(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記液滴乾燥工程(III)より得られる複数の前記複合粒子からなる前記複合粒子群の、個数基準で求めた粒子径分布における40μm以下の累積頻度が50%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の電気化学素子電極用複合粒子の製造方法。
前記液滴乾燥工程(III)より得られる複数の前記複合粒子からなる前記複合粒子群の、体積基準で求めた粒子径分布におけるモード径の頻度が12%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電気化学素子電極用複合粒子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態に係る電気化学素子電極用複合粒子(以下、単に「複合粒子」ということがある。)の製造方法について説明する。
【0021】
<電気化学素子電極用複合粒子の製造方法>
本発明の電気化学素子電極用複合粒子の製造方法は、少なくとも活物質、および結着剤を溶媒に分散してスラリーを得るスラリー化工程(I)、このスラリーを静電微粒化法により液滴とする液滴生成工程(II)、そして生成した液滴を乾燥により固形化させる液滴乾燥工程(III)を有する。以下、各工程について説明する。
【0022】
(スラリー化工程(I))
スラリー化工程(I)においては、上記した活物質、および結着剤ならびに必要に応じて溶解型樹脂、導電材、およびその他の添加剤を溶媒に分散または溶解して、活物質、および結着剤ならびに必要に応じて溶解型樹脂、導電材およびその他の添加剤が分散または溶解されてなるスラリーを得る。以下、スラリーに用いる各成分について説明する。
【0023】
<活物質>
本発明の複合粒子を構成する活物質は、電気化学素子の種類によって適宜選択される。例えば、複合粒子に用いる活物質にリチウムイオン二次電池の正極用活物質を用いることで複合粒子をリチウムイオン二次電池正極用複合粒子として機能させることができる。また、同様にして複合粒子に用いる活物質にリチウムイオン二次電池の負極用活物質を用いることで複合粒子をリチウムイオン二次電池負極用複合粒子として機能させることができる。
【0024】
リチウムイオン二次電池の正極用活物質としては、ここに例示されるものに限定されるものではないが、例えばLiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2、LiMn
2O
4、LiFePO
4、LiFeVO
4、およびこれらの元素を一部置換したリチウム含有複合金属酸化物; TiS
2、TiS
3、非晶質MoS
3などの遷移金属硫化物; Cu
2V
2O
3、非晶質V
2O・P
2O
5、MoO
3、V
2O
5、V
6O
13などの遷移金属酸化物; が挙げられる。さらに、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレンなどの導電性高分子が挙げられる。
【0025】
さらに、無機化合物及び有機化合物を組み合わせた複合材料からなる正極用活物質を用いてもよい。
また、例えば、鉄系酸化物を炭素源物質の存在下において還元焼成することで、炭素材料で覆われた複合材料を作製し、この複合材料を正極用活物質として用いてもよい。鉄系酸化物は電気伝導性に乏しい傾向があるが、前記のような複合材料にすることにより、高性能な正極用活物質として使用できる。さらに、前記の化合物を部分的に元素置換したものを正極用活物質として用いてもよい。 これらの正極用活物質は、1種類だけを用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、前述の無機化合物と有機化合物との混合物を正極用活物質として用いてもよい。
【0026】
正極用活物質の粒子径は、電池の他の構成要件との兼ね合いで適宜選択される。負荷特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、正極用活物質のメディアン径は、通常0.1μm以上、好ましくは1μm以上であり、通常50μm以下、好ましくは20μm以下である。正極用活物質のメディアン径がこの範囲であると、充放電容量が大きい二次電池を得ることができ、かつ合剤スラリーを製造する際の取扱いが容易である。
【0027】
リチウムイオン二次電池の負極用活物質としては、ここに例示されるものに限定されるものではないが、例えば、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、人造黒鉛、メゾカーボンマイクロビーズ、ピッチ系炭素繊維等の炭素質材料;ポリアセン等の導電性重合体;などが挙げられる。また、ケイ素、錫、亜鉛、マンガン、鉄およびニッケル等の金属並びにこれらの合金;前記金属又は合金の酸化物;前記金属又は合金の硫酸塩;なども挙げられる。また、金属リチウム;Li−Al、Li−Bi−Cd、Li−Sn−Cd等のリチウム合金;リチウム遷移金属窒化物;シリコン;チタン酸リチウム、酸化チタン等を使用してもよい。また、活物質は、機械的改質法により表面に導電材を付着させたものを使用してもよい。
これらの負極用活物質は、1種類だけを用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0028】
負極用活物質の粒子径は、電池の他の構成要件との兼ね合いで適宜選択される。初期効率、負荷特性、高温サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、負極用活物質のメディアン径は、通常1〜50μmであり、好ましくは5〜30μmである。
【0029】
また、複合粒子に用いる活物質にナトリウムイオン二次電池活物質を用いることで電気化学素子をナトリウムイオン二次電池として機能させることができる。
ナトリウムイオン二次電池の正極用活物質としては、ここに例示されるものに限定されるものではないが、NaFeO
2、NaMnO
2、NaNiO
2およびNaCoO
2等のNaM1
a1O
2で表される酸化物、Na
0.44Mn
1-a2M1
a2O
2で表される酸化物、Na
0.7Mn
1-a2M1
a2O
2.05で表される酸化物(M1は1種以上の遷移金属元素、0<a1<1、0≦a2<1);Na
6Fe
2Si
12O
30およびNa
2Fe
5Si
12O
30等のNa
bM2
cSi
12O
30で表される酸化物(M2は1種以上の遷移金属元素、2≦b≦6、2≦c≦5); Na
2Fe
2Si
6O
18およびNa
2MnFeSi
6O
18等のNa
dM3
eSi
6O
18で表される酸化物(M3は1種以上の遷移金属元素、2≦d≦6、1≦e≦2); Na
2FeSiO
6等のNa
fM4
gSi
2O
6で表される酸化物(M4は遷移金属元素、MgおよびAlからなる群より選ばれる1種以上の元素、1≦f≦2、1≦g≦2)NaFePO
4、NaMnPO
4、Na
3Fe
2(PO
4)
3等のリン酸塩;Na
2FePO
4F、Na
2VPO
4F、Na
2MnPO
4F、Na
2CoPO
4F、Na
2NiPO
4F等のフッ化リン酸塩;NaFeSO
4F、NaMnSO
4F、NaCoSO
4F、NaFeSO
4F等のフッ化硫酸塩;NaFeBO
4、Na
3Fe
2(BO
4)
3等のホウ酸塩;およびNa
3FeF
6、Na
2MnF
6等のNahM5F
6で表されるフッ化物(M5は1種以上の遷移金属元素、2≦h≦3)。
【0030】
ナトリウムイオン二次電池の負極用活物質としては、ナトリウムイオンをドープ、脱ドープできる材料がナトリウムイオン二次電池負極用活物質として使用が可能である。ここに例示されるものに限定されるものではないが、例えば、炭素材料が挙げられる。
【0031】
また、複合粒子に用いる活物質に電気化学キャパシタ用活物質を用いることで電気化学素子を電気化学キャパシタとして機能させることができる。活物質に活性炭を選択し、この活物質を用いた複合粒子からなる電気化学素子電極を正極および負極に用いることで電気化学キャパシタを電気二重層キャパシタとして機能させることができる。
【0032】
また、この活性炭を活物質に用いた複合粒子からなる電気化学素子電極を正極に、上記リチウムイオン二次電池負極用活物質を活物質に用いた複合粒子からなる電気化学素子電極を負極に用いることで電気化学素子をリチウムイオンキャパシタとして機能させることができる。
【0033】
以上、上記した本発明の複合粒子が適用可能な電気化学素子はあくまで例示に過ぎず、開示した電気化学素子に何ら限定されるものでない。当業者であれば電気化学的に活性な物質を活物質として本発明の複合粒子に用いることで種々の電気化学素子を機能させることが容易に想到できる。
【0034】
<結着剤>
本発明に用いる結着剤としては、上述の活物質を相互に結着させることができる物質であれば特に限定はない。結着剤としては、水溶性の結着剤、溶媒に分散する性質のある分散型結着剤を好ましく用いることができ、分散型結着剤を用いることがより好ましい。
【0035】
分散型結着剤として、例えば、シリコン系重合体、フッ素含有重合体、共役ジエン系重合体、アクリレート系重合体、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン等の高分子化合物が挙げられ、好ましくはフッ素含有重合体、共役ジエン系重合体およびアクリレート系重合体、より好ましくは共役ジエン系重合体およびアクリレート系重合体が挙げられる。これらの重合体は、それぞれ単独で、または2種以上混合して、分散型結着剤として用いることができる。
【0036】
フッ素系重合体は、フッ素原子を含む単量体単位を含有する重合体である。フッ素系重合体の具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体、パーフルオロエチレン・プロペン共重合体が挙げられる。中でもPVDFを含むことが好ましい。
【0037】
共役ジエン系重合体は、共役ジエンの単独重合体もしくは共役ジエンを含む単量体混合物を重合して得られる共重合体、またはそれらの水素添加物である。共役ジエン系単量体として、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などを用いることが好ましく、電極とした際における柔軟性を向上させることができ、割れに対する耐性を高いものとすることができる点で1,3−ブタジエンを用いることがより好ましい。また、単量体混合物においてはこれらの共役ジエン系単量体を2種以上含んでもよい。
【0038】
共役ジエン系重合体が、上述した共役ジエン系単量体と、これと共重合可能な単量体との共重合体である場合、かかる共重合可能な単量体としては、たとえば、α,β−不飽和ニトリル化合物や酸成分を有するビニル化合物などが挙げられる。
【0039】
共役ジエン系重合体の具体例としては、ポリブタジエンやポリイソプレンなどの共役ジエン単独重合体; カルボキシ変性されていてもよいスチレン・ブタジエン共重合体(SBR)などの芳香族ビニル・共役ジエン共重合体;アクリロニトリル・ブタジエン共重合体(NBR)などのシアン化ビニル・共役ジエン共重合体;水素化SBR、水素化NBR等が挙げられる。
【0040】
アクリレート系重合体は、一般式(1):CH
2=CR
1−COOR
2(式中、R
1は水素原子またはメチル基を、R
2はアルキル基またはシクロアルキル基を表す。R
