(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
三次元的に配列する平均粒径が5〜500nmの金属ナノ粒子を含むナノ多孔体金属材を含有する接合用組成物を、第一の被接合銅材と第二の被接合銅材との間に介在させる工程と、
前記第一の被接合銅材と前記第二の被接合銅材との間に介在させた前記接合用組成物を50〜400℃に加熱するとともに、前記第一の被接合銅材と前記第二の被接合銅材とを加圧する工程と、を含み、
前記ナノ多孔体金属材が、金属材の脱成分腐食によって形成されるナノ多孔体金属シートであること、
を特徴とする銅材の接合方法。
【背景技術】
【0002】
銅材及び銅被覆された部品に代表される金属部品と金属部品とを機械的及び/又は電気的及び/又は熱的に接合するために、従来より、はんだ、導電性接着剤、銀ペースト及び異方導電性フィルム等が用いられている。
【0003】
なかでも、はんだ並びに金属からなる導電フィラーを含む接着剤、ペースト及びフィルムは、電気的な接続を必要とする部分の接合に用いられている。更には、金属は一般的に熱伝導性が高いため、これらはんだ並びに導電フィラーを含む接着剤、ペースト及びフィルムは、放熱性を上げるために使用される場合もある。
【0004】
一方、例えば、LED等の発光素子を用いて高輝度の照明デバイスや発光デバイスを作製する場合、或いは、パワーデバイスと言われる高温で高効率の動作をする半導体素子を用いて半導体デバイスを作製する場合等には、発熱量が上がる傾向にある。デバイスや素子の効率を向上させて発熱を減らす試みも行われているが、現状では十分な成果が出ておらず、デバイスや素子の使用温度が上がっているのが実情である。
【0005】
また、接合時におけるデバイスの損傷を防ぐという観点からは、低い接合温度(例えば350℃以下)で十分な接合強度を確保できる接合材が求められている。したがって、デバイスや素子等を接合するための接合材に対しては、接合温度の低下とともに、接合後におけるデバイスの動作による使用温度の上昇に耐えて十分な接合強度を維持できる耐熱性が求められているが、従来からの接合材では十分な対応ができないことが多い。例えば、はんだは、金属を融点以上に加熱する工程(リフロー工程)を経て部材同士を接合するが、一般的に融点はその組成に固有であるため、耐熱温度を上げようとすると加熱(接合)温度も上がってしまう。
【0006】
更に、はんだを用いて素子や基板を数層重ね合わせて接合する場合、重ね合わせる層の数だけ加熱工程を経る必要であり、既に接合した部分の溶融を防ぐためには、次の接合に用いるはんだの融点(接合温度)を下げる必要があり、また、重ね合わせる層の数だけはんだ組成の種類が必要になり、取扱いが煩雑になる。
【0007】
他方、導電性接着剤、銀ペースト及び異方導電性フィルムでは、含有するエポキシ樹脂等の熱硬化を利用して部材同士を接合するが、得られたデバイスや素子の使用温度が上がると樹脂成分が分解、劣化することがある。例えば、特許文献1(特開2008−63688号公報)においては、接合材の主材として用いて被接合部材同士を接合した時により高い接合強度が得られるようにした微粒子が提案されているが、使用温度上昇時における樹脂成分の分解、劣化の問題は解消されていない。
【0008】
また、高い使用温度において用いられる高温はんだには、従来より鉛を含むはんだが用いられている。鉛は有毒性があるため、はんだは鉛フリー化への流れが顕著である。高温はんだには他に良い代替材料が存在しないため、依然として鉛はんだが使用されているが、環境問題の観点から、鉛を使用しない接合材が切望されている。
【0009】
近年、高温はんだの代替材料として、銀、金などの貴金属を中心とする金属ナノ粒子を用いた接合材が開発されている(例えば、特許文献2:特開2012−046779号公報)。しかしながら、金属ナノ粒子は高価であるだけでなく、室温でも容易に凝集することから、分散状態を長期間維持するためには金属ナノ粒子の表面を有機層で被覆し、溶媒に適当な分散剤を添加する必要がある。
【0010】
金属ナノ粒子の焼結による接合層は当該金属の融点相当の耐熱温度を有する等、従来のはんだと比較して優れた特性を有する一方、上記有機層及び分散剤等が焼結段階で接合層に残存してしまい、ボイドが形成するという問題がある。加えて、接合温度が上記有機層及び分散剤等の分解温度に依存するという不可避的な問題点も存在する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のナノ多孔体金属材を用いた銅材の接合方法の好適な一実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、本発明の一実施形態を示すに過ぎず、これらによって本発明が限定されるものではなく、また、重複する説明は省略することがある。
