特許第6352669号(P6352669)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6352669-リチウムイオン電池廃棄物の処理方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6352669
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池廃棄物の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 7/00 20060101AFI20180625BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20180625BHJP
   C22B 3/04 20060101ALI20180625BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20180625BHJP
   C22B 21/00 20060101ALI20180625BHJP
   C22B 26/12 20060101ALI20180625BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20180625BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   C22B7/00 CZAB
   C22B1/02
   C22B3/04
   C22B3/44
   C22B21/00
   C22B26/12
   C22B23/00 102
   B09B3/00 303Z
   B09B3/00 304Z
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-82094(P2014-82094)
(22)【出願日】2014年4月11日
(65)【公開番号】特開2015-203131(P2015-203131A)
(43)【公開日】2015年11月16日
【審査請求日】2017年3月17日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年2月25日独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構本部において開催された平成25年度第2回リサイクル優先レアメタル回収技術開発委員会で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構に提出した開発報告書「平成25年度 リサイクル優先レアメタル回収技術開発事業 廃小型家電製品等からのコバルト回収技術開発」(平成26年2月28日提出)に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、経済産業省、リサイクル優先レアメタル回収技術開発事業に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の規定の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】樋口 直樹
【審査官】 荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−229481(JP,A)
【文献】 特開2012−200653(JP,A)
【文献】 特開2012−106874(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/118300(WO,A1)
【文献】 特表2004−508694(JP,A)
【文献】 特開2011−195948(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 7/00
C22B 1/00− 1/02
C22B 3/00− 3/44
C22B 21/00
C22B 23/00
C22B 26/00−26/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、リチウム、アルミニウム、ニッケル及びコバルトを含有するリチウムイオン電池廃棄物を処理する方法であって、
炭酸リチウムの形態をなすリチウムを含む前記リチウムイオン電池廃棄物を、カルシウム塩を含有する水溶液に浸漬することにより、該水溶液中にリチウムを溶解させて、リチウム溶解液を得るリチウム溶解工程を含
