(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法、および樹脂フィルムを用いた偏光フィルムの製造方法について、
図1を参照しながら、適宜符号を用いて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る樹脂フィルムを用いた偏光フィルムの製造方法を示すフローチャートである。
【0019】
[樹脂フィルムの製造方法]
本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法は、ステップS11およびS12を含む成膜工程と、ステップS13を含む延伸工程と、を備えている。
【0020】
(成膜工程)
本実施形態に係る成膜工程は、ステップS11と、ステップS12と、を備える。
ステップS11の調製処理では、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVA系樹脂)の粉末、粉砕物または切断物等を溶媒により膨潤させた後、膨潤したPVA系樹脂を加熱撹拌し、PVA系樹脂溶液を調製する。PVA系樹脂溶液中のPVA系樹脂の濃度は3〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。
【0021】
未延伸フィルムの形成材料であるPVA系樹脂としては、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化したものを用いることができる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、例えば酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルと共重合可能な他の単量体との共重合体などが挙げられる。
酢酸ビニルに共重合可能な他の単量体としては、例えば不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、アンモニウム基を有するアクリルアミド類などが挙げられる。
【0022】
本実施形態で用いるPVA系樹脂は、完全ケン化品であることが好ましい。本実施形態におけるPVA樹脂のケン化度は、80.0モル%以上99.5モル%以下であるものが好ましく、90.0モル%以上99.5モル%以下であるものがより好ましく、94.0モル%以上99.0以下モル%であるものがさらに好ましい。PVA系樹脂のケン化度が80.0モル%未満であると、偏光フィルムとしたときに耐水性・耐湿熱性が低下することがある。また、PVA系樹脂のケン化度が99.5モル%より大きいと、偏光フィルムの製造工程において染色速度が遅くなり、生産性が低下するとともに十分な偏光性能を有する偏光フィルムが得られないことがある。
【0023】
本実施形態において、PVA系樹脂のケン化度(単位:モル%)とは、PVA系樹脂の原料であるポリ酢酸ビニル系樹脂に含まれる酢酸基がケン化工程により水酸基に変化した割合をユニット比(単位:モル%)で表したものであり、下記式(S1)で定義される数値である。この数値は、JIS K 6726(1994)で規定されている方法で求めることができる。
【0024】
ケン化度=(水酸基の数)/(水酸基の数+酢酸基の数)×100 …(S1)
PVA系樹脂のケン化度が高いほど、水酸基の割合が高いことを示しており、すなわち結晶化を阻害する酢酸基の割合が低いことを示している。
【0025】
また、本実施形態で用いるPVA系樹脂は、一部が変性されている変性PVAでもよい。例えば、PVA系樹脂をエチレン、プロピレン等のオレフィン、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸のアルキルエステル、アクリルアミドなどで変性したものなどが挙げられる。変性の割合は30モル%未満であることが好ましく、10モル%未満であることがより好ましい。30モル%を超える変性を行った場合には、二色性色素を吸着しにくくなり、偏光フィルムとしたときの偏光性能が低くなってしまうことがある。
【0026】
本実施形態におけるPVA系樹脂の平均重合度は、特に限定されないが、100〜10000が好ましく、1500〜8000がより好ましく、2000〜5000がさらに好ましい。PVA系樹脂の平均重合度は、ケン化度と同様にJIS K 6726(1994)によって定められた方法によって求めることができる。
【0027】
このような特性を有するPVA系樹脂としては、例えば株式会社クラレ製のPVA124(ケン化度:98.0〜99.0モル%)、PVA117(ケン化度:98.0〜99.0モル%)、PVA624(ケン化度:95.0〜96.0モル%)およびPVA617(ケン化度:94.5〜95.5モル%);例えば日本合成化学工業株式会社製のAH−26(ケン化度:97.0〜98.8モル%)、AH−22(ケン化度:97.5〜98.5モル%)、NH−18(ケン化度:98.0〜99.0モル%)、およびN−300(ケン化度:98.0〜99.0モル%);例えば日本酢ビ・ポバール株式会社のJC−33(ケン化度:99.0モル%以上)、JM−33(ケン化度:93.5〜95.5モル%)、JM−26(ケン化度:95.5〜97.5モル%)、JP−45(ケン化度:86.5〜89.5モル%)、JF−17(ケン化度:98.0〜99.0モル%)、JF−17L(ケン化度:98.0〜99.0モル%)、およびJF−20(ケン化度:98.0〜99.0モル%)などが挙げられる。
【0028】
本実施形態に係る成膜工程では、ステップS11の調製処理に引き続いて、ステップS12の第1の乾燥処理が行われる。第1の乾燥処理では、PVA系樹脂溶液の塗膜から水を低減し、PVA系樹脂を形成材料とする帯状の未延伸フィルムを形成する。
【0029】
ステップS12の第1の乾燥処理では、従来公知の装置を使用できる。従来公知の装置としては、例えば回転軸が互いに平行な複数の乾燥ロールを備える装置が挙げられる。この装置の1つの乾燥ロール上にステップS11で得られたPVA系樹脂溶液を吐出して塗膜を形成する。次いで、この乾燥ロールと、この乾燥ロールより下流側の他の乾燥ロールを用いて、この塗膜から水を低減して、PVA系樹脂からなる未延伸フィルムを形成する。
【0030】
本実施形態に係る第1の乾燥処理は加熱により行うことができ、必要に応じて、減圧条件下で行ってもよい。PVA系樹脂溶液を加熱により乾燥する方法としては、例えば温風乾燥等が挙げられる。
【0031】
