特許第6352190号(P6352190)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6352190塩味増強剤及びその製造方法、並びに、塩味増強方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352190
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】塩味増強剤及びその製造方法、並びに、塩味増強方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/20 20160101AFI20180625BHJP
【FI】
   A23L27/20 D
【請求項の数】10
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2014-542170(P2014-542170)
(86)(22)【出願日】2013年10月17日
(86)【国際出願番号】JP2013078178
(87)【国際公開番号】WO2014061734
(87)【国際公開日】20140424
【審査請求日】2016年7月6日
(31)【優先権主張番号】特願2012-230673(P2012-230673)
(32)【優先日】2012年10月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 敬展
(72)【発明者】
【氏名】笠原 洋一
(72)【発明者】
【氏名】田中 充
(72)【発明者】
【氏名】阿部 啓子
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 富子
(72)【発明者】
【氏名】山下 治之
【審査官】 北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−202710(JP,A)
【文献】 国際公開第93/003714(WO,A1)
【文献】 特表2010−506929(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/020568(WO,A1)
【文献】 特表平06−510286(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第01272499(GB,A)
【文献】 米国特許第05723133(US,A)
【文献】 特開昭58−010555(JP,A)
【文献】 特開平07−053542(JP,A)
【文献】 Journal of Pharmaceutical Sciences, 2005, Vol.94, p.353-362
【文献】 Nature, 1957, Vol.180, p.704-705
【文献】 Soil Sci. Plant Nutr., 1986, Vol.32, p.487-491
【文献】 BRAND J et al., Salty taste amplification: Effects of amino acids and guanidinium-containing compounds, Abstracts of the 236th ACS National Meeting, Philadelphia, PA, August 17-21, 2008 [online], retrieved on 20-DEC-2013, <URL: http://oasys2.confex.com/acs/236nm/techprogram/P1195146.HTM>
【文献】 STEIN LJ, THE MONELL CONNECTION[online], FALL 2008, retrieved on 20-DEC-2013, <URL: http://www.monell.org/images/uploads/Monell_Fall_2008_web.pdf>
【文献】 Journal of Medicinal Chemistry, 1963, Vol.6, p.275-283
【文献】 Bulletin of the Chemical Society of Japan, 1936, Vol.11, p.141-143
【文献】 Bulletin de la Societe Chimique de France, 1948, p.181-185
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00−27/60
A23L 29/00−29/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(7)で表される化合物またはその塩からなる、塩味増強剤。
【化1】
[式中、pは3〜5の整数を表す。]
【請求項2】
下記一般式(X7)で表されるアミノアルコール化合物と、
【化2】
[式中、pは3〜5の整数を表す。]
S−メチルイソチオ尿素またはその塩と
を反応させる工程を含む、下記一般式(7)で表される化合物またはその塩からなる塩味増強剤の製造方法。
【化3】
[式中、pは3〜5の整数を表す。]
【請求項3】
請求項1に記載の化合物またはその塩からなる、塩味を増強するための食品添加剤。
【請求項4】
請求項1に記載の化合物またはその塩を含む、塩味を増強するための調味料。
【請求項5】
さらに塩化ナトリウムを含む、請求項4に記載の調味料。
【請求項6】
請求項1に記載の化合物またはその塩を含む、塩味が増強された飲食品。
【請求項7】
請求項1に記載の化合物またはその塩を10ppm以上含む、塩味が増強された飲食品。
【請求項8】
請求項1に記載の化合物またはその塩が、添加されたものである、請求項6または7に記載の塩味が増強された飲食品。
【請求項9】
さらに塩化ナトリウムを含む、請求項6〜8のいずれか1項に記載の塩味が増強された飲食品。
【請求項10】
飲食品に、請求項1に記載の化合物またはその塩を添加する工程を含む、飲食品の塩味増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2012年10月18日に出願された、日本国特許出願第2012−230673号明細書(その開示全体が参照により本明細書中に援用される)に基づく優先権を主張する。
【0002】
本発明は、新規の塩味増強剤及びその製造方法、並びに、飲食品の塩味増強方法に主に関する。本発明はまた、食品添加物、調味料、飲食品に関する。
【背景技術】
【0003】
