特許第6352502号(P6352502)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6352502膜厚測定方法、窒化物半導体積層物の製造方法および窒化物半導体積層物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6352502
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】膜厚測定方法、窒化物半導体積層物の製造方法および窒化物半導体積層物
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/66 20060101AFI20180625BHJP
   G01B 11/06 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   H01L21/66 P
   G01B11/06 G
【請求項の数】5
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2017-124943(P2017-124943)
(22)【出願日】2017年6月27日
【審査請求日】2018年1月23日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、環境省、未来のあるべき社会・ライフスタイルを創造する技術イノベーション事業「高品質GaN基板を用いた超高効率GaNパワー・光デバイスの技術開発とその実証」に係る委託業務、産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515131378
【氏名又は名称】株式会社サイオクス
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】堀切 文正
【審査官】 安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−139084(JP,A)
【文献】 特開2016−160151(JP,A)
【文献】 特開2014−084263(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/059670(WO,A1)
【文献】 特開2003−065724(JP,A)
【文献】 BOZDOG, C. et al.,FTIR Measurements of Thickness and Free Carrier Concentration in GaN-Based Films,PHYSICA STATUS SOLIDI C:Conferences,2002年,Issue.1,pp.443-447
【文献】 HORIKIRI, Fumimasa et al.,Nondestructive measurement of homoepitaxially grown GaN film thickness with Fourier transform infrared spectroscopy,JAPANESE JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,2017年10月27日,Vol.56,pp.120301
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
G01B 11/06
H01L 21/20−205
C30B 29/38
C23C 16/34
G01N 21/27
G01N 21/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物半導体の結晶からなる基板上に薄膜がホモエピタキシャル成長されてなる窒化物半導体積層物における前記薄膜の膜厚を測定する膜厚測定方法であって、
前記基板として、当該基板の主面における転位密度が5×10個/cm以下であり、当該基板中の酸素の濃度が1×1017at・cm−3未満であり、当該基板中のn型不純物以外の不純物の濃度が1×1017at・cm−3未満であるものを用い、
前記薄膜の膜厚を、フーリエ変換赤外分光法または赤外分光エリプソメトリ法を利用して測定する
膜厚測定方法。
【請求項2】
前記基板は、
波長をλ(μm)、27℃における前記基板の吸収係数をα(cm−1)、前記基板中のキャリア濃度をN(cm−3)、Kおよびaをそれぞれ定数としたときに、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲における前記吸収係数αが、最小二乗法で以下の式(1)により近似され
波長2μmにおいて、前記式(1)から求められる前記吸収係数αに対する、実測される前記吸収係数の誤差は、±0.1α以内である
請求項1に記載の膜厚測定方法。
α=NKλ ・・・(1)
(ただし、2.0×10−19≦K≦6.0×10−19、a=3)
【請求項3】
前記式(1)を満足する前記基板についての誘電関数モデルを特定した上で、特定した誘電関数モデルに基づき前記基板が単体のときの反射スペクトルを演算処理により求め、
求めた前記反射スペクトルを前記フーリエ変換赤外分光法または前記赤外分光エリプソメトリ法により膜厚測定を行う際のリファレンスとして用いる
請求項2に記載の膜厚測定方法。
【請求項4】
前記III族窒化物半導体の結晶が窒化ガリウムの結晶である
請求項1から3のいずれか1項に記載の膜厚測定方法。
【請求項5】
III族窒化物半導体の結晶からなる基板上に薄膜がホモエピタキシャル成長されてなる窒化物半導体積層物の製造方法であって、
前記基板として、当該基板の主面における転位密度が5×10個/cm以下であり、当該基板中の酸素の濃度が1×1017at・cm−3未満であり、当該基板中のn型不純物以外の不純物の濃度が1×1017at・cm−3未満であるものを用い、当該基板上に前記薄膜をホモエピタキシャル成長させる成長工程と、
前記基板上に形成された前記薄膜の膜厚を測定する測定工程と、
を備え、
前記測定工程では、前記薄膜の膜厚を、フーリエ変換赤外分光法または赤外分光エリプソメトリ法を利用して測定する
窒化物半導体積層物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜厚測定方法、窒化物半導体積層物の製造方法および窒化物半導体積層物に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上にホモエピタキシャル成長されてなる半導体結晶の薄膜について、非接触および非破壊で膜厚測定を行える手法として、フーリエ変換赤外分光法(FT−IR法)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−120404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、窒化ガリウム(GaN)に代表されるIII族窒化物半導体の結晶については、これまで転位散乱による影響が大きく、特に1×1017cm‐3以下の低キャリア濃度における赤外域(IR)の吸収係数の差が無かったため、基板と同一組成の結晶からなるホモエピタキシャル膜の場合、原理的に膜厚測定が困難である。
【0005】
本発明は、III族窒化物半導体結晶のホモエピタキシャル膜について、例えば1×1017cm‐3以下の低キャリア濃度の場合であっても、FT−IR法等を利用した膜厚測定を行うことを可能にする膜厚測定方法、窒化物半導体積層物の製造方法および窒化物半導体積層物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、
III族窒化物半導体の結晶からなる基板上に薄膜がホモエピタキシャル成長されてなる窒化物半導体積層物における前記薄膜の膜厚を測定する膜厚測定方法であって、
前記基板として、当該基板におけるキャリア濃度と赤外域の吸収係数との間に依存性を有するものを用い、
前記薄膜の膜厚を、フーリエ変換赤外分光法または赤外分光エリプソメトリ法を利用して測定する
膜厚測定方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、III族窒化物半導体結晶のホモエピタキシャル膜について、例えば1×1017cm‐3以下の低キャリア濃度の場合であっても、キャリア濃度に依存してIRの吸収係数に違いが生じるようになり、FT−IR法等を利用した膜厚測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体積層物1の概略構成例を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体積層物における基板10の構成例を示す図であり、(a)は概略平面図、(b)は概略断面図である。
図3】ウィーンの変位則を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係る製造方法によって製造されるGaN結晶における室温(27℃)で測定した吸収係数の、自由電子濃度依存性を示す図である。
図5】GaN結晶の温度に対する、真性キャリア濃度を示す図である。
図6】(a)は、本発明の一実施形態に係る製造方法によって製造されるGaN結晶における自由電子濃度に対する波長2μmでの吸収係数の関係を示す図であり、(b)は、自由電子濃度に対する波長2μmでの吸収係数の関係を比較する図である。
図7】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体積層物1の製造方法の概略手順を示すフロー図である。
図8】気相成長装置200の概略構成図である。
図9】(a)は、種結晶基板5上にGaN結晶膜6を厚く成長させた様子を示す図であり、(b)は、厚く成長させたGaN結晶膜6をスライスすることで複数の窒化物結晶基板10を取得した様子を示す図である。
図10】(a)は、窒化物結晶基板10または半導体積層物1が載置される保持部材300を示す概略上面図であり、(b)は、窒化物結晶基板10または半導体積層物1が載置される保持部材300を示す概略正面図である。
図11】本発明の一実施形態に係る膜厚測定方法の手順の一例を示すフロー図である。
図12】(a)は、多層膜の光学モデルの一例を示す模式図であり、(b)は、(a)を簡略化した光学モデルの一例を示す模式図である。
図13】ドルーデモデルによる屈折率nおよび消衰係数kについての演算結果の一具体例を示す説明図であり、(a)はエピ層についての演算結果を示す図、(b)は基板についての演算結果を示す図である。
図14】ローレンツ−ドルーデモデルによる屈折率nおよび消衰係数kについての演算結果の一具体例を示す説明図であり、(a)はエピ層についての演算結果を示す図、(b)は基板についての演算結果を示す図である。
図15】垂直入射(θi=0°)の場合の反射スペクトルについての演算結果の一具体例を示す説明図であり、(a)はドルーデモデルに関する反射スペクトルを示す図、(b)はローレンツ−ドルーデモデルに関する反射スペクトルを示す図である。
図16】非垂直入射(θi=30°)の場合の反射スペクトルについての演算結果の一具体例を示す説明図であり、(a)はドルーデモデルに関する反射スペクトルを示す図、(b)はローレンツ−ドルーデモデルに関する反射スペクトルを示す図である。
図17】FT−IR測定装置50の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0010】
(1)窒化物半導体積層物1の構成
先ず、本実施形態に係る窒化物半導体積層物1の構成例を説明する。
【0011】
本実施形態で例に挙げて説明する窒化物半導体積層物1は、例えば、ショットキーバリアダイオード(SBD)としての半導体装置を製造する際に基体として用いられる基板状の構造体である。半導体装置の基体として用いられることから、以下、窒化物半導体積層物1のことを「中間体」または「中間前駆体」ということもある。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係る窒化物半導体積層物(中間体)1は、少なくとも、基板10と、その基板10上に形成された薄膜である半導体層20と、を備えて構成されている。
【0013】
(1−i)基板10の詳細構成
続いて、窒化物半導体積層物(中間体)1を構成する基板10について詳しく説明する。なお、以下において、基板等の主面は、主に基板等の上側主面のことをいい、基板等の表面ということもある。また、基板等の裏面は、基板等の下側主面のことをいう。
【0014】
図2に示すように、基板10は、円板状に形成されており、III族窒化物半導体の単結晶、具体的には例えば窒化ガリウム(GaN)の単結晶からなるものである。
【0015】
基板10の主面の面方位は、例えば、(0001)面(+c面、Ga極性面)である。ただし、例えば、000−1面(−c面、N極性面)であっても良い。
なお、基板10を構成するGaN結晶は、基板10の主面に対して所定のオフ角を有していても良い。オフ角とは、基板10の主面の法線方向と、基板10を構成するGaN結晶の主軸(c軸)とのなす角度のことをいう。具体的には、基板10のオフ角は、例えば、0°以上1.2°以下である。また、これよりも大きく、2°以上4°以下とすることも考えられる。さらには、例えば、a方向およびm方向のそれぞれにオフ角を有する、いわゆるダブルオフであっても良い。
【0016】
また、基板10の主面における転位密度は、例えば、5×10個/cm以下である。基板10の主面における転位密度が5×10個/cm超であると、基板10上に形成される後述の半導体層20において局所的な耐圧を低下させてしまう可能性がある。これに対して、本実施形態のように、基板10の主面における転位密度を5×10個/cm以下とすることにより、基板10上に形成される半導体層20において局所的な耐圧の低下を抑制することができる。
