【実施例1】
【0055】
図6は、本発明に係るホール起電力補正装置の実施例1を説明するための構成ブロック図で、図中符号11はホール素子、12はチョッパースイッチ、13はホール抵抗測定部(A/D変換回路)、14はホール起電力測定部(A/D変換回路)、15は温度センサ(温度測定部)、16はA/D変換回路、19はホール起電力補正部、20は補正信号生成部、21は補正係数演算回路、22はホール起電力補正回路、23はホール駆動電流源、24は磁気感度温度特性情報記憶部、25は抵抗値温度特性情報記憶部、26はピエゾ係数温度特性記憶部を示している。
【0056】
本発明のホール起電力補正装置は、ホール素子11の磁気感度に影響を及ぼす応力と温度に基づくホール起電力に対する応力補正と温度補正を行うように構成されたホール起電力補正装置で、ホール起電力を発生するホール素子11と、このホール素子11のホール起電力を補正するための信号を生成する補正信号生成部20とを有するホール起電力補正装置である。
補正信号生成部20は、ホール素子11の異なる端子間の抵抗値に応じた情報と、ホール素子11の温度情報とに基づいて、ホール素子11のホール起電力を補正するための信号を生成するもので、補正係数演算回路21を備えている。
【0057】
また、本発明のホール起電力補正装置は、補正信号生成部20からの補正
係数に基づいて、ホール起電力に基づく物理量を補正するホール起電力補正部19を備えている。
また、補正信号生成部20は、ホール素子11の磁気感度温度特性に関する情報に基づきホール素子11のホール起電力を補正するための信号を生成するもので、また、ホール素子11の抵抗値の温度特性に関する情報に基づきホール素子11ホール起電力を補正するための信号を生成するもので、さらには、ホール素子11のピエゾ係数の温度特性に関する情報に基づきホール素子11のホール起電力を補正するための信号を生成するものである。
【0058】
また、ホール抵抗測定部13は、ホール素子11の異なる端子間のホール抵抗値V
Rを測定するものである。また、ホール起電力測定部14は、ホール素子11のホール起電力V
Hを測定するものである。さらに、温度測定部15は、ホール素子11の環境温度を測定するものである。
また、ホール起電力補正部19は、補正係数演算回路21とホール起電力補正回路22とからなり、ホール抵抗測定部13によるホール抵抗値V
Rと温度測定部17の温度出力値Tとに基づいてホール起電力V
Hに基づく物理量を補正するものである。このホール起電力V
Hに基づく物理量は、ホール起電力V
Hだけではなく、V
H=SI(T,σ)×I×Bに基づき、ホール素子の磁気感度SI(T,σ)、ホール駆動電流I及び磁場Bを含んでいる。
【0059】
また、ホール素子11及びこのホール素子11を駆動するホール駆動電流源23を備え、ホール素子11をチョッパー駆動するためのスイッチ群であるチョッパースイッチ12を備えている。
また、磁気感度温度特性情報記憶部24は、ホール素子11の磁気感度温度特性に関する情報を記憶するもので、補正信号生成部20は、ホール素子11の磁気感度温度特性に関する情報を用いてホール起電力を補正する
ための信号を生成する。
また、抵抗値温度特性情報記憶部25は、ホール素子11の抵抗値の温度特性に関する情報を記憶するもので、補正信号生成部20は、ホール素子11の抵抗値の温度特性に関する情報を用いてホール起電力を補正する
ための信号を生成する。
【0060】
また、ピエゾ係数温度特性記憶部26は、ホール素子11のピエゾ係数の温度特性について記憶するもので、補正信号生成部20は、ホール素子11のピエゾ係数の温度特性に関する情報を用いてホール起電力を補正するための信号を生成する。
本実施例1では、ピエゾ係数温度特性記憶部26に、ホール素子11のピエゾホール係数の温度特性に関する情報とピエゾ抵抗係数の温度特性に関する情報が記憶されており、補正信号生成部20は、ホール素子11のピエゾホール係数の温度特性に関する情報と、ピエゾ抵抗係数の温度特性に関する情報を用いてホール起電力を補正するための信号を生成する。ピエゾ係数は、ピエゾホール係数とピエゾ抵抗係数を含むものとする。
【0061】
図7は、
図6に示したホール素子の外形例を示す図である。電極1から電極4の接続をチョッパースイッチ12によって制御する。ホール素子11のホール抵抗値V
R及びホール起電力V
Hは、それぞれアナログ/デジタル変換回路(A/D変換回路)に供給される。
図8は、ホール素子の駆動例(Phase1)を説明するための回路構成図で、
図9は、ホール素子の駆動例(Phase2)を説明するための回路構成図である。A/D変換回路へのホール抵抗値V
Rとホール起電力V
Hとの供給は、
図8(Phase1)及び
図9(Phase2)に示すように、チョッパー駆動しながら行われる。
【0062】
つまり、
図8に示すPhase1において、ホール駆動電圧を電極1と電極3間に印加してホール駆動電流Iを供給すると、電極1と電極3間からホール抵抗値V
Rが測定され、電極2と電極4間からホール起電力V
Hが測定される。次に、
