(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354504
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】超硬合金複合ロール及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 27/00 20060101AFI20180702BHJP
B21B 27/03 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
B21B27/00 C
B21B27/03 510
【請求項の数】20
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-201337(P2014-201337)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2015-96275(P2015-96275A)
(43)【公開日】2015年5月21日
【審査請求日】2017年5月11日
(31)【優先権主張番号】特願2013-211593(P2013-211593)
(32)【優先日】2013年10月9日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-211594(P2013-211594)
(32)【優先日】2013年10月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(72)【発明者】
【氏名】大島 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】大畑 拓己
(72)【発明者】
【氏名】松本 俊二
【審査官】
酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−181521(JP,A)
【文献】
特開2006−175456(JP,A)
【文献】
特開2005−169419(JP,A)
【文献】
特開2004−237290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 27/00−27/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金製外層と鉄系合金製内層とを中間層を介して拡散接合した超硬合金製圧延用複合ロールにおいて、前記中間層が0.65〜1.2質量%のC及び1.8〜7.5質量%のNiを含有する鉄系合金からなることを特徴とする超硬合金複合ロール。
【請求項2】
請求項1に記載の超硬合金複合ロールにおいて、前記中間層がさらに3質量%以下のCr及び1.5質量%以下のMoを含有することを特徴とする超硬合金複合ロール。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の超硬合金複合ロールにおいて、前記中間層の厚さが0.5〜50 mmであることを特徴とする超硬合金複合ロール。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の超硬合金複合ロールにおいて、前記外層と前記中間層の境界部の引張強度が600 MPa以上であることを特徴とする超硬合金複合ロール。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の超硬合金複合ロールにおいて、前記外層と前記中間層の境界部の疲労強度が200 MPa以上であることを特徴とする超硬合金複合ロール。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載の超硬合金複合ロールにおいて、前記超硬合金製外層が70〜88質量%のWC粒子を含有することを特徴とする超硬合金複合ロール。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか記載の超硬合金複合ロールにおいて、前記鉄系合金製内層がCr、Ni、Mo、V、W、Ti及びNbからなる群から選ばれた少なくとも一種を合計で1.0質量%以上含有することを特徴とする超硬合金複合ロール。
【請求項8】
超硬合金からなる円筒状外層部材と鉄系合金からなる内層部材とが拡散接合した超硬合金複合ロールを製造する方法において、前記内層部材の外面に、0.65〜1.2質量%のC及び1.8〜7.5質量%のNiを含有する円筒状中間層部材の内面を接合した後、前記中間層部材の外面に前記外層部材の内面を拡散接合することを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の超硬合金複合ロールの製造方法において、
前記円筒状中間層部材が嵌合した前記内層部材の外周に、それを包囲するように前記内層部材より熱膨張率が小さい円筒状の第一の拘束部材を配置し、加熱により前記内層部材と前記中間層部材を拡散接合して、前記内層部材の外周に中間層が拡散接合した中間部材を作製する第一の工程と、
前記中間部材を包囲するように前記円筒状外層部材を配置した後、前記外層部材を包囲するように前記外層部材より熱膨張率が小さい円筒状の第二の拘束部材を配置し、加熱により前記中間層と前記外層部材を拡散接合する第二の工程とを有し、
