特許第6354563号(P6354563)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6354563回収器具の製造方法、金属不純物の回収方法、及び金属不純物の分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354563
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】回収器具の製造方法、金属不純物の回収方法、及び金属不純物の分析方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/66 20060101AFI20180702BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   H01L21/66 D
   G01N1/28 X
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-256457(P2014-256457)
(22)【出願日】2014年12月18日
(65)【公開番号】特開2016-119332(P2016-119332A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2016年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131048
【弁理士】
【氏名又は名称】張川 隆司
(72)【発明者】
【氏名】荒木 健司
【審査官】 堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−140147(JP,A)
【文献】 特開平08−005526(JP,A)
【文献】 特開2006−140195(JP,A)
【文献】 特開2013−115261(JP,A)
【文献】 特開2005−326240(JP,A)
【文献】 特開2007−207783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
G01N 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の表面に存在する金属不純物の回収時に用いられ、前記回収時に前記表面に供給された回収液が接触する接液部を有した回収器具の製造方法であって、
前記接液部を有した形状に成形された樹脂製の成形品を準備する準備工程と、
前記成形品における前記接液部の表面を溶融加工する溶融工程と、
前記溶融工程を実施した後に前記接液部の表面研磨を行う研磨工程と、
を含み、
前記回収器具は、
有底円筒状に形成されて、有底円筒内の側面に螺子部が形成されるとともに、有底円筒内の底面に前記半導体基板が載置される裏面側支持部材と、
上面と下面の間を貫通した前記接液部としての開口部を有したリング状の部材であって、前記半導体基板が載置された状態の前記裏面側支持部材の有底円筒内に挿入されて、外側に側面に前記裏面側支持部材の前記螺子部とねじ結合する螺子部が形成された挿入部と、前記挿入部の上端に接続されて前記挿入部より大きい外径の大径部とを備えたリング部材と、
を備えた治具における前記リング部材であり、
前記回収器具は、前記裏面側支持部材の有底円筒内において前記半導体基板を該有底円筒内の底面と前記挿入部の下面とで挟み込むように支持した状態で、前記半導体基板の表面の特定部位を露出させる前記開口部に前記回収液が注入されることを特徴とする回収器具の製造方法。
【請求項2】
前記準備工程では、フッ素樹脂の前記成形品を準備することを特徴とする請求項に記載の回収器具の製造方法。
【請求項3】
前記フッ素樹脂の種類がポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項に記載の回収器具の製造方法。
【請求項4】
前記溶融工程では、340℃〜380℃で前記接液部の表面溶融加工を行うことを特徴とする請求項又はに記載の回収器具の製造方法。
【請求項5】
前記研磨工程では、表面粗さRaが200nm以下となるように前記接液部の表面研磨を行うことを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の回収器具の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法により得られた回収器具を用いて、半導体基板の表面に回収液を供給することにより該表面に存在する金属不純物を回収することを特徴とする金属不純物の回収方法。
【請求項7】
前記半導体基板が炭化シリコン基板であることを特徴とする請求項に記載の金属不純物の回収方法。
【請求項8】
前記半導体基板がシリコン基板であることを特徴とする請求項に記載の金属不純物の回収方法。
【請求項9】
