特許第6350103号(P6350103)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6350103
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】ポリアルキレングリコール製造触媒
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/10 20060101AFI20180625BHJP
   C07F 9/24 20060101ALI20180625BHJP
   B01J 31/26 20060101ALI20180625BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   C08G65/10
   C07F9/24 H
   B01J31/26 Z
   B01J37/08
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-164748(P2014-164748)
(22)【出願日】2014年8月13日
(65)【公開番号】特開2016-40357(P2016-40357A)
(43)【公開日】2016年3月24日
【審査請求日】2017年7月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山本 敏秀
(72)【発明者】
【氏名】井上 善彰
【審査官】 佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−131897(JP,A)
【文献】 特開2012−021108(JP,A)
【文献】 特開平02−071841(JP,A)
【文献】 特開2001−038212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/00−65/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される中性イミノホスファゼニウム塩及びハイドロタイルサイトよりなることを特徴とするポリアルキレングリコール製造触媒。
【化1】
(1)
(式中、R,Rは各々独立して炭素数1〜10のアルキル基、無置換の若しくは置換基を有する炭素数6〜10のフェニル基又はアルキルフェニル基を表し、RとR又はR同士が互いに結合して環構造を形成していても良い。Xは、塩素アニオンまたは臭素アニオンを表す。)
【請求項2】
上記一般式(1)で示される中性イミノホスファゼニウム塩が、R,R共にメチル基の中性イミノホスファゼニウム塩であることを特徴とする請求項1に記載のポリアルキレングリコール製造触媒。
【請求項3】
ハイドロタルサイトが、300〜900℃の温度範囲で焼成処理されたハイドロタルサイトであることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリアルキレングリコール製造触媒。
【請求項4】
ハイドロタルサイトが、下記一般式(2)で示されるハイドロタルサイトであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリアルキレングリコール製造触媒。
(Mg1−x Al (OH)x+ (CO3x/2 ・mHO)x−
(2)
(式中、xおよびmは0<x≦0.33、0<m≦1.0の条件を満たす。)
【請求項5】
上記一般式(1)で示される中性イミノホスファゼニウム塩及びハイドロタルサイトと溶媒及び/又は活性水素含有化合物とを混合した後に、アルキレンオキシドの開環重合を行なうことを特徴とするポリアルキレングリコールの製造法。
【請求項6】
溶媒が、トルエンまたはキシレンであることを特徴とする請求項5に記載のポリアルキレングリコールの製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアルキレングリコールを製造するための新規な触媒に関するものであり、特に中性イミノホスファゼニウム塩及びハイドロタルサイトよりなる新規なポリアルキレングリコール製造触媒及びポリアルキレングリコールの製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルキレンオキシドの開環重合によりポリアルキレングリコールを製造する方法は、一般的に知られており、その際の触媒としては、例えばアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物などのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、二重金属シアン化物(DMC)触媒、ホスファゼン触媒など数多く報告されている。また、近年、ポリアルキレングリコールを製造する触媒としてイミノホスファゼニウム塩が使用できることが報告されている(例えば特許文献1参照。)。