(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351113
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】振とう型培養装置及びこれを用いた培養方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20180625BHJP
C12M 1/02 20060101ALI20180625BHJP
C12M 1/04 20060101ALI20180625BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20180625BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20180625BHJP
C12N 1/14 20060101ALI20180625BHJP
C12N 1/16 20060101ALI20180625BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20180625BHJP
C12N 5/02 20060101ALI20180625BHJP
C12N 5/04 20060101ALI20180625BHJP
C12N 5/07 20100101ALI20180625BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20180625BHJP
C12N 5/09 20100101ALI20180625BHJP
【FI】
C12M1/00 D
C12M1/02 B
C12M1/04
C12M3/00 Z
C12N1/00 B
C12N1/14 B
C12N1/16 B
C12N1/20 A
C12N5/02
C12N5/04
C12N5/07
C12N5/0735
C12N5/09
【請求項の数】16
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-15426(P2015-15426)
(22)【出願日】2015年1月29日
(65)【公開番号】特開2016-136928(P2016-136928A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2016年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100155066
【弁理士】
【氏名又は名称】貞廣 知行
(72)【発明者】
【氏名】松田 博行
【審査官】
西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−212049(JP,A)
【文献】
特開昭52−044286(JP,A)
【文献】
特開昭55−102399(JP,A)
【文献】
特開2005−261230(JP,A)
【文献】
特表2009−534171(JP,A)
【文献】
特開平04−126070(JP,A)
【文献】
特開2004−141847(JP,A)
【文献】
特開2014−158461(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/093444(WO,A1)
【文献】
特開2013−176377(JP,A)
【文献】
特開平04−158782(JP,A)
【文献】
特開平10−314568(JP,A)
【文献】
特開2009−254340(JP,A)
【文献】
特開平05−146287(JP,A)
【文献】
特開2007−282629(JP,A)
【文献】
特表2008−513034(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/148511(WO,A1)
【文献】
特開2012−120495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
C12N 1/
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟包装材からなる培養袋と、前記培養袋全体を収容してその温度調整を行うことができるように配置され、上部に蓋部を有する外殻容器と、前記培養袋を収容した前記外殻容器を振とうさせる動力源とを含み、撹拌翼を有しない振とう型培養装置であって、
前記培養袋の上部及び下部にそれぞれチューブが連結され、前記外殻容器の底部及び前記蓋部に設けられた穴には、それぞれ前記チューブが通されており、
前記培養袋は前記外殻容器の外では角筒型であり、前記外殻容器の内部空間が円柱形状であり、前記外殻容器の底面に円柱の円が位置し、円の直径と、円柱の高さとの比が、1:2〜2:1の範囲内であり、前記培養袋に内容物が収容され、前記内容物の重量により前記培養袋が変形して前記外殻容器の内面に密着することにより、前記培養袋の底面及び側面が前記外殻容器に支持されており、
