【実施例】
【0066】
(試料1)
試料1は、以下に示す水熱法により製造された電極活物質材料である。
原料としてのLiOH(リチウム源)、SiO
2(ケイ酸化合物)
、及びCoCl
2(コバルト源)からなる原料を、ビーカー中の蒸留水に溶解させて、反応溶液とした。反応溶液中での各原料の濃度は、LiOH:1.00モル/L、SiO
2:0.25モル/L、CoCl
2:0.25モル/Lである。反応溶液のpHは、13.5であった。反応溶液の入ったビーカーから反応溶液を密閉容器に入れ、反応溶液を撹拌しながら加熱して、水熱反応を行った。水熱反応の反応温度は150℃、密閉容器内の圧力は0.5MPa、反応時間は69時間とした。水熱反応により、反応溶液に固形物が析出した。加熱後の反応溶液を濾過して、反応溶液中の固形物を濾別した。濾別された固形の合成物を、100℃で乾燥させた。
【0067】
得られた合成物について、粉末X線回折装置(Rigaku社製、商品名SmartLab)を用いて、X線回折測定を行った。X線回折測定のために、合成物にCuKα線(波長:1.54Å)を照射して、合成物により回折された回折線を解析した。X線回折測定の結果を
図1に示した。
図1に示すように、合成物は、α相及びβ相のLi
2CoSiO
4であることが分かった。また、不純物がわずかに存在していた。不純物は、Li
2SiO
3であり、水熱合成反応の際に生成した副生成物であると考えられる。
【0068】
得られた合成物について走査型電子顕微鏡(SEM、HITACHI製、商品名S-4800)写真を撮影した。この写真を
図2に示した。
図2に示すように、平均粒子径50nm、粒子サイズが20〜50nmの一次粒子が存在し、その多くは、緩やかに又は強く凝集して二次粒子を形成していた。二次粒子の平均粒子径は、50〜100nmであった。なお、平均粒子径は、リチウムコバルトシリケート系化合物の長寸方向と短寸方向の平均の寸法を意味し、走査型電子顕微鏡(SEM)で測定される。一次粒子の粒子サイズは、リチウムコバルトシリケート系化合物の1つの粒子の長寸方向と短寸方向の平均の寸法を意味し、SEMあるいはTEMで測定される。
【0069】
(試料2)
試料2は、以下に示す溶融塩法により製造された電極活物質材料である。
塩化リチウムLiCl(純度99.0%,キシダ化学製),塩化カリウムKCl(純度99.5%,キシダ化学製)を所定量秤量し混合した後,400℃、N
2雰囲気で1時間溶解し、粉砕して、混合塩化物(Li
0.585K
0.415)Clを調製した。この混合塩化物と、塩化コバルト(CoCl
2・6H
2O、キシダ化学株式会社製、純度99%)0.01モルと、炭酸リチウム(Li
2CO
3、キシダ化学製、純度99%))0.01モル、珪酸リチウム(Li
2SiO
3、キシダ化学製、純度99%)0.01モルとを用いた。これらを、混合塩化物100質量部に対して、塩化コバルトと炭酸リチウムと珪酸リチウムの合計量を330質量部の割合となるよう、水5mlを加えて乳鉢で混合し、115℃で乾燥した。乾燥後の混合粉末を金坩堝中で加熱して、Ar流量(Ar:100mL/分)雰囲気下で、650℃に加熱して、混合塩化物を溶融させた状態で12時間反応させた。
【0070】
反応後、反応系である炉心全体(金坩堝含む)を電気炉から取り出して、混合ガスを通じたまま室温まで急冷した。次いで、固化した反応物に水(20mL)を加えて、乳棒および乳鉢を用いて擦り潰した。こうして得られた粉体から塩等を取り除くために、粉体を水に溶解させてから濾過して、粉体を得た。
【0071】
得られた粉体について、試料1と同様に、X線回折測定を行った。測定結果を
図1に示した。
図1に示すように、合成物は、α相及びβ相のLi
2CoSiO
4であることが分かった。不純物は存在していなかった。
【0072】
得られた粉体について走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影した。この写真を
図3に示した。
図3に示すように、平均粒子径5μm程度の粒子が存在していた。粒子の大きさは、それぞれの粒子によって、ばらつきが大きかった。
