【実施例】
【0018】
本発明の実施例に係るプラズマ処理装置について図面を用いて説明する。
図1は本実施例で使用する、ECR(Electoron Cycrotron Rezonance)マイクロ波プラズマエッチング装置を示す概略縦断面図である。上部が開放された真空容器101の上部に、真空容器101内に処理ガスを導入するためのシャワープレート105(例えば石英製)、誘電体窓106(例えば石英製)を設置し、密封することにより処理室107を形成する。シャワープレート105には処理ガスを流すための複数の孔が配置されており、ガス供給装置108から供給されたガスは複数の孔を通り処理室107に導入される。また、真空容器101には真空排気口109を介し真空排気装置(図示せず)が接続されている。
【0019】
プラズマを生成するための電力を処理室107に伝送するため、誘電体窓106の上方には電磁波を伝送する導波管110を設けている。導波管110へ伝送される高周波(プラズマ生成用高周波)は第一の高周波電源104の制御により発振器103から発振される。また、第一の高周波電源104はパルス発振器を備えるため、時間変調された間欠的な高周波または、連続的な高周波を発振することができる。
【0020】
高周波の周波数は特に限定されないが、本実施例では2.45GHzのマイクロ波(プラズマ生成用高周波)を使用する。処理室107の外周部には、磁場を形成する磁場発生用コイル111が設けてあり、発振器103より発振された電力は、形成された磁場との相互作用により、処理室107内に高密度プラズマを生成する。尚、磁場発生用コイル111はコイルケース112により覆われている。
【0021】
また、シャワープレート105に対向して真空容器101の下部には試料台102を設けている。試料台102は電極表面が溶射膜(図示せず)で被覆されており、高周波フィルタ116を介して直流電源117が接続されている。さらに、試料台102には、マッチング回路(整合器)114を介してバイアス用高周波電源である第二の高周波電源115が接続される。試料台102には、温度調節器(図示せず)も接続されている。
【0022】
搬送手段(図示せず)により、ウエハ113を真空容器101の処理室107に搬送し、試料台102に載置する。処理室107内に搬送された試料であるウエハ113は、直流電源117から印加される直流電圧の静電気力で試料台102上に吸着、温度調節される。ガス供給装置108によって所望の処理ガスを処理室107へ供給した後、真空排気装置を介して真空容器101内を所定の圧力に制御し、発振器103から高周波を処理室107内に供給して処理室107内にプラズマを発生させる。試料台102に接続された第二の高周波電源115から高周波電力を印加することにより、プラズマからウエハへイオンを引き込み、ウエハ113がプラズマ処理(エッチング)される。また、第二の高周波電源115は、パルス発振器を備えるため、試料台102に時間変調された間欠的な高周波電力または、連続的な高周波電力を印加することができる。
【0023】
本実施例に係るプラズマエッチング装置では、
図2に示すように、コイルケース112の上部に、直流電源117とマッチング回路114、および第一の高周波電源104と第二の高周波電源115が導波管110の両側に配置されている。このようにコイルケース112の上部に各種電源を搭載することは、大きくなり過ぎた装置をコンパクトにするためであり、各種電源の配列についても限られた設置場所を考慮したためである。特に、鉛直上方から見て外形寸法の大きな第一の高周波電源104やマッチング回路114を、広い領域が確保できるコイルケース112の中央部付近、即ち導波管110の近傍に配置し、外形寸法の小さな第二の高周波電源115や直流電源117をコイルケース112の周辺部、即ち第一の高周波電源104やマッチング回路114の更に外側に配置した。又、各部品の長手方向が、導波管110の長手方向と平行に配置することによりスペースを有効に利用することができ、より小スペース内に配置することができる。
【0024】
コイルケース112の上部に、直流電源117とマッチング回路114、および第一の高周波電源104と第二の高周波電源115が導波管110の両側に配置された、直径がφ450mmのウエハに対応したエッチング装置を用いて、エッチング処理を実施したところ、特定条件でのエッチング処理中に、コイルケース112の上部に設置されている第一の高周波電源104が落ちることが判明した。この第一の高周波電源104が落ちる要因の一つとして、第一の高周波電源104の内部にある基板の過温検知(80℃以上で検知)の作動が挙げられる。通常の過温検知の作動であれば、第一の高周波電源104の復旧には時間を要しないが、今回の過温検知の作動後は復旧するまでに時間を要した。また、第一の高周波電源104の復旧後に再度特定条件でエッチング処理をすると、再度第一の高周波電源104が落ちることが確認された。そこで第一の高周波電源104の内部にある基板の過温検知器の状態を確認したが、過温検出時に見られる過温検知器の変色は見られなかった。
【0025】
そこで次にエッチング処理を実施する条件について確認した。エッチング処理中において、第一の高周波電源104が落ちない条件もあり、処理条件を調べていくと磁場発生用コイル111の使用領域によって第一の高周波電源104がエッチング処理中に落ちることが判明した。
図3にコイルケース112部の概略拡大断面図(