前記培養袋を収容した前記外殻容器を、前記外殻容器の中心が円形の軌道上で水平方向に公転しながら、振とうさせることにより、前記培養袋内の内容物を撹拌混合することができることを特徴とする振とう型培養装置。
【請求項2】
さらに前記外殻容器を前記中心の周りに自転させることを特徴とする請求項1に記載の振とう型培養装置。
【請求項3】
回転と停止をパターンで繰り返すプログラムを備えてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の振とう型培養装置。
【請求項4】
正方向及び逆方向の回転が可能な機構を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の振とう型培養装置。
【請求項5】
カウンターバランスを搭載していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の振とう型培養装置。
【請求項6】
前記外殻容器の側壁部に窓を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の振とう型培養装置。
【請求項7】
前記外殻容器の内面がバフ研磨され平滑であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の振とう型培養装置。
【請求項8】
前記培養袋を収容した前記外殻容器の振とうの回転数が0.1〜2000rpm、振幅が0.1〜100mmであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の振とう型培養装置。
【請求項9】
前記培養袋内の前記内容物の波の高さを検出する装置を含み、前記内容物の波の高さが一定となるように前記培養袋を収容した前記外殻容器の振とうの回転数を調整する調整機構を備えることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の振とう型培養装置。
【請求項10】
前記外殻容器が循環水を通すことができるジャケット構造又はラバーヒーターを含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の振とう型培養装置。
【請求項11】
前記培養袋がガゼット袋であり、注出口を備えていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の振とう型培養装置。
【請求項12】
前記培養袋内の内容物のpH又は溶存酸素濃度(DO)を測定するセンサーと、前記センサーで得られたデータによるフィードバッグ制御機構を備えていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の振とう型培養装置。
【請求項13】
前記培養袋は、前記内容物のpHを一定にするために酸又はアルカリの投入口を備えていることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の振とう型培養装置。
【請求項14】
前記培養袋は、前記内容物に空気又は酸素を供給するための機構を備えていることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の振とう型培養装置。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の振とう型培養装置を用いた培養方法。
【請求項16】
菌類、酵母、微生物、昆虫細胞、植物細胞、動物細胞、バイオ医薬製造用のCHO(Chinese Hamster Ovary)細胞、HeLa細胞、COS細胞、再生医療用途のiPS細胞、幹細胞、分化させた動物細胞のいずれかを培養することを特徴とする請求項15に記載の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振とう型培養装置及びこれを用いた培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物、昆虫細胞、植物細胞、動物細胞などの大量培養は、医薬品、食品、化粧品や、これらの原材料などとして有用な各種物質の生産に広く用いられている。
特許文献1には、撹拌翼を有した撹拌装置を気密に収納した培養袋が記載されている。この培養装置は、撹拌時に撹拌翼により、高いシェア(せん断応力)が系内において生じるものであった。また、撹拌翼の軸受け部分の摺動を原因としたパーティクルの発生があった。さらに、価格面の課題、撹拌翼と培養袋の接合方法の課題があった。
特許文献2には、平袋からなる培養袋をトレイ状の支持装置に固定した培養装置が記載されている。この培養装置の場合、平袋が横置きに配置されるため、大スケール化には占有面積の増大の課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4986659号公報