本実施形態に係る成膜工程において、PVA系樹脂溶液の塗膜の含水率は30質量%より大きいことが好ましい。このとき、第1の乾燥処理では、この塗膜の含水率が30質量%であるときの水の除去速度が0.01〜1.8質量%/秒であることが好ましい。また、上記以外の条件としては、含水率が30〜10質量%であるときの水の平均除去速度が0.01〜1.8質量%/秒であることが好ましい。これにより、塗膜中にPVA系樹脂からなる結晶核を十分な量生成させることができる。
【0032】
第1の乾燥処理における乾燥温度および乾燥時間は、PVA系樹脂溶液の塗膜の含水率や、この含水率における水の除去速度、または平均除去速度に応じて決定すればよい。乾燥温度は、例えば50〜200℃が好ましく、60〜150℃がより好ましい。
【0033】
上述の条件で第1の乾燥処理を行うことにより、PVA系樹脂溶液の塗膜中でPVA系樹脂からなる結晶核が増加し、結晶核の密度が高くなる。このようにして緻密な結晶構造を形成することにより、後の染色工程において樹脂フィルムを二色性物質で染色するときに、結晶の近傍に二色性物質とPVA系樹脂とからなる錯体が形成される。この錯体は、安定かつ配向性が高いことから、偏光フィルムとしたときの偏光性能の向上に寄与する。
【0034】
このように、緻密な結晶構造を形成させることにより偏光フィルムとしたときの偏光性能を向上させることができる。しかし、成膜工程の終了後、後述する延伸工程にて未延伸フィルムを延伸するまでの間、未延伸フィルムの結晶構造が変化することがある。
【0035】
一般に、PVA系樹脂などの結晶性を有する熱可塑性樹脂(以下、単に「結晶性樹脂」ということがある)は、そのガラス転移温度以上の温度になると、結晶が成長する。しかし、結晶性樹脂において含水率が高くなると、水が可塑剤の働きをするため、本来のガラス転移温度よりも低い温度で結晶性樹脂が軟化し、結晶性樹脂中の分子鎖の動きが多くなる。これにより、分子鎖が再配列することで、本来のガラス転移温度よりも低い温度で結晶が成長し、結晶化度が高くなることがある。結晶性樹脂中の結晶が成長すると、結晶性樹脂の質量に占める非晶部の割合が減少するため、相対的に非晶部の含水率が増加する。
そのため、結晶化が進行した結晶性樹脂のガラス転移温度は、本来のガラス転移温度よりも低くなる。これにより、本来のガラス転移温度より低い温度で、結晶が成長し、結晶化度がさらに高くなる。
【0036】
そこで、本実施形態においては、このような未延伸フィルムの結晶の成長を抑制し、偏光フィルムとしたときの偏光性能を維持するため、製造条件を次のように規定した。すなわち、成膜工程の終了後、後述する延伸工程にて未延伸フィルムを延伸するまでの間、未延伸フィルムが曝される温度T1と、未延伸フィルムの含水率から求められるガラス転移温度A1との関係を規定し、この規定を満たす未延伸フィルムに対して、延伸処理を施すこととした。
【0037】
(延伸工程)
本実施形態に係る延伸工程は、ステップS13を備える。
ステップS13の延伸処理では、ステップS12で得られた未延伸フィルムを長手方向に搬送しながら延伸し、未延伸フィルムが延伸されてなる帯状の樹脂フィルムを形成する。
【0038】
本実施形態において、成膜工程の終了後、延伸工程にて未延伸フィルムを延伸するまでの間、未延伸フィルムが曝される温度T1(単位:℃)と、下記式(1)で表される未延伸フィルムのガラス転移温度A1(単位:℃)との関係が、下記式(2)を満たす。さらに、温度T1と未延伸フィルムのガラス転移温度A1との関係が、T1<A1であることがより好ましい。
【数5】
T1(℃)<A1(℃)+4(℃) …(2)
(ただし、「未延伸フィルムの含水率」は、質量分率である)
【0039】
上記関係を満たすことにより、未延伸フィルム中のPVA系樹脂の結晶の成長を抑制することができる。これにより、未延伸フィルム中のPVA系樹脂の結晶を十分に小さくすることができるため、偏光フィルムとしたときの偏光性能が高い偏光フィルムを得ることができる。なお、温度T1とは、成膜工程の終了後、延伸工程にて未延伸フィルムを延伸するまでの間において未延伸フィルムが曝される最高温度のことをいう。
【0040】
本実施形態において、成膜工程の終了後、延伸工程にて未延伸フィルムを延伸するまでの時間は通常1秒以上であり、1日以上であってもよく、また、結晶の成長を抑制できる点から通常3ヶ月以下である。この時間には、例えば未延伸フィルムを成膜工程から延伸工程へライン搬送する時間、及び成膜工程を終了後、未延伸フィルムを一度ロールに巻き取って次工程へ搬送し、ロールから未延伸フィルムを巻き出すまでの時間を含む。
【0041】
本実施形態の延伸処理における延伸は、乾式の一軸延伸であることが好ましい。本実施形態に係る延伸工程での延伸倍率は、5倍超17倍以下であり、より好ましくは5倍超8倍以下が好ましい。
【0042】
本実施形態においては、延伸処理を行う前に所望の含水率になるように調湿処理を行うことができる。調湿処理の方法としては、例えば所望の湿度および温度に調節された部屋に未延伸フィルムを置く方法または、所望の湿度および温度に調節された調湿炉に未延伸フィルムを通す方法等が挙げられる。調湿処理では、延伸前の未延伸フィルムの状態に応じて、未延伸フィルムの含水率を増加させる(加湿する)こともできるし、含水率を減少させる(乾燥させる)こともできる。
【0043】
以上のような構成によれば、高い偏光性能を有する偏光フィルムが得られる樹脂フィルムの製造方法が提供される。
【0044】
[偏光フィルムの製造方法]
以下、本発明の第1実施形態に係る偏光フィルムの製造方法について、
図1を参照しながら、適宜符号を用いて説明する。
【0045】
本実施形態に係る樹脂フィルムを用いた偏光フィルムの製造方法は、ステップS11およびステップS12を含む成膜工程と、ステップS13を含む延伸工程と、ステップS21およびステップS22を含む染色工程と、ステップS23を含む洗浄工程と、ステップ24を含む乾燥工程と、を備えている。
図1において、ステップS11〜S13は、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法と共通している。したがって、染色工程以前については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0046】
(染色工程)
本実施形態に係る染色工程は、ステップS21と、ステップS22と、を備える。
ステップS21の染色処理では、樹脂フィルムを長手方向に搬送しながら二色性物質で染色して、二色性物質を吸着配向させ、染色フィルムを形成する。