また、ハイドロタルサイトがポリアルキレングリコールの製造触媒となることも報告されている(例えば特許文献2、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】2010−150514号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献2】USP4962237号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】JOURNAL OF CATALYSIS 130,354−358(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に提案の方法においては、触媒となるイミノホスファゼニウム塩は、塩基性イミノホスファゼニウム塩と活性水素含有化合物とを減圧加熱処理し、活性水素含有化合物のn個のプロトンが脱離して得られるアニオンとの塩であり、この触媒は反応活性という点ではまだ改良の余地を有するものであった。また、反応活性を高くするため、反応温度を高くする方法を選択すると副反応によるアリル末端を有するモノオール化合物の生成量が増加し、得られるポリアルキレングリコールは純度の低いものとなり、該ポリアルキレングリコールをポリウレタンの原料として使用した場合、得られるポリウレタンは、機械物性や硬化性などの物性が低いものとなるという課題を有するものであった。
【0006】
特許文献2や非特許文献1の提案の方法においては、分子量5000以上の高分子量のポリアルキレングリコールの製造が困難であるばかりではなく、分子量分布が広くなるため、同じ分子量のポリアルキレングリコールであっても粘度が大きく変動するなど安定した物性を有するポリアルキレングリコールを製造することが困難であるという課題を有するものであった。
【0007】
そこで、高活性で、安定した物性のポリアルキレングリコールを効率よく製造するための新規な触媒が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の中性イミノホスファゼニウム塩及びハイドロタルサイトよりなるポリアルキレングリコール製造触媒が、高活性で、分子量分布が狭く、安定した物性のポリアルキレングリコールを効率よく提供することが可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記一般式(1)で示される中性イミノホスファゼニウム塩及びハイドロタイルサイトよりなることを特徴とするポリアルキレングリコール製造触媒及びポリアルキレングリコールの製造法に関するものである。
【0010】
【化1】
(1)
(式中、R,Rは各々独立して炭素数1〜10のアルキル基、無置換の若しくは置換基を有する炭素数6〜10のフェニル基又はアルキルフェニル基を表し、RとR又はR同士が互いに結合して環構造を形成していても良い。Xは、塩素アニオン、臭素アニオンを表す。)
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明のポリアルキレングリコール製造触媒は、上記一般式(1)で示される中性イミノホスファゼニウム塩及びハイドロタイルサイトよりなる触媒である。
【0012】
その際の中性イミノホスファゼニウム塩としては、上記一般式(1)で示される範疇に属するものであれば如何なるものであってもよく、R,Rは各々独立して炭素数1〜10のアルキル基、無置換の若しくは置換基を有する炭素数6〜10のフェニル基又はアルキルフェニル基であり、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、2−ブチル基、1−ペンチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、2−メチル−1−ブチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、3−メチル−2−ブチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、4−メチル−2−ペンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1−ヘプチル基、3−ヘプチル基、1−オクチル基、2−オクチル基、2−エチル−1−ヘキシル基、1,1−ジメチル−3,3−ジメチルブチル基、ノニル基、デシル基、フェニル基、4−トルイル基、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基等の脂肪族又は芳香族の炭化水素基が例示され、その中でもメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、tert−ペンチル基、1,1−ジメチル−3,3−ジメチルブチル基等の炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基が好ましく、メチル基がより好ましい。また、RとR、又はR同士が互いに結合して環構造を形成していても良く、そのような置換基として、例えばジメチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等を挙げることができ、製造が容易であることからRとRが互いに結合して環構造を形成する場合は、テトラメチレン基が好ましく、R同士が互いに結合して環構造を形成する場合はジメチレン基が好ましい。
