特許第6354002号(P6354002)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6354002
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】卵スプレッド及び卵加工食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 15/00 20160101AFI20180625BHJP
【FI】
   A23L15/00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-515318(P2018-515318)
(86)(22)【出願日】2017年11月30日
(86)【国際出願番号】JP2017043127
【審査請求日】2018年3月22日
(31)【優先権主張番号】特願2017-2204(P2017-2204)
(32)【優先日】2017年1月10日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】小島 聡暁
(72)【発明者】
【氏名】梶 聡美
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 洋
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 正記
(72)【発明者】
【氏名】森田 秋生
【審査官】 中村 勇介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−160313(JP,A)
【文献】 特開2004−033033(JP,A)
【文献】 特開平07−123951(JP,A)
【文献】 特開昭59−159758(JP,A)
【文献】 特開2017−163909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L13/00−17/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、加熱凝固した卵白を含む第一の層、及び、加熱凝固した卵黄を含む第二の層が積層した積層体と、
水中油型乳化組成物と、を含み、
前記第一の層と前記第二の層とが固着している、卵スプレッド
【請求項2】
請求項1に記載の卵スプレッドにおいて、
前記卵スプレッドを流速1.1m/sの水流で1分間洗浄したとき、洗浄した前記卵スプレッド中の前記積層体の一部が、前記卵白を含む層と前記卵黄を含む層とが固着した状態で残存する、卵スプレッド
【請求項3】
請求項2に記載の卵スプレッドにおいて、
前記卵白を含む層と前記卵黄を含む層とが固着した状態で残存する前記一部は、洗浄に供した前記卵スプレッドのうち10質量%以上である、卵スプレッド
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の卵スプレッドにおいて、
前記第二の層は澱粉を含む、卵スプレッド
【請求項5】
少なくとも、加熱凝固した卵白を含む第一の層、及び、加熱凝固した卵黄を含む第二の層が積層した積層体と、
水中油型乳化組成物と、を含み、
前記第一の層と前記第二の層とが固着しており、
前記積層体は、前記第二の層の前記第一の層と接している面とは反対の面に、加熱凝固した卵白を含む第三の層が積層しており、前記第二の層と前記第三の層とが固着している、卵加工食品。
【請求項6】
請求項1からのいずれか1項に記載の卵スプレッドにおいて、
前記第一の層の、前記第一の層と前記第二の層との界面に隣接する面のうち、少なくとも一つの面が平面状である、卵スプレッド
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は卵加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
サンドウィッチの中具等に使用する卵スプレッドが従来知られている。特許文献1には、卵白に澱粉を添加したスラリーを加熱凝固してなる加熱凝固卵白、及び、当該加熱凝固卵白を用いたタマゴスプレッドが記載されている。
