【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特に記載がない場合、成形は、およそ5gの直方体(短辺20mm、長辺38mm、厚さ7mm)の型を用いて行った。
【0071】
本実施形態で使用する砂糖および乳糖は、一般流通品であるアモルファス化度0%のものを使用した。
【0072】
また、生乳を原料とする粉末食品中の乳糖量は、炭水化物量に99.8%を掛けた数値とした(朝倉書店出版『ミルク総合事典』第3刷(1998年)より)。生乳を原料とする粉末食品中の炭水化物量は、いわゆる差し引き法(水分、たんぱく質、脂質及び灰分の合計を100から差し引いた値)により算出した。
【0073】
生乳を原料とする粉末食品中のアモルファス化度は、X線回折測定方法により測定した。以下に、本実施例で使用した生乳を原料とする粉末食品中の乳糖量およびアモルファス化度を示した。
【0074】
アモルファスショ糖は吸湿が激しく保管が困難なため、水溶液中に砂糖と脱脂濃縮乳を溶解し、噴霧乾燥法により製造した。
【0075】
脱脂濃縮乳を40%加えて製造したものをアモルファスショ糖60、脱脂濃縮乳を20%加えて製造したものをアモルファスショ糖80とした。
〔糖類〕
・砂糖:アモルファス化度0%((株)明治フードマテリア製)
・アモルファスショ糖60(アモルファスショ糖60%、脱脂濃縮乳40%の混合物、乳 糖含有量20.6%):アモルファス化度100%
・アモルファスショ糖80(アモルファスショ糖80%、脱脂濃縮乳20%の混合物、乳 糖含有量10.3%):アモルファス化度100%
アモルファス乳糖は、水溶液中に乳糖を溶解し、噴霧乾燥法により製造した。
〔生乳を原料とする粉末食品〕
・乳糖(乳糖99.8重量%):アモルファス化度0%
・アモルファス乳糖(乳糖含有量99.8重量%):アモルファス化度100%
・ホエイパウダーA(乳糖含有量75.5重量%):アモルファス化度18%((株)明 治製)
・ホエイパウダーB(乳糖含有量76.9重量%):アモルファス化度100%(森永乳 業(株)製)
・脱脂粉乳(乳糖含有量51.5重量%):アモルファス化度100%((株)明治製)
・全粉乳(乳糖含有量38.1重量%):アモルファス化度100%((株)明治製)
本実施例で使用されるエタノール溶液の比重は0.8とした。また、油性菓子生地には、24℃に加温されたエタノール溶液を添加した。
【0076】
本発明における耐熱性は、強度、保形性、可搬性、付着性の4項目を基に評価した。また、耐熱油性菓子として好ましい品質かどうか、耐熱性評価と口溶けの評価を合わせ、総合的に評価した。
〔強度〕
(0028)段落に記載の最大応力の数値を、gfで表した。
〔保形性〕
A:静置評価で変形がなく、移動後の評価でも変形がない
B:静置評価または移動後の評価のいずれか、または両方で、目視で確認できる1mm以上の変形がある
〔可搬性〕
A:保形性を保ち、かつ測定サンプル全量を50cm以上移動できる
B:測定サンプル全量を25cm以上移動できる
C:測定サンプル全量を25cm移動できない
〔付着性〕
A:白紙に油脂の付着や着色がない
B:白紙に油脂の付着または着色がある
〔耐熱性〕
A:強度250gf以上700gf以下、保形性A、可搬性A、付着性Aを満たす場合
B:強度150gf以上250gf未満、かつ可搬性AまたはBを満たす場合
C:AまたはBに該当しないものすべて
〔口溶け〕
A:口溶けが良い(滑らかな口溶け)
B:口溶けが悪い(ざらつき、カリカリとした食感あり)
〔総合評価〕
A:耐熱性A、口溶けAである場合
B:耐熱性B、口溶けAである場合
C:耐熱性C、口溶けBいずれか1つに該当する場合
【0077】
<試験例1〜6>
〔アモルファス乳糖量と耐熱性の関係〕
生乳を原料とする粉末食品を植物油脂と混合し、レファイナーを用いて微細化した後、エタノールを添加して成形、冷却固化させた油脂混合物を、包装し、20℃湿度40%RHで1日保管し、40℃2時間加温した後ただちに耐熱性を評価した。結果は表1に示した。
【0078】
【表1】
【0079】
試験例1
結晶乳糖を配合した油脂混合物は、エタノールを添加しても耐熱性が向上しなかった。
【0080】
試験例2
アモルファス乳糖を70g配合した油脂混合物は、エタノールの添加によって耐熱性が向上したが、強度が700gfを上回り、組織が硬化してしまった。
【0081】
試験例3、4、6
アモルファス乳糖含有量が多い程、エタノールの添加によって耐熱性が向上した。
