(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内燃機関の排ガス経路中に配置される触媒により前記内燃機関からの排ガスを浄化する排ガス浄化装置であって、前記触媒は、請求項1ないし3のいずれか1項記載の窒素酸化物浄化触媒を含有することを特徴とする内燃機関の排ガス浄化装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の窒素酸化物浄化触媒及び排ガス浄化フィルタを実施するための形態について説明する。なお、この形態は発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0018】
[窒素酸化物浄化触媒]
本発明の一実施形態の窒素酸化物(NO
x)浄化触媒は、炭化ケイ素粒子の表面にイリジウム粒子が担持された触媒であって、このイリジウム粒子が炭化ケイ素粒子の表面に形成されたSiO
xC
y(ただし、0<x≦3、0≦y≦3)を含む非晶質の酸化物層により部分的に覆われた状態で担持されているNO
x浄化触媒である。
【0019】
図1は、本実施形態の窒素酸化物(NO
x)浄化触媒の一種である触媒粒子1を示す断面図である。この触媒粒子1は、炭化ケイ素粒子2の表面にイリジウム粒子3が担持され、イリジウム粒子3が炭化ケイ素粒子の表面に形成されたSiO
xC
y(ただし、0<x≦3、0≦y≦3)を含む非晶質の酸化物層4により部分的に覆われた状態で炭化ケイ素粒子2の表面に担持されている構造を有する。
本実施形態の触媒粒子1は、炭化ケイ素粒子2の表面にイリジウム粒子3が1個のみ担持されていてもよく、2個以上担持されていてもよい。
【0020】
炭化ケイ素粒子2としては、平均一次粒子径が0.01μm以上かつ5μm以下が好ましく、より好ましくは0.02μm以上かつ3μm以下、さらに好ましくは0.035μm以上かつ1μm以下である。
ここで、炭化ケイ素粒子2の平均一次粒子径が0.01μm未満では、この触媒を高温下で使用した際に、この炭化ケイ素粒子2の表面活性が高くなり過ぎてしまい、触媒粒子1同士のシンタリング(粒成長)が進行して粒子径が粗大となり、触媒活性が低下するので好ましくない。一方、炭化ケイ素粒子2の平均一次粒子径が5μmを超えると、炭化ケイ素粒子2の比表面積が減少するために、炭化ケイ素粒子2の表面上に形成される酸化物層4の絶対量が減少するため、酸化物層4により吸着できる排ガス中の酸素量が減少し、その結果イリジウム粒子3に対しても排ガス中の酸素が作用するようになるためにイリジウム粒子3の表面が酸化してしまい、触媒活性が低下するので好ましくない。
【0021】
このような炭化ケイ素粒子の内、ナノメートルサイズの粒子(炭化ケイ素ナノ粒子)を得るための好ましい方法としては、非酸化性雰囲気下にて、高温、高活性を有し、高速冷却プロセスの導入が容易である熱プラズマを利用した熱プラズマ法が挙げられる。この製造方法は、平均一次粒子径が5nm〜100nm程度の結晶性に優れた炭化ケイ素ナノ粒子を製造する方法として有用である。また、この製造方法によれば、高純度の原料を選択することにより、不純物の含有量が極めて少ない炭化ケイ素ナノ粒子を得ることが可能である。
【0022】
また、炭化ケイ素ナノ粒子の製造方法として、シリカ前駆体焼成法も挙げることができる。この方法は、有機ケイ素化合物、ケイ素ゾル、ケイ酸ヒドロゲル等のケイ素を含む物質と、フェノール樹脂等の炭素を含む物質と、炭化ケイ素の粒成長を抑制するリチウム等の金属化合物とを含む混合物を、非酸化性雰囲気下にて焼成することにより、炭化ケイ素粒子を得る方法である。
【0023】
また、サブミクロンからミクロン(マイクロメートル)サイズの炭化ケイ素粒子を得る方法としては、アチソン法、シリカ還元法、シリコン炭化法などの工業的製法を挙げることができる。なおこれらの方法は、既に工業的に確立していることから、その説明は省略する。
【0024】
酸化物層4は、イリジウム粒子3を炭化ケイ素粒子2の表面に担持させるとともに、酸化性雰囲気中にて炭化ケイ素粒子2の表面の一部を酸化することにより、イリジウム粒子3及び炭化ケイ素粒子2上に生成する酸化物層であることが好ましい。この酸化物層4により、イリジウム粒子3を部分的に覆うことで、イリジウム粒子3の耐酸化性を向上させ、シンタリングを抑制できるためイリジウム粒子を活性点として維持することができる。
【0025】
ここで、後述のように酸化物層4によるイリジウム粒子3の被覆率を50%以上かつ99%以下とするためには、イリジウム粒子3の平均一次粒子径は1nm以上かつ25nm以下が好ましい。より好ましくは1nm以上かつ20nm以下、さらに好ましくは3nm以上かつ10nm以下である。
イリジウム粒子3の平均一次粒子径が1nm未満では、イリジウム粒子3が酸化物層4に完全に覆われてしまい触媒活性が失活する虞がある。一方、平均一次粒子径が20nmを超えると、イリジウム粒子3が酸化物層4による被覆が不十分となり、酸化物層4によるイリジウム粒子3の移動抑制効果が十分に得られず、イリジウム粒子3のシンタリングが生じて触媒活性が低下する虞がある。
【0026】
酸化物層4は、SiO
xC
