(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
自動車の排出ガス中に存在する排出物は、2つのグループに分類することができる。すなわち、用語「一次排出物」とは、エンジン中の燃料の燃焼過程により直接形成される汚染ガスを指し、排出ガス処理システムを通過する前の未処理排出物中に既に存在している。二次排出物は、排出ガス処理システム中の副生物として形成し得るそのような汚染ガスを指す。
【0003】
同様に、リーンエンジンの排出ガスは、一酸化炭素CO、炭化水素HCおよび窒素酸化物NO
xという慣用的な一次排出物を、最大15体積%という比較的高い酸素含有率で含む。ディーゼルエンジンの場合、一次ガス排出物に加えて、さらなる微粒子排出物が存在し、この微粒子排出物は、有機凝集体を含むかまたは含まない、すす残留物から主として構成され、シリンダー内の燃料の部分的な不完全燃焼に起因している。
【0004】
ディーゼルエンジンの適用では、微粒子排出物を除去するため、特定のディーゼル微粒子フィルターの使用が避けられない。さらに、欧州および米国において法律により定められた排出限界に適合させるには、排出ガスから窒素酸化物除去する(「脱窒素」)ことが必要である。したがって、リーン排出ガスからの一酸化炭素および炭化水素の汚染ガスは、適切な酸化触媒上の酸化によって容易に無害にすることができるが、窒素酸化物の窒素への還元は、排出ガス流の酸素含有率が高いために、かなり一層困難である。
【0005】
排出ガスから窒素酸化物を除去する公知の方法は、第1に、酸化窒素貯蔵触媒(NSC)を使用する方法、および第2に、短時間の、適切な触媒、すなわち選択触媒還元(SCR)触媒上のアンモニアによるSCR法である。
【0006】
酸化窒素貯蔵触媒の清浄作用は、窒素酸化物が、貯蔵触媒の貯蔵材料により、エンジンのリーン作動段階に、主に硝酸塩の形態で貯蔵されることに基づいている。NSCの貯蔵容量が使い尽くされると、触媒はその後のエンジンのリッチ作動段階において再生成されなければならない。このことは、予め形成した硝酸塩を分解し、再び放出される窒素酸化物を貯蔵触媒上で還元性排出ガス成分と反応させて、窒素、二酸化炭素および水を得ることを意味する。
【0007】
ディーゼルエンジンにおけるリッチ作動段階の実施は簡単ではなく、またNSC再生に必要なリッチ排ガス条件の確立は、排出ガスラインへの燃料ポスト噴射などの補助的手段を必要とすることが多いので、代替的なSCR法が、ディーゼル自動車排出ガスの脱窒素に好ましく使用されている。この方法では、排出ガスシステムのエンジン設計および構造によれば、「能動的」SCR法と「受動的」SCR法との間に区別がなされ、「受動的」SCR法は、脱窒素用還元剤として排出ガスシステム中で意図的に生成させたアンモニア二次排出物の使用が必要である。
【0008】
例えば、US6,345,496B1には、エンジン排出ガスを清浄する方法が記載されており、この中で、リーンおよびリッチ空気/燃料混合物の交互繰り返しが確立されており、こうして、生成する排出ガスが、流入側に触媒を含む排出ガスシステムを通過し、この触媒は、リッチ排出ガス条件下でNO
xをNH
3にだけ転換する一方、流出側に配置されているさらなる触媒は、リーン排出ガス中のNO
xを吸収するかまたは貯蔵し、NO
xが流入側の触媒により生成するNH
3と反応して窒素を与えることができるように、リッチ条件下でNO
xを放出する。代替として、US6,345,496B1によれば、NH
3吸着触媒および酸化触媒は、流出側に配置されてもよく、リッチ条件下ではNH
3を貯蔵し、リーン条件下ではNH
3を脱着して、酸素により酸化して窒素および水を与える。こうした方法のさらなる開示が公知である。しかし、酸化窒素貯蔵触媒の使用のように、こうした「受動的」SCR法は、それらの必須構成物の1つが、リッチ排出ガス条件の供給であり、これには、一般に、還元剤としてアンモニアのその場生成が必要であるという欠点を有する。
【0009】
「能動的」SCR法では、上記と比較して、還元剤は、車両中に搭載されている追加タンクから、噴射ノズルにより排出ガスラインに計量導入される。こうした使用される還元剤はまた、アンモニアを除くと、アンモニアに容易に分解可能な化合物、例えば尿素またはカルバミン酸アンモニウムであってもよい。アンモニアは、少なくとも窒素酸化物に対して化学量論量の比で、排出ガスに供給されなければならない。自動車では作動条件が大幅に変動するため、アンモニアを正確に計量して添加することは簡単ではない。これは、一部の場合、SCR触媒の下流において、かなりのアンモニアの漏出をもたらす。二次アンモニア排出を防ぐために、アンモニアを酸化して窒素に分解するよう意図されている酸化触媒が、SCR触媒の下流に、通常、配置される。こうした触媒を、これ以降、アンモニアスリップ触媒と呼ぶ。
【0010】
ディーゼル自動車の排出ガスからの微粒子排出物を除去するため、特定のディーゼル微粒子フィルターが使用され、それらの特性を改善するため、酸化触媒含有被覆物と共に提供され得る。こうした被覆物は、酸素をベースとする微粒子バーンオフ(すす燃焼)に対する活性化エネルギーを低下させる働きをし、こうしてフィルター上のすす点火温度を低下させて、排出ガス中に存在する一酸化窒素の二酸化窒素への酸化による受動的再生性能を改善し、かつ炭化水素および一酸化炭素の排出物の漏出を抑制する。
【0011】
法的な排出基準の順守により、ディーゼル自動車の排出ガスからの微粒子物の脱窒素と除去の両方が要求される場合、個々の汚染ガスを除去するために記載されている手段は、対応する従来の排出ガスシステム中に、直列連結により組み合わされている。例えば、WO99/39809は排出後処理システムを記載しており、NO
x中のNOをNO
2に酸化するための酸化触媒、微粒子フィルター、還元剤のための計量ユニット、およびSCR触媒が互いに続いている。アンモニア漏出を予防するため、追加のアンモニアスリップ触媒が、SCR触媒の下流に一般に必要であり、SCR触媒の流出側に一連の触媒が続いている。
【0012】
この点において、酸素存在下でのアンモニアによる酸化窒素の選択的還元を含む、ある種の反応を促進する際に、合成と天然のゼオライトの両方、およびそれらの使用が、当分野で周知である。ゼオライトは、かなり均一な孔径を有しているアルミノケイ酸塩結晶物質であり、ゼオライトの種類、ならびにゼオライト格子中に含まれている陽イオンの種類および量に依存して、直径が約3〜10オングストロームの範囲となり得る。
【0013】
EP1961933A1は、例えば、その上に酸化触媒被膜物を設けたフィルター本体、SCR活性被膜物、およびアンモニア貯蔵材料を含む、排出ガス処理用ディーゼル微粒子フィルターに関するものである。SCR反応において触媒的に活性な成分として使用することができる材料の中で、前記文献は、ベータゼオライト、Y−ゼオライト、ホージャサイト、モルデナイト、および鉄または銅により交換されていることがあるZSM−5から選択されるゼオライトの使用に言及している。
【0014】
一方、EP1147801A1は、アンモニアを使用するSCRによる内燃機関からのリーン排出ガス中に存在する窒素酸化物を還元する方法に関するものであり、還元触媒は、好ましくは、銅または鉄により交換されているZSM−5ゼオライトを含有している。前記文献は、鉄により交換されているZSM−5ゼオライト含有する被覆物を、その上に堆積させたハニカム基材を有するSCR触媒にさらに関する。
【0015】
EP2123614A2自体は、ゼオライトおよび無機結合剤を含有しているハニカム構造に関するものである。特に、前記構造に含まれている第1のゼオライトは、Cu、Mn、Ag、およびVを含む金属によるイオン交換体であり、第2のゼオライトには、Fe、Ti、およびCoを含む金属により交換されているものがさらに含まれる。第1および第2のゼオライトのために使用されるゼオライトの種類に関すると、これらにはゼオライトベータ、ゼオライトY、フェリエライト、ZSM−5ゼオライト、モルデナイト、ホージャサイト、ゼオライトA、およびゼオライトLが含まれる。
【0016】
US7,332,148B2は、銅または鉄を含有している安定化アルミノケイ酸塩ゼオライトを記載しており、この安定化ゼオライトは、ZSM−5、ZSM−8、ZSM−11、ZSM−12、ゼオライトX、ゼオライトY、ゼオライトベータ、モルデナイト、およびエリオナイトが含まれる。
【0017】
WO2008/106519A1は、CHA結晶構造を有し、かつ銅を含有しているゼオライトを記載している。前記文献は、SCR触媒として、こうしたイオン交換ゼオライトの使用も議論している。
【0018】
EP1579911A1は、窒素酸化物の還元を含む、排出ガス精製触媒および排出ガスを精製するための方法を記載しており、この触媒成分には、その両方に銅を堆積させたZSM−5およびゼオライトベータが含まれている。
【0019】
US2003/0143141A1は、過程および排ガスからのNO
xおよびN
2Oを除去する方法に関するものであり、その中で使用されている触媒は、1種または複数の鉄担持ゼオライトが含有され、この鉄担持ゼオライトは、好ましくはMFI、BEA、FER、MOR、および/またはMEL型のものである。
【0020】
