特許第6346922号(P6346922)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成エレクトロニクス株式会社の特許一覧

特許6346922ホール起電力補正装置及びホール起電力補正方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6346922
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】ホール起電力補正装置及びホール起電力補正方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/07 20060101AFI20180611BHJP
   G01R 33/02 20060101ALI20180611BHJP
   H01L 43/06 20060101ALI20180611BHJP
【FI】
   G01R33/07
   G01R33/02 X
   H01L43/06 Z
   H01L43/06 A
【請求項の数】26
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-185237(P2016-185237)
(22)【出願日】2016年9月23日
(62)【分割の表示】特願2014-522394(P2014-522394)の分割
【原出願日】2013年5月31日
(65)【公開番号】特開2016-224071(P2016-224071A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2016年9月23日
(31)【優先権主張番号】特願2012-147709(P2012-147709)
(32)【優先日】2012年6月29日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】藤田 泰介
(72)【発明者】
【氏名】岡武 茂樹
【審査官】 永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2001/0050557(US,A1)
【文献】 特開2012−18081(JP,A)
【文献】 米国特許第6362618(US,B1)
【文献】 特開2003−14788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/07
G01R 33/02
G01R 15/20
G01R 35/00
H01L 43/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホール起電力を発生するホール素子と、
該ホール素子のピエゾホール係数の温度特性に関する情報及びピエゾ抵抗係数の温度特性に関する情報を記憶するピエゾ係数温度特性記憶部と、
前記ホール素子のホール起電力を補正するための信号を生成する補正信号生成部と、
を有するホール起電力補正装置であって、
前記補正信号生成部は、
前記ホール素子のそれぞれ対向する異なる端子間の各抵抗値に応じた情報と、
前記ピエゾ係数温度特性記憶部に記憶された、前記ピエゾホール係数の温度特性に関する情報及び前記ピエゾホール係数の温度特性とは異なる特性を示す前記ピエゾ抵抗係数の温度特性に関する情報と、
前記ホール素子の温度情報と、
に基づいて、前記ホール素子のホール起電力を補正するための応力補正係数を生成することを特徴とするホール起電力補正装置。
【請求項2】
前記補正信号生成部は、
前記応力補正係数を算出することを特徴とする請求項1に記載のホール起電力補正装置。
【請求項3】
前記補正信号生成部は、以下の応力補正係数Kσ
Kσ=(1+P12(T)/(π(T)+π(T))×(R+R−2α(T)R)/(α(T)R))(P12(T);ピエゾホール係数、π(T);ピエゾ抵抗係数(電流に平行な成分)、π(T);ピエゾ抵抗係数(電流に垂直な成分)、R,R;ホール抵抗値、α(T);ホール素子の抵抗値の温度特性)、R;応力が0の時の基準温度におけるホール抵抗値)、
算出することを特徴とする請求項2に記載のホール起電力補正装置。
【請求項4】
前記補正信号生成部からの補正係数に基づいて、前記ホール起電力に基づく物理量を補正するホール起電力補正部を備えていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のホール起電力補正装置。
【請求項5】
前記ホール素子のホール起電力を測定するホール起電力測定部と、前記ホール素子のそれぞれ対向する異なる端子間の各抵抗値を測定し、該各抵抗値に応じた情報を出力するホール抵抗測定部と、前記ホール素子の環境温度を測定し、前記ホール素子の温度情報を出力する温度測定部とを備えていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のホール起電力補正装置。
【請求項6】
前記ホール抵抗測定部と前記ホール起電力測定部と前記温度測定部とが、共有化したA/D変換回路を備えていることを特徴とする請求項5に記載のホール起電力補正装置。
【請求項7】
前記ホール抵抗測定部が、十字型の形状を有するホール素子のそれぞれ対向する異なる端子間の各抵抗値を測定することを特徴とする請求項5又は6に記載のホール起電力補正装置。
【請求項8】
前記温度測定部が、温度センサであることを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載のホール起電力補正装置。
【請求項9】
前記補正信号生成部が、補正係数演算回路を備えていることを特徴とする請求項5乃至8のいずれかに記載のホール起電力補正装置。
【請求項10】
前記ホール素子を駆動するホール駆動電流源の電流を前記補正係数演算回路からの補正係数により補正し、補正された電流で前記ホール素子を駆動することにより前記ホール起電力を補正することを特徴とする請求項9に記載のホール起電力補正装置。
【請求項11】
前記ホール起電力測定部からのホール起電力を増幅する増幅回路を設け、該増幅回路の増幅率を前記補正係数演算回路からの補正係数により補正し、補正された増幅率で前記ホール起電力を増幅することを特徴とする請求項9に記載のホール起電力補正装置。
【請求項12】
前記ホール起電力測定部の後段に応力補正回路と温度補正回路を設け、前記補正係数演算回路からの前記応力補正係数と温度補正係数とにより前記ホール起電力を補正することを特徴とする請求項9に記載のホール起電力補正装置。
【請求項13】
前記補正信号生成部は、さらに、
前記ホール素子の磁気感度の温度特性と、ホール抵抗の温度特性と、基準磁気感度と、基準ホール抵抗値とに基づいて、前記ホール素子のホール起電力を補正するための信号を生成することを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載のホール起電力補正装置。
【請求項14】
ホール起電力を発生するホール素子と、
該ホール素子のピエゾホール係数の温度特性に関する情報及びピエゾ抵抗係数の温度特性に関する情報を記憶するピエゾ係数温度特性記憶部と、
前記ホール素子のホール起電力を補正するための信号を生成する補正信号生成部と、