【0003】
特許文献2には、ホール生卵を加熱して凝固させることにより略板状加熱凝固卵を得て、卵スプレッドを製造する方法が記載されている。
【0004】
しかしながら、ホール卵を用いなくても、優れた卵風味を有する新たな卵加工食品が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特許公開公報「特開2005−73537号公報(2005年3月24日公開)」
【特許文献2】日本国特許公開公報「特開2013−111032号公報(2013年6月10日公開)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の一態様の目的は、ホール卵を用いずに製造でき、より優れた卵風味を有する卵加工食品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。その結果、加熱凝固した卵白を含む第一の層、及び加熱凝固した卵黄を含む第二の層を固着させたものは、卵風味により優れ、ホール卵を用いずに製造可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の一態様は、
(1)少なくとも、加熱凝固した卵白を含む第一の層、及び、加熱凝固した卵黄を含む第二の層が積層した積層体と、水中油型乳化組成物と、を含み、前記第一の層と前記第二の層とが固着している、卵加工食品、
(2)前記卵加工食品を流速1.1m/sの水流で1分間洗浄したとき、洗浄した前記卵加工食品中の前記積層体の一部が、前記卵白を含む層と前記卵黄を含む層とが固着した状態で残存する、(1)の卵加工食品、
(3)前記卵白を含む層と前記卵黄を含む層とが固着した状態で残存する前記一部は、洗浄に供した前記卵加工食品のうち10質量%以上である、(2)の卵加工食品、
(4)前記第二の層は澱粉を含む、(1)〜(3)のいずれか一つの卵加工食品、
(5)前記積層体は、前記第二の層の前記第一の層と接している面とは反対の面に、加熱凝固した卵白を含む第三の層が積層しており、前記第二の層と前記第三の層とが固着している、(1)〜(4)のいずれか一つの卵加工食品、
(6)前記第一の層の、前記第一の層と前記第二の層との界面に隣接する面のうち、少なくとも一つの面が平面状である、(1)〜(5)のいずれか一つの卵加工食品、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、ホール卵を用いずに製造でき、より優れた卵風味を有する卵加工食品を提供できる。したがって、卵加工食品の更なる需要拡大が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明の一態様を詳細に説明する。なお、本明細書中において「%」は濃度について用いる場合「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0011】
<卵加工食品>
本発明の一態様に係る卵加工食品は、少なくとも、加熱凝固した卵白を含む第一の層、及び、加熱凝固した卵黄を含む第二の層が積層した積層体と、水中油型乳化組成物と、を含み、前記第一の層と前記第二の層とが固着している。
【0012】
<卵加工食品の効果>
本発明の一態様に係る卵加工食品は、卵黄を含む層と卵白を含む層とが固着しているので、卵白由来の卵風味が卵黄に移行し易い。その結果、卵黄と卵白とが一体感を有する。そのため、本発明の一態様に係る卵加工食品は、卵風味により優れている。また、卵黄を含む層と卵白を含む層とが固着されていればよいため、ホール卵を用いなくても製造できる。
【0013】
<積層体>
本発明の一態様に係る卵加工食品が含む積層体は、加熱凝固した卵白を含む第一の層、及び、加熱凝固した卵黄を含む第二の層が積層したものである。また、積層体は、第一の層と第二の層とが固着している。
【0014】
