(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354291
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】差動信号伝送用ケーブル及び差動信号伝送用集合ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 11/00 20060101AFI20180702BHJP
H01B 7/18 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
H01B11/00 J
H01B7/18 D
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-91143(P2014-91143)
(22)【出願日】2014年4月25日
(65)【公開番号】特開2015-210919(P2015-210919A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2016年8月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黄 得天
(72)【発明者】
【氏名】小林 正則
(72)【発明者】
【氏名】秋山 理沙
【審査官】
神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−134136(JP,A)
【文献】
特開2011−198677(JP,A)
【文献】
特開2011−187323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/00
H01B 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の断面円形状の絶縁電線が並列に接触して配置されると共に1本のドレインワイヤが前記2本の絶縁電線の双方に接触して前記2本の絶縁電線と平行に配置されてなるドレインワイヤ付ツイナックスケーブルと、
前記ドレインワイヤ付ツイナックスケーブルの周囲に巻き付けられたシールドテープと、
を備え、
断面視で前記2本の絶縁電線の中心を結ぶ線分を底辺とすると共に前記ドレインワイヤの中心を頂点とする二等辺三角形の頂角が74度以上90度以下であり、
前記絶縁電線は、信号線導体と、前記信号線導体の周囲に形成された充実絶縁層と、を有し、
前記充実絶縁層は、ショア硬さがD50以上D63以下であり、外面の動摩擦係数が0.1MPa,3m/min以上0.3MPa,3m/min以下であり、
前記二等辺三角形の頂角(74度以上90度以下)は、前記断面円形状の絶縁電線の外径に対する前記ドレインワイヤの外径の大きさで決められる、
ことを特徴とする差動信号伝送用ケーブル。
【請求項2】
前記ドレインワイヤは、複数のグランド線素線が撚り合わされて形成されてなる請求項1に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項3】
前記シールドテープは、前記グランド線素線の撚り方向と反対方向に巻き付けられている請求項2に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載の複数本の差動信号伝送用ケーブルを集合させてなることを特徴とする差動信号伝送用集合ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数GHz以上の高周波信号を差動方式で伝送するための差動信号伝送用ケーブル及び差動信号伝送用集合ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
数GHz以上の高周波信号を伝送する際には、位相が反転された2つの信号を2本の絶縁電線で伝送すると共にその受信端で2つの信号の差分を合成して出力する差動方式が採用されている。差動方式によれば、2本の絶縁電線に流れる電流の向きが逆方向であるため、外部に放射される電磁波を減少させることができ、また2本の絶縁電線に雑音が等しく重畳されるため、その受信端で雑音による影響を相殺することができる。
【0003】
従来、数GHz以上の高周波信号を差動方式で伝送するための伝送経路としては、
図3に示すように、2本の絶縁電線301が並列に接触して配置されると共にドレインワイヤ302が2本の絶縁電線301の双方に接触して2本の絶縁電線301と平行に配置されてなるドレインワイヤ付ツイナックスケーブル303と、ドレインワイヤ付ツイナックスケーブル303の周囲に巻き付けられたシールドテープ304と、を備えた差動信号伝送用ケーブル300が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−090959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
