【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例を示して本発明をより具体的に説明する。
(実施例1)
本発明では、先ず、テストピースを用いて、テストピースの表面状態及び表面加工粗さと、テストピースから回収液への金属不純物溶出量及び回収液からテストピースへの金属不純物吸着量との関連についての調査を以下のように行った。テストピースの材質はPTFEとした。その調査結果をもとに、リング部材の開口部内面の最適加工条件を見出した。
【0044】
先ず、PTFE製のテストピース(25mm×35mm×2mm)を切削加工(Ra=1200nm)で複数個作製し、そのうちの一部のテストピースはさらに表面加工粗さを小さくするため表面を研磨し、粗さ(Ra)を200nmにした。また、切削加工したテストピースに340℃〜380℃で表面溶融加工したもの(Ra=450nm)、さらに溶融加工後に表面研磨したもの(Ra=200nm)を準備した。つまり、切削加工のみのテストピース、切削加工+表面研磨の加工を施したテストピース、切削加工+表面溶融加工を施したテストピース、切削加工+表面溶融加工+表面研磨の加工を施したテストピースの4種類のテストピースを準備した。準備した各テストピースを用いて以下の工程を実施した。
【0045】
<工程1:テストピースの表面金属不純物汚染除去>
テストピース作製加工時に付着した金属不純物を除去するため、フッ酸+硝酸+塩酸+水の混合溶液(フッ酸約10%、硝酸約12%、塩酸約7%)を入れたPFA(テトラフルオロエチレン〜パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)製ビーカーにテストピースを入れ、ホットプレートで80℃、2時間加熱し、超純水で水洗する工程を複数回繰り返した。
【0046】
<工程2:テストピースからの金属不純物溶出量調査>
フッ酸+硝酸+塩酸+水の混合溶液(フッ酸約10%、硝酸約12%、塩酸約7%)50mLを不純物溶出がなくなるまで充分洗浄したPFA製ビーカーに入れ、同様に不純物溶出がなくなるまで充分洗浄した直径5mmのPFA製の球をビーカー内に入れた。ここで、テストピース(平板)をビーカーにそのまま投入すると、テストピースの平面がビーカーの底面に貼り付いてしまい、混合溶液が十分にテストピース表面に行き渡らない。PFA製の球を入れることで、テストピースの一部がPFA製の球に乗り、ビーカー底から浮くため、混合溶液をテストピース表面の隅々まで行き渡らせることができる。
【0047】
次に、工程1を実施した後のテストピース1枚をビーカー内に入れ、80℃で20分間加熱し、テストピースから金属不純物を溶出させた。溶出した金属不純物量をICP−MSで測定した。この工程をテストピースの枚数繰り返した。
【0048】
各テストピースから溶出した金属不純物量の測定結果を
図3に示す。
図3では、金属不純物の種類(Na、Mg、Al等)ごとに上記4種類のテストピース(
図3では、A、B、C、Dとして示す)から溶出された金属不純物量を示している。また、
図3において、E(薬液ブランク)の結果は、金属不純物の溶出に用いた混合水溶液中にもともと存在していた金属不純物量を示している。よって、A〜Dの結果からEの結果を引いた値が、テストピースから混合溶液中に溶出された金属不純物量を示している。
【0049】
図3のAとそれ以外(B、C、D)の結果から、表面加工粗さが大きいほど金属不純物溶出量が多いことが判る。また、BとCの結果から、表面溶融加工をすると、金属不純物溶出量が、表面研磨のみ行ったときと同等かそれより少なくなることが判る。さらに、A〜Dの結果を比較すると、いずれの金属不純物においてもDの結果が最も金属不純物溶出量が少なくなっている。つまり、表面溶融加工を行い、その後、表面を平滑にすることで、金属不純物溶出量が大幅に減少することが判る。
【0050】
<工程3:テストピース表面への金属不純物吸着量調査>
フッ酸+塩酸+過酸化水素水+水の混合溶液(フッ酸約8%、塩酸約4%、過酸化水素水約7%)50mLを不純物溶出がなくなるまで充分洗浄したPFA製ビーカーに入れ、同様に不純物溶出がなくなるまで充分洗浄した直径5mmのPFA製の球をビーカー内に入れた。次に、工程1を実施した後のテストピース1枚をビーカー内に入れ、常温で5分間浸漬する。続いてテストピースを取り出し、純水で充分水洗した。浸漬した混合溶液中の金属不純物量をICP−MSで測定し、汚染液浸漬前の値とした。