【0047】
ステップS22の架橋処理では、ステップS21において二色性物質で染色された樹脂フィルム(以下、染色フィルム)を架橋剤で架橋して、架橋フィルムを形成する。
【0048】
本実施形態に係る染色処理は、二色性物質が含まれる液(以下、染色浴)に樹脂フィルムを浸漬させることにより行われる。この染色浴としては、上記二色性物質を溶媒に溶解した溶液を使用できる。染色浴の溶媒としては、例えば水が好ましい。染色浴に水と相溶性のある有機溶媒がさらに添加されてもよい。有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、またはグリセリンなどが挙げられる。
【0049】
本実施形態で用いる二色性物質は、例えば、ヨウ素または偏光フィルム用色素として公知の二色性有機染料が挙げられる。二色性有機染料としては、例えば、レッドBR、レッドLR、レッドR、ピンクLB、ルビンBL、ボルドーGS、スカイブルーLG、レモンイエロー、ブルーBR、ブルー2R、ネイビーRY、グリーンLG、バイオレットLB、バイオレットB、ブラックH、ブラックB、ブラックGSP、イエロー3G、イエローR、オレンジLR、オレンジ3R、スカーレットGL、スカーレットKGL、コンゴーレッド、ブリリアントバイオレットBK、スプラブルーG、スプラブルーGL、スプラオレンジGL、ダイレクトスカイブルー、ダイレクトファーストオレンジS、ファーストブラックを含む。二色性色素は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
染色浴における二色性物質の濃度は、0.01〜10質量%であることが好ましく、0.02〜7質量%であることがより好ましい。
【0051】
二色性物質としてヨウ素を使用する場合、染色効率を向上させる目的で、ヨウ素を含む染色浴にヨウ化物をさらに添加することが好ましい。ヨウ化物としては、例えばヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられ、ヨウ化カリウムを添加することが好ましい。また、染色浴は架橋剤を含んでいてもよい。
【0052】
染色浴中におけるヨウ化物の濃度は、0.01〜20質量%が好ましい。ヨウ素を含む染色浴にヨウ化カリウムを添加する場合、ヨウ素とヨウ化カリウムとの割合は質量比で、1:5〜1:100が好ましく、1:6〜1:80がより好ましい。
染色浴の温度は、10〜60℃が好ましく、20〜40℃より好ましい。
【0053】
本実施形態に係る染色工程では、染色処理に引き続いて、架橋剤が含まれる液(以下、架橋浴)に染色フィルムを浸漬させ、架橋フィルムとする架橋処理行われる。
【0054】
本実施形態で用いる架橋剤としては、ホウ素化合物、グリオキザール、またはグルタルアルデヒドが好ましく、ホウ素化合物がより好ましい。ホウ素化合物としては、例えば、ホウ酸、ホウ砂等が挙げられる。架橋剤は1種のみを使用してもよいし2種以上を併用してもよい。
【0055】
本実施形態の架橋浴としては、架橋剤を溶媒に溶解した溶液を使用できる。溶媒としては、例えば水が好ましい。架橋浴に水と相溶性のある有機溶媒をさらに含んでもよい。有機溶剤の具体例としては、上記と同様である。架橋浴における架橋剤の濃度は、1〜20質量%が好ましく、6〜15質量%がより好ましい。
【0056】
本実施形態の架橋浴は、ヨウ化物をさらに含むことができる。架橋浴にヨウ化物を添加することにより、得られる偏光フィルムの面内における偏光性能を均一化させることができる。ヨウ化物の具体例としては、上記と同様である。
【0057】
架橋浴におけるヨウ化物の濃度は、0.05〜15質量%が好ましく、0.5〜8重量%がより好ましい。
架橋浴の温度は、10〜90℃が好ましい。
【0058】
本実施形態において、延伸工程の終了後、染色工程にて樹脂フィルムを染色するまでの間、樹脂フィルムが曝される温度T2(単位:℃)と、下記式(3)で表される樹脂フィルムのガラス転移温度A2(単位:℃)との関係が、下記式(4)を満たすことが好ましい。これは、本実施形態に係る成膜工程の終了後、延伸工程にて未延伸フィルムを延伸するまでの間、未延伸フィルムが曝される温度T1と未延伸フィルムのガラス転移温度A1との関係を規定することと同様の理由による。さらに、温度T2と樹脂フィルムのガラス転移温度A2との関係が、T2<A2であることがより好ましい。
【数6】
T2(℃)<A2(℃)+4(℃) …(4)
(ただし、「樹脂フィルムの含水率」は、質量分率である)
【0059】
上記関係を満たすことにより、延伸工程の終了後、染色工程にて樹脂フィルムを染色するまでの間、樹脂フィルム中のPVA系樹脂の結晶の成長を抑制することができる。これにより、樹脂フィルム中のPVA系樹脂の結晶を十分に小さくすることができるため、偏光フィルムとしたときの偏光性能が高い偏光フィルムを得ることができる。なお、温度T2とは、延伸工程の終了後、染色工程にて樹脂フィルムを染色するまでの間において樹脂フィルムが曝される最高温度のことをいう。
【0060】
本実施形態において、延伸工程の終了後、染色工程にて樹脂フィルムを染色するまでの時間は通常1秒以上であり、1日以上であってもよく、また、結晶の成長を抑制できる点から通常3ヶ月以下である。この時間には、例えば樹脂フィルムを延伸工程から染色処理または架橋処理へライン搬送する時間、及び延伸工程を終了後、樹脂フィルムを一度ロールに巻き取って次工程へ搬送し、ロールから樹脂フィルムを巻き出すまでの時間を含む。
【0061】
(洗浄工程)
本実施形態に係る洗浄工程は、ステップS23を備える。
ステップS23の洗浄処理では、ステップS22で得られた架橋フィルムを洗浄する。
【0062】
本実施形態に係る洗浄処理は、イオン交換水、蒸留水のような純水(以下、洗浄浴)に架橋フィルムを浸漬することにより行われる。これにより、架橋フィルムに残された薬剤、例えば余剰の二色性物質や未反応の架橋剤を低減することができる。洗浄浴に水と相溶性のある有機溶媒をさらに含んでもよい。有機溶剤の具体例としては、上記と同様である。
洗浄温度は、3〜50℃が好ましく、4〜20℃がより好ましい。
【0063】
なお、本実施形態に係る洗浄処理は、ヨウ化物を含む水溶液による洗浄処理であってもよいし、ヨウ化物を含む水溶液による洗浄処理と純水による洗浄処理とを組み合わせてもよい。ヨウ化物の具体例としては、上記と同様である。洗浄浴中にヨウ化物が含まれることにより、得られる偏光フィルムの色相を調製することができる。また、洗浄浴は架橋剤を含んでいてもよく、フィルム表面への架橋剤の析出による欠陥の防止のために、水100質量部に対して1質量部以下の添加量の方が好ましい。