を有するホール起電力補正装置におけるホール起電力補正方法であって、
前記補正信号生成部による補正信号生成ステップは、
前記ホール素子のそれぞれ対向する異なる端子間の各抵抗値に応じた情報と、
前記ピエゾ係数温度特性記憶部に記憶された、前記ピエゾホール係数の温度特性に関する情報及び前記ピエゾホール係数の温度特性とは異なる特性を示す前記ピエゾ抵抗係数の温度特性に関する情報と、
前記ホール素子の温度情報と、
に基づいて、前記ホール素子のホール起電力を補正するための応力補正係数を生成することを特徴とするホール起電力補正方法。
【請求項15】
前記補正信号生成ステップは、
前記応力補正係数を算出することを特徴とする請求項14に記載のホール起電力補正方法。
【請求項16】
前記補正信号生成ステップは、以下の応力補正係数Kσ
Kσ=(1+P12(T)/(π(T)+π(T))×(R+R−2α(T)R)/(α(T)R))(P12(T);ピエゾホール係数、π(T);ピエゾ抵抗係数(電流に平行な成分)、π(T);ピエゾ抵抗係数(電流に垂直な成分)、R,R;ホール抵抗値、α(T);ホール素子の抵抗値の温度特性)、R;応力が0の時の基準温度におけるホール抵抗値)、
算出することを特徴とする請求項15に記載のホール起電力補正方法。
【請求項17】
前記補正信号生成部からの補正係数に基づいて、ホール起電力補正部により前記ホール起電力に基づく物理量を補正することを特徴とする請求項14乃至16のいずれかに記載のホール起電力補正方法。
【請求項18】
前記ホール素子のホール起電力を測定するホール起電力測定ステップと、前記ホール素子のそれぞれ対向する異なる端子間の各抵抗値を測定し、該各抵抗値に応じた情報を出力するホール抵抗測定ステップと、前記ホール素子の環境温度を測定し、前記ホール素子の温度情報を出力する温度測定ステップとを有することを特徴とする請求項14乃至17のいずれかに記載のホール起電力補正方法。
【請求項19】
前記ホール抵抗測定ステップによる各抵抗値と、前記ホール起電力測定ステップによるホール起電力と、前記温度測定ステップによる温度値とを共有化したA/D変換回路を用いて時分割で測定することを特徴とする請求項18に記載のホール起電力補正方法。
【請求項20】
前記ホール抵抗測定ステップが、十字型の形状を有するホール素子のそれぞれ対向する異なる端子間の各抵抗値を測定することを特徴とする請求項18又は19に記載のホール起電力補正方法。
【請求項21】
前記温度測定ステップが、温度センサを用いて測定することを特徴とする請求項18,19又は20に記載のホール起電力補正方法。
【請求項22】
前記補正信号生成部による補正信号生成ステップが、補正係数演算回路により補正係数を生成することを特徴とする請求項18乃至21のいずれかに記載のホール起電力補正方法。
【請求項23】
前記ホール素子を駆動するホール駆動電流源の電流を前記補正係数演算回路からの補正係数により補正し、補正された電流で前記ホール素子を駆動することにより前記ホール起電力を補正することを特徴とする請求項22に記載のホール起電力補正方法。
【請求項24】
前記ホール起電力測定ステップからのホール起電力を増幅する増幅回路を設け、該増幅回路の増幅率を前記補正係数演算回路からの補正係数により補正し、補正された増幅率で前記ホール起電力を増幅することを特徴とする請求項22に記載のホール起電力補正方法。
【請求項25】
前記ホール起電力測定ステップによるホール起電力の測定の後段に応力補正回路と温度補正回路を設け、前記補正係数演算回路からの前記応力補正係数と温度補正係数とにより前記ホール起電力を補正することを特徴とする請求項22に記載のホール起電力補正方法。
【請求項26】
前記補正信号生成部による補正信号生成ステップは、さらに、
前記ホール素子の磁気感度の温度特性と、ホール抵抗の温度特性と、基準磁気感度と、基準ホール抵抗値とに基づいて、前記ホール素子のホール起電力を補正するための信号を生成することを特徴とする請求項14乃至25のいずれかに記載のホール起電力補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホール起電力補正装置及びホール起電力補正方法に関し、より詳細には、ホール素子に加わる応力による影響と温度による影響を同時に補正できるようにしたホール起電力補正装置及びホール起電力補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ホール素子を内蔵した磁気センサ半導体集積回路として、電流が発生させる磁場を検出する電流センサや、磁石の回転を検出する回転角センサ、磁石の移動を検出するポジションセンサなどが知られている。
このようなホール素子の磁気感度は、温度によって変化することが知られている。そのため、高精度にホール素子の磁気感度を補正するには、温度による影響を補正する必要がある。さらに、ホール素子の磁気感度は、温度による影響だけでなく、応力によっても変化する(ピエゾホール効果)ことが知られている。
【0003】
図1は、磁気センサの半導体集積回路がパッケージ封止された断面構成図である。リードフレーム1上に、ホール素子2が組み込まれた磁気センサの半導体集積回路3があり、その周りにモールド樹脂4を設けた構造になっている。この構造では、シリコンとリードフレーム1とモールド樹脂4などの熱膨張係数が異なるため、シリコン表面上を含め各場所に応力が発生する。さらに、使用環境の温度・湿度等が変化することによって、その応力が変化する。そのため、使用環境によって磁気センサの半導体集積回路の磁気感度が変化してしまうという問題が生じていた。
【0004】
このような使用環境によって磁気センサの半導体集積回路の磁気感度が変化してしまうという問題に対して、ホール素子のオフセットの変化を用いて応力の変化を検出し、磁気感度を補正することが、例えば、特許文献1に開示されている。
さらに、ホール素子の抵抗値(ホール抵抗値)の変化を用いて応力の変化を検出し、ホール素子の駆動電流(ホール駆動電流)にフィードバックさせて磁気感度を補正することが、例えば、特許文献2に開示されている。
また、ホール素子とは別に、応力検出素子を使用して、その応力検出結果に基づいて磁気感度を補正することが、例えば、特許文献3から特許文献5及び非特許文献1に開示されている。
【0005】
また、パッケージ材料やパッケージ構造を工夫することによって、ホール素子に印加される応力を低減させるという方法も、例えば、特許文献6に開示されている。
また、ホール素子の磁気感度が温度によって変化してしまう問題に対して、ホール素子の電源電圧を制御するワンチップマイコンを備えることで、磁気感度を補正することが、例えば、特許文献7に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6362618号明細書(B2)
【特許文献2】米国特許第6483301号明細書(B2)
【特許文献3】米国特許第6906514号明細書(B2)
【特許文献4】米国特許第7437260号明細書(B2)
【特許文献5】米国特許第7302357号明細書(B2)
【特許文献6】特開2008−292182号公報