【0017】
なお、基板10の主面は、エピレディ面であり、基板10の主面の表面粗さ(算術平均粗さRa)は、例えば、10nm以下、好ましくは5nm以下である。
【0018】
また、基板10の直径Dは、特に制限されるものではないが、例えば、25mm以上である。基板10の直径Dが25mm未満であると、その基板10を用いて半導体装置を製造する際の生産性が低下しやすくなる。このため、基板10の直径Dは、25mm以上であることが好ましい。また、基板10の厚さTは、例えば、150μm以上2mm以下である。基板10の厚さTが150μm未満であると、基板10の機械的強度が低下し自立状態の維持が困難となる可能性がある。このため、基板10の厚さTは、150μm以上とすることが好ましい。ここでは、例えば、基板10の直径Dが2インチとし、基板10の厚さTを400μmとする。
【0019】
また、基板10は、例えば、n型不純物(ドナー)を含んでいる。基板10中に含まれるn型不純物としては、例えば、シリコン(Si)およびゲルマニウム(Ge)が挙げられる。また、n型不純物としては、SiおよびGeの他に、例えば、酸素(O)、OおよびSi、OおよびGe、O並びにSiおよびGe等が挙げられる。基板10中にn型不純物がドーピングされていることにより、基板10中には、所定濃度の自由電子が生成されている。
【0020】
(吸収係数等について)
本実施形態において、基板10は、赤外域の吸収係数について所定の要件を満たしている。これにより、基板10は、詳細を後述するように、基板10におけるキャリア濃度と赤外域の吸収係数との間に依存性を有するものとなる。
以下、詳細を説明する。
【0021】
窒化物半導体積層物1を製造する際やその窒化物半導体積層物1を用いて半導体装置を製造する際等には、例えば、後述のように、基板10上に半導体層20をエピタキシャル成長させる工程や、該半導体層20中の不純物を活性化させる工程などのように、該基板10を加熱する工程が行われることがある。例えば、基板10に対して赤外線を照射して基板10を加熱する場合には、基板10の吸収係数に基づいて加熱条件を設定することが重要となる。
【0022】
ここで、図3は、ウィーンの変位則を示す図である。図3において、横軸は黒体温度(℃)を示し、縦軸は黒体輻射のピーク波長(μm)を示している。図3に示すウィーンの変位則によれば、黒体温度に対して黒体輻射のピーク波長が反比例する。ピーク波長をλ(μm)、温度をT(℃)としたとき、λ=2896/(T+273)との関係を有する。基板10を加熱する工程における所定の加熱源からの輻射が黒体輻射であると仮定すると、加熱温度に対応するピーク波長を有する赤外線が、加熱源から基板10に対して照射されることとなる。例えば、温度が約1200℃のときに、赤外線のピーク波長λは2μmとなり、温度が約600℃のときに、赤外線のピーク波長λは3.3μmとなる。
【0023】
このような波長を有する赤外線を基板10に照射すると、基板10では、自由電子による吸収(自由キャリア吸収)が生じ、これにより、基板10が加熱されることとなる。
【0024】
そこで、本実施形態では、基板10の自由キャリア吸収に基づいて、基板10における赤外域の吸収係数が、以下の所定の要件を満たしている。
【0025】
図4は、本実施形態に係る製造方法によって製造されるGaN結晶における室温(27℃)で測定した吸収係数の、自由電子濃度依存性を示す図である。なお、図4は、後述の製造方法によってSiをドープして製造されるGaN結晶からなる基板の測定結果を示している。図4において、横軸は波長(nm)を示し、縦軸はGaN結晶の吸収係数α(cm−1)を示している。また、GaN結晶中の自由電子濃度をNとし、所定の自由電子濃度NごとにGaN結晶の吸収係数αをプロットしている。図4に示すように、後述の製造方法によって製造されるGaN結晶では、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲において、自由キャリア吸収に起因して、長波長に行くにしたがってGaN結晶における吸収係数αが大きくなる(単調に増加する)傾向を示す。また、GaN結晶中の自由電子濃度Nが高くなるにしたがって、GaN結晶における自由キャリア吸収が大きくなる傾向を示す。
【0026】
本実施形態の基板10は、後述の製造方法によって製造されたGaN結晶からなっているため、結晶歪みが小さく、また、酸素(O)やn型不純物以外の不純物(例えば、n型不純物を補償する不純物等)をほとんど含んでいない状態となっている。これにより、上記図4のような吸収係数の自由電子濃度依存性を示す。その結果、本実施形態の基板10では、以下のように、赤外域の吸収係数を自由キャリア濃度および波長の関数として近似することができる。
【0027】
具体的には、波長をλ(μm)、27℃における基板10の吸収係数をα(cm−1)、基板10中の自由電子濃度をN(cm−3)、Kおよびaをそれぞれ定数としたときに、本実施形態の基板10では、少なくとも1μm以上3.3μm以下(好ましくは1μm以上2.5μm以下)の波長範囲における吸収係数αが、以下の式(1)により近似される。
α=NKλ ・・・(1)
(ただし、1.5×10−19≦K≦6.0×10−19、a=3)
【0028】
なお、「吸収係数αが式(1)により近似される」とは、吸収係数αが最小二乗法で式(1)により近似されることを意味する。つまり、上記規定は、吸収係数が式(1)と完全に一致する(式(1)を満たす)場合だけでなく、所定の誤差の範囲内で式(1)を満たす場合も含んでいる。なお、所定の誤差は、例えば、波長2μmにおいて±0.1α以内、好ましくは±0.01α以内である。
【0029】
なお、上記波長範囲における吸収係数αは、以下の式(1)’を満たすと考えてもよい。
1.5×10−19λ≦α≦6.0×10−19λ ・・・(1)’
【0030】
また、上記規定を満たす基板10のなかでも特に結晶歪みが極めて小さく非常に高純度(すなわち低不純物濃度)の基板では、上記波長範囲における吸収係数αは、以下の式(1)’’により近似される(式(1)’’を満たす)。
α=2.2×10−19λ ・・・(1)’’
【0031】
なお、「吸収係数αが式(1)’により近似される」との規定は、上述の規定と同様に、吸収係数が式(1)’と完全に一致する(式(1)’を満たす)場合だけでなく、所定の誤差の範囲内で式(1)’を満たす場合も含んでいる。なお、所定の誤差は、例えば、波長2μmにおいて±0.1α以内、好ましくは±0.01α以内である。
【0032】
上述の図4では、後述の製造方法によって製造されるGaN結晶における吸収係数αの実測値を細線で示している。具体的には、自由電子濃度Nが1.0×1017cm−3のときの吸収係数αの実測値を細い実線で示し、自由電子濃度Nが1.2×1018cm−3のときの吸収係数αの実測値を細い点線で示し、自由電子濃度Nが2.0×1018cm−3のときの吸収係数αの実測値を細い一点鎖線で示している。一方で、上述の図4では、上記式(1)の関数を太線で示している。具体的には、自由電子濃度Nが1.0×1017cm−3のときの式(1)の関数を太い実線で示し、自由電子濃度Nが1.2×1018cm−3のときの式(1)の関数を太い点線で示し、自由電子濃度Nが2.0×1018cm−3のときの式(1)の関数を太い一点鎖線で示している。図4に示すように、後述の製造方法によって製造されるGaN結晶における吸収係数αの実測値は、式(1)の関数によって精度良くフィッティングすることができる。なお、図4の場合(Siドープの場合)では、K=2.2×10−19としたときに、吸収係数αが式(1)に精度良く近似される。
【0033】
このように、基板10の吸収係数が式(1)により近似されることにより、基板10の吸収係数を、基板10中の自由電子の濃度Nに基づいて精度良く設計することができる。
【0034】
また、本実施形態では、例えば、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲において、基板10の吸収係数αは、以下の式(2)を満たす。
0.15λ≦α≦6λ ・・・(2)
【0035】
α<0.15λであると、基板10に対して赤外線を充分に吸収させることができず、基板10の加熱が不安定となる可能性がある。これに対し、0.15λ≦αとすることにより、基板10に対して赤外線を充分に吸収させることができ、基板10を安定的に加熱することができる。一方で、6λ<αであると、後述のように基板10中のn型不純物の濃度が所定値超(1×1019at・cm−3超)であることに相当し、基板10の結晶性が低下する可能性がある。これに対し、α≦6λとすることにより、基板10中のn型不純物の濃度が所定値以下であることに相当し、基板10の良好な結晶性を確保することができる。
【0036】
なお、基板10の吸収係数αは、以下の式(2)’または(2)’’を満たすことが好ましい。
0.15λ≦α≦3λ ・・・(2)’
0.15λ≦α≦1.2λ ・・・(2)’’
これにより、基板10を安定的に加熱可能としつつ、基板10のより良好な結晶性を確保することができる。
【0037】
また、本実施形態では、例えば、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲において、基板10の主面内での吸収係数αの最大値と最小値との差(最大値から最小値を引いた差。以下、「基板10の面内吸収係数差」ともいう)をΔαとしたとき、Δα(cm−1)は、式(3)を満たす。
Δα≦1.0 ・・・(3)
Δα>1.0であると、赤外線の照射による加熱効率が基板10の主面内で不均一となる可能性がある。これに対し、Δα≦1.0とすることにより、赤外線の照射による加熱効率を基板10の主面内で均一にすることができる。
【0038】
なお、Δαは、式(3)’を満たすことが好ましい。
Δα≦0.5 ・・・(3)’
Δα≦0.5とすることにより、赤外線の照射による加熱効率を基板10の主面内で安定的に均一にすることができる。
【0039】
上記吸収係数αおよびΔαに関する式(2)および(3)の規定は、例えば、波長2μmにおける規定に置き換えることができる。
【0040】
すなわち、本実施形態では、例えば、基板10における波長2μmでの吸収係数は、1.2cm−1以上48cm−1以下である。なお、基板10における波長2μmでの吸収係数は、1.2cm−1以上24cm−1以下であることが好ましく、1.2cm−1以上9.6cm−1以下であることがより好ましい。
【0041】
また、本実施形態では、例えば、基板10の主面内における、波長2μmでの吸収係数の最大値と最小値との差は、1.0cm−1以内、好ましくは0.5cm−1以内である。
【0042】
なお、基板10の面内吸収係数差の上限値について記載したが、基板10の面内吸収係数差の下限値は、小さければ小さいほどよいため、ゼロであることが好ましい。なお、基板10の面内吸収係数差が0.01cm−1であっても、本実施形態の効果を充分に得ることができる。
【0043】
ここでは、温度が約1200℃であるときの赤外線のピーク波長に相当する波長2μmにおいて、基板10の吸収係数の要件を規定した。しかしながら、基板10の吸収係数について上記要件を満たすことによる効果は、温度が約1200℃であるときに限定されるものではない。というのも、加熱源から照射される赤外線のスペクトルは、ステファン−ボルツマンの法則に従って所定の波長幅を有し、温度が1200℃以外であったとしても波長2μmの成分を有している。このため、温度が1200℃に相当する波長2μmにおいて基板10の吸収係数が上記要件を満たせば、温度が1200℃以外に相当する波長においても、基板10の吸収係数や、基板10の主面内における吸収係数の最大値と最小値との差は、所定の範囲内となる。これにより、温度が1200℃以外であったとしても、基板10を安定的に加熱するとともに、基板10に対する加熱効率を主面内で均一にすることができる。
【0044】
ところで、上述の図4は、GaN結晶の吸収係数を室温(27℃)で測定した結果である。このため、基板10を加熱する工程での所定の温度条件下における基板10の吸収係数を考える場合には、所定の温度条件下におけるGaN結晶の自由キャリア吸収が、室温の温度条件下におけるGaN結晶の自由キャリア吸収に対してどのように変化するのかを考慮する必要がある。
【0045】
図5は、GaN結晶の温度に対する、真性キャリア濃度を示す図である。図5に示すように、基板10を構成するGaN結晶では、温度が高くなるにつれて、バンド間(価電子帯と伝導帯との間)で熱励起される真性キャリア濃度Nの濃度が高くなる。しかしながら、たとえGaN結晶の温度が1300℃付近となったとしても、GaN結晶のバンド間で熱励起される真性キャリア濃度Nの濃度は、7×1015cm−3未満であり、n型不純物のドーピングによってGaN結晶中に生成される自由キャリアの濃度(例えば1×1017cm−3)よりも充分に低い。すなわち、GaN結晶の自由キャリア濃度は、GaN結晶の温度が1300℃未満の温度条件下で、n型不純物のドーピングによって自由キャリア濃度が定まる、いわゆる外因性領域内となっていると言える。
【0046】