【0024】
(1)接合用組成物
本実施形態の接合用組成物は、ナノ多孔体金属材を含むことを特徴とし、必要に応じて有機溶媒や分散剤等を含有している。以下においてこれら各成分について説明する。
【0025】
(1−1)ナノ多孔体金属材
本実施形態の接合用組成物に用いるナノ多孔体金属材は、平均粒径が5〜500nmの金属ナノ粒子が三次元的に配列してなるナノ多孔体金属材であることが好ましく、平均粒径が10〜50nmの金属ナノ粒子が三次元的に配列してなるナノ多孔体金属材であることがより好ましい。金属ナノ粒子は一般的に安定性及び分散性に乏しく、表面を有機物等で被覆する必要があるが、金属ナノ粒子が三次元的に配列することで、当該被覆等を用いることなく、長期の安定性及び分散性を担保することができる。
【0026】
また、ナノ多孔体金属材を構成する金属ナノ粒子の平均粒径を5〜500nmとすることで、金属ナノ粒子が本来有する低温焼成機能を発現することができ、50〜400℃程度の加熱であっても金属ナノ粒子同士の焼結を進行させることができる。金属材に脱成分腐食を施す場合、金属ナノ粒子の平均粒径が5nm以上のナノ多孔体金属材が得られやすく、金属ナノ粒子の平均粒径が500nm以下であると上記低温焼成機能が発現されやすい。また、金属ナノ粒子の平均粒径を10〜50nmとすることで、金属ナノ粒子の安定性及び低温焼結機能を高いレベルで両立させることができる。金属ナノ粒子の平均粒径は、例えば、電子顕微鏡写真から実測することができ、さらには、当該電子顕微鏡写真から、画像処理装置を用いて算出することもできる。なお、ナノ多孔体金属材を構成する金属ナノ粒子の平均粒径は、金属ナノ粒子が扁平している場合は、最短の直径の平均値を意味する。
【0027】
ナノ多孔体金属材は、金属材(金属箔または金属板)の脱成分腐食によって形成されるナノ多孔体金属シートであること、が好ましい。個々に生成した金属ナノ粒子を三次元的に配列することは極めて困難であるが、金属材(金属箔または金属板)の脱成分腐食を用いることで、ナノ多孔体金属シートを容易に得ることができる。また、ナノ多孔体金属材がシート状であれば、被接合銅材間に容易に配置することができる。
【0028】
上述のとおり、脱成分腐食は適当な腐食液を用いた合金元素の選択溶解を利用したものであり、腐食液は処理対象となる金属材や目的とするナノ多孔体金属材の形状等に応じて適宜選択すればよい。腐食液としては、例えば、HF、HCl、NaOH、HNO
3、H
2SO
4、クエン酸、H
2SO
4+MnSO
4、(NH4)
2SO
4+MnSO
4、AgNO
3等を用いることができる。
【0029】
脱成分腐食は金属材の全てに施す必要はなく、表面近傍のみに施すことが好ましい。被接合銅材と接する金属材の少なくとも表面近傍がナノ多孔体構造を有しさえすれば、低温焼成機能を有することで、良好な接合部を得ることができる。この場合、脱成分腐食が施されていない金属材の内部では金属ナノ粒子の焼成が不要であり、極めて効率的に接合が達成される。
【0030】
本発明の接合方法においては、脱成分腐食を施す金属材が二元系合金であることが好ましく、Au−Ag合金であることがより好ましい。二元系合金を脱成分腐食することで、主として一方の元素が溶解除去され、他の元素を主成分とする金属ナノ粒子で構成されるナノ多孔体金属材を効率的に得ることができる。Au−Ag合金を例えば硝酸(HNO
3)で脱成分腐食することで、主として金(Au)で構成されるナノ多孔体金属材を効率的に得ることができる。
【0031】
その他、脱成分腐食によってナノ多孔体金属材を得ることができる金属材としては、Au−Ag−Pt、Au−Cu、Au−Zn、Au−Al、Ag−Al、Ag−Zn、Cu−Al、Cu−Mg、Cu−Mn、Cu−Zn、Pt−Cu、Pt−Si、Pt−Al、Pt−Zn、Pd−Ag、Pt−Co、Pd−Al、Pd−Ni−P、Ni−Al、Ni−Cu等を例示することができる。ここで、Au−Ag−Pt、Au−Cu、Au−Zn及びAu−Al等の脱成分腐食によってナノ多孔体Au材を、Ag−Al及びAg−Zn等の脱成分腐食によってナノ多孔体Ag材を、Cu−Al、Cu−Mg、Cu−Mn及びCu−Zn等の脱成分腐食によってナノ多孔体Cu材を、Pt−Cu、Pt−Si、Pt−Al、Pt−Zn、Pd−Ag及びPt−Co等の脱成分腐食によってナノ多孔体Pt材を、Pd−Al及びPd−Ni−P等の脱成分腐食によってナノ多孔体Pd材を、Ni−Al及びNi−Cu等の脱成分腐食によってナノ多孔体Ni材を、それぞれ得ることができる。