【0013】
また、Xは、塩素アニオンまたは臭素アニオンであり、合成の容易さや高い活性を示すことから塩素アニオンがより好ましい。
【0014】
該中性イミノホスファゼニウム塩の製造方法としては、例えば五ハロゲン化リンと1,1,3,3−テトラアルキルグアニジン類を反応させることにより容易に製造することができる。また、該中性イミノホスファゼニウム塩は、特開2013−112645号公報等に記載の方法により製造することができる。
【0015】
そして、該中性イミノホスファゼニウム塩の具体例としては、例えばテトラキス(1,1,3,3−テトラメチルグアニジノ)ホスファゼニウムクロリド、テトラキス(1,1,3,3−テトラエチルグアニジノ)ホスファゼニウムクロリド、テトラキス(1,1,3,3−テトラ(n−プロピル)グアニジノ)ホスファゼニウムクロリド、テトラキス(1,1,3,3−テトライソプロピルグアニジノ)ホスファゼニウムクロリド、テトラキス(1,1,3,3−テトラ(n−ブチル)グアニジノ)ホスファゼニウムクロリド、テトラキス(1,1,3,3−テトラフェニルグアニジノ)ホスファゼニウムクロリド、テトラキス(1,1,3,3−テトラベンジルグアニジノ)ホスファゼニウムクロリド、テトラキス(1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−イミノ)ホスファゼニウムクロリド、テトラキス(1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−イミノ)ホスファゼニウムクロリド、テトラキス(1,1,3,3−テトラメチルグアニジノ)ホスファゼニウムブロミド、テトラキス(1,1,3,3−テトラエチルグアニジノ)ホスファゼニウムブロミド、テトラキス(1,1,3,3−テトラ(n−プロピル)グアニジノ)ホスファゼニウムブロミド、テトラキス(1,1,3,3−テトライソプロピルグアニジノ)ホスファゼニウムブロミド、テトラキス(1,1,3,3−テトラ(n−ブチル)グアニジノ)ホスファゼニウムブロミド、テトラキス(1,1,3,3−テトラフェニルグアニジノ)ホスファゼニウムブロミド、テトラキス(1,1,3,3−テトラベンジルグアニジノ)ホスファゼニウムブロミド、テトラキス(1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−イミノ)ホスファゼニウムブロミド、テトラキス(1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−イミノ)ホスファゼニウムブロミド等を例示でき、良好な活性を示すポリアルキレングリコール製造触媒が得られることから、テトラキス(1,1,3,3−テトラメチルグアニジノ)ホスファゼニウムクロリド、テトラキス(1,1,3,3−テトラメチルグアニジノ)ホスファゼニウムブロミドが好ましい。
【0016】
本発明のポリアルキレングリコールの製造触媒は、該中性イミノホスファゼニウム塩及びハイドロタルサイトよりなるものであり、その際のハイドロタルサイトとしては、ハイドロタルサイトと称される範疇に属するものであれば如何なるものであってもよく、市販品をそのまま使用してもよく、その中でもより高い活性を発現するポリアルキレングリコール製造触媒となることから、300〜900℃の温度範囲で焼成したハイドロタルサイトが好ましく、400〜800℃の温度範囲で焼成したハイドロタルサイトがより好ましい。その際の焼成の方法については任意であり、例えば空気雰囲気下や窒素等の不活性ガス雰囲気下でマッフル炉や管状炉を用いて実施することが出来る。焼成時間は特に制限はなく、例えば1〜10時間の範囲であり、好ましくは2〜6時間の範囲である。
【0017】
また、特に高い活性を示すポリアルキレングリコール製造触媒となることから、下記一般式(2)で示されるハイドロタルサイトであることが好ましい。
(Mg1−x Al (OH)x+ (CO3x/2 ・mHO)x−
(2)
(式中、xおよびmは0<x≦0.33、0<m≦1.0の条件を満たす。)
さらに、該ハイドロタルサイトは、重合活性を損なわない範囲で、他の金属や陰イオンを含んでいても良く、他の金属としては、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛など2価の金属;クロム、鉄、コバルト、インジウムなどの3価の金属を例示できる。また、陰イオンとしてはWO2−、MoO2−、VO3−などを例示することができる。