2はさらにエーテル基、水酸基、リン酸基、アミノ基、カルボキシル基、フッ素原子、またはエポキシ基を有していてもよい。)で表される化合物〔(メタ)アクリル酸エステル〕由来の単量体単位を含む重合体、具体的には、一般式(1)で表される化合物の単独重合体、または前記一般式(1)で表される化合物を含む単量体混合物を重合して得られる共重合体である。一般式(1)で表される化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソボニル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、および(メタ)アクリル酸トリデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシジプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等のエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸等のカルボン酸含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸パーフロロオクチルエチル等のフッ素基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸リン酸エチル等のリン酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル;等が挙げられる。
【0041】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は「アクリル」及び「メタクリル」を意味する。また、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」を意味する。
【0042】
これら(メタ)アクリル酸エステルは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、および(メタ)アクリル酸n−ブチルやアルキル基の炭素数が6〜12である(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましい。これらを選択することにより、電解液に対する膨潤性を低くすることが可能となり、サイクル特性を向上させることができる。
【0043】
また、アクリレート系重合体が、上述した一般式(1)で表される化合物と、これと共重合可能な単量体との共重合体である場合、かかる共重合可能な単量体としては、たとえば、2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類、芳香族ビニル系単量体、アミド系単量体、オレフィン類、ジエン系単量体、ビニルケトン類、及び複素環含有ビニル化合物などのほか、α,β−不飽和ニトリル化合物や酸成分を有するビニル化合物が挙げられる。
【0044】
上記共重合可能な単量体の中でも、電極を製造した際に変形しにくく強度が強いものとすることができ、また、合剤層と集電体との十分な密着性が得られる点で、芳香族ビニル系単量体を用いることが好ましい。芳香族ビニル系単量体としては、スチレン等が挙げられる。
【0045】
なお、芳香族ビニル系単量体の割合が多すぎると合剤層と集電体との十分な密着性が得られない傾向がある。また、芳香族ビニル系単量体の割合が少なすぎると、電極を製造した際に耐電解液性が低下する傾向がある。
【0046】
分散型結着剤を構成する重合体に用いられる、前記α,β−不飽和ニトリル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、及びα−ブロモアクリロニトリルなどが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。
【0047】
分散型結着剤中におけるα,β−不飽和ニトリル化合物単位の割合は、好ましくは0.1〜40重量%、より好ましくは0.5〜30重量%、さらに好ましくは1〜20重量%である。分散型結着剤中にα,β−不飽和ニトリル化合物単位を含有させると、電極を製造した際に変形しにくく強度が強いものとすることができる。また、分散型結着剤中にα,β−不飽和ニトリル化合物単位を含有させると、複合粒子を含む合剤層と集電体との密着性を十分なものとすることができる。
【0048】
なお、α,β−不飽和ニトリル化合物単位の割合が多すぎると合剤層と集電体との十分な密着性が得られない傾向がある。また、α,β−不飽和ニトリル化合物単位の割合が少なすぎると、電極を製造した際に耐電解液性が低下する傾向がある。
【0049】
前記酸成分を有するビニル化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、及びフマル酸などが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、およびイタコン酸が好ましく、接着力が良くなる点でメタクリル酸がより好ましい。
【0050】
分散型結着剤中における酸成分を有するビニル化合物単位の割合は、複合粒子用スラリーとした際における安定性が向上する観点から、好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは1〜8重量%、さらに好ましくは2〜7重量%である。
【0051】
なお、酸成分を有するビニル化合物単位の割合が多すぎると、複合粒子用スラリーの粘度が高くなり、取扱いが困難になる傾向がある。また、酸成分を有するビニル化合物単位の割合が少なすぎると複合粒子用スラリーの安定性が低下する傾向がある。
【0052】
分散型結着剤の形状は、特に限定はないが、粒子状であることが好ましい。粒子状であることにより、結着性が良く、また、製造した電極の容量の低下や充放電の繰り返しによる劣化を抑えることができる。粒子状の結着剤としては、例えば、ラテックスのごとき結着剤の粒子が水に分散した状態のものや、このような分散液を乾燥して得られる粉末状のものが挙げられる。
【0053】
分散型結着剤の平均粒子径は、複合粒子用スラリーとした際における安定性を良好なものとしながら、得られる電極の強度及び柔軟性が良好となる点から、好ましくは0.001〜10μm、より好ましくは10〜5000nm、さらに好ましくは50〜1000nmである。
【0054】
上記の中でも、結着剤としては、集電体との結着性や強度に優れた合剤層が得られるという観点から、共役ジエン系重合体およびアクリレート系重合体を用いることが好ましい。
【0055】
本発明に使用される結着剤は、ガラス転移温度を有することが好ましく、そのガラス転移温度は、通常−40℃〜+80℃、好ましくは−40℃〜+50℃ 、より好ましくは−40℃〜+30℃である。
【0056】
また、本発明に用いる結着剤の製造方法は特に限定されず、乳化重合法、懸濁重合法、分散重合法または溶液重合法等の公知の重合法を採用することができる。中でも、乳化重合法で製造することが、結着剤の粒子径の制御が容易であるので好ましい。また、本発明に用いる結着剤は、2種以上の単量体混合物を段階的に重合することにより得られるコアシェル構造を有する粒子であっても良い。
【0057】
複合粒子中における、結着剤の配合量は、得られる合剤層と集電体との密着性が十分に確保でき、かつ、電気化学素子の内部抵抗を低くすることができる観点から、活物質100質量部に対して、通常は0.5〜20質量部、好ましくは0.5〜10質量部、より好ましくは0.5〜8質量部の範囲である。
【0058】
<溶解型樹脂>
本発明の複合粒子は、上記の他に溶解型樹脂を含有していてもよい。溶解型樹脂は、溶媒に溶解する樹脂であり、好適には後述するスラリーの調製時に溶媒に溶解させて用いられて、活物質、導電材等を溶媒に均一に分散させる作用を有するものである。溶解型樹脂としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、および、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系ポリマー、ならびにこれらのアンモニウム塩またはアルカリ金属塩;ポリアクリル酸またはポリメタクリル酸のアンモニウム塩またはアルカリ金属塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミド、;ポリビニルピロリドン、ポリカルボン酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、キチン、キトサン誘導体等が挙げられる。これらの溶解型樹脂は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。中でも、溶解型樹脂としては、セルロース系ポリマーが好ましく、カルボキシメチルセルロースまたはそのアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩が特に好ましい。
【0059】
溶解型樹脂の使用量は、特に限定されないが、複合粒子中において、活物質100質量部に対して、通常は0.3〜10質量部、好ましくは0.3〜7質量部、より好ましくは0.5〜5質量部の範囲である。溶解型樹脂を用いることで、スラリー中の固形分の沈降や凝集を抑制できる。なお、これらの溶解型樹脂は、単独で用いてもよいが、異なる種類の溶解型樹脂を組み合わせて用いてもよい。また、同一の溶解型樹脂であっても分子量やその他物性が異なる溶解型樹脂を組み合わせて用いてもよい。組み合わせて用いることによりスラリーの分散安定性や粘度の経時的安定性を制御することが可能となる。
【0060】
(非水溶性多糖高分子繊維)
また、必要に応じて、水溶性高分子に非水溶性多糖高分子繊維を更に加えて用いてもよい。本発明に記載の技術において、非水溶性多糖高分子繊維を添加することにより得られる複合粒子の強度を向上させることが可能である。非水溶性多糖高分子繊維は、多糖類の中でいわゆる高分子化合物に属するものであり、非水溶性の繊維状のものであればそれ以外の限定はないが、通常は、機械的せん断力によりフィブリル化させた繊維(短繊維)である。なお、本発明に用いる非水溶性多糖高分子繊維とは、25℃において、多糖高分子繊維0.5gを100gの純水に溶解させた場合の未溶解分が90重量%以上となる多糖高分子繊維をいう。
【0061】
非水溶性多糖高分子繊維としては、多糖高分子のナノファイバーを用いることが好ましく、多糖高分子のナノファイバーのなかでも柔軟性を有し、かつ、繊維の引張強度が大きいため複合粒子の補強効果が高く、粒子強度を向上させることができる観点、および、導電材の分散性が良好となる観点から、セルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバーなどの生物由来のバイオナノファイバーから選ばれる単独又は任意の混合物を使用するのがより好ましい。これらのなかでも、セルロースナノファイバーを使用するのがさらに好ましく、竹、針葉樹、広葉樹、綿を原料とするセルロースナノファイバーを使用するのが特に好ましい。
【0062】
これらの非水溶性多糖高分子繊維に機械的せん断力を加えてフィブリル化(短繊維化)する方法としては、非水溶性多糖高分子繊維を水に分散させた後に、叩解させる方法、オリフィスを通過させる方法などが挙げられる。また、非水溶性多糖高分子繊維は、各種繊維径の短繊維が市販されており、これらを水中分散させて用いてもよい。
【0063】
