特許第6354650号(P6354650)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354650
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】塗工液及び積層多孔質フィルム
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20180702BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20180702BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20180702BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20180702BHJP
   B32B 5/22 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   C09D201/00
   C09D7/61
   H01M2/16 P
   H01M2/16 M
   H01M2/16 L
   B32B27/32 Z
   B32B5/22
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-89025(P2015-89025)
(22)【出願日】2015年4月24日
(62)【分割の表示】特願2014-532146(P2014-532146)の分割
【原出願日】2014年1月27日
(65)【公開番号】特開2015-140439(P2015-140439A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2017年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113000
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 亨
(74)【代理人】
【識別番号】100151909
【弁理士】
【氏名又は名称】坂元 徹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 純次
(72)【発明者】
【氏名】菅原 健一朗
(72)【発明者】
【氏名】千原 正照
【審査官】 佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−070006(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/061936(WO,A1)
【文献】 特表2014−500589(JP,A)
【文献】 特表2012−510543(JP,A)
【文献】 特開平11−315472(JP,A)
【文献】 特開2005−268006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/16
B32B 1/00− 43/00
C09D 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラー、及びバインダーを含む多孔質層であって、
前記フィラーはアルミナであり、
前記フィラーの式(1)で定義される親水性パラメータAが0.35〜0.60である多孔質層。
親水性パラメータA=BET/BET・・・・・(1)
BET:フィラーに水蒸気を吸着させて測定される1次吸着等温線から2次吸着等温線を差引いて得られる差吸着等温線から、BET法を用いて算出されたフィラーの比表面積BET:フィラーに窒素を吸着させて測定される吸着等温線から、BET法を用いて算出されたフィラーの比表面積
【請求項2】
前記アルミナが、α−アルミナである請求項1に記載の多孔質層。
【請求項3】
前記バインダーが、水溶性高分子である請求項1又は2に記載の多孔質層。
【請求項4】
前記バインダーが、カルボキシメチルセルロース、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、澱粉、ポリビニルアルコール、アクリル酸及びアルギン酸から選ばれる1種以上である請求項1又は2に記載の多孔質層。
【請求項5】
バインダー100重量部に対して、前記フィラーが100重量部以上10000重量部以下である請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質層。
【請求項6】
ポリオレフィン基材多孔質フィルムと、フィラー及びバインダーを含む多孔質層からなる耐熱層とが積層された積層多孔質フィルムであって、
前記フィラーはアルミナであり、
前記フィラーの式(1)で定義される親水性パラメータAが0.35〜0.60である積層多孔質フィルム。
親水性パラメータA=BET/BET・・・・・(1)
BET:フィラーに水蒸気を吸着させて測定される1次吸着等温線から2次吸着等温線を差引いて得られる差吸着等温線から、BET法を用いて算出されたフィラーの比表面積BET:フィラーに窒素を吸着させて測定される吸着等温線から、BET法を用いて算出されたフィラーの比表面積
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の多孔質層、又は、請求項6に記載の積層多孔質フィルムを含む非水電解質二次電池。
【請求項8】
フィラー、バインダー及び溶剤を含む塗工液の製造方法であって、
前記フィラーはアルミナであり、
前記フィラーの式(1)で定義される親水性パラメータAが0.35〜0.60であり、
下記(a)〜(c)の工程を含む塗工液の製造方法。
(a)プロトン性溶媒と、メディアン径が1〜10μmのフィラーとを混合して、フィラー濃度が5%〜50%であるスラリー(1)を調製する工程
(b)平均粒径0.1〜2.0mmのビーズを75〜90%充填したビーズミルで、液温0〜50℃、滞留時間1〜30分の条件で前記スラリー(1)を湿式粉砕して、スラリー(2)を作成する工程
(c)スラリー(2)とバインダーとを混合する工程
親水性パラメータA=BET/BET・・・・・(1)