生体の必須ミネラルであるナトリウムの摂取源として、食塩(塩化ナトリウム)は、極めて重要な物質である。ナトリウムイオンは、細胞外液量の維持、浸透圧、酸・塩基平衡の調節、神経伝達や物質の膜間能動輸送に関与する膜電位の形成などに寄与し、生命維持になくてはならない。
【0004】
しかしながら、食品の嗜好性を向上させるため、食塩は過剰に摂取される傾向にある。例えば、日本国厚生労働省が提言する食塩の目標摂取量は、成人男性は1日あたり9.0g未満、成人女性は1日あたり7.5g未満である(「日本人の食事摂取基準2010年度版」(厚生労働省))。また、世界保健機関(WHO)が提言する食塩の目標摂取量は、1日あたり6.0g未満である(「日本人の食事摂取基準2010年度版」(厚生労働省))。これに対して、実際の日本人の食塩摂取量は、成人男性が1日あたり11.6g及び成人女性が1日あたり9.9gであり、実際の摂取量と目標値には大きな隔たりがある(「平成21年度国民栄養・健康調査」(厚生労働省))。
【0005】
このような食塩の過剰摂取は、血圧上昇の一因となりうることが指摘されており、脳卒中や心臓疾患を引き起こす原因となることが懸念されている。このような現状のなか、食塩の摂取量を低減するための一つの手段として、食塩と同様に塩味を食品に付与することができる、食塩の代替品や塩味増強剤が強く求められている。
【0006】
食塩の代替品とは、食塩に替えて用いることができる自身が塩味を呈する素材を指す。食塩の代替品として、塩化カリウムが知られている(特許文献1)。しかしながら、塩化カリウムは塩味に加えて苦味を呈するため、食品の嗜好性を低下させてしまう。また、カリウムの過剰摂取は、生理的に不都合である。
【0007】
塩味増強剤として、自身は実質的に塩味を有しないが、食塩(塩化ナトリウム)と併用することで、食塩の塩味を強く感じさせる成分が挙げられる。これまでに種々の塩味増強剤が提唱されている。しかしながら、塩味増強効果の強さの点で、さらなる改善が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−287460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、新規の塩味増強剤及び飲食品の塩味増強方法を提供することを、主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、下記一般式(1)で表される化合物またはその塩を塩味増強剤として好適に用いることができることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0011】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を包含する。
【0012】
項1、下記一般式(1)で表される化合物またはその塩からなる塩味増強剤。
【0013】
【化1】
[式中、Rは
(i)へテロ原子によって中断されてもよい炭素数1〜5の直鎖または分岐の炭化水素基であって、
カルボキシル基及び水酸基からなる群から選択される少なくとも1個の基を有してもよい炭化水素基、または
(ii)水素原子を示す。]
【0014】
項2、下記一般式(2)〜(6)のいずれかで表される化合物またはその塩からなる、項1に記載の塩味増強剤。
【0015】
【化2】
[式中、Qはヘテロ原子を表す。qは0または1である。
m及びnは1〜4の整数をそれぞれ表し、m+nは3〜5の整数である。
m’及びn’は1〜3の整数をそれぞれ表し、m’+n’は2〜4の整数である。
kは0〜3の整数を表す。]
【0016】
項3、下記一般式(7)で表される化合物またはその塩からなる、項1に記載の塩味増強剤。
【0017】
【化3】
[式中、pは3〜5の整数を表す。]
【0018】
項4、下記一般式(X)で表される1級アミン化合物と、
【0019】
【化4】
[式中、Rは
(i)へテロ原子によって中断されてもよい炭素数1〜5の直鎖または分岐の炭化水素基であって、
カルボキシル基及び水酸基からなる群から選択される少なくとも1個の基を有してもよい炭化水素基、または
(ii)水素原子
を示す。]
S−メチルイソチオ尿素またはその塩と
を反応させる工程を含む、
下記一般式(1)で表される化合物またはその塩からなる塩味増強剤の製造方法。
【0020】
【化5】
[式中、Rは前記に定義されるとおりである。]
【0021】
項5、下記一般式(X2)若しくは(X4)で表されるアミノアルコール化合物、一般式(X3)若しくは(X5)で表されるアミノカルボン酸化合物、または一般式(X6)で表されるアルキルアミン化合物と、
【0022】
【化6】
[式中、Qはヘテロ原子を表す。qは0または1である。
m及びnは1〜4の整数をそれぞれ表し、m+nは3〜5の整数である。
m’及びn’は1〜3の整数をそれぞれ表し、m’+n’は2〜4の整数である。
kは0〜3の整数を表す。]
S−メチルイソチオ尿素またはその塩と
を反応させる工程を含む、
下記一般式(2)〜(6)のいずれかで表される化合物またはその塩からなる塩味増強剤の製造方法。
【0023】
【化7】
[式中、Q、q、m、n、m’、n’及びkは前記に定義されるとおりである。]
【0024】
項6、下記一般式(X7)で表されるアミノアルコール化合物と、
【0025】
【化8】
[式中、pは3〜5の整数を表す。]
S−メチルイソチオ尿素またはその塩と
を反応させる工程を含む、
下記一般式(7)で表される化合物またはその塩からなる塩味増強剤の製造方法。
【0026】
【化9】
[式中、pは前記に定義されるとおりである。]
【0027】
項7、項1〜3のいずれか1項に記載の化合物またはその塩からなる食品添加物。
【0028】
項8、項1〜3のいずれか1項に記載の化合物またはその塩を含む調味料。
【0029】
項9、さらに塩化ナトリウムを含む、項5に記載の調味料。
【0030】
項10、項1〜3のいずれか1項に記載の化合物またはその塩を含む飲食品。
【0031】
項11、項1〜3のいずれか1項に記載の化合物またはその塩を10ppm以上含む飲食品。
【0032】
項12、項1〜3のいずれか1項に記載の化合物またはその塩が、添加されたものである、項10または11に記載の飲食品。
【0033】
項13、さらに塩化ナトリウムを含む、項10〜12のいずれか1項に記載の飲食品。
【0034】
項14、飲食品に、項1〜3のいずれか1項に記載の化合物またはその塩を添加する工程を含む、飲食品の塩味増強方法。
【発明の効果】
【0035】
本発明より、新規の塩味増強剤が提供される。本発明の塩味増強剤は、高い塩味増強効果を有し、かつ、自身は塩味及び塩味以外の異味・異臭を有さない。そのため、本発明の塩味増強剤を、例えば、食品添加物、調味料等として食塩に添加することで、嗜好性の高い塩味を有しながら、食塩の含有量が低減された食品を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
