(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352085
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】膜、及び膜形成方法
(51)【国際特許分類】
H01B 5/14 20060101AFI20180625BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
H01B5/14 A
H01B5/14 B
H01B13/00 503B
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-141709(P2014-141709)
(22)【出願日】2014年7月9日
(65)【公開番号】特開2016-18724(P2016-18724A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2017年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100154405
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 大吾
(74)【代理人】
【識別番号】100079005
【弁理士】
【氏名又は名称】宇高 克己
(74)【代理人】
【識別番号】230116296
【弁護士】
【氏名又は名称】薄葉 健司
(72)【発明者】
【氏名】榎本 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】松木 浩志
(72)【発明者】
【氏名】田中 斎仁
(72)【発明者】
【氏名】大竹 富明
【審査官】
佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/094477(WO,A1)
【文献】
国際公開第2014/098157(WO,A1)
【文献】
国際公開第2014/098158(WO,A1)
【文献】
特開2010−287540(JP,A)
【文献】
特開2014−116200(JP,A)
【文献】
特開2009−070660(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/035059(WO,A1)
【文献】
特開2012−204023(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/173070(WO,A1)
【文献】
特開2010−044968(JP,A)
【文献】
特開2013−016428(JP,A)
【文献】
特開2005−183636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/00−5/16
H01B13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素系材と金属ナノ粒状物とを有する膜であって、
前記炭素系材は、カーボンナノチューブ及びグラフェンの群の中から選ばれる一種または二種以上のものであり、
前記金属ナノ粒状物は、金属ナノ粒子及び金属ナノワイヤの群の中から選ばれる一種または二種以上のものであり、
前記膜は導電性部と絶縁性部とを具備し、
前記絶縁性部においては、前記金属ナノ粒状物の少なくとも一部が酸化してなる
膜。
【請求項2】
前記導電性部の導電性は前記炭素系材および前記金属ナノ粒状物の導電性によって奏され、前記絶縁性部の絶縁性は前記炭素系材および前記金属ナノ粒状物の導電性が変性した絶縁性によって奏されるよう構成されてなる
請求項1の膜。
【請求項3】
前記導電性部は前記炭素系材および前記金属ナノ粒状物によって構成され、
前記絶縁性部は前記炭素系材および前記金属ナノ粒状物が絶縁性処理を受けた絶縁物によって構成されてなる
請求項1又は請求項2の膜。
【請求項4】
絶縁性処理によって光透過率が向上する炭素系材と、絶縁性処理によって光透過率が低下する金属ナノ粒状物とを有する膜であって、
前記炭素系材は、カーボンナノチューブ及びグラフェンの群の中から選ばれる一種または二種以上のものであり、
前記金属ナノ粒状物は、金属ナノ粒子及び金属ナノワイヤの群の中から選ばれる一種または二種以上のものであり、