【0073】
(試料3)
試料3は、以下に示す固相反応法により製造された電極活物質材料である。
Li
2O:0.01モル,CoO:0.01モル,及びSiO
2:0.01モルを混合して混合原料を得た。混合原料をアルミナ製坩堝に入れて、750℃に加熱したマッフル炉内で、アルゴンと水素の混合気体(Ar:99体積%とH
2:1体積%)の中で12時間加熱し、焼成を行った。その後、マッフル炉内で室温まで徐冷した。冷却後の粉末は、乳鉢と乳棒を用いて粉砕した。
【0074】
粉砕した粉末について、試料1と同様に、X線回折測定を行った。測定結果を
図1に示した。
図1に示すように、合成物は、α相及びβ相のLi
2CoSiO
4であることが分かった。また、不純物が存在していた。不純物は、Li
2SiO
3であると考えられる。
【0075】
粉砕した粉末について走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影した。この写真を
図4に示した。
図4に示すように、平均粒子径100nm程度の一次粒子が凝集して、平均粒子径3μm程度の二次粒子を形成していた。
【0076】
<充放電試験1>
試料1〜3を正極活物質として用いて、リチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。
【0077】
リチウム二次電池を作製するために、試料1〜3の正極活物質、アセチレンブラック(AB)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を、正極活物質:AB:PTFE=6:1.65:0.35の質量(mg)で混合して混合物とした。混合物を混練した後にシート状にして、アルミニウム製の集電体に圧着して電極を製作し、140℃で3時間真空乾燥したものを正極として用いた。その後、エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DEC)=1:1(体積比)にLiPF
6を溶解して1mol/Lとした溶液を電解液として用い、セパレータとしてガラスフィルター及びポリプロピレン膜(セルガード製、Celgard2400)、負極としてリチウム金属箔を用いたリチウム二次電池を試作した。
【0078】
このリチウム二次電池について、30℃にて充放電試験を行った。充放電試験は、充電と放電を1回ずつ行った。充電条件は、電圧4.5−4.6V(試料1,3は4.5V,試料2は4.6V)、電流値0.01mA/cm
2、CC−CV(一定電流一定電圧)、10時間とした。放電条件は、電圧3V、電流値0.01mA/cm
2、一定電流とした。充放電試験の結果を
図5及び表1に示した。
【0079】
【表1】
【0080】
図5及び表1に示すように、試料1(水熱法合成品)は、試料2(溶融塩法合成品)及び試料3(固相反応法合成品)よりも、高い初期放電容量を示した。試料1の放電平均電圧は3.9Vと高く、エネルギー密度も高かった。このことから、水熱法合成品は、溶融塩法合成品及び固相反応法合成品よりも電池特性が優れていることがわかった。
【0081】
水熱法合成品の初期放電容量が高い理由は、水熱法合成品の平均粒子径が最も小さいため、粒子全体が反応に寄与できるためであると考えられる。
【0082】
(試料4)
試料4は、反応温度を110℃としたことを除いて、試料1と同様の水熱法により合成した。合成品のX線回折測定を試料1と同様に行い、その結果を
図6に示した。
図6に示すように、合成物は、α相及びβ相のLi
2CoSiO
4であることが分かった。また、不純物がわずかに存在していた。不純物は、試料1と同様の成分であると考えられる。
【0083】
得られた合成物について走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影した。この写真を
図7に示した。
図7及び表2に示すように、粒子サイズ20〜40nmであり、平均粒子径は30nmであった。
【0084】
(試料5)
試料5は、反応温度を130℃としたことを除いて、試料1と同様の水熱法により合成した。合成品のX線回折測定を試料1と同様に行い、その結果を
