、浴用剤、頭髪化粧料等の外用剤などが挙げられる。
【0041】
(医薬品組成物)
本発明の医薬品組成物は、上述した本発明のTie2活性化剤、血管新生抑制剤、血管の成熟化剤、血管の正常化剤、及び血管の安定化剤の少なくともいずれかを含有し、更に必要に応じて医薬品に通常使用される添加剤を含有してもよい。
【0042】
本発明の医薬品組成物は、優れたTie2活性化作用、血管新生抑制作用、血管の成熟化作用、血管の正常化作用、及び血管の安定化作用の少なくともいずれかの作用を有するため、腫瘍、慢性関節リウマチ、糖尿病網膜症、高脂血症、高血圧等の血管病変を主体とした疾患、アトピー性皮膚炎、及び花粉症などのアレルギー性疾患に関する医薬品、並びにこれらの疾患に関する安全な予防薬として好適に用いることができる。
また、本発明の医薬品組成物は、消化管で消化されるようなものでないことが確認されているため、美容用飲食品、健康用飲食品等の飲食品として、幅広く用いることができる。
【0043】
本発明の医薬品組成物における前記Tie2活性化剤、血管新生抑制剤、血管の成熟化剤、血管の正常化剤、及び血管の安定化剤の少なくともいずれかの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記Tie2活性化剤、血管新生抑制剤、血管の成熟化剤、血管の正常化剤、及び血管の安定化剤の少なくともいずれかそのものを本発明の医薬品組成物として用いてもよいが、医薬品組成物1mLあたり、0.01μg以上が好ましく、0.1μg以上1,000μg以下がより好ましく、1μg以上500μg以下が更に好ましく、3μg以上400μg以下が特に好ましい。
【0044】
本発明の医薬品組成物の投与形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、経口、非経口、外用などが挙げられる。
【0045】
本発明の医薬品組成物の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、錠剤、粉剤、カプセル剤、顆粒剤、エキス剤、シロップ剤等の経口投与剤;注射剤、点滴剤、坐剤等の非経口投与剤;軟膏等の外用剤などが挙げられる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0047】
(製造例1)
−アクテオシドの製造−
桂花エキスパウダー(丸善製薬株式会社製)8.9gをクロロホルム/メタノール/水=10:5:1の混合溶液に溶解し、シリカゲル(商品名:シリカゲル60,メルク社製)を充填したガラス製のカラム上部より流入して、シリカゲルに吸着させた。ガラス製のカラムに移動層としてクロロホルム/メタノール/水=10:5:1を流し、その溶出液を集め、溶媒を留去して、精製物(2.5g)を得た。
【0048】
上記のようにして精製して得られた精製物について、マススペクトル分析、
1H−NMR分析及び
13C−NMR分析をした。かかる分析結果を下記に示す。
【0049】
<マススペクトル(ESI−MS)>
[M−H]
− m/z 623(理論値:C
29H
36O
15−H=623)
[M+Na]
+ m/z 647(理論値:C
29H
36O
15+Na=647)
【0050】
<
1H−NMRケミカルシフトδ(帰属水素):>
6.69(1H,d,J=2.0Hz,H−2),6.67(1H,d,J=8.1Hz,H−5),6.55(1H,dd,J=2.0,8.1Hz,H−6),2.78(2H,t−like,H−7),4.01(1H,overlapped,H−8a),3.70(1H,overlapped,H−8b),7.05(1H,d,J=2.2Hz,H−2’),6.77(1H,d,J=8.3Hz,H−5’),6.94(1H,dd,J=2.2,8.3Hz,H−6’),7.58(1H,d,J=15.9Hz,H−7’),6.27(1H,d,J=15.9Hz,H−8’),4.36(1H,d,J=7.8Hz,GlcH−1),3.39(1H,dd,J=7.8,8.1Hz,Glc H−2),3.80(1H,br.t,J=9.0Hz,Glc H−3),4.88(1H,br.t,J=9.2Hz,Glc H−4),3.58(1H,overlapped,Glc H−5),3.48(2H,overlapped,Glc H−6),5.18(1H,br.s,Rha H−1),3.9 (1H,m,Rha H−2),3.58(2H,overlapped,Rha−H−3andRha H−5),3.30(1H,overlapped,Rha−H−4),1.08.(3H,d,J=6.1Hz,Rha H−6)
【0051】
<
13C−NMRケミカルシフトδ(帰属炭素):>
131.1(s,C−1),116.1(d,C−2),146.5(s,C−3),144.3(s,C−4),116.8(d,C−5),121.0(d,C−6),36.4(t,C−7),72.0(t,C−8),127.3(s,C−1’),114.9(d,C−2’),145.8(s,C−3’),149.4(s,C−4’),116.2(d,C−5’),122.9(d,C−6’),147.7(d,C−7’),114.4(d,C−8’),167.9(s,C−9’),103.9(d,Glc C−1), 75.9(d,Glc C−2), 81.4(d,Glc C−3),70.7(d,Glc C−4),75.8(d,Glc C−5),62.1(t,Glc C−6),102.7(d,Rha C−1),72.1(d,Rha C−2),71.8(d,Rha C−3),73.5(d,Rha C−4),70.2(d,RhaC−5),18.3(q,Rha C−6)
