(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記帯電量分布を用いて、マルチビームの各ビームの照射位置における、帯電量に起因する照射位置の第1の位置ずれ量から、前記代表ビームを垂直入射することにより生じる、帯電量に起因する照射位置の第2の位置ずれ量分を除いた、照射位置依存分の残りの位置ずれ量を補正する照射位置依存補正値を演算する照射位置依存補正値演算部をさらに備え、
前記位置補正部は、前記代表ビームを垂直入射することにより生じる、帯電量に起因する照射位置の第2の位置ずれ量を補正する垂直入射補正値を用いて補正された垂直入射補正位置に前記照射位置依存補正値を加算することで前記補正位置を演算することを特徴とする請求項1記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
マルチビームの各ビームの照射位置における、帯電量に起因する各照射位置の第1の位置ずれ量を算出する第1の応答関数と、前記代表ビームを垂直入射することにより生じる、帯電量に起因する各照射位置の第2の位置ずれ量を算出する第2の応答関数との差分を示す複数の差分応答関数を記憶する記憶装置をさらに備え、
前記照射位置依存補正値演算部は、前記複数の差分応答関数の1つを用いて前記照射位置依存補正値を演算することを特徴とする請求項2記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の他の荷電粒子を用いたビームでも構わない。
【0018】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
図1において、描画装置100は、描画部150と制御部160を備えている。描画装置100は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置の一例である。描画部150は、電子鏡筒102と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、アパーチャ部材203、ブランキングプレート204、縮小レンズ205、制限アパーチャ部材206、対物レンズ207、及び偏向器208が配置されている。描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画時には描画対象基板となるマスク等の試料101が配置される。試料101には、半導体装置を製造する際の露光用マスク、或いは、半導体装置が製造される半導体基板(シリコンウェハ)等が含まれる。また、試料101には、レジストが塗布された、まだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれる。XYステージ105上には、さらに、XYステージ105の位置測定用のミラー209が配置される。
【0019】
制御部160は、制御計算機110、メモリ111、ステージ位置検出部136、ステージ駆動部138、偏向制御回路170、及び、磁気ディスク装置等の記憶装置140,142,144,146と、を有している。制御計算機110、メモリ111、ステージ位置検出部136、ステージ駆動部138、偏向制御回路170、及び記憶装置140,142,144,146は、図示しないバスにより互いに接続されている。偏向制御回路170は、偏向器208に接続される。
【0020】
制御計算機110内には、描画データ処理部112、パターン面積密度分布演算部114、ドーズ分布演算部116、かぶり電子量分布演算部118、差分テーブル転送部120、帯電量分布演算部122、帯電量分布切り出し部124、及びオフライン帯電補正適用部126といった機能が配置される。描画データ処理部112、パターン面積密度分布演算部114、ドーズ分布演算部116、かぶり電子量分布演算部118、差分テーブル転送部120、帯電量分布演算部122、帯電量分布切り出し部124、及びオフライン帯電補正適用部126は、電気的な回路によるハードウェアで構成されても構わない。或いは、描画データ処理部112、パターン面積密度分布演算部114、ドーズ分布演算部116、かぶり電子量分布演算部118、差分テーブル転送部120、帯電量分布演算部122、帯電量分布切り出し部124、及びオフライン帯電補正適用部126の各機能の処理内容がコンピュータで実行されるプログラム(ソフトウェア)で構成されても構わない。或いは、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせで構成されてもよい。或いは、かかるハードウェアとファームウェアとの組合せでも構わない。制御計算機110に入力される情報或いは演算処理中及び処理後の各情報はその都度メモリ111に記憶される。
【0021】
偏向制御回路170内には、ピクセル位置取得部172、ステージ位置取得部174、区画位置算出部176、差分テーブル選択部178、領域決定部180、補正位置算出部182、位置補正部183、及び照射量演算部184といった機能が配置される。ピクセル位置取得部172、ステージ位置取得部174、区画位置算出部176、差分テーブル選択部178、領域決定部180、補正位置算出部182、位置補正部183、及び照射量演算部184は、電気的な回路によるハードウェアで構成されても構わない。或いは、ピクセル位置取得部172、ステージ位置取得部174、区画位置算出部176、差分テーブル選択部178、領域決定部180、補正位置算出部182、位置補正部183、及び照射量演算部184の各機能の処理内容がコンピュータで実行されるプログラム(ソフトウェア)で構成されても構わない。或いは、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせで構成されてもよい。或いは、かかるハードウェアとファームウェアとの組合せでも構わない。偏向制御回路170に入力される情報或いは演算処理中及び処理後の各情報はその都度図示しないメモリに記憶される。
【0022】
