特許第6347462号(P6347462)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6347462フェーズドアレイ超音波探傷方法および超音波探傷システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6347462
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】フェーズドアレイ超音波探傷方法および超音波探傷システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/11 20060101AFI20180618BHJP
   G01N 29/48 20060101ALI20180618BHJP
【FI】
   G01N29/11
   G01N29/48
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-58963(P2014-58963)
(22)【出願日】2014年3月20日
(65)【公開番号】特開2015-184068(P2015-184068A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2017年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(72)【発明者】
【氏名】林 山
(72)【発明者】
【氏名】福冨 広幸
【審査官】 田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−163773(JP,A)
【文献】 特開2007−132908(JP,A)
【文献】 米国特許第04522064(US,A)
【文献】 林山、他,基礎ボルトに対する超音波探傷法の開発−第1報:フェーズドアレイ超音波法による疲労き裂の評価についての検討−,電力中央研究所報告,2013年 5月,P.1−16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の素子からなるアレイ探触子を用いて検査対象物の超音波探傷を行うフェーズドアレイ超音波探傷方法において、
検査対象物の一方の端面に前記アレイ探触子を配設するとともに、前記検査対象物の内部に向けて屈折角を変化させつつ超音波を照射して前記検査対象物からのエコーをデジタル化した探傷データを得る探傷工程と、
前記探傷データに基づき、前記検査対象物中のき裂の有無を判断するき裂検査工程と、
前記き裂検査工程でき裂が存在すると判断された場合には、前記探傷データ中から前記き裂によるエコーが最大となる最大エコーを検出する最大エコー検出工程と、
前記屈折角が零度の方向において、前記最大エコーを与える位置である軸方向位置を特定する軸方向位置検出工程と、
前記探傷データに基づき、各屈折角に対応する前記エコーのエコー強度分布特性から前記エコー強度の極大値であるピークを検出するピーク検出工程と、
前記ピークを与える屈折角に対応する前記エコー強度に対する所定の割合の前記エコー強度に対応する二つの屈折角のうち小さい方の屈折角である先端屈折角を選択する先端屈折角検出工程と、
前記先端屈折角に基づき前記軸方向に直交する方向のき裂の寸法であるき裂深さを検出するき裂深さ検出工程とを有し、
前記先端屈折角検出工程は、
前記ピーク検出工程で前記ピークが2個検出された場合に、前記屈折角が小さい方の前記ピークを与える屈折角に対応する前記エコー強度に対する所定の割合の前記エコー強度に対応する二つの屈折角のうち小さい方の屈折角を選択して先端屈折角とする
ことを特徴とするフェーズドアレイ超音波探傷方法。
【請求項2】
請求項1に記載するフェーズドアレイ超音波探傷方法において、
前記所定の割合は、前記エコー強度の半分とした
ことを特徴とするフェーズドアレイ超音波探傷方法。
【請求項3】
検査対象物の一方の端面に配設され、前記検査対象物の内部に向けてそれぞれ超音波を照射する複数の素子からなり、フェーズドアレイ超音波探傷に用いるアレイ探触子と、
前記各素子を制御することにより前記超音波の屈折角を変化させて前記検査対象物の内部の探傷を行うとともに、超音波の照射の結果で得られる探傷結果のエコーをデジタル化した探傷データを受信するフェーズドアレイ探傷装置と、
前記フェーズドアレイ探傷装置を介して前記アレイ探触子により前記検査対象物の所定の探傷が行われるように制御するとともに、前記フェーズドアレイ探傷装置から送信されてくる前記探傷データを処理して前記検査対象物の内部の超音波探傷を行う演算処理手段とを有するフェーズドアレイ超音波探傷システムであって、
前記演算処理手段は、
前記探傷データに基づき、前記検査対象物中のき裂の有無を判断するき裂検査工程と、
前記き裂検査工程でき裂が存在すると判断された場合には、前記探傷データ中から前記エコーが最大となる最大エコーを検出する最大エコー検出工程と、
前記屈折角が零度の方向において、前記最大エコーを与える位置である軸方向位置を特定する軸方向位置検出工程と、
