特許第6353636号(P6353636)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東京エレクトロン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6353636-酸化チタン膜の除去方法および除去装置 図000002
  • 特許6353636-酸化チタン膜の除去方法および除去装置 図000003
  • 特許6353636-酸化チタン膜の除去方法および除去装置 図000004
  • 特許6353636-酸化チタン膜の除去方法および除去装置 図000005
  • 特許6353636-酸化チタン膜の除去方法および除去装置 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6353636
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】酸化チタン膜の除去方法および除去装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/308 20060101AFI20180625BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20180625BHJP
   C09K 13/08 20060101ALN20180625BHJP
【FI】
   H01L21/308 E
   H01L21/304 643A
   H01L21/304 647A
   !C09K13/08
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-130936(P2013-130936)
(22)【出願日】2013年6月21日
(65)【公開番号】特開2015-5661(P2015-5661A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2016年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099944
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 宏志
(72)【発明者】
【氏名】土橋 和也
(72)【発明者】
【氏名】萩原 亮人
【審査官】 内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−311993(JP,A)
【文献】 特開2006−165023(JP,A)
【文献】 再公表特許第2005/019499(JP,A1)
【文献】 特開2007−194615(JP,A)
【文献】 特開2008−107494(JP,A)
【文献】 特開2001−015477(JP,A)
【文献】 特開2004−311992(JP,A)
【文献】 特開2002−025967(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/019499(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/308
H01L 21/304
C09K 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板上に存在する酸化チタン膜を除去する酸化チタン膜の除去方法であって、
酸化チタン膜が存在するシリコン基板を準備することと、
フッ酸と、フッ酸のpHを下げイオン化したチタンの存在比率を高くするための非酸化性の酸とを含み、前記非酸化性の酸の添加によりpH<0となり、かつ、フッ酸の濃度が1〜30質量%、非酸化性の酸の濃度が2〜30質量%の範囲とした第1の混合水溶液を前記酸化チタン膜に接触させることと、
前記第1の混合水溶液と前記酸化チタン膜との反応により前記酸化チタン膜を前記シリコン基板から除去することと
を有することを特徴とする酸化チタン膜の除去方法。
【請求項2】
前記酸化チタン膜は、シリコン基板に付着したもの、またはシリコン基板の裏面全面に形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の酸化チタン膜の除去方法。
【請求項3】
