特許第6348308号(P6348308)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6348308
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】光老化予防剤又は改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/40 20060101AFI20180618BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20180618BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20180618BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20180618BHJP
   A23L 33/19 20160101ALI20180618BHJP
【FI】
   A61K38/40
   A61P17/00
   A61K8/64
   A61Q19/08
   A23L33/19
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-67862(P2014-67862)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-189700(P2015-189700A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2017年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日暮聡志
(72)【発明者】
【氏名】吉瀬蘭エミリー
(72)【発明者】
【氏名】加藤晴彦
(72)【発明者】
【氏名】浦園浩司
(72)【発明者】
【氏名】小林敏也
【審査官】 石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−119983(JP,A)
【文献】 特開2011−246458(JP,A)
【文献】 特開2013−075927(JP,A)
【文献】 J.Dairy Sci.,2013年12月18日,Vol.97,No.2,pp.651-658
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00−38/58
A23L 33/00−33/29
A61K 8/00− 8/99
A61P 17/00
A61Q 19/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトフェリン1分子あたり鉄3〜200分子を結合させた鉄結合型ラクトフェリンを有効成分とする皮膚光老化予防又は改善剤。
【請求項2】
請求項1に記載の皮膚光老化予防又は改善剤を配合した、皮膚光老化予防又は改善用栄養組成物又は飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に経口摂取することにより、紫外線暴露による皮膚への障害を予防又は改善し、光老化の諸症状であるしわの形成、弾力性の低下等に有効である、安定性及び安全性に優れた光老化予防剤又は改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本は超高齢社会に突入し、世間の抗老化に対する関心が益々高くなっている。なかでも皮膚の老化は、しわやシミなどの見栄えの悪さといった美容面での問題を引き起こすだけでなく、皮膚の乾燥によるかゆみやひび割れ、肌荒れ、さらには腫瘍の発生などQOL(生活の質)の低下に繋がると認識されている。一般的に皮膚の老化には、加齢に伴う生理的な自然老化と、慢性に紫外線に暴露された結果生じる光老化が知られているが、特に、後者は顔や手などの露出部に顕著な老化症状を呈することからその対策に注目が集まっている。
【0003】
一般的に、自然老化により、皮膚の表皮では、表皮基底細胞の増殖性が低下することによる菲薄、及び、角質層のターンオーバー期間の延長による肥厚が認められる。一方、真皮では、繊維芽細胞の機能低下によるコラーゲンの減少、及び、弾性線維の走行の不規則化などの変化が認められる。これらの変化により、皮膚は薄く、粗造化し、柔軟性が低下して表在性の比較的浅いしわが形成される。
【0004】
一方、光老化による皮膚の変化は、自然老化による変化とは異なる。光老化の場合、長期間紫外線に繰り返し暴露された顔面、頸部、手背などの皮膚は、色が黄ばみ、種々の色素斑が増え、乾燥状態を呈し、皮膚の光沢がなくなり、太くて深いしわが形成される。これら光老化において特徴的に認められる変化の要因は、表皮の肥厚や真皮における日光性弾力線維変性(solar elastosis)と呼ばれる異常な膠原線維・弾性繊維の蓄積などである。
