【実施例】
【0054】
以下に、本発明を具体的に実施した実施例について比較例と共に説明する。
〔実施例1〕
以下に示す製造方法で、実施例1に係る焼結合金を製造した。第1硬質粒子として、Mo:30質量%、Cr:5質量%、Mn:6質量%、残部がFeと不可避不純物(すなわちFe−30Mo−5Cr−6Mn)の合金から、ガスアトマイズ法により作製された硬質粒子(山陽特殊製鋼(株)製)を準備した。この第1硬質粒子を、JIS規格Z8801に準拠したふるいを用い、44μm〜250μmの範囲に分級した。なお、本明細書でいう、「粒子の粒度(粒径)」は、この方法により分級した値である。
【0055】
第2硬質粒子として、Mo:65質量%、S1:1質量%残部がFeと不可避不純物からなるFe−65Mo−1Si合金から、粉砕法により、作製された第2硬質粒子(キンセイマテック製)を準備した。第2硬質粒子を、75μm以下に分級した。
【0056】
次に、黒鉛粒子ならなる黒鉛粉末(日本黒鉛工業製: CPB−S)、および、純鉄粒子からなる還元鉄粉(JEFスチール:JIP255M−90)を準備した。上述した、第1硬質粒子を20質量%、第2硬質粒子を3質量%、黒鉛粒子を0.85質量%、残りを鉄粒子(76.15質量%)とし、V型混合器で30分間混合した。これにより混合粉末を得た。
【0057】
次に、成形型を用い、得られた混合粉末を784MPaの加圧力でリング形状をなす試験片に圧粉成形し、焼結合金用成形体(圧粉成形体)を形成した。圧粉成形体を1120℃の不活性雰囲気(窒素ガス雰囲気)中で60分間、焼結し、実施例1に係る焼結合金(バルブシート)の試験片を形成した。
【0058】
〔実施例2,3〕
実施例1と同じように焼結合金の試験片を作製した。実施例2が、実施例1と相違する点は、表1に示すように、第1硬質粒子の成分が、Fe−30Mo−10Cr−6Mnである点(Crを10質量%に増量した点)である。
【0059】
実施例3が、実施例1と相違する点は、表1に示すように、第1硬質粒子の成分が、Fe−35Mo−10Cr−6Mnである点(Moを35質量%に増量し、Crを10質量%に増量した点)である。
【0060】
〔比較例1〕
実施例1と同じように焼結合金の試験片を作製した。実施例1と相違する点は、表1に示すように、第1硬質粒子に、特開2004−156101号公報に記載の硬質粒子に相当するCo−40Mo−6Mn−0.9C合金からなる粒子を用い、第2硬質粒子を添加していない点である。なお、黒鉛粒子の添加量も表1に示すように相違する。
【0061】
〔比較例2〕
実施例1と同じように焼結合金の試験片を作製した。比較例2が、実施例1と相違する点は、表1に示すように、第1硬質粒子の成分が、Fe−35Mo−10Cr−6Mnである点(Moを35質量%に増量し、Crを10質量%に増量した点)と、第2硬質粒子を添加していない点である。
【0062】
<摩耗試験>
図1の試験機を用いて、実施例1〜3および比較例1,2に係る焼結合金の試験片に対して摩耗試験を行い、これらの耐摩耗性を評価した。この試験では、
図1に示すように、プロパンガスバーナ10を加熱源として用い、前記のように作製した焼結合金からなるリング形状のバルブシート12と、バルブ13のバルブフェース14との摺動部をプロパンガス燃焼雰囲気とした。バルブフェース14はEV12(SEA規格)に軟窒化処理を行ったものである。バルブシート12の温度を250℃に制御し、スプリング16によりバルブシート12とバルブフェース14との接触時に25kgfの荷重を付与して、3250回/分の割合で、バルブシート12とバルブフェース14とを接触させ、8時間の摩耗試験を行った。実施例1〜3および比較例1,2において、摩耗試験後のバルブシート12とバルブフェース14の軸方向の摩耗深さの総量を、軸方向摩耗量として測定した。この結果を表1に示す。
【0063】
実施例1および比較例2に係る試験片の摩耗試験後の表面を顕微鏡で観察した。この結果を、
図3(a)および
図3(b)に示す。
図3(a)は、実施例1に係る試験片の摩耗試験後の表面写真であり、
図3(b)は、比較例2に係る試験片の摩耗試験後の表面写真である。
【0064】
さらに、実施例1および比較例2に係る試験片に対して、上述した摩耗試験を試験片の表面が酸化しにくい200℃の温度で実施した。実施例1および比較例2の摩耗試験後の表面プロフィールを測定し、測定した表面プロフィールから摩耗深さを測定した。この結果を