1.塩味増強剤
本発明は塩味増強剤に関する。ここで、塩味増強剤とは、自身は実質的に塩味を有しないが、食塩(塩化ナトリウム)と併用することで、食塩の塩味を強く感じさせる物質を指す。具体的には、例えば、閾値以下の塩味物質に共存させることで感じることができなかった塩味を感じさせる効果を持つ物質や、添加することにより強い塩味を誘導するような効果を有する物質などが含まれる。
【0037】
本発明の塩味増強剤は、下記一般式(1)で表される化合物またはその塩からなる。
【0038】
【化10】
[式中、Rは
(i)ヘテロ原子で中断されてもよい炭素数1〜5の直鎖または分岐の炭化水素基であって、
カルボキシル基及び水酸基からなる群から選択される少なくとも1個の基を有してもよい炭化水素基、または
(ii)水素原子
を示す。]
【0039】
上記一般式(1)で表される化合物は、グアニジノ基を有する化合物又はグアニジンである。
【0040】
上記炭化水素基は、飽和炭化水素基であっても、不飽和炭化水素基であってもよい。
【0041】
上記炭素数1〜5の直鎖または分岐の炭化水素基の具体例として、ヘテロ原子で中断されない場合、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル(3−メチルブチル)基、neo−ペンチル(2,2−ジメチルプロピル)基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基等のアルキル基が例示される。
【0042】
上記炭化水素基がヘテロ原子で中断される場合、上記のアルキル基の炭素骨格において、1以上、好ましくは1のヘテロ原子で中断された炭素数2〜5の炭化水素基が例示される。
【0043】
ヘテロ原子の具体例としては、酸素原子及び硫黄原子が挙げられる。ヘテロ原子は、好ましくは酸素原子である。
【0044】
上記炭化水素基は、カルボキシル基及び水酸基からなる群から選択される少なくとも1個の基を有してもよい。2以上の基を有する場合、同一であっても異なってもよい。具体的には、1のカルボキシル基を有する、1の水酸基を有する、1のカルボキシル基及び1の水酸基の計2基を有する、2のカルボキシル基を有する、2の水酸基を有する等の態様が例示されるが、これに限定されない。1もしくは2の水酸基を有する態様が、特に塩味増強効果が高いとの観点から、好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0045】
上記一般式(1)で表される化合物が不斉炭素を有する場合、R体、S体あるいはこれらの任意の割合の混合物を含み、ラセミ体であってもよい。不斉炭素を2以上含む場合、本発明の化合物はいずれの異性体あるいはその混合物であってもよい。
【0046】
上記化合物の塩として、塩味増強効果に影響を与えない塩であれば特に限定されない。また、異味や異臭を付与しない塩であることが好ましい。このような塩として、有機酸の塩及び無機酸の塩が例示される。中でも、無機酸が好ましく、塩酸塩が特に好ましい。
【0047】
本発明の塩味増強剤の好ましい態様の一つとして、下記一般式(2)〜(6)のいずれかで表される化合物またはその塩からなる塩味増強剤が例示される。下記一般式(2)〜(6)のいずれかで表される化合物またはその塩からなる塩味増強剤は、塩味増強効果が高く、また、異味及び異臭がごく僅か若しくは感知できない程度であるとの観点から、特に好ましい。
【0048】
【化11】
[式中、Qはヘテロ原子を表す。qは0または1である。
m及びnは1〜4の整数をそれぞれ表し、m+nは3〜5の整数である。
m’及びn’は1〜3の整数をそれぞれ表し、m’+n’は2〜4の整数である。
kは0〜3の整数を表す。]
【0049】
一般式(2)及び(3)中、m及びnは1〜4の整数をそれぞれ表し、m+nは3〜5の整数である。一般式(4)及び(5)中、m’及びn’は1〜3の整数をそれぞれ表し、m’+n’は2〜4の整数である。一般式(6)中、kは0〜3の整数を表す。
【0050】
一般式(2)〜(6)中、−C2m−、−Cn2n−、−Cm’2m’−、−Cn’2n’−及び−C2k−は、それぞれ炭素数m、n、m’、n’又はkのアルキレン基を表す。該アルキレン基の好ましい態様として、m及びn、m’及びn’、又はkが上記の条件を満たす範囲内において、下記の直鎖のアルキレン基、又は、分岐がメチル基である分岐のアルキレン基が挙げられる。
【0051】
【化12】
【0052】
特に好ましい態様の一つとして、下記の直鎖のアルキレン基が挙げられる。
【0053】
【化13】
【0054】
上記一般式(2)で表される化合物の具体例を、下記に挙げる。
【0055】
q=0の場合:
【0056】
【化14】
【0057】
q=1であり、Qが酸素原子である場合:
【0058】
【化15】
【0059】
【化16】
【0060】
q=1であり、Qが硫黄原子である場合:
【0061】
【化17】
【0062】
【化18】
【0063】
上記一般式(3)で表される化合物の具体例を、下記に挙げる。
q=0の場合:
【0064】
【化19】
【0065】
q=1であり、Qが酸素原子である場合:
【0066】
【化20】
【0067】
【化21】
【0068】
q=1であり、Qが硫黄原子である場合:
【0069】
【化22】
【0070】
【化23】
【0071】
上記一般式(4)で表される化合物の具体例を、下記に挙げる。
【0072】
【化24】
【0073】
上記一般式(5)で表される化合物の具体例を、下記に挙げる。
【0074】
【化25】
【0075】
上記一般式(6)で表される化合物の具体例を、下記に挙げる。
【0076】
【化26】
【0077】
本発明の塩味増強剤のさらに好ましい態様の一つとして、下記一般式(2)’〜(6)’のいずれかで表される化合物またはその塩からなる塩味増強剤が例示される。
【0078】
【化27】
[式中、Q、q、m、n、m’、n’kは上記に同じ。]
【0079】
本発明の塩味増強剤の特に好ましい態様の一つとして、下記一般式(7)で表される化合物またはその塩からなる塩味増強剤が例示される。下記一般式(7)で表される化合物またはその塩からなる塩味増強剤は、塩味増強効果が特に高く、また、異味及び異臭が感知できない程度であるとの観点から、特に好ましい。
【0080】
【化28】
[式中、pは3〜5の整数を表す。]
上記一般式(7)で表される化合物の具体例を、下記に挙げる。
【0081】
