特許第6354616号(P6354616)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6354616熱サイクルシステム用組成物および熱サイクルシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354616
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】熱サイクルシステム用組成物および熱サイクルシステム
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/04 20060101AFI20180702BHJP
   C10M 171/00 20060101ALI20180702BHJP
   C10M 105/38 20060101ALI20180702BHJP
   C10M 107/24 20060101ALI20180702BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20180702BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20180702BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20180702BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20180702BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20180702BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20180702BHJP
【FI】
   C09K5/04 F
   C10M171/00
   C10M105/38
   C10M107/24
   F25B1/00 396Z
   C10N20:00 A
   C10N20:00 Z
   C10N20:02
   C10N30:00 Z
   C10N30:06
   C10N40:30
【請求項の数】23
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2015-31808(P2015-31808)
(22)【出願日】2015年2月20日
(65)【公開番号】特開2016-56340(P2016-56340A)
(43)【公開日】2016年4月21日
【審査請求日】2017年8月2日
(31)【優先権主張番号】特願2014-30857(P2014-30857)
(32)【優先日】2014年2月20日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-127744(P2014-127744)
(32)【優先日】2014年6月20日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-148347(P2014-148347)
(32)【優先日】2014年7月18日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-187004(P2014-187004)
(32)【優先日】2014年9月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白川 大祐
(72)【発明者】
【氏名】高木 洋一
(72)【発明者】
【氏名】荒井 豪明
(72)【発明者】
【氏名】福島 正人
(72)【発明者】
【氏名】光岡 宏明
(72)【発明者】
【氏名】橋本 真維
【審査官】 ▲吉▼澤 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−094841(JP,A)
【文献】 特開2011−202032(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/153106(WO,A1)
【文献】 特開2008−266423(JP,A)
【文献】 特開2011−190319(JP,A)
【文献】 特開2012−131994(JP,A)
【文献】 特開2011−043276(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/146522(WO,A1)
【文献】 特開2009−222032(JP,A)
【文献】 特開平09−031450(JP,A)
【文献】 特開2005−179531(JP,A)
【文献】 特開2012−233091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/04
C10M 101/00−177/00
F25B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表され、分子中に炭素−炭素不飽和結合を1個以上有する化合物から選ばれる少なくとも一種の不飽和フッ化炭化水素化合物、を含む熱サイクル用作動媒体と、
絶縁破壊電圧が25kV以上で、水酸基価が0.1mgKOH/g以下であり、かつ前記熱サイクル用作動媒体の凝縮温度から蒸発温度までの全温度範囲において、前記熱サイクル用作動媒体との混合物が二層分離状態である冷凍機油と、
を含むことを特徴とする熱サイクルシステム用組成物。
…………(I)
(式中、RはHまたはClであり、xは2〜6の整数、yは1〜12の整数、zは0〜11の整数であり、2x≧y+z≧2である。)
【請求項2】
前記一般式(I)におけるxが2または3である化合物を含む、請求項1に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項3】
前記不飽和フッ化炭化水素化合物が、1,1,2−トリフルオロエチレン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,2−ジフルオロエチレン、2−フルオロプロペン、1,1,2−トリフルオロプロペン、(E)−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン、(Z)−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン、(E)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、(Z)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび3,3,3−トリフルオロプロペンからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項2に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項4】
熱サイクル用作動媒体が飽和フッ化炭化水素化合物をさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項5】
前記飽和フッ化炭化水素化合物が、トリフルオロメタン、ジフルオロメタン、ジフルオロエタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、トリフルオロヨードメタン、ペンタフルオロプロパン、ヘキサフルオロプロパン、ヘプタフルオロプロパン、ペンタフルオロブタン、ヘプタフルオロシクロペンタンからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項4に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項6】
前記不飽和フッ化炭化水素化合物が1,1,2−トリフルオロエチレンを含み、前記熱サイクル用作動媒体の100質量%に対する1,1,2−トリフルオロエチレンの含有量が、20〜80質量%である請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項7】
前記飽和フッ化炭化水素化合物がジフルオロメタンを含み、前記熱サイクル用作動媒体の100質量%に対するジフルオロメタンの含有量が、20〜80質量%である請求項4〜6のいずれか一項に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項8】
前記不飽和フッ化炭化水素化合物が、1,1,2−トリフルオロエチレンおよび2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含み、前記飽和フッ化炭化水素化合物がジフルオロメタンを含み、
前記熱サイクル用作動媒体全量に対する1,1,2−トリフルオロエチレンと2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの合計量の割合が90質量%を超え100質量%以下であり、
1,1,2−トリフルオロエチレンと2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの合計量に対する質量の割合で、
1,1,2−トリフルオロエチレンが10質量%以上70質量%未満、
2,3,3,3−テトラフルオロプロペンが0質量%を超え50質量%以下、
かつジフルオロメタンが30質量%を超え75質量%以下
である請求項4または5に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項9】
前記不飽和フッ化炭化水素化合物が、1,1,2−トリフルオロエチレンおよび2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含み、前記飽和フッ化炭化水素化合物がジフルオロメタンを含み、
前記熱サイクル用作動媒体全量に対する1,1,2−トリフルオロエチレンと2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの合計量の割合が90質量%を超え100質量%以下であり、
1,1,2−トリフルオロエチレンと2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの合計量に対する質量の割合で、
1,1,2−トリフルオロエチレンと2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの合計量が70質量%以上、
1,1,2−トリフルオロエチレンが30質量%以上80質量%以下、
2,3,3,3−テトラフルオロプロペンが0質量%を超え40質量%以下、
ジフルオロメタンが0質量%を超え30質量%以下、
かつ2,3,3,3−テトラフルオロプロペンに対する1,1,2−トリフルオロエチレンの比が95/5以下、
である請求項4または5に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項10】
前記冷凍機油が、ポリオールエステル系冷凍機油、およびポリビニルエーテル系冷凍機油から選ばれる少なくとも一種である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項11】
前記冷凍機油は、40℃における動粘度が5〜200mm/sであり、100℃における動粘度が1〜100mm/sである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項12】
前記冷凍機油のアニリン点は−100℃以上0℃以下である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項13】
前記冷凍機油の水分含有量は300ppm以下である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項14】
前記冷凍機油の残存空気分圧は10kPa以下である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項15】
前記冷凍機油の灰分は100ppm以下である、請求項1〜14のいずれか一項に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項16】
銅不活性化剤、極圧剤、油性剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、消泡剤、および重合防止剤から選ばれる少なくとも一種の添加剤を含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の熱サイクルシステム用組成物を用いた熱サイクルシステム。
【請求項18】
熱サイクルシステムが、冷凍・冷蔵機器、空調機器、発電システム、熱輸送装置および二次冷却機から選ばれる少なくとも一種である請求項17に記載の熱サイクルシステム。
【請求項19】
前記熱サイクルシステムが圧縮機構を有し、該圧縮機構の前記熱サイクルシステム用組成物と接触する接触部が、エンジニアリングプラスチック、有機膜、および無機膜から選ばれる少なくとも一種から構成される、請求項18に記載の熱サイクルシステム。
【請求項20】
前記エンジニアリングプラスチックが、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリアセタール樹脂、およびフッ素樹脂から選ばれる少なくとも一種である、請求項19に記載の熱サイクルシステム。
【請求項21】
前記有機膜が、ポリテトラフルオロエチレンコーティング膜、ポリイミドコーティング膜、ポリアミドイミドコーティング膜、およびポリヒドロキシエーテル樹脂とポリサルホン系樹脂からなる樹脂と架橋剤を含む樹脂塗料を用いて形成された熱硬化型絶縁膜、から選ばれる少なくとも一種である、請求項19に記載の熱サイクルシステム。
【請求項22】
前記無機膜が、黒鉛膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、スズ膜、クロム膜、ニッケル膜、およびモリブデン膜から選ばれる少なくとも一種である、請求項19に記載の熱サイクルシステム。
【請求項23】
前記接触部がシール部を有し、該シール部が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンスルフィド、クロロプレンゴム、シリコンゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、およびヒドリンゴムから選ばれる少なくとも一種から構成される、請求項19に記載の熱サイクルシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱サイクルシステム用組成物および該組成物を用いた熱サイクルシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、ハロゲン化炭化水素については、化合物名の後の括弧内にその化合物の略称を記すが、本明細書では必要に応じて化合物名に代えてその略称を用いる。
従来、冷凍機用冷媒、空調機器用冷媒、発電システム(廃熱回収発電等)用作動媒体、潜熱輸送装置(ヒートパイプ等)用作動媒体、二次冷却媒体等の熱サイクルシステム用の作動媒体としては、クロロトリフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン等のクロロフルオロカーボン(CFC)、クロロジフルオロメタン等のヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)が用いられてきた。しかし、CFCおよびHCFCは、成層圏のオゾン層への影響が指摘され、現在、規制の対象となっている。
【0003】
このような経緯から、熱サイクルシステム用作動媒体としては、CFCやHCFCに代えて、オゾン層への影響が少ない、ジフルオロメタン(HFC−32)、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン(HFC−125)等のヒドロフルオロカーボン(HFC)が用いられるようになった。例えば、R410A(HFC−32とHFC−125の質量比1:1の擬似共沸混合物)等は従来から広く使用されてきた冷媒である。しかし、HFCは、地球温暖化の原因となる可能性が指摘されている。
