特許第6347225号(P6347225)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立金属株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6347225-希土類元素の回収方法 図000007
  • 特許6347225-希土類元素の回収方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6347225
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】希土類元素の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 59/00 20060101AFI20180618BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20180618BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20180618BHJP
   C22B 5/10 20060101ALI20180618BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20180618BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20180618BHJP
【FI】
   C22B59/00ZAB
   C22B7/00 E
   C22B1/02
   C22B5/10
   B09B5/00 A
   B09B3/00 304Z
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-71061(P2015-71061)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-191108(P2016-191108A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2017年9月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(72)【発明者】
【氏名】星 裕之
【審査官】 一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−227639(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/018710(WO,A1)
【文献】 特開2013−199698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 59/00
C22B 5/10
C22B 7/00
C22B 1/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物から希土類元素を酸化物として鉄族元素から分離して回収する方法であって、少なくとも希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物と炭素を共存させた状態において、酸素が存在する雰囲気で300℃〜700℃の温度で第1の熱処理を行った後、酸素が存在しない雰囲気で1150℃以上の温度で第2の熱処理を行う工程を少なくとも含んでなることを特徴とする方法。
【請求項2】
第1の熱処理と第2の熱処理を、一貫して1つの炭素るつぼを処理容器として用いて行うことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
第1の熱処理を行う雰囲気が大気雰囲気であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
処理対象物の少なくとも一部が5mm以下の粒径を有する粒状ないし粉末状であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
処理対象物の鉄族元素含量が30mass%以上であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
処理対象物がR−Fe−B系永久磁石であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばR−Fe−B系永久磁石(Rは希土類元素)などの、少なくとも希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物から希土類元素を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R−Fe−B系永久磁石は、高い磁気特性を有していることから、今日様々な分野で使用されていることは周知の通りである。このような背景のもと、R−Fe−B系永久磁石の生産工場では、日々、大量の磁石が生産されているが、磁石の生産量の増大に伴い、製造工程中に加工不良物などとして排出される磁石スクラップや、切削屑や研削屑などとして排出される磁石加工屑などの量も増加している。とりわけ情報機器の軽量化や小型化によってそこで使用される磁石も小型化していることから、加工代比率が大きくなることで、製造歩留まりが年々低下する傾向にある。従って、製造工程中に排出される磁石スクラップや磁石加工屑などを廃棄せず、そこに含まれる金属元素、特に希土類元素をいかに回収して再利用するかが今後の重要な技術課題となっている。また、R−Fe−B系永久磁石を使用した電化製品などから循環資源として希土類元素をいかに回収して再利用するかについても同様である。