前記探傷データに基づき、各屈折角に対応する前記エコーのエコー強度分布特性から前記エコー強度の極大値であるピークを検出するピーク検出工程と、
前記ピークを与える屈折角に対応する前記エコー強度に対する所定の割合の前記エコー強度に対応する二つの屈折角のうち小さい方の屈折角である先端屈折角を選択する先端屈折角検出工程と、
前記先端屈折角に基づき前記軸方向に直交する方向のき裂の寸法であるき裂深さを検出するき裂深さ検出工程とを実行するように構成し、
前記先端屈折角検出工程では、
前記ピーク検出工程で前記ピークが2個検出された場合に、前記屈折角が小さい方の前記ピークを与える屈折角に対応する前記エコー強度に対する所定の割合の前記エコー強度に対応する二つの屈折角のうち小さい方の屈折角を選択して先端屈折角とする
ことを特徴とするフフェーズドアレイ超音波探傷システム。
【請求項4】
請求項3に記載するフェーズドアレイ超音波探傷システムにおいて、
前記所定の割合は、前記エコー強度の半分とした
ことを特徴とするフェーズドアレイ超音波探傷システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフェーズドアレイ超音波探傷方法および超音波探傷システムに関し、特にボルト等、長尺の検査対象物をその長手方向の一方の端面から探傷する場合に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
原子力機器の基礎ボルトのネジの谷部においては、地震荷重を受けた場合、応力集中によるき裂発生の可能性がある。また、高経年化が進む原子力発電所や火力発電所等においては、基礎ボルトを含むボルトに疲労き裂が発生した事例が多く報告されている。き裂が検出されたボルトの健全性を評価する場合、そのき裂の深さに関する寸法のデータが必要である。
【0003】
従来技術に係るき裂寸法の推定法として端部エコー法と垂直探傷法が知られている。このうち、ボルトのき裂面での反射エコーとき裂先端による端部エコーは分離しないので、端部エコー法をボルトのき裂深さの推定に適用することは困難である。また、垂直探傷法では、縦波垂直探触子をボルト端面において走査する必要があり、ネジ部のエコーが妨害となり小さなき裂を検出できないといった問題がある。
【0004】
一方、Suh 等はき裂面を伝搬する表面波によるボルトにおけるき裂の深さ推定方法を提案した(非特許文献1)。しかしながら、かかる推定方法では、平滑でないき裂面で表面波が激しく減衰し、それを受信することは容易ではないという問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】D. M. Suh and W. W. Kim、A New Ultrasonic Technique for Detection and Sizing of Small Cracks in Studs and Bolts、Journal Nondestructive Evaluation、Vol. 14、No. 4、P.201-206、1995.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術に鑑み、ボルト等、長尺の検査対象物に発生しているき裂の位置および寸法を、その長手方向の一方の端面からの探傷により容易かつ正確に測定し得るフェーズドアレイ超音波探傷方法および超音波探傷システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するフェーズドアレイ超音波探傷方法および超音波探傷システムを開発すべく、本発明者等は、長尺の検査対象物であるボルトの途中に発生しているき裂をフェーズドアレイ超音波探傷法により検出する方法を検討した。
【0008】
ここで、フェーズドアレイ超音波探傷法は、複数の素子から構成されるアレイ探触子に対して各素子の送受信タイミングを電子的に制御することで異なる伝搬方向や集束位置の超音波を自在に励起する技術である。しかしながら、この手法で得られた探傷結果から、き裂深さを推定することは課題として残されている。そこで、有限要素法を利用してボルトにおける波動伝搬のシミュレーションを行い、受信波形のき裂深さと相関性がある特徴量を特定し、これを実験で検証した。
【0009】
< シミュレーションによる検討>
まず、シミュレーションモデルに関して説明する。シミュレーションモデルは、図1に示すように、き裂の位置およびその寸法を、それぞれ軸方向の位置P、長さLおよび深さDで定義する。
【0010】
フェーズドアレイ超音波探傷法で探傷した結果から、き裂深さの推定法を検討するため、ボルトにおける波動伝搬のシミュレーションを実施した。有限要素法に基づいたシミュレーションの2次元モデルを図2に示す。同図に示すように、ピッチ0.6mm、幅0.5mmの32素子のリニアアレイ探触子(以下、「アレイ探触子」ともいう)1をボルト2の一方の端面(図中右端面)に配置する。探傷モードを縦波とし、屈折角をステップ0.5°で−5から25°まで変化させた。図中のαは、超音波の中心ビームがき裂3先端に当たるときの屈折角(以下、先端屈折角と称す)である。ボルト2の材質を炭素鋼とし、その縦波音速を5,920m/sに設定した。ボルト2の直径および長さはそれぞれ30mmおよび200mmであり、ネジ部4の長さは120mmである。P=50もしくは100mmのネジの谷部にき裂3を挿入した。き裂3の幅を0.5mmに固定し、深さDを0.5、1.0、2.0、2.5、4.0、6.0、7.5および12.5mmと変化させた。超音波ビームの集束位置をP=50mmの場合には60mmに、P=100mmの場合には110mmにそれぞれ設定した。
