(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
人体の大腿部及び小腿部の動きを脚の動きとして検出する加速度センサ、磁気センサ及びジャイロセンサのうちの少なくとも1種類であるセンサの出力を受け付けて人体の腰の部位に対する足先の相対速度を連続的に算出する歩行情報取得手段と、
前記足先の相対速度に基づいて遊脚期と立脚期との間の移行タイミングを判断する脚状態判断手段とを備えた脚相移行タイミング判定装置。
前記脚状態判断手段は、前記足先の相対速度及びその正負の極性に基づいて遊脚期と立脚期との間の移行タイミングを判断する請求項1に記載の脚相移行タイミング判定装置。
前記剛性制御手段は、前記可変剛性機構の剛性を高めるときは、前記足先の相対位置が前記腰の部位に比して前側にあると判定したことを条件とし、前記可変剛性機構の剛性を下げるときは、前記足先の相対位置が前記腰の部位に比して後ろ側にあると判定したことを条件とする請求項5〜7いずれかに記載の歩行支援装置。
前記センサは、前記大腿側リンクに取付けられ、前記大腿側リンクの鉛直面内の動きを検出するための第1の姿勢センサと、前記小腿側リンクに取付けられ、前記小腿側リンクの鉛直面内の動きを検出するための第2の姿勢センサとを含む請求項9に記載の歩行支援装置。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明に係る歩行支援装置における歩行支援装具の一実施形態を示す概略構造図である。なお、説明の便宜上、
図1では可変剛性機構4の部分は省略しているが、この可変剛性機構4の詳細は、
図2に示している。
【0021】
歩行支援装置は、
図1に示す歩行支援装具1と、
図2に示す可変剛性機構4とを備え、
図3に示す制御部5によって可変剛性機構4の動作が制御される。
【0022】
図1において、歩行支援装具1は、回動部材30を介して互いに一端側で揺動自在に連結された板状の上側リンク10と下側リンク20とを備えている。上側リンク10及び下側リンク20は、堅牢性を有する材料で制作され、人の大腿部P1及び小腿部P2の長さに対応する長さ寸法を有する。上側リンク10及び下側リンク20の長さ寸法は、本実施形態のように同一寸法(L)に制作されてもよいし、装着するユーザの体格等(例えばP1がL1で、P2がL2)に対応させて製作されたものでもよい。なお、P0はユーザの体幹の適所、本実施形態では腰の部位を指し、P3は足先の部位を指している。
【0023】
上側リンク10及び下側リンク20の各中間付近には、結束具の一例としての結束用ベルト101,201が取付けられている。結束用ベルト101,201は、大腿部P1及び小腿部P2に巻き付けることで上側リンク10及び下側リンク20を脚の外側面に締結し、固定するものである。結束作業は、回動部材30が膝の側部に位置するように位置合わせした状態で行われる。従って、歩行支援装具1の装着状態では、ユーザの大腿部P1及び小腿部P2の屈伸に合わせて上側リンク10及び下側リンク20が回動部材30を中心に揺動する。なお、結束具としてはベルト部材の他、バンドや面ファスナー、さらには機械的な締結部材も採用可能である。
【0024】
姿勢センサ11,21は、上側リンク10及び下側リンク20の適所、例えばそれらの長手方向の略中央位置に取付けられている。姿勢センサ11,21は、加速度センサ又はジャイロセンサが採用可能である。姿勢センサ11は、上側リンク10すなわち大腿部P1の鉛直方向に対する傾斜角q1を検出するものである。姿勢センサ21は、下側リンク20すなわち小腿部P2の鉛直方向に対する傾斜角q2を検出するものである。
【0025】
図2は、可変剛性機構4の構成及び動きを説明する説明図で、(a)は脚が地面から浮いている遊脚状態での図、(b)は脚が接地している立脚状態での説明図である。可変剛性機構4は、歩行支援装具1に搭載される。可変剛性機構4は、上側リンク10及び下側リンク20に取付けられている。本実施形態では、上側リンク10の側面に板状の取付部材41が立設され、この取付部材41に駆動源であるモータ42が固設されている。モータ42の出力軸には、所定長を有するボールネジ43が連結され、モータ42の駆動によってボールネジ43が正転、逆転するようにされている。モータ42は、ボールネジ43の軸方向が、回動部材30側に伸び、かつ好ましくは上側リンク10の長手方向と平行になるように取付部材41に取付けられている。