第一の工程では、熱膨張率が大きい前記内層部材の外面が前記中間層部材の内面を押圧するとともに、熱膨張率が小さい前記第一の拘束部材の内面が前記中間層部材の外面を押圧するように、前記内層部材、前記中間層部材及び前記第一の拘束部材のそれぞれの間隙を設定し、
第二の工程では、熱膨張率が最も大きい前記内層部材の外面に形成された前記中間層の外面が前記外層部材の内面を押圧するとともに、熱膨張率が最も小さい前記第二の拘束部材の内面が前記外層部材の外面を押圧するように、前記中間部材、前記外層部材及び前記第二の拘束部材のそれぞれの間隙を設定することを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の超硬合金複合ロールの製造方法において、前記第一及び第二の拘束部材の軸方向両端部が前記中間層部材及び前記外層部材の軸方向両端面より突出していることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の超硬合金複合ロールの製造方法において、前記第二の拘束部材が前記外層部材より厚いことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれかに記載の超硬合金複合ロールの製造方法において、前記第一及び第二の拘束部材が黒鉛又はセラミックスからなることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれかに記載の超硬合金複合ロールの製造方法において、前記第一及び第二の拘束部材を複数のリング部材を同軸的に積み重ねることにより形成することを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項9〜13のいずれかに記載の超硬合金複合ロールの製造方法において、前記第二の拘束部材と前記外層部材との間に反応防止材を介在させることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項8に記載の超硬合金複合ロールの製造方法において、
前記円筒状中間層部材が嵌合した前記内層部材の外周に、それを包囲するように前記内層部材より熱膨張率が小さい円筒状の外層部材を配置する工程と、
前記外層部材の外周に、それを包囲するように前記外層部材より熱膨張率が小さい拘束部材を配置する工程と、
加熱により前記内層部材と前記外層部材を前記中間層部材を介して拡散接合する工程とを有し、
熱膨張率が最も大きい前記内層部材の外面が前記中間層部材の内面を押圧するとともに、熱膨張率が最も小さい前記拘束部材の内面が前記外層部材の外面を押圧するように、前記内層部材、前記中間層部材及び前記拘束部材のそれぞれの間隙を設定することを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項15に記載の超硬合金複合ロールの製造方法において、前記拘束部材の軸方向両端部が前記中間層部材及び前記外層部材の軸方向両端面より突出していることを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項15又は16に記載の超硬合金複合ロールの製造方法において、前記拘束部材が前記外層部材より厚いことを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項15〜17のいずれかに記載の超硬合金複合ロールの製造方法において、前記拘束部材が黒鉛又はセラミックスからなることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項15〜18のいずれかに記載の超硬合金複合ロールの製造方法において、前記拘束部材を複数のリング部材を同軸的に積み重ねることにより形成することを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項15〜19のいずれかに記載の超硬合金複合ロールの製造方法において、前記拘束部材と前記外層部材との間に反応防止材を介在させることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性、耐肌荒れ性等に優れた外層と靱性に優れた内層とからなり、板材、線材、棒材等の鋼材の圧延に好適な高耐久性の超硬合金複合ロール、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
寸法精度の向上等圧延材の高品質化、及びロール替え工数の低減による生産性向上の要求に応えるため、耐摩耗性、耐肌荒れ性等に優れた炭化タングステン(WC)系超硬合金からなる圧延用ロールが使用されており、種々の構造の超硬合金圧延ロールが提案されている。
【0003】
例えば、特開平3-281007号(特許文献1)は、
図8に示すように、両端に固定の締付フランジ部103と着脱自在な締付フランジ部104とを備えたロール本体105と、熱膨張係数が15×10