【0082】
試験例5
アモルファス乳糖含有量の低いホエイパウダーAを配合した油脂混合物は、成形後20℃湿度40%RHで1日保管した条件では、耐熱性の基準は満たさなかった。
【0083】
<比較例1、2>
〔一般的な油性菓子の耐熱性検証〕
スイートチョコレート(カカオマス50.0g、砂糖37.0g、ココアバター12.5g、乳化剤0.5g)とミルクチョコレート(砂糖42.0g、カカオマス20.0g、全粉乳20.0g、ココアバター17.5g、乳化剤0.5g)をそれぞれ55℃の湯煎で融解し、テンパリング後に成形、冷却固化させ、包装し、20℃で1日保管した。前記チョコレートは、40℃ではなく、各温度帯で2時間加温した後ただちに耐熱性および口溶けを評価した。
恒温器の温度は、28.0、30.0、30.2、30.5、31.0、31.5、32.0℃とし、成形品は1度のみ使用し、温度を変える度に新しい成形品を用いた。結果は表2に示した。
【0084】
【表2】
【0085】
<比較例1,2>
比較例1、2に記載のチョコレートは、いずれも30.5℃までしか耐熱性がなかった。
【0086】
<比較例3〜7、実施例1〜4>
〔水またはエタノールの添加による粘度、耐熱性の変化〕
ミルクチョコレート(砂糖42.0g、カカオマス20.0g、アモルファス乳糖含有量が8%である全粉乳20.0g、ココアバター17.5g、乳化剤0.5g)300gを55℃の湯煎で融解し、テンパリング後(生地温度30℃)、水または99.5容量%エタノールを添加し、均一に混合した。
エタノールを添加したミルクチョコレート生地のうち、50gはただちに成形、冷却固化させ、包装し、20℃湿度50%RHで1日保管した後、40℃2時間加温し、耐熱油性菓子として好ましい品質かどうか、総合的に評価した。なお、前記ミルクチョコレート生地の粘度が90000cPを上回った群は、流し込み成形ができなかったことから、ヘラで型に生地を押し込み、成形した。
エタノールを添加したミルクチョコレート生地のうち、250gは30℃での粘度を測定した。評価結果は表3に示した。
【0087】
【表3】
【0088】
比較例4、5
いずれの例も、水の添加により、チョコレート生地は激しく増粘し、流し込み成形することができなかった。また、比較例5は、ざらつきが生じ、滑らかな口溶けが失われてしまった。
【0089】
比較例6、7
エタノールの添加による著しい粘度上昇はみられなかったが、エタノール添加量が0.8gでは、耐熱性は向上しなかった。また、エタノールを1.6g添加した場合、保管日数が1日では、強度は増したが、耐熱性の基準は満たさなかった。
【0090】
実施例1〜3
エタノール添加量が2.4gを超えると、強度が250gfを超え、保形性および可搬性があり、付着性もなかった。また、エタノールを添加しても、ざらつきは生じず、滑らかな口溶けを有していた。
【0091】
実施例4
エタノール添加量が4.8gを超えると、粘度が著しく上昇したが、強度が250gfを超え、保形性および可搬性があり、付着性もなかった。また、エタノールを添加しても、ざらつきは生じず、滑らかな口溶けを有していた。しかし、エタノール臭が強く風味が悪かった。
【0092】
<比較例8〜10、実施例5>
〔アモルファス乳糖に対するエタノール添加量の検討〕
スイートチョコレート(カカオマス40.0g、砂糖45.0g、ココアバター14.5g、乳化剤0.5g)100gを55℃の湯煎で融解し、アモルファス乳糖を添加した。前記アモルファス乳糖は、前記スイートチョコレート生地100gに対し、それぞれ0、5、10、20g添加し、均一に混合した。前記チョコレート生地をテンパリングした後(生地温度32℃)、99.5容量%エタノールを2.4g添加し、均一に混合し、成形、冷却固化後、包装し、20℃湿度60%RHで1日保管した。前記油性菓子を40℃で2時間加温し、耐熱性を評価し果は表4に示した。
【0093】
【表4】
【0094】
比較例8、9
アモルファス乳糖含有量が5.0重量%を下回ると、エタノールを添加しても強度が150gfを上回らなかった。
【0095】
実施例5
強度が250gfを上回り、保形性および可搬性があり、付着性もなく、さらに口溶けは滑らかだった。
【0096】
比較例10
強度が700gfを上回り、保形性および可搬性はあり、付着性はなかったが、食感がボソボソする、クッキー様の食感となるなど、口溶けが悪かった。
【0097】
<比較例11、12、実施例6、7>
〔総油脂量42重量%の油性菓子を用いた保管日数の検討〕
