特許第6347507号(P6347507)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6347507
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】電極活物質材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20180618BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20180618BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M4/36 C
   H01M4/36 B
【請求項の数】22
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2014-43698(P2014-43698)
(22)【出願日】2014年3月6日
(65)【公開番号】特開2015-170438(P2015-170438A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2016年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】小島 晶
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 淳一
(72)【発明者】
【氏名】下 俊久
(72)【発明者】
【氏名】小島 敏勝
(72)【発明者】
【氏名】池内 勇太
(72)【発明者】
【氏名】境 哲男
【審査官】 細井 龍史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−125648(JP,A)
【文献】 特開2011−014368(JP,A)
【文献】 特開2013−108201(JP,A)
【文献】 特開2013−084601(JP,A)
【文献】 特開2001−118576(JP,A)
【文献】 特開2013−032252(JP,A)
【文献】 特開2013−134990(JP,A)
【文献】 安富 実希ら,リチウムイオン電池用Li2-xM(SiO4)1-x(PO4)x(M=Fe,Mn)正極活物質の水熱反応による合成とその電気化学特性,GS Yuasa Technical Report,日本,2009年 6月26日,第6巻、第1号,p21−26
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムコバルトシリケート系化合物からなるシリケート粒子を有する電極活物質材料を製造する方法であって、
リチウム源と、コバルト源と、ケイ酸化合物とを有する原料を水に溶解してなる反応溶液を加熱することにより水熱反応を生じさせて、前記リチウムコバルトシリケート系化合物を得る反応工程をもち、
前記反応溶液のpHは、13.6以上13.8以下であることを特徴とする電極活物質材料の製造方法。
【請求項2】
前記コバルト源は、コバルトを含む塩化物からなる請求項1に記載の電極活物質材料の製造方法。
【請求項3】
前記リチウム源は、LiOH,Li2CO3からなる請求項1又は2に記載の電極活物質材料の製造方法。
【請求項4】
前記ケイ酸化合物は、SiO2、Li2SiO3からなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の電極活物質材料の製造方法。
【請求項5】
前記反応溶液を加熱する温度は、100℃以上200℃以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の電極活物質材料の製造方法。
【請求項6】
前記反応溶液には、アルカリ性化合物が添加されている請求項1〜5のいずれか1項に記載の電極活物質材料の製造方法。
【請求項7】
前記アルカリ性化合物がNaOHからなる請求項6に記載の電極活物質材料の製造方法。
【請求項8】
前記リチウム源1モルに対する前記NaOHの添加量をXモルとしたときに、0<X<5の関係をもつ請求項7に記載の電極活物質材料の製造方法。
【請求項9】
前記シリケート粒子は、10nm以上50nm以下の平均粒子径をもつ請求項1〜8のいずれか1項に記載の電極活物質材料の製造方法。
【請求項10】
前記反応工程の後に、前記シリケート粒子の表面を、導電性材料により被覆する被覆工程を行う請求項1〜9のいずれか1項に記載の電極活物質材料の製造方法。
【請求項11】
前記被覆工程において、前記導電性材料の原料を含むガスの存在下で、前記シリケート粒子を加熱する気相法を行う請求項10に記載の電極活物質材料の製造方法。
【請求項12】
一般式:Li2Cox1-xSiO4(M:遷移元素(Coを除く)、0<x≦1)で表されるリチウムコバルトシリケート系化合物からなるシリケート粒子と、前記シリケート粒子を被覆する導電性材料とを有する電極活物質材料を製造する方法であって、
リチウム源と、コバルト源と、ケイ酸化合物とを有する原料を水に溶解してなる反応溶液を加熱することにより水熱反応を生じさせて、前記リチウムコバルトシリケート系化合物を得る反応工程をもち、
前記反応工程の後に、前記シリケート粒子の表面を、導電性材料により被覆する被覆工程を行い、
前記被覆工程において、炭化水素ガスからなる前記導電性材料の原料を含むガスの存在下で、前記シリケート粒子を540〜620℃で加熱する気相法を行うことを特徴とする電極活物質材料の製造方法。
【請求項13】
前記導電性材料の原料は、炭化水素ガスからなる請求項11に記載の電極活物質材料の製造方法。
【請求項14】
前記シリケート粒子を加熱する温度は、500℃以上700℃未満である請求項11又は13に記載の電極活物質材料の製造方法。
【請求項15】
前記電極活物質材料は、さらに、前記リチウムコバルトシリケート系化合物から生成したコバルト単体を有する請求項10〜14のいずれか1項に記載の電極活物質材料の製造方法。
【請求項16】
前記導電性材料は炭素材料からなる請求項10〜15のいずれか1項に記載の電極活物質材料の製造方法。
【請求項17】
前記炭素材料は、チューブ状ないし繊維状を呈する請求項16に記載の電極活物質材料の製造方法。
【請求項18】
前記電極活物質材料についてラマン分析をすることにより得られたラマンスペクトルは、Gバンドを有する請求項16又は17に記載の電極活物質材料の製造方法。
【請求項19】
前記電極活物質材料をラマン分光法により分析することにより得られたラマン散乱分光スペクトルにおいて、Dバンドのピーク強度に対するGバンドのピーク強度の比率をIG/Dとしたときに、0.5≦IG/D≦1.0の関係をもち、
Dバンドのピーク幅に対するGバンドのピーク幅の比率をWG/Dとしたときに、0.8≦WG/D≦1.1の関係をもつ請求項16〜18のいずれか1項に記載の電極活物質材料の製造方法。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか1項に記載の電極活物質材料の製造方法で、当該電極活物質材料を製造する工程、及び、
前記電極活物質材料を用いて電極を製造する工程を含むことを特徴とする二次電池用電極の製造方法。
【請求項21】
前記二次電池用電極は正極である請求項20に記載の二次電池用電極の製造方法。
【請求項22】
請求項20又は21に記載の二次電池用電極の製造方法で、当該二次電池用電極を製造する工程、及び、
前記二次電池用電極を用いて二次電池を製造する工程を含むことを特徴とする二次電池の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極活物質材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、小型でエネルギー密度が高く、ポータブル電子機器の電源として広く用いられている。リチウム二次電池の正極活物質としては、主としてLiCoO、LiMnなどの層状化合物が使われている。しかしながら、これらの化合物は満充電状態において、150℃前後で酸素が脱離しやすく、脱離した酸素が非水電解液の酸化発熱反応を引き起こしやすいという問題点がある。
【0003】