図9に示すPhase2において、ホール駆動電圧を電極2と電極4間に印加してホール駆動電流Iを供給すると、電極2と電極4間からホール抵抗値V
Rが測定され、電極1と電極3間からホール起電力V
Hが測定される。
さらに、温度センサ及び温度センサ出力をデジタル信号に変換するA/D変換回路16を備え、ホール抵抗値V
R及び温度のデジタル信号Tが、補正信号生成部20の補正係数演算回路21に供給される。ホール起電力V
Hとホール抵抗値V
Rは、以下の(14)式で表すことができる。
【0063】
【数14】
【0064】
【数15】
【0065】
上述したPhase1及びPhase2の時のホール抵抗値は、
図8及び
図9のように、ホール素子を駆動したときのホール抵抗値である。
上記(15)式を変形すると、以下の(16)式のように2方向の応力成分の和を求めることが出来る。
【0066】
【数16】
【0067】
シリコン(100)面におけるピエゾホール係数及びピエゾ抵抗係数は、上述した非特許文献2において報告されており、既知の値で、以下の表1に示してある。
【0068】
【表1】
【0069】
さらに、ホール素子の磁気感度の温度特性(α
SI)とホール抵抗値の温度特性(α
R)と基準磁気感度(SI
0)と基準ホール抵抗値(R
0)は、パッケージ前の検査にて測定できる値であり、サンプルバラつきを許容できる場合は、あらかじめ測定しておいた代表値でもよい。ホール駆動電流も出荷前に検査にて測定することが出来る。
また、磁気感度の温度特性(α
SI)及びホール抵抗値の温度特性(α
R)に関する情報は、「式で保持」「テーブルで保持」どちらでもよい。
このように(14)〜(16)式におけるパラメータ値は、全て既知もしくは測定できる値であるため、正確に磁気感度を計算することが出来る。正確に磁気感度を計算することができるため、正確な磁場を検出することが可能である。
具体的には、(14)式(16)式を用いると、磁場Bは(17)式及び(18)式で表すことが出来る。
【0070】
【数17】
【0071】
【数18】
【0072】
なお、(18)式中のα
SI(T)SI
0部分は、温度補正係数K
Tを示し、1+Q(T)(R
1+R
2−2α
R(T)R
0)/α
R(T)R
0部分は、応力補正係数Kσを示している。
上記(18)式における補正係数Kは、
図6に示した補正係数演算回路21において算出する。この補正係数演算回路21において算出した補正係数Kを用いて、ホール素子11のホール起電力の応力と温度による変動分を補正し、正確な磁場Bを求めることが出来る。
【0073】
図10は、
図6に示した補正係数演算回路によるホール起電力補正方法を説明するためのフローチャートを示す図である。
まず、
図8に示すPhase1において、ホール抵抗値R
1を測定し、ホール起電力V
Hを測定する(ステップS1)。次に、ホール抵抗値R
1をA/D変換回路に入力し、ホール起電力V
HをA/D変換回路に入力して、デジタル信号としてデータ保持する(ステップS2)。次に、
図9に示すPhase2において、ホール抵抗値R
2を測定し、ホール起電力V
Hを測定する(ステップS3)。次に、ホール抵抗値R
2をA/D変換回路に入力し、ホール起電力V
HをA/D変換回路に入力して、デジタル信号としてデータ保持する(ステップS4)。また、温度センサ15により測定された温度値TをA/D変換回路16に入力して、デジタル信号としてデータ保持する(ステップS5)。
【0074】
次に、補正信号生成部20の補正係数演算回路21にホール抵抗値R
1とホール抵抗値R
2と温度値Tとを入力して補正係数Kを算出する(ステップS6)。次に、補正係数演算回路21により算出された補正係数Kをホール起電力補正回路22に入力してホール起電力V
Hを補正する(ステップS7)。
図11は、
図6に示した補正係数演算回路の具体的な構成ブロック図である。なお、
図6と同じ機能を有する構成要素には同一の符号を付してある。
図8に示すPhase1において、ホール抵抗値R
1を測定してA/D変換回路に入力し、
図9に示すPhase2において、ホール抵抗値R
2を測定してA/D変換回路に入力する。一方、温度センサ15により測定された温度値TをA/D変換回路16に入力する。
【0075】
補正係数演算回路21において、A/D変換回路16によりデジタル信号に変換された温度値Tに基づくホール素子の抵抗値の温度特性α
R(T)と、応力0の時の基準温度におけるホール抵抗値R
0とを掛け合わせてB=α
R(T)R
0を得る。また、A/D変換回路によりデジタル信号に変換されたホール抵抗値R
1とR
2を加算するとともに、このR
1+R
2に、B=α
R(T)R
0に−2を掛け合わせた−2α
R(T)R
0を加算して、A=R
1+R
2−2α
R(T)R
0を得る。
次に、A÷Bを演算して、A/B=(R
1+R
2−2α
R(T)R
0)/α
R(T)R
0を得る。これに温度値Tに基づくQ(T)を掛け合わせて1を加算すると、応力補正係数Kσ=1+Q(T)(R
1+R
2−2α
R(T)R
0)/α
R(T)R
0を得る。また、温度値Tに基づくホール素子の磁気感度温度特性α
