【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、広範囲の入射角において反射率が僅かしか変化せず、さらに高精度で製造可能な請求項1の前提部分に従うEUVミラーを提供する、という課題を解決しようとするものである。
【0013】
かかる課題を解決するために、本発明は請求項1に記載の特徴を有するEUVミラーを提供する。さらに、請求項18に記載の特徴を有するEUVミラーを備える光学システムも提供する。
【0014】
従属請求項には、有利な技術的特徴を特定する。全ての請求項の文言を説明内容に援用する。
【0015】
第一及び第二層グループは、それぞれ、相互に直接連結又は隣接する、それぞれの周期厚P1及びP2によって特徴づけられる2以上の層ペアを有する。また、第三層グループは、層厚がP3である、単一の層ペア又は複数の層ペアにより構成されうる。
【0016】
各場合において、層ペアは、比較的高屈折率の層材料からなる層と、(高屈折率の層材料に比べて)比較的低屈折率の層材料からなる層とを含む。そのような層ペアは、「二重層」又は「バイレイヤ」とも称されうる。周期厚は、実質的に下式により算出することができる。
【数1】
【0017】
ここで、kは層ペア内の層数であり、n
iは各層材料の屈折率であり、及びd
iは幾何学的層厚である。層ペアは、それぞれ、比較的高屈折率の層材料及び比較的低屈折率の層材料からなる2つの層に加えて、1つ又は複数の更なる層、例えば、隣接する層間における相互拡散を抑制するための介在バリア層も有することができる。
【0018】
多数の層ペアを有する多層構成は、「分布ブラッグ反射鏡」として機能する。この場合、格子面がブラッグ反射を生じさせる石英を模倣する層構成は、屈折率の実部の値が小さい材料からなる複数の層により形成される。層ペアの最適周期厚は、所定の波長及び所定の入射角又は入射角範囲(一般に1nm〜10nm)についてのブラックの式により定められる。
【0019】
本出願では、「周期的な層グループ」という用語は、公称周期厚が同一又は略同一であり、周期厚のばらつきが10%以内である、二層以上の直接隣接する層ペアを有する層グループを指す。
【0020】
また、「厳密に周期的な層グループ」という用語は、全ての周期について、さらに、周期を構成する様々な各層の層厚が同一 であることを指す。
【0021】
それぞれの厳密に周期的な層グループは、周期的な層グループでもあるが、全ての周期的な層グループが厳密に周期的な層グループである必要は無い。
【0022】
層グループの構成が厳密に周期的である場合、一般に、その製造時には各層材料について層厚が僅かしか違わないように製造することが重要であり、その結果、周期的ではあるが、厳密に周期的ではない層構成と比較してシンプルに製造することができる。
【0023】
周期的な第一層グループは、多層構成の入射側近傍に配置されている。かかる第一層グループに含まれる、基板から遠い層は、周囲環境に隣接しうる。しかし、第一層グループの基板から遠い側に面する側に適用されるべきキャップ層は、単一層又は2層以上の層の組合せで形成することもできる。
【0024】
特に、第一層グループを厳密に周期的な層グループとすることも可能である。
【0025】
周期的な第二層グループは、第一層グループと基板との間に配置されており、すなわち、より基板に近い側に配置されている。第二層グループは、基板表面に対して直接適用されうる。一層又は複数層の更なる層は、例えば、層応力を補償するように機能するが、基板表面と第二層グループとの間に配置されうる。
【0026】
特に、第二層グループも厳密に周期的であり得る。
【0027】
第一層グループ及び第二層グループの両方が厳密に周期的であることが好ましい。しかし、このような構成は必須ではない。
【0028】
第一層グループの層ペアの第一の数N1は、第二グループの層ペアの第二の数N2よりも大きい。さらに、第一層グループは第二層グループよりも入射側に近い。このことは、表面に近い第一層グループの反射率がより基板に近い第ニ層グループの反射率よりも高いという事実にも寄与する。