また、描画装置100の外部計算機500には、差分テーブル作成部502とオフライン帯電補正演算部504が配置される。差分テーブル作成部502とオフライン帯電補正演算部504は、電気的な回路によるハードウェアで構成されても構わない。或いは、各機能の処理内容がコンピュータで実行されるプログラム(ソフトウェア)で構成されても構わない。或いは、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせで構成されてもよい。或いは、かかるハードウェアとファームウェアとの組合せでも構わない。
【0023】
図1では、本実施の形態1を説明する上で必要な構成部分以外については記載を省略している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成が含まれることは言うまでもない。
【0024】
図1のアパーチャ部材203には、縦(y方向)複数列×横(x方向)複数列の穴(開口部)が所定の配列ピッチでマトリクス状に形成されている。例えば、512×512列の穴が形成される。各穴は、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。或いは、同じ外径の円形であっても構わない。これらの複数の穴を電子ビーム200の一部がそれぞれ通過することで、マルチビーム20が形成されることになる。ここでは、縦横(x,y方向)が共に2列以上の穴が配置される場合を説明したが、これに限るものではない。例えば、縦横(x,y方向)どちらか一方が複数列で他方は1列だけであっても構わない。また、穴の配列の仕方は、縦横が格子状に配置される。但しこれに限るものではない。例えば、縦方向(y方向)1段目の列と、2段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法aだけずれて配置されてもよい。同様に、縦方向(y方向)2段目の列と、3段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法bだけずれて配置されてもよい。
【0025】
電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202によりほぼ垂直にアパーチャ部材203全体を照明する。電子ビーム200は、アパーチャ部材203に形成されたすべての複数の穴が含まれる領域を照明する。複数の穴の位置に照射された電子ビーム200の各一部が、かかるアパーチャ部材203の複数の穴をそれぞれ通過することによって、例えば矩形形状の複数の電子ビーム(マルチビーム)20a〜eが形成される。かかるマルチビーム20a〜eは、ブランキングプレート204のそれぞれ対応するブランカー(第1の偏向器:個別ブランキング機構)内を通過する。かかるブランカーは、それぞれ、個別に通過する電子ビーム20を偏向する(ブランキング偏向を行う)。
【0026】
ブランキングプレート204を通過したマルチビーム20a〜eは、縮小レンズ205によって、縮小され、制限アパーチャ部材206に形成された中心の穴に向かって進む。ここで、ブランキングプレート204のブランカーによって偏向された電子ビーム20は、制限アパーチャ部材206(ブランキングアパーチャ部材)の中心の穴から位置がはずれ、制限アパーチャ部材206によって遮蔽される。一方、ブランキングプレート204のブランカーによって偏向されなかった電子ビーム20は、
図1に示すように制限アパーチャ部材206の中心の穴を通過する。かかる個別ブランキング機構のON/OFFによって、ブランキング制御が行われ、ビームのON/OFFが制御される。このように、制限アパーチャ部材206は、個別ブランキング機構によってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽する。そして、ビームONになってからビームOFFになるまでに形成された、制限アパーチャ部材206を通過したビームにより、1回分のショットのビームが形成される。制限アパーチャ部材206を通過したマルチビーム20は、対物レンズ207により焦点が合わされ、所望の縮小率のパターン像となり、偏向器208によって、制限アパーチャ部材206を通過した各ビーム(マルチビーム20全体)が同方向に一括して偏向され、各ビームの試料101上のそれぞれの照射位置に照射される。また、例えばXYステージ105が連続移動している時、ビームの照射位置がXYステージ105の移動に追従するように偏向器208によって制御される。XYステージ105の位置は、ステージ位置検出部136からレーザをXYステージ105上のミラー209に向けて照射し、その反射光を用いて測定される。一度に照射されるマルチビーム20は、理想的にはアパーチャ部材203の複数の穴の配列ピッチに上述した所望の縮小率を乗じたピッチで並ぶことになる。描画装置100は、ショットビームを連続して順に照射していくラスタースキャン方式で描画動作を行い、所望のパターンを描画する際、パターンに応じて必要なビームがブランキング制御によりビームONに制御される。
【0027】
XYステージ105はステージ駆動部138によって駆動制御される。そして、XYステージ105の位置は、ステージ位置検出部136によって検出される。ステージ位置検出部136には、例えば、ミラー209にレーザを照射して、その反射光に基づいて位置を測定するレーザ測長装置が含まれる。
【0028】
図2は、実施の形態1における帯電量に起因した位置ずれを説明するための図である。
図2において、試料101の表面上に正の点電荷12が存在する場合、描画室103の上方から同時に照射されるマルチビームの各ビームを構成する負の電子14は、点電荷12に引き寄せられる。点電荷12の真上から入射する電子14aは、垂直入射したまま引き寄せされる。これに対して、点電荷12の真上からずれた位置から垂直入射する電子14b,14cは、点電荷12に引き寄せられることで軌道がずれる。そのために、マルチビームでは照射位置に依存した位置ずれが発生する。
【0029】
