特許第6352106号(P6352106)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6352106濃縮フレンチトースト用食品及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352106
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】濃縮フレンチトースト用食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 15/00 20060101AFI20180625BHJP
【FI】
   A21D15/00
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-164062(P2014-164062)
(22)【出願日】2014年8月12日
(65)【公開番号】特開2016-39780(P2016-39780A)
(43)【公開日】2016年3月24日
【審査請求日】2017年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】荒木 あづさ
(72)【発明者】
【氏名】石川 敦祥
(72)【発明者】
【氏名】竹田 優美
【審査官】 北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−211923(JP,A)
【文献】 特開2003−180245(JP,A)
【文献】 特開平11−215948(JP,A)
【文献】 特開平11−215947(JP,A)
【文献】 特開2001−120198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00−17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水及び/又は乳で希釈して用いる濃縮フレンチトースト用食品であって、
卵黄の含有量が固形分換算で1.5%以上25%以下、
水分活性が0.75以上0.90以下であり、
炭水化物を20%以上70%以下、
脂質を5%以上45%以下、
リゾリン脂質を0.02%以上0.7%以下含有し、
品温25℃における粘度が25Pa・s以下である、
濃縮フレンチトースト用食品。
【請求項2】
請求項1に記載の濃縮フレンチトースト用食品において、
前記リゾリン脂質の一部または全部がホスフォリパーゼA処理卵黄由来である、
濃縮フレンチトースト用食品。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の濃縮フレンチトースト用食品において、
前記炭水化物中に二糖を10%以上95%以下含有する、
濃縮フレンチトースト用食品。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の濃縮フレンチトースト用食品において、
清水で3倍に希釈した際の積分球式光電光度法を用いた濁度測定による全光線透過率(対照:清水、波長390mm、光路長5mm)が20%以下である、
濃縮フレンチトースト用食品。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の濃縮フレンチトースト用食品の製造方法であって、
水分含有量が10%未満である水不含有原料を均質になるまで混合した後、
水分含有量が10%以上である水含有原料を添加してさらに混合して均質化する、
濃縮フレンチトースト用食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、しっとりとやわらかい食感とともに、ふんわりとした食感をも有するフレンチトーストが手軽に調理できる、水及び/又は乳で希釈して用いる濃縮フレンチトースト用食品及びその製造方法に関する。
さらに、水及び/又は乳で希釈することにより、卵が均質化されたフレンチトースト用の卵黄含有混合液を容易に調製できる濃縮フレンチトースト用食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレンチトーストは、パンに卵、牛乳、砂糖等の卵黄含有混合液を吸収させて調理されるものであり、パンをおいしく食べる料理の一つとして、食事やスイーツとして普及している。
フレンチトーストは、卵黄の豊かな風味と喫食時のしっとりとやわらかい食感が好まれる。
手作りでしっとりとやわらかい食感のフレンチトーストを得るには、卵黄含有混合液を調製する際、パンに吸収されやすくするために卵を裏ごししたり、パンを前記卵黄含有混合液に数時間から一晩程度の長時間浸す必要がある等、非常に手間がかかる。