【0003】
少なくとも希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物から希土類元素を回収する方法については、これまでにもいくつかの方法が提案されており、例えば特許文献1では、処理対象物を酸化性雰囲気中で加熱して含有金属元素を酸化物とした後、水と混合してスラリーとし、加熱しながら塩酸を加えて希土類元素を溶液に溶解させ、得られた溶液に加熱しながらアルカリ(水酸化ナトリウムやアンモニアや水酸化カリウムなど)を加えることで、希土類元素とともに溶液に浸出した鉄族元素を沈殿させた後、溶液を未溶解物と沈殿物から分離し、溶液に沈殿剤として例えばシュウ酸を加えて希土類元素をシュウ酸塩として回収する方法が提案されている。この方法は、希土類元素を鉄族元素と効果的に分離して回収することができる方法として注目に値する。しかしながら、工程の一部に酸やアルカリを用いることから、工程管理が容易ではなく、また、回収コストが高くつくといった問題がある。従って、特許文献1に記載の方法は、低コストと簡易さが要求されるリサイクルシステムとして実用化するには困難な側面を有するといわざるを得ない。
また、特許文献2では、処理対象物に含まれる鉄族元素を酸化することなく希土類元素のみを酸化することによって両者を分離する方法として、処理対象物を炭素るつぼの中で加熱する方法が提案されている。この方法は、特許文献1に記載の方法のように酸やアルカリを必要とせず、また、炭素るつぼの中で処理対象物を加熱することで理論的にるつぼ内の雰囲気が鉄族元素が酸化されることなく希土類元素のみが酸化される酸素分圧に自律的に制御されることから、特許文献1に記載の方法に比較して工程が簡易であるという点において優れていると考えられる。しかしながら、単に処理対象物を炭素るつぼの中で加熱すればるつぼ内の雰囲気が所定の酸素分圧に自律的に制御されて希土類元素と鉄族元素を分離できるのかといえば、現実的には必ずしもそうではない。特許文献2では、るつぼ内の雰囲気の望ましい酸素含有濃度は1ppm〜1%であるとされているが、本質的には雰囲気を制御するための外的操作は必要とされないとある。しかしながら、本発明者の検討によれば、少なくとも酸素含有濃度が1ppm未満の場合には希土類元素と鉄族元素は分離できない。従って、炭素るつぼの中で処理対象物を加熱すれば、理論的にはるつぼ内の雰囲気が鉄族元素が酸化されることなく希土類元素のみが酸化される酸素分圧に自律的に制御されるとしても、現実的にはるつぼ内を酸素含有濃度が1ppm以上の雰囲気に人為的に制御する必要がある。こうした制御は、特許文献2にも記載されているように酸素含有濃度が1ppm以上の不活性ガスをるつぼ内に導入することで行うことができるが、工業用不活性ガスとして汎用されているアルゴンガスの場合、その酸素含有濃度は通常0.5ppm以下である。従って、酸素含有濃度が1ppm以上のアルゴンガスをるつぼ内に導入するためには、汎用されているアルゴンガスをそのまま用いることはできず、その酸素含有濃度をわざわざ高めた上で用いる必要がある。結果として、特許文献2に記載の方法は、一見工程が簡易に思えるものの実はそうではなく、特許文献1に記載の方法と同様、低コストと簡易さが要求されるリサイクルシステムとして実用化するには困難な側面を有するといわざるを得ない。
【0004】
そこで本発明者は、低コストで簡易なリサイクルシステムとして実用化が可能な、少なくとも希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物から希土類元素を回収する方法として、処理対象物に対して酸化処理を行った後、処理環境を炭素の存在下に移して熱処理することで、希土類元素を酸化物として鉄族元素から分離して回収する方法を特許文献3において提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−249674号公報
【特許文献2】国際公開第2010/098381号
【特許文献3】国際公開第2013/018710号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3において本発明者が提案した方法によれば、酸化処理を行った少なくとも希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物を炭素の存在下で熱処理することで、一方が希土類元素の酸化物を主成分とする塊状物であり、他方が鉄族元素の炭素との合金を主成分とする塊状物である、互いに独立かつ密接して存在する2種類の塊状物を得ることができる。しかしながら、この方法は、例えば大気雰囲気中で火をつけて燃焼処理を行うことで酸化処理を行った処理対象物を炭素るつぼ内で熱処理する場合、処理対象物に対して大気雰囲気中で燃焼処理を行う工程と、こうして酸化処理を行った処理対象物を炭素るつぼ内で熱処理する工程を必要とするので、手間がかかるという点において改善の余地があった。
