特許第6353841号(P6353841)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6353841流体分析装置、熱式流量計、マスフローコントローラ、流体性質特定装置、及び、流体分析装置用プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6353841
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】流体分析装置、熱式流量計、マスフローコントローラ、流体性質特定装置、及び、流体分析装置用プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01F 1/696 20060101AFI20180625BHJP
【FI】
   G01F1/696 Z
【請求項の数】11
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-534175(P2015-534175)
(86)(22)【出願日】2014年8月22日
(86)【国際出願番号】JP2014071974
(87)【国際公開番号】WO2015029890
(87)【国際公開日】20150305
【審査請求日】2017年7月19日
(31)【優先権主張番号】特願2013-177385(P2013-177385)
(32)【優先日】2013年8月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000127961
【氏名又は名称】株式会社堀場エステック
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】白井 隆
(72)【発明者】
【氏名】岡野 浩之
【審査官】 山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平5−149767(JP,A)
【文献】 特開平1−227016(JP,A)
【文献】 特開2013−134231(JP,A)
【文献】 特開2011−209152(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/040327(WO,A1)
【文献】 特表2002−543385(JP,A)
【文献】 特開2003−106886(JP,A)
【文献】 特開2000−292235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/68−1/699
G01F 1/00
G01F 25/00
G01N 25/18
G05D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の流体が流れる流路と、
前記流路の上流側に設けられた上流側電気抵抗素子と、
前記流路の下流側に設けられた下流側電気抵抗素子と、
前記測定対象の流体の流量が変化した際の前記上流側電気抵抗素子を発熱させるために印加される電圧である上流側電圧の変化率に関連する値である上流側パラメータと、前記測定対象の流体の流量が変化した際の前記下流側電気抵抗素子を発熱させるために印加される電圧である下流側電圧の変化率に関連する値である下流側パラメータと、に基づいて流体の熱伝導率に応じた固有の値を示す流体固有値を算出する流体固有値算出部と、を備えたことを特徴とする流体分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の流体分析装置が、前記測定対象の流体の流量を測定する熱式流量計であり、
前記上流側電圧、前記下流側電圧、及び、前記流体固有値算出部で算出された前記流体固有値に基づいて前記測定対象の流体の流量を算出する流量算出部を備えたことを特徴とする熱式流量計。
【請求項3】
前記上流側電圧が、前記上流側電気抵抗素子の温度が一定となるように印加されており、
前記下流側電圧が、前記下流側電気抵抗素子の温度が一定となるように印加されており、
前記流体固有値が、前記上流側パラメータ及び前記下流側パラメータの比である請求項2記載の熱式流量計。
【請求項4】
前記流量算出部が、
前記流体固有値算出部と、
前記上流側電圧及び前記下流側電圧と、所定のセンサ出力演算値算出式とに基づいてセンサ出力演算値を算出するセンサ出力演算値算出部と、
1つの基準の流体について、前記センサ出力演算値と、流量との関係を示す流量検量線データを記憶する流量検量線データ記憶部と、
前記流体固有値に基づいて、前記測定対象の流体のコンバージョンファクタを算出するCF算出部と、
前記基準の流体の流量検量線データ及び前記測定対象の流体のコンバージョンファクタに基づいて、前記センサ出力演算値算出部において算出されたセンサ出力演算値を前記測定対象の流体の流量に換算する流量換算部と、から構成されている請求項2記載の熱式流量計。
【請求項5】
前記CF算出部が、前記流体固有値に基づいて、前記基準の流体の流量に対するコンバージョンファクタの変化比率であるCF変化比率を算出し、前記CF変化比率を傾きとする流量の一次式から前記測定対象の流体の各流量に対する前記コンバージョンファクタを算出するように構成されている請求項4記載の熱式流量計。
【請求項6】
前記流量算出部が、
前記流体固有値算出部と、
前記上流側電圧及び前記下流側電圧と、所定のセンサ出力演算値算出式とに基づいてセンサ出力演算値を算出するセンサ出力演算値算出部と、
前記センサ出力演算値と、流量との関係を示す流量検量線データを複数の流体の熱伝導率ごとに記憶する流量検量線データ記憶部と、
前記流体固有値算出部で算出された流体固有値に対応する種類の流体の流量検量線データを前記流量検量線記憶部から取得する流量検量線データ取得部と、
前記流量検量線取得部で取得された流量検量線データと、前記センサ出力演算値算出部において算出されたセンサ出力演算値と、に基づいて前記流体の流量を算出する流量換算部と、を具備する請求項2記載の熱式流量計。
【請求項7】
前記測定対象の流体が、第1流体と第2流体とが所定の混合比率で混合された流体であり、
前記第1流体と第2流体の混合比率と、前記測定対象の流体の流体固有値との関係を示す混合比率検量線データを記憶する混合比率検量線データ記憶部と、
前記流体固有値算出部で算出される前記測定対象の流体の流体固有値と、前記混合比率検量線データとから前記混合比率を算出する混合比率算出部と、をさらに備えた請求項2に記載の熱式流量計。
【請求項8】
前記混合比率算出部で算出された混合比率に基づいて、前記測定対象の流体のコンバージョンファクタを算出する混合流体CF算出部をさらに備えた請求項7記載の熱式流量計。
【請求項9】
請求項2に記載の熱式流量計と、
前記測定対象の流体の流量を制御するためのバルブと、
前記熱式流量計で測定される測定流量値及び予め定められる設定流量値の偏差と、制御係数と、に基づいて前記バルブの開度を制御するバルブ制御部と、を備えたマスフローコントローラであって、
前記バルブ制御部が前記流体固有値算出部で算出される前記流体固有値に応じて前記制御係数を変更するように構成されているマスフローコントローラ。
【請求項10】
請求項1記載の流体分析装置が、前記測定対象の流体の種類又は物性について特定する流体性質特定装置であり、
前記流体固有値算出部で算出される前記流体固有値に基づいて前記測定対象の流体の種類又は物性を特定する特定部として構成されていることを特徴とする流体性質特定装置。
【請求項11】
測定対象の流体が流れる流路と、前記流路の上流側に設けられた上流側電気抵抗素子と、前記流路の下流側に設けられた下流側電気抵抗素子と、を具備した流体分析装置に用いられる流体分析装置用プログラムであって、