つまり、本実施形態では、少なくとも後述の半導体積層物1および半導体装置2の製造工程での温度条件下(室温(27℃)以上1250℃以下の温度条件下)において基板10のバンド間で熱励起される真性キャリアの濃度が、室温の温度条件下においてn型不純物のドーピングによって基板10中に生じる自由電子の濃度よりも低い(例えば1/10倍以下)。これにより、基板10を加熱する工程での所定の温度条件下での基板10の自由キャリア濃度が、室温の温度条件下での基板10の自由キャリア濃度とほぼ等しいと考えることができ、所定の温度条件下での自由キャリア吸収が、室温での自由キャリア吸収とほぼ等しいと考えることができる。つまり、上述したように、室温において、基板10における赤外域の吸収係数が上記所定の要件を満たす場合、所定の温度条件下においても、基板10における赤外域の吸収係数が上記所定の要件をほぼ維持していると考えることができる。
【0047】
また、本実施形態の基板10では、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲における吸収係数αが式(1)により近似されることから、所定の波長λでは、基板10の吸収係数αは、自由電子濃度Nに対してほぼ比例する関係を有している。
【0048】
図6(a)は、本実施形態に係るに係る製造方法によって製造されるGaN結晶における自由電子濃度に対する波長2μmでの吸収係数の関係を示す図である。図6(a)において、下側の実線(α=1.2×10−18n)は、K=1.5×10−19およびλ=2.0を式(1)に代入した関数であり、上側の実線(α=4.8×10−18n)は、K=6.0×10−19およびλ=2.0を式(1)に代入した関数である。また、図6(a)では、SiをドープしたGaN結晶だけでなく、GeをドープしたGaN結晶も示している。また、透過測定により吸収係数を測定した結果と、分光エリプソメトリ法により吸収係数を測定した結果とを示している。図6(a)に示すように、波長λを2.0μmとしたとき、後述の製造方法によって製造されるGaN結晶の吸収係数αは、自由電子濃度Nに対してほぼ比例する関係を有している。また、後述の製造方法によって製造されるGaN結晶における吸収係数αの実測値は、1.5×10−19≦K≦6.0×10−19の範囲内で、式(1)の関数によって精度良くフィッティングすることができる。なお、後述の製造方法によって製造されるGaN結晶は高純度(すなわち低不純物濃度)で、かつ、熱物性および電気特性が良好であるため、吸収係数αの実測値は、K=2.2×10−19としたときの式(1)の関数、すなわち、α=1.8×10−18nによって精度よくフィッティングすることができる場合が多い。
【0049】
本実施形態では、上記した基板10の吸収係数αが自由電子濃度Nに対して比例することに基づいて、基板10中における自由電子濃度Nが、以下の所定の要件を満たしている。
【0050】
本実施形態では、例えば、基板10中における自由電子濃度Nは、1.0×1018cm−3以上1.0×1019cm−3以下である。これにより、式(1)より、基板10における波長2μmでの吸収係数を1.2cm−1以上48cm−1以下とすることができる。なお、基板10中における自由電子濃度Nは、1.0×1018cm−3以上5.0×1018cm−3以下であることが好ましく、1.0×1018cm−3以上2.0×1018cm−3以下であることがより好ましい。これにより、基板10における波長2μmでの吸収係数を、好ましくは1.2cm−1以上24cm−1以下とし、より好ましくは1.2cm−1以上9.6cm−1以下とすることができる。
【0051】
また、上述のように基板10の主面内における吸収係数αの最大値と最小値との差をΔαとし、基板10の主面内における自由電子濃度Nの最大値と最小値との差をΔNとし、波長λを2.0μmしたとき、式(1)を微分することにより、以下の式(4)が求められる。
Δα=8KΔN ・・・(4)
【0052】
本実施形態では、例えば、基板10の主面内における自由電子濃度Nの最大値と最小値との差ΔNは、8.3×1017cm−3以内、好ましくは4.2×1017cm−3以内である。これにより、式(4)より、波長2μmでの吸収係数の最大値と最小値との差Δαを、1.0cm−1以内、好ましくは0.5cm−1以内とすることができる。
【0053】
なお、ΔNの上限値について記載したが、ΔNの下限値は、小さければ小さいほどよいため、ゼロであることが好ましい。なお、ΔNが8.3×1015cm−3であっても、本実施形態の効果を充分に得ることができる。
【0054】
本実施形態では、基板10中の自由電子濃度Nは、基板10中のn型不純物の濃度と等しくなっており、基板10中のn型不純物の濃度が、以下の所定の要件を満たしている。
【0055】
本実施形態では、例えば、基板10中におけるn型不純物の濃度は、1.0×1018at・cm−3以上1.0×1019at・cm−3以下である。これにより、基板10中における自由電子濃度Nを、1.0×1018cm−3以上1.0×1019cm−3以下とすることができる。なお、基板10中におけるn型不純物の濃度は、1.0×1018at・cm−3以上5.0×1018at・cm−3以下であることが好ましく、1.0×1018at・cm−3以上2.0×1018at・cm−3以下であることがより好ましい。これにより、基板10中における自由電子濃度Nを、好ましくは1.0×1018cm−3以上5.0×1018cm−3以下とし、より好ましくは1.0×1018cm−3以上2.0×1018cm−3以下とすることができる。
【0056】
また、本実施形態では、例えば、基板10の主面内におけるn型不純物の濃度の最大値と最小値との差(以下、n型不純物の面内濃度差ともいう)は、8.3×1017at・cm−3以内、好ましくは4.2×1017at・cm−3以内である。これにより、基板10の主面内における自由電子濃度Nの最大値と最小値との差ΔNを、n型不純物の面内濃度差と等しく、8.3×1017cm−3以内、好ましくは4.2×1017cm−3以内とすることができる。
【0057】
なお、n型不純物の面内濃度差の上限値について記載したが、n型不純物の面内濃度差の下限値は、小さければ小さいほどよいため、ゼロであることが好ましい。なお、n型不純物の面内濃度差が8.3×1015at・cm−3であっても、本実施形態の効果を充分に得ることができる。
【0058】
さらに、本実施形態では、基板10中の各元素の濃度が、以下の所定の要件を満たしている。
【0059】
本実施形態では、n型不純物として用いられるSi、GeおよびOのうち、添加量の制御が比較的難しいOの濃度が極限まで低くなっており、基板10中のn型不純物の濃度は、添加量の制御が比較的容易であるSiおよびGeの合計濃度によって決定されている。
【0060】
すなわち、基板10中のOの濃度は、基板10中のSiおよびGeの合計の濃度に対して無視できるほど低く、例えば、1/10以下である。具体的には、例えば、基板中10のOの濃度は1×1017at・cm−3未満であり、一方で、基板10中のSiおよびGeの合計の濃度は1×1018at・cm−3以上1.0×1019at・cm−3以下である。これにより、基板10中のn型不純物の濃度を、添加量の制御が比較的容易であるSiおよびGeの合計濃度によって制御することができる。その結果、基板10中の自由電子濃度Nを、基板10中のSiおよびGeの合計の濃度と等しくなるよう精度良く制御することができ、基板10の主面内における自由電子の濃度の最大値と最小値との差ΔNを、所定の要件を満たすよう精度良く制御することができる。
【0061】
また、本実施形態では、基板10中のn型不純物以外の不純物の濃度は、基板10中のn型不純物の濃度(すなわちSiおよびGeの合計の濃度)に対して無視できるほど低く、例えば、1/10以下である。具体的には、例えば、基板中10のn型不純物以外の不純物の濃度は1×1017at・cm−3未満である。これにより、n型不純物からの自由電子の生成に対する阻害要因を低減することができる。その結果、基板10中の自由電子濃度Nを、基板10中のn型不純物の濃度と等しくなるよう精度良く制御することができ、基板10の主面内における自由電子の濃度の最大値と最小値との差ΔNを、所定の要件を満たすよう精度良く制御することができる。
【0062】
なお、本発明者等は、後述の製造方法を採用することにより、基板10中の各元素の濃度を、上記要件を満たすよう安定的に制御することができることを確認している。
【0063】
後述の製造方法によれば、基板10中のOおよび炭素(C)の各濃度を5×1015at・cm−3未満まで低減させることができ、さらには、基板10中の鉄(Fe)、クロム(Cr)、ボロン(B)等の各濃度を1×1015at・cm−3未満まで低減させることが可能であることが分かっている。また、この方法によれば、これら以外の元素についても、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)による測定における検出下限値未満の濃度にまで低減させることが可能であることが分かっている。
【0064】
さらに、本実施形態において後述の製造方法によって製造される基板10では、自由キャリア吸収による吸収係数が従来の基板の吸収係数よりも小さいことから、本実施形態の基板10では、従来の基板よりも、移動度(μ)が高くなっていると推定される。これにより、本実施形態の基板10中の自由電子濃度が従来の基板中の自由電子濃度と等しい場合であっても、本実施形態の基板10の抵抗率(ρ=1/eNμ)は、従来の基板の抵抗率よりも低くなっている。具体的には、基板10中における自由電子濃度Nが1.0×1018cm−3以上1.0×1019cm−3以下であるとき、基板10の抵抗率は、例えば、2.2mΩ・cm以上17.4mΩ・cm以下である。
【0065】
(1−ii)半導体層20の詳細構成
次に、窒化物半導体積層物(中間体)1を構成する半導体層20について詳しく説明する。
【0066】
半導体層20は、基板10の主面上にエピタキシャル成長させることにより形成されたものである。半導体層20は、III族窒化物半導体の単結晶、具体的には基板10と同様に例えばGaNの単結晶からなるものである。また、半導体層20は、基板10上にエピタキシャル成長されるものなので、その面方位が、基板10と同様に、例えば、(0001)面(+c面、Ga極性面)、または、000−1面(−c面、N極性面)となる。半導体層20を構成するGaN結晶のオフ角についても、基板10の場合と同様である。
【0067】
本実施形態では、半導体層20の表面(主面)は、赤外域の反射率について所定の要件を満たしている。具体的には、半導体層20の表面の反射率は、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲において、5%以上30%以下である。これにより、基板10(半導体積層物1)を加熱する工程において、基板10に赤外線を充分に行き届かせることができる。その結果、基板10を安定的に加熱することができる。
【0068】
なお、半導体層20の表面の表面粗さ(算術平均粗さRa)は、例えば、1nm以上30nm以下である。これにより、半導体層20の表面の反射率を、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲において、5%以上30%以下とすることができる。
【0069】
次に、本実施形態の半導体層20の具体的な構成について説明する。
【0070】
図1に示すように、半導体層20は、例えば、下地n型半導体層21と、ドリフト層22と、を有して構成されている。
【0071】
(下地n型半導体層)
下地n型半導体層21は、基板10の結晶性を引き継いでドリフト層22を安定的にエピタキシャル成長させるバッファ層として、基板10の主面に接するよう設けられている。また、下地n型半導体層12は、n型不純物を含むn型GaN層として構成されている。下地n型半導体層12中に含まれるn型不純物としては、基板10と同様に、例えば、SiおよびGeが挙げられる。下地n型半導体層12中のn型不純物の濃度は、基板10とほぼ等しく、例えば、1.0×1018at・cm−3以上1.0×1019at・cm−3以下である。
【0072】
下地n型半導体層21の厚さは、ドリフト層22の厚さよりも薄く、例えば、0.1μm以上3μm以下である。
【0073】
(ドリフト層)
ドリフト層22は、下地n型半導体層21上に設けられ、低濃度のn型不純物を含むn型GaN層として構成されている。ドリフト層22中のn型不純物としては、下地n型半導体層21中のn型不純物と同様に、例えば、SiおよびGeが挙げられる。
【0074】
ドリフト層22中のn型不純物濃度は、基板10および下地n型半導体層21のそれぞれのn型不純物濃度よりも低く、例えば、1.0×1015at・cm−3以上5.0×1016at・cm−3以下である。ドリフト層22のn型不純物濃度を1.0×1015at・cm−3以上とすることにより、半導体装置のオン抵抗を低減することができる。一方で、ドリフト層22のn型不純物濃度を5.0×1016at・cm−3以下とすることにより、半導体装置の所定の耐圧を確保することができる。
【0075】
ドリフト層22は、半導体装置の耐圧を向上させるため、例えば、下地n型半導体層21よりも厚く設けられている。具体的には、ドリフト層22の厚さは、例えば、3μm以上40μm以下である。ドリフト層22の厚さを3μm以上とすることにより、半導体装置の所定の耐圧を確保することができる。一方で、ドリフト層22の厚さを40μm以下とすることにより、半導体装置のオン抵抗を低減することができる。
【0076】
(1−iii)窒化物半導体積層物1の構成上の特徴
次に、基板10上に半導体層20が形成されてなる窒化物半導体積層物1について、その構成上の特徴を説明する。
【0077】
既に説明したように、窒化物半導体積層物1を構成する基板10および半導体層20は、いずれも、III族窒化物半導体の結晶(具体的には、例えばGaN単結晶)からなるものである。つまり、基板10上には、その基板1と同一組成の結晶からなる薄膜である半導体層20がエピタキシャル成長によって形成されている。したがって、窒化物半導体積層物1は、基板10上に半導体層20がホモエピタキシャル成長されてなるものに相当する。