前記回収液は、フッ酸と過酸化水素水の混合水溶液、フッ酸と塩酸と過酸化水素水の混合水溶液又はフッ酸と硝酸と塩酸の混合水溶液であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の金属不純物の回収方法。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか1項に記載の回収方法を実施した後、前記回収液中の金属不純物量を測定することを特徴とする金属不純物の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板の表面に存在する金属不純物を回収するための回収器具の製造方法、半導体基板の表面に存在する金属不純物の回収方法及び分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板の表面に存在する金属不純物は、半導体デバイス特性や半導体デバイス製造歩留まりを低下させる原因のひとつとなっている。このため基板表面の金属不純物による汚染対策が重要となり、基板表面の金属不純物の高感度な分析技術が必要となる。
【0003】
基板表面に存在する金属不純物の分析方法として、原子吸光分析法(AAS: Atomic Absorption Spectrometry)や、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES: Inductively Coupled Plasma Optical Emission Spectrometry)、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS: Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)等が知られている。
【0004】
また、これらの分析方法で金属不純物の分析を行うには、基板表面の金属不純物を回収する必要があり、その回収方法として従来様々な方法が提案されている。例えば、特許文献1には、フッ酸蒸気により基板表面の自然酸化膜を気相分解し、その後、金属不純物を回収するための薬液(回収液)を半導体基板の表面上で満遍なく走査することにより、金属不純物を薬液中に取り込む方法が記載されている。
【0005】
また、この他に、特許文献1には、(1)中央部が湾曲したくぼみを有する耐酸性容器を使用し、くぼみ部分に回収液を入れ、分析面を下に向けた基板を容器に置くことで、基板表面の金属不純物を回収液中に取り込む方法が開示されている。また、特許文献2には、(2)平坦な底面を有する支持容器に回収液を添加し、その上に分析対象基板を載せることで、金属不純物を回収液中に取り込む方法が開示されている。さらに、特許文献3、非特許文献1には、(3)分析対象基板の裏面側に配置される平坦な支持面と、分析対象基板の表面側に配置されるリング部材とで、分析対象基板を挟み込みように支持し、リング部材の開口部に回収液を注入することで、金属不純物を回収液中に取り込む方法が開示されている。
【0006】
また、これら文献には、金属不純物の回収時に用いる治具、容器として、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−64966号公報
【特許文献2】特開2013−115261号公報
【特許文献3】特開2007−207783号公報
【非特許文献1】竹中みゆき、外4名、「加熱気化/誘導結合プラズマ質量分析法によるシリコンウェハー中の超微量クロム、鉄、ニッケル及び銅の深さ方向分布の測定」、分析化学、公益社団法人日本分析化学会、1994年、Vol.43、p173−176
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記(1)〜(3)の回収方法では、基板表面に存在する金属不純物の回収時に、回収器具(耐酸性容器、支持容器、リング部材)と回収液とが接触する。そのため、回収器具から回収液への金属不純物の溶出や、回収液から回収器具への金属不純物の吸着により、基板表面に存在する金属不純物の回収精度が低下し、その結果、基板表面に存在する金属不純物の分析精度が低下するという問題がある。
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、基板表面に存在する金属不純物を正確に回収、分析できる回収器具の製造方法、金属不純物の回収方法及び金属不純物の分析方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、検討の結果、回収液と接触する回収器具の部分(接液部)の表面状態及び表面加工粗さが重要であることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、半導体基板の表面に存在する金属不純物の回収時に用いられ、前記回収時に前記表面に供給された回収液が接触する接液部を有した回収器具の製造方法であって、
前記接液部を有した形状に成形された樹脂製の成形品を準備する準備工程と、
前記成形品における前記接液部の表面を溶融加工する溶融工程と、
前記溶融工程を実施した後に前記接液部の表面研磨を行う研磨工程と、
を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、準備工程で、回収器具として必要な形状に成形された樹脂製の成形品を準備し、その準備した成形品における接液部に対して表面処理を行う。具体的には、先ず、溶融工程により、接液部の表面部分を溶融させるいわゆる溶融加工をするので、成形時に形成された接液部表面の微細な孔を消滅させることができる。次に、研磨工程により接液部の表面研磨を行うので、接液部の表面を平滑化できる。これにより、回収液と接触した場合の接液部からの金属不純物の溶出や、接液部への金属不純物の吸着を減少させることができ、基板表面に存在する金属不純物を正確に回収できる。