【0064】
洗浄浴中のヨウ化物の濃度は、1〜15質量%が好ましい。
【0065】
(乾燥工程)
本実施形態に係る乾燥工程は、ステップS24を備える。
ステップS24の第2の乾燥処理では、ステップS23で洗浄した架橋フィルムを乾燥する。
【0066】
本実施形態に係る第2の乾燥処理は、従来公知の方法を採用することができ、例えば自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥等が挙げられる。例えば加熱乾燥の場合、乾燥温度は20〜95℃が好ましい。乾燥温度が低すぎると、乾燥時間が長くなり、製造効率が低下する。
一方、乾燥温度が高すぎると、得られる偏光フィルムが劣化し、偏光性能および色相が悪化する。また、乾燥時間は2〜20分が好ましい。このようにして、偏光フィルムが得られる。
【0067】
なお、本実施形態に係る偏光フィルムの製造方法は、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法と、成膜工程が共通しているが、この成膜工程を省略することができる。すなわち、本実施形態に係る偏光フィルムの製造方法においては、ポリビニルアルコール系樹脂を形成材料とする帯状の未延伸フィルムを用意し、この未延伸フィルムを長手方向に搬送しながら延伸し、未延伸フィルムが延伸されてなる樹脂フィルムを得る延伸工程から始めてもよい。このような場合には、延伸工程の終了後、染色工程にて樹脂フィルムを染色するまでの間、樹脂フィルムが曝される温度T2(単位:℃)と、上記式(3)で表される樹脂フィルムのガラス転移温度A2(単位:℃)との関係が、上記式(4)を満たす。
【0068】
以上のような構成によれば、高い偏光性能を有する偏光フィルムが得られる偏光フィルムの製造方法が提供される。
【0069】
[偏光板の製造方法]
本実施形態においては、上記方法で製造された偏光フィルムの少なくとも一方の面に、接着剤を用いて保護フィルムを貼合することにより、偏光フィルムと保護フィルムとが積層された偏光板が得られる。
【0070】
(保護フィルム)
本実施形態に係る偏光板の保護フィルムの材料としては、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性等に優れる熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えばトリアセチルセルロース等のアセチルセルロース系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、シクロオレフィン系共重合樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の非環状オレフィン系樹脂またはこれらの混合物などが挙げられる。
【0071】
上記保護フィルムの厚さは、1〜200μmが好ましく、5〜100μmがより好ましく、10〜50μmがさらに好ましい。
【0072】
なお、本実施形態において偏光フィルムの両面に保護フィルムを設ける場合、その両面で同じ樹脂材料からなる保護フィルムを用いてもよく、異なる樹脂材料からなる保護フィルムを用いてもよい。
【0073】
(接着剤)
本実施形態に係る偏光板の接着剤としては、例えば、水系接着剤、または活性エネルギー線硬化性接着剤が挙げられる。水系接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂を水に溶解、または分散させた接着剤が挙げられる。活性エネルギー線硬化性接着剤としては、例えば、紫外線、可視光、電子線、X線のような活性エネルギー線の照射によって硬化する硬化性化合物を含有する接着剤が挙げられる。
【0074】
活性エネルギー線硬化性接着剤としては、良好な接着性を示すことから、カチオン重合性の硬化性化合物、ラジカル重合性の硬化性化合物のいずれか一方または、その両方を含む活性エネルギー線硬化性接着剤組成物を用いることが好ましい。活性エネルギー線硬化性接着剤は、上記硬化性化合物の硬化反応を開始させるためのカチオン重合開始剤、またはラジカル重合開始剤をさらに含むことができる。
【0075】
カチオン重合性の硬化性化合物としては、例えばエポキシ系化合物(分子内に1個又は2個以上のエポキシ基を有する化合物)や、オキセタン系化合物(分子内に1個又は2個以上のオキセタン環を有する化合物)、またはこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0076】
ラジカル重合性の硬化性化合物としては、例えば、(メタ)アクリル系化合物(分子内に1個又は2個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物)や、ラジカル重合性の二重結合を有するその他のビニル系化合物、またはこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0077】
活性エネルギー線硬化性接着剤は、必要に応じて、カチオン重合促進剤、イオントラップ剤、酸化防止剤、連鎖移動剤、粘着付与剤、熱可塑性樹脂、充填剤、流動調整剤、可塑剤、消泡剤、帯電防止剤、レベリング剤、溶剤等の添加剤を含有することができる。
【0078】
以下、本実施形態に係る偏光板の製造方法について説明する。活性エネルギー線硬化性接着剤を用いて保護フィルムを貼合する場合は、活性エネルギー線硬化性接着剤を介して保護フィルムを偏光フィルム上に積層する。次いで、紫外線、可視光、電子線、X線のような活性エネルギー線を照射して、活性エネルギー線硬化性接着剤からなる接着剤層を硬化させる。活性エネルギー線としては、紫外線が好ましく、この場合の光源としては、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ等を用いることができる。
【0079】
一方、水系接着剤を用いて保護フィルムを貼合する場合は、水系接着剤を介して保護フィルムを偏光フィルム上に積層した後、加熱乾燥させればよい。
【0080】
本実施形態の偏光板は、接着剤との接着性を向上させる目的で、偏光フィルムまたは保護フィルムもしくはその両方に、表面処理を行うことができる。表面処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理、紫外線処理、プライマー処理、ケン化処理、溶剤の塗布および乾燥による溶剤処理が挙げられる。