y(ただし、0<x≦3、0≦y≦3)を含む非晶質の層からなる。この酸化物層4としては、炭化ケイ素の酸化生成物である非晶質のケイ素炭化酸化物(0<yの場合)や非晶質のケイ素酸化物(0=yの場合)を含有することが好ましい。なお、この酸化物層4の組成や構造は単一である必要はなく、酸化物層4の各部分におけるxおよびyの値は上記の範囲内で任意の値を取ることができる。
【0027】
酸化物層4においては、これら炭化ケイ素の酸化生成物の中でも、イリジウム粒子3と結合を形成し易く、かつ酸素吸着能が高いケイ素炭化酸化物、換言すればケイ素と炭素と酸素をともに含む化合物(SiO
xC
yにおいて、0<x≦3、0<y≦3)を含むことが好ましい。これらのケイ素炭化酸化物がイリジウム粒子3と結合を形成することによって、イリジウム粒子3の移動抑制及びシンタリング抑制効果がより向上する。
また、ケイ素炭化酸化物は酸素吸着能が高いため、排ガス中のO
2は酸化物層4に選択的に吸着する。これにより、イリジウム粒子3にはCO、NO
xが優先して吸着するので、イリジウム粒子3によるNO
x還元触媒活性(NO
x浄化作用)が向上する。さらに、排ガス中のO
2がほとんどイリジウム粒子3に作用しないため、イリジウム粒子が酸化されることがなく、よってイリジウム粒子3の耐酸化性が向上し触媒活性が長期的に維持される。
【0028】
また、これらケイ素炭化酸化物の中でも、酸化物層4が、SiOC
3、SiO
2C
2、SiO
3Cの群から選択される1種または2種以上を含むことが好ましい。SiO
xC
y(ただし、0<x≦3、0≦y≦3)を含む非晶質の酸化物層4は、排ガスに直接曝される高温下においても安定であるが、SiOC
3、SiO
2C
2、SiO
3Cの群から選択される1種または2種以上を含むことにより、より高温下においても安定性が増すためである。
また、酸化物層4中に結晶性のSiO
xC
y(ただし、0<x≦3、0≦y≦3)を存在させることにより、さらに高温、例えば1000℃以上の高温下での安定性を増すことも可能となる。ただし、酸化物層4全体を結晶性物質とすることは、耐高温性以外の点、例えばイリジウム粒子3との結合性が低下する等の不具合が生じる虞があるので好ましくない。
【0029】
酸化物層4の組成は、例えば、X線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)で求めることができる。より具体的には、Si2p(シリコンの2p軌道)のXPSスペクトルにおいて、結合エネルギーの違いにより、SiO
2、SiOC
3、SiO
2C
2、SiO
3C、SiCを区別することができることから、得られた酸化物層4のXPSスペクトルと、上記各成分のXPSスペクトルとのピーク位置を比較することにより、酸化物層4の組成を求めることができる。
【0030】
また、後述のように酸化物層4によるイリジウム粒子3の被覆率を50%以上かつ99%以下とするためには、酸化物層4の厚みの平均値は1nm以上かつ40nm以下が好ましい。より好ましくは2nm以上かつ30nm以下、さらに好ましくは2nm以上かつ20nm以下である。
酸化物層4の厚みの平均値が1nm未満では、酸化物層4によるイリジウム粒子3の被覆が不十分となり、酸化物層4によるイリジウム粒子3の移動抑制効果が十分に得られず、イリジウム粒子3のシンタリングが生じて触媒活性が低下する虞がある。一方、酸化物層4の厚みの平均値が40nmを超えると、イリジウム粒子3が酸化物層4に完全に覆われてしまい触媒活性が失活する虞がある。
【0031】
また、酸化物層4の厚みの平均値は、イリジウム粒子3の平均一次粒子径の0.5倍以上かつ2.5倍以下であることが好ましい。より好ましくは、0.8倍以上かつ1.7倍以下である。
酸化物層4の厚みの平均値がイリジウム粒子3の平均一次粒子径の0.5倍未満では、酸化物層4によるイリジウム粒子3の被覆率が50%未満となる虞があり、その結果、酸化物層4によるイリジウム粒子3の被覆が不十分となるために、酸化物層4によるイリジウム粒子3の移動抑制効果が十分に得られず、イリジウム粒子3のシンタリングが生じて触媒活性が低下する虞がある。一方、酸化物層4の厚みの平均値がイリジウム粒子3の平均一次粒子径の2.5倍を超えると、酸化物層4によるイリジウム粒子3の被覆率が99%を超える、すなわちイリジウム粒子3が酸化物層4に完全に覆われてしまう虞が生じ、触媒活性が失活する虞がある。
【0032】
イリジウム粒子3は、炭化ケイ素粒子2の表面に担持されており、その表面は酸化物層4により部分的に覆われている。このイリジウム粒子3の表面のうち、炭化ケイ素粒子2に接している部分の割合及び酸化物層4に覆われている部分の割合の合計である被覆率については、十分な触媒活性を得るという観点から50%以上かつ99%以下の範囲内であることが好ましい。より好ましくは50%以上かつ90%以下、さらに好ましくは50%以上かつ80%以下である。被覆率が50%未満である場合、イリジウム粒子3がシンタリングを起こし、高温条件下での使用において触媒活性が低下する虞がある。また、被覆率が99%を超える場合は活性点であるイリジウム自体の表面が減少するために触媒活性が低下する虞がある。
【0033】
イリジウム粒子の被覆率は、イリジウム粒子の表面積の合計値S