前記測定対象の流体の流量が変化した際の前記上流側電気抵抗素子を発熱させるために印加される電圧である上流側電圧の変化率に関連する値である上流側パラメータと、前記測定対象の流体の流量が変化した際の前記下流側電気抵抗素子を発熱させるために印加される電圧である下流側電圧の変化率に関連する値である下流側パラメータと、に基づいて流体の熱伝導率に応じた固有の値を示す流体固有値を算出する流体固有値算出部としての機能をコンピュータに発揮させる流体分析装置用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象の流体が流れる流路に2つの電気抵抗素子を設け、それらの電気抵抗素子に熱を加えるために印加される電圧に基づいて前記測定対象の流体の流量や種類、物性等について分析する流体分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体プロセスに使用されているガスには、腐食性ガス(BCl、Cl、HCl、ClF等)や反応性ガス(SiH、B等)が多数存在し、これらのようなガスの流量を測定する場合、ガスに対して直接センサ端子等を接触させる必要がなく、間接的な流量測定が可能な熱式流量計が用いられることがある。
【0003】
前記熱式流量計は、ガスが流れているメイン流路内に配置された流体抵抗と、前記層流素子の上流側と下流側とをバイパスし、メイン流路に対して所定の比率の流量のガスが流れるセンサ流路を形成する細管と、当該細管の外表面において、上流側と下流側に設けられた2つの電気抵抗素子と、を備えたものである。さらに、これらの上流側電気抵抗素子と下流側電気抵抗素子についてはそれぞれの温度一定となる、あるいは、それぞれに流れる電流が一定となるように印加電圧が制御される。そして、これらのような定温度制御あるいは定電流制御で印加される電圧に基づいてセンサ出力演算値が算出されて、当該センサ出力演算値と、前記センサ出力演算値と流量との関係を示す流量検量線データとに基づいてセンサ出力演算値に対応する流量が出力される。
【0004】
ところで、前記流量検量線データは、工場出荷時において使用されるガスの種類が決まっていない場合には、前述した腐食性ガスや反応性ガスではなく不活性ガス(N等)を流路に流し、この不活性ガスの実流量と前記センサ出力演算値に基づいて校正されている。したがって、不活性ガスにより校正された流量検量線データを記憶している熱式流量計によって何の補正も行わずに腐食性ガスや反応性ガスの流量を測定すると実流量が正しく出力されない。このため、校正に用いられたガスとは異なる種類のガスの流量を測定する場合には、各センサ出力演算値における校正に使用したガスの流量と、現在流れているガスの流量の比であるコンバージョンファクタを用いて出力される流量は補正される。
【0005】
このコンバージョンファクタは、流量に対して固定値ではなく、流量が増加するのに伴って、ガス種ごとに決まる増加率で変化することが知られている。例えば、特許文献1ではコンバージョンファクタを流量の3次関数として近似し、ガス種ごとにこのコンバージョンファクタの流量関数を予め記憶してある。そして、校正に使用した流量検量線データと、各ガス種のコンバージョンファクタの流量関数に基づいて、各ガス種の流量検量線データを算出し、どのようなガス種についても適正な流量が出力されるよう構成されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の熱式流量計の構成で、各ガス種について流量検量線データを算出できるようにするには、予め各ガス種のコンバージョンファクタの流量関数を実験により同定しておく必要がある。半導体製造プロセスにおいて使用されるガス種は非常に多く存在するため、使用する可能性のあるガス種の全てについてコンバージョンファクタの流量関数を同定するには非常に時間がかかってしまう。
【0007】
また、従来の特許文献1に記載されているような熱式流量計は、流路に流れているガス種を自動で判別することはできないので、流路に流すガス種が変更されるたびにユーザは対応するガス種のコンバージョンファクタの流量関数が使用されるように設定を手動で変更する必要がある。半導体製造プロセスにおいては、複数の流路上にそれぞれ熱式流量計が設けられ、各流路に流れるガス種が異なっている場合もあり、各熱式流量計について上述したような設定変更をユーザが行うのは非常に煩雑である。このため、ガス種ごとに流量検量線データを補正できるように熱式流量計が構成されていたとしても実際の使用環境で運用するのは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2005−527819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上述したような熱式流量計に関する問題を鑑みてなされたものであって、特に熱式流量計の構成だけを用いて流路に流れている流体種を特定できる、あるいは、コンバージョンファクタや流量検量線データといった流体種に固有のパラメータを自動的に算出できるようにし、ひいては流体種に応じて自動的に各種設定が変更されてガス種に関わらず高い流量精度で流量を出力することができる熱式流量計を提供することを目的とする。
【0010】
また、上記課題を検討する過程で本願発明者らが初めて見出した流体種と各電気抵抗素子に印加される電圧から算出される流体固有値との関係性に基づいて、流量だけでなく、流体種や流体の物性を特定することが可能な流体分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明の流体分析装置は、測定対象の流体が流れる流路と、前記流路の上流側に設けられた上流側電気抵抗素子と、前記流路の下流側に設けられた下流側電気抵抗素子と、前記測定対象の流体の流量が変化した際の前記上流側電気抵抗素子を発熱させるために印加される電圧である上流側電圧の変化率に関連する値である上流側パラメータと、前記測定対象の流体の流量が変化した際の前記下流側電気抵抗素子を発熱させるために印加される電圧である下流側電圧の変化率に関連する値である下流側パラメータと、に基づいて流体の熱伝導率に応じた固有の値を示す流体固有値を算出する流体固有値算出部と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
ここで、「前記測定対象の流体の流量が変化した際の前記上流側電気抵抗素子を発熱させるために印加される電圧である上流側電圧の変化率に関連する値である上流側パラメータ」、「前記測定対象の流体の流量が変化した際の前記下流側電気抵抗素子を発熱させるために印加される電圧である下流側電圧の変化率に関連する値である下流側パラメータ」とは、上流側電圧、下流側電圧の流量に対する変化率である傾きや、当該傾きに対応する正接や、ある流量だけ変化させた場合の上流側電圧及び下流側電圧の変化量、流体が流れている状態での印加されている電圧と流体が流れていない状態で印加されている電圧との差分等の概念を少なくとも含むものである。また、「流体の種類」とは、流体の分子の組成が単一種の場合だけでなく、複数の種類の分子が混合されているような流体も1種と区別する概念である。
【0013】
また、上述した本発明は、本願発明者らが鋭意検討の結果、前記構成の流体分析装置において印加される上流側電圧及び下流側電圧から算出される上流側パラメータ及び下流側パラメータから算出される値である流体固有値は、流体の熱伝導率ごとに固有の値を取ることを初めて発見したことに基づいてなされたものである。
【0014】
つまり、本願発明者らが見出した上流側パラメータ及び下流側パラメータに基づいて算出される流体固有値を用いれば、測定データから流路を流れている前記測定対象の流体の熱伝導率を特定することができる。
【0015】