図3は、実施の形態1におけるマルチビーム照射領域の位置関係の一例を示す図である。
図3では、一度に照射されるマルチビーム全体での照射領域(マルチビーム照射領域)の中心位置を「○」で示し、前縁位置(+x方向)を「◇」で示し、後縁位置(−x方向)を「△」で示している。
【0030】
図4は、実施の形態1におけるマルチビーム照射領域の中心位置に垂直入射した場合の位置ずれ量と、マルチビーム照射領域の前縁位置に垂直入射した場合の位置ずれ量と、マルチビーム照射領域の後縁位置に垂直入射した場合の位置ずれ量とを重ねて表したグラフである。
図4に示すように、マルチビームでは、照射位置(前縁位置と中心位置と後縁位置)によって位置ずれ量の差が大きいことがわかる。言い換えれば、照射位置依存性が大きいことがわかる。
【0031】
図5は、実施の形態1におけるマルチビーム照射領域の中心位置に垂直入射した場合の位置ずれ量とマルチビーム照射領域の各照射位置(前縁位置と後縁位置)に垂直入射した場合の位置ずれ量との差分を示したグラフの一例である。
図5に示すグラフでは、縦軸を
図4の2倍に拡大している。
図5に示すように、マルチビーム照射領域の中心位置に垂直入射した場合の位置ずれ量とマルチビーム照射領域の各照射位置(前縁位置と後縁位置)に垂直入射した場合の位置ずれ量には、ずれが生じていることがわかる。すなわち、帯電量に起因した位置ずれ量の中には、中心位置に垂直入射した場合の位置ずれ量の他に、照射位置依存の位置ずれ量分が存在することがわかる。マルチビームにおける照射位置依存の位置ずれ量は、シングルビームにおける主偏向位置依存(前縁位置と後縁位置)の位置ずれ量に比べて例えば100倍以上大きい。よって、マルチビーム描画において、かかる位置ずれ量を補正することは、シングルビームで同様に補正する場合に比べて、その効果が大幅に大きくなる。
【0032】
図6は、実施の形態1におけるマルチビーム照射領域の中心位置に垂直入射の位置ずれ量と、マルチビーム照射領域の中心位置に垂直入射の位置ずれ量からマルチビーム照射領域の各照射位置(前縁位置と後縁位置)に垂直入射した場合の位置ずれ量を引いた差分とを示したグラフの一例である。
図6では、横軸に点電荷からの描画位置までの距離を、縦軸に位置ずれ量を示す。例えば、位置ずれ量を補正する範囲を1×10
−6μm以上とすると、帯電位置からの計算範囲(影響範囲)は、中心位置に垂直入射の位置ずれ量を計算する場合、20mm必要である。これに対し、マルチビーム照射領域の中心位置に垂直入射の位置ずれ量からマルチビーム照射領域の各照射位置(前縁位置と後縁位置)に垂直入射した場合の位置ずれ量を引いた差分を計算する場合、約13.5mm必要である。すなわち、帯電位置からの計算範囲(影響範囲)は、マルチビーム照射領域の中心位置に垂直入射の位置ずれ量を計算する場合よりも、マルチビーム照射領域の中心位置に垂直入射の位置ずれ量から各照射位置(前縁位置と後縁位置)に垂直入射した場合の位置ずれ量を引いた差分を計算する場合の方が狭くできる。計算時間は、計算範囲の2乗に比例するので描画装置100内で垂直入射の位置ずれ量を計算するのではなく、差分を計算することで、45.5%の計算時間にすることができる。その結果、計算時間を短縮できる。よって、描画処理とリアルタイムで補正計算が可能となる。位置ずれ量を補正する範囲の閾値をさらに狭くすれば、さらに計算の高速化が可能となる。そこで、実施の形態1では、描画開始前に予めマルチビーム照射領域の中心位置に垂直入射の位置ずれ量を補正する補正値を算出しておき、描画装置100内では描画処理とリアルタイムで差分を補正する補正値を算出する。そして、両者を加算することでマルチビームの照射位置を考慮した位置ずれ量を補正できる。なお、実施の形態1においては、試料101上の実際の帯電量分布に関する測定情報を必要とせずに位置ずれ量の補正計算を行うため、帯電量分布演算部122と偏向制御回路170の計算速度によって補正周期が決まる。そのため描画処理とリアルタイムで補正計算を行うためには、ステージトラッキング単位の周期での補正が現実的となる。具体的な時間周期では、数μs〜数100μsの周期での補正が現実的となる。
【0033】
なお、マルチビーム描画では、描画処理の前の段階で予め各照射位置(ピクセル)が、どのビームによって照射されるか決定されているので、描画処理とリアルタイムで補正計算しなくても構わない。
【0034】
また、上述した例では、マルチビーム照射領域の中心位置を代表位置にして説明しているが、これに限るものではない。代表位置は、マルチビーム照射領域の中心位置とは異なる位置で設定されても構わない。
【0035】
図7は、実施の形態1における描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。
図7において、事前準備として、外部計算機500において、マルチビームの代表ビームの垂直入射での位置ずれ応答テーブル計算工程(S102)と、ビーム区画位置に応じた位置ずれ応答テーブル計算工程(S104)と、差分テーブル計算工程(S106)と、マルチビームの代表ビームの垂直入射での位置ずれ補正値計算工程(S108)といった一連の工程を実施する。
【0036】
そして、描画装置100内では、初期化工程(S110)と、パターン面積密度分布とドーズ分布と照射量分布とかぶり電子量分布とを演算する演算工程(S112)と、帯電量分布演算工程(S114)と、代表ビームの垂直入射でのピクセル位置補正工程(S116)と、帯電量分布切り出し工程(S118)と、代表ビームの垂直入射でのピクセル補正位置取得工程(S120)と、ステージ位置取得工程(S122)と、マルチビーム区画位置割り出し工程(S124)と、差分テーブル選択工程(S126)と、計算領域決定工程(S128)と、区画位置依存補正値算出工程(S130)と、位置補正工程(S131)と、照射量演算工程(S132)と、ピクセル描画工程(S134)といった一連の工程を実施する。
【0037】