本発明で用いる非水溶性多糖高分子繊維の平均繊維径は、複合粒子中により多く非水溶性多糖高分子繊維を存在させ、活物質間の密着性を強くすることにより複合粒子および電極の強度を十分なものとする観点、および、得られる電気化学素子の電気化学特性に優れる観点から、好ましくは5〜3000nm、より好ましくは5〜2000nm、さらに好ましくは5〜1000nm、特に好ましくは5〜100nmである。非水溶性多糖高分子繊維の平均繊維径が大きすぎると複合粒子内に非水溶性多糖高分子繊維が十分に存在することができないため、複合粒子の強度を十分なものとすることができない。また、複合粒子の流動性が悪くなり、均一な合剤層の形成が困難となる。
【0064】
<導電材>
本発明の複合粒子には必要に応じて導電材を添加してもよい。導電材は、導電性を有する粒子状、繊維状の物質であり、電気化学素子電極の導電性を向上させるものである。例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、およびケッチェンブラック(アクゾノーベル ケミカルズ ベスローテン フェンノートシャップ社の登録商標)等の導電性カーボンブラック;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛;ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、VGCF(気相法炭素繊維)、カーボンナノチューブ、グラフェン等が挙げられる。これらの導電材は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
複合粒子中における、導電材の配合量は、活物質100質量部に対して通常0.1〜50質量部、好ましくは0.5〜15質量部、より好ましくは1〜10質量部の範囲である。この範囲の量の導電材を含有する複合粒子を用いて電極を形成することによって、電気化学素子の容量を高く、かつ内部抵抗を低くすることができる。
【0066】
<その他の添加剤>
本発明の複合粒子は、さらに必要に応じてその他の添加剤を含有していてもよい。その他の添加剤としては、例えば、界面活性剤がある。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、ノニオニックアニオン等の両性の界面活性剤が挙げられるが、中でもアニオン性またはノニオン性界面活性剤で熱分解しやすいものが好ましい。界面活性剤の量は、特に限定されないが、複合粒子中において、活物質100質量部に対して0〜50質量部、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.5〜5質量部の範囲である。界面活性剤の添加によりスラリーの表面張力を調整できる。本発明の静電微粒化法において、表面張力は微粒化特性に影響を及ぼす因子である。表面張力を制御することで本発明の静電微粒化造粒法における複合粒子群の粒子径分布を調整することができる。
【0067】
<溶媒>
スラリーを得るために用いる溶媒として、特に限定されないが、上記の溶解型樹脂を用いる場合には、溶解型樹脂を溶解可能な溶媒が好適に用いられる。具体的には、通常水が用いられるが、有機溶媒を用いることもできるし、水と有機溶媒との混合溶媒を用いてもよい。
【0068】
有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等のアルキルアルコール類; アセトン、メチルエチルケトン等のアルキルケトン類; テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム等のエーテル類; ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン等のアミド類; ジメチルスルホキサイド、スルホラン等のイオウ系溶剤; 等が挙げられる。この中でも有機溶媒としては、アルコール類やN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。例えば、水と、水よりも沸点の低い有機溶媒とを併用すると、液滴の乾燥時に、乾燥速度を速くすることができる。また、水と併用する有機溶媒の量または種類によって、結着剤の分散性または溶解型樹脂の溶解性、スラリーの表面張力が変わる。これにより、スラリーの粘度や流動性を調整することができ、生産効率の向上や得られる複合粒子群の粒子径分布を制御が可能である。
【0069】
本発明の静電微粒化法を用いた電気化学素子電極用複合粒子の製造方法において、スラリーの固形分濃度は、液滴生成工程(II)にて生成される液滴のサイズと関係する。すなわち、スラリーの固形分濃度が低くなる程生成される液滴のサイズが小さくなり、その後の液滴乾燥工程(III)によって得られる複合粒子からなる複合粒子群のメディアン径が小さくなる。
【0070】
<メディアン径>
メディアン径とは、小粒子径側(オーバーサイズ)からの体積基準で求めた粒子径分布において累積50%地点における粒子径のことである。50%平均粒子径とも称されることがある。
【0071】
本明細書で開示するこの限りではないが、スラリーの粘度は室温において、通常10〜3,000mPa・s、好ましくは15〜1,500m Pa・s、より好ましくは20〜1,000mPa・sの範囲である。本発明の静電微粒化法を用いた電気化学素子電極用複合粒子の製造方法において、スラリーの粘度は、後述する液滴生成工程(II)にて生成される液滴のサイズと関係する。すなわち、スラリーの粘度が低くなる程生成される液滴のサイズが小さくなり、その後の液滴乾燥工程(III)によって得られる複合粒子からなる複合粒子群のメディアン径が小さくなる。
なお、本明細書において記載する粘度は25℃、せん断速度10s
-1における粘度である。ブルックフィールドデジタル粘度計DV−II+Proを用いることで測定が可能である。
【0072】
活物質、導電材、結着剤、溶解型樹脂およびその他の添加剤を溶媒に分散または溶解する方法または手順は特に限定されず、例えば、溶媒に活物質、導電材、結着剤および溶解型樹脂を添加し混合する方法、溶媒に溶解型樹脂を溶解した後、溶媒に分散させた結着剤(例えば、ラテックス)を添加して混合し、最後に活物質および導電材を添加して混合する方法、溶媒に分散させた結着剤に活物質および導電材を添加して混合し、この混合物に溶媒に溶解させた溶解型樹脂を添加して混合する方法等が挙げられる。混合の手段としては、例えば、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等の混合機器が挙げられる。混合は、通常、室温〜80℃の範囲で、10分〜数時間行う。
【0073】
ここで、得られるスラリーの粒子径分布は、小粒子径側(オーバーサイズ)から体積基準で求めた粒子径分布において100μm以上のサイズの粒子の累積頻度が1%未満であることが好ましい。上記範囲内であると、後述するアトマイザーノズルからスラリーを安定して噴霧することが可能であり、狭小な粒子径分布を有する複合粒子群を得ることができる。一方、100μm以上のサイズの粒子の累積頻度が1%以上存在すると、上記粒子がアトマイザーノズル内部に堆積することで得られる複合粒子のメディアン径、および粒子径分布が徐々に変化したり、アトマイザーノズル内部を閉塞させることで噴霧ができなくなったりと品質上、および操業上の不具合を生じさせてしまう。
【0074】
スラリーの粒子径分布は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(例えば日機装株式会社製: マイクロトラックMT−3200II)等を用いて測定することができる。
ここで、粒子径分布測定装置の装置仕様の都合により、丁度100μmのチャンネルがない場合がある。この場合、100μm以上のサイズの粒子の累積頻度は100μmに最も近い測定チャンネルからの累積頻度と置き換えて構わない。
【0075】
(液滴生成工程(II))
次に、液滴生成工程(II)について説明する。本発明の液滴生成工程(II)においては、スラリー化工程(I)で得られたスラリーを静電微粒化法により液滴を生成させ、乾燥装置に向けて前記液滴を噴霧する。
ここで、本発明における液滴生成方法である静電微粒化法は、アトマイザーノズルに数kV以上の高電圧を加え、アトマイザーノズル先端部に電荷を集中させることでアトマイザーノズルに供給されるスラリーの分裂を促し、前記スラリーからなる液滴を生成する方法である。
【0076】
アトマイザーノズルに印加する電圧を変えることによって数100μm〜数μmの均一な液滴を生成、噴霧することができる。
また、ノズル先端部の形状を針状に尖らせることによってアトマイザーノズル先端部に電荷を集中させることが可能であり、静電微粒化法における液滴の生成を促すことができる。ノズル先端部の形状の工夫によって所望の範囲の粒子径分布を有する複合粒子群の製造に必要な印加電圧を低く設定することが可能になり、装置コストや、ランニングコスト、操業における安全性の面において有利に働く。
【0077】
液滴の生成に適した印加電圧は、アトマイザーノズルの先端形状、スラリーの表面張力、粘度、固形分濃度、供給速度、電導度、および活物質が蓄積可能な静電容量、および後述するアトマイザーノズル近傍に設置可能な接地電極の形状や設置位置により種々異なるため特に制限されないが、通常2kV以上である。当業者らはこれら要素を考慮しつつ、適宜液滴の生成に適した電圧条件を検討することで所望のサイズの液滴を生成することができる。
ここで、アトマイザーノズルに供給されるスラリーの温度は、通常は室温であるが、状況や目的に応じて加温して室温以上にしたものであってもよい。
【0078】
液滴を生成するためのアトマイザーのノズルは乾燥装置に複数個設けられ、単一の電源から電圧が印加されて各アトマイザーのノズルから生成、噴霧される液滴は、後述する液滴を乾燥して固形化するための乾燥装置に供給される。
【0079】
本発明で開示するように、一の電源によりアトマイザーのノズルに電圧を印加し、この単一の電源によって複数のアトマイザーのノズルから液滴を生成、噴霧させるようにすれば、電源をアトマイザー毎に設ける場合に比較して信頼性が向上する。その理由は、電源が複数存在する場合には各電源が独立に故障する恐れがあり、その結果、生成、噴霧される液滴の粒度分布が変化する恐れがあるが、電源を単一とすることによってこの不具合を回避することができるためである。かかる観点に鑑みると、一の電源が作用を及ぼすアトマイザーのノズル孔数が多いほど信頼性が向上し、後述する所定の粒径分布の1セットが単一の電源によって得られることが最も好ましい。但し、本発明は、所定の粒径分布の1セットが単一の電源によって得られる場合に限定されない。
【0080】
前記一の電源により印加させるアトマイザーノズルの個数には特に制限はないが、アトマイザーノズルに加わる外乱を抑制する観点から、開口面積の分布に極端な偏りがないことが望ましい。また、ノズル同士の距離に関しては、噴霧された液滴同士が接触しない様に設定する必要がある。この条件は、静電微粒化法による液滴生成、噴霧における液滴の帯電状態や液滴径、液滴の密度、乾燥装置内の気流状態等によって異なる。
【0081】
但し、最も理想的な条件、すなわち電圧の変動がなく、また乾燥装置内に液滴飛翔方向とは異なる向きの気流が一切発生していない状態であったとしても、アトマイザーノズル同士の最近接距離は、隣接するノズルから噴霧される各液滴の半径の和よりも大きいことが好ましい。また、同じ粒径の液滴、および複合粒子を製造するためのアトマイザーノズル同士の最近接距離は、形成される液滴径の直径以上離れていることが好ましい。
【0082】
以上の詳細に説明した様に、液滴生成部に多数のアトマイザーノズルを備えることで、アトマイザーノズルの吐出孔から発生する液滴による粒子数を1秒当り数万〜数百万個と非常に多くすることもでき、生産性という観点から優れている。
【0083】
また、図示しないが(下記