【0011】
図中のアレイ探触子1が水を介して鋼材に放射した場合の3次元の超音波音場を所定のソフトを用いて計算した。主な計算条件として、水平距離を0mmに、入力波形の周波数を5MHzに、サンプリング周波数を100MHzに、空間分解能を0.1mmに設定した。
【0012】
<シミュレーション結果および考察>
1) 軸方向位置50mmおよび深さ6mmのき裂の場合
アレイ探触子1(図2参照、以下同じ)から異なる屈折角の超音波が励起され、各屈折角に対応する受信波形をシミュレーションで計算した。−5°から20°までの屈折角に対応した受信波形を扇状に並べた結果を図3に示す。この結果はセクター(S)スキャン断面画像と呼ばれる。図中のNEおよびSEはそれぞれき裂3(図2参照、以下同じ)およびネジ部4(図2参照、以下同じ)に起因する指示であり、以下、それぞれき裂エコーNEおよびネジエコーSEと呼ぶ。BWは底面エコーであり、MNEはき裂3での多重反射に基づく指示である。色の濃淡はエコーの強さを表す。
【0013】
図3に示すように、ネジエコーSE、き裂エコーNE、底面エコーBWおよびき裂3での多重反射の指示が明瞭に観察されている。図3において、き裂エコーNEの拡大図に示すように、き裂3の開口部および先端付近の2箇所においては、き裂エコーNEの強度が高い。
【0014】
各屈折角におけるき裂エコーNEの強度分布を図4に示す。同図に示すように、き裂エコーNEの強度は屈折角の変化に従って増減し、屈折角が8°および15°のとき極大値(ピーク)となる。以下、この二つのピークについて考察する。
【0015】
屈折角が15°に対応するピークは、き裂3とネジ部4からなるコーナー部での反射によるものである。図2に示すモデルにおいて、超音波中心ビームがそのコーナー部に当たるとき、屈折角は幾何学的に15°程度である。
【0016】
異なる時刻における屈折角15°の波動伝搬の様子を図5に示す。図中の赤色と青色は、それぞれ縦波と横波を表す。また、LおよびTはそれぞれアレイ探触子1に励起された縦波および横波を意味する。RLおよびSLは、それぞれコーナー部およびネジ部4での縦波反射波を示す。同図に示すように、励起された縦波は、ネジ部4で反射しながらコーナー部に向かって伝搬し、時刻9.5μsのときそのコーナー部で縦波が反射され、その反射波がボルト2の端面に向かって伝搬し、最後にアレイ探触子1により受信される。
【0017】
一方、屈折角が8°に対応するピークは、波動伝搬シミュレーション結果から主にき裂3の先端近傍での反射によるものであることが判った。き裂エコーNEの強度に影響を及ぼす因子として、励起された超音波音場の強度、き裂3での超音波エネルギーの反射の割合、およびネジ部4での散乱が挙げられる。
【0018】
P=50mm、D=6mmの場合の先端屈折角αは7.4°である。図2に示すアレイ探触子1が放射した3次元の超音波音場を計算するとともに、屈折角が0°のときの超音波音場の最大強度で各屈折角の超音波音場の強度を正規化して図6に示す。同図に示すように、超音波音場の強度は屈折角の増大とともに低下するものの、その低下は緩やかである。例えば、屈折角が7.4°のとき、超音波音場の最大強度は0.978であるに対して、屈折角が10°のときは0.962である。このように、屈折角が若干変化しても超音波音場の強度変化が無視できる程度であるため、屈折角の若干の変化ではき裂エコー強度の顕著な変化を生じない。
【0019】
き裂3の先端付近での超音波の反射は屈折角に依存して大きく変化する。音線で表したその変化の様子を図7に示す。図中の太線は中心ビームを、破線はネジ部4での超音波の散乱を示す。また、同図(a)は、超音波の中心ビームがき裂3の先端に当たる場合を表わしている。このとき、励起された超音波エネルギーの半分程度がき裂3で反射され、残りはき裂3を通過する。反射された超音波はネジ部4で散乱されつつ、最後にアレイ探触子1に受信される。屈折角が先端屈折角αより小さな場合には、き裂3で反射される超音波エネルギーの割合が減少する。一方、同図の(b)に示すように、屈折角の増大に伴いその割合も増加する。ある屈折角になると、同図(c)に示すように、すべての超音波のエネルギーが反射される。屈折角がそれ以上増大しても反射される超音波の割合は増加しない。き裂エコーNEの強度は主に反射される超音波の割合の増加によって増幅されると考えられる。一方、図7に示すように、屈折角の増大に従ってネジ部4での散乱による影響も累積する。その散乱は、アレイ探触子1に戻る超音波のエネルギーの減少およびき裂エコーNEの強度の低下を招来する。このように、き裂3の先端の反射とネジ部4での散乱の相互作用によって先端屈折角αの付近でピークが形成されると考えられる。