【特許文献2】特許第5214714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、撹拌翼を使わずに大スケールの培養が可能な振とう型培養装置及びこれを用いた培養方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、軟包装材からなる培養袋と、前記培養袋全体を収容してその温度調整を行うことができるように配置され
、上部に蓋部を有する外殻容器と、前記培養袋を収容した前記外殻容器を振とうさせる動力源とを含み、
撹拌翼を有しない振とう型培養装置であって、前記培養袋の上部及び下部にそれぞれチューブが連結され、前記外殻容器の底部及び前記蓋部に設けられた穴には、それぞれ前記チューブが通されており、前記培養袋は前記外殻容器の外では角筒型であり、前記外殻容器の内部空間が円柱形状であり、前記外殻容器の底面に円柱の円が位置し、円の直径と、円柱の高さとの比が、1:2〜2:1の範囲内であり、
前記培養袋に内容物が収容され、前記内容物の重量により前記培養袋が変形して前記外殻容器の内面に密着することにより、前記培養袋の底面及び側面が前記外殻容器に支持されており、前記培養袋を収容した前記外殻容器を、前記外殻容器の中心が円形の軌道上で水平方向に公転しながら、振とうさせることにより、前記培養袋内の内容物を撹拌混合することができることを特徴とする振とう型培養装置を提供する。
【0006】
さらに前記外殻容器を前記中心の周りに自転させることが好ましい。
回転と停止をパターンで繰り返すプログラムを備えてなることが好ましい。
正方向及び逆方向の回転が可能な機構を含むことが好ましい。
カウンターバランスを搭載していることが好ましい。
前記外殻容器の側壁部に窓を有することが好ましい。
前記外殻容器の内面がバフ研磨され平滑であることが好ましい。
前記培養袋を収容した前記外殻容器の振とうの回転数が0.1〜2000rpm、振幅が0.1〜100mmであることが好ましい。
前記培養袋内の前記内容物の波の高さを検出する装置を含み、前記内容物の波の高さが一定となるように前記培養袋を収容した前記外殻容器の振とうの回転数を調整する調整機構を備えることが好ましい。
前記外殻容器が循環水を通すことができるジャケット構造又はラバーヒーターを含むことが好ましい。
前記培養袋がガゼット袋であり、注出口を備えていることが好ましい。
【0007】
前記培養袋内の内容物のpH又は溶存酸素濃度(DO)を測定するセンサーと、前記センサーで得られたデータによるフィードバッグ制御機構を備えていることが好ましい。
前記培養袋は、前記内容物のpHを一定にするために酸又はアルカリの投入口を備えていることが好ましい
。
前記培養袋は、前記内容物に空気又は酸素を供給するための機構を備えていることが好ましい
。
【0008】
また、本発明は、前記振とう型培養装置を用いた培養方法を提供する。
菌類、酵母、微生物、昆虫細胞、植物細胞、動物細胞、バイオ医薬製造用のCHO(Chinese Hamster Ovary)細胞、HeLa細胞、COS細胞、再生医療用途のiPS細胞、幹細胞、分化させた動物細胞のいずれかを培養することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、外殻容器を用い、撹拌翼を使わないことで、少量から大容量までのスケールアップが容易である。また、容器を振とうさせることにより、低いシェア(せん断応力)で1つの容器内で少量から大容量まで撹拌を行うことができ、効率のよい細胞培養ができる。また撹拌翼を有さないため、撹拌翼の軸受け部によるパーティクルの発生を抑制できる。培養により装置が汚染しても、培養袋を交換すればよく、撹拌翼や撹拌磁石を廃棄する必要がないため、従来よりも安価な培養装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】培養袋を収容した外殻容器の一例を示す断面図である。
【
図4】振とう型培養装置の一例を示す斜視図である。
【
図5】(a)は外殻容器の一例を示す平面図であり、(b)は外殻容器の振とう動作の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、好適な実施形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
【0012】
図1に、培養袋10の一例を示す。この培養袋10は、フィルム12,13などの軟包装材から構成されている。
図1では、一対のフィルム12の間に、一対のガゼット付きフィルム13を配置し、フィルム12,13の周縁部にシール部11を設けることにより、密封されたガゼット袋を示す。袋の形状としては、円筒型、角筒型等が挙げられる。培養袋10が、二重袋や三重袋など多重の包装袋であると、液体が漏れにくいのでより好ましい。