マルチビームの代表ビームの垂直入射での位置ずれ応答テーブル計算工程(S102)として、差分テーブル作成部502は、マルチビームの代表ビーム(例えば、マルチビーム照射領域の実施的中心位置を照射するビーム:中心ビーム)を垂直入射することにより生じる、帯電量に起因するマルチビーム照射領域の各照射位置の位置ずれ量(第2の位置ずれ量)を算出する応答関数(第2の応答関数)を演算する。言い換えれば、差分テーブル作成部502は、マルチビーム照射領域の代表位置(代表ビーム位置)に垂直入射する電子を仮定した位置ずれ応答テーブルr0(x,y)を計算し、記憶装置144に格納する。位置ずれ応答テーブルr0(x,y)は、応答関数(第2の応答関数)の一例である。差分テーブル作成部502で作成せずに他の機能或いはユーザによって計算されても構わない。位置ずれ量は、帯電量分布に応答関数を畳み込み積分することで求められる。そのため、マルチビームの代表ビームを垂直入射することにより生じる、帯電量に起因するマルチビーム照射領域の各照射位置の位置ずれ量と帯電量分布を計算し、これらから位置ずれ応答テーブルr0(x,y)を算出できる。
【0038】
ビーム区画位置に応じた位置ずれ応答テーブル計算工程(S104)として、差分テーブル作成部502は、マルチビームの各ビーム区画位置(i,j)(照射位置の一例)における、帯電量に起因する各区画位置(i,j)の位置ずれ量(第1の位置ずれ量)を算出する応答関数(第1の応答関数)を演算する。言い換えれば、差分テーブル作成部502は、区画位置(i,j)での位置ずれ応答テーブルr[i,j](x,y)を計算し、記憶装置144に格納する。位置ずれ応答テーブルr[i,j](x,y)は、応答関数(第1の応答関数)の一例である。差分テーブル作成部502で作成せずに他の機能或いはユーザによって計算されても構わない。上述したように、位置ずれ量は、帯電量分布に応答関数を畳み込み積分することで求められる。そのため、各区画位置(i,j)で生じる、帯電量に起因する各区画位置の位置ずれ量と帯電量分布を計算し、これらから位置ずれ応答テーブルr[i,j](x,y)を算出できる。
【0039】
図8は、実施の形態1におけるマルチビームのビーム区画位置の一例を示す図である。
図8において、マルチビーム照射領域30はメッシュ状の複数の区画11(マルチビームの複数の照射位置の一例)に分割される。各区画11には、複数のビーム13によって照射される。例えば、マルチビームが512×512本のビームで構成される場合、数10本〜数100本のビーム毎が所属するように区画が定義されるとよい。或いは、各区画に1000本以上のビームが所属するように構成しても構わない。実施の形態1では、現実的な方法として、ビーム毎ではなく、ある程度の本数をまとめた区画11毎で補正を行う。もちろん、ビーム毎にその照射位置毎で補正を行う場合を排除するものではない。
【0040】
差分テーブル計算工程(S106)として、差分テーブル作成部502は、区画位置(i,j)での位置ずれ応答テーブルr[i,j](x,y)と代表ビーム位置に垂直入射する電子を仮定した位置ずれ応答テーブルr0(x,y)との差分を示す複数の差分応答関数を計算する。言い換えれば、差分テーブル作成部502は、差分テーブルδr[i,j](x,y)を計算し、記憶装置142に格納する。差分テーブルδr[i,j](x,y)は、差分応答関数の一例である。差分テーブルδr[i,j](x,y)は、次の式(1)で求めることができる。
(1) δr[i,j](x,y)=r[i,j](x,y)−r0(x,y)
【0041】
ここで、上述した例では、位置ずれ応答テーブルr[i,j](x,y)(第1の応答関数)と位置ずれ応答テーブルr0(x,y)(第2の応答関数)を記憶装置144に格納し、差分テーブルδr[i,j](x,y)(差分応答関数)を記憶装置142に格納しているが、これに限るものではない。位置ずれ応答テーブルr[i,j](x,y)(第1の応答関数)と位置ずれ応答テーブルr0(x,y)(第2の応答関数)と差分テーブルδr[i,j](x,y)(差分応答関数)を同じ記憶装置に格納してもよい。或いは、位置ずれ応答テーブルr[i,j](x,y)(第1の応答関数)と位置ずれ応答テーブルr0(x,y)(第2の応答関数)と差分テーブルδr[i,j](x,y)(差分応答関数)をすべて別々の記憶装置に格納してもよい。或いは、位置ずれ応答テーブルr[i,j](x,y)(第1の応答関数)と差分テーブルδr[i,j](x,y)(差分応答関数)を同じ記憶装置に格納し、位置ずれ応答テーブルr0(x,y)(第2の応答関数)を別の記憶装置に格納してもよい。或いは、位置ずれ応答テーブルr0(x,y)(第2の応答関数)と差分テーブルδr[i,j](x,y)(差分応答関数)を同じ記憶装置に格納し、位置ずれ応答テーブルr[i,j](x,y)(第1の応答関数)を別の記憶装置に格納してもよい。
【0042】
図9は、実施の形態1における差分テーブルの一例を示す図である。
図9に示すように、差分テーブルδr[i,j](x,y)は、例えば、区画位置(i,j)に応じて、複数用意される。各差分テーブルδr[i,j](x,y)は、記憶装置142に格納される。差分テーブルδr[i,j](x,y)の計算範囲は、L×Lの範囲で示している。
図6で説明したように差分テーブルδr[i,j](x,y)を用いることで、位置ずれ応答テーブルr0(x,y)を用いる場合よりも計算範囲を狭くできる。例えば、
図6の例では、位置ずれ応答テーブルr0(x,y)を用いる場合、20mm(半径)×2倍の40mmとなるところ、L=13.5(半径)×2倍の27mmに抑えることができる。
【0043】
マルチビームの代表ビームの垂直入射での位置ずれ補正値計算工程(S108)として、オフライン帯電補正演算部504は、代表ビーム垂直入射での応答関数である位置ずれ応答テーブルr0(x,y)に基づいて、位置ずれ補正値マップdX(x,y),dY(x,y)を計算する。補正値マップdX(x,y)はx方向の補正値、dY(x,y)はy方向の補正値を示す。補正値マップdX(x,y),dY(x,y)は記憶装置146に格納される。帯電量分布を求め、帯電量分布に位置ずれ応答テーブルr0(x,y)を畳み込み積分することで位置ずれ量を求めることができる。補正値は、例えば、位置ずれ量の正負の符号を逆にした値を用いると好適である。