前記膜は、絶縁性処理されていない導電性部と、絶縁性処理された絶縁性部とを具備する
膜。
【請求項5】
前記絶縁性部においては、絶縁性処理によって前記金属ナノ粒状物の少なくとも一部が酸化してなる
請求項4の膜。
【請求項6】
前記絶縁性処理が酸化性雰囲気下での紫外線照射である
請求項3〜請求項5いずれかの膜。
【請求項7】
前記紫外線が真空紫外線である
請求項6の膜。
【請求項8】
前記炭素系材がカーボンナノチューブである
請求項1〜請求項7いずれかの膜。
【請求項9】
前記金属ナノ粒状物を構成する金属が銀である
請求項1〜請求項8いずれかの膜。
【請求項10】
前記金属ナノ粒状物が金属ナノワイヤである
請求項1〜請求項9いずれかの膜。
【請求項11】
前記請求項1〜請求項10いずれかの膜の形成方法であって、
前記炭素系材および前記金属ナノ粒状物の膜を形成した後、導電膜のパターン以外の領域を絶縁性処理する
膜形成方法。
【請求項12】
前記絶縁性処理が酸化性雰囲気下での紫外線照射である
請求項11の膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は膜(例えば、導電膜または絶縁膜)に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は各種の装置に用いられている。例えば、タッチパネルに用いられている。各種のディスプレイ装置(例えば、液晶ディスプレイ装置、有機ELディスプレイ装置など)に用いられている。太陽電池などにも用いられている。
【0003】
前記透明導電膜は、基本的には、透明な基板上に設けられている。前記基板の材料は、例えば無機ガラスや、有機樹脂が挙げられる。前記有機樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタラート(PET)又はポリカーボネート(PC)等が挙げられる。前記透明導電膜の材料は、例えば酸化錫インジウム(ITO)等が挙げられる。最近、透明導電膜材料として、カーボンナノチューブ、銀ナノ粒子、銀ナノワイヤ、導電性高分子、酸化亜鉛、酸化スズ等が提案された。
【0004】
静電容量方式タッチパネルの電極は、パターニングされた透明導電膜で構成されている。すなわち、パターニングによって、透明導電膜が導電性部分と絶縁性部分とに分けられる。
【0005】
前記パターニングは、ITO膜の場合、次のようにして行われる。ITO膜が透明基板の全面に設けられる。これには、例えば蒸着の手法が用いられる。前記ITO膜上にマスクが設けられる。これには、例えばフォトリソグラフィの手法が用いられる。この後、ケミカルエッチングの手法によって、前記マスクで保護されていない前記ITO膜が除去される。これによって、導電性部分(ITO膜存在部分)と絶縁性部分(ITO膜除去部分)とが構成される。すなわち、所定パターンの電極が形成される。前記電極は、一般的には、数十μm〜数mm幅のライン状である。勿論、これに限られない。
【0006】
ITOが存在している部分が電極(導電性部)である。エッチングによってITOが除去された部分は絶縁性部である。前記導電性部(電極)の屈折率と前記絶縁性部の屈折率とは異なる。この為、反射率に差が生じる。従って、そのまま、前記構造の電極がタッチパネルに搭載されると、バックライト点灯時に、所定パターンの電極が浮き出てしまう。すなわち、電極パターン模様が視認される。
【0007】
この問題を解決する為、特許文献1が提案されている。特許文献1は、「有機高分子フィルムに透明導電層が積層されたタッチパネル用透明導電性積層体において、有機高分子フィルムの少なくとも片面に光学干渉層、透明導電層が順次に積層され、光学干渉層は高屈折率層と低屈折率層からなりかつ該低屈折率層が透明導電層と接し、高屈折率層及び低屈折率層は架橋重合体からなり、高屈折率層は、金属アルコキシドを加水分解ならびに縮合重合して形成された架橋重合体であり、かつ、1次粒子径が100nm以下である金属酸化物及び/又は金属フッ化物の超微粒子を含み、前記超微粒子と前記金属アルコキシドとの重量比率が1:99〜80:20であることを特徴とするタッチパネル用透明導電性積層体。」を提案している。
【0008】