【0026】
ナット44は、後述するように移動可能な支点部材として機能するもので、雌ネジが形成された孔を有し、ボールネジ43に螺合されている。
図2(b)に示すように(説明の便宜上、
図2(a)では省略)、取付部材41にはボールネジ43と平行に回転規制用の棒状体47が立設されている。ナット44には棒状体47との間で回転動作のみを規制する係合用の孔又は切欠等が形成されている。従って、ナット44がボールネジ43に螺合された状態でモータ42が回転すると、ナット44は棒状体47に係合されて回転規制され、その結果、モータ42の正転、逆転に応じてボールネジ43の基端と先端との間で往復動を行う。
図2(a)はナット44が基端側にある状態を示し、
図2(b)はナット44が先端側にある状態を示している。
【0027】
また、取付部材41の適所には、ワイヤ45の一端が結び付けられている。ワイヤ45は所定長を有し、その他端は、バネ等の弾性部材、好ましくは所定の弾性係数を有する線形バネ46の一端と係合されている。
【0028】
下側リンク20の側面には、回動部材30の取付側とは反対側の適所に係止具22が設けられている。係止具22には線形バネ46の基端が係止されている。ワイヤ45はナット44に係合されて迂回路を形成している。具体的には、ワイヤ45は、途中でナット44の厚み方向に穿設された貫通孔441に掛け渡されている。また、好ましい態様として、ナット44の往復動に際して、貫通孔441は、その移動軌跡上の途中で回動部材30と対向するようにしている。膝関節を中心に小腿部P2が大腿部P1に対して屈曲するとき、線形バネ46はワイヤ45と共に貫通孔441を中心に揺動する。以下では、貫通孔441の位置を線形バネ46の揺動における支点441と言い換える。
図2(a)の遊脚期では、支点441は回動部材30(すなわち膝)の近傍、好ましくは回動部材30よりも上側リンク10側となる基端側に位置し、
図2(b)では、支点441は回動部材30(すなわち膝)から先端側に離反した位置にある。
図2(a)の遊脚期のように小腿部P2が大腿部P1に対して屈曲している状態では、支点441は膝側にあり、線形バネ46は多少伸びた、すなわち弱い力を生じている状態にある。さらに、
図2(a)の状態から、上側リンク10と下側リンク20との少なくとも一方がさらに屈曲すると(矢印(1)参照)、支点441から係止具22までの距離は殆ど変化しないため、すなわち装具の剛性は低い状態を維持する(矢印(2)参照)ことになる。従って、遊脚期における脚の円滑な振り動作が可能となり、自然な歩行動作が確保される。
【0029】
一方、
図2(b)の立脚期では、支点441は膝に比して先端側にあり、しかも線形バネ46は、回動部材30と係止具22を結ぶ線分長に比して、支点441が迂回している(迂回長が大きくなった)分に応じて伸びた状態にあり、すなわち強い力を生じており、線形バネ46の弾性エネルギを高くしている。この状態で、小腿部P2が曲がる方向に動こうとしても、線形バネ46の強い力が作用して曲げ難くなる、すなわち装具の剛性が高くなるため、立脚状態の脚が膝折れしないようにアシストされる。さらに、この状態では、線形バネ46の高い弾性エネルギ(矢印(3)参照)は、下側リンク20を上側リンク10と平行になる向きに戻す強い復帰力として作用する(矢印(4)参照)。従って、この力をアシスト力として利用することで遊脚期から立脚期への移行動作や立脚期の膝折れ防止が容易となる。特に階段を昇る際などに、体重(体幹)を立脚側の脚に移す際や体重を持ち上げる際に好適となる。なお、
図2(b)では作図上、線形バネ46は
図2(a)に比して伸張しているようには見えていないが、前述のように実際にはより伸張していて高い剛性を示している。
【0030】
図3は、本発明に係る歩行支援装置の制御系の一実施形態を示すブロック図である。制御部5は、本実施形態ではマイクロコンピュタ等で構成され、例えばユーザの腰部や肩部、背中に装着可能にされている。制御部5は、プロセッサを備え、姿勢センサ11,21と、モータ42と、処理プログラムや処理に必要なデータ等を記憶するメモリエリア及び処理途中のデータを一時的に格納するワークメモリエリアを備えた記憶部5aと接続されている。