第一の層と第二の層とが固着しているということは、第一の層の位置と第二の層の位置とが互いに固定されていることを意味する。第一の層と第二の層とは互いに強固に着いており、一方から他方を取り外し難い。例えば目玉焼き、及びゆでたまごにおいては、加熱凝固した卵黄は、加熱凝固した卵白から簡単に取り外せる。これは卵黄と卵白との間に卵黄の表面の卵黄膜が残るためである。これに対し、本発明の一態様に係る卵加工食品に含まれる積層体では、それぞれの層を個別の層に完全に分離することが難しい。個々の層に分離しようとしても、第一の層の表面に、第二の層の一部が残留する。なお、この時残留する第二の層は本発明の一態様においては第一の層に比べて薄い状態であってもよい。例えば、第一の層上に薄膜状の第二の層が残留していることも、本発明における「固着」の範疇である。このように第一の層と第二の層とが固着していることにより、前述の通り優れた卵風味が得られる。また、加工の際に、撹拌、切断等の処理を行なっても、第一の層と第二の層とが固着した構造が維持されやすい。
【0015】
<固着の評価方法>
第一の層と第二の層との固着の程度は、洗浄試験により評価する。洗浄試験は、次の通り行なう。卵加工食品を目開き4mmの篩(JIS規格、4.7メッシュ)に静置し、流速1.1m/sの水流となるように調整した水道水で洗浄した後、目開き4mmメッシュオンとなった固形物のうち、卵黄を含む層と卵白を含む層とが固着した状態の積層体を選別し、該積層体の質量を測定する。なお、洗浄時間は500gの卵加工食品であれば、水道水が均等に当たるように1分間洗浄するとよい。
【0016】
本発明の一態様に係る卵加工食品中の積層体は、流速1.1m/sの水流で洗浄されたとき、洗浄に供した積層体の一部が、卵黄を含む層と卵白を含む層とが固着した状態で残存することが好ましい。前記一部は、洗浄した前記卵加工食品を全量として下限値は10%以上であることがより好ましく、20%以上がより好ましく、25%以上がより好ましく、また上限値は特に限定しないが、卵加工品への積層体の含有量に応じた効果が得られ難いことから、90%以下であることが好ましく、70%以下であることが好ましく、50%以下であることが好ましい。前述の洗浄後に、卵黄を含む層と卵白を含む層とが固着した状態で残存することは、加熱凝固した卵黄と、加熱凝固した卵白とが、より安定して、接触した状態であることを意味するため、卵加工食品がより優れた卵風味を有する。
【0017】
<積層体の形状>
本発明の一態様に係る卵加工食品が含む積層体の形状は、特に限定されず、用途に応じた形状にすることができる。積層体を、所望の形状に加工してもよく、所望の形状になるように積層させながら、積層体を製造してもよい。積層体の形状は、例えば、第一の層と第二の層との界面に隣接する面のうち、少なくとも一つの面が平面状である形状である。また、前記形状としては、例えばダイス状、略四面体状、茹で卵卵白の外縁の卵の形状を模した曲面形状や、茹で卵の内縁の球状に凝固した卵黄と接する卵の形状を模した曲面形状等が挙げられる。大きなサイズの積層体を製造した後に小さく加工するとき、撹拌翼の付いた攪拌機を用いて加工すると、第一の層と第二の層との界面に隣接する面が平面状になりやすい。また、ダイス状になり易い。しかし、本発明の一態様によれば、このような加工をしても積層体の第一の層と第二の層とが外れにくい。よって、大量に卵加工食品を製造する際に有益である攪拌機を好適に利用することができる。
【0018】
<第一の層>
本発明の一態様に係る卵加工食品が含む第一の層は、加熱凝固した卵白を含む。
【0019】
<卵白>
本明細書中において、卵白とは、卵白成分からなり、生卵白と同等の固形分濃度11.6%にしたとき、加熱により完全に凝固する性質を有するものである。このような卵白としては、殻付卵を割卵して卵黄と分離して得られる生卵白は勿論のこと、例えば、糖分、リゾチーム等の卵白成分の一部を除去したもの、オボアルブミン等の卵白成分の一部を分画したもの、並びにこれらの卵白又は卵白画分に濾過、殺菌、凍結、乾燥等の各種処理を施したもの、若しくは前記凝固性を有する程度、酵素、酸、アルカリ等で加水分解した卵白分解物等が挙げられる。
【0020】
積層体を製造するとき、卵白は、例えば、公知の方法で撹拌して、均一な液体状としたものを用いることが好ましい。取り扱いが容易だからである。
【0021】
<第一の層のその他の成分>