【特許文献7】特開2009−139213号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】IEEE Sensors Jouranal, Vol.,No.11, November 2007 Udo Ausserlechner, Mario Motz, Michael Holliber著
【非特許文献2】Piezo-Hall Coefficients of n-type Silicon , J. Appl. Phys., vol.64, pp.276-282,1988. B.Halg著
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題を説明するために上述した各先行技術文献について説明する。
まず、特許文献1に示されているものは、ホール駆動電流を通電する端子対とホール素子からホール起電力を検出する端子対をチョッパークロックにしたがって選択するように設けられたチョッパースイッチの接続切替によって、ホール起電力とホール素子のオフセットを時間分割して検出することにより、ホール起電力だけでなく、ホール素子における応力に関する情報を取得する回路構成に関するものである。
【0009】
図2は、ホール素子のブリッジモデルと応力の方向を示す図で、ホール素子のオフセットと応力の関係を示している。ホール素子は、一般的にブリッジモデルを用いて説明することが出来る。このブリッジモデルにおいて、図2に示した矢印の向きに電流を流したとき、オフセット電圧は向かい合う端子間の電圧差(V−V)で表される。ブリッジ抵抗Rb,Rb,Rb,Rbは、応力σ,σによって変化し、以下の(1)式で表すことができる。
【0010】
【数1】
【0011】
π:電流を流す方向に平行なピエゾ抵抗係数
π:電流を流す方向に垂直なピエゾ抵抗係数
Rb10:応力が0の時のブリッジ抵抗Rbの抵抗値
Rb20:応力が0の時のブリッジ抵抗Rbの抵抗値
Rb30:応力が0の時のブリッジ抵抗Rbの抵抗値
Rb40:応力が0の時のブリッジ抵抗Rbの抵抗値
この(1)式を用いて、オフセット電圧(V−V)は、以下の(2)式で表すことが出来る。
【0012】
【数2】
【0013】
ここで計算を簡単にするために、以下の(3)式を用いて計算すると、オフセット電圧(V−V)は、以下の(4)式で表すことができる。
【0014】
【数3】
【0015】
【数4】
【0016】
上記(4)式から、ホール素子のオフセットを用いて、応力σとσを含んだ値を求めることが出来る。ホール起電力及びホール素子の磁気感度を、以下の(5)式に示す。SI(T,σ)は、ホール素子の磁気感度であり、温度(T)と応力(σ)に依存している。磁気感度の応力依存性を補正するには、以下の(5)式から分かるとおり、応力σとσの和が必要である。応力はテンソル量であり、上記(4)式から応力σとσの和を求めることは困難である。そのため、上述した特許文献1では、磁気感度の応力依存性を補正することは困難である。
【0017】
【数5】
【0018】
次に、上述した特許文献2の応力補正方法について図3及び図4を用いて説明する。
図3は、ホール素子の駆動例を説明するための回路構成図で、図4(a),(b)は、2方向の電流方向に対するホール抵抗値を説明するための図である。
図3に示したホール起電力V及びホール素子の磁気感度を、以下の(6)式と(7)式に示す。
【0019】
【数6】
【0020】
【数7】
【0021】
ホール素子の磁気感度と同様に、ホール抵抗値も温度(T)と応力(σ)に依存しており、図4に示したホール抵抗値R及びRは、ピエゾ抵抗係数πとπを用いて、以下の(8)式のように表すことができる。
【0022】
【数8】
【0023】
上述した特許文献2においては、ホール駆動電流を2方向のホール抵抗値の平均値に比例した値にするため、上記(8)式を用いて、
【数9】
となる。
【0024】
上記(7)及び(9)式を(6)式に代入すると、以下の(10)式となる。
【0025】
【数10】
【0026】
上述した特許文献2においては、上記(10)式のように、ホール駆動電流を2方向のホール抵抗値に比例させることで、応力による影響を補正しているが、(10)式が一定となるには、以下の(11)式及び(12)式が成り立つ必要がある。
【0027】
【数11】
【0028】
【数12】
【0029】
上述した特許文献2では、温度センサがないため、上記(11)式の温度依存性を、ホール駆動電流の温度特性として持つ必要があるが、高次の係数を持つ関数となり非常に難しく、精度の確保が難しい。
【0030】
さらに、上記(12)式については、上述した特許文献2にも記載されているように、
【数13】
を前提にしているが、実際には室温においても−P12≒π+πであり、温度が変化することでも上記(13)式の関係は成立しない。
【0031】
図5は、上記(12)式の左辺の計算結果を示す図である。この図5から分かるとおり、αPR(σ),αPH(σ)の絶対値が小さいときは、(12)式の左辺が1に近い値となるが、αPR(σ),αPH(σ)の絶対値が大きくなると、上記(12)式の左辺が1から逸脱していくことがわかる。これは、応力の絶対値が大きいとき、上記(12)式は成り立たず、応力の補正効果が著しく悪化することを示している。
つまり、上述した特許文献2における磁気感度の補正は、精度が低く、かつ補正が有効な応力の範囲も狭い。
【0032】
次に、上述した特許文献3は、磁界信号といった物理量の信号を検出するセンサ機能を有する半導体集積回路に関する技術を開示したものである。この特許文献3においては、半導体集積回路、特に、パッケージに封入された半導体集積回路のなかに生じる応力の影響に起因して、センサ機能において生じるセンサ信号検出の検出誤差を補正する目的で、センサ機能を持つ物理量検出部とは別に設けられた応力検出素子を使用して、上述した応力を検出し、その応力検出結果に基づいて、センサ機能における上述した応力の影響を制御し、最終的に、上述した応力に起因するセンサ信号検出の誤差を低減する半導体集積回路の構成が示されている。
【0033】
次に、上述した特許文献4は、センサ機能を有する半導体集積回路の内部の応力に起因して生じるセンサ信号検出の検出誤差に対して、この検出誤差を補償して低減する概念を開示したものである。この特許文献4のなかで開示された技術の具体的な内容は、上述した応力に対して感度を持つ第1,第2の素子のそれぞれから出力される上記の応力に依存した信号を組み合わせることにより、半導体集積回路の出力信号に対する上記の応力の影響を制御するというものである。
次に、上述した特許文献5は、センサ機能を有する半導体集積回路の内部の応力に起因して生じるセンサ信号検出の検出誤差に対して、この検出誤差を補償して低減する概念を開示したものである。この特許文献5に示された技術においては、センサ機能を持つ物理量検出部とは別に設けられた2つの応力検出素子を使うことが特徴である。この特許文献5において、これらの2つの素子から得られる2つの信号を組み合わせることにより、上述した応力に関する情報を高精度に検出できるとされている。
【0034】