【0004】
R410Aは、冷凍能力の高さからいわゆるパッケージエアコンやルームエアコンと言われる通常の空調機器等に広く用いられてきた。しかし、地球温暖化係数(GWP)が2088と高く、そのため低GWP作動媒体の開発が求められている。この際、R410Aを単に置き換えて、これまで用いられてきた機器をそのまま使用し続けることを前提にした作動媒体の開発が求められている。
【0005】
最近、炭素−炭素二重結合を有しその結合が大気中のOHラジカルによって分解されやすいことから、オゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が少ない作動媒体である、ヒドロフルオロオレフィン(HFO)、すなわち炭素−炭素二重結合を有するHFCに期待が集まっている。本明細書においては、特に断りのない限り飽和のHFCをHFCといい、HFOとは区別して用いる。また、HFCを飽和のヒドロフルオロカーボンのように明記する場合もある。
【0006】
HFOを用いた作動媒体として、例えば、特許文献1には上記特性を有するとともに、優れたサイクル性能が得られる1,1,2−トリフルオロエチレン(HFO−1123)を用いた作動媒体に係る技術が開示されている。また、特許文献2には上記特性を有するとともに、優れたサイクル性能が得られる1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132)を用いた作動媒体に係る技術が開示されている。これらの特許文献1および2においては、さらに、該作動媒体の不燃性、サイクル性能等を高める目的で、HFO−1123またはHFO−1132に、各種HFCやHFOを組み合わせて作動媒体とする試みもされている。
【0007】
しかしながら、これらのようなHFOは、分子中に不飽和結合を含む化合物であり、大気中での寿命が非常に小さい化合物であることから、熱サイクルにおける圧縮、加熱が繰り返される条件では、従来のHFCやHCFCといった飽和のヒドロフルオロカーボン、ヒドロクロロフルオロカーボンよりも安定性に劣り、熱サイクルシステム内において潤滑性が低下する場合があった。
【0008】
そこで、HFOを作動媒体として使用する熱サイクルシステムにおいて、HFOが有する優れたサイクル性能を充分に活かしながら、潤滑性を維持し、熱サイクルシステムを効率的に稼働できる方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2012/157764号
【特許文献2】国際公開第2012/157765号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記観点からなされたものであって、HFOを含む熱サイクルシステム用組成物において、HFOの有する低い地球温暖化係数および優れたサイクル性能を充分に活かしながら、HFOをより安定的に潤滑可能とした熱サイクルシステム用組成物、および該組成物を用いた、地球温暖化への影響が少なく、かつ高いサイクル性能を兼ね備え、さらに熱サイクル用作動媒体の潤滑性を改善した熱サイクルシステムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の[1]〜[23]に記載の構成を有する熱サイクルシステム用組成物および熱サイクルシステムを提供する。
[1]下記一般式(I)で表され、分子中に炭素−炭素不飽和結合を1個以上有する化合物から選ばれる少なくとも一種の不飽和フッ化炭化水素化合物、を含む熱サイクル用作動媒体と、
絶縁破壊電圧が25kV以上で、水酸基価が0.1mgKOH/g以下であり、かつ前記熱サイクル用作動媒体の凝縮温度から蒸発温度までの全温度範囲において、前記熱サイクル用作動媒体との混合物が二層分離状態である冷凍機油と、
を含むことを特徴とする熱サイクルシステム用組成物。
…………(I)
(式中、RはHまたはClであり、xは2〜6の整数、yは1〜12の整数、zは0〜11の整数であり、2x≧y+z≧2である。)
【0012】
[2]前記一般式(I)におけるxが2または3である化合物を含む、[1]に記載の熱サイクルシステム用組成物。
[3]前記不飽和フッ化炭化水素化合物が、1,1,2−トリフルオロエチレン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,2−ジフルオロエチレン、2−フルオロプロペン、1,1,2−トリフルオロプロペン、(E)−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン、(Z)−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン、(E)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、(Z)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび3,3,3−トリフルオロプロペンからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、[2]に記載の熱サイクルシステム用組成物。
[4]熱サイクル用作動媒体が飽和フッ化炭化水素化合物をさらに含む、[1]〜[3]のいずれかに記載の熱サイクルシステム用組成物。
【0013】
[5]前記飽和フッ化炭化水素化合物が、トリフルオロメタン、ジフルオロメタン、ジフルオロエタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、トリフルオロヨードメタン、ペンタフルオロプロパン、ヘキサフルオロプロパン、ヘプタフルオロプロパン、ペンタフルオロブタン、ヘプタフルオロシクロペンタンからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、[4]に記載の熱サイクルシステム用組成物。
[6]前記不飽和フッ化炭化水素化合物が1,1,2−トリフルオロエチレンを含み、前記熱サイクル用作動媒体の100質量%に対する1,1,2−トリフルオロエチレンの含有量が、20〜80質量%である[1]〜[5]のいずれかに記載の熱サイクルシステム用組成物。
【0014】
[7]前記飽和フッ化炭化水素化合物がジフルオロメタンを含み、前記熱サイクル用作動媒体の100質量%に対するジフルオロメタンの含有量が、20〜80質量%である[4]〜[6]のいずれかに記載の熱サイクルシステム用組成物。
[8]前記不飽和フッ化炭化水素化合物が、1,1,2−トリフルオロエチレンおよび2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含み、前記飽和フッ化炭化水素化合物がジフルオロメタンを含み、
前記熱サイクル用作動媒体全量に対する1,1,2−トリフルオロエチレンと2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの合計量の割合が90質量%を超え100質量%以下であり、
1,1,2−トリフルオロエチレンと2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの合計量に対する質量の割合で、
1,1,2−トリフルオロエチレンが10質量%以上70質量%未満、
2,3,3,3−テトラフルオロプロペンが0質量%を超え50質量%以下、
かつジフルオロメタンが30質量%を超え75質量%以下
である[4]または[5]に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【0015】
[9]前記不飽和フッ化炭化水素化合物が、1,1,2−トリフルオロエチレンおよび2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含み、前記飽和フッ化炭化水素化合物がジフルオロメタンを含み、
前記熱サイクル用作動媒体全量に対する1,1,2−トリフルオロエチレンと2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの合計量の割合が90質量%を超え100質量%以下であり、
1,1,2−トリフルオロエチレンと2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの合計量に対する質量の割合で、
1,1,2−トリフルオロエチレンと2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの合計量が70質量%以上、
1,1,2−トリフルオロエチレンが30質量%以上80質量%以下、
2,3,3,3−テトラフルオロプロペンが0質量%を超え40質量%以下、
ジフルオロメタンが0質量%を超え30質量%以下、
かつ2,3,3,3−テトラフルオロプロペンに対する1,1,2−トリフルオロエチレンの比が95/5以下、
である[4]または[5]に記載の熱サイクルシステム用組成物。
[10]前記冷凍機油が、ポリオールエステル系冷凍機油、およびポリビニルエーテル系冷凍機油から選ばれる少なくとも一種である、[1]〜[9]のいずれかに記載の熱サイクルシステム用組成物。
[11]前記冷凍機油は、40℃における動粘度が5〜200mm/sであり、100℃における動粘度が1〜100mm/sである、[1]〜[10]のいずれかに記載の熱サイクルシステム用組成物。
【0016】
[12]前記冷凍機油のアニリン点は−100℃以上0℃以下である、[1]〜[11]のいずれかに記載の熱サイクルシステム用組成物。
[13]前記冷凍機油の水分含有量は300ppm以下である、[1]〜[12]のいずれかに記載の熱サイクルシステム用組成物。
[14]前記冷凍機油の残存空気分圧は10kPa以下である、[1]〜[13]のいずれかに記載の熱サイクルシステム用組成物。
[15]前記冷凍機油の灰分は100ppm以下である、[1]〜[14]のいずれかに記載の熱サイクルシステム用組成物。
[16]銅不活性化剤、極圧剤、油性剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、消泡剤、および重合防止剤から選ばれる少なくとも一種の添加剤を含む、[1]〜[15]のいずれかに記載の熱サイクルシステム用組成物。
【0017】
[17][1]〜[16]のいずれかに記載の熱サイクルシステム用組成物を用いた熱サイクルシステム。
[18]熱サイクルシステムが、冷凍・冷蔵機器、空調機器、発電システム、熱輸送装置および二次冷却機から選ばれる少なくとも一種である[17]に記載の熱サイクルシステム。
[19]前記熱サイクルシステムが圧縮機構を有し、該圧縮機構の前記熱サイクルシステム用組成物と接触する接触部が、エンジニアリングプラスチック、有機膜、および無機膜から選ばれる少なくとも一種から構成される、[18]に記載の熱サイクルシステム。
[20]前記エンジニアリングプラスチックが、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリアセタール樹脂、およびフッ素樹脂から選ばれる少なくとも一種である、[19]に記載の熱サイクルシステム。
[21]前記有機膜が、ポリテトラフルオロエチレンコーティング膜、ポリイミドコーティング膜、ポリアミドイミドコーティング膜、およびポリヒドロキシエーテル樹脂とポリサルホン系樹脂からなる樹脂と架橋剤を含む樹脂塗料を用いて形成された熱硬化型絶縁膜、から選ばれる少なくとも一種である、[19]に記載の熱サイクルシステム。
[22]前記無機膜が、黒鉛膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、スズ膜、クロム膜、ニッケル膜、およびモリブデン膜から選ばれる少なくとも一種である、[19]に記載の熱サイクルシステム。
[23]前記接触部がシール部を有し、該シール部が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンスルフィド、クロロプレンゴム、シリコンゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、およびヒドリンゴムから選ばれる少なくとも一種から構成される、[19]に記載の熱サイクルシステム。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、不飽和フッ化炭化水素化合物を含む熱サイクルシステム用組成物において、不飽和フッ化炭化水素化合物の有する低い地球温暖化係数および優れたサイクル性能を充分に活かしながら、不飽和フッ化炭化水素化合物を含む熱サイクル用作動媒体をより安定的に潤滑可能とした熱サイクルシステム用組成物が提供できる。
【0019】
本発明の熱サイクルシステムは、地球温暖化への影響が少なく、かつ高いサイクル性能を兼ね備え、さらに熱サイクル用作動媒体の潤滑特性を改善した熱サイクルシステムである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の熱サイクルシステムの一例である冷凍サイクルシステムを示した概略構成図である。
図2図1の冷凍サイクルシステムにおける作動媒体の状態変化を圧力−エンタルピ線図上に記載したサイクル図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[熱サイクルシステム用組成物]
熱サイクルシステム用組成物は、上記一般式(I)で表される不飽和フッ化炭化水素化合物を含む熱サイクル用作動媒体と、特定の絶縁破壊電圧、水酸基価を有し、かつ所定の温度範囲で前記熱サイクル用作動媒体と相溶しない性質を有する冷凍機油とを含む。
【0022】
本発明の熱サイクルシステム用組成物が適用される熱サイクルシステムとしては、凝縮器や蒸発器等の熱交換器による熱サイクルシステムが特に制限なく用いられる。熱サイクルシステム、例えば、冷凍サイクルにおいては、気体の作動媒体を圧縮機で圧縮し、凝縮器で冷却して圧力が高い液体をつくり、膨張弁で圧力を下げ、蒸発器で低温気化させて気化熱で熱を奪う機構を有する。
【0023】
以下、本発明の熱サイクルシステム用組成物が含有する各成分を説明する。
【0024】
<熱サイクル用作動媒体>
本発明の熱サイクルシステム用組成物は作動媒体として、下記一般式(I)で表され、分子中に炭素−炭素不飽和結合を1個以上有する化合物から選ばれる少なくとも1種の不飽和フッ化炭化水素化合物を含有する。
…………(I)
(式中、RはHまたはClであり、xは2〜6の整数、yは1〜12の整数、zは0〜11の整数であり、2x≧y+z≧2である。)
【0025】
上記一般式(I)は、分子中の元素の種類と数を表すものであり、式(I)は、炭素原子Cの数xが2〜6の含フッ素有機化合物を表している。炭素数が2〜6の含フッ素有機化合物であれば、作動媒体として要求される沸点、凝固点、蒸発潜熱等の物理的、化学的性質を有することができる。
該一般式(I)において、Cで表されるx個の炭素原子の結合形態は、炭素−炭素単結合、炭素−炭素二重結合等の不飽和結合等が含まれ、炭素−炭素の不飽和結合を1以上有する。炭素−炭素二重結合等の不飽和結合は、安定性の点から、炭素−炭素二重結合であることが好ましく、その数は1であるものが好ましい。
また、一般式(I)において、Rは、HまたはClを表し、これらのいずれであってもよいが、オゾン層を破壊する恐れが小さいことから、Rは、Hであることが好ましい。また、一般式(I)において、y+zの範囲は4以上であることが好ましい。
以下、上記一般式(I)で表される不飽和フッ化炭化水素化合物を、不飽和フッ化炭化水素化合物(I)ともいう。
【0026】
[不飽和フッ化炭化水素化合物(I)]
本発明において、熱サイクルシステム用作動媒体が含有する不飽和フッ化炭化水素化合物(I)としては、例えば、炭素数2〜6の直鎖状または分岐状の鎖状オレフィンや炭素数4〜6の環状オレフィンのフッ素化物を好ましいものとして挙げることができる。
具体的には、1〜3個のフッ素原子が導入されたエチレン、1〜5個のフッ素原子が導入されたプロペン、1〜7個のフッ素原子が導入されたブテン、1〜9個のフッ素原子が導入されたペンテン、1〜11個のフッ素原子が導入されたヘキセン、1〜5個のフッ素原子が導入されたシクロブテン、1〜7個のフッ素原子が導入されたシクロペンテン、1〜9個のフッ素原子が導入されたシクロヘキセン等が挙げられる。