図6に示した。
図6に示すように、合成物は、α相及びβ相のLi
2CoSiO
4であることが分かった。また、不純物がわずかに存在していた。不純物は、Li
2CO
3であると考えられる。
【0085】
得られた合成物について走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影した。この写真を
図7に示した。
図7及び表2に示すように、粒子サイズ20〜50nmであり、平均粒子径は35nmであった。
【0086】
(試料6)
試料6は、反応温度を190℃としたことを除いて、試料1と同様の水熱法により合成した。合成品のX線回折測定を試料1と同様に行い、その結果を
図6に示した。
図6に示すように、合成物は、α相及びβ相のLi
2CoSiO
4であることが分かった。また、試料1と同様の不純物がわずかに存在していた。
【0087】
得られた合成物について走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影した。この写真を
図7に示した。
図7及び表2に示すように、粒子サイズ30〜100nmであり、平均粒子径は60nmであった。
【0088】
図6に示すように、水熱反応の反応温度が高いほど、Li
2CoSiO
4由来のピークの強度が高くなっている。このことから、反応温度が高くなるほど、結晶性が上がっていることがわかった。
図7及び表2に示すように、反応温度が高くなるほど、粒子の粒径が大きくなっていた。
【0089】
【表2】
【0090】
試料1,4〜6について不純物を検出した。不純物は、合成反応で生成する副生成物(Li
2SO
3など)である。不純物は、電池反応に関与しないため、合成物の電池容量を低下させる要因となる。このため、不純物の生成を抑えることがよい。
【0091】
そこで、次の試料7〜10において、水熱反応の際に、反応溶液にNaOHを添加することで、不純物生成の抑制を試みた。
【0092】
(試料7)
試料7は、反応溶液中にNaOHを添加して、水熱反応を行った点が、試料1と相違する。NaOHの添加量は、水酸化リチウムLiOH1モルに対して、1モルとした(NaOH/LiOH(R)=1(モル比))。反応溶液のpHは、13.8であった。反応条件は、反応温度150℃、反応時間69時間とした。その他は、試料1と同様に水熱法を行った。
【0093】
得られた合成物について、試料1と同様にX線回折スペクトル測定及びSEM写真撮影を行い、X線回折スペクトルを
図8に示し、SEM写真は
図9に示した。X線回折スペクトルから、合成物は、Li
2CoSiO
4であることがわかった。不純物は検出されなかった。表3に示すように、Li
2CoSiO
4の平均粒子径は35nmであり、粒子サイズは20〜50nmであった。
【0094】
反応時間を69時間よりも短くして反応を行ったところ、X線回折スペクトルのLi
2CoSiO
4で由来のピーク強度がブロードになった。このことから、反応時間が短いと、Li
2CoSiO
4粒子の結晶性が低下することがわかった。Li
2CoSiO
4の平均粒子径は約35nmであり、粒子サイズは20〜50nmであった。
【0095】
(試料8)
試料8は、反応溶液へのNaOH添加量を、LiOH1モルに対して、5モルとした(NaOH/LiOH(R)=5(モル比))点を除いて試料7と同様である。反応溶液のpHは、14であった。得られた合成物についてX線回折スペクトル測定及びSEM写真撮影を行い、X線回折スペクトルを
図8に示し、SEM写真は
図9に示した。X線回折スペクトルから、合成物は、Li
2CoSiO
4であることがわかった。不純物としてのLi
2CO
3が検出された。表3に示すように、Li
2CoSiO
4の平均粒子径は65nmであり、粒子サイズは20〜100nmであった。
【0096】
【表3】
【0097】
図8,
