(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
湿熱接着性樹脂及び熱可塑性エラストマーで形成された複合繊維を含み、かつ前記湿熱接着性樹脂が繊維表面で長さ方向に連続して延びる構造を有する不織繊維構造体であって、見掛密度が50〜700kg/m3であり、少なくとも1つの方向において、水分率50質量%の湿潤条件で破断伸度が100%以上であり、前記複合繊維の融着により繊維が繊維接着率1〜85%で固定され、かつ前記熱可塑性エラストマーが、40質量%より大きく60質量%以下の芳香族ビニル単位を含む芳香族ビニル−ジエン系共重合体であり、かつ水分を吸収して使用するための不織繊維構造体。
芳香族ビニル−ジエン系共重合体において、芳香族ビニル単位とジエン系単位との質量比が、前者/後者=60/40〜40/60である請求項1〜4のいずれかに記載の不織繊維構造体。
前記不織繊維構造体の厚み方向の断面において、厚み方向に三等分した各々の領域における繊維接着率がいずれも1〜85%である、請求項1〜8のいずれかに記載の不織繊維構造体。
前記不織繊維構造体の厚み方向の断面において、厚み方向に三等分した各々の領域における繊維接着率の最大値に対する最小値の割合(最小値/最大値)が50%以上である、請求項1〜9のいずれかに記載の不織繊維構造体。
複合繊維を含む不織繊維ウェブを高温水蒸気で加熱し、前記湿熱接着性繊維同士を融着する融着工程を含む請求項1〜10のいずれかに記載の不織繊維構造体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[複合繊維]
本発明の不織繊維構造体は、湿熱接着性樹脂及び熱可塑性エラストマーで形成された複合繊維を含む。この複合繊維は、湿熱接着性樹脂が繊維表面で長さ方向に連続して延びる構造を有している。
【0009】
複合繊維の構造は、湿熱接着性樹脂が繊維表面で長さ方向に連続して延びていれば特に限定されないが、接着性の点から、複合繊維表面において湿熱接着性樹脂が占める面積割合は大きい方が好ましく、複合繊維表面における湿熱接着性樹脂の被覆率は、例えば、50%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上であってもよい。
【0010】
複合繊維の構造は、例えば、横断面構造(繊維の長さ方向に垂直な断面構造)が、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型又は多層貼合型、放射状貼合型、ランダム複合型などであってもよい。これらの横断面構造のうち、接着性が高い構造である点から、湿熱接着性樹脂が繊維の全表面を被覆する構造である芯鞘型構造(すなわち、鞘部が湿熱接着性樹脂で形成され、かつ芯部が熱可塑性エラストマーで形成された芯鞘型構造)が好ましい。芯鞘型構造の繊維は、熱可塑性エラストマーで形成された繊維の表面に湿熱接着性樹脂をコーティングした繊維であってもよい。このような芯鞘型複合繊維は、湿熱接着性樹脂が繊維の全表面を被覆しているため、熱可塑性エラストマーを含むにも拘わらず、紡糸性にも優れている。
【0011】
複合繊維において、湿熱接着性樹脂と熱可塑性エラストマーとの質量比は、構造(例えば、芯鞘型構造)に応じて選択でき、湿熱接着性樹脂が表面に存在すれば特に限定されないが、例えば、湿熱接着性樹脂/熱可塑性エラストマー=90/10〜10/90、好ましくは80/20〜20/80、さらに好ましくは60/40〜40/60程度である。この割合は用途に応じて選択でき、例えば、高い柔軟性が要求される場合は、湿熱接着性樹脂/熱可塑性エラストマー=70/30〜10/90、好ましくは60/40〜15/85、さらに好ましくは50/50〜20/80(特に40/60〜20/80)程度であってもよい。湿熱接着性樹脂の割合が多すぎると、繊維の強度を確保し難く、湿熱接着性樹脂の割合が少なすぎると、湿熱接着性が低下する。
【0012】
複合繊維全体の横断面形状(繊維の長さ方向に垂直な断面形状)は、中空断面状などであってもよいが、通常、一般的な中実断面形状である丸型断面や異型断面[偏平状、楕円状、多角形状など]であり、丸型断面が好ましい。
【0013】
複合繊維の平均繊度は、用途に応じて0.01〜100dtex程度の範囲から選択でき、例えば、0.1〜50dtex、好ましくは0.5〜30dtex、さらに好ましくは1〜10dtex(特に1.5〜5dtex)程度である。繊度が細すぎると、繊維自体の製造が困難となることに加え、繊維強度の確保も困難となる。繊度が太すぎると、不織繊維構造体の通気性や柔軟性が低下する可能性がある。
【0014】