図4(a)および
図4(b)に示す。
図4(a)は、実施例1および比較例2に係る試験片の摩耗試験後の表面プロフィールであり、
図4(b)は、実施例1および比較例2の試験片の摩耗深さの結果を示したグラフである。
【0065】
<被削性試験>
図2に示す試験機を用いて、実施例1〜3および比較例1,2に係る焼結合金に対して被削性試験を行い、これらの被削性を評価した。この試験では、外径30mm、内径22mm、全長9mmの試験片20を実施例1〜3および比較例1,2のそれぞれに対して6個準備した。NC旋盤を用いて、窒化チタンアルミコーティングした超硬の刃具30で、回転数970rpmで回転した試験片20に対して、切込み量0.3mm、送り0.08mm/rev、切削距離320m、湿式でトラバース切削した。その後、光学顕微鏡により、刃具30の逃げ面の最大摩耗深さを刃具摩耗量として測定した。この結果を、この結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
(結果1)
表1に示すように、実施例1〜3では、第1硬質粒子の添加量および黒鉛粒子の添加量が、比較例1のものよりも少ないが、実施例1〜3の軸方向摩耗量は、比較例1のものよりも少なく、実施例1〜3の刃具摩耗量は、比較例1のものよりも少なかった。さらに、比較例2の軸方向摩耗量は、実施例1〜3のものよりも多かった。
【0068】
また、比較例1および2では、刃具で切削された焼結合金の表面に、凝着摩耗が確認されたが、実施例1〜3では、刃具で切削された焼結合金の表面には、凝着摩耗がほとんどなかった。具体的には、実施例1では、
図3(a)に示す白線の囲み部分の一部に、凝着摩耗による毟れ痕が僅かに存在した。一方、比較例2では、
図3(b)に示す白線の囲んだ黒色部分全体が、凝着摩耗による毟れ痕となっていた。
【0069】
200℃の温度環境下で行った摩耗試験では、
図4(a)に示すように、比較例2の試験片の表面プロフィールには、毟れたような部分が存在し、凝着摩耗していたことが確認された。しかしながら、実施例1の試験片の表面プロフィールには、毟れたような部分がほとんどなかった。
【0070】
このことから、実施例1〜3では、第2硬質粒子を添加したことにより、凝着摩耗が低減され、軸方向摩耗量が、比較例1,2のものよりも少なくなったと考えられる。
【0071】
なお、実施例1〜3では、第1硬質粒子のモリブデンの量およびクロムの量を変化させたが、軸方向摩耗量および刃具摩耗量は、同程度であり、モリブデンおよびクロムの添加による耐摩耗性および被削性の影響は少ない。したがって、第1硬質粒子の成分の範囲が、上述した本発明の範囲であれば、このような効果を期待することができると想定される。
【0072】
〔実施例4〜7:第1硬質粒子の最適添加量〕
実施例1と同じように焼結合金の試験片を作製した。実施例4〜7は、第1硬質粒子の最適添加量を評価するための実施例である。
【0073】
実施例4が、実施例1と相違する点は、表2に示すように、混合粉末全体に対して、第1硬質粒子を5質量%添加した点である。実施例5の焼結合金の試験片は、実施例1のものと同じである。
【0074】
実施例6が、実施例1と相違する点は、表2に示すように、混合粉末全体に対して、第1硬質粒子を40質量%添加した点と、第1硬質粒子の成分が、Fe−25Mo−5Cr−6Mnである点(Moを25質量%に減量した点)である。
【0075】
実施例7が、実施例1と相違する点は、表2に示すように、混合粉末全体に対して、第1硬質粒子を50質量%添加した点と、第1硬質粒子の成分がFe−30Mo−10Cr−6Mnである点(Crを10質量%に増量した点)である。
【0076】
〔比較例3,4:第1硬質粒子の最適添加量の比較例〕
実施例1と同じように焼結合金の試験片を作製した。比較例3,4は、第1硬質粒子の最適添加量を評価するための比較例である。比較例3,4が、実施例1と相違する点は、混合粉末全体に対して、表2に示すように、第1硬質粒子を順次0質量%(すなわち添加していない)、60質量%の割合で、添加した点である。なお、比較例4では、混合粉末から成形体に成形できなかった。
【0077】