特許文献2が提案されている。特許文献2は、「導電性極細繊維を凝集又は絡み合うことなく分散配置して交差させ、当該交差した部分で互いに電気的に接触させてなる導電性繊維膜を形成する工程と、前記導電性繊維膜の所望の位置にレーザー光線を照射して、前記導電性極細繊維の一部を断線または消失させることにより導電性パターン部を形成する工程と、前記導電性極細繊維を基材表面に固定する工程を、少なくとも備えたことを特徴とする導電性パターン被覆体の製造方法。」を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4286136号
【特許文献2】特開2010−44968公報
【特許文献3】特表2010−525526公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】SCIENTIFIC REPORTS 4;4804 DOI;10.1038/srep04804
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1で提案された技術は、製造プロセスが大変である。コストが高い。
特許文献1はITOを対象としたものである。特許文献1の技術を、カーボンナノチューブ、グラフェン、銀ナノ粒子、又は銀ナノワイヤが用いられた透明導電膜の場合に応用しても、前記視認性の改善が得られ難い。その理由として次のことが考えられた。カーボンナノチューブやグラフェン等の材料は、可視光領域に吸収帯を有している。この為、カーボンナノチューブやグラフェン等が存在している個所(導電性部分(電極部分))と、カーボンナノチューブやグラフェンが存在していない個所(絶縁性部分)との間では、可視光透過率に差が生じる。この為、特許文献1の技術の応用では、前記視認性の改善が得られ難い。
【0012】
特許文献2の技術には以下の問題が有る。
特許文献2は、樹脂バインダの表面から露出した導電性繊維のみをレーザー光で除去する方法である。この為、バインダ層の厚み制御を精密に行わなければ、絶縁化が困難である。更に、レーザー光を照射した箇所が透明になる為、パターンが視認し易くなった。
【0013】
従って、本発明が解決しようとする課題は、導電性膜の視認性改善の技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、
炭素系材と金属ナノ粒状物とを有する膜であって、
前記膜は導電性部と絶縁性部とを具備し、
前記絶縁性部においては、金属ナノ粒状物の少なくとも一部が酸化してなる
ことを特徴とする膜を提案する。
【0015】
本発明は、前記膜であって、前記導電性部の導電性は前記炭素系材および前記金属ナノ粒状物の導電性によって奏され、前記絶縁性部の絶縁性は前記炭素系材および前記金属ナノ粒状物の導電性が変性した絶縁性によって奏されるよう構成されてなることを特徴とする膜を提案する。
【0016】
本発明は、前記膜であって、前記導電性部は前記炭素系材および前記金属ナノ粒状物によって構成され、前記絶縁性部は前記炭素系材および前記金属ナノ粒状物が絶縁性処理を受けた絶縁物によって構成されてなることを特徴とする膜を提案する。
【0017】
本発明は、
絶縁性処理によって光透過率が向上する炭素系材と、絶縁性処理によって光透過率が低下する金属ナノ粒状物とを有する膜であって、
前記膜は、絶縁性処理されていない導電性部と、絶縁性処理された絶縁性部とを具備する
ことを特徴とする膜を提案する。
【0018】
本発明は、前記膜であって、前記絶縁性部においては、絶縁性処理によって前記金属ナノ粒状物の少なくとも一部が酸化してなることを特徴とする膜を提案する。
【0019】
本発明は、前記膜であって、前記絶縁性処理が酸化性雰囲気下での紫外線照射であることを特徴とする膜を提案する。
【0020】
本発明は、前記膜であって、前記紫外線が、好ましくは、真空紫外線である
ことを特徴とする膜を提案する。
【0021】
本発明は、前記膜であって、前記炭素系材がカーボンナノチューブ及びグラフェンの群の中から選ばれる一種または二種以上のものであることを特徴とする膜を提案する。
【0022】
本発明は、前記膜であって、前記炭素系材がカーボンナノチューブであることを特徴とする膜を提案する。
【0023】
本発明は、前記膜であって、前記金属ナノ粒状物を構成する金属が銀であることを特徴とする膜を提案する。
【0024】
本発明は、前記膜であって、前記金属ナノ粒状物が金属ナノワイヤであることを特徴とする膜を提案する。
【0025】
