特許第6352152号(P6352152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6352152太陽電池ストリングの不具合検出方法、不具合検出システムおよび不具合検出装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352152
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】太陽電池ストリングの不具合検出方法、不具合検出システムおよび不具合検出装置
(51)【国際特許分類】
   H02S 50/00 20140101AFI20180625BHJP
【FI】
   H02S50/00
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-227844(P2014-227844)
(22)【出願日】2014年11月10日
(65)【公開番号】特開2016-93048(P2016-93048A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年6月15日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人科学技術振興機構復興促進プログラム(マッチング促進)「メガソーラーの最適運用システムの開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】河西 勇二
(72)【発明者】
【氏名】村川 正宏
【審査官】 河村 麻梨子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−106852(JP,A)
【文献】 特開2012−138555(JP,A)
【文献】 特開2012−195495(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0217973(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02S 50/00
G05F 1/67
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワーコンディショナに接続した太陽電池アレイを構成する太陽電池ストリングの不具合検出方法であって、
各太陽電池ストリングに接続され太陽電池ストリングの動作状況をモニターするモニタリング子機を備え、
各モニタリング子機は所定の測定周期で前記太陽電池ストリングが動作する電圧・電力を測定し、式(8)により電圧変化情報を、および式(9)により電力変化情報を算出することにより、電圧変化・電力変化情報を計算し、
該電圧変化・電力変化情報に基づいて前記太陽電池ストリングの所定の期間における最大電力動作点と動作点との距離を、式(10)により算出することにより、前記所定の期間ごとに推定
前記距離を用いて太陽電池ストリングの不具合を検出することを特徴とする太陽電池ストリングの不具合検出方法。(但し、ΔVは一の前記測定周期ごとの前記太陽電池ストリングの電圧変化、ΔPはその電力変化、signはΔVの符合であって+1、または、−1とする。Σは所定の期間における総和とする。)
【数8】
【数9】
【数10】
【請求項2】
記モニタリング子機のモニター情報に基づいて太陽電池ストリングの不具合を検出するモニタリング親機を備え、
前記モニタリング子機と前記モニタリング親機は電力線または無線または有線で通信するものとし、前記モニタリング親機は前記モニタリング子機により推定された前記太陽電池ストリングの前記所定の期間における最大電力動作点と動作点との距離に基づいて、前記太陽電池ストリングの不具合を検出することを特徴とする、請求項1に記載の太陽電池ストリング不具合検出方法。
【請求項3】
前記太陽電池ストリングの前記所定期間おける最大電力動作点と動作点との距離が所定の負の閾値以下である時に前記太陽電池アレイのいずれかの太陽電池ストリングに不具合があると判定することを特徴とする請求項1又は2に記載太陽電池ストリング不具合検出方法。
【請求項4】
パワーコンディショナに接続した太陽電池アレイを構成する太陽電池ストリングの不具合を検出するための太陽電池ストリング不具合検出システムであって、
請求項に記載された太陽電池ストリング不具合検出方法を使用することを特徴とする太陽電池ストリング不具合検出システム。
【請求項5】
パワーコンディショナに接続した太陽電池アレイを構成する太陽電池ストリングの不具合を検出するための太陽電池ストリング不具合検出装置であって、