第一の層は卵白のみで形成してもよく、卵白以外の成分を含んでもよい。卵白以外の成分としては、例えば、水、澱粉、還元澱粉糖化物等が挙げられる。これらの成分は、第一の層に求める性質、コスト等に応じて適宜選択すればよい。また、第一の層全体に対する、卵白、卵白以外の成分の含有量も、第一の層に求める性質、コスト等に応じて適宜設定すればよいが、好ましい範囲の一例は次の通りである。
【0022】
第一の層中の水の量は、例えば、加熱凝固する前の第一の層を形成するための材料全体に対して、0〜45%とすることがより好ましい。第一の層の材料に対する水の含有量が前記の範囲内で調節することにより、第一の層の材料の硬さを所望の硬さに調節できる。
【0023】
第一の層中の澱粉の量は、加熱凝固する前の第一の層を形成するための材料全体に対して、0〜5%がより好ましい。第一の層に含まれる澱粉の量を前記の範囲内で調節することにより、第一の層の硬さを所望の硬さに調節できる。
【0024】
第一の層中の還元澱粉糖化物の量は、加熱凝固する前の第一の層を形成するための材料全体に対して、0〜5%であることがより好ましい。第一の層に含まれる還元澱粉糖化物の量を前記の範囲内で調節することにより、第一の層の硬さを所望の硬さに調節できる。
【0025】
卵白にその他の成分を添加する方法は、特に限定されない。第一の層にその他の成分を混合する場合、従来公知の方法により、液状の卵白とその他の成分とを攪拌などして混合したものを加熱凝固させるとよい。
【0026】
<第二の層>
本発明の一態様に係る卵加工食品が含む第二の層は、加熱凝固した卵黄を含む。
【0027】
<卵黄>
本明細書中において、卵黄とは、生卵黄をはじめ、当該生卵黄に殺菌処理、冷凍処理、スプレードライ又はフリーズドライ等の乾燥処理、リゾ化卵黄のようなホスホリパーゼA1、ホスホリパーゼA2、ホスホリパーゼC、ホスホリパーゼD又はプロテアーゼ等による酵素処理、酵母又はグルコースオキシダーゼ等による脱糖処理、超臨界二酸化炭素処理等の脱コレステロール処理を施したもの等が挙げられる。
【0028】
<第二の層のその他の成分>
第二の層は卵黄のみで形成してもよく、卵黄以外の成分を含んでもよい。卵黄以外の成分としては、例えば、澱粉、食油、澱粉糖化物、着色料等が挙げられる。これらの成分は、第一の層に求める性質、コスト等に応じて適宜選択できる。また、澱粉、食油、デキストリンを加えることにはそれぞれ利点が有るので、以下に述べる。
【0029】
<澱粉>
澱粉は、食用として供されるものであればいずれのものでもよく、例えば、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、ワキシーコーンスターチ、レギュラーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、タピオカ澱粉等の天然澱粉、あるいはこれらの天然澱粉に冷水膨潤化処理や、架橋、エステル化、エーテル化、アルデヒド化、酸化等の処理を施した加工澱粉、並びに例えば、特開平4−130102号公報に記載された方法、すなわち天然澱粉を減圧下に置いた後、蒸気導入による加圧加熱を行ない、あるいはこの操作を繰り返した後、冷却し、粉砕して製造する方法等により得られる湿熱処理澱粉等を用いてもよい。
【0030】
第二の層が澱粉を含むと、第二の層を、ゆで卵の卵黄に近いホクホクした食感にすることができる。第二の層を製造するために、卵黄として、卵白から分離した後に、撹拌等をして液状化させたものを用いてもよいが、このとき、卵黄中の卵黄球が破壊されることがある。卵黄球が少なくなるほど、加熱後のホクホクした食感が失われる。しかし、第二の層が澱粉を含めば、第二の層にホクホクした食感を与えることができる。
【0031】
第二の層が澱粉を含む形態において、その含有量は特に限定されず、所望の品質に応じて適宜選択すればよいが、第二の層により良好にホクホクした食感を与える観点から、加熱凝固する前の第二の層を形成するための材料全体に対して、1%以上、20%以下であることが好ましく、2%以上、15%以下であることがより好ましい。
【0032】
<食油>