次に、上述した非特許文献1は、シリコン(100)面に形成した半導体集積回路を使ってホール素子を実現する場合に、半導体集積回路の内部の応力に起因して生じるホール素子の磁気感度の変動を補償する回路を示したものである。ここでは、N型拡散抵抗とP型拡散抵抗という応力に対する感度を持つ2つの素子を組み合わせることにより、上述した応力を検出している。
また、非特許文献1に示された技術においては、半導体集積回路の内部に作り込まれたホール素子に働く応力を検出する目的で、N型拡散抵抗とP型拡散抵抗が用意されている。非特許文献1だけでなく、上述した特許文献3,特許文献4,特許文献5についても、これら文献のなかで開示されている技術は、半導体集積回路のなかのセンサ部分とは異なる位置に配置された応力検出素子を使用して、半導体集積回路の内部の応力を検出するものである。
【0035】
つまり、上述した特許文献3,特許文献4,特許文献5及び非特許文献1に記載の方法では、ホール素子の位置が異なることによる応力の差を無視している。さらに、応力検出素子をホール素子とは別に置くことによって、レイアウト面積の増大や消費電流の増加が発生する。
【0036】
次に、上述した特許文献6は、パッケージを工夫することにより、センサに印加される応力を低減させる方法を開示したものである。この技術は、パッケージ形状や大きさを規定するものであり、使用範囲は限られる方法である。
次に、上述した特許文献7は、ホール素子の磁気感度の温度依存性の方法について開示されているが、応力依存性を補正することは出来ない。
このように、上述した従来技術では、特許文献1及び特許文献2に示された方法のように、ホール素子1個から磁気感度と応力信号を測定する場合、応力補正の精度が低いという課題があった。さらに、特許文献3,特許文献4,特許文献5及び非特許文献1で示された方法のように、ホール素子と応力検出素子を分離することで、応力補正の精度を上げることはできるが、レイアウト面積の増大や消費電流の増加といった課題があった。
【0037】
さらに、ホール素子の磁気感度の応力依存性及び温度依存性の両方に有効な技術については、上述した従来技術には何ら開示されていない。
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ホール素子1個と温度センサを用いて、レイアウト面積の増大や消費電流の増加を抑えつつ、応力補正と温度補正を行うことで、より簡便にホール素子の磁気感度を高精度に補正するホール起電力補正装置及びホール起電力補正方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0038】
本発明は、このような目的を達成するためになされたもので、本発明のホール起電力補正装置は、ホール起電力を発生するホール素子と、該ホール素子のピエゾホール係数の温度特性に関する情報及びピエゾ抵抗係数の温度特性に関する情報を記憶するピエゾ係数温度特性記憶部と、前記ホール素子のホール起電力を補正するための信号を生成する補正信号生成部と、を有するホール起電力補正装置であって、前記補正信号生成部は、前記ホール素子のそれぞれ対向する異なる端子間の各抵抗値に応じた情報と、前記ピエゾ係数温度特性記憶部に記憶された、前記ピエゾホール係数の温度特性に関する情報及び前記ピエゾホール係数の温度特性とは異なる特性を示す前記ピエゾ抵抗係数の温度特性に関する情報と、前記ホール素子の温度情報と、に基づいて、前記ホール素子のホール起電力を補正するための応力補正係数を生成することを特徴とする。
【0039】
また、前記補正信号生成部は、前記応力補正係数を算出することを特徴とする。
また、前記補正信号生成部は、以下の応力補正係数Kσ
Kσ=(1+P12(T)/(π(T)+π(T))×(R+R−2α(T)R)/(α(T)R))(P12(T);ピエゾホール係数、π(T);ピエゾ抵抗係数(電流に平行な成分)、π(T);ピエゾ抵抗係数(電流に垂直な成分)、R,R;ホール抵抗値、α(T);ホール素子の抵抗値の温度特性)、R;応力が0の時の基準温度におけるホール抵抗値)、を算出することを特徴とする。
【0040】
また、前記補正信号生成部からの補正係数に基づいて、前記ホール起電力に基づく物理量を補正するホール起電力補正部(19)を備えていることを特徴とする。
また、前記補正信号生成部が、前記ホール素子の磁気感度温度特性に関する情報に基づき前記ホール素子のホール起電力を補正するための信号を生成することを特徴とする。
また、前記補正信号生成部が、前記ホール素子の抵抗値の温度特性に関する情報に基づき前記ホール素子のホール起電力を補正するための信号を生成することを特徴とする。
また、前記補正信号生成部が、前記ホール素子のピエゾ係数の温度特性に関する情報に基づき前記ホール素子のホール起電力を補正するための信号を生成することを特徴とする。
【0041】
また、前記ホール素子のピエゾ係数の温度特性に関する情報が、前記ホール素子のピエゾホール係数の温度特性に関する情報及び/又は前記ホール素子のピエゾ抵抗係数の温度特性に関する情報であることを特徴とする。
また、前記ホール素子の第1乃至第4の電極に接続されたチョッパースイッチ(12)を備え、該チョッパースイッチが、チョッパー駆動により、前記第1の電極と前記第2の電極間にホール駆動電圧を印加してホール駆動電流(I)を供給し、前記第1の電極と前記第2の電極間から前記ホール抵抗値(V)を測定し、前記第2の電極と前記第4の電極間にホール駆動電圧を印加してホール駆動電流を供給し、前記第1電極と前記第3の電極間から前記ホール起電力(V)を測定するように構成されていることを特徴とする。(図17図18;実施例5)
【0042】
また、前記ホール素子のホール起電力(V)を測定するホール起電力測定部(14)と、前記ホール素子の異なる端子間の抵抗値(V)を測定し、該抵抗値に応じた情報を出力するホール抵抗測定部(13)と、前記ホール素子の環境温度を測定し、前記ホール素子の温度情報を出力する温度測定部(15)とを備えていることを特徴とする。
また、前記ホール抵抗測定部(13)と前記ホール起電力測定部(14)と前記温度測定部(15)とが、共有化したA/D変換回路(31)を備えていることを特徴とする。(図12;実施例2)
【0043】
また、前記ホール抵抗測定部が、十字型の形状を有するホール素子の異なる端子間の抵抗値を測定することを特徴とする。
また、前記温度測定部が、温度センサであることを特徴とする。
また、前記補正信号生成部が、補正係数演算回路(21)を備えていることを特徴とする。
また、前記ホール素子を駆動するホール駆動電流源(23)の電流を前記補正係数演算回路(21)からの補正係数により前記ホール起電力を補正することを特徴とする。(図13;実施例3)
【0044】
また、前記ホール起電力測定部からのホール起電力を増幅する増幅回路(33)を設け、該増幅回路の増幅率を前記補正係数演算回路からの補正係数により前記ホール起電力を補正することを特徴とする。(図15;実施例4)
また、前記ホール起電力測定部の後段に応力補正回路(41)と温度補正回路(42)を設け、前記補正係数演算回路からの前記応力補正係数と温度補正係数とにより前記ホール起電力を補正することを特徴とする。(図19;実施例6)