【0013】
培養袋10を構成するフィルムの材質は特に限定されないが、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂や、これらの積層体が挙げられる。培養袋10に用いるフィルムは、精製工程で用いるフィルムと同じ素材であることが好ましい。培養工程と精製工程で同じフィルムを用いることにより、作られる医薬品の製品品質の担保を容易にすることができる。
培養袋10の容量(大きさ)は特に限定されないが、例えば0.1L〜5000Lの大きさとすることができ、好ましくは1〜2000Lである。培養袋10は、シングルユース(使い捨て)であってもよい。
【0014】
培養袋10には、培地や雰囲気ガス等の内容物の追加、取り出し等の目的で、複数のチューブ14,15を連結することができる。また、培養袋10は、注出口16を備えることができる。注出口16には、コック、キャップ、先細り状の注ぎ口等を設けることもできる。注出口16にチューブ14,15を連結してもよい。本実施形態の場合、注出口16の基部17がフィルム12の裏側にシールされることにより、注出口16が培養袋10に固定されている。
チューブの材質は特に限定されないが、シリコーン、熱可塑性エラストマー等、耐薬品性、耐候性等に優れる材質が好ましい。チューブには、フィルター、フローモニター、流量計、バルブ、ポンプ等を設けてもよい。培養袋10及びチューブ14,15は、培養前に滅菌されていることが好ましい。滅菌手段は培養目的等に応じて適宜選択でき、具体例として、γ線等の放射線、エチレンオキサイド等のガス、水蒸気等による加熱などが挙げられる。
【0015】
図2に、外殻容器20の一例を示す。また、
図3は、
図1の培養袋10を
図2の外殻容器20に収容した状態の断面図を示す。外殻容器20は、軟包装材からなる培養袋10を保護するため、
図3に示すように、培養袋10全体を収容することができる。
外殻容器の構成は特に限定されないが、
図2の外殻容器20は、側壁部21a及び底壁部21bを有する容器本体21と、側壁部21aの上方開口部を閉鎖する蓋部22とを備える。側壁部21aにより培養袋10の上下方向で全体又は大部分を収容できる場合、蓋部22を省略してもよい。培養袋10の側面の下部を容器本体21で覆い、培養袋10の側面の上部を蓋部22で覆うこともできる。
【0016】
内部の温度変動を抑制するためには、外殻容器20に対して培養袋10を出し入れするための開口部を蓋部22で閉鎖することが好ましい。蓋部22は、容器本体21から分離可能な取り外し式でもよく、ヒンジ等により容器本体21に対して開閉可能に連結されてもよい。
外装容器20(例えば、容器本体21及び蓋部22)の材質は、培養袋10を保護可能な硬さ(剛性)を有することが好ましく、例えば、ステンレス等の金属、樹脂、木材、集成材、繊維強化プラスチック等の複合材料が挙げられる。
外殻容器の内部空間は円柱形状であり、外殻容器の底面に円柱の円部分が位置することが、撹拌効率の観点から好ましい。内部空間の円柱の底面に位置する円の直径(内径)と円柱の高さとの比は、例えば1:2〜2:1である。内径と高さが同等(比が1:1)でもよい。
【0017】
外殻容器20に収容される培養袋10の内容物は、液体(培地)26と気体27を含むことが好ましい。気体と液体の容量比(気液容量比)は特に限定されず、液体が気体より多くても、気体が液体より多くてもよく、半々程度でもよい。気液容量比は、例えば1:9〜9:1の範囲が好ましい。培養袋10が少なくとも液体(培地)26を収容する範囲の全体ないし大部分で、培養袋10が外殻容器20に密着し、外殻容器20が培養袋10の側面を支持することが好ましい。培養袋10に気体27が収容される部分では、培養袋10の上部(一部)が外殻容器20の上(外)に露出されてもよい。
【0018】
培地26は、振とうにより撹拌可能であれば特に限定されず、溶液、乳液、懸濁液、分散液、ゲル等でもよい。培地26は均一な単相の組成物でもよく、固形物を含む液体など、二相以上から構成されてもよい。培地26は、培養前に滅菌されていることが好ましい。さらに培地26は、微生物、昆虫細胞、植物細胞、動物細胞、組織、細胞シート、細胞塊などの生体(培養対象物)を含むことができる。足場を要する培養では、粒状物、塊状物、発泡体、繊維質等の固形物を培養基材として培地に混合してもよい。
【0019】
気体27は、空気(あるいはO
2含有ガス)を含む好気的雰囲気でもよく、O
2の濃度が低い嫌気的雰囲気でもよい。気体27の組成は特に限定されないが、2種以上の混合ガスが一般的である。気体27の成分としては、酸素(O
2)等の酸化性ガス、窒素(N
2)やアルゴン(Ar)等の不活性ガス、二酸化炭素(CO
2)等の酸性ガス、アンモニア(NH
3)等の塩基性ガス、硫化水素(H