【0032】
ナノ多孔体金属材はシート状であることが好ましい。シート状とすることで、ナノ多孔体金属材のみを接合用組成物として用いる際に、被接合銅材の間に容易に配置することができる。一方で、ナノ多孔体金属材は粉末状であってもよく、粉末状のナノ多孔体金属材はそのままで接合用組成物として用いることができる。更には、粉末状のナノ多孔体金属材を有機溶媒中に分散させて、ペースト状の接合用組成物としても好適に用いることができる。なお、粉末状のナノ多孔体金属材は、超音波を印加した腐食液で金属材を完全に脱成分腐食することや、シート状のナノ多孔体金属材を粉砕することで、容易に得ることができる。
【0033】
(1−2)その他
本実施形態の接合用組成物に用いる有機溶媒は、本発明の効果を損なわない範囲で種々の有機溶媒を用いることができる。有機溶剤としては、例えば、テルペン系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、セロソルブ系溶剤、カルビトール系溶剤等が挙げられる。より具体的には、ターピネオール、メチルエチルケトン、アセトン、イソプロパノール、ブチルカービトール、デカン、ウンデカン、テトラデカン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、ジエチルエーテル、ケロシン等の有機溶媒を用いることができる。
【0034】
本実施形態の接合用組成物には、上記の成分に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、使用目的に応じた適度な粘性、密着性、乾燥性又は印刷性等の機能を付与するために、分散媒や、例えばバインダーとしての役割を果たすオリゴマー成分、樹脂成分、有機溶剤(固形分の一部を溶解又は分散していてよい。)、界面活性剤、増粘剤又は表面張力調整剤等の任意成分を添加してもよい。かかる任意成分としては、特に限定されない。
【0035】
任意成分のうちの分散媒としては、本発明の効果を損なわない範囲で種々のものを使用可能であり、例えば炭化水素及びアルコール等が挙げられる。
【0036】
炭化水素としては、脂肪族炭化水素、環状炭化水素及び脂環式炭化水素等が挙げられ、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
脂肪族炭化水素としては、例えば、テトラデカン、オクタデカン、ヘプタメチルノナン、テトラメチルペンタデカン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、トリデカン、メチルペンタン、ノルマルパラフィン、イソパラフィン等の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素が挙げられる。
【0038】
環状炭化水素としては、例えば、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0039】
更に、脂環式炭化水素としては、例えば、リモネン、ジペンテン、テルピネン、ターピネン(テルピネンともいう。)、ネソール、シネン、オレンジフレーバー、テルピノレン、ターピノレン(テルピノレンともいう。)、フェランドレン、メンタジエン、テレベン、ジヒドロサイメン、モスレン、イソテルピネン、イソターピネン(イソテルピネンともいう。)、クリトメン、カウツシン、カジェプテン、オイリメン、ピネン、テレビン、メンタン、ピナン、テルペン、シクロヘキサン等が挙げられる。
【0040】
また、アルコールは、OH基を分子構造中に1つ以上含む化合物であり、脂肪族アルコール、環状アルコール及び脂環式アルコールが挙げられ、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、OH基の一部は、本発明の効果を損なわない範囲でアセトキシ基等に誘導されていてもよい。
【0041】
脂肪族アルコールとしては、例えば、ヘプタノール、オクタノール(1−オクタノール、2−オクタノール、3−オクタノール等)、デカノール(1−デカノール等)、ラウリルアルコール、テトラデシルアルコール、セチルアルコール、2−エチル−1−ヘキサノール、オクタデシルアルコール、ヘキサデセノール、オレイルアルコール等の飽和又は不飽和C