また、前記補正信号生成部は、さらに、前記ホール素子の磁気感度の温度特性と、ホール抵抗の温度特性と、基準磁気感度と、基準ホール抵抗値とに基づいて、前記ホール素子のホール起電力を補正するための信号を生成することを特徴とする。
【0045】
また、本発明のホール起電力補正方法は、ホール起電力を発生するホール素子と、該ホール素子のピエゾホール係数の温度特性に関する情報及びピエゾ抵抗係数の温度特性に関する情報を記憶するピエゾ係数温度特性記憶部と、前記ホール素子のホール起電力を補正するための信号を生成する補正信号生成部と、を有するホール起電力補正装置におけるホール起電力補正方法であって、前記補正信号生成部による補正信号生成ステップは、前記ホール素子のそれぞれ対向する異なる端子間の各抵抗値に応じた情報と、前記ピエゾ係数温度特性記憶部に記憶された、前記ピエゾホール係数の温度特性に関する情報及び前記ピエゾホール係数の温度特性とは異なる特性を示す前記ピエゾ抵抗係数の温度特性に関する情報と、前記ホール素子の温度情報と、に基づいて、前記ホール素子のホール起電力を補正するための応力補正係数を生成することを特徴とする。
【0046】
また、前記補正信号生成ステップは、前記応力補正係数を算出することを特徴とする。
前記補正信号生成ステップは、以下の応力補正係数Kσ
Kσ=(1+P12(T)/(π(T)+π(T))×(R+R−2α(T)R)/(α(T)R))(P12(T);ピエゾホール係数、π(T);ピエゾ抵抗係数(電流に平行な成分)、π(T);ピエゾ抵抗係数(電流に垂直な成分)、R,R;ホール抵抗値、α(T);ホール素子の抵抗値の温度特性)、R;応力が0の時の基準温度におけるホール抵抗値)、を算出することを特徴とする。
【0047】
また、前記補正信号生成部からの補正係数に基づいて、ホール起電力補正部により前記ホール起電力に基づく物理量を補正することを特徴とする。
また、前記補正信号生成部による補正信号生成ステップが、前記ホール素子の磁気感度温度特性に関する情報に基づき前記ホール素子のホール起電力を補正するための信号を生成することを特徴とする。
また、前記補正信号生成部による補正信号生成ステップが、前記ホール素子の抵抗値の温度特性に関する情報に基づき前記ホール素子のホール起電力を補正するための信号を生成することを特徴とする。
【0048】
また、前記補正信号生成部による補正信号生成ステップが、前記ホール素子のピエゾ係数の温度特性に関する情報に基づき前記ホール素子のホール起電力を補正するための信号を生成することを特徴とする。
また、前記ホール素子のピエゾ係数の温度特性に関する情報が、前記ホール素子のピエゾホール係数の温度特性に関する情報及び/又は前記ホール素子のピエゾ抵抗係数の温度特性に関する情報であることを特徴とする。
また、前記ホール素子の第1乃至第4の電極に接続されたチョッパースイッチを備え、該チョッパースイッチが、チョッパー駆動により、前記第1の電極と前記第2の電極間にホール駆動電圧を印加してホール駆動電流を供給し、前記第1の電極と前記第2の電極間から前記ホール抵抗値を測定し、前記第2の電極と前記第4の電極間にホール駆動電圧を印加してホール駆動電流を供給し、前記第1電極と前記第3の電極間から前記ホール起電力を測定することを特徴とする。
【0049】
また、前記ホール素子のホール起電力を測定するホール起電力測定ステップと、前記ホール素子の異なる端子間の抵抗値を測定し、該抵抗値に応じた情報を出力するホール抵抗測定ステップと、前記ホール素子の環境温度を測定し、前記ホール素子の温度情報を出力する温度測定ステップとを有することを特徴とする。
また、前記ホール抵抗測定ステップによる抵抗値と、前記ホール起電力測定ステップによるホール起電力と、前記温度測定ステップによる温度値とを共有化したA/D変換回路を用いて時分割で測定することを特徴とする。
【0050】
また、前記ホール抵抗測定ステップが、十字型の形状を有するホール素子の異なる端子間の抵抗値を測定することを特徴とする。
また、前記温度測定ステップが、温度センサを用いて測定することを特徴とする。
また、前記補正信号生成部による補正信号生成ステップが、補正係数演算回路により補正係数を生成することを特徴とする。
また、前記ホール素子を駆動するホール駆動電流源の電流を前記補正係数演算回路からの補正係数により前記ホール起電力を補正することを特徴とする。
【0051】
また、前記ホール起電力測定ステップからのホール起電力を増幅する増幅回路を設け、該増幅回路の増幅率を前記補正係数演算回路からの補正係数により前記ホール起電力を補正することを特徴とする。
また、前記ホール起電力測定ステップによるホール起電力の測定の後段に応力補正回路と温度補正回路を設け、前記補正係数演算回路からの前記応力補正係数と温度補正係数とにより前記ホール起電力を補正することを特徴とする。
また、前記補正信号生成部による補正信号生成ステップは、さらに、前記ホール素子の磁気感度の温度特性と、ホール抵抗の温度特性と、基準磁気感度と、基準ホール抵抗値とに基づいて、前記ホール素子のホール起電力を補正するための信号を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0052】
本発明によれば、ホール素子に加わる応力による影響と温度による影響を同時に補正できるようにしたので、ホール素子1個と温度センサを用いて、レイアウト面積の増大や消費電流の増加を抑えつつ、応力補正と温度補正を行うことで、より簡便にホール素子の磁気感度を高精度に補正するホール起電力補正装置及びホール起電力補正方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】磁気センサの半導体集積回路がパッケージ封止された断面構成図である。
図2】ホール素子のブリッジモデルと応力の方向を示す図である。
図3】ホール素子の駆動例を説明するための回路構成図である。
図4】(a),(b)は、2方向の電流方向に対するホール抵抗値を説明するための図である。
図5】(12)式の左辺の計算結果を示す図である。
図6】本発明に係るホール起電力補正装置の実施例1を説明するための構成ブロック図である。
図7図6に示したホール素子の外形例を示す図である。
図8】ホール素子の駆動例(Phase1)を説明するための回路構成図である。
図9】ホール素子の駆動例(Phase2)を説明するための回路構成図である。
図10図6に示した補正係数演算回路によるホール起電力補正方法を説明するためのフローチャートを示す図である。
図11図6に示した補正係数演算回路の具体的な構成ブロック図である。
図12】本発明に係るホール起電力補正装置の実施例2を説明するための構成ブロック図である。
図13】本発明に係るホール起電力補正装置の実施例3を説明するための構成ブロック図である。
図14図13に示したホール駆動電流源の構成図である。
図15】本発明に係るホール起電力補正装置の実施例4を説明するための構成ブロック図である。
図16図15に示した増幅回路の構成図である。
図17】本発明に係るホール起電力補正装置の実施例5を説明するための構成ブロック図で、ホール素子の駆動例(Phase1;ホール抵抗値測定)を説明するための回路構成図である。