最後に、WO2004/047960A1は、N
2Oを減少するための多金属性ゼオライト触媒の調製方法に関するものであり、この触媒は、同形置換された鉄を含有し、このゼオライト触媒はMFIおよび/またはBEAと類似の構造を有している。
【0021】
したがって、従来技術は、特に、アンモニアによる窒素酸化物の選択触媒還元用の、とりわけ、鉄促進性および銅促進性ゼオライト触媒を含む、金属促進性ゼオライト触媒の利便性を認識していることに関するものである。
【0022】
しかし、現在では、排出、特に自動車排出ガス排出に関するますます厳格となる法律により、触媒、およびその処理のためのこうした触媒を使用する排出処理システムの改善が必要となる。こうして、欧州連合における排出ガス排出ステージユーロ6に関する排出ガス排出の法律により、今や、ディーゼルエンジンによって動力供給されるほとんどの乗用車に対するNO
x排出物の削減が要求されている。この目的のために、排出ガス排出は、MVEG(自動車排気ガスグループ)サイクルとも呼ばれる新ヨーロッパドライビングサイクル(NEDC)を使用して試験され、これは、欧州連合指令70/220/EECに制定されている。この要求を満足する方法の1つには、問題となる自動車の排出ガスシステムへのSCR触媒技術の応用が含まれる。
【0023】
古いヨーロッパドライビングサイクル(ECE−15)ドライビングサイクルとは反対に、NEDCの具体的な特徴は、該試験が欧州における自動車の通常の利用、したがってそれに関連する通常の排出物パターンをよりよく示し得るよう、いわゆるエクストラアーバンドライビングサイクルに統合している点である。より具体的には、NEDCでは、古いヨーロッパドライビングサイクルECE−15は、0〜800秒の期間で行われ、その後に、エクストラアーバンドライビングサイクルが最大1200秒の期間行われる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の意味の範囲内では、「SCR」と略される用語「選択触媒還元」とは、還元剤による窒素酸化物NO
xの反応に関与する任意の触媒過程を指す。特に、SCRは還元反応を指し、NO
xはその還元生成物に変換され、この還元生成物は、好ましくはN
2である。用語「還元剤」に関すると、前記用語は、SCR過程のための任意の適切な還元性作用剤を指し、好ましくは、アンモニア、ならびに/または尿素および/もしくはカルバミン酸アンモニウムなどの任意のアンモニア前駆体が好ましく、尿素がアンモニア前駆体に含まれることが好ましい。さらにより好ましくは、用語「還元剤」は、アンモニアを指す。しかし、用語「還元剤」は、炭化水素および/または酸素化炭化水素などの炭化水素誘導体(例えば自動車燃料中、ならびに/または自動車排出ガス、特にディーゼル燃料および/もしくはディーゼル排出ガス中に見ることができるものなど)をさらに含むことができる。
【0030】
本発明によれば、BEA型構造またはCHA型構造の任意の考えられるゼオライトが、そうした構造タイプに典型的な構造的特徴を示す限り、それぞれ使用することができる。1種または複数のBEA構造のゼオライトに関すると、これらは、ベータ、[B−Si−O]−BEA、[Ga−Si−O]−BEA、[Ti−Si−O]−BEA、Alリッチベータ、CIT−6、ツァーニック沸石、純粋なシリカベータ、およびそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される、1種または複数のゼオライトを例えば含むことができる。本発明の好ましい実施形態によれば、1種または複数のBEA型構造のゼオライトには、ゼオライトベータが含まれる。
【0031】
1種または複数のCHA構造のゼオライトに関すると、これらは、菱沸石、AlP、[Al−As−O]−CHA、[Co−Al−P−O]−CHA、[Mg−Al−P−O]−CHA、[Si−O]−CHA、[Zn−Al−P−O]−CHA、[Zn−As−O]−CHA、|Co|[Be−P−O]−CHA、|Li−Na|[Al−Si−O]−CHAO−34、CoAPO−44、CoAPO−47、DAF−5、脱水Na−菱沸石、GaPO−34、K−菱沸石、LZ−218、リンデD、リンデR、MeAPO−47、MeAPSO−47、Ni(データ)
2−UT−6、Phi、SAPO−34、SAPO−47、SSZ−13、SSZ−62、UiO−21、ウィルヘンダーソン沸石、ZK−14、ZYT−6、およびそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される1種または複数のゼオライトを含むことができる。本発明の好ましい実施形態によれば、1種または複数のCHA型構造のゼオライトは、菱沸石、SSZ−13、LZ−218、リンデD、リンデR、Phi、ZK−14、およびZYT−6ならびにそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される1種または複数のゼオライトを含み、より好ましくは、1種または複数のCHA型構造のゼオライトには菱沸石が含まれる。
【0032】
さらに、1種または複数のMFI型構造のゼオライトをさらに含む本発明の特定の実施形態に関すると、MFI型構造の任意の考えられるゼオライトが、そうした構造タイプに典型的な構造的特徴を示す限り、使用することができる。したがって、例として、本発明の触媒中に任意選択で含有される、1種または複数のMFI型構造のゼオライトは、ZSM−5、[As−Si−O]−MFI、[Fe−Si−O]−MFI、[Ga−Si−O]−MFI、AMS−1B、AZ−1、Bor−C、ボラライトC、エンシライト(Encilite)、FZ−1、LZ−105、単斜晶系H−ZSM−5、ムティーナ沸石、NU−4、NU−5、シリカライト、TS−1、TSZ、TSZ−III、TZ−01、USC−4、USI−108、ZBH、ZKQ−1B、ZMQ−TB、有機物不含ZSM−5、およびそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される、1種または複数のゼオライトを含んでもよい。本発明の好ましい実施形態によれば、1種または複数のMFI型構造のゼオライトにはZSM−5が含まれる。
【0033】
しかし、さらに好ましい本発明の代替実施形態によれば、本発明の触媒は、1種または複数のMFI型構造のゼオライトを含まない。
【0034】
さらに好ましい本発明の実施形態によれば、1種または複数のBEA型構造のゼオライトにはゼオライトベータが含まれ、1種または複数のCHA型構造のゼオライトは、菱沸石、SSZ−13、LZ−218、リンデD、リンデR、Phi、ZK−14、およびZYT−6、ならびにそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される1種または複数のゼオライトを含み、さらにより好ましくは、1種または複数のBEA型構造のゼオライトにはゼオライトベータが含まれ、また、1種または複数のCHA型構造のゼオライトには菱沸石が含まれる。特に好ましい実施形態によれば、1種または複数のBEA型構造のゼオライトは、ゼオライトベータであり、また1種または複数のCHA型構造のゼオライトは、菱沸石である。
【0035】
さらに、1種または複数のMFI型構造のゼオライトをさらに含む本発明の特定の実施形態によれば、1種または複数のBEA型構造のゼオライトにはゼオライトベータが含まれること、1種または複数のCHA型構造のゼオライトは、菱沸石、SSZ−13、LZ−218、リンデD、リンデR、Phi、ZK−14、およびZYT−6、ならびにそれらの2種以上の混合物からなる群から選択される1種または複数のゼオライトを含むこと、および1種または複数のMFI型構造のゼオライトにはZSM−5が含まれることがやはりさらに好ましい。より好ましくは、1種または複数のBEA型構造のゼオライトには、ゼオライトベータが含まれ、1種または複数のCHA型構造のゼオライトには菱沸石が含まれ、1種または複数のMFI型構造のゼオライトにはZSM−5が含まれる。特に好ましいその実施形態によれば、1種または複数のBEA型構造のゼオライトは、ゼオライトベータであり、1種または複数のCHA型構造のゼオライトは、菱沸石であり、1種または複数のMFI型構造のゼオライトは、ZSM−5である。
【0036】
本発明によれば、1種または複数のBEA型ゼオライトの少なくとも一部は鉄を含有し、また1種または複数のCHA型ゼオライトの少なくとも一部は、銅を含有している。さらに、任意選択である1種または複数のMFI型ゼオライトの少なくとも一部は、鉄を含有している。しかし、本発明によれば、鉄を少なくとも部分的に含有している1種または複数のBEA型ゼオライト、および銅を少なくとも部分的に含有している1種または複数のCHA型ゼオライトを含む触媒が、鉄を含有していない1種または複数のMFI型ゼオライトをさらに含むことは除外されない。しかし、本発明の好ましい実施形態によれば、本発明の触媒中に任意選択で含有している1種または複数のMFI型ゼオライトは、好ましくは少なくともに部分的に鉄を含有している。
【0037】