食油は、食用として供されるものであればいずれのものでもよい。例えば、菜種油、コーン油、綿実油、大豆油、パーム油、卵黄油等の動植物油又はこれらの精製油等が挙げられる。第二の層が食油を含むと製造が容易となる。例えば、第二の層を加熱用のプレート、フライパンの調理器具等で形成する場合、第二の層が食油を含むことで、加熱後にプレート等から剥がしやすくなる。
【0033】
第二の層が食油を含む形態において、その含有量は特に限定されず、所望の品質に応じて適宜選択すればよいが、第一の層と第二の層の好適な固着を維持しつつ、加熱用の調理器具等からより剥がしやすくすることを目的とするときには、加熱凝固する前の第二の層を形成するための材料全体に対して、1%以上、50%以下であることが好ましく、5%以上、20%以下であることがより好ましい。
【0034】
<澱粉糖化物>
澱粉糖化物は、澱粉を酸、酵素等で加水分解して得られる澱粉糖化物である。澱粉糖化物の具体例は、食用として供されるものであればいずれのものでもよい。例えば、デキストリン、マルトデキストリン等が挙げられる。好ましくは、デキストリンである。第二の層がデキストリンを含むことにより、卵黄の口どけが良くなるという利点がある。
【0035】
第二の層が澱粉糖化物を含む形態において、その含有量は特に限定されず、所望の品質に応じて適宜選択すればよいが、卵黄の口どけが良くなることから、例えば、加熱凝固する前の第二の層を形成するための材料全体に対して、1%以上、20%以下であることが好ましく、2%以上、10%以下であることがより好ましい。
【0036】
<その他の層>
本発明の一態様に係る卵加工食品が含む積層体は、その他の層を含んでいてもよい。他の層は、例えば、第二の層の第一の層と接している面とは反対の面に積層した、加熱凝固した卵白を含む第三の層であり、前記第二の層と前記第三の層とが固着していてもよい。
【0037】
また、積層体は、前述の第三の層以外の、その他の層を含んでいてもよい。積層体がその他の層を含む場合、例えば、加熱凝固した卵白を含む層と、加熱凝固したい卵黄を含む層とが、交互に重なるように積層体を積層させてもよい。
【0038】
<各層の構造>
各層の形状は、連続した面形状であればよく、特に限定されない。例えば、各層は、平面状であってもよく、波打った形状であってもよい。
【0039】
各層の厚さは特に限定されず、卵加工食品に求める品質等に応じて適宜設定すればよい。第一の層等、卵白を含む層の厚さは、例えば、1mm以上、20mm以下、好ましくは5mm以上、15mm以下である。このような厚さであれば、卵白の食感を良好に感じることができる卵加工食品となる。また、それぞれ層は層の中での厚みのばらつきが少なく、均一であることがより好ましい。大量生産するときの品質がより安定する。
【0040】
<卵黄と卵白との比率>
本発明の一態様に係る卵加工食品に含まれる卵黄と卵白との質量比率は、特に限定されず、所望の品質に応じて適宜設定すればよい。本発明の一態様に係る卵加工食品中の積層体は、卵白と卵黄とを分けておき、これらを積層することで得られるので、積層体中の卵黄と卵白との比率を所望の比率にすることができる。ひいては、卵加工食品中の卵黄と卵白との比率を所望の比率にすることができる。従って、所望に品質の卵加工食品を、安定して大量に製造することができる。
【0041】
卵加工食品中の卵黄と卵白との質量比率の具体例としては、例えば、1:0.5〜7.5、より好ましくは1:0.5〜5、さらに好ましくは1:1〜2.5である。
【0042】
<積層体の含有量>
本発明の一態様に係る卵加工食品に含まれる積層体の含有量は、特に限定されず、例えば、30〜90%、より好ましくは50〜90%、さらに好ましくは60〜90%である。この範囲であれば卵加工食品がより優れた卵風味を有する。
【0043】
<積層体の製造方法>