本発明は、
所定パターンの導電膜の形成方法であって、
炭素系材および金属ナノ粒状物の膜を形成した後、前記導電膜のパターン以外の領域を絶縁性処理する
ことを特徴とする膜形成方法を提案する。
【0026】
本発明は、
前記膜の形成方法であって、
炭素系材および金属ナノ粒状物の膜を形成した後、導電膜のパターン以外の領域を絶縁性処理する
ことを特徴とする膜形成方法を提案する。
【0027】
本発明は、前記膜形成方法であって、前記絶縁性処理が酸化性雰囲気下での紫外線照射であることを特徴とする膜形成方法を提案する。
【発明の効果】
【0028】
導電性部の光透過率と絶縁性部の光透過率との差が小さく、視認性の問題(例えば導電性部のみが目立って見えると言った問題)が改善された。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】金属ナノワイヤ及び導電性炭素材で形成された導電膜のイメージ図
【
図4】導電性部と絶縁性部との境界部の視認性を示す写真であって、左側の写真は実施例6における写真、右側の写真は比較例2における写真
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施形態が説明される。
第1の発明は膜である。例えば、導電性膜である。或いは、絶縁性膜である。又は、導電性膜の側部に絶縁性膜が在る膜である。前記導電性膜と前記絶縁性膜との境界が目立ち難い膜である。前記導電性膜における光透過率Xと前記絶縁性膜における光透過率Yとの差が小さな(|X−Y|が、例えば0〜2%)膜である。前記膜は、炭素系材と、金属ナノ粒状物とを有する。
【0031】
前記膜は、導電性部と、絶縁性部とを具備する。前記絶縁性部においては、金属ナノ粒状物の少なくとも一部が酸化している。
【0032】
前記導電性部の導電性は、前記炭素系材および前記金属ナノ粒状物の導電性によって奏される。前記導電性部は、前記炭素系材および前記金属ナノ粒状物によって構成されている。前記絶縁性部の絶縁性は、前記炭素系材および前記金属ナノ粒状物の導電性が変性した絶縁性によって奏される。前記絶縁性部は、前記炭素系材および前記金属ナノ粒状物が絶縁性処理を受けた絶縁物(絶縁材)によって構成されている。
【0033】
前記膜は、炭素系材と、金属ナノ粒状物とを具備する。前記炭素系材は、絶縁性処理(例えば、光照射)によって光透過率が向上する材である。前記金属ナノ粒状物は、絶縁性処理(例えば、光照射)によって光透過率が低下する粒状物である。例えば、酸化された銀(Ag
2O)は褐色ないしは黒色を呈する。従って、銀ナノ粒状物は、酸化によって、高導電性が失われ、光透過率が小さくなる。前記膜は、導電性部(絶縁性処理されていない導電性部)と、絶縁性部(絶縁性処理された絶縁性部)とを具備する。前記絶縁性部においては、絶縁性処理によって、前記金属ナノ粒状物の少なくとも一部が酸化している。
【0034】
前記絶縁性処理は、酸化性雰囲気下での、紫外線照射である。前記紫外線は、好ましくは、真空紫外線である。
【0035】
前記炭素系材は、例えばカーボンナノチューブである。或いは、グラフェンである。勿論、両者を含むものでも良い。好ましくは、少なくともカーボンナノチューブが用いられていることである。前記カーボンナノチューブは、例えば単層カーボンナノチューブである。前記カーボンナノチューブは、例えば酸処理を受けた単層カーボンナノチューブである。前記カーボンナノチューブは、好ましくは、G(1590cm
−1付近に表れるグラファイト物質に共通なラマンピークにおける強度)/D(1350cm
−1付近に表れる欠陥に起因するラマンピークにおける強度)≧10のカーボンナノチューブである。G/Dの上限値は、例えば150程度である。
【0036】
前記金属ナノ粒状物は、その構成元素が、好ましくは、銀である。少なくとも、銀が用いられていることである。前記金属ナノ粒状物は、好ましくは、金属ナノワイヤである。特に好ましくは銀ナノワイヤである。金属ナノ粒状物は、金属ナノ粒子と、金属ナノワイヤとを含む概念で用いられている。前記粒子と前記ワイヤとは、アスペクト比によって、分けられている。アスペクト比が10以上のものがワイヤである。好ましいワイヤは、アスペクト比が50以上のものである。
【0037】