6-30脂肪族アルコール等が挙げられる。
【0042】
環状アルコールとしては、例えば、クレゾール、オイゲノール等が挙げられる。
【0043】
更に、脂環式アルコールとしては、例えば、シクロヘキサノール等のシクロアルカノール、テルピネオール(α、β、γ異性体、又はこれらの任意の混合物を含む。)、ジヒドロテルピネオール等のテルペンアルコール(モノテルペンアルコール等)、ジヒドロターピネオール、ミルテノール、ソブレロール、メントール、カルベオール、ペリリルアルコール、ピノカルベオール、ソブレロール、ベルベノール等が挙げられる。
【0044】
本実施形態の接合用組成物中に分散媒を含有させる場合の含有量は、粘度などの所望の特性によって調整すれば良く、接合用組成物中の分散媒の含有量は、1〜30質量%であるのが好ましい。分散媒の含有量が1〜30質量%であれば、接合用組成物として使いやすい範囲で粘度を調整する効果を得ることができる。分散媒のより好ましい含有量は1〜20質量%であり、更に好ましい含有量は1〜15質量%である。
【0045】
樹脂成分としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ブロックドイソシアネート等のポリウレタン系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、メラミン系樹脂又はテルペン系樹脂等を挙げることができ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
有機溶剤としては、上記の分散媒として挙げられたものを除き、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、2−プロピルアルコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1−エトキシ−2−プロパノール、2−ブトキシエタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、重量平均分子量が200以上1,000以下の範囲内であるポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、重量平均分子量が300以上1,000以下の範囲内であるポリプロピレングリコール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、グリセリン又はアセトン等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
増粘剤としては、例えば、クレイ、ベントナイト又はヘクトライト等の粘土鉱物、例えば、ポリエステル系エマルジョン樹脂、アクリル系エマルジョン樹脂、ポリウレタン系エマルジョン樹脂又はブロックドイソシアネート等のエマルジョン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体、キサンタンガム又はグアーガム等の多糖類等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
また、上記有機成分とは異なる界面活性剤を添加してもよい。多成分溶媒系の金属コロイド分散液においては、乾燥時の揮発速度の違いによる被膜表面の荒れ及び固形分の偏りが生じ易い。本実施形態の接合用組成物に界面活性剤を添加することによってこれらの不利益を抑制し、均一な導電性被膜を形成することができる接合用組成物が得られる。
【0049】
本実施形態において用いることのできる界面活性剤としては、特に限定されず、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤の何れを用いることができ、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、4級アンモニウム塩等が挙げられる。少量の添加量で効果が得られるので、フッ素系界面活性剤が好ましい。
【0050】
なお、有機成分量を所定の範囲に調整する方法は、加熱を行って調整するのが簡便である。また、ナノ多孔体金属粉末を作製する際に添加する有機成分の量を調整することで行ってもよい。加熱はオーブンやエバポレーターなどで行うことができ、減圧下で行ってもよい。常圧下で行う場合は、大気中でも不活性雰囲気中でも行うことができる。更に、有機成分量の微調整のために、アミン(及びカルボン酸)を後で加えることもできる。