図18】本発明に係るホール起電力補正装置の実施例5を説明するための構成ブロック図で、ホール素子の駆動例(Phase2;ホール起電力測定)を説明するための回路構成図である。
図19】本発明に係るホール起電力補正装置の実施例6を説明するための構成ブロック図である。
図20図19における温度及び応力に依存する磁気感度イメージを示す図である。
図21図19における応力が0に補正する場合を示す図である。
図22図19における応力が0の時の磁気感度イメージを示す図である。
図23】ホール素子の外形形状を示す図である。
図24】本発明に係るホール起電力補正装置の実施例1に相当するホール起電力補正方法を説明するためのフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、図面を参照して本発明の各実施例について説明する。
【実施例1】
【0055】
図6は、本発明に係るホール起電力補正装置の実施例1を説明するための構成ブロック図で、図中符号11はホール素子、12はチョッパースイッチ、13はホール抵抗測定部(A/D変換回路)、14はホール起電力測定部(A/D変換回路)、15は温度センサ(温度測定部)、16はA/D変換回路、19はホール起電力補正部、20は補正信号生成部、21は補正係数演算回路、22はホール起電力補正回路、23はホール駆動電流源、24は磁気感度温度特性情報記憶部、25は抵抗値温度特性情報記憶部、26はピエゾ係数温度特性記憶部を示している。
【0056】
本発明のホール起電力補正装置は、ホール素子11の磁気感度に影響を及ぼす応力と温度に基づくホール起電力に対する応力補正と温度補正を行うように構成されたホール起電力補正装置で、ホール起電力を発生するホール素子11と、このホール素子11のホール起電力を補正するための信号を生成する補正信号生成部20とを有するホール起電力補正装置である。
補正信号生成部20は、ホール素子11の異なる端子間の抵抗値に応じた情報と、ホール素子11の温度情報とに基づいて、ホール素子11のホール起電力を補正するための信号を生成するもので、補正係数演算回路21を備えている。
【0057】
また、本発明のホール起電力補正装置は、補正信号生成部20からの補正係数に基づいて、ホール起電力に基づく物理量を補正するホール起電力補正部19を備えている。
また、補正信号生成部20は、ホール素子11の磁気感度温度特性に関する情報に基づきホール素子11のホール起電力を補正するための信号を生成するもので、また、ホール素子11の抵抗値の温度特性に関する情報に基づきホール素子11ホール起電力を補正するための信号を生成するもので、さらには、ホール素子11のピエゾ係数の温度特性に関する情報に基づきホール素子11のホール起電力を補正するための信号を生成するものである。
【0058】
また、ホール抵抗測定部13は、ホール素子11の異なる端子間のホール抵抗値Vを測定するものである。また、ホール起電力測定部14は、ホール素子11のホール起電力Vを測定するものである。さらに、温度測定部15は、ホール素子11の環境温度を測定するものである。
また、ホール起電力補正部19は、補正係数演算回路21とホール起電力補正回路22とからなり、ホール抵抗測定部13によるホール抵抗値Vと温度測定部17の温度出力値Tとに基づいてホール起電力Vに基づく物理量を補正するものである。このホール起電力Vに基づく物理量は、ホール起電力Vだけではなく、V=SI(T,σ)×I×Bに基づき、ホール素子の磁気感度SI(T,σ)、ホール駆動電流I及び磁場Bを含んでいる。
【0059】
また、ホール素子11及びこのホール素子11を駆動するホール駆動電流源23を備え、ホール素子11をチョッパー駆動するためのスイッチ群であるチョッパースイッチ12を備えている。
また、磁気感度温度特性情報記憶部24は、ホール素子11の磁気感度温度特性に関する情報を記憶するもので、補正信号生成部20は、ホール素子11の磁気感度温度特性に関する情報を用いてホール起電力を補正するための信号を生成する
また、抵抗値温度特性情報記憶部25は、ホール素子11の抵抗値の温度特性に関する情報を記憶するもので、補正信号生成部20は、ホール素子11の抵抗値の温度特性に関する情報を用いてホール起電力を補正するための信号を生成する
【0060】
また、ピエゾ係数温度特性記憶部26は、ホール素子11のピエゾ係数の温度特性について記憶するもので、補正信号生成部20は、ホール素子11のピエゾ係数の温度特性に関する情報を用いてホール起電力を補正するための信号を生成する。
本実施例1では、ピエゾ係数温度特性記憶部26に、ホール素子11のピエゾホール係数の温度特性に関する情報とピエゾ抵抗係数の温度特性に関する情報が記憶されており、補正信号生成部20は、ホール素子11のピエゾホール係数の温度特性に関する情報と、ピエゾ抵抗係数の温度特性に関する情報を用いてホール起電力を補正するための信号を生成する。ピエゾ係数は、ピエゾホール係数とピエゾ抵抗係数を含むものとする。
【0061】
図7は、図6に示したホール素子の外形例を示す図である。電極1から電極4の接続をチョッパースイッチ12によって制御する。ホール素子11のホール抵抗値V及びホール起電力Vは、それぞれアナログ/デジタル変換回路(A/D変換回路)に供給される。
図8は、ホール素子の駆動例(Phase1)を説明するための回路構成図で、図9は、ホール素子の駆動例(Phase2)を説明するための回路構成図である。A/D変換回路へのホール抵抗値Vとホール起電力Vとの供給は、図8(Phase1)及び図9(Phase2)に示すように、チョッパー駆動しながら行われる。
【0062】
つまり、図8に示すPhase1において、ホール駆動電圧を電極1と電極3間に印加してホール駆動電流Iを供給すると、電極1と電極3間からホール抵抗値Vが測定され、電極2と電極4間からホール起電力Vが測定される。次に、図9に示すPhase2において、ホール駆動電圧を電極2と電極4間に印加してホール駆動電流Iを供給すると、電極2と電極4間からホール抵抗値Vが測定され、電極1と電極3間からホール起電力Vが測定される。
さらに、温度センサ及び温度センサ出力をデジタル信号に変換するA/D変換回路16を備え、ホール抵抗値V及び温度のデジタル信号Tが、補正信号生成部20の補正係数演算回路21に供給される。ホール起電力Vとホール抵抗値Vは、以下の(14)式で表すことができる。
【0063】
【数14】
【0064】
【数15】
【0065】
上述したPhase1及びPhase2の時のホール抵抗値は、図8及び図9のように、ホール素子を駆動したときのホール抵抗値である。
上記(15)式を変形すると、以下の(16)式のように2方向の応力成分の和を求めることが出来る。
【0066】
【数16】
【0067】
シリコン(100)面におけるピエゾホール係数及びピエゾ抵抗係数は、上述した非特許文献2において報告されており、既知の値で、以下の表1に示してある。
【0068】
【表1】
【0069】
さらに、ホール素子の磁気感度の温度特性(αSI)とホール抵抗値の温度特性(α)と基準磁気感度(SI)と基準ホール抵抗値(R)は、パッケージ前の検査にて測定できる値であり、サンプルバラつきを許容できる場合は、あらかじめ測定しておいた代表値でもよい。ホール駆動電流も出荷前に検査にて測定することが出来る。