したがって、例えば、流体分析装置が、前記測定対象の流体の流量を測定する熱式流量計であれば、前記上流側電圧、前記下流側電圧、及び、前記流体固有値に基づいて前記測定対象の流体の流量を算出する場合には、前記流体固有値に基づいて、流体の熱伝導率に応じて流量検量線データを自動的に変更する、あるいは、流体の熱伝導率に応じたコンバージョンファクタに自動的に変更することが熱式流量計単体で可能となる。このことから前記測定対象の流体の種類が適宜変更されるような用途であっても、本発明の熱式流量計であればユーザの手をわずらわすことなく、流量算出のための設定が適切なものに自動的に変更されて、常に高い流量精度で流量を算出させることが可能となる。
【0016】
さらに、前記流体固有値は流体の熱伝導率に一対一で対応するので、前記流体固有値を算出することは、流体の熱伝導率を算出することと略同義であるとも言える。したがって、コンバージョンファクタの流量に対する変化率は、熱伝導率の逆数である熱抵抗率に依存していることを利用すれば、流体についてある流量における1つのコンバージョンファクタが分かっている場合には前記流体固有値から全ての流量域におけるコンバージョンファクタに関する流量関数を推定、算出することが可能となる。したがって、従来のように使用する可能性のある全ての流体の種類について、設定流量域全体について実測により流量検量線データやコンバージョンファクタを予め同定し、用意しておかなくても高い流量精度で流量を算出することができる。
また、流体分析装置が、測定対象の流体の物性や性質等を特定する流体性質特定装置として構成されている場合には、前記流体固有値算出部で算出される流体固有値に基づいて、流体の種類の名称や、熱伝導率等の物性を特定することができる。
熱式流量計として、流体の種類によらずに正確な流量を算出できるようにするには、前記上流側電圧、前記下流側電圧、及び、前記流体固有値算出部で算出された前記流体固有値に基づいて前記測定対象の流体の流量を算出する流量算出部を備えたことを特徴とる熱式流量計であればよい。
【0017】
前記流体固有値と、前記測定対象の流体の熱伝導率や熱抵抗率との間の関係を単純な一次式で表現されるようにして、どのような測定対象の流体であっても適切な流量検量線データやコンバージョンファクタを単純な演算で精度よく算出されるようにし、流量精度を高められるようにするには、前記上流側電圧が、前記上流側電気抵抗素子の温度が一定となるように印加されており、前記下流側電圧が、前記下流側電気抵抗素子の温度が一定となるように印加されており、前記流体固有値が、前記上流側パラメータ及び前記下流側パラメータの比であればよい。
【0018】
例えば1種類の不活性ガスを基準ガスとして流量検量線データを予め同定しておき、その不活性ガス以外の流量検量線データについては同定していなくても、不活性ガス以外の流体について高い流量精度で流量が出力されるようにするには、前記流量算出部が、前記流体固有値算出部と、前記上流側電圧及び前記下流側電圧と、所定のセンサ出力演算値算出式とに基づいてセンサ出力演算値を算出するセンサ出力演算値算出部と、1つの基準の流体について、前記センサ出力演算値と、流量との関係を示す流量検量線データを記憶する流量検量線データ記憶部と、前記流体固有値に基づいて、前記測定対象の流体のコンバージョンファクタを算出するCF算出部と、前記基準の流体の流量検量線データ及び前記測定対象の流体のコンバージョンファクタに基づいて、前記センサ出力演算値算出部において算出されたセンサ出力演算値を前記測定対象の流体の流量に換算する流量換算部と、から構成されていればよい。
【0019】
このようなものであれば、予め同定しておく流量検量線データが1種類しかないのでその同定のための実験にそれほど時間をかけなくてもよい。また、前記測定対象の流体のある流量におけるコンバージョンファクタが既知であれば、前記流体固有値から各流量域におけるコンバージョンファクタを算出できるので、測定対象の流体の種類が切り換えられた場合でもコンバージョンファクタによって基準の流体の流量検量線データを自動的に補正し、常に高い流量精度で測定対象の流体の流量を出力することができる。
【0020】
コンバージョンファクタの流量に対する変化比率が、熱伝導率の逆数である熱抵抗率に依存していることを利用して、測定対象の流体のコンバージョンファクタの流量関数を精度良く算出できるようにするには、前記CF算出部が、前記流体固有値に基づいて、前記測定対象の流体の流量に対するコンバージョンファクタの変化比率であるCF変化比率を算出し、前記CF変化比率を傾きとする流量の一次式から前記測定対象の流体の各流量に対する前記コンバージョンファクタを算出するように構成されていればよい。
【0021】
例えば熱式流量計やマスフローコントローラが具備する演算装置における演算負荷を低減しつつ、測定対象の流体の種類が変更された場合には、自動的に測定対象の流体の種類に対応する流量検量線データが使用されて高い流量精度が実現されるようにするには、前記流量算出部が、前記流体固有値算出部と、前記上流側電圧及び前記下流側電圧と、所定のセンサ出力演算値算出式とに基づいてセンサ出力演算値を算出するセンサ出力演算値算出部と、前記センサ出力演算値と、流量との関係を示す流量検量線データを複数の流体の熱伝導率ごとに記憶する流量検量線データ記憶部と、前記流体固有値算出部で算出された流体固有値に対応する種類の流体の流量検量線データを前記流量検量線記憶部から取得する流量検量線データ取得部と、前記流量検量線取得部で取得された流量検量線データと、前記センサ出力演算値算出部において算出されたセンサ出力演算値と、に基づいて前記流体の流量を算出する流量換算部と、を具備するものであればよい。
【0022】
このようなものであれば、流体固有値のみを演算すればよいので、演算負荷を下げながら適切な流量検量線データを使用することができる。
【0023】
前記測定対象の流体が複数の種類の分子から構成されている流体である場合でも、その流体中における各分子の混合比率を把握し、流体全体として適切なコンバージョンファクタや流量検量線データ、各分子の流体の濃度を把握できるようにするには、前記測定対象の流体が、第1流体と第2流体とが所定の混合比率で混合された流体であり、前記第1流体と第2流体の混合比率と、前記測定対象の流体の流体固有値との関係を示す混合比率検量線データを記憶する混合比率検量線データ記憶部と、前記流量算出部で算出される前記測定対象の流体の流体固有値と、前記混合比率検量線データとから前記混合比率を算出する混合比率算出部と、をさらに備えたものであればよい。
【0024】
前記測定対象の流体が複数種類の分子が混合された流体である場合でも、例えば各分子のみで構成された流体の既知のコンバージョンファクタから混合された状態の流体のコンバージョンファクタを算出できるようにするには、前記混合比率算出部で算出された混合比率に基づいて、前記測定対象の流体のコンバージョンファクタを算出する混合流体CF算出部をさらに備えたものであればよい。
【0025】
前記測定対象の流体の流量を制御する場合、流量が正確に把握されるだけでなく、測定対象の流体の粘性等に応じた制御係数で流量制御が行われた方がより流量制御精度を高めることができる。このような流量制御を可能とするには、前記測定対象の流体の流量を制御するためのバルブと、前記熱式流量計で測定される測定流量値及び予め定められる設定流量値の偏差と、制御係数と、に基づいて前記バルブの開度を制御するバルブ制御部と、を備えたマスフローコントローラであって、前記バルブ制御部が前記流量算出部で算出される前記流体固有値に応じて前記制御係数を変更するように構成されているマスフローコントローラであればよい。このような構成であれば、流体固有値は流体の熱伝導率と一対一に対応しているので、流体の種類に応じた制御係数へ自動的に変更できる。
【0026】
本願発明者らが見出した上流側パラメータと下流側パラメータから算出される流体固有値が、流体の物性や種類との間に所定の関係があることを利用して、流体自体について物性等について分析できるようにするには、流体分析装置が、前記測定対象の流体の種類又は物性について特定する流体性質特定装置であり、前記流体固有値算出部で算出される前記流体固有値に基づいて前記測定対象の流体の種類又は物性を特定する特定部として構成されていることを特徴とする流体性質特定装置であればよい。