【化29】
【0082】
合成方法
本発明の一般式(1)で表される化合物またはその塩は、例えば、下記のReaction Scheme-1(反応式−1)に準じて、1級アミン化合物(X)に、グアニジル化試薬(guanidinylation reagents)を反応させることにより合成することができる。
【0083】
【化30】
[式中、Rは前記に定義されるとおりである。]
【0084】
1級アミン化合物(X)は、公知の手法により合成をすることができる。無論、化合物(X)は、市販品を用いてもよい。
【0085】
グアニジル化試薬としては、公知のグアニジル化試薬を用いることができる。好適なグアニジル化試薬として、1,3-ビス(tert-ブトキシカルボニル)-2-(トリフルオロメチルスルホニル)グアニジン(1,3-Bis(tert-butoxycarbonyl)-2-(trifluoromethanesulfonyl)guanidine)(Goodman試薬)、1-アミジノピラゾール塩酸塩(1-Amidinopyrazole Hydrochloride)、N,N'-ビス(tert-ブトキシカルボニル)-1H-ピラゾール-1-カルボキサミジン(N,N'-Bis(tert-butoxycarbonyl)-1H-pyrazole-1-carboxamidine)、N,N'-ビス(カルボベンゾキシ)-1H-ピラゾール-1-カルボキサミジン(N,N'-Bis(carbobenzoxy)-1H-pyrazole-1-carboxamidine)等が例示されるが、これに限定されるものではない。グアニジル化試薬は、一般的に、化合物(X)1モル対して0.1モル程度〜過剰量、好ましくは0.8モル〜2.0モル程度用いる。
【0086】
Reaction Scheme-1に示す反応は、塩基の存在下で行うことが好ましい。用いることができる塩基としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチルピペラジン、N−メチルピペラジン、ピリジン等の3級アミンが挙げられるがこれらに限定されるものではない。塩基は、一般的に、化合物(X)1モル対して0.8モル〜過剰量、好ましくは1.0モル〜2.0モル程度用いる。
【0087】
Reaction Scheme-1に示す反応は、溶媒中で行うことができる。溶媒は、反応の進行を妨げるものでなければ、特に限定されるものではない。このような溶媒の具体例として、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。溶媒は1種でまたは2種以上を混合して用いることができる。あるいは、上記塩基が液体である場合は、該塩基が溶媒として用いられてもよい。
【0088】
反応式−1に示す反応の反応温度は、通常、0℃〜150℃、好ましくは15℃〜50℃程度である。反応式−1に示す反応の反応時間は、通常、0.1〜24時間程度である。
【0089】
1,3-ビス(tert-ブトキシカルボニル)-2-(トリフルオロメチルスルホニル)グアニジンなどの保護基が結合したグアニジル化試薬を用いる場合、保護基の脱保護を行う。脱保護反応は、例えば酸性条件下で行うことができる。酸性条件下の具体例として、塩酸、硫酸、トリフルオロ酢酸などの酸の存在下が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0090】
本発明の一般式(1)で表される化合物またはその塩は、下記のReaction Scheme-2(反応式−2)に準じて、1級アミン化合物(X)に、S−メチルイソチオ尿素またはその塩を反応させることにより合成することもできる。Reaction Scheme-1の合成方法において用いるグアニジル化試薬は高価であるため、Reaction Scheme-2に準じた合成方法はコストの観点でより好ましい。
【0091】
【化31】
[式中、Rは前記に定義されるとおりである。]
【0092】
S−メチルイソチオ尿素の塩としては、一般式(1)で表される化合物の合成を阻害しない限度において、特に限定されるものではない。例えば、有機酸の塩及び無機酸の塩が例示される。具体的には、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、トリクロロ酢酸塩、ギ酸塩が例示される。入手が容易であるとの観点からは、硫酸塩が好ましい。
【0093】
S−メチルイソチオ尿素またはその塩は、一般的に、化合物(X)1モルに対して0.1〜10モル程度、好ましくは0.5〜3.0モル程度用いる。
【0094】
Reaction Scheme-2に示す反応は無溶媒または溶媒中で行うことができる。溶媒は、反応の進行を妨げるものでなければ、特に限定されるものではない。溶媒の具体例として水が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0095】
Reaction Scheme-2に示す反応の反応温度は、通常、0〜200℃、好ましくは50〜150℃程度である。Reaction Scheme-2に示す反応の反応時間は、通常、10分〜24時間程度である。
【0096】
Reaction Scheme-2に示す反応においてS−メチルイソチオ尿素の塩を用いる場合、通常、生成物として一般式(1)で表される化合物の相当する塩が得られる。例えば、S−メチルイソチオ尿素硫酸塩を用いる場合、生成物として一般式(1)で表わされる化合物の硫酸塩が得られる。この場合、得られる一般式(1)で表される化合物の塩をそのまま用いてもよく、あるいは、必要に応じて、他の酸塩へと変換することができる。
【0097】
変換をするための手法は特に限定されるものではない。例えば、硫酸塩を塩酸塩へと変換する場合、硫酸塩をシリカゲル存在下、硫酸塩1モルに対して0.1〜100モル程度、好ましくは1〜10モル程度の塩化ナトリウム(NaCl)若しくは塩化カルシウム(CaCl)を加えることで塩酸塩と硫酸塩の混合物へと変換し、得られた混合物から硫酸塩と塩酸塩との物性の違い(例えば、溶媒への溶解性など。)を利用して塩酸塩のみを単離精製することができる。異なる態様においては、クロマトグラフィ法(例えば、シリカゲルを担体とするもの。)において、移動相として有機酸(例えば、酢酸、ギ酸など。)を含有する溶液を用いて溶出させることで相当する有機酸塩へと変換し、得られた有機酸塩を過剰量の塩酸とともに共沸を行うことで、塩酸塩へ変換することもできる。
【0098】
上記反応式−1に示す反応、反応式−2に示す反応により得られる生成物は、通常行なわれる手段により単離及び精製をすることができる。このような手段として、再結晶法、蒸留法、クロマトグラフィ法などが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0099】