【0013】
また、本発明において、前記回収器具は、前記回収時に前記半導体基板の表面側に配置されて、その配置の際に前記半導体基板の表面の特定部位を露出させる前記接液部としてのリング状の開口部を有し、前記開口部に前記回収液が注入されるとすることができる。これによって、開口部−回収液間の金属不純物の溶出及び吸着を減少させることができ、基板表面の特定部位に存在する金属不純物を正確に回収できる。
【0014】
また、本発明において、準備工程では、フッ素樹脂の成形品を準備するとするのが好ましい。このとき、フッ素樹脂の種類がポリテトラフルオロエチレンとすることができる。このように、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂で回収器具を製造することで、耐薬品性が高い回収器具を得ることができ、回収器具から回収液への汚染(クロスコンタミ)を抑えることができる。また、フッ素樹脂の成形は、例えば、原料を加圧焼成することにより得られた素材を、所望の形状に切削加工する工程を実施するが、この場合には、切削された箇所の表面には、加圧焼成品特有の微細な孔が存在するとともに、表面加工粗さが大きい。このような、フッ素樹脂の加圧焼成切削品を本発明に適用すると、特に効果的である。
【0015】
また、フッ素樹脂を用いた場合、溶融工程では、340℃〜380℃で接液部の表面溶融加工を行うのが好ましい。フッ素樹脂の融点は327℃であり、340℃以下では、フッ素樹脂は溶融しないか、溶融したとしても粘性が高いので加工しにくいという問題がある。また、380℃以上では、溶融したフッ素樹脂中の空気が膨張(発砲)するため加工しにくいという問題がある。340℃〜380℃で接液部の表面溶融加工を行うことで、粘性を低くでき、かつフッ素樹脂中の空気の膨張を抑えることができ、その結果、接液部表面を容易に溶融加工できる。
【0016】
また、フッ素樹脂を用いた場合、研磨工程では、表面粗さRaが200nm以下となるように接液部の表面研磨を行うのが好ましい。これによって、後述の実施例で示すように、接液部−回収液間の金属不純物の溶出及び吸着を効果的に減少させることができる。
【0017】
本発明の金属不純物の回収方法は、本発明の製造方法により得られた回収器具を用いて、半導体基板の表面に回収液を供給することにより該表面に存在する金属不純物を回収することを特徴とする。
【0018】
このように、接液部の表面処理(溶融工程、研磨工程)が行われた回収器具を用いることで、回収液と接触した場合の接液部からの金属不純物の溶出や、接液部への金属不純物の吸着を減少させることができ、基板表面に存在する金属不純物を正確に回収できる。
【0019】
また、本発明の回収方法において、前記回収器具は、前記半導体基板をその表面側に配置されて、その配置の際に前記半導体基板の表面の特定部位を露出させる前記接液部としてのリング状の開口部を有し、
前記回収器具と、前記半導体基板の裏面を支持する平坦な支持面を有した裏面側支持部材とにより、前記半導体基板を挟み込むように支持した状態で、前記開口部に前記回収液を注入する。
【0020】
このように、回収時に、回収器具と裏面側支持部材とにより、半導体基板を挟み込むように支持することで、注入された回収液を開口部内に保持でき、基板表面の特定部位に存在する金属不純物を正確に回収できる。言い換えると、回収液が開口部外(基板表面の特定部位以外の部位や基板の裏面など)に回り込むことによるクロスコンタミの発生を抑制できる。
【0021】
また、本発明の回収方法において、半導体基板が炭化シリコン基板とすることができる。炭化シリコン基板の表面は親水性を有するため、疎水性の表面を有した半導体基板に比べて、基板表面に供給した回収液を薄く広がりやすくできる。つまり、少ない量の回収液でも、基板表面の各部に回収液をいきわたらせることができる。回収液を少なくすることで、接液部−回収液間の金属不純物の溶出及び吸着を抑制できる。
【0022】
また、本発明の回収方法において、半導体基板がシリコン基板とすることができる。シリコン基板の表面は疎水性を有するため、親水性の表面を有した半導体基板に比べて、表面張力の影響で回収液は薄く広がらずに一部に集まり易くなってしまう。このため、基板表面を回収液で覆うには大量の回収液が必要となる。本発明では、大量の回収液と接触する接液部に対して上記表面処理を行った回収器具を用いるので、接液部−回収液間の金属不純物の溶出及び吸着を抑制できる。また、回収液を多く使った場合、接液部に回収液が残留し易く、金属不純物の回収率が悪化する原因となるが、本発明では、接液部に対して上記表面処理を行っているので、その回収率の悪化を抑えることができる。その結果、正確に金属不純物の分析を行うことができる。
【0023】
また、本発明の回収方法において、前記回収液は、フッ酸と過酸化水素水の混合水溶液、フッ酸と塩酸と過酸化水素水の混合水溶液又はフッ酸と硝酸と塩酸の混合水溶液である。回収液としてフッ酸と過酸化水素水の混合水溶液又はフッ酸と塩酸と過酸化水素水の混合水溶液を用いることで、基板表面に存在する金属不純物をその混合水溶液中に溶出(回収)できる。また、回収液としてフッ酸と硝酸と塩酸の混合水溶液を用いることで、基板表面だけでなく、表面近傍の基板内の金属不純物もその混合溶液中に溶出できる。
【0024】