複合繊維の平均繊維長は、例えば、10〜100mm、好ましくは25〜75mm、さらに好ましくは40〜65mm程度である。繊維長が短すぎると、後の工程での繊維ウェブ形成が難しくなり、繊維同士の交絡が十分に行なわれず、強度の確保が困難となる。また、繊維長が長すぎると、均一な目付の繊維ウェブを形成するのが困難となる。
【0015】
複合繊維は、収縮率の異なる樹脂成分で形成され、加熱により捲縮するためか、不織繊維構造体中で、複合繊維が所定の曲率半径を有している。複合繊維の捲縮コイル部における円の平均曲率半径は、例えば、100〜5000μm、好ましくは200〜2000μm、さらに好ましくは300〜1000程度である。ここで、平均曲率半径は、捲縮繊維のコイルにより形成される円の平均的大きさを表す指標であり、この値が大きい場合は、形成されたコイルがルーズな形状を有し、言い換えれば捲縮数の少ない形状を有していることを意味する。本発明では、複合繊維の適度な捲縮も、不織繊維構造体の柔軟性に寄与していると推定される。
【0016】
複合繊維の捲縮率は、例えば、1〜50%、好ましくは3〜40%、さらに好ましくは5〜30%程度である。また、捲縮数は、例えば、1〜100個/25mm、好ましくは5〜50個/25mm、さらに好ましくは10〜30個/25mm程度である。
(湿熱接着性樹脂)
【0017】
複合繊維を構成する湿熱接着性樹脂としては、熱水(例えば、80〜120℃、特に95〜100℃程度)で溶解せずに、軟化して自己接着又は他の繊維に接着可能な熱可塑性樹脂、例えば、セルロース系樹脂(メチルセルロースなどのC
1−3アルキルセルロースエーテル、ヒドロキシメチルセルロースなどのヒドロキシC
1−3アルキルセルロースエーテル、カルボキシメチルセルロースなどのカルボキシC
1−3アルキルセルロースエーテル又はその塩など)、ポリアルキレングリコール樹脂(ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドなどのポリC
2−4アルキレンオキサイドなど)、ポリビニル系樹脂(ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ビニルアルコール系重合体、ポリビニルアセタールなど)、アクリル系共重合体及びそのアルカリ金属塩[(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミドなどのアクリル系単量体で構成された単位を含む共重合体又はその塩など]、変性ビニル系共重合体(イソブチレン、スチレン、エチレン、ビニルエーテルなどのビニル系単量体と、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸又はその無水物との共重合体又はその塩など)、親水性の置換基を導入したポリマー(スルホン酸基やカルボキシル基、ヒドロキシル基などを導入したポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン又はその塩など)、脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリ乳酸系樹脂など)などが挙げられる。さらに、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、熱可塑性エラストマーまたはゴム(スチレン系エラストマーなど)などのうち、熱水(高温水蒸気)の温度で溶解せずに、軟化して接着機能を発現可能な樹脂も含まれる。湿熱接着性樹脂の融点又は軟化点は、例えば、80〜250℃、好ましくは100〜200℃、さらに好ましくは100〜180℃(特に105〜170℃)程度であってもよい。これらのうち、エチレンービニルアルコール系共重合体が好ましい。
【0018】
エチレンービニルアルコール系共重合体において、エチレン単位の割合は、加工性の点から、15%以上であってもよく、例えば、15〜60モル%、好ましくは20〜55モル%、さらに好ましくは30〜50モル%程度である。エチレン単位の割合が少なすぎると、高温水蒸気で加熱した場合、エチレン−ビニルアルコール系共重合体が、低温の蒸気(水)で容易に膨潤・ゲル化してしまい、水に濡れると形態が変化し易い。また、多すぎると、吸湿性が低下し、湿熱による繊維融着が発現しにくくなるため、実用性のある硬度を確保できなくなる場合がある。
【0019】
エチレンービニルアルコール系共重合体におけるビニルアルコール単位の鹸化度は、例えば、90〜99.99モル%程度であり、好ましくは95〜99.98モル%、さらに好ましくは96〜99.97モル%程度である。鹸化度が小さすぎると、熱安定性が低下し、熱分解やゲル化によって安定性が低下する。一方、鹸化度が大きすぎると、繊維自体の製造が困難となる。
【0020】