【0027】
これらの不飽和フッ化炭化水素化合物(I)の中では、炭素数2〜3の不飽和フッ化炭化水素化合物(I)が好ましく、炭素数2のエチレンのフッ化物がより好ましい。この炭素数2〜3の不飽和フッ化炭化水素化合物(I)としては、例えば、1,1,2−トリフルオロエチレン(HFO−1123)、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)、1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132)、2−フルオロプロペン(HFO−1261yf)、1,1,2−トリフルオロプロペン(HFO−1243yc)、(E)−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye(E))、(Z)−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye(Z))、(E)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze(E))、(Z)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze(Z))および3,3,3−トリフルオロプロペン(HFO−1243zf)等が挙げられる。
本発明においては、この不飽和フッ化炭化水素化合物(I)は、1種を単独で用いてよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0028】
本発明に係る作動媒体は、不飽和フッ化炭化水素化合物(I)に加えて、必要に応じて、後述する任意成分を含んでいてもよい。作動媒体の100質量%に対する不飽和フッ化炭化水素化合物(I)の含有量は、10質量%以上が好ましく、20〜80質量%がより好ましく、40〜80質量%がより一層好ましく、40〜60質量%がさらに好ましい。
【0029】
(HFO−1123)
以下、不飽和フッ化炭化水素化合物(I)としてHFO−1123を必須の成分として含有する作動媒体を例に説明するが、ここで、HFO−1123をHFO−1123以外の不飽和フッ化炭化水素化合物(I)に置き換えることもできる。
【0030】
まず、HFO−1123の作動媒体としての特性を、特に、R410A(HFC−32とHFC−125の質量比1:1の擬似共沸混合物)との相対比較において表1に示す。サイクル性能は、後述する方法で求められる成績係数と冷凍能力で示される。HFO−1123の成績係数と冷凍能力は、R410Aを基準(1.000)とした相対値(以下、相対成績係数および相対冷凍能力という)で示す。地球温暖化係数(GWP)は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書(2007年)に示される、または該方法に準じて測定された100年の値である。本明細書において、GWPは特に断りのない限りこの値をいう。作動媒体が混合物からなる場合、後述するとおり温度勾配は、作動媒体を評価する上で重要なファクターとなり、値は小さい方が好ましい。
【0031】
【表1】
【0032】
[任意成分]
本発明に用いる作動媒体は、本発明の効果を損なわない範囲でHFO−1123以外に、通常作動媒体として用いられる化合物を任意に含有してもよい。このような任意の化合物(任意成分)としては、例えば、HFC、HFO−1123以外のHFO(炭素−炭素二重結合を有するHFC)、これら以外のHFO−1123とともに気化、液化する他の成分等が挙げられる。任意成分としては、HFC、HFO−1123以外のHFOが好ましい。
【0033】
任意成分としては、HFO−1123と組み合わせて熱サイクルに用いた際に、上記相対成績係数、相対冷凍能力をより高める作用を有しながら、GWPや温度勾配を許容の範囲にとどめられる化合物が好ましい。作動媒体がHFO−1123との組合せにおいてこのような化合物を含むと、GWPを低く維持しながら、より良好なサイクル性能が得られるとともに、温度勾配による影響も少ない。
【0034】
(温度勾配)
作動媒体が任意成分を含有する場合、HFO−1123と任意成分が共沸組成である場合を除いて相当の温度勾配を有する。作動媒体の温度勾配は、任意成分の種類およびHFO−1123と任意成分との混合割合により異なる。
【0035】
作動媒体として混合物を用いる場合、通常、共沸またはR410Aのような擬似共沸の混合物が好ましく用いられる。非共沸混合物は、圧力容器から冷凍空調機器へ充てんされる際に組成変化を生じる問題点を有している。さらに、冷凍空調機器からの冷媒漏えいが生じた場合、冷凍空調機器内の冷媒組成が変化する可能性が極めて大きく、初期状態への冷媒組成の復元が困難である。一方、共沸または擬似共沸の混合物であれば上記問題が回避できる。
【0036】
混合物の作動媒体における使用可能性をはかる指標として、一般に「温度勾配」が用いられる。温度勾配は、熱交換器、例えば、蒸発器における蒸発の、または凝縮器における凝縮の、開始温度と終了温度が異なる性質、と定義される。共沸混合物においては、温度勾配は0であり、擬似共沸混合物では、例えばR410Aの温度勾配が0.2であるように、温度勾配は極めて0に近い。
【0037】
温度勾配が大きいと、例えば、蒸発器における入口温度が低下することで着霜の可能性が大きくなり問題である。さらに、熱サイクルシステムにおいては、熱交換効率の向上をはかるために熱交換器を流れる作動媒体と水や空気等の熱源流体を対向流にすることが一般的であり、安定運転状態においては該熱源流体の温度差が小さいことから、温度勾配の大きい非共沸混合物の場合、エネルギー効率のよい熱サイクルシステムを得ることが困難である。このため、混合物を作動媒体として使用する場合は適切な温度勾配を有する作動媒体が望まれる。
【0038】
(HFC)
任意成分のHFCとしては、上記観点から選択されることが好ましい。ここで、HFCは、HFO−1123に比べてGWPが高いことが知られている。したがって、HFO−1123と組合せるHFCとしては、上記作動媒体としてのサイクル性能を向上させ、かつ温度勾配を適切な範囲にとどめることに加えて、特にGWPを許容の範囲にとどめる観点から、適宜選択されることが好ましい。
【0039】
オゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が小さいHFCとして具体的には炭素数1〜5のHFCが好ましい。HFCは、直鎖状であっても、分岐状であってもよく、環状であってもよい。
【0040】
HFCとしては、炭素数1〜5のアルカンのフッ化物等が挙げられ、例えば、トリフルオロメタン、HFC−32、ジフルオロエタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン、HFC−125、トリフルオロヨードメタン、ペンタフルオロプロパン、ヘキサフルオロプロパン、ヘプタフルオロプロパン、ペンタフルオロブタン、ヘプタフルオロシクロペンタン等が好ましいものとして挙げられる。
【0041】
なかでも、HFCとしては、オゾン層への影響が少なく、かつ冷凍サイクル特性が優れる点から、HFC−32、1,1−ジフルオロエタン(HFC−152a)、1,1,1−トリフルオロエタン(HFC−143a)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFC−134)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、およびHFC−125が好ましく、HFC−32、HFC−152a、HFC−134a、およびHFC−125がより好ましい。
HFCは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
作動媒体(100質量%)中のHFCの含有量は、作動媒体の要求特性に応じ任意に選択可能である。例えば、HFO−1123とHFC−32からなる作動媒体の場合、HFC−32の含有量が1〜99質量%の範囲で成績係数および冷凍能力が向上する。HFO−1123とHFC−134aからなる作動媒体の場合、HFC−134aの含有量が1〜99質量%の範囲で成績係数が向上する。
【0043】
また、上記好ましいHFCのGWPは、HFC−32については675であり、HFC−134aについては1430であり、HFC−125については3500である。得られる作動媒体のGWPを低く抑える観点から、任意成分のHFCとしては、HFC−32が最も好ましい。
【0044】
また、HFO−1123とHFC−32とは、質量比で99:1〜1:99の組成範囲で共沸に近い擬似共沸混合物を形成可能であり、両者の混合物はほぼ組成範囲を選ばずに温度勾配が0に近い。この点においてもHFO−1123と組合せるHFCとしてはHFC−32が有利である。
【0045】
本発明に用いる作動媒体において、HFO−1123とともにHFC−32を用いる場合、作動媒体の100質量%に対するHFC−32の含有量は、具体的には、20質量%以上が好ましく、20〜80質量%がより好ましく、40〜60質量%がさらに好ましい。
【0046】
(HFO−1123以外のHFO)
HFO−1123以外のHFOについても、上記HFCと同様の観点から選択されることが好ましい。なお、HFO−1123以外であってもHFOであれば、GWPはHFCに比べて桁違いに低い。したがって、HFO−1123と組合せるHFO−1123以外のHFOとしては、GWPを考慮するよりも、上記作動媒体としてのサイクル性能を向上させ、かつ温度勾配を適切な範囲にとどめることに特に留意して、適宜選択されることが好ましい。
【0047】
HFO−1123以外のHFOとしては、HFO−1234yf、HFO−1132、HFO−1261yf、HFO−1243yc、HFO−1225ye(E)、HFO−1225ye(Z)、HFO−1234ze(E)、HFO−1234ze(Z)、HFO−1243zf等が挙げられる。
【0048】
なかでも、HFO−1123以外のHFOとしては、高い臨界温度を有し、耐久性、成績係数が優れる点から、HFO−1234yf(GWP=4)、HFO−1234ze(E)、HFO−1234ze(Z)((E)体、(Z)体共にGWP=6)が好ましく、HFO−1234yfがより好ましい。HFO−1123以外のHFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
作動媒体(100質量%)中のHFO−1123以外のHFOの含有量は、作動媒体の要求特性に応じ任意に選択可能である。例えば、HFO−1123とHFO−1234yfまたはHFO−1234zeとからなる作動媒体の場合、HFO−1234yfまたはHFO−1234zeの含有量が1〜99質量%の範囲で成績係数が向上する。
【0050】
本発明に用いる作動媒体が、HFO−1123およびHFO−1234yfを含む場合の、好ましい組成範囲を組成範囲(S)として以下に示す。
なお、組成範囲(S)を示す各式において、各化合物の略称は、HFO−1123とHFO−1234yfとその他の成分(HFC−32等)の合計量に対する当該化合物の割合(質量%)を示す。
【0051】
<組成範囲(S)>
HFO−1123+HFO−1234yf≧70質量%
HFO−1123とHFO−1234yfの合計量に対するHFO−1123の割合(質量%)が、35〜95質量%
【0052】
組成範囲(S)の作動媒体は、GWPが極めて低く、温度勾配が小さい。また、成績係数、冷凍能力および臨界温度の観点からも従来のR410Aに代替し得る冷凍サイクル性能を発現できる。
【0053】
組成範囲(S)の作動媒体において、HFO−1123とHFO−1234yfの合計量に対するHFO−1123の割合は、40〜95質量%がより好ましく、50〜90質量%がさらに好ましく、50〜85質量%が特に好ましく、60〜85質量%がもっとも好ましい。
【0054】
また、作動媒体100質量%中のHFO−1123とHFO−1234yfの合計の含有量は、80〜100質量%がより好ましく、90〜100質量%がさらに好ましく、95〜100質量%が特に好ましい。
【0055】
また、本発明に用いる作動媒体は、HFO−1123とHFCとHFO−1123以外のHFOとの組合せであってもよい。この場合、作動媒体は、HFO−1123とHFC−32とHFO−1234yfからなることが好ましく、作動媒体全量における各化合物の割合は以下の範囲が好ましい。
10質量%≦HFO−1123≦80質量%
10質量%≦HFC−32≦75質量%
5質量%≦HFO−1234yf≦60質量%
【0056】
さらに、本発明に用いる作動媒体が、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32を含有する場合、好ましい組成範囲(P)を以下に示す。
なお、組成範囲(P)を示す各式において、各化合物の略称は、HFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32の合計量に対する当該化合物の割合(質量%)を示す。組成範囲(R)、組成範囲(L)、組成範囲(M)においても同様である。また、以下に記載の組成範囲では、具体的に記載したHFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32の合計量が、熱サイクル用作動媒体全量に対して90質量%を超え100質量%以下であることが好ましい。
【0057】
<組成範囲(P)>
70質量%≦HFO−1123+HFO−1234yf
30質量%≦HFO−1123≦80質量%
0質量%<HFO−1234yf≦40質量%
0質量%<HFC−32≦30質量%
HFO−1123/HFO−1234yf≦95/5
【0058】
上記組成を有する作動媒体は、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32がそれぞれ有する特性がバランスよく発揮され、かつそれぞれが有する欠点が抑制された作動媒体である。すなわち、この作動媒体は、GWPが極めて低く抑えられ、熱サイクルに用いた際に、温度勾配が小さく、一定の能力と効率を有することで良好なサイクル性能が得られる作動媒体である。
【0059】
また、本発明に用いる作動媒体のより好ましい組成としては、HFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32の合計量に対して、HFO−1123を30〜70質量%、HFO−1234yfを4〜40質量%、およびHFC−32を0〜30質量%の割合で含有し、かつ、作動媒体全量に対するHFO−1123の含有量が70モル%以下である組成が挙げられる。前記範囲の作動媒体は、上記の効果が高まるのに加え、HFO−1123の自己分解反応が抑制され、耐久性の高い作動媒体である。相対成績係数の観点からは、HFC−32の含有量は5質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましい。
【0060】
また、本発明に用いる作動媒体がHFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32を含む場合の、別の好ましい組成を示すが、作動媒体全量に対するHFO−1123の含有量が70モル%以下であれば、HFO−1123の自己分解反応が抑制され、耐久性の高い作動媒体が得られる。
さらに好ましい組成範囲(R)を、以下に示す。
<組成範囲(R)>
10質量%≦HFO−1123<70質量%
0質量%<HFO−1234yf≦50質量%
30質量%<HFC−32≦75質量%
【0061】
上記組成を有する作動媒体は、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32がそれぞれ有する特性がバランスよく発揮され、かつそれぞれが有する欠点が抑制された作動媒体である。すなわち、GWPが低く抑えられ、耐久性が確保されたうえで、熱サイクルに用いた際に、温度勾配が小さく、高い能力と効率を有することで良好なサイクル性能が得られる作動媒体である。
【0062】
上記組成範囲(R)を有する本発明の作動媒体において、好ましい範囲を、以下に示す。