本発明の金属不純物の分析方法は、本発明の金属不純物の回収方法を実施した後、前記回収液中の金属不純物量を測定することを特徴とする。これによれば、接液部−回収液間の金属不純物の溶出及び吸着を抑えた回収液中の金属不純物量を測定するので、基板表面に存在する金属不純物を正確に分析できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】回収治具の側面断面図である。
図2】リング部材の製造手順を示したフローチャートである。
図3】PTFEテストピースからの金属不純物溶出量の調査結果を示した図である。
図4】PTFEテストピース表面への金属不純物吸着量の調査結果を示した図である。
図5】実施例におけるSiC基板表面の金属不純物測定結果を示した図である。
図6】比較例におけるSiC基板表面の金属不純物測定結果を示した図である。
図7】実施例におけるシリコン基板表面の金属不純物測定結果を示した図である。
図8】実施例におけるシリコン基板表面近傍の金属不純物測定結果を示した図である。
図9】比較例におけるシリコン基板表面の金属不純物測定結果を示した図である。
図10】比較例におけるシリコン基板表面近傍の金属不純物測定結果を示した図である。
図11】比較例における回収治具の側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。本実施形態では、上記特許文献3、非特許文献1に記載の方法と同様の方法により、半導体基板の表面に存在する金属不純物を回収し、分析する場合に本発明を適用した例を説明する。図1は、本実施形態の回収治具1の側面断面図を示している。なお、図1には、回収治具1にセット(固定)された、金属不純物の分析対象となる半導体基板W(以下、分析対象基板という場合もある)も図示している。
【0027】
回収治具1は、特許文献3、非特許文献1に記載の回収治具と同様に構成されており、支持皿2と、リング部材3とを備えている。それら支持皿2、リング部材3は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)により形成されている。支持皿2は、有底円筒状に形成されている。詳しくは、支持皿2は、上から見て円形、且つ有底の開口を有し、その開口は、分析対象基板Wの径と同じ、又はそれよりも大きい径に形成される。なお、図1では、開口は、分析対象基板Wの径と同じ径に形成されている。また、開口内の底面21は平坦な面に形成される。また、開口内の側面22には螺子部が形成されている。
【0028】
リング部材3はリング状(円筒状)に形成されている。詳しくは、リング部材3は、リング部材3の上面と下面の間を貫通した開口部34(図1の斜線ハッチングの部分)を有する。リング部材3を図1のように設置した時に、分析対象基板Wの表面のうち金属不純物の回収を行う特定部位が開口部34から露出されるように、開口部34の大きさ及び形成位置が定められる。図1では、分析対象基板Wの外周部を除く大部分(基板中心を中心とした、分析対象基板Wの径よりも若干小さい径の円内部分)を特定部位としている。
【0029】
また、開口部34の内面は、後述の製造工程により、表面溶融加工及び表面研磨が施されている。その内面の表面粗さRa(算術平均粗さ)は200nm以下となっている。
【0030】
また、リング部材3は、支持皿2の開口径と同じ外径に形成されて支持皿2の開口に挿入される挿入部31を有する。その挿入部31の外周面32には、支持皿2の開口に挿入された際に、支持皿2の螺子部22(開口の側面)とねじ結合する螺子部が形成されている。さらに、リング部材3は、挿入部31の上端に接続される形で挿入部31の径よりも大きい径の大径部33を有する。
【0031】
なお、リング部材3が本発明の回収器具に相当し、開口部34が接液部に相当し、支持皿2が裏面側支持部材に相当する。
【0032】
リング部材3は、図2に示す手順にしたがって製造される。先ず、リング部材3として必要な形状(開口部34を有した形状)に成形されたPTFE製の成形品を準備する(S1)。具体的には、例えば、PTFEの原料を加圧焼成することで、図1の形状に機械加工しやすい形状を有したPTFE製の素材を形成し、その素材を図1に示す形状に切削加工(機械加工)する。得られた成形品(加圧焼成品)における開口部34の内面には、加圧焼成品特有の微細な孔が存在する。また、開口部34の内面は切削加工面とされるので、表面加工粗さが大きい。なお、S1の工程が本発明の準備工程に相当する。
【0033】
次に、S1で得られた成形品の開口部34に対して、340℃〜380℃で表面溶融加工を行う(S2)。具体的には、開口部34の内面に、340℃〜380℃の熱を加え表面部分を溶融させる。熱を加える時間は例えば30分間以内とする。340℃〜380℃の熱を加えることで、内面を溶融でき、その溶融時の内面の粘性を適切にできるとともに、成形品中の空気の膨張を抑えることができる。また、溶融状態の内面に対して加工処理(平滑化)を行うことで、内面に存在していた微細な孔を消滅させることができるとともに、内面の表面粗さを小さくできる。なお、S2の工程が本発明の溶融工程に相当する。
【0034】
次に、S2の表面溶融加工を実施した後の開口部34に対して、表面粗さRa(算術平均粗さ)が200nm以下となるように表面研磨を行う(S3)。なお、S3の工程が本発明の研磨工程に相当する。以上の工程を経て、リング部材3が得られる。