【0044】
描画装置100内では、描画データ処理工程として、描画データ処理部112は、フレーム領域毎に、記憶装置140に記憶された描画データの中から該当するレイアウトデータを読み出し、複数段のデータ処理を行なって描画装置固有のフォーマットのショットデータを生成する。
【0045】
そして、初期化工程(S110)として、パターン面積密度分布演算部114はパターン面積密度分布を初期化する。ドーズ分布演算部116はドーズ分布を初期化する。かぶり電子量分布演算部118はかぶり電子量分布を初期化する。帯電量分布演算部122は帯電量分布を初期化する。元々、何も計算されていない場合にはかかる工程を省略できる。
【0046】
パターン面積密度分布とドーズ分布と照射量分布とかぶり電子量分布とを演算する演算工程(S112)として、パターン面積密度分布演算部114は、記憶装置140から読み出されたレイアウトデータに含まれる図形データに基づいて、所定寸法でメッシュ状に仮想分割された各フレームに対して、メッシュ領域毎のパターン面積密度の分布を算出する。ドーズ分布演算部116は、後述の後方散乱電子の近接効果補正式を用いてドーズ量(照射量密度)の分布を算出する。かぶり電子量分布演算部118は、パターン面積密度の分布及びドーズ量の分布に基づいて得られる電子ビームの照射量の分布と、かぶり電子の広がりを記述する関数とに基づいて、かぶり電子量の分布を算出する。
【0047】
図10は、実施の形態1におけるフレーム領域と位置ずれ計算範囲の一例を示す図である。
図10において、試料101に描画する場合には、XYステージ105を例えばX方向に連続移動させながら、描画(露光)面をマルチビーム照射領域30幅で短冊状の複数のストライプ領域に仮想分割された試料101の1つのストライプ領域上をマルチビームが照射する。また、ストライプ領域はマルチビームの各ビームのビームサイズ程度のサイズでメッシュ状の複数の小領域(ピクセル)に仮想分割され、ピクセル毎に描画される。XYステージ105のX方向の移動は、例えば連続移動とし、同時にマルチビームの照射位置もステージ移動に追従させる。描画装置100では、レイアウトデータ(描画データ)を処理するにあたっては、描画領域を短冊状の複数のフレーム領域21に仮想分割して、フレーム領域21毎にデータ処理がおこなわれる。そして、例えば、多重露光を行なわない場合には、通常、フレーム領域21と上述したストライプ領域とが同じ領域となる。多重露光を行なう場合には、多重度に応じてフレーム領域21と上述したストライプ領域とがずれることになる。或いは、多重度に応じたストライプ領域と同じ領域となる複数のフレーム領域21に描画領域が仮想分割され、フレーム領域21毎にデータ処理がおこなわれる。このように、試料101の描画領域は、複数の描画単位領域となるフレーム領域21(ストライプ領域)に仮想分割され、描画部150は、かかるフレーム領域21(ストライプ領域)毎に描画することになる。
【0048】
具体的には、まず、XYステージ105を移動させて、第1番目のストライプ領域の左端、或いはさらに左側の位置に一回のマルチビームの照射で照射可能な照射領域(マルチビーム照射領域30)が位置するように調整し、描画が開始される。第1番目のストライプ領域を描画する際には、XYステージ105を例えば−x方向に移動させることにより、相対的にx方向へと描画を進めていく。XYステージ105は所定の速度で例えば連続移動させる。第1番目のストライプ領域の描画終了後、ステージ位置を−y方向に移動させて、第2番目のストライプ領域の右端、或いはさらに右側の位置にマルチビーム照射領域30が相対的にy方向に位置するように調整し、今度は、XYステージ105を例えばx方向に移動させることにより、−x方向にむかって同様に描画を行う。第3番目のストライプ領域では、x方向に向かって描画し、第4番目のストライプ領域では、−x方向に向かって描画するといったように、交互に向きを変えながら描画することで描画時間を短縮できる。但し、かかる交互に向きを変えながら描画する場合に限らず、各ストライプ領域21を描画する際、同じ方向に向かって描画を進めるようにしても構わない。1回のショットでは、アパーチャ部材203の各穴20を通過することによって形成されたマルチビームによって、各穴20と同数の複数のショットパターンが一度に形成される。
【0049】
例えば、x,y方向にm×nのマルチビームを用いてストライプ内を描画する。また、マルチビームの各ビーム間ピッチは、x方向にm×nピクセル分、y方向にnピクセル分あるとする。かかる場合、x方向或いはy方向に1ピクセルずつ照射位置をずらしながらm×n回の複数回のショットでマルチビーム照射領域30全体の露光(描画)が終了する。XYステージ105のX方向の移動は、連続移動の場合、所望するピクセル位置に対応するビームが照射されるように偏向器208でマルチビーム全体を一括で偏向することでステージ移動に追従させる。
【0050】
ショットデータを生成する制御計算機110では、上述したようにフレーム領域21毎に計算を行なう。よって、パターン面積密度分布とドーズ分布と照射量分布とかぶり電子量分布についても同様にフレーム領域21毎に計算を行なう。例えば、第nフレームの計算を行なっている場合には、偏向制御回路170では第n−1フレームについての計算処理が行なわれる。そして、制御計算機110で第n+1フレームのパターン面積密度分布とドーズ分布と照射量分布とかぶり電子量分布の計算を行なっている場合には、偏向制御回路170では第nフレームについての計算処理が行なわれる。このように所謂パイプライン処理のように計算処理が進んでいく。
【0051】
まず、パターン面積密度分布ρ(x,y)演算工程として、パターン面積密度分布演算部114は、フレーム領域毎に、記憶装置140から該当するレイアウトデータを読み出し、フレーム領域をさらに複数の小領域(x,y)に仮想分割して、小領域毎のパターン面積密度ρを算出する。かかる演算をフレーム領域全体について行なうことで、フレーム領域毎に、パターン面積密度分布ρ(x,y)を算出する。