スイートチョコレート(カカオマス40.0g、アモルファス乳糖40.0g、ココアバター19.5g、乳化剤0.5g)100gを55℃で融解し、テンパリング後(生地温度30℃)、99.5容量%エタノールをそれぞれ0、0.8、1.6、2.4g添加し、均一に混合した後、ただちに成形し、冷却固化させた。成形して得られた油性菓子を包装し、20℃湿度20%RHで3、90日保管した後、40℃2時間加温し、耐熱油性菓子として好ましい品質かどうか、総合的に評価した。表5に結果を記した。
【0098】
【表5】
【0099】
比較例11
アモルファス乳糖含有量が40重量%であっても、エタノールを添加しないと耐熱性は向上しなかった。
【0100】
比較例12
アモルファス乳糖含有量が40重量%であっても、エタノール添加量が0.8gを下回ると、耐熱性は向上しなかった。
【0101】
実施例6
成形後3日保管しても強度は90gfであったが、成形後90日保管すると、強度が150gfを超え、耐熱性の基準を満たした。保管日数が伸びる程、耐熱性が向上するが、90日保管では生産性が悪かった。
【0102】
実施例7
成形後3日保管することで耐熱性が得られ、成形後90日保管することで、強度が250gfを上回り、保形性および可搬性があり、付着性もなく、さらに口溶けは滑らかだった。
【0103】
総油脂量40%を超える油性菓子に対しても、アモルファス乳糖およびエタノールの添加が耐熱性を向上させた。
【0104】
<比較例13〜17、実施例8〜11>
〔総油脂量35重量%の油性菓子を用いた保管日数の検討〕
スイートチョコレート(カカオマス45.0g、砂糖45.0g、ココアバター9.5g、乳化剤0.5g)中に含まれる砂糖を、一部アモルファス乳糖に代替した3種類のスイートチョコレートを製造した。砂糖からアモルファス乳糖への代替は、10、20、30gとした。
【0105】
前記スイートチョコレート100gを55℃で融解し、テンパリング後(生地温度30℃)、99.5容量%エタノールをそれぞれ0.8、1.6、2.4g添加し、均一に混合した後、ただちに成形し、冷却固化させた。成形して得られた油性菓子を包装し、20℃湿度20%RHで1、2、5日保管した後、40℃2時間加温し、耐熱油性菓子として好ましい品質かどうか、総合的に評価した。表6に99.5容量%エタノールを0.8g添加した結果を、同様に表7に1.6g、表8に2.4g添加した結果を記した。
【0106】
【表6】
【0107】
比較例13〜15
砂糖をアモルファス乳糖10、20、30gに代替したスイートチョコレートに、エタノールを0.8g添加した群は、成形後5日保管しても、耐熱性は向上しなかった。
【0108】
【表7】
【0109】
比較例16
砂糖10gをアモルファス乳糖に代替したスイートチョコレートに、エタノールを1.6g添加した場合、保管日数が1日、2日、5日と伸びる程、強度は増したが、耐熱性の基準は満たさなかった。
【0110】
実施例8
砂糖20gをアモルファス乳糖に代替したスイートチョコレートに、エタノールを1.6g添加した場合、成形後2日保管することで耐熱性が得られ、成形後5日保管することで、強度が250gfを上回り、保形性および可搬性があり、付着性もなく、さらに口溶けは滑らかだった。
【0111】
実施例9
砂糖30gをアモルファス乳糖に代替したスイートチョコレートに、エタノールを1.6g添加した場合、成形後2日以上保管することで、強度が250gfを上回り、保形性および可搬性があり、付着性もなく、さらに口溶けは滑らかだった。
【0112】
【表8】
【0113】
実施例10
砂糖10gをアモルファス乳糖に代替したスイートチョコレートに、エタノールを2.4g添加した場合、成形後1日以上保管することで耐熱性が得られ、成形後5日保管すると、強度が250gfを上回り、保形性および可搬性があり、付着性もなく、口溶けは滑らかだった。
【0114】
実施例11
砂糖20gをアモルファス乳糖に代替したスイートチョコレートに、エタノールを2.4g添加した場合、成形後1日保管することで強度が250gfを上回り、保形性および可搬性があり、付着性もなく、口溶けは滑らかだった。しかし、成形後2日以上保管すると強度が700gfを上回り、チョコレートの食感が硬くなり、滑らかさが失われてしまった。
【0115】
比較例17
砂糖30gをアモルファス乳糖に代替したスイートチョコレートに、エタノールを2.4g添加した場合、成形後1日以上保管すると、強度が700gfを上回り、チョコレートの食感が硬くなり、滑らかさが失われてしまった。そして、900gfを超えた場合、カリカリとした食感となっていた。