-6/℃以上で熱伝導率が0.4 cal/cm・sec・℃以上の金属製リング状スペーサ111,111及び筒状スペーサ114を介してロール本体105に嵌合された超硬合金製円筒体110とを具備する超硬合金圧延ロールを提案している。リング状スペーサ111,111の熱膨張を利用して、締付フランジ部103,104の締付力を向上させている。しかし、リング状スペーサ111,111及び筒状スペーサ114があっても、締付フランジ部103,104による締付力では超硬合金製円筒体110とロール本体105との密着性は不十分であり、圧延中に超硬合金製円筒体110がロール本体105に対してスリップを起こしてしまうおそれがあった。
【0004】
このような組立式構造の超硬合金圧延ロールの問題点を解決するために、超硬合金製外層と金属製内層とを拡散接合した超硬合金複合ロールが提案されている。例えば、特開2001-47111号(特許文献2)は、靱性に優れた材料からなる内層部材の外周に、WC系超硬合金製外層部材を金属接合した超硬合金複合ロールにおいて、外層部材の内側にWC粒子の含有量が外層より少ないWC系超硬合金製中間層を設け、内層部材と中間層とを金属層を介して接合した超硬合金複合ロールを提案している。特許文献2は、中間層を外層部材から内層部材にかけて傾斜的なWCの組成とすることにより、熱膨張率、弾性係数等の物性値を外層部材から内層部材にかけて連続的に変化させ、もって境界接合部の強度を向上させると記載している。
【0005】
特開2004-167501(特許文献3)号は、鋼系又は鉄系合金製内層部材の外周に超硬合金製外層部材を接合した超硬合金複合ロールであって、内層部材と外層部材との間にヤング率が190 GPa以下の中間層を設けたことを特徴とする超硬合金製圧延用複合ロールを提案している。特許文献3は、中間層のヤング率を190 GPa以下とすることにより、外層と内層間の歪を吸収し、外層と内層との熱膨張係数差が大きくても、ロール内部に過大な残留応力が発生せず、ロール製造時に境界接合部が剥離する問題を回避防止できると記載している。特許文献3号は、中間層の材質としてインバー系合金及びSUS304を例示している。
【0006】
しかし、耐摩耗性に優れた超硬合金製外層と鉄系合金製内層を中間層を介して接合した特許文献2及び3に記載の超硬合金複合ロールを、外径が300 mm以上でロール長が500 mm以上の熱間薄板圧延用ロールのように大型化するには、外層と内層の接合信頼性が十分でないおそれがあることが分った。また、より厳しい圧延条件に使用する場合には、外層と内層のより高い接合強度が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3-281007号公報
【特許文献2】特開2001-47111号公報
【特許文献3】特開2004-167501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、耐摩耗性、耐肌荒れ性等に優れた超硬合金製外層と靱性に優れた鉄系合金製内層とからなり、両者の接合強度が極めて高い超硬合金複合ロール、及びその効率的な製造方法を提供することである。
【0009】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、0.65〜1.2質量%のC及び1.8〜7.5質量%のNiを含有する鉄系合金からなる中間層を介して超硬合金製外層と鉄系合金製内層とが圧接される状態で加熱すると、外層と内層とが強固に拡散接合されることを発見し、本発明に想到した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明の超硬合金複合ロールは、超硬合金製外層と鉄系合金製内層とを中間層を介して拡散接合したもので、前記中間層が0.65〜1.2質量%のC及び1.8〜7.5質量%のNiを含有する鉄系合金からなることを特徴とする。
【0011】
前記中間層はさらに3質量%以下のCr及び1.5質量%以下のMoを含有するのが好ましい。
【0012】
前記中間層の厚さは0.5〜50 mmであるのが好ましい。
【0013】
前記外層と前記中間層の境界部の引張強度は600 MPa以上であるのが好ましい。また、前記外層と中間層の境界部の疲労強度は200 MPa以上であるのが好ましい。
【0014】
前記超硬合金製外層は70〜88質量%のWC粒子を含有するのが好ましい。また、前記鉄系合金製内層はCr、Ni、Mo、V、W、Ti及びNbからなる群から選ばれた少なくとも一種を合計で1.0質量%以上含有するのが好ましい。
【0015】
超硬合金からなる円筒状外層部材と鉄系合金からなる内層部材とが拡散接合した超硬合金複合ロールを製造する本発明の方法は、前記内層部材の外面に、0.65〜1.2質量%のC及び1.8〜7.5質量%のNiを含有する円筒状中間層部材の内面を接合した後、前記中間層部材の外面に前記外層部材の内面を拡散接合することを特徴とする。
【0016】
本発明の超硬合金複合ロールの第一の製造方法は、
前記円筒状中間層部材が嵌合した前記内層部材の外周に、それを包囲するように前記内層部材より熱膨張率が小さい円筒状の第一の拘束部材を配置し、加熱により前記内層部材と前記中間層部材を拡散接合して、前記内層部材の外周に中間層が拡散接合した中間部材を作製する第一の工程と、
前記中間部材を包囲するように前記円筒状外層部材を配置した後、前記外層部材を包囲するように前記外層部材より熱膨張率が小さい円筒状の第二の拘束部材を配置し、加熱により前記中間層と前記外層部材を拡散接合する第二の工程とを有し、