BET:フィラーに水蒸気を吸着させて測定される1次吸着等温線から2次吸着等温線を差引いて得られる差吸着等温線から、BET法を用いて算出されたフィラーの比表面積
BET:フィラーに窒素を吸着させて測定される吸着等温線から、BET法を用いて算出されたフィラーの比表面積
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工液及び積層多孔質フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液二次電池、特にリチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いため、パーソナルコンピュータ、携帯電話、携帯情報端末などに用いる電池として広く使用されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池は、エネルギー密度が高いため、電池の破損あるいは電池を用いている機器の破損等により内部短絡や外部短絡が生じた場合には、大電流が流れて電池が激しく発熱する。
そのため、非水電解液二次電池には、一定以上の発熱を防止する機能が求められている。そのような機能を有する非水電解液二次電池として、シャットダウン機能を有するセパレータを含む電池が知られている。シャットダウン機能とは、異常発熱の際に、セパレータにより正−負極間のイオンの通過を遮断する機能である。この機能によって、さらなる発熱を防止できる。
シャットダウン機能を有するセパレータとしては、異常発熱時に溶融する材質からなる多孔質フィルムが挙げられる。該セパレータを有する電池は、異常発熱時に前記多孔質フィルムが溶融して無孔化することによって、イオンの通過を遮断し、さらなる発熱を抑制することができる。
【0004】
このようなシャットダウン機能を有するセパレータとしては例えば、ポリオレフィンを主成分とする多孔質フィルムが用いられる。該ポリオレフィン多孔質フィルムからなるセパレータは、電池の異常発熱時には、約80〜180℃で溶融して無孔化することでイオンの通過を遮断することにより、さらなる発熱を抑制する。しかしながら、発熱が激しい場合などには、ポリオレフィン多孔質フィルムからなるセパレータが収縮や破膜すること等により、正極と負極が直接接触して、短絡を起こすおそれがある。このように、ポリオレフィン多孔質フィルムからなるセパレータは、形状安定性が不十分であり、短絡による異常発熱を抑制できない場合があった。
【0005】
高温での形状安定性に優れた非水電解液二次電池用セパレータがいくつか提案されている。その一つとして、微粒子のフィラーを含む耐熱層と、ポリオレフィンを主体とする多孔質フィルムとが積層されている積層多孔質フィルムからなる非水電解液二次電池用セパレータが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−227972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献に記載された非水電解液二次電池には、サイクル特性の向上が求められている。
かかる状況下、本発明の目的は、サイクル特性に優れる非水電解液二次電池、前記二次電池用セパレータとして好適な耐熱層を有する積層多孔質フィルム、及び前記耐熱層を形成するための塗工液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> フィラー、バインダー及び溶剤を含む塗工液であって、該フィラーの式(1)で定義される親水性パラメータAが0.35〜0.65である塗工液。
親水性パラメータA=BET/BET・・・・・(1)
BET:フィラーに水蒸気を吸着させて測定される1次吸着等温線から2次吸着等温線を差引いて得られる差吸着等温線から、BET法を用いて算出されたフィラーの比表面積
BET:フィラーに窒素を吸着させて測定される吸着等温線から、BET法を用いて算出されたフィラーの比表面積
<2> 前記フィラーが、無機酸化物からなる<1>に記載の塗工液。
<3> 前記無機酸化物が、α−アルミナである<2>に記載の塗工液。
<4> 前記バインダーが、水溶性高分子である<1>に記載の塗工液。
<5> 前記バインダーが、カルボキシメチルセルロース、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、澱粉、ポリビニルアルコール、アクリル酸及びアルギン酸から選ばれる1種以上である<1>に記載の塗工液。
<6> バインダー100重量部に対して、前記フィラーが100重量部以上10000重量部以下である<1>に記載の塗工液。
<7> 前記溶剤がプロトン性溶媒である<1>に記載の塗工液。
<8> 前記溶剤が、水、エタノール、イソプロパノール、1−プロパノール、t−ブチルアルコールから選ばれる1種類以上である<1>に記載の塗工液。
<9> ポリオレフィン基材多孔質フィルムと、フィラー及びバインダーを含む多孔質層からなる耐熱層とが積層された積層多孔質フィルムであって、該フィラーの式(1)で定義される親水性パラメータAが0.35〜0.65である積層多孔質フィルム。
親水性パラメータA=BET/BET・・・・・(1)
BET:フィラーに水蒸気を吸着させて測定される1次吸着等温線から2次吸着等温線を差引いて得られる差吸着等温線から、BET法を用いて算出されたフィラーの比表面積
BET:フィラーに窒素を吸着させて測定される吸着等温線から、BET法を用いて算出されたフィラーの比表面積
<10> <9>に記載の積層多孔質フィルムを含む非水電解質二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の積層多孔質フィルムは、ポリオレフィン基材多孔質フィルム(以下、「A層」と称す場合がある。)と、バインダーとフィラーとを含む多孔質層からなる耐熱層(以下、「B層」と称す場合がある。)とが積層された多孔質フィルムである。なお、A層は、電池が激しく発熱した時に、溶融して無孔化することにより、積層多孔質フィルムにシャットダウンの機能を付与する。また、B層は、シャットダウンが生じる高温における耐熱性を有しているので、B層を有する積層多孔質フィルムは高温でも形状安定性を有する。
上記したA層とB層は、順に積層されていれば3層以上でもよい。例えば、A層の両面にB層が形成されていてもよい。