近年、資源量、環境負荷の観点から、正極活物質としては、リン酸オリビン系化合物LiMPO(M=Fe、Mnなど)やリチウムコバルトシリケート系化合物LiMSiO(M=Fe、Mn、Co)が提案されている(特許文献1)。特にLiMSiOは、式量あたり2個のLiを含むため、LiMPOよりも高い理論容量(理論値:LiMSiO:330mAh/g、LiMPO:170mAh/g)を有する。高エネルギー密度の観点から、同じ容量を示す場合において、高い電圧を有する材料が有利である。LiMSiOの中でMが順にFe、Mn、Coである場合に電圧が高くなることが予測されている。
【0004】
しかし、LiCoSiOなどのリチウムコバルトシリケート系化合物に関しては、材料の電池特性が引き出されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−181331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、電池特性に優れた電極活物質材料及びその製造方法、並びに二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電極活物質材料の製造方法は、リチウムコバルトシリケート系化合物からなるシリケート粒子を有する電極活物質材料を製造する方法であって、リチウム源と、コバルト源と、ケイ酸化合物とを有する原料を水に溶解してなる反応溶液を加熱することにより水熱反応を生じさせて、前記リチウムコバルトシリケート系化合物を得る反応工程をもつことを特徴とする。
【0008】
本発明の電極活物質材料は、上記の電極活物質材料の製造方法により製造されてなる電極活物質材料であって、前記電極活物質材料は、リチウムコバルトシリケート系化合物からなるシリケート粒子を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電極活物質材料の製造方法によれば、水熱合成反応によりリチウムコバルトシリケート系化合物を合成しているため、電池特性に優れた電極活物質材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】試料1〜3のX線回折スペクトルを示す図である。
図2図2の上段は、試料1のSEM写真(倍率2万倍)であり、図2の下段は、試料1のSEM写真(倍率10万倍)である。
図3】試料2のSEM写真である。
図4】試料3のSEM写真である。
図5】試料1〜3の充放電曲線を示す図である。
図6】試料1,4,5,6のX線回折スペクトルを示す図である。
図7図7の左上段は、試料4のSEM写真であり、図7の右上段は試料5のSEM写真であり、図7の左下段は試料1のSEM写真であり、図7の右下段は試料6のSEM写真である。
図8】試料1,7,8のX線回折スペクトルを示す図である。
図9図9の上段は試料8のSEM写真であり、図9の中段は試料7のSEM写真であり、図9の下段は試料1のSEM写真である。
図10図10の上段は、気相法に用いるロータリーキルンを示す説明図であり、図10の下段は、温度プロフィールを示す説明図である。
図11】試料1,9のX線回折スペクトルを示す図である。
図12図12の上段は試料9のSEM表面像を示す写真であり、図12の下段は試料9のSEM断面像を示す写真である。
図13】試料1,9のラマン散乱分光スペクトルを示す図である。
図14】試料1,2,9,10の充放電曲線を示す図である。
図15】試料1,11〜15のX線回折スペクトルを示す図である。
図16】試料9,12の充放電曲線を示す図である。
図17】試料1,16,17のX線回折スペクトルを示す図である。
図18】試料9,17の充放電曲線を示す図である。
図19】試料9,17のラマン散乱分光スペクトルを示す図である。
図20】試料9,18〜21のエネルギー密度を示す図である。
図21】試料1,9,18〜24のX線回折スペクトルを示す図である。
図22図22の左上段は試料18のSEM写真であり、図22の中上段は試料9のSEM写真であり、図22の右上段は試料19のSEM写真であり、図22の中下段は試料20のSEM写真であり、図22の右下段は試料21のSEM写真である。
図23】試料9,18〜21のラマン散乱分光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態の電極活物質材料の製造方法及び電極活物質材料並びに二次電池について詳細に説明する。
【0012】
(電極活物質材料及びその製造方法)
電極活物質材料の製造方法は、リチウムコバルトシリケート系化合物を有する電極活物質材料を製造する方法である。リチウムコバルトシリケート系化合物は、少なくともLiとCoとを有する複合金属ケイ酸化合物である。
【0013】
リチウムコバルトシリケート系化合物は、例えば、一般式:LiCo1−xSiO(M:遷移元素(Coを除く)、0<x≦1)で表される。上記一般式中、遷移元素Mは、Coを除き、例えば、Ni、Mn、Fe、Mg、Ca、Al、Nb、Ti、Cr、Cu、Zn、Zr、V、Mo及びWなどが挙げられる。リチウムコバルトシリケート系化合物は、例えば、LiCoSiO、LiCo0.5Mn0.5SiO、LiCo0.5Fe0.5SiOなどが挙げられる。上記一般式中、xについて、0<x≦1であり、更に、0.5<x≦1であってもよく、更に、0.6<x≦1であってもよい。x=1であってもよい。
【0014】
電極活物質材料の製造方法は、リチウム源とコバルト源とケイ酸化合物とを有する原料を水に溶解してなる反応溶液に水熱反応を生じさせる反応工程をもつ。水熱反応では、前記反応溶液を加熱することで前記反応溶液中の各成分を反応させて目的生成物を得る。
【0015】
リチウム源は、例えばリチウム塩を用いる。リチウム塩は、具体的には、LiOH、LiCO、酢酸リチウム、シュウ酸リチウムなどを挙げることができる。中でも、LiOHを用いることが好ましい。LiOHは、水に溶解すると強いアルカリ性を示す。珪素源であるケイ酸化合物は、アルカリ性の水溶液に溶解しやすい。ケイ酸化合物は、リチウム源と遷移原子源を共に水に溶解して加熱することにより、水熱反応が進行し、リチウムコバルトシリケート系化合物を効率よく合成することができる。反応溶液1リットルに対するリチウム源の混合量は、0.3モル/L以上1モル/L以下であることがよく、更には、0.4モル/L以上0.8モル/L以下であることが好ましい。
【0016】
コバルト源は、少なくともCoを有する。コバルト源は、遷移元素Coを含む塩化物、水酸化物、硫化物、酸化物などが挙げられる。目的生成物がLiCoSiOである場合には、コバルト源は、コバルトを含む塩化物からなることが好ましい。その理由は、塩化物の反応性が高いからである。
【0017】
反応溶液1リットルに対するコバルト源の混合量は、0.1モル/L以上0.5モル/L以下であることがよく、更には、0.2モル/L以上0.4モル/L以下であることが好ましい。
【0018】
リチウムコバルトシリケート系化合物に、Co以外の遷移元素を含む場合には、水熱反応の原料として、上記のリチウム源、コバルト源、及びケイ酸化合物の他に、Co以外の遷移元素源も含む。遷移元素源としては、遷移元素を含む塩化物がよく、例えば、Ni、Mn、又は/及びFeを含む塩化物がある。
【0019】
ケイ酸化合物は、珪素と酸素を含む化合物からなる。ケイ酸化合物は、例えば、SiO、SiO、LiSiOを用いることができる。反応溶液1リットルに対するケイ酸化合物の混合量は、0.1モル/L以上0.5モル/L以下であることがよく、更には、0.2モル/L以上0.4モル/L以下であることが好ましい。
【0020】
リチウム源とコバルト源とケイ酸化合物とを有する原料を溶解させる水は、特に限定しないが、例えば、蒸留水、イオン交換水などを用いることができる。
【0021】
水熱反応は、反応溶液を加熱することで生じさせることができる。水熱反応を生じさせるために、加熱された反応溶液の温度である反応温度は、100℃以上300℃以下であることがよく、更には110℃以上190℃以下であることが好ましい。また、反応溶液に水熱反応を生じさせている時間である反応時間は3時間以上100時間以下であることがよく、更には5時間以上69時間以下であることが好ましい。反応温度が高すぎる場合又は反応時間が長い場合には、生成したリチウムコバルトシリケート系化合物が分解するおそれがある。反応温度が低すぎる場合または反応時間が短すぎる場合には、リチウムコバルトシリケート系化合物の生成効率が低くなるおそれがある。水熱反応を行うときに反応溶液には、0.1〜1.3MPaの圧力を印加するとよい。
【0022】