10GHz程度の高周波信号を大きく減衰させずに伝送するためには、対内伝搬遅延時間差(対内スキュー)が10ps/m以下であることが要求されるが、従来技術に係る差動信号伝送用ケーブル300の静止状態における対内伝搬遅延時間差は凡そ7ps/m以上12ps/m以下の広い範囲でばらつくため、対内伝搬遅延時間差が小さい差動信号伝送用ケーブル300を安定して製造することができなかった。
【0006】
また、静止状態における対内伝搬遅延時間差が10ps/m以下の差動信号伝送用ケーブル300であっても、屈曲させたり複数本を集合させてケーブリングしたりすると、対内伝搬遅延時間差が凡そ15ps/m以上22ps/m以下の範囲まで劣化することがあった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、従来と比較して、静止状態における対内伝搬遅延時間差が小さく、しかも屈曲状態やケーブリング後における対内伝搬遅延時間差も小さい差動信号伝送用ケーブル及び差動信号伝送用集合ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために創案された本発明は、2本の
断面円形状の絶縁電線が並列に接触して配置されると共に
1本のドレインワイヤが前記2本の絶縁電線の双方に接触して前記2本の絶縁電線と平行に配置されてなるドレインワイヤ付ツイナックスケーブルと、前記ドレインワイヤ付ツイナックスケーブルの周囲に巻き付けられたシールドテープと、を備え、断面視で前記2本の絶縁電線の中心を結ぶ線分を底辺とすると共に前記ドレインワイヤの中心を頂点
とする二等辺三角形の頂角が74度以上90度以下である差動信号伝送用ケーブルである。
【0009】
前記絶縁電線は、信号線導体と、前記信号線導体の周囲に形成された充実絶縁層と、を有し、前記充実絶縁層は、ショア硬さがD50以上D63以下であり、外面の動摩擦係数が0.1
MPa,3m/min以上0.3
MPa,3m/minであると良い。前記二等辺三角形の頂角(74度以上90度以下)は、前記断面円形状の絶縁電線の外径に対する前記ドレインワイヤの外径の大きさで決められると良い。
【0010】
前記ドレインワイヤは、複数のグランド線素線が撚り合わされて形成されてなると良い。
【0011】
前記シールドテープは、前記グランド線素線の撚り方向と反対方向に巻き付けられていると良い。
【0012】
また、本発明は、複数本の前記差動信号伝送用ケーブルを集合させてなる差動信号伝送用集合ケーブルである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来と比較して、静止状態における対内伝搬遅延時間差が小さく、しかも屈曲状態やケーブリング後における対内伝搬遅延時間差も小さい差動信号伝送用ケーブル及び差動信号伝送用集合ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る差動信号伝送用ケーブルを示す断面模式図である。
【
図2】本発明に係る差動信号伝送用集合ケーブルを示す断面模式図である。
【
図3】従来技術に係る差動信号伝送用ケーブルを示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0016】
図1に示すように、本発明の好適な実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブル100は、2本の絶縁電線101が並列に接触して配置されると共にドレインワイヤ102が2本の絶縁電線101の双方に接触して2本の絶縁電線101と平行に配置されてなるドレインワイヤ付ツイナックスケーブル103と、ドレインワイヤ付ツイナックスケーブル103の周囲に巻き付けられたシールドテープ104と、を備えている。
【0017】
絶縁電線101は、信号線導体105と、信号線導体105の周囲に形成された充実絶縁層106と、を有している。
【0018】
信号線導体105は、例えば、7本の信号線素線107が撚り合わされて形成された撚線からなる。これにより、信号線導体105が単線からなる場合と比較して、耐屈曲性を向上させることができ、また表面積を増加させて高周波信号の伝送による表皮効果の影響を軽減することが可能となる。
【0019】
充実絶縁層106は、ショア硬さがD50以上D65以下であり、外面の動摩擦係数が0.1
MPa,3m/min以上0.3
MPa,3m/min以下であることが好ましい。充実絶縁層106のショア硬さをD50未満にすると、ドレインワイヤ102をシールドテープ104で押さえ付けたときに充実絶縁層106がドレインワイヤ102で押し潰されてインピーダンス整合が崩れる虞があり、充実絶縁層106のショア硬さをD65より高くすると、絶縁電線101が全体的に硬くなり、可撓性が低下する虞があるからである。また、充実絶縁層106の外面の動摩擦係数を0.1
MPa,3m/min未満にすると、ドレインワイヤ102が所定の位置からズレてドレインワイヤ102と2本の信号線導体105との間の距離が変化して対内伝搬遅延時間差が大きくなる虞があり、充実絶縁層106の外面の動摩擦係数を0.3