本発明の一態様に係る卵加工食品に含まれる積層体の製造方法は、特に限定されない。例えば、第一の層の材料(卵白以外の材料を含む場合は、当該材料と卵白との混合物)を加熱凝固させて作製した第一の層の上に、第二の層の材料(卵黄以外の材料を含む場合は、当該材料と卵黄との混合物)を供給して加熱凝固させて第二の層を作製すればよい。好ましくは、第一の層の材料を加熱し、第一の層の表面が完全に凝固する前に、第一の層の上に第二の層の材料を供給した後に、第一の層及び第二の層を完全に加熱凝固すればよい。第一の層及び第二の層をより好適に固着することが可能である。第一の層を先に加熱する形態について説明したが、この形態は、卵白を含む層は加熱機器から剥がしやすいため好ましい。ただし、このような形態に限定されず、第二の層を先に加熱機器に供給して加熱してもよい。この場合、第二の層の材料に食油を加えて加熱機器から剥がしやすくすることがより好ましい。加熱温度は、第一の層の材料、第二の層の材料、後述するこれら以外のその他の層を含む場合はその材料が加熱凝固する温度であればよく、例えば、120〜150℃である。
【0044】
また、積層体が第一の層、第二の層以外のその他の層を含む形態の場合は、適宜、順番に層の材料を供給しながら加熱すればよい。このとき、先に積層した層の表面が完全に凝固する前に、次の層を積層することが好ましい。これにより、それぞれの層同士をより好適に固着することが可能である。
【0045】
このように、本発明の一態様に係る卵加工食品は、ホール卵ではなく、卵黄と卵白とに分けたものを用いても製造することができる。卵白及び卵黄のそれぞれを含む層を、それぞれ所望の量で、互いに固着するように製造すればよいからである。従って、本発明の一態様に係る卵加工食品は、所望の品質で安定して製造可能であるので、大量生産に適している。
【0046】
<水中油型乳化組成物>
本発明の一態様に係る卵加工食品に含まれる水中油型乳化組成物は、食用として供されるものであればいずれのものでもよい。例えば、マヨネーズ、サラダクリーム等の半固体状ドレッシング、サウザンドレッシング、フレンチドレッシング等の乳化液状ドレッシング等が挙げられる。
【0047】
本発明の一態様に係る卵加工食品に含まれる水中油型乳化組成物の含有量は特に限定されず、例えば、10〜70%、より好ましくは10〜50%、さらに好ましくは10〜40%である。この範囲であれば卵加工食品がより優れた卵風味を有する。
【0048】
<卵加工食品の具体例>
本発明の一態様に係る卵加工食品は、様々な種類の卵加工食品であり得、例えば、卵加工食品は、卵スプレッド、タルタルソースである。
【0049】
<その他の原料>
本発明の一態様に係る卵加工食品は、その他の原料を含んでいてもよい。そのような他の原料としては、例えば、食塩、砂糖、醤油、グルタミン酸ナトリウム、動植物等のエキス類、アミノ酸等の調味料類、卵黄油、菜種油、コーン油、綿実油、大豆油、パーム油、魚油等の動植物油又はこれらの精製油、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油等のような化学的あるいは酵素的処理等を施して得られる油脂、コレステロール、フィトステロール、各種脂肪酸等の油脂類、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、リン脂質、リゾリン脂質等の乳化材、ホエー、カゼインナトリウム、ラクトアルブミン等の乳蛋白、魚肉蛋白、畜肉蛋白、血清蛋白、小麦蛋白、ゼラチン等の蛋白質類、鉄、カルシウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛、銅、セレン、マンガン、コバルト、ヨウ素等のミネラル類、あるいはこれらミネラル類を高度に含有した酵母、スクラロース、ステビア、マルチトール、アセスルファムカリウム等の甘味料、からし粉、胡椒等の香辛料、酢酸ソーダ、グリシン、ポリリジン、卵白リゾチーム、プロタミン等の静菌剤、β‐カロチン、クチナシ、アナトー色素等の着色成分、デキストリン、オリゴ糖、糖アルコール、水飴等の糖類、食物繊維、ビタミン類、キレート剤、野菜の截断物等が挙げられる。第二の層とは別に、適宜、卵黄、卵黄レシチン等の卵黄成分を添加してもよい。
【0050】
<卵加工食品の製造方法>
本発明の一態様に係る卵加工食品の製造方法は特に限定されない。例えば、積層体と、水中油型乳化組成物とを、公知の方法により、混合すればよい。
【0051】
以下、本発明について、実施例、比較例及び試験例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0052】