したがって、家庭等でしっとりとやわらかい食感のフレンチトーストを手軽に調理するのは困難である。
【0003】
市販されているフレンチトースト用の卵黄含有混合液には業務用製品として冷凍品があり、解凍してそのまま用いる、いわゆるストレートタイプのものである(例えば、特許文献1)。
冷凍品の場合、一旦解凍したものは衛生管理上、使い切る必要がある。
しかしながら、市販されている業務用製品は容量が大きいため、家庭で用いるには適していない。
また、冷凍品は流通から保存中の温度管理が必要となり、使用時には解凍するという手間がかかる点でも、家庭での使いやすさには欠けるものである。
したがって、家庭でフレンチトーストを手軽に調理できる卵黄含有混合液は、常温保管可能で、必要量だけ使用できるものがよい。
【0004】
フレンチトーストを手軽に調理できる製品として、
特許文献2には、乳原料のゲル化を抑制することにより、フレンチトースト用の卵黄含有混合液を速やかにパンに浸透させることのできる、フレンチトースト用の素材が記載されている。
しかしながら、前記素材は卵を含有しておらず、使用時に卵を添加してフレンチトースト用の卵黄含有混合液を調製しなければならない。
そのため、パンに吸収されやすい前記卵黄含有混合液を調製するのは難しい。
また、前記素材は、パン焼成時に速やかに凝固する特性を付与したものであり、喫食時のしっとりとやわらかい食感は得難い。
【0005】
したがって、しっとりとやわらかい食感を有するフレンチトーストを得る、常温保存可能な食品を得るには、さらなる工夫の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2862528号公報
【特許文献2】特開2004−8017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、しっとりとやわらかい食感とともに、ふんわりとした食感をも有するフレンチトーストが手軽に調理できる、水及び/又は乳で希釈して用いる濃縮フレンチトースト用食品及びその製造方法を提供するものである。
さらに、水及び/又は乳で希釈することにより、卵が均質化されたフレンチトースト用の卵黄含有混合液を容易に調製できる濃縮フレンチトースト用食品及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた。
その結果、
水分活性を特定の範囲とし、
さらに、炭水化物、脂質及びリゾリン脂質を特定量含有し、
その上、粘度が特定の範囲となるように調製した卵黄を含有する濃縮フレンチトースト用食品とすることにより、
意外にも、水及び/又は乳で希釈して用いることで、しっとりとやわらかい食感に加え、ふんわりとした食感をも有するフレンチトーストが手軽に調理できることを見出した。
さらに、前記濃縮フレンチトースト用食品を水及び/又は乳で希釈することにより、意外にも、卵が均質化されたフレンチトースト用の卵黄含有混合液を容易に調製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)水及び/又は乳で希釈して用いる濃縮フレンチトースト用食品であって、
卵黄の含有量が固形分換算で1.5%以上25%以下、
水分活性が0.75以上0.90以下であり、
炭水化物を20%以上70%以下、
脂質を5%以上45%以下、
リゾリン脂質を0.02%以上0.7%以下含有し、
品温25℃における粘度が25Pa・s以下である、
濃縮フレンチトースト用食品、
(2)(1)の濃縮フレンチトースト用食品において、
前記リゾリン脂質の一部または全部がホスフォリパーゼA処理卵黄由来である、
濃縮フレンチトースト用食品、
(3)(1)又は(2)の濃縮フレンチトースト用食品において、
前記炭水化物中に二糖を10%以上95%以下含有する、
濃縮フレンチトースト用食品、
(4)(1)乃至(3)のいずれかの濃縮フレンチトースト用食品において、
清水で3倍に希釈した際の積分球式光電光度法を用いた濁度測定による全光線透過率(対照:清水、波長390mm、光路長5mm)が20%以下である、
濃縮フレンチトースト用食品、
(5)(1)乃至(4)のいずれかの濃縮フレンチトースト用食品の製造方法であって、
水分含有量が10%未満である水不含有原料を均質になるまで混合した後、
水分含有量が10%以上である水含有原料を添加してさらに混合して均質化する、