【0081】
また、保護フィルムにおける偏光フィルムとは反対側の表面には、ハードコート層、防眩層、反射防止層、帯電防止層、防汚層等の表面処理層(コーティング層)を形成してもよい。
【0082】
以上のような構成によれば、本実施形態に係る偏光フィルムを備えているため、高い偏光性能を示す偏光板が提供される。
【0083】
<第2実施形態>
以下、本発明の第2実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法、および樹脂フィルムを用いた偏光フィルムの製造方法について、
図2を参照しながら、適宜符号を用いて説明する。
図2は、本発明の第2実施形態に係る樹脂フィルムを用いた偏光フィルムの製造方法を示すフローチャートである。
【0084】
図2に示すように、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法、および樹脂フィルムを用いた偏光フィルムの製造方法は、
図1に示す第1実施形態と、ステップS11〜S13およびステップS21〜S24が共通している。第1実施形態と第2実施形態とで異なるのは、第1実施形態における成膜工程において、ステップS11とステップS12との間にステップS31を含むことである。したがって、本実施形態において、第1実施形態と共通する染色工程以降の工程については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0085】
(成膜工程)
本実施形態に係る成膜工程はステップS11と、ステップS31と、ステップS12と、を備える。
ステップS31の塗工処理では、帯状の基材フィルムを長手方向に搬送しながら、基材フィルムの少なくとも一方の面にステップS11で調製したPVA系樹脂溶液を塗工する。これにより、基材フィルムの少なくとも一方の面に塗工層を形成する。
【0086】
ステップS12の第1の乾燥処理は、ステップS31で得られた塗工層から水を低減して、基材フィルムの少なくとも一方の面に未延伸フィルムを積層した積層体を形成する。
【0087】
本実施形態で用いる基材フィルムとしては、従来、偏光フィルムの保護フィルムとして用いられているものを用いることができ、基材フィルムの形成材料としては、例えば、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性、延伸性などに優れる熱可塑性樹脂が用いられる。
【0088】
このような熱可塑性樹脂としては、例えば、鎖状ポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂(ノルボルネン系樹脂)等のポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート等のセルロースエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、またはこれらの混合物が挙げられる。また、上記樹脂のモノマーを共重合した共重合体を、基材フィルムの形成材料として用いてもよい。これらの中でもポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、非晶性ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂が好ましい。
【0089】
本実施形態における基材フィルムは、1種または2種以上の熱可塑性樹脂から形成されている。基材フィルムは、1つの樹脂層からなる単層構造であってもよいし、樹脂層を複数積層した多層構造であってもよい。基材フィルムは、成膜工程の後に行われる延伸工程において、未延伸フィルムを延伸するのに好適な延伸温度で延伸できるような樹脂で構成されることが好ましい。
【0090】
基材フィルムは、本発明の効果を損なわない範囲において、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、離型剤、着色防止剤、難燃剤、核剤、帯電防止剤、顔料、または着色剤等の添加剤を含有してもよい。
【0091】
本実施形態において、基材フィルムの厚みは、強度や取扱性等の点から1〜500μmが好ましく、1〜300μmがより好ましく、5〜200μmがさらに好ましく、5〜150μmが特に好ましい。
【0092】
本実施形態において、PVA系樹脂溶液の塗工方法としては、従来公知の方法を採用することができる。従来公知の方法としては、例えばワイヤーバーコーティング法、リバースコーティング、グラビアコーティング等のロールコーティング法、ダイコート法、カンマコート法、リップコート法、スクリーンコーティング法、ファウンテンコーティング法、ディッピング法、スプレー法等が挙げられる。PVA系樹脂溶液は、基材フィルムの一方の面のみに塗工してもよいし、両面に塗工してもよい。
【0093】
ステップS11とステップS31との間において、得られる積層体の基材フィルムと未延伸フィルムとの密着性を向上させるために、少なくとも塗工層が形成される側の基材フィルムの表面に、表面処理を施してもよい。このような表面処理としては、例えばコロナ処理、プラズマ処理、またはフレーム(火炎)処理等が挙げられる。また、同様の目的で、基材フィルム上にプライマー層等を介して塗工層を形成してもよい。
【0094】
プライマー層の形成材料としては、例えば、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性、延伸性などに優れる熱可塑性樹脂が用いられる。このような熱可塑性樹脂としては、例えば(メタ)アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂等が挙げられる。
プライマー層の形成材料としては、得られる積層体の基材フィルムと未延伸フィルムとの両方に良好な密着性を発揮できることから、ポリビニルアルコール系樹脂が好ましく、ポリビニルアルコール樹脂がより好ましい。
【0095】
プライマー層の形成方法としては、例えば上記樹脂と溶媒との混合溶液を基材フィルムの表面に塗工した後、乾燥させる方法が挙げられる。溶媒としては、上記樹脂を溶解できる限り、特に限定されないが、水であることが好ましい。プライマー層の塗工方法としては、PVA系樹脂溶液の塗工方法と同様である。プライマー層を形成するときの乾燥温度は、50〜200℃が好ましく、60〜150℃がより好ましい。溶媒として水が含まれる場合、乾燥温度は80℃以上であることが好ましい。
