特許第6351134号(P6351134)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351134
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】目立て用工具
(51)【国際特許分類】
   B24B 53/12 20060101AFI20180625BHJP
   B24B 53/00 20060101ALI20180625BHJP
   B24D 3/00 20060101ALI20180625BHJP
   B24D 3/28 20060101ALI20180625BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   B24B53/12 Z
   B24B53/00 K
   B24D3/00 320A
   B24D3/28
   H01L21/78 F
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-105338(P2017-105338)
(22)【出願日】2017年5月29日
(62)【分割の表示】特願2013-237302(P2013-237302)の分割
【原出願日】2013年11月15日
(65)【公開番号】特開2017-140697(P2017-140697A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2017年5月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100126893
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(72)【発明者】
【氏名】池田 吉隆
【審査官】 須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−202681(JP,A)
【文献】 特開2006−218571(JP,A)
【文献】 特開2006−334685(JP,A)
【文献】 特開2011−011280(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B53/00;53/12
B24D3/00;3/28
B24B3/36
B24B27/06
H01L21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切断ブレードの目立てを行なうための目立て用工具であって、
砥粒と結合用樹脂とが混練されて成形され、
前記砥粒は、ヌープ硬度が1400〜1900であることを特徴とする目立て用工具。
【請求項2】
前記砥粒の粒径が0.5μm〜3.0μmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の目立て用工具。
【請求項3】
前記砥粒の含有量が50vol%〜90vol%に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の目立て用工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子半導体材料等を切断する切断ブレードの目立てを行なう際に用いられる目立て用工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
切断ブレードの目立てを行なう際に用いられる目立て用工具として、例えば特許文献1には超砥粒と結合用樹脂とが混練されて板状に成形されたものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−11280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した目立て用工具にあっては、砥粒としてダイヤモンド砥粒のような超砥粒を用いているため、目立て対象である切断ブレードの刃先の砥粒に与えるダメージが大きく、該切断ブレードを用いた切断初期に、切断ブレードの砥粒や被加工物に比較的大きなチッピングを生じさせるおそれがあった。
なお、目立て用工具の砥粒として、超砥粒以外の研磨用粒子を用いたものもあるが、この場合でも同様であり、切断初期に切断ブレードの砥粒や被加工物に大きなチッピングが生じるのは避けられない。
【0005】
このような場合、通常、ダミーワークを切断して切断ブレードの切刃をワークに十分なじませることにより、切断ブレードの砥粒を結合用樹脂から適正に突出させるプリカットを行う。プリカットを行う場合、切断時間が長くかかることもあって、立ち上がり時の生産性が大きく落ち込む問題がある。
【0006】