【0052】
そして、ドーズ(照射量密度)分布D(x,y)演算工程として、ドーズ分布演算部116は、小領域毎のドーズ分布D(x,y)を演算する。以下の後方散乱電子の近接効果補正式(2)に従ってドーズ量分布D(x,y)が算出される。
(2) D=D
0×{(1+2×η)/(1+2×η×ρ)}
(上式(2)において、D
0は基準ドーズ量であり、ηは後方散乱率である。)
【0053】
これらの基準ドーズ量D
0及び後方散乱率ηは、当該描画装置100のユーザにより設定される。後方散乱率ηは、電子ビーム200の加速電圧、試料101のレジスト膜厚や下地基板の種類、プロセス条件(例えば、PEB条件や現像条件)などを考慮して設定することができる。
【0054】
続いて、かぶり電子量分布F(x,y,σ)演算工程として、かぶり電子量分布演算部118は、パターン面積密度分布ρ(x,y)とドーズ量分布D(x,y)とを乗算することによって得られるメッシュ領域毎の照射量分布E(x,y)(「照射強度分布」ともいう)を用いて、かぶり電子量分布F(x,y,σ)を演算する。
【0055】
照射量分布E(x,y)に対して、かぶり電子の広がり分布を記述する関数g(x,y)があると仮定する。この関数g(x,y)は、例えばガウス分布のモデルであり、次式(3)のように表すことができる。σはかぶり影響半径を示す。
(3) g(x,y)=(1/πσ
2)×exp{−(x
2+y
2)/σ
2}
【0056】
そして、次式(4)のように、広がり分布関数g(x,y)と照射量分布E(x,y)とを畳み込み積分することにより、かぶり電子量分布(「かぶり電子量強度」ともいう。)F(x,y,σ)が求められる。
(4) F(x,y,σ)
=∫∫g(x−x″,y−y″)E(x″,y″)dx″dy″
【0057】
帯電量分布演算工程(S114)として、帯電量分布演算部122は、フレーム領域毎に、試料101の描画領域に代表ビーム34を垂直入射することにより帯電する帯電量分布C(x,y)を演算する。具体的には、該当フレーム領域を描画する場合の1つ前までのフレーム領域内の各位置(x,y)の帯電量C(x,y)を求める。
【0058】
ここで、例えば、現在計算している該当するフレーム領域21が第nフレーム領域である場合での第n−1フレーム領域までの各位置(x,y)の帯電量Cと該当するフレーム領域21が第n+1フレーム領域である場合での第nフレーム領域までの各位置(x,y)の帯電量Cとでは同じ位置でも値が異なる場合があり得ることは言うまでもない。それは、帯電量が蓄積されていくからである。
【0059】
照射量分布E(x,y)及びかぶり電子量分布F(x,y,σ)から帯電量分布C(x,y)を求めるための関数C(E,F)を仮定する。この仮定した関数C(E,F)を、次式(5)のように、照射電子が寄与する変数C
E(E)と、かぶり電子が寄与する変数C
Fe(F)とに分離した。
(5) C(E,F)=C
E(E)+C
Fe(F)
【0060】
さらに、非照射域の関数は、変数C
E(E)=0、すなわち、C(E,F)=C
F(F)と仮定した。
【0061】
まず、非照射域の帯電量分布C
F(F)とかぶり電子量強度Fとの関係は、次式(6)のような多項式関数によって表すことができる。次式(6)において、f
1,f
2,f
3は、定数である。
(6) C
F(F)=f
1×F+f
2×F
2+f
3×F
3
【0062】
次に、照射域の帯電量分布C(E,F)は、以下の式(7)のような多項式関数によって定義できる。
(7) C(E,F)=C
E(E)+C
Fe(F)
=(d
0+d
1×ρ+d
2×D+d
3×E)
+(e
1×F+e
2×F
2+e
3×F
3)
【0063】
ここで、Fは、最適なかぶり半径σを用いて式(4)で求められる、照射域のかぶり電子量分布である。照射域では、照射電子が寄与する変数C
E(E)だけではなく、かぶり電子が寄与する帯電量分布C
Fe(F)が考慮されている。パラメータd
0,d
1,d
2,d
3,e
1,e
2,e
3は定数である。
【0064】
そして、非照射域の上式(6)のC
F(F)と照射域の上式(7)のC(E,F)との和集合により帯電量分布C(x,y)を求める。
【0065】
ここで、上述したように、フレーム領域毎に帯電量分布C(x,y)は計算される。そして、計算されたフレーム領域毎の帯電量分布C(x,y)は記憶装置146等に記憶される。そのため、第nフレームの描画処理を行う際には、既に第n−1フレームまでの帯電量分布C(x,y)が記憶されている。
【0066】
代表ビーム垂直入射でのピクセル位置補正工程(S116)として、オフライン帯電補正適用部126は、記憶装置146から位置ずれ補正値dX0(x,y),dY0(x,y)を入力し、第nフレームの描画対象となるピクセル位置(Xm,Ym)に基づいて、オフラインで求めた位置ずれ補正値を用いて、帯電補正後のピクセル位置(Xm’,Ym’)を計算する。帯電補正後のピクセル位置(Xm’,Ym’)は以下の式(8)で求めることができる。
(8) Xm’=Xm+dX0(Xm,Ym),Ym’=Ym+dY0(Xm,Ym)
【0067】
帯電量分布切り出し工程(S118)として、帯電量分布切り出し部124は、既に計算されている帯電量分布C(x,y)から計算範囲の部分帯電量分布Csub(x,y)を切り出し、偏向制御回路170に出力する。実施の形態1における計算範囲は、
図6及び
図9において説明したように、差分テーブルδr[i,j](x,y)を用いることで、位置ずれ応答テーブルr0(x,y)を用いる場合よりも計算範囲を狭くできる。例えば、