【0096】
プライマー層は、その強度を向上させるために、架橋剤を含有してもよい。架橋剤の具体例としては、例えばエポキシ系、イソシアネート系、ジアルデヒド系、金属系、または高分子系の架橋剤が挙げられる。金属系の架橋剤としては、例えば金属塩、金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物等が挙げられる。プライマー層の形成材料として、ポリビニルアルコール系樹脂を採用する場合は、ポリアミドエポキシ樹脂、メチロール化メラミン樹脂、ジアルデヒド系架橋剤、金属キレート化合物系架橋剤等が好適に用いられる。
【0097】
プライマー層の厚みは、0.05〜1μm程度であることが好ましく、0.1〜0.4μmであることがより好ましい。プライマー層の厚みが0.05μmより薄いと、基材フィルムと未延伸フィルムとの密着性が十分に得られないことがある。
【0098】
本実施形態に係る成膜工程では、塗工処理に引き続いて、積層体中の塗工層から水を低減して未延伸フィルムとする第1の乾燥処理行われる。
【0099】
本実施形態に係る第1の乾燥処理は、第1実施形態と同様に加熱により行うことができ、必要に応じて、減圧条件下で行ってもよい。PVA系樹脂溶液を加熱により乾燥する方法としては、例えば熱ロールによる乾燥、または温風乾燥等が挙げられる。
【0100】
本実施形態に係る成膜工程において、積層体中の塗工層の含水率は30質量%より大きいことが好ましい。このとき、第1の乾燥処理では、この塗膜の含水率が30質量%であるときの水の除去速度が0.01〜1.8質量%/秒であることが好ましい。また、上記以外の条件としては、含水率が30〜10質量%であるときの水の平均除去速度が0.01〜1.8質量%/秒であることが好ましい。これにより、塗工層中にPVA系樹脂からなる結晶核を十分な量生成させることができる。
【0101】
(延伸工程)
本実施形態に係る延伸工程は、ステップS13を備える。
ステップS13の延伸処理では、ステップS12で得られた積層体を延伸して、基材フィルムが延伸された延伸基材フィルムと、延伸基材フィルムの少なくとも一方の面に形成された樹脂フィルムとが積層した積層フィルムを形成する。
【0102】
本実施形態に係る延伸工程において、成膜工程の終了後、延伸工程にて未延伸フィルムを延伸するまでの間、未延伸フィルムが曝される温度T1(単位:℃)と、上記式(1)で表される未延伸フィルムのガラス転移温度A1(単位:℃)との関係は、第1実施形態と同様である。これにより、未延伸フィルム中のPVA系樹脂の結晶の成長を抑制することができる。これにより、未延伸フィルム中のPVA系樹脂の結晶を十分に小さくすることができるため、偏光フィルムとしたときの偏光性能が高い偏光フィルムを得ることができる。
【0103】
本実施形態において、成膜工程の終了後、延伸工程にて未延伸フィルムを延伸するまでの時間は通常1秒以上であり、1日以上であってもよく、また、結晶の成長を抑制できる点から通常3ヶ月以下である。この時間には、例えば未延伸フィルムを成膜工程から延伸工程へライン搬送する時間、及び成膜工程を終了後、未延伸フィルムを一度ロールに巻き取って次工程へ搬送し、ロールから未延伸フィルムを巻き出すまでの時間を含む。
【0104】
本実施形態に係る延伸処理での延伸倍率は、所望の偏光性能に応じて、適宜選択すればよいが、積層体の元長に対して5倍超17倍以下が好ましく、5倍超8倍以下がより好ましい。延伸倍率が5倍以下であると、PVA系樹脂の配向性が不十分であるため、偏光フィルムとしたときに十分な偏光性能が得られないおそれがある。一方、延伸倍率が17倍を超えると、積層フィルムの破断が生じ易くなるとともに、積層フィルムの厚みが所望の厚みよりも薄くなり、後工程での加工性および取扱性が低下するおそれがある。
【0105】
延伸倍率が上記範囲内であれば、延伸処理は多段階的に行うこともできる。この場合、多段階の延伸処理のすべてを、染色工程の前に連続的に行ってもよいし、2段階目以降の延伸処理を染色工程における染色処理または架橋処理もしくは両方と同時に行ってもよい。このような態様では、例えば1段階目の延伸を乾式でおこない、延伸倍率を1.1倍超3.0倍以下とし、2段階目の延伸を水中でおこない、延伸倍率を2倍以上5倍以下としてもよい。
【0106】
延伸処理は、積層体の長手方向(積層体の搬送方向)に延伸する縦延伸であってもよいし、積層体の幅方向に延伸する横延伸、または斜め延伸等であってもよい。縦延伸方式としては、ロールを用いて延伸するロール間延伸、圧縮延伸、チャック(クリップ)を用いた延伸等が挙げられる。横延伸方式としては、テンター法等が挙げられる。延伸処理は、湿潤式延伸方法、乾式延伸方法のいずれも採用できるが、乾式延伸方法を用いる方が、延伸温度を広い範囲から選択することができることから、好ましい。
【0107】
延伸温度は、積層体が延伸可能な程度に流動性を示す温度以上に設定されればよく、80〜160℃が好ましく、90〜150℃がより好ましく、100〜130℃がさらに好ましい。
【0108】
積層フィルムにおける樹脂フィルムの厚みは、3〜30μmが好ましく、5〜20μmがより好ましい。本実施形態において樹脂フィルムの厚みが上記範囲内であることにより、染色工程において二色性物質による染色がしやすく、偏光フィルムとしたときの偏光性能に優れている。
【0109】
本実施形態においては、延伸処理に引き続き、積層フィルム中の樹脂フィルムを不溶化させるために、不溶化処理を行ってもよい。不溶化処理は、積層フィルムを架橋剤を含む溶液(以下、不溶化浴)に浸漬させることにより、行うことができる。不溶化浴に含まれる架橋剤としては、第1実施形態の架橋処理に用いられる架橋剤と同様である。不溶化浴の溶媒としては、例えば水が好ましい。不溶化浴に水と相溶性のある有機溶媒をさらに含んでもよい。有機溶剤の具体例としては、上記と同様である。
【0110】
不溶化浴における架橋剤の濃度は、1〜4質量%が好ましい。また、不溶化浴の温度は、25℃以上が好ましく、30〜85℃がより好ましく、30〜60℃がさらに好ましい。この不溶化浴に積層フィルムを浸漬させる時間は、5〜800秒間が好ましく、8〜500秒間がより好ましい。
【0111】
本実施形態に係る延伸工程の後に引き続き行われる染色工程、洗浄工程および乾燥工程は第1実施形態と同様である。このようにして、基材フィルムの表面に偏光フィルムが積層した偏光性積層フィルムが得られる。