【0051】
本実施形態の接合用組成物の粘度は、固形分の濃度は本発明の効果を損なわない範囲で適宜調整すればよいが、例えば0.01〜5000Pa・Sの粘度範囲であればよく、0.1〜1000Pa・Sの粘度範囲がより好ましく、1〜100Pa・Sの粘度範囲であることが特に好ましい。当該粘度範囲とすることにより、被接合銅材に接合用組成物を塗布する方法として幅広い方法を適用することができる。
【0052】
粘度の調整は、ナノ多孔体金属粉末の粒径の調整、有機物の含有量の調整、分散媒その他の成分の添加量の調整、各成分の配合比の調整、増粘剤の添加等によって行うことができる。金属接合用組成物の粘度は、例えば、コーンプレート型粘度計(例えばアントンパール社製のレオメーターMCR301)により測定することができる。
【0053】
本発明の接合方法で用いる接合用組成物は、上述のナノ多孔体金属粉末及び有機溶媒等を従来公知の種々の方法で均一に混合することにより得ることができる。なお、混合方法は、乾式混合であっても良いし、溶媒等を用いて湿式混合を実施しても良い。
【0054】
(2)接合方法
本実施形態の金属接合用組成物を用いれば、加熱を伴う銅部材同士の接合において高い接合強度を得ることができる。即ち、上記金属接合用組成物を第一の被接合銅部材と第二の被接合銅部材との間に塗布又は配置により介在させる接合用組成物塗布工程と、第一の被接合銅部材と第二の被接合銅部材との間に塗布又は配置した接合用組成物を、所望の温度(例えば400℃以下、好ましくは150〜300℃)に加熱することにより焼成して接合する接合工程と、により、第一の被接合銅部材と第二の被接合銅部材とを接合することができる。この際、第一の被接合銅材及び第二の被接合銅材のうちの一方又は両方を加熱することにより、介在する接合用組成物を加熱してもよい。
【0055】
また、この加熱の際に、第一の被接合銅材及び第二の被接合銅材の外部からこれらを挟む方向に0.5〜30MPa程度の加圧をすることで、強固な接合部を得ることができる。また、焼成を行う際、段階的に温度を上げたり下げたりすることもできる。更に、予め被接合部材表面に界面活性剤又は表面活性化剤等を塗布しておくことも可能である。
【0056】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、前記金属接合用組成物塗布工程での金属接合用組成物として、上述した本実施形態の金属接合用組成物を用いれば、第一の被接合銅部材と第二の被接合銅部材とを、高い接合強度をもってより確実に接合できる(接合体が得られる)ことを見出した。
【0057】
ここで、金属接合用組成物の長期安定性、及び、接合層内のボイドや残留有機成分を低減するという観点からは、シート状又は粉末状のナノ多孔体金属材のみを第一の被接合銅部材と第二の被接合銅部材との間に配置し、加圧しながら所望の温度(例えば400℃以下、好ましくは150〜300℃)で焼成して接合することが最も好ましい。
【0058】
本実施形態の金属接合用組成物の「塗布」とは、金属接合用組成物を面状に塗布する場合も線状に塗布(描画)する場合も含む概念である。塗布されて、加熱により焼成される前の状態の金属接合用組成物からなる塗膜の形状は、所望する形状にすることが可能である。したがって、加熱による焼成後の本実施形態の接合体では、金属接合用組成物は、面状の接合層及び線状の接合層のいずれも含む概念であり、これら面状の接合層及び線状の接合層は、連続していても不連続であってもよく、連続する部分と不連続の部分とを含んでいてもよい。
【0059】
本実施形態において用いることのできる第一の被接合銅部材及び第二の被接合銅部材としては、金属接合用組成物を塗布又は配置して加熱により焼成して接合することのできるものであればよく、特に制限はないが、接合時の温度により損傷しない程度の耐熱性を具備した銅部材であるのが好ましい。
【0060】
なお、被接合銅部材は、銅以外の基材に銅をめっきや蒸着等の種々の方法で被覆したものであってもよい。このような基材としては、例えば、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルスルホン(PES)、ビニル樹脂、フッ素樹脂、液晶ポリマー、セラミクス、ガラス又は銅以外の金属等を挙げることができる。
【0061】