1種または複数のBEA型ゼオライトの少なくとも一部に含有している鉄、および1種または複数のCHA型ゼオライトの少なくとも一部に含有している銅、ならびに本発明の触媒中に任意選択で含有している1種または複数のMFI型ゼオライトに含有している鉄に関すると、前記金属は、任意の考えられる様式および任意の考えられる状態で、それらの中にそれぞれ含有され得る。したがって、本発明によれば、本触媒に含有されている鉄および銅の酸化状態に関して特定の限定はなく、それらがゼオライトのそれぞれのタイプ中に含有される方法にも限定されない。しかし、好ましくは、鉄および/または銅、より好ましくは鉄と銅の両方が、それぞれのゼオライト中において正の酸化状態をそれぞれ示す。さらに、鉄および/または銅は、ゼオライト表面、かつ/またはそれぞれのゼオライト骨格の多孔構造内に含有され得る。あるいは、またはゼオライト表面および/もしくはその多孔構造内に担持されている他、鉄および/または銅は、ゼオライト骨格中に、例えば同形置換により含まれていてもよい。好ましい実施形態によれば、鉄および/または銅、より好ましくは鉄と銅の両方が、それぞれのゼオライト表面および/またはそれらの多孔構造内に、さらにより好ましくは、それぞれのゼオライトの表面とそれらの多孔構造内の両方に担持されている。本発明の特に好ましい実施形態によれば、鉄と銅の両方が、BEA型構造、CHA型構造、および任意選択のMFI型構造の1種または複数のゼオライトの少なくとも一部に、正の酸化状態でそれぞれ含有され、前記鉄および銅は、その多孔構造内に含有されていることを含め、それぞれのゼオライト表面上に担持されている。
【0038】
本発明による触媒は、1種または複数のBEA型構造のゼオライト、および1種または複数のCHA型構造のゼオライトを、任意の考えられる質量比で含んでもよく、1種または複数のBEA型構造のゼオライトの、1種または複数のCHA型構造範囲ゼオライトに対する質量比は、0.1〜10、好ましくは0.2〜7、より好ましくは0.3〜4、より好ましくは0.35〜2、より好ましくは0.4〜1、より好ましくは0.45〜0.5、さらにより好ましくは0.47〜0.48の範囲にあることが好ましい。本発明の特に好ましい実施形態によれば、BEA型ゼオライトのCHA型ゼオライトに対する質量比は、約0.475である。
【0039】
さらに、本発明の触媒中の1種または複数のMFI型構造のゼオライトをさらに含有する本発明の特定の実施形態によれば、前記1種または複数のMFI型構造のゼオライトの、1種または複数のCHA型構造のゼオライトおよび/または1種または複数のBEA型構造のゼオライトに対する任意の考えられる質量比を使用することができる。しかし、本発明によれば、1種または複数のBEA型構造のゼオライトおよび1種または複数のMFI型構造のゼオライトの全質量の、1種または複数のCHA型構造のゼオライトの質量に対する比は、0.1〜10、好ましくは0.2〜7、より好ましくは0.3〜4、より好ましくは0.35〜2、より好ましくは0.4〜1、より好ましくは0.45〜0.5、さらにより好ましくは0.47〜0.48の範囲にあるのが好ましい。本発明の特に好ましい実施形態によれば、BEA型ゼオライトとMFI型ゼオライトの合計質量の、CHA型ゼオライトに対する比は、約0.475である。
【0040】
したがって、本発明によれば、1種または複数のBEA型構造のゼオライトの1種または複数のCHA型構造のゼオライトに対する質量比、または
この触媒が1種または複数のMFI型構造のゼオライトを含む場合、1種または複数のBEA型構造のゼオライトおよび1種または複数のMFI型構造のゼオライトの全質量の、1種または複数のCHA型構造のゼオライトの質量に対する比は、
0.1〜10、好ましくは0.2〜7、より好ましくは0.3〜4、より好ましくは0.35〜2、より好ましくは0.4〜1、より好ましくは0.45〜0.5、さらにより好ましくは0.47〜0.48の範囲にあるのが好ましい。
【0041】
本発明によれば、1種または複数のBEA型構造のゼオライトおよび/または1種または複数のCHA型構造のゼオライトが、それらの骨格中にAlとSiの両方をそれぞれ含むのが好ましく、BEA型構造のゼオライトとCHA型構造のゼオライトの両方が、AlとSiの両方をそれらの骨格中にそれぞれ含むのがさらに好ましい。さらに、1種または複数のMFI型構造のゼオライトが、本発明の触媒中にさらに含有されている本発明の特定の実施形態によれば、前記1種または複数のゼオライトが、AlとSiの両方をそれらの骨格中に含むのが好ましく、前記実施形態によれば、1種または複数のCHA、BEA、およびMFI型構造のゼオライトが、AlとSiの両方をそれらのそれぞれの骨格中にそれぞれ含むのが特に好ましい。
【0042】
したがって、本発明によれば、1種または複数のゼオライト、より好ましくはすべてのゼオライトが、AlとSiの両方を、それらのそれぞれのゼオライト骨格中に含むのが好ましい。
【0043】
1種または複数のゼオライトがAlとSiの両方を、それらのそれぞれの骨格中に含む本発明の実施形態に関すると、前記ゼオライトは、原則として、AlとSiの任意の可能な比を示すことができる。しかし、1種または複数のBEA型構造のゼオライトがAlとSiの両方をそれらの骨格中に含む、本発明の実施形態では、1種または複数のBEA型構造中のシリカのアルミナに対するモル比(SAR)は、5〜150、より好ましくは15〜100、より好ましくは20〜50、より好ましくは、23〜30、さらにより好ましくは25〜27の範囲にあるのが好ましい。さらに、1種または複数のCHA型構造のゼオライトがAlとSiの両方をそれらの骨格中に含む、本発明の実施形態では、1種または複数のCHA型構造中のSARは、5〜100、好ましくは10〜70、より好ましくは20〜55、より好ましくは、25〜35、さらにより好ましくは28〜32の範囲にあるのが好ましい。1種または複数のBEA型構造とCHA型構造の両方のゼオライトが、AlとSiをそれらの骨格中にそれぞれ含む、本発明の特に好ましい実施形態によれば、1種または複数のBEA型ゼオライト中のSARは、5〜150の範囲にあり、また1種または複数のCHA型ゼオライト中のSARは、5〜100の範囲にあり、より好ましくは1種または複数のBEA型ゼオライト中のSARは、15〜100の範囲にあり、また1種または複数のCHA型ゼオライト中のSARは、10〜70の範囲にあり、より好ましくは1種または複数のBEA型ゼオライト中のSARは20〜50の範囲にあり、また1種または複数のCHA型ゼオライト中のSARは20〜55の範囲にあり、より好ましくは、1種または複数のBEA型ゼオライト中のSARは23〜30の範囲にあり、1種または複数のCHA型ゼオライト中のSARは25〜35の範囲にあり、さらにより好ましくは、1種または複数のBEA型ゼオライト中のSARは25〜27の範囲にあり、また1種または複数のCHA型ゼオライト中のSARは、28〜32の範囲にあるのがさらに好ましい。
【0044】
さらに、本発明の触媒が、それらの骨格中にAlおよびSiを含む、1種または複数のMFI型構造のゼオライトをさらに含む、本発明の好ましい実施形態によれば、前記ゼオライトは、原則として、AlのSiに対する任意の可能な比を示してもよい。したがって、例として、1種または複数のMFI型構造のゼオライト中のシリカのアルミナに対する比(SAR)は、5〜150のあたりの範囲とすることができ、SARは、15〜100、より好ましくは20〜50、より好ましくは23〜30、さらにより好ましくは25〜27の範囲にあるのが好ましい。さらに、MFI型とBEA型構造の両方が、AlとSiをそれらの骨格中にそれぞれ含む、その特に好ましい実施形態によれば、1種または複数のBEA型構造のゼオライト中のSARは、好ましくは5〜200、より好ましくは15〜150、より好ましくは25〜60、より好ましくは35〜45、さらにより好ましくは38〜42の範囲にある。前記特に好ましい実施形態によれば、1種または複数のBEA型ゼオライト中のSARは、5〜200の範囲にあり、また1種または複数のMFI型ゼオライト中のSARは、5〜150の範囲にあり、より好ましくは1種または複数のBEA型ゼオライト中のSARは、15〜150の範囲にあり、また1種または複数のMFI型ゼオライト中のSARは、15〜100の範囲にあり、より好ましくは1種または複数のBEA型ゼオライト中のSARは25〜60の範囲にあり、また1種または複数のMFI型ゼオライト中のSARは20〜50の範囲にあり、より好ましくは、1種または複数のBEA型ゼオライト中のSARは35〜45の範囲にあり、また1種または複数のMFI型ゼオライト中のSARは23〜30の範囲にあり、さらにより好ましくは、1種または複数のBEA型ゼオライト中のSARは38〜42の範囲にあり、また1種または複数のMFI型ゼオライト中のSARは25〜27の範囲にあるのが、やはりさらに好ましい。
【0045】
したがって、本触媒が1種または複数のMFI型構造のゼオライトを含む、本発明の特定のかつ好ましい実施形態によれば、1種または複数のBEA型構造のゼオライト中のシリカのアルミナに対するモル比(SAR)は、5〜200、より好ましくは15〜150、より好ましくは25〜60、より好ましくは、35〜45、さらにより好ましくは38〜42の範囲にあるのが、本発明によればさらに好ましい。
【0046】