第2の発明は膜形成方法である。所定パターンの導電膜の形成方法である。前記膜の形成方法である。炭素系材および金属ナノ粒状物の膜が形成された後、導電膜のパターン以外の領域が絶縁性処理される。例えば、膜(炭素系材および金属ナノ粒状物を有する膜)が形成される膜形成工程を有する。前記膜は、同一膜中に、炭素系材と金属ナノ粒状物が含まれていても良い。炭素系材を有する膜の上に金属ナノ粒状物を有する膜が設けられても良い。逆に、金属ナノ粒状物を有する膜の上に炭素系材を有する膜が設けられても良い。前記成膜工程後に絶縁性処理工程を有する。絶縁性処理工程は、前記膜に対して、所定のパターンで、絶縁性処理が行われる工程である。前記絶縁性処理は、好ましくは、酸化性雰囲気下での紫外線照射である。前記紫外線は、好ましくは、真空紫外線である。前記炭素系材は、例えばカーボンナノチューブである。或いは、グラフェンである。勿論、両者を含むものでも良い。好ましくは、少なくともカーボンナノチューブが用いられていることである。前記金属ナノ粒状物は、その構成元素が、好ましくは、銀である。少なくとも、銀が用いられていることである。前記金属ナノ粒状物は、好ましくは、金属ナノワイヤである。特に好ましくは銀ナノワイヤである。
【0039】
本発明の一実施形態が、
図1〜
図3によって、説明される。
図1は金属ナノワイヤと炭素系導電材により形成される透明導電膜のイメージ図、
図2は紫外線照射前における概略断面図(イメージ図)、
図3は紫外線照射後における概略断面図(イメージ図)である。
【0040】
各図中、1は金属ナノ粒状物である。特に、金属ナノワイヤである。金属ナノワイヤは、如何なる製造方法で製造されたものでも良い。例えば、液相法、又は気相法などによって製造できる。Adv.Mater.2002,14,P833〜837や、Chem.Mater.2002,14,P4736〜4745等に、Agナノワイヤの製造方法が開示されている。特開2006−233252号公報などには、Auナノワイヤの製造方法が開示されている。特開2002−266007号公報などには、Cuナノワイヤの製造方法が開示されている。特開2004−149871号公報などには、Coナノワイヤの製造方法が開示されている。上記Adv.Mater.及びChem.Mater.は、水系で、簡便に、かつ、大量に、Agナノワイヤを製造する技術を開示している。銀の導電率は金属中で最大であるから、金属ナノワイヤは銀ナノワイヤであることが好ましい。しかも、酸化された銀は、褐色を呈するから、光透過率が低下する。このことからも、本発明では、銀ナノワイヤの採用が好ましい。
【0041】
金属ナノワイヤ1の平均直径は、透明性の観点から、好ましくは、200nm以下である。導電性の観点から、好ましくは、10nm以上である。平均直径が200nm以下の場合、光散乱の影響が軽減される。平均直径は小さな方が、光透過率低下やヘイズ劣化の抑制から、好ましい。平均直径が10nm以上の場合、導電体としての機能が有意に発現される。平均直径は大きい方が、導電性が向上する。従って、より好ましくは、平均直径が20nm以上である。150nm以下である。更に好ましくは、30nm以上である。100nm以下である。金属ナノワイヤ1の平均長さは、導電性の観点から、好ましくは、1μm以上である。凝集による透明性への影響から、好ましくは、100μm以下である。より好ましくは、3μm以上である。50μm以下である。金属ナノワイヤの平均直径及び平均長さは、SEMやTEMを用いて十分な数のナノワイヤを写真撮影し、個々の金属ナノワイヤ像の計測値の算術平均から求めることが出来る。
【0042】
金属ナノ粒状物(金属ナノワイヤ)1は、前記特徴の金属ナノ粒状物(金属ナノワイヤ)が分散した分散液が塗布されることによって、基板3上に設けられる。塗布方法としては、例えばダイコート、ナイフコート、スプレー塗布、スピンコート、スリットコート、マイクログラビア、フレキソ等が挙げられる。勿論、これに限らない。前記塗布は基板3の全面に行われる。導電性が膜全面で安定する為、塗布は均一に行われることが好ましい。
【0043】
2は炭素系材(導電性の炭素系材)である。炭素系材2は、例えばグラフェンである。或いは、カーボンナノチューブである。好ましくは、カーボンナノチューブである。特に、単層カーボンナノチューブである。中でも、例えば酸処理を受けた単層カーボンナノチューブである。
【0044】