20質量%≦HFO−1123<70質量%
0質量%<HFO−1234yf≦40質量%
30質量%<HFC−32≦75質量%
【0063】
上記組成を有する作動媒体は、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32がそれぞれ有する特性が特にバランスよく発揮され、かつそれぞれが有する欠点が抑制された作動媒体である。すなわち、GWPが低く抑えられ、耐久性が確保されたうえで、熱サイクルに用いた際に、温度勾配がより小さく、より高い能力と効率を有することで良好なサイクル性能が得られる作動媒体である。
【0064】
上記組成範囲(R)を有する本発明の作動媒体において、より好ましい組成範囲(L)を、以下に示す。組成範囲(M)がさらに好ましい。
<組成範囲(L)>
10質量%≦HFO−1123<70質量%
0質量%<HFO−1234yf≦50質量%
30質量%<HFC−32≦44質量%
【0065】
<組成範囲(M)>
20質量%≦HFO−1123<70質量%
5質量%≦HFO−1234yf≦40質量%
30質量%<HFC−32≦44質量%
【0066】
上記組成範囲(M)を有する作動媒体は、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32がそれぞれ有する特性が特にバランスよく発揮され、かつそれぞれが有する欠点が抑制された作動媒体である。すなわち、この作動媒体は、GWPの上限が300以下に低く抑えられ、耐久性が確保されたうえで、熱サイクルに用いた際に、温度勾配が5.8未満と小さく、相対成績係数および相対冷凍能力が1に近く良好なサイクル性能が得られる作動媒体である。
作動媒体の組成がこの範囲にあると温度勾配の上限が下がり、相対成績係数×相対冷凍能力の下限が上がる。相対成績係数が大きい点から8質量%≦HFO−1234yfがより好ましい。また、相対冷凍能力が大きい点からHFO−1234yf≦35質量%がより好ましい。
【0067】
(その他の任意成分)
本発明の熱サイクルシステム用組成物に用いる作動媒体は、上記任意成分以外に、二酸化炭素、炭化水素、CFO、HCFO等を含有してもよい。その他の任意成分としてはオゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が小さい成分が好ましい。
【0068】
炭化水素としては、プロパン、プロピレン、シクロプロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン等が挙げられる。
炭化水素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
上記作動媒体が炭化水素を含有する場合、その含有量は作動媒体の100質量%に対して10質量%未満が好ましく、1〜5質量%がより好ましく、3〜5質量%がさらに好ましい。炭化水素を含有することにより、作動媒体への鉱物系冷凍機油の溶解性がより良好になる。
【0070】
CFOとしては、クロロフルオロプロペン、クロロフルオロエチレン等が挙げられる。作動媒体のサイクル性能を大きく低下させることなく作動媒体の燃焼性を抑えやすい点から、CFOとしては、1,1−ジクロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(CFO−1214ya)、1,3−ジクロロ−1,2,3,3−テトラフルオロプロペン(CFO−1214yb)、1,2−ジクロロ−1,2−ジフルオロエチレン(CFO−1112)が好ましい。
CFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
作動媒体がCFOを含有する場合、その含有量は作動媒体の100質量%に対して10質量%未満が好ましく、1〜8質量%がより好ましく、2〜5質量%がさらに好ましい。CFOを含有することにより、作動媒体の燃焼性を抑制しやすい。CFOの含有量が上限値以下であれば、良好なサイクル性能が得られやすい。
【0072】
HCFOとしては、ヒドロクロロフルオロプロペン、ヒドロクロロフルオロエチレン等が挙げられる。作動媒体のサイクル性能を大きく低下させることなく作動媒体の燃焼性を抑えやすい点から、HCFOとしては、1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HCFO−1224yd)、1−クロロ−1,2−ジフルオロエチレン(HCFO−1122)が好ましい。
HCFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
上記作動媒体がHCFOを含む場合、作動媒体100質量%中のHCFOの含有量は、10質量%未満が好ましく、1〜8質量%がより好ましく、2〜5質量%がさらに好ましい。HCFOを含有することにより、作動媒体の燃焼性を抑制しやすい。HCFOの含有量が上限値以下であれば、良好なサイクル性能が得られやすい。
【0074】
本発明の熱サイクルシステム用組成物に用いる作動媒体が上記のようなその他の任意成分を含有する場合、作動媒体におけるその他の任意成分の合計含有量は、作動媒体100質量%に対して10質量%未満が好ましく、8質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
【0075】
<冷凍機油>
本発明の熱サイクルシステム用組成物は、上記熱サイクル用作動媒体に加え、下記(O−1)〜(O−3)の特性を満足する冷凍機油を含有する。冷凍機油は、熱サイクルシステム用組成物に上記作動媒体とともに含有され熱サイクルシステム内を循環し、該熱サイクルシステム内の特に圧縮機において潤滑油として機能する。
(O−1)絶縁破壊電圧が25kV以上である。
(O−2)水酸基価が0.1mgKOH/g以下である。
(O−3)上記作動媒体の凝縮温度から蒸発温度までの全温度範囲において上記作動媒体との混合物が二層分離状態である。
【0076】
以下、上記(O−1)〜(O−3)の各特性について説明する。
(絶縁破壊電圧)
上記冷凍機油の絶縁破壊電圧を25kV以上とすることで、駆動のための電磁石と冷凍機油が直接接する熱サイクルシステムにおいても絶縁を維持し、安定した運転ができる。絶縁破壊電圧は30kV以上がより好ましく、40kV以上がさらに好ましい。なお、本明細書において絶縁破壊電圧は、カタログ値を用いるか、JIS C 2101に基づく簡易確認で25kV等の閾値以上か以下かを判定する。
【0077】
(水酸基価)
上記冷凍機油の水酸基価を0.1mgKOH/g以下とすることで、冷凍機油や熱サイクル用作動媒体の重合、分解反応による劣化を引き起こす原因となるヒドロキシラジカルの発生を抑制できる。不飽和フッ化炭化水素化合物(I)を含有する作動媒体を使用した系においては、ヒドロキシラジカルは該不飽和結合を攻撃して分解させ、その際に酸が発生すると推測される。酸が発生すると、熱サイクルシステム内において、システムを構成する部材等が腐食や劣化等が生じるおそれがある。ヒドロキシラジカルの発生が抑制されることで、上記劣化等が抑制でき、さらに、不飽和フッ化炭化水素化合物(I)の重合も抑制できる。
【0078】
そのため、上記のように水酸基価を低くした本発明においては、酸の発生を有意に抑制でき熱サイクルシステムの安定した運転ができる。この水酸基価は、0.05mgKOH/g以下がより好ましい。なお、本明細書において水酸基価は、JIS K 2501に準拠して測定される。
【0079】
(非相溶性)
上記冷凍機油は、上記作動媒体の凝縮温度から蒸発温度までの全温度範囲において上記作動媒体との混合物が二層分離状態である。以下、このような性質を有する冷凍機油を非相溶性の冷凍機油といもいう。また、作動媒体と冷凍機油とを混合したときに、該作動媒体と冷凍機油とが均一な一層の液体となる場合、冷凍機油は該作動媒体と相溶性を有するという。
【0080】
非相溶性の冷凍機油としては、上記温度範囲において、上記作動媒体と冷凍機油の混合比がいかなる場合であっても二層分離するものが好ましい。作動媒体と冷凍機油との混合物は、混合物中に冷凍機油を10〜50質量%含有してなる混合物において上記温度範囲で二層分離するものであってもよく、混合物中に冷凍機油を10〜20質量%含有してなる混合物において上記温度範囲で二層分離するものであってもよい。
【0081】
作動媒体の凝縮温度および蒸発温度は、熱サイクルシステムを作動媒体が循環するときの凝縮温度、蒸発温度をいう。作動媒体の凝縮温度および蒸発温度について図面を参照しながら冷凍サイクルを例に、以下に説明する。
【0082】
図1に示す冷凍サイクルシステム10は、作動媒体蒸気Aを圧縮して高温高圧の作動媒体蒸気Bとする圧縮機11と、圧縮機11から排出された作動媒体蒸気Bを冷却し、液化して低温高圧の作動媒体Cとする凝縮器12と、凝縮器12から排出された作動媒体Cを膨張させて低温低圧の作動媒体Dとする膨張弁13と、膨張弁13から排出された作動媒体Dを加熱して高温低圧の作動媒体蒸気Aとする蒸発器14と、蒸発器14に負荷流体Eを供給するポンプ15と、凝縮器12に流体Fを供給するポンプ16とを具備して概略構成されるシステムである。
【0083】
冷凍サイクルシステム10においては、以下の(i)〜(iv)のサイクルが繰り返される。
(i)蒸発器14から排出された作動媒体蒸気Aを圧縮機11にて圧縮して高温高圧の作動媒体蒸気Bとする(以下、「AB過程」という。)。
(ii)圧縮機11から排出された作動媒体蒸気Bを凝縮器12にて流体Fによって冷却し、液化して低温高圧の作動媒体Cとする。この際、流体Fは加熱されて流体F’となり、凝縮器12から排出される(以下、「BC過程」という。)。
【0084】
(iii)凝縮器12から排出された作動媒体Cを膨張弁13にて膨張させて低温低圧の作動媒体Dとする(以下、「CD過程」という。)。
(iv)膨張弁13から排出された作動媒体Dを蒸発器14にて負荷流体Eによって加熱して高温低圧の作動媒体蒸気Aとする。この際、負荷流体Eは冷却されて負荷流体E’となり、蒸発器14から排出される(以下、「DA過程」という。)。
【0085】
冷凍サイクルシステム10は、断熱・等エントロピ変化、等エンタルピ変化および等圧変化からなるサイクルシステムである。作動媒体の状態変化を、図2に示される圧力−エンタルピ線(曲線)図上に記載すると、A、B、C、Dを頂点とする台形として表すことができる。
【0086】
AB過程は、圧縮機11で断熱圧縮を行い、高温低圧の作動媒体蒸気Aを高温高圧の作動媒体蒸気Bとする過程であり、図2においてAB線で示される。後述のとおり、作動媒体蒸気Aは過熱状態で圧縮機11に導入され、得られる作動媒体蒸気Bも過熱状態の蒸気である。
【0087】
BC過程は、凝縮器12で等圧冷却を行い、高温高圧の作動媒体蒸気Bを低温高圧の作動媒体Cとする過程であり、図2においてBC線で示される。この際の圧力が凝縮圧である。圧力−エンタルピ線とBC線の交点のうち高エンタルピ側の交点Tが「凝縮温度」であり、低エンタルピ側の交点Tが凝縮沸点温度である。ここで、作動媒体が単一の化合物または共沸混合物の場合TとTは等しい。非共沸混合物である場合、TとTに差が生じる。本発明においては、この場合、TとTのうち高い温度を「凝縮温度」とする。なお、非共沸混合物である場合の温度勾配は、TとTの差として示される。
【0088】
CD過程は、膨張弁13で等エンタルピ膨張を行い、低温高圧の作動媒体Cを低温低圧の作動媒体Dとする過程であり、図2においてCD線で示される。なお、低温高圧の作動媒体Cにおける温度をTで示せば、T−Tが(i)〜(iv)のサイクルにおける作動媒体の過冷却度(SC)となる。
【0089】
DA過程は、蒸発器14で等圧加熱を行い、低温低圧の作動媒体Dを高温低圧の作動媒体蒸気Aに戻す過程であり、図2においてDA線で示される。この際の圧力が蒸発圧である。圧力−エンタルピ線とDA線の交点のうち高エンタルピ側の交点Tは「蒸発温度」である。作動媒体蒸気Aの温度をTで示せば、T−Tが(i)〜(iv)のサイクルにおける作動媒体の過熱度(SH)となる。なお、Tは作動媒体Dの温度を示す。ここで、作動媒体が単一の化合物または共沸混合物の場合TとTは等しい。非共沸混合物である場合、TとTに差が生じる。本発明においては、この場合、TとTのうち低い温度を「蒸発温度」とする。
【0090】
一般的に、熱サイクルシステム用組成物において、冷凍機油は作動媒体との相溶性が高いものが使用されている。しかしながら、このような冷凍機油を用いた場合、冷凍機油中への作動媒体溶解量が大きいため、圧縮機内においては冷凍機油中に溶解した作動媒体により冷凍機油の粘度が大幅に低下してしまう。そのため、圧縮機内で冷媒が溶け込んだ状態において十分な摺動耐力(または潤滑性能)を有するためには、冷凍機油の粘度を高めに設定する必要がある。
【0091】
このように、上記作動媒体との相溶性が高い冷凍機油を用いた熱サイクルシステム用組成物では、熱サイクルシステム用組成物の粘度と冷凍機油の粘度の差が大きいので、圧力や温度が変化すると、冷凍機油への作動媒体溶解量の変化により、熱サイクルシステム用組成物の溶解粘度(動粘度)が大幅に変化する。具体的には、作動媒体溶解量の比較的少ない圧縮機内の作動媒体ガスの過熱度(過熱蒸気温度の沸点との差)が大きい条件では熱サイクルシステム用組成物の粘度が高すぎ、作動媒体溶解量の多い圧縮機内の作動媒体ガスの過熱度が小さい条件においては熱サイクルシステム用組成物の粘度が低すぎる状態が発生するという問題があった。
【0092】
そこで、本発明の熱サイクルシステム用組成物では、用いる冷凍機油を、上記作動媒体の凝縮温度から蒸発温度までの全温度範囲において上記作動媒体との混合物が二層分離状態である特性を満足するものとした。そうすることで、圧縮機の内部において、冷凍機油に対する作動媒体の溶解性が必要以上に大きくならず、熱サイクルシステム用組成物の大幅な粘度低下を防止することを可能とした。すなわち、本発明の熱サイクルシステム用組成物においては、圧縮機内での粘度低下が殆どなく、常に十分な摺動耐力を有することから摺動部の信頼性を高めることが可能であり、熱サイクルシステムの稼働初期から安定した運転が可能である。
【0093】
本発明の熱サイクルシステム用組成物において、上記作動媒体とこれと非相溶性の冷凍機油は、通常、懸濁状態で熱サイクルシステム内を循環するように用いられる。
【0094】
なお、熱サイクルシステムにおける作動媒体の凝縮温度および蒸発温度は、通常、各種用途に応じて、使用に際して設定される温度である。例えば、凝縮温度は、空調機では65℃程度以下、給湯器では80℃程度以下に設定され、蒸発温度は、空調機、給湯器で−10℃〜−30℃程度に設定される。本発明の熱サイクルシステム用組成物において、冷凍機油は、用いられる熱サイクルシステムの使用条件に応じて、上記(O−1)、(O−2)を満足する冷凍機油のなかから(O−3)による非相溶性が満足できるものが適宜選択される。
【0095】
ここで、上に説明した作動媒体の冷凍能力(Q)と成績係数(COP)については、例えば、上記図1および図2により説明した作動媒体のA(蒸発後、高温低圧)、B(圧縮後、高温高圧)、C(凝縮後、低温高圧)、D(膨張後、低温低圧)の各状態における各エンタルピ、h、h、h、hを用いると、下式(A)、(B)からそれぞれ求められる。ただし、これらは、機器効率による損失、および配管、熱交換器における圧力損失がないものとして求められる値である。
【0096】
作動媒体のサイクル性能の算出に必要となる熱力学性質は、対応状態原理に基づく一般化状態方程式(Soave−Redlich−Kwong式)、および熱力学諸関係式に基づき算出できる。特性値が入手できない場合は、原子団寄与法に基づく推算手法を用い算出を行う。
【0097】
Q=h−h …(A)
COP=Q/圧縮仕事=(h−h)/(h−h) …(B)
【0098】
上記(h−h)で示されるQが冷凍サイクルの出力(kW)に相当し、(h−h)で示される圧縮仕事、例えば、圧縮機を運転するために必要とされる電力量が、消費された動力(kW)に相当する。また、Qは負荷流体を冷凍する能力を意味しており、Qが高いほど同一のシステムにおいて、多くの仕事ができることを意味している。言い換えると、大きなQを有する場合は、少量の作動媒体で目的とする性能が得られることを表しており、システムの小型化が可能となる。
【0099】