【0035】
なお、支持皿2の製造方法については、支持皿2には回収液と接触する接液部が存在しないので、表面溶融加工及び表面研磨をしなくても良く、PTFEの素材(加圧焼成品)を切削加工することで、支持皿2が得られる。
【0036】
次に、回収治具1を用いて、分析対象基板Wの表面の金属不純物を回収及び分析する手順を説明する。先ず、支持皿2の底面21に分析対象基板Wを載置する。この分析対象基板Wの種類はどのようなものでも良いが、例えば、炭化シリコン(SiC)基板又はシリコン(Si)基板とすることができる。
【0037】
分析対象基板Wを載置した後、次に、支持皿2の開口にリング部材3の挿入部31を挿入する。このとき、リング部材3(大径部33)を中心軸線まわりに回転させることで、挿入部31が支持皿2の開口に挿入されていき、その挿入に伴いリング部材3の螺子部32と支持皿2の螺子部22とがねじ結合される。挿入部31の下面35が分析対象基板Wの表面(外周部)に接触するまで、挿入部31を支持皿2の開口に挿入させる。これによって、分析対象基板Wの外周部が支持皿2とリング部材3とで挟み込まれる形で、分析対象基板Wは回収治具1に固定(支持)される。
【0038】
その後、開口部34に、分析対象基板Wの表面に存在する金属不純物を溶出させる薬液(回収液)を注入する。この回収液としては、例えば、フッ酸と過酸化水素水の混合水溶液、フッ酸と塩酸と過酸化水素水の混合水溶液、又はフッ酸と硝酸と塩酸の混合水溶液が用いられる。いずれの混合水溶液を用いたとしても、基板表面の金属不純物を溶出させることができるが、フッ酸と硝酸と塩酸の混合水溶液を用いた場合には、基板表面だけでなく、表面近傍の基板内に存在する金属不純物も混合水溶液中に溶出させることができる。よって、基板表面の金属不純物のみを回収、分析したい場合には、フッ酸と過酸化水素水の混合水溶液又はフッ酸と塩酸と過酸化水素水の混合水溶液を用いるのが好ましい。また、基板表面及び表面近傍の基板内に存在する金属不純物を回収、分析したい場合には、フッ酸と硝酸と塩酸の混合水溶液を用いるのが好ましい。
【0039】
また、開口部34に注入する回収液の量は、開口部34から露出した分析対象基板Wの特定部位の大きさや、分析対象基板Wの種類に応じて定める。具体的には、特定部位が大きいほど、回収液の量を多くする。また、分析対象基板Wが、シリコン基板など疎水性の表面を有した基板の場合には、炭化シリコン基板など親水性の表面を有した基板の場合に比べて、回収液の量を多くする。これによって、表面張力の影響で基板表面に薄く広がりにくい疎水性の基板表面に対して、回収液を確実に供給できる。
【0040】
回収液を注入した後、その回収液が、開口部34に露出した基板表面に満遍なく行き渡るよう撹拌し、所定時間(例えば5分)静置する。これによって、基板表面又は表面近傍(表面を含む)に存在する金属不純物を回収液中に溶出(回収)できる。また、開口部34の内面は上述の表面溶融加工及び表面研磨の処理が施されているので、リング部材3内に存在する金属不純物が回収液中に溶出してしまうのを抑制できる。また、基板表面から回収液中に溶出された金属不純物が、開口部34に吸着してしまうのを抑制できる。
【0041】
さらに、分析対象基板Wの裏面全面が支持皿2に支持されており、分析対象基板Wの外周部が支持皿2及びリング部材3とで挟み込まれているので、開口部34に注入された回収液が、開口部34外(例えば分析対象基板Wの外周部や裏面)に回り込んでしまうのを抑制できる。つまり、回収液を開口部34内に確実に保持できる。以上より、分析対象基板Wの表面又は表面近傍に存在する金属不純物のみを正確に回収液に回収できる。
【0042】
その後、回収治具1を傾けて、開口部34から回収液を取り出し、取り出した回収液中の金属不純物を、ICP−MS、ICP−OES、原子吸光分析法(AAS)などで測定する。これにより、分析対象基板Wの表面又は表面近傍に存在する金属不純物を正確に分析できる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例を示して本発明をより具体的に説明する。
(実施例1)
本発明では、先ず、テストピースを用いて、テストピースの表面状態及び表面加工粗さと、テストピースから回収液への金属不純物溶出量及び回収液からテストピースへの金属不純物吸着量との関連についての調査を以下のように行った。テストピースの材質はPTFEとした。その調査結果をもとに、リング部材の開口部内面の最適加工条件を見出した。
【0044】
先ず、PTFE製のテストピース(25mm×35mm×2mm)を切削加工(Ra=1200nm)で複数個作製し、そのうちの一部のテストピースはさらに表面加工粗さを小さくするため表面を研磨し、粗さ(Ra)を200nmにした。また、切削加工したテストピースに340℃〜380℃で表面溶融加工したもの(Ra=450nm)、さらに溶融加工後に表面研磨したもの(Ra=200nm)を準備した。つまり、切削加工のみのテストピース、切削加工+表面研磨の加工を施したテストピース、切削加工+表面溶融加工を施したテストピース、切削加工+表面溶融加工+表面研磨の加工を施したテストピースの4種類のテストピースを準備した。準備した各テストピースを用いて以下の工程を実施した。
【0045】
<工程1:テストピースの表面金属不純物汚染除去>