前記リチウム溶解工程の後、固液分離により、前記リチウム溶解液から、アルミニウム、ニッケル及びコバルトを含有する残渣を回収する固液分離工程と、前記固液分離工程で回収した前記残渣を酸浸出して酸浸出液を得る酸浸出工程と、前記酸浸出工程で得られた前記酸浸出液に、前記固液分離工程で前記残渣を取り除いたリチウム溶解液を混合させた上で、前記酸浸出液に含まれるアルミニウムを沈殿させるアルミニウム沈殿工程とを更に含む、リチウムイオン電池廃棄物の処理方法。
【請求項2】
前記リチウム溶解工程で、前記水溶液に含まれるカルシウム塩が水酸化カルシウムであること特徴とする、請求項1に記載の、リチウムイオン電池廃棄物の処理方法。
【請求項3】
前記リチウム溶解工程で、前記水溶液に含まれる水酸化カルシウムの量が、前記リチウムイオン電池廃棄物に含まれる炭酸リチウムの形態をなすリチウムの量に対し、5.5重量倍〜11重量倍であることを特徴とする、請求項に記載の、リチウムイオン電池廃棄物の処理方法。
【請求項4】
前記リチウム溶解工程で、前記水溶液中に溶解したリチウム濃度が4g/L〜36g/Lとなるまで、該水溶液へのリチウムイオン電池廃棄物の浸漬を継続することを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の、リチウムイオン電池廃棄物の処理方法。
【請求項5】
前記アルミニウム沈殿工程の後、アルミニウムを除去した前記酸浸出液から、ニッケル及びコバルトを回収するニッケル・コバルト回収工程を更に含み、
前記ニッケル・コバルト回収工程でニッケル及びコバルトが回収された後の水溶液にカルシウム塩を添加したものを、前記リチウム溶解工程で、前記カルシウム塩を含有する水溶液として用いる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の、リチウムイオン電池廃棄物の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池廃棄物から有価物を効率よく分離回収するに際し、リチウムイオン電池廃棄物を処理する方法に関するものである。さらに詳細を述べると、リチウムイオン電池廃棄物に含まれる物質のうち、リチウムを効率よく分離させてそれを後工程で利用することにより、リチウムイオン電池廃棄物の処理に要するコストを低減させるための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイス等をはじめ各産業分野で使用されている二次電池は、その使用量が飛躍的に上昇しており、電池の製品寿命に達して廃棄される量や製造過程で不良品として廃棄される量も増加している。
【0003】
二次電池にも各種あるものの、その容量、並びに起電力の大きさから現在主流になっているのは、マンガン、コバルト及びニッケルを含有するリチウム金属塩を正極材に用いたものである。リチウム、マンガン、コバルト、ニッケルは比較的高価な元素であり、これらを廃棄された電池から回収して再利用することが望ましい。
【0004】
二次電池から有価金属を回収する技術として、例えば特許文献1には、酸で各種元素を二次電池廃棄物から溶解した後に、マンガン、コバルト及びニッケルをそれぞれ溶媒抽出により順次に分離回収して水相にリチウムを残すことで各有価金属を回収する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、二次電池廃棄物を焙焼、破砕、篩別した後に酸で浸出して、不純物であるカドミウム、鉄、亜鉛を溶媒抽出して取り除き、コバルトをさらに別途溶媒抽出で分離濃縮して電解採取し、浸出液に残留したニッケルは直接電解採取してこれを回収する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−193778号公報
【特許文献2】特開2005−149889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在、廃リチウムイオン電池正極材の中で最も難処理性の不純物はアルミニウムである。リチウムイオン電池の正極材はアルミニウム箔上に塗付されているので、リチウムイオン二次電池には大量にアルミニウムが使用されている。廃正極材を焙焼して破砕し、篩別すればいくらかはアルミニウムを分離・除去できるものの、それでもなお無視できない量が混入する。
【0008】
ここで混入したアルミニウムは溶解後に、アルミニウム沈殿工程にてpH調整により沈殿分離することができる。しかるに、その際にアルミニウムはゲル状の水酸化物を形成するため、沈殿時に有価物であるニッケルやコバルトと共沈してしまう。それにより、その後に分離回収するニッケルやコバルトの回収率の低下を招く。
【0009】
これを防ぐためには、アルミニウムを沈殿させる時にリチウムイオンを共存させて、リチウムとアルミニウムとの複合塩を生成させることが考えられる。但し、この場合において、比較的高価なリチウムを別途添加するとコストの面で問題がある。