上記冷凍機油は、上記(O−1)〜(O−3)の特性に加えて、以下の(O−4)および/または(O−5)の特性を備えることが好ましい。
(O−4)40℃における動粘度が5〜200mm/sであり、100℃における動粘度が1〜100mm/sである。
(O−5)アニリン点が−100℃以上0℃以下である。
【0100】
(動粘度)
冷凍機油の40℃における動粘度は、潤滑性や圧縮機の密閉性が低下せず、冷凍機圧縮機の潤滑不良の抑制や蒸発器における熱交換を十分に行うという観点から上記範囲が好ましく、5〜100mm/sがより好ましい。また、100℃における動粘度は、消費電力および耐摩耗性を適正な範囲に維持できる観点から上記範囲が好ましく、2〜30mm/sがより好ましい。本明細書における動粘度は、JIS K 2283に準拠して測定されたものである。
【0101】
(アニリン点)
アニリン点は、等容積のアニリンと試料とが均一な溶液として存在する最低温度と定義される。一般的に、該試料がゴムや樹脂等をどれほど膨潤させるかを示す膨潤性の指標としても利用される。本明細書においては、冷凍機油を等容積のアニリンと混合して均一な溶液とした後、これを冷却した際に互いに溶解し合えなくなって濁りがみえ始めたときの温度をアニリン点とする。なお、本明細書においてアニリン点は、JIS K 2256に準じて測定される。
【0102】
一般に、熱サイクルシステムにおいて、圧縮機の摺動部に設けられる摺動部材(軸受等)、作動媒体の漏れを防止するためのシール部材、電動機に配設される絶縁材料等は樹脂で構成される。また、本発明の熱サイクルシステム用組成物が含有する上記作動媒体は、不飽和フッ化炭化水素化合物(I)を含有することから、後述するとおりこれを用いた熱サイクルシステムにおいては、上記樹脂製の各部材を含む熱サイクルシステム用組成物と接触する接触部は、エンジニアリングプラスチック、有機膜、および無機膜から選ばれる少なくとも1種から構成されていることが好ましい。
【0103】
エンジニアリングプラスチックからなる部材や有機膜がコーティングされた部材(以下、樹脂部材)では、上記冷凍機油のアニリン点が低すぎると、冷凍機油が樹脂部材に浸透して膨潤しやすくなる。一方、アニリン点が高すぎると、冷凍機油が樹脂部材に浸透し難くなり、樹脂部材が収縮しやすくなる。そこで、冷凍機油のアニリン点を上記範囲とすることで、上記樹脂部材の膨潤/収縮を抑制することができる。その結果、樹脂部材の耐久性が向上し、熱サイクルシステムの信頼性が向上する。
【0104】
さらに、上記冷凍機油に含まれる冷凍機油以外の不純物、例えば、水分、灰分の含有量については、以下のとおりとすることが好ましい。
(不純物)
冷凍機油の水分含有量は特に限定されないが、冷凍機油全量基準で好ましくは300ppm以下、より好ましくは200ppm以下、最も好ましくは100ppm以下である。特に密閉型の冷凍機用に用いる場合には、作動媒体の分解安定性や、冷凍機油の熱・化学的安定性や電気絶縁性への影響の観点から、水分含有量が少ないことが求められる。なお、本明細書において、水分含有量は、JIS K 2275に準拠して測定する。
【0105】
また、この冷凍機油の残存空気分圧は特に限定されないが、10kPa以下が好ましく、さらには5kPa以下が好ましい。
【0106】
また、ここで使用する冷凍機油の灰分は特に限定されないが、冷凍機油の熱・化学的安定性を高めスラッジ等の発生を抑制するため、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下とすることができる。なお、本明細書において、灰分とは、JIS K 2272に準拠して測定した灰分の値を意味する。
【0107】
本発明に使用する冷凍機油としては、上記(O−1)〜(O−3)の特性を有する冷凍機油であれば、種類は特に限定されない。具体的には、含酸素系合成油(エステル系冷凍機油、エーテル系冷凍機油、ポリグリコール油等)、炭化水素系冷凍機油等において、上記(O−1)〜(O−3)の特性を有する冷凍機油が挙げられる。これらは、好ましくは上記(O−4)および/または(O−5)の特性を備え、不純物等が上記範囲内であることが好ましい。
【0108】
これらのなかでも、上記(O−1)〜(O−3)の特性を有するエステル系冷凍機油、エーテル系冷凍機油が適している。なお、以下の説明において冷凍機油の化合物としての分類のみを記載するが、これらは、本発明に使用する冷凍機油として上記(O−1)〜(O−3)の特性を有することが必須の条件である。さらに、エステル系冷凍機油としてはポリオールエステル系冷凍機油が、エーテル系冷凍機油としてはポリビニルエーテル系冷凍機油が好ましいものとして挙げられる。
【0109】
なお、特に、エステル系冷凍機油、エーテル系冷凍機油の場合には、冷凍機油を構成する原子として炭素原子と酸素原子が代表的に挙げられる。この炭素原子と酸素原子の比率(炭素/酸素モル比)により、小さすぎると吸湿性が高くなる問題がある。この観点より、冷凍機油の炭素原子と酸素原子の比率はモル比で2以上が適している。
【0110】
〔エステル系冷凍機油〕
エステル系冷凍機油としては、化学的な安定性の面で、二塩基酸と1価アルコールとの二塩基酸エステル系冷凍機油、ポリオールと脂肪酸とのポリオールエステル系冷凍機油、またはポリオールと多価塩基酸と1価アルコール(または脂肪酸)とのコンプレックスエステル冷凍機油、ポリオール炭酸エステル冷凍機油等が挙げられる。
【0111】
(二塩基酸エステル系冷凍機油)
二塩基酸エステル系冷凍機油としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の二塩基酸、特に、炭素数5〜10の二塩基酸(グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等)と、直鎖または分岐アルキル基を有する炭素数1〜15の一価アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール等)とのエステルが好ましい。この二塩基酸エステル系冷凍機油としては、具体的には、グルタル酸ジトリデシル、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジトリデシル、セバシン酸ジ(3−エチルヘキシル)等が挙げられる。
【0112】
(ポリオールエステル系冷凍機油)
ポリオールエステル系冷凍機油とは、多価アルコールと脂肪酸(カルボン酸)とから合成されるエステルである。
【0113】
ポリオールエステル系冷凍機油を構成する多価アルコールとしては、ジオール(エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,7−ヘプタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール等)、水酸基を3〜20個有するポリオール(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)、トリ−(ペンタエリスリトール)、グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜3量体)、1,3,5−ペンタントリオール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の多価アルコール、キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、シュクロース、ラフィノース、ゲンチアノース、メレンジトース等の糖類、ならびにこれらの部分エーテル化物等)が挙げられ、エステルを構成する多価アルコールとしては、上記の1種でもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0114】
ポリオールエステル系冷凍機油を構成する脂肪酸としては、特に炭素数は制限されないが、通常炭素数1〜24のものが用いられる。直鎖の脂肪酸、分岐を有する脂肪酸が好ましい。直鎖の脂肪酸としては、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられ、カルボキシ基に結合する炭化水素基は、全て飽和炭化水素であってもよく、不飽和炭化水素を有していてもよい。さらに、分岐を有する脂肪酸としては、2−メチルプロパン酸、2−メチルブタン酸、3−メチルブタン酸、2,2−ジメチルプロパン酸、2−メチルペンタン酸、3−メチルペンタン酸、4−メチルペンタン酸、2,2−ジメチルブタン酸、2,3−ジメチルブタン酸、3,3−ジメチルブタン酸、2−メチルヘキサン酸、3−メチルヘキサン酸、4−メチルヘキサン酸、5−メチルヘキサン酸、2,2−ジメチルペンタン酸、2,3−ジメチルペンタン酸、2,4−ジメチルペンタン酸、3,3−ジメチルペンタン酸、3,4−ジメチルペンタン酸、4,4−ジメチルペンタン酸、2−エチルペンタン酸、3−エチルペンタン酸、2,2,3−トリメチルブタン酸、2,3,3−トリメチルブタン酸、2−エチル−2−メチルブタン酸、2−エチル−3−メチルブタン酸、2−メチルヘプタン酸、3−メチルヘプタン酸、4−メチルヘプタン酸、5−メチルヘプタン酸、6−メチルヘプタン酸、2−エチルヘキサン酸、3−エチルヘキサン酸、4−エチルヘキサン酸、2,2−ジメチルヘキサン酸、2,3−ジメチルヘキサン酸、2,4−ジメチルヘキサン酸、2,5−ジメチルヘキサン酸、3,3−ジメチルヘキサン酸、3,4−ジメチルヘキサン酸、3,5−ジメチルヘキサン酸、4,4−ジメチルヘキサン酸、4,5−ジメチルヘキサン酸、5,5−ジメチルヘキサン酸、2−プロピルペンタン酸、2−メチルオクタン酸、3−メチルオクタン酸、4−メチルオクタン酸、5−メチルオクタン酸、6−メチルオクタン酸、7−メチルオクタン酸、2,2−ジメチルヘプタン酸、2,3−ジメチルヘプタン酸、2,4−ジメチルヘプタン酸、2,5−ジメチルヘプタン酸、2,6−ジメチルヘプタン酸、3,3−ジメチルヘプタン酸、3,4−ジメチルヘプタン酸、3,5−ジメチルヘプタン酸、3,6−ジメチルヘプタン酸、4,4−ジメチルヘプタン酸、4,5−ジメチルヘプタン酸、4,6−ジメチルヘプタン酸、5,5−ジメチルヘプタン酸、5,6−ジメチルヘプタン酸、6,6−ジメチルヘプタン酸、2−メチル−2−エチルヘキサン酸、2−メチル−3−エチルヘキサン酸、2−メチル−4−エチルヘキサン酸、3−メチル−2−エチルヘキサン酸、3−メチル−3−エチルヘキサン酸、3−メチル−4−エチルヘキサン酸、4−メチル−2−エチルヘキサン酸、4−メチル−3−エチルヘキサン酸、4−メチル−4−エチルヘキサン酸、5−メチル−2−エチルヘキサン酸、5−メチル−3−エチルヘキサン酸、5−メチル−4−エチルヘキサン酸、2−エチルヘプタン酸、3−メチルオクタン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、2−エチル−2,3,3−トリメチル酪酸、2,2,4,4−テトラメチルペンタン酸、2,2,3,3−テトラメチルペンタン酸、2,2,3,4−テトラメチルペンタン酸、2,2−ジイソプロピルプロパン酸等が挙げられる。脂肪酸は、これらの中から選ばれる1種または2種以上の脂肪酸とのエステルでも構わない。
【0115】
エステルを構成するポリオールは1種類でもよく、2種以上の混合物でもよい。また、エステルを構成する脂肪酸は、単一成分でもよく、2種以上の脂肪酸とのエステルでもよい。および脂肪酸は、各々1種類でもよく、2種類以上の混合物でもよい。また、ポリオールエステル系冷凍機油は、遊離の水酸基を有していてもよい。
【0116】
なかでも、特に好ましいポリオールエステル系冷凍機油としては、下記化合物(a)〜(c):
(a)水酸基を2個以上有する化合物もしくはその誘導体、
(b)カルボキシ基を2個以上有する化合物もしくはその誘導体、ならびに
(c)カルボキシ基を1個有する化合物またはその誘導体、および/または、水酸基を1個有する化合物またはその誘導体、
を用いて得られるエステルを含有し、上記不飽和フッ化炭化水素化合物(I)を含む作動媒体と共に用いられることを特徴とするものであり、潤滑性、シール性、熱・化学的安定性、電気絶縁性等をバランスよく十分に満足し、圧縮機の潤滑不良や冷凍効率の低下を十分に防止することが可能なものである。
【0117】
化合物(a)としては、具体的には、多価アルコール、多価フェノール、多価アミノアルコールおよびこれらの縮合物、ならびにこれらの化合物の水酸基が酢酸等のカルボン酸でエステル化された化合物等が挙げられるが、中でも、多価アルコールもしくはその縮合物またはその誘導体を用いると、電気絶縁性および熱安定性がより高められる傾向にあるので好ましい。
【0118】
また、化合物(a)として水酸基がカルボン酸でエステル化されたものを用いることができる。このような誘導体としては、水酸基が低級カルボン酸でエステル化された化合物が好ましく、具体的には、多価アルコールの酢酸エステルまたはプロピオン酸エステルが好ましく用いられる。
【0119】
上記エステルを構成する化合物(b)は、カルボキシ基を2個以上有する化合物もしくはその誘導体である。化合物(b)として、具体的には、2価以上の価数のカルボン酸、ならびにその酸無水物、エステル、酸ハロゲン化物等のカルボン酸誘導体が挙げられる。
【0120】
上記エステルを構成する化合物(c)は、カルボキシ基を1個有する化合物もしくはその誘導体および/または水酸基を1個有する化合物もしくはその誘導体である。この化合物(c)として、カルボキシ基を1個有する化合物もしくはその誘導体と、水酸基を1個有する化合物もしくはその誘導体とのうちのいずれか一方を単独で用いてもよく、双方の混合物として用いてもよい。なお、酸成分としてカルボキシ基を2個以上有する化合物もしくはその誘導体のみを用い、かつアルコール成分として水酸基を2個以上有する化合物もしくはその誘導体のみを用いた場合には、熱・化学的安定性が不十分となる。
【0121】
このカルボキシ基を1個有する化合物もしくはその誘導体としては、具体的には、1価脂肪酸、ならびにその酸無水物、エステルおよび酸ハロゲン化物が挙げられる。かかる1価脂肪酸の炭素数は特に制限されない。
【0122】
化合物(c)としての1価脂肪酸は直鎖状、分岐鎖状のいずれであってもよいが、潤滑性の点からは直鎖状の1価脂肪酸が好ましく、また、熱・加水分解安定性の点からは分岐鎖状の1価脂肪酸が好ましい。また、当該1価脂肪酸は飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。
【0123】
また、この水酸基を1個有する化合物もしくはその誘導体としては、具体的には、1価アルコール、1価フェノール、1価アミノアルコール、ならびにこれらの化合物の水酸基が酢酸等のカルボン酸によりエステル化された化合物等が挙げられる。これらの化合物の炭素数は特に制限されない。
【0124】
また、この化合物(c)として、水酸基がカルボン酸でエステル化された誘導体を用いることもできる。かかる誘導体としては、上記1価アルコールの説明において例示された化合物の酢酸エステル、プロピオン酸エステル等が好ましく使用される。
【0125】
ここで説明したエステルは、上記化合物(a)〜(c)を、常法に従って、好ましくは窒素等の不活性ガス雰囲気下、エステル化触媒の存在下もしくは無触媒下で加熱しながらエステル化することによって調製される。
【0126】
また、化合物(a)、(c)としてアルコールの酢酸エステル、プロピオン酸エステル等を用いる場合や、化合物(b)、(c)としてカルボン酸の低級アルコールエステル等を用いる場合は、エステル交換反応によりこのエステルを得ることが可能である。
【0127】
上記のエステル化反応において用いられるエステル化としては、具体的には、アルミニウム誘導体、スズ誘導体、チタン誘導体等のルイス酸類;ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド等のアルカリ金属塩;パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、硫酸等のスルホン酸類、等が例示されるが、これらの中でも、アルミニウム誘導体、スズ誘導体、チタン誘導体等のルイス酸類を用いると、得られるエステルの熱・加水分解安定性がより高められるので好ましく、さらには、反応効率の点からスズ誘導体が特に好ましい。上記のエステル化触媒の使用量は、例えば、原料である化合物(a)〜(c)の総量に対して0.1〜1質量%程度である。