水熱反応を行う際の反応溶液のpHは13.5を超えて大きく且つ14.0以下であることがよく、更には、13.6以上13.8以下であることが好ましい。ケイ酸化合物は、反応溶液のpHが低い場合に溶解性が低くなるものが多い。ケイ酸化合物は、pHの高い環境で溶解しやすくなり、水熱反応が効率よく進行する。反応溶液のpHが13.5以下である場合又は14.0を超えて大きい場合には、水熱反応の際に不純物が生成するおそれがある。
【0023】
反応溶液には、アルカリ性化合物が添加されていることが好ましい。反応溶液がアルカリ性であることにより、ケイ酸化合物が、pHの高い環境で溶解しやすくなく、水熱反応が効率よく進行するからである。
【0024】
リチウム源、コバルト源、及びケイ酸化合物を有する原料とアルカリ性化合物とを水に溶解したときのpHは、リチウム源、コバルト源、及びケイ酸化合物を有する原料のみを水に溶解したときのpHよりも高いことがよい。アルカリ性化合物は、例えば、NaOH、KOHからなることが好ましい。
【0025】
リチウム源1モルに対するNaOHの添加量をXモルとしたときに、0<X<5の関係をもつことがよく、さらには、0.5≦X<4、0.5≦X<3であることが好ましい。この場合には、反応溶液のpHを高くすることができる。pHが過剰に高い場合には、反応溶液の中に不純物が生成するおそれがある。
【0026】
水熱反応は、圧力を印加して目的物を合成することから、密閉容器などの密閉空間の中で行うことがよい。
【0027】
水熱反応により、反応溶液中に目的生成物であるリチウムコバルトシリケート系化合物が生成される。目的生成物のリチウムコバルトシリケート系化合物は、反応溶液中で粒子として析出する。このため、反応工程の後には、目的生成物をフィルターやろ紙などにより濾別するとよい。濾別した目的生成物は、乾燥させるとよい。乾燥方法は、60〜100℃での加熱などの方法が挙げられる。乾燥工程の後には、乾燥させた生成物を焼成する焼成工程を行ってもよい。焼成工程を行う場合、焼成温度は、500℃以上1000℃以下であることがよく、焼成時間は1時間以上24時間以下であることがよい。
【0028】
水熱反応では、各構成元素を供給する原料を水に溶解して合成反応を行っているため、生成したリチウムコバルトシリケート系化合物は、平均粒子径の小さい粒子を形成する。リチウムコバルトシリケート系化合物は、10nm以上50nm以下の平均粒子径をもつ粒子を形成していることがよい。リチウムコバルトシリケート系化合物の平均粒子径は、更には、20nm以上50nm以下であることが好ましい。リチウムコバルトシリケート系化合物の平均粒子径が過小の場合には、乾燥時に取り扱いにくくなるおそれがあり、平均粒子径が過大である場合には各粒子の表面積が小さくなり、粒子全体が電池反応への寄与が低下するおそれがある。
【0029】
リチウムコバルトシリケート系化合物は、一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合がある。この場合、リチウムコバルトシリケート系化合物の平均粒子径は、一次粒子の平均粒子径をいう。リチウムコバルトシリケート系化合物の平均粒子径は、リチウムコバルトシリケート系化合物の長寸方向と短寸方向の平均の寸法を意味し、走査型電子顕微鏡(SEM)で測定される。
【0030】
シリケート粒子の表面は、導電性材料で被覆されていることが好ましい。これにより、粒子間の導電性が良好になり、電極の容量が増加する。
【0031】
導電性材料は、炭素材料からなるとよい。
【0032】
粒子表面を導電性材料で被覆するために、気相法、固相法、溶液法が挙げられる。気相法は、気体(分子)となった導電性材料を粒子表面に付着させる方法である。固相法は、固体状の導電性材料を粒子表面に付着させる方法である。液相法は、導電性材料を有する液体状の材料を粒子表面に付着させる方法である。
【0033】
粒子表面を導電性材料で被覆するために、気相法を用いることがよい。気相法で形成された導電性材料は、粒子間の導電性を効果的に向上させるからである。気相法は、水熱反応により形成された微細なシリケート粒子の状態を維持したまま、粒子表面に導電性材料で被覆することができる。このため、粒子表面に導電性材料を接触させた状態で、粒子表面を導電性材料で被覆することができ、粒子間の導電パスが多く、電極の電気容量を増加させることができる。
【0034】
気相法は、具体的には、化学蒸着法、物理蒸着法などが挙げられる。このうち、化学蒸着法(CVD)がよい。化学蒸着法は、炭化水素を含むガスを原料として、この原料を熱分解させることにより得られた導電性カーボンで粒子表面を被覆する方法である。例えば、化学蒸着法を行う際の炭化水素を含むガスを原料としては、熱やプラズマ等により分解されて上記粒子表面を被覆し得る被覆成分(ガス)を用いることができる。炭化水素を含むガスとして、具体的には、エチレン、アセチレン、プロピレン等の不飽和脂肪族炭化水素;メタン、エタン、プロパン、ブタン等の飽和脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、ナフタレン等の芳香族炭化水素;等の各種炭化水素化合物が挙げられる。これら化合物は、一種のみを用いてもよく、二種以上の混合ガスとして用いてもよい。このうち、特に、ブタン、プロパンガス、ナフタレンがよい。
【0035】
CVDの処理温度は、500℃以上700℃未満がよく、更には535℃以上、550℃以上が好ましい。この場合には、リチウムコバルトシリケート系化合物からCo単体が析出し、析出したCoが触媒として働き、被覆成分を還元分解して、粒子表面にカーボンチューブを形成させる。以下、繊維状ないしチューブ状の炭素材料を、カーボンチューブという。処理温度が700℃以上の場合には、リチウムコバルトシリケート系化合物が分解するおそれがある。析出したCo単体は、カーボンチューブの中に存在する場合もある。
【0036】
CVDの処理時間は、長い方が、炭素材料がチューブ状ないし繊維状になるので好ましい。CVDの処理時間は、処理温度が低いほど長くすることがよく、処理温度が高いほど短くすることがよい。処理時間は、1分以上10時間以下であることがよく、更に5分以上2時間以下であることが好ましい。過剰に長い場合には、それに見合う効果が期待できない。特に処理温度が高温の場合には、リチウムコバルトシリケート系化合物が熱分解するおそれがある。
【0037】
固相法を採用する場合、例えば、導電性材料の原料を、前記原料の固形の状態を維持したまま混合及び粉砕により付着させることができる。あるいは得られた混合体および粉砕された複合体を不活性ガス雰囲気下において焼成してもよい。導電性材料の原料の混合及び粉砕はミリングで行うとよい。導電性材料が炭素材料からなる場合、固相法で用いられる導電性材料の原料は、アセチレンブラック(AB)、ケッチェブラック(KB)、ソフトカーボン、ハードカーボン、カーボンチューブ、カーボン繊維等を用いるとよい。
【0038】
液相法を採用する場合、例えば、カーボンを含む有機物原料を適当な溶媒で希釈してなる溶液を核材に混ぜ合わせた後、不活性ガス雰囲気下あるいは混合ガス雰囲気下において、カーボンを含む有機物原料を焼成して炭化させる。カーボンを含む有機物原料は、各種溶媒に可溶であり、且つ熱分解されて粒子表面を被覆し得る化合物を用いることができる。カーボンを含む有機物原料の好適例として、グルコース、スクロース、ポリビニルアルコール、デキストリン等が挙げられる。焼成の温度および時間は、所望の低結晶性炭素被膜が生成されるよう、原料の種類等に応じて適宜選択すればよい。典型的には、凡そ500〜800℃の範囲で、2〜3時間程度焼成すればよい。
【0039】
シリケート粒子表面が導電性材料により被覆される場合、シリケート粒子を100質量部としたとき、導電性材料の質量比は1質量部以上50質量部以下であることがよく、更に、5質量部以上40質量部以下であることが好ましい。この場合には、電極は、電極活物質としてのシリケート粒子の含有量が比較的高く、かつシリケート粒子間の導電性を高めるに十分な導電性材料をもち、電極の容量が高くなる。
【0040】
シリケート粒子を被覆する導電性材料は、チューブ状ないし繊維状を呈することが好ましい。粒子間が導電性材料によりつながれて、粒子間の導電性を効果的に向上させるからである。導電性材料が炭素材料である場合にも、炭素材料は、チューブ状ないし繊維状を呈することが好ましい。チューブ状ないし繊維状の炭素材料は、一般に、カーボンチューブと称されている。