エチレンービニルアルコール系共重合体の粘度平均重合度は、必要に応じて選択できるが、例えば、200〜2500、好ましくは300〜2000、さらに好ましくは400〜1500程度である。重合度がこの範囲にあると、紡糸性と湿熱接着性とのバランスに優れる。エチレン単位が多いことにより、湿熱接着性を有するが、熱水溶解性はないという特異な性質が得られる。
(熱可塑性エラストマー)
【0021】
熱可塑性エラストマーとしては、芳香族ビニル単位とジエン系単位とを含む芳香族ビニル−ジエン系共重合体が用いられることが必要であり、芳香族ビニル−ジエン系共重合体は、モノマー換算で、全モノマー単位の総量に対して、40質量%より大きく60質量%以下の芳香族ビニル単位を含んでいることが必要である。本発明では、このような割合で芳香族ビニル単位を含むことにより、不織繊維構造体に対して、適度な柔軟性を付与できる。
芳香族ビニル単位の含有量(共重合割合)は、モノマー換算で、全モノマー単位の総量に対して、41〜55質量%、好ましくは42〜52質量%、さらに好ましくは43〜50質量%程度であってもよい。また、芳香族ビニル単位とジエン系単位との質量比は、例えば、前者/後者=60/40〜10/90、好ましくは55/45〜15/85、さらに好ましくは40/60〜20/80程度であってもよい。芳香族ビニル単位の含有量が多すぎると、不織繊維構造体としての柔軟性が低下する。
なお、本明細書では、芳香族ビニル−ジエン系共重合体には水素添加物も含まれるため、「ジエン系単位」は、ジエン系単位が水素添加された単位(オレフィン系単位)も含む意味で用いる。
【0022】
芳香族ビニル単位を構成する芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、アルキル置換スチレン(例えば、ビニルトルエン、ビニルキシレン、p−エチルスチレン、p−イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレンなど)、ハロゲン置換スチレン(例えば、クロロスチレン、ブロモスチレンなど)、α位にアルキル基が置換したα−アルキル置換スチレン(例えば、α−メチルスチレンなど)などが例示できる。これらの芳香族ビニル単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、通常、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなどが使用され、スチレンが特に好ましい。
【0023】
ジエン系単位を構成するジエン系単量体としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、1,3−又は1,4−ペンタジエンなどの共役ジエン系単量体などが挙げられる。これらのジエン系単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、ブタジエン、イソプレンなどが汎用され、イソプレンが特に好ましい。
【0024】
芳香族ビニル単位とジエン系単位との重合形態は、特に限定されず、ランダム共重合であってもよいが、柔軟性などの点から、ブロック共重合が好ましい。ブロック共重合体としては、芳香族ビニル単位とジエン系単位とのジブロック、トリブロック、テトラブロック共重合体などが例示できる。これらのうち、トリブロック共重合体が好ましい。
【0025】
芳香族ビニル−ジエン系共重合体には、他の共重合性単量体が含まれていてもよい。他の共重合性単量体としては、例えば、アクリル系単量体[(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸C
1−20アルキルエステルなど]、不飽和多価カルボン酸又はその酸無水物(マレイン酸又はその酸無水物など)などが挙げられる。他の共重合性単量体の含有量(共重合割合)は、モノマー換算で、全モノマー単位の総量に対して、20質量%以下(特に10質量%以下)であってもよい。
【0026】
芳香族ビニル−ジエン系共重合体は、水素添加物であってもよく、柔軟性の点から、水素添加物であることが好ましい。芳香族ビニル−ジエン系共重合体の水素添加率は、特に限定されないが、例えば、50モル%以上であり、好ましくは70〜100モル%程度である。水素添加率が低すぎると、不織繊維構造体の柔軟性を向上する効果が低下する。
【0027】