図1参照)ノズル先端部直下には、アトマイザーノズルに対向して個別に接地電極が設けられている。接地電極の形状としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、例えば、リング状に形成するのが好ましい。
アトマイザーノズルの直下に接地電極を設けることで、静電微粒化による液滴の生成をより促すことが可能になる。
【0084】
(液滴乾燥工程(III))
本発明の液滴乾燥工程(III)においては、液滴生成工程(II)により生成した液滴を乾燥により固形化させ複合粒子を得るとともに、複合粒子に帯電した電荷を除電した上で複合粒子を回収する。
【0085】
乾燥装置には、室温以上に加温された熱交換媒体が導入される。乾燥装置に導入する熱交換媒体は乾燥空気でもよいし、加熱水蒸気でもよい。溶媒が有機溶媒を含む場合は静電着火等の事故を防止するため、熱交換媒体は不活性な加熱窒素等であることが望ましい。また、また、前記乾燥装置は、防曝仕様であることが好ましい。
【0086】
液滴を乾燥して固形化させるための熱交換媒体の温度は、通常60〜500℃、好ましくは100〜400℃である。本液滴乾燥工程(III)において、熱風の吹き込み方法は特に制限されず、例えば、熱風と噴霧方向が横方向に並流する方式、乾燥塔頂部で噴霧され熱風と共に下降する方式、噴霧した滴と熱風が向流接触する方式、噴霧した滴が最初熱風と並流し次いで重力落下して向流接触する方式等が挙げられる。
【0087】
なお、乾燥装置の内壁面には液滴が前記乾燥装置の壁面に付着することにより生じる収率の低下を抑制するために液滴の電荷と同極性に帯電された電界カーテンを設けるのが好ましい。電界カーテンで周囲が覆われた搬送路を形成し、前記乾燥装置壁面に液滴を付着させることなく該搬送路内に液滴を通過させることによって、液滴の固形化が十分行われ、後述する除電部、回収部(例えば、下記
図1のサイクロン38および複合粒子回収タンク18)へと複合粒子を送ることができる。これにより収率高く、かつシャープな粒子径分布を有する複合粒子群を製造することができる。
【0088】
除電部は除電器により複合粒子に帯電した電荷を中和させ、複合粒子を安全に複合粒子回収部へと送る部分である。除電器による除電の方法としては、特に制限はなく、通常知られている方法を適宜選択して使用することができるが、効率的に除電が可能であることから、例えば、軟X線照射、プラズマ照射等により行うのが好ましい。
【0089】
複合粒子の回収部は、複合粒子を効率的に捕集し、搬送する観点から、乾燥装置の底部に設けられる。前記複合粒子回収部の構造としては、粒子を捕集できれば特に制限はないが、確実に複合粒子を回収容器に移送できる観点から、サイクロン構造であることが好ましい。
【0090】
(電気化学素子電極用複合粒子)
本発明に係る複合粒子は、上述の通り、少なくともスラリー化工程(I)、液滴生成工程(II)及び液滴乾燥工程(III)を有する製造方法により得られる。
【0091】
本発明の複合粒子は、少なくとも活物質、および結着剤を含んでなるが、活物質、および結着剤のそれぞれが個別に独立した粒子として存在するのではなく、構成成分である活物質、結着剤を含む2成分以上によって一粒子を形成するものである。具体的には、上述した2成分以上の個々の粒子が実質的に形状を維持した状態で複数個が結合して二次粒子を形成しており、複数個(好ましくは数十個〜数千個)の活物質が、結着剤によって結着されて粒子を形成しているものが好ましい。
【0092】
また、本発明の複合粒子の形状は、流動性が良好でホッパートラブルを防止できる観点、ホッパーからの複合粒子の供給が良好であり、厚み精度に優れる電極を得ることができる観点から実質的に球形であることが好ましい。すなわち、複合粒子の短軸径をls、長軸径をll、la=(ls+ll)/2としたとき、(ll−ls)×100/laで表される球形度(%)が好ましくは15%以下、より好ましくは13%以下、さらに好ましくは12%以下、最も好ましくは10%以下である。ここで、短軸径lsおよび長軸径llは、透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡の写真像から測定することができる。球形度が大きすぎると、複合粒子の流動性が悪化し、ホッパートラブルが起きやすくなる。また、製造する電極の膜厚精度が悪化する。
複合粒子の製造に用いる複合粒子製造装置は、特に限定されないが、例えば
図1に示す複合粒子製造装置を用いることができる。
【0093】
図1に示すように複合粒子製造装置2は、原料投入管4を介して投入された原料を撹拌翼6により撹拌し、スラリー8を作製するスラリータンク10、スラリー8から複合粒子12を製造する造粒装置14、造粒装置14により製造された複合粒子12を移送する複合粒子用配管16、複合粒子用配管16を介して移送された複合粒子12を回収する複合粒子回収タンク18を備えている。
【0094】
ここで、造粒装置14は乾燥塔22及び高圧電源24を備え、乾燥塔22の上部にはスラリー8を噴霧する複数のアトマイザーノズル26が設けられている。また、アトマイザーノズル26には、スラリータンク10にて作製されたスラリー8を導入するスラリー用配管28が設けられており、スラリー用配管28の途中には、スラリー8をアトマイザーノズル26に供給するポンプ30が備えられている。また、乾燥塔22の上部には、熱交換器32および熱交換器32に熱交換媒体を導入する送風機34が設けられている。また、アトマイザーノズル26の上部には、冷却空気を導入する冷風ファン36が設けられている。
【0095】
なお、高圧電源24のプラス極はアトマイザーノズル26に接続され、マイナス極は接地され、また乾燥塔22の下部に接続される。
【0096】
なお、複合粒子回収タンク18の上部には、複合粒子12と空気とを分離し、空気の一部を流出させるサイクロン38が設けられている。サイクロン38には、空気流出口40が設けられており、空気流出口40からはブロア42により空気が吸引される。
【0097】
スラリー化工程(I)は、例えば、
図1に示す複合粒子製造装置2のスラリータンク10において実施され、スラリー8は、スラリータンク10に活物質、結着剤及び溶媒を含む原料を投入し、撹拌翼6により撹拌することにより得ることができる。
【0098】
液滴生成工程(II)は、例えば、
図1に示す複合粒子製造装置2の造粒装置14を用いて実施することができる。即ち、スラリー化工程(I)で得られたスラリー8を、アトマイザーノズル26に数kV以上の高電圧を加え、アトマイザーノズル26の先端部に電荷を集中させることでアトマイザーノズル26に供給されるスラリー8の分裂を促し、前記スラリー8からなる液滴を生成させ、乾燥装置としての乾燥塔22に向けて前記液滴を噴霧する。
【0099】
液滴乾燥工程(III)は、例えば、
図1に示す複合粒子製造装置2の造粒装置14に設けられた乾燥塔22を用いて実施することができる。即ち、液滴生成工程(II)によって乾燥装置としての乾燥塔22内に噴霧された液滴を乾燥により固形化して複合粒子12を得るとともに、複合粒子12に帯電した電荷を除電した上で、複合粒子12を複合粒子用配管16を介して移送し、サイクロン38により空気と分離された複合粒子12を複合粒子回収タンク18に回収する。
【0100】
<メディアン径>
また、本発明の製造方法により得られる複数の複合粒子からなる複合粒子群の、体積基準で求めた粒子径分布におけるメディアン径は50μm以上、160μm以下、好ましくは50μm以上、130μm以下、より好ましくは50μm以上、110μm以下の範囲である。
【0101】
ここで、メディアン径とは、上述の通り、小粒子径側(オーバーサイズ)からの体積基準で求めた粒子径分布において累積50%地点における粒子径のことである。50%平均粒子径とも称されることがある。
【0102】
メディアン径が上記範囲にあると、ロール加圧成形において、ロール加圧成形法による電気化学素子電極の製造において実用的な膜厚、かつ膜厚精度に優れる電気化学素子電極を得ることができる。
【0103】
複合粒子群のメディアン径が上記範囲から小さくなると、複合粒子は強い付着性を有する40μm以下の粒子を多く含むことになるためにホッパー部において複合粒子同士がブロッキング等の凝集を起こしやすくなり、ロール加圧成形法による電気化学素子電極の製造において得られる膜厚の精度が低くなる。一方、複合粒子群のメディアン径が上記範囲から大きくなると、ロール加圧成形法による電気化学素子電極の製造において200μm以下といった実用的な膜厚の電気化学素子電極が得られ難くなるばかりか、電気化学素子電極に複合粒子のサイズが大きすぎることに起因して得られる電極に大きな凸凹が生じ、膜厚精度が低くなる。
【0104】
また、メディアン径の範囲は上記した通り、50μm以上、160μm以下であることが必要であるが、好ましくは50μm以上、130μm以下、より好ましくは50μm以上、110μm以下にすることが好ましいとした理由は、メディアン径を50μm以上、130μm以下、より好ましくは50μm以上、110μm以下にすることによって、薄厚な電気化学素子電極を製造するにあたり、より高い膜厚精度が得られるためである。
【0105】
複合粒子群のメディアン径は、乾式レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製: マイクロトラックMT−3200II)等を用いて複合粒子を圧搾空気により加圧噴霧して測定することができる。
【0106】
<累積頻度>
また、本発明により得られる複数の複合粒子からなる複合粒子群の個数基準で求めた粒子径分布における40μm以下の累積頻度は、オーバーサイズの累積粒子径分布曲線において40μm以下の累積頻度が50%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは15%以下、最も好ましくは0%である。
【0107】
上記にもあるが、40μm以下のサイズの複合粒子は強い付着性を有するため、複合粒子群において40μm以下の複合粒子の存在量が多くなるほど、ロール加圧成形による電気化学素子電極の製造工程において成形ロールより上流のホッパー部において複合粒子同士がブロッキング等の凝集を起こし易くなり、得られる電気化学素子電極の膜厚精度が低くなる。よって、複合粒子群の個数基準で求めた粒子径分布における40μm以下の累積頻度は少なくなればなる程好ましい。
【0108】
複合粒子群の粒子径分布の個数頻度はメディアン径同様、乾式レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製: マイクロトラックMT−3200II)等を用いて複合粒子群を圧搾空気により加圧噴霧して測定することができる。
【0109】
なお、粒子径分布測定装置の装置仕様の都合により、丁度40μmのチャンネルがない場合がある。この場合、40μmに最も近い測定チャンネルを本発明にて定義する40μmと置き換えて構わない。個数基準の粒子径分布はレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて複合粒子を圧搾空気により加圧噴霧して測定し、得られた体積基準の粒子径分布を個数基準に変換することで求めることができる。
【0110】
<モード径>
また、本発明により得られる複数の複合粒子からなる複合粒子群のモード径の頻度は、12%以上、好ましくは13%以上、より好ましくは15%以上である。
【0111】