【0020】
<異なるき裂深さの場合>
き裂3の深さを変化させた場合の屈折角におけるき裂エコーNEの強度分布を計算し、き裂Sの深さ0.5mmの場合の最大値で正規化した。P=50mmの場合の屈折角におけるき裂エコーNEの強度分布を図8に示す。同図に示すように、き裂3が浅い場合には、一つのピークしか観察されない。き裂深さが2mm以上になる場合には、き裂3のコーナー部と先端付近に対応するそれぞれのピークP1、P2が観測される。ピークP1に対応する屈折角(以下、ピークP1 屈折角と称す)はき裂3の深さに依存せず一定である。ピークP1の強度は、き裂3の深さの増加に従って増幅し、き裂3の深さが2mmで飽和する。一方、ピークP2に関しては、それに対応する屈折角(以下、ピークP2屈折角と称す)および強度が、き裂3が深くなるにつれてそれぞれ減少および増幅する。同図から求めたピークP2屈折角を表1に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
同表に示すように、浅いき裂3の場合には、ピークP1とピークP2とが分離されないので、ピークP1の屈折角で記されている。参考のため、先端屈折角αも同表に示している。同表に示すように、き裂深さが2mmから12.5mmへと変化することによって、ピークP2の屈折角は13.5°から2°へと減少する。その値がいずれも先端屈折角αより幾らか大きい。
【0023】
一方、P=100mmの場合の屈折角におけるき裂エコーNEの強度分布を図9に示す。同図に示すように、き裂3の深さが4mm未満のとき、一つのピークしか観察されないのに対して、き裂3が深くなると二つのピークが明瞭に観察される。ピークP1で屈折角が7°付近でき裂3の深さの変化に伴い若干変動する。これは、屈折角のピッチが0.5°に設定されたため、同図に出現したピークが必ずしも真のピークとは限らないからである。ピークP1の強度は、き裂3が深くなるにつれ増幅し6mmで飽和する。一方、P=50mmの場合と同じ、ピークP2の屈折角とピークP2の強度はそれぞれき裂3の深さの増加に伴い減少および増幅する。同図から得られたピークP2の屈折角を表2に示す。
【0024】
【表2】
【0025】
表2に示すように、ピークP2の屈折角は先端屈折角αに比べて若干大きく、き裂3の深さが4mmから12.5mmへと変化することに従って4.8°から1°へと変化する。
【0026】
P=50mmの場合に比べて、ピークP1とピークP2の屈折角の差が小さく、ピークP2の屈折角の変化範囲も狭小となる。このことから、軸方向位置が増加するにつれ、ピークP1とピークP2が分離し難くなることが考えられる。
【0027】
前述の通り、いずれの軸方向においてもピークP2の屈折角はき裂3の深さに依存して変化し、き裂3の深さと強い相関関係がある。この相関関係を利用すれば、フェーズドアレイ超音波探傷法で得られた探傷結果からボルト2におけるき裂の深さを推定可能であることが考えられる。
【0028】
すなわち、上記シミュレーション実験の結果、次の知見を得た。
1) 浅いき裂3の場合には、屈折角におけるき裂エコー強度の分布のピークが一つしかないのに対して、き裂3が深くなると、ピークは二つある。二つのピークはそれぞれき裂のコーナー部とき裂先端付近での反射によるものである。
2) き裂3の先端付近での反射に起因したピークの屈折角は先端屈折角αより若干大きいものの、き裂3の深さに依存して変化し、き裂3の深さの増加とともに減少する。
【0029】
かかる知見に基づく本発明の構成は、次の通りである。
【0030】
本発明の第1の態様は、
複数の素子からなるアレイ探触子を用いて検査対象物の超音波探傷を行うフェーズドアレイ超音波探傷方法において、
検査対象物の一方の端面に前記アレイ探触子を配設するとともに、前記検査対象物の内部に向けて屈折角を変化させつつ超音波を照射して前記検査対象物からのエコーをデジタル化した探傷データを得る探傷工程と、
前記探傷データに基づき、前記検査対象物中のき裂の有無を判断するき裂検査工程と、
前記き裂検査工程でき裂が存在すると判断された場合には、前記探傷データ中から前記き裂によるエコーが最大となる最大エコーを検出する最大エコー検出工程と、
前記屈折角が零度の方向において、前記最大エコーを与える位置である軸方向位置を特定する軸方向位置検出工程と、
前記探傷データに基づき、各屈折角に対応する前記エコーのエコー強度分布特性から前記エコー強度の極大値であるピークを検出するピーク検出工程と、
前記ピークを与える屈折角に対応する前記エコー強度に対する所定の割合の前記エコー強度に対応する二つの屈折角のうち小さい方の屈折角である先端屈折角を選択する先端屈折角検出工程と、
前記先端屈折角に基づき前記軸方向に直交する方向のき裂の寸法であるき裂深さを検出するき裂深さ検出工程とを有し、
前記先端屈折角検出工程は、
前記ピーク検出工程で前記ピークが2個検出された場合に、前記屈折角が小さい方の前記ピークを与える屈折角に対応する前記エコー強度に対する所定の割合の前記エコー強度に対応する二つの屈折角のうち小さい方の屈折角を選択して先端屈折角とする