各太陽電池ストリングに接続され太陽電池ストリングの動作状況をモニターするモニタリング子機を備え、各モニタリング子機は所定の測定周期で前記太陽電池ストリングが動作する電圧・電力を測定し、式(8)により電圧変化情報を、および式(9)により電力変化情報を算出することにより、電圧変化・電力変化情報を計算し
該電圧変化・電力変化情報に基づいて前記太陽電池ストリングの所定の期間における最大電力動作点と動作点との距離を、式(10)により算出することにより、前記所定の期間ごとに推定し
前記距離を用いて太陽電池ストリングの不具合を検出することを特徴とする不具合検出装置。(但し、ΔVは一の前記測定周期ごとの前記太陽電池ストリングの電圧変化、ΔPはその電力変化、signはΔVの符合であって+1、または、−1とする。Σは所定の期間における総和とする。)
【数8】
【数9】
【数10】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
太陽光発電システム、特に太陽電池ストリングの太陽電池パネルの不具合検知に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電システムにおける太陽電池パネルは、故障や経年変化、影がかかるなどの影響により発電量が低下することがある。発電量の低下を防止するため、発電状況をモニターして直流電力線を用いて計測データを伝送し太陽電池パネルの不具合を検知する技術がある。
【0003】
太陽電池パネルごとに発電状況をモニターする場合は、太陽電池パネルごとに電圧・電流を計測するので、わずかな発電量の低下でも検出が容易である。メガソーラーなどの大規模な太陽光発電システムにおいては、太陽電池パネルの数が膨大なため、太陽電池パネルごとに計測用の子機を設置すると数が膨大になってしまうため、太陽電池パネルを直接接続したストリング単位での計測が一般的である。
【0004】
ところが、太陽電池ストリングは、太陽電池パネルを10枚から20枚程度直列接続したものであるので、仮にそのうちの1枚の太陽電池パネルが発電せず、その太陽電池パネルの電圧が0になったとしても、ストリングの電流の変化が小さく(非特許文献1のP.30)、電流値のモニターでは不具合の検出が難しい。
【0005】
不具合の検出精度が高ければ、不具合のある太陽電池パネルを交換修理することで発電ロスを低減することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許5419018号
【特許文献2】特開2013−80745号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】加藤和彦「太陽光発電システムの不具合事例ファイル」、日刊工業新聞社、2010年」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
太陽電池ストリングの電流と電圧の測定値から太陽電池ストリングを構成する太陽電池パネルの不具合を精度よく検出することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は次に挙げる太陽電池アレイを構成する太陽電池ストリングの動作点検出方法、
不具合検出方法、システム、および、装置を提供できる。
(1)
PCS(パワーコンディショナ)に接続した太陽電池アレイの太陽電池ストリング動作点検出方法であって、
各太陽電池ストリングに接続され太陽電池ストリングの動作状況をモニターするモニタリング子機を備え、
各モニタリング子機は所定の測定周期で該太陽電池ストリングが動作する電圧・電力を測定し、電圧変化・電力変化情報を計算し、該電圧変化・電力変化情報に基づいて該太陽電池ストリングの所定の期間における最大電力動作点と動作点との距離を該所定の期間ごとに推定する、
ことを特徴とする太陽電池ストリング動作点検出方法。
【0010】
(2)
前記太陽電池ストリングの電圧変化・電力変化情報は、後述の式(1)により算出される電圧変化情報および式(2)により算出される電力変化情報であることを特徴とする(1)に記載する太陽電池ストリング動作点検出方法。但し、ΔVは前記一の測定周期ごとの前記太陽電池ストリングの電圧変化、ΔPはその電力変化、signはΔVの符合であって+1、または、−1とする。
(3)
前記太陽電池ストリングの前記所定の期間おける最大電力動作点と動作点との距離は、後述の式(3)により算出される数値であることを特徴とする(2)に記載する太陽電池ストリング動作点検出方法。ただしΣは所定の期間における総和とする。