(非特許文献1、アンチエイジングシリーズ2、皮膚の抗老化最前線)。
光老化に特徴的な太くて深いしわの形成には、コラーゲン、エラスチン、グルコサミノグリカンなどの真皮マトリックスの量的な変化だけでなく、質的な変化が関与することが知られている。紫外線の曝露により、真皮マトリックスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinase; MMP)が過剰発現・活性化し、真皮マトリックスが破壊される。その状態が慢性的に続くことにより、真皮マトリックスが不十分な修復を繰り返し受けた結果、変性した真皮マトリックスが蓄積し、深いしわが形成される。特に、エラスチンは、紫外線照射により誘導されるエラスチン分解酵素であるエラスターゼの作用によりその直線性が失われて湾曲化することが知られている。また、エラスチンが変性もしくは消失する病態の「Mid−dermal elastolysis」においては、コラーゲンの状態が正常であるにもかかわらず、しわの形成が進行することが知られている。これらのことから、光老化においては、エラスチンの三次構造の変化が皮膚の弾力性を低下させてしわを形成する主要な要因と考えられており(非特許文献2、3)、コラーゲンの産生機能を改善させるだけでは光老化によるしわの形成や弾力性の低下に対応するのに不十分である。
光老化を予防するために、主としてサンスクリーン剤が使用されている。しかし、コラーゲンを分解してしわの形成に関わるとされるMMPは、真夏の太陽を5分間浴びるだけで遺伝子およびタンパク質発現が亢進することが知られており、サンスクリーン剤を適正に使用したとしても光老化を完全に防ぐことは不可能とされる。
【0005】
ラクトフェリン類は、哺乳類の乳等の分泌液から分離される鉄結合性タンパク質であり、鉄吸収促進作用、抗炎症作用、過酸化脂質生成抑制作用、免疫系の制御作用等様々な生理機能を有していることが報告されている。特許文献1では、塗布することにより紫外線を防ぐことができるラクトフェリンを含有する紫外線防御剤が提案されている。また、特許文献2では、ラクトフェリンを含有するアトピー性皮膚炎予防/改善剤が提案されている。さらに、特許文献3では、ラクトフェリンを含有するコラーゲン産生促進剤が提案されている。また、非特許文献4によると、ラクトフェリンの継続的な摂取により、紫外線暴露による皮膚の肥厚が抑制されることが示されている。
一方、ラクトフェリンはタンパク質であり、経口摂取後、胃の消化作用によって分解されるとの認識が一般的であり、一部の機能については標的組織に到達する前にその機能が消失することが報告されている(非特許文献5)。そのため、ラクトフェリンの有する機能性を効率的に発揮させることを期待し、特許文献4のように、経口医薬品に多く見られる腸溶性加工を施したラクトフェリンの検討も進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−073760
【特許文献2】特開2010−229101
【特許文献3】特開2003−144095
【特許文献4】特開2008−44879
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】アンチエイジングシリーズ2、皮膚の抗老化最前線
【非特許文献2】マテリアルライフ、7巻、2号、66頁、1995年
【非特許文献3】Skin Cancer, 18(2), 157−164, 2003
【非特許文献4】International dairy journal, 97(2), 1−8, 2014
【非特許文献5】British Journal of Nutrition, 105(2), 200−211, 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
皮膚への紫外線暴露を防ぐために、サンスクリーン剤を塗布することが一般的であるが、それだけでは光老化を完全には防ぐことはできない。そこで、皮膚に到達した紫外線による影響を、体内に取り込んだ成分により予防したり改善したりするという概念から、光老化を防止および改善することが出来る効果を示す食品成分が求められている。
また、ラクトフェリンには、非特許文献4にあるように、紫外線暴露による皮膚への影響を抑制する効果が認められているが、その効果を効率よく得るためには、特許文献4のように、胃液によるラクトフェリンの分解を回避するため、医薬品に汎用されている腸溶性に加工する特殊な技術が必須とされている。腸溶性に加工することにより高価な医薬品や特殊用途のサプリメントへの応用に限定され、一般的な飲食品への応用は困難であることが問題となっている。
【0009】