[実施例1]
卵白を溶いて液状にし、第一の層、及び第三の層の材料とした。卵黄を溶いて液状にし、食油、澱粉、デキストリン、及び水と混合し、第二の層の材料とした。第一の層の材料、第二の層の材料を表1又は表2に示す。
【0053】
フライパンで第一の層の材料を120℃で加熱し、厚さ15mmの第一の層を作製した。次に、第二の層の材料を、第一の層の表面が完全に凝固する前に、第一の層の上に流し入れた。その状態でさらに加熱して、厚さ9mmの第二の層を作製した。さらに、第三の層の材料を、第二の層の表面が完全に凝固する前に、厚さ1mmになるよう第二の層の上に流し入れた。その状態でさらに加熱して各層を凝固させた。こうして、三層からなる板状の積層体を作製した。三層の間は固着していた。
【0054】
この板状の積層体を、5mm×5mm×5mmになるようにダイスカットし、マヨネーズと和えて撹拌して、卵加工食品である卵スプレッドを作製した。卵スプレッドの組成は、表3に示した。卵スプレッド中の卵黄と卵白の質量比率は、1:4.4であった。卵スプレッドをサンドウィッチの具として用いて、喫食したところ、卵風味に優れ、美味しかった。
【0055】
また、卵スプレッド500gを目開き4mmメッシュ(JIS規格、4.7メッシュ)に静置し、流速1.1m/sの水流で1分間洗浄した。このメッシュオンした物質はタマゴスプレッド全量の28%であり、そのうち、卵黄を含む層と卵白を含む層とが固着した状態のものは、メッシュオンした物質全体に対して48%であった。したがって、洗浄によっても残存する卵黄を含む層と卵白を含む層とが固着した状態のものの量は、洗浄に供したタマゴスプレッド全量のうち13%であった。
【表1】
【表2】
【表3】
【0056】
[実施例2]
第二の層の厚さを10mmにし、第三の層を作成しなかった以外は、実施例1と同様に実施した。
【0057】
実施例1と同様に板状の積層体をダイスカットし、マヨネーズと和え、卵スプレッドを作製した。卵スプレッドの組成は、表3に示した。卵スプレッド中の卵黄と卵白の質量比率は、1:3.75であった。卵スプレッドをサンドウィッチの具として用いて、喫食したところ、卵風味に大変優れ、美味しかった。
【0058】
実施例1と同様の条件で洗浄したところ、メッシュオンした物質はタマゴスプレッド全量の36%であり、そのうち、卵黄を含む層と卵白を含む層とが固着した状態のものは、メッシュオンした物質全体に対して63%であった。したがって、洗浄によっても残存する卵黄を含む層と卵白を含む層とが固着した状態のものの量は、洗浄に供したタマゴスプレッド全量のうち23%であった。
【0059】
[実施例3]
第二の層の材料から澱粉を除いて、卵黄:食油:デキストリン:水の質量比を40:15:3:32とした以外は、実施例1と同じ操作を行なった。卵スプレッド中の卵黄と卵白の質量比率は、1:4.4であった。卵スプレッドをサンドウィッチの具として用いて、喫食したところ、卵風味に優れ、美味しかったが、卵黄部分のホクホク感は実施例1の方が優れていた。
【0060】
実施例1と同様の条件で洗浄したところ、メッシュオンした物質はタマゴスプレッド全量の24%であり、そのうち、卵黄を含む層と卵白を含む層とが固着した状態のものは、メッシュオンした物質全体に対して45%であった。したがって、洗浄によっても残存する卵黄を含む層と卵白を含む層とが固着した状態のものの量は、洗浄に供したタマゴスプレッド全量のうち11%であった。
【0061】
[実施例4]
第二の材料における卵黄:食油:澱粉:デキストリンの質量比を、39:40:20:1として、卵スプレッドを製造するときの積層体とマヨネーズとの質量比を60:40にした以外は、実施例1と同じ操作を行った。卵スプレッド中の卵黄と卵白の質量比率は、1:4.6であった。卵スプレッドをサンドウィッチの具として用いて、喫食したところ、卵風味に優れ、美味しかった。
【0062】
実施例1と同様の条件で洗浄したところ、メッシュオンした物質はタマゴスプレッド全量の48%であり、そのうち、卵黄を含む層と卵白を含む層とが固着した状態のものは、メッシュオンした物質全体に対して21%であった。したがって、洗浄によっても残存する卵黄を含む層と卵白を含む層とが固着した状態のものの量は、洗浄に供したタマゴスプレッド全量のうち10%であった。
