(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6353478
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】セロトニン分泌促進能力を有するビフィズス菌
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20180625BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20180625BHJP
A61K 35/745 20150101ALI20180625BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20180625BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A23L33/135
A61K35/745
A61P25/24
A61P43/00 105
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-64197(P2016-64197)
(22)【出願日】2016年3月28日
(65)【公開番号】特開2017-175949(P2017-175949A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年3月19日
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-02214
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長▲崎▼ 恭久
(72)【発明者】
【氏名】大木 篤史
(72)【発明者】
【氏名】砂田 洋介
【審査官】
小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−198638(JP,A)
【文献】
特表2011−517568(JP,A)
【文献】
特表2013−503130(JP,A)
【文献】
特開2013−224287(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/054001(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00 − 1/38
A61K 35/00 − 35/768
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビフィドバクテリウム・ロンガムN61株(NITE BP−02214)。
【請求項2】
請求項1に記載のビフィズス菌を含有する飲食品。
【請求項3】
請求項1に記載のビフィズス菌を有効成分とするセロトニン分泌促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いセロトニン分泌促進能力を有する乳児腸内由来のビフィズス菌の菌株及び当該ビフィズス菌の処理物を含有する飲料、食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、神経科学、分子生物学の進歩により、神経系や液性因子(ホルモン、サイトカイン)などの情報伝達物質、受容体を介して、中枢神経と末梢器官とが双方向的ネットワークを形成していることが明らかになっている。例えば、腸内で生じた様々な信号は、これらの経路を介して中枢神経系へ伝達され、その情報処理過程に影響していることが知られており、腸内細菌叢が神経系の発達や機能に深く関与している可能性が指摘されている。
【0003】
腸内細菌は、短鎖脂肪酸、GABAなどの生理活性物質を産生するが、短鎖脂肪酸のひとつであるbutyric acid(BA)をマウスに投与すると、海馬、前頭葉で脳由来神経因子BDNF(Brain derived neurotrophic factor) 濃度が増加し、抗うつ作用が得られる(非特許文献1)。一方で、BDNFの生合成にはセロトニンが必要不可欠であることが知られている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】須藤 信行、腸内細菌と脳腸相関、福岡医学雑誌 2009;100(9):298-304、2009.09.
【非特許文献2】Pathophysiology of depression: the concept of synaptic plasticity European Psychiatry Volume 17, Supplement 3, July 2002, Pages 306-310 R.S. Duman, Mol. Psychiatry, 7, Suppl 1, S29(2002).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高いセロトニン分泌促進能力を有する乳児腸内由来のビフィズス菌の菌株及び当該ビフィズス菌の処理物を含有する飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、BDNFの生合成にはセロトニンが必要不可欠である点に着目し、多数のビフィズス菌についてスクリーニングを行った結果、高いセロトニン生成能力を有するビフィズス菌があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本願第一の発明は、セロトニン分泌促進能力を有するビフィドバクテリウム属に属するビフィズス菌であり、本願第二の発明は、本願第一の発明に記載のビフィズス菌が、ビフィドバクテリウム・ロンガムN61株(NITE
