特許第6351170号(P6351170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351170
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】積層フィルムおよび包装袋
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20180625BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20180625BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   B32B27/32 101
   B32B27/28 102
   B65D65/40 D
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-195942(P2014-195942)
(22)【出願日】2014年9月26日
(65)【公開番号】特開2016-64610(P2016-64610A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2017年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 甲介
(72)【発明者】
【氏名】金澤 麻子
【審査官】 堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−28732(JP,A)
【文献】 特開平6−136206(JP,A)
【文献】 特開平7−70378(JP,A)
【文献】 特開平6−155665(JP,A)
【文献】 特開平10−259276(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0172102(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B65D 65/40
C08L 1/00−101/14
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と積層フィルムの一方の最表面となるシーラント層とを含む複数の層を有する積層フィルムにおいて、
前記シーラント層は、酸変性ポリエチレン(A)を主成分とし、エチレン―ビニルアルコール共重合体(B)と溶融混合して得られる樹脂組成物からなり、且つエチレン―ビニルアルコール共重合体(B)が有するビニルアルコール単位の占める比率が、前記樹脂組成物中の0.1〜11.0重量%の範囲に収まることを特徴とする積層フィルム。
【請求項2】
前記樹脂組成物の主成分とする酸変性ポリエチレン(A)が無水マレイン酸変性ポリエチレンであることを特徴とする請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の積層フィルムからなり、前記シーラント層をヒートシールしてなることを特徴とする包装袋。
【請求項4】
前記包装袋が固体包装向けまたは液体包装向けであることを特徴とする請求項3に記載の包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来のポリエチレン系樹脂を用いたシーラントと同レベルのヒートシール性を有し、常温環境下において従来のポリエチレン系シーラントよりも有効成分が透過、吸着しにくい酸変性ポリエチレンを主成分として用いた樹脂組成物をシーラント層とした液体包装向けとしても使用可能な積層フィルムおよび包装袋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のポリオレフィン系樹脂をシーラントとした包装フィルムは、低分子量の有機化合物が吸着しやすくバリア性が劣るため、飲食物や化粧品等の香気成分が浸透あるいは吸着して風味が低下したり、化粧品や薬剤の微量な有効成分が浸透あるいは吸着して効能が低下したりする欠点がある。また包装フィルムに対する影響としては、内容品に含まれる香味成分やアルコール類、界面活性剤などが浸透することにより、包装フィルム内部の接着剤層やアンカー剤層、印刷層などに悪影響を及ぼして層間のラミネート強度を低下させ、デラミネーション(剥離)を起こすおそれがあるという問題もある。
【0003】
この問題に対して、エチレン―ビニルアルコール共重合体をシーラント樹脂として用いた包装フィルムにより、香気成分や有効成分の浸透あるいは吸着を抑えることが可能である。しかし、エチレン―ビニルアルコール共重合体は吸水性樹脂であるため、内容品の水分を非常に吸収しやすく、結果としてシーラントが膨潤し、シール強度の低下、シーラントと隣接する層間でのデラミネーションを起こしやすい。さらにエチレンーアルコール共重合体のシーラントはヒートシール強度が弱いことから、大型袋として使用することができないため、現在粉体や顆粒などの水分を含まない軽量固形物用途の包装フィルムとしてのみ実用化されている。