【0128】
上記のエステル化反応における反応温度としては、150〜230℃が例示され、通常、3〜30時間で反応は完結する。
【0129】
また、エステル化反応終了後、過剰の原料を減圧下または常圧下において留去し、引き続いて慣用の精製方法、例えば液液抽出、減圧蒸留、活性炭処理等の吸着精製処理等を行うことにより、エステルを精製することができる。
【0130】
(コンプレックスエステル系冷凍機油)
コンプレックスエステル系冷凍機油とは、脂肪酸および二塩基酸と、一価アルコールおよびポリオールとのエステルである。脂肪酸、二塩基酸、一価アルコール、ポリオールとしては、上述と同様のものを用いることができる。
【0131】
脂肪酸としては、上記ポリオールエステルの脂肪酸で示したものが挙げられる。
二塩基酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等が挙げられる。
【0132】
ポリオールとしては、上記ポリオールエステルの多価アルコールとして示したものが挙げられる。コンプレックスエステルは、これらの脂肪酸、二塩基酸、ポリオールのエステルであり、各々単一成分でもよいし、複数成分からなるエステルでもよい。
【0133】
(ポリオール炭酸エステル系冷凍機油)
ポリオール炭酸エステル系冷凍機油とは、炭酸とポリオールとのエステルである。
ポリオールとしては、ジオール(上述と同様のもの)を単独重合または共重合したポリグリコール(ポリアルキレングリコール、そのエーテル化合物、それらの変性化合物等)、ポリオール(上述と同様のもの)、ポリオールにポリグリコールを付加したもの等が挙げられる。
【0134】
ポリアルキレングリコールとしては、炭素数2〜4のアルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド等)を、水や水酸化アルカリを開始剤として重合させる方法等により得られたものが挙げられる。また、ポリアルキレングリコールの水酸基をエーテル化したものであってもよい。ポリアルキレングリコール中のオキシアルキレン単位は、1分子中において同一であってもよく、2種以上のオキシアルキレン単位が含まれていてもよい。1分子中に少なくともオキシプロピレン単位が含まれることが好ましい。また、ポリオール炭酸エステル系冷凍機油としては、環状アルキレンカーボネートの開環重合体であってもよい。
【0135】
〔エーテル系冷凍機油〕
エーテル系冷凍機油としては、ポリビニルエーテル系冷凍機油、ポリアルキレングリコール系冷凍機油等が挙げられる。
【0136】
(ポリビニルエーテル系冷凍機油)
ポリビニルエーテル系冷凍機油としては、ビニルエーテルモノマーを重合して得られたもの、ビニルエーテルモノマーとオレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーとを共重合して得られたもの、およびポリビニルエーテルと、アルキレングリコールもしくはポリアルキレングリコール、またはそれらのモノエーテルとの共重合体がある。
【0137】
このポリビニルエーテル系冷凍機油の好ましいものとしては、次の一般式(1)で表される構造を有し、分子量が300〜3,000のポリビニルエーテル系化合物が挙げられる。
【0138】
【化1】
【0139】
(式(1)中、R、RおよびRはそれぞれ水素原子または炭素数1〜8の炭化水素基を示し、それらは互いに同一でも異なってもよく、Rは炭素数2〜4の二価の炭化水素基、Rは、水素原子、炭素数1〜20の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基、炭素数1〜20の置換基を有してもよい芳香族基、炭素数2〜20のアシル基または炭素数2〜50の酸素含有炭化水素基、Rは炭素数1〜10の炭化水素基を示し、R、R、Rはそれらが複数ある場合にはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、mはその平均値が1〜50、oは1〜50、pは0〜50の数を示し、oおよびpはそれらが複数ある場合にはそれぞれブロックでもランダムでもよい。)
【0140】
ここで、R〜Rのうちの炭素数1〜8の炭化水素基とは、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、各種メチルシクロヘキシル基、各種エチルシクロヘキシル基、各種ジメチルシクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、各種メチルフェニル基、各種エチルフェニル基、各種ジメチルフェニル基等のアリール基、ベンジル基、各種フェニルエチル基、各種メチルベンジル基等のアリールアルキル基を示す。なお、これらのR、RおよびRの各々としては、特に水素原子が好ましい。
【0141】
一方、Rで示される炭素数2〜4の二価の炭化水素基としては、具体的にはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、各種ブチレン基等の二価のアルキレン基がある。
なお、一般式(1)におけるmは、ROの繰り返し数を示し、その平均値が1〜50、好ましくは2〜20、さらに好ましくは2〜10、特に好ましくは2〜5の範囲の数である。ROが複数ある場合には、複数のROは同一でも異なっていてもよい。
また、oは1〜50、好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜2、特に好ましくは1、pは0〜50、好ましくは2〜25、さらに好ましくは5〜15の数を示し,oおよびpはそれらが複数ある場合にはそれぞれブロックでもランダムでもよい。
【0142】
のうち炭素数1〜20の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基としては、好ましくは、炭素数1〜10のアルキル基もしくは炭素数5〜10のシクロアルキル基が挙げられ、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、各種メチルシクロヘキシル基、各種エチルシクロヘキシル基、各種プロピルシクロヘキシル基、各種ジメチルシクロヘキシル基等である。
【0143】
のうち炭素数1〜20の置換基を有していてもよい芳香族基としては、具体的には、フェニル基、各種トリル基、各種エチルフェニル基、各種キシリル基、各種トリメチルフェニル基、各種ブチルフェニル基、各種ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、各種フェニルエチル基、各種メチルベンジル基、各種フェニルプロピル基、各種フェニルブチル基等のアリールアルキル基等が挙げられる。
【0144】
また、Rのうち炭素数2〜20のアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、トルオイル基等を挙げることができる。
さらに、Rのうち炭素数2〜50の酸素含有炭化水素基の具体例としては、メトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、1,1−ビスメトキシプロピル基、1,2−ビスメトキシプロピル基、エトキシプロピル基、(2−メトキシエトキシ)プロピル基、(1−メチル−2−メトキシ)プロピル基等を好ましく挙げることができる。
【0145】
一般式(1)において、Rで示される炭素数1〜10の炭化水素基とは、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、各種メチルシクロヘキシル基、各種エチルシクロヘキシル基、各種プロピルシクロヘキシル基、各種ジメチルシクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、各種メチルフェニル基、各種エチルフェニル基、各種ジメチルフェニル基、各種プロピルフェニル基、各種トリメチルフェニル基、各種ブチルフェニル基、各種ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、各種フェニルエチル基、各種メチルベンジル基、各種フェニルプロピル基、各種フェニルブチル基等のアリールアルキル基等を示す。
なお、R〜R、R、RおよびmならびにR〜Rは、それぞれ構成単位毎に同一であっても異なっていてもよい。
【0146】
当該ポリビニルエーテル系化合物は、例えば下記一般式(2)で表されるアルキレングリコール化合物またはポリオキシアルキレングリコール化合物を開始剤とし、下記一般式(3)で表されるビニルエーテル化合物を重合させることにより得ることができる。
【0147】
【化2】
上記式において、R、R、mおよびR〜Rは前記で説明した通りである。
【0148】
具体的なアルキレングリコール化合物およびポリオキシアルキレングリコール化合物としては、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコール、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールや、ポリオキシアルキレングリコールおよびそれらのモノエーテル化合物等が挙げられる。
【0149】
一方、一般式(3)で表されるビニルエーテル系化合物としては、例えばビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニル−n−プロピルエーテル、ビニル−イソプロピルエーテル、ビニル−n−ブチルエーテル、ビニル−イソブチルエーテル、ビニル−sec−ブチルエーテル、ビニル−tert−ブチルエーテル、ビニル−n−ペンチルエーテル、ビニル−n−ヘキシルエーテル等のビニルエーテル類;1−メトキシプロペン、1−エトキシプロペン、1−n−プロポキシプロペン、1−イソプロポキシプロペン、1−n−ブトキシプロペン、1−イソブトキシプロペン、1−sec−ブトキシプロペン、1−tert−ブトキシプロペン、2−メトキシプロペン、2−エトキシプロペン、2−n−プロポキシプロペン、2−イソプロポキシプロペン、2−n−ブトキシプロペン、2−イソブトキシプロペン、2−sec−ブトキシプロペン、2−tert−ブトキシプロペン等のプロペン類;1−メトキシ−1−ブテン、1−エトキシ−1−ブテン、1−n−プロポキシ−1−ブテン、1−イソプロポキシ−1−ブテン、1−n−ブトキシ−1−ブテン、1−イソブトキシ−1−ブテン、1−sec−ブトキシ−1−ブテン、1−tert−ブトキシ−1−ブテン、2−メトキシ−1−ブテン、2−エトキシ−1−ブテン、2−n−プロポキシ−1−ブテン、2−イソプロポキシ−1−ブテン、2−n−ブトキシ−1−ブテン、2−イソブトキシ−1−ブテン、2−sec−ブトキシ−1−ブテン、2−tert−ブトキシ−1−ブテン、2−メトキシ−2−ブテン、2−エトキシ−2−ブテン、2−n−プロポキシ−2−ブテン、2−イソプロポキシ−2−ブテン、2−n−ブトキシ−2−ブテン、2−イソブトキシ−2−ブテン、2−sec−ブトキシ−2−ブテン、2−tert−ブトキシ−2−ブテン等のブテン類が挙げられる。これらのビニルエーテル系モノマーは公知の方法により製造することができる。
【0150】
上記ビニルエーテル系化合物は、対応するビニルエーテル系化合物および所望により用いられるオレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーをラジカル重合、カチオン重合、放射線重合等によって重合することで製造できる。例えばビニルエーテル系モノマーについては、以下に示す方法を用いて重合することにより、所望の粘度の重合物が得られる。重合の開始には、ブレンステッド酸類、ルイス酸類または有機金属化合物類に対して、水、アルコール類、フェノール類、アセタール類またはビニルエーテル類とカルボン酸との付加物を組み合わせたものを使用することができる。ブレンステッド酸類としては、例えばフッ化水素酸、塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等が挙げられる。ルイス酸類としては、例えば三フッ化ホウ素、三塩化アルミニウム、三臭化アルミニウム、四塩化スズ、二塩化亜鉛、塩化第二鉄等が挙げられ、これらのルイス酸類の中では、特に三フッ化ホウ素が好適である。また、有機金属化合物としては、例えばジエチル塩化アルミニウム、エチル塩化アルミニウム、ジエチル亜鉛等が挙げられる。
【0151】
これらと組み合わせる水、アルコール類、フェノール類、アセタール類またはビニルエーテル類とカルボン酸との付加物は任意のものを選択することができる。ここで、アルコール類としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、各種ペンタノール、各種ヘキサノール、各種ヘプタノール、各種オクタノール等の炭素数1〜20の飽和脂肪族アルコール、アリルアルコール等の炭素数3〜10の不飽和脂肪族アルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールのモノエーテル等が挙げられる。ビニルエーテル類とカルボン酸との付加物を使用する場合のカルボン酸としては、例えば酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、イソ酪酸、n−吉草酸、イソ吉草酸、2−メチル酪酸、ピバリン酸、n−カプロン酸、2,2−ジメチル酪酸、2−メチル吉草酸、3−メチル吉草酸、4−メチル吉草酸、エナント酸、2−メチルカプロン酸、カプリル酸、2−エチルカプロン酸、2−n−プロピル吉草酸、n−ノナン酸、3,5,5−トリメチルカプロン酸、カプリル酸、ウンデカン酸等が挙げられる。
【0152】
また、ビニルエーテル類とカルボン酸との付加物を使用する場合のビニルエーテル類は重合に用いるものと同一のものであってもよいし、異なるものであってもよい。このビニルエーテル類と該カルボン酸との付加物は、両者を混合して0〜100℃程度の温度で反応させることにより得られ、蒸留等により分離し、反応に用いることができるが、そのまま分離することなく反応に用いることもできる。
ポリマーの重合開始末端は、水、アルコール類、フェノール類を使用した場合は水素が結合し、アセタール類を使用した場合は水素または使用したアセタール類から一方のアルコキシ基が脱離したものとなる。またビニルエーテル類とカルボン酸との付加物を使用した場合には、ビニルエーテル類とカルボン酸との付加物からカルボン酸部分由来のアルキルカルボニルオキシ基が脱離したものとなる。
【0153】
一方、停止末端は、水、アルコール類、フェノール類、アセタール類を使用した場合には、アセタール、オレフィンまたはアルデヒドとなる。またビニルエーテル類とカルボン酸との付加物の場合は、ヘミアセタールのカルボン酸エステルとなる。このようにして得られたポリマーの末端は、公知の方法により所望の基に変換することができる。この所望の基としては、例えば飽和の炭化水素、エーテル、アルコール、ケトン、ニトリル、アミド等の残基を挙げることができるが、飽和の炭化水素、エーテルおよびアルコールの残基が好ましい。
【0154】
上記ポリビニルエーテル系化合物は、炭素/酸素モル比を調整することにより、不飽和フッ化炭化水素化合物(I)を含有する作動媒体との相溶性を調整できる。本発明においては、該炭素/酸素モル比を調整することにより、上記(O−3)の非相溶性の特性を達成するポリビニルエーテル系化合物を得る。該モル比の調整については、原料モノマーの炭素/酸素モル比を調節することにより、該モル比が前記範囲にあるポリマーを製造することができる。すなわち、炭素/酸素モル比が大きいモノマーの比率が大きければ、炭素/酸素モル比の大きなポリマーが得られ、炭素/酸素モル比の小さいモノマーの比率が大きければ、炭素/酸素モル比の小さなポリマーが得られる。
【0155】
また、炭素/酸素モル比の調整は、上記ビニルエーテル系モノマーの重合方法で示したように、開始剤として使用する水、アルコール類、フェノール類、アセタール類およびビニルエーテル類とカルボン酸との付加物と、モノマー類との組合せによっても可能である。重合するモノマーより炭素/酸素モル比が大きいアルコール類、フェノール類等を開始剤として使用すれば、原料モノマーより炭素/酸素モル比の大きなポリマーが得られ、一方、メタノールやメトキシエタノール等の炭素/酸素モル比の小さなアルコール類を用いれば、原料モノマーより炭素/酸素モル比の小さなポリマーが得られる。