ことを特徴とするフェーズドアレイ超音波探傷方法にある。
【0031】
本態様によれば、上述の如き知見を利用して、探傷データに基づき作成した各屈折角に対応するエコーのエコー強度分布特性からエコー強度の極大値を求め、この極大値を利用することで先端屈折角を求めている。この先端屈折角は検査対象物の内部に発生しているき裂の先端の情報を与えるものであるので、この先端屈折角を利用することによりアレイ探触子を配設した検査対象物の端面、端面からき裂までの軸方向寸法等の幾何学的な関係からき裂の深さを良好に検出することができる。この結果、検査対象物の健全性を評価することができる。特に、アレイ探触子を配設し得る面積が小さく、探傷部位である内部が他の部材に埋まっているボルト、角柱等の探傷に用いて有用なものとなる。
そして、知見に基づき、き裂の先端近傍に起因するき裂エコーを特定して、このエコーに基づき先端屈折角を求めているので、正確に先端屈折角を求めることができ、これを利用してき裂深さも正確かつ的確に求めることができる。
【0034】
本発明の第2の態様は、
第1の態様に記載するフェーズドアレイ超音波探傷方法において、前記所定の割合は、前記エコー強度の半分とした
ことを特徴とするフェーズドアレイ超音波探傷方法にある。
【0035】
本態様によれば、先端屈折角を、知見に基づき適確に特定することができる。特に、検査対象物がボルトの場合には、先端屈折角が、実際より少なくとも小さい値として検出されるので、安全側でボルトのき裂の深さを検出することができる。すなわち、実際のき裂の深さは、計測値よりも大きくなることはなく、ボルトの取替え時期の目安としてき裂深さを利用する場合には、適確な測定値を与えることができる。
【0036】
本発明の第3の態様は、
検査対象物の一方の端面に配設され、前記検査対象物の内部に向けてそれぞれ超音波を照射する複数の素子からなり、フェーズドアレイ超音波探傷に用いるアレイ探触子と、
前記各素子を制御することにより前記超音波の屈折角を変化させて前記検査対象物の内部の探傷を行うとともに、超音波の照射の結果で得られる探傷結果のエコーをデジタル化した探傷データを受信するフェーズドアレイ探傷装置と、
前記フェーズドアレイ探傷装置を介して前記アレイ探触子により前記検査対象物の所定の探傷が行われるように制御するとともに、前記フェーズドアレイ探傷装置から送信されてくる前記探傷データを処理して前記検査対象物の内部の超音波探傷を行う演算処理手段とを有するフェーズドアレイ超音波探傷システムであって、
前記演算処理手段は、
前記探傷データに基づき、前記検査対象物中のき裂の有無を判断するき裂検査工程と、
前記き裂検査工程でき裂が存在すると判断された場合には、前記探傷データ中から前記エコーが最大となる最大エコーを検出する最大エコー検出工程と、
前記屈折角が零度の方向において、前記最大エコーを与える位置である軸方向位置を特定する軸方向位置検出工程と、
前記探傷データに基づき、各屈折角に対応する前記エコーのエコー強度分布特性から前記エコー強度の極大値であるピークを検出するピーク検出工程と、
前記ピークを与える屈折角に対応する前記エコー強度に対する所定の割合の前記エコー強度に対応する二つの屈折角のうち小さい方の屈折角である先端屈折角を選択する先端屈折角検出工程と、
前記先端屈折角に基づき前記軸方向に直交する方向のき裂の寸法であるき裂深さを検出するき裂深さ検出工程とを実行するように構成し、
前記先端屈折角検出工程では、
前記ピーク検出工程で前記ピークが2個検出された場合に、前記屈折角が小さい方の前記ピークを与える屈折角に対応する前記エコー強度に対する所定の割合の前記エコー強度に対応する二つの屈折角のうち小さい方の屈折角を選択して先端屈折角とする
ことを特徴とするフフェーズドアレイ超音波探傷システムにある。
【0037】
本態様によれば、上述の如き知見を利用して、探傷データに基づき作成した各屈折角に対応するエコーのエコー強度分布特性からエコー強度の極大値を求め、この極大値を利用することで先端屈折角を求めている。この先端屈折角は検査対象物の内部に発生しているき裂の先端の情報を与えるものであるので、この先端屈折角を利用することによりアレイ探触子を配設した検査対象物の端面、端面からき裂までの軸方向寸法等の幾何学的な関係からき裂の深さを良好に検出することができる。この結果、検査対象物の寿命を適確に判断することができる。特に、アレイ探触子を配設し得る面積が小さく、探傷部位である内部が他の部材に埋まっているボルト、角柱等の探傷に用いて有用なものとなる。
そして、知見に基づき、き裂の先端に起因するき裂エコーを特定して、このエコーに基づき先端屈折角を求めているので、正確に先端屈折角を求めることができ、これを利用してき裂深さも正確かつ的確に求めることができる。
【0040】
本発明の第4の態様は、
第3の態様に記載するフェーズドアレイ超音波探傷システムにおいて、前記所定の割合は、前記エコー強度の半分とした
ことを特徴とするフェーズドアレイ超音波探傷システムにある。
【0041】