前記カーボンナノチューブ(CNT)としては、単層カーボンナノチューブ、2層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ等が挙げられる。中でも、単層カーボンナノチューブが好ましい。特に、G(1590cm
−1付近に表れるグラファイト物質に共通なラマンピークにおける強度)/D(1350cm
−1付近に表れる欠陥に起因するラマンピークにおける強度)≧10のカーボンナノチューブが好ましい。G/Dの上限値は、例えば150程度である。例えば、G/Dが20〜60のカーボンナノチューブが好ましい。更には、直径が0.3〜100nmのCNTが好ましい。特に、直径が0.3〜2nmのCNTが好ましい。長さが0.1〜100μmのCNTが好ましい。特に、長さが0.1〜5μmのCNTが好ましい。前記炭素系材(CNT)2は、好ましくは、互いに、絡み合ったものである。
【0045】
単層カーボンナノチューブは、如何なる製法によって得られた単層カーボンナノチューブでも良い。例えば、アーク放電法、化学気相法、レーザー蒸発法などの製法で得られた単層カーボンナノチューブを用いることが出来る。但し、結晶性の観点から、アーク放電法で得られた単層カーボンナノチューブが好ましい。このものは入手も容易である。単層カーボンナノチューブは、酸処理が施された単層カーボンナノチューブが好ましい。酸処理は、酸性液体中に単層カーボンナノチューブが浸漬されることで実施される。浸漬の代わりに噴霧と言った手法が採用されても良い。酸性液体は各種のものが用いられる。例えば、無機酸や有機酸が用いられる。但し、無機酸が好ましい。例えば、硝酸、塩酸、硫酸、リン酸、或いはこれらの混合物が挙げられる。中でも、硝酸または混酸(例えば、硝酸と硫酸との混酸)を用いた酸処理が好ましい。この酸処理によって、単層カーボンナノチューブと炭素微粒子とがアモルファスカーボンを介して物理的に結合している場合に、アモルファスカーボンを分解して両者を分離したり、単層カーボンナノチューブ作製時に使用した金属触媒の微粒子を分解することになる。単層カーボンナノチューブは、濾過によって不純物が除去され、純度が向上した単層カーボンナノチューブが好ましい。その理由は、不純物による導電性の低下や光透過率の低下が防止されるからである。濾過には各種の手法が採用される。例えば、吸引濾過、加圧濾過、クロスフロー濾過などが用いられる。中でも、スケールアップの観点から、中空糸膜を用いたクロスフロー濾過の採用が好ましい。
【0046】
炭素系材(例えば、CNT(必要に応じて更にフラーレンを含有))2は、前記特徴の炭素系材(CNT(必要に応じて更にフラーレンを含有))が分散した分散液が塗布されることによって、基板3上に設けられる。例えば、金属ナノワイヤ1の層上に塗布されることによって、炭素系材(CNT(必要に応じて更にフラーレンを含有))2は設けられる。例えば、金属ナノワイヤ分散液が塗布された後、CNT(必要に応じて更にフラーレンを含有)分散液が塗布される。塗布方法としては、例えばダイコート、ナイフコート、スプレー塗布、スピンコート、スリットコート、マイクログラビア、フレキソ等が挙げられる。勿論、これに限らない。前記CNT分散液の塗布は基板3の全面に行われる。紫外線照射時の絶縁化を均一に進行させる為、前記塗布は均一に行われることが好ましい。
【0047】
3は基板である。基板3の構成材料としては各種のものが適宜用いられる。例えば、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、スチレン−メチルメタクリレート共重合体(MS)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の樹脂が用いられる。樹脂の他にも、無機ガラス材料やセラミック材料を用いることが出来る。
【0048】
本発明では、紫外線が、導電膜(導電膜は、金属ナノワイヤ1及び炭素系材(例えば、CNT)2を有する。)に照射される。前記紫外線は、好ましくは、波長が10〜400nmである。より好ましくは、150〜260nmである。特に好ましくは、150〜180nmの範囲に波長を有する紫外線である。もっと好ましくは、波長が160〜175nmの紫外線である。例えば、400nmを越えた長波長の紫外線を照射した場合には、導電性カーボンナノチューブから絶縁性カーボンナノチューブへの変性が起こり難かった。因みに、通常のフォトリソグラフィプロセスに用いられる高圧水銀灯の紫外線(波長:365nm)照射では、変性が起こり難かった。導電性カーボンナノチューブを絶縁性カーボンナノチューブに変性させる為には、照射される紫外線は、波長が260nm以下のものが一層好ましかった。より好ましくは180nm以下の紫外線であった。例えば、低圧水銀灯の紫外線(波長:185nm,254nm)照射によれば、照射個所のカーボンナノチューブが導電性から絶縁性に容易に変性した。
