特許第6351625号(P6351625)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6351625EUVミラー及びEUVミラーを備える光学システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351625
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】EUVミラー及びEUVミラーを備える光学システム
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20180625BHJP
   G21K 1/06 20060101ALI20180625BHJP
   G02B 5/08 20060101ALI20180625BHJP
   G02B 5/10 20060101ALI20180625BHJP
   G02B 19/00 20060101ALI20180625BHJP
   G02B 17/08 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   G03F7/20 503
   G03F7/20 521
   G21K1/06 B
   G02B5/08 A
   G02B5/10 C
   G02B19/00
   G02B17/08 Z
【請求項の数】18
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-552015(P2015-552015)
(86)(22)【出願日】2013年12月6日
(65)【公表番号】特表2016-504631(P2016-504631A)
(43)【公表日】2016年2月12日
(86)【国際出願番号】EP2013075830
(87)【国際公開番号】WO2014108256
(87)【国際公開日】20140717
【審査請求日】2016年12月5日
(31)【優先権主張番号】102013200294.7
(32)【優先日】2013年1月11日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】61/751,378
(32)【優先日】2013年1月11日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】トーマス シッケタンツ
(72)【発明者】
【氏名】ハンス−ヨッヒェン ポール
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ツァツェック
【審査官】 田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/038886(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/109778(WO,A1)
【文献】 特開2001−051106(JP,A)
【文献】 米国特許第06449086(US,B1)
【文献】 THOMAS KUHLMANN ET AL,EUV multilayer mirrors with tailored spectral reflectivity,PROCEEDINGS 0F SPIE,米国,2002年12月 1日,vol. 4782,,196-203
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC H01L 21/30、
21/027、
21/46、
G03F 7/20−7/24、
9/00−9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
EUVミラーであって、基板、及び
前記基板上に適用された多層構成を備え、該多層構成は極端紫外波長域(EUV)からの波長λを有する放射に対する反射効果を有し、且つ、高屈折率層材料及び低屈折率層材料を含む交互層の層ペアを複数有し、さらに、前記多層構成は、
前記多層構成の入射側付近に配置され、第一周期厚P1を有する、第一の数N1>1の第一層ペアを含む周期的な第一層グループ(LG1)と、前記第一層グループと前記基板との間に配置されており、第二周期厚P2を有する、第二の数N2>1の第二層ペアを含む周期的な第二層グループ(LG2)と、
前記第一層グループ及び前記第二層グループの間に配置された、2以上5以下である第三の数N3の第三層ペアを含む第三層グループ(LG3)と、を有し、
前記第一の数N1は前記第二の数N2よりも大きく、さらに、
前記第三層グループは、平均周期厚P=(P1+P2)/2から周期厚差ΔPだけ異なる平均第三周期厚P3を有し、AOIは、多層構成の平均設計入射角とするとき、条件ΔP=x×(λ/(N3cos(AOI)))が前記周期厚差ΔPについて成立し、条件0.2≦x≦0.35が成立することを特徴とする、
EUVミラー。
【請求項2】
前記第三層グループは、層厚がλ/(2×cos(AOI))付近又はそれより大きい値である単一層を有さない、請求項1に記載のEUVミラー。
【請求項3】
前記条件0.2≦x≦0.35が成立する、請求項1又は2に記載のEUVミラー。
【請求項4】
前記第三層グループは、2以上の層ペアを有すると共に、略同一の第三周期厚を有する周期的層構成を有する、請求項1〜の何れか一項に記載のEUVミラー。
【請求項5】
前記第三層グループ(LG3)は、前記第一周期厚及び/又は前記第二周期厚よりも周期厚差ΔPだけ小さい第三周期厚P3を有するか、又は前記第三層グループは前記第一周期厚及び/又は前記第二周期厚よりも周期厚差ΔPだけ大きい第三周期厚P3を有する、請求項1〜の何れか一項に記載のEUVミラー。
【請求項6】
第四の数N4の第四層ペアを有するとともに、前記平均周期厚Pから周期厚差ΔPだけ異なる第四周期厚P4を有する第四層グループ(LG4)を備え、ここで、条件ΔP=x×(λ/(N4cos(AOI)))が前記周期厚差ΔPについて成立し、条件0.2≦x≦0.35が成立し、前記第四層グループは前記第三層グループと前記基板との間に配置されており、前記第二層グループの少なくとも一つの第二層ペアが前記第三層グループと前記第四層グループとの間に配置されている、請求項1〜の何れか一項に記載のEUVミラー。
【請求項7】
前記第四の数N4は、2以上5以下である、請求項に記載のEUVミラー。
【請求項8】
前記第四層グループ(LG4)は、2以上の層ペアを有すると共に、略同一の第四周期厚を有する周期的層構成を有する、請求項6又は7に記載のEUVミラー。
【請求項9】
前記第一層グループ(LG1)が厳密に周期的であり、及び/又は、前記第二層グループ(LG2)が厳密に周期的である、請求項1〜の何れか一項に記載のEUVミラー。
【請求項10】
前記第一周期厚P1が前記第二周期厚P2に等しい、請求項1〜の何れか一項に記載のEUVミラー。
【請求項11】
N1>10が成立する、請求項1〜10の何れか一項に記載のEUVミラー。
【請求項12】
前記第一、第二、及び第三層グループの全ての層ペアにおいて、前記比較的高屈折率の層材料の層厚又は前記比較的低屈折率の層材料の層厚が同一である、請求項1〜11の何れか一項に記載のEUVミラー。
【請求項13】
前記全ての層グループの前記層ペアのうちの一方の層材料の層厚が同一である、請求項1〜12の何れか一項に記載のEUVミラー。
【請求項14】
前記層グループの少なくとも一つにおける、比較的高吸収率の層材料の層厚と前記層ペアの周期厚との間の比率Γの値が一定ではない、請求項1〜13の何れか一項に記載のEUVミラー。
【請求項15】
前記Γの値は、層グループ内で連続的に変化する、請求項14に記載のEUVミラー。
【請求項16】
前記Γの値は、前記層グループの基板側から前記入射側付近に延在する前記層グループの側に向かって、層ペア毎に増加又は減少する、請求項14又は15に記載のEUVミラー。
【請求項17】
請求項1〜16の何れか一項に従う少なくとも一つのEUVミラーを備える、光学システム。
【請求項18】
前記光学システムは、マイクロリソグラフィー投影露光装置(WSC)用の投影レンズ(PO)又は照明システム(ILL)である、請求項17に記載の光学システム。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
この出願は、2013年1月11日に出願された独国特許出願第10 201 3 200 294.7号に基づく優先権を主張するものであり、当該出願にかかる開示内容は参照によりこの出願に援用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、請求項1のプリアンブル部分に従うEUVミラー及び請求項18のプリアンブル部分に従うEUVミラーを備える光学システムに関するものである。一つの好ましい応用分野は、EUVマイクロリソグラフィーである。その他の応用分野としては、EUV顕微鏡法やEUVマスク計測法が挙げられる。