【0007】
そこで本発明は、少なくとも希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物から、少ない工程数で希土類元素を酸化物として鉄族元素から分離して回収することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の点に鑑みて鋭意検討を行った結果、少なくとも希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物と炭素を共存させた状態において、雰囲気と温度を制御した2段階の熱処理を行うことで、希土類元素を酸化物として鉄族元素から分離して回収することができることを見出した。
【0009】
上記の知見に基づいてなされた本発明の少なくとも希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物から希土類元素を酸化物として鉄族元素から分離して回収する方法は、請求項1記載の通り、少なくとも希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物と炭素を共存させた状態において、酸素が存在する雰囲気で300℃〜700℃の温度で第1の熱処理を行った後、酸素が存在しない雰囲気で1150℃以上の温度で第2の熱処理を行う工程を少なくとも含んでなることを特徴とする。
また、請求項2記載の方法は、請求項1記載の方法において、第1の熱処理と第2の熱処理を、一貫して1つの炭素るつぼを処理容器として用いて行うことを特徴とする。
また、請求項3記載の方法は、請求項1記載の方法において、第1の熱処理を行う雰囲気が大気雰囲気であることを特徴とする。
また、請求項4記載の方法は、請求項1記載の方法において、処理対象物の少なくとも一部が5mm以下の粒径を有する粒状ないし粉末状であることを特徴とする。
また、請求項5記載の方法は、請求項1記載の方法において、処理対象物の鉄族元素含量が30mass%以上であることを特徴とする。
また、請求項6記載の方法は、請求項1記載の方法において、処理対象物がR−Fe−B系永久磁石であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、少なくとも希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物から、少ない工程数で希土類元素を酸化物として鉄族元素から分離して回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実験例1における、第2の熱処理を行った後のるつぼ内の様子を示す写真である。
図2】比較例1における、第2の熱処理を行った後のるつぼ内の様子を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の少なくとも希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物から希土類元素を酸化物として鉄族元素から分離して回収する方法は、少なくとも希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物と炭素を共存させた状態において、酸素が存在する雰囲気で300℃〜700℃の温度で第1の熱処理を行った後、酸素が存在しない雰囲気で1150℃以上の温度で第2の熱処理を行う工程を少なくとも含んでなることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の方法の適用対象となる少なくとも希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物は、Nd,Pr,Dy,Tb,Smなどの希土類元素とFe,Co,Niなどの鉄族元素を含むものであれば特段の制限はなく、希土類元素と鉄族元素に加えてその他の元素として例えばホウ素などを含んでいてもよい。具体的には、例えばR−Fe−B系永久磁石などが挙げられるが、とりわけ本発明の方法は鉄族元素含量が30mass%以上である処理対象物に好適に適用することができる(例えばR−Fe−B系永久磁石の場合、その鉄族元素含量は、通常、60mass%〜82mass%である)。処理対象物の大きさや形状は特段制限されるものではなく、処理対象物がR−Fe−B系永久磁石の場合には製造工程中に排出される磁石スクラップや磁石加工屑などであってよい。処理対象物に対して十分な酸化処理を行うためには、処理対象物は5mm以下の粒径を有する粒状ないし粉末状であることが望ましい(例えば調製の容易性に鑑みれば粒径の下限は1μmが望ましい)。しかしながら、処理対象物の全てがこのような粒状ないし粉末状である必要は必ずしもなく、粒状ないし粉末状であるのは処理対象物の一部であってよい。
【0014】