かくして、一般式(1)で表される化合物またはその塩が製造される。上記化合物が合成されたことは、例えばH−NMR測定、13C−NMR測定、質量分析(例えば、MS−ESI(エレクトロスプレーイオン化質量分析)など)等の公知の手段により確認することができる。
【0100】
一般式(1)で表される化合物またはその塩を市販品として入手できる場合は、市販品を用いてもよい。
【0101】
本発明の塩味増強剤は、食塩の塩味を強く感じさせる塩味増強作用を発揮する。塩味増強作用は、官能試験により評価をすることができる。官能試験の例としては、所定濃度(例えば、0.7重量%)の食塩水溶液(対照)と、被験成分を含有した同濃度の食塩水溶液(試料A)との塩味強度を比較する方法が挙げられる。被験成分が塩味増強作用を有する場合、対照に比べて、試料Aは、より強い塩味が感じられる。
【0102】
また、塩味増強作用の評価にあたり、被験成分を含有した食塩水溶液(試料B)と試料Bより高い濃度の食塩水溶液群(対照群)の塩味強度を比較し、試料Bと同程度の塩味が感じられる食塩濃度を探索することで、塩味増強作用の定量を行うことができる。
【0103】
本発明の塩味増強剤が効果を発揮するためには、食塩を併用する必要がある。しかしながら、減塩が求められる調味料やスープなどの飲食品は、元々食塩を含有しているものがほとんどであるため、飲食品中に含有する食塩と共存することで塩味増強効果を発揮することが可能である。しかも本発明の塩味増強剤は従来の技術では問題とされていた異味及び異臭を伴うことがほとんどない。すなわち、飲食品において本発明の塩味増強剤と食塩とが共存することで、食塩含有量の低減と、食品の嗜好性を両立することができる。
【0104】
飲食品は特に限定されるものではないが、醤油、味噌、ソース、ケチャップ等の調味料、動植物タンパク加水分解物(HAP,HVP)、酵母エキス、アミノ酸、ペプチド等を主成分とする調味料、ダシのもとや麺つゆ、タレ、ルー、ドレッシング等の食品の味付けに用いる調味食品、麺類やパン、スナック菓子等の穀類加工品、ハムソーセージ、魚肉練製品等の蓄肉魚肉加工品、スープ、漬物、惣菜類等が挙げられる。また、飲食品には、熱湯や水を加えることで調理可能な即席食品(例えば、粉末および液体即席めん用スープ、即席のコンソメスープ、ポタージュスープ、中華スープ、味噌汁、吸い物、汁物タイプの即席麺など)が含まれる。
【0105】
本発明の塩味増強剤の飲食品への添加量は、特に限定されるものではない。減塩が求められる飲食品には、通常、喫食時濃度で0.2〜2.0重量%程度、特に0.5〜1.5重量%程度の食塩が添加されている。このような量で食品に含まれる食塩に対して、本発明の塩味増強剤は、例えば、喫食時に1ppm以上、好ましくは10ppm以上、特に好ましくは15ppm以上添加することで、塩味増強作用を発揮することができる。上限は特に限定されるものではないが、溶解性及び呈味性の観点から、20%以下、好ましくは5%以下とすることができる。
【0106】
本発明の塩味増強剤は、上記化合物のみの形態で提供されるものであっても、固形組成物または液体組成物の形態により提供されるものであってもよい。組成物として提供される場合は、塩味増強作用を妨げない範囲において、必要に応じて、賦形剤、色素、香料等の飲食品の製造に使用可能な添加剤を含有してもよい。
【0107】
本発明の塩味増強剤は、例えば上記化合物またはその塩からなる食品添加物として提供されてもよい。
【0108】
2.調味料、飲食品
本発明は、上記化合物またはその塩(本発明の塩味増強剤)を含む調味料をも提供する。
【0109】
上記化合物またはその塩は、上記「1.」欄に記載の本発明の塩味増強剤を指す。
【0110】
本発明の調味料は、上記化合物またはその塩を含むものであり、食品の味付けに用いることができる調味料であれば、特に限定されるものではない。具体的な態様としては、醤油、味噌、ソース、ケチャップ等、あるいは動植物タンパク加水分解物(HAP,HVP)、酵母エキス、アミノ酸、ペプチド等を主成分とする調味料、さらにはダシのもとや麺つゆ、タレ、ルー、ドレッシング等が挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0111】
上記化合物またはその塩は、塩化ナトリウム(食塩)と共存することで塩味増強効果を発揮するとの観点から、本発明の調味料の好ましい態様の一つとして、塩化ナトリウムを含む態様が挙げられる。このような態様には、上記化合物またはその塩(本発明の塩味増強剤)、及び、塩化ナトリウムからなる調味料、または、これに必要に応じて、賦形剤、色素、香料等の飲食品の製造に使用可能な添加剤を配合した調味料も包含される。
【0112】
本発明の調味料は、上記化合物またはその塩が、喫食時に1ppm以上、好ましくは10ppm以上、特に好ましくは15ppm以上となるように含むものであればよい。本発明の調味料が塩化ナトリウムを含む場合、塩化ナトリウムが、喫食時に0.1〜2.0重量%程度、特に0.3〜1.5重量%程度となるように含むものであればよい。
【0113】
本発明は、上記化合物またはその塩(本発明の塩味増強剤)を含む飲食品をも提供する。好ましい態様の一つとして、上記化合物またはその塩が、添加されたものである飲食品が挙げられる。ここで、「添加された」とは、上記化合物またはその塩が、飲食品の原料由来ではなく、別途添加されたものであることを指す。
【0114】
飲食品の具体的態様は特に限定されるものではない。具体的な飲食品としては、麺類やパン、スナック菓子等の穀類加工品、ハムソーセージ、魚肉練製品等の蓄肉魚肉加工品、スープ、漬物、惣菜類等が挙げられる。また、飲食品には、熱湯や水を加えることで調理可能な即席食品(例えば、粉末および液体即席めん用スープ、即席のコンソメスープ、ポタージュスープ、中華スープ、味噌汁、吸い物、汁物タイプの即席麺など)が含まれる。
【0115】
本発明の飲食品の好ましい態様の一つとして、塩化ナトリウムを含む態様が挙げられる。
【0116】
本発明の飲食品は、上記化合物またはその塩が、喫食時に1.0ppm以上、好ましくは10.0ppm以上、特に好ましくは15ppm以上となるように含むものであればよい。本発明の飲食品が塩化ナトリウムを含む場合、塩化ナトリウムが、喫食時に0.1〜2.0重量%程度、特に0.3〜1.5重量%程度となるように含むものであればよい。
【0117】
3.飲食品の塩味増強方法
本発明は、飲食品の塩味増強方法をも提供する。本発明の方法は、飲食品に、上記化合物またはその塩を添加する工程を含む。