【0010】
本発明は、このような問題を解決することを課題とするものであり、それの目的とするところは、リチウムイオン電池廃棄物を処理するに当り、アルミニウム沈殿工程でアルミニウムとニッケルやコバルトとの共沈を防止するべく添加するリチウムを有効に得ることにより、コストを低減させることのできるリチウムイオン電池廃棄物の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、処理対象であるリチウムイオン電池廃棄物にそもそもリチウムが含まれている点に着目し、前処理の焙焼工程等を経てリチウムが炭酸塩となっているリチウムイオン電池廃棄物を、カルシウムを含有する水溶液に浸漬することにより、炭酸イオンを炭酸カルシウムとして固定することで、この水溶液中へのリチウムの溶解が促進し、リチウムを効率よく分離できることを見出した。
そして、かかるリチウム溶解液を、その後のアルミニウム沈殿工程で利用することにより、リチウムイオン電池廃棄物からの有価物の回収等の処理を有効に、しかも低コストで行うことができると考えた。
【0012】
このような知見に基き、本発明のリチウムイオン電池廃棄物の処理方法は、少なくとも、リチウム、アルミニウム、ニッケル及びコバルトを含有するリチウムイオン電池廃棄物を処理する方法であって、炭酸リチウムの形態をなすリチウムを含む前記リチウムイオン電池廃棄物を、カルシウム塩を含有する水溶液に浸漬することにより、該水溶液中にリチウムを溶解させて、リチウム溶解液を得るリチウム溶解工程を含み、前記リチウム溶解工程の後、固液分離により、前記リチウム溶解液から、アルミニウム、ニッケル及びコバルトを含有する残渣を回収する固液分離工程と、前記固液分離工程で回収した前記残渣を酸浸出して酸浸出液を得る酸浸出工程と、前記酸浸出工程で得られた前記酸浸出液に、前記固液分離工程で前記残渣を取り除いたリチウム溶解液を混合させた上で、前記酸浸出液に含まれるアルミニウムを沈殿させるアルミニウム沈殿工程とを更に含むものである。
【0014】
上記のリチウム溶解工程では、前記水溶液に含まれるカルシウム塩が水酸化カルシウムであることが好ましい。
またこの場合、前記リチウム溶解工程では、前記水溶液に含まれる水酸化カルシウムの量が、前記リチウムイオン電池廃棄物に含まれるリチウムの量に対し、5.5重量倍〜11重量倍であることが好ましい。
そしてまた、前記リチウム溶解工程では、前記水溶液中に溶解したリチウム濃度が4g/L〜36g/Lとなるまで、該水溶液へのリチウムイオン電池廃棄物の浸漬を継続することが好ましい。
【0016】
以上に述べた処理方法は、前記アルミニウム沈殿工程の後、アルミニウムを除去した前記酸浸出液から、ニッケル及びコバルトを回収するニッケル・コバルト回収工程を更に含み、
前記ニッケル・コバルト回収工程でニッケル及びコバルトが回収された後の水溶液にカルシウム塩を添加したものを、前記リチウム溶解工程で、前記カルシウム塩を含有する水溶液として用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば以下の効果を奏することができる。
リチウムイオン電池廃棄物から、リチウムを予め選択的に回収し、これをアルミニウム沈殿分離工程に利用することにより、比較的高価なリチウムを別途添加する場合に比して低コストで、効率的なアルミニウムの分離除去を実現することができる。その結果として、たとえば、リチウムイオン電池廃棄物からのニッケルやコバルトの回収等の、リチウムイオン電池廃棄物の処理に要するコストを下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一の実施形態に係るリチウムイオン電池廃棄物の処理方法を概略的に示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の好適な実施形態では、はじめに、リチウムイオン電池としてのリチウムイオン二次電池の正極材廃棄物又は、その他のリチウムイオン電池廃棄物を篩別してある程度のアルミニウム片を除く。そしてここでは、リチウムイオン電池廃棄物の篩別後の破砕物を、カルシウム塩を含有する水溶液(以下、「カルシウム塩含有液」ともいう。)に浸漬し、リチウムを溶解させて、リチウム溶解液を得る。次いで、リチウム溶解液を固液分離し、リチウム溶解液から、アルミニウム、ニッケル及びコバルトを含有する残渣(以下、「有価物含有残渣」ともいう。)を分離させる。その後は、有価物含有残渣を、硫酸等の酸で浸出することによって、アルミニウム、ニッケル及びコバルトを浸出させて酸浸出液を得て、この酸浸出液に上記のリチウム溶解液を添加し、リチウム濃度を、たとえば2〜25g/Lに調整した後に、pHを、たとえば3.5〜5.0に調整する。それにより、ニッケルないしコバルトとの共沈を抑えてアルミニウムを選択的に沈殿分離することができる。図1に工程図を示す。