図2のC−Cライン断面図、シャワープレート等未記載)を示す。コイルケース112の内側に設置された磁場発生用コイル111は、上コイル111a、中コイル111b、下コイル111cに分かれている。エッチング処理中は、磁力線118が下コイル111cから上コイル111aに沿って形成されており、処理室107を通り下コイル111cに繋がっている。
【0026】
この時に下コイル111cの電流の大きさを調整することにより、磁力線118に沿ってプラズマを処理室107内に拡散できることが可能である。このため、高密度で高均一のプラズマを処理室107内に生成することが可能であり、ウエハ113を高速かつ均一にエッチングすることができる。
【0027】
図4は、
図1に示したマイクロ波プラズマエッチング装置のA−A断面図であり、上コイル111aとコイルケース112の横断面図である。上コイル111aは内側および外側をコイルケース112に覆われている。上コイル111aの内側をコイルケース112で覆うことで磁力線118に沿ってプラズマを処理室107内へ導くことができる。
【0028】
図5は、
図1のB−B断面を示す。中コイル111bの内側にはコイルケース112で覆われていないので、磁力線118の影響を受けずにプラズマは処理室107内に拡散することができる。下コイル111cも中コイル111bと同様な構造となっている。(図示せず)
このことから、エッチング処理中に第一の高周波電源104が落ちる要因として、下コイル111cの電流を大きくした場合にコイルケース112から磁場が漏れ、第一の高周波電源104の内部にある基板の誤動作を誘発していると推定された。即ち、第一の高周波電源104の設置箇所は、電源内にある基板の向きが導波管110寄りになっており、上コイル111aに沿っている磁力線118の影響を受けやすい構造となっている。また、第一の高周波電源104の内部にある基板を覆う蓋の材質はアルミ製であり、コイルケース内の磁力線118から漏れた磁場が、比透磁率が1と低い材質のアルミを突き抜けることで第一の高周波電源104の内部にある基板の誤動作を誘発しているものと推定された。
【0029】
この対策として、第一の高周波電源104の設置箇所を移動することが考えられるが、コイルケース112から各種電源が極力はみ出さないように配置されており、鉛直上方から見て外形寸法(特に、長辺寸法)の大きな第一の高周波電源の設置箇所を変更することは難しい。
【0030】
そこで本発明者等は、
図6に示すようにコイルケース112の上部にある第一の高周波電源104の横に遮蔽板119を設置した。その結果、下コイル111cの電流を大きくした特定条件であっても、磁場の漏えいを抑制することができた。この遮蔽板119の材質は鉄製であり、透磁率の低いアルミ製に比べ透磁率が高くなっているので、コイルケース112から磁場が漏れた場合でも第一の高周波電源104の内部へは磁場が到達しないものと考えられる。
【0031】
一般に透磁率が低い材質としてアルミや銅があり、透磁率が高い材質として鉄やSUSがある。
【0032】
透磁率とは磁界の強さがどれだけ空間に及ぼしているかを示す指標であるが、真空の透磁率との比である比透磁率で表すとアルミは1であり、鉄は5000である。比透磁率が小さいと磁力線118が材質を突き抜けるのに対して、比透磁率が高いと磁力線118が材料を磁化しやすくなることで物質を突き抜けることを抑制できる。原子自体で磁気を帯びえている物質としては、鉄(比透磁率5000)、ニッケル(比透磁600)、コバルト(比透磁率250)の三つがあり、どれも磁力線118が物質を突き抜けることを抑制することが可能である。即ち、比透磁率が1を越える材料を用いることにより遮蔽板としての効果が表れ、比透磁率が250〜5000の範囲の材料が実用的である。その中でも鉄はコスト面や性能面から見て遮蔽板の材質として最も優れている。
【0033】
図7はコイルケース112の上部に各種電源が設置された状態(
図6のD−Dライン断面図、シャワープレート等未記載)を示す。導波管110を正面に見た図であり、第一の高周波電源104と導波管110の間も狭いため、薄い遮蔽板119を採用した。本実施例では、鉄製の遮蔽板119の寸法は高さ420mm、横620mm、厚さ2mmとした。比透磁率が高いほど、遮蔽板を薄くすることができる。また、コイルケース112の上部に配置する構成要素は可能な限り導波管110から距離を離して配置することが好ましい。遮蔽板は第一の高周波電源104だけでなく、他の構成要素に取り付けることもできる。
【0034】
図1、
図6、
図7に示すような構成を有するECRマイクロ波エッチング装置を用い、下コイル111cの電流を大きくした特定条件でウエハ(試料)にエッチング処理を実施した結果、エッチング処理中に第一の高周波電源104の内部にある基板の誤動作が抑制され、装置の動作が安定し、良好なエッチングを安定して行うことができた。これは、コイルケース112を通る磁力線118から漏れた磁場が、鉄製の遮蔽板119によって第一の高周波電源104の内部への進入を遮断できたためである。
【0035】
以上、本実施例によれば、磁場コイルを覆うコイルケースを備え、直径がφ450mmのウエハに対応したプラズマ処理装置であっても、コンパクト化が可能なプラズマ処理装置を提供することができる。また、上記コンパクト化を図った場合であっても、コイルケース上に設置された各種電源が試料の処理中に落ちるのを抑制することが可能なプラズマ処理装置を提供することができる。
【0036】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。