また、磁気感度の温度特性(αSI)及びホール抵抗値の温度特性(αR)に関する情報は、「式で保持」「テーブルで保持」どちらでもよい。
このように(14)〜(16)式におけるパラメータ値は、全て既知もしくは測定できる値であるため、正確に磁気感度を計算することが出来る。正確に磁気感度を計算することができるため、正確な磁場を検出することが可能である。
具体的には、(14)式(16)式を用いると、磁場Bは(17)式及び(18)式で表すことが出来る。
【0070】
【数17】
【0071】
【数18】
【0072】
なお、(18)式中のαSI(T)SI部分は、温度補正係数Kを示し、1+Q(T)(R+R−2α(T)R)/α(T)R部分は、応力補正係数Kσを示している。
上記(18)式における補正係数Kは、図6に示した補正係数演算回路21において算出する。この補正係数演算回路21において算出した補正係数Kを用いて、ホール素子11のホール起電力の応力と温度による変動分を補正し、正確な磁場Bを求めることが出来る。
【0073】
図10は、図6に示した補正係数演算回路によるホール起電力補正方法を説明するためのフローチャートを示す図である。
まず、図8に示すPhase1において、ホール抵抗値Rを測定し、ホール起電力Vを測定する(ステップS1)。次に、ホール抵抗値RをA/D変換回路に入力し、ホール起電力VをA/D変換回路に入力して、デジタル信号としてデータ保持する(ステップS2)。次に、図9に示すPhase2において、ホール抵抗値Rを測定し、ホール起電力Vを測定する(ステップS3)。次に、ホール抵抗値RをA/D変換回路に入力し、ホール起電力VをA/D変換回路に入力して、デジタル信号としてデータ保持する(ステップS4)。また、温度センサ15により測定された温度値TをA/D変換回路16に入力して、デジタル信号としてデータ保持する(ステップS5)。
【0074】
次に、補正信号生成部20の補正係数演算回路21にホール抵抗値Rとホール抵抗値Rと温度値Tとを入力して補正係数Kを算出する(ステップS6)。次に、補正係数演算回路21により算出された補正係数Kをホール起電力補正回路22に入力してホール起電力Vを補正する(ステップS7)。
図11は、図6に示した補正係数演算回路の具体的な構成ブロック図である。なお、図6と同じ機能を有する構成要素には同一の符号を付してある。
図8に示すPhase1において、ホール抵抗値Rを測定してA/D変換回路に入力し、図9に示すPhase2において、ホール抵抗値Rを測定してA/D変換回路に入力する。一方、温度センサ15により測定された温度値TをA/D変換回路16に入力する。
【0075】
補正係数演算回路21において、A/D変換回路16によりデジタル信号に変換された温度値Tに基づくホール素子の抵抗値の温度特性α(T)と、応力0の時の基準温度におけるホール抵抗値Rとを掛け合わせてB=α(T)Rを得る。また、A/D変換回路によりデジタル信号に変換されたホール抵抗値RとRを加算するとともに、このR+Rに、B=α(T)Rに−2を掛け合わせた−2α(T)Rを加算して、A=R+R−2α(T)Rを得る。
次に、A÷Bを演算して、A/B=(R+R−2α(T)R)/α(T)Rを得る。これに温度値Tに基づくQ(T)を掛け合わせて1を加算すると、応力補正係数Kσ=1+Q(T)(R+R−2α(T)R)/α(T)Rを得る。また、温度値Tに基づくホール素子の磁気感度温度特性αSI(T)と、応力0の時の基準温度におけるホール素子の磁気感度SIとを掛け合わせて温度補正係数K=αSI(T)SIを得る。
【0076】
次に、応力補正係数Kσと温度補正係数Kとを掛け合わせて、さらにホール駆動電流Iを掛け合わせて補正係数K=αSI(T)SI(1+Q(T)(R+R−2α(T)R)/α(T)R)Iを得る。つまり、上述した(18)式を得る。この補正係数Kは、(18)式から明らかなように、応力補正係数Kσと温度補正係数Kとからなっていることがわかる。
さらに、A/D変換回路によりデジタル信号に変換されたホール起電力Vを、ホール起電力補正回路22でV÷Kを演算するとホール起電力の補正値が得られる。このようにして、図11に示した応力補正係数Kσ及び温度補正係数Kを合わせた補正係数Kを求めることで、ホール起電力の補正を行うことが出来る。
【0077】
上述した補正係数演算回路21からの補正係数Kは、磁気感度の温度特性影響補正と応力影響補正が含まれている。特別な回路を用意することなしに、温度特性影響と応力影響を同時に補正する補正係数Kを求めることが出来るため、より簡便にホール素子の磁気感度を高精度に補正する方法を提供することが可能となる。
【実施例2】
【0078】
図12は、本発明に係るホール起電力補正装置の実施例2を説明するための構成ブロック図で、図中符号31は共有化したA/D変換回路を示している。なお、図6と同じ機能を有する構成要素には同一の符号を付してある。また、ホール抵抗測定部13とホール起電力測定部15の表記は省略してある。
本実施例2のホール起電力補正装置は、ホール抵抗測定部13とホール起電力測定部14と温度測定部15の共有化したA/D変換回路31を備えている。つまり、ホール抵抗測定部13からの抵抗値とホール起電力測定部14からホール起電力と温度測定部15からの温度値とを共有化したA/D変換回路31を用いて時分割で測定する。
ここで応力や温度は、時間に対して緩やかに変化するものであるため、常時測定する必要はない。そのため、図12のように、A/D変換回路を共通化して時分割方式で測定することが可能である。
【実施例3】
【0079】
図13は、本発明に係るホール起電力補正装置の実施例3を説明するための構成ブロック図で、ホール駆動電流によるホール起電力の補正を行うように構成された構成ブロック図で、図14は、図13に示したホール駆動電流源の構成図である。図中符号32は、ホール抵抗測定部13と温度測定部15とが、共有化したA/D変換回路32を示している。なお、図6と同じ機能を有する構成要素には同一の符号を付してある。また、ホール抵抗測定部13とホール起電力測定部14の表記は省略してある。
本実施例3のホール起電力補正装置は、ホール素子11を駆動するホール駆動電流源23の電流Iを補正係数演算回路21からの補正係数Kにより補正し、補正された電流でホール素子を駆動することによりホール起電力を補正する。補正係数Kの値によって、ホール駆動電流を選択するスイッチ23a,23bを設けている。
【実施例4】
【0080】
図15は、本発明に係るホール起電力補正装置の実施例4を説明するための構成ブロック図で、増幅回路によるホール起電力の補正を行うように構成された構成ブロック図で、図16は、図15に示した増幅回路の構成図である。図中符号33は増幅回路、33aは演算増幅器を示している。なお、図6と同じ機能を有する構成要素には同一の符号を付してある。また、ホール抵抗測定部13とホール起電力測定部14の表記は省略してある。