2S)等の還元性ガスなどが挙げられる。培養袋10に供給される気体は、フィルターを通したものが好ましい。空気、酸素、二酸化炭素などの気体は、下方(液体側)又は上方(気体側)のどちらか一方あるいは両方から導入することが好ましい。
【0020】
側壁部21aには、外殻容器20に収容された培養袋10の内容物の量(液面)を目視で確認するための窓23を有する。窓23は、側壁部21aの上下方向にスリット状の切れ目として設けられている。窓23は、開口してもよく、透明な材料で閉鎖されてもよい。また、底壁部21b及び蓋部22には、チューブ14,15を通すための穴24,25を有する。
【0021】
本実施形態では、培養袋10の上面にチューブ14を2本、培養袋10の下面にチューブ15を2本としたが、チューブ14,15の配置及び本数は特に限定されず、適宜の位置に所望の本数を設けることができる。チューブの配置は、例えば培養袋の上部、下部、側部のいずれか1又は2以上とすることができる。これらのチューブを介して、内容物のサンプリング、流動物(気体、液体、粉体等)の導入及び排出、栄養分の供給、老廃物の除去等を行うことができる。チューブを介して培養袋と外部装置を含む循環経路を設け、培養液の一部を外部装置で処理してから培養袋に戻す構成も可能である。
【0022】
図3に示すように、培養袋10を外殻容器20に収容すると、培養袋10が内容物の重量に従って変形し、外殻容器20の内面に密着する。培養袋10と外殻容器20の間が広い面積にわたって接触することにより、機械的な嵌合、係合や、化学的な接着、吸着が無くても密着し、振とうに耐える固着力が生じる。外殻容器20の内面は、平滑であり、例えばバフ等により研磨されていることが好ましい。内面に緩やかな凹凸があってもよいが、培養袋10を構成するフィルム12,13(
図1参照)の厚さに対して、フィルム12,13の破損や劣化を招くような微小の凹凸及び形状変化(鋭角部等)を有しないことが好ましい。
【0023】
外殻容器20は、培養袋10及びその内容物の温度調整を行うことができるように、温度調整機構(手段)を有することが好ましい。温度調整機構としては、循環水等の熱媒体を通すことができるジャケット構造、ラバーヒーター等の加熱装置等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
図4に、外殻容器20を振とうさせる振とう装置30の一例を示す。振とう装置30は、外殻容器20を囲む台部31及び枠部32と、外殻容器20を振とうさせる動力源33を含む。振とう装置30は、
図3に示すように培養袋10を収容したまま外殻容器20を振とうすることができる。本実施形態の振とう型培養装置は、培養袋10を収容した外殻容器20と、振とう装置30を備え、培養袋10を収容した外殻容器20を振とうさせることにより、培養袋10内の内容物を撹拌混合しながら、培養することができる。
【0025】
図5(b)に、外殻容器の振とう動作の一例を示す。本実施形態では、外殻容器20の平面形状は円形、立体形状は中心軸を略上下に向けた円柱である。
図5(a)は、外殻容器20の中心20cと半径20rを示す。
図5(b)の振とう動作では、外殻容器20の中心20cが半径Rの軌道C上で回転(公転)する。この場合、振とうの振幅は、半径Rの2倍である。さらに外殻容器20を中心20c周りに回転(自転)させてもよい。図示例の半径Rは半径20rより小さいが、図示の比率は、特に実際の比率を正確に表したものではない。
【0026】
振とうの際、培養袋10を収容した外殻容器20は、水平方向に回転することが好ましい。回転方向が、水平成分と垂直成分の両方を含んでもよい。垂直成分の大きさが、水平成分の大きさより小さい(垂直成分が0である場合を含む)ことが好ましい。一方向への振とうではなく、回転を取り入れることで、効率の良い撹拌ができる。撹拌時のシェア(せん断応力)が培養袋にかかりにくく、効率のよい培養を達成できる。回転速度、回転の方向は、適宜制御することができる。回転速度や回転方向を変化させることで、水平方向の液の撹拌のみではなく、垂直方向の撹拌も実現することができる。
【0027】
培養の系に応じて回転数、振幅等を設定し、プログラムによって制御することが好ましい。例えば大腸菌の培養であれば、溶液中の溶存酸素濃度(DO)を高くして培養することが好ましく、DOを高くするためには、激しく振とうさせ、気液の混合を激しくすることが好ましい。一方、動物細胞の培養であれば、培養液の泡立ちを抑え、温和に撹拌することが好ましい。本実施形態の振とう培養装置は、例えば下記の制御因子の1つ又は2以上を制御して培養を行うことができる。
【0028】
・装置の振とうの回転数及び振とう方向
・培地のpH
・培地の空気通気量
・培地の温度
・液面の高さ(波の高さ)
【0029】