本発明は、このような背景の下になされたものであって、切断ブレードに対し目立てが十分に行えるのは勿論、さらに、目立て後の切断ブレードを用いて、プリカットを行うことなく直ちに電子半導体材料等の被加工物を切断しても、被加工物に大きなチッピングを生じさせることなく安定して切断することができる目立て用工具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の目立て用工具は、切断ブレードの目立てを行なうための目立て用工具であって、砥粒と結合用樹脂とが混練されて成形され、前記砥粒は、ヌープ硬度が1400〜1900であることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、目立て対象の切断ブレードによって、当該目立て用工具に所定深さの切り込みを入れ、切断ブレードを、その面方向に沿って目立て用工具に対して相対移動させる。つまり、目立て対象の切断ブレードによって目立て用工具に溝加工を施す。
このとき、目立て用工具に混在している砥粒が、目立て対象の切断ブレードの結合材相を削ることによって切断ブレードから超砥粒を適量露出させたり、切断ブレードから切屑を除去したりする。つまり、当該目立て用工具によって切断ブレードを目立てする。
ここで、前記目立て用工具では、砥粒として適当な硬さである、ヌープ硬度が1400〜1900のものを用いているため、切断ブレードの目立てが好適に行える。
なお、ヌープ硬度が1400に満たない砥粒を用いる場合、砥粒が軟らかすぎて切断ブレードの樹脂結合材相を所望どおり削ることができなくなるおそれが出てくる。また、ヌープ硬度が1900を超える砥粒を用いる場合、目立て対象である切断ブレードの刃先の超砥粒に与えるダメージが大きくなり、切断初期に切断ブレードの砥粒や被加工物に大きなチッピングを発生させるおそれが出てくる。また、切断ブレードの径を小さくさせる半径摩耗量が増えるおそれも出てくる。
【0009】
また、前記砥粒の粒径が0.5μm〜3.0μmの範囲内であることが好ましい。
粒径が0.5μm〜3.0μmの範囲内の砥粒を用いているため、当該目立て用工具を用いた切断ブレードの目立てが好適に行える。
なお、粒径が0.5μmに満たない砥粒を用いる場合、砥粒が小さすぎて切断ブレードの樹脂結合材相を所望どおり削ることができなるおそれが出てくる。また、粒径が3.0μmを超える砥粒を用いる場合、切断ブレードの樹脂結合材相を削りすぎることとなって切断ブレードの砥粒を必要以上露出させることなる。また、切断ブレードの径を小さくさせる半径摩耗量が増えるおそれも出てくる。
【0010】
また、前記砥粒の含有量が50vol%〜90vol%に設定されていることが好ましい。
砥粒の含有量が50vol%〜90vol%に設定されているため、当該目立て用工具を用いた切断ブレードの目立てが好適に行える。
なお、砥粒の含有量が50vol%に満たない場合、切断ブレードの樹脂結合材相を所望どおり削ることができなくなるおそれが出てくる。また、砥粒の含有量が90vol%を超える場合も、当該目立て用工具自身の砥材を保持する力が弱くなるから、所望どおり削ることが出来なくなるおそれが出てくる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の目立て用工具によれば、切断ブレードに対し目立てが十分に行えるのは勿論、さらに、目立て後の切断ブレードを用いて、プリカットを行うことなく直ちに電子半導体材料等の被加工物を切断しても、大きなチッピングを生じさせることなく安定して切断することができ、目立てを行った後の立ち上がり時の生産性が大きく落ち込むのを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る目立て用工具の一実施形態を示す斜視図である。
図2図1に示す実施形態の拡大断面図である。
図3図1に示す実施形態を用いた目立て方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1および図2は本発明に係る目立て用工具の一実施形態を示すものであり、図1は斜視図、図2は拡大断面図である。
本実施形態の目立て用工具1は、図1に示すように方形の板状に成形されたものであり、電子半導体材料等を切断する切断ブレードを目立てする際に用いられる。
【0014】
目立て用工具1は、図2に示すように、砥粒2と結合用樹脂3とが混練されて成形されたものである。砥粒2には、ヌープ硬度が1400〜1900の炭化物からなるもの、例えばWCまたはTiCの微粉末が用いられる。この場合、WCまたはTiCの微粉末を単独で用いても良く、あるいはそれら両者を適当な割合で混合したものを用いても良い。
また、ここで用いられる砥粒2は、粒径が0.5μm〜3.0μmの範囲内のもの、より好ましくは、粒径が1.0〜2.0μmの範囲内のものとされている。
また、目立て用工具1における砥粒2の含有量は50vol%〜90vol%に、より好ましくは、60vol%〜80vol%に設定されている。
また、結合用樹脂3としては、例えばフェノール樹脂やポリイミド樹脂等の耐熱樹脂が用いられる。