【0078】
また、窒化物半導体積層物1を構成する基板10は、赤外域の吸収係数について所定の要件を満たしており、これにより基板10における自由電子濃度(キャリア濃度)と赤外域の吸収係数との間に依存性を有するものとなっている。ここでいう依存性を有するとは、二つまたはそれ以上の事象の間に特別な相関関係(必然性)があることであり、例えば、ある事象が起こると、それに依存して、特定の事象が必ず出現することである。
具体的には、既に説明したように、赤外域の吸収係数を自由キャリア濃度および波長の関数として近似することができるようになっている。さらに詳しくは、基板10における依存性は、波長をλ(μm)、27℃における基板10の吸収係数をα(cm−1)、基板10中の自由電子濃度(キャリア濃度)をN(cm−3)、Kおよびaをそれぞれ定数としたときに、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲における吸収係数αが、既述の式(1)により近似される。式(1)は、再掲すると、以下のとおりである。
α=NKλ ・・・(1)
(ただし、1.5×10−19≦K≦6.0×10−19、a=3)
【0079】
なお、基板10における依存性は、上述した例に限定されることはなく、例えばキャリア濃度の減少に依存して吸収係数が減少するといった一定の相関関係がある場合を含み得る。
【0080】
ところで、基板10上に半導体層20が形成されてなる窒化物半導体積層物1については、ホモエピタキシャル成長されてなる半導体層20の膜厚管理が非常に重要である。そのためには、半導体層20について、非接触および非破壊で膜厚測定を行える手法が必要となる。ホモエピタキシャル成長されてなる薄膜を非接触および非破壊で測定する手法としては、例えば、FT−IR法が知られている。
【0081】
ただし、本実施形態における窒化物半導体積層物1は、GaN結晶からなる基板10上に、同じくGaN結晶からなる半導体層20がホモエピタキシャル成長されてなる、いわゆるGaN−on−GaN基板である。GaN結晶に代表されるIII族窒化物半導体の結晶については、これまで転位散乱による影響が大きく、特に1×1017cm‐3以下の低キャリア濃度における赤外域の吸収係数の差が無い。そのため、基板10と半導体層20が同一組成のGaN結晶からなるGaN−on−GaN基板の場合、原理的にFT−IR法による膜厚測定が困難というのが従来の技術常識である。さらに詳しくは、例えば、波数500cm−1以下の遠赤外域の光を用いた測定が試みられていても、波数1000cm−1以上(特に、波数1500cm−1以上)の赤外域の光については、吸収の量が非常に小さく、吸収係数の差が顕在化し難いため、このような赤外域の光を用いた膜厚測定が困難である、というのが今までの技術常識である。
【0082】
ところが、本実施形態においては、既に説明したように、窒化物半導体積層物1を構成する基板10の主面における転位密度が、例えば、5×10個/cm以下といったように、低転位なものとなっている。しかも、窒化物半導体積層物1を構成する基板10は、赤外域の吸収係数について所定の要件を満たしており、これにより基板10におけるキャリア濃度と赤外域の吸収係数との間に依存性を有するものとなっている。そして、本実施形態では、このような基板10を用い、その基板10の上に半導体層20をホモエピタキシャル成長させて、窒化物半導体積層物1を構成している。ホモエピタキシャル成長させることで、半導体層20を構成するGaN結晶は、その基になった基板10を構成するGaN結晶に準じたものとなる。つまり、半導体層20は、基板10との間でキャリア濃度の違いがあるとしても、その基板10と同様に、低転位で、かつ、キャリア濃度と赤外域の吸収係数との間に依存性を有するものとなる。
【0083】
したがって、本実施形態の窒化物半導体積層物1であれば、例えば1×1017cm−3以下の低キャリア濃度であっても、基板10と半導体層20との間でのキャリア濃度の差に依存して赤外域の吸収係数に違いが生じるようになり、その結果としてFT−IR法を利用した波数1000cm−1以上(特に、波数1500cm−1以上)の赤外域の光による膜厚測定を行うことが可能となる。つまり、窒化物半導体積層物1がGaN−on−GaN基板である場合であっても、上述した従来の技術常識を覆して、FT−IR法による膜厚測定を可能にするのである。
【0084】
より具体的には、本実施形態における窒化物半導体積層物1では、基板10が式(1)により近似される関係を満足するので、その基板10の上にホモエピタキシャル成長される半導体層20においても、キャリア濃度Nと吸収係数αとの関係性が成り立つことになる。したがって、例えば1×1017cm−3以下の低キャリア濃度であっても、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲(すなわち、波数3030cm−1以上10000以下の範囲)においては、確実にキャリア濃度Nに依存して吸収係数αに違いが生じるようになり、FT−IR法を利用した膜厚測定を行う上で非常に好適なものとなる。
【0085】
以上のように、GaN−on−GaN基板である窒化物半導体積層物1について、FT−IR法による膜厚測定が可能であることは、換言すると、その窒化物半導体積層物1が、以下に述べるように構成されていることを意味する。
【0086】
詳細を後述するように、FT−IR法では、被解析物に赤外光を照射して反射スペクトルを得る。ここでいう反射スペクトルは、赤外光を照射したときに反射した光量を波長(波数)に対してプロットしたものである。そして、FT−IR法では、得られた反射スペクトル中のフリンジパターンを分析することで、被解析物についての膜厚測定を行う。ここでいうフリンジパターンは、光の干渉によって光量の大きい箇所と小さい箇所が交互に生じるフリンジ(干渉縞)の存在を表すパターンのことであり、反射スペクトルを得る際の光路長の可変に応じて生じるパターンのことである。
【0087】
したがって、FT−IR法による膜厚測定が可能である窒化物半導体積層物1は、基板10上の半導体層20に対して赤外光を照射して得られるFT−IR法による反射スペクトル中にフリンジパターンを有していることになる。反射スペクトル中にフリンジパターンを有していれば、そのフリンジパターンを分析することで、半導体層20についての膜厚測定を行うこと、すなわちFT−IR法を利用した膜厚測定を行うことが可能となる。
【0088】
(2)窒化物半導体積層物1の製造方法
次に、FT−IR法による膜厚測定を含む、上述した構成の窒化物半導体積層物1を製造する際の手順、すなわち本実施形態に係る窒化物半導体積層物1の製造方法を説明する。
【0089】
図7に示すように、本実施形態に係る窒化物半導体積層物1の製造方法は、少なくとも、基板作成工程(ステップ110、以下ステップを「S」と略す。)と、半導体層成長工程(S120)と、膜厚測定工程(S130)と、を備える。
【0090】
(2−i)基板作成工程
基板作成工程(S110)では、基板10の作製を行う。基板10の作製は、以下に示すハイドライド気相成長装置(HVPE装置)200を用いて行う。
【0091】
(HVPE装置の構成)
ここで、基板10の製造に用いるHVPE装置200の構成について、図8を参照しながら詳しく説明する。
【0092】
HVPE装置200は、成膜室201が内部に構成された気密容器203を備えている。成膜室201内には、インナーカバー204が設けられているとともに、そのインナーカバー204に囲われる位置に、種結晶基板(以下、「種基板」ともいう)5が配置される基台としてのサセプタ208が設けられている。サセプタ208は、回転機構216が有する回転軸215に接続されており、その回転機構216の駆動に合わせて回転可能に構成されている。
【0093】
気密容器203の一端には、ガス生成器233a内へ塩化水素(HCl)ガスを供給するガス供給管232a、インナーカバー204内へアンモニア(NH)ガスを供給するガス供給管232b、インナーカバー204内へ後述するドーピングガスを供給するガス供給管232c、インナーカバー204内へパージガスとして窒素(N)ガスおよび水素(H)ガスの混合ガス(N/Hガス)を供給するガス供給管232d、および、成膜室201内へパージガスとしてのNガスを供給するガス供給管232eが接続されている。ガス供給管232a〜232eには、上流側から順に、流量制御器241a〜241e、バルブ243a〜243eがそれぞれ設けられている。ガス供給管232aの下流には、原料としてのGa融液を収容するガス生成器233aが設けられている。ガス生成器233aには、HClガスとGa融液との反応により生成された塩化ガリウム(GaCl)ガスを、サセプタ208上に配置された種基板5等に向けて供給するノズル249aが設けられている。ガス供給管232b,232cの下流側には、これらのガス供給管から供給された各種ガスをサセプタ208上に配置された種基板5等に向けて供給するノズル249b,249cがそれぞれ接続されている。ノズル249a〜249cは、サセプタ208の表面に対して交差する方向にガスを流すよう配置されている。ノズル249cから供給されるドーピングガスは、ドーピング原料ガスとN/Hガス等のキャリアガスとの混合ガスである。ドーピングガスについては、ドーピング原料のハロゲン化物ガスの熱分解を抑える目的でHClガスを一緒に流してもよい。ドーピングガスを構成するドーピング原料ガスとしては、例えば、シリコン(Si)ドープの場合であればジクロロシラン(SiHCl)ガスまたはシラン(SiH)ガス、ゲルマニウム(Ge)ドープの場合であればジクロロゲルマン(GeCl)ガスまたはゲルマン(GeH)ガスを、それぞれ用いることが考えられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0094】
気密容器203の他端には、成膜室201内を排気する排気管230が設けられている。排気管230には、ポンプ(あるいはブロワ)231が設けられている。気密容器203の外周には、ガス生成器233a内やサセプタ208上の種基板5等を領域別に所望の温度に加熱するゾーンヒータ207a,207bが設けられている。また、気密容器203内には成膜室201内の温度を測定する温度センサ(ただし不図示)が設けられている。
【0095】
上述したHVPE装置200の構成部材、特に各種ガスの流れを形成するための各部材については、後述するような低不純物濃度の結晶成長を行うことを可能にすべく、例えば、以下に述べるように構成されている。
【0096】
具体的には、図8中においてハッチング種類により識別可能に示しているように、気密容器203のうち、ゾーンヒータ207a,207bの輻射を受けて結晶成長温度(例えば1000℃以上)に加熱される領域であって、種基板5に供給するガスが接触する領域である高温領域を構成する部材として、石英非含有およびホウ素非含有の材料からなる部材を用いることが好ましい。具体的には、高温領域を構成する部材として、例えば、炭化ケイ素(SiC)コートグラファイトからなる部材を用いることが好ましい。その一方で、比較的低温領域では、高純度石英を用いて部材を構成することが好ましい。つまり、比較的高温になりHClガス等と接触する高温領域では、高純度石英を用いず、SiCコートグラファイトを用いて各部材を構成する。詳しくは、インナーカバー204、サセプタ208、回転軸215、ガス生成器233a、各ノズル249a〜249c等を、SiCコートグラファイトで構成する。なお、気密容器203を構成する炉心管は石英とするしかないので、成膜室201内には、サセプタ208やガス生成器233a等を囲うインナーカバー204が設けられているのである。気密容器203の両端の壁部や排気管230等については、ステンレス等の金属材料を用いて構成すればよい。
【0097】
例えば、「Polyakov et al. J. Appl. Phys. 115, 183706 (2014)」によれば、950℃で成長することにより、低不純物濃度のGaN結晶の成長が実現可能なことが開示されている。ところが、このような低温成長では、得られる結晶品質の低下を招き、熱物性、電気特性等において良好なものが得られない。
【0098】
これに対し、本実施形態の上述したHVPE装置200によれば、比較的高温になりHClガス等と接触する高温領域では、SiCコートグラファイトを用いて各部材を構成している。これにより、例えば、1050℃以上というGaN結晶の成長に適した温度域においても、石英やステンレス等に起因するSi、O、C、Fe、Cr、Ni等の不純物が結晶成長部へ供給されることを遮断することができる。その結果、高純度で、かつ、熱物性および電気特性においても良好な特性を示すGaN結晶を成長させることが実現可能である。
【0099】
なお、HVPE装置200が備える各部材は、コンピュータとして構成されたコントローラ280に接続されており、コントローラ280上で実行されるプログラムによって、後述する処理手順や処理条件が制御されるように構成されている。
【0100】
(基板作製手順)
続いて、上述のHVPE装置200を用いて種基板5上にGaN単結晶をエピタキシャル成長させ、その後、成長させた結晶をスライスして基板10を取得するまでの一連の処理について、図8を参照しながら詳しく説明する。以下の説明において、HVPE装置200を構成する各部の動作はコントローラ280により制御される。
【0101】
HVPE装置200を用いて行う基板10の作製手順は、搬入ステップと、結晶成長ステップと、搬出ステップと、スライスステップと、を有している。