【0031】
制御部5は、プロセッサが処理プログラムを実行することで、姿勢センサ11,21の検出結果からユーザの歩行状態に関する情報を取得する歩行情報取得部50、ユーザの歩行情報からユーザの脚の状態を判断する脚状態判断部54、及び脚の状態に応じてモータ42を駆動するモータ駆動制御部55として機能する。歩行情報取得部50は、大腿動き算出部51、小腿動き算出部52及び足先動き算出部53を備えている。
【0032】
大腿動き算出部51は、姿勢センサ11から大腿部P1の動きを所定周期で連続的に取り込むものである。大腿動き算出部51は、姿勢センサ11から連続的に取り込んだ検出信号から、上側リンク10の鉛直方向に対する傾斜角q1を算出し、及び連続する傾斜角q1から角速度Vq1を算出する。
【0033】
小腿動き算出部52は、姿勢センサ21から所定周期で連続的に取り込むものである。小腿動き算出部52は、姿勢センサ21から連続的に取り込んだ検出信号から、下側リンク20の鉛直方向に対する傾斜角q2を算出し、及び連続する傾斜角q2から角速度Vq2を算出する。
【0034】
足先動き算出部53は、大腿動き算出部51で算出された傾斜角q1及び角速度Vq1と、小腿動き算出部52で算出された傾斜角q2及び角速度Vq2と、大腿部P1及び小腿部P2の寸法L(L1=L2の場合)とから、ユーザの腰P0を基準にした足先P3の相対的な速度Vxを、
Vx=L・cos(q1)・Vq1−L・cos(q2)・Vq2 ・・・(式1)
として周期的に求める。但し、式1では、腰P0を基準に歩行方向(前方)位置を正、また、腰P0の速度を基準に歩行方向の速度を正としている。
【0035】
足先動き算出部53は、また、速度Vxからユーザの腰P0を基準にした相対位置を逐次算出する。
【0036】
脚状態判断部54は、逐次算出されるVxの極性、すなわち正負の変化状況から足先P3の接地タイミングを判断する。Vxの極性は、寸法Lによって変化しないため、接地タイミングの判断に脚の長さは無関係である。すなわち、脚の長さがわからなくても接地タイミングの判断が可能である。モータ駆動制御部55は、脚状態判断部54の判断結果に応じて駆動指令をモータ42に出力する。
【0037】
ここで、
図4のタイムチャートを参照して、歩行動作における片脚の状況とモータの駆動制御との関係について説明する。人の歩行(階段昇降を含む)は、
図4(b)の「遊脚/立脚」に示すように、接地状態にある側の脚が腰の後方で離床され(遊脚期開始)、その脚が進行方向前方に移動され、腰より前方位置まで進めた状態で接地される(遊脚期終了)。この時点から当該脚の立脚期が開始する。この立脚期に、他方の脚が同様にして腰の後方で接地状態から離床され、前方に進められて接地される。以降、かかる動作が繰り返される。遊脚期と立脚期とで一歩の歩行の時間に対応する。
【0038】
足先P3の速度Vxは、
図4(a)の「足先速度」に示すように、一方の脚の屈曲が開始されて離床する時(遊脚期開始)に、腰P0に対する速度Vxは負から正に変化する。そして、遊脚期に移行し、脚が体の前方に進むに従ってVxが増大し、次いで、接地が近づくにつれて、Vxは小さくなり、接地時点(遊脚期終了)でVx=0となる。接地中は、他方の脚が前述のように移動して体を前方に進める結果、接地側の脚の速度Vxは、負となり、前記と同様な特性を示す。
【0039】
以上の人の歩行の特徴から、遊脚期と立脚期と、相対的な足先位置及び速度との関係は以下のとおりである。すなわち、注目する脚について、速度Vxが正のときは遊脚期であり、速度Vxが負のときは立脚期である。さらに、速度Vxは連続的であり、しかも周期性を有することから、歩行状態を予測することが可能となる。なお、注目する脚について、足先位置が腰P0に対して前方(正)のとき遊脚から立脚に変わる時であり、足先位置が腰P0に対して後方(負)のとき立脚から遊脚に変わる時であり、この条件は歩行状態の判断を補強する情報として利用可能である。なお、歩行と同様な特徴を有する範囲であれば、速歩(はやあし)乃至は走行状態を歩行と同態様として含めることが可能である。