【背景技術】
【0003】
近年、大部分のマイクロリソグラフィー投影露光法は、半導体素子や、例えばマイクロリソグラフィー用マスクのようなの他の微細構造部品の製造に用いられている。この場合、例えば、半導体素子の層のラインパターンのような結像対象の構造のパターンを有し、或いは形成するための、マスク(レチクル)その他のパターニング装置が用いられる。パターンは、照明システム及び対物レンズの間の、対物レンズの対物面の領域に配置され、照明システムによる照明放射により照明される。パターンにより変形される放射は、投影放射として投影レンズを通り、感光性層により被覆され、且つ、対物面に対して光学的に共役である投影レンズの結像面内に配置された露光対象の基板上にパターンを結像する。
【0004】
より微細な構造を露光対象物に結像させるために、近年、中程度の開口数で動作すると共に、特に、5nm〜30nmの範囲の動作波長を有する、極端紫外波長域(EUV)からの電磁放射のような短波長で、高い解像度を実質的に達成することができる光学システムが開発されてきた。動作波長が約13.5nmであるEUVリソグラフィーの場合、例えば、像側の開口数NA=0.3であれば、理論上、約0.15μmm程度の典型的な焦点深度と併せて、0.03μm程度の解像度を達成することができる。
【0005】
極端紫外波長域からの放射は、 かかる短波長の放射は、比較的高い波長域の光を透過させる既知の光学材料により吸収されてしまうため、屈折光学素子を用いて集束或いは導光することができない。従って、EUVリソグラフィーにはミラーシステムが用いられる。あるタイプのEUVミラーは、入射放射の入射角が比較的高いときに、すなわち、全反射の原理によるすれすれ入射の場合に動作する。多層ミラーは通常或いは略通常の入射角の場合に用いられる。EUV波長域からの放射について反射作用を有するそのようなミラー(EUVミラー)は、極端紫外波長域(EUV)からの放射に対して反射作用を有し、且つ屈折率の大きい材料と屈折率の小さい材料とが交互に配置されて成る層ペアをいくつも有する多層系構成が適用されている基板を備える。EUVミラーのための層ペアは、多くの場合、モリブデン/シリコン(Mo/Si)或いはルテニウム/シリコン(Ru/Si)の層材料の組合せにより構成される。
【0006】
多層系ミラーの 反射性即ち反射率は、入射角及び衝突するEUV放射の波長に大きく依存することが知られている。最大反射率の値は、実質的に同一の層ペアの周期的な繰り返し構造から成る多層系構成によって高めることができる。しかし、この場合、入射角に対して反射率をプロットした場合、及び波長に対して反射率をプロットした場合の両方で、反射率曲線の半値全幅(FWHM)の値が比較的低くなる。従来技術では、従来の多層ミラーにおける、入射角及び波長に対する反射率の依存性の例を開示している。
【0007】
EUV波長域用の光学システムは比較的開口数が大きく、例えば、EUVマイクロリソグラフィー用の投影レンズでは、入射角の変化が比較的大きくなりうるが、ビームパス上の特定の位置に限られる。この点、EUVミラーでは、各場合において、入射角範囲にわたる反射率の変化が少ないことが必要とされる。入射角の範囲が広範囲である、そのような多層ミラーを製造するために、既に数々の提案がなされてきた。
【0008】
T. Kuhlmann、S. Yulin、T. Feigl、及びM. Kaiserによる「分光反射率を適合させたEUV多層ミラー」SPIE予稿集第4782号、2002年、第196〜203頁によれば、広帯域効果を有するEUVミラーの特定の層構成が記載されている。多層構成は、それぞれが少なくとも2層の独立した層の周期構造を有し、異なる材料の周期構造を形成している複数の層グループを含んでいる。周期構造の数及び各層グループの周期構造の厚さは、基板から表面に向かって次第に少なくなる。一つの例示的実施形態では、3つの異なる層グループが含まれる。かかる層構成によれば、まず、各層グループの反射率の極大値のピーク波長は、基板から表面に向かって短波長側へとシフトし、各層グループの反射率を重畳することによりシステム全体の反射率のピークをより広くすることができる。第二に、全ての層グループは、システム全体の反射率に対して、略同様の寄与をする。このようにして、広域の波長範囲及び角度範囲にわたって、略一定の反射率を達成することが可能である。
【0009】
Z. Wang及びA.G. Michetteによる論文、「軟X線源出力の最適利用のための広帯域多層ミラー(Broadband multilayer mirrors for optimum use of soft x-ray source output)」、Journal of Optics A: Pure and Applied Optics 2、2000年、452頁〜457頁、及びZ. Wang及びA.G. Michetteによる論文、「EUV及びX線光学用の深度段階多層設計の最適化(Optimization of depth-graded multilayer designs for EUV and X-ray optics)」、SPIE予稿集、2001年、第4145号、243頁〜253頁には、広帯域効果を有するEUVミラーが例示されており、これらにおいては、最適化プロセスの結果として、多層コーティングの各層の層厚が多層構成の深さ方向にてそれぞれ異なるという事実により、広帯域特性が達成される。そのような多層構成は、シミュレーションプログラムによって最適化された各層の確率的な配列を有しており、また、これらは「深度段階多層系(depth-graded multilayers)」とも称されうる。コーティング工程において、層厚の異なる多くの層を連続的に製造しなければならないため、このような多層構成を製造することは難しい。
【0010】
従来技術に開示された従来の垂直入射又は略垂直入射用の広帯域EUVミラーは、様々なグループの層ペアを有する多層構成を含む。表層フィルムグループは、かかる多層構成の入射側に配置されている。入射側の反対側には、追加の層が続いている。かかる層に対して、基板の方向により深いグループの層ペア(深い層フィルムグループ)が続いている。この場合、表層フィルムグループの反射率は、基板付近のより深い層グループの反射率よりも大きく、反射された放射は、追加の層の存在により位相シフトして多層系全体の反射率ピーク値が比較的低くなり、追加の層が無い場合と比べてピーク波長付近の反射率が高くなる。追加の層の光学層厚は、EUV放射の波長の約1/4(即ち、λ/4)、又は多層系構成の周期厚の半分、若しくはかかる値に周期厚の整数倍を加えた値に対応しうる。一つの例示的実施形態では、追加の層はシリコンからなり、モリブデン/シリコン層ペアのシリコン層に直接隣接して配置され、少なくとも半波長(即ち、少なくともλ/2)に対応する層厚を有するシリコン層が多層構成内に配置されるようにする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】T. Kuhlmann、S. Yulin、T. Feigl、M. Kaiser「分光反射率を適合させたEUV多層ミラー」SPIE予稿集第4782号、2002年、第196〜203頁
【非特許文献2】Z. Wang、A.G. Michette「軟X線源出力の最適利用のための広帯域多層ミラー(Broadband multilayer mirrors for optimum use of soft x-ray source output)」、Journal of Optics A: Pure and Applied Optics 2、2000年、452頁〜457頁
【非特許文献3】Z. Wang、A.G. Michette「EUV及びX線光学用の深度段階多層設計の最適化(Optimization of depth-graded multilayer designs for EUV and X-ray optics)」、SPIE予稿集、2001年、第4145号、243頁〜253頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、広範囲の入射角において反射率が僅かしか変化せず、さらに高精度で製造可能な請求項1の前提部分に従うEUVミラーを提供する、という課題を解決しようとするものである。
【0013】
かかる課題を解決するために、本発明は請求項1に記載の特徴を有するEUVミラーを提供する。さらに、請求項18に記載の特徴を有するEUVミラーを備える光学システムも提供する。
【0014】
従属請求項には、有利な技術的特徴を特定する。全ての請求項の文言を説明内容に援用する。
【0015】