前記非酸化性の酸は、塩酸、硫酸、およびリン酸からなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の酸化チタン膜の除去方法。
【請求項4】
前記第1の混合水溶液の温度は、室温〜100℃であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の酸化チタン膜の除去方法。
【請求項5】
前記シリコン基板を回転させながら、前記シリコン基板に前記第1または第2の混合水溶液を供給することを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の酸化チタン膜の除去方法。
【請求項6】
シリコン基板上に存在する酸化チタン膜を除去する酸化チタン膜の除去装置であって、
前記シリコン基板を回転可能に保持する保持機構と、
前記保持機構を回転させる回転機構と、
フッ酸と、フッ酸のpHを下げイオン化したチタンの存在比率を高くするための非酸化性の酸とを含み、前記非酸化性の酸の添加によりpH<0となり、かつ、フッ酸の濃度が1〜30質量%、非酸化性の酸の濃度が2〜30質量%の範囲とした第1の混合水溶液を供給するための液供給部と、
前記液供給部からの前記第1の混合水溶液を前記保持機構に保持されたシリコン基板に吐出するノズルとを具備し、
前記ノズルから吐出された前記第1の混合水溶液を前記シリコン基板に存在する前記酸化チタン膜に接触させて前記酸化チタン膜を除去することを特徴とする酸化チタン膜の除去装置。
【請求項7】
前記酸化チタン膜は、シリコン基板に付着したもの、またはシリコン基板の裏面全面に形成されたものであることを特徴とする請求項に記載の酸化チタン膜の除去装置。
【請求項8】
前記非酸化性の酸は、塩酸、硫酸、およびリン酸からなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項または請求項に記載の酸化チタン膜の除去装置。
【請求項9】
前記液供給部は、前記第1の混合水溶液の温度を室温〜100℃の温度で供給することを特徴とする請求項から請求項のいずれか1項に記載の酸化チタン膜の除去装置。
【請求項10】
コンピュータ上で動作し、酸化チタン膜の除去装置を制御するためのプログラムが記憶された記憶媒体であって、前記プログラムは、実行時に、請求項1から請求項のいずれかの酸化チタン膜の除去方法が行われるように、コンピュータに前記酸化チタン膜の除去装置を制御させることを特徴とする記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン基板に存在する酸化チタン膜を除去する酸化チタン膜の除去方法および除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造過程において、エッチングマスクとして用いられるハードマスクの材料としてTiO膜が用いられている。TiO膜は、他の膜(SiやSiO、有機膜等)との選択比が良好であることから、新規のハードマスク材料として優位性を有している。
【0003】
シリコン基板上にTiO膜を成膜する際には、枚葉成膜やバッチ式成膜が行われるが、バッチ式成膜の場合にはシリコン基板の裏面にも成膜されてしまい、裏面に形成されたTiO膜を除去する必要がある。また、ハードマスクとしてTiO膜を形成した後にエッチングに供すると、シリコン基板の端部にチタンや酸素を含有する膜が再付着することがある。
【0004】
基板端部に再付着したチタンや酸素を含有する膜、および基板裏面のTiO膜(以下、両者を酸化チタン膜と総称する)が付着したまま次工程を行うと、工程間のクロスコンタミネーション等の不都合が生じるため、付着した酸化チタン膜を除去する必要がある。シリコン基板にダメージを与えずに酸化チタン膜を除去する手法としては、薬液としてフッ酸(HF)を用いてウェット洗浄することが検討されており、特許文献1にはフッ酸(HF)または緩衝フッ酸(BHF)を用いて酸化チタン膜を除去することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−500480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、TiO膜はフッ酸によりエッチングされるものの、エッチングレートレートが極めて遅く、実用的でないことが判明した。