ここで、モード径とは、粒子の存在確率が最も大きい粒子径のことをいい、粒子径の対数に対して個別の粒子径が存在する頻度をプロットした粒子径分布曲線において、最大値を示す粒子径のことであり、本発明におけるモード径の頻度とはその粒子径分布曲線における最大値のことである。モード径の頻度が大きくなるほど、複合粒子群の粒子径分布曲線はシャープな粒子径分布曲線を示すことになる。
【0112】
モード径の頻度が12%以上であると、複合粒子群のメディアン径が本発明で規定した範囲の下限値である50μmに近づいたとしても、複合粒子群に含まれる強い付着性を有する40μm以下の粒子の存在量が低減するため、ロール加圧成形法による電気化学素子電極の製造において実用的な膜厚、かつ膜厚精度に優れる電気化学素子電極を得ることができる。
【0113】
複合粒子群のモード径はメディアン径同様、乾式レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製: マイクロトラックMT−3200II)等を用いて複合粒子群を圧搾空気により加圧噴霧して測定することができる。
【0114】
(電気化学素子電極)
本発明の電気化学素子電極(以下、単に「電極」ということがある。)は、前記の電気化学素子電極用複合粒子から形成される合剤層を集電体上に積層してなるものである。
【0115】
(集電体)
集電体としては、電気導電性を有し且つ電気化学的に耐久性のある材料が使用可能である。中でも、耐熱性を有するとの観点から、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などの金属材料が好ましい。その中でも、電気化学素子をリチウムイオン二次電池、あるいは電気化学キャパシタの中でもとりわけリチウムイオンキャパシタとして機能させるには、正極用としてはアルミニウムが特に好ましく、負極用としては銅が特に好ましい。また、電気化学素子をナトリウムイオン二次電池、あるいは電気化学キャパシタの中でもとりわけ電気二重層キャパシタとして機能させるには、正極用および負極用共にアルミニウムであることが特に好ましい。
【0116】
形状は、フィルムまたはシート状であり、その厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常1〜200μm、好ましくは5〜100μm、より好ましくは8〜50μmである。またシート状集電体は、エキスパンドメタル、パンチングメタル、網状などの空孔を有した形状であってもよい。
【0117】
集電体には、合剤層との接触抵抗の低減、または合剤層との付着性向上のために、必要に応じて表面化学処理、表面粗面化処理があらかじめ施されていても良い。表面化学処理としては、酸処理、クロメート処理等が挙げられる。表面粗面化処理としては、電気化学的エッチング処理、酸またアルカリによるエッチング処理が挙げられる。
【0118】
また、集電体と合剤層との接着性を向上させる目的のため、集電体にはその表面に接着性塗料を塗布したものを用いてもよい。なお、接着性塗料に含まれる結着剤は通常絶縁性であるため、接着性塗料を塗布した集電体を電気化学素子電極に用いると電気化学素子としての抵抗を著しく増大させてしまうため、接着性塗料には導電材を含むことがより好ましい。導電材を使用した接着性塗料は通常、導電性接着剤、あるいはアンダーコートスラリー、カーボンコートスラリーなどと称される。
【0119】
導電性接着剤は、導電材と結着剤と、必要に応じ添加される溶解型樹脂とを水または有機溶媒中に分散させたさせたものである。導電性接着剤の導電材としては、銀、ニッケル、金、黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラックが挙げられ、好ましくは黒鉛、アセチレンブラックである。
【0120】
接着性塗料の結着剤としては、上記本発明の複合粒子に使用される結着剤として例示したものをいずれも使用できる。また、水ガラス、エポキシ樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ウレタン樹脂等も用いることができ、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。接着性塗料の結着剤として好ましくは、アクリレート系重合体、カルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩またはアルカリ金属塩、水ガラス、ポリアミドイミド樹脂である。また、導電性接着剤の分散剤としては、複合粒子に使用してもよい溶解型樹脂、または界面活性剤を用いることができる。
【0121】
(合剤層)
合剤層を形成する方法としては、加圧成形法等の乾式成形方法、および塗布方法等の湿式成形方法があるが、乾燥工程が不要で製造コストを抑えることが可能な乾式成形法が好ましい。乾式成形法としては、加圧成形法、押出成形法(ペースト押出ともいう。)等がある。加圧成形法は、複合粒子に圧力を加えることで電極材料の再配列、変形により緻密化を行い、合剤層を成形する方法である。押出成形法は、複合粒子を押出成形機で押し出しフィルム、シート等に成形する方法である。
【0122】
これらのうち、簡略な設備で行えることから、加圧成形法を採用することが好ましい。加圧成形法としては、例えば、複合粒子をスクリューフィーダー等の供給装置でロール加圧成形装置に供給し、2本の成形ロールで複合粒子をニップすることで、ロールに併せて供給される集電体や支持体上に合剤層を成形する方法や、特許第4687458号公報に見られる技術の様に複合粒子を接着剤層が設けられた集電体上に散布し、複合粒子をブレード等でならして厚みを調整し、次いでロール加圧成形装置で成形する方法、電極材料を金型に充填し、金型を加圧して成形する方法等がある。
【0123】
これら加圧成形のうち、ロール加圧成形装置を用いて、集電体や特許第5293383号公報に見られる様な支持体上に合剤層を形成する方法が好適である。成形時の温度は、通常室温〜150℃であり、複合粒子の結着剤の融点またはガラス転移温度より高いことが好ましく、融点またはガラス転移温度より20℃以上高いことがより好ましい。ロール加圧成形においては、成形速度を通常0.1〜30m/分、好ましくは4〜30m/分の範囲が好ましい。また、成形ロール間のプレス線圧は、通常0.2〜30kN/cm、好ましくは1.5〜15kN/cmが好ましい。
【0124】
なお、ロール加圧成形装置において、成形ロールの前にプレ成形ロールを備えていてもよい。プレ成形ロールにより複合粒子を圧縮する際において、プレ成形ロールを構成する一対のロールのロール径が小さくなるほど、ロールへの複合粒子の咬み込み量を小さくすることができ、シート状のプレ成形体及び最終的に得られる電気化学素子電極における合材層の厚みを小さくすることができる。一方、プレ成形ロールを構成する一対のロールのロール径が小さすぎると複合粒子を圧縮する際にロールのゆがみ等が生じることにより、シート状のプレ成形体の厚みにバラツキが生じるおそれがある。
【0125】
ここで、ロールニップ点(一対のロール間の間隙が最も狭くなる点)近傍のロールの周速度と複合粒子の移動速度とが同じになる点をP点というが、坪量が決定されるP点から複合粒子の出口(プレ成形ロールのロールの下部)までの間が複合粒子で満たされていないと、シート状のプレ成形体を成形した際にまだら模様やスジといった電気化学素子電極としての不良が生じる場合がある。
【0126】
複合粒子群の粒子径分布において40μm以下の複合粒子が多く含まれる場合に上記不良は生じ易くなる。また、ロールの回転速度が一定である場合にはロール径が小さいほどP点は下がる。従って、ロール径を小さくすることによりP点と複合粒子の出口までの間の容量を小さくすることができ、最終的に得られる電気化学素子電極の合剤層を薄膜とすることができる。
【0127】
そのため、このような点を考慮し、プレ成形ロールを構成する一対のロールのロール径は、好ましく10〜500mm、より好ましくは10〜250mm、さらに好ましくは10〜150mmである。
【0128】
また、成形ロールを構成する一対のロールのロール径は、シート状のプレ成形体を圧縮する際における圧力が、プレ成形ロールによる圧力よりも大きくなるように、プレ成形ロールを構成する一対のロールのロール径よりも大きなものとすればよいが、そのロール径は、好ましくは50〜1000mm、より好ましくは100〜500mmである。
【0129】
成形した電極の厚みのばらつきをなくし、合剤層の密度を上げて高容量化、高強度化をはかるために、必要に応じてさらに後加圧を行っても良い。後加圧の方法は、ロールプレス工程が一般的である。ロールプレス工程では、2本の円柱状のロールを狭い間隔で平行に上下にならべ、それぞれを反対方向に回転させて、その間に電極を咬み込ませ加圧する。ロールは加熱または冷却等して温度調節しても良い。ロールを加熱するときのロール温度は25〜200℃、より好ましくは50〜150℃、さらに好ましくは80〜120℃である。この範囲であると、合剤層をより高強度化できるだけでなく、合剤層と集電体との接着性をより高めることができる。
【0130】
(電気化学素子)
本発明の電気化学素子は、上述のようにして得られる正極、負極、セパレーターおよび電解液を備え、正極または負極のうちの少なくとも一方に本発明の電気化学素子電極を用いる。電気化学素子としては、例えば、二次電池や電気化学キャパシタが挙げられる。二次電池としては、例えば、リチウムイオン二次電池やナトリウムイオン二次電池などが挙げられる。また、電気化学キャパシタとしては、例えば、電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタ等が挙げられる。
【0131】
(セパレーター)
セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂や、芳香族ポリアミド樹脂を含んでなる微孔膜または不織布;無機セラミック粉末を含む多孔質の樹脂コート;セルロースからなる不織布;などを用いることができる。具体例を挙げると、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)、及びこれらの混合物あるいは共重合体等の樹脂からなる微多孔膜;ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルスルフォン、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアラミド、ポリシクロオレフィン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂からなる微多孔膜;ポリオレフィン系の繊維を織ったもの又はその不織布;絶縁性物質粒子の集合体等が挙げられる。これらの中でも、セパレーター全体の膜厚を薄くすることができ、リチウムイオン二次電池内の活物質比率を上げて体積あたりの容量を上げることができるため、ポリオレフィン系の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。
【0132】
セパレーターの厚さは、リチウムイオン二次電池においてセパレーターによる内部抵抗を小さくすることができる観点、および、リチウムイオン二次電池を製造する際の作業性に優れる観点から、好ましくは0.5〜40μm、より好ましくは1〜30μm、さらに好ましくは1〜25μmである。
【0133】
(電解液)
リチウムイオン二次電池用の電解液としては、例えば、非水溶媒に支持電解質を溶解した非水電解液が用いられる。支持電解質としては、リチウム塩が好ましく用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF
6、LiAsF
6、LiBF