本態様によれば、先端屈折角を、知見に基づき適確に特定することができる。特に、検査対象物がボルトの場合には、先端屈折角が、実際より少なくとも小さい値として検出されるので、安全側でボルトのき裂の深さを検出することができる。すなわち、実際のき裂の深さは、計測値よりも大きくなることはなく、ボルトの取替え時期の目安としてき裂深さを利用する場合には、適確な測定値を与えることができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、フェーズドアレイ超音波探傷法を利用した場合のボルト等、検査対象物のき裂の深さ推定を適確かつ正確に行なうことができる。すなわち、き裂を付与したボルトに対して、有限要素法を用いたシミュレーションによる検討結果を用いて屈折角におけるき裂エコー強度の分布がき裂深さと強い相関関係があるという知見を得、かかる相関関係を利用してき裂深さの推定法を提案しているので、良好に所望のき裂深さを検出することができる。具体的には、き裂の先端付近での反射に起因したピークの屈折角は先端屈折角より若干大きいものの、き裂深さに依存して変化し、き裂深さの増加とともに減少するので、この関係を利用すればき裂深さを適確に推定することができる。ちなみに、本発明によれば、検査対象物がボルトの場合、推定したき裂深さが真値より大きいものの、最大誤差を2mm以内に収めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】シミュレーションモデルにおけるき裂の位置およびその寸法を、それぞれ軸方向の位置P、長さLおよび深さDで定義して示す説明図である。
図2】有限要素法に基づいたシミュレーションの2次元モデル(ボルト)を示す説明図である。
図3】各屈折角に対応する受信波形をシミュレーションで計算した−5°から20°までの屈折角に対応した受信波形を扇状に並べた結果(Sスキャン断面画像)を示す説明図である。
図4】各屈折角におけるき裂エコーNEの強度分布を示す特性図である。
図5】屈折角15°の波動伝搬の様子を、それぞれ異なる時刻(6.0μs、8.0μs、9.5μs、10.5μs、16.0μs)毎に示す説明図である。
図6】屈折角が0°のときの超音波音場の最大強度で各屈折角の超音波音場の強度を正規化して示す特性図である。
図7】屈折角に依存して変化する、ボルトのき裂で反射される超音波の音線を示す説明図で、(a)は超音波の中心ビームがき裂の先端に当たる場合、(b)は(a)より大きな屈折角の場合、(c)はすべての超音波のエネルギーが反射される場合をそれぞれ示している。
図8】き裂の深さを変化させた複数の場合における、P=50mmの場合の屈折角に対するき裂エコーNEの強度分布を計算し、き裂の深さが0.5mmの場合の最大値で正規化して示す特性図である。
図9】き裂の深さを変化させた複数の場合における、P=100mmの場合の屈折角に対するき裂エコーNEの強度分布を計算し、き裂の深さが0.5mmの場合の最大値で正規化して示す特性図である。
図10】本発明の実施の形態に係るフェーズドアレイ超音波探傷システムを示すブロック図である。
図11図10に示す超音波探傷システムにおける演算処理部における処理手順に関する図で、(a)は処理手順を示すフローチャート、(b)はき裂深さの幾何学的関係を示す説明図である。
図12】探傷工程で得られる探傷データを示す説明図で、(a)はSスキャンデータ、(b)はBスキャンデータ、(c)はAスキャンデータである。
図13】実際の探傷に用いた検査対象物であるボルトを示す説明図である。
図14図13のボルトの探傷により得られたセクタースキャン画像を示す説明図である。
図15図13に示すボルトのき裂深さを種々変化させた場合の異なる屈折角におけるエコー強度分布を示す特性図である。
図16図13に示すボルトのき裂深さの測定値を実際の深さとの比較において示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0045】
図10は本発明の実施の形態に係るフェーズドアレイ超音波探傷システムを示すブロック図である。同図に示すように、本形態に係るフェーズドアレイ超音波探傷システムは、アレイ探触子1、演算処理部11、フェーズドアレイ探傷装置12、制御装置13、モーター14および表示部15からなる。ここで、本形態におけるアレイ探触子1は複数(例えば32個)の素子を直線状に並べたリニアアレイ探触子であり、本形態における長尺の検査対象物であるボルト22の一方の端面にバネ等で押圧して当接させてある。演算処理部11はフェーズドアレイ探傷装置12と制御装置13を制御する。フェーズドアレイ探傷装置12はアレイ探触子1に電圧を印加することにより、ボルト22内を伝搬する超音波を励起させ、ボルト22の内部に向けて探傷用の超音波を照射する。また、フェーズドアレイ探傷装置12は、アレイ探触子1で受信されたボルト22内の探傷結果を表す探傷データを演算処理部11に送出する。すなわち、フェーズドアレイ探傷装置12は、アレイ探触子1の各素子を制御することにより超音波の屈折角を変化させてボルト22の内部の探傷を行うとともに、超音波の照射の結果得られる探傷結果のエコーをデジタル化した探傷データを受信して演算処理部11に送出する。この結果、探傷データは演算処理部11に記憶される。