BEA型および任意選択のMFI型ゼオライト中に含有している鉄、およびCHA型ゼオライトに含有している銅量に関すると、それらのそれぞれの量に関して、本発明による特定の限定は存在しない。しかし、1種または複数のBEA型構造のゼオライト中の鉄(Fe)の量は、前記1種または複数のBEA型構造のゼオライトの質量に対して、0.05〜15質量%の範囲で含まれ、より好ましくは、Fe量は、0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜7質量%、より好ましくは1〜5質量%、より好ましくは1.5〜3質量%、より好ましくは2〜2.8質量%、より好ましくは2.2〜2.6質量%、さらにより好ましくは2.3〜2.55質量%の範囲にあるのが、本発明により好ましい。さらに、1種または複数のCHA型構造のゼオライト中の銅(Cu)の量は、前記1種または複数のCHA型構造のゼオライトの質量に対して、0.05〜20質量%の範囲にあり、より好ましくは、Cu量は、0.1〜15質量%、より好ましくは0.5〜10質量%、より好ましくは1〜7質量%、より好ましくは1.5〜5質量%、より好ましくは2〜4質量%、より好ましくは2.5〜3.5質量%、より好ましくは2.7〜3.3質量%、より好ましくは2.9〜3.1質量%の範囲にあるのが、本発明により好ましい。
【0047】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、1種または複数のBEA型ゼオライト中の鉄量は、0.05〜15質量%の範囲にあり、また1種または複数のCHA型ゼオライト中の銅量は、0.05〜20質量%の範囲にあり、より好ましくは1種または複数のBEA型ゼオライト中の鉄量は、0.5〜7質量%の範囲にあり、また1種または複数のCHA型ゼオライト中の銅量は、0.5〜10質量%の範囲にあり、より好ましくは1種または複数のBEA型ゼオライト中の鉄量は1.5〜3質量%の範囲にあり、また1種または複数のCHA型ゼオライト中の銅量は1.5〜5質量%の範囲にあり、より好ましくは、1種または複数のBEA型ゼオライト中の鉄量は2.2〜2.6質量%の範囲にあり、また1種または複数のCHA型ゼオライト中の銅量は2.5〜3.5質量%の範囲にあり、さらにより好ましくは、1種または複数のBEA型ゼオライト中の鉄量は2.3〜2.55質量%の範囲にあり、また1種または複数のCHA型ゼオライト中の銅量は、2.9〜3.1質量%の範囲にある。
【0048】
さらに、本発明の触媒が、1種または複数のMFI型構造のゼオライトをさらに含有する本発明の特定の実施形態によれば、1種または複数のBEA型構造のゼオライト中および1種または複数のMFI型構造のゼオライト中の平均鉄(Fe)量は、前記1種または複数のゼオライトの質量に対して、0.05〜15質量%の範囲で含まれ、より好ましくは、Fe量は、0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜7質量%、より好ましくは1〜5質量%、より好ましくは1.5〜3質量%、より好ましくは2〜2.8質量%、より好ましくは2.2〜2.6質量%、さらにより好ましくは2.3〜2.55質量%の範囲にあるのが好ましい。特に、本発明の意味の範囲内では、1種または複数のBEA型構造およびMFI型構造のゼオライト中の平均鉄量は、BEA型構造とMFI型構造の両方の1種または複数のゼオライトの全質量に対して、BEAとMFI型構造の両方の1種または複数のゼオライト中の合計に含有されている鉄量を示している。
【0049】
したがって、本発明の好ましい実施形態によれば、1種または複数のBEA型構造のゼオライト中のFe量、または
本触媒が1種または複数のMFI型構造のゼオライトを含む場合、1種または複数のBEA型構造のゼオライト中、および1種または複数のMFI型構造のゼオライト中の平均Fe量は、
前記1種または複数のゼオライトの質量に対して、0.05〜15質量%の範囲にあり、好ましくはFe量は、0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜7質量%、より好ましくは1〜5質量%、より好ましくは1.5〜3質量%、より好ましくは2〜2.8質量%、より好ましくは2.2〜2.6質量%、さらにより好ましくは2.3〜2.55質量%の範囲にある。
【0050】
触媒が少なくとも部分的に鉄を含有している1種または複数のMFI型構造のゼオライトを含む本発明の特定のかつ好ましい実施形態によれば、MFI型およびBEA型ゼオライト中にそれぞれ含有している鉄量に関して、特に、前記MFI型およびBEA型ゼオライトの中で、MFI型ゼオライトとBEA型ゼオライトの両方に含有している鉄の総量の分布に関すると、特定の限定は存在しない。したがって、例として、前記特定のかつ好ましい実施形態によれば、1種または複数のBEA型構造のゼオライトに含有されている鉄量は、前記1種または複数のBEA型構造のゼオライトの質量に対して、0.01〜10質量%あたりの範囲とすることができ、また1種または複数のMFI型構造のゼオライト中の鉄量は、前記1種または複数のMFI型構造のゼオライトの質量に対して、0.1〜15質量%の範囲にある。しかし、本発明によれば、1種または複数のBEA型構造のゼオライト中に含有している鉄量は、0.05〜7質量%の範囲にあり、また1種または複数のMFI型構造のゼオライト中に含有している鉄量は、0.5〜10質量%の範囲にあり、より好ましくは1種または複数のBEA型構造のゼオライト中に含有している鉄量は、0.1〜5質量%の範囲にあり、また1種または複数のMFI型構造のゼオライト中に含有している鉄量は、1.0〜7.0質量%の範囲にあり、より好ましくは、1種または複数のBEA型構造のゼオライト中に含有している鉄量は、0.5〜2質量%の範囲にあり、また1種または複数のMFI型構造のゼオライト中に含有している鉄量は、2.5〜5.5質量%の範囲にあり、より好ましくは1種または複数のBEA型構造のゼオライト中に含有している鉄量は、1〜1.6質量%の範囲にあり、また1種または複数のMFI型構造のゼオライト中に含有している鉄量は、3.5〜4.2質量%の範囲にあり、さらにより好ましくは、1種または複数のBEA型構造のゼオライト中に含有している鉄量は、前記1種または複数のBEA型構造のゼオライトの質量に対して1.2〜1.4質量%の範囲にあり、1種または複数のMFI型構造のゼオライト中に含有している鉄量は、前記1種または複数のMFI構造のゼオライトの質量に対して、3.7〜4.0質量%の範囲にあるのが好ましい。
【0051】
したがって、本発明の特に好ましい実施形態によれば、本触媒は、1種または複数のMFI型構造のゼオライトを含み、
1種または複数のBEA型構造のゼオライト中のFe量は、前記1種または複数のゼオライトの質量に対して、0.01〜10質量%の範囲にあり、好ましくは1種または複数のBEA型構造のゼオライト中のFe量は、0.05〜7質量%、より好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.3〜3質量%、より好ましくは0.5〜2質量%、より好ましくは1〜1.6質量%、さらにより好ましくは1.2〜1.4質量%の範囲にあり、
1種または複数のMFI型構造のゼオライト中のFe量は、前記1種または複数のゼオライトの質量に対して、0.1〜15質量%の範囲にあり、好ましくは1種または複数のMFI型構造のゼオライト中のFe量は、0.5〜10質量%、より好ましくは1.0〜7.0質量%、より好ましくは2.5〜5.5質量%、より好ましくは3.5〜4.2質量%、さらにより好ましくは3.7〜4.0質量%の範囲にある。
【0052】
本発明によれば、本触媒は、例により、粉末、顆粒、またはモノリスの形態などの、任意の考えられる形態で提供することができる。この点において、本触媒が、1種または複数のゼオライトがその上に設けられている基材をさらに含むことが特に好ましい。一般に、基材は、当分野で一般に公知の材料から作製することができる。この目的のために、基材材料、特にコーディエライト、α−アルミナ、アルミノケイ酸塩、コーディエライト−アルミナ、炭化ケイ素、チタン酸アルミニウム、窒化ケイ素、ジルコニア、ムライト、ジルコン、ジルコンムライト、ケイ酸ジルコン、シリマナイト、ケイ酸マグネシウム、ペタライト、リシア輝石、アルミナ−シリカ−マグネシア、およびケイ酸ジルコニウム、ならびに多孔性高融点金属およびそれらの酸化物などのセラミック製およびセラミック様材料として、多孔性材料が好ましくは使用される。本発明によれば、「高融点金属」とは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、およびReからなる群から選択される1種または複数の金属を指す。基材はまた、セラミック製繊維コンポジット材料から形成されてもよい。本発明によれば、基材は、コーディエライト、炭化ケイ素から、および/またはチタン酸アルミニウムから、さらにより好ましくは、コーディエライトおよび/または炭化ケイ素から好ましくは形成される。
【0053】