前記目立て用工具1は、砥粒2と結合用樹脂3とを適宜割合で混練し、適宜温度例えば150℃〜250℃の温度で焼成して成形されたものである。
【0015】
次ぎに、この実施形態の目立て用工具1を用いた切断ブレード11の目立て方法について説明する。
図3は、この実施形態の目立て用工具1を用いた切断ブレード11の目立て方法を示すものである。切断ブレード11は、ダイヤモンド砥粒やCBN砥粒等の超砥粒を、電鋳等によってニッケル等の金属結合剤相(金属めっき相)に分散したり、あるいはフェノール樹脂やポリイミド樹脂等の樹脂結合剤相に分散したりして形成されて、中心軸線Oを中心とした円環状の砥粒層12によって構成されている。
そして、このような切断ブレード11は、この砥粒層12がなす円環の内周部が工作機械の回転軸に取り付けられて、前記中心軸線O回りに回転させられるとともに、砥粒層12外周部の刃先13が、工作機械に保持された電子半導体材料等の被加工物に切り込まれ、さらに中心軸線Oに垂直な面に沿って送りが与えられて該被加工物を切断してゆく。
【0016】
こうして被加工物の切断を行ううちには、切断ブレード11の砥粒層12の刃先13が摩耗するが、刃先13の摩耗がある程度進んで目立てが必要になった場合、あるいは刃先13の摩耗が進みすぎて、新たな切断ブレード11を工作機械に装着する場合には、前記実施形態の目立て用工具1により刃先13を目立てすることによって、適正な切れ味に回復させる。
【0017】
すなわち、前記被加工物に代えて図3に示すように前記実施形態の目立て用工具1を、切断ブレード11が取り付けられた工作機械に、目立て用工具1の上部平面部が切断ブレード11側を向いて中心軸線Oと平行となるように水平に保持し、切断のときと同じように切断ブレード11をその中心軸線O回りに回転させつつ前記砥粒層12の外周の刃先13を目立て用工具1の上部平面部に垂直に切り込ませ、さらにこの中心軸線Oに垂直な水平方向(図3の図面に直交する方向)に相対的に送りを与えてゆく。ただし、この刃先13の切り込み量は目立て用工具1の厚さよりも小さく設定される。従って、該目立て用工具1は前記被加工物のように切断されることはなく、切断ブレード11によって幅狭の凹溝Mが前記水平方向に向けて形成されることとなる。このような凹溝Mの切り込みは、必要なライン数、例えば、10ライン〜20ライン程度行われる。
【0018】
上述した目立て方法であると、目立て用工具1が、砥粒2として適当な硬さである、ヌープ硬度が1400〜1900のものを用いているため、該砥粒2により、切断ブレード11の砥粒層12の超砥粒にダメージを与えることなく樹脂結合材相を削って超砥粒の突き出し量を適量に設定するとともに、切断ブレード11に付着した切屑を削り落とすことができ、この結果、切断ブレード11に対して好適な目立てが行える。
【0019】
なお、ヌープ硬度が1400に満たない砥粒を用いる場合、砥粒が軟らかすぎて切断ブレード11の樹脂結合材相を所望どおり削ることができなかったり、切断ブレード11に付着した切屑を削り落とすことができなかったりするため、十分な目立て効果が得られなくなるおそれが出てくる。また、ヌープ硬度が1900を超えるような硬度の高い砥粒、たとえば、ダイヤモンド砥粒、Al203、あるいはSiCからなる砥粒を用いる場合、切断ブレード11の刃先13の超砥粒に与えるダメージが大きくなり、切断初期に切断ブレード11の砥粒や被加工物にチッピングが発生するおそれが出てくる。また、刃先13に対する研磨量が増えてしまい、切断ブレード11の径を小さくさせる半径摩耗が増えるおそれも出てくる。
【0020】
また、目立て用工具1として、粒径が0.5μm〜3.0μmの範囲内の砥粒を用いているため、当該目立て用工具1を用いた切断ブレード11の目立てが好適に行える。
なお、粒径が0.5μmに満たない砥粒2を用いる場合、砥粒2が小さすぎて、切断ブレード11の樹脂結合材相を所望どおり削ることができなかったり、切断ブレード11に付着した切屑を削り落とすことができなかったりするため、十分な目立て効果が得られなくなるおそれが出てくる。また、粒径が3.0μmを超える砥粒を用いる場合、砥粒2が大きすぎて、切断ブレード11の樹脂結合材相を削りすぎることとなって切断ブレード11の砥粒を必要以上露出させることなり、切断初期に被加工物に大きなチッピングを発生させるおそれが生じるため、これを回避するためのプリカットが必要になる。また、刃先13に対する研磨量が増えてしまい、切断ブレード11の径を小さくさせる半径摩耗量が増えるおそれも出てくる。
【0021】
また、砥粒の含有量が50vol%〜90vol%に設定されているため、当該目立て用工具1を用いた切断ブレード11の目立てが好適に行える。
なお、砥粒の含有量が50vol%に満たない場合、砥粒の分布が少なすぎるため、切断ブレード11の樹脂結合材相を所望どおり削ることができなかったり、切断ブレード11に付着した切屑を削り落とすことができなかったりするため、十分な目立て効果が得られなくなるおそれが出てくる。