本発明の方法において、少なくとも希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物と炭素を共存させた状態において、酸素が存在する雰囲気で300℃〜700℃の温度で行う第1の熱処理は、特許文献3に記載の方法における処理対象物に対する酸化処理に相当し、処理対象物に含まれる希土類元素を酸化物に変換することを目的とするものであり、酸素が存在しない雰囲気で1150℃以上の温度で行う第2の熱処理は、特許文献3に記載の方法における酸化処理を行った処理対象物の炭素の存在下での熱処理に相当し、一方が希土類元素の酸化物を主成分とする塊状物であり、他方が鉄族元素の炭素との合金を主成分とする塊状物である、互いに独立かつ密接して存在する2種類の塊状物を得ることを目的とするものである。
【0015】
本発明の方法において、少なくとも希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物と炭素を共存させる方法は、第2の熱処理を行う際、第1の熱処理を行うことによって酸化処理を行った処理対象物に対して炭素が供給される態様であれば特段の制限はない。炭素の具体例としては、例えば、5mm以下の粒径を有する、石油コークス(例えば常圧蒸留残油や減圧蒸留残油などの重質油をコーキングという熱分解処理を行うことで得られる炭素を主成分とする物質)、グラファイト(黒鉛や石墨)、カーボンブラックなどの、粒状ないし粉末状の炭素物質が挙げられるが(粒径の下限は例えば1μmである)、第1の熱処理と第2の熱処理を、一貫して1つの炭素るつぼを処理容器として用いて行えば、炭素るつぼは第2の熱処理を行う際にその表面からの炭素の供給源としての役割も果たすので都合がよい(炭素るつぼに別個の炭素を収容することを妨げるものではない。炭素を収容する方法としては、処理対象物と混合して収容する方法や、第2の熱処理を行った後に得られる、一方が希土類元素の酸化物を主成分とする塊状物であり、他方が鉄族元素の炭素との合金を主成分とする塊状物である、互いに独立かつ密接して存在する2種類の塊状物が、炭素るつぼに固着することを防止するため、処理対象物と炭素るつぼの底面の間に介在するように収容する方法などを採用することができる)。なお、用いることができる処理容器は、特許文献2に記載の方法のように炭素るつぼに限定されるわけではなく、非炭素製の処理容器、例えばアルミナや酸化マグネシウムや酸化カルシウムなどの金属酸化物や酸化ケイ素でできたセラミックスるつぼ(単一の素材からなるものであってもよいし複数の素材からなるものであってもよい。炭化ケイ素などの炭素元素を含む素材であっても炭素の供給源としての役割を果さない素材からなるものを含む)などを用いることもできる。非炭素製の処理容器を用いる場合、処理容器は第2の熱処理を行う際に炭素の供給源としての役割を果さないので、処理容器に別個の炭素を収容する(炭素を収容する方法としては、処理対象物と混合して収容する方法や、第2の熱処理を行った後に得られる、一方が希土類元素の酸化物を主成分とする塊状物であり、他方が鉄族元素の炭素との合金を主成分とする塊状物である、互いに独立かつ密接して存在する2種類の塊状物が、処理容器に固着することを防止するため、処理対象物と処理容器の底面の間に介在するように収容する方法などを採用することができる)。少なくとも希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物と共存させる炭素の量は、処理対象物に含まれる鉄族元素に対してモル比で1.5倍以上であることが望ましい。炭素の量をこのように調整することで、第1の熱処理を行うことによって処理対象物に含まれる鉄族元素が酸化物に変換されても、第2の熱処理を行うことによってその還元を確実なものとして炭素との合金化を進行させて、一方が希土類元素の酸化物を主成分とする塊状物であり、他方が鉄族元素の炭素との合金を主成分とする塊状物である、互いに独立かつ密接して存在する2種類の塊状物を得やすくすることができる。
【0016】
本発明の方法における酸素が存在する雰囲気で300℃〜700℃の温度で行う第1の熱処理は、その目的においては、系内に炭素が存在する必要はないが、第1の熱処理を行う際に系内に炭素を存在させておくことで、第1の熱処理を行った処理対象物を、系内に炭素が存在する必要がある第2の熱処理を行うための処理容器に収容する工程を省略し、雰囲気を変更することと昇温することだけで第1の熱処理から第2の熱処理に移行することができる。本発明の方法においては、特許文献2に記載の方法と異なり、第1の熱処理を行うことによって処理対象物に含まれる鉄族元素が希土類元素とともに酸化物に変換されてもよい。酸素が存在する雰囲気は、例えば大気雰囲気であることが簡便であるが、酸素のみからなる雰囲気や、酸素とその他のガスからなる雰囲気などであってもよい。第1の熱処理を行う温度を300℃〜700℃に規定するのは、300℃未満であると、処理対象物に含まれる希土類元素を酸化物に十分に変換することができない恐れがある一方、700℃を超えると、系内に存在する炭素が、酸素と反応することで二酸化炭素を生成して消費され、第2の熱処理を行う際に酸化処理を行った処理対象物に対する炭素の供給源としての役割を効率的に果さない恐れがあるからである。第1の熱処理を行う時間は、例えば30分間〜10時間が適当である。
【0017】