【0040】
また、
図4(c)の「装具の剛性」は、モータ42による支点441の位置の設定状況を示している。すなわち、装具の剛性は、遊脚期から立脚期への移行に応じて低剛性から高剛性に変更され、立脚期から遊脚期への移行に応じて高剛性から低剛性に変更されている。また、遊脚期及び立脚期は、姿勢センサ11,21の検出信号を連続的に取得し、足先速度Vxを連続的に算出することで、遊脚期と立脚期との間の移行時点を予測することが可能となる。すなわち、前述したように、足先速度Vxが負で、かつVxの値が所定の閾値Vs1まで0に近づいた時点(Vx=0となる直前のt1時点)で、立脚時から遊脚期への脚相の移行と判断(予測)し、また逆に、足先速度Vxが正で、かつVxの値が所定の閾値Vs2まで0に近づいた時点(Vx=0となる直前のt2時点)で、遊脚時から立脚期への脚相の移行と判断(予測)し、装具の剛性を過渡的に変更制御するようにしている。
図4の例では、速度Vx=0の時点を跨いで剛性の過渡変更が行われている。剛性の高低各値、過渡時間は、例えば実験的乃至は経験的に設定することで好適な特性値が得られる。剛性の変更は、短時間での切り替えでもよいが、過渡的に変更するようにすれば、短時間での切り替えの場合に比べて、脚の接地、離床時の歩行動作がより円滑で、より自然に近いものとなる。また、モータ42にかかるトルクも抑制でき、省電が図れる。
【0041】
図5は、本実施例に係る姿勢センサ11,21を用いた脚相の移行の判別の評価を説明する実験の結果を示す波形図で、接地の有無は、足裏に装備した接地センサの検出信号(図中、立脚、遊脚の方形状波形(i))で示している。
図5中、上段は、加速度の絶対値を用いて判断した、特許文献8(特開2008−175559号公報)に対応する比較例であり、下段は、姿勢センサ11,21を備えた
図1に示す機構を用いた本実施例である。なお、姿勢センサ11,21として、3軸のジャイロと3軸の加速度センサとを内蔵したセンサTSND121(ATR-Promotions社製)を使用し、検出周期は50回/秒とした。
【0042】
歩行状態としては、右端に「通常の平地歩行」を示し、その他の歩行状態として、右側から「平地歩行(早歩き)」、「複雑な歩行」、「階段登り(低速)」の各場合を示している。
図5において、「通常の平地歩行」の場合、上段の比較例では、脚相移行時に対応して所定レベルの加速度が検出できていることから、脚相移行タイミングの判別は可能と思われる。下段の本実施例では、足先の相対速度の正負と整合していることから、脚相移行の判別が可能であることが分かる。
【0043】
一方、上段の比較例において、「平地歩行(早歩き)」のように歩行速度が変わると、検出加速度の最大ピークが大きく変化しており、判別のための閾値の設定が困難である。そのため、最大ピークを決定するためには、1歩行分のデータ収集が必要となり、リアルタイム性に欠ける。また、歩行の個人差の要素、階段昇降、歩行から階段昇降への移行、曲がった道での歩行、歩行速度の急な変化などの「複雑な歩行」を行った場合、数多くの加速度の大きさの異なるピークが生じ、立脚、遊脚の脚相の移行タイミング判別は、非常に困難となる。さらに、「階段登り(低速)」では、ピーク検出のための閾値の設定が困難である。
【0044】
これに対して、下段に示す本実施例では、足裏センサを用いることなく、歩行状態の全てにおいて、相対速度の正負と整合していることから、脚相移行の判別は可能である。従って、本実施例では、足先の相対速度の正負の極性、あるいは正から負、負から正への変化状態を利用することで脚相移行タイミングの判別ができることが分かる。
【0045】
図6は、
図1の機構を用いて行った足先の相対速度と立脚、遊脚の状態とを対比する実験の結果を示すタイムチャートである。
図6では、左右各1歩分の歩行早さは、通常の歩行早さ(周期)、例えば左右各1歩/秒である。
図6の上段は、足先の相対速度を示し、下段は、接地センサによる立脚、遊脚の方形状波形(i)を示している。図から明らかなように、足先の相対速度が負から正に変化せんとするとき、脚相は立脚期から遊脚期に移行する段階にあり、逆に、足先の早退速度が正から負に変化せんとするとき、脚相は、遊脚期から立脚期に移行する段階にある。従って、足先の相対速度の正負の極性と、立脚と遊脚間の各移行タイミングとは整合していることが分かる。