図9,表3に示すように、反応溶液にNaOHを添加していない試料1、反応溶液にNaOHを添加した試料7,8を比較すると、試料7は、不純物が存在しなかったが、試料1,8は不純物が存在した。試料1,7は、試料8に比べて、平均粒子径が小さかった。試料7は、NaOH/LiOH=1(モル比)であり、不純物生成を抑制できた。これは、NaOHはLiOHよりもアルカリ性が高い。NaOHを添加していない試料1の反応溶液のpHは、13.5であり、NaOH/LiOH=1(モル比)のNaOHを添加した試料7の反応溶液のpHは13.8であり、NaOH/LiOH=5(モル比)のNaOHを添加した試料7の反応溶液のpHは14である。試料7,8では、反応溶液が強アルカリ性のため、原料のSiO
2を溶かし、Li
2CoSiO
4の合成反応を促進したためであると推測される。試料8では、反応溶液のアルカリ性が強く、Li
2CoSiO
4の形成反応が試料7よりも促進されたが、Li
2CoSiO
4の一部が分解してその分解物が不純物として検出されたと推測される。
【0098】
(試料9)
試料9は、水熱法で製造した試料1のシリケート粒子の表面を、導電性材料により被覆する被覆工程を行った。被覆工程では、以下に説明する気相法を行った。
【0099】
図10の上段(a)に示すロータリーキルン1(高砂工業株式会社製)を準備した。ロータリーキルン1は、電気炉2と、電気炉2の中に配置された石英管3とを有する。石英管3の内部には、試料1のシリケート粒子が充填され、上流側から下流側に向けてブタンガスが流通される。石英管3は、回転速度50rpmで回転されながら、電気炉2で加熱される。
【0100】
石英管3の中をブタンガス雰囲気にしたまま、常温から550℃まで昇温速度22℃/分で上昇させる。550℃に到達したところで、5分間550℃で保持し、その後冷却させる。ブタンガスの流量は、50mL/分である。冷却速度は約−10℃/分である。電気炉2によって石英管3の中の雰囲気が加熱されて、雰囲気中のブタンが以下に示す反応式(A)に示すように炭化されて、シリケート粒子の表面を被覆すると考えられる。
C
4H
10 → 4C + 5H
2・・・・(A)
【0101】
被覆工程を行っていない試料1のシリケート粉末は、青色であった。試料1に被覆工程を行って得られた試料9のシリケート粒子は、黒色であった。この黒色は、シリケート粒子の表面を被覆する炭素材料の色である。
【0102】
図11には、試料1,9のX線回折スペクトルを示した。
図11に示すように、被覆工程を行っていない試料1では、Co由来ピークが観察されなかったが、試料1に被覆工程を行って得られた試料9ではCo由来のピークが観察された。被覆工程を行うことで、コバルト(Co)が析出することがわかった。
【0103】
図12の上段及び下段は、いずれも試料9の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、上段は試料9の表面像を示し、下段は試料9の断面像を示す。
図12の上段に示すようにシリケート粒子は、若干の隙間を保持しつつ凝集して二次粒子を形成していた。一次粒子の平均粒子径は35nmであった。リケート粒子の表面は、チューブないし繊維状の炭素材料(カーボンチューブ)により被覆されていた。試料9のカーボンチューブの平均直径は20nmであった。
図11の下段に示すように、チューブないし繊維状の炭素材料(カーボンチューブ)は、シリケート粒子に接していた。シリケート粒子が凝集して形成された二次粒子については、二次粒子の表面にカーボンチューブが接していた。二次粒子を形成していないシリケート粒子については、各シリケート粒子表面にカーボンチューブが接していた。
【0104】
試料1,9のシリケート粒子についてラマン分光装置(ナノフォトン株式会社製、商品名RAMAN-11)を用いてラマン散乱分光スペクトルを測定した。
図13は、試料1,9のシリケート粒子についてラマン散乱分光スペクトルを示す。
【0105】
図13に示すように、試料1では、炭素由来のDバンド(波数1337cm
−1)とGバンド(波数1587cm
−1)が観察された。被覆処理を行っていない試料1では、Dバンド及びGバンドは見られなかった。Gバンドは、炭素の六員環の振動に由来するピークであり、Dバンドは、炭素の欠陥や未結合手に由来するピークである。試料9では、炭素の六員環が存在する。試料9のシリケート粒子を被覆する炭素材料は、六員環をもつ黒鉛自体又は黒鉛に似た構造をもっている。黒鉛は導電性が高いため、試料9の粒子を被覆する炭素材料は、導電性が高い。