MPa,3m/minより高くすると、差動信号伝送用ケーブル100が屈曲されたときに絶縁電線101に掛かる応力を上手く分散させることができずに断線等を生じる虞があるためである。これらの特性を満足する充実絶縁層106の材料としては、例えば、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の弗素樹脂が挙げられる。
【0020】
なお、発泡絶縁層は、ドレインワイヤ102に押し潰されて変形し易いことから、絶縁電線101の絶縁層として発泡絶縁層を採用することは好ましいとは言えない。
【0021】
ドレインワイヤ102は、複数(例えば、7本)のグランド線素線108が撚り合わされて形成されてなることが好ましい。これにより、ドレインワイヤ102と絶縁電線101との間の摩擦力を増加させることができ、ドレインワイヤ102が所定の位置からズレることを防止することが可能となる。
【0022】
シールドテープ104は、金属からなる内層109と、樹脂からなる外層110と、を有している。内層109の材料としては、例えば、銅箔が挙げられる。
【0023】
シールドテープ104は、グランド線素線108の撚り方向と反対方向に巻き付けられていることが好ましい。これにより、ドレインワイヤ102を絶縁電線101に確実に押さえ付けることができ、ドレインワイヤ102が所定の位置からズレることを防止することが可能となる。
【0024】
外層110は、機械的強度の低い内層109を補強する役割を果たし、ドレインワイヤ102を絶縁電線101に強固に押し付けてドレインワイヤ102が所定の位置からズレることを防止し、また外傷から差動信号伝送用ケーブル100を保護する。
【0025】
さて、本実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブル100は、断面視で2本の絶縁電線101の中心A,Bを結ぶ線分ABを底辺とすると共にドレインワイヤ102の中心Cを頂点とする二等辺三角形ABCの頂角θが74度以上90度以下であることを特徴とする。
【0026】
二等辺三角形ABCの頂角θを小さくするためには、絶縁電線101の外径に対してドレインワイヤ102の外径を大きくしていく必要があるが、二等辺三角形ABCの頂角θを74度未満とすると、ドレインワイヤ102の埋め込み深さDが浅くなり過ぎてドレインワイヤ102が所定の位置からズレる虞がある。
【0027】
また、二等辺三角形ABCの頂角θを大きくするためには、絶縁電線101の外径に対してドレインワイヤ102の外径を小さくしていく必要があるが、二等辺三角形ABCの頂角θを90度よりも大きくすると、ドレインワイヤ102の埋め込み深さDは深くなるものの、ドレインワイヤ102の突出高さHが低くなり過ぎてドレインワイヤ102を絶縁電線101に強固に押し付けることができなくなり、ドレインワイヤ102が所定の位置からズレる虞がある。
【0028】
以上の通り、差動信号伝送用ケーブル100では、二等辺三角形ABCの頂角θを74度以上90度以下としているため、ドレインワイヤ102が所定の位置からズレ難く、従来と比較して、静止状態における対内伝搬遅延時間差を小さくすることができ、しかも屈曲状態やケーブリング後における対内伝搬遅延時間差も小さくすることが可能となる。
【0029】
例えば、従来技術に係る差動信号伝送用ケーブル300は、静止状態における対内伝搬遅延時間差が凡そ7ps/m以上12ps/m以下であり、屈曲状態やケーブリング後における対内伝搬遅延時間差が凡そ15ps/m以上22ps/m以下であったのに対し、差動信号伝送用ケーブル100では、静止状態における対内伝搬遅延時間差を凡そ5ps/m以上6ps/m以下とし、且つ屈曲状態やケーブリング後における対内伝搬遅延時間差を凡そ5ps/m以上7ps/m以下とすることができ、静止状態とその他の状態で殆ど対内伝搬遅延時間差が変わらない。
【0030】
そのため、差動信号伝送用ケーブル100は、従来技術に係る差動信号伝送用ケーブル300と比較して、信号の周波数による損失の変化を示す減衰曲線がサックアウトの無い緩やかなカーブとなり、10GHz程度の高周波信号を好適に伝送することが可能となる。
【0031】
なお、差動信号伝送用ケーブル100は、前述の通り、ケーブリング後における対内伝搬遅延時間差が小さいことから、
図2に示すように、複数本(例えば、8本)の差動信号伝送用ケーブル100を集合させて(例えば、他のケーブル201と共に撚り合わせて)差動信号伝送用集合ケーブル200とすることにより、従来と比較して対内伝搬遅延時間差が小さい差動信号伝送用集合ケーブル200を得ることができる。
【符号の説明】
【0032】
100 差動信号伝送用ケーブル
101 絶縁電線
102 ドレインワイヤ
103 ドレインワイヤ付ツイナックスケーブル
104 シールドテープ
105 信号線導体
106 充実絶縁層
107 信号線素線
108 グランド線素線
109 内層
110 外層
200 差動信号伝送用集合ケーブル
201 他のケーブル