【0027】
既存の上流側電気抵抗素子及び下流側電気抵抗素子に印加される上流側電圧及び下流側電圧に基づいて流体の分析を行えるようにするには、測定対象の流体が流れる流路と、前記流路の上流側に設けられた上流側電気抵抗素子と、前記流路の下流側に設けられた下流側電気抵抗素子と、を具備した流体分析装置に用いられる流体分析装置用プログラムであって、前記測定対象の流体の流量が変化した際の前記上流側電気抵抗素子を発熱させるために印加される電圧である上流側電圧の変化率に関連する値である上流側パラメータと、前記測定対象の流体の流量が変化した際の前記下流側電気抵抗素子を発熱させるために印加される電圧である下流側電圧の変化率に関連する値である下流側パラメータと、に基づいて流体の熱伝導率に応じた固有の値を示す流体固有値を算出する流体固有値算出部としての機能をコンピュータに発揮させる流体分析装置用プログラムを既存の流体分析装置の演算機構にインストールすればよい。
【0028】
上記の流体分析装置用プログラムは、既存の熱式流量計に対して用いることで測定対象の流体の種類が変更された場合でも自動的に適切なコンバージョンファクタや流量検量線データに変更されて、常に高い精度で流量を出力できる機能を付加することができる。また、上記の流体分析プログラムを既存の流体性質特定装置に対して用いれば、前記流体固有値による測定対象の種類の特定や物性の分析をするための機能を付加することができる。
【0029】
なお、プログラムについてはインターネット等を通じた配布だけでなく、例えばCD−RやDVD、フラッシュメモリ等の記録媒体に記録した各プログラムを記録しておき、これらの記録媒体を利用してインストールを行うようにしてもよい。
【発明の効果】
【0030】
このように本発明の流体分析装置を例えば熱式流量計として構成した場合には、上流側パラメータ及び下流側パラメータから算出される流体固有値に基づいて、測定対象の流体の種類や熱伝導率等の物性を特定し、測定対象の流体に応じたコンバージョンファクタや流量検量線データを自動的に設定する事が可能となる。したがって、測定対象の流体の種類が変更されるような用途であってもユーザが特別な操作をすることなく、常に高い流量精度で流量を測定することが可能となる。
【0031】
また、本願発明者らによって初めて見出された流体固有値と、流体の種類や物性との関係性を利用して、これまでにはない分析原理による流体分析装置を提供する事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の第1実施形態に係る熱式流量計を示す模式図。
図2】第1実施形態の熱式流量計の機能構成を示す機能ブロック図。
図3】第1実施形態における上流側パラメータ及び下流側パラメータの定義を示す模式的グラフ。
図4】流体の熱伝導率ごとに流体固有値の値が異なる要因について示す模式図。
図5】コンバージョンファクタの流量に対する誤差の傾向と、流体固有値とCF変化比率との関係を示す模式的グラフ。
図6】本発明の第2実施形態に係る熱式流量計及びマスフローコントローラを示す模式図。
図7】流体固有値と混合比率の関係と、混合比率と混合ガスのコンバージョンファクタの関係を示す模式図。
図8】本発明の第3実施形態に係る熱式流量計を示す機能ブロック図。
図9】本発明の第4実施形態に係る流体分析器を示す模式図。
【符号の説明】
【0033】
100・・・熱式流量計
101・・・流体分析装置
200・・・マスフローコントローラ
1u ・・・上流側定温度制御回路
1d ・・・下流側定温度制御回路
Ru ・・・上流側電気抵抗素子
Rd ・・・下流側電気抵抗素子
2 ・・・流量算出部
21 ・・・センサ出力演算値算出部
22 ・・・流体固有値算出部
23 ・・・CF算出部
231・・・混合流体CF算出部
24 ・・・流量検量線データ記憶部
25 ・・・流量換算部
27 ・・・混合比率算出部
28 ・・・混合比率検量線データ記憶部
29 ・・・流量検量線データ取得部
3 ・・・バルブ制御部
4 ・・・バルブ
5 ・・・濃度モニタ部
6 ・・・特定部
61 ・・・熱伝導率算出部
62 ・・・流体種特定部
63 ・・・対応データ記憶部
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の第1実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本明細書において流体分析装置とは、流体の運動状態等の状態に関する量や、物性に関わる量等について分析するものであり、流量を測定する流量計や、流体の種類や物性について特定する流体性質特定装置を少なくとも含む概念のものである。また、後述する流体分析部は、流体の流量を測定する場合には流量算出部として構成してある。なお、前記流体分析部は、流体の種類や物性を特定する場合には特定部として構成される。
【0035】
第1実施形態の熱式流量計100は、例えば半導体製造プロセスに用いられるガスの流量を非接触で測定するために用いられるものである。ここで、用いられるガスとしては腐食性ガス(BCl、Cl、HCl、ClF等)や反応性ガス(SiH、B等)等様々な種類のガスがあり、この熱式流量計100は不活性ガスであるHeを流した場合の流量に基づいて校正してある。
【0036】
そして、この熱式流量計100は流路を流れるガスの種類に応じて適切なコンバージョンファクタCFを自動的に選択し、ガスの種類によらず常に正確な流量が出力されるように構成してある。なお、流路を流れるガスは目的に応じてその種類を切り替えられるが、第1実施形態では単一種類のガスが流されるようにしてある。
【0037】
より具体的には、前記熱式流量計100は図1の模式図に示すように流体であるガスが流れるメイン流路MCと、前記メイン流路MCから分岐する細管内に前記メイン流路MCから分流されたガスが流れるセンサ流路SCと、前記センサ流路SCを流れるガスに基づいて流量を測定するための流量測定機構FMと、前記メイン流路MCにおける前記分岐流路の分岐点と合流点の間に設けられ、複数の内部流路を有する流体抵抗としての層流素子FRと、を備えたものである。なお、前記層流素子FRはメイン流路MC及びセンサ流路SCの分流比が所定の設計値となるように構成してあり、例えば、複数の細管を外管に挿入して形成したものや、多数の貫通孔を有した薄い平板を複数枚積層して形成したものを用いることができる。
【0038】
前記センサ流路SCは、概略U字状の中空細管により形成してあり、当該細管はステンレス等の金属製のものである。この細管のU字の底部に相当する直線状部分に前記流量測定機構FMが具備する2つの電気抵抗素子が巻き回される。
【0039】
前記流量測定機構FMは、センサ流路SCに流れるガスの流量に応じた出力するセンサ部SPと、前記センサ部SPからの出力に基づいてメイン流路MCを流れるガスの質量流量を算出する流量算出部2とから構成してある。
【0040】
前記センサ部SPは、センサ流路SCの上流側において細管の外表面に巻き付けられたコイルである上流側電気抵抗素子Ruと、センサ流路SCの下流側において細管の外表面に巻き付けられたコイルである下流側電気抵抗素子Rdとを備えている。これらの上流側電気抵抗素子Ru、下流側電気抵抗素子Rdは、温度の変化にともなって電気抵抗値が増減する発熱抵抗線で形成してあり、加熱手段と温度検出手段を1つの部材でかねることができるようにしてある。
さらにこのセンサ部SPは、定温度方式のものであり、前記上流側電気抵抗素子Ruを一部とするブリッジ回路によって上流側定温度制御回路1uを構成してあるとともに、前記下流側電気抵抗素子Rdを一部とするとブリッジ回路によって下流側定温度制御回路1dを構成してある。
【0041】