また、砥粒の含有量が90vol%を超える場合も、当該目立て用工具自身の砥材を保持する力が弱くなり、所望どおり削ることが出来なくなるため、これを回避するためのプリカットが必要になる。
さらに、結合用樹脂の割合が少なくなるので、目立て用工具1自体の強度が不足し、目立て時に目立て用工具1に欠け等の損傷が生じるおそれが出てくる。
【0022】
なお、本発明の目立て用工具は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、構成部品の変更や改良をすることができる。
前記実施形態では、目立て用工具1の形状として方形板状のものとしたが、これに限られることなく、目立てする研削砥石の修正すべき砥粒層の形状に応じて成形すればよい。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の目立て用工具の実施例を挙げて、その効果を実証する。
〔砥粒の粒径に関する切断試験〕
本実施例では、まず、下記の表1に示すように、目立て用工具におけるWC微粉末の含有量を一定の60vol%とし、WC微粉末の粒径を0.3μm〜3.5μmの範囲で異ならせた7種の目立て用工具を製造した。
【0024】
【表1】
【0025】
このうち、本発明に係わるWC微粉末の粒径が0.5μm〜3.0μmの範囲にある4種のものを実施例1〜4、それ以外の3種のものを比較例2〜4とした。また、従来から目立て用工具として用いている、#5000のSiC砥粒と結合用樹脂とを混練させて成形したものを用意し、これを比較例1とした。
ただし、実施例1〜4及び比較例1〜4の結合用樹脂はフェノール樹脂であって、それら実施例1〜4及び比較例1〜4の目立て用工具は、1辺の長さが75mm、厚さ1mmの正方形平板状とした。
そして、これらの目立て用工具を用い、前記実施形態で説明した目立て方法に基づいて、切断ブレードに同一の条件で目立てし、この目立て処理後の切断ブレードの径方向の摩耗量を測定した。
目立てした切断ブレードは、ニッケルめっき相に#2000のダイヤモンド砥粒を分散した外径54mm、内径40mm、厚さ0.05mmのものである。この電鋳切断ブレードを直径52mmのフランジを用いてスピンドルに固定して、目立てを行った。また、目立て条件は、主軸回転数30000min−1、送り速度20mm/sec、切込み0.5mmであり、目立て用工具への溝加工ラインは10ラインとした。
その結果を表2に示す。
【0026】
【表2】
【0027】
表2から明らかなように、比較例1及び比較例3,4では、切断ブレードの半径方向の摩耗量が10μm〜13μmとなっていて、摩耗量が大となっていることがわかった。
これに対し、実施例1〜4では、切断ブレードの半径方向の摩耗量が、前記比較例1及び比較例3,4のそれよりも抑えられていることが分かった。
【0028】
次に、上述のようにして目立てした切断ブレードを用いて、直径52mmのフランジによりスピンドルに固定し、8インチのシリコンウェハーを100ラインに渡って溝加工し、そのときのチッピング状況を調べた。
切断条件は、主軸回転数30000min−1、送り速度30mm/sec、切断試験ピッチ1.00mm、切り込み深さ0.4mmであり、被加工物の固定はダイシングテープを用いた。
その結果を表3に示す。
【0029】
【表3】
【0030】
表3から明らかなように、20ライン目において、比較例1〜4の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードでは、最大19μm〜23μmのチッピングが見られたのに対し、実施例1〜4の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードでは、最大11μm〜17μmと小さなチッピングしか見られなかった。特に、実施例2,3の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードでは、最大12μmあるいは11μmと、非常に小さいチッピングしか形成されていなかった。
【0031】
比較例1〜4の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードでは、100ライン切断してもまだチッピングサイズが小さくなりつつある過渡状態であり、100ライン以上の切断ライン数が必要であることがわかる。これに対して、実施例1〜4の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードでは、100ライン切断後も切断初期と同等のチッピングサイズで安定していることから、これら実施例1〜4の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードのほとんどは100ライン以内で十分に目立てが出来ていることがわかる。特に実施例2,3の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードの場合、初期からほとんど性能が変わらないくらいの切断性能を有している。