BP-02214)である。
【0008】
さらに、本願出願人は、当該ビフィズス菌を含む飲食品も意図している。すなわち、本願第三の発明は、本願第二の発明に記載のビフィズス菌を含有する飲食品である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のビフィズス菌はセロトニン分泌促進能力を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の菌株と比較菌株のセロトニン分泌促進能力を比較した図である。
【
図2】
図2は、本発明の菌株と比較菌株のスキムミルク培地増殖性を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.ビフィドバクテリウム・ロンガムN61株(NITE BP-02214)
本発明のビフィズス菌は、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)である。特にビフィドバクテリウム・ロンガムに属するビフィズス菌のうち、ビフィドバクテリウム・ロンガムN61株(NITE
BP-02214)である。本発明にいうN61の記号は日清食品ホールディングス株式会社で独自に菌株に付与した番号であり、本ビフィドバクテリウム・ロンガムN61株は本発明者によって初めて分離されたものである。
【0012】
本発明のビフィドバクテリウム・ロンガムN61株は、
下記条件で寄託されている。
(1)寄託機関名:独立行政法人製品技術基盤機構 特許微生物寄託センター
(2)連絡先:〒292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室
(3)受託番号:NITE BP−02214
(4)識別のための表示:N61
(5)原寄託日:2016年3月3日
(6)ブダペスト条約に基づく寄託への移管日:2017年1月5日
本発明のビフィドバクテリウム・ロンガムN61株の菌学的性質は、以下の表1及び2に示す通りである。本菌学的性質は、Bergey’s manual of systematic bacteriology Vol.2(1986)に記載の方法による。表1は本菌株に関する形状等を、表2はアピ50CH及びアピCHL(ビオメリュー製)により、糖資化性を試験した結果を示す。表2において、「+」は発酵性あり、「−」は発酵性なしを示す。
【0015】
2.セロトニン産生試験
本発明のビフィドバクテリウム・ロンガムN61株は、後述する実験例に示すように、高いセロトニン分泌促進能力を有する。セロトニン分泌促進能力の確認については以下の試験方法によって行った。
【0016】
<セロトニン分泌促進能力評価に用いた被験体(培養液)の調製>
セロトニン分泌促進能力評価に用いた被験体(培養液)は、ビフィズス菌を表3に示すGAM培地(GAM Broth“Nissui”)で37℃ ・24時間培養することにより得た。
【0018】
<セロトニン分泌促進能力評価>
セロトニン分泌促進能力評価では、細胞としてラットすい臓がん由来のエンテロクロマフィン様細胞であるRIN14B細胞(ATCC)使用した。はじめに、10%ウシ胎児血清(Invitrogen)と100 U/mLペニシリン(Sigma)、100 μg/mLストレプトマイシン、25ug/mlアムホテリシンB(Sigma)、0.2% NaHCO
3(gibco)、1mM L-Glutamine(gibco)、4.5g/L D-Glucose(gibco)、2.383g/L HEPES Buffer(gibco)、110mg/L Sodium Pyruvate(gibco)を加えたRPMI1640培地(gibco)を用いて、RIN14B細胞を37℃、5% CO
2条件下で培養した。アッセイ時にはシャーレ内で培養したRIN14B細胞をAccutase(Innova Cell Technologies)を用いて剥がした後(37℃・10分インキュベート)、24ウェルプレートに2×10
5Cell/mlのRIN14B細胞を500μlずつ播種し、37℃、5%CO
2で1時間インキュベーションした。細胞数カウントにはセルカウンターであるCountess(invitrogen)を用いた。上記で得た被験体(ビフィズス菌培養液)を濁度Optical Density(OD)の値にて一定に調整後、RIN14B細胞培養用培地で20倍に希釈し、RIN14B細胞播種及びインキュベートしたウェルに対して終濃度10%になるように添加し、37℃、5% CO
2条件下で24時間培養した。培養後、被験体を添加したRIN14B細胞の培養上清を回収し、上清中のセロトニン含量を市販のセロトニンイムノアッセイキット(Enzo社)で測定した。
【0019】
3.スキムミルク培地での増殖性試験
<スキムミルク培地増殖性試験>
前培養液を10%SM(スキムミルク)培地に植菌し、これを37℃ ・24時間培養し、ビフィズス菌数によってミルク培地での増殖性を評価した。