テストピース作製加工時に付着した金属不純物を除去するため、フッ酸+硝酸+塩酸+水の混合溶液(フッ酸約10%、硝酸約12%、塩酸約7%)を入れたPFA(テトラフルオロエチレン〜パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)製ビーカーにテストピースを入れ、ホットプレートで80℃、2時間加熱し、超純水で水洗する工程を複数回繰り返した。
【0046】
<工程2:テストピースからの金属不純物溶出量調査>
フッ酸+硝酸+塩酸+水の混合溶液(フッ酸約10%、硝酸約12%、塩酸約7%)50mLを不純物溶出がなくなるまで充分洗浄したPFA製ビーカーに入れ、同様に不純物溶出がなくなるまで充分洗浄した直径5mmのPFA製の球をビーカー内に入れた。ここで、テストピース(平板)をビーカーにそのまま投入すると、テストピースの平面がビーカーの底面に貼り付いてしまい、混合溶液が十分にテストピース表面に行き渡らない。PFA製の球を入れることで、テストピースの一部がPFA製の球に乗り、ビーカー底から浮くため、混合溶液をテストピース表面の隅々まで行き渡らせることができる。
【0047】
次に、工程1を実施した後のテストピース1枚をビーカー内に入れ、80℃で20分間加熱し、テストピースから金属不純物を溶出させた。溶出した金属不純物量をICP−MSで測定した。この工程をテストピースの枚数繰り返した。
【0048】
各テストピースから溶出した金属不純物量の測定結果を図3に示す。図3では、金属不純物の種類(Na、Mg、Al等)ごとに上記4種類のテストピース(図3では、A、B、C、Dとして示す)から溶出された金属不純物量を示している。また、図3において、E(薬液ブランク)の結果は、金属不純物の溶出に用いた混合水溶液中にもともと存在していた金属不純物量を示している。よって、A〜Dの結果からEの結果を引いた値が、テストピースから混合溶液中に溶出された金属不純物量を示している。
【0049】
図3のAとそれ以外(B、C、D)の結果から、表面加工粗さが大きいほど金属不純物溶出量が多いことが判る。また、BとCの結果から、表面溶融加工をすると、金属不純物溶出量が、表面研磨のみ行ったときと同等かそれより少なくなることが判る。さらに、A〜Dの結果を比較すると、いずれの金属不純物においてもDの結果が最も金属不純物溶出量が少なくなっている。つまり、表面溶融加工を行い、その後、表面を平滑にすることで、金属不純物溶出量が大幅に減少することが判る。
【0050】
<工程3:テストピース表面への金属不純物吸着量調査>
フッ酸+塩酸+過酸化水素水+水の混合溶液(フッ酸約8%、塩酸約4%、過酸化水素水約7%)50mLを不純物溶出がなくなるまで充分洗浄したPFA製ビーカーに入れ、同様に不純物溶出がなくなるまで充分洗浄した直径5mmのPFA製の球をビーカー内に入れた。次に、工程1を実施した後のテストピース1枚をビーカー内に入れ、常温で5分間浸漬する。続いてテストピースを取り出し、純水で充分水洗した。浸漬した混合溶液中の金属不純物量をICP−MSで測定し、汚染液浸漬前の値とした。
【0051】
次にNa、Mg、Al、Ca、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Sn、Wがそれぞれ10ng/ml含まれた常温の5%硝酸溶液中に、フッ酸+塩酸+過酸化水素水+水の混合溶液に浸漬後のテストピースを10分間浸漬し、テストピース表面に金属不純物を吸着させた。次にテストピースを取り出し超純水で充分水洗した。この水洗を行う理由は、この吸着量調査では、水洗工程を実施しても除去されない(吸着された)金属不純物の影響について考えているためである。また、フッ酸+塩酸+過酸化水素水+水の混合溶液(フッ酸約8%、塩酸約4%、過酸化水素水約7%)50mLを不純物溶出がなくなるまで充分洗浄したPFA製ビーカーに入れ、同様に不純物溶出がなくなるまで充分洗浄した直径5mmのPFA製の球をビーカー内に入れた。次に汚染液浸漬後のテストピースをこのビーカー内に入れ、常温で5分間浸漬した。続いてテストピースを取り出し、純水で充分水洗した。浸漬した混合溶液中の金属不純物量をICP−MSで測定し、汚染液浸漬後の値とした。同一テストピースにおける、汚染液浸漬前後の値の差を金属不純物吸着量とした。
【0052】
各テストピースの金属不純物吸着量の測定結果を図4に示す。図4では、金属不純物の種類(Na、Mg、Al等)ごとに上記4種類のテストピース(図4では、A、B、C、Dとして示す)の金属不純物吸着量を示している。図4のAとそれ以外(B、C、D)の結果から、表面加工粗さが大きいほど金属不純物吸着量が多いことが判る。また、BとCの結果から、表面溶融加工をすると、Naを除く金属不純物の吸着量が、表面研磨のみ行ったときよりも少なくなることが判る。さらに、A〜Dの結果を比較すると、いずれの金属不純物においてもDの結果が最も金属不純物吸着量が少なくなっている。つまり、表面溶融加工を行い、その後、表面を平滑にすることで、金属不純物吸着量が大幅に減少することが判る。
【0053】
以上の結果から、フッ素樹脂(PTFE)製のリング部材の開口部内面を、340℃〜380℃で表面溶融加工を行い(Ra=450nm)、その後、表面粗さRaが200nm以下となるように表面研磨するのが適切であることが判った。
【0054】
(実施例2)