【0011】
(4)
(1)乃至(3)のいずれかに記載する太陽電池ストリング動作点検出方法を利用したPCSに接続した太陽電池アレイの太陽電池ストリング不具合検出方法であって、
さらに、前記モニタリング子機のモニター情報に基づいて太陽電池ストリングの不具合を検出するモニタリング親機を備え、
前記モニタリング子機と該モニタリング親機は電力線または無線または有線で通信するものとし、
該モニタリング親機は前記モニタリング子機により前記推定された前記太陽電池ストリングの前記所定の期間における最大電力動作点と動作点との距離に基づいて前記太陽電池アレイを構成する太陽電池ストリングの不具合を検出する、
ことを特徴とする太陽電池ストリング不具合検出方法。
(5)
前記太陽電池ストリングの前記所定期間おける最大電力動作点と動作点との距離が所定の負の閾値以下である時に当該前記太陽電池アレイのいずれかの太陽電池ストリングに不具合があると判定することを特徴とする(4)に記載する太陽電池ストリング不具合検出方法。
【0012】
(6)
PCSに接続した太陽電池アレイの太陽電池アレイを構成する太陽電池ストリングの不具合を検出するための太陽電池ストリング不具合検出システムであって、
(5)に記載された太陽電池ストリング不具合検出方法を使用することを特徴とする太陽電池ストリング不具合検出システム。
【0013】
(7)
PCSに接続した太陽電池アレイの太陽電池アレイを構成する太陽電池ストリングの不具合を検出するための太陽電池ストリング不具合検出装置であって、
(5)に記載された太陽電池ストリング不具合検出方法を使用することを特徴とする太陽電池ストリング不具合検出装置。
【発明の効果】
【0014】
太陽光発電を停止すること無く、ストリング単位の太陽電池の動作点の最大電力動作点に対する位置を精度よく推定することが可能となり、太陽電池の不具合を精度よく検出することができる。
これにより、発電ロスを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の太陽光発電システムに適用した場合の構成の説明図(実施例1)である。
図2】本発明のモニタリング通信子機1のブロック構成図である。
図3】(a)図、(b)図は、太陽電池ストリングの電圧波形および電流波形の模式図である。
図4】(a)図、(b)図は、太陽電池ストリングの電流電圧特性および電力電圧特性のグラフの模式図であり、図中、A)正常時、B)不具合時の特性曲線である。
図5】太陽電池ストリングの電力の電圧に関する微分特性(dP/dV)のグラフの模式図であり、A)正常時、B)不具合時の特性曲線である。
図6】太陽電池ストリングのA)正常時、B)不具合時の電圧波形(図6(a))、電圧微分波形(dV/dt)(図6(b))、電流波形(図6(c))、電力波形(図6(d))、電力微分波形(dP/dt)(図6(e))、(ΔP×sign(ΔV))の波形(図6(df))である。
図7】(a)図、(b)図、(c)図は、太陽電池ストリングの動作点に対する、電力の電圧に関する微分特性(dP/dV)、式1の値、式2の値のグラフの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
太陽電池ストリングのモニタリング子機に太陽電池ストリングの動作点を検出し得る機能を持たせる。
【0017】
ストリングの電流と電圧を連続的に計測し、ワンチップマイコンで演算することで、太陽電池ストリングの動作点を推定し得る情報を収集する。太陽光発電のモニタリングにおいては、通常計測した電圧値、電流値などを個別に通信手段により伝送するが、この場合は、通信で得られるデータの間隔が数秒以上と計測時間間隔が長いため、電圧や電流の短時間における変動を捉えることができない。そこで、通信する手前の子機の段階で電圧値と電流値を元に演算を行い、太陽電池ストリングの動作点に関する情報を生成して伝送する。
【0018】
太陽電池のストリングの電圧は、太陽光発電システムのPCSによって最大電力動作点の追尾を行うため、電圧が変調されていることが一般的であり、この電圧変調によってストリングの電流も変化している。
【0019】
電圧変化に関する情報として、電圧変化ΔVの絶対値の積算値、
【0020】
【数1】
【0021】
の値を計算する。
つぎに、電力変化に関する情報として、まず、電圧値Vと電流値Iの積を計算して電力値P(V×I)を求め、その電力値の変化ΔPに電圧値の変化ΔVの符号を掛けたものを積算する。
【0022】
【数2】
【0023】
この2つの情報、すなわち、電圧変化に関する情報と電力変化に関する情報を取得し、この2つの情報から、