芳香族ビニル−ジエン系共重合体の具体例としては、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体やスチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)などのスチレン−ブタジエン系共重合体、水素添加スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−イソプレン共重合体、水素添加スチレン−イソプレン共重合体(SEP)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、水素添加スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SEPS)などが例示できる。これらの芳香族ビニル−ジエン系共重合体のうち、非晶性で引張弾性に優れる点から、スチレン−イソプレン共重合体、SEP、SIS、SEPSが好ましく、SISが特に好ましい。ブロック共重合体において、伸縮性の点から、末端ブロックは、芳香族ビニル系ブロックであるのが好ましい。
【0028】
芳香族ビニル−ジエン系共重合体の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算で測定したとき、例えば、1万〜200万、好ましくは5万〜100万、さらに好ましくは10万〜50万(特に20万〜30万)程度である。
【0029】
芳香族ビニル−ジエン系共重合体のメルトフローレート(MFR)は、JIS K 7210に準じた方法(190℃、荷重2.16kgf)で、例えば、10〜200g/10分、好ましくは20〜150g/10分、さらに好ましくは30〜100g/10分(特に50〜80g/10分)程度である。
(添加剤)
【0030】
複合繊維は、さらに、慣用の添加剤、例えば、安定剤(銅化合物などの熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤など)、分散剤、増粘剤、微粒子、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤、滑剤、抗菌剤、防虫・防ダニ剤、防カビ剤、つや消し剤、蓄熱剤、香料、蛍光増白剤、湿潤剤などを含有していてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの添加剤は、繊維表面に担持されていてもよく、繊維中に含まれていてもよい。
[不織繊維構造体]
【0031】
本発明では、複合繊維が前記湿熱接着性樹脂を含むことにより、高温水蒸気で加熱すると厚み方向で均一な接着を実現できる。さらに、加熱処理して得られた不織繊維構造体においては、水分を吸収することにより湿熱接着性樹脂が軟化するため、引張応力が負荷されると湿熱接着性樹脂が容易に伸張又は破壊(破断)されることにより、熱可塑性エラストマーの伸縮性を充分に発現できる。そのため、湿潤状態の不織繊維構造体は、乾燥状態の不織繊維構造体よりも高い伸縮性を示す。
【0032】
また、本発明において用いられる複合繊維は、高温水蒸気等で繰り返し融着処理を行えるため、繊維同士が融着した不織繊維構造体の柔軟性を利用して、曲げた状態で再度高温水蒸気等で加熱処理すれば、容易に曲げ加工(二次成形)できる。
【0033】
本発明の不織繊維構造体は、前記複合繊維の融着により繊維が固定されている。前記複合繊維の融着により繊維が固定された不織繊維構造体は、高温(過熱又は加熱)水蒸気を利用して接着するために、厚み方向で均一に接着されており、通気性を有する繊維構造を保持しながら、形態安定性(剛性)を有するともに、柔軟性も有している。
【0034】
不織繊維構造体は、不織繊維構造を構成する繊維が前記複合繊維の融着により繊維接着率85%以下(例えば、1〜85%)、好ましくは3〜70%、さらに好ましくは5〜60%(特に10〜35%)程度で接着されている。本発明では、このような範囲で繊維が接着されているため、不織繊維構造でありながら、剛性を有し、かつ各繊維の自由度もある程度高いため、比較的容易に曲げることができる柔軟性も備えている。繊維接着率は、特許第4951618号公報の実施例に記載の方法で測定できるが、不織繊維断面における全繊維の断面数に対して、2本以上接着した繊維の断面数の割合を示す。
【0035】
不織繊維構造体を構成する繊維は、各々の繊維の接点で接着しているが、この接着点が、厚み方向に沿って、繊維構造体表面から内部(中央)、そして裏面に至るまで、均一に分布しているのが好ましい。すなわち、繊維構造体の厚み方向の断面において、厚み方向に三等分した各々の領域における繊維接着率がいずれも前記範囲にあるのが好ましい。さらに、各領域における繊維接着率の最大値に対する最小値の割合(最小値/最大値)(繊維接着率が最大の領域に対する最小の領域の比率)が、例えば、50%以上(例えば、50〜100%)、好ましくは55〜99%、さらに好ましくは60〜98%(特に70〜97%)程度である。
【0036】