【0052】
以上の分析結果から、キンモクセイ花部抽出物(桂花エキスパウダー)から得られた化合物が、下記構造式(I)で表されるアクテオシド(Acteoside)であることが確認された。
【化2】
【0053】
(実施例1)
−ELISA法によるTie2活性化促進作用試験(ケイカ(桂花)の抽出物)−
コンフルエントまで培養した正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を、96ウェルプレートへ2.0×10
4細胞/0.1mL/ウェルとなるように播種し、低血清血管内皮細胞増殖用培地(倉敷紡績株式会社製、Humedia−EG2)を用いて一晩培養した。次に、一晩培養後の前記HUVECを、細胞刺激(被験試料添加)の3時間前に0.1mLの血管内皮細胞基礎培地(倉敷紡績株式会社製、Humedia−EB2)に置換し、再度培養を行った。その後、前記ウェル内に、被験試料として前記Humedia−EB2で表1に記載の濃度に調製した桂花エキスパウダー(丸善製薬株式会社製)を0.1mL添加し、20分間のインキュベーションを行った。インキュベーション後、イムノアッセイキット(R&D Systems社製、Human Phospho−Tie2(Y992)Immunoassay)を用いてプロトコールに従い、細胞内のリン酸化型Tie2量を測定した。
また、陰性コントロールとして被験試料の溶解に用いたジメチルスルホキシド(DMSO)についても、同様にしてリン酸化型Tie2量を測定した。
そして、下記式(1)に従い、Tie2活性化促進率を計算し、リン酸化作用を評価した。結果を表1に示した。
【数1】
【0054】
(実施例2)
−ELISA法によるTie2活性化促進作用試験(アクテオシド)−
実施例1において、前記桂花エキスパウダーを、製造例1のアクテオシドに変更し、表1に記載の濃度を用いた以外は、実施例1と同様にして、Tie2リン酸化作用を評価した。結果を表1に示す。
【0055】
(実施例3)
−ELISA法によるTie2活性化促進作用試験(ボダイジュの抽出物)−
実施例1において、前記桂花エキスパウダーを、ボダイジュエキス(丸善製薬株式会社製)に変更し、表1に記載の濃度を用いた以外は、実施例1と同様にして、Tie2リン酸化作用を評価した。結果を表1に示す。
【0056】
(実施例4)
−ELISA法によるTie2活性化促進作用試験(マロニエの抽出物)−
実施例1において、前記桂花エキスパウダーを、マロニエ抽出液の凍結乾燥品(丸善製薬株式会社製)に変更し、表1に記載の濃度を用いた以外は、実施例1と同様にして、Tie2リン酸化作用を評価した。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
実施例1〜4の結果から、ケイカの抽出物、アクテオシド、ボダイジュの抽出物及びマロニエの抽出物は、いずれもTie2のリン酸化、即ち、Tie2の活性化を誘導することが認められた。具体的なデータを示していないが、陰性コントロールであるDMSOを添加した系では、Tie2の顕著なリン酸化は認められなかった。陽性コントロールであるAngiopoietin−1を添加した系では、Tie2がリン酸化されることが認められた。したがって、ケイカの抽出物、アクテオシド、ボダイジュの抽出物及びマロニエの抽出物により、Tie2がリン酸化して活性化され、血管成熟化、血管正常化、血管安定化がもたらされ、血管新生が抑制されることが示唆された。
【0058】
(実施例5)
−ウエスタンブロッティング法によるTie2活性化促進作用試験(マロニエの抽出物)−
マウスpro−B細胞(Ba/F3)にhuman Tie2(Ba/F3−human Tie2)を過剰発現させた細胞をTie2リン酸化解析に用いた。被験試料によるBa/F3−human Tie2の刺激は、FBSを含まないRPMI−1640培地(SIGMA−ALDRICH社製)で溶解した被験試料としてのマロニエ抽出液の凍結乾燥品(丸善製薬株式会社製)を添加して10分間後に細胞をPBSで洗浄した後、PhosphoSafe
TMExtraction Reagent(Novagen社製)にて細胞抽出液を回収した。これを7.5%SDSゲルにて電気泳動し、PVDF膜に転写した。ブロッキングone−P(ナカライテスク社製)で60分間非特異的蛋白をブロックした後、抗リン酸化Tie2抗体(Cell Signaling Technology社製)及びHRP標識2次抗体を用いてリン酸化型Tie2のバンドを検出した。また、陰性コントロールとして被験試料の溶解に用いたジメチルスルホキシド(DMSO)についても、同様にリン酸化型Tie2のバンドを検出した。バンドの検出及び解析は、画像撮影装置ChemiDoc XRS Plus(Bio−Rad Laboratories社製)及びImage Lab Software version 2.0(Bio−Rad Laboratories社製)にて行い、下記式(2)に従って、Tie2活性化促進作用率を求めた。結果を表2に示した。
Tie2活性促進化率(%)=
[(被験試料添加時のリン酸化型Tie2のバンド強度)/(陰性コントロールでのリン酸化型Tie2のバンド強度)]×100 ・・・式(2)
【0059】
【表2】
表2の結果から、マロニエの抽出物が、濃度依存的な優れたTie活性化作用を有することが認められた。
【0060】
以上より、ケイカの抽出物、アクテオシド、ボダイジュの抽出物及びマロニエの抽出物が、Tie2リン酸化効果を有することにより、血管新生の抑制が起こり、血管の成熟化、血管の正常化、及び血管の安定化を誘導できることが示唆された。