第1の熱処理を行った後、酸素が存在しない雰囲気で1150℃以上の温度で第2の熱処理を行うことで、一方が希土類元素の酸化物を主成分とする塊状物であり、他方が鉄族元素の炭素との合金を主成分とする塊状物である、互いに独立かつ密接して存在する2種類の塊状物を得ることができる。これは、第1の熱処理を行うことによって酸化処理を行った処理対象物に対し、酸素が存在しない雰囲気で炭素を供給しながら1150℃以上の温度で熱処理すると、酸化処理を行った処理対象物に含まれる希土類元素の酸化物は高温で酸化物のままで溶融するのに対し、鉄族元素は炭素を固溶して合金化して溶融し、また、鉄族元素の酸化物は炭素によって還元された後に炭素を固溶して合金化して溶融し、結果として、希土類元素の酸化物の溶融物と鉄族元素の炭素との合金の溶融物が相溶することなく互いに独立して存在するという本発明者によって見出された現象に基づくものであり、処理対象物に含まれる鉄族元素を酸化することなく希土類元素のみを酸化するために炭素が利用される特許文献2に記載の方法とは炭素の役割が全く異なる。第2の熱処理を行う温度を1150℃以上に規定するのは、1150℃未満であると、希土類元素の酸化物が溶融しないからである。第2の熱処理を行う温度は1300℃以上が望ましく、1400℃以上がより望ましい。なお、第2の熱処理を行う温度の上限は例えばエネルギーコストの点に鑑みれば1700℃が望ましく、1650℃がより望ましく、1600℃がさらに望ましい。第2の熱処理を行う雰囲気を酸素が存在しない雰囲気と規定するのは、酸素が存在する雰囲気で第2の熱処理を行うと、系内に存在する炭素が、酸素と反応することで二酸化炭素を生成して消費され、酸化処理を行った処理対象物に対する炭素の供給源としての役割を効率的に果さない恐れがあるからである。なお、酸素が存在しない雰囲気は、酸素を全く含まない雰囲気に限定されるわけではなく、系内に存在する炭素が酸化処理を行った処理対象物に対する炭素の供給源としての役割を効率的に果たすことを阻害しない範囲において酸素を含んでいてもよい。酸素が存在しない雰囲気の具体例としては、例えば、アルゴンやヘリウムや窒素などの不活性ガスからなる雰囲気(酸素含有濃度は1ppm未満が望ましい)や真空雰囲気(1000Pa未満が望ましい)が挙げられる。第2の熱処理を行う時間は、例えば1分間〜24時間が適当である。
【0018】
なお、第1の熱処理から第2の熱処理への移行は、第1の熱処理を行った後、第1の熱処理を行った温度を維持したまま、酸素が存在する雰囲気を酸素が存在しない雰囲気に置換してから、昇温することで行うことが、昇温の際に系内に存在する炭素が酸素と反応することで二酸化炭素を生成して消費されることを防止することができる点において望ましい。酸素が存在する雰囲気を不活性ガスからなる雰囲気に置換する場合、酸素が存在する雰囲気をいったん真空ポンプで減圧排気して真空度を例えば130Pa以下にしてから不活性ガスを導入することで置換してもよいし、不活性ガスを例えば1時間以上パージし続けることで置換してもよい。
【0019】
こうして得られる、一方が希土類元素の酸化物を主成分とする塊状物であり、他方が鉄族元素の炭素との合金を主成分とする塊状物である、互いに独立かつ密接して存在する2種類の塊状物は、力を加えることで両者を分離することができる。また、この互いに独立かつ密接して存在する2種類の塊状物は、一緒に粉砕した後、磁石を用いて粉砕物の形態で分離することもできる(希土類元素の酸化物を主成分とする塊状物に由来する粉砕物は磁石に付かないが鉄族元素の炭素との合金を主成分とする塊状物に由来する粉砕物は磁石に付く)。希土類元素の酸化物を主成分とする塊状物の希土類元素含量は、第2の熱処理を行う条件などにも依存するが、例えば70mass%以上であり、鉄族元素含量は例えば2.0mass%以下である。希土類元素の酸化物を主成分とする塊状物の希土類元素含量は75mass%以上が望ましく、鉄族元素含量は1.0mass%以下が望ましい。
【0020】
本発明の方法の適用対象となる少なくとも希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物が例えばR−Fe−B系永久磁石などのようにその他の元素としてホウ素を含む場合、本発明の方法によって鉄族元素の炭素との合金から分離することで回収された希土類元素の酸化物にはホウ素が多少なりとも含まれる。ホウ素を含む希土類元素の酸化物をフッ素を含む溶融塩成分を用いた溶融塩電解法によって還元すると、希土類元素の酸化物に含まれるホウ素がフッ素と反応することで有毒なフッ化ホウ素が発生する恐れがある。従って、こうした場合には予め希土類元素の酸化物のホウ素含量を低減しておくことが望ましい。ホウ素を含む希土類元素の酸化物のホウ素含量の低減は、例えばホウ素を含む希土類元素の酸化物をアルカリ金属の炭酸塩(炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなど)や酸化物とともに例えば炭素の存在下で熱処理することで行うことができる。アルカリ金属の炭酸塩や酸化物は、例えばホウ素を含む希土類元素の酸化物1重量部に対して0.1重量部〜2重量部用いればよい。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0022】
実施例1:
R−Fe−B系永久磁石を、メノウ製の乳鉢と乳棒を用いて粉砕し、ステンレス製のふるいを用いて粒径が500μm未満の磁石粉末を調製した。この磁石粉末のICP分析(使用装置:島津製作所社製のICPV−1017)とガス分析(使用装置:堀場製作所社製のEMGA−550W)の結果を表1に示す。表1から明らかなように、この磁石粉末は、酸素モル濃度が0.1mass%未満であり、ほとんど酸化していないものであった。
【0023】
【表1】
【0024】
寸法が外径35mm×高さ15mm×肉厚5mmの炭素るつぼ(黒鉛製)に上記の磁石粉末5gを収容し、高温雰囲気ボックス炉(光洋サーモシステム社製KBF−624N1)を用いて、大気雰囲気で300℃で1時間、第1の熱処理を行った。次に、炉内の温度を300℃に維持したまま、工業用アルゴンガス(酸素含有濃度:0.2ppm、以下同じ)を5L/分の流量で1時間パージし続けることで、炉内を工業用アルゴンガス雰囲気に置換した後、引き続き工業用アルゴンガスを5L/分の流量で流しながら1450℃に昇温してから、1時間、第2の熱処理を行った。その後、炉内の加熱を停止し、炉内の工業用アルゴンガス雰囲気を維持したまま、炭素るつぼを室温まで炉冷した。炉冷を終了した後、炭素るつぼ内には、互いに独立かつ密接して存在する2種類の塊状物(塊状物Aと塊状物B)が残留物として存在した(図1)。塊状物Aと塊状物BのそれぞれのSEM・EDX分析(使用装置:日立ハイテクノロジーズ社製のS800、以下同じ)の結果を表2に示す。表2から明らかなように、塊状物Aの主成分は鉄である一方、塊状物Bの主成分は希土類元素の酸化物であり、希土類元素を酸化物として鉄から分離することができたことがわかった(塊状物Bの主成分が希土類元素の酸化物であることは別途に行った標準物質を用いたX線回析分析結果から確認。以下同じ)。
【0025】
【表2】
【0026】
実施例2:
第1の熱処理を400℃で行うこと以外は実施例1と同様にして、互いに独立かつ密接して存在する2種類の塊状物(塊状物Aと塊状物B)を得た。塊状物Aと塊状物BのそれぞれのSEM・EDX分析の結果を表3に示す。表3から明らかなように、塊状物Aの主成分は鉄である一方、塊状物Bの主成分は希土類元素の酸化物であり、希土類元素を酸化物として鉄から分離することができたことがわかった。
【0027】
【表3】
【0028】
実施例3:
第1の熱処理を600℃で行うこと以外は実施例1と同様にして、互いに独立かつ密接して存在する2種類の塊状物(塊状物Aと塊状物B)を得た。塊状物Aと塊状物BのそれぞれのSEM・EDX分析の結果を表4に示す。表4から明らかなように、塊状物Aの主成分は鉄である一方、塊状物Bの主成分は希土類元素の酸化物であり、希土類元素を酸化物として鉄から分離することができたことがわかった。
【0029】
【表4】
【0030】
実施例4:
第1の熱処理を700℃で行うこと以外は実施例1と同様にして、互いに独立かつ密接して存在する2種類の塊状物(塊状物Aと塊状物B)を得た。塊状物Aと塊状物BのそれぞれのSEM・EDX分析の結果を表5に示す。表5から明らかなように、塊状物Aの主成分は鉄である一方、塊状物Bの主成分は希土類元素の酸化物であり、希土類元素を酸化物として鉄から分離することができたことがわかった。
【0031】
【表5】
【0032】
実施例5:
第2の熱処理を1200℃で行うこと以外は実施例1と同様にして、互いに独立かつ密接して存在する2種類の塊状物(塊状物Aと塊状物B)を得た。塊状物Aと塊状物BのそれぞれをSEM・EDX分析したところ、塊状物Aの主成分は鉄である一方、塊状物Bの主成分は希土類元素の酸化物であり、希土類元素を酸化物として鉄から分離することができたことがわかった。
【0033】
実施例6:
第2の熱処理を1600℃で行うこと以外は実施例1と同様にして、互いに独立かつ密接して存在する2種類の塊状物(塊状物Aと塊状物B)を得た。塊状物Aと塊状物BのそれぞれをSEM・EDX分析したところ、塊状物Aの主成分は鉄である一方、塊状物Bの主成分は希土類元素の酸化物であり、希土類元素を酸化物として鉄から分離することができたことがわかった。
【0034】
比較例1:
第1の熱処理を250℃で行うこと以外は実施例1と同様にして、互いに独立かつ密接して存在する2種類の塊状物(塊状物Aと塊状物B)を得ようとしたが、炉冷を終了した後の炭素るつぼ内には、互いに独立かつ密接して存在する2種類の塊状物は残留物として存在せず、希土類元素を酸化物として鉄から分離することができなかった(図2)。
【0035】
比較例2:
第2の熱処理を1100℃で行うこと以外は実施例1と同様にして、互いに独立かつ密接して存在する2種類の塊状物(塊状物Aと塊状物B)を得ようとしたが、炉冷を終了した後の炭素るつぼ内には、互いに独立かつ密接して存在する2種類の塊状物は残留物として存在せず、希土類元素を酸化物として鉄から分離することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、少なくとも希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物から、少ない工程数で希土類元素を酸化物として鉄族元素から分離して回収することができる方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
図1
図2