第一の工程では、熱膨張率が大きい前記内層部材の外面が前記中間層部材の内面を押圧するとともに、熱膨張率が小さい前記第一の拘束部材の内面が前記中間層部材の外面を押圧するように、前記内層部材、前記中間層部材及び前記第一の拘束部材のそれぞれの間隙を設定し、
第二の工程では、熱膨張率が最も大きい前記内層部材の外面に形成された前記中間層の外面が前記外層部材の内面を押圧するとともに、熱膨張率が最も小さい前記第二の拘束部材の内面が前記外層部材の外面を押圧するように、前記中間部材、前記外層部材及び前記第二の拘束部材のそれぞれの間隙を設定することを特徴とする。
【0017】
第一の製造方法において、前記第二の拘束部材は前記外層部材より厚いのが好ましい。
【0018】
本発明の超硬合金複合ロールの第二の製造方法は、
前記円筒状中間層部材が嵌合した前記内層部材の外周に、それを包囲するように前記内層部材より熱膨張率が小さい円筒状の外層部材を配置する工程と、
前記外層部材の外周に、それを包囲するように前記外層部材より熱膨張率が小さい拘束部材を配置する工程と、
加熱により前記内層部材と前記外層部材を前記中間層部材を介して拡散接合する工程とを有し、
熱膨張率が最も大きい前記内層部材の外面が前記中間層部材の内面を押圧するとともに、熱膨張率が最も小さい前記拘束部材の内面が前記外層部材の外面を押圧するように、前記内層部材、前記中間層部材及び前記拘束部材のそれぞれの間隙を設定することを特徴とする。
【0019】
前記拘束部材の軸方向両端部は前記中間層部材及び前記外層部材の軸方向両端面より突出しているのが好ましい。
【0020】
第二の製造方法において、前記拘束部材は前記外層部材より厚いのが好ましい。
【0021】
第一及び第二の製造方法において、いずれの拘束部材も黒鉛又はセラミックスからなるのが好ましい。
【0022】
第一及び第二の製造方法において、いずれの拘束部材も複数のリング部材を同軸的に積み重ねることにより形成するのが好ましい。
【0023】
第一及び第二の製造方法において、前記拘束部材と前記外層部材との間に反応防止材を介在させるのが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の超硬合金製複合ロールでは、超硬合金製外層と鉄系合金製内層とが、0.65〜1.2質量%のC及び1.8〜7.5質量%のNiを含有する鉄系合金からなる中間層を介して拡散接合しているので、接合境界の超硬合金内に脆弱なη相が生成することがなく、外層と内層の接合強度が大きい。そのため、300 mm以上の外径及び500 mm以上のロール長を有する大型の圧延ロールにしても、長期間の圧延に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の超硬合金複合ロールを示す部分断面正面図である。
【
図2】内層部材に中間層を拡散接合法で接合する方法を示す断面図である。
【
図3(a)】本発明の超硬合金複合ロールを拡散接合法により製造する例を示す断面図である。
【
図3(b)】
図3(a) における部分Aの拡大図である。
【
図4】同軸的に積み重ねた複数のリング部材により構成した拘束部材を用いる拡散接合法を示す断面図である。
【
図5】本発明の超硬合金複合ロールをHIP法により製造する例を示す断面図である。
【
図6】実施例1及び2における接合実験を示す断面図である。
【
図8】特開平3-281007号に開示された超硬合金圧延ロールを示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明を添付図面を参照して以下詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で適宜変更又は改良することができる。本発明の一実施形態に関する説明は、特に断りがなければ他の実施形態にも適用される。
【0027】
[1] 超硬合金複合ロール
鋼等の被圧延材を圧延するのに用いることができる本発明の超硬合金複合ロール10は、
図1に示すように、超硬合金製外層1と鉄系合金製内層2とを中間層3を介して接合したものである。表面に被圧延材が接触する外層1は優れた耐摩耗性、耐肌荒れ性及び機械的強度が要求され、両端が軸受(図示せず)で支持されるロール軸を構成する内層2は高い機械的強度及び強靭性が要求される。
【0028】
(1) 外層
本発明の超硬合金複合ロールの超硬合金製外層1は、硬質WC粒子をCo、Ni、Cr、Fe等の金属で結合した焼結合金であり、WCの他にTi、Ta、Nb等の炭化物を含有しても良い。外層1が高い耐摩耗性、耐肌荒れ性及び機械的強度を有するために、WC粒子の平均粒径は3〜10μmが好ましく、WC粒子の含有量は70〜88質量%が好ましく、72〜85質量%がより好ましい。外層1の厚さは、圧延により徐々に摩耗することを考慮して、5〜50 mmの範囲に設定するのが好ましい。
【0029】
(2) 内層
内層2の鉄系合金は鋼又は鋳鉄であるのが好ましい。内層2が十分な靱性を有するために、Cr、Ni、Mo、V、W、Ti及びNbからなる群から選ばれた少なくとも一種を合計で1.0質量%以上含有する鋼が好ましい。特に、Cr含有量は0.5〜1.5質量%が好ましく、Mo含有量は0.1〜0.5質量%が好ましく、Ni含有量は1.5〜2.5質量%が好ましい。
【0030】
(3) 中間層