【0029】
第三層グループは、第一層グループ及び第二層グループの間に配置されている。第三グループの重要な機能は、第一層グループ内で反射された部分的な光線と、第二層グループ内で反射された部分的な光線との間で位相シフトを生じさせて、対象とする入射角範囲における全層構成の反射率の最大値を、介在第三層グループを有さず、第一層グループ及び第二層グループによってのみ生成されうる層構成の反射率よりも低くすることである。同時に、対象とする入射角範囲における最大反射率の前後にて、第三層グループを有さない同様の層構成の場合よりも反射率曲線の半値全幅の値を大きくすることができる。これにより、所定の動作波長について、対象とする入射角においては、入射角に依存した反射率の変動を抑制することができ、そのようなEUVミラーは、第三層グループを有さない対応するEUVミラーよりも、広い入射角度範囲にわたって使用可能な反射率を呈することができる。
【0030】
第三層グループは、(相加)平均(mean)周期厚P
M=(P1+P2)/2とは周期厚さΔPだけ異なる周期厚P3を有する。従って、次式:P3 = P
M±ΔPが成立する。周期厚差ΔPは、対応する波長λについての1/4波長層の光学層厚(λ/4)と、第三層グループの層ペアの第三の数N3との商に略対応する。この場合、光学層厚は幾何学的層厚と各層材料の屈折率との積であり、EUV波長域においては1に近い値である。
【0031】
この場合、「第三周期厚P3」という用語は、第三層グループが複数の層ペアを有する場合、第三層グループ内における周期厚の(相加)平均値を意味する。これらの値が一定であれば、P3は各第三層ペアの周期厚と同一である。しかし、第三層ペアの第三周期厚を変更することも可能である。
【0032】
第一及び第二層グループにおいても、周期厚を僅かに変更することができるが、概して、第三層グループの場合よりも変更幅は有意に小さい。この点に関して、「第一周期厚」及び「第二周期厚」という用語は、それぞれの場合において、各層グループにおける周期厚の(相加)平均値を意味する。
【0033】
第三層グループは、その効果の観点から、第一層グループと第二層グループとの間に介在する 1/4波長層を含むものとして、概略的に説明することができるが、かかる1/4波長層の全層厚は、第三層グループの複数の層にわたって分布している。この場合、第三層グループの全層の層厚は、平均周期厚P
M未満である。従って、これにより第三層グループが位相シフト層グループとして作用するにも関わらず、その一方で、層厚がλ/(2×cos(AOI
M))付近又はそれ以上の範囲である単一層が存在しないという状態が成立する。層厚がλ/(2×cos(AOI
M))の範囲又はそれ以上とならないので、層構成の製造を簡略化することができる。本発明者らは、層の厚さに応じて層成長の挙動が異なることを見出した。例えば、比較的厚い個別層の製造中には、成長中の層の層材料において結晶化効果が生じ、結果的に、製造工程において、所望の特定の層厚を要求される精度で生成することが困難となる虞がある。さらに、層厚が厚ければ、層の粗度が増大して、屈折率が変更されてしまう虞がある。これらの問題は、層厚が比較的厚い個別層を設けなければ、回避することができる。
【0034】
第三層グループにおける個別層の最大層厚が0.9×λ/(2×cos(AOI
M)) 未満であって、特に0.85×λ/(2×cos(AOI
M))未満又は0.8×λ/(2×cos(AOI
M))未満であることが好ましい。
【0035】
特に、生産効率の観点から、最大層厚を第一及び第二層グループにおける最大層厚よりも薄くすることが有利であり得る。これにより、層厚が厚くなることを完全に回避することができる。
【0036】
層厚差ΔPは、実質的にλ/4層(1/4波長層)の光学層厚と第三の数N3との商に対応するように設計される。周期厚差について、0.2≦x≦0.35の場合に、条件ΔP=x×(λ/(N3cos(AOI