第一及び第二層グループは、それぞれ、相互に直接連結又は隣接する、それぞれの周期厚P1及びP2によって特徴づけられる2以上の層ペアを有する。また、第三層グループは、層厚がP3である、単一の層ペア又は複数の層ペアにより構成されうる。
【0016】
各場合において、層ペアは、比較的高屈折率の層材料からなる層と、(高屈折率の層材料に比べて)比較的低屈折率の層材料からなる層とを含む。そのような層ペアは、「二重層」又は「バイレイヤ」とも称されうる。周期厚は、実質的に下式により算出することができる。
【数1】
【0017】
ここで、kは層ペア内の層数であり、nは各層材料の屈折率であり、及びdは幾何学的層厚である。層ペアは、それぞれ、比較的高屈折率の層材料及び比較的低屈折率の層材料からなる2つの層に加えて、1つ又は複数の更なる層、例えば、隣接する層間における相互拡散を抑制するための介在バリア層も有することができる。
【0018】
多数の層ペアを有する多層構成は、「分布ブラッグ反射鏡」として機能する。この場合、格子面がブラッグ反射を生じさせる石英を模倣する層構成は、屈折率の実部の値が小さい材料からなる複数の層により形成される。層ペアの最適周期厚は、所定の波長及び所定の入射角又は入射角範囲(一般に1nm〜10nm)についてのブラックの式により定められる。
【0019】
本出願では、「周期的な層グループ」という用語は、公称周期厚が同一又は略同一であり、周期厚のばらつきが10%以内である、二層以上の直接隣接する層ペアを有する層グループを指す。
【0020】
また、「厳密に周期的な層グループ」という用語は、全ての周期について、さらに、周期を構成する様々な各層の層厚が同一 であることを指す。
【0021】
それぞれの厳密に周期的な層グループは、周期的な層グループでもあるが、全ての周期的な層グループが厳密に周期的な層グループである必要は無い。
【0022】
層グループの構成が厳密に周期的である場合、一般に、その製造時には各層材料について層厚が僅かしか違わないように製造することが重要であり、その結果、周期的ではあるが、厳密に周期的ではない層構成と比較してシンプルに製造することができる。
【0023】
周期的な第一層グループは、多層構成の入射側近傍に配置されている。かかる第一層グループに含まれる、基板から遠い層は、周囲環境に隣接しうる。しかし、第一層グループの基板から遠い側に面する側に適用されるべきキャップ層は、単一層又は2層以上の層の組合せで形成することもできる。
【0024】
特に、第一層グループを厳密に周期的な層グループとすることも可能である。
【0025】
周期的な第二層グループは、第一層グループと基板との間に配置されており、すなわち、より基板に近い側に配置されている。第二層グループは、基板表面に対して直接適用されうる。一層又は複数層の更なる層は、例えば、層応力を補償するように機能するが、基板表面と第二層グループとの間に配置されうる。
【0026】
特に、第二層グループも厳密に周期的であり得る。
【0027】
第一層グループ及び第二層グループの両方が厳密に周期的であることが好ましい。しかし、このような構成は必須ではない。
【0028】
第一層グループの層ペアの第一の数N1は、第二グループの層ペアの第二の数N2よりも大きい。さらに、第一層グループは第二層グループよりも入射側に近い。このことは、表面に近い第一層グループの反射率がより基板に近い第ニ層グループの反射率よりも高いという事実にも寄与する。
【0029】
第三層グループは、第一層グループ及び第二層グループの間に配置されている。第三グループの重要な機能は、第一層グループ内で反射された部分的な光線と、第二層グループ内で反射された部分的な光線との間で位相シフトを生じさせて、対象とする入射角範囲における全層構成の反射率の最大値を、介在第三層グループを有さず、第一層グループ及び第二層グループによってのみ生成されうる層構成の反射率よりも低くすることである。同時に、対象とする入射角範囲における最大反射率の前後にて、第三層グループを有さない同様の層構成の場合よりも反射率曲線の半値全幅の値を大きくすることができる。これにより、所定の動作波長について、対象とする入射角においては、入射角に依存した反射率の変動を抑制することができ、そのようなEUVミラーは、第三層グループを有さない対応するEUVミラーよりも、広い入射角度範囲にわたって使用可能な反射率を呈することができる。
【0030】
第三層グループは、(相加)平均(mean)周期厚P=(P1+P2)/2とは周期厚さΔPだけ異なる周期厚P3を有する。従って、次式:P3 = P±ΔPが成立する。周期厚差ΔPは、対応する波長λについての1/4波長層の光学層厚(λ/4)と、第三層グループの層ペアの第三の数N3との商に略対応する。この場合、光学層厚は幾何学的層厚と各層材料の屈折率との積であり、EUV波長域においては1に近い値である。
【0031】
この場合、「第三周期厚P3」という用語は、第三層グループが複数の層ペアを有する場合、第三層グループ内における周期厚の(相加)平均値を意味する。これらの値が一定であれば、P3は各第三層ペアの周期厚と同一である。しかし、第三層ペアの第三周期厚を変更することも可能である。
【0032】
第一及び第二層グループにおいても、周期厚を僅かに変更することができるが、概して、第三層グループの場合よりも変更幅は有意に小さい。この点に関して、「第一周期厚」及び「第二周期厚」という用語は、それぞれの場合において、各層グループにおける周期厚の(相加)平均値を意味する。
【0033】
第三層グループは、その効果の観点から、第一層グループと第二層グループとの間に介在する 1/4波長層を含むものとして、概略的に説明することができるが、かかる1/4波長層の全層厚は、第三層グループの複数の層にわたって分布している。この場合、第三層グループの全層の層厚は、平均周期厚P未満である。従って、これにより第三層グループが位相シフト層グループとして作用するにも関わらず、その一方で、層厚がλ/(2×cos(AOI))付近又はそれ以上の範囲である単一層が存在しないという状態が成立する。層厚がλ/(2×cos(AOI))の範囲又はそれ以上とならないので、層構成の製造を簡略化することができる。本発明者らは、層の厚さに応じて層成長の挙動が異なることを見出した。例えば、比較的厚い個別層の製造中には、成長中の層の層材料において結晶化効果が生じ、結果的に、製造工程において、所望の特定の層厚を要求される精度で生成することが困難となる虞がある。さらに、層厚が厚ければ、層の粗度が増大して、屈折率が変更されてしまう虞がある。これらの問題は、層厚が比較的厚い個別層を設けなければ、回避することができる。
【0034】
第三層グループにおける個別層の最大層厚が0.9×λ/(2×cos(AOI)) 未満であって、特に0.85×λ/(2×cos(AOI))未満又は0.8×λ/(2×cos(AOI))未満であることが好ましい。
【0035】
特に、生産効率の観点から、最大層厚を第一及び第二層グループにおける最大層厚よりも薄くすることが有利であり得る。これにより、層厚が厚くなることを完全に回避することができる。
【0036】
層厚差ΔPは、実質的にλ/4層(1/4波長層)の光学層厚と第三の数N3との商に対応するように設計される。周期厚差について、0.2≦x≦0.35の場合に、条件ΔP=x×(λ/(N3cos(AOI)))が成立しうることが好ましい。この場合、変数AOIは、多層構成の設計が適合されている(相加)平均入射角に対応する。特に、変数xが0.25〜0.35の範囲内であることが特に好適であることが証明された。
【0037】
位相シフト第三層グループが、全反射率に実質的に寄与しないように設計する。第三層グループは、実質的に、第一及び第二層グループ間における位相シフトにのみ寄与する。第三層グループにおける層厚は、上述の波長又は入射角範囲用の反射鏡として作用しないか、或いは適さないように選択される。従って、第三層グループの反射率は低い。第三の数N3の値が大きくなれば、吸収に対する第3層の寄与も大きくなるので、N3の値を過剰に大きくするべきではない。
【0038】
第三層グループを単一層のみで構成することもできる。このときN3=1が成立する。第三の数N3は2〜5の範囲であることが好ましく、特に2又は3であることが好ましい。これにより、第三層グループ内において不必要に大きい吸収を生じさせること無く、所望の位相シフトを得ることができる。
【0039】
第三層グループが2層又はそれ以上の層ペアを有する場合、第三層グループが、第三周期厚が実質的に同一である周期的な第三層グループを含む周期的層構造を有することが有利である。特に、第三層グループがさらに厳密に周期的であることが有利である。これにより、製造が簡略化される。
【0040】