濃縮フレンチトースト用食品の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、しっとりとやわらかい食感とともに、ふんわりとした食感をも有するフレンチトーストを得ることができ、さらに、水及び/又は乳で希釈することにより、卵が均質化されたフレンチトースト用の卵黄含有混合液を容易に調製することが可能となる。
よって、フレンチトーストを家庭で手軽に調理することが可能となり、フレンチトーストのさらなる普及と需要拡大に貢献できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を詳細に説明する。
なお、本発明において「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0012】
<本発明の特徴>
本発明は、
水及び/又は乳で希釈して用いる濃縮フレンチトースト用食品であって、
卵黄の含有量が固形分換算で1.5%以上25%以下、
水分活性が0.75以上0.90以下であり、
炭水化物を20%以上70%以下、
脂質を5%以上45%以下、
リゾリン脂質を0.02%以上0.7%以下含有し、
品温25℃における粘度が25Pa・s以下とすることにより、
しっとりやわらかい食感とともに、ふんわりとした食感をも有するフレンチトーストが手軽に調理でき、さらに水及び/又は乳で希釈することにより、卵が均質化されたフレンチトースト用の卵黄含有混合液を容易に調製できることに特徴を有する。
【0013】
<フレンチトースト>
フレンチトーストとは、食パン、フランスパン等のパンを卵、牛乳及び砂糖等を主な食材としたフレンチトースト用の卵黄含有混合液に浸した後、バターを溶かしたフライパンで焼いた、トーストの一種である。
【0014】
<濃縮フレンチトースト用食品>
本発明の濃縮フレンチトースト用食品とは、水及び/又は乳で希釈してパンに吸収させるフレンチトースト用の卵黄含有混合液を得る濃縮品であり、卵黄を含有する。
本発明は、濃縮品であることから、水分活性を低く抑えることが可能である。
本発明は、後述の通り、水分活性が0.75以上0.90以下と、常温保存が可能な水分活性である。そのため、本発明は加圧加熱殺菌や凍結等の処理を施す必要がなく、生卵黄に近い風味を維持することができ、卵黄の豊かな風味を有するフレンチトーストが得られる。
【0015】
<濃縮フレンチトースト用食品の希釈割合>
本発明の濃縮フレンチトースト用食品を希釈するのに用いる水及び/又は乳の量は、卵黄の豊かな風味を維持する観点から、濃縮フレンチトースト用食品に対し1部以上5部以下がよく、さらに2部以上4部以下がよい。
【0016】
<希釈後のフレンチトースト用の卵黄含有混合液の使用量>
本発明の濃縮フレンチトースト用食品を用いて調製されるフレンチトースト用の卵黄含有混合液の量は、全量をパンに吸収させることができ、かつしっとりとやわらかい食感のフレンチトーストを得る観点から、市販の6枚切りの食パン(大きさ約13cm四方、厚さ約2cm)1枚に対して50mL以上150mL以下がよく、さらに75mL以上125mL以下がよい。
【0017】
<乳>
本発明の濃縮フレンチトースト用食品の希釈に用いる乳としては、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令で定義されるものの他、例えば、濃縮乳、脱脂濃縮乳等が挙げられる。また、本発明においては、全脂粉乳、調製粉乳、脱脂粉乳、加糖粉乳等の粉乳を水戻ししたものも乳に含む。
【0018】
<卵黄>
本発明の濃縮フレンチトースト用食品に用いる卵黄は、一般的に流通している卵黄であればいずれのものでもよく、例えば、生卵黄又はこれを殺菌したもの、冷蔵若しくは冷凍したもの、スプレードライ若しくはフリーズドライ等で乾燥したもの、ホスフォリパーゼA、プロテアーゼ等の酵素で処理したもの、脱糖処理したもの、超臨界二酸化炭素処理等で脱コレステロールしたもの、あるいは食塩若しくは糖類を加配したもの等が挙げられる。
本発明に用いる卵黄は、鳥卵由来の通常食品に用いられるものであればよい。
鳥卵としては、鶏、ウズラ、アヒル、鴨等があるが、一般的に流通している鶏卵を用いるとよい。
本発明においては、しっとりとやわらかい食感を付与したフレンチトーストが得られやすいこと、かつ濃縮フレンチトースト用食品の粘度を後述する分散させやすい範囲に調製しやすい観点から、ホスフォリパーゼA処理を施した卵黄を用いるとよい。
【0019】
<卵黄含有量>
卵黄含有量は、固形分換算で1.5%以上25%以下であり、3%以上20%以下がよく、5%以上15%以下がよい。
卵黄含有量が前記範囲より少ないと、卵黄風味が弱く、フレンチトーストとして好ましい食味が得られない。