図6の例では、位置ずれ応答テーブルr0(x,y)を用いる場合、20mm(半径)×2倍の40mmとなるところ、L=13.5(半径)×2倍の27mmに抑えることができる。よって、該当フレーム領域21に対して前後に幅Lの範囲に位置するフレーム領域の帯電量分布C(x,y)を部分帯電量分布Csub(x,y)として切り出せばよい。例えば、第nフレームのピクセル位置(Xm’,Ym’)を計算している場合には、第n−1フレーム以下のフレームのうち、第nフレームからL/2の範囲に位置するフレームについての帯電量分布C(x,y)を切り出せばよい。第n+1フレーム以降はまだ計算されていないのでデータが無い。
【0068】
代表ビーム垂直入射でのピクセル補正位置取得工程(S120)として、ピクセル位置取得部172は、代表ビーム垂直入射での帯電補正後のピクセル位置(Xm’,Ym’)を制御計算機110から入力し、取得する。
【0069】
ステージ位置取得工程(S122)として、ステージ位置取得部174は、ステージ位置検出部136から描画対象となるピクセル位置(Xm,Ym)を描画する際のステージ位置(XL,YL)を入力し、取得する。
【0070】
マルチビーム区画位置割り出し工程(S124)として、区画位置算出部176は、マルチビーム照射領域内のどの区画位置(i,j)でマルチビームの対応ビームが照射されるのか、区画位置(i,j)(区画グリッド分割指標)を算出し、割り出す。
【0071】
図11は、実施の形態1におけるフレーム領域をトラッキング区画幅で分割した状態を説明するための図である。シングルビームの事例と異なり、マルチビームの場合のリアルタイム補正の単位はサブフィールドとせずに、トラッキング区画単位とする。
図11に示すように、フレーム領域21を、このトラッキング区画幅Tで分割する。トラッキング区画幅Tは例えば10μmとする。
図11では、トラッキング区画番号を左から順番に、t=1,2,3,・・・,Mと名付けた場合を示している。また、当フレーム領域21の原点を(Xfo,Yfo)とする。
【0072】
図12は、実施の形態1におけるトラッキング区画とマルチビーム照射領域とを示す図である。マルチビーム照射領域30を、トラッキング区画幅Tで割った値をmとする。マルチビーム照射領域30の大きさを例えば80μmとすると、mは例えば8となる。このとき、フレーム領域21全体を描画するのに必要なトラッキング回数は、(M+m−1)回となる。このトラッキング回数番号を、k=1,2,3,・・・,(M+m−1)と定義する。
【0073】
上述した
図8におけるマルチビーム区画11による、マルチビーム照射領域の分割数をNとする。このとき、マルチビーム区画番号i,j(0≦i<N、0≦j<N)は次の式(9)ように定義される。
(9) t=trunc((Xm’−Xfo)/T)+1
i=trunc((m+t−k−1)/(m/N))
j=trunc((Ym’−Yfo)/(mT/N))
【0074】
ここで、関数trunc()は、整数切捨て演算を表す。具体的に例えば
図8のようにN=4とすると、m=8のとき、各トラッキング区画番号t、トラッキング回数kに対する、iの値は次の
図13の表のように表される。
【0075】
図13は、実施の形態1におけるトラッキング区画番号とトラッキング回数に対応するマルチビーム区画番号の一例を示す図である。なお、Y方向のマルチビーム区画番号jについてはトラッキング区画番号tとトラッキング回数kに依存しないので表を省略する。
図13では、描画進行方向が+X方向(FWD方向)、つまりステージ移動方向が(−X)方向における例であるが、描画進行方向が(−X)方向(BWD方向)、つまりステージ移動方向が+X方向の場合は、トラッキング回数kを大きい方から逆順に辿ることで、まったく同じ式(9)と上記の表が適用可能である。
【0076】
差分テーブル選択工程(S126)として、まず、差分テーブル転送部120(転送部)は、記憶装置144に格納された複数の差分テーブルδr[i,j](x,y)を偏向制御回路170に転送する。そして、差分テーブル選択部178(選択部)は、転送された、記憶装置144に格納されていた複数の差分テーブルδr[i,j](x,y)の中から区画位置(i,j)に応じて複数の差分テーブルδr[i,j](x,y)の1つを選択する。
【0077】
計算領域決定工程(S128)として、領域決定部180は、部分帯電量分布Csub(x,y)を入力し、その中から選択された差分テーブルδr[i,j](x,y)で畳み込み積分する計算範囲を決定する。
図10では、部分帯電量分布Csub(x,y)の範囲になるフレーム領域群22のうち、該当位置(x,y)を中心にした縦横Lの正方形の範囲を計算範囲24として決定する。上述した
図6及び
図9において説明したように、差分テーブルδr[i,j](x,y)を用いることで、位置ずれ応答テーブルr0(x,y)を用いる場合よりも計算範囲を狭くできる。例えば、
図6の例では、位置ずれ応答テーブルr0(x,y)を用いる場合、20mm(半径)×2倍の40mmとなるところ、L=13.5(半径)×2倍の27mmに抑えることができる。よって、計算範囲24を狭くできる。
【0078】
主偏向位置依存補正値算出工程(S130)として、補正位置算出部182は、帯電量分布(ここでは部分帯電量分布Csub(x,y))を用いて、各区画位置(i,j)での第1の位置ずれ量から代表ビーム垂直入射による第2の位置ずれ量分を除いた残りの照射位置依存分の位置ずれ量(第3の位置ずれ量)を補正する照射位置依存補正値(dXij,dYij)を演算する。第1の位置ずれ量は、マルチビーム照射領域の各区画位置(i,j)における、帯電量に起因する区画位置の位置ずれ量である。第2の位置ずれ量は、代表ビームを垂直入射することにより生じる、帯電量に起因する照射位置の位置ずれ量である。補正位置算出部182は、照射位置依存補正値演算部の一例である。補正位置算出部182は、複数の差分テーブルδr[i,j](x,y)の中から選択された1つを用いて照射位置依存補正値(dXij,dYij)を演算する。部分帯電量分布Csub(x,y)に差分テーブルδr[i,j](x,y)を畳み込み積分することで照射位置依存分の位置ずれ量を求めることができるので、補正値(dXij,dYij)は、以下の式(10)に示すように、照射位置依存分の位置ずれ量の正負の符号を逆にすることで得ることができる。なお、式(10)における記号「・」は畳み込み積分を示す。