第一層グループ及び/又は第二層グループは、 第三層グループの数倍の層ペアを有しうる。第一層グループの層ペアの第一の数N1は、10以上であり、特に15以上であり、さらに20以上である。これにより、表面付近の第一層グループは、全反射率に対して特に大きく寄与することとなる。
【0041】
新規な層設計によれば、第三層グループの層厚の構成について、多様な設計自由度が生じる。特に、かかるコンセプトによれば、クリティカルな層厚を回避することができる。本明細書において、「クリティカルな層厚」とは、層材料又は製造工程によっては特に製造が難しい層厚を意味する。幾つかの層材料の場合、例えば、層厚さが特定の値を超えると、結晶化効果が生じる虞があり、かかる結晶化効果が生じる厚さを超える層厚の層を必要とされる精度で製造することは困難である。そのような問題は、相応に薄い層厚を選択することで、回避することができる。幾つかの実施形態では、第三層グループは、平均周期厚Pより周期厚差ΔPだけ少ない第三周期厚P3を有する。第三層グループの製造に用いられる層材料の吸収率が非常に高い場合に、そのような変形例を選択することができる。しかし、第三層グループの第三周期厚P3が、平均周期厚Pよりも周期厚差ΔPだけ大きい実施形態もある。
【0042】
いくつかの実施形態では、各層の厚さが比較的薄い、単一の位相シフト層グループ(第三層グループ)が設けられる。しかし、反射率の入射角依存性をさらに均一化するために、少なくとも一つの更なる位相シフト層グループを設けることが好適であり得る。いくつかの実施形態では、第三層グループと基板との間に配置された第四の数N4の層ペアを有する第四層グループが存在し、第二層グループの少なくとも一つの第二層ペアを第三層グループと第四層グループとの間に配置することができる。第四層グループの第四層厚P4は、第三周期厚P3に関する条件と同じ条件が同様に成立する層厚である必要がある。従って、特に、P4=P±ΔPが成立する。ここで、ΔP=x×(λ/(N4cos(AOI)))、0.2≦x≦0.35が成立する。
【0043】
第四層グループは、第三層グループから距離を置いて、基板付近の第二層グループ内に挿入された更なる位相シフト層グループとして理解することができる。
【0044】
第四層グループの層構成は、第三層グループの層構成と同一か、又はそれとは異なるものとすることもできる。
【0045】
第四層グループを、単一の層ペアのみからなる層グループとすることができ、このとき、N4=1となる。第四の数N4は、2〜5の範囲内であることが好ましく、特に、2又は3であることが好ましく、このとき、第四層グループもまた、吸収率の低い位相シフト層グループとして機能させることができる。
【0046】
第四層グループは、周期的な層構成を有し、特に、厳密に周期的な層構成を有する。
【0047】
第一及び第二層グループは、異なる層材料の組合せを用いて構成されることができ、さらに、周期厚を異ならせることもでき、このとき、P1≠P2が成立しうる。 第一周期厚P1が第二周期厚P2と等しければ、製造が特にシンプルになり、平均周期厚は、第一周期厚又は第二周期厚に等しくなる。そのような多層構成は、いわゆる「モノスタック」と称され、第三層グループや、適切な場合には追加で第四層グループが挿入されて成る。
【0048】
幾つかの実施形態では、有利な光学的特性を維持しながらも、比較的高屈折率の層材料及び比較的低屈折率の層材料の層厚が、第一層グループ、第二層グループ、及び第三層グループの全てにおいて略同一であるということより、製造をさらに簡略化することができる。第四層グループが存在する場合には、第四グループについてもこれは成立する。層ペアの層材料のうちの一つについて、異なる層厚を「ヒット」させる必要がないので、生産工学の観点では有利である。従って、全ての層グループの層ペアの層材料うちの一つの層厚が同一となる。よって、第三層グループ及び/又は第四層グループの製造に当たり、他の層材料の層厚のみを適切な場合に変更することが必要である。
【0049】
多くの実施形態では、層グループの層ペアは厳密に周期的に構成される。厳密に周期的ではない周期的層グループの場合、比較的高吸収率の層材料(Mo/Si層ペアの場合におけるMo)の層厚と、層ペアの周期厚との間の比率は、変数Γにより示す。厳密に周期的な層グループの場合、層グループの層ペアについてΓの値は一定である。かかる条件は、多層構成のうちの一つの層グループ、複数の層グループ、又は全ての層グループについて、成立しうる。よって、幾つかの層厚のみを「ヒット」させれば良いため、製造が簡易になる。
【0050】
また、幾つかの実施形態では、層グループのうちの少なくとも一つにおける、比較的高吸収率の層材料(吸収体)の層厚と層ペアの周期厚との間の比率Γは可変である。この場合、層グループ内でΓの値が連続的に変化することにより、確率的な変動を好適に回避することができる。Γの値は、層グループの基板側から、より入射側に近い層グループの側に向かって、層ペア毎に増加又は減少しうる。
【0051】
このような条件は、多層構成のうちの一つの層グループ、複数の層グループ、又は全ての層グループについて成立しうる。これにより、設計の自由度がさらに増す。
【0052】
本発明は、本明細書においてさらに詳述するタイプのEUVミラーを少なくとも一つ備える光学システムにも関するものである。
【0053】
かかる光学システムは、例えば、 EUV放射にて動作するマイクロリソグラフィー投影露光装置用の投影レンズ又は照明システムであり得る。EUVミラーのミラー表面は、平面、あるいは凸状又は凹状の湾曲面でありうる。投影レンズでは、本明細書に説明するように、例えば、入射角間隔最も大きいミラーを本発明によるものとすることができ、適切な場合には、複数又は全てのEUVミラーを本発明に従うミラーとすることができる。EUVミラーは、制御可能なマルチミラーアレー(MMA)の一軸又は多軸の傾斜可能な各ミラーであり得、かかるミラーは、傾斜位置に応じて入射角範囲が異なりうる。この場合、入射角範囲を拡げる効果が非常に有利である。マルチミラーアレーは、本明細書に記載したタイプの複数のEUVミラーを有しうる。例えば、顕微鏡の分野等の、他の光学システムにおいても、EUVミラーを使用することができる。
【0054】
上述した特徴及び更なる特徴は、請求項だけではなく、明細書の記載や図面から明らかとなる。それぞれの特徴は、各場合において単独で、或いは組合せで、本発明の実施形態や他の分野においてに実装可能であり、有利且つ本来保護されるべき実施形態を構成することができる。本発明の例示的実施形態を図面に示し、以下により詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】第一例示的実施形態に従う多層構成の層構造の垂直断面の概略図である。
図2】第一例示的実施形態の層厚ダイアグラムである。
図3】参照ミラーの層厚ダイアグラムであり、かかる参照ミラーの多層構成は純粋なMo/Siモノスタックである。
図4】Mo/Siモノスタックの反射率の入射角依存性と、第一例示的実施形態に従う多層構成の層構造の入射角依存性とを比較したダイアグラムである。
図5】第二例示的実施形態に従う層厚ダイアグラムである。
図6】第三例示的実施形態に従う層厚ダイアグラムである。
図7】第四例示的実施形態に従う層厚ダイアグラムである。
図8】第五例示的実施形態に従う層厚ダイアグラムである。
図9】第二〜第五の例示的実施形態における反射率の入射角依存性を示す図である。
図10】第六例示的実施形態に従う層厚ダイアグラムである。
図11】第六例示的実施形態における反射率の入射角依存性(“6”)及び第一例示的実施形態における反射率の入射角依存性(“1”)を示す図である。
図12】第七例示的実施形態の層厚ダイアグラムである。
図13】第七例示的実施形態における反射率の入射角依存性(“7”)及び第一例示的実施形態における反射率の入射角依存性(“1”)を示す図である。
図14】第八例示的実施形態に従う層厚ダイアグラムである。
図15】第八例示的実施形態における反射率の入射角依存性を示す図である。
図16】第八例示的実施形態における周期厚を示すダイアグラムである。
図17】第九例示的実施形態に従う層厚ダイアグラムである。
図18】第九例示的実施形態における反射率の入射角依存性を示す図である。
図19】本発明の一実施形態に従うEUVマイクロリソグラフィー投影露光装置の構成素子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、複数の例示的実施形態に基づいて、本発明の複数の観点について説明する。各例示的実施形態に係るEUVミラーは、EUV動作波長であるλ=13.5nmと、角度範囲10°≦AOI≦17.5°の入射角、即ち、平均入射角AOI=13.75°用に設計されている。この場合、入射角(AOI)は、ミラー表面に衝突する光線と、衝突点におけるミラー表面に対する法線Nとが成す角である。.この種の入射角度範囲は、例えば、高い開口数で動作するEUVマイクロリソグラフィー用光学システムにおいて用いられうる。