また、被接合銅部材は、例えば板状又はストリップ状等の種々の形状であってよく、リジッドでもフレキシブルでもよい。基材の厚さも適宜選択することができる。接着性若しくは密着性の向上又はその他の目的ために、親水化処理等の表面処理を施した銅部材を用いてもよい。
【0062】
本発明の接合方法は、
図1に示すようなパワーモジュール内の半導体素子を放熱基板に接合する際にも好適に用いることができる。この場合、放熱基板及び半導体素子の被接合面が銅であることが好ましい。
【0063】
金属接合用組成物を被接合銅部材に塗布する工程では、種々の方法を用いることが可能であるが、上述のように、例えば、ディッピング、スクリーン印刷、スプレー式、バーコート式、スピンコート式、インクジェット式、ディスペンサー式、ピントランスファー法、刷毛による塗布方式、流延式、フレキソ式、グラビア式、又はシリンジ式等のなかから適宜選択して用いることができる。
【0064】
上記のように塗布した後の塗膜を、被接合銅部材を損傷させない範囲で、例えば350℃以下の温度に加熱することにより焼成し、本実施形態の接合体を得ることができる。本実施形態においては、先に述べたように、本実施形態の金属接合用組成物を用いるため、被接合銅部材に対して優れた密着性を有する接合層が得られ、強い接合強度がより確実に得られる。
【0065】
本実施形態においては、金属接合用組成物がバインダー成分を含む場合は、接合層の強度向上及び被接合銅部材間の接合強度向上等の観点から、バインダー成分も焼結することになるが、場合によっては、各種印刷法へ適用するために接合用組成物の粘度を調整することをバインダー成分の主目的として、焼成条件を制御してバインダー成分を全て除去してもよい。
【0066】
上記焼成を行う方法は特に限定されるものではなく、例えば従来公知のオーブン等を用いて、被接合銅部材上に塗布、描画、又は配置した上記金属接合用組成物の温度が、例えば350℃以下となるように焼成することによって接合することができる。上記焼成の温度の下限は必ずしも限定されず、被接合銅部材同士を接合できる温度であって、かつ、本発明の効果を損なわない範囲の温度であることが好ましい。ここで、上記焼成後の金属接合用組成物においては、なるべく高い接合強度を得るという点で、有機物の残存量は少ないほうがよいが、本発明の効果を損なわない範囲で有機物の一部が残存していても構わない。
【0067】
本発明の接合方法で用いる金属接合用組成物によれば、例えば50〜250℃程度の低温加熱による焼成でも高い導電性を発現する接合層を有する接合を実現することができるため、比較的熱に弱い被接合銅部材同士であっても接合することができる。また、焼成時間は特に限定されるものではなく、焼成温度に応じて、接合できる焼成時間であればよい。
【0068】
本実施形態においては、上記被接合銅部材と接合層との密着性を更に高めるため、上記被接合銅部材の表面処理を行ってもよい。上記表面処理方法としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、UV処理、電子線処理等のドライ処理を行う方法、基材上にあらかじめプライマー層や導電性ペースト受容層を設ける方法等が挙げられる。
【0069】
接合工程の雰囲気は特に制限されず、大気中、不活性ガス雰囲気下、減圧下等で行うことができる。
【0070】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。例えば、接合用組成物にナノ多孔体金属材以外のナノ粒子等を適宜添加して使用することもできる。
【0071】
以下、実施例において本発明のナノ多孔体金属材を用いた接合方法について更に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0072】
≪実施例1≫
金属材に厚さ約100μmのAu−Ag合金シート(Au:50質量%,Ag:50質量%)を用い、脱成分腐食によってナノ多孔体金属シートを製造した。具体的には、Au−Ag合金シートの表面を研磨紙で研磨後、超音波の印加を伴った60%硝酸(HNO
3)に浸漬して表面近傍のAgをエッチングし、主として金(Au)で構成されるナノ多孔体構造を表面に有するナノ多孔体金属シートを得た。ここで、浸漬時間は1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、及び10時間とし、浸漬後の試料は純粋で洗浄した。
【0073】
図2〜