【0051】
次にNa、Mg、Al、Ca、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Sn、Wがそれぞれ10ng/ml含まれた常温の5%硝酸溶液中に、フッ酸+塩酸+過酸化水素水+水の混合溶液に浸漬後のテストピースを10分間浸漬し、テストピース表面に金属不純物を吸着させた。次にテストピースを取り出し超純水で充分水洗した。この水洗を行う理由は、この吸着量調査では、水洗工程を実施しても除去されない(吸着された)金属不純物の影響について考えているためである。また、フッ酸+塩酸+過酸化水素水+水の混合溶液(フッ酸約8%、塩酸約4%、過酸化水素水約7%)50mLを不純物溶出がなくなるまで充分洗浄したPFA製ビーカーに入れ、同様に不純物溶出がなくなるまで充分洗浄した直径5mmのPFA製の球をビーカー内に入れた。次に汚染液浸漬後のテストピースをこのビーカー内に入れ、常温で5分間浸漬した。続いてテストピースを取り出し、純水で充分水洗した。浸漬した混合溶液中の金属不純物量をICP−MSで測定し、汚染液浸漬後の値とした。同一テストピースにおける、汚染液浸漬前後の値の差を金属不純物吸着量とした。
【0052】
各テストピースの金属不純物吸着量の測定結果を
図4に示す。
図4では、金属不純物の種類(Na、Mg、Al等)ごとに上記4種類のテストピース(
図4では、A、B、C、Dとして示す)の金属不純物吸着量を示している。
図4のAとそれ以外(B、C、D)の結果から、表面加工粗さが大きいほど金属不純物吸着量が多いことが判る。また、BとCの結果から、表面溶融加工をすると、Naを除く金属不純物の吸着量が、表面研磨のみ行ったときよりも少なくなることが判る。さらに、A〜Dの結果を比較すると、いずれの金属不純物においてもDの結果が最も金属不純物吸着量が少なくなっている。つまり、表面溶融加工を行い、その後、表面を平滑にすることで、金属不純物吸着量が大幅に減少することが判る。
【0053】
以上の結果から、フッ素樹脂(PTFE)製のリング部材の開口部内面を、340℃〜380℃で表面溶融加工を行い(Ra=450nm)、その後、表面粗さRaが200nm以下となるように表面研磨するのが適切であることが判った。
【0054】
(実施例2)
100mm径のSiC基板に合わせたPTFE製の支持皿2とPTFE製のリング部材3(340℃〜380℃で表面溶融加工し(Ra=450nm)、さらに表面研磨したもの(Ra=200nm))とを備えた回収治具1(
図1参照)を準備した。リング部材3は支持皿2にねじ込むことでリング部材3とSiC基板は密着し、リング部材3の開口部34内に回収液を注入してもその回収液は開口部34内に留まり、SiC基板外周部や裏面に回り込まない。
【0055】
リング部材3の開口部34内(SiC基板上)に回収液(フッ酸+塩酸+過酸化水素水+水の混合溶液(フッ酸約8%、塩酸約4%、過酸化水素水約7%))を5mL注入し、回収液が満遍なく行き渡るように撹拌し、5分間静置した。その後、回収治具1を傾けて回収液を取り出し、ICP−MSで金属不純物(Na、Mg、Al、Ca、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Sn、W)の測定を行った。その測定結果を
図5に示す。なお、
図5において、E(薬液ブランク)の結果は、金属不純物の溶出に用いた混合溶液中にもともと存在していた金属不純物量を示している。よって、Dの結果からEの結果を引いた値が、SiC基板から混合溶液中に溶出された金属不純物量を示している。
【0056】
(実施例2の比較例)
100mm径のSiC基板に合わせたPTFE製の支持皿5とPTFE製のリング部材6(切削加工のみ(Ra=1200nm))とを備えた回収治具4(
図11参照)を準備した。この回収治具4は、リング部材6の開口部61の内面が切削加工のみである点で、
図1の回収治具1と異なっており、それ以外は回収治具1と同じである。リング部材6は支持皿5にねじ込むことでリング部材6とSiC基板は密着し、リング部材6の開口部61内に回収液を注入してもその回収液は開口部61内に留まり、SiC基板外周部や裏面に回り込まない。
【0057】