【0032】
以上から、粒径が0.3〜3.5μm範囲のWC微粉末を60vol%の含有量として結合用樹脂中に混練させた目立て用工具の場合、半径摩耗及びチッピングの両面において優れていることがわかった。
【0033】
〔砥粒の含有率に関する切断試験〕
次に、下記の表4に示すように、粒径が一定である1.0μmのWC微粉末を用い、このWC微粉末の含有量を45vol%〜95vol%の範囲で異ならせた7種の目立て用工具を製造した。
【0034】
【表4】
【0035】
このうち、本発明に係わるWC微粉末の含有量が50vol%〜90vol%の範囲にある5種のものを実施例5〜9、それ以外の2種のものを比較例6、7とした。また、従来から目立て用工具として用いられている、#5000のAl203の砥粒と結合用樹脂とを混練させて成形したものを用意し、これを比較例5とした。
ただし、実施例5〜9及び比較例5〜7の結合用樹脂はフェノール樹脂であって、それら実施例5〜9及び比較例5〜7の目立て用工具は、1辺の長さが75mm、厚さ1mmの正方形平板状とした。
そして、これらの目立て用工具を用い、前記実施形態で説明した目立て方法に基づいて、切断ブレードに同一の条件で目立てを施し、この目立て後の切断ブレードの径方向の摩耗量を測定した。
目立てした切断ブレードは、ニッケルめっき相に#2000のダイヤモンド砥粒を分散した外径54mm、内径40mm、厚さ0.05mmのものである。この電鋳切断ブレードを直径52mmのフランジを用いてスピンドルに固定して、目立てを行った。また、目立て条件は、主軸回転数30000min−1、送り速度20mm/sec、切込み0.5mmであり、目立て用工具への溝加工ラインは10ラインとした。
その結果を表5に示す。
【0036】
【表5】
【0037】
表5から明らかなように、比較例5及び比較例7では、切断ブレードの半径方向の摩耗量が10μmあるいは12μmとなっていて、摩耗量が大となっていることがわかった。
これに対し、実施例5〜9では、切断ブレードの半径方向の摩耗量が、前記比較例5及び比較例7のそれよりも抑えられていることが分かった。
【0038】
次に、上述のようにして目立てした切断ブレードを用い、直径52mmのフランジによりスピンドルに固定し、8インチのシリコンウェハーを100ラインに渡って溝加工し、そのときのチッピング状況を調べた。
切断条件は、主軸回転数40000min−1、送り速度40mm/sec、切断試験ピッチ1.00mm、切り込み深さ0.4mmであり、被加工物の固定はダイシングテープを用いた。
その結果を表6に示す。
【0039】
【表6】
【0040】
表6から明らかなように、20ライン目において、比較例5〜7の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードでは、最大21μm〜22μmの大きさのチッピングが見られたのに対し、実施例5〜9の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードでは、最大11μm〜16μmと比較的小さなチッピングしか見られなかった。特に、実施例6、7、8の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードでは、最大11μm〜14μmと、非常に小さいチッピングしか生成されていないことがわかった。
【0041】
比較例5〜7の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードでは、100ライン切断してもまだチッピングサイズが小さくなりつつある過渡状態であり、100ライン以上の切断ライン数が必要であることがわかる。これに対して、実施例5〜9の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードでは、100ライン切断後も切断初期と同等のチッピングサイズで安定していることから、これら実施例5〜9の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードのほとんどは100ライン以内で十分に目立てが出来ていることがわかる。特に実施例6,7,8の目立て用工具を用いて目立てした切断ブレードの場合、初期からほとんど性能が変わらないくらいの切断性能を有している。
【0042】
以上から、粒径が一定である1.0μmのWC微粉末を用い、このWC微粉末の含有量を50vol%〜90vol%の範囲で結合用樹脂中に混練させた目立て用工具の場合、半径摩耗及びチッピングの両面において優れていることがわかった。
【符号の説明】
【0043】
1 目立て用工具
2 砥粒
3 結合用樹脂
11 切断ブレード
12 砥粒層
13 刃先
M 凹溝
図1
図2
図3