【0024】
【数3】
【0025】
を計算する。
この式3の値は、太陽電池ストリングの電圧変化に対する電力変化の割合、すなわち電力の電圧に関する微分特性(dP/dV)に相当する。
【0026】
式3の値が0であれば、太陽電池の動作点が最大電力動作点であり、この値が負であれば、太陽電池の動作点が最大電力動作点の電圧よりも高いところに存在する。
【0027】
式3の値の絶対値は、太陽電池の動作点が最大電力動作点からどのくらい離れているかを示す。この結果により、太陽電池ストリングに含まれる太陽電池パネルに不具合があるかどうかを検知することができる。
【0028】
図7は、太陽電池ストリングの動作点に対する、電力の電圧に関する微分特性(dP/dV)、式1の値、式2の値のグラフを模式的に示したものである。グラフの横軸は、太陽電池アレイの電圧Va(=PCSの入力電圧)に対する太陽電池ストリングの最大電力動作点電圧Vmpの比である。
【0029】
太陽電池ストリングに不具合が発生して太陽電池ストリングの最大電力動作点電圧Vmpが低下して太陽電池アレイの電圧Vaから乖離すると、その乖離度に対応してdP/dVが低下し、また式2の値も低下する。
【0030】
一方、式1の値は、PCSによる変調電圧の大きさで決まり、通常は太陽電池ストリングの電圧に対してほぼ一定である。
したがって、式3の値は、式2の値と式1の値の比であることから、式2の値と同様の特性であり、これは電力の電圧に関する微分特性(dP/dV)と同等の特性を有する。
【実施例1】
【0031】
図1は、本発明の実施形態1を太陽光発電システムに適用した場合の構成の説明図である。図1において、モニタリング通信子機1が本発明による太陽光発電動作点検出を含む太陽光発電モニタリングを行い、電力線通信によりモニタリング通信親機2にデータを伝送する。このデータ伝送には、特許文献1に記載の通信手段が利用可能である。
【0032】
複数(この図の例では3)の太陽電池パネル3が直列に接続され、逆流防止ダイオード4を経由してPCS(パワーコンディショナ)5に発電した電力を送電する。太陽電池ストリング6は、上記複数の太陽電池3が直列接続されたものであり、複数(この図の例では3)の太陽電池パストリング6が並列に接続された太陽電池アレイ8が、PCS5に接続している。
【0033】
電流センサー7は、太陽電池ストリング6ごとにそれぞれの電流を計測するもので、シャント抵抗あるいはホール素子と、計測アンプから構成される。
【0034】
図2は、本発明のモニタリング通信子機1のブロック構成図である。図2において、電圧接続は、PCS5の入力電圧に接続し、これは太陽電池ストリング6の電圧にほぼ等しい。分圧器11は、電圧接続の端子の電圧を抵抗器で分圧し、電圧接続の端子間電圧に比例する電圧を出力する。
【0035】
信号切替器12は、電圧接続の端子間電圧に比例する電圧、複数の電流値入力にそれぞれ対応する電圧、温度センサー16の出力電圧のいずれか1つの電圧を選択する。この電圧はA/D変換器13によりアナログ値からデジタル値に変換される。
【0036】
これらの電圧値のデジタル情報は、CPU14に入力され、後述の演算処理により、太陽光発電動作点検出の演算を行う。また、CPU14は、太陽光発電動作点、太陽電池ストリング電圧、太陽電池ストリング電流などのデータを特許文献1記載の手法により変調して送信信号を生成する。この送信信号は、ドライバー15により電力線通信に適した信号の形式で電圧接続端子に出力される。
【0037】
信号切替器12、A/D変換器13、CPU14は、ワンチップ化されたマイコン等が利用可能である。
【0038】
太陽電池ストリング6の電圧は、通常太陽電池アレイ8の電圧に等しく、太陽光発電システムのPCS5によって最大電力動作点の追尾を行うため、電圧が変調されていることが一般的であり、この電圧変調によってストリングの電流も変化している。
【0039】
この電圧変調と電流変調の波形を模式的に表したグラフを図3に示す。最大電力動作点においては、電圧変調波形と電流変調波形は、逆位相で、変調の割合が等しい。
【0040】
本発明の太陽光発電モニタリング子機では、この電圧変調によって発生したストリングの電圧変化と電流変化を以下のようにして検出する。
図4の図(a)、図(b)は、太陽電池ストリングの電流電圧特性および電力電圧特性のグラフの模式図である。
【0041】
図4のグラフにおいて、(A)は正常な太陽電池ストリングの特性、(B)はストリングを構成する太陽電池パネルの一部が発電しない不具合がある太陽電池ストリングの特性を示す。図示のように(B)のグラフでは、最大電力動作点の電圧Vmpが正常のものに比べて低い。