【0020】
本発明に係る処理方法で処理の対象とするものは、たとえば、電池の製品寿命、製造不良又はその他の理由によって廃棄されたリチウムイオン電池廃棄物、たとえば、リチウムイオン電池正極材廃棄物、リチウムイオン電池を焼却処理したもの、又は、アルミニウム箔つき正極材を分離破砕したもの等である。
リチウムイオン電池廃棄物は、特にアルミニウム箔付き正極材に、リチウム、アルミニウム、ニッケル及びコバルトを含有するものであり、これらに加えて、たとえば、マンガン、鉄、リン酸、ナトリウム等も含むことがある。それらのなかでも、希少元素であるコバルトやニッケル等を、廃棄されるリチウムイオン電池廃棄物から回収することが望ましい。
本発明では、このようなリチウムイオン電池廃棄物に対し、以下の各工程で所要の処理を順次に施す。
【0021】
(焙焼工程)
上記のリチウムイオン電池廃棄物は、必要に応じて焙焼することができる。これにより、リチウムイオン電池に含まれる不要な物質を分解、燃焼もしくは揮発させるとともに、有価物を多く含む正極材をアルミニウム箔から剥離可能な状態として、アルミニウム箔をある程度除去することができる。
またこの焙焼工程では、はからずもリチウムイオン電池廃棄物に含まれるリチウムが、酸化物に変化した後に有機物の燃焼による二酸化炭素、もしくは空気中の二酸化炭素を吸収することにより、炭酸塩へと変化することになる。なお、炭酸リチウムよりは塩化リチウムやフッ化リチウムといったハロゲン化物のほうが、カルシウム塩水溶液に有効に溶解するので、炭酸リチウムの割合は少ない方がよいが特にこれを制御する方法は知られていない。
【0022】
なお、焙焼を行う加熱炉としては、固定床炉、電気炉、重油炉、キルン炉、ストーカー炉、流動床炉等を用いることができ、たとえば、温度500〜1000℃で、1時間〜3時間にわたって焙焼することができる。
なお、このような焙焼による熱処理とともに必要な化学処理を施し、そして、一軸破砕機や二軸破砕機等を用いてリチウムイオン電池廃棄物を破砕することで適当な大きさに調整した後、下記の篩別工程を実施することができる。
【0023】
(篩別工程)
この篩別工程では、上述したように破砕した後のリチウムイオン電池廃棄物を篩別し、それによりアルミニウムの一部を取り除いて、そのアルミニウム含有量を、たとえば7wt%以下にすることが好ましい。効果的に篩別するには、事前にリチウムイオン電池廃棄物に対して上述した熱処理や化学処理を施しておくことが望ましい。
【0024】
篩別を行わない場合でも本発明は適用できるが、後述する酸浸出工程における酸浸出や中和での試薬の使用量が増加する。同様にアルミニウムの分離が不十分な場合もコストの上昇をもたらす。そのため篩別後の正極材のアルミニウムの含有量は7wt%以下とすることが好適であり、より好ましくは1wt%以下ある。
【0025】
(リチウム溶解工程)
篩下をカルシウム塩含有液に浸漬する。リチウムイオン電池廃棄物に含まれるリチウムは、先述したように、焙焼により炭酸リチウムに変化している。このリチウムイオン電池廃棄物をカルシウム塩含有液に浸漬することで、下記式(1)に示す反応に基き、炭酸リチウムの炭酸が徐々に炭酸カルシウムとして固定されることで、リチウムの溶解が進んでリチウム溶解液が生成される。
Li2CO3 + Ca2+ → 2Li+ + CaCO3 式(1)
【0026】
リチウムの溶解に用いる水溶液は、難溶性炭酸塩を沈殿するカチオンを含む塩、たとえば塩化バリウム等を含むもの等を用いることも考えられるが、毒性や操作性からカルシウム塩が現実的である。なかでも水酸化カルシウム(消石灰)は価格と反応性の面から最も好ましい。
カルシウム塩としては、上記の水酸化カルシウムの他、たとえば、塩化カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、次亜塩素酸カルシウム等を用いることも可能である。
【0027】
カルシウム塩含有液におけるカルシウムの量は、上記の式(1)からわかるように、リチウムの0.5モル倍以上あれば、リチウムイオン電池廃棄物中に含まれる炭酸リチウムを有効に溶解させることができる。一方、カルシウムが多すぎると、後工程で硫酸を添加した時に石膏の沈殿を生じる恐れがあるので、カルシウムの量は、リチウムイオン電池廃棄物中のリチウムの2モル倍を上限にすることができる。これを水酸化カルシウムに換算すると、水酸化カルシウムの量は、好ましくは、リチウムの5.5重量倍〜11重量倍、より好ましくは、リチウムの7重量倍〜8.5重量倍とする。