不織繊維構造体の目付は、用途に応じて、例えば、30g/m
2以上程度の範囲から選択でき、例えば、50〜5000g/m
2、好ましくは100〜4000g/m
2、さらに好ましくは200〜3000g/m
2(特に300〜2000g/m
2)程度である。目付が小さすぎると、形態安定性(剛性)を確保することが困難となる。
【0037】
不織繊維構造体の見掛密度は、例えば、50〜700kg/m
3、好ましくは100〜500kg/m
3、さらに好ましくは150〜450kg/m
3(特に200〜400kg/m
3)程度である。見掛密度が低すぎると、柔軟性や通気性は向上するものの、剛性を確保することが難しく、逆に高すぎると、剛性は十分確保できるものの、柔軟性や通気性が低下する。
【0038】
不織繊維構造体は、形態安定性に優れているとともに、通気性も高い。具体的には、不織繊維構造体は、フラジール形法による通気度で0.1ml/(cm
2・秒)以上[例えば、0.1〜300ml/(cm
2・秒)]、好ましくは0.5〜250ml/(cm
2・秒)[例えば、1〜250ml/(cm
2・秒)]、さらに好ましくは5〜200ml/(cm
2・秒)程度であり、通常、1〜100ml/(cm
2・秒)程度である。通気度が小さすぎると、構造体に空気を通過させるために外部から圧力を加える必要が生じ、自然な空気の出入が困難となる。一方、通気度が大き過ぎると、通気性は高くなるが、構造体内の繊維空隙が大きくなりすぎ、剛性が低下する。
【0039】
本発明の不織繊維構造体は柔軟性に優れており、乾燥時の破断伸度が、少なくとも一方向(例えば、製造工程の流れ方向(MD方向))において、50%以上であってもよく、例えば、55〜250%、好ましくは60〜200%、さらに好ましくは70〜150%程度である。乾燥時の破断伸度が小さすぎると、柔軟性が低下し、例えば、用途に応じて湾曲させたり、曲げ加工が困難となる。
【0040】
乾燥時の不織繊維構造体において、引張強度における5%引張時の強度(初期弾性率)は、単位目付当たりの強度(1g/m
2当たりに換算した強度)おいて、少なくとも一方向(例えば、製造工程の流れ方向(MD方向))が0.7N/2.5cm以下(例えば、0.1〜0.65N/2.5cm)であってもよく、好ましくは0.2〜0.6N/2.5cm、さらに好ましくは0.3〜0.55N/2.5cm(特に0.4〜0.5N/2.5cm)程度であってもよい。この強力が小さすぎると、形態安定性が悪くなる可能性がある。
【0041】
本発明の不織繊維構造体は湿潤時の柔軟性にも優れており、水分率50質量%の湿潤条件で破断伸度が、少なくとも一方向(例えば、製造工程の流れ方向(MD方向))において、100%以上であってもよく、例えば、110〜300%、好ましくは120〜250%、さらに好ましくは130〜200%程度である。湿潤時の破断伸度が小さすぎると、湿潤時の柔軟性が十分でない可能性があり、例えば、水分を吸収して使用、加工する用途での柔軟性が得にくい場合がある。
【0042】
不織繊維構造体は、湿熱接着性樹脂で形成されているため、親水性にも優れ、吸水率は、JIS L1907に準じた方法で、例えば、5質量%以上、好ましくは10質量%以上(例えば、10〜5000質量%)、さらに好ましくは50質量%以上(例えば、50〜3000質量%)である。
【0043】
不織繊維構造体の厚み(平均厚み)は、用途に応じて、0.3mm以上の範囲から選択でき、例えば、0.5〜100mm、好ましくは1〜50mm、さらに好ましくは1.5〜30mm(特に2〜20mm)程度である。厚みが薄すぎると、剛性が低下する。
【0044】
本発明の不織繊維構造体は、前記複合繊維に加えて、他の繊維、例えば、非湿熱接着性繊維を含んでいてもよい。非湿熱接着性繊維としては、ポリエステル系繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維などの芳香族ポリエステル繊維など)、ポリアミド系繊維(ポリアミド6、ポリアミド66などの脂肪族ポリアミド系繊維など)、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリC
2−4オレフィン繊維など)、アクリル系繊維(アクリロニトリル系繊維など)、ポリビニル系繊維(ポリビニルアセタール系繊維など)、ポリ塩化ビニル系繊維(ポリ塩化ビニル繊維など)、ポリ塩化ビニリデン系繊維(塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体などの繊維)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、セルロース系繊維(例えば、レーヨン繊維、アセテート繊維など)などが挙げられる。これらの非湿熱接着性繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。非湿熱接着性繊維の平均繊度及び平均繊維長は、湿熱接着性繊維と同様である。非湿熱接着性繊維の割合は、繊維全体に対して、例えば、50質量%以下、好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下程度である。