【0004】
従来の技術では70〜90重量%のエチレン―ビニルアルコール共重合体と10〜30重量%のエチレン―酢酸ビニル共重合体をリアクティブプロセシング法により溶融混練した樹脂組成物からなるシーラントフィルムが発明されている(特許文献1参照)。
また、82〜90重量%のエチレン―ビニルアルコール共重合体と10〜18重量%の無水マレイン酸変性ポリオレフィンからなるシーラントフィルムが発明されている(特許文献2参照)。
これらは、従来のエチレン―ビニルアルコール共重合体シーラントよりも吸水率が低く、香気成分の非吸着性が同等であり、さらにヒートシール性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−80039号公報
【特許文献2】特開2013−28732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、特許文献2ともにエチレン―ビニルアルコール共重合体をベース樹脂としているため、一般的に使用されているポリエチレンシーラントよりもヒートシール強度がかなり低いため、大容量の包装袋としての使用ができない。またポリエチレンシーラントと比較すると吸水率が非常に高いため、液体用包装袋として使用した場合、シーラントが膨潤してしまい、シーラントと隣接する層間でのデラミネーションが起こってしまう。
【0007】
本発明は以上のような従来の欠点に鑑み、従来のポリエチレン系樹脂を用いたシーラントと同レベルのヒートシール性を有し、常温環境下において従来のポリエチレン系シーラントよりも有効成分が透過、吸着しにくい積層フィルムおよび包装袋を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の積層フィルムは、基材と積層フィルムの一方の最表面となるシーラント層とを含む複数の層を有する積層フィルムにおいて、前記シーラント層は、酸変性ポリエチレン(A)を主成分とし、エチレン―ビニルアルコール共重合体(B)と溶融混合して得られる樹脂組成物からなり、且つエチレン―ビニルアルコール共重合体(B)が有するビニルアルコール単位の占める比率が、前記樹脂組成物中の0.1〜11.0重量%の範囲に収まることを特徴とする。
【0009】
前記樹脂組成物の主成分とする酸変性ポリエチレン(A)が無水マレイン酸変性ポリエチレンであることが好ましい。
また、本発明は、前記積層フィルムからなり、前記シーラント層をヒートシールしてなることを特徴とする包装袋を提供する。
前記包装袋が固体包装向けまたは液体包装向けであってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来のポリエチレン系樹脂を用いたシーラントと同レベルのヒートシール性を有し、常温環境下において従来のポリエチレン系シーラントよりも有効成分が透過、吸着しにくい積層フィルムおよび包装袋を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、好適な実施形態に基づいて、本発明を説明する。
本実施形態の積層フィルムは、基材と積層フィルムの一方の最表面となるシーラント層とを含む複数の層を有する。そして、以下の樹脂(A)、樹脂(B)からなる樹脂組成物がシーラントとして用いられている。
樹脂(A):酸変性ポリエチレン(主成分)
樹脂(B):エチレン―ビニルアルコール共重合体
【0012】
シーラント層に使用される酸変性ポリエチレン(A)は、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリエチレン系樹脂である。酸変性の結果、酸変性ポリエチレンは、カルボキシル基、無水カルボン酸基等の酸官能基を有する。酸変性方法としては、有機過酸化物や脂肪族アゾ化合物などのラジカル重合開始剤の存在下で酸官能基含有モノマーをポリエチレンと溶融混練する等のグラフト変性や、酸官能基含有モノマーをエチレンと共重合する共重合変性などが挙げられる。酸変性ポリエチレン(A)におけるエチレン含有率は、例えば50〜99.99モル%の範囲内で適宜選択することが好ましい。
【0013】
酸変性ポリエチレン(A)は、エチレンと酸官能基含有モノマーとの共重合体に限らず、さらに他のモノマー、例えばエチレン以外のオレフィン類と共重合されてもよい。これらのオレフィン類としては、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、1−ヘキセン、α−オレフィン等の1種または2種以上が挙げられる。酸変性ポリエチレンにおいて、エチレン単位が酸変性ポリエチレンの50重量%以上を占めることが好ましい。