実施例1と同様に、実施例4〜7および比較例3の試験片に対して、摩耗試験を行い、摩耗試験後の軸方向摩耗量を測定した。この結果を、表2および
図5(a)に示す。
図5(a)は、実施例4〜7および比較例1,3における摩耗試験後の軸方向摩耗量の結果を示したグラフであり、
図5(a)には、上述した比較例1の結果も合わせて記載した。
【0078】
実施例1と同様に、実施例4〜7および比較例3の試験片に対して、被削性試験を行い、被削性試験後の刃具摩耗量を測定した。この結果を、表2および
図5(b)に示す。
図5(b)は、実施例4〜7および比較例1,3における被削性試験後の刃具摩耗量の結果を示したグラフであり、
図5(b)には、上述した比較例1の結果も合わせて記載した。
【0079】
【表2】
【0080】
(結果2:第1硬質粒子の最適添加量)
図5(a)に示すように、実施例4〜7の軸方向摩耗量は、比較例3のものよりも少なかった。実施例4〜7の順に、軸方向摩耗量が減少した。また、実施例4〜7の試験片の表面には、凝着摩耗がほとんどなかった。このことから、第1硬質粒子を添加することにより、焼結合金の耐アブレッシブ摩耗性が向上すると考えらえる。しかしながら、比較例4では、第1硬質粒子を添加し過ぎたため、成形体の成形性が阻害されたと考えられる。以上の点から、第1硬質粒子の最適な添加量は、混合粉末に対して5〜50質量%である。
【0081】
図5(b)に示すように、実施例4〜7の刃具摩耗量は、比較例1のものよりも少なく、実施例4〜7の順で、刃具摩耗量は増加した。
図5(a)に示すように、実施例4の軸方向摩耗量は、比較例1のものと同程度であったが、
図5(b)に示すように、実施例4の刃具摩耗量は、比較例1のものよりも少なかった。このことから、実施例4〜7の如く、第1硬質粒子と第2硬質粒子とを添加することにより得られた焼結合金は、耐摩耗性を確保しつつ、被削性を向上させることができると考えられる。
【0082】
〔実施例8〜10:第2硬質粒子の最適添加量〕
実施例1と同じように焼結合金の試験片を作製した。実施例8〜10は、第2硬質粒子の最適添加量を評価するための実施例である。
【0083】
実施例8が、実施例1と相違する点は、表3に示すように、混合粉末全体に対して、第2硬質粒子を1質量%添加した点である。
【0084】
実施例9が、実施例1と相違する点は、表3に示すように、第1硬質粒子の成分がFe−30Mo−10Cr−6Mnである点(Crを10質量%に増量した点)であり、実施例9の焼結合金の試験片は、実施例2のものと同じである。
【0085】
実施例10が、実施例1と相違する点は、表3に示すように、混合粉末全体に対して、第2硬質粒子を8質量%の添加した点である。実施例10が、実施例1とさらに相違する点は、第1硬質粒子の成分が、Fe−25Mo−10Cr−6Mnである点(Moを25質量%に減量し、Crを10質量%に増量した点)である。
【0086】
〔比較例5,6:第2硬質粒子の最適添加量の比較例〕
実施例8と同じように焼結合金の試験片を作製した。比較例5,6は、第2硬質粒子の最適添加量を評価するための比較例である。
【0087】
比較例5が、実施例1と相違する点は、表3に示すように、第2硬質粒子を添加していない(0質量%)点である。比較例5が、実施例1とさらに相違する点は、第1硬質粒子の成分が、Fe−35Mo−10Cr−6Mnである点(Moを35質量%に増量し、Crを10質量%に増量した点)である。比較例5の焼結合金の試験片は、比較例2のものと同じである。
【0088】
比較例6が、実施例1と相違する点は、表3に示すように、混合粉末全体に対して、第2硬質粒子を10質量%の添加した点である。比較例6が、実施例1とさらに相違する点は、第1硬質粒子の成分が、Fe−25Mo−5Cr−6Mnである点(Moを25質量%に減量した点)である。
【0089】
実施例1と同様に、実施例8〜10および比較例5,6の試験片に対して、摩耗試験を行い、摩耗試験後の軸方向摩耗量を測定した。この結果を、表3および
図6(a)に示す。
図6(a)は、実施例8〜10および比較例1,5,6における摩耗試験後の軸方向摩耗量の結果を示したグラフであり、
図6(a)には、上述した比較例1の結果も合わせて記載した。
【0090】
実施例1と同様に、実施例8〜10および比較例5,6の試験片に対して、被削性試験を行い、被削性試験後の刃具摩耗量を測定した。この結果を、表3および