卵黄含有量が前記範囲より多いと、濃縮フレンチトースト用食品の粘度が高くなる傾向にあり、後述する粘度の範囲に調製することが難しいため、水及び/又は乳で希釈した際に均質なフレンチトースト用の卵黄含有混合液が得難くなる。
よって、フレンチトースト用の卵黄含有混合液がパンに吸収されにくくなり、しっとりとやわらかい食感が得難い。
なお、前述したフレンチトーストの食感、粘度に調整しやすい観点から、ホスフォリパーゼA処理を施した卵黄を卵黄の一部又は全部、具体的には、固形分換算で卵黄中の20%以上とするとよく、さらに40%以上がよい。
【0020】
<水分活性>
本発明の濃縮フレンチトースト用食品は生卵黄に近い好ましい卵黄風味の維持と、調製しやすさの観点から、水分活性を一定の範囲に調整する必要がある。
具体的には、水分活性は0.75以上0.90以下であり、0.78以上0.89以下がよい。
水分活性が前記範囲より低いと、水分活性を下げるために多量に添加する糖類等の溶質を溶解することが困難となる。また、多量の溶質を添加することによって生卵黄に近い卵黄風味が損なわれる。
水分活性が前記範囲より高いと、加圧加熱殺菌や冷凍等処理を施す必要があるため、生卵黄に近い卵黄風味が損なわれる。
【0021】
<炭水化物>
本発明の濃縮フレンチトースト用食品は、一定量の炭水化物を含有する。
炭水化物は、甘味の付与及び水分活性の調整とともに、パン内部に水分を保持しやすくする作用を有する。これにより、調理後にもしっとりとやわらかい食感のフレンチトーストを得ることができる。
炭水化物としては、食物繊維を除いた糖質であればいずれのものでもよく、例えば、単糖、二糖、三糖以上の多糖、糖アルコール、あるいはこれらの液糖等が挙げられる。
また、本発明は、例えば、前記多糖等を含有した加糖卵黄等を用いてもよい。
これらの炭水化物は、一種で使用しても二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
<炭水化物含有量>
炭水化物含有量は、20%以上70%以下であり、25%以上60%以下がよく、30%以上55%以下がよい。
炭水化物含有量が前記範囲より少ないと、パン内部で水分の保持が不十分となり、調理後にしっとりとやわらかい食感が得られない。
また、甘味も不十分なものとなり、フレンチトーストとして好ましい食味を得難い。
炭水化物含有量が前記範囲より多いと、パン内部で水分が過剰に保持されるため、水っぽくべたついた食感となる。また、炭水化物が製造工程中で溶解しきれずに沈殿する、保存中に析出する等の問題が生じやすくなる。
【0023】
<二糖>
炭水化物は、フレンチトースト用食品に十分な甘味を付与し、保存中の食味の劣化と褐変を低減する観点から、炭水化物の一部または全部に二糖を用いるのがよい。
二糖としては、ショ糖、乳糖、麦芽糖、トレハロース等が挙げられる。
【0024】
<炭水化物中の二糖の含有量>
炭水化物中の二糖の含有量は、10%以上95%以下がよく、15%以上90%以下がよい。
二糖の含有量が前記範囲であると、フレンチトースト用食品に十分な甘味を付与するとともに、保存中の食味の劣化及び褐変を防止しやすくなる。
【0025】
<脂質>
本発明において、脂質とは、原料あるいは原料に含まれる水に不溶性のトリグリセリド等の脂質成分をいう。
本発明の濃縮フレンチトースト用食品に用いる脂質は、脂質からなる、あるいは脂質を含有する食品素材であればいずれを用いてもよい。
脂質からなる原料としては、例えば、菜種油、大豆油、コーン油、オリーブ油、紅花油、綿実油、米油、ヒマワリ油、魚油、卵黄油等の動植物油、又はこれらの精製油(サラダ油)、及びMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリドのように化学的あるいは酵素的処理を施して得られる食用油、リン脂質及びリゾリン脂質等が挙げられる。
脂質を含有する食品素材としては、例えば、卵黄、牛乳、粉乳、クリーム、バター等の乳加工品、マーガリン、ショートニング、チョコレート等が挙げられる。
これらの脂質は、一種で使用しても二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
<脂質含有量>
本発明の濃縮フレンチトースト用食品において、脂質含有量は、5%以上45%以下であり、8%以上40%以下がよく、10%以上35%以下がよい。
脂質含有量が前記範囲より少ないと、しっとりするが水っぽくべたついた食感になりやすい。また、ふんわりとした食感も得難い。