【0046】
図7は、歩行支援処理の一例である、処理Iを示すフローチャートである。図において、姿勢センサ11,21からの検出信号から傾斜角q1,q2、角速度Vq1,Vq2が取得される(ステップS1)。次いで、傾斜角q1,q2、角速度Vq1,Vq2から腰P0に対する相対的な足先の速度Vxが算出される(ステップS3)。そして、脚相の移行の有無に関する判断がなされる(ステップS5)。
【0047】
この判断は、剛性の変更を短時間で行う態様では、速度Vxが0を跨ぐタイミングの判断で処理可能である。
【0048】
一方、本実施形態のように、ステップS5の判断を予測に基づいて処理する場合、速度Vxが算出される毎に、その極性、及び極性に応じて閾値Vs1,Vs2との対比を行う。そして、脚相の移行がないと判断された場合、ステップS15を経由してステップS1に戻って所定周期で同様な処理が繰り返される。一方、ステップS5で、脚相の移行があると、「移行1」か「移行2」かの判断がなされる。「移行1」か「移行2」の判断は、速度Vxの極性に基づいて行ってもよいし、前述したように、速度Vxの算出に合わせて算出される足先位置の腰P0に対する相対位置の極性情報を、「移行1」、「移行2」の判断に補強的に利用してもよい。ここに、「移行1」は、足先の相対速度Vxの極性が負の場合であって立脚期から次の遊脚期へ変わる時をいい、「移行2」は、足先の相対速度Vxの極性が正の場合であって遊脚期から次の立脚期へ変わる時をいう。
【0049】
脚相の移行が「移行1」と判断されると、遊脚期への移行と判断して(ステップS7)、モータ42に対して所定量かつ所定速度での正転駆動指令が行われる(ステップS9)。一方、脚相の移行が「移行2」と判断されると、立脚期への移行と判断して(ステップS11)、モータ42に対して所定量かつ所定速度での逆転駆動指令が行われる(ステップS13)。次いで、終了か否かが判断され、終了でなければ、上記処理が繰り返され、他方、終了であれば、本フローを抜ける。
【0050】
図8は、「移行1」及び「移行2」と足先の相対位置の正負情報との整合性を評価するための実験の結果を示す図である。波形(ii)は、足先の相対速度からも0止めた相対位置を示している。なお、図は、右側から順番に、「通常の平地歩行」、「平地歩行(早歩き)」、「複雑な歩行」、「階段登り(低速)」をそれぞれ示している。全ての場合に示すように、「移行1」すなわち立脚期から遊脚期へ変わる時点では、足先の相対位置は、負の位置にあり、一方、「移行2」すなわち遊脚期から立脚期へ変わる時点では、足先の相対位置は、正の位置にある。従って、脚相の移行タイミングに足先の相対速度を利用し、さらに「移行1」か「移行2」かの判断要素として足先の相対位置の正負情報が有効であることがわかる。
【0051】
図9は、歩行支援処理の他の実施形態である処理IIを示すフローチャートである。処理IIは、
図8の実験例に基づいて、「移行1」、「移行2」の判断に際して、相対速度の正負情報に代えて、相対位置の正負情報を利用した場合である。図において、ステップS21,S23は、ステップS1,S3と同一なので説明は省略する。次いで、ステップS25で、足先動き算出部53によって、速度Vxからユーザの腰P0を基準にした相対位置が、例えば逐次積分処理によって算出される。
【0052】
次いで、脚相の移行の有無に関する判断がなされる(ステップS27)。ステップS27は、ステップS5と同様の処理、すなわち、速度Vxが算出される毎に、その極性、及び極性に応じて閾値Vs1,Vs2との対比を行う。そして、脚相の移行がないと判断された場合、ステップS39を経由してステップS21に戻って所定周期で同様な処理が繰り返される。一方、ステップS27で脚相の移行ありと判断されると、ステップS25で求めた、足先位置の腰P0に対する相対位置の極性情報を利用して、「移行1」か「移行2」かの判断がなされる(ステップS29)。
【0053】