【0063】
[実施例5]
第一の層の厚さを20mmとし、第二の層の厚さを4mmとし、第二の材料における卵黄:食油:澱粉:デキストリン:水の質量比を、75:1:1:20:3とし、卵スプレッドを製造するときの積層体とマヨネーズとの質量比を80:20にした。この変更点以外は、実施例1と同じ操作を行なった。卵スプレッド中の卵黄と卵白の質量比率は、1:7であった。卵スプレッドをサンドウィッチの具として用いて、喫食したところ、卵風味に優れ、美味しかった。
【0064】
実施例1と同様の条件で洗浄したところ、メッシュオンした物質はタマゴスプレッド全量の33%であり、そのうち、卵黄を含む層と卵白を含む層とが固着した状態のものは、メッシュオンした物質全体に対して34%であった。したがって、洗浄によっても残存する卵黄を含む層と卵白を含む層とが固着した状態のものの量は、洗浄に供したタマゴスプレッド全量のうち11%であった。
【0065】
[実施例6]
第一の層の厚さを5mm、第二の層の厚さを10mm、第三の層の厚さを5mmにした。第一の層の材料を、卵白、澱粉、及び水を、90:2.5:7.5の質量比で混合して作製した。第二の層の材料にアナトー色素を加え、卵黄:食油:澱粉:デキストリン:水:アナトー色素の質量比を、60:5:3:10:41.975:0.025とした。この変更点以外は、実施例1と同じ操作を行なった。卵スプレッド中の卵黄と卵白の質量比率は、1:1.5であった。卵スプレッドをサンドウィッチの具として用いて、喫食したところ、卵風味に優れ、美味しかった。
【0066】
実施例1と同様の条件で洗浄したところ、メッシュオンした物質はタマゴスプレッド全量の30%であり、そのうち、卵黄を含む層と卵白を含む層とが固着した状態のものは、メッシュオンした物質全体に対して66%であった。したがって、洗浄によっても残存する卵黄を含む層と卵白を含む層とが固着した状態のものの量は、洗浄に供したタマゴスプレッド全量のうち20%であった。
【0067】
[実施例7]
板状の積層体を、10mm×10mm×10mmになるようにダイスカットした以外は、実施例1と同様にし、卵スプレッドを作製した。卵スプレッドをサンドウィッチの具として用いて、喫食したところ、卵風味に大変優れ、美味しかった。
【0068】
実施例1と同様の条件で洗浄したところ、メッシュオンした物質はタマゴスプレッド全量の51%であり、そのうち、卵黄を含む層と卵白を含む層とが固着した状態のものは、メッシュオンした物質全体に対して66%であった。したがって、洗浄によっても残存する卵黄を含む層と卵白を含む層とが固着した状態のものの量は、洗浄に供したタマゴスプレッド全量のうち34%であった。
【0069】
[比較例1]
実施例1の第一の層の材料と、第二の層の材料とを、それぞれ別のフライパンに入れて加熱して完全に凝固させた。得られた凝固物をそれぞれダイスカットして、凝固物70質量部に対してマヨネーズ30質量部と和え、卵スプレッドを作製した。卵スプレッドをサンドウィッチの具として用いて、喫食したところ、卵風味は実施例1〜6のいずれにも劣っていた。また、実施例1と同じ洗浄試験を行なった結果、第一の層と、第二の層とが固着して残存したものは無かった。
【0070】
[比較例2]
殻付生鶏卵を割卵して殻を取り除いたホール卵をステンレス製のバットに入れ、当該バットをスチーマ内に載置して加熱(90℃×60分間)することにより、略板状加熱凝固卵を得た。この略板状加熱凝固卵をダイスカットし、マヨネーズと和え、卵スプレッドを作製した。卵スプレッドの組成は、前記略板状加熱凝固卵70質量部に対してマヨネーズ30質量部とした。卵スプレッドをサンドウィッチの具として用いて、喫食したところ、卵風味は実施例1〜6のいずれにも劣っていた。また、実施例1と同じ洗浄試験を行なった結果、卵黄と卵白とが固着して残存したものは無かった。
【要約】
少なくとも、加熱凝固した卵白を含む第一の層、及び、加熱凝固した卵黄を含む第二の層が積層した積層体と、水中油型乳化組成物と、を含み、前記第一の層と前記第二の層とが固着している、卵加工食品。