【0007】
セラミック材料の分析においては、TiO試料の分解方法として、フッ酸と硝酸の混合液、フッ酸と硫酸の混合液を用いているが、250℃程度の高温処理またはマイクロ波による処理を併用する必要があるため、半導体装置への適用を考慮すると、ハード面の構築が困難である。また、フッ酸と硝酸の混合液はシリコンをエッチングし、その反応性はTiOよりも高いため、シリコン基板上の膜除去に適用することが困難である。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、シリコン基板に存在する酸化チタン膜を、シリコン基板にダメージを与えることなく、低温でかつ高速で除去することができる酸化チタン膜の除去方法および除去装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために種々検討を重ねた。その結果、フッ酸と塩酸等の非酸化性の酸との混合水溶液、またはフッ酸と有機酸との混合水溶液により、シリコン基板に存在する酸化チタン膜を、シリコン基板にダメージを与えることなく、低温でかつ高速で除去することができることを見出した。
【0010】
これらの混合水溶液により上記効果が得られる理由は以下のように推測される。
フッ酸と塩酸等の非酸化性の酸との混合水溶液の場合、フッ酸は弱酸でありフッ酸溶液のpHは2〜3程度であるが、塩酸等の非酸化性の酸を添加することで混合水溶液のpHがより低下し、pHが低いほどTiO中のイオン化するTiの存在比率が高くなる。そのため、フッ酸とTiOとの反応により安定的にTiイオンが生成し、TiOのエッチングレートが向上するものと考えられる。
一方、フッ酸と有機酸との混合水溶液の場合、フッ酸単独の水溶液よりもフッ酸の電離度が低下する。すなわち、有機酸を混合することにより水溶液中の[HF]濃度が上昇する。したがって、フッ酸と有機酸との混合水溶液によりTiOのエッチングレートが上昇するのは、TiOのエッチングは未解離のHFにより進行するためと考えられる。
本発明はこのような知見に基づいてなされたものである。
【0011】
すなわち、第1の観点では、シリコン基板上に存在する酸化チタン膜を除去する酸化チタン膜の除去方法であって、酸化チタン膜が存在するシリコン基板を準備することと、フッ酸と、フッ酸のpHを下げイオン化したチタンの存在比率を高くするための非酸化性の酸とを含み、前記非酸化性の酸の添加によりpH<0となり、かつ、フッ酸の濃度が1〜30質量%、非酸化性の酸の濃度が2〜30質量%の範囲とした第1の混合水溶液を前記酸化チタン膜に接触させることと、前記第1の混合水溶液と前記酸化チタン膜との反応により前記酸化チタン膜を前記シリコン基板から除去することとを有することを特徴とする酸化チタン膜の除去方法を提供する。
【0013】
本発明の第の観点では、シリコン基板上に存在する酸化チタン膜を除去する酸化チタン膜の除去装置であって、前記シリコン基板を回転可能に保持する保持機構と、前記保持機構を回転させる回転機構と、フッ酸と、フッ酸のpHを下げイオン化したチタンの存在比率を高くするための非酸化性の酸とを含み、前記非酸化性の酸の添加によりpH<0となり、かつ、フッ酸の濃度が1〜30質量%、非酸化性の酸の濃度が2〜30質量%の範囲とした第1の混合水溶液を供給するための液供給部と、前記液供給部からの前記第1の混合水溶液を前記保持機構に保持されたシリコン基板に吐出するノズルとを具備し、前記ノズルから吐出された前記第1の混合水溶液を前記シリコン基板に存在する前記酸化チタン膜に接触させて前記酸化チタン膜を除去することを特徴とする酸化チタン膜の除去装置を提供する。
【0015】
上記第1の観点および第の観点において、前記酸化チタン膜は、シリコン基板に付着したもの、またはシリコン基板の裏面全面に形成されたものであることが好適である。前記非酸化性の酸は、塩酸、硫酸、およびリン酸からなる群から選択されたもの、特に塩酸が好ましい。前記第1の混合水溶液の温度は、室温〜100℃であることが好ましい。前記第1の観点において、前記シリコン基板を回転させながら、前記シリコン基板に前記第1の混合水溶液を供給することが好ましい。
【0016】