【0046】
さらに本形態において、制御装置13は演算処理部11の制御によりボルト22の端面(図10中の上端面)上でアレイ探触子1を回動させるモーター14を制御する。さらに詳言すると、アレイ探触子1はボルト22の中心軸O−O′回りに360°回動するように構成してあり、各回動位置で屈折角を所定の範囲で振って探傷データを収集する。さらに詳言すると、アレイ探触子1による探傷は、中心軸O−O′を含む面OTを、ボルト22の上端面の中心線S−S′を起点(0°)として図中時計方向に適宜回動し、変化させる回動角θの各回動位置で面OT内において探傷用の超音波の照射範囲を振り、回動角θが0°〜360°に対応する各位置で探傷データを収集する。面OT内における超音波の走査範囲は中心軸O−O′に対して−βから+φの範囲としている。ここで、モーター14の駆動に伴うアレイ探触子1の位置データは制御装置13から演算処理部11に供給される。また、演算処理部11で処理されたデータは表示部15に表示される。
【0047】
かかるフェーズドアレイ超音波探傷システムにおける演算処理部11では、次に示すような処理が行われる。かかる処理を、この場合の処理のフローチャートである図11(a)に基づいて説明する。
【0048】
1)ステップS1
検査対象物であるボルト22を探傷し、探傷結果である探傷データを得る(探傷工程)。この探傷データは、図12に示すように、(a)Sスキャンデータ、(b)Bスキャンデータ、(c)Aスキャンデータからなる。
【0049】
2)ステップS2
ボルト22中のき裂の有無を判断するため、探傷データを分析する。具体的には、図12(b)に示すBスキャンデータ上のデータカーソルを移動し、同図(a)に示すSスキャンデータおよび同図(b)に示すBスキャンデータ上でき裂エコーの有無を観察する。
【0050】
3)ステップS3
ボルト22中のき裂の有無を判断し、き裂深さを推定するプロセスに進むか、または終了(「END」)する。ちなみに、図12(a)および同図(b)に示すSおよびBスキャンデータにおいてはき裂エコーが観察されるため、き裂深さを推定するプロセスに進む。
【0051】
4)ステップS4
最大のき裂エコーに対応するSスキャンを得る。図12(b)に示すように、周方向位置によってき裂エコーの強度は異なる。これは、き裂深さが周方向によって異なるからである。き裂エコーの強度がき裂深さの増加に伴い増大することから、最大のき裂エコーに対応するSスキャンデータに基づき推定したき裂深さは最大であると考えられる。そこで、図12に示すように、できるだけ強いエコーを通るように屈折角カーソルを移動する。その後、Bスキャン上のデータカーソルを移動し、Sスキャンデータ上でき裂エコーが最大となる位置で停止する。このときのSスキャンデータは最大のき裂エコーに対応すると仮定する(最大エコー検出工程)。
【0052】
5)ステップS5
屈折角が零度の方向、すなわち中心軸O−O′(図10参照;以下同じ)方向において、最大のき裂エコーを与える位置であるき裂の軸方向位置を求める(軸方向位置検出工程)。具体的には、き裂エコーと重なるようにSスキャンデータ上の線を移動してその位置を読み取り、読み取ったき裂の軸方向位置をPとする。図12に示す場合は、P=50mmである。
【0053】
6)ステップS6
屈折角におけるき裂のエコー強度の分布上のピーク数によって、ピークP1またはピークP2を検出する(ピーク検出工程)。具体的には、エコー強度分布を作成するため、Sスキャンデータ上の屈折角カーソルを移動し、Aスキャンデータから異なる屈折角に対応するき裂エコーの強度を読み取り、屈折角に対するエコー強度分布の特性(図8および図9参照)を得る(ピーク検出工程)。
【0054】
7)ステップS7
ステップS6の処理の結果、ピークが二つ検出された場合には、ピークP2を利用してき裂深さを推定する。具体的には、前述のように、ピークP2を与える屈折角はき裂深さに依存して変化するものの、先端屈折角αより若干大きい。そこで、ピークP2の半値に対応する二つの屈折角のうち小さな方を先端屈折角αに等しいと仮定する。
【0055】
8)ステップS8
ステップS6の処理の結果、ピークが一つしか検出されなかった場合には、ピークP1を利用してき裂深さを推定する。具体的には、ピークP1の半値に対応する二つの屈折角のうち小さな方を先端屈折角αに等しいと仮定する。
【0056】
9)ステップS9
ステップS7、S8の処理の結果求まる先端屈折角αを用いて、図11(b)に示す幾何学的な関係から、D=r−tan(α)(ただし、rはボルト22のネジの谷を基準にした半径)を利用してき裂深さDを求める。ここで、rはボルト22の谷径である。例えば、r=26.8mmの場合、図12から得られるき裂の軸方向位置P(=50mm)、先端屈折角(=7.01°)を代入すると、き裂深さD=7.25mmと求められる。
【0057】