脂質含有量が前記範囲より多いと、ふんわりとした食感を付与できる一方、水水及び/又は乳で希釈した際に分散しにくくなり、均質なフレンチトースト用の卵黄含有混合液を得難い。
よって、フレンチトースト用の卵黄含有混合液がパンに吸収されにくくなり、しっとりとやわらかい食感に乏しいものとなる。
【0027】
本発明においては、後述する製造方法により、水及び/又は乳で希釈した際の速やかな分散に優れ、卵が均質化されたフレンチトースト用の卵黄含有混合液をさらに調製しやすい濃縮フレンチトースト用食品を得やすくする観点から、脂質の一部に常温(25℃)で液状の食用油を用いるとよい。
脂質の一部として前記食用油を用いる場合、その含有量は濃縮フレンチトースト用食品全体に対して3%以上43%以下がよく、5%以上30%以下がよい。
【0028】
<リゾリン脂質>
本発明において、リゾリン脂質とは、リン脂質のグリセロールの1位または2位に結合している脂肪酸1分子が加水分解によりとれたものであり、例えば、リゾレシチン(リゾホスファチジルコリン)、リゾホスファチジルエタノールアミン、リゾホスファチジルセリン、リゾホスファチジルグリセロール、リゾホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジン酸等が挙げられる。
リゾリン脂質を添加する方法としては、リゾリン脂質単独、あるいはこれらの混合形態でもよく、リゾリン脂質を含有する食品原料の形態でもよい。
本発明の濃縮フレンチトースト用食品に用いるリゾリン脂質は、生卵黄に近い卵黄風味を付与する観点から、ホスフォリパーゼA処理卵黄又は卵黄由来のリゾリン脂質を用いるとよい。
さらに、ホスフォリパーゼA処理卵黄を用いた場合は、前述したとおり、フレンチトーストの食感及び本発明の濃縮フレンチトースト用食品の粘度の調整がしやすくなる。
【0029】
<リゾリン脂質含有量>
本発明の濃縮フレンチトースト用食品において、リゾリン脂質含有量は、0.02%以上0.7%以下であり、0.05%以上0.6%以下がよく、0.1%以上0.5%以下がよい。
リゾリン脂質は、加熱耐性と乳化力を有するが、含有量が前記範囲より少ないと、加熱耐性が不十分なものとなり、加熱時に卵黄の変性が起こりやすくなる。
また、水及び/又は乳で希釈した際に均質なフレンチトースト用の卵黄含有混合液となり難く、パンに十分吸収されないため、しっとりとやわらかい食感のフレンチトーストが得られない。
リゾリン脂質含有量が前記範囲より多いと、十分な加熱耐性が付与され、水及び/又は乳で希釈した際に均質なフレンチトースト用の卵黄含有混合液が得られるが、リゾリン脂質由来の風味により、生卵黄に近い卵黄風味が得難い。
【0030】
<その他原料>
本発明の濃縮フレンチトースト用食品には、本発明の必須原料である卵黄、炭水化物、脂質及びリゾリン脂質以外の原料を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択し、配合することができる。
具体的には、例えば、食塩等の各種調味料、牛乳、クリーム、脱脂粉乳、全脂粉乳、乳清蛋白等の乳類及び乳加工品、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、グアガム、アラビアガム、サイリュームシードガム、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、うるち米澱粉、小麦澱粉、タピオカ澱粉、ワキシコーンスターチ、もち米澱粉などの澱粉、湿熱処理澱粉、加工澱粉などの増粘剤、りんご、オレンジ等の果汁、ブランデー、ラム酒等の酒類、シナモン、バニラビーンズ等の香辛料、バニラフレーバー、バターフレーバー等の香料、酢酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸等の有機酸又はその塩、アスコルビン酸、ビタミンE等の酸化防止剤、各種ペプチド、色素などが挙げられる。
【0031】
<粘度>
本発明の濃縮フレンチトースト用食品の粘度は、水及び/又は乳で希釈した際に均質なフレンチトースト用の卵黄含有混合液を得る観点から、一定以下の粘度に調整される。
具体的には、BH型粘度計(東機産業株式会社製、型番:BHII型)を用い、品温25℃、ローターNo.3、回転数10rpmの条件において3回転した時の粘度が25Pa・s以下であり、20Pa・s以下がよく、15Pa・s以下がよい。
粘度が前記範囲より高いと、水及び/又は乳で希釈した際に分散しにくくなり、均質なフレンチトースト用の卵黄含有混合液を得難い。よって、しっとりとやわらかい食感のフレンチトーストが得られない。