【0042】
太陽光発電システムでは、通常は大半の太陽電池ストリングが正常動作していると考えられ、この場合、並列接続された太陽電池ストリングの電圧は、太陽電池ストリングの最大電力動作点の電圧Vmpを中心にPCSからの変調電圧が重畳されていると考えられる。
【0043】
正常な太陽電池ストリングでは、最大電力動作点の電圧Vmpと太陽電池アレイの電圧Vaがほぼ等しいことから、Vaを中心に図中の矢印のように変調電圧によって電圧が変化している。
【0044】
図4(b)において、(A)では、最大電力動作点であるため、変調電圧により電圧が変化しても電力値の変化は小さい、しかしながら、(B)では、Vaが最大電力動作点Vmpの電圧より高いため、図4のグラフより明らかなように、Va近傍の電圧において、電圧が上昇する場合は、電力が低下する。
【0045】
図5は、太陽電池ストリングの電力(P)の電圧(V)に関する微分特性(dP/dV)のグラフの模式図であり、A)正常時、B)不具合時の特性曲線を模式的に示したものである。
【0046】
A)正常時、B)不具合時のいずれの最大電力動作点においては、電力が最大値であり、電圧に関する電力変化の割合がほぼ0になることから、dP/dVは必ず0である。また、最大電力動作点よりも高い電圧においてはdP/dVは負である。
【0047】
図6(a)から図6(f)は、太陽電池ストリングのA)正常時、B)不具合時それぞれにおける、電圧波形、電圧の時間微分波形(dV/dt)、電流波形、電力波形、電力の時間微分波形(dP/dt)、(ΔP×sign(ΔV))の波形を模式的に示したものである。
【0048】
図6の各図において、変調波形の1周期の時間間隔を図中の縦点線で示す。この時間間隔は、PCSによる変調周期であり、一般的に数ミリ秒から数秒の範囲内である。また、説明の便宜上、図の波形は変調の振幅が実際の振幅よりも大きい。
【0049】
図6(c)、図6(a)に示した正常時および不具合時の一定期間の電流および電圧特性は、図4に示した電流電圧特性の(A)および(B)に対応し、動作点は正常時が最大電力動作点であり、不具合時は不具合時の最大電力動作点よりも高い電圧である。
【0050】
正常時には、電圧の振幅と電流の振幅は大きさがほぼ同じで位相は逆であり、電力波形の脈流分は小さく、電力の時間微分波形(dP/dt)も小さい。
不具合時には、電圧の振幅に対して電流の振幅が大きく位相は逆である。電力波形の脈流分が図のように大きく、電力の時間微分波形(dP/dt)も大きい。
【0051】
この関係から、電圧の変化と電力の変化の関係を調べることにより動作電圧(動作点)における最大電力動作点との位置関係を知ることが可能である。このための好適な演算処理について以下に具体的に説明する。
【0052】
太陽光発電モニタリング子機において、ストリングの電流と電圧を1ミリ秒ごとに計測(サンプリング)する。これは、PCSにおける電圧変調の周期が数ミリ秒から数秒の範囲であり、その周期よりも短い時間間隔で電圧値および電流値を取得することが好適なためである。
CPU14で、電力値を計測した電圧値と電流値から計算する。
【0053】
【数4】
【0054】
現在の計測点と1つ前の計測点の電圧値、電力値の差分をそれぞれ計算し、電圧値の差分をΔV、電力値の差分をΔPとする。ΔVは、サンプリングのタイミングにより、正であったり負であったりする。
【0055】
(A)の場合は、図4の電力と電圧の関係のグラフから、ΔPはほぼ0である。
(B)の場合は、図4の電力と電圧の関係のグラフから、ΔVが正の場合はΔPが負であり、ΔVが負の場合はΔPが正である。
【0056】
ΔVの符号の影響をのぞくため、本発明では、ΔP×sign(ΔV)を計算することを特徴とする。ここで、signは、引数が負の場合は−1を、正の場合は1を与える関数である。
【0057】
(A)の場合は、ΔP×sign(ΔV)は、ほぼ0である。
(B)の場合は、ΔP×sign(ΔV)は、負である。
【0058】
また、同様にして、仮に最大電力動作点がVmpよりも高い場合には、ΔP×sign(ΔV)は、正である。
【0059】
さらにまた、ΔP×sign(ΔV)の絶対値の大きさは、最大電力動作点の電圧とVmpの電圧の差に比例する。
【0060】
実施例1では、電圧変化に関する情報として、電圧変化ΔVの絶対値の積算値、
【0061】
【数5】
【0062】
の値を計算する。また、電力変化に関する情報として、まず、電圧値と電流値の積を計算して電力値Pを求め、その電力値の変化に電圧値の変化の符号を掛けたものを積算する。
【0063】