本発明の実施形態の触媒に有用な基材は、天然の金属であってもよく、また1種または複数の金属もしくは金属合金からなっていてもよい。金属性基材は、波形板またはモノリシック形態などの様々な形状で使用することができる。適切な金属担体には、チタンおよびステンレス鋼などの耐熱性金属および金属合金、ならびに鉄が実質的または主成分である、他の合金が含まれる。こうした合金は、1種または複数のニッケル、クロムおよび/またはアルミニウムを含むことができ、またこれらの金属の総量は、有利には、合金の少なくとも15質量%、例えば、クロムを10〜25質量%、アルミニウムを3〜8質量%、およびニッケルを最大20質量%占めることができる。合金はまた、マンガン、銅、バナジウム、チタンなどの他の1種または複数の他の金属を少量または微量含有してもよい。表面または金属基材を高温、例えば1000℃以上で酸化して、基材の表面に酸化膜を形成することにより合金の耐腐食性を改善することができる。
【0054】
さらに、本発明による基材は、その上に存在するBEA型構造およびCHA型構造、ならびに任意選択でMFI型構造のそれぞれの1種または複数のゼオライトの少なくとも一部と液体接触することが可能な限り、任意の考えられる形状とすることができる。好ましくは、基材はモノリスであり、より好ましくは、モノリスは、フロースルーモノリスである。適切な基材には、触媒を調製するために通常使用されるこうした任意の材料が含まれ、通常、セラミック構造または金属ハニカム構造を含むことになる。したがって、モノリス基材には、経路が開口して液体が流れるよう(ハニカムフロースルー基材と呼ばれる)、基材表面の入口面から出口面まで延在している、微細な並行のガスフロー経路を含有している。それらの液体入口からそれらの液体出口まで本質的に直線の通路となっている経路は、1種または複数のBEA型構造およびCHA型構造、ならびに任意選択でMFI型構造のゼオライトがそれぞれ配列され、その結果、該経路を通って流れるガスがそれらと接触することができる壁によって定義される。モノリス基材のフロー経路は、台形、長方形、正方形、シヌソイド、六角形、卵形、または円形などの適切な任意の断面形状およびサイズとすることができる、薄壁チャンネルである。こうした構造は、断面の1平方インチあたり最大900個のガス入口開口部(すなわち、セル)を含有することができ、本発明によれば、構造は好ましくは、1平方インチあたり50〜600個の開口部、より好ましくは、300〜500個、さらにより好ましくは350〜400個を有する。
【0055】
したがって、本発明の好ましい実施形態によれば、本触媒は、好ましくは、1種または複数のゼオライトがその上に設けられているモノリス、より好ましくはハニカム基材である、基材を含む。
【0056】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、基材はウォールフローモノリスである。これらの実施形態に関すると、基材は、好ましくはハニカムウォールフローフィルター、ワインドまたは充填繊維フィルター、連続気泡ホーム、または焼成金属フィルターであり、ウォールフローフィルターが特に好ましい。等しく好ましいフロースルーモノリスに関すると、有用なウォールフロー基材は、該基材の長手軸方向にそって延在している、複数の微細な実質的に並行のガスフロー経路を有している。通常、各経路は、基材本体の一端で閉鎖されており、経路は交互に反対の末端面で閉鎖されている。本発明において使用するための特に好ましいウォールフロー基材には、薄い多孔性の壁で囲まれたハニカムモノリスが含まれ、これにより、背圧または本触媒にかかる圧力の過度の上昇を引き起こすことなく、液流が通過することができる。本発明において使用されるセラミック製ウォールフロー基材は、少なくとも40%、好ましくは40〜70%の多孔率を有し、かつ少なくとも5ミクロン、好ましくは5〜30ミクロンの平均孔径を有する材料から好ましくは形成される。さらに好ましいのは、少なくとも50%の多孔率を有し、かつ少なくとも10ミクロンの平均孔径を有する基材である。
【0057】
したがって、本発明によれば、本触媒中に好ましくは含まれる基材は、フロースルー基材およびウォールフロー基材からなる群から、より好ましくはコーディエライトのフロースルー基材およびウォールフロー基材、ならびに炭化ケイ素のフロースルー基材およびウォールフロー基材からなる群から好ましくは選択される。
【0058】
一般に、基材をさらに含む本発明の実施形態によれば、その上に任意の考えられる方法で本ゼオライトを設けることができ、本ゼオライトは、好ましくはウォッシュコート層である1種または複数の層の形態で、その上に好ましくは設けられている。本触媒が基材、およびそれらの上に設けられている2つ以上の層を含む本発明の好ましい実施形態では、該ゼオライトは、任意の可能な方法で、前記2つ以上の層に設けることができる。したがって、本発明には、例えば、2つ以上の層のたった1つの層にゼオライトが含有されているこうした好ましい実施形態、および2つ以上の層の2つ以上にゼオライトが含有されている実施形態が含まれる。しかし、好ましくは、ゼオライトは、基材上に存在する層数に関係なく、単一層中に含有されている。
【0059】
したがって、触媒が基材を含む本発明の好ましい実施形態によれば、触媒は、基材上に設けられている1種または複数の層、好ましくはウォッシュコート層を含み、ゼオライトは、単一層、または2つ以上の個別の層に含有され、好ましくは、該ゼオライトは、単一層に含有されているのがさらに好ましい。
【0060】
基材、およびその上に設けられている2つ以上の層を含み、ゼオライトが前記層の2つ以上に含有されている、本発明のさらなる実施形態では、前記ゼオライトを含む前記2つ以上の層の中で、1種または複数のBEA型構造およびCHA型構造のゼオライトの分布に関して、特定の限定はない。したがって、本発明によれば、例えば、BEA型およびCHA型ゼオライトは、ゼオライトを含有している層の各々にそれぞれ含有されていること、または、あるいは、ゼオライトを含有している層の一部だけが、BEA型とCHA型ゼオライトの両方を含有していることが、主に可能である。さらに、本発明の前記さらなる実施形態によれば、単一の層にはBEA型とCHA型ゼオライトの両方は含んでおらず、したがって、前記ゼオライトは触媒の個別の層に含有していることが可能である。しかし、本発明によれば、こうした実施形態では、少なくとも1つの層がBEA型とCHA型ゼオライトの両方を含有しているのが好ましく、ゼオライトを含有している前記実施形態の2つ以上の層の各々が、BEA型とCHA型ゼオライトの両方をやはり含有しているのがさらにより好ましい。
【0061】
さらに、触媒が1種または複数のMFI型構造のゼオライトをさらに含む本発明の特定の実施形態によれば、本触媒が、その上に設けられている1種または複数の層を有する基材を含む本発明の好ましい実施形態では、前記ゼオライトを含む2つ以上の層の中で、1種または複数のBEA型構造、CHA型構造、およびMFI型構造のゼオライトの分布に関して特定の限定はない。したがって、本発明によれば、例えば、BEA型、CHA型、およびMFI型ゼオライトは、ゼオライトを含有している層の各々にそれぞれ含有されていること、または、あるいは、ゼオライトを含有している層の一部だけが、BEA型、CHA型、およびMFI型ゼオライトの3つすべてを含有しているのが、主に可能である。さらに、本発明の前記さらなる実施形態によれば、単一の層にはBEA型、CHA型、およびMFI型ゼオライトの3つすべては含んでおらず、したがって、前記ゼオライトの1つまたは2つが、該触媒の個別の層に含有していることが可能である。しかし、本発明によれば、こうした実施形態では、少なくとも1つの層がBEA型、CHA型、およびMFI型ゼオライトの3つすべてを含有しているのが好ましく、ゼオライトを含有している前記実施形態の2つ以上の層の各々が、BEA型、CHA型、およびMFI型ゼオライトの3つすべてをやはり含有しているのがさらにより好ましい。
【0062】
したがって、触媒が、1種または複数のゼオライトがその上に設けられている基材を含む本発明の好ましい実施形態によれば、触媒は、基材上に設けられている1種または複数の層、好ましくはウォッシュコート層を含み、該ゼオライトは、単一層、または2つ以上の個別の層に含有され、好ましくは、該ゼオライトは、単一層に含有されているのが本発明によれば好ましい。
【0063】
原則として、1種または複数のBEA型構造、およびCHA型構造のゼオライトは、本発明による触媒の改善を得ることができる限り、任意の考えられる量で、触媒中にそれぞれ存在することができる。したがって、例として、1種または複数のCHA型構造のゼオライトは、0.5〜5g/in
3の範囲の担持量で触媒中に存在することができ、該担持量は、好ましくは0.9〜3.5g/in
3、より好ましくは1.2〜3g/in
3、より好ましくは1.5〜2.5g/in
3、より好ましくは1.75〜2.25g/in
3、さらにより好ましくは1.9〜2.1g/in
3の範囲にある。さらなる例として、およびそれらと独立して、1種または複数のBEA型構造のゼオライトは、0.05〜5g/in
3の範囲の担持量で触媒中に存在することができ、該担持量は、好ましくは0.1〜3g/in
3、より好ましくは0.3〜2.5g/in
3、より好ましくは0.5〜2g/in
3、より好ましくは0.7〜1.5g/in
3、より好ましくは0.8〜1.2g/in
3、さらにより好ましくは0.9〜1g/in