本発明の第の観点では、コンピュータ上で動作し、酸化チタン膜の除去装置を制御するためのプログラムが記憶された記憶媒体であって、前記プログラムは、実行時に、上記第1の観点の酸化チタン膜の除去方法が行われるように、コンピュータに前記酸化チタン膜の除去装置を制御させることを特徴とする記憶媒体を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シリコン基板上の酸化チタン膜に、フッ酸と非酸化性の酸とを含む混合水溶液、またはフッ酸と有機酸とを含む混合水溶液を接触させることにより、シリコン基板に付着した酸化チタン膜を、シリコン基板にダメージを与えることなく低温かつ高速で除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る酸化チタン膜の除去方法を実施するための酸化チタン膜の除去装置を示す断面図である。
図2】TiのpH−酸化還元電位図である。
図3】純水で希釈したHCl溶液と有機酸である酢酸で希釈したHCl溶液に対するInPの反応性を示す図である。
図4】フッ酸を含む各種水溶液を用いてシリコン基板上の酸化チタン膜をエッチングした場合の酸化チタンのエッチングレートおよびシリコンのエッチング量を示す図である。
図5】フッ酸と塩酸との混合水溶液およびフッ酸と酢酸との混合水溶液を用い、それぞれ塩酸の濃度および酢酸の濃度を変化させた場合の酸化チタンのエッチングレートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る酸化チタン膜の除去方法を実施するための酸化チタン膜の除去装置を示す断面図である。
【0020】
この酸化チタン膜の除去装置1は、チャンバ2を有し、このチャンバ2の中には、裏面にTiO膜10が形成された基板Wが収容される。基板Wとしてはシリコン基板(シリコンウエハ)が用いられる。なお、基板Wは、端部にチタンや酸素を含有する膜が再付着したものであってもよい。
【0021】
また、酸化チタン膜の除去装置1は、基板Wを水平状態で真空吸着により吸着保持するためのスピンチャック3を有しており、このスピンチャック3は、モータ4により回転可能となっている。また、チャンバ2内には、スピンチャック3に保持された基板Wを覆うようにカップ5が設けられている。カップ5の底部には、排気および排液のための排気・排液管6が、チャンバ2の下方へ延びるように設けられている。チャンバ2の側壁には、基板Wを搬入出するための搬入出口7が設けられている。基板Wは、TiO膜10が形成された裏面が上になるようにスピンチャック3に保持される。
【0022】
スピンチャック3に保持された基板Wの上方には、基板Wの裏面に形成されたTiO膜10を除去するための液体を吐出するためのノズル11が設けられている。ノズル11は駆動機構(図示せず)により水平方向および上下方向に移動可能となっている。図示するように、基板Wの裏面全面にTiO膜10が形成されている場合には、基板Wの上方の基板Wの中心に対応する位置にノズル11をセットする。なお、基板端部に再付着したチタンや酸素を含有する膜を除去する場合には、その付着の状況に応じた位置にノズル11をセットすればよい。
【0023】
ノズル11には液体供給配管12が接続されており、この液体供給配管12には、液体供給部14から、TiO膜10を除去するための液体として、フッ酸(HF)と非酸化性の酸(例えば塩酸(HCl))との混合水溶液、またはフッ酸(HF)と有機酸(例えば酢酸)との混合水溶液が供給されるようになっている。
【0024】
液体供給部14は、フッ酸(HF)、非酸化性の酸または有機酸、および純水(DIW)のそれぞれを供給する供給源と、これらの混合比を調節するためのバルブシステムや流量制御システムを有している。なお、非酸化性の酸と有機酸の両方を含有した混合水溶液であってもよい。
【0025】