図7に、浸漬時間1時間〜10時間のAu−Ag合金シートの走査電子顕微鏡(SEM)写真をそれぞれ示す。浸漬処理(脱成分腐食)後のAu−Ag合金シートの表面は、金属ナノ粒子が三次元的に配列してなるナノ多孔体構造となっていることが確認できる。SEM写真からナノ多孔体構造を形成する金属ナノ粒子の平均粒径を測定したところ、浸漬時間1時間及び2時間の場合は脱成分腐食が不十分で金属ナノ粒子が明瞭に形成されておらず、浸漬時間3時間の場合は5.5nm、浸漬時間4時間の場合は7.5nm、浸漬時間5時間の場合は8.8nm、浸漬時間10時間の場合は14.2nmであった。なお、走査電子顕微鏡には日立ハイテク社製の超高分解能分析走査電子顕微鏡SU−70を用いた。
【0074】
3時間の浸漬時間で得られたナノ多孔体金属シート(金属ナノ粒子の平均粒径:5.5nm)を30分間高温保持し、低温焼結機能を評価した。なお、保持温度は100℃、150℃、200℃、及び250℃とした。
図8〜
図11に、100℃〜250℃で高温保持したナノ多孔体金属シート表面のSEM写真を示す。保持温度が250℃以下と低温であっても、金属ナノ粒子の焼結が進行し、気孔部が減少していることが確認できる。特に、保持温度が250℃の場合は緻密な焼結体となっている。なお、走査電子顕微鏡には日立ハイテク株式会社製の超高分解能分析走査電子顕微鏡SU−70を用いた。
【0075】
ナノ多孔体金属シートの表面近傍の組成を評価するため、脱成分腐食前のAu−Ag合金シート、脱成分腐食(浸漬時間3時間)後のAu−Ag合金シート、及び脱成分腐食(浸漬時間3時間)後に上記各種高温保持を施したAu−Ag合金シートについて、XPS測定を行った。
図12及び
図13に、Au4fのナロースキャンスペクトル及びAg3dナロースキャンスペクトルをそれぞれ示す。脱成分腐食前のAu−Ag合金シートと比較して、脱成分腐食後のAu−Ag合金シートではAu4fのピーク強度が大幅に大きく、ナノ多孔体金属シートの表面近傍は金(Au)を主成分とする金属ナノ粒子で構成されていることが分かる。
【0076】
Ag3dのピークに関しては、脱成分腐食前のAu−Ag合金シートと比較して、脱成分腐食後のAu−Ag合金シートでピーク強度が大幅に小さく、当該結果もナノ多孔体金属シートの表面近傍は金(Au)を主成分とする金属ナノ粒子で構成されていることを示唆している。ここで、Ag3dのピーク強度は高温保持時間が高くなるにつれて大きくなっている。これは、高温保持によってAu−Ag合金シートの内部から表面に銀(Ag)が拡散した結果である。なお、XPS測定には日本電子株式会社製のJPS−9010TRを用い、Mg−Kα(1253.6eV)とモノクロメータの組合せで測定を行った。
【0077】
接合試験に用いたシリコン(Si)基板からなる接合試験片の形状を
図14に示す。1cm×1cm×525μmのシリコン(Si)基板の表面に銅(Cu)を蒸着したものを被接合材とし、当該被接合材の間に脱成分腐食(浸漬時間3時間)で得られたナノ多孔体金属シートを配置して接合試験片を調整した。当該試験片を250℃の接合温度、3kPaの減圧下で接合試験を行なった。接合に際しては、加圧力8MPaで加圧を行い、接合時間は20分とした。なお、試験後は直ちに試験片を装置外に取り出して空冷した。
【0078】
接合試験により得られた接合継手1について、引張試験を行い、接合強度を求めた。得られた引張強度を
図15に示す。接合継手は3つ作製し、それぞれの接合継手について引張試験を行って平均値を求めた。なお、引張試験は
図14に示す試験片において、接合界面を介して上下のシリコン(Si)基板のそれぞれに専用の治具を固定し、当該治具に対して接合界面に略垂直な方向に荷重を付加して行った。
【0079】
≪実施例2≫
接合温度を200℃とした以外は実施例1と同様にして接合継手2を得た。実施例1と同様にして得られた引張強度を
図15に示す。
【0080】
≪実施例3≫
接合温度を150℃とした以外は実施例1と同様にして接合継手3を得た。実施例1と同様にして得られた引張強度を
図15に示す。
【0081】
≪実施例4≫
接合温度を100℃とした以外は実施例1と同様にして接合継手4を得た。実施例1と同様にして得られた引張強度を
図15に示す。
【0082】
≪実施例5≫
接合試験に用いた無酸素銅からなる接合試験片の形状を