Tと、触媒活性点として作用するイリジウム粒子の表面積S
Cから求めることができる。
ここでイリジウム粒子の表面積の合計値S
Tは、例えば、次のように求められる。
まず、透過型電子顕微鏡の観察画像から任意に数10個以上のイリジウム粒子を選び、各イリジウム粒子の一次粒子径を測定してその平均値D
AV(平均一次粒子径)を求め、その平均一次粒子径D
AVから、イリジウム粒子が球形だと仮定して、式(1)を用いてイリジウム粒子1個あたりの表面積の平均値S
AVを求める。
式(1):S
AV=4π(D
AV/2)
2
次に、やはり透過型電子顕微鏡の観察画像を基にして、電子顕微鏡観察試料中のイリジウム粒子数を求め、この電子顕微鏡観察試料中のイリジウム粒子の表面積の合計値を求める。そして、この電子顕微鏡観察試料と、次項に示す「酸化物層外部に露出しているイリジウム粒子の表面積」測定試料との量比から、電子顕微鏡観察試料中のイリジウム粒子の表面積の合計値を「酸化物層外部に露出しているイリジウム粒子の表面積」測定試料に合わせて規格化することで、イリジウム粒子の表面積の合計値S
Tを算出することができる。
【0034】
また、触媒活性点として作用するイリジウム粒子の表面積S
C、すなわち酸化物層外部に露出しているイリジウム粒子の表面積としては、例えば、COパルス吸着法を用いて測定したCO吸着量から算出することができる。これは、一般にイリジウム等の貴金属粒子の表面はCO吸着能が高く、その吸着量から貴金属粒子の表面積を算出する方法が知られていること(非特許文献:触媒 Vol.31, No.5, 317-320参照)、一方、イリジウム粒子を部分的に覆っているケイ素酸化物やケイ素炭化酸化物は実質的にCO吸着能を有さないことから、CO吸着量を求めることにより、酸化物層外部に露出しているイリジウム粒子の表面積S
Cを算出できるからである。
そして、上記のようにして求めたイリジウム粒子の表面積の合計値S
Tと、触媒活性点として作用するイリジウム粒子の表面積S
Cから、式(2)として、被覆率が求められる。
式(2):被覆率=(S
T−S
C)/S
T×100 (%)
【0035】
なお、上記の通りCOは酸化物層外部に露出しているイリジウム粒子の表面に選択的に吸着する。従って、電子顕微鏡等で観察した場合に露出しているイリジウム粒子表面が観察できなかったとしても、CO吸着能を有していれば、本実施形態のNO
x浄化触媒粒子であるということができる。
【0036】
[NO
x浄化触媒の製造方法]
本実施形態のNO
x浄化触媒粒子の製造方法は、炭化ケイ素粒子2を準備する炭化ケイ素粒子工程と、炭化ケイ素粒子2の表面にイリジウム粒子3を担持する工程と、炭化ケイ素粒子2の表面にSiO
xC
y(ただし、0<x≦3、0≦y≦3)を含む非晶質の酸化物層4を形成する酸化物層形成工程とを有する。
【0037】
「炭化ケイ素準備工程」
初めに、触媒粒子の母材となる炭化ケイ素粒子を準備する。
炭化ケイ素粒子の平均一次粒子径は、要求されるNO
x浄化触媒および排ガス浄化装置の特性に合わせて選定すればよいが、0.01μm以上かつ5μm以下の範囲であることが好ましい。この炭化ケイ素粒子は、既述の方法、すなわちナノメートルサイズの粒子であれば、熱プラズマ法やシリカ前駆体焼成法等、サブミクロンからミクロン(マイクロメートル)サイズの炭化ケイ素粒子であれば、アチソン法、シリカ還元法、シリコン炭化法等を用いて得ることができる。
【0038】
「イリジウム粒子担持工程」
イリジウム粒子担持工程は、母材となる炭化ケイ素粒子の表面に、イリジウム粒子を担持し、イリジウム担持炭化ケイ素粒子を形成する工程である。
初めに、イリジウム源となるイリジウム塩類を溶解した溶液、あるいはイリジウム化合物微粒子を分散させた分散液を作製する。溶媒や分散媒は水が好適であるが、イリジウム源が水で分解・沈殿するような場合には、有機溶媒を用いてもよい。この有機溶媒としては極性溶媒が好ましく、アルコール類、ケトン類等が好適に用いられる。
【0039】
次に、この溶液や分散液中に、炭化ケイ素粒子を浸漬・分散させ、60℃〜250℃程度の温度でこの溶媒(水や有機溶媒)または分散媒を除去して乾燥する。これにより、炭化ケイ素粒子の表面にイリジウムの塩類やイリジウム化合物微粒子を付着させることができる。
【0040】
次いで、イリジウムの塩類やイリジウム化合物微粒子が付着した炭化ケイ素粒子を、水素や一酸化炭素などの1種または2種以上の還元性ガスを含む還元雰囲気中や、窒素、アルゴン、ネオン、キセノン等の不活性雰囲気中で熱処理することにより、イリジウムの塩類やイリジウム化合物を還元または分解させてイリジウム微粒子を形成する。熱処理温度や時間は、通常500℃以上かつ1500℃以下、10分以上かつ24時間以下の範囲である。なお、必要以上の温度や時間は、炭化ケイ素粒子の焼結や生成したイリジウム粒子のシンタリングを誘発する虞があるので好ましくない。以上の工程により、イリジウム微粒子が表面に担持された炭化ケイ素粒子を得ることができる。
【0041】
この工程で用いられるイリジウム源である塩類や化合物としては、例えば塩化物、硫酸塩、硝酸塩、有機酸塩、錯体(錯塩)、水酸化物等が挙げられる。
【0042】
「酸化物層形成工程」