【0018】
そして、ハイドロタルサイトの具体例としては、例えばMg・A1・(OH)16・CO・4HO、Mg4.5・A1・(OH)13・CO・3.5HOなどの組成を有するものが挙げられる。これらのハイドロタルサイトは天然に産する鉱物、あるいは合成によって得られる化合物である。これら天然および合成のハイドロタルサイトのMg2+/Al3+の比は1〜8の範囲であり、また、OH/CO2− の比は10〜20の範囲である。
【0019】
本発明に使用されるハイドロタルサイトの使用量は任意であり、その中でも活性の特に高いポリアルキレングリコール製造触媒となることから中性イミノホスファゼニウム塩/ハイドロタルサイト=0.01〜10(モル比)の範囲であることが好ましい。
【0020】
本発明のポリアルキレングリコール製造触媒を調製する際には、該中性イミノホスファゼニウム塩が溶解可能であり、調製が容易となることから溶媒及び/又は活性水素含有化合物の存在下で調製することが好ましく、その際の調製方法としては単なる混合を挙げることができる。
【0021】
その際の溶媒としては、溶媒と称される範疇に属するものであれば如何なるものでもよく、その中でも該中性イミノホスファゼニウム塩を溶解可能で、重合反応に不活性な溶媒が好ましく、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサンなどの炭化水素溶媒;テトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素溶媒を挙げることができ、特にトルエンが好ましい。また、該溶媒の使用量としては、例えば中性イミノホスファゼニウム塩に対して5〜1000重量倍の範囲であり、好ましくは10〜500重量倍である。
【0022】
また、活性水素含有化合物としては、例えばヒドロキシ化合物、アミン化合物、カルボン酸化合物、フェノール化合物、チオール化合物等を挙げることができ、より具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノール、ドデカノール等の炭素数1〜20のアルコール類;水;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ソルビトール、シュークローズ、グルコース等のヒドロキシ化合物;エチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、ピペリジン、ピペラジン等のアミン化合物;安息香酸、アジピン酸等のカルボン酸化合物;2−ナフトール、ビスフェノール等のフェノール化合物;エタンジチオール、ブタンジチオール等のチオール化合物等を挙げることができる。また、水酸基を有するポリエーテルポリオールを用いることも可能であり、例えばポリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールグリセリンエーテル等を挙げることができ、この際のポリエーテルポリオールの分子量に特に制限はなく、その中でも低粘度で流動性に優れる分子量200〜3000のポリエーテルポリオールが好ましい。また、これら活性水素含有化合物は単独でも数種類を混合して用いても良い。
【0023】
活性水素含有化合物の量は、中性イミノホスファゼニウム塩に対して任意であり、その中でも効率よくポリアルキレングリコール製造触媒を調製することが可能となることから、活性水素含有化合物1モルに対して中性イミノホスファゼニウム塩が1×10−4〜5×10−1モルとなる範囲、好ましくは5×10−3〜1×10−1モルとなる範囲で用いることが好ましい。
【0024】
本発明のポリアルキレングリコール製造触媒は、アルキレンオキシドを開環重合することが可能であり、高活性で、分子量分布が狭く、安定した物性のポリアルキレングリコールを効率よく製造することができる。
【0025】
該アルキレンオキシドとしては、例えば炭素数2〜20のアルキレンオキシドを挙げることができ、具体的には、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、2,3−ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、ペンテンオキシド、スチレンオキシド、シクロヘキセンオキシド等を挙げることができる。これらの中で、入手容易で工業的価値の高いことから、エチレンオキシド、プロピレンオキシドが好ましい。アルキレンオキシドは、単一で用いても2種以上を混合して用いても良い。2種以上を混合して用いる場合は、例えば第1のアルキレンオキシドを反応させた後、第2のアルキレンオキシドを反応させても良いし、2種以上のアルキレンオキシドを同時に反応させても良い。
【0026】
アルキレンオキシドの開環重合を行う際の圧力は、例えば0.05〜1.0MPaの範囲であり、好ましくは0.1〜0.6MPaの範囲である。また、反応温度は、例えば40〜150℃の範囲であり、好ましくは60〜130℃の範囲である。