また、酸化チタン膜の除去装置1は、制御部20を有している。制御部20は、コントローラ21と、ユーザーインターフェース22と、記憶部23とを有している。コントローラ21は、酸化チタン膜の除去装置1の各構成部、例えばモータ4、ノズルの駆動機構、液体供給部14のバルブシステムや流量制御システム等を制御するマイクロプロセッサ(コンピュータ)を有している。ユーザーインターフェース22は、オペレータが酸化チタン膜の除去装置1を管理するためにコマンド等の入力操作を行うキーボードや、酸化チタン膜の除去装置1の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなっている。また、記憶部23には、酸化チタン膜の除去装置1の各構成部の制御対象を制御するための制御プログラムや、酸化チタン膜の除去装置1に所定の処理を行わせるためのプログラムすなわちレシピが格納されている。レシピは記憶部23の中の記憶媒体に記憶されている。記憶媒体は、ハードディスクのような固定的なものであってもよいし、CDROM、DVD、フラッシュメモリ等の可搬性のものであってもよい。また、他の装置から、例えば専用回線を介してレシピを適宜伝送させるようにしてもよい。そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース22からの指示等にて任意のレシピを記憶部23から呼び出してコントローラ21に実行させることで、コントローラ21の制御下で、所定の処理が行われる。
【0026】
次に、このような酸化チタン膜の除去装置1により基板Wに存在する酸化チタン膜を除去する方法について説明する。
【0027】
まず、チャンバ2に、裏面にTiO膜10が形成された基板Wを搬入し、裏面を上にした状態でスピンチャック3に保持させる。基板Wは、例えば、バッチ式成膜でTiO膜を形成し、裏面に不所望なTiO膜10が形成されたものであり、この不所望なTiO膜10を除去する。なお、基板Wが、例えばTiO膜をエッチングすることにより、その端部にチタンや酸素を含有する膜が再付着したものであり、再付着した付着物を除去するものであってもよい。その場合には、その付着状況により、裏面を上にしても表面を上にしてもよい。
【0028】
次いで、ノズル11を基板Wの上方の基板Wの中心に対応する位置にセットし、モータ4によりスピンチャック3とともに基板Wを回転させながら、液体供給部14からTiO膜10を除去するための液体として、フッ酸(HF)と非酸化性の酸との混合水溶液、またはフッ酸と有機酸との混合水溶液を液体供給配管12およびノズル11を介して基板Wの上面に供給する。
【0029】
基板Wの上面に供給された混合水溶液は、遠心力で基板Wの外方に広がり、TiO膜10と反応する。この際の混合水溶液とTiO膜10との反応により、TiO膜10が基板Wから除去される。
【0030】
このように、フッ酸(HF)と非酸化性の酸との混合水溶液、またはフッ酸(HF)と有機酸との混合水溶液をTiO膜10に作用させると、基板Wを構成するシリコンにダメージを与えることなくTiO膜10のみを低温かつ高速でエッチング除去することができる。基板端部に再付着したチタンや酸素を含有する膜の場合も、TiO膜10と同様、フッ酸(HF)と非酸化性の酸との混合水溶液、またはフッ酸(HF)と有機酸との混合水溶液によりシリコンにダメージを与えることなく除去することができる。
【0031】
これらの混合水溶液により上記効果が得られる理由は以下のように推測される。
フッ酸(HF)と非酸化性の酸との混合水溶液の場合、フッ酸は弱酸でありフッ酸溶液のpHは2〜3程度であるが、塩酸等の非酸化性の酸を添加することで混合水溶液のpHがより低下する。図2はTiのpH−酸化還元電位図である。HOの存在下では、図2の2本の斜め破線の間の領域をとる。図2に示すように、pHが低くなるほどイオン化したTi(TiO++)の存在比率が高くなり、pH<0になるとほぼ全部がTiO++となる。つまり、pHが低いほど安定的にイオン化することを示している。したがって、フッ酸に非酸化性の酸を添加してpHを低下させた混合溶液は、フッ酸とTiOとの反応により安定的にTiイオンが生成し、TiOのエッチングレートが向上するものと考えられる。このときpH<0であることが好ましい。また、非酸化性の酸の場合は、酸化性の酸である硝酸と異なり、フッ酸との混合水溶液はシリコンをほとんどエッチングしない。
【0032】
一方、フッ酸と有機酸との混合水溶液の場合、InPとHClとの反応メカニズムに類似しているものと考えられる。図3は、純水で希釈したHCl溶液と有機酸である酢酸で希釈したHCl溶液に対するInPの反応性を示している(出典:J.Electrochem.Soc.,131,1984 pp2643)。この図では、酢酸で希釈したHCl溶液のほうが低いHCl濃度でエッチングが進行することを示している。In−Pのボンドは未解離のHClが直接切断する反応であるため、酢酸希釈はハロゲン化水素の電離度を低下させる効果があるとしている。つまり、酢酸で希釈することにより、HClの電離度が低下する結果、HClが多く残存し、InPのエッチングがより進行する。HFによるTiO膜のエッチングも同様のメカニズムが想定され、有機酸を添加することにより、HFの電離が抑制されて[HF]濃度が増加し、TiOのエッチングが進行するものと考えられる。