相対位置が負の場合、脚相の移行が「移行1」、すなわち遊脚期への移行と判断して(ステップS31)、モータ42に対して所定量かつ所定速度での正転駆動指令が行われる(ステップS33)。一方、相対位置が負の場合、脚相の移行が「移行2」、すなわち立脚期への移行と判断して(ステップS35)、モータ42に対して所定量かつ所定速度での逆転駆動指令が行われる(ステップS37)。次いで、終了か否かが判断され、終了でなければ、上記処理が繰り返され、他方、終了であれば、本フローを抜ける。
【0054】
なお、本発明は、以下の実施態様を採用することが可能である。
【0055】
(1)前記実施形態では、剛性変更の予測時点を閾値Vs1,Vs2を用いて行ったが、歩行に周期性があることを利用して、例えばVx=0時点からの経過時間(例えば
図4のt1,t2)を利用して行う態様としてもよい。
【0056】
(2)剛性変更におけるモータ42の駆動速度、駆動量はユーザに合わせて調整可能としてもよい。また、平地歩行時と階段昇降時とを姿勢センサの検出信号を解析して識別し、あるいはマニュアルで選択する操作部を介して調整する態様でもよい。
【0057】
(3)可変剛性機構4の構成は、以下の態様に代えることができる。例えば線形バネ46は弾性を有しておれば、必ずしも線形でなくてもよい。また、線形バネ46に代えて弾性線材でもよい。また、線形バネ46の両側にワイヤを連結する態様でもよい。さらに、モータ42に代えて電磁ソレノイド等の他の駆動源を採用してもよい。なお、モータ42は重量を考慮すると上側リンク10に取付けるのが好ましいが、下側リンク20側に設け、ボールネジ43の旋回方向を前記実施形態の場合に比して反対とするようにしてもよい。さらに、ボールネジ43の機構に代えて、すべりねじ機構、その他の回転運動を並進運動に変換する機構全般が採用可能である。
【0058】
(4)前記実施形態では、
図2に示す可変剛性機構4を採用したが、歩行の脚相に合わせて剛性を変更可能な構成であれば、
図2の構成に限定されない。例えば、回動部材30に回転負荷を可変的に付与することで剛性を可変にする態様でもよい。回転負荷の変更には、例えば電磁ブレーキに採用されている技術や、摩擦力を機械的に強弱するブレーキ技術等を適用したものでもよい。
【0059】
(5)姿勢センサ11,21は加速度センサ、ジャイロセンサの他、磁気センサ等を利用して鉛直面上での角度を計測するようにしてもよい。また、一方の姿勢センサ11(21)の検出信号と、回動部材30に回転センサを併設して計測し得るリンク間角度を利用する態様でもよい。さらに、ユーザの基準部位、典型的には体幹適所を基準とした足先速度(足先位置)を計測可能なセンサであれば、センサ種類も個数も制限されない。
【0060】
(6)姿勢センサ11,21は、人体の片脚に装着するものでよく、これにより、足裏の圧力センサを設ける必要がなく、動きへの制約も少なく、長寿命化が図れると共に、両脚は交互に動くことから片脚の動き情報から反対の脚の動きを知ることができ、その分、センサ個数が低減される。また、片脚に限らず両脚に装着する構成としてもよい。かかる両脚に装着するタイプの場合に、他方の脚の装具1には姿勢センサを設けず、基本となる脚側の装具の姿勢センサから、制御部5によって他方の脚の脚相、足先速度、足先位置まで推定して算出するようにすればよい。
【0061】
(7)前記実施形態では、足先速度は直交座標系で定義したが、人体の前方や後方に足先が動いているかどうかを評価できる座標系であれば、直交座標系には限定されない。例えば、腰を原点とした極座標で足先速度を定義してもよい。また、式(1)のcos(q1)とcos(q2)は歩行中、常に1に近い値となるため、Vx=L・Vq1―L・Vq2のような近似計算を用いてもよい。
【0062】
本発明は、以上のように構成したので、足裏に取付ける接地センサを用いる場合と比べて長寿命化が図れ、また接地センサのような圧力センサとは異なり、動き情報を連続的に取得可能なため未来予測が可能となる。そして、未来予測を可能とすることで、従来よりも支援効果が高く、自然な支援が可能なロボット装具や義足等の開発に供することが可能となる。さらに、足裏に取付けができないタイプの装具にも適用可能となる。また、装着、取り外し作業も容易であり、操作性、利便性で優れている。
【0063】
また、制御部5における遊脚期と立脚期との間の脚相の移行タイミング判断処理は、可変剛性機構4への適用に限定されず、脚相の移行タイミングを活用するタイプの他の種類の歩行支援装置にも適用可能である。