【0118】
飲食品は、特に限定されるものではない。具体的な飲食品としては、上記「2.」欄に記載のものを用いることができる。好ましくは、塩化ナトリウム(食塩)を含むものである。
【0119】
上記化合物またはその塩とは、上記「1.」欄に記載の本発明の塩味増強剤を指す。
【0120】
上記化合物またはその塩の飲食品への添加の具体的手法は特に限定されるものではない。飲食品の調製中に原料の一つとして配合しても、喫食直前に飲食品に添加してもよい。上記化合物またはその塩の添加量は特に限定されるものではないが、その飲食品中の含有量が、喫食時に1ppm以上、好ましくは10ppm以上、特に好ましくは15ppm以上なるように添加する。
【0121】
かくして、飲食品の塩味が増強される。
【実施例】
【0122】
以下、実施例を示して本発明をより詳細に説明する。本発明は、これらに何ら限定されるものではない。
【0123】
なお、各測定は、以下に示す装置を用いて行った。
H−NMRおよび13C−NMR測定:Varian社製、Inova 500
MS−ESI測定:日本電子社製、JMS-T100LC AccuTOF。
【0124】
[合成例1]:4-グアニジノ-1-ブタノール塩酸塩(a)
【0125】
【化32】
4-アミノ-1-ブタノール(X-a)(1g, 11.2mmol)をジクロロメタン(25ml)に溶解し、トリエチルアミン(1.14g, 11.2mmol, 1.0等量)を加え室温で攪拌した。これにジクロロメタン(25ml)に溶解した1,3-Bis(tert-butoxycarbonyl)-2-(trifluoromethanesulfonyl)guanidine(3.95g, 10.1mmol, 0.9等量)を滴下し、さらに室温で1時間攪拌した。水を加え反応を停止した後、酢酸エチルで抽出、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒をエバポレーターで除去した後、シリカゲルクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル=10:1→2:1)で精製し、(a’)を白色粉末として3.32g(10.0mmol, 89.3%)得た。
【0126】
【化33】
(a’)(2.85g, 8.60mmol)を酢酸エチル10mlに溶解し、これに濃塩酸(10ml)を滴下し、室温で2時間攪拌した。メタノールとともに共沸した後、残渣を希塩酸で抽出、ジクロロメタンで洗浄した後、水層をメタノールとともに共沸することで白色粉末を得た。この白色粉末を酢酸エチルで洗い4-グアニジノ-1-ブタノール塩酸塩(a)を白色粉末として817mg(4.87mmol, 56.7%)得た。
【0127】
1H-NMR(CD3OD, 500MHz):δ=1.55-1.70(m, 4H), 3.21(t, 2H, J=7.0Hz), 3.58(t, 2H, J=7.0Hz)
13C-NMR(CD3OD, 125MHz):δ=26.5, 30.4, 42.3, 62.3, 158.5
MS-ESI(C5H14ON3Cl):2M+HCl+H : 299.21 (計算値: 299.20)。
【0128】
[合成例2]3-グアニジノ-1-プロパノール塩酸塩(b)
【0129】
【化34】
3-アミノ-1-プロパノール(x-b)(150mg, 2.00mmol)を用いて、酢酸エチルの洗浄を行わない以外は合成例1に準じて、3-グアニジノ-1-プロパノール塩酸塩(b)を無色油状物質として282.4mg(1.84mmol, 92.1%)得た。
【0130】
1H-NMR(CD3OD, 500MHz): δ=1.75(tt, 2H, J=6.0, 6.0Hz), 3.25(t, 2H, J=6.0Hz), 3.60(t, 2H, J=6.0Hz)
13C-NMR(CD3OD, 125MHz): δ=32.4, 39.5, 59.7, 158.8
MS-ESI(C4H12ON3Cl):2M+HCl+H : 271.17 (計算値: 271.17)。
【0131】
[合成例3]5-グアニジノ-1-ペンタノール塩酸塩(c)
【0132】
【化35】
5-アミノ-1-ペンタノール(x-c)(206mg, 2.00mmol)を用いて、酢酸エチルの洗浄を行わない以外は合成例1に準じて、5-グアニジノ-1-ペンタノール塩酸塩(c)を無色油状物質として250.0mg(1.38mmol, 68.9%)得た。
【0133】
1H-NMR(CD3OD, 500MHz): δ=1.40-1.48(m, 2H), 1.57(tt, 2H, J=6.8, 6.8Hz), 1.62(tt, 2H, J=6.8, 6.8Hz), 3.18(t, 2H, J=6.8Hz), 3.57(t, 2H, J=6.8Hz)
13C-NMR(CD3OD, 125MHz): δ=24.0, 29.6, 33.0, 42.4, 62.6, 158.6
MS-ESI(C6H16ON3Cl):2M+HCl+H : 327.24 (計算値: 327.23)。
【0134】
[合成例4]2-グアニジノエタノール塩酸塩(d)
【0135】
【化36】
2-アミノエタノール(x-d)(122mg, 2.00mmol)を用いて、酢酸エチルの洗浄を行わない以外は合成例1に準じて、2-グアニジノエタノール塩酸塩(d)を無色油状物質として247.5mg(1.77mmol, 88.8%)得た。
【0136】
1H-NMR(CD3OD, 500MHz): δ=3.33(t, 2H, J=5.1Hz), 3.69(t, 2H, J=5.1Hz)
13C-NMR(CD3OD, 125MHz): δ=45.1, 61.4, 159.3
MS-ESI(C3H10ON3Cl):2M+HCl+H : 243.13 (計算値: 243.13)。
【0137】
[合成例5]6-グアニジノ-1-ヘキサノール塩酸塩(e)
【0138】
【化37】
6-アミノ-1-ヘキサノール(x-e)(234mg, 2.00mmol)を用いて、酢酸エチルの洗浄を行わない以外は合成例1に準じて、6-グアニジノ-1-ヘキサノール塩酸塩(e)を無色油状物質として368.7mg(1.88mmol, 94.4%)得た。
【0139】
1H-NMR(CD3OD, 500MHz): δ=1.37-1.46(m, 4H), 1.52-1.58(m, 2H), 1.58-1.64(m, 2H), 3.19(t, 2H, J=6.6Hz), 3.55(t, 2H, J=6.6Hz)
13C-NMR(CD3OD, 125MHz): δ=26.5, 27.5, 29.8, 33.4, 42.4, 62.8, 158.6