【0041】
チューブ状ないし繊維状の炭素材料、即ちカーボンチューブは、10nm以上50nm以下の平均直径をもつことがよい。カーボンチューブの平均長さは0.5μm以上であることがよく、更には、1μm以上であることが好ましい。この場合には、シリケート粒子間の導電性を効果的に向上させることができる。炭素材料の平均長さの上限は、平均長さが長いと分散させることが難しいため、5μm以下であるとよい。
【0042】
導電性材料は、粒子表面に接していることがよい。粒子間が導電性材料でつながれて、粒子間の導電性が向上するからである。粒子は、リチウムコバルトシリケート系化合物からなる粒子であり、この粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には、一次粒子の表面に導電性材料が接していることがよいが、二次粒子表面に接していてもよい。
【0043】
電極活物質材料に付着した導電性材料の評価方法として、ラマン分光法がある。ラマン分光法は、電極活物質材料およびこれに付着した導電性材料に励起光を照射して、電極活物質およびこれに付着した導電性材料から発せられたラマン散乱光を分析する。ラマン散乱光の振動数と入射光の振動数の差(ラマンシフト)は、物質の構造に特有の値をとる。電極活物質材料に付着した導電性材料が炭素材料(カーボン)からなる場合、この炭素材料をラマン分光法により分析することにより得られたラマン散乱分光スペクトルでは、波数1583cm−1付近に位置するピークをGバンドと、波数1344cm−1付近に位置するピークをDバンドとが観察される。Gバンドは、炭素材料の六員環内の振動に由来するピークである。Gバンドのピーク強度が大きいほど、黒鉛(グラファイト)に近い構造をもち、導電性が高くなる。Dバンドは、炭素材料の欠陥や未結合に由来するピークである。Dバンドのピーク強度に対するGバンドのピーク強度の比率が大きいほど、炭素材料の導電性が高くなる。また、Dバンドのピーク幅に対するGバンドのピーク幅の比率が大きいほど、炭素材料の導電性が高くなる。シリケート粒子が、導電性の高い炭素材料で被覆されることにより、シリケート粒子間の導電性が高くなり、電極の容量が増加する。各バンドのピーク強度は、フィッティングを行った際に得られたピークに対応する各バンドのピーク形状を表わす部分の下端からピーク頂点までの高さをいう。各バンドのピーク幅は、フィッティングを行った際に得られたピークに対応する各バンドのピーク形状を表わす部分のピーク強度が半分になったときの両端の間の波数の幅をいう。
【0044】
前記電極活物質材料をラマン分光法により分析することにより得られたラマン散乱分光スペクトルにおいて、Dバンドのピーク強度に対するGバンドのピーク強度の比率をIG/Dとし、Dバンドのピーク幅に対するGバンドのピーク幅の比率をWG/Dとしたときに、0.5≦IG/D≦1.0であり、且つ、0.8≦WG/D≦1.1の関係をもつことが好ましい。この場合には、シリケート粒子が導電性の高い炭素材料で被覆され、シリケート粒子間の導電性が高くなり、電極の容量が増加する。IG/Dが0.5未満の場合には、炭素材料の導電性が低く、電極の容量が低下するおそれがある。IG/Dが1.0を超えて大きい場合には、炭素の優先配向が生じてしまい、シリケート粒子への被覆が低下するおそれがある。
【0045】
G/Dが0.8未満の場合には、炭素材料の導電性が低く、電極の容量が低下するおそれがある。WG/Dが1.1を超えて大きい場合には、炭素の優先配向が生じてしまい、シリケート粒子への被覆が低下するおそれがある。
【0046】
(電極)
上記の本発明の電極活物質材料を用いた電極について説明する。
【0047】
電極は、上記本発明の電極活物質材料を有する。電極は、集電体と、集電体を被覆する上記本発明の電極活物質材料を有する活物質層とからなることがよい。電極は、二次電池用電極であるとよく、更に、非水系二次電池用電極、リチウム二次電池用電極又はリチウムイオン二次電池用電極であるとよい。電極は、正極又は負極のいずれでもよいが、正極であるとよい。電極は、二次電池用正極であるとよく、更には、非水系二次電池用正極であるとよく、更に、非水系二次電池用正極、リチウム二次電池用正極又はリチウムイオン二次電池用正極であるとよい。
【0048】
上記本発明の電極活物質材料を用いた電極が正極、負極のいずれである場合にも、活物質層は、上記本発明の電極活物質材料を有する他、必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含むとよい。
【0049】
結着剤は活物質及び導電助剤を集電体の表面に繋ぎ止める役割を果たすものである。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂を例示することができる。
【0050】
活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、活物質:結着剤=1:0.05〜1:0.20であるのが好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0051】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)、および各種金属粒子などが例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。
【0052】
活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、活物質:導電助剤=1:0.05〜1:0.20であるのが好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0053】
上記本発明の電極活物質材料を用いた電極が正極、負極のいずれである場合にも、集電体としては、特に限定はなく、従来から使用されている材料、例えば、アルミ箔、アルミメッシュ、ステンレスメッシュなどを用いることができる。更に、カーボン不織布、カーボン織布なども集電体として使用できる。
【0054】
電極は、正極及び負極のいずれであっても、その形状、厚さなどについては特に限定的ではないが、例えば、電極活物質材料を集電体に塗布した後、圧縮することによって、厚さを10〜200μm、より好ましくは20〜100μmとすることが好ましい。
【0055】
集電体の表面に活物質層を形成させる方法には、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を含む活物質層形成用組成物を調製し、この組成物に適当な溶剤を加えてペースト状にしてから、集電体の表面に塗布後、乾燥する。溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
【0056】
上記の本発明の電極活物質材料を用いた電極が正極である場合、正極としての電極には、上記本発明の電極活物質材料以外の正極活物質を含ませてもよい。本発明の電極活物質材料とともに正極に含ませ得る、上記本発明の電極活物質材料以外の正極活物質としては、例えば、LiとNi,CoおよびMnのうち少なくとも一種の遷移金属元素とを含むリチウム遷移金属酸化物からなる。リチウム遷移金属酸化物は、例えば、リチウム・マンガン複合酸化物、リチウム・コバルト複合酸化物、リチウム・ニッケル複合酸化物などのリチウムと遷移金属との金属複合酸化物を用いる。リチウム遷移金属酸化物は、式:LiNi1-x-yCoxMny(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦1-x-y)、又は式:LiNi2-x-yCoxMny(0≦x≦2、0≦y≦2、0≦2-x-y)で表されることが好ましい。正極活物質の具体例として、LiCoO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiMn、LiNi0.5Mn1.5、LiNi1−xCo(0≦x≦1)などが挙げられる。
【0057】
(二次電池)
上記電極を用いた二次電池について説明する。二次電池は、リチウムイオン二次電池であるとよい。即ち、二次電池は、正極と負極と電解液とを有し、正極は、本発明の電極活物質材料を用いた電極であるとよい。
【0058】