【0033】
フッ酸(HF)と有機酸との混合水溶液は基板Wを構成するシリコンに対して濡れ性が高いことから、処理効率および処理の均一性を高く維持することができる。これは、本実施形態のように基板Wを回転させながら薬液を供給する手法を採る場合には、基板に対する薬液の濡れ性が高いほど処理効率が向上し、かつ均一に処理することが可能であるからである。混合水溶液の濡れ性は、これらの比率により調整することができる。
【0034】
なお、混合水溶液中のフッ酸は原液が50%水溶液であるため、混合液中にはその分の純水が不可避的に含まれることとなる。また、代表的な非酸化性の酸である塩酸(HCl)は原液が35%水溶液であるから、HClを用いるときにはさらに純水の量が増加する。
【0035】
非酸化性の酸としては、塩酸(HCl)が好適であるが、その他に硫酸(HSO)やリン酸(HPO)等を挙げることができる。フッ酸(HF)と非酸化性の酸との混合水溶液を用いる場合には、上述したように、水溶液のpHを0より小さくなるように調整することが好ましい。
【0036】
有機酸としては、カルボン酸、スルホン酸、フェノール類を挙げることができるが、これらの中ではカルボン酸が好ましい。カルボン酸は、一般式:R−COOH(Rは水素、又は直鎖もしくは分枝鎖状のC〜C20のアルキル基もしくはアルケニル基、好ましくはメチル、エテル、プロピル、ブチル、ペンチル又はヘキシル)で表すことができる。カルボン酸としては、蟻酸(HCOOH)、シュウ酸((COOH))、酢酸(CHCOOH)、プロピオン酸(CHCHCOOH)、酪酸(CH(CHCOOH)、吉草酸(CH(CHCOOH)などを挙げることができる。これらの中では、蟻酸(HCOOH)、シュウ酸((COOH))、酢酸(CHCOOH)が好ましく、酢酸(CHCOOH)が特に好ましい。有機酸はフッ酸と異なり、原液濃度は100%に近い、例えば酢酸では原液濃度が99%である。
【0037】
フッ酸と非酸化性の酸との混合水溶液、およびフッ酸と有機酸との混合水溶液の温度は室温〜100℃(例えば50℃)であることが好ましい。これらの混合水溶液は、このような低温で十分にTiO膜を除去することができ、フッ酸/硝酸の混合液、フッ酸/硫酸/硝酸の混合液を用いた場合のように高温にする必要はない。
【0038】
実際に、これらの混合水溶液がTiO膜除去に対して有効であることを確認した実験結果を示す。ここでは、3種類のフッ酸水溶液(フッ酸原液:純水を質量比で3:7、2:8、1:9としたもの)、フッ酸および硝酸の混合水溶液(フッ酸原液:硝酸原液:純水を質量比で1:7:2としたもの)、フッ酸と塩酸との混合水溶液(フッ酸原液:塩酸原液:純水を質量比で1:7:2としたもの)、フッ酸と酢酸との混合水溶液(フッ酸原液:酢酸原液を質量比で1:9としたもの)について、シリコン基板上のTiO膜をエッチングした。ここでは水溶液の温度を55℃とした。その際のTiO膜のエッチングレートおよびシリコンのエッチング量を図4に示す。図4に示すように、フッ酸単独の水溶液の場合、フッ酸濃度によらずTiO膜のエッチングレートは小さいが、フッ酸および硝酸の混合水溶液、フッ酸と塩酸との混合水溶液、フッ酸と酢酸との混合水溶液を用いた場合、TiO膜のエッチングレートは極めて大きくなる。しかし、フッ酸および硝酸の混合水溶液では、シリコンがエッチングされてしまう。これに対して、フッ酸と塩酸との混合水溶液、フッ酸と酢酸との混合水溶液では、シリコンをほとんどエッチングせずにTiO膜のみをエッチングすることができることがわかる。なお、ここで用いた原液濃度は、フッ酸:50%、硝酸:68%、塩酸:35%、酢酸:99%である。
【0039】