【0106】
試料9では、カーボンチューブの壁は、炭素の六員環構造で形成されている。被覆工程では、析出したCoが触媒として機能して、カーボンチューブの形成反応を促進させたものと考えられる。
【0107】
(試料10)
試料10は、平均粒子径約500nmのシリケート粒子からなる。この試料は、試料2を粉砕することにより得たものである。
【0108】
上記の試料1,2,9,10を正極活物質として用いて、上記<充放電試験1>と同様にリチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。その結果を
図14に示した。
図14の粒子サイズは平均粒子径を意味する。表4には、試料1,9の電池特性を示した。
【0109】
【表4】
【0110】
図14及び表4に示すように、被覆工程を行った試料2,9,10のリチウム二次電池は、被覆工程を行っていない試料1のリチウム二次電池よりも放電容量が大きかった。炭素材料によりシリケート粒子表面を被覆することで放電容量が増加することがわかった。また、試料9,1,10,2の初期放電容量は、順に、72mAh/g、53mAh/g、37mAh/g,13mAh/g(1の位で四捨五入した値)であった。試料2,9,10の充放電曲線より、平均粒子径が小さいほど放電容量が増加することがわかった。
【0111】
(試料11)
試料11は、試料1のシリケート粒子に、以下に示すように、固相法で炭素材料を被覆し、熱処理を行った。まず、炭素材料としてのアセチレンブラック(AB)を、シリケート粒子:アセチレンブラック(AB)=5:4(質量比)となるように添加し、ミリングを行った。ミリングの条件は、フリッチュジャパン株式会社製、型番P−7のミリング装置を用いた。処理条件は、大気中雰囲気、回転数500rpm、2時間とした。
【0112】
ミリング後に、シリケート粒子とABとの混合物に熱処理を行った。熱処理の条件は、CO
2:97体積%+O
2:3体積%の混合ガス雰囲気、600℃、2時間とした。得られた試料11についてX線回折スペクトルを測定し、
図15に示した。
図15に示すように、試料11のシリケート粒子粉末は、磁石を近づけると、磁石に付着した。試料11は、析出したCoの磁気特性により、磁性をもっている。
【0113】
(試料12)
試料12は、熱処理の温度を500℃とした他は、試料11と同様である。試料12のシリケート粒子粉末に磁石を近づけても付着しなかった。試料12では、Coは析出しなかった。
【0114】
(試料13)
試料13は、熱処理の条件を、CO
2:100体積%のガス雰囲気、500℃、2時間とした他は、試料11と同様である。試料13のシリケート粒子粉末を磁石に近づけると、磁石に付着した。試料13は、析出したCoの磁気特性により、磁性をもっている。
【0115】
(試料14)
試料14は、試料1のシリケート粒子に、熱処理を行わず、固相法のみを行った。固相法は、試料11と同条件で行った。
【0116】
(試料15)
試料15は、試料1のシリケート粒子にアセチレンブラックを添加し、手で混合した。混合後に、シリケート粒子とアセチレンブラックの混合物に熱処理を行った。熱処理の条件は、CO
2:100体積%のガス雰囲気、500℃、2時間とした。
【0117】
図15は、試料1,11〜15のX線回折スペクトルを示す。
図15に示すように、固相法でシリケート粒子とアセチレンブラックとをミリングにより混合した試料14よりも、混合後に熱処理を行った試料11〜13の方が、スペクトルのピークがシャープになっており、結晶性が高いことがわかった。
【0118】
試料11,13は、磁石に付着したが、試料14は磁石に付着しなかった。試料11,13の結果から、Li
2CoSiO
4は還元雰囲気で分解されて、結晶構造内の磁性をもつコバルトが結晶構造の外に単体で析出しやすいことがわかった。試料12,13の比較により、熱処理では、CO
2+O