濃縮フレンチトースト用食品の粘度の下限値は特に限定されないが、保存中の分離を抑制する観点から、0.1Pa・s以上がよく、0.15Pa・s以上がよい。
【0032】
<濃縮フレンチトースト用食品の製造方法>
本発明の濃縮フレンチトースト用食品は、本発明の必須原料である卵黄、炭水化物、脂質、リゾリン脂質及びその他の原料を、ニーダーやホバートミキサー等の撹拌機を用いて混合して製造すればよい。
さらに、本発明は、以下の方法により製造すると、卵が十分に均質化され、水及び/又は乳で希釈した際にさらに容易に均質なフレンチトースト用の卵黄含有混合液となる濃縮フレンチトースト用食品が得られやすい。
具体的には、まず、前記の構成原料のうち、油脂及び砂糖、糖アルコール等の粉末糖、食塩、粉乳、シナモン、バニラビーンズ等の香辛料、乾燥卵黄、乾燥卵白等の乾燥卵、コーヒー粉末、紅茶粉末、抹茶、黄粉、アーモンドパウダー、ココアパウダー、粉末野菜、粉末果実、粉末果汁、粉末香料、増粘剤、乳化剤等の粉末等の水分含有量10%未満である水不含有原料を混合する。
この際、混合する原料が均質に分散した状態となればよく、混合順序は特に限定されない。
【0033】
得られた混合物に、液糖等の水分含有量が10%以上である水含有原料を添加してさらに撹拌混合して均質な状態とする。
水含有原料の添加順序は特に限定されないが、水分含有量が低いものから投入して混合すると、水及び/又は乳を添加した際に速やかに分散して均質なフレンチトースト用の卵黄含有混合液となる濃縮フレンチトースト用食品が得られやすい。
水含有原料を添加して均質になるまで混合した後、容器に充填し、必要に応じて75℃以上90℃以下で加熱処理を行い、本発明の濃縮フレンチトースト用食品を得る。
【0034】
このようにして得られた本発明の濃縮フレンチトースト用食品は、水及び/又は乳で希釈した際、スプーン等で軽く撹拌する程度で速やかに分散するため、ハンドホイッパー等を用いて強い撹拌を行う必要がない。
また、本発明の濃縮フレンチトースト用食品を用いて得られたフレンチトースト用の卵黄含有混合液は、静置しても油分離や溶質の沈殿等が生じることがなく、均質な状態を保つことができる。
【0035】
<全光線透過率>
前記製造方法で製した本発明の濃縮フレンチトースト用食品は、水及び/又は乳で希釈した際に均質なフレンチトースト用の卵黄含有混合液が得られるという特徴を有し、その特徴を清水で希釈した際の全光線透過率によって表すことができる。
具体的には、濃縮フレンチトースト用食品を清水で3倍に希釈した際の全光線透過率が20%以下となるとよく、15%以下となるとよい。
全光線透過率が前記範囲となるのは、濃縮フレンチトースト用食品に含有される水に不溶性の溶質がフレンチトースト用の卵黄含有混合液中に均質に分散しており、さらに脂質も微細粒子として存在していることに起因すると考えられる。
したがって、濃縮フレンチトースト用食品を用いて得られるフレンチトースト用の卵黄含有混合液は、均質な状態でパンに吸収されるため、しっとりとやわらかい食感とふんわりとした食感とをパン全体にムラなく付与できる。
【0036】
なお、本発明において、全光線透過率は、清水の全光線透過率に対する値であり、サンプルへの平行入射光束に対する拡散成分を含む透過光束の割合である。
本発明におけるサンプルの全光線透過率は(%)は、対照である清水の透過率を100%とした場合のサンプルの透過率(%)を示す。
具体的には、全光線透過率は、積分球式光電光度法を用いた濁度測定により、波長390nm、光路長5mmで得られた数値であり、濁度測定器(型名「WA2000N」、日本電色工業株式会社製)を用いて測定することができる。
【0037】
以下、本発明について、実施例、比較例及び試験例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0038】
[実施例1]
表1の配合割合で、本発明の濃縮フレンチトースト用食品(5倍濃縮タイプ)を調製した。
具体的には、
ホバートミキサーに、水分含有量10%未満の水不含有原料である、脂質18部、ショ糖18部、ソルビトール5部、全粉乳5部及び香料1部を投入し、均質になるまで撹拌混合した。
得られた混合物に、水分含有量が10%以上の水含有原料である、ホスフォリパーゼA処理卵黄25部、(卵黄固形分52%、脂質含有量20%、リゾリン脂質含有量0.008%)、卵黄5部(卵黄固形分52%、脂質含有量33.5%)、液糖(70%ショ糖水溶液)17部及び清水3部を添加し、さらに撹拌混合を行って均質化した後、25gをアルミ製のパウチに充填し、90℃で5分間加熱処理して、本発明の濃縮フレンチトースト用食品を得た。