【0014】
酸官能基含有モノマーとしては、エチレン性二重結合と、カルボン酸基(カルボキシル基)、無水カルボン酸基等の酸官能基とを、同一の分子内に持つ化合物が挙げられる。カルボン酸基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、テトラヒドロフタル酸、その他の不飽和モノカルボン酸や不飽和ジカルボン酸等の1種または2種以上が挙げられる。無水カルボン酸基含有モノマーとしては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水テトラヒドロフタル酸等の1種または2種以上が挙げられる。酸官能基含有モノマーのうち、無水カルボン酸基含有モノマーがより好ましく、無水マレイン酸が特に好ましい。酸変性ポリエチレン(A)としては、特に無水マレイン酸変性ポリエチレンが望ましい。酸変性ポリエチレン(A)の密度は、0.890〜0.940g/cmが望ましく、さらに望ましくは0.905〜0.925g/cmである。
【0015】
シーラント層に使用されるエチレン―ビニルアルコール共重合体(B)は、エチレンとビニルアルコールとの共重合体である。エチレン―ビニルアルコール共重合体の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法で製造することができる。例えば、エチレンをビニルエステル系モノマーと共重合させ、得られた共重合体をケン化して、ビニルエステル単位をビニルアルコール単位に変換する方法が挙げられる。ビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、酪酸ビニル等の脂肪族ビニルエステルや、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等の1種または2種以上が挙げられる。エチレン―ビニルアルコール共重合体のエチレン含有率は、15〜60モル%が望ましく、さらに望ましくは25〜50モル%である。
【0016】
シーラント層を構成する樹脂組成物は、酸変性ポリエチレン(A)とエチレン―ビニルアルコール共重合体(B)とを溶融混合して得られる。酸変性ポリエチレン(A)は樹脂組成物の主成分であり、樹脂組成物の50〜99.99重量%を占めることが好ましい。該樹脂組成物は、発明の目的を損なわない範囲で、適宜の添加剤を添加することができる。添加剤としては、例えば酸化防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、着色剤等の1種または2種以上が挙げられる。添加剤の添加タイミングは、酸変性ポリエチレン(A)とエチレン―ビニルアルコール共重合体(B)との溶融混合前、溶融混合中、溶融混合後のいずれでもよい。
【0017】
シーラント層を構成する樹脂組成物において、エチレン―ビニルアルコール共重合体(B)が有するビニルアルコール単位の占める比率は、当該樹脂組成物中の0.1〜11.0重量%の範囲に収まることが望ましい。これにより、樹脂組成物の親水性と疎水性をバランスよく発現して、ヒートシール性と非吸着性を両立した積層フィルムおよび包装袋を得ることができる。
【0018】
積層フィルムは、基材とシーラント層、必要に応じて他の中間層を積層した構成である。すなわち、積層フィルムは、その一方の最表面となるシーラント層と基材とを有するだけでもよいし、さらに他の中間層、接着剤層やアンカー剤層などの1または2以上の層を有することができる。基材または他の中間層とシーラント層との積層は、接着剤層またはアンカー剤層を介しても良いし、基材に直接積層されていても良い。中間層としては、補強層、ガスバリア層、遮光層、印刷層など、適宜、一層または複数層を選択することができる。基材は、積層フィルムの他方の最表面であってもよいし、他方の最表面層より内側に積層されてもよい。シーラント層とは、ヒートシールに用いられる層であり、包装材料としては内容品に接する最内層に配置される。
【0019】
積層フィルムの基材としては、耐熱性や強度などの機械的特性、印刷適性に優れた延伸フィルムが好ましく、具体的には、2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(O−PET)フィルム、2軸延伸ナイロン(O−Ny)フィルム、2軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム等を挙げることができる。前記基材の厚さは通常10〜50μmであり、好ましくは10〜30μmである。
【0020】
シーラント層の内側には、シーラント層を基材または他のフィルムと接着するため、アンカー剤層または接着剤層が介在されることが好ましい。シーラント層を押出ラミネート法で形成する場合には、シーラント層の内側に接するアンカー剤層が形成される。予め単層フィルムとして作製したシーラント層をドライラミネート法によって基材または他のフィルムと接着する場合には、シーラント層の内側に接する接着剤層が形成される。また、共押出法を用いる場合は酸変性ポリオレフィンなどの接着性樹脂を用いても良い。