2の混合雰囲気の方が、CO
2雰囲気よりも、シリケート粒子の分解が抑制された。
【0119】
<充放電試験2>
試料9,12を正極活物質として、上記<充放電試験1>と同様に、リチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。その結果、
図16及び表5に示すように、試料9が、試料12よりも、初期放電容量及びエネルギー密度が高かった。このことは、被覆工程を気相法で行った正極活物質は、ミリングで行った正極活物質よりも、電池特性がよいことがわかった。
【0120】
【表5】
【0121】
(試料16)
試料16は、以下に示す被覆工程を溶液法で行った点が、試料9と相違する。
【0122】
試料1のシリケート粒子と炭素源としてのグルコースとを蒸留水に溶解させ、グルコースが溶解するまで撹拌した。水溶液中でのシリケート粒子とグルコースの混合比は、シリケート粒子:グルコース=1:1(質量比)であった。この混合溶液を100℃にて乾燥し、水分を蒸発させた。得られた粉末に対して熱処理を行った。熱処理の条件は、CO
2:97体積%+O
2:3体積%の混合ガス雰囲気、600℃、2時間とした。得られた試料16についてX線回折スペクトルを測定し、
図17に示した。試料16は、Coが析出した。試料16は、磁石に付着した。
【0123】
(試料17)
試料17は、熱処理の温度を500℃にした点の他は、試料16と同様に製造した。試料17は、Coは析出せず、磁石に付着しなかった。
【0124】
図17は、試料1,16,17のX線回折スペクトルを示す。
図17に示すように、Coが析出した。試料16は磁石に付着したのは、シリケート粒子のLi
2CoSiO
4が一部分解して、Co単体が析出したためである。磁石に付着しなかった試料17は、Co単体が析出していない。
【0125】
<充放電試験3>
試料9,17を正極活物質として、上記<充放電試験1>と同様に、リチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。その結果、
図18及び表6に示すように、試料9は、試料17よりも、初期放電容量及びエネルギー密度が高かった。このことは、被覆工程を気相法で行った正極活物質は、溶液法で行った正極活物質よりも、電池特性がよいことがわかった。
【0126】
【表6】
【0127】
図19は、試料9,17のラマン散乱分光スペクトルを示す。
図19に示すように、試料9,17では、いずれも炭素由来のDバンド(波数1337cm
−1)とGバンド(波数1587cm
−1)が観察された。気相法で被覆工程を行った試料9は、溶液法で被覆工程を行った試料19よりも、Dバンド及びGバンドのピーク強度が高かった。気相法で被覆処理を行って作製した試料9では、シリケート粒子を被覆する炭素材料が、六員環をもつ黒鉛自体又は黒鉛に似た構造を多くもち、導電性が高くなることがわかった。
【0128】
(試料18)
試料18は、気相法で行う処理温度を530℃とした点を除いて、試料9と同様である。即ち、試料18では、気相法で用いるロータリーキルンの石英管の中の最高温度を530℃とした。530℃での保持時間は5分間であった。
【0129】
(試料19)
試料19は、気相法で行う処理温度を590℃とした点を除いて、試料9と同様である。
【0130】
(試料20)
試料20は、気相法で行う処理温度を600℃とした点を除いて、試料9と同様である。
【0131】
(試料21)
試料21は、気相法で行う処理温度を620℃とした点を除いて、試料9と同様である。
【0132】
(試料22)
試料22は、気相法で行う処理温度を450℃とした点を除いて、試料9と同様である。
【0133】
(試料23)
試料23は、気相法で行う処理温度を540℃とした点を除いて、試料9と同様である。
【0134】
(試料24)
試料24は、気相法で行う処理温度を700℃とした点を除いて、試料9と同様である。
【0135】
<充放電試験4>