100mm径のSiC基板に合わせたPTFE製の支持皿2とPTFE製のリング部材3(340℃〜380℃で表面溶融加工し(Ra=450nm)、さらに表面研磨したもの(Ra=200nm))とを備えた回収治具1(図1参照)を準備した。リング部材3は支持皿2にねじ込むことでリング部材3とSiC基板は密着し、リング部材3の開口部34内に回収液を注入してもその回収液は開口部34内に留まり、SiC基板外周部や裏面に回り込まない。
【0055】
リング部材3の開口部34内(SiC基板上)に回収液(フッ酸+塩酸+過酸化水素水+水の混合溶液(フッ酸約8%、塩酸約4%、過酸化水素水約7%))を5mL注入し、回収液が満遍なく行き渡るように撹拌し、5分間静置した。その後、回収治具1を傾けて回収液を取り出し、ICP−MSで金属不純物(Na、Mg、Al、Ca、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Sn、W)の測定を行った。その測定結果を図5に示す。なお、図5において、E(薬液ブランク)の結果は、金属不純物の溶出に用いた混合溶液中にもともと存在していた金属不純物量を示している。よって、Dの結果からEの結果を引いた値が、SiC基板から混合溶液中に溶出された金属不純物量を示している。
【0056】
(実施例2の比較例)
100mm径のSiC基板に合わせたPTFE製の支持皿5とPTFE製のリング部材6(切削加工のみ(Ra=1200nm))とを備えた回収治具4(図11参照)を準備した。この回収治具4は、リング部材6の開口部61の内面が切削加工のみである点で、図1の回収治具1と異なっており、それ以外は回収治具1と同じである。リング部材6は支持皿5にねじ込むことでリング部材6とSiC基板は密着し、リング部材6の開口部61内に回収液を注入してもその回収液は開口部61内に留まり、SiC基板外周部や裏面に回り込まない。
【0057】
開口部61内(SiC基板上)に回収液(フッ酸+塩酸+過酸化水素水+水の混合溶液(フッ酸約8%、塩酸約4%、過酸化水素水約7%))を5mL注入し、回収液が満遍なく行き渡るように撹拌し、5分間静置した。その後、回収治具4を傾けて回収液を取り出し、ICP−MSで金属不純物(Na、Mg、Al、Ca、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Sn、W)の測定を行った。その測定結果を図6に示す。なお、図6において、E(薬液ブランク)の結果は、金属不純物の溶出に用いた混合溶液中にもともと存在していた金属不純物量を示している。よって、Aの結果からEの結果を引いた値が、SiC基板から混合溶液中に溶出された金属不純物量を示している。
【0058】
図5図6の結果を比較すると、いずれの金属不純物においても、図5の結果のほうが図6の結果よりも金属不純物量が少なくなっている。これは、切削加工のみの表面粗さが大きい(Ra=1200nm)リング部材を用いた回収治具で金属不純物回収操作を行うと、リング部材(開口部内面)からの金属不純物溶出やリング部材への金属不純物の吸着の影響があり、常に状態が安定しないためである(図6)。一方、表面溶融加工+表面研磨(Ra=200nm)を行ったリング部材を用いた回収治具で金属不純物回収操作を行うと、リング部材からの金属不純物溶出やリング部材への金属不純物の吸着の影響が少なく、状態が安定し、精度の高い分析が可能となる(図5)。
【0059】
(実施例3)
200mm径のシリコン基板に合わせた図1の回収治具1を準備した。リング部材3の開口部34内(シリコン基板上)に回収液(フッ酸+過酸化水素水+水の混合溶液(フッ酸約2%、過酸化水素水約5%))を20mL注入し、回収液が満遍なく行き渡るように撹拌し、5分間静置した。その後、回収治具1を傾けて回収液を取り出し、回収液の液量を測定後、ICP−MSで回収液中の金属不純物(Na、Mg、Al、Ca、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Sn、W)の測定を行った。回収液の注入量と回収量から算出した回収率を表1(表1の「表面溶融+表面研磨」/「表面」の欄)に、ICP−MSによる金属不純物測定結果を図7に示す。
【表1】
【0060】
(実施例4)
200mm径のシリコン基板に合わせた図1の回収治具1を準備した。リング部材3の開口部34内(シリコン基板上)に回収液としてのエッチング液(フッ酸+硝酸+塩酸+水の混合溶液(フッ酸約2%、硝酸約25%、塩酸約4%))を20mL注入し、エッチング液が満遍なく行き渡るように撹拌し、5分間静置した。その後、回収治具1を傾けてエッチング液を取り出し、エッチング液の液量を測定後、ICP−MSでエッチング液中の金属不純物(Na、Mg、Al、Ca、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Sn、W)の測定を行った。エッチング液の注入量と回収量から算出した回収率を上記表1(表1の「表面溶融+表面研磨」/「表面近傍」の欄)に、ICP−MSによる金属不純物測定結果を図8に示す。
【0061】
(実施例3の比較例)