開口部61内(SiC基板上)に回収液(フッ酸+塩酸+過酸化水素水+水の混合溶液(フッ酸約8%、塩酸約4%、過酸化水素水約7%))を5mL注入し、回収液が満遍なく行き渡るように撹拌し、5分間静置した。その後、回収治具4を傾けて回収液を取り出し、ICP−MSで金属不純物(Na、Mg、Al、Ca、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Sn、W)の測定を行った。その測定結果を
図6に示す。なお、
図6において、E(薬液ブランク)の結果は、金属不純物の溶出に用いた混合溶液中にもともと存在していた金属不純物量を示している。よって、Aの結果からEの結果を引いた値が、SiC基板から混合溶液中に溶出された金属不純物量を示している。
【0058】
図5と
図6の結果を比較すると、いずれの金属不純物においても、
図5の結果のほうが
図6の結果よりも金属不純物量が少なくなっている。これは、切削加工のみの表面粗さが大きい(Ra=1200nm)リング部材を用いた回収治具で金属不純物回収操作を行うと、リング部材(開口部内面)からの金属不純物溶出やリング部材への金属不純物の吸着の影響があり、常に状態が安定しないためである(
図6)。一方、表面溶融加工+表面研磨(Ra=200nm)を行ったリング部材を用いた回収治具で金属不純物回収操作を行うと、リング部材からの金属不純物溶出やリング部材への金属不純物の吸着の影響が少なく、状態が安定し、精度の高い分析が可能となる(
図5)。
【0059】
(実施例3)
200mm径のシリコン基板に合わせた
図1の回収治具1を準備した。リング部材3の開口部34内(シリコン基板上)に回収液(フッ酸+過酸化水素水+水の混合溶液(フッ酸約2%、過酸化水素水約5%))を20mL注入し、回収液が満遍なく行き渡るように撹拌し、5分間静置した。その後、回収治具1を傾けて回収液を取り出し、回収液の液量を測定後、ICP−MSで回収液中の金属不純物(Na、Mg、Al、Ca、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Sn、W)の測定を行った。回収液の注入量と回収量から算出した回収率を表1(表1の「表面溶融+表面研磨」/「表面」の欄)に、ICP−MSによる金属不純物測定結果を
図7に示す。
【表1】
【0060】
(実施例4)
200mm径のシリコン基板に合わせた
図1の回収治具1を準備した。リング部材3の開口部34内(シリコン基板上)に回収液としてのエッチング液(フッ酸+硝酸+塩酸+水の混合溶液(フッ酸約2%、硝酸約25%、塩酸約4%))を20mL注入し、エッチング液が満遍なく行き渡るように撹拌し、5分間静置した。その後、回収治具1を傾けてエッチング液を取り出し、エッチング液の液量を測定後、ICP−MSでエッチング液中の金属不純物(Na、Mg、Al、Ca、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Sn、W)の測定を行った。エッチング液の注入量と回収量から算出した回収率を上記表1(表1の「表面溶融+表面研磨」/「表面近傍」の欄)に、ICP−MSによる金属不純物測定結果を
図8に示す。
【0061】
(実施例3の比較例)
200mm径のシリコン基板に合わせた
図11の回収治具4を準備した。リング部材6の開口部61内(シリコン基板上)に回収液(フッ酸+過酸化水素水+水の混合溶液(フッ酸約2%、過酸化水素水約5%))を20mL注入し、回収液が満遍なく行き渡るように撹拌し、5分間静置した。その後、回収治具4を傾けて回収液を取り出し、回収液の液量を測定後、ICP−MSで回収液中の金属不純物(Na、Mg、Al、Ca、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Sn、W)の測定を行った。回収液の注入量と回収量から算出した回収率を上記表1(表1の「切削加工のみ」/「表面」の欄)に、ICP−MSによる金属不純物測定結果を
図9に示す。
【0062】
(実施例4の比較例)
200mm径のシリコン基板に合わせた