【0027】
また、本発明のポリアルキレングリコール製造触媒を用いてポリアルキレングリコールを製造する際には、該中性イミノホスファゼニウム塩及びハイドロタルサイトと溶媒及び/又は活性水素含有化合物とを混合した後に、アルキレンオキシドの開環重合を行なうことにより製造を行うことも可能である。また、ポリアルキレングリコールの精製・回収等の工程を任意に付加することも可能であり、製造の際に用いた触媒成分等をポリアルキレングリコールから除去する際には、例えば触媒成分を固体酸と接触させることにより、固体酸に吸着させた後、固体酸を分離することにより除去することができる。
【0028】
本発明により得られるポリアルキレングリコールは、水酸基価の異なるポリアルキレングリコールとすることが可能であり、得られるポリアルキレングリコールの水酸基価に特に制限は無く、その中でも、5〜100mgKOH/gの範囲が好ましく、特に10〜70mgKOH/gの範囲であることが好ましい。また、分子量分布は1.01〜1.2の範囲であり、好ましくは1.02〜1.1の範囲である。
【0029】
本発明により得られるポリアルキレングリコールは、ポリウレタン原料、ポリエステル原料、界面活性剤原料、潤滑剤原料等に有用である。特に各種イソシアネート化合物と反応させることにより、断熱材等に使用される硬質フォームや、自動車のシート・クッション、寝具等に使用される軟質フォーム、接着剤、塗料、シーリング材、熱硬化性エラストマー、熱可塑性エラストマーへの展開が期待される。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、中性イミノホスファゼニウム塩とハイドロタルサイトよりなる触媒を用いてアルキレンオキシドを開環重合し、ポリアルキレングリコールを製造することができ、高活性で、分子量分布の狭い安定した物性を有するポリアルキレングリコールを効率よく製造することが可能である。
【実施例】
【0031】
次に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、以下の合成例、実施例においては、NMRスペクトル、GC−MS、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を以下のとおり測定した。
【0032】
〜NMRスペクトルの測定(ハロゲン化イミノホスファゼニウム塩の純度測定)〜
核磁気共鳴スペクトル測定装置(日本電子製、商品名:GSX270WB)を用い、有機相の分析には、内部標準にテトラメチルシラン(TMS)及び重溶媒に重クロロホルムを用い測定した。水相の分析には、重溶媒として重水を用いて測定した。
【0033】
〜GC−MSの測定〜
ガスクロマトグラフィー−質量分析装置(日本電子製、商品名:JMS−700)を用い、イオン化モードとしてFAB+を用いて測定を行った。
【0034】
〜分子量分布の測定〜
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)(東ソー株式会社製、商品名:HLC8020GPC)を用い、テトラヒドロフランを溶媒として40℃で測定した溶出曲線より標準ポリスチレン換算値として測定した。
【0035】
〜水酸基価、総不飽和度の測定〜
JIS K 1557−1及びJIS K 1557−3記載の測定法に従い測定した。
【0036】
〜触媒活性D(g/mol・min)の算出法〜
アルキレンオキシド量:A(g)(生成物全重量−((活性水素含有化合物量)+中性イミノホスファゼニウム塩+ハイドロタルサイト量))、触媒量:B(mol)、反応時間:C(時間)とした際に、触媒活性D=A/(B×C×60)として算出した。
【0037】
実施例及び比較例で用いた活性水素含有化合物及びハイドロタルサイトを以下に示す。
【0038】
〜活性水素含有化合物〜
分子量1000のグリセリン系ポリプロピレングリコール(以下、ポリオールAと記す。)。
分子量400のプロピレングリコール系ポリプロピレングリコール(以下、ポリオールBと記す。)。
【0039】
〜ハイドロタルサイト(組成:Mg A1 (OH)16 CO ・4H O)〜
市販品(和光純薬製)(以下、ハイドロタルサイトAと記す。)。
市販品を窒素気流下、400℃で焼成したもの(以下、ハイドロタルサイトBと記す。)。
市販品を窒素気流下、800℃で焼成したもの(以下、ハイドロタルサイトCと記す。)。
【0040】
合成例1
特開2013−112645号公報の実施例1に従い、中性イミノホスファゼニウム塩として、テトラキス(テトラメチルグアニジノ)ホスファゼニウムクロリド:((MeN)C=N) Clを合成した。
【0041】
乾燥後に得られた白色固体は225gであり、該白色個体は、テトラキス(1,1,3,3−テトラメチルグアニジノ)ホスファゼニウムクロリド((MeN)C=N) Cl)であることを確認した。また、H−NMRより求めた純度は98%であり、収率は92.7%であった。