【0057】
そのような入射角の場合、EUV放射に対して反射効果を有する多層構成を有する多層ミラーであって、屈折率の実部の値が大きい層材料(「スペーサ」とも称される)と屈折率の実部の値が比較的小さい層材料(「アブソーバー」とも称される)とが交互に適用された層ペア(バイレイヤ)を多数含む多層ミラーが用いられることが知られている。 例えば、モリブデン/シリコン(Mo/Si)、及び/又はルテニウム/シリコン(Ru/Si)の層材料の組合せにより、層ペアを構成することができる。この場合、シリコンはそれぞれスペーサ材料を形成し、Mo及び/又はRuはアブソーバー材料として機能する。層ペアは、少なくとも一つの更なる層を含むことができ、具体的には、例えば、C、BC、Si、SiC、又はこれらの材料のうちの一つを含有する化合物からなり、境界面における相互拡散を防ぐための介在バリア層を含むことができる。
【0058】
以下に詳述する例示的実施形態により、幾つかの基本原理を説明する。説明を明確にするために、各場合においてモリブデン(Mo)及びシリコン(Si)を層材料として用いる。他の波長、他の入射角範囲、及び/又は他の層材料の組合せについても、基本原理を用いることができる。さらに、層スタック中に追加的に設けられうるバリア層及び/又は保護層の使用についても、基本原理は独立して作用する。
【0059】
図1は、第一例示的実施形態による多層構成MLの垂直断面の概略図である。
【0060】
図2は、 各層の層番号LNを横軸とし、それらの幾何学的層厚d[nm]を縦軸として示す層厚ダイアグラムである。図上、点状のシンボルはモリブデンからなる各層を示し、三角状のシンボルはシリコンからなる層を示す。基板(図示しない)は、左手側に配置され、層番号1の単一層が基板に直接隣接する。よって、最も層番号の大きい層の右手側が、入射側となる。このような図示方法は、本出願における全ての層厚ダイアグラムについて適用する。
【0061】
図3は、比較目的で用いる参考ミラーREFの層厚ダイアグラムであり、かかる参考ミラーの多層構成はMo/Siモノスタックとして実装されている。ここで、「モノスタック」という用語は、連続した全ての層ペアが同一の層材料の組合せを有し、各層の層厚も同一である多層構成を指す。
【0062】
図1に示すEUVミラーは、光学精度で加工された基板表面を有する基板SUBを備え、かかる基板表面上には多層構成MLが適用されており、かかる多層構成MLは以下、「多層」とも称する。例示的実施形態では、多層構成は52層の個別層からなり、モリブデン層(ハッチング有り)及びシリコン層(ハッチングなし)が交互に積層されている。結果的に、26のMo/Si層ペアが形成されており、かかる層ペアは、Mo/Si二重層とも称される。
【0063】
各層又は層ペアは、それぞれが周期的な3通りの層グループに分類することができ、これらは相互に折り重なり、それぞれが異なる機能を有する。入射側には、第一の数N1=20の、第一層ペアとも称されうるMo/Si層ペアを有する周期的な第一層グループLG1が配置されている。基板SUBに直接隣接する態様にて配置された周期的な第二層グループLG2は、第二の数N2=4の直接隣接する、第二層ペアとも称されうるMo/Si層ペアを有する。入射側の第一層グループの層ペアの第一の周期厚P1及び第二層グループLG2の第二層ペアの第二の周期厚P2は、各場合において同一である。本明細書において、「周期厚」とは、層ペアの各層の光学層厚の和を指し、各場合において光学層厚は、各層材料の幾何学的層厚d及び屈折率の積である。
【0064】
第三層グループLG3は、第一層グループLG1及び第二層グループLG2の間に配置されており、これらと同様に周期的な層構造を有しているが、N3=2のMo/Si層ペア(第三層ペア)のみを有する。第三層グループLG3は、第一及び第二層グループの周期厚とは僅かに異なる第三周期厚P3を有している。例示的実施形態の場合、第三周期厚は、第一及び第二周期厚よりも有意に薄い。これは、2つのSi層(層番号10及び12)は、第一及び第二層グループのSi層よりも層厚が有意に薄いことに起因する。
【0065】
第一及び第二層グループの層厚の平均値P=(P1+P2)/2と、第三層グループの周期厚との周期厚の差は、周期厚差ΔPと示し、例示的実施形態では、負の値(P3=P−ΔP)となっている。周期厚差ΔPは、λ/4層の光学層厚と第三の数N3との商に略相当するように設計される。よって、第三層グループは、第一及び第二層グループの間に1/4波長層の層厚全体を挿入するが、係る層厚は複数の単一層の層厚を含むものである。
【0066】
例示的実施形態では、P1=P2=P=6.69nm;P3=5.17nm=P −1.79nm;N3=2、従って、x=1.79×cos(AOI)/λ×N3=0.248が成り立つ。
【0067】
第三層グループは、他の層スタックとは異なる周期厚P3を有する2つの層ペアのみを有する。第三層グループが多層全体の反射率に及ぼす影響は、表面に近い第一層グループLG1の影響と比較して非常に小さく、さらに、基板付近の第二層グループLG2の影響と比較しても有意に小さい。第三層グループは、周期厚が異なるため、波長及び入射角範囲に対して反射性の影響をほとんど及ぼすことは無く、また、層数が少ないため、僅かな放射のみを吸収するに過ぎない。第三層グループLG3の重要な影響の一つは、第三層グループは第二層グループ内で反射される部分的な光線の位相と、第一層グループ内で反射される部分的な光線の位相との間の位相シフトを生成することである。
【0068】
第三層グループLG3により生成されるかかる位相シフトの影響は、図4を参照して説明する。図4は、入射角AOIの関数として、EUVミラーの反射係数R[%]を示す比較ダイアグラムである。破線曲線は、AOI≒15°で最大反射係数が約68%となっており、図3に示すモノスタックの反射率が入射角依存性であることを示している。実線は第一例示的実施形態(図2)の場合における、対応する反射率プロファイルを示しており、かかる実施形態は、入射側第一層グループと基板側第二層グループとの間で位相をシフトさせる第三層グループを含んでいる。まず、明確に言える点としては、純粋なモノスタックの場合における最大反射率は68%であり、これは、第一の例示的実施形態の場合に同じ入射角で生じる反射率よりも有意に高い値であることが挙げられる。しかし、入射角範囲にわたる反射率の変化は、純粋なモノスタックの場合よりも、第一の例示的実施形態の場合に有意に小さい。参考システムの場合、約60%(入射角10°)から約68%(入射角約15°)の間で、即ち、約8%ポイントも変化する一方で、例示的実施形態の場合には、同じ入射角範囲における反射率は、約2%ポイント、正確には、約54%(入射角約17°)から56%(入射角約11°)の間で変化するに過ぎない。第三層グループにより生成される位相シフトにより、多層構成の設計が適合されている選択された入射角範囲において、反射率の入射角依存性が有意に均一化されていることが分かる。
【0069】
図5は、第二の例示的実施形態の層厚ダイアグラムである。多層構成はMo/Si層ペアからなり、かかる多層構成は、4つの層グループにさらに分割することができる。入射側に隣接する第一層グループLG1は、N1=21の周期厚P1のMo/Si層ペアを有する。基板側に向かって、二つの層ペア(N2=2)を有する第三層グループ(LG3)が続き、かかる二つの層ペアは、第一層グループのSi層よりも層厚が有意に小さいSi層をそれぞれ有する。よって、第三層グループの周期厚P3はP3<P1を満たすようになる。第三層グループLG3及び基板の間には、11のMo/Si層ペアを有する第二層グループLG2が配置されており、その周期厚P2は、第一層グループLG1の層ペアの周期厚P1に等しい。第二層グループLG2の領域では、基板から距離を置いて二つの直接的に隣接するMo/Si層ペア(層番号7〜10)を有する(N4=2である)第四層グループLG4も挿入されている。第四層グループは、第二層グループLG2を2つのサブグループにさらに分割する。3つのMo/Si層ペアを有する第一のサブグループLG2−1は基板に隣接しており、8つの層ペアを有する第二のサブグループLG2−2は第三層グループ及び第四層グループの間に配置されている。
【0070】
第三層グループLG3及び第四層グループLG4は、それぞれ、各場合において、第一層グループLG1及び第二層グループLG2のそれぞれよりも有意に小さい周期厚P3及びP4を有している。これらについて、条件、P3=P−ΔP、ここでΔP≒(λ/4)/(cos(AOI)N3)、及びP4=P−ΔP、ここでΔP≒(λ/4)/(cos(AOI)N4)が略成立する。
【0071】