振とう方向は、右回転と左回転、もしくは正回転と逆回転を任意のパターンで繰り返すことが好ましい。振とう装置の回転速度及び回転数は制御盤等により制御できるようにシステムを組むことが好ましい。振とう装置は、回転方向を任意に切り替え可能であることが好ましい。そのため、動力源や回転装置は、正逆双方向の回転が可能な機構を含むことが好ましい。また、例えばプログラムにより、回転パターンを制御することが好ましい。回転パターンは特に限定されないが、次に数例を挙げる。
【0030】
(1)正回転→停止→逆回転→停止→正回転→停止→逆回転→(繰り返し)
(2)正回転→停止→正回転→停止→逆回転→停止→逆回転→(繰り返し)
(3)正回転→停止→正回転→停止→正回転→停止→正回転→(繰り返し)
【0031】
外殻容器の振とうの回転数、振幅は任意に設定することができるが、回転した時に、培養袋内で内容物の波の高さ(例えば液面の平均高さ、最大高さ、高低差など)の上昇幅をある一定の範囲内とするために、波の高さを検出し、波の高さから回転数をフィードバック制御等で調整することが好ましい。回転数は、0.1〜2000rpm(回毎分)が好ましく、0.1〜200rpm、0.1〜100rpmがより好ましく、10〜80rpmがさらに好ましい。振幅は0.1〜100mmが好ましく、2〜100mmがより好ましく、10〜30mmがさらに好ましい。なお、回転方向が変化する場合、回転数は、右回転数と左回転数との和、もしくは正回転数と逆回転数との和のように、回転方向によらず回転数(非負値)の合計とする。
【0032】
培養袋は、内容物のpH又はDOを測定するセンサーと、センサーで得られたデータによるフィードバッグ制御機構を備えることが好ましい。
水素イオン指数(pH)については、pH電極を培養袋に挿入する、もしくはpHで色の変わるチップを系内に貼ることで系内のpHを知ることができる。系内を酸性にしたい場合は、CO
2ガスを導入する、もしくは、酸溶液を滴下することで酸性側にpHを変えることができる。CO
2ガスを導入する場合は、CO
2ガスが溶液中に必要以上に溶解することを防ぐため、培養袋の上面からCO
2ガスを導入するか、培養袋の底部から間歇で導入することが好ましい。系内を塩基性としたい場合は、アルカリ溶液を添加することにより、pHを塩基性とすることができる。pHを一定にするための酸又はアルカリの投入口は、チューブ14,15や注出口16であってもよく、あるいは他に設けてもよい。
DO(溶存酸素濃度)については、空気通気量を測定し、フィードバック制御をかけ、酸素を導入することが好ましい。酸素(O
2)の供給方法としては、溶液内に酸素がいきわたるように、溶液内(液面下)に出口を有するチューブから導入することが好ましい。
【0033】
内容物(培地)の温度については、外殻容器20の温度調整機能(上述)を用いて温度調整を行うことができる。培養温度は、培養される生物の種類にもよるが、例えば微生物の場合、4〜40℃が好ましく、25〜37℃が特に好ましい。培養しないで培地等の撹拌装置として用いる場合は、冷却してもよい(例えば4〜20℃)。温度管理は、培養袋10に温度計を組み込み、その測定値を利用することで、フィードバック制御を行うことができる。温度計は、接触式温度計でもよいが、据え置き型非接触温度計が好ましい。
【0034】
本実施形態の振とう型培養装置は、流加培養(フェドバッチ方式)、灌流培養(パーフュージョン方式)のいずれにも応用することができる。培養する生物体、細胞等は、特に限定されず、大腸菌をはじめとする菌類、酵母、微生物、昆虫細胞、植物細胞、動物細胞や、バイオ医薬製造用のCHO(Chinese Hamster Ovary)細胞や、HeLa細胞、COS細胞、再生医療用途のiPS細胞、間葉系幹細胞を始めとした幹細胞、分化させた組織細胞などの動物細胞、などの培養に用いることができる。なかでもCHO細胞の培養に好適である。
【0035】
本実施形態の振とう型培養装置及びそれを用いた培養方法は、特に大スケールでの培養に適している。振とう装置は、特に大スケールの場合は、カウンターバランスを搭載することが好ましい。カウンターバランスを搭載すると、大容量の培地を含んだ培養袋を用いても、安定して装置を稼働させることができる。1つの振とう装置に2つ以上の培養袋を搭載することにより、相互にカウンターバランスとして機能させてもよい。
【0036】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
上記の振とう装置は、培養のほか、組成物(培地等)の撹拌、調製、化学反応、発酵等にも利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
10…培養袋、11…シール部、12,13…フィルム、14,15…チューブ、16…注出口、17…基部、20…外殻容器、21…容器本体、21a…側壁部、21b…底壁部、22…蓋部、23…窓、24,25…穴、30…振とう装置、31…台部、32…枠部、33…動力源。