3の範囲にある。特に、BEA型およびCHA型ゼオライトのそれぞれの担持量は、特定のかつ好ましい担持量が、BEA型またはCHA型ゼオライトのどちらか一方に適用することができるという意味において、互いに独立することができ、他の型の構造に属する1種または複数のゼオライトの担持量は、それぞれ特に限定されず、したがって、任意の担持量で存在することができる。
【0064】
さらに、1種または複数のMFI型構造のゼオライトを含む本発明の特定のかつ好ましい実施形態によれば、1種または複数のBEA型、CHA型、およびMFI型構造のゼオライトは、本発明による触媒の改善を得ることができる限り、任意の考えられる量で触媒中にそれぞれ存在することができる。しかし、前記特定のかつ好ましい実施形態によれば、1種または複数のBEA型構造のゼオライトの総担持量および1種または複数のMFI型構造のゼオライトの総担持量は、0.05〜5g/in
3、より好ましくは0.1〜3g/in
3、より好ましくは0.3〜2.5g/in
3、より好ましくは0.5〜2g/in
3、より好ましくは0.7〜1.5g/in
3、より好ましくは0.8〜1.2g/in
3、さらにより好ましくは0.9〜1g/in
3の範囲にある。前記特に好ましい実施形態によれば、1種または複数のBEA型構造およびMFI型構造のゼオライトの各量に関して、特定の限定はない。したがって、例として、1種または複数のBEA型構造および/またはMFI型構造のゼオライトの各量は、0.025〜2.5g/in
3あたりの範囲とすることができ、好ましくは、1種または複数のBEA型構造および/またはMFI型構造のゼオライトは、0.05〜1.5g/in
3、より好ましくは0.15〜1.25g/in
3、より好ましくは0.25〜1g/in
3、より好ましくは0.35〜0.75g/in
3、より好ましくは0.4〜0.6g/in
3、さらにより好ましくは0.45〜0.5g/in
3の範囲にある。本発明の特に好ましい実施形態によれば、1種または複数のBEA型構造のゼオライトおよび1種または複数のMFI型構造のゼオライトは、本発明の触媒中に、それぞれ約0.475g/in
3の担持量で各々含有されている。
【0065】
さらなる例として、およびそれらと独立して、1種または複数のBEA型構造のゼオライトは、0.05〜5g/in
3の範囲の担持量で触媒中に存在することができ、該担持量は、好ましくは0.1〜3g/in
3、より好ましくは0.3〜2.5g/in
3、より好ましくは0.5〜2g/in
3、より好ましくは0.7〜1.5g/in
3、より好ましくは0.8〜1.2g/in
3、さらにより好ましくは0.9〜1g/in
3の範囲にある。特に、BEA型およびCHA型ゼオライトのそれぞれの担持量は、特定のかつ好ましい担持量が、BEA型またはCHA型ゼオライトのどちらか一方に適用することができるという意味において、互いに独立することができ、他の型の構造に属する1種または複数のゼオライトの担持量は、それぞれ特に限定されず、したがって、任意の担持量で存在することができる。
【0066】
したがって、本発明によれば、本発明の触媒において、1種または複数のBEA型構造の担持量、または、
本触媒が1種または複数のMFI型構造のゼオライトを含む場合、1種または複数のBEA型構造のゼオライト、および1種または複数のMFI型構造のゼオライトの総担持量は、
0.05〜5g/in
3、より好ましくは0.1〜3g/in
3、より好ましくは0.3〜2.5g/in
3、より好ましくは0.5〜2g/in
3、より好ましくは0.7〜1.5g/in
3、より好ましくは0.8〜1.2g/in
3、さらにより好ましくは0.9〜1g/in
3の範囲にあるのが好ましい。
【0067】
上記の触媒に加えて、本発明はまた、排出ガス流のための処理システムにも関する。特に、本発明の処理システムは、好ましくはリーンバーンエンジン、さらにより好ましくはディーゼルエンジンである、内燃機関を含む。しかし、本発明によれば、前記処理システムにおいて、リーンバーンガソリンエンジンを使用することも可能である。
【0068】
さらに、本発明による処理システムは、内燃機関と
流体連通している排出ガス管路を含む。この点で、内燃機関からの排出ガスを導入することが可能であり、かつ内燃機関、特にディーゼルエンジンなどのリーンバーンエンジンの温度およびその排出ガスに直面する化学種に十分耐性を示し得る限り、任意の考えられる管路を使用することができる。本発明の意味の範囲内では、排出ガス管路と内燃機関の間に設けられている
流体連通は、処理システムによりエンジンから管路への排出ガスの一定した経路を可能にすることを示している。
【0069】
本発明の排出ガス処理システムによれば、本触媒は排出ガス管路中に存在する。一般に、排出ガスが排出ガス管路を通過することによって、接触することができるという意味において、前記管路内に存在する限り、本触媒は排出ガス管路中に任意の考えられる方法で設けることができる。好ましくは、排出ガス管路中の、本出願において概説される基材上、特に好ましくはフロースルーまたはウォールフローハニカム基材のどちらか一方であるハニカム基材上に、本触媒が設けられる。
【0070】
したがって、本発明はまた、内燃機関、および内燃機関に液体連通している排出ガス管路を含む、排出ガス処理システムであって、本発明による触媒が、排出ガス管路中に存在し、内燃機関が、好ましくはリーンバーンエンジン、より好ましくはディーゼルエンジンである、排出ガス処理システムにも関する。
【0071】
この点において、およびそれと独立して、本発明はまた、本発明の触媒が、内燃機関、および内燃機関に液体連通している排出ガス管路を含む排出ガス処理システムに含まれている実施形態であって、前記触媒が、排出ガス管路中に存在し、内燃機関が、好ましくはリーンバーンエンジン、より好ましくはディーゼルエンジンである、実施形態にも関する。
【0072】
本発明の好ましい実施形態によれば、本排出ガス処理システムは、還元剤を排出ガス流に導入する手段をさらに含み、前記手段は、本発明のBEA/CHA−ゼオライト触媒より上流に位置している。特に、アンモニアおよび/または尿素を排出ガス管路に導入する手段が提供されることが好ましい。この点において、当業者に公知の任意の手段、特に前記還元剤の直接導入に必要な活性SCR法により作動する排出ガス処理システムに一般に適用されるものが提供され得る。特に好ましい実施形態によれば、好ましくはアンモニアおよび/または尿素を含む還元剤は、本発明の触媒より上流の排出ガス管路中に設けられる注入ノズルにより導入される。
【0073】
本発明の意味の範囲内において、本排出ガス処理システムは、排出ガスを効果的に処理するための任意のさらなる構成要素をさらに含むのが好適となり得る。特に、前記システムは、酸化触媒、もしくは触媒加工すすフィルター(CSF)、または酸化触媒とCSFの両方を好ましくはさらに含む。前記実施形態によれば、酸化触媒および/またはCSFも、排出ガス管路内に存在する。
【0074】
本発明では、排出ガス中に含有し得るすすを効果的に酸化することができる限り、いかなる適切なCSFも使用することができる。この趣旨で、本発明のCSFは、捕捉すすを燃焼し尽くすため、および/または排出ガス流の排出物を酸化するための1種または複数の触媒を含有しているウォッシュコート層により被覆されている基材を好ましくは含む。一般に、すす燃焼触媒は、すす燃焼用の任意の公知の触媒とすることができる。例えば、CSFは、未燃焼炭化水素およびある程度の微粒子物質を燃焼するため、1種または複数の高表面積の高融点酸化物(例えば、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、ジルコニア、およびジルコニアアルミナなど)により、および/または酸化触媒(例えば、セリア−ジルコニアなど)により被覆することができる。しかし、好ましくは、すす燃焼触媒は、1種または複数の貴金属触媒を含む酸化触媒であり、前記1種または複数の貴金属触媒は、白金、パラジウム、およびロジウムからなる群から選択される1種または複数の金属を好ましくは含む。
【0075】
CSFの代わりまたはそれに加えて、排出ガス処理システムに好ましくは含まれる酸化触媒に関すると、排出ガス中に含まれている未燃焼炭化水素、COおよび/またはNO
xを酸化するのに適したいかなる酸化触媒も、この趣旨で使用することができる。特に、1種または複数の貴金属触媒、より好ましくは白金、パラジウム、およびロジウムからなる群から選択される1種または複数の貴金属を含む酸化触媒が好ましい。排出ガス処理システムの内燃機関がディーゼルエンジンである本発明の特に好ましい実施形態によれば、酸化触媒は、好ましくはディーゼル酸化触媒である。特に、本発明の意味の範囲内において、「ディーゼル酸化触媒」とは、特に、温度、およびその処理システムにおいて直面するディーゼル排出ガスの組成物に関すると、ディーゼル排出ガスの酸化に特に良好に適合する任意の酸化触媒を指す。
【0076】
特に好ましい実施形態によれば、排出ガス処理システムは、CSF、さらにより好ましくはCSFと酸化触媒の両方をさらに含む。さらにより好ましくは、本排出ガス処理システムは、CSFおよびディーゼル酸化触媒をさらに含む。
【0077】