酸化物層形成工程は、イリジウム粒子を担持させた炭化ケイ素粒子を酸化処理して、イリジウム粒子担持炭化ケイ素粒子の表面に酸化物層を形成し、NO
x浄化触媒(イリジウム粒子を担持し表面酸化物層が形成された炭化ケイ素粒子)を形成する工程である。
【0043】
酸化処理としては、上記のイリジウム担持炭化ケイ素粒子自体を、大気、酸素等の酸化性雰囲気下、600℃以上かつ1000℃以下、好ましくは650℃以上かつ900℃以下の温度にて、10時間以上かつ50時間以下、好ましくは20時間以上かつ40時間以下、酸化処理し、炭化ケイ素粒子の表面に酸化物層を生成させる。
【0044】
ここで、イリジウム粒子の酸化物層による被覆率を50%以上とするための条件として600℃以上、かつ10時間以上の酸化処理が例示される。また、被覆率を99%以下とするための条件として1000℃以下、かつ50時間以下の熱処理が例示される。
【0045】
酸化物層形成工程により、炭化ケイ素粒子の表面にイリジウム粒子が担持され、かつこのイリジウム粒子が酸化物層により部分的に覆われた状態となっている炭化ケイ素粒子、すなわちNO
x浄化触媒を形成することができる。
【0046】
ここで、酸化処理条件が600℃未満での熱処理、もしくは酸化処理時間が10時間未満であるとき炭化ケイ素粒子が十分に酸化されず、酸化物層によるイリジウム粒子の被覆率が50%未満となる虞がある。その場合ケイ素炭化酸化物とイリジウム粒子とが結合することにより得られるイリジウム粒子の移動抑制効果が十分に得られず、シンタリングにより触媒活性が低下する虞がある。
【0047】
また、酸化処理条件が1000℃を超える熱処理、もしくは酸化処理時間が50時間を超える場合は、炭化ケイ素粒子の酸化が進行しすぎることにより、酸化物層によるイリジウム粒子の被覆率が99%を超え、酸化物層によりイリジウム粒子が完全に覆われてしまう虞が生じる。この場合活性点であるイリジウム自体の表面が著しく減少し、触媒活性が低下するので好ましくない。また、過度の酸化処理はイリジウム自体を酸化させる虞があり、この場合も活性点であるイリジウム自体の表面が著しく減少し、触媒活性が低下するので好ましくない。
【0048】
[内燃機関の排ガス浄化装置]
本発明の一実施形態の内燃機関の排ガス浄化装置は、内燃機関の排気経路中に配置される排ガス浄化触媒により前記内燃機関からの排ガスを浄化する排ガス浄化装置であって、前記排ガス浄化触媒の少なくとも一種は、本実施形態のNO
x浄化触媒である。
【0049】
本実施形態の内燃機関の排ガス浄化装置は、例えば、ガソリン車、ディーゼル車といった自動車に用いられる。またNO
x浄化触媒は、排気経路中に配置されればよく、その配置の仕方は特に限定されないが、例えば、自動車(ガソリン車、ディーゼル車)に用いられる排気浄化用のフロースルー型ハニカム基材や、ディーゼル自動車用のディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)等のウォールフロー型基材の触媒担持部材に担持し、排気経路中に配置することができる。
【0050】
本実施形態における排ガス浄化触媒は、排気経路中に設けられたフィルタ基体(例えばハニカム基材やDPF基材)上に、複数個の触媒粒子1を含む多孔質層として形成され、配置されることが好ましい。ここで、多孔質層とは、連続した膜状の構造体である多孔質膜状だけでなく、触媒粒子1を含む多孔質の凝集体が分散配置された状態を含んでいる。なおここで、触媒粒子1は、本実施形態のNO
x浄化触媒粒子である。
また、フィルタ基体としては、炭化ケイ素、コーディエライト、チタン酸アルミニウム、窒化ケイ素等の耐熱性を有する多孔質セラミックス構造体が挙げられる。
【0051】
この触媒粒子1は、触媒としての機能を発揮することのできる状態であればよく、触媒粒子1が多孔質層中に分散した状態であってもよく、いくつかの触媒粒子1が凝集した状態で多孔質層中に配置されていてもよい。さらには、いくつかの触媒粒子1が凝集して多孔質の連続した膜状の構造体を形成していてもよく、多孔質の凝集体状が形成されていてもよい。いずれの場合も触媒層と称することとする。また、触媒粒子1のみではなく、他の触媒粒子や、無機粒子、金属粒子を含んでいてもよい。
【0052】
この多孔質層の気孔率は、40%以上かつ90%以下であることが好ましく、より好ましくは、50%以上かつ80%以下である。気孔率が40%未満では、多孔質内に十分なガス拡散が行われず、触媒が有効に作用できない虞がある。また、気孔率が90%を超えると、多孔質層の械的強度が低下するために、多孔質層自体の変形や基材からの剥がれが発生し、触媒作用が低下する虞がある。
【0053】
図2は、本実施形態の多孔質層20を示す模式図であり、この多孔質層20は、複数種の触媒粒子21a、21b及び表面被覆炭化ケイ素粒子25が集合して全体が多孔質の膜状となったものである。これらの触媒粒子21a、21bは、本実施形態のNO
x浄化触媒粒子である。
ここで、触媒粒子21aは、炭化ケイ素粒子22の表面に1個のイリジウム粒子23が担持されており、このイリジウム粒子23が酸化物層24により一部覆われた状態で炭化ケイ素粒子22の表面に担持されている構造を有する。