図6(b)に示す。
図6(b)は、実施例8〜10および比較例1,5,6における被削性試験後の刃具摩耗量の結果を示したグラフであり、
図6(b)には、上述した比較例1の結果も合わせて記載した。
【0091】
【表3】
【0092】
(結果3:第2硬質粒子の最適添加量)
図6(a)に示すように、実施例8〜10,比較例6の軸方向摩耗量は、比較例1,5のものよりも少なかった。実施例8〜10,比較例6の順で、軸方向摩耗量が僅かに減少した。しかしながら、
図6(b)に示すように、比較例6の刃具摩耗量は、実施例8〜10のものよりも多かった。
【0093】
このことから、第2硬質粒子は、焼結後の焼結合金の硬さを向上させることで、使用時の焼結合金の鉄系基地の塑性変形を抑制し、焼結合金の凝着摩耗を低減していると考えられる。具体的には、第2硬質粒子は、第1硬質粒子よりも、モリブデンを多く含有しているので、第1硬質粒子よりも鉄系基地を硬質化することができ、焼結時にモリブデン炭化物を鉄系基地の粒界に析出させることにより、焼結後の鉄系基地の硬さが向上したと考えらえる。そして、比較例6の如く、第2硬質粒子を添加し過ぎると、焼結後の焼結合金が硬くなり過ぎてしまい、被削性が低下すると考えられる。以上の結果から、第2硬質粒子の最適な添加量は、混合粉末に対して1〜8質量%である。
【0094】
〔実施例11〜13:黒鉛粒子の最適添加量〕
実施例1と同じように焼結合金の試験片を作製した。実施例11〜13は、黒鉛粒子の最適添加量を評価するための実施例である。
【0095】
実施例11が、実施例1と相違する点は、表4に示すように、混合粉末全体に対して、黒鉛粒子を0.5質量%の添加した点である。実施例11が、実施例1とさらに相違する点は、第1硬質粒子の成分が、Fe−30Mo−10Cr−6Mnである点(Crを10質量%に増量した点)である。
【0096】
実施例12が、実施例1と相違する点は、表4に示すように、第1硬質粒子の成分が、Fe−35Mo−10Cr−6Mnである点(Moを35質量%に増量し、Crを10質量%に増量した点)である。実施例12の焼結合金の試験片は、実施例3のものと同じである。
【0097】
実施例13が、実施例1と相違する点は、表4に示すように、混合粉末全体に対して、黒鉛粒子を1.00質量%の添加した点である。実施例13が、実施例1とさらに相違する点は、第1硬質粒子の成分が、Fe−25Mo−5Cr−6Mnである点(Moを25質量%に減量した点)である。
【0098】
〔比較例7,8:黒鉛粒子の最適添加量の比較例〕
実施例1と同じように焼結合金の試験片を作製した。比較例7,8は、黒鉛粒子の最適添加量を評価するための比較例である。
【0099】
比較例7が、実施例1と相違する点は、表4に示すように、混合粉末全体に対して、黒鉛粒子を0.4質量%の添加した点である。比較例7が、実施例1とさらに相違する点は、第1硬質粒子の成分が、Fe−25Mo−5Cr−6Mnである点(Moを25質量%に減量した点)である。
【0100】
比較例8が、実施例1と相違する点は、表4に示すように、混合粉末全体に対して、黒鉛粒子を1.10質量%の添加した点である。
【0101】
実施例1と同様に、実施例11〜13および比較例7,8の試験片に対して、摩耗試験を行い、摩耗試験後の軸方向摩耗量を測定した。この結果を、表4および
図7(a)に示す。
図7(a)は、実施例11〜13および比較例1,7,8における摩耗試験後の軸方向摩耗量の結果を示したグラフであり、
図7(a)には、上述した比較例1の結果も合わせて記載した。
【0102】
実施例1と同様に、実施例11〜13および比較例7,8の試験片に対して、被削性試験を行い、被削性試験後の刃具摩耗量を測定した。この結果を、表4および
図7(b)に示す。
図7(b)は、実施例11〜13および比較例1,7,8における被削性試験後の刃具摩耗量の結果を示したグラフであり、
図7(b)には、上述した比較例1の結果も合わせて記載した。
【0103】
先に作製した実施例1に係る試験片と、比較例7,比較例8の試験片に対して、ナイタルを用いてエッチングを行って、焼結合金の組織を顕微鏡で観察した。この結果を、
図8(a)〜
図8(c)に示す。
図8(a)は、実施例1に係る試験片の組織写真であり、
図8(b)は、比較例7に係る試験片の組織写真であり、