【0156】
さらに、ビニルエーテル系モノマーとオレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーとを共重合させる場合には、ビニルエーテル系モノマーの炭素/酸素モル比より炭素/酸素モル比の大きなポリマーが得られるが、その割合は、使用するオレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーの比率やその炭素数により調節することができる。
【0157】
(ポリアルキレングリコール系冷凍機油)
ポリアルキレングリコール系冷凍機油としては、炭素数2〜4のアルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド等)を、水や水酸化アルカリを開始剤として重合させる方法等により得られたものが挙げられる。また、ポリアルキレングリコールの水酸基をエーテル化したものであってもよい。ポリアルキレングリコール系冷凍機油中のオキシアルキレン単位は、1分子中において同一であってもよく、2種以上のオキシアルキレン単位が含まれていてもよい。1分子中に少なくともオキシプロピレン単位が含まれることが好ましい。
【0158】
具体的なポリオキシアルキレングリコール系冷凍機油としては、例えば次の一般式(4)で表される化合物が挙げられる。
101−[(OR102−OR103 …(4)
(式中、R101は水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアシル基または結合部2〜6個を有する炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、R102は炭素数2〜4のアルキレン基、R103は水素原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数2〜10のアシル基、lは1〜6の整数、kはk×lの平均値が6〜80となる数を示す。)
【0159】
上記一般式(4)において、R101、R103におけるアルキル基は直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。該アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。
【0160】
また、R101、R103における該アシル基のアルキル基部分は直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。該アシル基のアルキル基部分の具体例としては、上記アルキル基の具体例として挙げた炭素数1〜9の種々の基を同様に挙げることができる。
【0161】
101およびR103が、いずれもアルキル基またはアシル基である場合には、R101とR103は同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
さらにlが2以上の場合には、1分子中の複数のR103は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0162】
101が結合部位2〜6個を有する炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基である場合、この脂肪族炭化水素基は鎖状のものであってもよいし、環状のものであってもよい。結合部位2個を有する脂肪族炭化水素基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基等が挙げられる。また、結合部位3〜6個を有する脂肪族炭化水素基としては、例えば、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール;1,2,3−トリヒドロキシシクロヘキサン;1,3,5−トリヒドロキシシクロヘキサン等の多価アルコールから水酸基を除いた残基を挙げることができる。
【0163】
上記一般式(4)中のR102は炭素数2〜4のアルキレン基であり、繰り返し単位のオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基が挙げられる。1分子中のオキシアルキレン基は同一であってもよいし、2種以上のオキシアルキレン基が含まれていてもよいが、1分子中に少なくともオキシプロピレン単位を含むものが好ましく、特にオキシアルキレン単位中に50モル%以上のオキシプロピレン単位を含むものが好適である。
【0164】
上記一般式(4)中のlは1〜6の整数で、R101の結合部位の数に応じて定められる。例えばR101がアルキル基やアシル基の場合、lは1であり、R101が結合部位2、3、4、5および6個を有する脂肪族炭化水素基である場合、lはそれぞれ2、3、4、5および6となる。また、kはk×lの平均値が6〜80となる数であり、k×lの平均値が前記範囲を逸脱すると本発明の目的は十分に達せられないことがある。
【0165】
ポリアルキレングリコールの構造は、下記一般式(5)で表されるポリプロピレングリコールジメチルエーテル、ならびに下記一般式(6)で表されるポリエチレンポリプロピレングリコールジメチルエーテルが経済性および前述の効果の点で好適であり、また、下記一般式(7)で表されるポリプロピレングリコールモノブチルエーテル、さらには下記一般式(8)で表されるポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、下記一般式(9)で表されるポリエチレンポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、下記一般式(10)で表されるポリエチレンポリプロピレングリコールモノブチルエーテル、下記一般式(11)で表されるポリプロピレングリコールジアセテートが、経済性等の点で好適である。
【0166】
CHO−(CO)−CH …(5)
(式中、hは6〜80の数を表す。)
CHO−(CO)−(CO)−CH …(6)
(式中、iおよびjはそれぞれ1以上であり、かつiとjとの合計が6〜80となる数を表す。)
O−(CO)−H …(7)
(式中、hは6〜80の数を示す。)
CHO−(CO)−H …(8)
(式中、hは6〜80の数を表す。)
【0167】
CHO−(CO)−(CO)−H …(9)
(式中、iおよびjはそれぞれ1以上であり、かつiとjとの合計が6〜80となる数を表す。)
O−(CO)−(CO)−H …(10)
(式中、iおよびjはそれぞれ1以上であり、かつiとjとの合計が6〜80となる数を表す。)
CHCOO−(CO)−COCH …(11)
(式中、hは6〜80の数を表す。)
このポリオキシアルキレングリコール類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0168】
<炭化水素系冷凍機油>
炭化水素系冷凍機油としては、アルキルベンゼンを用いることができる。
【0169】
アルキルベンゼンとしては、フッ化水素等の触媒を用いてプロピレンの重合物とベンゼンを原料として合成される分岐アルキルベンゼン、また同触媒を用いてノルマルパラフィンとベンゼンを原料として合成される直鎖アルキルベンゼンが使用できる。アルキル基の炭素数は、潤滑油基油として好適な粘度とする観点から、好ましくは1〜30、より好ましくは4〜20である。また、アルキルベンゼン1分子が有するアルキル基の数は、アルキル基の炭素数によるが粘度を設定範囲内とするために、好ましくは1〜4、より好ましくは1〜3である。
【0170】
これらの冷凍機油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの冷凍機油は、作動媒体と混合して熱サイクルシステム用組成物として使用することが好ましい。このとき、冷凍機油の配合割合は、熱サイクルシステム用組成物全量に対して5〜60質量%が望ましく、10〜50質量%がより好ましい。
【0171】
<その他任意成分>
熱サイクルシステム用組成物は、その他、本発明の効果を阻害しない範囲で公知の任意成分を含有できる。この任意成分としては、例えば、熱サイクルシステム用組成物中において冷凍機油を安定して含有させる添加剤が挙げられ、このような添加剤として、銅不活性化剤、極圧剤、油性剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、消泡剤、重合防止剤、乾燥剤等が挙げられる。各添加剤は必要に応じて添加すればよく、個々の添加剤の配合量は、熱サイクルシステム用組成物100質量%中に、例えば0.01質量%以上5質量%以下になるように設定すればよい。なお、酸捕捉剤の配合量および酸化防止剤の配合量は、0.05質量%以上5質量%以下の範囲が好ましい。
【0172】
また、銅不活性化剤としては、ベンゾトリアゾールやその誘導体等を用いることができる。消泡剤としては、ケイ素化合物を用いることができる。油性剤としては、高級アルコール類を用いることができる。
【0173】
なお、極圧剤には、リン酸エステル類を含むものを用いることができる。リン酸エステル類としては、リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性リン酸エステルおよび酸性亜リン酸エステル等を用いることができる。また、極圧剤には、リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性リン酸エステルおよび酸性亜リン酸エステルのアミン塩を含むものを用いることもできる。
【0174】
リン酸エステルには、トリアリールホスフェート、トリアルキルホスフェート、トリアルキルアリールホスフェート、トリアリールアルキルホスフェート、トリアルケニルホスフェート等がある。さらに、リン酸エステルを具体的に列挙すると、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、ベンジルジフェニルホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、エチルジブチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、エチルフェニルジフェニルホスフェート、ジエチルフェニルフェニルホスフェート、プロピルフェニルジフェニルホスフェート、ジプロピルフェニルフェニルホスフェート、トリエチルフェニルホスフェート、トリプロピルフェニルホスフェート、ブチルフェニルジフェニルホスフェート、ジブチルフェニルフェニルホスフェート、トリブチルフェニルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリデシルホスフェート、トリラウリルホスフェート、トリミリスチルホスフェート、トリパルミチルホスフェート、トリステアリルホスフェート、トリオレイルホスフェート等がある。
【0175】
また、亜リン酸エステルの具体例としては、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、トリ(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリステアリルホスファイト、トリオレイルホスファイト等がある。
【0176】
また、酸性リン酸エステルの具体例としては、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、テトラコシルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、トリデシルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、イソステアリルアシッドホスフェート等がある。
【0177】
また、酸性亜リン酸エステルの具体例としては、ジブチルハイドロゲンホスファイト、ジラウリルハイドロゲンホスファイト、ジオレイルハイドゲンホスファイト、ジステアリルハイドロゲンホスファイト、ジフェニルハイドロゲンホスファイト等がある。以上のリン酸エステル類の中で、オレイルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェートが好適である。
【0178】
また、リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性リン酸エステルまたは酸性亜リン酸エステルのアミン塩に用いられるアミンのうちモノ置換アミンの具体例としては、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ベンジルアミン等がある。また、ジ置換アミンの具体例としては、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジラウリルアミン、ジステアリルアミン、ジオレイルアミン、ジベンジルアミン、ステアリル・モノエタノールアミン、デシル・モノエタノールアミン、ヘキシル・モノプロパノールアミン、ベンジル・モノエタノールアミン、フェニル・モノエタノールアミン、トリル・モノプロパノール等がある。また、トリ置換アミンの具体例としては、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリシクロヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリラウリルアミン、トリステアリルアミン、トリオレイルアミン、トリベンジルアミン、ジオレイル・モノエタノールアミン、ジラウリル・モノプロパノールアミン、ジオクチル・モノエタノールアミン、ジヘキシル・モノプロパノールアミン、ジブチル・モノプロパノールアミン、オレイル・ジエタノールアミン、ステアリル・ジプロパノールアミン、ラウリル・ジエタノールアミン、オクチル・ジプロパノールアミン、ブチル・ジエタノールアミン、ベンジル・ジエタノールアミン、フェニル・ジエタノールアミン、トリル・ジプロパノールアミン、キシリル・ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン等がある。
【0179】
また、上記以外の極圧剤を添加することも可能である。例えば、モノスルフィド類、ポリスルフィド類、スルホキシド類、スルホン類、チオスルフィネート類、硫化油脂、チオカーボネート類、チオフェン類、チアゾール類、メタンスルホン酸エステル類等の有機硫黄化合物系の極圧剤、チオリン酸トリエステル類等のチオリン酸エステル系の極圧剤、高級脂肪酸、ヒドロキシアリール脂肪酸類、多価アルコールエステル類、アクリル酸エステル類等のエステル系の極圧剤、塩素化炭化水素類、塩素化カルボン酸誘導体等の有機塩素系の極圧剤、フッ素化脂肪族カルボン酸類、フッ素化エチレン樹脂、フッ素化アルキルポリシロキサン類、フッ素化黒鉛等の有機フッ素化系の極圧剤、高級アルコール等のアルコール系の極圧剤、ナフテン酸塩類(ナフテン酸鉛等)、脂肪酸塩類(脂肪酸鉛等)、チオリン酸塩類(ジアルキルジチオリン酸亜鉛等)、チオカルバミン酸塩類、有機モリブデン化合物、有機スズ化合物、有機ゲルマニウム化合物、ホウ酸エステル等の金属化合物系の極圧剤を用いることが可能である。
【0180】
また、酸化防止剤には、フェノール系の酸化防止剤やアミン系の酸化防止剤を用いることができる。フェノール系の酸化防止剤には、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(DBPC)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール等がある。また、アミン系の酸化防止剤には、N,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、N,N’−ジ−フェニル−p−フェニレンジアミン等がある。なお、酸化防止剤には、酸素を捕捉する酸素捕捉剤も含まれる。
【0181】