【0116】
<比較例18、実施例12、13>
〔成形時に必要なエタノール量の検討〕
ミルクチョコレート(砂糖42.0g、カカオマス20.0g、アモルファス乳糖を8g含有した全粉乳20.0g、ココアバター17.5g、乳化剤0.5g)300gを55℃の湯煎で融解し、32℃に温度調節し、BOB脂(1,3-dibehenoyl-2-oleoyl glycerolのβ2型結晶)を用いてテンパリングした後、99.5容量%エタノールを2.4g添加して混合した。前記混合は、ミキサーを用いて200回転/分で行い、1、3、5分間撹拌した直後に成形し、冷却固化させた。成形後の油性菓子は包装し、23℃湿度30%RHで3日保管した後、40℃2時間加温し、耐熱油性菓子として好ましい品質かどうか、総合的に評価した。評価結果は表9に記した。
【0117】
【表9】
【0118】
比較例18、実施例12、13
チョコレート生地中にエタノールを均一に分散するには撹拌が欠かせないが、撹拌時間が増えるとエタノールが揮発して減少し、耐熱性が低下した。すべての例でエタノールは2.4g添加していたが、成形直後のエタノール含有量を測定すると、撹拌時間5分でエタノール含有量は0.5gまで減少し、耐熱性を付与することができなかった。
【0119】
本発明では成形時に一定のエタノールが存在していることが必要であり、エタノール添加後はエタノールが揮発しないよう短時間で混合する、または揮発しにくい容器内で混合することが必要とされる。さらに、エタノールが均一に分散した直後にただちに成形される必要がある。
【0120】
<比較例19>
〔特許文献3との比較〕
特許文献3に記載のミルクチョコレート(砂糖50.4重量%、ココアバター代用脂27.3重量%、脱塩ホエイ13.9重量%、ココアバター6.6重量%、カカオマス1.0重量%、乳化剤0.5重量%、バニリン0.2重量%)102.5gを50℃に加温した、96%容量エタノール溶液を16.3重量%添加した後、均一に混合し、40℃に加温した型に入れて成形した油性菓子を、40℃で3日保管した後、さらに40℃2時間加温し、耐熱油性菓子として好ましい品質かどうか、総合的に評価した。評価結果は表10に記した。
【0121】
【表10】
【0122】
比較例17
エタノールを19.5重量%添加することから、均一に混合するための撹拌時間が伸び、滑らかなチョコレートが、空気を抱き込み流動性のないホイップ状となった。また、流動性がないため、デポジッターを用いた成形はできず、型に押し込むように成形した。
40℃3日保管後のチョコレートは、ほろほろと崩壊するような食感となり、油性菓子本来の滑らかな口溶けが失われていた。
また、ホイップ状のチョコレートは組織が脆く、強度の測定値が、1回目110gf、2回目330gf、3回目170gfと測定誤差が大きくなった。
【0123】
同様に、油性菓子生地中に含まれるエタノール含有率を、19.5重量%、12.8重量%、8.9重量%、4.7重量%としたミルクチョコレートを、20℃湿度30%RHで3日保管した。
その結果、エタノール添加量が多いために、滑らかなチョコレートが、空気を抱き込み流動性のないホイップ状となり、ほろほろと崩壊するような食感となり、油性菓子本来の滑らかな口溶けが失われていた。さらに、20℃保管ではエタノールが揮発しないため、エタノール臭が強く風味が悪かった。
【0124】
<実施例14、比較例20、21>
〔アモルファスショ糖の効果検証〕
ミルクチョコレート(砂糖またはアモルファスショ糖、脱脂粉乳、カカオマス、ココアバター、乳化剤、配合は表10参照)100gにエタノールを2.4g添加し、テンパリング後(生地温度30℃)、99.5容量%エタノールを2.4g添加し、均一に混合した後、ただちに成形し、冷却固化させた。成形して得られた油性菓子を包装し、20℃湿度30%RHで5日保管した後、40℃2時間加温し、耐熱油性菓子として好ましい品質かどうか、総合的に評価した。表11に結果を記した。
【0125】
【表11】
【0126】
実施例14
強度が250gfを上回り、保形性および可搬性があり、付着性もなく、さらに口溶けは滑らかだった。
【0127】
比較例20、21
実施例12の砂糖をアモルファスショ糖に置き換えたところ、実施例12と比較して強度が著しく増加した。しかし、アモルファス乳糖と比べ、大きな糖骨格が形成され、ガリガリとした食感となり好ましくなかった。