上述の如き実施の形態に係る超音波探傷システムの効果を実証するため、検査対象であるボルトにき裂を形成してその探傷実験を行なった。図13は、実際の探傷に用いた検査対象物であるボルトを示す説明図である。同図に示すように、ボルト22は長さ300mmの炭素鋼SS400製ボルトであり、これに異なる深さのき裂23を放電加工で付与した。ボルト22の直径は24mmまたは30mmであり、き裂23の軸方向位置Pは50mmとした。き裂23の深さを0.5、1.0、2.0、4.6および8mmと変化させた。き裂23の形状はボルト試験体に付与した疲労き裂の形状を参考に決定した。
【0058】
また、測定条件は、探傷モードを縦波に、音速を5,900m/sに設定し、屈折角をステップ0.2°で−20°から20°へと変化させた。送信のときは、超音波のエネルギーを軸方向の位置60mmに集束させる。受信のときは、軸方向の距離分解能の向上を図る目的で受信波形を軸方向の位置10mmないし150mmに集束させるように設定した。デジタイザー周波数および印加電圧はそれぞれ50MHzおよび200Vである。アレイ探触子1をボルト22の中心軸O−O′において0.5°毎で回動して測定を実施した。
【0059】
P=50mm、D=6mmのき裂23を探傷し、得られたセクタースキャンデータの断面画像を図14に示す。同図に示すように、ネジエコーSE、き裂エコーNEおよびき裂23での多重反射による指示が明瞭に観察される。また、き裂エコーNEの拡大図においては、コーナー部とき裂23の先端付近の反射に対応するそれぞれの指示も明確である。これは図3のシミュレーション結果と良く一致している。
【0060】
き裂23の深さを0.5、1、2、4、6および8mmと変化させた場合の異なる屈折角におけるき裂エコーのエコー強度分布を図15に示す。同図は、き裂深さ0.5mmの場合の最大値で正規化して示している。同図に示すように、D≦1mmのときには、一つのピークしか観察されない。D=2mmのとき、ピークP1とピークP2とが分離し始める。D≧4mmのとき、ピークP2はピークP1から完全に分離し明瞭に観察される。アレイ探触子1とボルト22の端面の両者の中心が幾らか一致していないため、ピークP1の屈折角が若干変動している。また、エコー強度はアレイ探触子1の接触状態に依存して変化する。その接触状態を一定にすることは困難であるので、エコー強度については議論しない。同図から得られたピークP1、P2に関係する屈折角を表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
表3に示すように、ピークP2の屈折角が先端屈折角αより1°程度大きく、き裂深さの増加に従って減少する。同表の結果は表1のシミュレーション結果とよく一致している。
【0063】
超音波探傷試験の観点から、枝分かれの応力腐食き裂を除いた疲労き裂などのき裂をき裂と見なすことができる。シミュレーションおよび実験による検討の結果により、屈折角におけるき裂エコー強度の分布のピークは、き裂深さと強い相関関係があるので、この間をボルト22に発生したき裂の深さの推定に利用する上記実施の形態によれば、所望のき裂深さDを良好に計測することができる。
【0064】
上記実験の結果から推定したき裂深さと、実際のき裂深さ(真値)の比較を図16に示す。同図に示すように、いずれの場合においてもき裂深さが真値より幾らか大きく推定されるものの、最大誤差は2mm以内である。これは、図11に示したフローチャートに基づく推定法の妥当性を示している。また、同図に示すように、軸方向位置Pが50mmから100mmへと増加すると、推定したき裂深さDの誤差が増大する。これは、軸方向位置Pが遠くなると超音波エネルギーが集束し難くなることによるものと考えられる。
【0065】
上記実施の形態における検査対象物は、ボルトを例に採り説明したが、検査対象物をこれに限定する必要は、勿論ない。角柱等の長尺ものであれば、全く同様の作用・効果を得ることができる。さらに、長尺物に限る必要はなく、ブロック部材等であっても構わない。ただ、ブロック部材には、他の超音波探傷方法を適用し得る余地があるので、本発明は、前記長尺物の場合に特に有用なものであるといい得る。
【0066】
また、上記実施の形態では、アレイ探触子をリニアアレイとしたが、これは勿論、マトリクスアレイでも構わない。マトリクスアレイの場合は、多くの素子が必要になるが、アレイ探触子を回動する必要はない。
【0067】
また、上記実施の形態では、リニアアレイのアレイ探触子を中心軸回りに360°回動させているが、回動角度は、検査範囲に応じて設定すれば良い。なお、上記実施の形態ではアレイ探触子1をモーター14で回動しているが、モーター14は必ずしも必要ではない。手動で所定の角度に調整するように構成することもできる。また、マトリクスアレイを用いた場合は、超音波ビームを電子的に回動させることで同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は超音波探傷により各種プラントの保守・保全を行う産業分野で利用して有用なものである。
【符号の説明】
【0069】
1 アレイ探触子
2、22 ボルト
3、23 き裂
α 先端屈折角
D き裂深さ
P1、P2 ピーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16