図3中、2’は絶縁性炭素材(絶縁性カーボンナノチューブ)を示す。更に、前記紫外線(例えば、真空紫外線)の照射によって、カーボンナノチューブは透明性(光透過率)が高くなった。又、前記紫外線(例えば、真空紫外線)の照射によって、金属ナノ粒状物(金属ナノワイヤ:銀ナノワイヤ)1の表面が酸化された。これによって、金属ナノ粒状物(金属ナノワイヤ:銀ナノワイヤ)1と導電性炭素系材(CNT)2との接点、及び金属ナノ粒状物(金属ナノワイヤ:銀ナノワイヤ)1と金属ナノ粒状物(金属ナノワイヤ:銀ナノワイヤ)1との接点にあっては、導通性が失われた。すなわち、紫外線照射による表面酸化によって、金属ナノ粒状物1は導電性から絶縁性に変性した。紫外線照射による表面酸化によって、金属ナノ粒状物1に着色が起きた。例えば、銀は、酸化によって、褐色(黒色)に変色した。これによって、金属ナノ粒状物(金属ナノワイヤ:銀ナノワイヤ)1は透明性(光透過率)が低下した。基板3が樹脂製の場合、紫外線照射によって、基板3が変色する場合も有った。このようなことから、照射紫外線は180nm以下、更には175nm以下の波長のものが特に好ましかった。例えば、キセノンエキシマランプによる紫外線(波長:172nm)は格別に好ましいものであった。上記特性の紫外線照射の時間は、例えば10秒〜1時間程度である。好ましくは40分以下である。紫外線照射の積算光量は、例えば100〜100,000mJ/cm
2程度であった。好ましくは100〜30,000mJ/cm
2であった。好ましい積算光量は、金属ナノ粒状物(金属ナノワイヤ:銀ナノワイヤ)層やカーボンナノチューブ層の厚さによっても、多少、変動した。
【0049】
前記導電膜上に、前記紫外線照射前において、好ましくは、オーバーコート層が設けられている。オーバーコート層が有ると、カーボンナノチューブは、より短時間で、導電性から絶縁性に変性した。オーバーコート層の種類や厚さによっても変動した。オーバーコート層が加水分解性オルガノシランの加水分解物を含有する組成物であると、照射時間が、大幅に、短縮された。オーバーコート層の厚さは、好ましくは、10nm〜200nmであった。更に好ましくは、50nm〜150nmであった。
【0050】
以下、具体的な実施例が挙げられる。但し、本発明は以下の実施例にのみ限定されない。本発明の特長が大きく損なわれない限り、各種の変形例や応用例も本発明に含まれる。
【0051】
[実施例1]
カーボンナノチューブ分散液が作製された。これは次の方法による。アーク放電により合成されたシングルウォールカーボンナノチューブ(市販品)に対して、酸処理、水洗浄、遠心分離が行われた。この精製カーボンナノチューブに、界面活性剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム:SDBS)0.2wt%水溶液が、加えられた。このカーボンナノチューブ含有水溶液に対して、超音波装置により、分散処理が行われた。次いで、遠心分離、濾過が行われた。このようにしてカーボンナノチューブ分散液(CNT:3200ppm)が得られた。
【0052】
銀ナノワイヤ含有溶液が作製された。これは次の方法による。銀ナノワイヤの2−プロパノール分散溶液(0.5wt%、739421−25ML Aldrich株式会社製)1mLと、2−プロパノール(特級164−04837、和光純薬株式会社製)99mLとが混合された。
【0053】
前記銀ナノワイヤ含有溶液が、透明基板(PETフィルム:MKZ−T4B(東山フイルム社製))3上に塗布された。前記銀ナノワイヤ量は15mg/m
2であった。塗布方法はスプレーコーティングである。乾燥後、銀ナノワイヤ1の層が形成された。銀ナノワイヤ1の層は加圧処理を受けていない。従って、銀ナノワイヤ1の層は、内部に、隙間を多く持っている。
【0054】