【0020】
4.飲食品
本発明のビフィズス菌は飲食品に含有せしめて使用することができる。本発明のビフィズス菌は特に乳製品に好適に用いることができるが、例えば、ビフィズス菌入り発酵乳及びビフィズス菌入り乳酸菌飲料が考えられる。現行の乳及び乳製品の成分規格等に関する省令では、成分規格としてビフィズス菌数は特に規定はされていないが、発酵乳(無脂乳固形分8.0%以上のもの)や乳酸菌飲料(無脂乳固形分3.0%以上のもの)であれば1.0×10
7cfu/ml以上、乳酸菌飲料(無脂乳固形分3.0%未満のもの)であれば1.0×10
6cfu/ml以上が好ましく、乳などのはっ酵液中で増殖させたり、最終製品の形態で増殖させたりすることによって上記の菌数を実現することができる。また、ビフィズス菌入り発酵乳及びビフィズス菌入り乳酸菌飲料以外にも、バター等の乳製品、マヨネーズ等の卵加工品、バターケーキ等の菓子パン類等にも利用することができる。また、即席麺やクッキー等の加工食品にも好適に利用することができる。上記の他、本発明の食品は、前記ビフィズス菌と共に、必要に応じて適当な担体及び添加剤を添加して製剤化された形態(例えば、粉末、顆粒、カプセル、錠剤等)であってもよい。
【0021】
本発明のビフィズス菌は、一般の飲料や食品以外にも特定保健用食品、栄養補助食品等に含有させることも有用である。
【0022】
また、本発明のビフィズス菌は、食品以外にも化粧水等の化粧品分野、整腸剤等の医薬品分野、歯磨き粉等の日用品分野、サイレージ、動物用餌、植物液体肥料等の動物飼料・植物肥料分野においても応用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明のビフィズス菌(ビフィドバクテリウム・ロンガムN61株)は、高いセロトニン分泌促進能力を有する。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<試験例1>セロトニン分泌促進能力評価
本発明のビフィドバクテリウム・ロンガムN61株と、自社保有の2つのビフィドバクテリウム・ロンガム比較菌株(BL1、BL2)及び基準株のビフィドバクテリウム・ロンガム(JCM1217)についてセロトニン分泌促進能力評価を実施した。
【0025】
セロトニン分泌促進能力評価は次の手順により行った。本発明の菌株と比較菌株のそれぞれについて、表3に示すGAM培地(GAM Broth“Nissui”)で37℃ ・24時間培養することにより被験体(培養液)を得た。
【0026】
別途、10%ウシ胎児血清(Invitrogen)と100 U/mLペニシリン(Sigma)、100 μg/mLストレプトマイシン、25ug/mlアムホテリシンB(Sigma)、0.2% NaHCO
3(gibco)、1mM L-Glutamine(gibco)、4.5g/L D-Glucose(gibco)、2.383g/L HEPES Buffer(gibco)、110mg/L Sodium Pyruvate(gibco)を加えたRPMI1640培地(gibco)を用いて、RIN14B細胞を37℃、5% CO
2条件下で培養した。アッセイ時にはシャーレ内で培養したRIN14B細胞をAccutase(Innova Cell Technologies)を用いて剥がした後(37℃・10分インキュベート)、24ウェルプレートに2×10
5Cell/mlのRIN14B細胞を500μlずつ播種し37℃、5%CO
2で1時間インキュベーションした。細胞数カウントにはセルカウンターであるCountess(invitrogen)を用いた。上記で得た被験体(ビフィズス菌培養液)を濁度Optical Density(OD)の値にて一定に調整後、RIN14B細胞培養用培地で20倍に希釈しRIN14B細胞播種インキュベート後のウェルに対して終濃度10%になるように添加し、37℃、5% CO
2条件下で24時間培養した。培養後、被験体を添加したRIN14B細胞の培養上清を回収し、上清中のセロトニン含量を市販のセロトニンイムノアッセイキット(Enzo社)で測定した。
【0027】
その結果を表4及び
図1に示す。
【0028】
【表4】
【0029】
表4及び
図1からも明らかなように、本発明のビフィズス菌(ビフィドバクテリウム・ロンガムN61株)のセロトニン分泌促進能力は非常に強く、他の自社保有のビフィズス菌及び基準株と比べても高いセロトニン分泌促進能力を有していることが確認された。
【0030】
<試験例2>スキムミルク培地増殖性試験
本発明のビフィドバクテリウム・ロンガムN61株と、自社保有の2つのビフィドバクテリウム・ロンガム比較菌株(BL1、BL2)及び基準株のビフィドバクテリウム・ロンガム(JCM1217)について、スキムミルク培地増殖性試験を実施した。
【0031】
10%SM(スキムミルク)培地に植菌し、これを37℃ ・24時間培養し、ビフィズス菌数によってスキムミルク培地での増殖性を評価した。
【0032】
結果を表5及び
図2に示す。
【0033】
【表5】
【0034】
本発明の菌株(ビフィドバクテリウム・ロンガムN61株)の菌数は2.1×10
8cfu/mlであり、ビフィズス菌入り発酵乳及びビフィズス菌入り乳酸菌飲料を生産する上で問題のないレベルであった。