上記の本発明の電極活物質材料を用いた電極は、正極、負極のいずれでもよいが、リチウムコバルトシリケート系化合物の電位特性を考慮して、正極であることがよい。上記の本発明の電極活物質材料を用いた電極が正極である場合、負極は、次の負極活物質を有することがよい。負極活物質としては、例えば、リチウムイオンなどの金属イオンを吸蔵及び放出し得る材料が使用可能である。したがって、リチウムイオンなどの金属イオンを吸蔵及び放出可能である単体、合金または化合物であれば特に限定はない。たとえば、負極活物質としてLiや、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、錫などの14族元素、アルミニウム、インジウムなどの13族元素、亜鉛、カドミウムなどの12族元素、アンチモン、ビスマスなどの15族元素、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、銀、金などの11族元素をそれぞれ単体で採用すればよい。ケイ素などを負極活物質に採用すると、ケイ素1原子が複数のリチウムと反応するため、高容量の活物質となるが、リチウムの吸蔵及び放出に伴う体積の膨張及び収縮が顕著となるとサイクル特性低下の恐れがあるため、当該恐れの軽減のために、ケイ素などの単体に遷移金属などの他の元素を組み合わせた合金又は化合物を負極活物質として採用するのも好適である。合金又は化合物の具体例としては、Ag−Sn合金、Cu−Sn合金、Co−Sn合金等の錫系材料、各種黒鉛などの炭素系材料、ケイ素単体と二酸化ケイ素に不均化するSiO(0.3≦x≦1.6)などのケイ素系材料、ケイ素単体若しくはケイ素系材料と炭素系材料を組み合わせた複合体が挙げられる。また、負極活物質して、Nb、TiO、LiTi12、WO、MoO、Fe等の酸化物、又は、Li3−xN(M=Co、Ni、Cu)で表される窒化物を採用しても良い。負極活物質として、これらのものの一種以上を使用することができる。
【0059】
負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた負極活物質層を有する。負極の集電体は、例えば、上記の本発明の電極活物質材料を用いた電極の集電体と同様の集電体を用いることができる。負極活物質層は負極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。結着剤及び導電助剤は、上記で説明した本発明の電極活物質材料とともに用いられる結着剤及び導電助剤と同様のものを用いることができる。
【0060】
電解質としては、非水系電解液を用いることがよい。非水系電解液として、公知のエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの非水系溶媒に過塩素酸リチウム、LiPF、LiBF、LiCFSOなどのリチウム塩を0.5mol/Lから1.7mol/Lの濃度で溶解させた溶液を使用し、さらにその他の公知の電池構成要素を使用するとよい。
【0061】
また、二次電池は、必要に応じてセパレータを用いる。セパレータは、正極と負極との間に介設される。セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンなどの金属イオンを通過させるものである。セパレータとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic Polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。電解液は粘度がやや高く極性が高いため、水などの極性溶媒が浸み込みやすい膜が好ましい。具体的には、存在する空隙の90%以上に水などの極性溶媒が浸み込む膜がさらに好ましい。
【0062】
正極および負極に必要に応じてセパレータを挟装させ電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体および負極の集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に電解液を加えて非水系二次電池とするとよい。また、本発明の二次電池は、電極に含まれる活物質の種類に適した電圧範囲で充放電を実行されればよい。
【0063】
本発明の二次電池の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
【0064】
本発明の二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部に二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、たとえば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両に二次電池を搭載する場合には、二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。二次電池は、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明の二次電池は、風量発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
【0065】
以上、電解液の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0066】
(試料1)
試料1は、以下に示す水熱法により製造された電極活物質材料である。
原料としてのLiOH(リチウム源)、SiO(ケイ酸化合物)及びCoCl(コバルト源)からなる原料を、ビーカー中の蒸留水に溶解させて、反応溶液とした。反応溶液中での各原料の濃度は、LiOH:1.00モル/L、SiO:0.25モル/L、CoCl:0.25モル/Lである。反応溶液のpHは、13.5であった。反応溶液の入ったビーカーから反応溶液を密閉容器に入れ、反応溶液を撹拌しながら加熱して、水熱反応を行った。水熱反応の反応温度は150℃、密閉容器内の圧力は0.5MPa、反応時間は69時間とした。水熱反応により、反応溶液に固形物が析出した。加熱後の反応溶液を濾過して、反応溶液中の固形物を濾別した。濾別された固形の合成物を、100℃で乾燥させた。
【0067】
得られた合成物について、粉末X線回折装置(Rigaku社製、商品名SmartLab)を用いて、X線回折測定を行った。X線回折測定のために、合成物にCuKα線(波長:1.54Å)を照射して、合成物により回折された回折線を解析した。X線回折測定の結果を図1に示した。図1に示すように、合成物は、α相及びβ相のLiCoSiOであることが分かった。また、不純物がわずかに存在していた。不純物は、LiSiOであり、水熱合成反応の際に生成した副生成物であると考えられる。
【0068】
得られた合成物について走査型電子顕微鏡(SEM、HITACHI製、商品名S-4800)写真を撮影した。この写真を図2に示した。図2に示すように、平均粒子径50nm、粒子サイズが20〜50nmの一次粒子が存在し、その多くは、緩やかに又は強く凝集して二次粒子を形成していた。二次粒子の平均粒子径は、50〜100nmであった。なお、平均粒子径は、リチウムコバルトシリケート系化合物の長寸方向と短寸方向の平均の寸法を意味し、走査型電子顕微鏡(SEM)で測定される。一次粒子の粒子サイズは、リチウムコバルトシリケート系化合物の1つの粒子の長寸方向と短寸方向の平均の寸法を意味し、SEMあるいはTEMで測定される。
【0069】
(試料2)
試料2は、以下に示す溶融塩法により製造された電極活物質材料である。
塩化リチウムLiCl(純度99.0%,キシダ化学製),塩化カリウムKCl(純度99.5%,キシダ化学製)を所定量秤量し混合した後,400℃、N雰囲気で1時間溶解し、粉砕して、混合塩化物(Li0.5850.415)Clを調製した。この混合塩化物と、塩化コバルト(CoCl・6HO、キシダ化学株式会社製、純度99%)0.01モルと、炭酸リチウム(LiCO3、キシダ化学製、純度99%))0.01モル、珪酸リチウム(LiSiO、キシダ化学製、純度99%)0.01モルとを用いた。これらを、混合塩化物100質量部に対して、塩化コバルトと炭酸リチウムと珪酸リチウムの合計量を330質量部の割合となるよう、水5mlを加えて乳鉢で混合し、115℃で乾燥した。乾燥後の混合粉末を金坩堝中で加熱して、Ar流量(Ar:100mL/分)雰囲気下で、650℃に加熱して、混合塩化物を溶融させた状態で12時間反応させた。
【0070】