SI(T)と、応力0の時の基準温度におけるホール素子の磁気感度SI
0とを掛け合わせて温度補正係数K
T=α
SI(T)SI
0を得る。
【0076】
次に、応力補正係数Kσと温度補正係数K
Tとを掛け合わせて、さらにホール駆動電流Iを掛け合わせて補正係数K=α
SI(T)SI
0(1+Q(T)(R
1+R
2−2α
R(T)R
0)/α
R(T)R
0)Iを得る。つまり、上述した(18)式を得る。この補正係数Kは、(18)式から明らかなように、応力補正係数Kσと温度補正係数K
Tとからなっていることがわかる。
さらに、A/D変換回路によりデジタル信号に変換されたホール起電力V
Hを、ホール起電力補正回路22でV
H÷Kを演算するとホール起電力の補正値が得られる。このようにして、
図11に示した応力補正係数Kσ及び温度補正係数K
Tを合わせた補正係数Kを求めることで、ホール起電力の補正を行うことが出来る。
【0077】
上述した補正係数演算回路21からの補正係数Kは、磁気感度の温度特性影響補正と応力影響補正が含まれている。特別な回路を用意することなしに、温度特性影響と応力影響を同時に補正する補正係数Kを求めることが出来るため、より簡便にホール素子の磁気感度を高精度に補正する方法を提供することが可能となる。
【実施例6】
【0086】
図19は、本発明に係るホール起電力補正装置の実施例6を説明するための構成ブロック図で、応力補正回路と温度補正回路を分離して場合の構成ブロックである。図中符号41は応力補正回路、42は温度補正回路を示している。なお、
図6と同じ機能を有する構成要素には同一の符号を付してある。また、ホール素子抵抗測定部13とホール素子起電力測定部14の表記は省略してある。
本実施例6のホール起電力補正装置は、ホール起電力測定部14の後段に応力補正回路41と温度補正回路42を設け、ホール起電力を補正係数演算回路21からの応力補正係数Kσと温度補正係数K
Tとによりホール起電力を補正する。つまり、応力補正を先に行い、次に温度に対する補正を行うことも出来る。
【0087】
図20は、
図19における温度及び応力に依存する磁気感度イメージを示す図で、
図21は、
図19における応力が0に補正する場合を示す図で、
図22は、
図19における応力が0の時の磁気感度イメージを示す図である。
図20に示すように、温度と応力の2変数によって変化する磁気感度に対して、第1段階として、
図21に示すように、応力=0の軸に変換し、
図22に示すように、磁気感度を1変数関数にすることに相当する。また、温度補正を先に行い、次に応力補正を行うことも可能である。さらに、温度補正もしくは応力補正のどちらか一方のみを行うことも可能である。
【0088】
図23は、ホール素子の外形形状を示す図である。このホール素子の外形形状を十字型とすることで、ホール素子を駆動する電流の向きとピエゾ抵抗係数の向きが一致し、より応力補正の精度を向上させることが出来る。つまり、ホール抵抗測定部13は、十字型の形状を有するホール素子の2方向以上の通電方向の抵抗値を測定する。
また、上述した
図11に示すように、ホール起電力に対して補正を行うのではなく、以下の(21)式のように、磁場B
補正前を求めた後に補正係数をかけて磁場B
補正後を求めても良い。
【0089】
【数21】
【0090】
このように、ホール素子1個と温度センサを用いて、レイアウト面積の増大や消費電流の増加を抑えつつ、応力補正と温度補正を行うことで、より簡便にホール素子の磁気感度を高精度に補正するホール起電力補正装置を実現することができる。
【0091】
図24は、本発明に係るホール起電力補正装置の実施例1に相当するホール起電力補正方法を説明するためのフローチャートを示す図である。
このホール起電力補正方法は、ホール素子11の磁気感度に影響を及ぼす応力と温度に基づくホール起電力に対する応力補正と温度補正を行うように構成されたホール起電力補正装置におけるホール起電力補正方法である。
まず、ホール素子11の有する複数の電極間の2方向以上の通電方向のホール抵抗値V
Rをホール抵抗測定部13により測定する(ステップS11)。次に、ホール素子11のホール起電力V
Hをホール起電力測定部14により測定する(ステップS12)。次に、ホール素子11の環境温度を温度測定部15により測定する(ステップS13)。
【0092】
次に、ホール抵抗測定部13により測定されたホール抵抗値V
Rと、温度測定部15により測定された温度出力値Tとから補正係数Kを補正係数演算回路21により算出する(ステップS14)。
次に、ホール抵抗測定部13によるホール抵抗値V
Rと温度測定部15の温度出力値Tに基づいてホール起電力V
Hをホール起電力補正回路22により補正し、補正係数演算回路21により算出された補正係数Kを用いてホール起電力を補正する(ステップS15)。
【0093】
このように、ホール素子1個と温度センサを用いて、レイアウト面積の増大や消費電流の増加を抑えつつ、応力補正と温度補正を行うことで、より簡便にホール素子の磁気感度を高精度に補正するホール起電力補正方法を実現することができる。