4、LiSbF
6、LiAlCl
4、LiClO
4、CF
3SO
3Li、C
4F
9SO
3Li、CF
3COOLi、(CF
3CO)
2NLi、(CF
3SO
2)
2NLi、(C
2F
5SO
2)NLiなどが挙げられる。中でも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF
6、LiClO
4、CF
3SO
3Liが好ましい。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。解離度の高い支持電解質を用いるほど、リチウムイオン伝導度が高くなるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0134】
電解液における支持電解質の濃度は、支持電解質の種類に応じて、0.5〜2.5モル/Lの濃度で用いることが好ましい。支持電解質の濃度が低すぎても高すぎても、イオン伝導度が低下する可能性がある。
【0135】
非水溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されない。非水溶媒の例を挙げると、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(MEC)などのカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチルなどのエステル類;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物類;支持電解質としても使用されるイオン液体などが挙げられる。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いので、カーボネート類が好ましい。非水溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。一般に、非水溶媒の粘度が低いほどリチウムイオン伝導度が高くなり、誘電率が高いほど支持電解質の溶解度が上がるが、両者はトレードオフの関係にあるので、溶媒の種類や混合比によりリチウムイオン伝導度を調節して使用するのがよい。また、非水溶媒は全部あるいは一部の水素をフッ素に置き換えたものを併用あるいは全量用いてもよい。
【0136】
また、電解液には添加剤を含有させてもよい。添加剤としては、例えば、ビニレンカーボネート(VC)などのカーボネート系;エチレンサルファイト(ES)などの含硫黄化合物;フルオロエチレンカーボネート(FEC)などのフッ素含有化合物が挙げられる。添加剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
なお、リチウムイオンキャパシタ用の電解液としては、上述のリチウムイオン二次電池に用いることができる電解液と同様のものを用いることができる。
【0137】
(電気化学素子の製造方法)
リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等の電気化学素子の具体的な製造方法としては、例えば、正極と負極とをセパレーターを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する方法が挙げられる。さらに、必要に応じてエキスパンドメタル;ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子;リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電を防止してもよい。リチウムイオン二次電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。電池容器の材質は、電池内部への水分の侵入を阻害するものであればよく、金属製、アルミニウムなどのラミネート製など特に限定されない。
【0138】
本発明の電気化学素子電極用複合粒子の製造方法によれば、膜厚精度に優れた電気化学素子電極を製造するための電気化学素子電極用複合粒子を生産性高く製造することができる。また、本発明に係る電気化学素子電極用複合粒子を用いて電気化学素子電極を製造することで薄厚かつ、膜厚精度に優れる電気化学素子電極、および電気化学素子を得ることができる。
【実施例】
【0139】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における部および%は、特に断りのない限り重量基準である。
【0140】
(実施例1)
(正極用粒子状結着樹脂の製造)
メカニカルスターラー及びコンデンサを装着した反応器に、窒素雰囲気下、イオン交換水210部、濃度30%のアルキルジフェニルオキシドジスルホネート(ダウファックス(登録商標)2A1、ダウ・ケミカル社製)1.67部、を仕込み、撹拌しながら70℃に加熱し、1.96%過硫酸カリウム水溶液25.5部を反応器に添加した。次いで、メカニカルスターラーを装着した上記とは別の容器に、窒素雰囲気下、アクリル酸ブチル35部、メタクリル酸エチル62.5部、メタクリル酸2.4部、濃度30%のアルキルジフェニルオキシドジスルホネート(ダウファックス(登録商標)2A1、ダウ・ケミカル社製)1.67部、及びイオン交換水22.7部を添加し、これを攪拌乳化させて単量体混合液を調製した。そして、この単量体混合液を攪拌乳化させた状態にて、2.5時間かけて一定の速度で、イオン交換水210部及び過硫酸カリウム水溶液を仕込んだ反応器に添加し、重合転化率が95%になるまで反応させて、粒子状結着樹脂A(アクリレート系重合体)の水分散液を得た。
【0141】
(リチウムイオン二次電池正極用合剤スラリーの調製)
正極用活物質として50%体積平均粒子径5μmのコバルト酸リチウム(以下、「LCO」ということがある。)100部、導電材としてのアセチレンブラック(HS−100、電気化学工業株式会社製)2部、及び溶解型樹脂としてカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を固形分換算量で1.0部混合し、さらにイオン交換水を適量加え、プラネタリーミキサーを用いて高粘度の状態にて十分混練した。その後、イオン交換水により希釈し、結着剤として前記粒子状結着樹脂Aの水分散液を固形分換算で1.5部加えることで固形分濃度40%のリチウムイオン二次電池正極用としての合剤スラリーを調製した。
【0142】
(複合粒子の製造)
所定の塔径を有する乾燥塔内の上部に外径200μm、内径120μmの金属製のノズルからなる静電微粒化用アトマイザーが多数設けられた静電微粒化造粒装置に前記リチウムイオン二次電池正極用合剤スラリーを供給し、アトマイザーに電圧をかけることでアトマイザーに供給される前記リチウムイオン二次電池正極用合剤スラリーを液滴化し、塔内に噴霧した。この時印加した電圧は7.0kVであった。
【0143】
次に、噴霧した液滴を静電微粒化造粒装置に導入される加熱空気により熱交換することで前記液滴を乾燥して固形化するともに除電、捕集、そして粗粉を除去することで複合粒子中の含有水分率が1%未満の球形状の実施例1のリチウムイオン二次電池正極用複合粒子を得た。実施例1のリチウムイオン二次電池正極用複合粒子の収量と噴霧した前記リチウムイオン二次電池正極用合剤スラリーの固形分重量との比で前記リチウムイオン二次電池正極用合剤スラリーを複合粒子化し、粗粉を除去するまでの工程収率を求めたところ、収率は96.0%であった。また、この実施例1のリチウムイオン二次電池正極用複合粒子のメディアン径は78μmであり、個数基準で求めた粒子径分布における40μm以下の累積頻度は0%であり、モード径の頻度は16.8%であった。また、この時の粒子回収出口温度は85℃であった。なお、前記熱風がアトマイザー部に波及してアトマイザーが乾燥により閉塞しない様、アトマイザー周辺部には冷却空気を導入した。
【0144】
(リチウムイオン二次電池正極の作製)
まず、ロール加圧成形装置において50℃に加熱されたロール径50mmφの一対のプレ成形ロール上に、事前に導電性接着剤をアルミニウム集電体上にダイコーターで塗布、乾燥することで得た導電性接着剤層付アルミニウム集電箔を設置した。次に、定量フィーダーを介して、前記プレ成形ロールの上部に設けられたホッパーに上記にて得られたリチウムイオン二次電池正極用複合粒子を供給した。プレ成形ロールの上部に設けられたホッパー内の前記複合粒子の堆積量がある一定高さになったところで、10m/分の速度でロール加圧成形装置を稼働させ、前記プレ成形ロールで複合粒子を加圧成形し、前記導電性接着剤層付アルミニウム集電箔上にリチウムイオン二次電池正極用合剤層のプレ成形体を形成した。その後、前記ロール加圧成形装置のプレ成形ロールの下流に設けられ、100℃に加熱された二対の300mmφ成形ロールで前記正極合剤層がプレ成形された電極をプレスし、前記電極の表面を均すとともに電極密度を高めた。このままロール加圧成形装置を連続して10分間稼働し、実施例1のリチウムイオン二次電池正極を約100m作製した。
【0145】
(実施例2)
(正極用粒子状結着樹脂の製造)
アクリル酸ブチル、およびメタクリル酸エチルの組成比をそれぞれ81.3部、および16.3部としたこと以外は、実施例1と同様に正極用粒子状結着樹脂の製造を行い、粒子状結着樹脂B(アクリレート系重合体)の水分散液を得た。
【0146】
また、結着剤として粒子状結着樹脂Bを用いたこと、リチウムイオン二次電池正極用合剤スラリーの固形分濃度を50%にしたこと以外は、実施例1と同様にして球形状の実施例2のリチウムイオン二次電池正極用複合粒子を得た。実施例1と同様にして収率を求めたところ、収率は95.5%であった。また、得られた実施例2のリチウムイオン二次電池正極用複合粒子群のメディアン径は、153μmであり、個数基準で求めた粒子径分布における40μm以下の累積頻度は0%であり、モード径の頻度は14.7%であった。
上記により得られた複合粒子を用いて実施例1のリチウムイオン二次電池正極の作製方法と同様にして実施例2のリチウムイオン二次電池正極を約100m作製した。
【0147】
(実施例3)
固形分濃度を36%としたこと以外は実施例2と同様にして球形状の実施例3のリチウムイオン二次電池正極用複合粒子を得た。実施例1と同様にして収率を求めたところ、収率は96.2%であった。
また、得られた実施例3のリチウムイオン二次電池正極用複合粒子群のメディアン径は、54μmであり、個数基準で求めた粒子径分布における40μm以下の累積頻度は31.0%であり、モード径の頻度は13.9%であった。
上記により得られた複合粒子を用いて実施例1のリチウムイオン二次電池正極の作製方法と同様にして実施例3のリチウムイオン二次電池正極を約100m作製した。
【0148】
(実施例4)
印加電圧を10.0kVとしたこと以外は実施例3と同様にして球形状の実施例4のリチウムイオン二次電池正極用複合粒子を得た。実施例1と同様にして収率を求めたところ、収率は96.3%であった。
また、得られた実施例4のリチウムイオン二次電池正極用複合粒子群のメディアン径は、61μmであり、個数基準で求めた粒子径分布における40μm以下の累積頻度は21.2%であり、モード径の頻度は12.8%であった。
上記により得られた複合粒子を用いて実施例1のリチウムイオン二次電池正極の作製方法と同様にして実施例4のリチウムイオン二次電池正極を約100m作製した。
【0149】
(実施例5)
(正極用粒子状結着樹脂の製造)
アクリル酸ブチル、およびメタクリル酸エチルの組成比をそれぞれ97.6部、および0部としたこと以外は、実施例1と同様に正極用粒子状結着樹脂の製造を行い粒子状結着樹脂C(アクリレート系重合体)の水分散液を得た。