物性の異なる超硬合金製外層1と鉄系合金製内層2を接合するために必須な中間層3は、0.65〜1.2質量%のC及び1.8〜7.5質量%のNiを含有する鉄系合金により形成する。超硬合金製外層1と鉄系合金製内層2を接合する際、両者の炭素活量の差により接合界面で炭素が超硬合金製外層1から内層2に拡散するので、超硬合金製外層1内の炭素が低下することが知られている。その結果、低炭素組成の炭化物であるη相が超硬合金内に生成され、超硬合金の機械的強度が劣化する。
【0031】
超硬合金製外層1と鉄系合金製内層2との接合実験の結果、中間層3の炭素含有量が0.65質量%以上であれば超硬合金製外層1から内層2へのCの拡散をほぼ抑制でき、もってη相の発生を防止できることを発見した。一方、中間層3の炭素含有量が1.2質量%を超えると、外層1と中間層3の境界部に黒鉛が生成されて、接合強度が低下する。中間層3の炭素含有量の下限は0.7質量%が好ましく、0.75質量%がより好ましい。また、中間層3の炭素含有量の上限は1.0質量%がより好ましい。
【0032】
中間層3が1.8〜7.5質量%のNiを含有すると、接合後に中間層3に残留する内部応力を制御でき、中間層3自体の強度を確保できることが分った。Ni含有量が1.8質量%未満の場合、中間層3の残留応力が高くなりすぎ、中間層3が破壊するおそれがある。一方、Ni含有量が7.5質量%を超えると、中間層3の強度が低くなりすぎ、外層1と中間層3の接合境界の引張強度を600 MPa以上にできなくなる。中間層3のNi含有量の下限は好ましくは1.9質量%であり、より好ましくは2質量%である。また、中間層3のNi含有量の上限は好ましくは6質量%であり、より好ましくは5質量%である。
【0033】
中間層3のC含有量を0.65質量%以上とすることにより、焼入れ性が低下するため、複合ロールの残留応力制御のため内層2と同等以上の焼入れ性が必要である。そのため、中間層3のNi含有量は内層2のNi含有量より大きいのが好ましい。
【0034】
上記の通り、0.65〜1.2質量%のC及び1.8〜7.5質量%のNiを含有する鉄系合金からなる中間層3により、外径が300 mm以上で全長が500 mm以上と大きな外層1であっても内層1に対して十分な接合強度を有することができる。
【0035】
中間層3は3質量%以下のCr及び1.5質量%以下のMoを含有するのが好ましい。3質量%超のCr及び/又は1.5質量%超のMoを含有すると、中間層3の硬度が高くなりすぎて脆くなり、破壊するおそれがある。Cr含有量の下限は好ましくは0.01質量%であり、より好ましくは0.03質量%である。Cr含有量の上限はより好ましくは2質量%であり、最も好ましくは1.2質量%である。また、Mo含有量の下限は好ましくは0.01質量%であり、より好ましくは0.03質量%である。Mo含有量の上限はより好ましくは1質量%である。
【0036】
中間層3はさらに、0.5〜2質量%のSi及び0.1〜0.9質量%のMnを含有するのが好ましい。Siは脱酸効果を有し、焼き入れ硬化性を高めるので、0.5質量%以上が好ましいが、2質量%を超えると靱性を劣化させるおそれがある。同様に、Mnも脱酸効果を有し、焼き入れ硬化性を高めるので、0.1質量%以上が好ましいが、0.9質量%を超えると靱性を劣化させるおそれがある。中間層3は不可避的不純物としてV、Nb、Co、W、Cu等を含有しても良い。
【0037】
中間層3の厚さは0.5〜50 mmであるのが好ましい。中間層3の厚さが0.5 mm未満であるとη相の抑制効果が不十分であり、また中間層3の厚さが50 mmを超えると中間層3又は内層2の引張残留応力が過大になって接合界面で破壊するおそれがある。中間層3の厚さはより好ましくは10〜30 mmであり、最も好ましくは15〜25 mmである。
【0038】
中間層3の引張残留応力は100 MPa未満が好ましく、50 MPa未満がより好ましい。
【0039】
圧延に長期間使用しても外層1と中間層3が剥離しないように、外層1と中間層3の境界部の引張強度は600 MPa以上であるのが好ましく、700 MPa以上がより好ましい。なお、外層1と中間層3の境界部の引張強度は、外層1と中間層3の境界部を含む試験片の引張試験により測定することができる。また、接合後に外層1と内層2が剥離するのを防ぐために、外層1と中間層3の境界部の疲労強度(引圧疲労強度)は200 MPa以上であるのが好ましく、250 MPa以上がより好ましい。
【0040】
[2] 超硬合金複合ロールの製造方法
本発明の超硬合金製ロールは外層1と内層2とが中間層3を介して接合した構造を有するので、外層1と中間層3との界面、及び中間層3及び内層2との界面が隙間なく接合していれば良い。このような接合に拡散接合法又は熱間静水圧(HIP)法を用いることができる。
【0041】
(A) 拡散接合法
(1) 第一の拡散接合法
第一の拡散接合法は、内層部材12に中空円筒状中間層部材13を拡散接合して、内層部材12に中間層3が接合した中間部材14を作製する第一の拡散接合工程を行い、次いで中間部材14の中間層3に超硬合金製外層部材11を拡散接合して、超硬合金複合ロールとする第二の拡散接合工程を行う。
【0042】
(a) 第一の拡散接合工程
図2に示すように、ロール軸に相当する内層部材12を基台8の上に配置した後、内層部材12を囲むように基台8上に第一の円筒状受台9aを載置する。次いで、内層部材12を囲むように中空円筒状中間層部材13を第一の円筒状受台9aの上に載置する。最後に、第一の円筒状拘束部材16aを内層部材12を囲むように基台8上に載置する。