【0021】
前記アンカー剤層を構成するアンカー剤としては、ポリウレタン系、ポリエーテル系、アルキルチタネート(有機チタン化合物)系等、一般的に押出ラミネート法に使用されるアンカー剤が使用でき、積層フィルムの用途に合わせて選択可能である。前記接着剤層を構成する接着剤としては、ポリウレタン系、ポリエーテル系等、一般的にドライラミネート法に使用される接着剤を使用でき、積層フィルムの用途に合わせて選択可能である。
【0022】
前記シーラント層の内側のアンカー剤層または接着剤層と前記基材との間には、中間層としてガスバリア層や補強層などが存在していても構わない。補強層は積層フィルムの強度特性を補完する役割であって、補強層を構成する樹脂としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のポリオレフィン系樹脂、2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(O−PET)、2軸延伸ナイロン(O−Ny)、2軸延伸ポリプロピレン(OPP)等を挙げることができる。補強層の厚みは、通常5〜50μmであり、好ましくは10〜30μmである。
【0023】
ガスバリア層は、酸素や水蒸気等のガスが積層フィルムを透過することを遮断するためガスバリア性を付与する機能を有する。このようなガスバリア層としては、金属箔、アルミニウムや無機酸化物の蒸着層、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、塩化ビニリデン等のガスバリア性樹脂層が挙げられる。なお、バリア層を補強層として共用しても構わない。これらのガスバリア層は、基材または補強層を構成するフィルムの片面に設けることができ、一般には基材とシーラント層との間の中間層として設けられる。無機酸化物蒸着層の場合は、基材よりも外側の最外層(積層フィルムにおいてシーラント層の反対側の最表面層)としても利用できる。ガスバリア層の厚みは、金属箔またはガスバリア性樹脂層による場合は通常5〜50μmであり、好ましくは10〜30μmである。ガスバリア層として金属蒸着層または無機酸化物蒸着層を用いる場合には、これより薄くすることができる。
【0024】
本実施形態の積層フィルムを製造する方法としては、特に限定されることなく、押出ラミネート法、ドライラミネート法、共押出法またはこれらの併用により、積層フィルムを構成する各層を適宜積層すればよい。本実施形態の積層フィルムにおいて、シーラント層の厚さは、包装材料の用途にも依存し、特に限定されるものではないが、通常は5〜150μm程度であり、好ましくは15〜80μmである。
【0025】
本実施形態の積層フィルムは、ヒートシール性と加工適性がともに優れるので、通常の製袋機や製袋充填機を用いた製袋に適している。本実施形態の包装袋は、本実施形態の積層フィルムを前記シーラント層によりヒートシールしてなるものであり、低分子量成分の非吸着性およびバリア性にも優れているから、飲食物や化粧品、薬剤等の包装袋として好適に利用できる。シーラント層のヒートシール性に優れることから、固体包装向けにも、液体包装向けにも、好適である。包装袋の形態は、三方袋、四方袋、合掌貼り袋、ガゼット袋、自立袋等の包装袋(パウチ)のほか、例えばバッグインボックス用の内袋やドラム缶内装袋などの大型の袋等、特に限定なく適用可能である。
【0026】
本実施形態の包装袋に注出口を設ける場合、注出口としては、包装袋を構成する積層フィルムのシーラント層と接合して密封性が確保できれば好適に使用できるが、より好ましくは、前記積層フィルムのシーラント層とヒートシール可能な樹脂からなる注出口を用いて、注出口と積層フィルムとをヒートシールによって接合することが望ましい。積層フィルムと注出口をヒートシールする場合、シーラント層を内側として積層フィルムを重ね合わせた間に注出口を挿入してヒートシールしてもよいし、注出口の一端にフランジ部や舟形形状の融着基部を設け、このフランジ部や融着基部を積層フィルムに設けた穴の周縁や包装袋の開口部内面とヒートシールしてもよい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
【0028】
【表1】
【0029】
なお、表1において用いた略語の意味は、次のとおりである。
「MAH−PE」・・・無水マレイン酸変性ポリエチレン(Tm=120℃、MFR=1.4g/10min(190℃)、ρ=0.915g/cm
「EVOH(1)」・・・エチレン―ビニルアルコール共重合体(エチレン比率48mol%、ビニルアルコール比率61.3重量%)、Tm=160℃、MFR=15g/10min(210℃)、ρ=1.12g/cm