前記上流側定温度制御回路1uは、前記上流側電気抵抗素子Ru及び当該上流側電気抵抗素子Ruに対して直列に接続された温度設定用抵抗R1からなる直列抵抗群と、2つの固定抵抗R2、R3を直列に接続した直列抵抗群とを並列に接続してなる上流側ブリッジ回路と、前記上流側電気抵抗素子Ruと温度設定用抵抗R1の接続点の電位及び2つの固定抵抗の接続点の電位の差(Vu)を上流側ブリッジ回路にフィードバックし、上流側ブリッジ回路の平衡を保つようにするオペアンプからなる帰還制御回路とからなる。
【0042】
前記下流側定温度制御回路1dも上流側定温度制御回路1uと同様に、前記下流側電気抵抗素子Rd及び当該下流側電気抵抗素子Rdに対して直列に接続された温度設定用抵抗R1からなる直列抵抗群と2つの固定抵抗R2、R3を直列に接続した直列抵抗群とを並列に接続してなる下流側ブリッジ回路と、前記下流側電気抵抗素子Rdと温度設定用抵抗R1の接続点の電位及び2つの固定抵抗の接続点の電位の差(Vd)を下流側ブリッジ回路にフィードバックし、下流側ブリッジ回路の平衡を保つようにするオペアンプからなる帰還制御回路とからなる。
【0043】
ここで、前記上流側電気抵抗素子Ru及び下流側電気抵抗素子Rdは、感熱抵抗体であり、同じ抵抗温度係数の材料を用いて構成してある。そして、前記上流側電気抵抗素子Ru及び前記下流側電気抵抗素子Rdは、各帰還制御回路によって温度設定用抵抗R1と同抵抗値となるようにフィードバック制御される。すなわち、抵抗値が一定で保たれるので、前記上流側電気抵抗素子Ru及び前記下流側電気抵抗素子Rdの温度も一定に保たれるように電圧Vu、Vdは制御される。第1実施形態では、Vu、Vdが上流側電気抵抗素子Ru、下流側抵抗素子Rdを発熱させるために印加される電圧である上流側電圧Vu、下流側電圧Vdとして用いられる。
【0044】
前記流量算出部2(流体分析部)は、前記上流側電気抵抗素子Ruを発熱させるために印加される電圧である上流側電圧Vuと、前記下流側電気抵抗素子Rdを発熱させるために印加される電圧である下流側電圧Vdとに基づいて前記センサ流路SCを流れている測定対象のガスの流量を算出するものである。そして、前記流量算出部2は、メモリ、CPU、入出力手段、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ等を具備するいわゆるコンピュータによってメモリに格納されている流量算出用プログラムが実行されることによりその機能が実現されるものである。すなわち、前記流量算出部2は、図2の機能ブロック図に示すように少なくともセンサ出力演算値算出部21、流体固有値算出部22、CF算出部23、流量検量線データ記憶部24、流量換算部25としての機能を実現するように構成してある。
【0045】
各部について説明する。
【0046】
前記センサ出力演算値算出部21は、前記上流側電圧Vu及び前記下流側電圧Vdと、所定のセンサ出力演算値算出式とに基づいてセンサ出力演算値を算出するものである。第1実施形態では、上流側電圧Vuと下流側電圧Vdの差を、上流側電圧Vuと下流側電圧Vdの和で割った値をセンサ出力演算値としており、前記センサ出力演算値算出式はセンサ出力演算値Vc、上流側電圧Vu、下流側電圧Vdを用いて以下のように表される。
【0047】
Vc=(Vu−Vd)/(Vu+Vd)
【0048】
ここで、Vu−Vdは流体の流量及び温度に依存する関数であり、Vu+Vdは流体の温度のみに依存する関数である。したがって、センサ出力演算値Vcは流体の温度による影響を排除し、流体の流量のみ依存する関数となっている。
【0049】
前記流体固有値算出部22は、前記測定対象のガスの流量が変化した際の前記上流側電圧Vuの変化率に関連する値である上流側パラメータΔVuと、前記測定対象のガスの流量が変化した際の前記下流側電圧Vdの変化率に関連する値である下流側パラメータΔVdと、に基づいて流体固有値Nを算出するものである。ここで、上流側電圧Vu、上流側パラメータΔVu、下流側電圧Vd、下流側パラメータΔVdの関係について説明する。
【0050】
図3は流量と上流側電圧Vu及び下流側電圧Vdの関係について示すグラフである。定温度方式の熱式流量計100の場合、センサ流路SC内にガスが流れていない場合には上流側電圧Vuと下流側電圧Vdは略等しい電圧値となる。これは、ガスが流れていないので上流側電気抵抗素子Ruで加えられる熱が下流側の下流側電気抵抗素子Rdに移動することがないため、所定の温度を保つために上流側電気抵抗素子Ru及び下流側電気抵抗素子Rdで同じ電圧が印加される必要があるからである。
【0051】
一方、ガスが流れている状態では、上流側電気抵抗素子Ruによりガスに加えられる熱が下流側電気抵抗素子Rdに移動することになる。したがって、同じ温度を保とうとすると、熱を奪われる側である上流側電気抵抗素子Ruにはより大きな電圧が必要となり、上流側から熱が与えられる側である下流側電気抵抗素子Rdではガスが流れていない状態と比較して小さな電圧で十分となる。このため、センサ流路SCを流れるガスの流量に比例して上流側電圧Vuは大きくなり、下流側電圧Vdは小さくなっていくことになる。そして、流量に対する上流側電圧Vu及び下流側電圧Vdの変化率はガスの種類、より具体的には熱伝導率に応じて変化する。前記上流側パラメータΔVu、前記下流側パラメータΔVdはこの流量に対する上流側電圧Vu及び下流側電圧Vdの変化率を表すものであり、第1実施形態では図3のグラフに示すようにある流量が流れている状態での上流側電圧Vu及び下流側電圧Vdからガスが流れておらず停止している状態での上流側電圧Vu及び下流側電圧Vdを引いた値をそれぞれ上流側パラメータΔVu、下流側パラメータΔVdとしている。なお、上流側パラメータΔVu、下流側パラメータΔVdとしては、流量を変数とする上流側電圧Vu、下流側電圧Vdの一次関数の傾き、前記傾きに相当する正接等様々なものを用いてもよい。
【0052】
そして、第1実施形態では前記流体固有値算出部22は、前記上流側パラメータΔVuと前記下流側パラメータΔVdの比を流体固有値Nとして算出するように構成してある。より具体的には、前記流体固有値Nは、上流側パラメータΔVuを下流側パラメータΔVdで割った値にしてある。この流体固有値Nとガス種ごとに固有の熱伝導率の逆数である熱抵抗率との間に相関関係があり、一次式でその関係性を記述することができる。別の表現をすると、前記流体固有値Nは、ガス種ごとに固有の値となり、しかも、この流体固有値Nを所定の算出式に代入することで熱抵抗率又は熱伝導率を算出することができる。したがって、流体固有値Nを算出することで現在センサ流路SCを流れているガスの種類を特定したり、流れている流体の熱抵抗率又は熱伝導率を算出し、流量の算出時の補正に用いたりすることができる。このような上流側パラメータΔVuと下流側パラメータΔVdに基づいて算出されるガス種ごとの流体固有値Nと、熱抵抗率又は熱伝導率との関係性については本願発明者らが鋭意検討の結果初めて見出したものである。
【0053】
次に、上流側パラメータΔVu、下流側パラメータΔVdから算出される流体固有値Nがガス種ごとに固有の値となり、しかも、熱抵抗率又は熱伝導率と所定の関係を有している理由について定性的に説明する。
【0054】
図4のグラフに示すように、センサ流路SCを流れるガスの種類、すなわち、ガスの熱伝導率が異なっていると、センサ流路SCにおいて上流側電気抵抗素子Ru及び下流側電気抵抗素子Rdの巻かれている部分における温度分布も異なる。より具体的には、Heガスのように熱伝導率が良く、熱の受け渡しが速やかに行われる場合には上流側電気抵抗素子Ru及び下流側電気抵抗素子Rdの巻かれている範囲内で略遅れることなく温度上昇が発生する。Heガスのように熱伝導率の良いガスの場合には、上流側と下流側で略一対一の熱の受渡が行われるため、上流側パラメータΔVuと下流側パラメータΔVdの絶対値は略同じ値となり、流体固有値Nは1に近い値となる。一方、Heガスと比較して熱伝導率の低いNガスの場合には、上流側電気抵抗素子Ruの入口を少し通過した地点で設定されている温度となり、下流側電気抵抗素子Rdの出口を少し通過した地点で元の温度となるような温度分布となる。つまり、Nガスに対して上流側で与えられた熱は若干の時間遅れを持って下流側へ伝達されることになるので、下流側パラメータΔVdの絶対値は上流側パラメータΔVuの絶対値と比較して小さくなり、流体固有値Nも1よりも小さい値となる。