また、触媒粒子21bは、炭化ケイ素粒子22の表面に2個のイリジウム粒子23が担持されており、これらのイリジウム粒子23が酸化物層24により一部覆われた状態で炭化ケイ素粒子22の表面に担持されている構造を有する。
触媒粒子の担持するイリジウム粒子23の数は、上記の1個または2個の他、3個以上も担持可能である。
【0054】
一方、表面被覆炭化ケイ素粒子25は、炭化ケイ素粒子22の表面が酸化物層24により覆われたもので、この炭化ケイ素粒子22の表面にはイリジウム粒子23は担持されていない。
【0055】
この多孔質層20は、上記のように、触媒粒子21a、21bとイリジウム粒子23が担持されていない表面被覆炭化ケイ素粒子25との混合物で構成されていてもよく、触媒粒子21a、21bのみで構成されていてもよく、イリジウム粒子23が3個以上担持された触媒粒子を含んでいてもよい。また、触媒粒子21a、21bと表面被覆炭化ケイ素粒子25だけではなく、他の触媒粒子や、無機粒子、金属粒子を含んでいてもよい。
【0056】
この触媒粒子21a、21bを含む多孔質層20に、内燃機関からの排ガスが流入すると、この排ガスが多孔質層20の表面や内部を流れる過程で触媒を構成する触媒粒子21a、21b、特にイリジウム粒子23の酸化物層に被覆されていない部分(イリジウムが直接表面に出ている部分)と接触する。そして、この排ガス中に含まれるCOが還元剤として働き、NO
xが還元浄化されることで、COはCO
2に、NO
xはN
2に浄化される。その結果、浄化された排ガスが大気中に排出される。
【0057】
[排ガス浄化フィルタ]
本発明の一実施形態の排ガス浄化フィルタは、内燃機関の排ガスに含まれる粒子状物質を多孔質体からなるフィルタ基体を通過させることにより捕集し前記排ガスを浄化する排ガス浄化フィルタであって、前記フィルタ基体は、多孔質体からなる隔壁と、該隔壁により形成されるとともに粒子状物質を含む排ガスの流入側端部が開放された流入側ガス流路と、前記フィルタ基体の前記流入側ガス流路と異なる位置に設けられ、前記隔壁により形成されるとともに排ガスの流出側端部が開放された流出側ガス流路と、を備え、前記隔壁の少なくとも前記流入側ガス流路側の表面に、本実施形態のNO
x浄化触媒を含有しかつ前記隔壁より小さな平均気孔径を有する多孔質膜が形成されている。
【0058】
本実施形態における排ガス浄化フィルタは、隔壁の表面に、複数個の触媒粒子1を含む多孔質膜が設けられていることが好ましい。ここで、多孔質膜は、前記排ガス浄化装置における多孔質層とは異なり、連続した膜状の構造体である。これは、後述のように、多孔質膜に粒子状物質の捕集機能を持たせるためである。なおここで、触媒粒子1は、本実施形態のNO
x浄化触媒粒子である。
【0059】
ここで、多孔質膜におけるNO
x浄化作用は、前記内燃機関の排ガス浄化装置と同様である。すなわち、多孔質膜中の触媒粒子1の機能や作用効果は、前記内燃機関の排ガス浄化装置における触媒粒子1の機能や作用効果と同一であり、また多孔質膜における触媒粒子1の配置や構造、さらにはイリジウムが担持されていない表面被覆炭化ケイ素粒子の含有や、その他の触媒粒子等の含有についても、前記内燃機関の排ガス浄化装置における多孔質層と同様である。従って、これらの点については記載を省略する。
【0060】
次に、本実施形態の排ガス浄化フィルタでは、多孔質膜に粒子状物質(PM)の捕集機能を持たせることから、多孔質膜の平均気孔径は隔壁の平均気孔径よりも小さい必要がある。具体的には0.05μm以上かつ3μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.07μm以上かつ2.5μm以下である。また、多孔質膜にPMの捕集機能を持たせることから、多孔質膜は連続した膜状の構造体であることが好ましい。
ここで、平均気孔径が0.05μm未満では、PMを含む排ガスが多孔質膜を通過する場合の圧力損失が大きくなるため好ましくない。また、平均気孔径が3μmを超えると、多孔質膜の気孔径と隔壁の気孔径とが実質的に同等となり、多孔質膜にPMの捕集機能を持たせることができなくなる。
なおここで、多孔質体からなる隔壁の平均気孔径は、5μm以上かつ50μmであることが好ましい。
【0061】
また、多孔質膜の気孔率は、50%以上かつ90%以下であることが好ましく、より好ましくは60%以上かつ85%以下である。
気孔率が50%未満では、多孔質膜の平均気孔率が隔壁の気孔率と同等か低くなるために、圧力損失を招く虞がある。また、気孔率が90%を超えると、多孔質膜の械的強度が低下するために、多孔質膜自体の変形や壁面表面からの剥がれが発生し、PM捕集特性が低下するだけでなく、NO
x浄化触媒の脱落により触媒作用が低下する虞がある。
また、多孔質膜の厚み(膜厚)は、隔壁の表面において気孔が開口している開口部と平面的に重なる箇所においては60μm以下であり、かつ隔壁の表面において隔壁を構成するセラミックス材料が存在する部分と平面的に重なる箇所においては5μm以上かつ60μm以下であることが好ましい。
【0062】
なお、NO
x浄化触媒、すなわち触媒粒子1においては、炭化ケイ素粒子表面に形成されたケイ素炭化酸化物は酸素吸着能が高いことから、排ガス中のO