得られた濃縮フレンチトースト用食品を清水で3倍希釈した際の全光線透過率は20%以下であった。
【0039】
【表1】
【0040】
[実施例2]
表2の配合割合で、実施例1と同様の方法で、本発明の濃縮フレンチトースト用食品(3倍濃縮タイプ)を得た。
得られた濃縮フレンチトースト用食品を清水で3倍希釈した際の全光線透過率は20%以下であった。
【0041】
【表2】
【0042】
実施例1〜5及び比較例1〜5の濃縮フレンチトースト用食品は、試験例1及び試験例2の方法にしたがって評価した。
【0043】
[試験例1]粘度測定
濃縮フレンチトースト用食品の粘度は、BH型粘度計(東機産業株式会社製、型番:BHII型)を用い、品温25℃、ローターNo.3、回転数10rpmの条件において、3回転した時の示度により求めた。
【0044】
[試験例2]調理後の食感
濃縮フレンチトースト用食品25gを、希釈倍率にしたがって牛乳を添加して混合し、フレンチトースト用の卵黄含有混合液を調製した。
牛乳の添加量は、例えば3倍濃縮タイプの場合、50mLとなる。
得られたフレンチトースト用の卵黄含有混合液に、6枚切りの食パン(大きさ約13cm四方、厚さ約2cm)1枚を浸し、30秒ごとに裏返す作業を5回行ってフレンチトースト用の卵黄含有混合液を吸収させた後、表面温度140℃のフライパンで、食パンの片面を2分ずつ加熱してフレンチトーストを得た。
得られたフレンチトーストは、5人の専門パネラーが喫食し、官能評価した。
【0045】
<評価基準>
A:しっとりとやわらかい食感とふんわりとした食感を有し、非常に好ましい。
B:しっとりとやわらかい食感とふんわりとした食感を有し、好ましい。
C:しっとりとやわらかい食感は有するが、ふんわりとした食感に乏しい。
D:ふんわりとした食感は有するが、しっとりとやわらかい食感に乏しい。
【0046】
[試験例3]全光線透過率の測定
清水で3倍に希釈した濃縮フレンチトースト用食品を厚さ5mmの石英セルに入れ、清水を対照とした全光線透過率を濁度測定器(型名「WA2000N」、日本電色工業株式会社製)を用いて、積分球式光電光度法により測定した(波長390nm、光路長5mm)。
【0047】
<炭水化物含有量及び水分活性値>
実施例3及び比較例1は、実施例1において、ショ糖及び液糖の配合量を変化させて水分活性を調整した。
比較例2は、実施例1において、ショ糖とソルビトールの全量を清水に置き換えて濃縮フレンチトースト用食品を製した。
【0048】
【表3】
【0049】
表3より、炭水化物含有量が20%以上70%以下、水分活性値が0.75以上0.90以下である濃縮フレンチトースト用食品(実施例1〜3)は、均質なフレンチトースト用の卵黄含有混合液が容易に得られ、生卵黄に近い卵黄風味が好ましいフレンチトーストが得られた。
炭水化物含有量が30%以上55%以下、水分活性値が0.78以上0.89以下である濃縮フレンチトースト用食品(実施例1、2)は、生卵黄に近い卵黄風味が非常に好ましいフレンチトーストが得られた。
また、粘度が25Pa・s以下である濃縮フレンチトースト用食品(実施例1〜3)は、牛乳を添加し、スプーンで軽く撹拌すると速やかに分散し、容易に均質なフレンチトースト用の卵黄含有混合液が得られた。
【0050】
一方、炭水化物含有量が前記範囲より多く、水分活性値が前記範囲より低い濃縮フレンチトースト用食品(比較例1)は、ショ糖等の炭水化物及び全粉乳等の溶質を溶解することが難しく、製造が困難であった。
また、炭水化物含有量が前記範囲より少なく、水分活性値が前記範囲より高い濃縮フレンチトースト用食品(比較例2)は、ふんわりとした食感に乏しいものであった。また、水分活性値が高く、加圧加熱殺菌をせずに常温保管できるものではなかった。
【0051】
<脂質含有量>
実施例4、5及び比較例3、4は、実施例1において、食用油脂の配合量を変化させて脂質含有量を調整し、実施例1と同様の方法で濃縮フレンチトースト用食品を調製した。
なお、実施例4、5および比較例3、4の濃縮フレンチトースト用食品の水分活性値は、0.75以上0.90以下、品温25℃における粘度は25Pa・s以下であった。
【0052】
【表4】
【0053】
表4より、脂質含有量が5%以上45%以下である濃縮フレンチトースト用食品(実施例1、4、5)は、均質なフレンチトースト用の卵黄含有混合液が容易に得られ、パンに十分吸収させることができ、得られたフレンチトーストは、しっとりとやわらかい食感とふんわりとした食感とを有するものであった。