【0028】
カルシウム塩は水に対する溶解度が低いものが多いが、完全に溶解せずにスラリーの形で添加して、これをカルシウム塩含有液として用いても効果はみられる。ただし反応速度は速いとは言えないので加熱して、予めカルシウム塩を溶解させておくことが望ましい。
【0029】
リチウム溶解の終点はリチウムの濃度で判断することができ、水酸化リチウムの溶解度を考慮するとリチウム濃度で36g/L以下にすることが適当である。下限は原料であるリチウムイオン電池廃棄物中のリチウムの含有量により変化するが4g/Lとすることが好ましい。下限が4g/L未満であると溶解反応が進んでいるとは考えられず、リチウム溶解液を、後述するように再度利用する観点からみてもコストの有効な抑制につながりにくい。
【0030】
リチウムイオン電池廃棄物をカルシウム塩含有液中に浸漬させて、上記の式(1)に示す反応を生じさせるに当っては、加熱する温度は特に限定されないがコストと操作性を考慮し、さらに温度が高すぎると炭酸リチウムの溶解度も低下することから、液温で45℃〜70℃とするのが好ましい。より好ましくは、液温を45〜55℃とする。
なおこの際に、リチウムイオン電池廃棄物を浸漬させたカルシウム塩含有液を、必要に応じて攪拌させることができる。
【0031】
本工程で使用されたカルシウム塩含有液は、比較的高いリチウム濃度を有し後工程のアルミニウム沈殿工程で利用することができる。さらに水溶液がアルカリ性を示す塩、たとえば水酸化カルシウム、酸化カルシウム、次亜塩素酸カルシウム等を含むものとした場合は、アルミニウム沈殿工程でpH調整に使用するアルカリ使用量を抑制することができるので、コスト面でより一層有効である。
【0032】
本工程で分離したリチウム溶解液をアルミニウム沈殿工程で利用することにより試薬のコストを下げることが可能になる。またリチウム溶解液はリチウム精製工程に投入してリチウムを回収してもよい。
【0033】
(固液分離工程)
上述したように、リチウムイオン電池廃棄物をカルシウム塩含有水溶液に浸漬して得たリチウム溶解液に対して固液分離を行い、リチウム溶解液から有価物含有残渣を分離させる。ここでの固液分離は一般的なフィルタープレスやシックナー等による分離で行うことができる。
【0034】
(酸浸出工程)
固液分離工程で回収される有価物含有残渣は、主にアルミニウム、ニッケル、コバルト等を含む。ここでは、この有価物含有残渣を酸溶解して酸浸出液を得る。
この場合に添加することのできる酸としては、たとえば、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸等があるが、なかでも、硫酸が、常温での無酸化性と金属に対する低配位能の点で好ましい。酸化能力があると後工程の溶媒抽出で抽出剤の劣化を引き起こす。また配位能が高いと溶媒抽出工程で抽出率が下がる恐れがある。
またここでは、有価物含有残渣を浸出させるに当って、上記の酸の添加によりpHを、たとえば1.5〜3とすることができる。
【0035】
(アルミニウム沈殿工程)
アルミニウム沈殿工程では、上記の酸浸出工程で得た酸浸出液で、pHを調整することによりアルミニウムを沈殿させて高純度のニッケル・コバルト溶液を得る。
このアルミニウム沈殿工程では、上記の固液分離工程で有価物含有残渣が回収されたリチウム溶解液を所定の量で、酸浸出液に混合させ、pHを調整することができ、これにより、アルミニウムと有価物との共沈を防ぐことができる。
【0036】
この場合、上述したようなリチウム溶解工程でのリチウム濃度の調整、及び、その後のアルミニウム沈殿工程でのpHの調整により、アルミニウムはAl(OH)3、LiAlO2、LiAl2(OH)7・2H2O等の混合物沈殿を形成する。リチウム溶解液を混合させない場合は、Al(OH)3はゲル状の沈殿のためニッケルやコバルトとの共沈をもたらすが、リチウム溶解液を混合させて、リチウムが共存する条件でpHを調整して沈殿を生じさせた場合は、沈殿の形態がゲルではなく粉末に近いものになるので、アルミニウムと共沈する他の金属成分の量が大きく低下することになる。
【0037】
ここでは、リチウム溶解液をリチウム源として添加するので、試薬を用いた場合よりコストの面で有利である。また、このアルミニウム沈殿工程の後、液中のリチウムはアルカリ金属であるので、液中のリチウムとニッケルやコバルトとの分離は溶媒抽出等により容易に実現できるので、リチウムの添加による不都合はほとんど生じない。
【0038】