試料9,18〜21を正極活物質として、以下に示すように、リチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。リチウム二次電池は、試料9,18〜21をそれぞれ正極活物質として用いて、上記<充放電試験1>と同様に作製した。
【0136】
このリチウム二次電池について、30℃にて充放電試験を行った。充放電試験は、充電と放電を1回ずつ行った。試験条件は、初回充電電圧4.5Vで10時間保持後、カットオフ電位3.0−4.5V(vs.Li
+/Li)で放電及び充電を繰り返した。充放電試験の結果を
図20に示した。また、各試料のエネルギー密度について表7に示した。
【0137】
【表7】
【0138】
試料9,19,20,21は、試料18よりも初回放電容量及びエネルギー密度が著しく高かった。試料21は、試料9,19,20よりも若干エネルギー密度が低かった。
【0139】
試料1,9,18〜24のX線回折スペクトルを測定し、
図21に示した。
図21に示すように、処理温度が540℃以上の場合(試料9,19〜21,23,24)、Co由来のピークが検出された。処理温度が700℃の場合(試料24)には、不純物としてLi
2SiO
3由来のピークが検出された。
【0140】
試料18,9,19,20,21の走査型電子顕微鏡(SEM)の表面像を、
図22に示した。試料18は、炭素材料が粒子状を呈していた。試料9,19,20,21は、炭素材料がチューブ状ないし繊維状を呈しており、カーボンチューブが形成されていた。
【0141】
試料9のシリケート粒子(一次粒子)の平均粒子径は35nmであり、カーボンチューブの平均直径は20nmであり、平均長さは1μmであった。試料19のシリケート粒子(一次粒子)の平均粒子径は35nmであり、カーボンチューブの平均直径は20nmであり、平均長さは3μmであった。試料20のシリケート粒子(一次粒子)の平均粒子径は35nmであり、カーボンチューブの平均直径は20nmであり、平均長さは4μmであった。試料21のシリケート粒子(一次粒子)の平均粒子径は35nmであり、カーボンチューブの平均直径は20nmであり、平均長さは5μmであった。
【0142】
このことから、処理温度が530〜540℃の場合には、シリケート粒子は分解しないが、処理温度が540〜620℃の場合にはシリケート粒子は部分的に分解し、処理温度が700℃以上の場合にはシリケート粒子は完全に分解することがわかった。シリケート粒子が部分的に分解することで、シリケート粒子からコバルトが析出し、析出したコバルトが触媒として働き、ブタンガスを熱分解して炭化させ、粒子表面にカーボンチューブを形成させると考えられる。炭素材料が粒子状である試料18についても、処理時間を5分よりも長くした場合、カーボンチューブが成長する可能性がある。カーボンチューブは、炭素が六員環をなして黒鉛ライクの構造をもつことから、導電性が高い。このため、
図20に示すように、試料9,19〜21の初回放電容量及びエネルギー密度が高くなったと考えられる。
【0143】
試料9,18〜21のシリケート粒子のラマン散乱回折スペクトルを測定し、その結果を
図23に示した。スペクトルに現れたDバンド及びGバンドの中心波数及び、Dバンドに対するGバンドのピーク強度比(I
G/D)、Dバンドに対するGバンドのピーク幅比(W
G/D)について表8に示した。
【0144】
図23に示すように、試料18のスペクトルは、ブロードになり、結晶性の低い構造であることがわかった。試料9,19〜21は、G、Dバンドが明確に観察された。表8に示すように、試料9,19〜21は、0.5≦I
G/D≦1.0であり、且つ、0.8≦W
G/D≦1.1の関係をもっていた。一方、試料18は、ピーク強度比I
G/D=1.0であったが、ピーク幅比W
G/Dは1.2であった。なお、試料18のDバンド及びGバンドは、スペクトルの相対強度が低いため、Dバンド及びGバンドの周辺のピークの影響を受けて、中心波数が若干ずれた。
【0145】
図22に示すように、試料9,19〜21は、炭素材料がカーボンチューブを形成しており、カーボンチューブは六員環構造を有していることがわかった。試料18は粒子状を呈しており、結晶性が低く、六員環構造が少ないことがわかった。
【0146】
【表8】