また、脂質含有量が8%以上35%以下である濃縮フレンチトースト用食品(実施例1、2)を用いて得られたフレンチトーストは、しっとりとやわらかい食感とふんわりとした食感とが非常に好ましいものであった。
【0054】
一方、脂質含有量が前記範囲より少ない濃縮フレンチトースト用食品(比較例3)を用いて得られたフレンチトーストは、水っぽくべたついた食感となり、ふんわりとした食感にも乏しいものであった。
脂質含有量が前記範囲を超える濃縮フレンチトースト用食品(比較例4)は、牛乳を添加して撹拌した際に均質なフレンチトースト用の卵黄含有混合液とならず、パンに十分に吸収されなかった。得られたフレンチトーストは、しっとりとやわらかい食感に乏しいものであった。
【0055】
<リゾリン脂質含有量>
比較例5は、実施例1において、ホスフォリパーゼA処理卵黄を全て卵黄に置き換えて、濃縮フレンチトースト用食品を調製した。リゾリン脂質含有量は0%であった。
なお、比較例5の濃縮フレンチトースト用食品の水分活性値は、0.75以上0.90以下であった。
【0056】
リゾリン脂質含有量が0.02%以上0.7%以下である濃縮フレンチトースト用食品(実施例1、2)は、牛乳を添加した際に均質なフレンチトースト用の卵黄含有混合液が容易に得られ、パンに十分吸収させることができ、得られたフレンチトーストは、しっとりとやわらかい食感とふんわりとした食感とを有するものであった。
また、リゾリン脂質含有量が0.1%以上%0.5%以下である濃縮フレンチトースト用食品(実施例1)は、牛乳を添加した際に均質なフレンチトースト用の卵黄含有混合液が得られやすく、パンに十分吸収させることができ、しっとりとやわらかい食感が非常に好ましいフレンチトーストが得られた。
【0057】
一方、リゾリン脂質含有量が前記範囲より少ない濃縮フレンチトースト用食品(比較例5)は、粘度が高くなり、牛乳を添加した際に十分に均質なフレンチトースト用の卵黄含有混合液を得ることが難しく、パンに十分吸収されず、得られたフレンチトーストはしっとりとやわらかい食感に劣るものであった。
なお、リゾリン脂質含有量が前記範囲より多い濃縮フレンチトースト用食品は、均質なフレンチトースト用の卵黄含有混合液が容易に得られ、パンに十分に吸収され、しっとりとやわらかい食感とふんわりとした食感を有していたが、リゾリン脂質由来の風味により、生卵黄に近い卵黄風味が得難いものであった。
【0058】
<粘度>
本発明の濃縮フレンチトースト用食品の粘度について、牛乳で希釈した時の混合のしやすさを評価した。
実施例1の濃縮フレンチトースト用食品は、品温25℃における粘度が10Pa・sであり、牛乳を添加した際にスプーンで軽く撹拌すると速やかに分散し、均質なフレンチトースト用の卵黄含有混合液が非常に容易に得られた。
実施例3の濃縮フレンチトースト用食品は、品温25℃における粘度が9Pa・sであり、添加した牛乳とスプーンで軽く撹拌すると速やかに分散し、均質なフレンチトースト用の卵黄含有混合液が非常に容易に得られた。
実施例5の濃縮フレンチトースト用食品は、品温25℃における粘度が21Pa・sであり、牛乳を添加して撹拌した際、実施例1及び3と比較するとやや分散しにくかったものの、スプーンで軽く撹拌すると分散し、均質なフレンチトースト用の卵黄含有混合液が容易に得られた。
比較例5のリゾリン脂質を含有しない濃縮フレンチトースト用食品は、品温25℃における粘度が58Pa・sであり、スプーンで軽く撹拌した程度では添加した牛乳に分散せず、ハンドホイッパーを用いて強撹拌する必要があった。
【0059】
[比較例6]
実施例1において、表1の配合割合で製造工程のみ一部変更し、濃縮フレンチトースト用食品(5倍濃縮タイプ)を得た。
具体的には、
ホバートミキサーに、油脂、ショ糖、ソルビトール、全粉乳、香料、液糖(70%ショ糖水溶液)及び清水を投入し、均質になるまで撹拌混合した。
得られた混合物に、ホスフォリパーゼA処理卵黄(卵黄固形分52%、脂質含有量20%、リゾリン脂質含有量0.008%)、及び卵黄(固形分52%、脂質含有量33.5%)、添加してさらに撹拌混合を行った後、25gをアルミ製のパウチに充填して90℃で5分間加熱処理し、本発明の濃縮フレンチトースト用食品を得た。
【0060】
得られた濃縮フレンチトースト用食品25gと牛乳100mLを混合して調製したフレンチトースト用の卵黄含有混合液は、5分程度静置すると全粉乳等の水に不溶性の溶質が一部沈殿する様子が見られた。
フレンチトースト用の卵黄含有混合液の調製後すぐに用いれば問題ないものであったが、実施例1の濃縮フレンチトースト用食品と比較すると、得られたフレンチトースト用の卵黄含有混合液の均質な状態はやや保持し難いものであった。