本実施例4のホール起電力補正装置は、ホール起電力測定部15からのホール起電力を増幅する増幅回路33を設け、この増幅回路33の増幅率を補正係数演算回路21からの補正係数Kにより補正し、補正された増幅率でホール起電力を増幅する。つまり、ホール起電力を信号処理する経路に増幅回路33がある場合には、この増幅回路33の増幅率を補正係数Kで補正しても良い。
さらに、上記(18)式の補正係数から、温度補正係数Kだけを抜き出すことも可能であり、温度補正のみを実行しても良い。これは、上記(18)式の補正係数Kの中の一部分である以下の(19)式を用いて補正することに相当する。
【0081】
【数19】
【0082】
さらに、上記(18)式の補正係数から、応力補正係数Kσだけを抜き出すことも可能であり、応力補正のみを実行しても良い。これは、上記(18)式の補正係数Kの中の一部分である以下の(20)式を用いて補正することに相当する。
【0083】
【数20】
【実施例5】
【0084】
また、応力の算出は、上述した図8及び図9のように、2方向の抵抗値を測定することで求めることが出来るが、図17のように電流を隣り合う端子に流すことで、1度に測定することも可能である。この場合、Phase1で応力成分を測定し(図17)、Phase2でホール起電力を測定する(図18)ことも可能である。
図17は、本発明に係るホール起電力補正装置の実施例5を説明するための構成ブロック図で、ホール素子の駆動例(Phase1;ホール抵抗値測定)を説明するための回路構成図で、図18は、本発明に係るホール起電力補正装置の実施例5を説明するための構成ブロック図で、ホール素子の駆動例(Phase2;ホール起電力測定)を説明するための回路構成図である。A/D変換回路へのホール抵抗値Vとホール起電力Vとの供給は、図17(Phase1)及び図18(Phase2)に示すように、チョッパー駆動しながら行われる。
【0085】
まず、図17に示すPhase1において、ホール駆動電圧を電極1と電極2間に印加してホール駆動電流Iを供給すると、電極1と電極2間からホール抵抗値Vが測定される。次に、図18に示すPhase2において、ホール駆動電圧を電極2と電極4間に印加してホール駆動電流Iを供給すると、電極1と電極3間からホール起電力Vが測定される。
つまり、ホール素子11の電極1乃至電極4に接続されたチョッパースイッチ12を備え、このチョッパースイッチ12が、チョッパー駆動により、電極1と電極2間にホール駆動電圧を印加してホール駆動電流Iを供給し、電極1と電極2間からホール抵抗値Vが測定され、電極2と電極4間にホール駆動電圧を印加してホール駆動電流Iを供給し、電極1と電極3間からホール起電力Vが測定される。
【実施例6】
【0086】
図19は、本発明に係るホール起電力補正装置の実施例6を説明するための構成ブロック図で、応力補正回路と温度補正回路を分離して場合の構成ブロックである。図中符号41は応力補正回路、42は温度補正回路を示している。なお、図6と同じ機能を有する構成要素には同一の符号を付してある。また、ホール素子抵抗測定部13とホール素子起電力測定部14の表記は省略してある。
本実施例6のホール起電力補正装置は、ホール起電力測定部14の後段に応力補正回路41と温度補正回路42を設け、ホール起電力を補正係数演算回路21からの応力補正係数Kσと温度補正係数Kとによりホール起電力を補正する。つまり、応力補正を先に行い、次に温度に対する補正を行うことも出来る。
【0087】
図20は、図19における温度及び応力に依存する磁気感度イメージを示す図で、図21は、図19における応力が0に補正する場合を示す図で、図22は、図19における応力が0の時の磁気感度イメージを示す図である。
図20に示すように、温度と応力の2変数によって変化する磁気感度に対して、第1段階として、図21に示すように、応力=0の軸に変換し、図22に示すように、磁気感度を1変数関数にすることに相当する。また、温度補正を先に行い、次に応力補正を行うことも可能である。さらに、温度補正もしくは応力補正のどちらか一方のみを行うことも可能である。
【0088】
図23は、ホール素子の外形形状を示す図である。このホール素子の外形形状を十字型とすることで、ホール素子を駆動する電流の向きとピエゾ抵抗係数の向きが一致し、より応力補正の精度を向上させることが出来る。つまり、ホール抵抗測定部13は、十字型の形状を有するホール素子の2方向以上の通電方向の抵抗値を測定する。
また、上述した図11に示すように、ホール起電力に対して補正を行うのではなく、以下の(21)式のように、磁場B補正前を求めた後に補正係数をかけて磁場B補正後を求めても良い。
【0089】
【数21】
【0090】
このように、ホール素子1個と温度センサを用いて、レイアウト面積の増大や消費電流の増加を抑えつつ、応力補正と温度補正を行うことで、より簡便にホール素子の磁気感度を高精度に補正するホール起電力補正装置を実現することができる。
【0091】
図24は、本発明に係るホール起電力補正装置の実施例1に相当するホール起電力補正方法を説明するためのフローチャートを示す図である。
このホール起電力補正方法は、ホール素子11の磁気感度に影響を及ぼす応力と温度に基づくホール起電力に対する応力補正と温度補正を行うように構成されたホール起電力補正装置におけるホール起電力補正方法である。
まず、ホール素子11の有する複数の電極間の2方向以上の通電方向のホール抵抗値Vをホール抵抗測定部13により測定する(ステップS11)。次に、ホール素子11のホール起電力Vをホール起電力測定部14により測定する(ステップS12)。次に、ホール素子11の環境温度を温度測定部15により測定する(ステップS13)。
【0092】
次に、ホール抵抗測定部13により測定されたホール抵抗値Vと、温度測定部15により測定された温度出力値Tとから補正係数Kを補正係数演算回路21により算出する(ステップS14)。
次に、ホール抵抗測定部13によるホール抵抗値Vと温度測定部15の温度出力値Tに基づいてホール起電力Vをホール起電力補正回路22により補正し、補正係数演算回路21により算出された補正係数Kを用いてホール起電力を補正する(ステップS15)。
【0093】
このように、ホール素子1個と温度センサを用いて、レイアウト面積の増大や消費電流の増加を抑えつつ、応力補正と温度補正を行うことで、より簡便にホール素子の磁気感度を高精度に補正するホール起電力補正方法を実現することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 リードフレーム
2 ホール素子
3 半導体集積回路
4 モールド樹脂
11 ホール素子
12 チョッパースイッチ
13 ホール抵抗測定部
14 ホール起電力測定部
15 温度センサ(温度測定部)
16 A/D変換回路
19 ホール起電力補正部
20 補正信号生成部
21 補正係数演算回路
22 ホール起電力補正回路
23 ホール駆動電流源
23a,23b スイッチ
24 磁気感度温度特性情報記憶部
25 抵抗値温度特性情報記憶部
26 ピエゾ係数温度特性記憶部
31,32 共有化したA/D変換回路
33 増幅回路
33a 演算増幅器
41 応力補正回路
42 温度補正回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24