M)))が成立しうることが好ましい。この場合、変数AOI
Mは、多層構成の設計が適合されている(相加)平均入射角に対応する。特に、変数xが0.25〜0.35の範囲内であることが特に好適であることが証明された。
【0037】
位相シフト第三層グループが、全反射率に実質的に寄与しないように設計する。第三層グループは、実質的に、第一及び第二層グループ間における位相シフトにのみ寄与する。第三層グループにおける層厚は、上述の波長又は入射角範囲用の反射鏡として作用しないか、或いは適さないように選択される。従って、第三層グループの反射率は低い。第三の数N3の値が大きくなれば、吸収に対する第3層の寄与も大きくなるので、N3の値を過剰に大きくするべきではない。
【0038】
第三層グループを単一層のみで構成することもできる。このときN3=1が成立する。第三の数N3は2〜5の範囲であることが好ましく、特に2又は3であることが好ましい。これにより、第三層グループ内において不必要に大きい吸収を生じさせること無く、所望の位相シフトを得ることができる。
【0039】
第三層グループが2層又はそれ以上の層ペアを有する場合、第三層グループが、第三周期厚が実質的に同一である周期的な第三層グループを含む周期的層構造を有することが有利である。特に、第三層グループがさらに厳密に周期的であることが有利である。これにより、製造が簡略化される。
【0040】
第一層グループ及び/又は第二層グループは、 第三層グループの数倍の層ペアを有しうる。第一層グループの層ペアの第一の数N1は、10以上であり、特に15以上であり、さらに20以上である。これにより、表面付近の第一層グループは、全反射率に対して特に大きく寄与することとなる。
【0041】
新規な層設計によれば、第三層グループの層厚の構成について、多様な設計自由度が生じる。特に、かかるコンセプトによれば、クリティカルな層厚を回避することができる。本明細書において、「クリティカルな層厚」とは、層材料又は製造工程によっては特に製造が難しい層厚を意味する。幾つかの層材料の場合、例えば、層厚さが特定の値を超えると、結晶化効果が生じる虞があり、かかる結晶化効果が生じる厚さを超える層厚の層を必要とされる精度で製造することは困難である。そのような問題は、相応に薄い層厚を選択することで、回避することができる。幾つかの実施形態では、第三層グループは、平均周期厚P
Mより周期厚差ΔPだけ少ない第三周期厚P3を有する。第三層グループの製造に用いられる層材料の吸収率が非常に高い場合に、そのような変形例を選択することができる。しかし、第三層グループの第三周期厚P3が、平均周期厚P
Mよりも周期厚差ΔPだけ大きい実施形態もある。
【0042】
いくつかの実施形態では、各層の厚さが比較的薄い、単一の位相シフト層グループ(第三層グループ)が設けられる。しかし、反射率の入射角依存性をさらに均一化するために、少なくとも一つの更なる位相シフト層グループを設けることが好適であり得る。いくつかの実施形態では、第三層グループと基板との間に配置された第四の数N4の層ペアを有する第四層グループが存在し、第二層グループの少なくとも一つの第二層ペアを第三層グループと第四層グループとの間に配置することができる。第四層グループの第四層厚P4は、第三周期厚P3に関する条件と同じ条件が同様に成立する層厚である必要がある。従って、特に、P4=P
M±ΔPが成立する。ここで、ΔP=x×(λ/(N4cos(AOI
M)))、0.2≦x≦0.35が成立する。
【0043】
第四層グループは、第三層グループから距離を置いて、基板付近の第二層グループ内に挿入された更なる位相シフト層グループとして理解することができる。
【0044】
第四層グループの層構成は、第三層グループの層構成と同一か、又はそれとは異なるものとすることもできる。
【0045】
第四層グループを、単一の層ペアのみからなる層グループとすることができ、このとき、N4=1となる。第四の数N4は、2〜5の範囲内であることが好ましく、特に、2又は3であることが好ましく、このとき、第四層グループもまた、吸収率の低い位相シフト層グループとして機能させることができる。
