【0014】
目立て用工具1は、
図2に示すように、砥粒2と結合用樹脂3とが混練されて成形されたものである。砥粒2には、ヌープ硬度が1400〜1900の炭化物からなるもの、例えばWCまたはTiCの微粉末が用いられる。この場合、WCまたはTiCの微粉末を単独で用いても良く、あるいはそれら両者を適当な割合で混合したものを用いても良い。
また、ここで用いられる砥粒2は、粒径が0.5μm〜3.0μmの範囲内のもの、より好ましくは、粒径が1.0〜2.0μmの範囲内のものとされている。
また、目立て用工具1における砥粒2の含有量は50vol%〜90vol%に、より好ましくは、60vol%〜80vol%に設定されている。
また、結合用樹脂3としては、例えばフェノール樹脂やポリイミド樹脂等の耐熱樹脂が用いられる。
前記目立て用工具1は、砥粒2と結合用樹脂3とを適宜割合で混練し、適宜温度例えば150℃〜250℃の温度で焼成して成形されたものである。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の目立て用工具の実施例を挙げて、その効果を実証する。
〔砥粒の粒径に関する切断試験〕
本実施例では、まず、下記の表1に示すように、目立て用工具におけるWC微粉末の含有量を一定の60vol%とし、WC微粉末の粒径を0.3μm〜3.5μmの範囲で異ならせた7種の目立て用工具を製造した。
【0024】
【表1】
【0025】
このうち、本発明に係わるWC微粉末の粒径が0.5μm〜3.0μmの範囲にある4種のものを実施例1〜4、それ以外の3種のものを比較例2〜4とした。また、従来から目立て用工具として用いている、#5000のSiC砥粒と結合用樹脂とを混練させて成形したものを用意し、これを比較例1とした。
ただし、実施例1〜4及び比較例1〜4の結合用樹脂はフェノール樹脂であって、それら実施例1〜4及び比較例1〜4の目立て用工具は、1辺の長さが75mm、厚さ1mmの正方形平板状とした。
そして、これらの目立て用工具を用い、前記実施形態で説明した目立て方法に基づいて、切断ブレードに同一の条件で目立てし、この目立て処理後の切断ブレードの径方向の摩耗量を測定した。
目立てした切断ブレードは、ニッケルめっき相に#2000のダイヤモンド砥粒を分散した外径54mm、内径40mm、厚さ0.05mmのものである。この電鋳切断ブレードを直径52mmのフランジを用いてスピンドルに固定して、目立てを行った。また、目立て条件は、主軸回転数30000min
−1、送り速度20mm/sec、切込み0.5mmであり、目立て用工具への溝加工ラインは10ラインとした。
その結果を表2に示す。
【0026】
【表2】
【0027】
表2から明らかなように、比較例1及び比較例3,4では、切断ブレードの半径方向の摩耗量が10μm〜13μmとなっていて、摩耗量が大となっていることがわかった。
これに対し、実施例1〜4では、切断ブレードの半径方向の摩耗量が、前記比較例1及び比較例3,4のそれよりも抑えられていることが分かった。
【0028】
次に、上述のようにして目立てした切断ブレードを用いて、直径52mmのフランジによりスピンドルに固定し、8インチのシリコンウェハーを100ラインに渡って溝加工し、そのときのチッピング状況を調べた。
切断条件は、主軸回転数30000min
−1、送り速度30mm/sec、切断試験ピッチ1.00mm、切り込み深さ0.4mmであり、被加工物の固定はダイシングテープを用いた。
その結果を表3に示す。
【0029】
【表3】
【0030】
表3から明らかなように、20ライン目において、比較例1〜4の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードでは、最大19μm〜23μmのチッピングが見られたのに対し、実施例1〜4の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードでは、最大11μm〜17μmと小さなチッピングしか見られなかった。特に、実施例2,3の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードでは、最大12μmあるいは11μmと、非常に小さいチッピングしか形成されていなかった。
【0031】
比較例1〜4の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードでは、100ライン切断してもまだチッピングサイズが小さくなりつつある過渡状態であり、100ライン以上の切断ライン数が必要であることがわかる。これに対して、実施例1〜4の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードでは、100ライン切断後も切断初期と同等のチッピングサイズで安定していることから、これら実施例1〜4の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードのほとんどは100ライン以内で十分に目立てが出来ていることがわかる。特に実施例2,3の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードの場合、初期からほとんど性能が変わらないくらいの切断性能を有している。