【0102】
(搬入ステップ)
具体的には、先ず、反応容器203の炉口を開放し、サセプタ208上に種基板5を載置する。サセプタ208上に載置する種基板5は、基板10を製造するための基(種)となるもので、窒化物半導体の一例であるGaNの単結晶からなる板状のものである。
【0103】
サセプタ208上への種基板5の載置にあたっては、サセプタ208上に載置された状態の種基板5の表面、すなわちノズル249a〜249cに対向する側の主面(結晶成長面、下地面)が、GaN結晶の(0001)面、すなわち+C面(Ga極性面)となるようにする。
【0104】
(結晶成長ステップ)
本ステップでは、反応室201内への種基板5の搬入が完了した後に、炉口を閉じ、反応室201内の加熱および排気を実施しながら、反応室201内へのHガス、或いは、HガスおよびNガスの供給を開始する。そして、反応室201内が所望の処理温度、処理圧力に到達し、反応室201内の雰囲気が所望の雰囲気となった状態で、ガス供給管232a,232bからのHClガス、NHガスの供給を開始し、種基板5の表面に対してGaClガスおよびNHガスをそれぞれ供給する。
【0105】
これにより、図9(a)に断面図を示すように、種基板5の表面上にc軸方向にGaN結晶がエピタキシャル成長し、GaN結晶6が形成される。このとき、SiHClガスを供給することで、GaN結晶6中に、n型不純物としてのSiを添加することが可能となる。
【0106】
なお、本ステップでは、種基板5を構成するGaN結晶の熱分解を防止するため、種基板5の温度が500℃に到達した時点、或いはそれ以前から、反応室201内へのNHガスの供給を開始するのが好ましい。また、GaN結晶6の面内膜厚均一性等を向上させるため、本ステップは、サセプタ208を回転させた状態で実施するのが好ましい。
【0107】
本ステップでは、ゾーンヒータ207a,207bの温度は、ガス生成器233aを含む反応室201内の上流側の部分を加熱するヒータ207aでは例えば700〜900℃の温度に設定し、サセプタ208を含む反応室201内の下流側の部分を加熱するヒータ207bでは例えば1000〜1200℃の温度に設定するのが好ましい。これにより、サセプタ208は1000〜1200℃の所定の温度に調整される。本ステップでは、内部ヒータ(ただし不図示)はオフの状態で使用してもよいが、サセプタ208の温度が上述の1000〜1200℃の範囲である限りにおいては、内部ヒータを用いた温度制御を実施しても構わない。
【0108】
本ステップのその他の処理条件としては、以下が例示される。
処理圧力:0.5〜2気圧
GaClガスの分圧:0.1〜20kPa
NHガスの分圧/GaClガスの分圧:1〜100
ガスの分圧/GaClガスの分圧:0〜100
SiHClガスの分圧:2.5×10−5〜1.3×10−3kPa
【0109】
また、種基板5の表面に対してGaClガスおよびNHガスを供給する際は、ガス供給管232a〜232bのそれぞれから、キャリアガスとしてのNガスを添加してもよい。Nガスを添加してノズル249a〜249bから供給されるガスの吹き出し流速を調整することで、種基板5の表面における原料ガスの供給量等の分布を適切に制御し、面内全域にわたり均一な成長速度分布を実現することができる。なお、Nガスの代わりにArガスやHeガス等の希ガスを添加するようにしてもよい。
【0110】
(搬出ステップ)
種基板5上に所望の厚さのGaN結晶6を成長させたら、反応室201内へNHガス、Nガスを供給しつつ、また、反応室201内を排気した状態で、ガス生成器233aへのHClガスの供給、反応室201内へHガスの供給、ゾーンヒータ207a、207bによる加熱をそれぞれ停止する。そして、反応室201内の温度が500℃以下に降温したらNHガスの供給を停止し、反応室201内の雰囲気をNガスへ置換して大気圧に復帰させる。そして、反応室201内を、例えば200℃以下の温度、すなわち、反応容器203内からのGaNの結晶インゴット(主面上にGaN結晶6が形成された種基板5)の搬出が可能となる温度へと降温させる。その後、結晶インゴットを反応室201内から外部へ搬出する。
【0111】
(スライスステップ)
その後、搬出した結晶インゴットを例えばGaN結晶6の成長面と平行な方向にスライスすることにより、図9(b)に示すように、1枚以上の基板10を得ることができる。基板10の各種組成や各種物性等は、上述した通りであるので説明を割愛する。このスライス加工は、例えばワイヤソーや放電加工機等を用いて行うことが可能である。基板10の厚さは250μm以上、例えば400μm程度の厚さとする。その後、基板10の表面(+c面)に対して所定の研磨加工を施すことで、この面をエピレディなミラー面とする。なお、基板10の裏面(−c面)はラップ面あるいはミラー面とする。
【0112】
以上により、図2に示すように構成された本実施形態の基板10、すなわちキャリア濃度と赤外域の吸収係数との間に依存性を有する基板10が作製される。
【0113】
(2−ii)半導体層成長工程
基板作成工程(S110)で基板10を作製した後は、次いで、半導体層成長工程(S120)を行う。半導体層成長工程(S120)では、基板10上にGaN結晶をホモエピタキシャル成長させて半導体層20を形成する。
【0114】
半導体層20の形成は、例えば、有機金属気相成長(MOVPE:Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)法により行う。なお、半導体層20の形成に用いるMOVPE装置については、公知のものであればよく、ここではその詳細な説明を省略する。
【0115】
半導体層20の形成にあたっては、例えば、MOVPE法により、基板10に対して少なくとも赤外線を照射し、基板10上に半導体層20を構成するGaN結晶をエピタキシャル成長させる。
このとき、基板10が赤外域の吸収係数について上記要件を満たすことで、基板10への赤外線の照射によって基板10を安定的に加熱し、基板10の温度を精度よく制御することができる。また、赤外線の照射による加熱効率を該基板10の主面内で均一にすることができる。その結果、半導体層20を構成するGaN結晶の結晶性、厚さ、各種不純物濃度等を精度良く制御し、基板10の主面内で均一にすることができる。
【0116】
具体的には、例えば、以下の手順により、本実施形態の半導体層20を形成する。
【0117】
まず、MOVPE装置(不図示)の処理室内に基板10を搬入する。
【0118】
このとき、図10(a)および(b)に示すように、保持部材300上に基板10を載置する。保持部材300は、例えば、3つの凸部300pを有し、当該3つの凸部300pによって基板10を保持するよう構成されている。これにより、基板10を加熱する際、保持部材300から基板10への熱伝達ではなく、主に、基板10に対して赤外線を照射することにより、基板10の加熱を行うことができる。ここで、基板10の加熱を板状の保持部材からの熱伝達によって行う場合(或いは熱伝達を組み合わせて行う場合)、基板10の裏面状態や保持部材の表面状態によっては、基板10をその面内全域にわたって均一に加熱することが困難となる。また、基板10の加熱に伴って基板10に反りが生じ、基板10と保持部材との接触具合が徐々に変化する可能性がある。このため、基板10の加熱条件がその面内全域にわたって不均一になる場合もある。これに対し、本実施形態では、上記のような保持部材300を用い、基板10の加熱を、主に基板10に対して赤外線を照射することによって行うことにより、このような課題を解消することができ、基板10を主面内で安定的に均一に加熱することができる。
【0119】
なお、熱伝達による影響を低減するため、凸部300pと基板10との間の接触面積が、基板10の被支持面の5%以下、好ましくは3%以下の大きさとなるように、凸部300pの形状や寸法を適正に選択することが好ましい。
【0120】
基板10を保持部材300上に載置したら、MOVPE装置の処理室内に、水素ガスおよびNHガス(さらにNガス)を供給し、所定の加熱源(例えばランプヒータ)から基板10に対して赤外線を照射し、基板10を加熱する。基板10の温度が所定の成長温度(例えば1000℃以上1100℃以下)となったら、例えば、III族有機金属原料としてトリメチルガリウム(TMG)と、V族原料としてNHガスとを、基板10に対して供給する。これと同時に、例えば、n型不純物原料としてSiHガスを基板10に対して供給する。これにより、基板10上に、n型GaN層としての下地n型半導体層21をエピタキシャル成長させる。
【0121】
次に、下地n型半導体層21上に、下地n型半導体層21よりも低濃度のn型不純物を含むn型GaN層としてのドリフト層22をエピタキシャル成長させる。
【0122】
ドリフト層22の成長が完了したら、III族有機金属原料の供給と、基板10の加熱とを停止する。そして、基板10の温度が500℃以下となったら、V族原料の供給を停止する。その後、MOVPE装置の処理室内の雰囲気をNガスへ置換して大気圧に復帰させるとともに、処理室内を基板搬出可能な温度にまで低下させた後、成長後の基板10を処理室内から搬出する。
【0123】
これにより、図1に示すように構成された本実施形態の窒化物半導体積層物1が製造される。
【0124】
なお、ここでは、窒化物半導体積層物1の製造にあたり、基板作成工程(S110)と半導体層成長工程(S120)を経る場合を例に挙げたが、これらの各工程に加えて、例えば、アニール工程を経るようにしても構わない。
【0125】
アニール工程では、例えば、所定の加熱処理装置(不図示)により、不活性ガスの雰囲気下で、基板10に対して少なくとも赤外線を照射し、窒化物半導体積層物1をアニールする。これにより、例えば、窒化物半導体積層物1を構成する半導体層20の活性化や結晶ダメージの回復等を行うことができる。
【0126】
このとき、基板10が赤外域の吸収係数について上記要件を満たすことで、基板10への赤外線の照射によって基板10を安定的に加熱し、基板10の温度を精度よく制御することができる。また、赤外線の照射による加熱効率を該基板10の主面内で均一にすることができる。その結果、半導体層20中の不純物の活性化具合(活性化率、自由正孔濃度)を精度良く制御し、基板10の主面内で均一にすることができる。
【0127】
また、このとき、図10(a)および(b)に示す保持部材300を用い、基板10を加熱すれば、保持部材300から基板10への熱伝達ではなく、主に、基板10に対して赤外線を照射することにより、基板10の加熱を行うことができる。その結果、基板10を主面内で安定的に均一に加熱することができる。
【0128】
(2−iii)膜厚測定工程
基板作成工程(S110)および半導体層成長工程(S120)を経て窒化物半導体積層物1を製造した後は、次いで、膜厚測定工程(S130)を行う。膜厚測定工程(S130)では、窒化物半導体積層物1を構成する半導体層20の形成膜厚を測定する。
【0129】
膜厚測定工程(S130)において半導体層20の膜厚を測定すれば、その半導体層20についての膜厚管理を厳密に行い得るようになる。具体的には、例えば、半導体層20の膜厚を測定して所定の基準値と比較することで、製造した窒化物半導体積層物1の良否を判定することができる。また、例えば、膜厚測定工程(S130)で得た測定値に基づいて、窒化物半導体積層物1を製造する際の各種処理条件の適否を判断するといったことも考えられる。
【0130】
本実施形態における膜厚測定工程(S130)では、半導体層20の膜厚を、非接触および非破壊で膜厚測定を行える手法であるFT−IR法を利用して測定する。
以下に、FT−IR法による膜厚測定方法の詳細を説明する。
【0131】
(3)FT−IR法による膜厚測定方法
図11に示すように、本実施形態に係る膜厚測定方法は、少なくとも、前処理工程(S210)と、測定工程(S220)と、スペクトル分析工程(S230)と、分析結果に基づく膜厚値の特定および出力工程(S240)と、を備える。前処理工程(S210)は、基板に関する各種データの特定工程(S211)と、演算によるベースラインの特定工程(S212)と、リファレンスとして登録工程(S213)と、を有する。また、測定工程(S220)は、測定対象のセット工程(S221)と、赤外光の照射工程(S222)と、反射スペクトルの取得工程(S223)と、を有する。以下、これらの各工程について順に説明する。
【0132】
(3−i)前処理工程
前処理工程(S210)では、FT−IR法による膜厚測定のために予め行っておくことが必要である処理を、測定工程(S220)に先立つ前処理として行う。
【0133】
(誘電関数のモデル化)
ここで、先ず、前処理工程(S210)の前提となる、測定対象物(試料)の誘電関数のモデル化について説明する。データ解析には試料の誘電関数が必要となるが、試料の誘電関数が未知の場合、誘電関数のモデル化が必要になる。
【0134】
測定対象物は、ショットキーバリアダイオード(SBD)を構成する中間体1であり、、具体的には基板10上に半導体層20が形成されてなる窒化物半導体積層物1である。
窒化物半導体積層物1は、半導体層20が下地n型半導体層21とドリフト層22の二層構造となっている。このような積層構造の窒化物半導体積層物1について、光の反射と透過の関係は、図12(a)に示す光学モデルのようになる。
ただし、かかる積層構造の窒化物半導体積層物1においては、例えば、屈折率が高い材料から低い材料へ光が入射した場合に、各層の界面で殆ど反射が起こらない。そのため、測定対象物となる窒化物半導体積層物1は、図12(a)に示す光学モデルではなく、図12(b)に示す光学モデルのように簡略化することができる。