【0046】
第四層グループは、周期的な層構成を有し、特に、厳密に周期的な層構成を有する。
【0047】
第一及び第二層グループは、異なる層材料の組合せを用いて構成されることができ、さらに、周期厚を異ならせることもでき、このとき、P1≠P2が成立しうる。 第一周期厚P1が第二周期厚P2と等しければ、製造が特にシンプルになり、平均周期厚は、第一周期厚又は第二周期厚に等しくなる。そのような多層構成は、いわゆる「モノスタック」と称され、第三層グループや、適切な場合には追加で第四層グループが挿入されて成る。
【0048】
幾つかの実施形態では、有利な光学的特性を維持しながらも、比較的高屈折率の層材料及び比較的低屈折率の層材料の層厚が、第一層グループ、第二層グループ、及び第三層グループの全てにおいて略同一であるということより、製造をさらに簡略化することができる。第四層グループが存在する場合には、第四グループについてもこれは成立する。層ペアの層材料のうちの一つについて、異なる層厚を「ヒット」させる必要がないので、生産工学の観点では有利である。従って、全ての層グループの層ペアの層材料うちの一つの層厚が同一となる。よって、第三層グループ及び/又は第四層グループの製造に当たり、他の層材料の層厚のみを適切な場合に変更することが必要である。
【0049】
多くの実施形態では、層グループの層ペアは厳密に周期的に構成される。厳密に周期的ではない周期的層グループの場合、比較的高吸収率の層材料(Mo/Si層ペアの場合におけるMo)の層厚と、層ペアの周期厚との間の比率は、変数Γにより示す。厳密に周期的な層グループの場合、層グループの層ペアについてΓの値は一定である。かかる条件は、多層構成のうちの一つの層グループ、複数の層グループ、又は全ての層グループについて、成立しうる。よって、幾つかの層厚のみを「ヒット」させれば良いため、製造が簡易になる。
【0050】
また、幾つかの実施形態では、層グループのうちの少なくとも一つにおける、比較的高吸収率の層材料(吸収体)の層厚と層ペアの周期厚との間の比率Γは可変である。この場合、層グループ内でΓの値が連続的に変化することにより、確率的な変動を好適に回避することができる。Γの値は、層グループの基板側から、より入射側に近い層グループの側に向かって、層ペア毎に増加又は減少しうる。
【0051】
このような条件は、多層構成のうちの一つの層グループ、複数の層グループ、又は全ての層グループについて成立しうる。これにより、設計の自由度がさらに増す。
【0052】
本発明は、本明細書においてさらに詳述するタイプのEUVミラーを少なくとも一つ備える光学システムにも関するものである。
【0053】
かかる光学システムは、例えば、 EUV放射にて動作するマイクロリソグラフィー投影露光装置用の投影レンズ又は照明システムであり得る。EUVミラーのミラー表面は、平面、あるいは凸状又は凹状の湾曲面でありうる。投影レンズでは、本明細書に説明するように、例えば、入射角間隔最も大きいミラーを本発明によるものとすることができ、適切な場合には、複数又は全てのEUVミラーを本発明に従うミラーとすることができる。EUVミラーは、制御可能なマルチミラーアレー(MMA)の一軸又は多軸の傾斜可能な各ミラーであり得、かかるミラーは、傾斜位置に応じて入射角範囲が異なりうる。この場合、入射角範囲を拡げる効果が非常に有利である。マルチミラーアレーは、本明細書に記載したタイプの複数のEUVミラーを有しうる。例えば、顕微鏡の分野等の、他の光学システムにおいても、EUVミラーを使用することができる。
【0054】
上述した特徴及び更なる特徴は、請求項だけではなく、明細書の記載や図面から明らかとなる。それぞれの特徴は、各場合において単独で、或いは組合せで、本発明の実施形態や他の分野においてに実装可能であり、有利且つ本来保護されるべき実施形態を構成することができる。本発明の例示的実施形態を図面に示し、以下により詳細に説明する。