2は酸化物層4に選択的に吸着する。一方、多孔質膜には触媒粒子1が含まれるから、多孔質膜に捕集されたPMは触媒粒子1の酸化物層4と接することになる。そして、酸化物層4と接しているPMは、酸化物層から吸着されていた酸素の供給を受けることができる。これにより、捕集されたPMは、排ガス浄化フィルタの再生時において容易に酸化除去される。すなわち、本実施形態の排ガス浄化フィルタにおいては、NO
x浄化作用だけでなく、再生時におけるPM燃焼性の改善による再生時間の短縮や再生温度の低下も図ることができる。
【0063】
以上説明したように、本実施形態の触媒粒子1によれば、炭化ケイ素粒子2の表面にイリジウム粒子3を担持するとともに、この炭化ケイ素粒子2の表面にSiO
xC
y(ただし、0<x≦3、0≦y≦3)を含む非晶質の酸化物層4を形成してイリジウム粒子3を部分的に覆うこととしたので、イリジウム粒子3の耐酸化性の向上とイリジウム粒子3のシンタリング抑制が可能となり、高い触媒活性を有するとともにその触媒活性の劣化が抑制された窒素酸化物(NO
x)浄化触媒を得ることができる。よって、排ガス中に含まれるNO
x浄化性を向上させるとともに、高いNO
x浄化性を長期的に維持できることから、排ガス中に含まれるNO
xを効率的に浄化することができる。
【0064】
しかも、SiO
xC
y(ただし、0<x≦3、0≦y≦3)を含む非晶質の酸化物層4は、排ガスに直接曝される高温下においても安定であり、さらにSiOC
3、SiO
2C
2、SiO
3Cの群から選択される1種または2種以上を含むことで、より高温下においても安定であるから、低温領域から高温領域に亘って高い触媒活性を保ちつつ高い耐熱性を維持することができる。
【0065】
本実施形態の内燃機関の排ガス浄化装置によれば、内燃機関の排ガス経路中に配置される触媒が本実施形態の窒素酸化物浄化触媒粒子を含有したので、NO
x浄化性を向上させることができ、内燃機関の排ガス中に含まれるNO
xを効率的に浄化することができる。したがって、NO
xに対する高い浄化性を保ちつつ高い耐久性が維持された、内燃機関の排ガス浄化装置を得ることができる。
【0066】
本実施形態の排ガス浄化フィルタによれば、排ガス浄化フィルタを構成する隔壁の少なくとも流入側ガス流路側の表面に、本実施形態の窒素酸化物浄化触媒粒子を含有しかつ隔壁より小さな平均気孔径を有する多孔質膜を形成したので、NO
xの浄化性を向上させることができ、内燃機関の排ガス中に含まれるNO
xを効率的に浄化することができる。したがって、NO
xに対する高い浄化性を保ちつつ高い耐久性を維持することができる。
さらに、多孔質膜の気孔径が隔壁より小さく、かつ多孔質膜の気孔率や膜厚を特定の範囲としたので、排ガス中に含まれるPMの捕集性に優れ、PM捕集後の圧力損失の増加も抑制することができる。さらにまた、本実施形態のNO
x浄化触媒粒子表面には酸素吸着性を有するSiO
xC
y(ただし、0<x≦3、0≦y≦3)が存在することから、捕集されたPMの燃焼性改善による再生時間の短縮や再生温度の低下も図ることができる。
これらにより、NO
xやPMに対する高い浄化性が長期的に維持された、信頼性の高い排ガス浄化フィルタを得ることができる。
【実施例】
【0067】
次に本発明に関わる実施例について説明する。以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0068】
[実施例1]
平均一次粒子径が0.035μmの炭化ケイ素粒子15gを、純水270gに解謬剤としてポリカルボン酸を溶解した分散剤に添加し、この状態で分散媒体としてモノボールを用いた分散処理を24時間施した。
このようにして得られたスラリーに、炭化ケイ素粒子に対してイリジウムの割合が6.6質量%(Irとして0.99g)となるよう硝酸イリジウム(IV)溶液を添加し、再度分散媒体を用いた分散処理を120分実施後、固液分離によりスラリーから分散媒体を除去した。その後、100℃、12時間加熱してスラリーを乾燥させた後、以下の熱処理条件で熱処理を行うことにより実施例1のNO
x浄化触媒を作製した。
なお、熱処理条件の第一段階および第二段階は、還元性ガスを含まない不活性雰囲気中の熱処理でイリジウム塩類(硝酸塩)を分解することによるイリジウム粒子担持工程である。また、第三段階は、酸化処理による酸化物層形成工程である。
【0069】
熱処理条件
第一段階:温度650℃、保持時間180min(分)、雰囲気N
2
第二段階:温度1000℃、保持時間60min(分)、雰囲気Ar
第三段階:温度700℃、保持時間20h(時間)、雰囲気Air
【0070】
[実施例2]
熱処理工程の第三段階の保持時間が40時間であること以外は、実施例1と同様にして実施例2のNO
x浄化触媒を作製した。
【0071】
[実施例3]
熱処理工程の第三段階の温度が900℃であること以外は、実施例1と同様にして実施例3のNO
x浄化触媒を作製した。
【0072】
[
参考例1]
熱処理工程の第三段階の保持時間が5時間であること以外は、実施例1と同様にして
参考例1のNO
x浄化触媒を作製した。
【0073】
[
参考例2]
熱処理工程の第三段階の温度が400℃であること以外は、実施例1と同様にして
参考例2のNO