【0042】
生成物は、H−NMR、GC−MS、元素分析により同定した。
【0043】
H−NMR(重溶媒:CDCl,内部標準:テトラメチルシラン):
化学シフト:2.83ppm(ホスファゼニウム塩由来のメチル基)。
【0044】
GC−MS(FAB+)測定結果:
m/z=487(テトラキス(テトラメチルグアニジノ)ホスファゼニウムカチオンの分子量に一致。)。
【0045】
実施例1
中性イミノホスファゼニウム塩として合成例1で得られたテトラキス(1,1,3,3−テトラメチルグアニジノ)ホスファゼニウムクロリド(上記一般式(1)においてR、Rがメチル基、Xが塩素アニオンである。)を0.10g(0.2mmol)とハイドロタルサイトB1.0g及びトルエン10g(100重量倍)を、熱伝対、圧力計、攪拌装置及びアルキレンオキシド導入管を装備した実容積200mlのガラス製オートクレーブに仕込んだ。その後、反応器内を乾燥窒素で置換し、90℃に昇温することによりポリアルキレングリコール製造触媒を調製した。
【0046】
引き続きプロピレンオキシドを反応圧力0.3MPa以下を保つように間欠的に反応器内に供給しながら90℃で4時間反応させた。プロピレンオキシドの供給が終了した後、圧力減少が無くなるまで1.5時間90℃で反応を継続した。反応終了後、0.5kPaに減圧し、90℃で1時間未反応のプロピレンオキシドを除去した。その後内容物を室温まで冷却し、常圧に戻した。無色無臭のポリオキシプロピレングリコール35.2gを得た。触媒活性は533g/mol・minであった。得られたポリオキシプロピレングリコールの水酸基価は17.9mgKOH/g、総不飽和度は0.019meq/g、GPCにより求めた分子量分布(Mw/Mn)は1.05であった。
【0047】
比較例1
ハイドロタルサイトBを用いなかった以外は、実施例1と同様に操作を行った。
【0048】
反応終了後、0.5kPaに減圧し、90℃で1時間未反応のプロピレンオキシドを除去した。その後内容物を室温まで冷却し、常圧に戻した。反応は全く進行しなかった。
【0049】
実施例2
ハイドロタルサイトB1gの代わりにハイドロタルサイトA1gを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行いポリアルキレングリコール製造触媒の調製を行った。
【0050】
加熱処理後、90℃に昇温して、プロピレンオキシドを反応圧力0.3MPa以下を保つように間欠的に反応器内に供給しながら88〜92℃の温度範囲で4時間反応させた。プロピレンオキシドの供給が終了した後、圧力減少が無くなるまで1.5時間90℃で反応を継続した。反応終了後、0.5kPaに減圧し、90℃で1時間未反応のプロピレンオキシドを除去した。その後、窒素で常圧に戻し、内容物を室温まで冷却し、無色無臭のポリオキシプロピレングリコール33.5gを得た。触媒活性は508g/mol・minであった。得られたポリオキシプロピレングリコールの水酸基価は18.8mgKOH/gであり、総不飽和度は0.021meq/gであり、分子量分布(Mw/Mn)は1.05であった。
【0051】
実施例3
実施例1のハイドロタルサイトB1gの代わりにハイドロタルサイトC1gを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行いポリアルキレングリコール製造触媒の調製を行った。
【0052】
加熱処理後、90℃に昇温して、プロピレンオキシドを反応圧力0.3MPa以下を保つように間欠的に反応器内に供給しながら88〜92℃の温度範囲で4時間反応させた。プロピレンオキシドの供給が終了した後、圧力減少が無くなるまで1.5時間90℃で反応を継続した。反応終了後、0.5kPaに減圧し、90℃で1時間未反応のプロピレンオキシドを除去した。その後、窒素で常圧に戻し、内容物を室温まで冷却し、無色無臭のポリオキシプロピレングリコール40.6gを得た。触媒活性は615g/mol・minであった。得られたポリオキシプロピレングリコールの水酸基価は15.5mgKOH/gであり、総不飽和度は0.027meq/gであり、分子量分布(Mw/Mn)は1.05であった。
【0053】
実施例4
中性イミノホスファゼニウム塩として合成例1で得られたテトラキス(1,1,3,3−テトラメチルグアニジノ)ホスファゼニウムクロリドを0.10g(0.2mmol)とポリオールAを8.7g(8.7mmol)及びハイドロタルサイトB1.0gを、熱伝対、圧力計、攪拌装置及びアルキレンオキシド導入管を装備した実容積200mlのガラス製オートクレーブに仕込んだ。その後、反応器内を乾燥窒素で置換し、80℃に昇温して、0.5kPaの減圧下で、3時間加熱処理を行い、ポリアルキレングリコール製造触媒の調製を行った。
【0054】