第三層グループLG3は、第二層グループLG2により反射された部分的な光線と第一層グループにより反射された部分的な光線との間にて位相シフトを生じさせる。第四層グループLG4は、一方で、比較的基板に近い第二層グループの第一サブグループLG2−1により反射される部分的な光線と、他方で比較的基板から遠い第二層グループの第二サブグループLG2−2により反射される部分的な光線との間で、これらの部分的な光線の間における相応の位相シフトをもたらす。第三及び第四の層グループは、層スタック内において相互に離間した異なる位置に配置された2つの相互に独立したアクティブな位相シフト層グループを形成する。
【0072】
入射角範囲10°〜17.5°で得られる反射率プロファイルを、図9の反射率曲線“2”として示す。反射率は、最大値RMAX=56.2%及び最小値RMIN=55.4%の間で、すなわち、1%ポイント未満で変化する。従って、第二位相シフト層グループを用いることで、入射角に対する反射率の依存性を均一化させることができる。同時に、各Si層は、いずれも第一又は第二層グループの各Si層よりも薄いため、特に、層厚がλ/(2×cos(AOI))(約6.7nmに対応)付近又は又はそれより大きい値となることを回避することができる。
【0073】
多くの更なる変形例が実現可能である。第三の例示的実施形態の場合、図6も同様に、相互に離間して配置された2つの位相シフト層グループが多層構成中に挿入されるか、或いは、これらは共通の周期厚(P1=P2)を有するMo/Si層ペアから構成される。多層構成は、N1=20層ペアである入射側第一層グループLG1と、N2=10層ペアである基板側第二層グループLG2とを有する。第3層グループLG3は、N3=2層ペア(層番号25〜28)であり、第一及び第二層グループの間に挿入されている。第二層グループ内には、2つの層ペア(層番号7〜10)を有する第四層グループLG4が挿入されており、第四層グループは第二層グループを、3つの層ペアを有する基板側の第一サブグループLG2−1と、7つの層ペアを有する第二サブグループLG2−2とにさらに分割し、かかる第二サブグループは、第四層グループ及び第三層グループの間に延在している。
【0074】
図5に示す例示的実施形態と同様に、第四層グループLG4の第四周期厚P4は、第二層グループ及び第一層グループの層ペアの周期厚よりも薄い。これに対して、第三層グループLG3の周期厚P3は、第一層グループの周期厚P1及び第二層グループの周期厚P2よりも周期厚差ΔPだけ大きい。同時に、第三層グループLG3の多層周期構造は、第三層グループの各層の層厚がいずれもλ/(2×cos(AOI))以上の大きさとならないようにする。第三層グループの2つのSiの単一層は、それぞれ、幾何学的層厚d≒5.7nmである。従って、上述の各単一層の光学層厚は、λ/(2×cos(AOI))層の層厚よりも少なくとも10%薄い。
【0075】
図9の反射率曲線“3”から明らかなように、選択された入射角犯意における多層構成の反射率は、AOI=13°における最大値約55.7%から、AOI=17.5°における最小値約54.4%の間で、即ち1.5%ポイント未満で変化する。
【0076】
図7は、第四の例示的実施形態の層厚ダイアグラムである。各層グループの注記は、他の例示的実施形態に対応する。入射側の第一層グループLG1はN1=20の層ペアを有し、基板側の第二層グループLG2はトータルでN2=10の層ペアを有し、かかる第2層グループLG2は、2つのサブグループ(基板側サブグループLG2−1及び基板よりさらに離れたサブグループLG2−2)にさらに分割される。第三層グループLG3は、第一層グループLG1及び第二層グループLG2の間に配置されており、第四層グループLG4は、第二層グループを上述した2つのサブグループにさらに分割する。
【0077】
第三及び第四層グループLG3及びLG4は、それぞれ、2つの直接隣接したMo/Si層ペア(N2=2、N4=2)からなり、Mo層の層厚は、各場合において、第一及び第三層グループのMo層の層厚に対応し、Si層の層厚 は各場合において第一及び第二層グループのSi層の層厚よりも大きい。第三周期厚P3及び第四周期厚P4は、第一及び第二層グループの平均周期厚よりも、各場合において周期厚差ΔPだけ大きいことが明らかである。第3層グループLG3及び第四層グループLG4は、位相シフト層グループとして光学的に作用するが、反射率については実質的に寄与しない。第三及び第四層グループのSi層の層厚は、第一及び第二層グループにおけるSi層の層厚よりも大きいが、これらは、λ/(2×cos(AOI))層の層厚よりも有意に(10%超)薄い。よって、生産工学的観点から、これらは制御可能である。
【0078】
反射率の入射角依存性を均一化する効果は、図9に示す曲線“4”から明らかとなる。反射率は、13.5°における最大値RMAX、約55.5%と約16.8°における最小値RMIN、約54.0%との間で、即ち2%ポイント未満で変化する。
【0079】
図8は、第五の例示的実施形態の層厚ダイアグラムである。各層グループ(第一〜第四層グループ)は、第二及び第三の例示的実施形態と同様の参照符号を用いて表される。N1=20、N2=10、N3=3、及びN4=3が成り立つ。モリブデンからなる各層は、全ての層グループにおいて、層厚が略同一である。第一及び第二層グループでは、Si層の層厚は各場合において同一であるため、P1=P2も成り立つ。第三層グループLG3は、第一層グループと第二層グループとの間に配置されており、各Si層は第一及び第二層グループのSi層よりも厚いので、第三周期厚P3は平均周期厚P=P1=P2よりも周期厚差ΔPだけ大きい。このとき、周期厚差ΔPは、1/4波長層の光学層厚(λ/4)と第三の数N3との商に略相当する。これに対して、第四層グループLG4は、第一及び第二層グループよりも各Si層は薄いが、これにより第四周期厚P4が平均周期厚より周期厚差ΔPだけ小さい。このとき、周期厚差ΔPは1/4波長層の光学層厚(λ/4)と第四の数N4との商に略相当する。ここでも、第二及び第三層グループの重要な光学的性能は、各位相シフト層グループに、基板側の層にて反射される光線と、それぞれ基板から離れた層にて反射される部分的な光線との間で位相シフトをもたらすことにある。これにより、図9の曲線“5”に示すように、平均入射角AOI≒13.3°を含む全入射角範囲において、最大値約55.8%(AOI=10°)及び最小値54.8%(AOI=16.3°)の間において反射率が僅かに変化する。
【0080】
図4及び図9に示した、反射率曲線R=f(AOI)のように、全ての例示的実施形態について、平均入射角(約13.3°)の約±3.5°の範囲では、反射率Rの入射角AOIに対する依存性は比較的小さい。全ての例示的実施形態に関し、反射率の相対変化ΔR=(RMAX−RMIN)/RMAXについて、条件ΔR<3%、特にΔR<2%が成立する。
【0081】
例えば、本明細書に開示した全ての例示的実施形態では、モリブデンからなる各層は全ての層グループにおいて層厚が略同一であり、Siからなる各層の層厚のみが変更される。層ペアに含まれる一方の層材料について、層厚を均一にすることで製造が容易になるが、このことは原理的には必須ではない。また、層ペアに含まれる両方の層材料の層厚を層グループ内で変更し、或いは、製造公差外の範囲で層グループに対して層グループを形成すること可能である。
【0082】
全ての例示的実施形態では、第三層グループ又は第三及び第四層グループは各場合において隣接する層グループ間で層厚を変更することができ、かかる変更は、λ/4層の層厚に対応するが、かかるλ/4層の全層厚は、第三及び/又は第四層グループ内の複数の層に分配される。従って、各層の層厚が問題が起きるほど厚くなることは回避することができる。
【0083】
上述した例示的実施形態では、各場合において、Mo層の層厚は全ての層グループで一定とし、Si層の層厚を変更した。Mo層の層厚及びSi層の層厚について、略一定とするか、又は、層グループ内若しくは各層グループ間でMo層の層厚及びSi層の層厚を両方とも変更することも可能である。従って、新規な層設計は、層厚に関する構成の自由度が非常に高いため、各層材料について最適層厚を見出して、製造することが可能になる。
【0084】
上述した例示的実施形態では、より吸収率の高い層材料(Mo/Si層ペアの場合にはMo)の層厚が、各場合において層グループ(第一、第二、第三、及び適切な場合には第四層グループ)内にて一定である。このことは、生産工学的には有利であるが、必須ではない。以下に説明する例示的実施形態では、より吸収率の高い層材料(Mo)の層厚と層グループの層ペアの周期厚との間の比率Γが層グループ内で有意に変化する。
【0085】