(10) (dXij,dYij)=−δr[i,j](x,y)・Csub(x,y)
【0079】
位置補正工程(S131)として、位置補正部183は、以下の式(11)に示すように、ピクセル位置(Xm’,Ym’)に照射位置依存補正値(dXij,dYij)を加算することで補正位置(Xm”,Ym”)を演算する。
(11) Xm”=Xm’+dXij,Ym”=Ym’+dYij
【0080】
このように、位置補正部183は、代表ビームを垂直入射することにより生じる、帯電量に起因する区画位置(照射位置)の第2の位置ずれ量を補正する垂直入射補正値を用いて補正された垂直入射補正位置に、照射位置依存補正値を加算することで補正位置を演算する。
【0081】
ピクセル位置(Xm’,Ym’)は、上述したように垂直入射分を補正した垂直入射補正位置となる。ピクセル位置(Xm’,Ym’)は、代表ビームを垂直入射することにより生じる、帯電量Cに起因する照射位置の第2の位置ずれ量を補正する補正値マップdX(x,y),dY(x,y)を用いて補正された値である。補正値マップdX(x,y),dY(x,y)は、上述したように垂直入射分を補正するための垂直入射補正値である。
【0082】
以上のようにして、位置補正部183は、帯電量分布Cを用いて、マルチビームの各ビームの照射位置に依存した、帯電量に起因する照射位置の位置ずれ量分を含む位置ずれ量が補正された各ピクセル位置の補正位置(Xm”,Ym”)を演算する。これにより、マルチビームの各ビームの照射位置に依存した、帯電量に起因する照射位置の位置ずれ量分を含む位置ずれ量を補正することができる。
【0083】
照射量演算工程(S132)として、照射量演算部184は、マルチビームの各ビームの照射パターンの形成位置がそれぞれ対応する補正位置になるように各ビームの照射量を演算する。
【0084】
図14は、実施の形態1におけるピクセル位置補正の手法を説明するための図である。例えば、本来、マルチビームのうちのビームAでピクセル40を照射する。その際、予定の照射量の100%の照射量で照射すれば、ピクセル40にはビームAによる照射パターンが形成される。ここで、ピクセル40の位置を隣りのピクセル42側にピクセルサイズの50%だけずらすように補正するには、ビームAで予定の照射量の50%の照射量でピクセル40を照射すると共に、ビームBで予定の照射量の50%の照射量でピクセル42を照射する。これにより、照射パターンは、ピクセル40とピクセル42の中間位置であるピクセル41に形成されることになる。このように、各ビームの照射量を制御することによって、マルチビームの各ビームの照射パターンの形成位置がそれぞれ対応する補正位置に補正できる。
【0085】
描画工程(S134)として、描画部150は、マルチビームの各ビームの照射パターンの形成位置がそれぞれ対応する補正位置になるように各ビームの照射量を制御することによって、試料101にパターンを描画する。具体的には、描画部150は、試料101の第nフレームの該当ピクセルの補正位置(Xm”,Ym”)に、マルチビームの対応ビームによる照射パターンの形成が行われるように、試料にパターンを描画する。
【0086】
そして、第nフレームの描画が終了したら、次の第n+1フレームの描画のための計算と描画処理とを同様に行う。すなわち、第n+1フレームでのピクセルの補正位置(Xm”,Ym”)を計算する際には、第nフレームまでの帯電量分布Cの演算が終了しているので、順次、パターン面積密度分布ρとドーズ分布Dと照射量分布Eとかぶり電子量分布Fと帯電量分布Cとの各情報を更新していけばよい。
【0087】
以上のように実施の形態1によれば、マルチビームの照射位置依存性を考慮した帯電量に起因した照射位置の位置ずれを補正することができる。その結果、高精度な補正位置で描画され、高精度なパターン位置が得られる。
【0088】
以上の説明において、「〜部」或いは「〜工程」と記載したものの処理内容或いは動作内容は、コンピュータで動作可能なプログラムにより構成することができる。或いは、ソフトウェアとなるプログラムだけではなく、ハードウェアとソフトウェアとの組合せにより実施させても構わない。或いは、ファームウェアとの組合せでも構わない。また、プログラムにより構成される場合、プログラムは、磁気ディスク装置、磁気テープ装置、FD、或いはROM(リードオンリメモリ)等の記録媒体に記録される。例えば、記憶装置142,144,146に記録される。
【0089】
また、
図1等における制御計算機110は、さらに、図示していないバスを介して、記憶装置の一例となるRAM(ランダムアクセスメモリ)、ROM、磁気ディスク(HD)装置、入力手段の一例となるキーボード(K/B)、マウス、出力手段の一例となるモニタ、プリンタ、或いは、入力出力手段の一例となる外部インターフェース(I/F)、FD、DVD、CD等に接続されていても構わない。
【0090】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、実施の形態では可変成形ビーム方式の電子ビーム描画装置を用いたが、これ以外の方式の描画装置にも適用できる。例えば、上記実施の形態では電子ビームを用いたが、本発明はこれに限られるものではなく、イオンビームなどの他の荷電粒子ビームを用いた場合にも適用可能である。また、本発明は電子ビーム描画装置の使用目的を限定するものでは無い。例えば、マスクやウェハ上に直接レジストパターンを形成するという使用目的以外にも、光ステッパー用マスク、X線マスクなどを作成する際にも利用可能である。
【0091】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0092】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのマルチ荷電粒子ビーム描画装置、及びマルチ荷電粒子ビーム描画方法は、本発明の範囲に包含される。