反応後、反応系である炉心全体(金坩堝含む)を電気炉から取り出して、混合ガスを通じたまま室温まで急冷した。次いで、固化した反応物に水(20mL)を加えて、乳棒および乳鉢を用いて擦り潰した。こうして得られた粉体から塩等を取り除くために、粉体を水に溶解させてから濾過して、粉体を得た。
【0071】
得られた粉体について、試料1と同様に、X線回折測定を行った。測定結果を図1に示した。図1に示すように、合成物は、α相及びβ相のLiCoSiOであることが分かった。不純物は存在していなかった。
【0072】
得られた粉体について走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影した。この写真を図3に示した。図3に示すように、平均粒子径5μm程度の粒子が存在していた。粒子の大きさは、それぞれの粒子によって、ばらつきが大きかった。
【0073】
(試料3)
試料3は、以下に示す固相反応法により製造された電極活物質材料である。
LiO:0.01モル,CoO:0.01モル,及びSiO:0.01モルを混合して混合原料を得た。混合原料をアルミナ製坩堝に入れて、750℃に加熱したマッフル炉内で、アルゴンと水素の混合気体(Ar:99体積%とH:1体積%)の中で12時間加熱し、焼成を行った。その後、マッフル炉内で室温まで徐冷した。冷却後の粉末は、乳鉢と乳棒を用いて粉砕した。
【0074】
粉砕した粉末について、試料1と同様に、X線回折測定を行った。測定結果を図1に示した。図1に示すように、合成物は、α相及びβ相のLiCoSiOであることが分かった。また、不純物が存在していた。不純物は、LiSiOであると考えられる。
【0075】
粉砕した粉末について走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影した。この写真を図4に示した。図4に示すように、平均粒子径100nm程度の一次粒子が凝集して、平均粒子径3μm程度の二次粒子を形成していた。
【0076】
<充放電試験1>
試料1〜3を正極活物質として用いて、リチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。
【0077】
リチウム二次電池を作製するために、試料1〜3の正極活物質、アセチレンブラック(AB)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を、正極活物質:AB:PTFE=6:1.65:0.35の質量(mg)で混合して混合物とした。混合物を混練した後にシート状にして、アルミニウム製の集電体に圧着して電極を製作し、140℃で3時間真空乾燥したものを正極として用いた。その後、エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DEC)=1:1(体積比)にLiPFを溶解して1mol/Lとした溶液を電解液として用い、セパレータとしてガラスフィルター及びポリプロピレン膜(セルガード製、Celgard2400)、負極としてリチウム金属箔を用いたリチウム二次電池を試作した。
【0078】
このリチウム二次電池について、30℃にて充放電試験を行った。充放電試験は、充電と放電を1回ずつ行った。充電条件は、電圧4.5−4.6V(試料1,3は4.5V,試料2は4.6V)、電流値0.01mA/cm、CC−CV(一定電流一定電圧)、10時間とした。放電条件は、電圧3V、電流値0.01mA/cm、一定電流とした。充放電試験の結果を図5及び表1に示した。
【0079】
【表1】
【0080】
図5及び表1に示すように、試料1(水熱法合成品)は、試料2(溶融塩法合成品)及び試料3(固相反応法合成品)よりも、高い初期放電容量を示した。試料1の放電平均電圧は3.9Vと高く、エネルギー密度も高かった。このことから、水熱法合成品は、溶融塩法合成品及び固相反応法合成品よりも電池特性が優れていることがわかった。
【0081】
水熱法合成品の初期放電容量が高い理由は、水熱法合成品の平均粒子径が最も小さいため、粒子全体が反応に寄与できるためであると考えられる。
【0082】
(試料4)
試料4は、反応温度を110℃としたことを除いて、試料1と同様の水熱法により合成した。合成品のX線回折測定を試料1と同様に行い、その結果を図6に示した。図6に示すように、合成物は、α相及びβ相のLiCoSiOであることが分かった。また、不純物がわずかに存在していた。不純物は、試料1と同様の成分であると考えられる。
【0083】
得られた合成物について走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影した。この写真を図7に示した。図7及び表2に示すように、粒子サイズ20〜40nmであり、平均粒子径は30nmであった。
【0084】
(試料5)
試料5は、反応温度を130℃としたことを除いて、試料1と同様の水熱法により合成した。合成品のX線回折測定を試料1と同様に行い、その結果を図6に示した。図6に示すように、合成物は、α相及びβ相のLiCoSiOであることが分かった。また、不純物がわずかに存在していた。不純物は、LiCOであると考えられる。
【0085】
得られた合成物について走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影した。この写真を図7に示した。図7及び表2に示すように、粒子サイズ20〜50nmであり、平均粒子径は35nmであった。
【0086】
(試料6)
試料6は、反応温度を190℃としたことを除いて、試料1と同様の水熱法により合成した。合成品のX線回折測定を試料1と同様に行い、その結果を図6に示した。図6に示すように、合成物は、α相及びβ相のLiCoSiOであることが分かった。また、試料1と同様の不純物がわずかに存在していた。
【0087】
得られた合成物について走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影した。この写真を図7に示した。図7及び表2に示すように、粒子サイズ30〜100nmであり、平均粒子径は60nmであった。
【0088】
図6に示すように、水熱反応の反応温度が高いほど、LiCoSiO由来のピークの強度が高くなっている。このことから、反応温度が高くなるほど、結晶性が上がっていることがわかった。図7及び表2に示すように、反応温度が高くなるほど、粒子の粒径が大きくなっていた。
【0089】
【表2】
【0090】
試料1,4〜6について不純物を検出した。不純物は、合成反応で生成する副生成物(LiSOなど)である。不純物は、電池反応に関与しないため、合成物の電池容量を低下させる要因となる。このため、不純物の生成を抑えることがよい。
【0091】
そこで、次の試料7〜10において、水熱反応の際に、反応溶液にNaOHを添加することで、不純物生成の抑制を試みた。
【0092】
(試料7)
試料7は、反応溶液中にNaOHを添加して、水熱反応を行った点が、試料1と相違する。NaOHの添加量は、水酸化リチウムLiOH1モルに対して、1モルとした(NaOH/LiOH(R)=1(モル比))。反応溶液のpHは、13.8であった。反応条件は、反応温度150℃、反応時間69時間とした。その他は、試料1と同様に水熱法を行った。
【0093】
得られた合成物について、試料1と同様にX線回折スペクトル測定及びSEM写真撮影を行い、X線回折スペクトルを図8に示し、SEM写真は図9に示した。X線回折スペクトルから、合成物は、LiCoSiOであることがわかった。不純物は検出されなかった。表3に示すように、LiCoSiOの平均粒子径は35nmであり、粒子サイズは20〜50nmであった。
【0094】
反応時間を69時間よりも短くして反応を行ったところ、X線回折スペクトルのLiCoSiOで由来のピーク強度がブロードになった。このことから、反応時間が短いと、LiCoSiO粒子の結晶性が低下することがわかった。LiCoSiOの平均粒子径は約35nmであり、粒子サイズは20〜50nmであった。
【0095】
(試料8)
試料8は、反応溶液へのNaOH添加量を、LiOH1モルに対して、5モルとした(NaOH/LiOH(R)=5(モル比))点を除いて試料7と同様である。反応溶液のpHは、14であった。得られた合成物についてX線回折スペクトル測定及びSEM写真撮影を行い、X線回折スペクトルを図8に示し、SEM写真は図9に示した。X線回折スペクトルから、合成物は、LiCoSiOであることがわかった。不純物としてのLiCOが検出された。表3に示すように、LiCoSiOの平均粒子径は65nmであり、粒子サイズは20〜100nmであった。