酸捕捉剤には、フェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキレングリコールグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキシド、α−オレフィンオキシド、エポキシ化大豆油等のエポキシ化合物を用いることができる。なお、これらの中で相溶性の観点から好ましい酸捕捉剤は、フェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキレングリコールグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキシド、α−オレフィンオキシドである。アルキルグリシジルエーテルのアルキル基およびアルキレングリコールグリシジルエーテルのアルキレン基は、分岐を有していてもよい。これらの炭素数は、3以上30以下であればよく、4以上24以下であればより好ましく、6以上16以下であればさらに好ましい。また、α−オレフィンオキシドは、全炭素数が4以上50以下であればよく、4以上24以下であればより好ましく、6以上16以下であればさらに好ましい。酸捕捉剤は、1種だけを用いてもよく、複数種類を併用することも可能である。
【0182】
また、重合防止剤には、4−メトキシ−1−ナフトール、ヒドロキノン、ヒドロキノンメチルエーテル、ジメチル−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ベンゾトリアゾール等の重合防止剤を用いることができる。
【0183】
また、本実施形態の熱サイクルシステム用組成物には、必要に応じて、耐荷重添加剤、塩素捕捉剤、清浄分散剤、粘度指数向上剤、防錆剤、安定剤、腐食防止剤および流動点降下剤等を添加することも可能である。個々の添加剤の配合量は、熱サイクルシステム用組成物100質量%中に、例えば0.01質量%以上5質量%以下であればよく、0.05質量%以上2質量%以下であることが好ましい。
【0184】
さらに、熱サイクルシステム用組成物に配合する任意成分としては、例えば、漏れ検出物質が挙げられ、この任意に含有する漏れ検出物質としては、紫外線蛍光染料、臭気ガスや臭いマスキング剤等が挙げられる。
【0185】
紫外線蛍光染料としては、米国特許第4249412号明細書、特表平10−502737号公報、特表2007−511645号公報、特表2008−500437号公報、特表2008−531836号公報に記載されたもの等、従来、ハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、熱サイクルシステムに用いられる公知の紫外線蛍光染料が挙げられる。
【0186】
臭いマスキング剤としては、特表2008−500437号公報、特表2008−531836号公報に記載されたもの等、従来からハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、熱サイクルシステムに用いられる公知の香料が挙げられる。
【0187】
漏れ検出物質を用いる場合には、作動媒体への漏れ検出物質の溶解性を向上させる可溶化剤を用いてもよい。
【0188】
可溶化剤としては、特表2007−511645号公報、特表2008−500437号公報、特表2008−531836号公報に記載されたもの等が挙げられる。
【0189】
熱サイクルシステム用組成物における、漏れ検出物質の含有量は、本発明の効果を著しく低下させない範囲であればよく、作動媒体100質量部に対して、2質量部以下が好ましく、0.5質量部以下がより好ましい。
【0190】
[熱サイクルシステム]
本発明の熱サイクルシステムは、本発明の熱サイクルシステム用組成物を用いたシステムである。本発明の熱サイクルシステムは、凝縮器で得られる温熱を利用するヒートポンプシステムであってもよく、蒸発器で得られる冷熱を利用する冷凍サイクルシステムであってもよい。
【0191】
本発明の熱サイクルシステムとして、具体的には、冷凍・冷蔵機器、空調機器、発電システム、熱輸送装置および二次冷却機等が挙げられる。なかでも、本発明の熱サイクルシステムは、より高温の作動環境でも効率的に熱サイクル性能を発揮できるため、屋外等に設置されることが多い空調機器として用いられることが好ましい。また、本発明の熱サイクルシステムは、冷凍・冷蔵機器として用いられることも好ましい。
【0192】
空調機器として、具体的には、ルームエアコン、パッケージエアコン(店舗用パッケージエアコン、ビル用パッケージエアコン、設備用パッケージエアコン等)、ガスエンジンヒートポンプ、列車用空調装置、自動車用空調装置等が挙げられる。
冷凍・冷蔵機器として、具体的には、ショーケース(内蔵型ショーケース、別置型ショーケース等)、業務用冷凍・冷蔵庫、自動販売機、製氷機等が挙げられる。
【0193】
発電システムとしては、ランキンサイクルシステムによる発電システムが好ましい。
発電システムとして、具体的には、蒸発器において地熱エネルギー、太陽熱、50〜200℃程度の中〜高温度域廃熱等により作動媒体を加熱し、高温高圧状態の蒸気となった作動媒体を膨張機にて断熱膨張させ、該断熱膨張によって発生する仕事によって発電機を駆動させ、発電を行うシステムが例示される。
【0194】
また、本発明の熱サイクルシステムは、熱輸送装置であってもよい。熱輸送装置としては、潜熱輸送装置が好ましい。
潜熱輸送装置としては、装置内に封入された作動媒体の蒸発、沸騰、凝縮等の現象を利用して潜熱輸送を行うヒートパイプおよび二相密閉型熱サイフォン装置が挙げられる。ヒートパイプは、半導体素子や電子機器の発熱部の冷却装置等、比較的小型の冷却装置に適用される。二相密閉型熱サイフォンは、ウィッグを必要とせず構造が簡単であることから、ガス−ガス型熱交換器、道路の融雪促進および凍結防止等に広く利用される。
【0195】
本発明の熱サイクルシステム用組成物を用いた本発明の熱サイクルシステムによれば、例えば、上記図1に示される冷凍サイクルシステム10において、従来から空調機器等で一般的に使用されているR410A(HFC−32とHFC−125の質量比1:1の混合物)を用いた場合に比べて、地球温暖化係数を格段に低く抑えながら、QとCOPをともに高いレベル、すなわち、R410Aと同等またはそれ以上のレベルに設定することが可能である。
【0196】
さらに、用いる熱サイクルシステム用組成物が含有する不飽和フッ化炭化水素化合物(I)を含む作動媒体の温度勾配を一定値以下に抑える組成とすることも可能であり、その場合、圧力容器から冷凍空調機器へ充てんされる際の組成変化や冷凍空調機器からの冷媒漏えいが生じた場合の冷凍空調機器内の冷媒組成の変化を低いレベルに抑えることができる。
【0197】
また、本発明の熱サイクルシステム用組成物によれば、不飽和フッ化炭化水素化合物(I)を含む作動媒体と共に上記(O−1)〜(O−3)の特性を有する冷凍機油を含有することで、圧縮機内での粘度低下が殆どなく、常に十分な摺動耐力を有することから摺動部の信頼性を高めることが可能であり、よって該組成物を用いた熱サイクルシステムは、従来よりも作動媒体の効率的な循環状態を維持でき、システムの安定した稼働が可能である。
【0198】
なお、この熱サイクルシステム内においては、上記したように、本発明で使用する作動媒体が炭素−炭素二重結合を有する不飽和フッ化炭化水素化合物(I)を含有するため、システム運転時において作動媒体が分解して酸が発生する可能性がある。本発明では、この作動媒体と組み合わせて使用する冷凍機油において、酸発生を抑制するような構成としているが、さらに何らかの原因で酸が発生した場合においても、熱サイクルシステムを安定的に運転できる構成とすることが好ましい。
【0199】
すなわち、上記熱サイクルシステム用組成物と接触する接触部が、エンジニアリングプラスチック、有機膜、および無機膜から選ばれる少なくとも1種から構成されていることが好ましい。この接触部としては、特に、圧縮機構におけるその摺動部分や熱サイクルシステム内部のシール部分等が保護すべきものとして挙げられる。より具体的には、圧縮機の摺動部に設けられる摺動部材(軸受等)、圧縮機の隙間での作動媒体の漏れを防止するためのシール部材、電動機に配設される絶縁材料等が挙げられる。
【0200】
ここで使用するエンジニアリングプラスチックは、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリアセタール樹脂、およびフッ素樹脂から選ばれる少なくとも1種の材料であることが好ましい。
【0201】
また、ここで使用する有機膜は、ポリテトラフルオロエチレンコーティング膜、ポリイミドコーティング膜、ポリアミドイミドコーティング膜、およびポリヒドロキシエーテル樹脂とポリサルホン系樹脂からなる樹脂と架橋剤を含む樹脂塗料を用いて形成された熱硬化型絶縁膜、から選ばれる少なくとも1種の材料であることが好ましい。
【0202】
また、ここで使用する無機膜は、黒鉛膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、スズ膜、クロム膜、ニッケル膜、およびモリブデン膜から選ばれる少なくとも1種の材料であることが好ましい。
【0203】
なお、上記接触部が摺動部材である場合には例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドの何れかを用いることが好ましく、シール部である場合には例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンスルフィド、クロロプレンゴム、シリコンゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、およびヒドリンゴムから選ばれる少なくとも1種の材料であることが好ましい。
【0204】
また、電動機の絶縁材料としては、ステータの巻き線の絶縁被覆材料や絶縁フィルム等がある。これら絶縁被覆材料および絶縁フィルムは、高温高圧の作動媒体に接触した場合でも、作動媒体により物理的や化学的に変性を受けない樹脂で、特に耐溶剤性、耐抽出性、熱的・化学的安定性、耐発泡性を有する樹脂が用いられている。
【0205】
具体的に、ステータの巻き線の絶縁被覆材料には、ポリビニルフォルマール、ポリエステル、THEIC変性ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリエステルアミドイミドの何れかが用いられている。なお、好ましいのは、上層がポリアミドイミド、下層がポリエステルイミドの二重被覆線である。また、上記物質以外に、ガラス転移温度が120℃以上のエナメル被覆を用いてもよい。
【0206】
また、絶縁フィルムには、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリブチレンテフタレートの何れかが用いられている。なお、絶縁フィルムに、発泡材料が冷凍サイクルの作動媒体と同じ発泡フィルムを用いることも可能である。インシュレーター等の巻き線を保持する絶縁材料には、ポリエーテルエーテルケトンまたは液晶ポリマーが用いられている。ワニスには、エポキシ樹脂が用いられている。
【0207】
なお、このようにして熱サイクルシステム用組成物と樹脂部材との接触面積が増大した熱サイクルシステムにおいては、冷凍機油による樹脂部材の膨潤/収縮変形による不具合の発生が懸念されるが、上記(O−5)のようにして冷凍機油のアニリン点を所定の範囲とすることで、このような不具合に対応することができる。
【0208】
なお、熱サイクルシステムの稼働に際しては、水分の混入や、酸素等の不凝縮性気体の混入による不具合の発生を避けるために、これらの混入を抑制する手段を設けることが好ましい。
【0209】
熱サイクルシステム内に水分が混入すると、特に低温で使用される際に問題が生じる場合がある。例えば、キャピラリーチューブ内での氷結、作動媒体や冷凍機油の加水分解、サイクル内で発生した酸成分による材料劣化、コンタミナンツの発生等の問題が発生する。特に、冷凍機油がポリグリコール系冷凍機油、ポリオールエステル系冷凍機油等である場合は、吸湿性が極めて高く、また、加水分解反応を生じやすく、冷凍機油としての特性が低下し、圧縮機の長期信頼性を損なう大きな原因となる。したがって、冷凍機油の加水分解を抑えるためには、熱サイクルシステム内の水分濃度を制御する必要がある。
【0210】
熱サイクルシステム内の水分濃度を制御する方法としては、乾燥剤(シリカゲル、活性アルミナ、ゼオライト等)等の水分除去手段を用いる方法が挙げられる。乾燥剤は、液状の熱サイクルシステム用組成物と接触させることが、脱水効率の点で好ましい。例えば、凝縮器12の出口、または蒸発器14の入口に乾燥剤を配置して、熱サイクルシステム用組成物と接触させることが好ましい。
【0211】
乾燥剤としては、乾燥剤と熱サイクルシステム用組成物との化学反応性、乾燥剤の吸湿能力の点から、ゼオライト系乾燥剤が好ましい。
【0212】
ゼオライト系乾燥剤としては、従来の鉱物系冷凍機油に比べて吸湿量の高い冷凍機油を用いる場合には、吸湿能力に優れる点から、下式(C)で表される化合物を主成分とするゼオライト系乾燥剤が好ましい。
2/nO・Al・xSiO・yHO …(C)
ただし、Mは、Na、K等の1族の元素またはCa等の2族の元素であり、nは、Mの原子価であり、x、yは、結晶構造にて定まる値である。Mを変化させることにより細孔径を調整できる。
【0213】
乾燥剤の選定においては、細孔径および破壊強度が重要である。
熱サイクルシステム用組成物が含有する作動媒体や冷凍機油の分子径よりも大きい細孔径を有する乾燥剤を用いた場合、作動媒体や冷凍機油が乾燥剤中に吸着され、その結果、作動媒体や冷凍機油と乾燥剤との化学反応が生じ、不凝縮性気体の生成、乾燥剤の強度の低下、吸着能力の低下等の好ましくない現象を生じることとなる。
【0214】
したがって、乾燥剤としては、細孔径の小さいゼオライト系乾燥剤を用いることが好ましい。特に、細孔径が3.5オングストローム以下である、ナトリウム・カリウムA型の合成ゼオライトが好ましい。作動媒体や冷凍機油の分子径よりも小さい細孔径を有するナトリウム・カリウムA型合成ゼオライトを適用することによって、作動媒体や冷凍機油を吸着することなく、熱サイクルシステム内の水分のみを選択的に吸着除去できる。言い換えると、作動媒体や冷凍機油の乾燥剤への吸着が起こりにくいことから、熱分解が起こりにくくなり、その結果、熱サイクルシステムを構成する材料の劣化やコンタミナンツの発生を抑制できる。
【0215】
ゼオライト系乾燥剤の大きさは、小さすぎると熱サイクルシステムの弁や配管細部への詰まりの原因となり、大きすぎると乾燥能力が低下するため、約0.5〜5mmが好ましい。形状としては、粒状または円筒状が好ましい。
【0216】
ゼオライト系乾燥剤は、粉末状のゼオライトを結合剤(ベントナイト等。)で固めることにより任意の形状とすることができる。ゼオライト系乾燥剤を主体とするかぎり、他の乾燥剤(シリカゲル、活性アルミナ等。)を併用してもよい。
熱サイクルシステム用組成物に対するゼオライト系乾燥剤の使用割合は、特に限定されない。
【0217】
さらに、熱サイクルシステム内に不凝縮性気体が混入すると、凝縮器や蒸発器における熱伝達の不良、作動圧力の上昇という悪影響をおよぼすため、極力混入を抑制する必要がある。特に、不凝縮性気体の一つである酸素は、作動媒体や冷凍機油と反応し、分解を促進する。
【0218】
不凝縮性気体濃度は、作動媒体の気相部において、作動媒体に対する容積割合で1.5体積%以下が好ましく、0.5体積%以下が特に好ましい。
【0219】
以上説明した本発明の熱サイクルシステムにあっては、本発明の熱サイクルシステム用組成物を用いることで、潤滑特性が良好で、地球温暖化への影響を抑えつつ、実用上充分なサイクル性能が得られるとともに、温度勾配に係る問題も殆どない。
【産業上の利用可能性】
【0220】
本発明の熱サイクルシステム用組成物および該組成物を用いた熱サイクルシステムは、冷凍・冷蔵機器(内蔵型ショーケース、別置型ショーケース、業務用冷凍・冷蔵庫、自動販売機、製氷機等)、空調機器(ルームエアコン、店舗用パッケージエアコン、ビル用パッケージエアコン、設備用パッケージエアコン、ガスエンジンヒートポンプ、列車用空調装置、自動車用空調装置等)、発電システム(廃熱回収発電等)、熱輸送装置(ヒートパイプ等)に利用できる。
【符号の説明】
【0221】
10…冷凍サイクルシステム、11…圧縮機、12…凝縮器、13…膨張弁、14…蒸発器、15,16…ポンプ
図1
図2