この点、図10は、第六例示的実施形態に従う層厚ダイアグラムである。図11は、第六例示的実施形態の反射率の入射角依存性(破線曲線“6”)と、図2に示す第一例示的実施形態における対応する値(“1”)とを比較して示す図である。第二層グループLG2は基板に隣接しており、Mo層の厚さは基板側から入射側に向かって約4.5nmから約3.7nmに減少し、一方、Si層の厚さは対応する増加幅で増加しており、第二層グループの全層ペアの周期厚P2は略一定となっている。続く第三層グループLG3はN3=2の層ペアを有しており、かかる層ペアにおいて、Mo層の厚さはSi層の厚さよりも有意に大きい。しかし、ここでは、Γの値は一定である。入射側の第一層グループLG1内では、Mo層の層厚及びSi層の層厚は、まずMo層の厚さが幾らか増加して、そして、より近い層ペアから入射側に向かって15層ペア以上にわたって減少するという態様で連続的に変化する。Si層の層厚は、相補的なプロファイルとなっており、よって、周期厚P1は第一層グループLG1で一定である。特に、第1層グループにおける層厚プロファイルは、入射側において、より吸収率の高いMo層の厚さを、より吸収率の低いSi層の厚さと比較して小さくすることが有利であるという点を考慮して定められる。
【0086】
図11に示す反射率プロファイルは、約10°〜約17.5°の入射角間隔において、反射率が最大値56.4%と最小値54%との間で、3%ポイント未満で変化するということを示す。反射率の絶対値は第一例示的実施形態の値を幾らか上回る。
【0087】
図12は、第七例示的実施形態を示し、 介在第三層グループLG3の位相シフト効果は、両方の層材料(Mo及びSi)の間で分けることができることを示している。上述した例示的実施形態では、常に層材料の一つの層厚のみを変更して、隣接する層グループに連なる第三層グループを製造していた。また、第三層グループの両方の層材料の層厚を、隣接する第一及び第二層グループにおける対応する層厚とは異なるようにすることも可能である。
【0088】
第七例示的実施形態では、第三層グループLG3は、2つのMo/Si層ペアを含む2つの層ペアからなり、基板側の第二層グループLG2と 入射側第一層グループとの間に介在している。第三層グループ内のMo層及びSi層の層厚は、第一層グループ及び第二層グループ内の対応する層材料の層厚よりもそれぞれ薄い。図13は、関連する反射率ダイアグラムであり、ここでは、第七例示的実施形態に関連する反射率曲線“7”が破線にて示され、比較のために、第一例示的実施形態に関連する反射率曲線(“1”)が実線にて示されている。概形は同様だが、第七例示的実施形態の反射率は、比較用の反射率曲線を約0.2〜0.3%ポイント上回り、意図した範囲の入射角間隔内における反射率の変化は約2パーセントポイントである。
【0089】
第八例示的実施形態の特性を、図14(層厚ダイアグラム)、図15(反射率の入射角依存性)、および図16(周期厚ダイアグラム)を参照して説明する。かかる多層構成は、λ=13.5nm、入射角度範囲約5.6°〜約19°用に設計されている。本例示的実施形態では、層ペアは、Si及びMoからなる各層に加えて、炭化ホウ素からなる介在バリア層(各0.4nmのBC層である)を有し、Mo層及びSi層の間における相互拡散を低減している。よって、本実施形態では、“層ペア”は4つの各層である、Si層、BC層、Mo層、BC層からなる。
【0090】
基板及び基板付近の第二層グループLG2の間には、2つの各層が配置されており、これらの層は、周期的構造を形成せず、基板と多層構成との間に平均層を形成する。ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、及びシリコン(Si)からなる各層を含む多層キャップ層は、入射側に設けられる。同様に、本明細書では、入射側に配置されたこれらの4つの各層については詳述しない。
【0091】
多層構成は、N1=19のMo/Si層ペアを有する入射側第一層グループLG1と、基板付近に配置され、N2=10のMo/Si層ペアを有する第二層グループLG2と、第一層グループ及び第二層グループの間に配置され、N3=6のMo/Si層ペアを有する第三層グループLG3と、同様にN4=6のMo/Si層ペアを有する第四層グループLG4とを備える。
【0092】
第四層グループは、第二層グループの基板側第一サブグループLG2−1が3つの層ペアを有し、第二サブグループが、第三及び第四層グループの間にて第二グループの7つの層ペアを有するように、第三層グループと基板との間に配置された第二層グループ内に挿入される。
【0093】
第一層グループLG1内では、より吸収率の高いMo層の層厚は、第三層グループから入射側に向かって連続的に減少し、Si層の層厚は、入射側に向かって相補的な態様で増加する。よって、第一層グループ内では、周期厚P1が一定であると共に、Γの値が第三層グループから入射側に向かって連続的に減少する。
【0094】
第二層グループLG2では、Γの値は層グループによって異なり、このとき、第四層グループLG4付近のΓの値は最も低くなり、Mo層の層厚は、各場合において第四層グループ側から両方向側に連続的に増加する。Si層の層厚は相補的なプロファイルを有しており、第二層グループLG2についても、層グループ全体について周期厚P2の値が一定となる。第3及び第四層グループにおける層厚プロファイルの特別な特徴は、図16を参照して以下に詳述する。
【0095】
図15は、第八例示的実施形態の反射率プロファイルを入射角の関数として示す図であり、入射角範囲約7°〜約18.5°において反射率が2%ポイント未満変化することを証明する図である。
【0096】
各層グループの周期厚を図示するために、図16は、横軸に連続する層ペアの数PNを、縦軸に正規化した周期厚PNORMの値を示し、かかる正規化周期厚は、実際の周期厚に対して係数cos(AOI)/λを乗じることで算出する。ここで、平均入射角AOIは、12.3°であり、波長は13.5nmである。
【0097】
第一層グループ内の周期厚P1及び第二層グループLG2内の層ペアの周期厚P2は、各場合においてPNORM=0.5に近い値であることがわかる。また、第三層グループLG3内及び第四層グループLG4内について挙げられた周期厚は、層ペアごとに異なることがわかる。しかし、第三及び第四層グループ内の周期厚の平均値は、条件P3=PM±ΔPを満たす。ここで、ΔP=x×(λ/(N3cos(AOI)))であり、x=0.29が成立する。2つの挿入された層グループ(それぞれ、第三層グループ及び第四層グループ)は、それぞれ、「追加のλ/4層」を含み、これらの全層厚は、それぞれ、第三層グループ及び第四層グループの複数の層に渡って分布する。他の例示的実施形態と同様に、第三層グループ及び第四層グループ内の全ての層の層厚は、各場合においてλ/(2×cos(AOI))未満であり、本明細書の導入部にて述べた通り、各層の層厚が過剰に厚い場合に製造時に生じうる問題を回避することができる。
【0098】
上述のように、例示的に示した実施形態では、位相シフトを行う第三層グループは各場合において複数の層ペアを有する。しかし、このことは必須ではない。図17〜18を参照して第九例示的実施形態を説明するが、第九例示的実施形態には、単一の層ペアのみを有する単一の位相シフト層グループ(第三層グループ)が存在するが、第三層グループは単一の層ペアのみを有し、N3=1が成り立つ。図17は、関連する層厚ダイアグラムを示す図である。図18は、反射率の入射角依存性(破線“9”)を、図2に示す第一実施形態の対応する値(“1”)と比較して示す図である。
【0099】
入射側には第一の数N1=21のMo/Si層ペア(第一層ペア)を有する周期的な第一層グループLG1が配置されている。基板に直接隣接して、第二層グループLG2が配置されており、第二の数N2=5の直接隣接するMo/Si層ペア(第二層ペア)が含まれる。第一及び第二層グループの各周期厚P1及びP2は、同一である。
【0100】
第一層グループLG1及び第二層グループLG2との間には、第三層グループLG3が配置されており、第三層グループは単一のMo/Si層ペア(層番号11及び12)を有する。第三層グループの周期厚P3は、他の2つの層グループの周期厚P1、P2よりも有意に小さい。本実施形態の場合、P1=P2=P=6.96nm;P3=3.52nm=P−3.44が成り立ち、ΔP=3.44nmが成り立つ。そうすると、関係式:ΔP=x×(λ/(N3cos(AOI)))によれば、x=3.44×cos(AOI)/λ×N3=0.247となる。
【0101】
式:ΔP=x×(λ/(N3cos(AOI)))によれば、ΔPはN3に依存する。本例の場合はN3=1である。従って、一つの可能性としては、第三層グループを層厚がλ/(2×cos(AOI)である単一層として第三層グループを設計することが考えられる。しかし、第三層グループは、単一層ではなく、むしろ少なくとも2つの単一層、すなわち、高屈折率層材料からなる層及び低屈折率層材料からなる層を有する層グループである。必要な追加の層材料をかかる層ペアの両方の単一層の間に配置することにより、層厚がλ/(2×cos(AOI)である単一層の作用と同様の位相シフト作用を得ることができる。例えば、各単一層の層厚を約(λ4+λ8)/(cos(AOI))とすることで、かかる位相シフト作用を達成することができる。また、単一層の層厚をより薄く、具体的には(λ/4−λ/8)/(cos(AOI))とすることもできる(関係式:P3=P±ΔPも満たす)。