以下、測定対象物となる窒化物半導体積層物1については、図12(b)に示すように、媒質N/エピ層N/基板Nからなる光学モデルに近似して考える。
【0135】
かかる光学モデルにおいて、試料の振幅反射係数は、エピ層Nでの多重反射を考慮したr012となる。この振幅反射係数r012は、フレネル方程式を用いた以下の式(5)によって求めることができる。
【0136】
【数1】
【0137】
式(5)における位相変化βは、以下の式(6)によって求めることができる。なお、式(6)において、θおよびθは、いずれも光の入射角である(図12参照)。また、Nは、エピ層の複素屈折率である。
【0138】
【数2】
【0139】
このように、測定対象物となる窒化物半導体積層物1については、図12(b)に示すように簡略化した光学モデルを考え、最上層の誘電関数だけを考慮する仮想基板近似を用いることで、比較的容易に解析を行うことができる。
なお、ここでは詳細な説明を省略するが、解析にあたっては、エピ層Nの表面からの一次反射係数r01およびエピ層Nがない場合の基板Nからの一次反射係数r02についても、公知の演算式を利用して、計算を行うものとする。
【0140】
ところで、光の反射は、物質の複素誘電率または複素屈折率によって決められる。また、光は、試料に入射する光の電場方向によってp偏光とs偏光に区別され、それぞれ異なる反射を示す。
【0141】
p偏光成分の振幅反射係数rについてのフレネル方程式は、以下の式(7)のようになる。
【0142】
【数3】
【0143】
また、s偏光成分の振幅反射係数rについてのフレネル方程式は、以下の式(8)のようになる。
【0144】
【数4】
【0145】
ただし、式(7)および(8)において、θは、媒質iからの光の入射角である。また、Ntiは、媒質iから媒質tに入射する光の複素屈折率で、以下の式(9)で定義される。なお、式(9)において、nは複素屈折率の実数部、kは消衰係数であり、k>0である。
【0146】
【数5】
【0147】
また、物質の誘電率と屈折率の間には密接な関係があり、複素誘電率εは、以下の式(10)で定義される。
【0148】
【数6】
【0149】
以上のようなフレネル方程式から得られた振幅反射率rの2乗が強度反射率Rとなる。
具体的には、例えば、垂直入射(θi=0°)の場合は、媒質Nが真空(N=1−i0)であれば、誘電体(N=n−ik)との界面反射率Rが、以下の式(11)のようになる。
【0150】
【数7】
【0151】
一方、例えば、非垂直入射(θi≠0°)の場合は、p偏光成分およびs偏光成分について振幅反射係数r01,p,r01,S,r012,p,r012,Sをそれぞれ計算した上で、誘電体(N=n−ik)との界面反射率Rが、以下の式(12)のようになる。
【0152】
【数8】
【0153】
ところで、複素誘電率εは、上記の式(10)の他に、以下の式(13)によっても定義される。
【0154】
【数9】
【0155】
そして、上記の式(9)および(13)の2式より、以下の式(14)および(15)が成り立つことがわかる。
【0156】
【数10】
【0157】
【数11】
【0158】
これらの各式に基づけば、複素屈折率Nについては、複素誘電率の値を用いると、以下の式(16)および(17)によって与えられる。
【0159】
【数12】
【0160】
【数13】
【0161】
以上に説明した各式によって規定される関係を踏まえた上で、光学モデルの解析に適用すべき誘電関数モデルを検討すると、自由キャリア吸収があることから、ドルーデ(Drude)モデルまたはローレンツ−ドルーデ(Lorentz−Drude)モデルを適用することが考えられる。
【0162】
ドルーデモデルは、自由キャリア吸収だけを考えたモデルであり、誘電率εを以下の式(18)によって求めることができる。
【0163】
【数14】
【0164】
一方、ローレンツ−ドルーデモデルは、自由キャリア吸収のみならず、LOフォノンとのカップリングをも考えたモデルであり、誘電率εを以下の式(19)によって求めることができる。
【0165】
【数15】
【0166】
なお、上記の式(18)または(19)において、εは、高周波誘電率である。ω、ωLO、ωTOは、それぞれ、プラズマ周波数、LOフォノン周波数、TOフォノン周波数である。γおよびΓは、いずれも、減衰定数である。なお、式(19)では、LOフォノンとTOフォノンの減衰定数は、Γ=ΓLO=ΓTOと仮定している。また、プラズマ周波数ωについては以下の式(20)で、減衰定数γについては以下の式(21)で、それぞれ与えられる。
【0167】
【数16】
【0168】
【数17】
【0169】
なお、上記の式(20)または(21)において、m*は、試料の有効質量を表す。また、式(21)において、μはドリフト移動度である。
【0170】
以上のように、本実施形態においては、測定対象物(試料)を図12(b)に示す光学モデルのように簡略化した上で、誘電関数モデルとしてドルーデモデルまたはローレンツ−ドルーデモデルの少なくとも一方を適用することを決定する。そして、ドルーデモデルまたはローレンツ−ドルーデモデルの少なくとも一方を用いて、以下に述べる各ステップの処理を行う。なお、ドルーデモデルとローレンツ−ドルーデモデルとのどちらを適用するか、またはこれらの両方を適用するかについては、特に限定されることはなく、適宜決定すればよい。
【0171】
(S211:基板に関する各種データの特定工程)
上述のように誘電関数モデルを特定した後は、先ず、その誘電関数モデルを用いた演算処理を行うために必要となる各種データの特定を行う。具体的には、上記の式(18)または(19)を用いた演算処理に必要となる各種データを特定する。
【0172】
ここで特定すべき各種データは、例えば、図12(b)に示す光学モデルを構成する基板Nおよびエピ層Nのそれぞれに関する物性値(特性値)に相当する。ただし、基板Nおよびエピ層Nは、窒化物半導体積層物1における基板10およびドリフト層22をモデル化したものである。そのため、特定すべき各種データは、基板10およびドリフト層22に関する物性値(特性値)に基づいて特定することが可能である。
【0173】
このとき、基板10は、既に説明したように、転位密度が低転位なものとなっており、しかも赤外域の吸収係数について所定の要件を満たすものとなっている。つまり、基板10は、自由キャリア濃度の制御性が高く構成されており、これにより各種の物性値(特性値)についての信頼性が高いものとなっている。このことは、基板10の上にエピタキシャル成長されるドリフト層22についても、同様のことがいえる。したがって、基板10およびドリフト層22に関する物性値(特性値)に基づいて、誘電関数モデルを用いた演算処理に必要な各種データを特定すれば、その各種データは、現実の物(すなわち、製造された窒化物半導体積層物1)に則したものとなり、非常に信頼性の高いものとなる。
【0174】
ここで特定する各種データとしては、例えば、基板10および半導体層20がGaN結晶からなる場合であれば、以下のような具体例が挙げられる。
具体的には、例えば、ドルーデモデルを適用する場合であれば、ε=5.35、m=0.22、ωp_sub=390.4cm−1(μ=320cm−1−1)、ωp_epi=23.1cm−1(μ=1200cm−1−1)、γsub=132.6cm−1、γepi=35.4cm−1といったものがある。
また、例えば、ローレンツ−ドルーデモデルを適用する場合であれば、ε=5.35、m=0.22、ωLO=746cm−1、ωTO=560cm−1、ωp_sub=390.4cm−1(μ=320cm−1−1)、ωp_epi=23.1cm−1(μ=1200cm−1−1)、Γ=ΓLO=ΓTO=1.27cm−1、γsub=132.6cm−1、γepi=35.4cm−1といったものがある。
ここで具体例として挙げた各種データは、GaNに固有の物性値、または、その物性値を基に上述の各式を用いた演算により算出した値に相当する。すなわち、いずれのデータも、GaN結晶であれば一義的に定まる値である。
なお、本実施形態では、演算によるデータ算出を行う場合に、予めC−V測定によりエピタキシャル層のキャリア濃度を求めておき、その値を一定の(固定的な)のフィッティングパラメータとして使用している。その場合であっても、例えば、基板10の自由キャリア濃度が1.0〜1.5×1018cm−3程度、ホモエピタキシャル層である半導体層20の自由キャリア濃度が2.0×1018cm−3程度といったように、それぞれが非常に高く制御されていることを考慮すると、データ算出で得られた各種データは、非常に信頼性の高いものとなる。
このように、本実施形態では、想定されるキャリア濃度を求めた上で、各種データの特定を行い、その後に、後述するようなFT−IR法による膜厚測定を行う。このことは、例えば、将来的にFT−IR測定自体の精度が向上した場合に、キャリア濃度と膜厚との二つを、それぞれ測定によって得られる可能性があることを示唆するものである。
【0175】
(S212:演算によるベースラインの特定工程)
上述のように各種データを特定した後は、続いて、特定した各種データを用いて、誘電関数モデルによる演算処理を行う。
【0176】
誘電関数モデルによる演算処理にあたっては、先ず、基板Nおよびエピ層Nについての屈折率nおよび消衰係数kを求める。
【0177】
具体的には、例えば、ドルーデモデルを適用する場合であれば、上述のように特定した各種データを用いて、上記の式(18)による演算処理を行い、誘電率εを求める。そして、その演算結果と上記の式(13)〜(17)とを用いて、基板Nおよびエピ層Nのそれぞれについて、屈折率nおよび消衰係数kを求める。その演算結果は、例えば、図13(a)および(b)に示すようなものとなる。
【0178】
また、例えば、ローレンツ−ドルーデモデルを適用する場合であれば、上述のように特定した各種データを用いて、上記の式(19)による演算処理を行い、誘電率εを求める。そして、その演算結果と上記の式(13)〜(17)とを用いて、基板Nおよびエピ層Nのそれぞれについて、屈折率nおよび消衰係数kを求める。その演算結果は、例えば、図14(a)および(b)に示すようなものとなる。
【0179】
屈折率nおよび消衰係数kを求めたら、次いで、その演算結果と上記の式(11)または(12)とを用いて反射率Rを演算し、その演算結果から特定される反射スペクトルを求める。
反射スペクトルは、例えば、垂直入射(θi=0°)の場合であれば、ドルーデモデルに関しては図15(a)に示すようなものとなり、またローレンツ−ドルーデモデルに関しては図15(b)に示すようなものとなる。
また、反射スペクトルは、例えば、非垂直入射(θi≠0)の場合、さらに具体的にはθi=30°の場合であれば、ドルーデモデルに関しては図16(a)に示すようなものとなり、またローレンツ−ドルーデモデルに関しては図16(b)に示すようなものとなる。
【0180】
以上のような反射スペクトルは、反射係数r012に基づく媒質N/エピ層N/基板Nからなる光学モデルについてのもの(図15中および図16中の実線参照)と、反射係数r01に基づく媒質Nとエピ層Nとの界面についてのもの(図15中および図16中の破線参照)と、エピ層Nがない場合の反射係数r02に基づく媒質Nと基板Nとの界面についてのもの(図15中および図16中の点線参照)と、のそれぞれについて求めることが可能である。これらのうち、反射係数r02に基づく基板Nの界面についてのものが、FT−IR法により反射スペクトルを解析する際の基準となるベースラインに相当することになる。
【0181】
つまり、本実施形態においては、基板Nが単体の場合の反射スペクトルをシミュレーション等の演算処理により求め、その反射スペクトルをFT−IR法による膜厚測定に用いるベースラインとして特定する。
【0182】
このようなベースラインの特定は、既に説明したように、基板10に関する物性値(特性値)を基にして行う。そして、その基板10は、自由キャリア濃度の制御性が高く構成されており、これにより各種の物性値(特性値)についての信頼性が高いものとなっている。このように、ベースラインを特定するために用いる各種データが信頼性の高いものであることから、本実施形態では、ベースラインをシミュレーション等の演算処理を利用して確実に特定することができるのである。
【0183】
なお、図16中には、解析対象の光学モデルを同等の構成の積層物について、実際にFT−IR法による測定を行って得られた反射スペクトルについても、併せて掲載している(図中における矢印「FT−IR」参照)。その反射スペクトルを、媒質N/エピ層N/基板Nからなる光学モデルについての反射スペクトル(図中の実線参照)と比較すると、それぞれが近似していることがわかる(特に、図16(b)に示すローレンツ−ドルーデモデルの場合)。このことからも、本実施形態において演算処理で得られる反射スペクトルは、非常に信頼性が高いものであることがわかる。
【0184】
ところで、以上に説明した反射スペクトルについては、FT−IR法による膜厚測定で行われているように、これをフーリエ変換することで、エピ層Nの膜厚の算出に供することが可能である。具体的に、図15または図16の例について、エピ層Nの膜厚を算出すると、ドルーデモデルの場合は膜厚depi=13.6μmとなり、ローレンツ−ドルーデモデルの場合は膜厚depi=12.87μmとなる。このように、各モデルで算出結果に差が生じるのは、ドルーデモデルではLOフォノンの項がないので、ローレンツ−ドルーデモデルに比べて屈折率nが大きくなり、膜厚が厚く計算されるためと推察される。また、実用上の留意点を挙げれば、図16(a)から明らかなように、ドルーデモデルの場合には、膜厚算出に使用する波数範囲によって値が変動する。このような傾向を踏まえた上で、ドルーデモデルとローレンツ−ドルーデモデルとのどちらを適用するか、またはこれらの両方を適用するかについて、決定するようにしても構わない。