MS-ESI(C7H18ON3Cl):2M+HCl+H : 355.26 (計算値: 355.26)。
【0140】
[合成例6](±)-1-グアニジノ-2-プロパノール塩酸塩(f)
【0141】
【化38】
(±)-1-アミノ-2-プロパノール(x-f)(400mg, 5.33mmol)を用いて、酢酸エチルの洗浄を行わない以外は合成例1に準じて、(±)-1-グアニジノ-2-プロパノール塩酸塩(f)を無色油状物質として435.2mg(2.83mmol, 53.2%)得た。
【0142】
1H-NMR(CD3OD, 500MHz): δ=1.19(d, 3H, J=6.9Hz), 3.09(dd, 1H, J=8.6, 12.8Hz), 3.23-3.32(m, 1H), 3.88-3.93(m, 1H)
13C-NMR(CD3OD, 125MHz): δ=20.7, 49.7, 67.1, 159.3。
【0143】
[合成例7](S)-2-グアニジノ-1-プロパノール塩酸塩(g)
【0144】
【化39】
(S)-(+)-2-アミノ-1-プロパノール(x-g)(400mg, 5.33mmol)を用いて、酢酸エチルの洗浄を行わない以外は合成例1に準じて、(S)-2-グアニジノ-1-プロパノール塩酸塩(g)を無色油状物質として432.9mg(2.82mmol, 52.9 %)得た。
【0145】
1H-NMR(CD3OD, 500MHz): δ=1.20(d, 3H, J=8.1Hz), 3.47(dd, 1H, J=8.1, 12.1Hz), 3.59-3.63(m, 1H), 3.64-3.70(m, 1H)
13C-NMR(CD3OD, 125MHz): δ=17.1, 51.3, 66.3, 158.6。
【0146】
[合成例8]3-グアニジノ-2,2-ジメチル-1-プロパノール塩酸塩(h)
【0147】
【化40】
3-アミノ-2,2-ジメチル-1-プロパノール(x-h)(100mg, 0.97mmol)を用いて、酢酸エチルの洗浄を行わない以外は合成例1に準じて、3-グアニジノ-2,2-ジメチル-1-プロパノール塩酸塩(h)を無色油状物質として120.1mg(0.66mmol, 68.2%)得た。
【0148】
1H-NMR(CD3OD, 500MHz):δ=0.93(s, 6H), 3.08(s, 2H), 3.32(s,2H)
13C-NMR(CD3OD, 125MHz):δ=22.6(×2), 37.4, 49.7, 68.8, 159.4
MS-ESI(C6H16ON3Cl):2M+HCl+H : 327.20 (計算値: 327.23)。
【0149】
[合成例9]2-(2-グアニジノエトキシ)エタノール塩酸塩(i)
【0150】
【化41】
2-(2-アミノエトキシ)エタノール(x-i)(400mg, 3.80mmol) を用いて、酢酸エチルの洗浄を行わない以外は合成例1に準じて、2-(2-グアニジノエトキシ)エタノール塩酸塩(i)を無色油状物質として577.8mg(3.15 mmol, 82.7 %)得た。
【0151】
1H-NMR(CD3OD, 500MHz):δ=3.39(t, 2H, J=5.0Hz), 3.59(t, 2H, J=5.0Hz), 3.63(t, 2H, J=5.0Hz), 3.69(t, 2H, J=5.0Hz)
13C-NMR(CD3OD, 125MHz):δ=43.0, 62.1, 70.5, 73.6, 159.2。
【0152】
[合成例10]2-(2-グアニジノエチルチオ)エタノール塩酸塩(j)
【0153】
【化42】
2-(2-アミノエチルチオ)エタノール(x-j)(400mg, 3.30mmol) を用いて、酢酸エチルの洗浄を行わない以外は合成例1に準じて、2-(2-グアニジノエチルチオ)エタノール塩酸塩(j)を無色油状物質として541.6mg(2.71mmol, 82.2%)得た。
【0154】
1H-NMR(CD3OD, 500MHz):δ=2.72(t, 2H, J=6.1Hz), 2.78(t, 2H, J=6.8Hz), 3.42(t, 2H, J=6.8Hz), 3.72(t, 2H, J=6.1Hz)
13C-NMR(CD3OD, 125MHz):δ=32.2, 35.3, 42.3, 62.7, 158.7。
【0155】
[合成例11](R)-3-グアニジノ-1,2-プロパンジオール塩酸塩(k)
【0156】
【化43】
(R)-3-アミノ-1,2-プロパンジオール(x-k)(400mg, 4.39mmol)を用いる以外は合成例1に準じて、(R)-3-グアニジノ-1,2-プロパンジオール塩酸塩(k)を白色粉末として628.5mg(3.71mmol, 84.4%)得た。
【0157】
1H-NMR(CD3OD, 500MHz):δ=3.24(dd, 1H, J=6.7, 14.1Hz), 3.37(dd, 1H, J=4.0, 14.1Hz), 3.51(dd, 1H, J=6.0, 12.1Hz), 3.56(dd, 1H, J=6.0, 12.1Hz), 3.74-3.80(m, 1H) 13C-NMR(CD3OD, 125MHz):δ=45.5, 64.4, 71.6, 159.5。
【0158】
[合成例12]1-グアニジノプロパン塩酸塩(l)
【0159】
【化44】
プロピルアミン(x-l)(300mg, 5.08mmol)を用い、酢酸エチルの洗浄を行わない以外は合成例1に準じて、1-グアニジノプロパン塩酸塩(l)を無色油状物質として597.2mg(4.34mmol, 85.5%)得た。
【0160】
1H-NMR(CD3OD, 500MHz):δ=0.98(t, 3H, J=7.7Hz), 1.61(tq, 2H, J=7.7, 7.7Hz), 3.15(t, 2H, J=7.7Hz)
13C-NMR(CD3OD, 125MHz):δ=11.5, 23.2, 44.0, 158.6
MS-ESI(C4H12N3Cl):2M+HCl+H : 239.14 (計算値: 239.18)。
【0161】
[合成例13]:S-メチルイソチオ尿素硫酸塩を使用した3-グアニジノ-1-プロパノール塩酸塩(b)の合成
【0162】
【化45】
3-アミノ-1-プロパノール(X-b)(150mg, 2.0mmol)を水(0.4ml)に溶解しS-メチルイソチオ尿素硫酸塩(278mg, 1.0mmol)を加え懸濁後、6時間加熱還流した。水および残存する3-アミノ-1-プロパノールをエバポレーターで除去することで3-グアニジノ-1-プロパノール硫酸塩(m)を油状の粗生成物として344mg得た。
【0163】
【化46】