図11の回収治具4を準備した。リング部材6の開口部61内(シリコン基板上)に回収液としてのエッチング液(フッ酸+硝酸+塩酸+水の混合溶液(フッ酸約2%、硝酸約25%、塩酸約4%))を20mL注入し、エッチング液が満遍なく行き渡るように撹拌し、5分間静置した。その後、回収治具4を傾けてエッチング液を取り出し、エッチング液の液量を測定後、ICP−MSでエッチング液中の金属不純物(Na、Mg、Al、Ca、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Sn、W)の測定を行った。エッチング液の注入量と回収量から算出した回収率を上記表1(表1の「切削加工のみ」/「表面近傍」の欄)に、ICP−MSによる金属不純物測定結果を
図10に示す。
【0063】
図7〜
図10において、E(薬液ブランク)の結果は、金属不純物の溶出に用いた混合溶液中にもともと存在していた金属不純物量を示している。よって、D又はAの結果からEの結果を引いた値が、シリコン基板から混合溶液中に溶出された金属不純物量を示している。
【0064】
実施例3、4(
図7、
図8)とそれらの比較例(
図9、
図10)との比較から、切削加工のみの表面粗さが大きい(Ra=1200nm)リング部材を用いた回収治具で金属不純物回収操作を行うと、リング部材からの金属不純物溶出やリング部材への金属不純物の吸着の影響があり、表面溶融加工+表面研磨のリング部材を用いた場合に比べて、金属不純物の回収量が多くなっている。つまり、切削加工のみのリング部材を用いると、常に状態が安定しないことが判る。また、表1に示すように、切削加工のみのリング部材を用いると、リング部材と半導体基板の接液部(開口部内面)に回収液が残留するため、回収率が低下することが判る。
【0065】
一方、表面溶融加工+表面研磨(Ra=200nm)を行ったリング部材を用いた回収治具で金属不純物回収操作を行うと、リング部材からの金属不純物溶出やリング部材への金属不純物の吸着の影響が少なく、状態が安定する。また、表1に示すように、表面溶融加工+表面研磨のリング部材を用いると、リング部材と半導体基板の接液部(開口部内面)に回収液の残留が見られず、回収率が100%近くまで向上することが判る。この結果、精度の高い分析が可能となる。
【0066】
さらに、
図7と
図8の結果を比較すると、
図8の結果のほうが
図7の結果よりも、金属不純物量が多くなっている。このことから、回収液としてフッ酸+硝酸+塩酸+水の混合溶液を用いることで、基板表面だけでなく表面近傍の基板内の金属不純物も回収し分析できていることが判る。一方、回収液としてフッ酸+過酸化水素水+水の混合溶液を用いることで、基板表面のみの金属不純物を回収し分析できるといえる。
【0067】
以上説明したように、本実施形態では、リング部材の接液部に対して、340℃〜380℃で表面溶融加工を行い、さらに、表面粗さが200nm以下となるように表面研磨を行い、そのリング部材を用いて金属不純物回収操作を行うので、リング部材−回収液間の金属不純物の溶出、吸着を抑制でき、基板表面の金属不純物を正確に回収し分析できる。また、リング部材と半導体基板の接液部に回収液の残留が見られず、回収液(金属不純物)の回収率を向上できる。また、親水性の表面を有した基板(SiC基板)と、疎水性の表面を有した基板(シリコン基板)のそれぞれに対して金属不純物を回収し分析できる。
【0068】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。例えば、上記実施形態では、フッ素樹脂(PTFE)製の回収治具を用いた例を説明したが、他の樹脂製の回収治具を用いて金属不純物の回収操作を行っても良い。この場合であっても、回収治具の接液部に、表面溶融加工+表面研磨を施すことで、基板表面の金属不純物の回収精度を向上できる。なお、他の樹脂製の回収治具を用いた場合には、その樹脂の特性に応じた表面溶融加工(加熱温度)、表面研磨を行えばよい。
【0069】
また、上記実施形態では、支持皿とリング部材とを備えた回収治具を用いた例を説明したが、回収液が接触する接液部を有するのであれば、他の構造の回収治具(例えば上記特許文献1、2に記載の支持容器)を用いて金属不純物の回収操作を行っても良い。この場合であっても、接液部に表面溶融加工+表面研磨を施すことで、基板表面の金属不純物の回収精度を向上できる。
【0070】
また、上記実施形態では、SiC基板、シリコン基板の金属不純物分析に本発明を適用した例を説明したが、他の半導体基板の金属不純物分析に本発明を適用しても良い。