次に、フッ酸と塩酸との混合水溶液中の塩酸濃度、およびフッ酸と酢酸との混合水溶液中の酢酸濃度のTiO膜エッチングレートに対する依存性について試験した結果を図5に示す。ここでは、フッ酸と塩酸との混合水溶液2種類(フッ酸原液:塩酸原液:純水を質量比で1:7:2としたもの(pH≒−0.8)、および1:0.7:8.3としたもの(pH≒0.8))と、フッ酸と酢酸との混合水溶液3種類(フッ酸原液:酢酸原液:純水を質量比で1:1:8としたもの、1:4.5:4.5としたもの、およびフッ酸原液:酢酸原液を質量比で1:9としたもの)を用いてTiO膜をエッチングした。比較のため、フッ酸水溶液(フッ酸原液:純水を質量比で1:9としたもの)を用いたTiO膜のエッチングも行った。なお、ここでは水溶液の温度を55℃とした。
【0040】
図5に示すように、フッ酸と塩酸との混合水溶液では、フッ酸原液:塩酸原液:純水を質量比で1:0.7:8.3としたもの(pH≒0.8)では、フッ酸溶液と同等程度のエッチング量であるが、フッ酸原液:塩酸原液:純水の質量比が1:1:8程度以上ではより良好なエッチングレートが得られると予測される。pHを見るとpH≒0.8ではエッチングレートが小さく、フッ酸原液:塩酸原液:純水を質量比で1:7:2としてpH≒−0.8とすることによりエッチング量が著しく上昇していることから、pH<0となるように塩酸を添加することが好ましいことがわかる。したがって、塩酸を添加する場合には、塩酸添加量の代わりにpHで規定してもよい。
【0041】
また、フッ酸と酢酸との混合水溶液の場合には、フッ酸原液:酢酸原液:純水を質量比で1:1:8(酢酸:10質量%)としたものでもフッ酸水溶液の場合よりも多少エッチングレートが高くなるが、フッ酸原液:酢酸原液:純水=1:4.5:4.5(酢酸:45質量%)以上の酢酸量でエッチング量の上昇が大きくなっていることから、酢酸が40質量%以上が好ましい。酢酸の代わりに蟻酸を用いた場合にも同様の結果が得られた。
【0042】
以上の結果から、フッ酸と塩酸(非酸化性の酸)との混合水溶液を用いた場合には、フッ酸(HF)および塩酸(HCl)の濃度は、フッ酸(HF):1〜30質量%、塩酸(HCl):2〜30質量%であることが好ましい。他の非酸化性の酸も同様である。残部は純水であるが、上述したように、フッ酸の原液は50%水溶液、塩酸の原液は35%水溶液であるため、原液の純水の量を考慮して比率を決定する必要がある。例えば、塩酸を30質量%とした場合は、原液中の純水量は55.7質量%となり、残りの14.3質量%をフッ酸原液および必要に応じて純水で調整する。
【0043】
また、フッ酸と有機酸(酢酸)との混合水溶液を用いた場合には、フッ酸および有機酸の濃度は、フッ酸(HF):1〜30質量%、有機酸:40〜98質量%であることが好ましい。残部は純水であるが、フッ酸の原液は上述したように50%水溶液であるため、例えばフッ酸(HF)を上限の30質量%にした場合には、純水が30質量%となり、有機酸がほぼ40質量%となる。フッ酸(HF)および有機酸の原液のみを用い、別個に純水(DIW)を添加しない場合には、純水はほぼ1〜30質量%の範囲となる。
【0044】
以上のように、本実施形態によれば、裏面にTiO膜10が形成されたシリコン基板Wに、フッ酸と非酸化性の酸との混合水溶液、またはフッ酸と有機酸との混合水溶液を供給することにより、TiO膜10をシリコン基板Wから除去する。これにより、シリコン基板Wの裏面に形成されたTiO膜10を、シリコン基板Wにダメージを与えることなく高速かつ低温で除去することができる。また、基板端部に再付着したチタンや酸素を含有する膜の場合も、フッ酸と非酸化性の酸との混合水溶液、またはフッ酸と有機酸との混合水溶液を供給することにより、同様にシリコン基板Wにダメージを与えることなく低温かつ高速で除去することができる。
【0045】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、基板をスピンチャックに保持させて、基板の上方に配置されたノズルから混合液を供給する場合について示したが、これに限らず、ノズルを基板の裏面側に設けたり、基板の外側に設ける等、酸化チタン膜の付着状況により適宜な装置構成を採用すればよい。
【符号の説明】
【0046】
1;酸化チタン膜の除去装置
2;チャンバ
3;スピンチャック
4;モータ
5;カップ
6;排気・排液管
7;搬入出口
11;ノズル
12;液体供給配管
14;液体供給部
20;制御部
21;コントローラ
22;ユーザーインターフェース
23;記憶部
W;基板(シリコン基板)
図1
図2
図3
図4
図5