リチウム溶解液を添加する場合、液中のリチウム濃度は、好ましくは2g/L〜25g/L、より好ましくは2g/L〜15g/L、特に、2g/L〜8g/Lとすることが更に好ましい。また、pHは、好ましくは3.5〜5.0、より好ましくは4.0〜5.0とする。ここでのリチウム濃度が高すぎると、必要以上に水溶液がリチウムを含むことで溶媒抽出工程に影響を及ぼす可能性があり、この一方、リチウム濃度が低すぎると、ニッケルやコバルトが、沈殿するアルミニウムと共沈して逸損する有価物量が増加する可能性がある。また、pHが高すぎる場合は、有価物が水酸化沈殿を生じて逸損してしまう可能性があり、この一方で、pHが低すぎると、アルミニウムの沈殿分離が不完全となる可能性がある。
【0039】
(ニッケル・コバルト回収工程)
アルミニウム沈殿工程の後は、上記の酸浸出液からアルミニウム沈殿物を除去し、既に知られている溶媒抽出法等の手法を用いて、主としてニッケル及びコバルト並びに、その他の有価物をそれぞれ回収する。
ここで、アルミニウム沈殿工程でリチウム溶解液を酸浸出液に混合させた場合は、ニッケルやコバルト等の有価物を回収した後の水溶液にリチウムが残留する。有価物回収後のこの水溶液に再度カルシウム塩を添加して、これを繰り返しリチウム溶解工程で使用すれば、自然にリチウムが濃縮されていき、リチウムの精製が容易になるという利点がある。また、このような水溶液を繰り返し用いることによるリチウム濃度の上昇は、アルミニウムの沈殿分離の際にも有利に働くので好適である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
(実施例)
原料として、廃リチウムイオン二次電池を焙焼工程で焼却処理し、一軸破砕機で破砕した後、<0.5mmで篩分けした廃リチウムイオン二次電池の焼却滓を用いた。成分を表1に示す。成分の定量分析は適当量を分取した後、王水で分解して希釈後にICP発光分光法(ICP―AES)により各種元素濃度を定量した。
この原料を500g量り取り2000mlのビーカーに移した。水酸化カルシウムを156g/L含むカルシウム塩含有液を1L添加して、60℃に加温して2時間撹拌した。5Cのろ紙で有価物含有残渣を分離した。ろ液(リチウム溶解液)は分離別途保存した。
リチウム溶解液を一部分取し希塩酸で適当に希釈してICP発光分光法(ICP―AES)により各種元素濃度を定量したところ表2に示す濃度で各成分が含まれていた。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
分離した有価物含有残渣を2000mlのビーカーに移した。純水を1000ml添加して、pH2.2に濃硫酸で調整し60℃で2時間撹拌浸出した。それによって得られた酸浸出液を300ml分取した。分取した酸浸出液に、先に分離したリチウム溶解液を徐々に添加した。液量は水で調整して常時330mlとなるようにした。
【0045】
【表3】
【0046】
Mnの濃度変化について、Mnが共沈しないと考えた場合、Mnは、表3に示す結果で、pH2.2における濃度とpH4.5における濃度から分かるように、希釈やサンプリングロスでおよそ10%が失われている。これをコバルトやニッケルに当てはめて、コバルトやニッケルも同様の理由により10%程度失われていると考えると、アルミニウムの消失した時点ではそれぞれ、元の濃度(31.4g/l、1.6g/l)から、その10%を差し引いて、コバルトで28.3g/l程度、ニッケルで1.44g/l程度と計算することができる。これらの計算値を、表3のpH4.5におけるコバルト及びニッケルの各測定濃度と比較すれば、pH4.5においては共沈によるコバルト及びニッケルの逸損がほとんどないといえる。それ故に、先に分離したリチウム溶解液によりアルミニウム沈殿工程において、特に試薬を添加しなくても酸浸出液のアルミニウム成分のみが沈殿し、これを分離除去できていることが分かる。
【0047】
(比較例)
上記の実施例と同じコバルト、ニッケル、アルミニウム、マンガン濃度のpH2.2の希硫酸液を調整した。金属源としては硫酸塩(和光純薬工業株式会社製、特級)とした。1Nに調整した水酸化ナトリウム溶液を徐々に滴下して溶液中の金属濃度の変化とpHを観察した。量は水で調整して常時330mlとなるようにした。
金属濃度の分析方法は実施例に準ずる。結果を表4に示す。
【0048】
【表4】
【0049】
pH4.5においてアルミニウムがほとんど沈殿した時にはコバルトの逸損が大きいことがわかる。例えばMnが共沈しないと考えると希釈やサンプリングロスで初期濃度と比べて20%減少している。これをコバルトに当てはめると、希釈やサンプリングロスによる減少で27g/lとなり、またニッケルでは1.4g/lとなるところ、表4のpH4.5における各測定値と比較すると、pH4.5においては、より多くのコバルトとニッケルが逸損していることが分かる。
図1