【0055】
次に図2に示すCF算出部23について説明する。
【0056】
前記CF算出部23は、前記流体固有値Nに基づいて、前記測定対象の流体であるセンサ流路SCを流れるガスのコンバージョンファクタCFを算出するものである。ここでコンバージョンファクタCFとは、前記熱式流量計100を校正した際に用いたガス種とは異なるガス種が流れている場合に、出力される流量値を補正するために用いられる係数である。第1実施形態ではHeガスによって前記センサ出力演算値Vcと、実際に流れているガスの流量との間の関係を示す流量検量線データEqを校正してあるので、流路に流れているガスがHeガスの場合コンバージョンファクタCFは1となり、その他のガス種の場合には固有のコンバージョンファクタCFが算出される。ところで、コンバージョンファクタCFは、全ての流量値に対して一定の値を取るのではなく、流量の増加に伴って変化する値である。そこで、前記CF算出部23は、前記流体固有値Nに基づいて、校正に用いたガスを基準にした場合に算出される流量に対するコンバージョンファクタCFの変化比率であるCF変化比率Rを算出し、前記CF変化比率Rを傾きとする流量の一次式から前記測定対象のガスの各流量に対する前記コンバージョンファクタCFを算出するように構成してある。より具体的には、図5(a)のグラフに示すように、流量が増加するほどコンバージョンファクタCFの誤差は大きくなる傾向がある。そして、流量がゼロから所定の流量Q0までの間(一定区間)はガス種に拘わらずコンバージョンファクタCFは一定値を取るが、所定の流量Q0を超えると(CF変化区間)流量が増加するにつれてガス種ごとに固有の傾きでコンバージョンファクタCFが増加する。このCF変化区間におけるガス種ごとの固有の傾きであるCF変化比率Rは、熱抵抗率に依存するので、熱抵抗率と一対一の対応関係がある流体固有値Nにも依存する。したがって、CF変化比率Rは流体固有値Nの二次関数として表現することができる。
【0057】
このため、前記CF算出部23は、まず前記流体固有値算出部22で算出された流体固有値NからCF変化比率Rを算出し、算出されたCF変化比率Rと、所定の流量Q0の時のコンバージョンファクタCFであるCFを用いて、CF変化区間におけるコンバージョンファクタCFを流量の一次式として算出するように構成してある。具体的な式としては基準のガスに基づいた出力流量をQとした場合に以下のようになる。
【0058】
CF=CF(1+(R−1)*Q/100)
【0059】
図2に示す前記流量検量線データ記憶部24は、1つの基準のガスであるHeガスについて、前記センサ出力演算値と、流量との関係を示す流量検量線データEqを記憶するものである。より具体的には、前記流量検量線データ記憶部24はHeガスの流量と前記センサ出力演算値Vcとの関係を一次関数として記憶している。すなわち、センサ流路SCに流れているガスがHeの場合にはこの流量検量線データEqに前記センサ出力演算値Vcを代入すれば現在流れている流量が得られる。
【0060】
前記流量換算部25は、前記基準の流体の流量検量線データEq及び前記測定対象のガスのコンバージョンファクタCFに基づいて、前記センサ出力演算値算出部21において算出されたセンサ出力演算値を前記測定対象のガスの流量に換算するものである。すなわち、前記流量換算部25は、前記流量検量線データEqに前記センサ出力演算値Vcが代入されて算出される基準のガスの流量に対してコンバージョンファクタCFを乗じることにより、現在センサ流路SCに流れているガス種に適合した流量を出力するものである。
【0061】
このように第1実施形態の熱式流量計100によれば、前記上流側パラメータΔVu及び下流側パラメータΔVdに基づいて算出され、ガス種ごとに固有の熱抵抗率、熱伝導率と一対一に対応する流体固有値Nを算出するように構成してある。そして、この流体固有値Nに基づいて流量値を補正するために必要なコンバージョンファクタCFを適宜、自動的に算出することができる。したがって、ガス種の切り替えが行われた場合でもユーザが使用すべきコンバージョンファクタCFを設定する必要がなく、流体固有値Nから算出されたコンバージョンファクタCFによりガス種によらず、常に正確に流量を出力することができる。
【0062】
別の側面から考えると、第1実施形態の熱式流量計100は、流量を算出するために必須の値である上流側電気抵抗素子Ru及び下流側電気抵抗素子Rdを発熱させるために印加される上流側電圧Vu及び下流側電圧Vdに基づいて、別途センサを付加することなく、ガス種やガスごとの熱抵抗率や熱伝導率、ひいてはコンバージョンファクタCFといった物性を得ることができる。つまり、従来からある熱式流量計100のハードウェア構成を変更することなく、ソフトウェアの変更のみで前記流体固有値Nに基づいてコンバージョンファクタCF等といった従来得られなかった測定対象のガスの物性を得ることができ、流量出力の精度を向上させることができる。
【0063】
このように別途ガス種を特定するためのセンサを設ける、あるいは、ユーザが熱式流量計100の設定変更を行わなくても良いようにできたのでは、本願発明者ら鋭意検討の結果、熱式流量計100において得られる電圧から算出可能な流体固有値Nと、ガス種ごとに固有の熱抵抗率、熱伝導率とが一対一の関係を有していることを初めて見出したことに基づいている。
【0064】
次に第2実施形態の熱式流量計100及びこの熱式流量計100を用いたマスフローコントローラ200について説明する。なお、第1実施形態と対応する部材には同じ符号を付すこととする。また、第2実施形態では流路に流れるガスは単一種類のガスに限られず、2種類のガスを混合した混合ガスが流路を流れる場合もある。
【0065】
図6(a)に示すように前記マスフローコントローラ200は、メイン流路MC上に設けられたバルブ4と、前記バルブ4の下流側に設けられた前記熱式流量計100と、前記熱式流量計100における流量演算や前記バルブ4の開度制御のための制御演算等の各種演算を司る演算機構COMと、を備えたものである。前記バルブ4は、例えばピエゾバルブ4であって印加される電圧によりその開度を全閉から全開までの間で制御することができる。前記演算機構COMは、CPU、メモリ、入出力手段、A/D、D/Aコンバータ等からなるいわゆるコンピュータによりその機能が実現されるものであって、メモリに格納されたプログラムが実行されることにより図6(b)に示すように前記熱式流量センサの一部である流量算出部2、流路を流れるガスにおいて特定種類のガスの濃度をモニタリングする濃度モニタ部5、前記バルブ4の開度を前記熱式流量計100から出力される出力流量に基づいて制御するバルブ制御部3としての機能を発揮するように構成してある。
【0066】
各部について説明する。
【0067】
前記流量算出部2は、第1実施形態のものと共通した構成も有しているが、流路に流れる流体が複数の種類のガスを混合した混合ガスでも対応できるように構成してある点で異なっている。より具体的には、第2実施形態の前記流量算出部2は第1実施形態と略同一の構成として、センサ出力演算値算出部21、流体固有値算出部22、流量検量線データ記憶部24、流量換算部25を有している。一方、第2実施形態の前記流量算出部2は、第1実施形態のCF算出部23の代わりに混合比率算出部27、混合比率検量線データ記憶部28、混合流体CF算出部231を有している点で異なっている。以下の説明では、第1実施形態において説明した事項は省略し、第2実施形態に固有の構成について詳述する。なお、第2実施形態では、測定対象の流体が2種類のガスが所定の混合比率で混合されたものであり、第1流体がHガス、第2流体がCOガスの場合について説明する。また、混合比率及び濃度についてはHガスに注目して記述することとする。