原則として、酸化触媒および/またはCSFをさらに含む排出ガス処理システムの実施形態では、前記さらなる構成要素は、排出ガスの有効な処理を実現し得る限り、排出ガス管路中、任意の順序およびその中の任意の配置場所に存在することができる。しかし、特に、前記さらなる構成要素の存在および/もしくは順序ならびに/または位置は、種類、状態、特にその温度および圧力、ならびに処理される排出ガスの平均組成に依存し得る。こうして、排出ガス処理システムの適用に応じて、本発明には、酸化触媒および/またはCSFが本発明のBEA/CHAゼオライト触媒より上流もしくは下流に位置する好ましい実施形態、ならびに酸化触媒とCSFの両方を含み、酸化触媒が上流にかつCSFがその下流に位置するか、またはその反対のCSFが上流にかつ酸化触媒がその下流に位置する好ましい実施形態が含まれる。本発明の特に好ましい実施形態によれば、酸化触媒および/またはCSFは、本発明のBEA/CHAゼオライト触媒より上流に位置し、さらにより好ましくは、本排出ガス処理システムは、本発明のBEA/CHAゼオライト触媒より上流に酸化触媒とCSFの両方を含む。本発明の意味の範囲内において、「上流」および「下流」とは、内燃機関と液体連通している排出ガス管路に通じる排出ガスの流れ方向に関する。
【0078】
こうして、本発明は、酸化触媒および/または触媒加工すすフィルター(CSF)をさらに含む、上記に定義されている排出ガス処理システムであって、酸化触媒および/またはCSFが、本発明のBEA/CHAゼオライト触媒より上流に好ましくは位置し、酸化触媒が、内燃機関がディーゼルエンジンである場合にディーゼル酸化触媒(DOC)である、排出ガス処理システムにも関する。
【0079】
さらに、上記に概説した通り、本排出ガス処理システムは、還元剤を排出ガス管路に導入する手段を好ましくはさらに含み、前記手段が、本発明のBEA/CHAゼオライト触媒より上流に位置している。特に、前記手段により、アンモニアおよび/または尿素を含む還元剤を排出ガス管路に導入することが可能になる。したがって、本発明は、内燃機関がディーゼルエンジンである場合に、本発明のBEA/CHAゼオライト触媒より上流にそれぞれ好ましくは位置している酸化触媒および/または触媒加工すすフィルター(CSF)をさらに含むことに加え、あるいはその代わりに、該酸化触媒がディーゼル酸化触媒(DOC)である排出ガス処理システムであって、アンモニアおよび/または尿素を好ましくは含む還元剤を排出ガス管路に導入する手段をさらに含み、前記手段が、本発明のBEA/CHAゼオライト触媒より上流に位置している、排出ガス処理システムにも関する。
【0080】
本発明のさらなる好ましい実施形態によれば、本排出ガス処理システムは、SCRにおいて未反応の過剰アンモニアおよび/または尿素を酸化するためのBEA/CHAゼオライト触媒の下流に位置するアンモニアスリップ触媒をさらに含む。好ましいアンモニアスリップ触媒に関すると、前記触媒は、前記過剰のアンモニアおよび/または尿素を効果的に酸化することができる限り、当分野で一般的に公知のあらゆる方法で排出ガス管路中に設けることができる。特に、前記好ましい実施形態は、上で定義した排出ガス管路に還元剤を導入する手段を含む、本発明による排出ガス処理システムを含む。
【0081】
触媒、および前記触媒を含む排出ガス処理システムに加えて、本発明はさらに、NO
xを含むガス流を処理する方法に関する。一般に、本発明の方法において、ガス流の状態と組成の両方が、本発明によるBEA/CHAゼオライト触媒と接触させる際に処理するのに適している限り、NO
xを含むどのような適切なガス流も使用することができ、好ましくは前記処理は、少なくとも一部において、前記ガス中に含有しているNO
xの少なくとも一部の選択触媒還元を含む。この目的のために、本発明の方法において使用されるガス流は、少なくとも1種の還元剤を好ましくは含有し、この還元剤は、好ましくはアンモニア、ならびに/または尿素および/もしくはカルバミン酸アンモニウムなどの任意のアンモニア前駆体であり、尿素が、好ましくはアンモニア前駆体に含まれる。しかし、本発明のさらなる実施形態によれば、使用されるガス流は、炭化水素および/または酸素化炭化水素などの炭化水素誘導体(例えば、自動車燃料中、ならびに/または自動車排出ガス、特にディーゼル燃料および/もしくはディーゼル排出ガス中に見ることができるものなど)も含むことができる。前記さらなる還元剤は、アンモニアに加えて、またはさらなる実施形態によるどちらかで本発明の方法で処理されるガス中に含有することができ、アンモニアの代わりにその中に含有させることもできる。しかし、本発明によれば、ガスは、特にSCRにより排出ガス排出を処理するための還元性作用剤として、アンモニアおよび/または尿素を含むことが特に好ましい。
【0082】
したがって、本発明はまた、本出願において定義されるNO
xを含むガス流の処理方法であって、ガス流がアンモニアおよび/または尿素を含む、方法にも関する。
【0083】
ガス流中の、アンモニアおよび/または尿素を好ましくは含む還元剤の含有量に関すると、前記ガス中のNO
xの少なくとも一部が、本発明のBEA/CHAゼオライト触媒に接触すると、SCRにより低下し得る限り、この点において特定の限定はない。しかし、前記含有量は、触媒によりNO
xの最大の転換に必要な還元剤の量にかなり由来しないことが好ましい。この点において、最大転換は、NO
xの最大量を反映し、NO
xは、本発明の方法において所与の時間点において、すなわち、触媒とその接触の際に処理されるガスの両方の実際の状態および条件に関連して、特に、還元剤の含有量に応じて、好ましくはその中に含有しているアンモニアおよび/または尿素の量に応じてSCRにより転換することができる。したがって、NO
xの最大転換は、還元剤、好ましくはアンモニアおよび/または尿素の最大量を反映し、これらは所与の時間点で、SCR過程においてNO
xと反応することができる。
【0084】
本発明の好ましい実施形態によれば、本発明の方法において使用されるガス流は、好ましくは、NO
xを含む排出ガス流である。この点で、本発明によるBEA/CHAゼオライト触媒による処理が適切である限り、こうした排出ガス流に導入する方法、またはこうした触媒による処理に適したガス流に処理され得る方法に関して、特定の限定はない。本発明の方法によれば、排出ガス流は、内燃機関から生じる、さらにより好ましくはリーンバーンエンジンから生じる排出ガス流であることがさらに好ましい。特に好ましい実施形態によれば、排出ガス流は、ディーゼルエンジン排出ガス流である。
【0085】
本発明による方法において、このガス流は、その処理のための本発明のBEA/CHAゼオライト触媒に接触され、前記接触は、触媒上にガス流を導入するか、またはこの触媒中にガス流を導入するかのどちらかにより実現される。しかし、前記接触はまた、本発明の触媒上とその中の両方にガス流を導入することにより実現することもできる。好ましい実施形態によれば、ガス流は、触媒上に導入され、この触媒は本目的のために、フロースルー基材を好ましくは含むか、またはこのガス流は触媒の中に導入され、この場合、この触媒は、ウォールフロー基材を好ましくは含む。しかし、ウォールフロー基材を使用する場合、過程条件、ならびに触媒の特定の形態および寸法に応じて、ガス流の少なくとも一部も触媒上に導入することができる場合がある。本発明の方法の特に好ましい実施形態によれば、本発明の方法において使用される触媒は、ウォールフローハニカム基材かフロースルーハニカム基材のどちらかを含む。
【0086】
したがって、本発明はまた、NO
xを含むガス流の処理方法であって、本発明によるBEA/CHAゼオライト触媒上および/またはその中に前記ガス流を導入することを含み、ガス流が、好ましくは排出ガス流、より好ましくは内燃機関から生じる排出ガス流、さらにより好ましくはディーゼル排出ガス流である、方法にも関する。
【0087】
本発明の方法において、ガス流中に含有されるNO
xの量に関して特定の限定はなく、好ましくは、本発明の方法において使用されるガス流中のその量は、排出ガスの全質量に対して、10質量%を超えず、より好ましくは1質量%を超えず、より好ましくは0.5質量%を超えず、より好ましくは0.1質量%、より好ましくは0.05質量%、より好ましくは0.03質量%、さらにより好ましくは0.01質量%を超えない。
【0088】
本発明の方法において処理されるガス流に含有されるNO
xフラクションの特定の組成に関すると、そこに含有される特定の亜酸化窒素ガスNO
xの種類または含有量に関して限定はない。しかし、本発明の特定の実施形態によれば、全NO
x含有量に対するNO
2含有量は、NO
x100質量%基準で80質量%以下であり、より好ましくは、NO
2含有量は、5〜70質量%の範囲、より好ましくは10〜60質量%、より好ましくは15〜55質量%、さらにより好ましくは20〜50質量%の範囲で含まれる。
【0089】
一般に、本出願に定義されている、本発明の方法において使用されるガス流の組成は、本発明の方法において使用する前、特に触媒によりその接触を行う前のガス流を指す。しかし、好ましくは、前記組成は、触媒に接触させる直前、すなわち触媒によるその化学転換により開始するその処理直前のガス流の組成のことを指す。