[不織繊維構造体の製造方法]
【0045】
本発明の不織繊維構造体の製造方法は、複合繊維を含む不織繊維ウェブを高温水蒸気で加熱し、前記
湿熱接着性繊維同士を融着する融着工程を含んでいればよいが、融着工程の前に、ウェブ形成工程において、まず、前記複合繊維を含む繊維をウェブ化する。ウェブの形成方法としては、慣用の方法、例えば、スパンボンド法、メルトブロー法などの直接法、メルトブロー繊維やステープル繊維などを用いたカード法、エアレイ法などの乾式法などを利用できる。これらの方法のうち、メルトブロー繊維やステープル繊維を用いたカード法、特にステープル繊維を用いたカード法が汎用される。ステープル繊維を用いて得られたウェブとしては、例えば、ランダムウェブ、セミランダムウェブ、パラレルウェブ、クロスラップウェブなどが挙げられる。
【0046】
次に、融着工程において、得られた繊維ウェブは、ベルトコンベアにより次工程へ送られ、次いで過熱又は高温蒸気(高圧スチーム)流に晒されることにより、不織繊維構造を有する構造体が得られる。すなわち、ベルトコンベアで運搬された繊維ウェブは、蒸気噴射装置のノズルから噴出される高速高温水蒸気流の中を通過する際、吹き付けられた高温水蒸気により繊維同士が三次元的に接着される。特に、本発明における繊維ウェブは通気性を有しているため、高温水蒸気が内部にまで浸透し、略均一な融着状態を有する構造体を得ることができる。
【0047】
不織繊維構造体は、具体的には、温度70〜150℃、好ましくは80〜120℃、さらに好ましくは90〜110℃程度の高温水蒸気を、前記繊維ウェブに対して、圧力0.1〜2MPa、好ましくは0.2〜1.5MPa、さらに好ましくは0.3〜1MPa程度、処理速度200m/分以下、好ましくは0.1〜100m/分、さらに好ましくは1〜50m/分程度で噴射する方法により得られるが、詳細な製造方法については、特許第4951618号公報や国際公開WO2009/28564号公報に記載の製造方法を利用できる。
【0048】
得られた不織繊維構造体は、通常、板状又はシート状成形体として得られ、用途に応じて、切断加工などにより所望の大きさや形状に加工されるが、必要に応じて慣用の熱成形により二次成形してもよい。不織繊維構造体は、適度な柔軟性を備えるため、所望の形状に変形し易く、二次成形性に優れている。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。実施例における各物性値は、以下に示す方法により測定した。なお、実施例中の「部」及び「%」はことわりのない限り、質量基準である。
【0050】
(1)目付(g/m
2)
JIS L1913「一般短繊維不織布試験方法」に準じて測定した。
【0051】
(2)厚み(mm)、見掛け密度(g/cm
3)
JIS L1913「一般短繊維不織布試験方法」に準じて厚さを測定し、この値と目付けの値とから見かけ密度を算出した。
【0052】
(3)吸水率
JIS L1907「吸水率」に準じて測定した。5cm×5cm角サイズのサンプルを調製し、質量(成形体質量)を測定する。このサンプルを水中に30秒間沈めておき、その後引き上げて、空気中に1つの角を上にした状態で1分間吊して表面の水を切った後、質量(吸水後質量)を測定し、以下の式に基づいて算出した。
吸水率=(吸水後質量−成形体質量)/成形体質量×100(質量%)。
【0053】
(4)通気度
JIS L1096に準じ、フラジール形法にて測定した。
【0054】
(5)破断強度及び破断伸度
JIS L1913「一般短繊維不織布試験方法」に準じて、定速伸長形引張試験機((株)島津製作所製)を用いて、乾燥状態及び湿潤状態において、それぞれ測定した。なお、破断伸度は不織繊維構造体の流れ(MD)方向について測定した。また、乾燥状態のサンプルとしては、温度25℃、湿度60%RHの環境下に1日放置したサンプルを用い、湿潤状態のサンプルとしては、浸水した後、取り出して、水分率を50%に調整したサンプルを用いた(以下の裂断長、引張強度についても同様)。
【0055】
(6)裂断長
JIS P8113「紙及び板紙−引張特性の試験方法」に準じて測定した。なお、裂断長は不織布の流れ(MD)方向について測定した。
【0056】
(7)引張強度