【0064】
以上説明したように、本発明に係る脚相移行タイミング判定装置は、脚の動きを検出するセンサの出力を受け付けて人体の基準部位に対する足先の相対速度を連続的に算出する歩行情報取得手段と、前記足先の相対速度に基づいて遊脚期と立脚期との間の移行タイミングを判断する脚状態判断手段とを備えることが好ましい。
【0065】
本発明によれば、歩行情報取得手段によって、センサからの出力が受け付けられて、人体の基準部位、例えば腰に対する足先の相対速度が連続的に算出される。そして、脚状態判断手段によって、歩行情報取得手段で算出された相対速度に基づいて遊脚期と立脚期との間の各移行タイミングが、すなわち遊脚期から期立脚期への移行タイミングであるか、立脚期から遊脚期への移行タイミングであるかが判断される。従って、人体の基準位置に対する相対的な足先速度を利用することで遊脚期と立脚期間の移行タイミングの判断がより正確となる。
【0066】
また、本発明に係る脚相移行タイミング判定装置において、前記脚状態判断手段は、前記足先の相対速度及びその正負の極性に基づいて遊脚期と立脚期との間の移行タイミングを判断することが好ましい。この構成によれば、足先の相対速度の正負の極性情報も利用することで、遊脚期と立脚期との間の各移行タイミングが精度良く判断される。
【0067】
また、本発明に係る脚相移行タイミング判定装置において、前記歩行情報取得手段は、さらに、前記センサの出力を受け付けて、前記人体の基準部位に対する足先の相対位置を連続的に算出するもので、前記脚状態判断手段は、さらに、前記足先の相対位置が正か負かに基づいて前記遊脚期から前記期立脚期への移行タイミングか、前記立脚期から前記遊脚期への移行タイミングかを判断するものであることが好ましい。この構成によれば、足先の相対位置が正か負かの情報を判断情報として補強することで、より精度の高い脚相移行タイミングの判断が可能となる。
【0068】
また、本発明に係る脚相移行タイミング判定装置において、前記センサは、前記人体の大腿部及び小腿部を前記脚の動きとして検出するものであることが好ましい。この構成によれば、足裏の圧力センサを設ける必要がなく、動きへの制約も少なく、長寿命化が図れる。
【0069】
また、本発明に係る脚相移行タイミング判定装置において、足先の相対速度Vxは、
Vx=L1・cos(q1)・Vq1−L2・cos(q2)・Vq2 ・・・(式2)
に基づいて算出することが好ましい。但し、式2において、Vxは、人体の腰を基準にした足先の相対速度、q1,Vq1は、前記大腿部の傾斜角及び角速度、q2,Vq2は、前記小腿部の傾斜角及び角速度、及びL1,L2は、人体の大腿部及び小腿部の寸法である。
【0070】
また、本発明に係る脚相移行タイミング判定装置において、前記センサは、加速度センサ、磁気センサ及びジャイロセンサのうちの少なくとも1種類であることが好ましい。この構成によれば、検出信号を連続的に取り出せるので、未来予測処理が可能となる。また、足裏に取付けるセンサを用いないので、センサの長寿命化が図れる。また、前記センサは片脚のみに取り付ければよいので、両脚のセンサは不要である。
【0071】
また、本発明は、脚の動きを検出するセンサの出力を受け付けて人体の基準部位に対する足先の相対速度を連続的に算出する歩行情報取得ステップと、前記歩行情報取得ステップで算出された前記足先の相対速度に基づいて遊脚期と立脚期との間の移行タイミングを判断する脚状態判断ステップとを備えた脚相移行タイミング判定方法である。
【0072】
また、前記脚状態判断ステップは、前記足先の相対速度及びその正負の極性に基づいて遊脚期と立脚期との間の移行タイミングを判断することが好ましい。
【0073】
また、前記脚相移行タイミング判定方法において、前記歩行情報取得ステップは、さらに、前記センサの出力を受け付けて、前記人体の基準部位に対する足先の相対位置を連続的に算出し、前記脚状態判断ステップは、さらに、前記足先の相対位置が正か負かに基づいて前記遊脚期から前記期立脚期への移行タイミングか、前記立脚期から前記遊脚期への移行タイミングかを判断することが好ましい。
【0074】