x浄化触媒を作製した。
【0074】
[
参考例3]
熱処理工程の第三段階の温度が1100℃であること以外は、実施例1と同様にして
参考例3のNO
x浄化触媒を作製した。
【0075】
[比較例1]
熱処理工程の第三段階の保持時間が60時間であること以外は、実施例1と同様にして比較例1のNO
x浄化触媒を作製した。
【0076】
[比較例2]
熱処理工程の第三段階の温度が1200℃であること以外は、実施例1と同様にして比較例2のNO
x浄化触媒を作製した。
【0077】
[比較例3]
炭化ケイ素粒子の代わりにシリカ粒子を用いること以外は、実施例1と同様にして比較例3のNO
x浄化触媒を作製した。
【0078】
[イリジウム粒子の平均一次粒子径]
作製したNO
x浄化触媒のイリジウム粒子の平均一次粒子径の評価を、電界放出型透過電子顕微鏡(FE−TEM)を用いて行った。ここでイリジウム粒子の平均一次粒子径については、画像を基に任意のイリジウム粒子50個を選択して一次粒子径を実測し、これらの平均値をイリジウム粒子の平均一次粒子径D
AVとした。
【0079】
[酸化物層の特定と評価]
作製したNO
x触媒粒子の酸化物層の結晶状態と組成の測定を、電界放出型透過電子顕微鏡(FE−TEM)とX線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)分析を用いて行った。
また、酸化物層の厚みは、TEM画像を基に50個の炭化ケイ素粒子表面の酸化物層の厚みを実測し、これらの平均値を酸化物層の厚みとした。
【0080】
[酸化物層によるイリジウム粒子の被覆率]
作製したNO
x触媒粒子の酸化物層によるイリジウム粒子の被覆率は、次のようにして算出した。まず、前記のようにして測定したイリジウム粒子の平均一次粒子径D
AVから、式(S
AV=4π(D
AV/2)
2)を用いてイリジウム粒子1個あたりの表面積の平均値S
AVを求めた。次いで、透過型電子顕微鏡の観察画像から求めた電子顕微鏡観察試料中のイリジウム粒子数n、電子顕微鏡観察試料の質量と、次に示すCOパルス吸着法に用いた試料との質量比m
Pをそれぞれ求め、これらの値から、式(S
T=S
AV×n×m
P)により、イリジウム粒子の表面積の合計値S
Tを求めた。
次いで、触媒活性点として作用するイリジウム粒子の表面積S
Cを、COパルス吸着法を用いて測定したCO吸着量から算出した。
そして、求めたイリジウム粒子の表面積の合計値S
Tと、触媒活性点として作用するイリジウム粒子の表面積S
Cから、次式により被覆率を求めた。
【0081】
【数1】
【0082】
[NO
x浄化性能試験]
作製したNO
x浄化触媒のNO
x浄化性能を評価するために、表1に示すモデルガスを400℃で2時間NO
x浄化触媒に流通させ、触媒流通前後でのNO
x量を測定することで、浄化性能を測定した。なお、モデルガス流量は10L(リットル)/分とした。また、NO
x浄化率は次式のように定義した。
【0083】
【数2】
【0084】
ここで、「触媒入口NO
x濃度」は、触媒を設けた浄化装置の入口におけるNO
x濃度、すなわち、モデルガス中のNO
x濃度を意味する。また、「触媒出口NO
x濃度」は、触媒を設けた浄化装置の出口におけるNO
x濃度を意味する。
【0085】
【表1】
【0086】
表1において、ppm及び%は体積濃度を表す。ppmCは炭素数に換算した濃度を示し、例えば炭化水素(HC)としてC
3H
6を用いた場合、炭素数が3なので、ppm値の3倍がppmCの値となる。
【0087】
表2に実施例1〜
3、参考例1〜3及び比較例1〜3のイリジウム粒子の粒子径(粒子径の範囲及び平均一次粒子径)、酸化物層の厚み(厚みの範囲及び平均値)、酸化物層によるイリジウム粒子の被覆率並びにNO
x浄化率(触媒特性)の評価結果を示す。
【0088】
【表2】
【0089】
実施例1〜
3、参考例1〜3及び比較例1、2のNO
x浄化触媒では、炭化ケイ素粒子の表面にナノメートルサイズのイリジウム粒子が担持され、このイリジウム粒子は炭化ケイ素粒子表面に形成された酸化物層により、一部または全てが覆われていた。この、炭化ケイ素粒子表面の酸化により生成する酸化物層は、TEM観察結果において、上記全ての例の酸化物層とも原子配列像が見られなかったことから、いずれも非晶質であることを確認した。また、この酸化物層の組成は、XPS測定により、上記全ての例の酸化物層ともSiO
x(ただし、0<x≦2)が含まれ、さらにSiO
3C、SiC
2O
2、SiCO
3の少なくとも1種が含まれることを確認したことから、いずれもSiO
xC
y(ただし、0<x≦3、0≦y≦3)を含む酸化物層であることを確認した。
【0090】
この内、実施例1〜
3、参考例1〜3のNO
x浄化触媒では、炭化ケイ素粒子の表面にナノメートルサイズのイリジウム粒子が担持され、イリジウム粒子が酸化物層により部分的に覆われた状態で担持されていたことから、イリジウム粒子の耐酸化性とシンタリング抑制効果が得られ、NO
x浄化率が向上することが確認された。
【0091】
この内、実施例1〜3のNO
x浄化触媒では、炭化ケイ素粒子の表面にナノメートルサイズのイリジウム粒子が担持され、イリジウム粒子の酸化物層による被覆率が50%〜80%の範囲内であった。これらの実施例におけるNO