JIS L1913「一般短繊維不織布試験方法」に準じて測定した。定速伸長形引張試験機((株)島津製作所製)を用いて、2.5cm幅、チャック間10cm、速度100mm/分の速度で5%、100%、200%引っ張ったときの(MD)引張強度を測定した。なお、表中の5%/目付、100%/目付、200%/目付は、引張強度を、それぞれ単位目付当たりの強度に換算した値である。
【0057】
実施例1
湿熱性接着性繊維として、芯成分がスチレン系エラストマー((株)クラレ製「ハイブラー7350」、スチレン含有量45質量%)、鞘成分がエチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン含有量44モル%、鹸化度98.4モル%、芯鞘質量比=50/50)である芯鞘型複合ステープル繊維(平均繊度4.4dtex、平均繊維長51mm)を調製した。
この芯鞘型複合ステープル繊維100質量%を用いて、セミランダムカード法により2枚重ねて合計目付約80g/m
2のカードウェブを作製した。
このカードウェブを、50メッシュ、幅500mmのステンレス製エンドレスネットを装備したベルトコンベアに移送した。尚、このベルトコンベアの金網の上部には同じ金網を有するベルトコンベアが装備されており、それぞれが同じ速度で同方向に回転し、これら両金網の間隔を任意に調整可能なベルトコンベアを使用した。
【0058】
次いで、下側コンベアに備えられた水蒸気噴射装置へカードウェブを導入し、この装置から温度80℃、0.2MPaの高温水蒸気をカードウェブの厚み方向に向けて通過するように(垂直に)噴出して水蒸気処理を施し、不織繊維構造体を得た。この水蒸気噴射装置は、下側のコンベア内に、コンベアネットを介して高温水蒸気をウェブに向かって吹き付けるようにノズルが設置され、上側のコンベアにサクション装置が設置されていた。また、この噴射装置のウェブ進行方向における下流側には、ノズルとサクション装置との配置が逆転した組合せである噴射装置がもう一台設置されており、ウェブの表裏両面に対して水蒸気処理を施した。
なお、水蒸気噴射ノズルの孔径は0.3mmであり、ノズルがコンベア幅方向に1mmピッチで1列に並べられた水蒸気噴射装置を使用した。加工速度は5m/分であり、ノズルとサクション側のコンベアベルトとの距離は2mmとした。
【0059】
得られた不織繊維構造体は、厚み0.30mmの板形状をなし、通気性に優れ、曲げに対する剛性を有し、さらには柔軟性も有していた。
【0060】
実施例2
1.5枚重ねて合計目付け約150g/m
2のカードウェブを用いるとともに、コンベア間の距離を2mmに調整する以外は実施例1と同様にして不織繊維構造体を製造した。
【0061】
実施例3
3枚重ねて合計目付け約250g/m
2のカードウェブを用いるとともに、コンベア間の距離を2mmに調整する以外は実施例1と同様にして不織繊維構造体を製造した。
【0062】
実施例4
4枚重ねて合計目付け約350g/m
2のカードウェブを用いるとともに、コンベア間の距離を3mmに調整する以外は実施例1と同様にして不織繊維構造体を製造した。
【0063】
実施例5
7枚重ねて合計目付け約600g/m
2のカードウェブを用いるとともに、コンベア間の距離を3mmに調整する以外は実施例1と同様にして不織繊維構造体を製造した。
【0064】
実施例6
16枚重ねて合計目付け約1300g/m
2のカードウェブを用いるとともに、コンベア間の距離を3mmに調整する以外は実施例1と同様にして不織繊維構造体を製造した。
【0065】
比較例1〜3
芯鞘型複合ステープル繊維として、芯成分がポリエチレンテレフタレート、鞘成分がエチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン含有量44モル%、ケン化度98.4モル%)である芯鞘型複合ステープル繊維((株)クラレ製、「ソフィスタ」、繊度3.3dtex、繊維長51mm、芯鞘質量比=50/50、捲縮数21個/25mm、捲縮率13.5%)を用いる以外は実施例3〜5と同様にして目付の異なる不織繊維構造体を製造した。
【0066】
比較例4
芯鞘型複合ステープル繊維の芯成分として、ポリプロピレン(出光興産(株)製「Y−2005GP」、融点161℃)を用いる以外は実施例5と同様にして不織繊維構造体を製造した。
【0067】
表1に、実施例及び比較例に用いられた複合繊維、およびそれらを用いて構成された不織繊維構造体について示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1の結果から明らかなように、実施例の不織繊維構造体は、柔軟性を表す指標である破断伸度が、乾燥時、湿潤時ともに比較例に比べて大きく、柔軟性、伸縮性に優れていた。