3-グアニジノ-1-プロパノール硫酸塩(m)の粗生成物344mgに、3M NaCl水溶液 1.04mlを加え懸濁させた。得られた懸濁液にメタノール10mlを加え、さらにシリカゲル(ワコーゲルC-200)2.0gを加えたのち、エバポレーターを用いて溶媒を除きシリカゲルに試料を吸着させサンプルゲルとした。分離ゲル(ワコーゲルC-200)14.1gをアセトンに懸濁してガラスカラムに充填しこのカラムの上に上述のサンプルゲルを重層しアセトンを50ml流したのち、エタノールを200ml流すことで溶出したエタノール層をエバポレーターで乾固することで、3-グアニジノ-1-プロパノール塩酸塩(b)を無色油状物質として241mg(1.57mmol, 78.5%)得た。
【0164】
得られた無色油状物質の1H-NMR及び13C-NMRのデータはいずれも合成例2で得られた3-グアニジノ-1-プロパノール塩酸塩(b)と一致した。
【0165】
[合成例14]3-グアニジノ-1-プロパノール硫酸塩(m)
粗3-グアニジノ-1-プロパノール硫酸塩(m) 344mg、にメタノール10mlを加え、さらにシリカゲル(ワコーゲルC-200)2.0gを加えたのち、エバポレーターを用いて溶媒を除きシリカゲルに試料を吸着させサンプルゲルとした。分離ゲル(ワコーゲルC-200)14.1gをアセトンに懸濁してガラスカラムに充填のカラムの上に上述のサンプルゲルを重層しアセトン50ml、エタノール50mlを流したのちメタノール200mlを流すことで溶出したメタノール層をエバポレーターで乾固することで、3-グアニジノ-1-プロパノール硫酸塩(m)を無色油状物質として235mg(1.41mmol,70.5%)を得た。
【0166】
1H-NMR (CD3OD、500MHz) :δ=1.79(tt, 2H, J=6.0, 6.0Hz), 3.27(t, 2H, J=6.0Hz), 3.63(t, 2H, J=6.0Hz)
13C-NMR (CD3OD、125MHz) :δ=32.5, 39.2, 59.6, 158.9
【0167】
[実施例1]官能評価
合成例1〜11及び合成例14で合成した化合物、並びに、市販品を入手したグアニジン塩酸塩、β-グアニジノプロパン酸、γ-グアニジノ酪酸及び6-グアニジノカプロン酸を評価試料として、塩味増強作用を評価した。
【0168】
評価試料及び塩化ナトリウム(食塩)を蒸留水に溶解し、評価試料を0.150重量%及び塩化ナトリウムを0.700重量%含有する水溶液を作成し、評価溶液とした。また、塩化ナトリウムを0.700重量%、0.735重量%、0.770重量%、0.805重量%、及び0.840%含有する溶液を比較対象とした。
【0169】
評価試料のそれぞれについて、下記の基準に基づき官能評価を行った。
【0170】
++++:0.840重量%の食塩水と同等またはこれ以上の塩味を呈する(20%以上の塩味増強効果を示す);
+++:0.805重量%の食塩水と同等またはこれ以上の塩味を呈する(15%以上の塩味増強効果を示す);
++:0.770重量%の食塩水と同等またはこれ以上の塩味を呈する(10%以上の塩味増強効果を示す);
+:0.735重量%の食塩水と同等またはこれ以上の塩味を呈する(5%以上の塩味増強効果を示す);
±:0.735重量%の食塩水以下の塩味を呈する(塩味増強効果は5%未満)、または、苦味等により評価不能。
【0171】
結果を、表1及び表2に示す。
【0172】
【表1】
【0173】
【表2】
以上の結果より、本発明の塩味増強剤が、塩味増強作用を有することが示された。
【0174】
[実施例2]官能評価
合成例2で得た3-グアニジノ-1-プロパノール塩酸塩について、添加濃度と塩味増強作用の関係を評価した。
【0175】
3-グアニジノ-1-プロパノール塩酸塩及び塩化ナトリウム(食塩)を蒸留水に溶解し、3-グアニジノ-1-プロパノール塩酸塩を1.5ppm(0.00015重量%)、15ppm(0.0015重量%)、150ppm(0.015重量%)、若しくは1500ppm(0.15重量%)、及び塩化ナトリウムを0.700重量%含有する水溶液を作成し、評価溶液とした。また、塩化ナトリウムを0.700重量%、0.735重量%、0.770重量%、0.805重量%、及び0.840重量%含有する溶液を比較対象とした。
【0176】
評価試料のそれぞれについて、下記の基準に基づき官能評価を行った。
++++:0.840重量%の食塩水と同等またはこれ以上の塩味を呈する(20%以上の塩味増強効果を示す);
+++:0.805重量%の食塩水と同等またはこれ以上の塩味を呈する(15%以上の塩味増強効果を示す);
++:0.770重量%の食塩水と同等またはこれ以上の塩味を呈する(10%以上の塩味増強効果を示す);
+:0.735重量%の食塩水と同等またはこれ以上の塩味を呈する(5%以上の塩味増強効果を示す);
±:0.735重量%の食塩水以下の塩味を呈する(塩味増強効果は5%未満)。
【0177】
結果を、表3に示す。
【0178】
【表3】
以上の結果より、3-グアニジノ-1-プロパノール塩酸塩は、15ppmの添加濃度以上で、塩味増強作用を奏し、その効果は濃度依存的であることが明らかとなった。
【0179】
[実施例3]飲食品中での塩味増強効果の評価
合成例2で得た3-グアニジノ-1-プロパノール塩酸塩について、飲食品中での塩味増強効果を評価した。
【0180】
下記表4に従い原材料を調合した(粉末そばスープ)。これを1000mlの熱湯に溶解して、対照配合及び減塩配合の飲食品(即席めん用そばスープ)を得た。対照配合スープ及び減塩配合スープのナトリウム(Na)換算での塩分濃度は、それぞれ1.02%及び0.76%である。従って、減塩配合は対照配合に比して、25%減塩したものである。
【0181】
【表4】
減塩配合スープに、合成例2で得た3-グアニジノ-1-プロパノール塩酸塩を、濃度が0.1重量%、0.15重量%及び0.20重量%で添加し、試料1〜3とした。試料1〜3について、対照配合スープ及び減塩配合スープとの2点比較により官能試験を実施した。
【0182】
官能試験の結果を表5に示す。
【0183】
【表5】
表5に示す通り、塩味増強効果は3-グアニジノ-1-プロパノール塩酸塩の濃度に依存的に向上し、0.2重量%の添加で、即席めん用そばスープにおいて25%の塩味増強効果を示すことが認められた。また、3-グアニジノ-1-プロパノール塩酸塩を0.2重量%の添加した場合において、顕著な異味や異臭は認められなかった。
【0184】
以上の結果より、3-グアニジノ-1-プロパノール塩酸塩は、0.2重量%の添加濃度で、少なくとも25%の塩味増強効果を飲食品においても発揮することが明らかとなった。