【0068】
前記混合比率検量線データ記憶部28は、HガスとCOガスの混合比率と、HガスとCOガスが各種混合比率で混合された状態の混合ガスの流体固有値Nとの関係を示す混合比率検量線データを記憶するものである。すなわち、複数種類のガスが混合されている場合、混合ガスの流体固有値Nは各ガスの流体固有値Nを混合比率(濃度)によって加重平均した値となる。より具体的には第1流体の濃度をC1、第2流体の濃度をC2、第1流体の流体固有値NをN1、第2流体の流体固有値NをN2とした場合、混合流体の流体固有値Nmixは以下のように表すことができる。
【0069】
mix=N1・C1/(C1+C2)+N2・C2/(C1+C2)
【0070】
前記混合比率検量線データ記憶部28は、上式に基づいて図7(a)に示すようなHガスの混合比率と、混合ガスの流体固有値Nとの関係である混合比率検量線データを一次式として記憶している。
【0071】
前記混合比率算出部27は、前記流量算出部2において算出される前記測定対象の流体の流体固有値Nと、前記混合比率検量線データとから前記混合比率を算出するものである。より具体的には、前記混合比率算出部27は、前記流体固有値算出部22が上流側パラメータΔVu及び下流側パラメータΔVdに基づいて算出した流体固有値Nから、図7(a)の混合比率検量線データを参照し、センサ流路SCに流れている現在のHガスの混合比率を算出する。この混合比率算出部27は、前記流体固有値算出部22から算出される流体固有値Nに変化があった場合には再度混合比率を算出するように構成してある。
【0072】
前記混合流体CF算出部231は、前記混合比率算出部27で算出された混合比率に基づいて、前記測定対象の流体のコンバージョンファクタCFを算出するものである。より具体的には、前記混合流体CF算出部231は、HガスのコンバージョンファクタCFと、COガスのコンバージョンファクタCFについて算出された混合比率により加重平均を取ることで混合ガスのコンバージョンファクタCFを算出するように構成してある。すなわち、図7(b)に示すような水素ガスの混合比率と、混合ガスのコンバージョンファクタCFの関係を示すコンバージョンファクタCF検量線データについて算出された混合比率から対応するコンバージョンファクタCFを参照するようにしてある。また、この混合流体CF算出部231も前記混合比率算出部27から算出される混合比率が変化した場合には、再度コンバージョンファクタCFを算出するように構成してある。したがって、前記混合比率算出部27及び前記混合流体CF算出部231は、混合ガスの組成に変化があり、流体固有値Nが変化した場合にはそれに合わせてコンバージョンファクタCFを算出するので、常に流量誤差を発生させずに出力される流量を正確なものにすることができる。
【0073】
前記濃度モニタ部5は、前記混合比率算出部27で得られた混合比率に基づいてHガスの濃度を監視しているものである。すなわち、前記濃度モニタ部5は、常時出力されている上流側パラメータΔVu及び下流側パラメータΔVdから算出される流体固有値Nに基づいて、別途濃度センサをセンサ流路SCに設けることなく、センサ流路SC内を流れる混合ガス中のHの濃度を監視していることになる。この濃度モニタ部5から出力されるHガスの濃度は例えば前記マスフローコントローラ200の制御に用いたり、外部に対して現在の混合ガスの状態を表示したりするために用いられる。
【0074】
前記バルブ制御部3は、前記熱式流量計100の流量換算部25から出力される出力流量値とユーザによって予め設定されている設定流量値との偏差が小さくなるように前記バルブ4の開度をフィードバック制御するものである。例えばこのバルブ制御部3は、PID制御によって前記バルブ4の開度を制御するものであり、PID制御に用いられるPID係数は前記流体固有値算出部22で算出される流体固有値N、又は、前記濃度モニタ部5から出力されるHガスの濃度に基づいて変更するように構成してある。より具体的には、流体固有値Nの値によってセンサ流路SCに流れているガスの種類が分かり、前記濃度モニタ部5から各ガスの濃度が分かるので、流路を流れるガスの粘性等の流れに関するパラメータも推定する事が可能である。したがって、前記バルブ制御部3は前記流体固有値Nから特定されるガス種又はその粘性等に応じて最も応答特性の良くなるPID係数を設定するようにしてある。流体固有値Nに応じて設定されるPID係数は、例えば予め実験等により最適なものを定めておいてもよい。
【0075】
このように第2実施形態の熱式流量計100及びマスフローコントローラ200によれば、複数種類のガスが混合された混合ガスであっても混合ガスの流体固有値Nに基づいて、その混合ガスのコンバージョンファクタCFを算出し、流量誤差を補正することができる。また、混合比率が変化するような混合ガスであったとしても、逐次その組成に応じたコンバージョンファクタCFを算出して流量誤差の補正を行うことができるので、常に正確流量を出力することができる。
【0076】
また、前記熱式流量計100によって流れているガスの種類や組成によらず常に正確な流量が出力されるので、実際に流れている流量を設定流量値に正確に維持することができ、流量制御精度も高いものにできる。
【0077】
また、前記濃度モニタ部5において混合ガス中のHガスの濃度も監視できるので、流量制御を行いつつ、濃度管理も合わせて行うことができる。このHガスの濃度の測定は従来のように白金センサ等を直接流体に接触させる必要がなく、非接触による濃度測定が可能である。したがって、混合ガス中に反応性ガスや腐食性ガスが含まれている場合でも容易に濃度を測定する事が可能である。
【0078】
次に第3実施形態の熱式流量計100について図8を参照しながら説明する。第3実施形態の説明でも第1実施形態に対応する部材には同じ符号を付すこととする。
【0079】
第3実施形態の熱式流量計100は、コンバージョンファクタCFを算出するのではなく、各流体の種類ごとに予め校正された流量検量線データEqを作成しておき、現在流路に流れていると推定される流体に対応する流量検量線データEqを取得して、流量の算出を行うように構成してある。
【0080】
すなわち、第3実施形態の流量算出部2は、センサ出力演算値算出部21と、流体固有値算出部22と、流量検量線データ記憶部24と、流量検量線データ取得部29と、流量換算部25とを備えており、第1実施形態の流量算出部2と比較すると、センサ出力演算値算出部21、流体固有値算出部22、流量換算部25については略同様の構成を有している。一方、第3実施形態の前記流量検量線データ記憶部24は、第1実施形態のように基準の流体の流量検量線データEqだけを記憶しているのではなく、使用する可能性のある流体についてそれぞれ流量検量線データEqを記憶している。より具体的に、前記流量検量線データ記憶部24は、複数のガス種と、そのガス種に対応する流量検量線データEqを対にして記憶している。
【0081】
前記流量検量線データ取得部29は、前記流体固有値算出部22で算出された流体固有値Nに対応する種類の流体の流量検量線データEqを前記流量検量線記憶部から取得するように構成してある。より具体的には、前記流量検量線データ取得部29は、予め記憶しているガス種と流体固有値Nの対応関係データのうち、算出された流体固有値Nと、一致する、あるいは、最も近い値となるガス種を検索する。そして前記流量検量線データ取得部29は、検索されたガス種に対応する流量検量線データEqを前記流量検量線データ記憶部24から取得する。
【0082】