【0150】
結着剤として粒子状結着樹脂Cを用いたこと、固形分濃度を38%としたこと以外は実施例1と同様にして球形状の実施例5のリチウムイオン二次電池正極用複合粒子を得た。実施例1と同様にして収率を求めたところ、収率は96.2%であった。
また、得られた実施例5のリチウムイオン二次電池正極用複合粒子群のメディアン径は、70μmであり、個数基準で求めた粒子径分布における40μm以下の累積頻度は11.8%であり、モード径の頻度は15.8%であった。
上記により得られた複合粒子を用いて実施例1のリチウムイオン二次電池正極の作製方法と同様にして実施例5のリチウムイオン二次電池正極を約100m作製した。
【0151】
(実施例6)
粒子状結着樹脂Cの水分散液を固形分換算で3.0部にしたこと以外は、実施例5と同様にして球形状の実施例6のリチウムイオン二次電池正極用複合粒子を得た。実施例1と同様にして収率を求めたところ、収率は96.1%であった。
また、得られた実施例6のリチウムイオン二次電池正極用複合粒子群のメディアン径は、72μmであり、個数基準で求めた粒子径分布における40μm以下の累積頻度は9.8%であり、モード径の頻度は16.7%であった。
上記により得られた複合粒子を用いて実施例1のリチウムイオン二次電池正極の作製方法と同様にして実施例5のリチウムイオン二次電池正極を約100m作製した。
【0152】
(実施例7)
(リチウムイオン二次電池正極用合剤スラリーの調製)
正極用活物質として50%体積平均粒子径5μmのコバルト酸リチウム100部、導電材としてのアセチレンブラック(HS−100、電気化学工業株式会社製)2部、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(以下、「PVDF」ということがある。)5.0部を混合し、N−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」ということがある。)を適量加え、プラネタリーミキサーを用いて高粘度の状態にて十分混練したのち、N−メチル−2−ピロリドンにより希釈して固形分濃度30%のリチウムイオン二次電池正極用としての合剤スラリーを調製した。
【0153】
上記により得られた合剤スラリーを用いたこと、複合粒子を製造する際に使用した熱交換媒体として加熱窒素を用いたこと、印加電圧を10.0kVにしたこと以外は、実施例1と同様にして球形状の実施例7のリチウムイオン二次電池用正極用複合粒子を得た。実施例1と同様にして収率を求めたところ、収率は96.1%であった。
また、得られた実施例7のリチウムイオン二次電池正極用複合粒子群のメディアン径は、82μmであり、個数基準で求めた粒子径分布における40μm以下の累積頻度は0%であり、モード径の頻度は16.5%であった。
上記により得られた複合粒子を用いて実施例1のリチウムイオン二次電池正極の作製方法と同様にして実施例7のリチウムイオン二次電池正極を約100m作製した。
【0154】
(比較例1)
固形分濃度を33%にしたこと以外は実施例5と同様にして球形状の比較例1のリチウムイオン二次電池用正極用複合粒子を得た。実施例1と同様にして収率を求めたところ、収率は95.7%であった。
また、得られた比較例1のリチウムイオン二次電池正極用複合粒子群のメディアン径は、43μmであり、個数基準で求めた粒子径分布における40μm以下の累積頻度は53.7%であり、モード径の頻度は13.0%であった。
上記により得られた複合粒子を用いて実施例1のリチウムイオン二次電池正極の作製方法と同様にして比較例1のリチウムイオン二次電池正極を約100m作製した。
【0155】
(比較例2)
結着剤を粒子状結着樹脂Bの水分散液から粒子状結着樹脂Cの水分散液に変更したこと、印加電圧を2.5kVに変更したこと以外は、実施例2と同様にして球形状の比較例2のリチウムイオン二次電池用正極用複合粒子を得た。実施例1と同様にして収率を求めたところ、収率は95.1%であった。
また、得られた比較例2のリチウムイオン二次電池正極用複合粒子群のメディアン径は、185μmであり、個数基準で求めた粒子径分布における40μm以下の累積頻度は0%であり、モード径の頻度は15.7%であった。
上記により得られた複合粒子を用いて実施例1のリチウムイオン二次電池正極の作製方法と同様にして比較例2のリチウムイオン二次電池正極を約100m作製した。
【0156】
(比較例3)
固形分濃度を65%にしたこと、結着剤を粒子状結着樹脂Aの水分散液から粒子状結着樹脂Bの水分散液に変更したこと以外は実施例1と同様にして比較例3のリチウムイオン二次電池正極用合剤スラリーを調製した。
【0157】
(複合粒子の製造)
スプレー乾燥機(ODB−8型、大川原化工機社製)を用いて、上記合剤スラリーを前記スプレー乾燥機内に組み込まれた17,000rpmの回転数で回転するピン型ディスクアトマイザー(直径84mm)に供給し、遠心法により液滴を生成した。そして、熱交換媒体として加熱空気を導入し、粒子回収出口の温度が90℃となる条件で乾燥することで遠心造粒法による複合粒子を得た。次に、得られた複合粒子の粗粉を除去することで球形状の比較例3のリチウムイオン二次電池正極用複合粒子を得た。実施例1と同様にして収率を求めたところ、収率は82.0%であった。
また、得られた比較例3のリチウムイオン二次電池正極用複合粒子群のメディアン径は、57μmであり、個数基準で求めた粒子径分布における40μm以下の累積頻度は63.4%であり、モード径の頻度は10.8%であった。
上記により得られた複合粒子を用いて実施例1のリチウムイオン二次電池正極の作製方法と同様にして比較例3のリチウムイオン二次電池正極を約100m作製した。
【0158】
(実施例8)
(負極用粒子状結着樹脂の製造)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、スチレン62部、1,3−ブタジエン34部、メタクリル酸3部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4部、イオン交換水150部、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタン0.4部および重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、粒子状結着樹脂S(スチレン・ブタジエン共重合体;以下、「SBR」と略記することがある。)を得た。
【0159】
(リチウムイオン二次電池負極用合剤スラリーの調製)
負極用活物質として50%体積平均粒子径10μmの非晶質炭素が被覆された塊状天然黒鉛100部、及び溶解型樹脂としてカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を固形分換算量で1.0部混合し、さらにイオン交換水を適量加え、プラネタリーミキサーを用いて高粘度の状態にて十分混練した。その後、イオン交換水により希釈し、結着剤として前記粒子状結着樹脂Sの水分散液を固形分換算で1.5部加えることで固形分濃度32%のリチウムイオン二次電池負極用としての合剤スラリーを調製した。
【0160】
(複合粒子の製造)
所定の塔径を有する乾燥塔内の上部に外径200μm、内径120μmの金属製のノズルからなる静電微粒化用アトマイザーが多数設けられた静電微粒化造粒装置に前記リチウムイオン二次電池負極用合剤スラリーを供給し、アトマイザーに電圧をかけることでアトマイザーに供給される前記リチウムイオン二次電池負極用合剤スラリーを液滴にし、塔内に噴霧した。この時印加した電圧は11.0kVであった。
【0161】
次に、噴霧した液滴を静電微粒化造粒装置に導入される加熱空気により熱交換することで前記液滴を乾燥して固形化するともに除電、捕集、そして粗粉を除去することで球形状の実施例8のリチウムイオン二次電池負極用複合粒子を得た。この時の粒子回収出口温度は80℃であった。実施例1と同様にして収率を求めたところ、収率は96.7%であった。
また、得られた実施例8のリチウムイオン二次電池負極用複合粒子群のメディアン径は、85μmであり、個数基準で求めた粒子径分布における40μm以下の累積頻度は0%であり、モード径の頻度は15.1%であった。
なお、前記熱風がアトマイザー部に波及してアトマイザーが乾燥により閉塞しない様、アトマイザー周辺部には冷却空気を導入した。
【0162】
(リチウムイオン二次電池負極の作製)
まず、ロール加圧成形装置において30℃に加熱されたロール径50mmφの一対のプレ成形ロール上に、事前に正極用とは異なる種類の導電性接着剤を銅集電体上にダイコーターで塗布、乾燥することで得た導電性接着剤層付銅集電箔を設置した。次に、定量フィーダーを介して、前記プレ成形ロールの上部に設けられたホッパーに上記にて得られたリチウムイオン二次電池負極用複合粒子を供給した。プレ成形ロールの上部に設けられたホッパー内の前記複合粒子の堆積量がある一定高さになったところで、10m/分の速度でロール加圧成形装置を稼働させ、前記プレ成形ロールで複合粒子を加圧成形し、前記導電性接着剤層付銅集電箔上にリチウムイオン二次電池負極用負極合剤層のプレ成形体を形成した。その後、前記ロール加圧成形装置のプレ成形ロールの下流に設けられ、100℃に加熱された二対の300mmφ成形ロールで前記負極合剤層がプレ成形された電極をプレスし、前記電極の表面を均すとともに電極密度を高めた。このままロール加圧成形装置を連続して10分間稼働し、実施例8のリチウムイオン二次電池負極を約100m作製した。
【0163】
(実施例9)
用いる粒子状結着樹脂Sの量を固形分換算で3.0部としたこと、リチウムイオン二次電池負極用合剤スラリーの固形分濃度を29%にしたこと以外は、実施例8と同様にして球形状の実施例9のリチウムイオン二次電池負極用複合粒子を得た。実施例1と同様にして収率を求めたところ、収率は96.2%であった。
また、得られた実施例9のリチウムイオン二次電池負極用複合粒子群のメディアン径は、58μmであり、個数基準で求めた粒子径分布における40μm以下の累積頻度は39.0%であり、モード径の頻度は14.2%であった。
上記により得られた複合粒子を用いて実施例8のリチウムイオン二次電池負極の作製方法と同様にして実施例9のリチウムイオン二次電池負極を約100m作製した。
【0164】
(比較例4)
実施例8のリチウムイオン二次電池負極用合剤スラリーの固形分濃度を35%にすることで比較例4のリチウムイオン二次電池負極用合剤スラリーを調製した。
【0165】
(複合粒子の製造)
スプレー乾燥機(ODB−8型、大川原化工機社製)を用いて、上記合剤スラリーを前記スプレー乾燥機内に組み込まれた25,000rpmの回転数で回転するピン型ディスクアトマイザー(直径84mm)に供給し、遠心法により液滴を生成した。そして、熱交換媒体として加熱空気を導入し、粒子回収出口の温度が90℃となる条件で乾燥することで遠心造粒法による複合粒子を得た。次に、得られた複合粒子の粗粉を除去することで球形状の比較例4のリチウムイオン二次電池負極用複合粒子を得た。実施例1と同様にして収率を求めたところ、収率は87.0%であった。
また、得られた比較例4のリチウムイオン二次電池負極用複合粒子群のメディアン径は、55μmであり、個数基準で求めた粒子径分布における40μm以下の累積頻度は87.5%であり、モード径の頻度は6.8%であった。
【0166】
上記により得られた複合粒子を用いて実施例8のリチウムイオン二次電池負極の作製方法と同様にして比較例4のリチウムイオン二次電池負極を約100m作製した。
【0167】
(比較例5)