【0096】
【表3】
【0097】
図8図9,表3に示すように、反応溶液にNaOHを添加していない試料1、反応溶液にNaOHを添加した試料7,8を比較すると、試料7は、不純物が存在しなかったが、試料1,8は不純物が存在した。試料1,7は、試料8に比べて、平均粒子径が小さかった。試料7は、NaOH/LiOH=1(モル比)であり、不純物生成を抑制できた。これは、NaOHはLiOHよりもアルカリ性が高い。NaOHを添加していない試料1の反応溶液のpHは、13.5であり、NaOH/LiOH=1(モル比)のNaOHを添加した試料7の反応溶液のpHは13.8であり、NaOH/LiOH=5(モル比)のNaOHを添加した試料7の反応溶液のpHは14である。試料7,8では、反応溶液が強アルカリ性のため、原料のSiOを溶かし、LiCoSiOの合成反応を促進したためであると推測される。試料8では、反応溶液のアルカリ性が強く、LiCoSiOの形成反応が試料7よりも促進されたが、LiCoSiOの一部が分解してその分解物が不純物として検出されたと推測される。
【0098】
(試料9)
試料9は、水熱法で製造した試料1のシリケート粒子の表面を、導電性材料により被覆する被覆工程を行った。被覆工程では、以下に説明する気相法を行った。
【0099】
図10の上段(a)に示すロータリーキルン1(高砂工業株式会社製)を準備した。ロータリーキルン1は、電気炉2と、電気炉2の中に配置された石英管3とを有する。石英管3の内部には、試料1のシリケート粒子が充填され、上流側から下流側に向けてブタンガスが流通される。石英管3は、回転速度50rpmで回転されながら、電気炉2で加熱される。
【0100】
石英管3の中をブタンガス雰囲気にしたまま、常温から550℃まで昇温速度22℃/分で上昇させる。550℃に到達したところで、5分間550℃で保持し、その後冷却させる。ブタンガスの流量は、50mL/分である。冷却速度は約−10℃/分である。電気炉2によって石英管3の中の雰囲気が加熱されて、雰囲気中のブタンが以下に示す反応式(A)に示すように炭化されて、シリケート粒子の表面を被覆すると考えられる。
10 → 4C + 5H・・・・(A)
【0101】
被覆工程を行っていない試料1のシリケート粉末は、青色であった。試料1に被覆工程を行って得られた試料9のシリケート粒子は、黒色であった。この黒色は、シリケート粒子の表面を被覆する炭素材料の色である。
【0102】
図11には、試料1,9のX線回折スペクトルを示した。図11に示すように、被覆工程を行っていない試料1では、Co由来ピークが観察されなかったが、試料1に被覆工程を行って得られた試料9ではCo由来のピークが観察された。被覆工程を行うことで、コバルト(Co)が析出することがわかった。
【0103】
図12の上段及び下段は、いずれも試料9の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、上段は試料9の表面像を示し、下段は試料9の断面像を示す。図12の上段に示すようにシリケート粒子は、若干の隙間を保持しつつ凝集して二次粒子を形成していた。一次粒子の平均粒子径は35nmであった。リケート粒子の表面は、チューブないし繊維状の炭素材料(カーボンチューブ)により被覆されていた。試料9のカーボンチューブの平均直径は20nmであった。図11の下段に示すように、チューブないし繊維状の炭素材料(カーボンチューブ)は、シリケート粒子に接していた。シリケート粒子が凝集して形成された二次粒子については、二次粒子の表面にカーボンチューブが接していた。二次粒子を形成していないシリケート粒子については、各シリケート粒子表面にカーボンチューブが接していた。
【0104】
試料1,9のシリケート粒子についてラマン分光装置(ナノフォトン株式会社製、商品名RAMAN-11)を用いてラマン散乱分光スペクトルを測定した。図13は、試料1,9のシリケート粒子についてラマン散乱分光スペクトルを示す。
【0105】
図13に示すように、試料1では、炭素由来のDバンド(波数1337cm−1)とGバンド(波数1587cm−1)が観察された。被覆処理を行っていない試料1では、Dバンド及びGバンドは見られなかった。Gバンドは、炭素の六員環の振動に由来するピークであり、Dバンドは、炭素の欠陥や未結合手に由来するピークである。試料9では、炭素の六員環が存在する。試料9のシリケート粒子を被覆する炭素材料は、六員環をもつ黒鉛自体又は黒鉛に似た構造をもっている。黒鉛は導電性が高いため、試料9の粒子を被覆する炭素材料は、導電性が高い。
【0106】
試料9では、カーボンチューブの壁は、炭素の六員環構造で形成されている。被覆工程では、析出したCoが触媒として機能して、カーボンチューブの形成反応を促進させたものと考えられる。
【0107】
(試料10)
試料10は、平均粒子径約500nmのシリケート粒子からなる。この試料は、試料2を粉砕することにより得たものである。
【0108】
上記の試料1,2,9,10を正極活物質として用いて、上記<充放電試験1>と同様にリチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。その結果を図14に示した。図14の粒子サイズは平均粒子径を意味する。表4には、試料1,9の電池特性を示した。
【0109】
【表4】
【0110】
図14及び表4に示すように、被覆工程を行った試料2,9,10のリチウム二次電池は、被覆工程を行っていない試料1のリチウム二次電池よりも放電容量が大きかった。炭素材料によりシリケート粒子表面を被覆することで放電容量が増加することがわかった。また、試料9,1,10,2の初期放電容量は、順に、72mAh/g、53mAh/g、37mAh/g,13mAh/g(1の位で四捨五入した値)であった。試料2,9,10の充放電曲線より、平均粒子径が小さいほど放電容量が増加することがわかった。
【0111】
(試料11)
試料11は、試料1のシリケート粒子に、以下に示すように、固相法で炭素材料を被覆し、熱処理を行った。まず、炭素材料としてのアセチレンブラック(AB)を、シリケート粒子:アセチレンブラック(AB)=5:4(質量比)となるように添加し、ミリングを行った。ミリングの条件は、フリッチュジャパン株式会社製、型番P−7のミリング装置を用いた。処理条件は、大気中雰囲気、回転数500rpm、2時間とした。
【0112】
ミリング後に、シリケート粒子とABとの混合物に熱処理を行った。熱処理の条件は、CO:97体積%+O:3体積%の混合ガス雰囲気、600℃、2時間とした。得られた試料11についてX線回折スペクトルを測定し、図15に示した。図15に示すように、試料11のシリケート粒子粉末は、磁石を近づけると、磁石に付着した。試料11は、析出したCoの磁気特性により、磁性をもっている。
【0113】
(試料12)
試料12は、熱処理の温度を500℃とした他は、試料11と同様である。試料12のシリケート粒子粉末に磁石を近づけても付着しなかった。試料12では、Coは析出しなかった。
【0114】
(試料13)
試料13は、熱処理の条件を、CO:100体積%のガス雰囲気、500℃、2時間とした他は、試料11と同様である。試料13のシリケート粒子粉末を磁石に近づけると、磁石に付着した。試料13は、析出したCoの磁気特性により、磁性をもっている。
【0115】
(試料14)
試料14は、試料1のシリケート粒子に、熱処理を行わず、固相法のみを行った。固相法は、試料11と同条件で行った。
【0116】
(試料15)
試料15は、試料1のシリケート粒子にアセチレンブラックを添加し、手で混合した。混合後に、シリケート粒子とアセチレンブラックの混合物に熱処理を行った。熱処理の条件は、CO:100体積%のガス雰囲気、500℃、2時間とした。
【0117】
図15は、試料1,11〜15のX線回折スペクトルを示す。図15に示すように、固相法でシリケート粒子とアセチレンブラックとをミリングにより混合した試料14よりも、混合後に熱処理を行った試料11〜13の方が、スペクトルのピークがシャープになっており、結晶性が高いことがわかった。
【0118】