【0043】
上記のように配置した内層部材12及び中間層部材13を不活性雰囲気中で加熱し、内層部材12と中間層部材13の拡散接合を行う。拡散接合温度は1000〜1300℃が好ましく、1100〜1250℃がより好ましい。拡散接合温度が1000℃未満であると、十分な接合強度が得られず、また拡散接合温度が1300℃を超えると、0.65〜1.2質量%のCを含有する鉄系合金製中間層部材13が溶融するおそれがある。拡散接合温度に保持する時間は1〜120分間程度で良い。不活性雰囲気として、N
2、Ar等の不活性ガス、H
2等の還元性ガス、又は真空を用いることができる。
【0044】
室温から1000〜1300℃の拡散接合温度までの温度範囲において、熱膨張率は内層部材12>第一の拘束部材16aの関係を満たさなければならない。室温から1000〜1300℃の温度までの範囲における鉄系合金製内層部材12の熱膨張率は11〜15×10
-6/℃程度であり、第一の拘束部材16aの熱膨張率はこれより十分に小さくなければならない。このような熱膨張率の条件を満たす材質は、熱膨張率が4〜9×10
-6/℃程度の黒鉛又はセラミックスである。第一の拘束部材16aはさらに拡散接合温度及び拡散接合応力に十分に耐えなければならないので、拡散接合温度で高強度かつ高剛性でなければならない。従って、熱膨張率が6×10
-6/℃以下で、1000℃における曲げ強さが30 MPa以上の等方性黒鉛が特に好ましい。
【0045】
加熱により大きく熱膨張する内層部材12と僅かしか熱膨張しない第一の拘束部材16aとの間で中間層部材13が内層部材12に十分に密着して接合するように、内層部材12の外面と第一の拘束部材16aの内面との間隙G
1は、G
1−T
3(ただし、T
3は中間層部材13の厚さ)が室温から1000〜1300℃の温度までの範囲における内層部材12と第一の拘束部材16aとの熱膨張差より十分に小さくなるように、設定しなければならない。例えば、鋼製内層部材12(熱膨張率:14×10
-6/℃)の直径T
2が300 mmであり、中間層部材13の厚さT
3が10 mmである場合、第一の黒鉛製拘束部材16(熱膨張率:8×10
-6/℃)の内径をT
2+T
3+2.5 mmとするのが好ましい。
【0046】
第1の拡散接合において、中間層部材3の外面に内層部材2に比べて熱膨張率の小さい中空状の拘束部材6を嵌合し、加熱によって膨張しようとする中間層部材および内層部材を拘束部材により拘束し、内層部材の熱膨張によって内層部材の外径側が中間層部材の内径側と密接し、中間層部材3と内層部材2の接合面に拡散接合に必要な面圧(接合面圧)を確保することができる。
【0047】
(b) 第二の拡散接合工程
中間部材14の中間層3の外周面を機械加工により所定の寸法に加工した後、
図3(a) に示すように、中間部材14を基台8上に載置する。中間部材14を囲むように基台8上に第二の円筒状受台9bを載置した後、円筒状外層部材11を第二の円筒状受台9bの上に載置する。次いで、外層部材11より熱膨張率が小さい第二の円筒状拘束部材16bを外層部材11を囲むように基台8上に載置する。
【0048】
このように配置した外層部材11、中間部材14及び拘束部材16を不活性雰囲気中で加熱し、外層部材11と中間層3の拡散接合を行う。拡散接合温度は1000〜1320℃が好ましい。拡散接合温度が1000℃未満であると、外層部材11と中間層3の間の面圧が不足して十分な接合強度が得られないことがあり、また拡散接合温度が1320℃を超えると、超硬合金製外層部材11が溶融するおそれがある。拡散接合温度はより好ましくは1100〜1300℃であり、最も好ましくは1200〜1260℃である。拡散接合温度に保持する時間は1〜120分間程度で良い。不活性雰囲気として、N
2、Ar等の不活性ガス、H
2等の還元性ガス、又は真空を用いることができる。
【0049】
室温から1000〜1320℃の拡散接合温度までの温度範囲において、熱膨張率は内層部材12>外層部材11>第二の拘束部材16bの関係を満たさなければならない。室温から1000〜1320℃の温度までの範囲における鉄系合金製内層部材12の熱膨張率は11〜15×10
-6/℃程度であり、超硬合金製外層部材11の熱膨張率は6〜10×10
-6/℃程度であり、第二の拘束部材16bの熱膨張率はこれらより十分に小さくなければならない。このような熱膨張率条件を満たす材質は、第一の拘束部材16aと同様に、熱膨張率が4〜9×10
-6/℃程度の黒鉛又はセラミックスが好ましい。黒鉛又はセラミックスは、1000〜1320℃の拡散接合温度で高強度かつ高剛性であり、さらに超硬合金と接合しない。中でも、熱膨張率が6×10
-6/℃以下で、1000℃における曲げ強さが30 MPa以上の等方性黒鉛が特に好ましい。
【0050】
このような熱膨張率の差を考慮して、加熱により最も熱膨張した内層部材12の外面が外層部材11の内面を十分に押圧するとともに、最も熱膨張しない第二の拘束部材16bの内面が外層部材11の外面を十分に押圧するように、外層部材11と中間層3との間隙G
1、及び外層部材11と第二の拘束部材16bとの間隙G
2を設定する必要がある[