前記カーボンナノチューブ分散液が、銀ナノワイヤ1の層上に塗布された。塗布方法はスプレーコーティングである。塗布厚(乾燥後の厚さ)は0.05μmで、カーボンナノチューブ量は12mg/m
2であった。塗布後、メタノールによる洗浄が行われた。これにより、塗膜中に含まれる界面活性剤が取り除かれた。この後、乾燥(2分間;100℃)が行われた。これにより、カーボンナノチューブ(導電性炭素系材)2が、銀ナノワイヤ1に対して、設けられた。このカーボンナノチューブ2の層は、内部に、隙間を多く持っている。
【0055】
この後、カーボンナノチューブ2の層上から、2.5wt%エアロセラ溶液(加水分解性オルガノシラン含有組成物:パナソニック株式会社製)が塗布された。塗布方法はスピンコーティングである。塗布厚(乾燥後の厚さ)は0.1μmであった。このエアロセラ溶液は、前記カーボンナノチューブ2の隙間の中に、含浸している。前記エアロセラ溶液の塗布によってオーバーコート層が構成された。
【0056】
この後、前記オーバーコート層の上方から、紫外線(キセノンエキシマランプ:波長:172nm)が照射された。紫外線照射時の雰囲気は、窒素94%、酸素6%であった。前記混合気体圧力は1.013×10
5Paであった。照射紫外線の積算光量は10,560mJ/cm
2であった。
【0057】
[実施例2]
実施例1において、銀ナノワイヤ層の銀量を6mg/m
2とした以外は、実施例1に準じて行われた。
【0058】
[実施例3]
実施例1において、銀ナノワイヤ層の銀量を12mg/m
2とした以外は、実施例1に準じて行われた。
【0059】
[実施例4]
実施例1において、カーボンナノチューブ量を5mg/m
2とし、銀ナノワイヤ層の銀量を5mg/m
2とした以外は、実施例1に準じて行われた。
【0060】
[実施例5]
実施例4において、紫外線照射時の雰囲気を窒素80%、酸素20%とした以外は、実施例4に準じて行われた。
【0061】
[実施例6]
実施例1において、カーボンナノチューブ量を6mg/m
2とし、銀ナノワイヤ層の銀量を7mg/m
2とし、上面に樹脂パターンを印刷形成して絶縁化処理時のマスクとし、絶縁化処理後に酢酸ブチルに浸漬させて前記樹脂パターンを溶解させた以外は、実施例1に準じて行われた。
【0062】
[比較例1]
実施例1において、銀ナノワイヤ層の形成が行われなかった以外は、実施例1に準じて行われた。
【0063】
[比較例2]
実施例6において、銀ナノワイヤ層の形成が行われなかった以外は、実施例6に準じて行われた。
【0064】
[特性]
前記実施例1〜実施例5で得られた製品、及び前記比較例1で得られた製品の絶縁化処理前後の透過率が調べられた。その結果が表1に示される。
【0065】
表1
絶縁化処理後の可視光透過率X 絶縁化処理前の可視光透過率Y
実施例1 87.67% 86.57%
実施例2 91.42% 87.74%
実施例3 88.81% 86.87%
実施例4 92.93% 92.00%
実施例5 92.37% 91.92%
比較例1 93.46% 88.34%
【0066】
表1から、次のことが判る。
前記光透過率Xと前記光透過率Yとの間の差が小さな実施例においては、導電性部と絶縁性部との境界が判り難いことを示している。前記光透過率Xと前記光透過率Yとの間の差が大きな比較例においては、導電性部と絶縁性部との境界が判り易い(導電性パターンが簡単に認識される)ことを示している。
【0067】
銀ナノワイヤの量によって、絶縁化処理(紫外線照射)後における可視光透過率の大小を制御できる。銀ナノワイヤの有無によって、絶縁化処理後における可視光透過率の大小を制御できる。銀ナノワイヤ量とカーボンナノチューブ量を適切に調節することで、絶縁化処理後における可視光透過率の大小を制御できる。
【0068】
紫外線照射時の雰囲気酸素濃度を増加させることで、透過率低下の程度を制御できる。
【0069】
導電性部と絶縁性部との視認性が確認された。それが
図4に示される。
図4によれば、前記実施例にあっては、光学顕微鏡による観察によって、前記銀ナノワイヤが存在するサンプルの導電性パターン(導電性部と絶縁性部との間の境界)が視認でき難いことが確認された。
【符号の説明】
【0070】
1 銀ナノワイヤ(金属ナノワイヤ)
2 カーボンナノチューブ(
導電性炭素系材)
2’ 絶縁化されたカーボンナノチューブ
3 基板