【0185】
(S213:リファレンスとして登録工程)
上述のようにベースラインを特定した後は、次いで、特定したベースラインに関するデータをFT−IR法による膜厚測定で用いるリファレンスデータ(基準データ)とし、そのリファレンスデータの登録を行う。
【0186】
リファレンスデータの登録は、後述するFT−IR測定装置が備えるメモリ部にリファレンスデータを記憶させるか、またはFT−IR測定装置がアクセス可能な外部記憶装置にリファレンスデータを記憶させることで行えばよい。
【0187】
リファレンスデータの登録が完了したら、前処理工程(S210)を終了する。
【0188】
(3−ii)測定工程
前処理工程(S210)を終了したら、その後、測定工程(S220)を行うことが可能となる。測定工程(S220)では、測定対象物である窒化物半導体積層物1について、FT−IR法による膜厚測定のために必要となる反射スペクトルの取得処理を行う。反射スペクトルの取得処理は、FT−IR測定装置を用いて行う。
【0189】
(FT−IR測定装置の概要)
ここで、FT−IR測定装置50の概要について簡単に説明する。
図17に示すように、FT−IR測定装置50は、赤外域(IR)の光を出射する光源51と、ハーフミラー52と、固定配置された固定ミラー53と、移動可能に配置された移動ミラー54と、反射ミラー55と、光を受光して検出するディテクタ56と、ディテクタ56に接続するコンピュータ装置等からなる解析制御部57と、を備えて構成されている。
【0190】
このような構成のFT−IR測定装置50では、光源51からの光がハーフミラー52に斜め入射して、透過光と反射光の二つの光束に分割される。二つの光束は、固定ミラー53と移動ミラー54とのそれぞれで反射されハーフミラー52に戻り、再び合成されて、干渉波(インターフェログラム)を発生させる。このとき、移動ミラー54の位置(光路差)によって、異なる干渉波が得られることになる。得られた干渉波は、反射ミラー55によって光路が変えられて、測定対象物(具体的には窒化物半導体積層物1)に照射される。そして、干渉波の照射に応じて測定対象物で発生した反射光(または透過光)が、再び反射ミラー55によって光路が変えられた後に、ディテクタ56によって受光されて検出される。その後、ディテクタ56での検出結果が解析制御部57で解析される。具体的には、詳細を後述するように、解析制御部57において、フーリエ変換を用いたスペクトル解析が行われる。
【0191】
以下、このような構成のFT−IR測定装置50を用いて行う測定工程(S220)について具体的に説明する。
【0192】
(S221:測定対象のセット工程)
測定工程(S220)に際しては、先ず、測定対象物となる窒化物半導体積層物1を、FT−IR測定装置50における干渉波の被照射箇所にセットする。窒化物半導体積層物1の被照射箇所へのセットは、FT−IR測定装置50の仕様に応じたものであれば、その手法が特に限定されるものではない。つまり、FT−IR測定装置50における試料載置台(ただし不図示)の仕様や構成等に応じて、測定対象物である窒化物半導体積層物1のセットを行えばよい。
【0193】
(S222:赤外光の照射工程)
窒化物半導体積層物1をセットした後は、続いて、光源51から赤外域(IR)の光を出射するとともに、移動ミラー54を適宜移動させて、干渉波(インターフェログラム)を発生させ、その干渉波を窒化物半導体積層物1に対して照射する。これにより、窒化物半導体積層物1からは、干渉波に応じた反射光が発せられることになる。
【0194】
(S223:反射スペクトルの取得工程)
その後は、窒化物半導体積層物1から発せられた反射光をディテクタ56で受光して検出する。つまり、ディテクタ56での受光および検出により、窒化物半導体積層物1からの反射光の干渉波形(インターフェログラム)を空間または時間の関数として観測することで、FT−IR法による膜厚測定のために必要となる反射スペクトルを、当該窒化物半導体積層物1から取得するのである。ここでいう反射スペクトルは、窒化物半導体積層物1に対して干渉波を照射したときに反射した光量を波長(波数)に対してプロットしたものである。
【0195】
ところで、測定対象物である窒化物半導体積層物1は、既に説明したように、基板10が低転位で、かつ、キャリア濃度と赤外域の吸収係数との間に依存性を有するものとなっている。また、基板10上にホモエピタキシャル成長されてなる半導体層20についても同様である。
【0196】
したがって、本実施形態の窒化物半導体積層物1であれば、干渉波を照射して取得される反射スペクトルは、その干渉波の影響が反映されたものとなる。具体的には、反射スペクトルは、光の干渉によって光量の大きい箇所と小さい箇所が交互に生じるフリンジ(干渉縞)の存在を表すパターンであるフリンジパターンを有したものとなる。
【0197】
取得される反射スペクトルがフリンジパターンを有していれば、そのフリンジパターンを分析することで、測定対象物である窒化物半導体積層物1についての膜厚測定を行うこと、すなわちFT−IR法を利用した膜厚測定を行うことが可能となる。
【0198】
このように、測定対象物である窒化物半導体積層物1からフリンジパターンを有する反射スペクトルを取得したら、測定工程(S220)を終了する。
【0199】
(3−iii)スペクトル分析工程
測定工程(S220)の終了後は、次いで、スペクトル分析工程(S230)を行う。スペクトル分析工程(S230)では、測定工程(S220)で取得した反射スペクトルについて、前処理工程(S210)で登録済みのリファレンスデータを用いつつ、フーリエ変換を行って波長(波数)成分に数学的に分離する分析(解析)処理を行う。
【0200】
具体的には、スペクトル分析工程(S230)では、以下のような分析処理を行う。先ず、窒化物半導体積層物1から取得した反射スペクトルをサンプルスペクトルとし、リファレンスデータによって特定されるベースライン(反射スペクトル)をバックグランドスペクトルとする。そして、サンプルスペクトルおよびバックグランドスペクトルのそれぞれに対してフーリエ変換を施して、それぞれのシングルビームスペクトル(SB)を得た上で、例えば以下の式(22)に基づき、サンプルスペクトルの強度をバックグランドスペクトルの強度で除することで、反射干渉パターンを算出する。
【0201】
(サンプルのSB)/(バックグランドのSB)×100=反射干渉パターン ・・・(22)
【0202】
このようにして算出される反射干渉パターンを基にすれば、その反射干渉パターンの近赤外領域でのフリンジ間隔から、窒化物半導体積層物1における半導体層20(具体的には、例えば半導体層20を構成するドリフト層22)の膜厚を推定することが可能となる。
【0203】
(3−iv)分析結果に基づく膜厚値の特定および出力工程
スペクトル分析工程(S220)の終了後は、次いで、分析結果に基づく膜厚値の特定および出力工程(S240)を行う。
【0204】
分析結果に基づく膜厚値の特定および出力工程(S240)では、先ず、スペクトル分析工程(S220)での分析結果として得た反射干渉パターンに基づき、窒化物半導体積層物1における半導体層20(例えば、ドリフト層22)の膜厚値を特定する。具体的には、スペクトル分析工程(S220)で算出した反射干渉パターンには、光が干渉により強め合うことで現れるバーストが存在しており、バースト間の距離が各反射光成分の光路差に対応していることから、そのバースト間の距離を半導体層20の屈折率の値で除することにより、半導体層20(例えば、ドリフト層22)の膜厚値を特定する。
【0205】
そして、半導体層20の膜厚値を特定したら、その後は、特定した膜厚値の出力を行う。膜厚値の出力は、例えば、FT−IR測定装置50が備える図示せぬディスプレイ部や、FT−IR測定装置50と接続する図示せぬプリンタ装置等を利用して行えばよい。
【0206】
このように膜厚値の出力を行うことで、その出力結果を参照したFT−IR測定装置50の利用者は、窒化物半導体積層物1における半導体層20の膜厚の測定結果を認識することができる。つまり、窒化物半導体積層物1の半導体層20について、FT−IR法を利用した膜厚測定を行うことができるようになる。
【0207】
(4)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
【0208】
(a)本実施形態では、基板10としてキャリア濃度と赤外域の吸収係数との間に依存性を有するものを用い、その基板10上に半導体層20をホモエピタキシャル成長させて、窒化物半導体積層物1を構成している。そのため、その窒化物半導体積層物1については、基板10と半導体層20との間でのキャリア濃度の差に依存して赤外域の吸収係数に違いが生じるようになり、FT−IR法を利用した膜厚測定を行うことが可能となる。
【0209】
さらに詳しくは、本実施形態においては、基板10の転位密度が例えば5×10個/cm以下といったように低転位であり、しかも基板10が赤外域の吸収係数について所定の要件を満たしており、これにより基板10におけるキャリア濃度と赤外域の吸収係数との間に依存性を有するものとなっている。また、半導体層20についても、基板10上にホモエピタキシャル成長させることで、その半導体層20を構成するGaN結晶が基板10を構成するGaN結晶に準じたものとなる。つまり、半導体層20は、基板10との間でキャリア濃度の違いがあるとしても、その基板10と同様に、低転位で、かつ、キャリア濃度と赤外域の吸収係数との間に依存性を有するものとなる。
したがって、本実施形態の窒化物半導体積層物1であれば、例えば1×1017cm‐3以下の低キャリア濃度であっても、基板10と半導体層20との間でのキャリア濃度の差に依存して赤外域の吸収係数に違いが生じるようになり、その結果としてFT−IR法を利用した膜厚測定を行うことが可能となる。
【0210】
以上のように、本実施形態によれば、III族窒化物半導体結晶のホモエピタキシャル膜である半導体層20について、例えば1×1017cm‐3以下の低キャリア濃度の場合であっても、キャリア濃度に依存してIRの吸収係数に違いが生じるようになり、FT−IR法を利用して非接触および非破壊で膜厚測定を行うことができる。したがって、半導体層20の膜厚管理を行う上で非常に有用であり、その膜厚管理を通じて、窒化物半導体積層物1を用いて構成される半導体装置の特性向上や信頼性向上等に寄与することが実現可能となる。
【0211】
(b)特に、本実施形態で説明したように、基板10が上記式(1)により近似される関係を満足するもの、すなわち基板10における依存性が上記式(1)によって規定されるものであれば、その基板10の上にホモエピタキシャル成長される半導体層20においても、キャリア濃度Nと吸収係数αとの関係性が確実に成り立つことになる。したがって、例えば1×1017cm‐3以下の低キャリア濃度であっても、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲においては、確実にキャリア濃度Nに依存して吸収係数αに違いが生じるようになり、FT−IR法を利用した膜厚測定を行う上で非常に好適なものとなる。
【0212】
基板10が上記式(1)により近似される関係を満足するのは、その基板10において、結晶歪みが小さく、また、Oやn型不純物以外の不純物(例えば、n型不純物を補償する不純物等)をほとんど含んでいない状態となっているからである。これにより、本実施形態の基板10では、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲における吸収係数αを所定の定数Kおよび定数aを用いて式(1)(α=NKλ)により近似することができる。
【0213】
なお、参考までに、従来の製造方法によって製造されるGaN結晶では、吸収係数αを、上記式(1)によって上記規定の定数Kおよび定数aを用いて精度良く近似することが困難である。
【0214】
ここで、図6(b)は、自由電子濃度に対する波長2μmでの吸収係数の関係を比較する図である。図6(b)において、本実施形態の製造方法により製造されるGaN結晶の吸収係数だけでなく、論文(A)〜(D)に記載されたGaN結晶の吸収係数も示している。
論文(A):A.S. Barker Physical Review B 7 (1973) p743 Fig.8
論文(B):P. Perlin, Physicsl Review Letter 75 (1995) p296 Fig。1 0.3GPaの曲線から推定。
論文(C):G. Bentoumi, Materical Science Engineering B50 (1997) p142−147 Fig.1
論文(D):S. Porowski, J. Crystal Growth 189−190 (1998) p.153−158 Fig.3 ただし、T=12K
【0215】
図6(b)に示すように、論文(A)〜(D)に記載の従来のGaN結晶における吸収係数αは、本実施形態の製造方法により製造されるGaN結晶の吸収係数αよりも大きかった。また、従来のGaN結晶における吸収係数αの傾きは、本実施形態の製造方法により製造されるGaN結晶の吸収係数αの傾きと異なっていた。なお、論文(A)および(C)では、吸収係数αの傾きが、自由電子濃度Nが大きくなるにしたがって変化しているようにも見受けられた。このため、論文(A)〜(D)に記載の従来のGaN結晶では、吸収係数αを、上記式(1)によって上記規定の定数Kおよび定数aを用いて精度良く近似することが困難であった。具体的には、例えば、定数Kが上記規定の範囲よりも高くなっていたり、定数aが3以外の値となっていたりする可能性があった。