x浄化率は70%以上と高く、NO
x浄化性能試験前後におけるNO
x浄化率の変化はほとんど無かった。これにより、酸化物層によるイリジウム粒子の被覆率が50%〜80%の範囲内であるとき、イリジウム粒子の耐酸化性とシンタリング抑制効果が十分に得られ、NO
x浄化率が向上することが確認された。
【0092】
次に
参考例1,2のNO
x浄化触媒では、炭化ケイ素粒子表面にイリジウム粒子が担持され、酸化物層も形成されているものの、イリジウム粒子の酸化物層による被覆率が50%未満であった。これらの実施例におけるNO
x浄化率は、実施例1〜3ほどではないが、比較例1〜3より向上していた。また、イリジウム粒子径が実施例1〜3に比べて大きくなっており、NO
x浄化性能試験終了時におけるNO
x浄化率は、試験開始時に比べ10%程度劣化していた。これらのことから、
参考例1,2では酸化物層の形成が不十分であるため、ケイ素炭化酸化物とイリジウム粒子とが結合することによって得られるイリジウム粒子の耐酸化性やイリジウム粒子の移動抑制効果が十分ではなく、イリジウム粒子が部分的にシンタリングを起こしNO
x浄化性能が徐々に低下したと判断される。
【0093】
次に、
参考例3のNO
x浄化触媒では、炭化ケイ素粒子表面にナノメートルサイズのイリジウム粒子が担持され、イリジウム粒子の酸化物層による被覆率が99%であった。この実施例におけるNO
x浄化率は5.2%であり、NO
x浄化性能試験前後におけるNO
x浄化率の変化は無かった。これはイリジウム粒子の酸化物層による被覆率が99%と大きく、活性点であるイリジウム粒子表面が少ないために、NO
x浄化性能が発現しにくいこと、一方、被覆率が高いことからイリジウム粒子のシンタリングはほぼ完全に抑制されていることによると考えられる。
【0094】
比較例1、2では炭化ケイ素粒子表面にイリジウム粒子が担持されているものの、イリジウム粒子が酸化物層によって完全に覆われており、NO
x浄化性能がほぼ得られなかった。これは、活性点であるイリジウム粒子の表面が酸化物層により完全に覆われているために、NO
x浄化性能が発現できないためと考えられる。
【0095】
一方、比較例3のNO
x浄化触媒ではシリカ粒子上にイリジウム粒子を担持しているために、酸化処理による酸化物層形成工程を行っても粒子表面には新たな酸化物層が形成されず、その結果、イリジウム粒子が完全にむき出しの状態で担持されていた。比較例3のNO
x浄化率は12.9%と低く、またイリジウム粒子径も大きくなっていることから、イリジウム粒子が酸化物層に部分的に覆われることによって得られる耐酸化性、シンタリング抑制効果が得られていないと判断された。
【0096】
[カーボン燃焼試験]
本発明のNO
x浄化触媒は、炭化ケイ素粒子表面にSiO
xC
y(ただし、0<x≦3、0≦y≦3)を含む非晶質の酸化物層が形成されていることから、排ガス浄化フィルタに用いた際に、捕集したPMの燃焼性改善を図ることができる。この点を確認するため、疑似PMとしてのカーボンブラック粒子を用いて燃焼試験を行い、NO
x浄化触媒のPM燃焼特性を評価した。
評価用試料としては、実施例1のNO
x浄化触媒を用いた。参照例としてカーボンブラック粒子のみで同様に燃焼試験を行い、その値を参照値とした。
【0097】
このカーボンブラックの燃焼試験は、次のようにして行った。
まず、NO
x浄化触媒粒子とカーボンブラック(商品名:Acetylene carbonblack)とを、NO
x浄化触媒粒子:カーボンブラック=5:1(質量比)の比率で混ぜ合わせ、その後、乳鉢及び乳棒で十分に混合し、測定用試料とした。次いで、昇温脱離スペクトル装置(TPD装置)を用いて、測定用試料を大気中にて10℃/分の昇温速度にて昇温させ、発生するCO及びCO
2のそれぞれの濃度を四重極質量分析(Q−MASS)にて測定した。
このCO及びCO
2の発生濃度が最大となる温度(ピーク温度)を測定してカーボン燃焼温度とした。さらにカーボン燃焼時間を同時に測定することで、カーボン燃焼速度を算出した。このカーボン燃焼温度および燃焼速度を、カーボンブラック粒子のみを測定用試料としたものと比較検討することにより、NO
x浄化触媒の燃焼特性を評価した。
【0098】
表3に実施例1及び参照例の測定用試料のカーボン燃焼温度並びにカーボン燃焼時間の評価結果を示す。
【0099】
【表3】
【0100】
実施例1のNO
x浄化触媒では、カーボンブラックのみの場合と比較して、カーボン燃焼温度が80℃程度低く、またカーボン燃焼時間も約2/3に短縮されており、カーボンブラックの燃焼、すなわちPMの燃焼に対する十分な改善効果を得ることが確認できた。
これは、本発明のNO
x浄化触媒が、NO
x浄化(還元)作用だけでなく、PM燃焼(酸化)作用も併せ持つことを示すものであり、よって、本発明のNO
x浄化触媒を含有させた排ガス浄化フィルタを用いることにより、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中に含まれる窒素酸化物(NO
x)及び粒子状物質(PM)を合わせて浄化処理できる排ガス浄化フィルタが得られることが示された。