【0112】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様に偏光フィルムとしたときに高い偏光性能を示す偏光フィルムの製造方法が提供される。また、本実施形態では、基材フィルムとともに未延伸フィルムを延伸し、樹脂フィルムとすることができるため、PVA系樹脂からなるフィルムを単独で延伸する従来の樹脂フィルムの製造方法および偏光フィルムの製造方法と比べて薄型の偏光フィルムが得られやすい。すなわち、本実施形態に係る偏光フィルムの製造方法で得られる偏光フィルムの厚みは、10μm以下であることが好ましく、7μm以下であってもよい。
【0113】
特に、厚みが10μm以下の偏光フィルムでは、厚みが10μm超の偏光フィルムと比べて、偏光フィルム表面に存在する二色性物質とPVA系樹脂とからなる錯体が多いため、偏光性能への影響を看過できない。本実施形態では、塗工層の乾燥後、基材フィルム上の未延伸フィルムを延伸するまでの間や、延伸後、樹脂フィルムを染色するまでの間において、上記フィルムが曝される温度と、上記フィルムのガラス転移温度との関係を管理することにより、上記フィルム中の結晶の成長を抑制し、偏光フィルムとしたときの偏光性能を高く保ったまま維持することができる。
【0114】
[偏光板の製造方法]
本実施形態においては、上記方法で製造された偏光性積層フィルムの偏光フィルム上、すなわち偏光フィルムにおける基材フィルムとは反対側の表面に、接着剤を用いて保護フィルムを貼合することで、片面に保護フィルムが施された偏光性積層フィルムが得られる。本実施形態で用いる保護フィルムおよび接着剤は、第1実施形態と同様のものである。
【0115】
なお、偏光性積層フィルムが、基材フィルムの両面に偏光フィルムを備える場合には、両面の偏光フィルム上にそれぞれ保護フィルムが貼合される。このとき、同じ樹脂材料からなる保護フィルムを用いてもよく、異なる樹脂材料からなる保護フィルムを用いてもよい。
【0116】
本実施形態においては、片面に保護フィルムが施された偏光性積層フィルムから基材フィルムを剥離することにより、片面に保護フィルムが施された偏光板が得られる。
なお、この偏光性積層フィルムが基材フィルムの両面に偏光フィルムを備え、これら両方の偏光フィルムに保護フィルムを貼合した場合には、偏光性積層フィルム1枚につき、片面に保護フィルムが施された偏光板が2枚得られることになる。
【0117】
基材フィルムを剥離する方法としては、従来の粘着剤を備えた偏光板で行われるセパレータ(剥離フィルム)の剥離工程と同様の方法が採用できる。
【0118】
片面に保護フィルムが施された偏光板における偏光フィルム上、すなわち既に貼合された保護フィルムとは反対側の表面に、接着剤を用いて保護フィルムを貼合することにより、両面に保護フィルムが施された偏光板が得られる。このとき用いる保護フィルムおよび接着剤の具体例としては、上記と同様である。
【0119】
以上のような構成によれば、本実施形態に係る偏光フィルムを備えているため、高い偏光性能を示す偏光板が提供される。
【0120】
<変形例>
なお、本発明の技術範囲は、上記実施形態に限定されず、本発明の効果を損なわない範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0121】
第1実施形態および第2実施形態において、第1の乾燥処理では、回転軸が互いに平行な複数の乾燥ロールを備える装置を使用する。このとき複数の乾燥ロールよりも下流側に熱処理ロールが設けられていてもよい。これにより、本実施形態に係る延伸工程前に、PVA系樹脂からなる結晶核を増加させたり、延伸中のフィルムの延伸性を向上させたりすることができる。
【0122】
第1実施形態および第2実施形態において、染色工程は延伸工程の後に行っているが、延伸工程の前に行うことや、これらの工程を同時に行うこともできる。
【0123】
また、第1実施形態および第2実施形態の染色工程において、架橋処理は、染色処理の前に行っているが、架橋剤を染色浴中に配合することにより、染色処理と同時に行うこともできる。また、組成の異なる2種以上の架橋浴を用いて、架橋処理を別々に2回以上行ってもよい。
【0124】
第1実施形態および第2実施形態において、片面に保護フィルムが施された偏光板における偏光フィルム上、または両面に保護フィルムが施された偏光板における保護フィルムのどちらか一方の上に、偏光板を他の部材(例えば、液晶表示装置に適用する場合における液晶セル)に貼合するための粘着剤層を積層してもよい。粘着剤層を形成する粘着剤は、ベースポリマーに架橋剤を加えた粘着剤組成物から形成される。ベースポリマーとしては、例えば(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、シリコーン系樹脂等が挙げられる。架橋剤としては、例えばイソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物等が挙げられる。この粘着剤組成物に、さらに微粒子を含有させて光散乱性を示す粘着剤層とすることもできる。粘着剤層の厚みは1〜40μmが好ましく、3〜25μmがより好ましい。
【0125】
また、片面に保護フィルムが施された偏光板における偏光フィルム上、または両面に保護フィルムが施された偏光板における保護フィルムのどちらか一方の上に、他の光学層を積層してもよい。他の光学層としては、反射型偏光フィルム、表面反射防止機能付フィルム、表面に反射機能を有する反射フィルム、反射機能と透過機能とを併せ持つ半透過反射フィルム、視野角補償フィルム等が挙げられる。本実施形態の製造方法により得られる偏光フィルムを有する偏光板は、表示装置の視認側にも背面側にも好適に適用できる。
【実施例】
【0126】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0127】
<製造例(積層体の製造)>
[基材フィルム]
エチレンユニットを約5重量%含むプロピレン/エチレンのランダム共重合体からなる樹脂層の両側にプロピレンの単独重合体であるホモポリプロピレンからなる樹脂層を配置した3層構造の長尺のフィルムを作製し、基材フィルムとした。基材フィルムは、多層押出成形機を用いた共押出成形により作製した。
プロピレン/エチレンのランダム共重合体およびホモポリプロピレンとして、以下の材料を用いた。
プロピレン/エチレンのランダム共重合体:住友(登録商標)ノーブレン(登録商標)W151、住友化学株式会社製、融点=138℃