【0032】
以上から、粒径が0.3〜3.5μm範囲のWC微粉末を60vol%の含有量として結合用樹脂中に混練させた目立て用工具の場合、半径摩耗及びチッピングの両面において優れていることがわかった。
【0033】
〔砥粒の含有率に関する切断試験〕
次に、下記の表4に示すように、粒径が一定である1.0μmのWC微粉末を用い、このWC微粉末の含有量を45vol%〜95vol%の範囲で異ならせた7種の目立て用工具を製造した。
【0034】
【表4】
【0035】
このうち、本発明に係わるWC微粉末の含有量が50vol%〜90vol%の範囲にある5種のものを実施例5〜9、それ以外の2種のものを比較例6、7とした。また、従来から目立て用工具として用いられている、#5000のAl203の砥粒と結合用樹脂とを混練させて成形したものを用意し、これを比較例5とした。
ただし、実施例5〜9及び比較例5〜7の結合用樹脂はフェノール樹脂であって、それら実施例5〜9及び比較例5〜7の目立て用工具は、1辺の長さが75mm、厚さ1mmの正方形平板状とした。
そして、これらの目立て用工具を用い、前記実施形態で説明した目立て方法に基づいて、切断ブレードに同一の条件で目立てを施し、この目立て後の切断ブレードの径方向の摩耗量を測定した。
目立てした切断ブレードは、ニッケルめっき相に#2000のダイヤモンド砥粒を分散した外径54mm、内径40mm、厚さ0.05mmのものである。この電鋳切断ブレードを直径52mmのフランジを用いてスピンドルに固定して、目立てを行った。また、目立て条件は、主軸回転数30000min
−1、送り速度20mm/sec、切込み0.5mmであり、目立て用工具への溝加工ラインは10ラインとした。
その結果を表5に示す。
【0036】
【表5】
【0037】
表5から明らかなように、比較例5及び比較例7では、切断ブレードの半径方向の摩耗量が10μmあるいは12μmとなっていて、摩耗量が大となっていることがわかった。
これに対し、実施例5〜9では、切断ブレードの半径方向の摩耗量が、前記比較例5及び比較例7のそれよりも抑えられていることが分かった。
【0038】
次に、上述のようにして目立てした切断ブレードを用い、直径52mmのフランジによりスピンドルに固定し、8インチのシリコンウェハーを100ラインに渡って溝加工し、そのときのチッピング状況を調べた。
切断条件は、主軸回転数40000min
−1、送り速度40mm/sec、切断試験ピッチ1.00mm、切り込み深さ0.4mmであり、被加工物の固定はダイシングテープを用いた。
その結果を表6に示す。
【0039】
【表6】
【0040】
表6から明らかなように、20ライン目において、比較例5〜7の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードでは、最大21μm〜22μmの大きさのチッピングが見られたのに対し、実施例5〜9の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードでは、最大11μm〜16μmと比較的小さなチッピングしか見られなかった。特に、実施例6、7、8の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードでは、最大11μm〜14μmと、非常に小さいチッピングしか生成されていないことがわかった。
【0041】
比較例5〜7の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードでは、100ライン切断してもまだチッピングサイズが小さくなりつつある過渡状態であり、100ライン以上の切断ライン数が必要であることがわかる。これに対して、実施例5〜9の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードでは、100ライン切断後も切断初期と同等のチッピングサイズで安定していることから、これら実施例5〜9の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードのほとんどは100ライン以内で十分に目立てが出来ていることがわかる。特に実施例6,7,8の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードの場合、初期からほとんど性能が変わらないくらいの切断性能を有している。
【0042】
以上から、粒径が一定である1.0μmのWC微粉末を用い、このWC微粉末の含有量を50vol%〜90vol%の範囲で結合用樹脂中に混練させた目立て用工具の場合、半径摩耗及びチッピングの両面において優れていることがわかった。