【0216】
これは、以下の理由によるものと考えられる。従来のGaN結晶中には、その製造方法に起因して、大きな結晶歪みが生じていたと考えられる。GaN結晶中に結晶歪みが生じていると、GaN結晶中に転位が多くなる。このため、従来のGaN結晶では、転位散乱が生じ、転位散乱に起因して、吸収係数αが大きくなったり、ばらついたりしたと考えられる。または、従来の製造方法によって製造されるGaN結晶では、意図せずに混入するOの濃度が高くなっていたと考えられる。GaN結晶中にOが高濃度に混入すると、GaN結晶の格子定数aおよびcが大きくなる(参考:Chris G. Van de Walle, Physical Review B vol.68, 165209 (2003))。このため、従来のGaN結晶では、Oによって汚染された部分と、比較的純度の高い部分との間で、局所的な格子不整合が生じ、GaN結晶中に結晶歪みが生じていたと考えられる。その結果、従来のGaN結晶では、吸収係数αが大きくなったり、ばらついたりしたと考えられる。または、従来の製造方法によって製造されるGaN結晶では、n型不純物を補償するp型の補償不純物が意図せずに混入し、補償不純物の濃度が高くなっていたと考えられる。補償不純物の濃度が高いと、所定の自由電子濃度を得るために、高濃度のn型不純物が必要となる。このため、従来のGaN結晶では、補償不純物およびn型不純物を含む合計の不純物濃度が高くなり、結晶歪みが大きくなっていたと考えられる。その結果、従来のGaN結晶では、吸収係数αが大きくなったり、ばらついたりしたと考えられる。なお、実際にOを含み格子が歪んだGaN自立基板では、同じ自由電子濃度を有する本実施形態の基板10と比較して、(移動度が低く)吸収係数αが高いことを確認している。
【0217】
このような理由により、従来のGaN結晶では、吸収係数αを、上記式(1)によって上記規定の定数Kおよび定数aを用いて精度良く近似することが困難であった。つまり、従来のGaN結晶では、吸収係数を自由電子の濃度Nに基づいて精度良く設計することは困難であった。このため、従来のGaN結晶からなる基板では、基板に対して少なくとも赤外線を照射し基板を加熱する工程において、基板によって加熱効率がばらつき易く、基板の温度を制御することが困難となっていた。その結果、基板ごとの温度の再現性が低くなる可能性があった。
【0218】
これに対し、本実施形態の製造方法により製造される基板10は、結晶歪みが小さく、また、Oやn型不純物以外の不純物をほとんど含んでいない状態となっている。本実施形態の基板10の吸収係数は、結晶歪み起因の散乱(転位散乱)による影響が小さく、主にイオン化不純物散乱に依存している。これにより、基板10の吸収係数αのばらつきを小さくすことができ、基板10の吸収係数αを所定の定数Kおよび定数aを用いて上記式(1)により近似することができる。基板10の吸収係数αが上記式(1)により近似可能であることで、基板10の吸収係数を、基板10中へのn型不純物のドーピングによって生じる自由電子の濃度Nに基づいて精度良く設計することができる。基板10の吸収係数を自由電子の濃度Nに基づいて精度良く設計することで、基板10に対して少なくとも赤外線を照射し基板10を加熱する工程において、加熱条件を容易に設定することができ、基板10の温度を精度良く制御することができる。その結果、基板10ごとの温度の再現性を向上させることができる。このようにして、本実施形態では、基板10を精度良くかつ再現性良く加熱することが可能となる。
【0219】
(c)本実施形態では、FT−IR法を利用した膜厚測定にあたり、上記式(1)を満足する基板10についての誘電関数モデルを特定した上で、特定した誘電関数モデルに基づき基板10が単体のときの反射スペクトル(ベースライン)を演算処理により求め、求めた反射スペクトルをリファレンスデータ(基準データ)として用いるようになっている。つまり、基板10が低転位で高品質なものであり、その基板10におけるキャリア濃度Nと吸収係数αとの関係の制御性が高い(すなわち、キャリア濃度Nに関する信頼性が高い)ことから、ベースラインとなる反射スペクトルを演算処理(シミュレーション)により求めることができる。したがって、FT−IR法を利用した膜厚測定にあたり、誘電関数モデルとキャリア濃度から反射スペクトルを求めてその計算値をリファレンスとしているので、例えば基板単体からのリファレンスとなる反射スペクトルの実測が不要となり、その膜厚測定の効率向上を実現することが可能となる。
【0220】
(d)本実施形態では、III族窒化物半導体の結晶がGaN結晶であり、いわゆるGaN−on−GaN基板について、FT−IR法を利用した膜厚測定を行う。つまり、本実施形態によれば、従来は原理的に膜厚測定が困難であると考えられていたGaN−on−GaN基板であっても、FT−IR法を利用した膜厚測定を行うことが実現可能となる。
【0221】
(e)本実施形態における窒化物半導体積層物1は、基板10上の半導体層20に対して赤外光を照射して得られるFT−IR法による反射スペクトル中にフリンジパターンを有している。このように、反射スペクトル中にフリンジパターンを有していれば、そのフリンジパターンを分析することで、半導体層20についての膜厚測定を行うこと、すなわちFT−IR法を利用した膜厚測定を行うことが可能となる。したがって、本実施形態における窒化物半導体積層物1は、FT−IR法を利用して非接触および非破壊で膜厚測定を行うことが可能であり、その測定結果に基づく膜厚管理を通じて、窒化物半導体積層物1を用いて構成される半導体装置の特性向上や信頼性向上等に寄与することが実現可能となる。
【0222】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。しかしながら、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0223】
上述の実施形態では、主として、FT−IR法を利用した膜厚測定を行う場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、上述の実施形態で説明した基板10を用いて窒化物半導体積層物1を構成した場合、TOフォノン(560cm−1)より低波数側では消衰係数kが自由キャリア吸収のために比較的大きくなるので、FT−IR法のみならず、赤外分光エリプソメトリ法によっても、膜厚測定を行うことが可能である。なお、赤外分光エリプソメトリ法は、光学測定手法の一つであり、試料での光反射による偏光状態の変化を測定することで、膜厚測定等を行う技術である。
【0224】
上述の実施形態では、基板10および半導体層20がそれぞれGaNからなっている場合について説明したが、基板10および半導体層20は、GaNに限らず、他のIII族窒化物半導体の結晶からなるものであってもよい。他のIII族窒化物半導体としては、例えば、窒化インジウム(InN)や窒化インジウムガリウム(InGaN)等が挙げられる。さらには、AlN、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlInGaN)等がであってもよい。このように、III族窒化物半導体は、AlInGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)の組成式で表されるものを含む。つまり、本発明は、GaN−on−GaN基板のみならず、例えば、AlN基板上にAlN層がホモエピタキシャル成長されてなるAlN−on−AlN基板についても、また他のIII族窒化物半導体によるホモエピタキシャル成長基板についても、全く同様に適用することが可能である。なお、Al組成を含むものについては、分光エリプソメトリ法によっても膜厚測定を行うことが考えられる。
【0225】
上述の実施形態では、基板作成工程(S110)において、GaN単結晶からなる種基板5を用いて基板10を作製する場合について説明したが、基板10を以下の方法により作製してもよい。例えば、サファイヤ基板等の異種基板上に設けられたGaN層を下地層として用い、ナノマスク等を介してGaN層を厚く成長させた結晶インゴットを異種基板から剥離させ、この結晶インゴットから複数の基板10を切り出してもよい。
【0226】
上述の実施形態では、半導体層成長工程(S120)において、MOVPE法により半導体層20を形成する場合について説明したが、HVPE法などの他の気相成長法や、フラックス法やアモノサーマル法などの液相成長法により半導体層20を形成してもよい。
【0227】
上述の実施形態では、窒化物半導体積層物1を用いて構成する半導体装置がSBDである場合について説明したが、半導体装置は、n型不純物を含む基板10を用いていれば、他のデバイスとして構成されていてもよい。例えば、半導体装置は、発光ダイオード、レーザダイオード、ジャンクションバリアショットキーダイオード(JBS)、バイポーラトランジスタ等であってもよい。
【0228】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0229】
(付記1)
本発明の一態様によれば、
III族窒化物半導体の結晶からなる基板上に薄膜がホモエピタキシャル成長されてなる窒化物半導体積層物における前記薄膜の膜厚を測定する膜厚測定方法であって、
前記基板として、当該基板におけるキャリア濃度と赤外域の吸収係数との間に依存性を有するものを用い、
前記薄膜の膜厚を、フーリエ変換赤外分光法または赤外分光エリプソメトリ法を利用して測定する
膜厚測定方法が提供される。
【0230】
(付記2)
付記1に記載の膜厚測定方法において、好ましくは、
前記基板における前記依存性は、波長をλ(μm)、27℃における前記基板の吸収係数をα(cm−1)、前記基板中のキャリア濃度をN(cm−3)、Kおよびaをそれぞれ定数としたときに、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲における前記吸収係数αが、以下の式(1)により近似される。
α=NKλ ・・・(1)
(ただし、2.0×10−19≦K≦6.0×10−19、a=3)
【0231】
(付記3)
付記2に記載の膜厚測定方法において、好ましくは、
前記式(1)を満足する前記基板についての誘電関数モデルを特定した上で、特定した誘電関数モデルに基づき前記基板が単体のときの反射スペクトルを演算処理により求め、
求めた前記反射スペクトルを前記フーリエ変換赤外分光法または前記赤外分光エリプソメトリ法により膜厚測定を行う際のリファレンスとして用いる。
【0232】
(付記4)
付記1から3のいずれか1つに記載の膜厚測定方法において、好ましくは、
前記III族窒化物半導体の結晶が窒化ガリウムの結晶である。
【0233】
(付記5)
本発明の他の態様によれば、
III族窒化物半導体の結晶からなる基板上に薄膜がホモエピタキシャル成長されてなる窒化物半導体積層物の製造方法であって、
前記基板として、当該基板におけるキャリア濃度と赤外域の吸収係数との間に依存性を有するものを用い、当該基板上に前記薄膜をホモエピタキシャル成長させる成長工程と、
前記基板上に形成された前記薄膜の膜厚を測定する測定工程と、
を備え、
前記測定工程では、前記薄膜の膜厚を、フーリエ変換赤外分光法または赤外分光エリプソメトリ法を利用して測定する
窒化物半導体積層物の製造方法が提供される。
【0234】
(付記6)
本発明のさらに他の態様によれば、
III族窒化物半導体の結晶からなる基板と、
前記基板上にホモエピタキシャル成長されてなる薄膜と、
を備え、
前記基板上の前記薄膜に対して赤外光を照射して得られるフーリエ変換赤外分光法による反射スペクトル中にフリンジパターンを有する
窒化物半導体積層物が提供される。
【0235】
(付記7)
付記6に記載の窒化物半導体積層物において、好ましくは、
前記基板は、当該基板におけるキャリア濃度と赤外域の吸収係数との間に依存性を有する。
【0236】
(付記8)
付記7に記載の窒化物半導体積層物において、好ましくは、
前記基板における前記依存性は、波長をλ(μm)、27℃における前記基板の吸収係数をα(cm−1)、前記基板中のキャリア濃度をN(cm−3)、Kおよびaをそれぞれ定数としたときに、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲における前記吸収係数αが、以下の式(1)により近似される。
α=NKλ ・・・(1)
(ただし、2.0×10−19≦K≦6.0×10−19、a=3)
【0237】
(付記9)
付記6から8のいずれか1つに記載の窒化物半導体積層物において、好ましくは、
前記III族窒化物半導体の結晶が窒化ガリウムの結晶である。
【符号の説明】
【0238】
1…窒化物半導体積層物(中間体)、10…基板、20…半導体層、21…下地n型半導体層、22…ドリフト層
【要約】
【課題】III族窒化物半導体結晶のホモエピタキシャル膜について、FT−IR法を利用した膜厚測定を行うことを可能にする。
【解決手段】III族窒化物半導体の結晶からなる基板上に薄膜がホモエピタキシャル成長されてなる窒化物半導体積層物における薄膜の膜厚を測定する膜厚測定方法であって、基板として、当該基板におけるキャリア濃度と赤外域の吸収係数との間に依存性を有するものを用い、薄膜の膜厚を、フーリエ変換赤外分光法または赤外分光エリプソメトリ法を利用して測定する。
【選択図】図11
図1
図2
図3
図4
図5
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図8
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