ピン型ディスクアトマイザーの回転数を17,000rpmとしたこと以外は比較例4と同様にして球形状の比較例5のリチウムイオン二次電池負極を得た。実施例1と同様にして収率を求めたところ、収率は79.0%であった。
また、得られた比較例5のリチウムイオン二次電池負極用複合粒子群のメディアン径は、84μmであり、個数基準で求めた粒子径分布における40μm以下の累積頻度は59.5%であり、モード径の頻度は10.0%であった。
上記により得られた複合粒子を用いて実施例8のリチウムイオン二次電池負極の作製方法と同様にして比較例5のリチウムイオン二次電池負極を約100m作製した。
【0168】
(比較例6)
比較例4のリチウムイオン二次電池負極用複合粒子を目開き45μmの篩で分級した。分級操作後の目開き45μmの篩上の回収率、すなわち分級収率は56%であった。この目開き45μmの篩上の複合粒子を用いたこと以外は実施例8と同様にして球形状の比較例6のリチウムイオン二次電池負極を得た。
また、得られた比較例6のリチウムイオン二次電池負極用複合粒子群のメディアン径は、90μmであり、個数基準で求めた粒子径分布における40μm以下の累積頻度は0%であり、モード径の頻度は14.1%であった。
上記により得られた複合粒子を用いて実施例8のリチウムイオン二次電池負極の作製方法と同様にして比較例6のリチウムイオン二次電池負極を約100m作製した。
【0169】
(実施例10)
(電気二重層キャパシタ用合剤スラリーの調製)
活物質として50%体積平均粒子径6μm、比表面積1650m
2/gの活性炭100部、導電材としてのアセチレンブラック(HS−100、電気化学工業株式会社製)5部、及び溶解型樹脂としてカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を固形分換算量で3.5部混合し、さらにイオン交換水を適量加え、プラネタリーミキサーを用いて高粘度の状態にて十分混練した。その後、イオン交換水により希釈し、結着剤として前記粒子状結着樹脂Bの水分散液を固形分換算で8.0部を加えることで固形分濃度20%の電気二重層キャパシタ用としての合剤スラリーを調製した。
【0170】
(複合粒子の製造)
所定の塔径を有する乾燥塔内の上部に外径200μm、内径120μmの金属製のノズルからなる静電微粒化用アトマイザーが多数設けられた静電微粒化造粒装置に前記電気二重層キャパシタ用合剤スラリーを供給し、アトマイザーに電圧をかけることでアトマイザーに供給される前記電気二重層キャパシタ用合剤スラリーを液滴にし、塔内に噴霧した。この時印加した電圧は6.0kVであった。
【0171】
次に、噴霧した液滴を静電微粒化造粒装置に導入される加熱空気により熱交換することで前記液滴を乾燥して固形化するともに除電、捕集、そして粗粉を除去することで球形状の実施例10の電気二重層キャパシタ用複合粒子を得た。この時の粒子回収出口温度は75℃であった。実施例1と同様にして収率を求めたところ、収率は98.0%であった。
また、上記により得られた実施例10の電気二重層キャパシタ用複合粒子群のメディアン径は、118μmであり、個数基準で求めた粒子径分布における40μm以下の累積頻度は0%であり、モード径の頻度は15.3%であった。
なお、前記熱風がアトマイザー部に波及してアトマイザーが乾燥により閉塞しない様、アトマイザー周辺部には冷却空気を導入した。
【0172】
(電気二重層キャパシタ用電極の作製)
まず、ロール加圧成形装置において50℃に加熱されたロール径50mmφの一対のプレ成形ロール上に、事前に導電性接着剤をアルミニウム集電体上にダイコーターで塗布、乾燥することで得た導電性接着剤層付アルミニウム集電箔を設置した。次に、定量フィーダーを介して、前記プレ成形ロールの上部に設けられたホッパーに上記にて得られた電気二重層キャパシタ用複合粒子を供給した。プレ成形ロールの上部に設けられたホッパー内の前記複合粒子の堆積量がある一定高さになったところで、10m/分の速度でロール加圧成形装置を稼働させ、前記プレ成形ロールで複合粒子を加圧成形し、前記導電性接着剤層付アルミニウム集電箔上に電気二重層キャパシタ用合剤層のプレ成形体を形成した。その後、前記ロール加圧成形装置のプレ成形ロールの下流に設けられ、100℃に加熱された二対の300mmφ成形ロールで前記電気二重層キャパシタ用合剤層がプレ成形された電極をプレスし、前記電極の表面を均すとともに電極密度を高めた。このままロール加圧成形装置を連続して10分間稼働し、実施例10の電気二重層キャパシタ用電極を約100m作製した。
【0173】
各実施例、および比較例の電気化学素子電極を作製した後、各電極の外観を検査し、欠け、カスレ等の不良がないか確認した。また、外観検査において、上記した欠け、カスレ等が認められない箇所を長手方向に2mにカットし、下記の様にして作製した電極厚みの均一性を評価した。結果を表1に示した。
【0174】
<厚みの均一性>
上述の様にして切り出された電気化学素子電極を、幅方向(TD方向)の中央から両端に向けて均等に5cm間隔で3点、長さ方向(MD方向)に均等に10cm間隔で膜厚測定を行い、膜厚の平均値A及び平均値から最も離れた値Bを求めた。そして、平均値A及び最も離れた値Bから、下記式(2)にしたがって、厚みムラを算出し、下記基準にて成形性を評価した。厚みムラが小さいほど、厚みの均一性に優れていると判断できる。
厚みムラ(%)=(|A−B|)×100/A ・・・(2)
A:厚みムラが2.5%未満
B:厚みムラが2.5%以上、5.0%未満
C:厚みムラが5.0%以上、7.5%未満
D:厚みムラが7.5%以上、10%未満
E:厚みムラが10%以上
【0175】
【表1】
【0176】
本発明によれば、表1の実施例1〜10に示すように、少なくとも活物質、結着剤を溶媒に含んでなるスラリーを静電微粒化法により液滴化し、前記液滴を乾燥させることで得られる、体積基準で求めた粒子径分布におけるメディアン径が50μm以上、160μm以下の範囲にある複合粒子は、ロール加圧成形法を用いて薄厚な電気化学素子電極を製造した際に膜厚精度に優れた電気化学素子電極が製造可能であった。
【0177】
これに対し、比較例1、および比較例2の複合粒子は、実施例同様本発明に記載の静電微粒化法により複合粒子を製造しているものの、体積基準で求めた粒子径分布におけるメディアン径が50μm以上、160μm以下の範囲より外れているために、ロール加圧成形法を用いて薄厚な電気化学素子電極を製造した場合には、前記メディアン径が50μm以上、160μm以下の範囲にある実施例と比較して膜厚精度に劣ることが確認できる。
【0178】
比較例1の複合粒子群は個数基準で求めた粒子径分布における40μm以下の累積頻度が53.7%と高く、凝集性が強いためにロール加圧成形法を用いたリチウムイオン二次電池正極の製造工程において局所的に不均一な状態でプレ成形ロール部に複合粒子群が供給されてしまい、これが後の後加圧工程(ロールプレス工程)にて圧縮・均厚化操作が加わっても解消されていないと推定される。
【0179】
比較例1の複合粒子とは逆に、個数基準で求めた粒子径分布における40μm以下の累積頻度が0%と複合粒子の凝集性に関しては良好であるはずの比較例2のリチウムイオン二次電池正極の膜厚精度が実施例に記載のリチウムイオン二次電池正極よりも劣る原因について調べるべく、膜厚精度を評価した比較例2のリチウムイオン二次電池正極における膜厚の偏差が大きな部位、および膜厚が中央値を示す部位の断面を観察した結果、偏差が大きな部位にはロール加圧成形工程において複合粒子群が加圧・圧縮操作を受ける前には200μmを超すと推定される複合粒子が存在していることが確認された。
【0180】
また、比較例3、および比較例4は体積基準で求めた粒子径分布におけるメディアン径が50μm以上、160μm以下の範囲にあるにもかかわらずロール加圧成形法を用いた電気化学素子電極の製造において得られる膜厚精度が実施例3、および実施例9と比較して劣るのは、比較例3、および比較例4の複合粒子群がモード径の頻度が低く複合粒子群の分布が広いために、比較例1同様個数基準で求めた粒子径分布における40μm以下の累積頻度が高く、複合粒子群の凝集性が強いことに起因すると考えられる。
なお、実施例3に比べて、実施例4のリチウムイオン二次電池正極の方が膜厚精度が優れるのも上記と同様の理由によると推察される。
【0181】
これらのことは、比較例4の複合粒子群に分級操作を加え、個数基準で求めた粒子径分布における40μm以下の累積頻度を0%とした比較例6のリチウムイオン二次電池負極が比較例4のリチウムイオン二次電池負極よりも膜厚精度が向上していることからも明らかである。
【0182】
しかしながら、比較例6の複合粒子は、収率が87%である比較例4の複合粒子に分級操作を加えて得られた粒子であり、また、上記した様に分級操作における収率は56%であることから、所望の粒子径分布を有する複合粒子を得るための収率は49%である。
従って、薄厚かつ膜厚精度に優れる電気化学素子電極をロール加圧成形法により製造するため複合粒子の製造方法として、従来の遠心法による液滴生成方法を用いた製造方法は、例えこれに工夫を加えたとしても生産性の面で現実的ではない。
【0183】
これらのことから、少なくとも活物質、結着剤を溶媒に含んでなるスラリーを静電微粒化法により液滴化し、前記液滴を乾燥させることで得られ、さらに体積基準で求めた粒子径分布におけるメディアン径が50μm以上、160μm以下の範囲にある複合粒子は、ロール加圧成形法を用いて薄厚な電気化学素子電極を製造した際に複合粒子群の凝集性が少なく流動性に富み、かつ薄厚電極を構成するのに支障をきたすサイズの複合粒子が僅少であるために膜厚精度に優れると考えられる。
【0184】
上記に関連して、表1からは実施例4のリチウムイオン二次電池正極は実施例2のリチウムイオン二次電池正極よりも膜厚精度が高いことが確認できる。実施例4と実施例2のメディアン径を比較した場合に、実施例4の複合粒子群の方がメディアン径は小さい。実施例4の複合粒子群には薄厚なリチウムイオン二次電池正極を製造するにあたり、膜厚精度に支障をきたす粒子が皆無であるために実施例2のリチウムイオン二次電池正極よりもより膜厚精度に優れていると考えられる。
【0185】
次に、複合粒子を得る方法について着目する。
従来技術である遠心法による液滴生成方法を用いて製造された比較例3、比較例4、および比較例5の複合粒子と比較して、静電微粒化法を用いていて製造された実施例1〜実施例9の複合粒子はいずれも収率が高いことが確認できる。従来技術である、遠心法により液滴を生成し、乾燥による液滴を固形化する方法では乾燥塔の略中心部より外周に向けて噴霧される液滴が乾燥により固形化する前にどうしても液滴の一部、すなわち噴霧される液滴分布のうちサイズがある一定値以上の大きな液滴が乾燥不足により乾燥塔壁に液滴として付着しまい、高い収率で複合粒子を生産できない。これに対し、本発明の液滴の生成方法では乾燥塔の中心部から外周部へと略水平に噴霧するのではなく、略垂直方向に噴霧させているので設備上液滴の乾燥時間を容易に長く設けることが可能であり、これにより乾燥塔の塔壁への液滴の付着が抑制され、効率的に液滴を固形化、および固形化された複合粒子群を回収することが可能である。その結果、高い収率で複合粒子を生産することが可能になっている。
【0186】
なお、比較例4の複合粒子に対して比較例5の複合粒子の収率が低いのは、ピン型ディスクアトマイザーの回転数を低下させて平均液滴サイズを大きくした場合に乾燥塔内への液滴の付着がより一層深刻化しているためである。
【0187】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。