【数6】
【0064】
このとき、積算時間は、たとえば、太陽光発電モニタリングにおける通信頻度(数十秒)である。
【0065】
上記の2つの情報、すなわち、電圧変化に関する情報Σ|ΔV|と電力変化に関する情報Σ(ΔP×sign(ΔV))の2つの情報から、
【0066】
【数7】
を計算する。この値は、太陽電池動作点の最大電力動作点からのずれ量に相当する。
【0067】
この値が0であれば、太陽電池の動作点が最大電力動作点であり、この値が負であれば、太陽電池の動作点の電圧が最大電力動作点の電圧より高いところに存在する。この値の絶対値は、太陽電池の動作点が最大電力動作点からどのくらい離れているかを示す。
【0068】
この結果により、太陽電池ストリングに含まれる太陽電池パネルに不具合があるかどうかを検知することができるので、適宜不具合太陽電池パネルを交換すればよい。
【0069】
なお、上記の2つの情報は、積算期間につき2つの数値であり、このデータを親機に伝送して式7の計算を親機で実行してもよい。この場合は、除算の演算を子機でなく親機で行うことから子機のマイコンの計算リソースを節約することができる。
【実施例2】
【0070】
本発明による太陽光発電動作点検出の試作回路を用いた実験について述べる。太陽電池ストリングが10枚の太陽電池パネルからなり、PCSの変調が276Hzの正弦波である場合の太陽電池動作点の最大電力動作点からのずれ量を模擬した実験結果を以下に示す。データのサンプリング周期は0.75ミリ秒、積算期間は35秒である。
【0071】
このシミュレーションでは、正常時が太陽電池ストリングの最大電力動作点の電圧が太陽電池アレイの最大電力動作点の電圧に等しい状態、不具合時がストリングを構成する10枚の太陽電池パネルのうちの1枚が故障してバイパスダイオードが導通した状態で、太陽電池ストリングの最大電力動作点の電圧が太陽電池アレイの最大電力動作点の電圧の10分の9に等しい状態である。
【0072】
シミュレーションの結果は、正常時の検出値が10、不具合時の検出値が−62であった。正常時の検出値は理想的には0であるが、実験結果の値は計測誤差やノイズの影響により0に近い値となっていると考えられる。不具合検出時の閾値を、たとえば、上記の検出値の1/3とすることで、太陽電池パネルの1枚の約半分のクラスタの発電不良まで検出可能である。
【0073】
この閾値は、小さすぎると計測時のノイズ等の影響による誤検出が生じてしまい、また、大き過ぎると軽微な不具合を検知できない。この点を踏まえて閾値を最適化すると好適である。
【0074】
本発明による太陽光発電動作点検出では、太陽電池ストリングを構成する太陽電池パネルの一部が経年変化による劣化などで徐々に特性が変化したような場合でも、結果として動作点のずれを検出することができるので、漸次電力低下によるセル故障検知にも有効である。
【実施例3】
【0075】
本発明では、太陽電池ストリングの動作点が最大電力動作点からどのくらいずれているかを検出しているので、太陽電池ストリングを構成する太陽電池パネルのうち電圧低下などの不具合のある太陽電池パネルの存在による最大電力動作点からのずれを検出することが可能である。
【0076】
一方、曇天時など太陽電池ストリングを構成する太陽電池パネルのすべてで一様に発電量が低下した場合は、太陽電池ストリングの動作点が最大電力動作点に近いので、このように曇天時の発電状況を不具合と誤認識する可能性は低いと考えられる。
【実施例4】
【0077】
本発明では、前述のように、太陽電池ストリングの動作点が最大電力動作点からのずれ量を検出しているので、太陽電池ストリングを構成する太陽電池パネルの特性が一律に変化するような場合の不具合、たとえば、砂埃などにより太陽光発電システムを構成する太陽電池パネル表面が一様に汚れて発電量が低下するような不具合は、本発明では検出ができない。
【0078】
しかしながらこの種の不具合は従来の発電量低下を検出する方法が有効であり、従来の発電電力あるいは発電電流の低下を検出する不具合検知方法と本発明の方法を併用することで、実用上起こり得る不具合を総じて検出可能と考えられる。
【符号の説明】
【0079】
1 モニタリング通信子機
2 モニタリング通信親機
3 太陽電池パネル
4 逆流防止ダイオード
5 パワーコンディショナ(PCS)
6 太陽電池ストリング
7 電流センサー
8 太陽電池アレイ
11 分圧器
12 信号切替器
13 A/D変換器
14 CPU
15 ドライバー
16 温度センサー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7