従って、本発明は、副作用がなく、特殊な腸溶性加工技術を用いることなく、光老化の諸症状、特に紫外線暴露によるしわの形成の抑制、また弾力性の低下に対して有効な光老化予防又は改善剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討を進めたところ、鉄結合型ラクトフェリンを経口摂取することで紫外線暴露による弾力性の低下や皮膚の肥厚、しわの形成を抑制し、光老化予防又は改善効果を有することを見出した。鉄結合型ラクトフェリンは、ラクトフェリン1分子あたり鉄3〜200分子を結合させることにより、耐熱性・耐消化性の向上を図ったものである。鉄結合型ラクトフェリンは、ラクトフェリンと比較して体内における安定性が高いことから、腸溶性などに加工する必要がなく、少ない量で効果を発揮することができる。また、溶解性及び保存安定性に優れ、幅広い用途特性を有することから、飲食品や飼料へ応用することもでき、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明に係る光老化予防又は改善剤の好ましい態様は以下の通りである。
(1)鉄結合型ラクトフェリンを有効成分とする光老化予防又は改善剤。
(2)(1)に記載の皮膚光老化予防又は改善剤を配合した栄養組成物、飲食品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光老化の諸症状、特に紫外線暴露による皮膚肥厚および弾力性の低下ならびにしわの形成に対して有効な光老化予防又は改善剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、後述の実施形態の記載により限定されるものではなく、特許請求の範囲における記載の範囲内で種々の変更が可能である。
【0014】
本発明に用いられるラクトフェリンは、その由来は特に限定されないが、ウシ、ヒトなどの哺乳動物の乳、又はこれらの乳を加工して得られる脱脂乳、ホエイなどからイオン交換クロマトグラフィーなどにより分離して得られるものが好ましい。また、ラクトフェリンが完全に単離されている必要はなく、他の成分が含まれていても構わない。さらに、微生物、動物細胞、トランスジェニック動物等から遺伝子操作により産生されたラクトフェリンも使用することが可能である。
【0015】
さらに、血液や臓器等から分離されるトランスフェリンや卵等から分離されるオボトランスフェリン等もラクトフェリンと同様に使用することができる。これらのラクトフェリン類については、既に大量に調製する方法がいくつも知られており、どのような方法で調製されたラクトフェリン類でもよい。また、ラクトフェリン類は、完全に単離されている必要はなく、他の成分が含まれていても構わない。さらに、微生物、動物細胞、トランスジェニック動物等から遺伝子操作により産生されたラクトフェリン類も使用することが可能である。そして、ラクトフェリン類をトリプシン、ペプシン、キモトリプシン等の蛋白分解酵素により、或いは、酸やアルカリにより分解したラクトフェリン類分解物もラクトフェリン類として使用することができる。
【0016】
また、鉄結合型ラクトフェリンを製造する際に原料として使用できる鉄としては、硫酸第一鉄、グルコン酸第一鉄、乳酸鉄、クエン酸鉄、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第一鉄、ピロリン酸第二鉄、塩化第二鉄、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄等を例示することができる。
【0017】
本発明の光老化予防又は改善剤は、鉄結合型ラクトフェリンを有効成分とするものであるが、他の栄養成分、例えばカルシウム、マグネシウム、ビタミンD、ビタミンK、各種オリゴ糖等を併せて配合しても構わない。
また、鉄結合型ラクトフェリンをそのままあるいは必要に応じて他の公知の添加剤、例えば賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、抗酸化剤、コーティング剤、着色剤、矯味矯臭剤、界面活性剤、可塑剤等を混合して、常法により顆粒剤、散剤、カプセル剤、錠剤、ドライシロップ剤、液剤等の経口製剤とすることができる。賦形剤としては、例えばマンニトール、キシリトール、チルセルロースナトリウム、リン酸水素カルシウム、小麦デンプン、米デンプン、トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、デキストリン、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、カルボキシビニルポリマー、軽質無水ケイ酸、酸化チタン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、中鎖脂肪酸トリグリセリド等が挙げられる。ドリンク剤の場合、必要に応じて他の生理活性成分、ミネラル、ビタミン、栄養成分、香料等を混合することにより、嗜好性を持たせることもできる。