このようなものであっても流路に流れるガス種が変更された場合でもそのガス種に対応した流量検量線データEqが設定されて、前記流量換算部25においてセンサ出力演算値から流量への変換が正確に行われることになる。
【0083】
すなわち、第1実施形態では流体固有値Nが熱抵抗率と一対一に対応する量であることを利用して適宜コンバージョンファクタCFを算出し、流量誤差を補正していたのに対して、第3実施形態では、流体固有値Nがガスごとに固有の値であることを利用してガス種を特定し、そのガス種に対応する流量検量線データEqが使用されるようにすることで常に正確な流量が出力されるようにしてある。第3実施形態のように構成すれば、ガス種の切り替えごとにコンバージョンファクタCFを算出しなくてもよいので、演算負荷を小さくしながらガス種に関わりなく流量の出力精度を高めることができる。
【0084】
次に第4実施形態の流体分析装置101について図9を参照しながら説明する。なお、第4実施形態において第1実施形態と対応する部材には同じ符号を付すこととする。
【0085】
第4実施形態の流体分析装置101は、流量の出力は行わないが第1実施形態と同様に上流側電気抵抗素子Ru及び下流側電気抵抗素子Rdを発熱させるために印加される電圧を用いて流体固有値Nを算出する点で共通している。
【0086】
すなわち、前記流体分析装置101は図9(a)に示すように流路を形成する管に対して巻き回された上流側電気抵抗素子Ru及び下流側電気抵抗素子Rdを具備する流体加熱部FHと、前記流体加熱部FHにおいて前記上流側電気抵抗素子Ru及び前記下流側電気抵抗素子Rdを発熱させるために印加される上流側電圧Vu及び下流側電圧Vdに基づいて特定部6とから構成してある。
【0087】
前記流体加熱部FHは、第1実施形態の熱式流量計100と同様に上流側電気抵抗素子Ru及び下流側電気抵抗素子Rdの温度を一定に保つように制御する定温度制御回路が構成してある。この構成及び動作については第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0088】
前記特定部6(流体分析部)は、いわゆるコンピュータ等によってその機能が実現されるものであり、前記流体加熱部FHから出力される上流側パラメータΔVu及び下流側パラメータΔVdに基づいて流体の熱伝導率に応じた固有の値を示す流体固有値Nを算出し、前記流体固有値Nに基づいて前記測定対象の流体の種類又は物性を特定するように構成してある。そして、前記特定部6は図9(b)の機能ブロック図に示すように少なくとも流体固有値算出部22と、熱伝導率算出部61と、対応データ記憶部63と、流体種特定部62としての機能を発揮するように構成してある。
【0089】
前記流体固有値算出部22は、第1実施形態と同様に上流側パラメータΔVuと下流側パラメータΔVdの比によって流体固有値Nを算出するものである。
【0090】
前記熱伝導率算出部61は、前記流体固有値Nと熱伝導率の関係を示す一次式に基づいて前記流体固有値算出部22で算出された流体固有値Nに対応する熱伝導率を算出するものである。この一次式は熱伝導率が既知の複数種類の流体について、流体固有値Nを実測した結果から同定してある。
【0091】
前記対応データ記憶部63は、流体種とその流体種の流体固有値Nを対にした対応データを記憶するデータベースである。
【0092】
前記流体種特定部62は、前記流体固有値算出部22において算出された流体固有値Nと一致する、あるいは、値の近い流体種を前記対応データ記憶部63から検索し、検索された流体種を出力するものである。
【0093】
このように第4実施形態の流体分析装置101によれば、本願発明者らの見出した流体固有値Nの特性を利用して流体の熱伝導率を測定したり、流体の種類を特定したりすることが可能となる。
【0094】
その他の実施形態について説明する。
【0095】
前記各実施形態では、上流側電気抵抗素子及び下流側電気抵抗素子の温度を一定に保つように電圧を印加する定温度方式において得られる上流側電圧、下流側電圧、上流側パラメータ、下流側パラメータに基づいて流体固有値を算出していたが、例えば定電流方式で電圧を印加した際に得られる上流側電圧、下流側電圧、上流側パラメータ、下流側パラメータに基づいて流体固有値を算出してもよい。また、上流側電圧Vu、下流側電圧Vdは、環境温度が25℃等の標準状態では流体が流れていない場合には、それぞれ同じ値を示すが、温度が高くなると上流側電圧Vuと下流側電圧Vdが乖離することがある。このような状態では例えば図3に示したような上流側パラメータΔVu、下流側パラメータΔVdの場合には、流体固有値Nの値が環境温度に依存して変化してしまう。このような環境温度の影響を受けず、流体ごとに流体固有値Nが略一定の値として算出されるようにするには、流体が流れていない状態における前記上流側電圧Vuと下流側電圧Vdが標準状態における値となるように補正し、その補正された上流側パラメータΔVu+αと、補正された上流側パラメータΔVd+βに基づいて流体固有値Nを算出するようにすればよい。α、βについては、例えば環境温度の関数として定義してもよい。より具体的にはα、βを環境温度や環境温度又は流体の温度と相関するVu+Vd等の温度指標の一次関数として定義しておき、適宜上流側パラメータ及び下流側パラメータを補正できるようにすればよい。
また、本発明は前記定温度方式、前記定電流方式に限られるものではなく、上流側電気抵抗素子及び下流側電気抵抗素子の温度差を一定に保つように電圧を印加する低温度差方式において得られる重量側電圧、下流側電圧、上流側パラメータ、下流側パラメータに基づいて流体固有値を算出するようにしてもよい。
【0096】
前記第2実施形態では、混合ガスの濃度をモニタリングするために前記流体固有値を利用したが、例えば、ガス種の切り替えのためにパージガスにより残留している測定対象のガスをパージする際に残留ガスが存在していないかどうかをチェックする用途に用いても構わない。つまり、前記流体固有値算出部により算出された流体固有値が、パージガスの流体固有値と同じ値となった場合にパージが完了したと判定するパージ判定部を備えた熱式流量計又はマスフローコントローラであっても構わない。
【0097】
また、濃度モニタリング、熱伝導率の測定、流体種の判別等は流量測定と必ずしもセットで行う必要はなく、前記流体固有値を用いた濃度計、熱伝導率計、ガス種判定器として構成しても構わない。流体固有値を用いた測定を行うようにすれば、非接触により流体の物性等を特定する事が可能となるので、例えば、燃料電池中のガスの濃度等も好適に測定することができる。
本発明の熱式流量計や流体分析装置としての機能をコンピュータに発揮させるためのプログラムを記憶したプログラム記憶媒体を用いて、既存の装置にプログラムをインストールし、その機能を実現させるようにしても構わない。プログラム記憶媒体としては、CD、DVD、HDD、フラッシュメモリ等様々なものを用いても構わない。
【0098】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な変形や実施形態の組み合わせを行っても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明を用いれば、熱式流量計の構成だけを用いて流体種を特定でき、コンバージョンファクタや流量検量線データといった流体種に固有のパラメータを自動的に算出できる高機能な熱式流量計を提供することができる。このような熱式流量計であれば、例えば半導体製造工程等においてガスの流量を正確に測定及び制御し、高精度に製品の製造を行うことができるようになる。
図1
図2
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図4
図5
図6
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図8
図9