図3(b) 参照]。例えば、鋼製内層部材12(熱膨張率:14×10
-6/℃)の直径T
2が300 mmであり、中間層3の厚さT
3が10 mmであり、超硬合金製外層部材11(熱膨張率:7.5×10
-6/℃)の内径が304.5 mmで、外径が358 mmであり、かつ黒鉛製の第二の拘束部材16b(熱膨張率:5×10
-6/℃)の内径が359.7 mmである場合、外層部材11と内層部材12との間隙G
1は1.0〜2.0 mmであるのが好ましく、外層部材11と第二の拘束部材16bとの間隙G
2は1.3〜2.0 mmであるのが好ましい。
【0051】
上記の通り、外層部材11の外側に外層部材11より熱膨張率が小さい第二の拘束部材16bを配置し、外層部材11及び内層部材12の熱膨張を第二の拘束部材16bにより拘束するので、最も熱膨張する内層部材12の外周に形成された中間層3の外面は外層部材11の内面と拡散接合に必要な面圧(接合面圧)で密接する。これにより外径が300 mm以上でロール長が500 mm以上と大型でも、良好な接合信頼性の超硬合金複合ロールが得られる。
【0052】
図3(a) に示すように、第二の拘束部材16bの全長L
3は外層部材11の全長L
1より長いのが好ましく、また第二の拘束部材16bの軸線方向両端面6a、6bは外層部材11の軸線方向両端面1a、1bより長さDだけ突出しているのが好ましい。これにより、外層部材11を軸線方向両端間で均一に拘束できるので、外層部材11の全長L
1にわたって内層部材12に均一に拡散接合する。例えば、内層部材12の全長L
2が600 mmで、外層部材11の全長L
1が500 mmの場合、Dは10〜100 mmが好ましい。
【0053】
第二の拘束部材16bは拡散接合温度で変形又は破損したりせずに、外層部材11を十分に拘束しなければならないので、第二の拘束部材16bを外層部材11より厚くするのが好ましい。例えば、内層部材12の直径T
2が320 mmで、外層部材11の厚さT
1が27 mmの場合、第二の拘束部材16bの厚さT
3は100〜150 mmが好ましい。
【0054】
図4に示すように、第二の拘束部材16bは、複数(図示の例では6個)の比較的短尺なリング部材61〜66を軸線方向に同軸的に積み重ねることにより構成することができる。第二の拘束部材16bの熱膨張拘束力は径方向に作用するので、軸線方向に分離したリング部材61〜66を用いても、熱膨張拘束効果は同じである。勿論、各リング部材61〜66は黒鉛又はセラミックスからなるのが好ましい。500 mm以上と長尺な超硬合金複合ロールを製造する場合、製造の容易さの観点からリング部材61〜66を用いるのが好ましい。勿論、第一の拘束部材16aも複数の比較的短尺なリング部材を軸線方向に同軸的に積み重ねることにより構成することができる。
【0055】
拡散接合温度で外層部材11と接しても反応が起こらないように、第二の拘束部材16bと外層部材11との間に反応防止材を介在させるのが好ましい。反応防止材としては外層部材11との反応性の低いアルミナ等のセラミックスが好ましい。反応防止材は粉末状でも織布状でも良い。粉末の場合、スラリーにして外層部材11の外面又は拘束部材16の内面に塗布しても良い。また織布状の場合、外層部材11の外周に巻き付けても良い。
【0056】
外層部材11と内層部材12が中間層3を介して拡散接合すると、外層部材11は外層1となり、内層部材12は内層2となる。その後第二の拘束部材16bを取り外し、外層1と内層2が中間層3を介して一体化した超硬合金複合ロール10を得る。必要に応じて超硬合金複合ロール10の所望箇所を機械加工し、熱間薄板圧延に好適な寸法形状とする。
【0057】
(2) 第二の拡散接合法
内層部材12に対して、円筒状中間層部材13及び円筒状外層部材11を1回の拡散接合で一体化することもできる。この場合、内層部材12に中間層部材13を焼嵌め叉は冷やし嵌め等の方法で接合しておく。その後、第一の拡散接合法の第二の拡散接合工程と同じ条件で拡散接合を行う。そのため、1000〜1320℃の拡散接合温度で、内層部材12と中間層部材13との拡散接合、及び中間層部材13と外層部材11との拡散接合を同時に行う。
【0058】
(2) 熱間静水圧(HIP)法
図5に示すように、円筒状HIP缶部20aに円筒状外層部材11を入れた後、円筒状外層部材11の内側に中間層3を形成した鉄系合金製内層部材12又は中間層部材13を接合した鉄系合金製内層部材12を配置し、外層部材11の端面を覆うドーナツ状HIP缶部20b,20bを円筒状HIP缶部20aに溶接し、さらにドーナツ状HIP缶部20b,20bに内層部材12をおおうカップ状HIP缶部20c,20cを溶接し、得られたHIP缶内を減圧する。その後、HIP缶をHIP装置に入れ、HIP処理を行う。HIP温度は1100〜1300℃が好ましく、HIP圧力は100〜140 MPaが好ましい。
【0059】
HIPにより外層部材11と内層部材12は中間層3(中間層部材13)を介して強固に接合し、外層部材11は外層1となり、内層部材12は内層2となる。また、中間層部材13は中間層3になる。冷却後、HIP缶20を機械加工により除去し、外層1と内層2が中間層3を介して一体化した超硬合金複合ロール10を得る。この場合も、必要に応じて超硬合金複合ロール10の所望箇所を機械加工しても良い。