試料11,13は、磁石に付着したが、試料14は磁石に付着しなかった。試料11,13の結果から、LiCoSiOは還元雰囲気で分解されて、結晶構造内の磁性をもつコバルトが結晶構造の外に単体で析出しやすいことがわかった。試料12,13の比較により、熱処理では、CO+Oの混合雰囲気の方が、CO雰囲気よりも、シリケート粒子の分解が抑制された。
【0119】
<充放電試験2>
試料9,12を正極活物質として、上記<充放電試験1>と同様に、リチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。その結果、図16及び表5に示すように、試料9が、試料12よりも、初期放電容量及びエネルギー密度が高かった。このことは、被覆工程を気相法で行った正極活物質は、ミリングで行った正極活物質よりも、電池特性がよいことがわかった。
【0120】
【表5】
【0121】
(試料16)
試料16は、以下に示す被覆工程を溶液法で行った点が、試料9と相違する。
【0122】
試料1のシリケート粒子と炭素源としてのグルコースとを蒸留水に溶解させ、グルコースが溶解するまで撹拌した。水溶液中でのシリケート粒子とグルコースの混合比は、シリケート粒子:グルコース=1:1(質量比)であった。この混合溶液を100℃にて乾燥し、水分を蒸発させた。得られた粉末に対して熱処理を行った。熱処理の条件は、CO:97体積%+O:3体積%の混合ガス雰囲気、600℃、2時間とした。得られた試料16についてX線回折スペクトルを測定し、図17に示した。試料16は、Coが析出した。試料16は、磁石に付着した。
【0123】
(試料17)
試料17は、熱処理の温度を500℃にした点の他は、試料16と同様に製造した。試料17は、Coは析出せず、磁石に付着しなかった。
【0124】
図17は、試料1,16,17のX線回折スペクトルを示す。図17に示すように、Coが析出した。試料16は磁石に付着したのは、シリケート粒子のLiCoSiOが一部分解して、Co単体が析出したためである。磁石に付着しなかった試料17は、Co単体が析出していない。
【0125】
<充放電試験3>
試料9,17を正極活物質として、上記<充放電試験1>と同様に、リチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。その結果、図18及び表6に示すように、試料9は、試料17よりも、初期放電容量及びエネルギー密度が高かった。このことは、被覆工程を気相法で行った正極活物質は、溶液法で行った正極活物質よりも、電池特性がよいことがわかった。
【0126】
【表6】
【0127】
図19は、試料9,17のラマン散乱分光スペクトルを示す。図19に示すように、試料9,17では、いずれも炭素由来のDバンド(波数1337cm−1)とGバンド(波数1587cm−1)が観察された。気相法で被覆工程を行った試料9は、溶液法で被覆工程を行った試料19よりも、Dバンド及びGバンドのピーク強度が高かった。気相法で被覆処理を行って作製した試料9では、シリケート粒子を被覆する炭素材料が、六員環をもつ黒鉛自体又は黒鉛に似た構造を多くもち、導電性が高くなることがわかった。
【0128】
(試料18)
試料18は、気相法で行う処理温度を530℃とした点を除いて、試料9と同様である。即ち、試料18では、気相法で用いるロータリーキルンの石英管の中の最高温度を530℃とした。530℃での保持時間は5分間であった。
【0129】
(試料19)
試料19は、気相法で行う処理温度を590℃とした点を除いて、試料9と同様である。
【0130】
(試料20)
試料20は、気相法で行う処理温度を600℃とした点を除いて、試料9と同様である。
【0131】
(試料21)
試料21は、気相法で行う処理温度を620℃とした点を除いて、試料9と同様である。
【0132】
(試料22)
試料22は、気相法で行う処理温度を450℃とした点を除いて、試料9と同様である。
【0133】
(試料23)
試料23は、気相法で行う処理温度を540℃とした点を除いて、試料9と同様である。
【0134】
(試料24)
試料24は、気相法で行う処理温度を700℃とした点を除いて、試料9と同様である。
【0135】
<充放電試験4>
試料9,18〜21を正極活物質として、以下に示すように、リチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。リチウム二次電池は、試料9,18〜21をそれぞれ正極活物質として用いて、上記<充放電試験1>と同様に作製した。
【0136】
このリチウム二次電池について、30℃にて充放電試験を行った。充放電試験は、充電と放電を1回ずつ行った。試験条件は、初回充電電圧4.5Vで10時間保持後、カットオフ電位3.0−4.5V(vs.Li/Li)で放電及び充電を繰り返した。充放電試験の結果を図20に示した。また、各試料のエネルギー密度について表7に示した。
【0137】
【表7】
【0138】
試料9,19,20,21は、試料18よりも初回放電容量及びエネルギー密度が著しく高かった。試料21は、試料9,19,20よりも若干エネルギー密度が低かった。
【0139】
試料1,9,18〜24のX線回折スペクトルを測定し、図21に示した。図21に示すように、処理温度が540℃以上の場合(試料9,19〜21,23,24)、Co由来のピークが検出された。処理温度が700℃の場合(試料24)には、不純物としてLi2SiO由来のピークが検出された。
【0140】
試料18,9,19,20,21の走査型電子顕微鏡(SEM)の表面像を、図22に示した。試料18は、炭素材料が粒子状を呈していた。試料9,19,20,21は、炭素材料がチューブ状ないし繊維状を呈しており、カーボンチューブが形成されていた。
【0141】
試料9のシリケート粒子(一次粒子)の平均粒子径は35nmであり、カーボンチューブの平均直径は20nmであり、平均長さは1μmであった。試料19のシリケート粒子(一次粒子)の平均粒子径は35nmであり、カーボンチューブの平均直径は20nmであり、平均長さは3μmであった。試料20のシリケート粒子(一次粒子)の平均粒子径は35nmであり、カーボンチューブの平均直径は20nmであり、平均長さは4μmであった。試料21のシリケート粒子(一次粒子)の平均粒子径は35nmであり、カーボンチューブの平均直径は20nmであり、平均長さは5μmであった。
【0142】
このことから、処理温度が530〜540℃の場合には、シリケート粒子は分解しないが、処理温度が540〜620℃の場合にはシリケート粒子は部分的に分解し、処理温度が700℃以上の場合にはシリケート粒子は完全に分解することがわかった。シリケート粒子が部分的に分解することで、シリケート粒子からコバルトが析出し、析出したコバルトが触媒として働き、ブタンガスを熱分解して炭化させ、粒子表面にカーボンチューブを形成させると考えられる。炭素材料が粒子状である試料18についても、処理時間を5分よりも長くした場合、カーボンチューブが成長する可能性がある。カーボンチューブは、炭素が六員環をなして黒鉛ライクの構造をもつことから、導電性が高い。このため、図20に示すように、試料9,19〜21の初回放電容量及びエネルギー密度が高くなったと考えられる。
【0143】
試料9,18〜21のシリケート粒子のラマン散乱回折スペクトルを測定し、その結果を図23に示した。スペクトルに現れたDバンド及びGバンドの中心波数及び、Dバンドに対するGバンドのピーク強度比(IG/D)、Dバンドに対するGバンドのピーク幅比(WG/D)について表8に示した。
【0144】
図23に示すように、試料18のスペクトルは、ブロードになり、結晶性の低い構造であることがわかった。試料9,19〜21は、G、Dバンドが明確に観察された。表8に示すように、試料9,19〜21は、0.5≦IG/D≦1.0であり、且つ、0.8≦WG/D≦1.1の関係をもっていた。一方、試料18は、ピーク強度比IG/D=1.0であったが、ピーク幅比WG/Dは1.2であった。なお、試料18のDバンド及びGバンドは、スペクトルの相対強度が低いため、Dバンド及びGバンドの周辺のピークの影響を受けて、中心波数が若干ずれた。
【0145】
図22に示すように、試料9,19〜21は、炭素材料がカーボンチューブを形成しており、カーボンチューブは六員環構造を有していることがわかった。試料18は粒子状を呈しており、結晶性が低く、六員環構造が少ないことがわかった。
【0146】
【表8】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23