ホモポリプロピレン:住友(登録商標)ノーブレン(登録商標)FLX80E4、住友化学株式会社製、融点=163℃
得られた基材フィルムの合計厚みは90μmであり、各層の厚み比(FLX80E4/W151/FLX80E4)は3/4/3であった。
【0128】
[プライマー層形成工程]
PVA粉末(日本合成化学工業株式会社製、商品名:Z−200、平均重合度1100、ケン化度99.5モル%)を95℃の熱水に溶解させ、3質量%PVA水溶液を調製した。得られたPVA水溶液に、PVA粉末6重量部に対して5重量部の架橋剤(住友化学株式会社製、商品名:スミレーズレジン(登録商標)650)を混合し、接着剤とした。
得られた接着剤を、コロナ処理を施した基材フィルムの表面に、マイクログラビアコーターを用いて塗工した。塗工後の基材フィルムを、80℃で10分間乾燥させることにより、厚み0.2μmのプライマー層を形成した。
【0129】
[成膜工程]
PVA粉末(株式会社クラレ製、商品名:PVA124、平均重合度2400、ケン化度98.0〜99.0モル%)を95℃の熱水に溶解させ、7.5質量%PVA水溶液を調製した。得られたPVA水溶液を、プライマー層が形成された基材フィルムの表面に、ダイコーターを用いて塗工した。塗工後の基材フィルムを、80℃で乾燥させることにより、厚み9.2μmのポリビニルアルコールからなる樹脂層を形成した。含水率が30質量%であるときの水の除去速度は1.20質量%/秒であり、含水率30〜10質量%の間における水の平均除去速度は、1.21質量%/秒であった。
このようにして、基材フィルム、プライマー層、樹脂層がこの順に積層した3層構造の積層体を作製した。
【0130】
<積層体の保管試験>
[実施例1〜9、比較例1〜6]
製造例で作製した積層体を、表1に示す温度(単位:℃)および、積層体中の未延伸フィルムにおける含水率(単位:質量分率)になるように管理された湿熱環境下で2週間保管した。
【0131】
各実施例および各比較例の積層体の未延伸フィルムに対して、保管開始時と保管終了時の結晶化指数(ピーク比)Xをそれぞれ求め、保管終了後の結晶化指数から保管開始時の結晶化指数を引いた結晶化指数差ΔXを算出した。このとき、結晶化指数差ΔXが大きいほど、保管時に未延伸フィルム中で結晶が成長していることを意味する。なお、樹脂層の結晶化指数(ピーク比)Xは以下の方法で求めた。
【0132】
[結晶化指数(ピーク比)Xの算出方法]
まず、保管前後の積層体に含まれる樹脂層の赤外分光スペクトルを、フーリエ変換赤外分光光度計(Varian Inc.製、Varian 640−IR)にて、透過法を用いて測定した。このとき、分解能は0.5cm
−1に設定し、積算回数は16回とした。
次いで、得られた赤外分光スペクトルから、波数1141cm
−1および1440cm
−1における吸光度を求め、下記式(S2)に基づいて結晶化指数(ピーク比)Xを算出した。なお、波数1141cm
−1のピークはPVA系樹脂からなる結晶に対応し、波数1440cm
−1のピークはレファレンスに対応する。
【0133】
結晶化指数(ピーク比)X=A
1141/A
1440 …(S2)
(式(S2)中、A
1141およびA
1440はそれぞれ波数1141cm
−1および1440cm
−1における吸光度を意味する。)
【0134】
【表1】
【0135】
各実施例および各比較例の積層体の保管試験の結果を、以下の基準により評価した。下記式(2)を満たすものを「○」とし、下記式(2)を満たさないものを「×」とした。
T1(℃)<A1(℃)+4(℃) …(2)
【0136】
表1に、各実施例および各比較例の積層体の保管開始時および保管終了時の結晶化指数Xと、結晶化指数差ΔXを示した。また、
図3に、実施例および比較例について、得られた未延伸フィルムにおける含水率とガラス転移温度との関係をプロットしたグラフを示した。
図3中の曲線は、結晶化度が0%のときの未延伸フィルムにおける含水率とガラス転移温度との関係を示している。また、
図3に示す「○」および「×」は、表1に示す「○」および「×」に対応している。
【0137】
表1に示すように、各実施例では積層体の未延伸フィルムにおける含水率から求められるガラス転移温度A1(単位:℃)と、保管温度T1(単位:℃)との関係が上記式(2)を満たしていることがわかった。このときの結晶化指数差ΔXは0.053未満であった。一方、各比較例では、積層体の未延伸フィルムにおける含水率から求められるガラス転移温度A1と、保管温度T1との関係が上記式(2)を満たしていないことがわかった。このときの結晶化指数差ΔXは0.053以上であった。
【0138】
<偏光フィルムの製造>
[延伸工程]
各実施例および各比較例で保管した積層体に対し、フローティングの縦一軸延伸装置を用いて150℃で5.3倍の自由端一軸延伸を実施し、積層フィルムを得た。積層フィルム中の樹脂フィルムの厚みは5.1μmであった。
【0139】
[染色工程]
水100質量部に対して、ヨウ素を0.6質量部、ヨウ化カリウムを10.0質量部配合したヨウ素水溶液(染色浴)を調製した。液温30℃に調節された染色浴に、積層フィルムを180秒間浸漬させることによりヨウ素で染色し、染色フィルムとした。
【0140】
次いで、水100質量部に対してホウ酸を10.4質量部配合したホウ酸水溶液を調製した。液温78℃に調節されたホウ酸水溶液に120秒間浸漬させた。さらに、水100質量部に対して、ホウ酸を5.0質量部、ヨウ化カリウムを12.0質量部配合した水溶液(架橋浴)を調製した。液温65℃に調節された架橋浴に60秒間浸漬させることにより架橋処理を施し、架橋フィルムとした。
【0141】
[洗浄工程および乾燥工程]
得られた架橋フィルムを液温10℃に調節された純水に10秒浸漬し、洗浄した。洗浄後すぐにエアーブロワーを用いて表面に付着した水分を取り除いて、乾燥させた。このようにして、基材フィルムの表面に偏光フィルムを備えた偏光性積層フィルムを得た。
【0142】
<偏光フィルムの偏光性能の評価>
各実施例および各比較例の積層体から偏光フィルムを作製し、偏光性能を評価した。表1において、結晶化指数差ΔXが0.053未満の積層体、すなわち、実施例の積層体を用いて作製した偏光フィルムは、比較例の積層体を用いて作製した偏光フィルムに比べ高い偏光性能を示すことがわかった。これは、保管時に未延伸フィルム中で結晶が成長するのを抑制でき、緻密な結晶構造を保つことができたためだと考えられる。
【0143】
以上のことから、本発明が有用であることが確かめられた。