また、本発明は、人体の脚に装着され、膝を屈伸する方向に対する剛性が変更可能な可変剛性機構を備えた歩行支援装具と、本発明に係る脚相移行タイミング判定装置と、前記遊脚期から立脚期への移行タイミングでは前記可変剛性機構の剛性を高め、前記立脚期から遊脚期への移行タイミングでは前記可変剛性機構の剛性を下げる剛性制御手段とを備えた歩行支援装置である。
【0075】
また、本発明は、人体の脚に装着され、膝を屈伸する方向に対する剛性が変更可能な可変剛性機構を備えた歩行支援装具に対する歩行支援制御方法において、前記脚の動きを検出するセンサの出力を受け付けて人体の基準部位に対する足先の相対速度を連続的に算出する歩行情報取得ステップと、前記歩行情報取得ステップで算出された前記足先の相対速度に基づいて遊脚期と立脚期との間の移行タイミングを判断する脚状態判断ステップと、前記遊脚期から立脚期への移行タイミングでは前記可変剛性機構の剛性を高め、前記立脚期から遊脚期への移行タイミングでは前記可変剛性機構の剛性を下げる剛性制御ステップとを備えた歩行支援制御方法である。
【0076】
これらの発明によれば、歩行支援装具が人体の脚に装着され、可変剛性機構によって膝を屈伸する方向に付与するトルクの大きさを調節するために剛性が変更される。例えば歩行支援装具は、脚の動きを検出するセンサを有する脚相移行タイミング判定装置によって遊脚期と立脚期との間の各移行タイミングが判断される。遊脚期から立脚期への移行タイミングでは、剛性制御手段によって前記可変剛性機構の剛性が高められ、前記立脚期から遊脚期への移行タイミングでは、剛性制御手段によって前記可変剛性機構の剛性が下げられる。このように、遊脚期と立脚期との間の移行タイミングとなる歩行状態を判断し、それに対応して剛性を高低変更調整するので、膝へのアシストが好適に行われる。
【0077】
また、前記剛性制御手段は、次の前記剛性の変更開始時まで、設定された剛性を維持するものであることが好ましい。この構成によれば、遊脚期、立脚期それぞれの期間に要求される剛性が維持されることでアシスト効果が安定する。
【0078】
また、前記剛性制御手段は、前記可変剛性機構の剛性を過渡的に変更するものであることが好ましい。この構成によれば、剛性の変更が過渡的に行われることで、自然な歩行を支援することが可能となる。
【0079】
また、前記剛性制御手段は、前記可変剛性機構の剛性を高めるときは、前記足先の相対位置が前記基準部位に比して前側にあると判定したことを条件とし、前記可変剛性機構の剛性を下げるときは、前記足先の相対位置が前記基準部位に比して後ろ側にあると判定したことを条件とするものであることが好ましい。この構成によれば、足先の相対位置を判断情報として補強することで、精度の高い移行タイミングの判断が可能となる。
【0080】
また、前記歩行支援装具は、膝位置に対応する回動部材を介して連結された大腿側リンクと小腿側リンクとを備え、前記可変剛性機構は、前記大腿側リンクと小腿側リンクの一方のリンクに取付けられた駆動源と、前記駆動源の駆動によって前記回動部材に近い位置と離れた位置との間で移動する支点部材と、前記大腿側リンクと小腿側リンクとの間に張設され、かつ、その間で前記支点部材を迂回して掛け渡された弾性部材とを備え、前記剛性制御手段は、前記駆動源を駆動制御することによって、前記遊脚期から立脚期への移行タイミングでは前記支点部材を前記回動部材から離れた位置に移動させ、前記立脚期から遊脚期への移行タイミングでは前記支点部材を前記回動部材に近い位置に移動させるものであることが好ましい。この構成によれば、駆動源の駆動によって支点部材を回動部材に比して遠近方向に移動させて、すなわち迂回長を長短することで、弾性部材の伸張量が変更できるので、簡易な構成で剛性の変更が可能となる。
【0081】
また、前記センサは、前記大腿側リンクに取付けられ、前記大腿側リンクの鉛直面内の動きを検出するための第1の姿勢センサと、前記小腿側リンクに取付けられ、前記小腿側リンクの鉛直面内の動きを検出するための第2の姿勢センサとを含むものであることが好ましい。この構成によれば、姿勢センサを大腿側リンクと小腿側リンクとに取付けることで、足先の相対速度を算出するので、足裏にセンサを設けることなく、簡易で長寿命しかも未来予測可能な構成が提供可能となる。