「EVOH(2)」・・・エチレン―ビニルアルコール共重合体(エチレン比率32mol%、ビニルアルコール比率75.6重量%)、Tm=183℃、MFR=3.7/10min(210℃)、ρ=1.19g/cm
「PE」・・・オクテン−1共重合LLDPE(Tm=119℃、MFR=1.3g/10min(190℃)、ρ=0.917g/cm
表1において「ビニルアルコール比率(重量%)」は、樹脂組成物の全体に占めるビニルアルコールの比率である。
【0030】
(サンプル作製方法)
(1)(溶融混合フィルム)
表1に示す組成により、各実施例および比較例の溶融混合フィルム(厚さ40μm)をTダイ押出機により作製した。
【0031】
(評価方法)
(1)製膜加工性
溶融混合フィルム製膜時の加工安定性、厚みの安定性を○×で簡易的に評価した。
【0032】
(2)(フィルム飽和含水分率測定(カールフィッシャー法))
作製した溶融混合フィルムを10cm×10cmにサンプリングしたフィルムを60℃90%RH環境下に7日間保存した後、23℃50%RH環境下で1時間放置し、フィルム表面に付着した水分を揮発させた後、フィルムから0.1gサンプル片を切り出し、110℃15minでフィルムの含水分率を測定した。
【0033】
(3)(ヒートシール強度測定)
作製した溶融混合フィルムをPETフィルムおよびAl箔とドライラミネートにより貼り合わせ、PET12μm/Al箔9μm/溶融混合フィルム40μmの層構成を有する積層フィルムを得た。
JIS Z 1526に準じて、積層フィルムをヒートシールし、そのシール強度を、引張速度300mm/分、幅15mmにて測定した。ヒートシール条件は、シール温度を120℃、140℃または160℃の3通りとし、それぞれに共通する条件は圧力0.2MPa、加熱時間1秒である。
【0034】
(4)(メントール透過試験)
試薬として販売されているメントール1gを内寸7cm×7cmの溶融混合フィルム単層で作製したパウチに入れ、パウチの開口部を温度160℃、圧力0.2MPa、加熱時間1秒でシールして密閉し、重量を測定後、40℃ドライ環境下で2ヶ月間保管した後、開封せずにパウチの重量を測定することでメントール減少率を求め、そこから残存率を算出した。メントール残存率は、これとメントール減少率との和が100重量%となるように算出される。
【0035】
表2に(1)〜(4)の評価結果を示す。メントール残存率の単位(%)は「重量%」である。
【0036】
【表2】
【0037】
表2の結果から、本発明(実施例1〜6)によれば、MAH−PE、EVOHを所定の配合領域で混合することで、ヒートシール強度は一般的なシーラントとして使用されるPE(比較例5)単体と同等レベル(30N/15mm以上)を有し、メントール残存率がPE単体と比較して低下しにくいことが確認できた。
EVOHとしての配合比率が同じであっても、エチレン含有率が異なり、樹脂組成物全体でのビニルアルコール比率が11.0重量%よりも高いか低いかによって、2ヶ月後のメントールの残存率が大きく異なるという結果も得られている(実施例4、比較例1)。
【0038】
PE(比較例5)と融点、MFR、密度がほぼ同じMAH−PE(比較例4)単体でもメントール残存率はPE単体よりも高い値を示すが、本発明によりメントール残存率がさらに向上することから、EVOHの添加により機能は向上すると言える。
樹脂組成物全体のビニルアルコール比率が11重量%を超える場合(比較例1,2)、比較例1では2ヶ月後の、比較例2では1ヶ月後および2ヶ月後のメントール残存率がMAH−PE単体(比較例4)よりも低下した。
さらに樹脂組成物全体のビニルアルコール比率が15重量%を超える場合(比較例3)、メントール残存率が低くなるだけでなく、シール強度も30N/15mmを超えず、また飽和含水分率も5,000ppmを超えるという結果となった。
【0039】
現在液体用包装袋のシーラントフィルムとして一般的に使用されているPETフィルム30μm(イソフタル酸変性率5モル%、極限粘度IV=0.74dl/g、Tm=240℃)の飽和含水分率を同条件で保管後に測定したところ、5,024ppmであったことから、この値を上限目安とした場合、これ以下の飽和含水分率であればシーラントの吸水による膨潤、それに伴う積層フィルムのデラミネーション発生の可能性は低く、液体用包装袋としての使用が可能と判断している。
【0040】
主成分にMAH−PEを使用しなかった場合(比較例6)、メントール残存率はMAH−PEを使用した場合(実施例3)よりも1ヶ月後で20%以上、2ヶ月後で25%以上低く、飽和含水分率も高いという結果となった。また加工時にフィルムの厚みが安定しにくかったことから、性能、加工両面においてMAH−PEを主成分として使用することでの効果が確認できている。