図8(c)は、比較例8に係る試験片の組織写真である。
【0104】
【表4】
【0105】
(結果4:黒鉛粒子の最適添加量)
図7(a)に示すように、実施例11〜13,比較例8の軸方向摩耗量は、比較例7のものよりも少なかった。しかしながら、
図7(b)に示すように、比較例8の刃具摩耗量は、実施例11〜13のものよりも多かった。
【0106】
図8(a)に示すように、実施例1に示す焼結合金の組織には、パーライト組織が形成しており、実施例11〜13に示す焼結合金の組織も同様にパーライト組織が形成されていると考えられる。
【0107】
しかしながら、
図8(b)に示すように、比較例7に示す焼結合金の組織には、フェライトを中心とした組織となるため、鉄系基地の硬さが、他の物に比べて低い。この結果、比較例7の軸方向摩耗量は、実施例11〜13,比較例8のものよりも多くなったと考えられる。
【0108】
一方、
図8(c)に示すように、比較例8の焼結合金の組織には、黒鉛粒子の増量により、(第1および第2の)硬質粒子中のCの拡散が多くなり過ぎ、融点が低下して焼結時の加熱により硬質粒子の溶融が発生して密度が低下する。この結果、比較例8の焼結合金は、被削性が低下したと考えられる。このことから、黒鉛粒子の最適な添加量は、混合粉末に対して0.5〜1.0質量%である。
【0109】
〔実施例14,15:第2硬質粒子の最適粒径〕
実施例1と同じように焼結合金の試験片を作製した。実施例14,15は、第2硬質粒子の最適粒径を評価するための実施例である。実施例14,15が、実施例1と相違する点は、表5に示すように、第2硬質粒子として、順次、その粒径(粒度)が45μm以下の範囲、45μm超かつ75μm以下の範囲となるように分級した第2硬質粒子を用いた点である。さらに、実施例15が、実施例1とさらに相違する点は、第1硬質粒子の成分が、Fe−30Mo−10Cr−6Mnである点(Crを10質量%に増量した点)である。
【0110】
〔比較例9,10:第2硬質粒子の最適粒径の比較例〕
実施例1と同じように焼結合金の試験片を作製した。比較例9,10は、第2硬質粒子の最適粒径を評価するための比較例である。比較例9,10が、実施例1と相違する点は、表5に示すように、第2硬質粒子として、順次、その粒径(粒度)が75μm超かつ100μm以下の範囲、100μm超かつ150μm以下の範囲に分級した第2硬質粒子を用いた点である。比較例9が、実施例1とさらに相違する点は、第1硬質粒子の成分が、Fe−25Mo−10Cr−6Mnである点(Moを25質量%に減量し、Crを10質量%に増量した点)である。比較例10が、実施例1とさらに相違する点は第1硬質粒子の成分が、Fe−35Mo−10Cr−6Mnである点(Moを35質量%に増量し、Crを10質量%に増量した点)である。なお、比較例9,10に係る試験片は、本発明の範囲に含まれる焼結合金であり、実施例14,15と対比するために、便宜上、比較例9,10としている。
【0111】
実施例1と同様に、実施例14,15および比較例9,10の試験片に対して、摩耗試験を行い、摩耗試験後の軸方向摩耗量を測定した。この結果を、表4および
図9(a)に示す。
図9(a)は、実施例14,15および比較例9,10における摩耗試験後の軸方向摩耗量の結果を示したグラフである。
【0112】
実施例1と同様に、実施例14,15および比較例9,10の試験片に対して、被削性試験を行い、被削性試験後の刃具摩耗量を測定した。この結果を、表5および
図9(b)に示す。
図9(b)は、実施例14,15および比較例9,10における被削性試験後の刃具摩耗量の結果を示したグラフである。
【0113】
【表5】
【0114】
(結果5:第2硬質粒子の最適粒径)
図9(a)に示すように、実施例14,15および比較例9,10の軸方向摩耗量は、同程度であった。しかしながら、
図9(b)に示すように、実施例14,15の刃具摩耗量は、比較例9,10のものよりも少なかった。これは、比較例9,10では、第2硬質粒子の粒径が大き過ぎるため試験片の被削性が低下することがある。この結果から、第2硬質粒子の粒径(最大粒径)は、75μm以下の範囲にあることが好ましい。
【0115】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。