加熱処理後、窒素により常圧に戻し、90℃に昇温して、プロピレンオキシドを反応圧力0.3MPa以下を保つように間欠的に反応器内に供給しながら90℃で5時間反応させた。プロピレンオキシドの供給が終了した後、圧力減少が無くなるまで2時間90℃で反応を継続した。反応終了後、0.5kPaに減圧し、90℃で1時間未反応のプロピレンオキシドを除去した。その後内容物を室温まで冷却し、常圧に戻した。無色無臭のポリオキシプロピレントリオール65.2gを得た。触媒活性は776g/mol・minであった。得られたポリオキシプロピレントリオールの水酸基価は22.5mgKOH/g、総不飽和度は0.027meq/g、GPCにより求めた分子量分布(Mw/Mn)は1.06であった。
【0055】
実施例5
ポリオールA8.7g(8.7mmol)の代わりにポリオールB8.0g(20mmol)を用いた以外は、実施例4と同様の加熱処理を行い、ポリアルキレングリコール製造触媒の調製を行った。
【0056】
加熱処理後、90℃に昇温して、プロピレンオキシドを反応圧力0.3MPa以下を保つように間欠的に反応器内に供給しながら88〜92℃の温度範囲で5時間反応させた。プロピレンオキシドの供給が終了した後、圧力減少が無くなるまで2時間90℃で反応を継続した。反応終了後、0.5kPaに減圧し、90℃で1時間未反応のプロピレンオキシドを除去した。その後、窒素で常圧に戻し、内容物を室温まで冷却し、無色無臭のポリオキシプロピレングリコール81gを得た。触媒活性は610g/mol・minであった。得られたポリオキシプロピレングリコールの水酸基価は20.8mgKOH/gであり、総不飽和度は0.026meq/gであり、分子量分布(Mw/Mn)は1.05であった。
【0057】
実施例6
実施例4の方法により、ポリアルキレングリコール製造触媒の調製を行った。
【0058】
加熱処理後、90℃に昇温して、プロピレンオキシド46gを反応圧力0.3MPa以下を保つように間欠的に供給しながら88〜92℃の温度範囲で5時間反応させた。次いで90℃で1時間かけて減圧下に残留プロピレンオキサイドを除去した。プロピレンオキシド除去後に110℃に昇温し、110℃でエチレンオキド12gを反応圧力が0.4MPa(ゲージ)以下となるように供給した。エチレンオキシド供給後、1時間同じ温度で熟成を行った。熟成後、減圧下でエチレンオキシドを除去した後、窒素で常圧に戻し、内容物を室温まで冷却し、無色無臭のポリオキシアルキレントリオール63gを得た。プロピレンオキシド付加の活性は730g/mol・minであった。得られたポリオキシアルキレントリオールのエチレンオキシド含有量は15.1重量%であり、水酸基価は22mgKOH/gであり、総不飽和度は0.026meq/gであり、分子量分布(Mw/Mn)は1.05であった。
【0059】
実施例7
ハイドロタルサイトB1gの代りにハイドロタルサイトB5gを用いた以外は、実施例1と同様に加熱処理を行い、ポリアルキレングリコール製造触媒の調製を行った。
【0060】
加熱処理後、窒素により常圧に戻し、90℃に昇温して、プロピレンオキシドを反応圧力0.3MPa以下を保つように間欠的に反応器内に供給しながら90℃で4時間反応させた。プロピレンオキシドの供給が終了した後、圧力減少が無くなるまで1.5時間90℃で反応を継続した。反応終了後、0.5kPaに減圧し、90℃で1時間未反応のプロピレンオキシドを除去した。その後内容物を室温まで冷却し、常圧に戻した。無色無臭のポリオキシプロピレングリコール40.8gを得た。触媒活性は618g/mol・minであった。得られたポリオキシプロピレングリコールの水酸基価は44.9mgKOH/g、総不飽和度は0.005meq/g、GPCにより求めた分子量分布(Mw/Mn)は1.02であった。
【0061】
比較例2
テトラキス(1,1,3,3−テトラメチルグアニジノ)ホスファゼニウムクロリド0.10g(0.2mmol)を用いなかった以外は、実施例1と同様の操作を行った。90℃に昇温して、プロピレンオキシドを反応圧力0.3MPa以下を保つように間欠的に反応器内に供給しながら88〜92℃の温度範囲で5時間反応させた。反応終了後、0.5kPaに減圧し、90℃で1時間未反応のプロピレンオキシドを除去した。その後、窒素で常圧に戻し、内容物を室温まで冷却し、無色無臭のポリオキシプロピレングリコール19gを得た。得られたポリオキシプロピレングリコールの水酸基価は33.1mgKOH/gであり、総不飽和度は0.027meq/gであり、分子量分布(Mw/Mn)は2.15であり広い分布を示した。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のポリアルキレングリコール製造触媒を用いて得られるポリアルキレングリコールは、ポリウレタン原料、ポリエステル原料、界面活性剤原料、潤滑剤原料等に有用である。特に各種イソシアネート化合物と反応させることにより、断熱材等に使用される硬質フォームや、自動車のシート・クッション、寝具等に使用される軟質フォーム、接着剤、塗料、シーリング材、熱硬化性エラストマー、熱可塑性エラストマーへの展開が期待される。