【0090】
したがって、本発明はまた、触媒をガス流に接触させる前のそのNO
2含有量が、NO
x100質量%基準で80質量%以下であり、好ましくはNO
2含有量が、5〜70質量、より好ましくは10〜60質量%、より好ましくは15〜55質量%、さらにより好ましくは20〜50質量%の範囲で含まれる、本出願において定義されるNO
xを含むガス流の処理方法にも関する。
【0091】
本発明による触媒は、従来技術において周知の方法により、容易に調製することができる。代表的な方法を以下に記載する。本明細書で使用する場合、用語「ウォッシュコート」は、ハニカム型担体部材などの基材担体材料に施用される触媒材料または他の材料からなる、薄い付着性の被覆物という、当分野における通常の意味を有するものであり、この部材は、好ましくは、処理されるガス流の通過を可能にするのに、十分多孔性のものである。
【0092】
触媒のいくつかのゼオライト成分は、触媒製造の当業者に容易に明白となる方法において、連続工程で、1種または複数の成分の混合物として基材に施用することができる。本発明の触媒を製造する通常の方法は、鉄(Fe)を含有している少なくとも1つのBEA型構造のゼオライト、銅(Cu)を含有している少なくとも1つのさらなるCHA型構造のゼオライト、および任意選択で、鉄(Fe)を含有している少なくとも1つのMFI型構造のゼオライトを、特に好ましいウォールスルーハニカム基材またはウォールフローハニカム基材の壁上に被覆物またはウォッシュコート層として、それぞれ準備することである。本発明のある種の好ましい実施形態によれば、ゼオライトは、基材上の単一ウォッシュコートに設けられる。
【0093】
しかし、本発明による触媒は、少なくとも1種の結合剤をさらに使用することにより好ましくは調製され、触媒製造の分野において、特に自動車用SCR触媒製造の分野において使用される任意の考えられる結合剤を使用することができる。この点において、シリカ−アルミナ結合剤は、例えば、本発明の触媒を調製するために好ましくは使用され、前記結合剤は、1種または複数のゼオライト成分と一緒に準備されてもよく、基材上の1種または複数の被覆物中、より好ましくは1種または複数のウォッシュコート層中のゼオライト成分と一緒に好ましくは準備される。
【0094】
本発明の触媒の調製に関すると、1つまたは恐らくはそれより多くのウォッシュコート層の成分は、スラリー、好ましくは水性スラリーにそれぞれ処理され得る。次に、基材は個々のウォッシュコートを施用するためのそれぞれのスラリーに逐次浸漬することができ、その後、過剰のスラリーは除去されて、基材壁上に2つ以上のスラリーの薄い被覆物がもたらされる。次に、被覆基材は乾燥され、好ましくは焼成されて、該基材壁の個々の成分の付着性被覆物をもたらす。こうして、例えば、基材上に第1のウォッシュコート層をもたらし、好ましくは該被覆基材を乾燥および/または焼成した後、得られた被覆基材は、次に、さらなるスラリーに浸漬されて、第1のウォッシュコート層上に堆積された第2のウォッシュコート層を形成することができる。やはり、次にこの基材は、乾燥および/または焼成されて、最終的に第3のウォッシュコートにより被覆され、続いて、この基材は、再び乾燥および/または焼成されて、本発明の一実施形態による、完成触媒をもたらすことができる。この方式で被覆される触媒の乾燥、洗浄、および焼成工程に関し、特に、被覆触媒を洗浄するために使用される溶媒および/または溶液に関し、ならびに、乾燥および焼成のそれぞれの工程において使用される温度、期間、および雰囲気に関し、これらの工程は、触媒製造の分野で周知の方法でそれぞれ行うことができる。焼成工程に関すると、特にSCRにおける使用に関して、触媒安定性の顕著なまたは実質的な劣化を何ら引き起こすことなく、触媒において望ましい変換をもたらす限り、任意の可能な温度をここでは使用することができる。こうして、ある種の場合には、焼成温度は700℃、好ましくは650℃、より好ましくは600℃を超えることはなく、さらにより好ましくは550℃を超えることはない。こうして、焼成は、例えば、500℃〜650℃、好ましくは550℃〜600℃、より好ましくは570℃〜590℃の範囲に含まれる温度で、さらにより好ましくは、575℃〜585℃の範囲に含まれる温度で行うことができる。
【0095】
しかし、上記の方法で本発明の触媒を調製する場合、その施用および任意選択の乾燥後に、ウォッシュコート層の洗浄を行わないことが好ましい。
【0096】
したがって、本発明の触媒は、
(a)少なくとも1つのBEA型構造のゼオライト、CHA型構造のゼオライトから選択される少なくとも1つのさらなるゼオライト、および任意選択で1種または複数のMFI型構造のゼオライトを準備する工程であって、1種または複数のBEA型構造のゼオライトの少なくとも一部は鉄を含有し、1種または複数のCHA型構造のさらなるゼオライトの少なくとも一部は銅を含有し、また、1種または複数のMFI型構造のゼオライト少なくとも一部は鉄を含有している、工程、
(b)1種または複数のゼオライトをそれぞれ含む、1種または複数のウォッシュコート組成物を調製する工程、
(c)基材上にもう1つのそれぞれの層に1種または複数のウォッシュコート組成物を施用する工程であって、乾燥工程が、任意選択で、1種または複数の個々の層のそれぞれの施用後に行われる、工程、
(d)任意選択で、被覆基材を洗浄および/または乾燥する工程であって、被覆基材が好ましくは洗浄されない工程、および
(e)任意選択で、被覆基材に焼成過程を施す工程
を含む方法に従って調製することができる。
【実施例】
【0097】
(実施例1)
CHA型構造のゼオライト(シリカのアルミナに対する比(SAR)が約30であり、かつCHA型ゼオライトの全質量に対して3質量%の銅を含有している)2g/in
3、BEA型構造のゼオライト(シリカのアルミナに対する比が約40であり、かつBEA型ゼオライトの全質量に対して1.3質量%の鉄を含有している)0.475g/in
3、MFI型構造のゼオライト(シリカのアルミナに対する比が約26であり、かつMFI型ゼオライトの全質量に対して3.8質量%の鉄を含有している)0.475g/in
3、およびジルコン結合剤0.1g/in
3を含む触媒組成物を調製した。
【0098】
(実施例2)
CHA型構造のゼオライト(シリカのアルミナに対する比(SAR)が約30であり、かつCHA型ゼオライトの全質量に対して3質量%の銅を含有している)2g/in
3、BEA型構造のゼオライト(シリカのアルミナに対する比が約26であり、かつBEA型ゼオライトの全質量に対して2.3質量%の鉄を含有している)0.95g/in
3、およびジルコン結合剤0.1g/in
3を含む触媒組成物を調製した。
【0099】
(比較例3)
CHA型構造のゼオライト(シリカのアルミナに対する比(SAR)が約30であり、かつCHA型ゼオライトの全質量に対して3質量%の銅を含有している)1.35g/in
3、MFI型構造のゼオライト(シリカのアルミナに対する比が約26であり、かつMFI型ゼオライトの全質量に対して3.8質量%の鉄を含有している)1.35g/in
3、およびシリカ−アルミナ結合剤0.3g/in
3を含む触媒組成物を調製した。
【0100】
SCR性能試験
SCR触媒の脱NO
x性能を、MVEG(自動車排気ガスグループ)サイクルとも呼ばれる新ヨーロッパドライビングサイクルを使用して、一過性状態で評価した。特に、試験条件は、排出ガス流のNO
xフラクションが、全NO
x含有量基準で30質量%未満のNO
2を含むようなものとした。
【0101】
試験に関すると、実施例1および実施例2、ならびに比較例3による触媒組成物は、それぞれ2.5Lの体積、セル密度400個/平方インチ、および約100μm(4ミル)の壁厚を有する5.66”×5.66”×6”のフロースルーハニカム基材上に被覆した。次に、この方式で調製した触媒試料を、試験触媒より上流にそれぞれ位置しているディーゼル酸化触媒(DOC)、および触媒加工すすフィルター(CSF)による排出ガス処理システムで試験した。
【0102】
NEDC触媒試験からの結果を
図1に示している。こうして、前記図から分かる通り、CHAおよびBEA型ゼオライトを組み合わせて含有する実施例1および実施例2による本発明の触媒は、CHA型ゼオライトしか含有していない比較例3の触媒試料と比較して、明確な性能改善を示している。特に、NO
x排出物レベルをNEDC試験期間の関数としてプロットした、
図1に示されている結果を考察すると、本発明の実施例1および実施例2により、古いヨーロッパドライビングサイクル(ECE−15)に対応する0〜800sの期間中と、より高い空間速度およびより高いNO
x物質流が関与するドライビングサイクルのエクストラアーバン部分に相当する800〜1200sの試験期間中の両方において、比較例3と比較して優れた転換性能が示されている。
【0103】
したがって、本発明による触媒は、比較例3による触媒と比較して、SCRの明確な優れた性能を示し、こうして、特に、NEDC試験に反映される通り、自動車の使用に直面する実際のドライビング条件に良好に適合することを示している。特に、これらの優れた結果は、本発明の触媒により定義される、CHA型およびBEA型ゼオライト材料の特定の組合せ使用に起因し得る。