【0018】
鉄結合型ラクトフェリンは、調製した直後の状態である液状のまま用いることもできるし、更に、凍結乾燥や噴霧乾燥等によって乾燥を行い粉末化したものも配合することができる。
光老化予防又は改善効果を発揮させるためには、鉄結合型ラクトフェリンの摂取量は、体重や年齢等を考慮して適宜決定すればよいが、通常成人の場合、ラクトフェリンを1日当たり、10〜6,000mg、好ましくは100〜2,000mg、更に好ましくは150〜1,000mg、より好ましくは150〜900mg、特により好ましくは150〜300mg未満を摂取できるよう配合量等を調整すればよい。
【0019】
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明についてより詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
本試験で用いるラクトフェリンはTATUA社製のものを用いた。
【実施例1】
【0020】
(鉄結合型ラクトフェリンの調製)
ラクトフェリン90g、塩化第二鉄6水和物20g、重炭酸ナトリウム5gを水10リットルに溶解し、鉄結合型ラクトフェリン溶液を調製した。この溶液を分子量5,000カットの限外濾過膜で脱塩及び濃縮した後、水を加えて容量10リットルの鉄結合型ラクトフェリン溶液とした。本溶液の凍結乾燥物を鉄結合型ラクトフェリン粉末とした。これはそのまま本発明の光老化予防又は改善剤として使用し得るものである。
【0021】
[試験例1]
(皮膚光老化の評価)
4週齢のHRMメラニン含有ヘアレスマウス(日本SLC株式会社)を36匹入手し、UVBを照射せずラクトフェリン及び鉄結合型ラクトフェリン(以下ラクトフェリン等と呼ぶ)を投与しないUV非照射群、UVBを照射するがラクトフェリン等は投与しないコントロール群、UVBを照射してラクトフェリンを経口投与するラクトフェリン群、UVBを照射して鉄結合型ラクトフェリンを経口投与する鉄結合型ラクトフェリン群の9匹ずつ4群にわけた。
UV非照射群を除く各群のマウスに、15週間UVBランプ(T‐15M、15W、ピーク波長312nm、家田紡績株式会社)を隔日照射した。UVB照射は、低容量から開始し、徐々に照射量を増やした。具体的には、1週目は36mJ/cm、2〜4週目は54mJ/cm、5〜7週目は72mJ/cm、8〜10週目は108mJ/cm、11〜15週目は144mJ/cm照射した。並行して、ラクトフェリン等を摂取する群には、ラクトフェリン等を含有する水溶液を、ラクトフェリン等の摂取量が体重1kgあたり1000mgとなるように、1日に朝夕2回ゾンデにて経口投与した。なお、UV非照射群およびコントロール群には水のみを投与した。皮膚光老化の評価は、背部における皮膚の肥厚の変化および弾力性(皮膚の伸び)の変化、しわ形成について行った。結果は、統計処理ソフトを用いて処理し、Dunnett型の多重比較によりコントロール群とそれ以外の群との差をそれぞれ検定した。
【0022】
皮膚の肥厚および弾力性は3週間ごとに測定した。図1に皮膚の肥厚、図2に弾力性の結果を示す。試験開始3週目から、UV非照射群に比べ、コントロール群で皮膚の肥厚、弾力性の低下が認められ、UVBの継続的な照射により光老化が誘発されていることが確認された。さらに、その他の実験群の比較を行ったところ、ラクトフェリン群および鉄結合型ラクトフェリン群のいずれも、コントロール群に比べて皮膚の肥厚ならびに弾力性の低下が抑制された。これらの結果から、ラクトフェリン等には皮膚の光老化を抑制する効果があることがわかった。また、この皮膚の光老化を抑制する効果は、鉄結合型ラクトフェリンを用いることにより、より早期に発揮されることが明らかとなった。
【0023】
皮膚のしわについては、試験開始15週目に撮影した写真を用いて、Bissettらの方法(Photochemistry and Photobiology、 46巻、367頁、1987年参照)に準じてしわ形成の度合いをグレード0からグレード3までの4段階でスコア化した。しわの大きさおよび深さを肉眼で総合的に評価し、「大きく深いしわが確認できる」を3、「しわが確認できる」を2、「しわが確認できない」を1、正常なキメが観察される」を0とした。
図3にしわスコアの結果を示す。UV非照射群に比べコントロール群でしわスコアが増加し、UVBの照射により光老化が誘発され、しわが形成されたことが示された。さらに、その他の実験群の比較を行ったところ、ラクトフェリン群および鉄結合型ラクトフェリン群のいずれも、コントロール群に比べてしわスコアが低下した。この結果から、ラクトフェリン等には皮膚の光老化におけるしわの形成を抑制する効果があることがわかった。また、この皮膚の光老化におけるしわの形成を抑制する効果は、鉄結合型ラクトフェリンを用いることにより、より効果的に発揮されることが明らかとなった。