200mm径のシリコン基板に合わせた図11の回収治具4を準備した。リング部材6の開口部61内(シリコン基板上)に回収液(フッ酸+過酸化水素水+水の混合溶液(フッ酸約2%、過酸化水素水約5%))を20mL注入し、回収液が満遍なく行き渡るように撹拌し、5分間静置した。その後、回収治具4を傾けて回収液を取り出し、回収液の液量を測定後、ICP−MSで回収液中の金属不純物(Na、Mg、Al、Ca、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Sn、W)の測定を行った。回収液の注入量と回収量から算出した回収率を上記表1(表1の「切削加工のみ」/「表面」の欄)に、ICP−MSによる金属不純物測定結果を図9に示す。
【0062】
(実施例4の比較例)
200mm径のシリコン基板に合わせた図11の回収治具4を準備した。リング部材6の開口部61内(シリコン基板上)に回収液としてのエッチング液(フッ酸+硝酸+塩酸+水の混合溶液(フッ酸約2%、硝酸約25%、塩酸約4%))を20mL注入し、エッチング液が満遍なく行き渡るように撹拌し、5分間静置した。その後、回収治具4を傾けてエッチング液を取り出し、エッチング液の液量を測定後、ICP−MSでエッチング液中の金属不純物(Na、Mg、Al、Ca、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Sn、W)の測定を行った。エッチング液の注入量と回収量から算出した回収率を上記表1(表1の「切削加工のみ」/「表面近傍」の欄)に、ICP−MSによる金属不純物測定結果を図10に示す。
【0063】
図7図10において、E(薬液ブランク)の結果は、金属不純物の溶出に用いた混合溶液中にもともと存在していた金属不純物量を示している。よって、D又はAの結果からEの結果を引いた値が、シリコン基板から混合溶液中に溶出された金属不純物量を示している。
【0064】
実施例3、4(図7図8)とそれらの比較例(図9図10)との比較から、切削加工のみの表面粗さが大きい(Ra=1200nm)リング部材を用いた回収治具で金属不純物回収操作を行うと、リング部材からの金属不純物溶出やリング部材への金属不純物の吸着の影響があり、表面溶融加工+表面研磨のリング部材を用いた場合に比べて、金属不純物の回収量が多くなっている。つまり、切削加工のみのリング部材を用いると、常に状態が安定しないことが判る。また、表1に示すように、切削加工のみのリング部材を用いると、リング部材と半導体基板の接液部(開口部内面)に回収液が残留するため、回収率が低下することが判る。
【0065】
一方、表面溶融加工+表面研磨(Ra=200nm)を行ったリング部材を用いた回収治具で金属不純物回収操作を行うと、リング部材からの金属不純物溶出やリング部材への金属不純物の吸着の影響が少なく、状態が安定する。また、表1に示すように、表面溶融加工+表面研磨のリング部材を用いると、リング部材と半導体基板の接液部(開口部内面)に回収液の残留が見られず、回収率が100%近くまで向上することが判る。この結果、精度の高い分析が可能となる。
【0066】
さらに、図7図8の結果を比較すると、図8の結果のほうが図7の結果よりも、金属不純物量が多くなっている。このことから、回収液としてフッ酸+硝酸+塩酸+水の混合溶液を用いることで、基板表面だけでなく表面近傍の基板内の金属不純物も回収し分析できていることが判る。一方、回収液としてフッ酸+過酸化水素水+水の混合溶液を用いることで、基板表面のみの金属不純物を回収し分析できるといえる。
【0067】
以上説明したように、本実施形態では、リング部材の接液部に対して、340℃〜380℃で表面溶融加工を行い、さらに、表面粗さが200nm以下となるように表面研磨を行い、そのリング部材を用いて金属不純物回収操作を行うので、リング部材−回収液間の金属不純物の溶出、吸着を抑制でき、基板表面の金属不純物を正確に回収し分析できる。また、リング部材と半導体基板の接液部に回収液の残留が見られず、回収液(金属不純物)の回収率を向上できる。また、親水性の表面を有した基板(SiC基板)と、疎水性の表面を有した基板(シリコン基板)のそれぞれに対して金属不純物を回収し分析できる。
【0068】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。例えば、上記実施形態では、フッ素樹脂(PTFE)製の回収治具を用いた例を説明したが、他の樹脂製の回収治具を用いて金属不純物の回収操作を行っても良い。この場合であっても、回収治具の接液部に、表面溶融加工+表面研磨を施すことで、基板表面の金属不純物の回収精度を向上できる。なお、他の樹脂製の回収治具を用いた場合には、その樹脂の特性に応じた表面溶融加工(加熱温度)、表面研磨を行えばよい。
【0069】
また、上記実施形態では、支持皿とリング部材とを備えた回収治具を用いた例を説明したが、回収液が接触する接液部を有するのであれば、他の構造の回収治具(例えば上記特許文献1、2に記載の支持容器)を用いて金属不純物の回収操作を行っても良い。この場合であっても、接液部に表面溶融加工+表面研磨を施すことで、基板表面の金属不純物の回収精度を向上できる。
【0070】
また、上記実施形態では、SiC基板、シリコン基板の金属不純物分析に本発明を適用した例を説明したが、他の半導体基板の金属不純物分析に本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0071】
1 回収治具
2 支持皿
3 リング部材
34 開口部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11