図16に示す。それぞれの試験片の接合面はRmax=3.2Sとなるように旋盤加工により仕上げ、アセトン中での超音波洗浄と塩酸中での酸洗いを行った後、水洗と乾燥を経て試験に供した。大きい方の円板試験片の接合面に脱成分腐食(浸漬時間4時間)で得られたナノ多孔体金属シートを配置し、小さい方の試験片を重ねて接合試験片を調整した。当該試験片を350℃の接合温度で接合試験を行ない、接合継手5を得た。接合に際しては、加圧力20MPaで加圧を行い、接合時間は30分、接合雰囲気は大気とした。なお、試験後は直ちに試験片を装置外に取り出して空冷した。
【0083】
接合試験により得られた接合継手1について、ボンドテスターを用いてせん断試験(せん断速度1.0mm/min,せん断高さ200μm)を行い、接合強度を求めた。得られたせん断強度を
図17に示す。なお、接合継手は3つ作製し、それぞれの接合継手についてせん断試験を行って平均値を求めた。
【0084】
≪実施例6≫
接合温度を300℃とした以外は実施例5と同様にして接合継手6を得た。実施例1と同様にして得られたせん断強度を
図17に示す。
【0085】
≪実施例7≫
接合温度を250℃とした以外は実施例5と同様にして接合継手7を得た。実施例1と同様にして得られたせん断強度を
図17に示す。
【0086】
≪実施例8≫
金属材に厚さ約100μmのAu−Ag合金シート(Au:25質量%,Ag:75質量%)を用い、脱成分腐食によってナノ多孔体金属粉末を製造した。具体的には、Au−Ag合金シートの表面を研磨紙で研磨後、超音波の印加を伴った60%硝酸(HNO
3)に浸漬して表面近傍のAgをエッチングし、主として金(Au)で構成されるナノ多孔体構造を有するナノ多孔体金属粉末が得られるまで脱成分腐食を施した。ナノ多孔体金属粉末を洗浄及び乾燥後、接合用組成物として用いた。得られたナノ多孔体金属粉末の外観写真を
図18に示す。
【0087】
ナノ多孔体金属シートの代わりにナノ多孔体金属粉末を用いた以外は実施例3と同様にして接合継手8を得た。実施例1と同様にして引張強度を測定したところ、2.5MPaの値を得た。
【0088】
≪実施例9≫
接合温度を100℃とした以外は実施例8と同様にして接合継手9を得た。実施例1と同様にして引張強度を測定したところ、1.2MPaの値を得た。
【0089】
≪実施例10≫
接合温度を50℃とした以外は実施例8と同様にして接合継手10を得た。実施例1と同様にして引張強度を測定したところ、0.45MPaの値を得た。
【0090】
≪比較例1≫
ナノ多孔体金属シートを被接合面に配置しなかった以外は実施例1と同様にして比較接合継手1を得た。実施例1と同様にして得られた引張強度を
図15に示す。
【0091】
≪比較例2≫
ナノ多孔体金属シートを被接合面に配置しなかった以外は実施例2と同様にして比較接合継手1を得た。実施例1と同様にして得られた引張強度を
図15に示す。
【0092】
≪比較例3≫
ナノ多孔体金属シートを被接合面に配置しなかった以外は実施例3と同様にして比較接合継手3を得た。実施例1と同様にして引張強度の測定を試みたが、強度が低すぎて値を得ることができなかった。
【0093】
≪比較例4≫
ナノ多孔体金属シートを被接合面に配置しなかった以外は実施例4と同様にして比較接合継手4を得た。実施例1と同様にして引張強度の測定を試みたが、強度が低すぎて値を得ることができなかった。
【0094】
≪比較例5≫
無酸素銅からなる接合試験片の表面にAuめっきを施した以外は実施例5と同様にして比較接合継手5を得た。実施例5と同様にして得られたせん断試験を
図17に示す。
【0095】
≪比較例6≫
接合温度を300℃とした以外は比較例5と同様にして比較接合継手6を得た。実施例5と同様にして得られたせん断試験を
図17に示す。
【0096】
≪比較例7≫
接合温度を250℃とした以外は比較例5と同様にして比較接合継手7を得た。実施例5と同様にして得られたせん断試験を
図17に示す。
【0097】
図15に示すとおり、全ての接合温度において、接合継手1〜4は比較継手1〜4と比較して高い引張強度を示している。特に、接合温度250℃において、接合継手1は約5MPaと顕著に高い引張強度を示している。
【0098】
また、
図17に示すとおり、接合継手5〜7は良好なせん断強度を有しており、接合温度350℃で得られた接合継手5のせん断強度は約25MPaに達している。更に、Au−Au接合となる比較継手5〜7と比較して、Cu−Cu接合となる接合継手5〜7は、高いせん断強度を有しており、本発明の接合方法がCu−Cu接合に好適に用いることができることが分かる。
【0099】
加えて、ナノ多孔体金属粉末を用いて得られた接合継手8〜10に関しても、接合温度が極めて低いにもかかわらず、良好な継手が得られている。