【0024】
[試験例2]
鉄結合型ラクトフェリンの腸溶性ラクトフェリンに対する優位性を確認するための細胞実験を行った。
体内では、鉄結合型ラクトフェリン及び腸溶性ラクトフェリンは、胃の消化酵素であるペプシンによる消化を受けず、小腸の消化酵素であるトリプシンの消化を受ける。体内の作用を再現する為に、トリプシンに反応させた鉄結合型ラクトフェリン及び腸溶性ラクトフェリンを試験2に用いた。
皮膚が紫外線に暴露されることにより、皮膚の表皮角化細胞からサイトカインが分泌される。そのサイトカインが真皮繊維芽細胞に作用することによって、エラスターゼが活性化される。エラスターゼ活性を測定することにより、紫外線による皮膚のダメージを推測する事が出来る。そこで、表皮角化細胞にUVBを照射してサイトカイン分泌を誘導した後に、培養上清液を鉄結合型ラクトフェリンまたは腸溶性ラクトフェリンと共に真皮繊維芽細胞に添加し一定時間保持し、エラスターゼ活性を評価した。
【0025】
(表皮角化細胞の培養上清の準備)
ヒト成人由来表皮角化細胞を専用培地で常法に従い培養した後、培地をPBSに交換してUVBを80mJ/cm照射した。照射後、PBSを取り除き、培地を添加して再度培養した。72時間後に培養上清を回収し、UVB照射培養上清とした。さらに、上記工程からUVB照射工程を除いた工程によりUVB非照射培養上清を得た。
【0026】
(エラスターゼ活性の評価)
予め、ヒト新生児由来真皮繊維芽細胞を常法に従い培養し、血清を含まない培地で馴化させた。その新生児由来真皮繊維芽細胞を、UVB非照射培養上清(UVB非照射群)、UVB照射培養上清(コントロール群)、鉄結合型ラクトフェリンを添加したUVB照射培養上清(鉄結合型ラクトフェリン群)、鉄結合型ラクトフェリンのトリプシン消化物を添加したUVB照射培養上清(トリプシン消化鉄結合型ラクトフェリン群)、ラクトフェリンを添加したUVB照射培養上清(ラクトフェリン群)、またはラクトフェリンのトリプシン消化物を添加したUVB照射培養上清(トリプシン消化ラクトフェリン群)で1日培養した。その後、細胞中のエラスターゼ活性を測定した。エラスターゼ活性は、N−スクシニル−Ala−Ala−Ala−p−ニトロアニリドを基質として、反応液中に遊離するp−NA量として評価した。
【0027】
結果を図4に示す。UVB照射によってエラスターゼ活性が亢進し、鉄結合型ラクトフェリンによりその亢進が抑制されることが示された。また、トリプシンを反応させた鉄結合型ラクトフェリンも同様にエラスターゼ活性を抑制した。さらに、鉄結合型ラクトフェリンは、ラクトフェリンおよびトリプシンを反応させたラクトフェリンと比較しエラスターゼ活性の抑制効果が大きいことが分かった。このことから、鉄結合型ラクトフェリン及び腸溶性ラクトフェリンが真皮繊維芽細胞に作用することで、UVB照射により誘導されるエラスチンの分解を抑制し、弾力性の維持に寄与することがわかった。さらに、その効果は腸溶性ラクトフェリンよりも鉄結合型ラクトフェリンの方が優れていることが示された。
【実施例2】
【0028】
(栄養組成物の製造)
実施例1で調製した鉄結合型ラクトフェリン粉末とカルシウムとを配合し、タブレットを製造した。すなわち、炭酸カルシウム20%、鉄結合型ラクトフェリン粉末10%、マルトース40%、エリスリトール16%、ソルビトール2%、香料4%、甘味料0.5%、賦形剤5%、滑沢剤2.5%の組成で原料を混合し、常法により打錠し、光老化予防又は改善用タブレットを製造した。
【実施例3】
【0029】
(飲食品の製造)
実施例1で調製した鉄結合型ラクトフェリンを配合した清涼飲料水を調製した。すなわち、組成が鉄結合型ラクトフェリン粉末0.2%、50%乳酸溶液0.12%、マルチトール7.5%、香料0.2%、水91.98%である原料を混合し、プレート殺菌機を用いて90℃、15秒間殺菌し、光老化予防又は改善用清涼飲料水を製造した。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】試験開始からの期間と、マウス皮膚の肥厚の変化を示した図である。
図2】試験開始からの期間と、マウス皮膚の弾力性の変化を示した図である。
図3】試験開始から15週目における皮膚のしわスコアを示した図である。
図4】皮膚繊維芽細胞中のエラスターゼ活性を示した図である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の鉄結合型ラクトフェリンを有効成分とする光老化予防又は改善剤は、紫外線暴露による皮膚の障害を緩和するために有効である。
図1
図2
図3
図4