【0060】
本発明の以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0061】
実施例1
表1に示す組成を有する超硬合金を用いて、
図6に示す外径20 mm及び厚さ20 mmの円柱状外層試験片31を作製した。また、表2に組成を有する鉄系合金を用いて、
図6に示す外径20 mm及び長さ20 mmの円柱状内層試験片32を作製した。さらに、表3に示す組成を有する鉄系合金を用いて、外径30 mm及び厚さ5 mmの5種類の円板状中間層試験片33(中間層1〜5)を作製した。外層試験片31、中間層試験片33及び内層試験片32を
図6に示すように積み重ね、黒鉛製治具34に収めた後、真空中で治具34を上から加圧して、表3に示す条件で拡散接合を行い、接合試験片1〜5を作製した。
【0062】
各接合試験片1〜5の接合境界を観察した結果、接合試験片1及び4では、中間層試験片33と外層材試験片31の接合境界にη相や黒鉛の発生が抑えられていたため、接合強度が十分高く、接合信頼性が高かった。しかし、接合試験片3では、中間層試験片33と外層試験片31の接合境界に黒鉛が発生していた。また接合試験片2及び5では、中間層試験片33と外層試験片31の接合境界にη相が認められた。従って、接合試験片2、3及び5の接合強度は低いことが想定される。
【0063】
【表1】
注:(1) WC粒子の平均粒径は5μmであった。
【0067】
実施例2
表1に示す組成を有する直径25 mm×長さ75 mmの外層試験片31、及び表2に示す組成を有する直径25 mm×長さ75 mmの鉄系合金製内層試験片32を作製した。また、表3に示す接合試験片1及び2の組成を有する2種類の直径25 mm×厚さ10 mmの鉄系合金製中間層試験片33を作製した。外層試験片31、中間層試験片32及び内層試験片33を
図6に示すように黒鉛製治具34に収めた後、真空中で治具34を上から加圧して、表4に示す条件で拡散接合を行い、接合試験片6及び7を作製した。
【0068】
各接合試験片6,7から
図7に示す形状の引張試験片45,46を作製した。各引張試験片45,46は外層試験片部41、中間層試験片部43及び内層試験片部42からなり、直径は6.3 mmで、標点距離は19 mmであった。中間層試験片部43は標点間の中央に位置した。各引張試験片45,46に対して、引張強度試験及び疲労強度(引圧)試験を行った。結果を表4に示す。本発明の組成範囲内の中間層を有する引張試験片45(接合試験片6)の引張強度は600 MPa以上で、疲労強度は200 MPa以上であった。これに対して、本発明の組成範囲外の中間層を有する引張試験片46(接合試験片7)の引張強度は600 MPa未満で、疲労強度も200 MPa未満であった。
【0070】
実施例3
表2に示す組成を有する鉄系合金を用いて、外径270 mm及び全長1000 mmのロール軸状の内層部材12を作製した。また表5に示す組成を有する鉄系合金を用いて、外径335 mm、内径270 mm及び全長600 mmの中間層部材13を作製した。さらに、外径600 mm、内径336.5 mm及び全長1100 mmの第一の黒鉛製中空円筒状拘束部材16aを作製した。
図2に示すように各部材を黒鉛製基台8上に配置した状態で、真空炉に入れ、1290℃の温度に60分間保持して拡散接合を行い、中間部材14を作製した。
【0072】
中間部材14の中間層3の外周面を外径316 mmまで機械加工した後、黒鉛製基台8上に配置した。また、表1に示す組成を有する超硬合金を用いて、外径358 mm、内径317.5 mm及び全長520 mmの中空円筒状外層部材11を作製した。さらに、外径600 mm、内径359.7 mm及び全長1200 mmの第二の黒鉛製拘束部材16bを作製した。基台8上に載置された中間部材14の外周に、
図3(a) に示すように外層部材11を配置し、また外層部材11の外周に第二の拘束部材16bを配置した。この状態で真空炉に入れ、1290℃の温度に60分間保持して拡散接合を行い、超硬合金複合ロール10を作製した。
【0073】
超硬合金複合ロール10の外層1、中間層3及び内層2の端部を目視検査し、接合面全域を浸透探傷検査した。その結果、接合面全域にわたって境界の欠陥は観察されなかった。また、外層1と中間層3の剥離、及び中間層3と内層2の剥離も認められなかった。
【0074】
実施例2と同じ引張試験の結果、引張強度は780 MPa以上で、疲労強度は258 MPa以上であった。さらに中間層3の引張残留応力は100 MPa未満であった。
【符号の説明】
【0075】
1:外層
2:内層
3:中間層
8:基台
9a,9b:第一及び第二の受台
10:超硬合金複合ロール
11:外層部材
12:内層部材
13:中間層部材
14:中間部材
16a,16b:第一及び第二の拘束部材
20:HIP缶
31:外層試験片
32:内層試験片
34:黒鉛製治具
45:接合試験片
46:引張試験片
61〜66:拘束部材用リング部材
L
1:外層部材の長さ
L
2:内層部材の長さ
L
3:第二の拘束部材の長さ
D:外層部材の各端部から延びる第二の拘束部材の長さ
T
1:外層部材の厚さ
T
2:内層部材の直径
T
3:第二の拘束部材の厚さ
G
1:外層部材と中間層との間隙
G
2:外層部材と第二の拘束部材との間隙