【0102】
本例の場合、Si層は層厚が約2.6nmであり、Mo層は層厚が約1nmである。
【0103】
第九例示的実施形態の反射率曲線は、図示した入射角間隔における反射率が、入射角約11°における最大値約56.4% 及び入射角約17.5°における最小値約54.6%の間で、すなわち、2%ポイントのみ変化することを示す。これは、参考システム(曲線“1”)の場合と比較して僅かに大きいに過ぎない。
【0104】
これまで、(幾何学的又は光学的)層厚又は層厚の比率として具体的な値を本明細書に記載してきたが、これらの記載は多層構成の基本設計を定義するための公称層厚である。このような基本設計の再最適化にあたり、設計許容値により、上述した公称層厚から僅かに変化させることができる。例示的実施形態では、設計許容値は、一般的に公称層厚の±15%又は±20%である。そのような多層設計では、単一層の層厚及び各層グループの周期厚は、設計許容値とのからみで、対応する基本設計の公称値とは異なることを許容することも意図する。相応の設計許容値が周期厚差ΔPの場合にも設定されうる。
【0105】
さらに、完成品であるEUVミラーについても、製造公差により、層厚が僅かに変化しうる。 各層毎の製造公差は、各層の絶対層厚の概して5%以内であり、或いは最大10%以内である必要がある。
【0106】
本明細書に記載したタイプのEUVミラーは、様々な光学システムにおいて使用することができ、例えば、EUVマイクロリソグラフィーの分野にて使用することができる。
【0107】
図19は、例えば、本発明の一実施形態に従うEUVマイクロリソグラフィー投影露光装置WSCの光学素子を例示する図である。EUVマイクロリソグラフィー投影露光装置は、投影レンズPOの結像面ISの領域に配置された感光性基板Wに、反射性パターニング装置又はマスクMの少なくとも一つの像を露光するために用いられており、かかるパターンは投影レンズの対物面OSの領域内に配置されている。
【0108】
明確のために、 デカルトのXYZ座標系を用いて、図示した光学素子のそれぞれの位置関係を示す。投影露光装置WSCは走査型である。投影露光装置の動作中、マスクM及び基板はy軸方向に同期して移動され、走査が実施される。
【0109】
装置は、一次放射源RSからの放射により動作する。照明システムILLは、一次放射源からの放射を受けて、照明放射をパターン上に形成する。投影レンズPOは、感光性基板上にパターンの構造を結像するように機能する。
【0110】
一次放射源RSは、特に、レーザープラズマ源、ガス放電源、又はシンクロトロンベースの放射源であり得る。そのような放射源は、EUV波長域の放射RADを生成し、特に、波長5nm〜15nmの放射を生成する。照明システム及び投影レンズがかかる波長域にて動作できるようにするために、これらはEUV放射に対して反射性である素子により構成される。
【0111】
放射RADは放射源RSから出射されて、コレクタCOLにより集束され、照明システムILLへと導かれる。照明システムは、混合ユニットMIX、テレスコープ光学ユニットTEL、及びフィールド形成ミラーFFMを含む。照明システムは、放射を形成して、投影レンズPOの対物面OS内又はその近傍に位置する照明フィールドを照明する。この場合、照明フィールドの形状及びサイズにより、対物面OS内の有効に用いられる対物フィールドOFの形状及びサイズが決定される。
【0112】
反射性レチクル又はその他の幾つかの反射性パターニング装置が、装置の動作中に対物面OS内に配置される。
【0113】
混合ユニットMIXは、実質的に2つのファセットミラーFAC1、FAC2からなる。第一ファセットミラーFAC1は、照明システム内の、対物面OSに対して光学的に共役である面内に配置されている。従って、第一ファセットミラーは、フィールドファセットミラーとも称されうる。第二ファセットミラーFAC2は、投影システムの瞳面に対して光学的に共役である、照明システムの瞳面内に配置されている。従って、第ニファセットミラーは、瞳ファセットミラーとも称されうる。
【0114】
瞳ファセットミラーFAC2と、ビームパス上にて下流に配置され、さらにテレスコープ光学ユニットTEL及びすれすれの入射で動作するフィールド形成ミラーFFMを備える結像光学機器とを用いて、第一ファセットミラーFAC1の各ミラーリングファセット(各ミラー)を光学フィールド内に結像する。
【0115】
フィールドファセットミラーFAC1における空間的(局所的)照明輝度分布により、対物フィールド内における局所的照明輝度分布が決定される。瞳ファセットミラーFAC2における空間的(局所的)照明輝度分布により、対物フィールド内における照明角度強度分布が決定される。
【0116】
投影レンズPOは、投影レンズの対物面OS内に配置されたパターンを、対物面に対して光学的に共役であると共に対物面に対して平行である結像面IS内に縮小して結像する。かかる結像は、動作波長λ(実施例では13.5nm)のあたりである極端紫外波長域(EUV)からの電磁放射によって実施される。
【0117】
投影レンズは6つのミラーM1〜M6を有し、これらのミラー表面は、対物面OS及び結像面ISの間の投影ビームパスPR 上に配置されており、これらのミラーMi〜M6により、対物面又は対物フィールドOF内に配置されたパターンが結像面又は結像フィールドIF内に結像可能となる。
【0118】
ミラー(EUVミラー)M1〜M6は、EUV波長域からの放射に対して反射作用を有し、それぞれが、極端紫外波長域からの放射に対して反射作用を有すると共に、屈折率が比較的高い層材料と屈折率が比較的低い層材料とが交互となっている層ペアを多数含む多層構成を適用された基板を備える 。
【0119】
ミラーM1〜M6は、曲面のミラー表面をそれぞれ有しており、各ミラーが結像に寄与する。対物フィールドOFからの投影ビームパスの光線は、まず、僅かに凸状にカーブした第一ミラーM1上に入射し、第一ミラーM1は、光線を僅かに凹状にカーブした第二ミラーM2に向けて反射する。そして、第二ミラーM2は、光線を凸状の第三ミラーM3へと反射し、第三ミラーM3は光線を凹ミラーM4に向けて側方に偏向させる。そして、第四ミラーM4は、結像面の幾何学的近傍に配置された、僅かに凸状にカーブしたミラー表面を有する第五ミラーM5へと光線を反射し、第五ミラーM5は、結像面からの最後のミラーであり結像フィールドIFの方向に光線を集束させる大きな凹ミラーM6へと光線を反射させる。
【0120】
投影レンズは2つの部分レンズからなる。この場合、最初の4つのミラーM1〜M4は第一の部分レンズを形成し、これらは、第四ミラーM4及び第五ミラーM5の間の光線パス上にて、中間像IMIを生成する。中間像は、対物面及び結像面に対して光学的に共役である中間結像面内に延在する。幾何学的には、中間像は第六ミラーM6に並んで配置される。第二部分レンズは、第五及び第六ミラーからなるが、中間像を縮小して結像面上に結像する。
【0121】
上述のような構成又は上述に類似した構成を有する投影露光装置及び投影レンズは、例えば、米国特許文献7,977,651号に開示されている。かかる特許文献の開示内容は、参照により本明細書に援用する。
【0122】
ミラーM1〜M6のうちの少なくとも一つは、本発明の実施形態に従う層構造を有することができる。有利には、角度空間を拡げる効果を有する反射性コーティングを、特に、最も入射角度範囲が大きい第五ミラーM5上に設けることができる。また、複数又は全てのミラーM1〜M6について、本発明の実施形態に従う設計とすることもできる。
【0123】
照明システムILLでは、すれすれの入射で動作するフィールド形成ミラーFFM以外は、全てのミラーが本明細書において提案したタイプの多層広帯域コーティングの利益を享受することができる。 また、特に、多軸傾斜可能であり、これにより異なる入射角間隔範囲にて動作可能であるファセットミラーFAC1及びFAC2の各ミラーに本明細書に記載のコーティングを適用することもできる。
【0124】
表Aに、図14を除いた全ての例示的実施形態(B) について、各層の幾何学的層厚d[nm]を、最も基板に近い層(LN=1)から入射側の層(層番号が最も大きい、即ちLN値が最も大きい層)について順に示す。
【表A-1】
【表A-2】
【表A-3】
【表A-4】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19