【0010】
積層多孔質フィルムは、後述するフィラー、バインダー及び溶剤を含む塗工液を、A層の片面又は両面に塗工して塗膜を形成する工程と、該塗膜から溶媒を除去する工程とを含む方法によって製造される。
まず、耐熱層を形成するために用いる本発明の塗工液について説明する。
【0011】
(塗工液)
本発明の塗工液は、フィラー、バインダー及び溶剤を含む塗工液であって、該フィラーの式(1)で定義される親水性パラメータAが0.35〜0.65である塗工液である。
親水性パラメータA=BET/BET・・・・・(1)
BET:フィラーに水蒸気を吸着させて測定される1次吸着等温線から2次吸着等温線を差引いて得られる差吸着等温線から、BET法を用いて算出されたフィラーの比表面積
BET:フィラーに窒素を吸着させて測定される吸着等温線から、BET法を用いて算出されたフィラーの比表面積
【0012】
BETは、フィラーに対する水の化学吸着量を反映した値である。具体的には、所定の温度で、フィラーに、水蒸気をその分圧を変更しながら供給することによって、フィラーに水蒸気を吸着させる。この操作中のフィラーへの水蒸気の吸着量を測定することによって、1次吸着等温線が得られる。続いてフィラーの吸着した水分を脱離させる操作を行う。次に該フィラーの入った測定容器を脱気する。再びフィラーに、水蒸気をその分圧を変更しながら供給することによって、フィラーに水蒸気を吸着させる。2回目のフィラーへの水蒸気の吸着量を測定することによって、2次吸着等温線が得られる。
1次吸着等温線は、フィラーに対する水の物理吸着量と化学吸着量の両方を反映しており、2次吸着等温線は、フィラーに対する水の物理吸着量を反映していると考えられる。従って、1次吸着等温線から2次吸着等温線を差し引いて得られる差吸着等温線は、フィラーに対する水の化学吸着量を反映していると考えられる。
BETは、フィラーの比表面積である。具体的には、所定の温度でフィラーに、窒素をその分圧を変更しながら供給することによって、フィラーに窒素を吸着させる。この操作中のフィラーへの窒素の吸着量を測定することによって、吸着等温線が得られる。
BETをBETで除することで、フィラー単位比表面積当たりの水の化学吸着量を反映した値が得られる。
親水性パラメータAの値が大きい程、フィラー表面の親水性が高いことを表す。
【0013】
塗工液に含まれるフィラーの親水性パラメータAは、0.35以上0.65以下であり、好ましくは0.36以上0.60以下である。
具体的な親水性パラメータAの評価手順(BET測定方法)は、評価対象であるフィラーがアルミナ粒子である場合を例として、実施例にて詳述する。
【0014】
フィラーとしては、有機フィラー、無機フィラー及びこれらの混合物を用いることができる。複数のフィラーを用いてもよい。
有機フィラーとしては、エチレン、プロピレン、スチレン、ビニルケトン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸メチル、メラミン、尿素、ホルムアルデヒド、テトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン、6フッ化プロピレン、フッ化ビニリデンからなる群から選ばれる1種以上のモノマーを重合して得られる重合体からなる微粒子が挙げられる。
【0015】
無機フィラーとしては、炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、シリカ、ハイドロタルサイト、珪藻土、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、アルミナ、マイカ、ゼオライト、ガラス等からなる微粒子が挙げられる。
この中でも、化学安定性、高温における形状安定性などの観点で、無機酸化物がより好ましく、特に化学安定性が高いアルミナが好ましい。
アルミナの中でも、高温安定相にある熱的・化学的に安定なα−アルミナがもっとも好ましい。
【0016】
本発明の塗工液は、プロトン性溶媒と、メディアン径が1〜10μmのフィラーとを混合して、フィラー濃度が5%〜50%であるスラリー(1)を調製する工程(以下、スラリー調製工程と称することもある)と、平均粒径0.1〜2.0mmのビーズを75〜90%充填したビーズミルで、液温0〜50℃、滞留時間1〜30分の条件で前記スラリー(1)を湿式粉砕して、スラリー(2)を作成する工程(以下、湿式粉砕工程と称することもあある)と、スラリー(2)とバインダーとを混合する工程(以下、塗工液作製工程と称することもある)とを含む方法によって製造される。
【0017】
原料フィラーのメディアン径(D50)は、1〜10μmであり、好ましくは3〜9μmである。
スラリー調製工程では、プロトン性溶媒を用いる。プロトン性溶媒の例としては、水、エタノール、イソプロパノール、1−プロパノール、t−ブチルアルコール及びこれらの混合物があげられる。プロセスや環境負荷の観点から、水を用いることが望ましい。
公知の方法によってプロトン性溶媒と原料フィラーとを混合し、フィラー濃度(重量%)が5%〜50%であるスラリー(1)を調製する。スラリー(1)のフィラー濃度は、10〜40重量%であることが好ましい。
【0018】
次に、平均粒径0.1〜2.0mmのビーズを75〜90%充填したビーズミルで、液温0〜50℃、滞留時間1〜30分の条件で前記スラリー(1)を湿式粉砕して、スラリー(2)を作成する。湿式粉砕工程では、粉砕能力と親水化能力が高いビーズミル(ダイノーミル)を使用する。
ビーズの平均粒径は、好ましくは0.5〜1.5mmである。ビーズは、ジルコニア、アルミナ、ガラス、チタニア、または窒化ケイ素から形成されていることが好ましい。粉砕能力と耐摩耗性に優れ、かつコンタミネーションしにくいため、ジルコニアとアルミナが好ましい。
【0019】
滞留時間は、パス方式では、次式より求めることができる。
滞留時間(パス方式)(min)=[ベッセル容積(L)−ビーズ充填容積(L)+ビーズ間隙容積(L)]/流量(L/min)
【0020】
湿式粉砕中のディスクの周速は、1m/sec〜30m/secであることが好ましい。
【0021】
原料フィラーのメディアン径(D50)で、スラリー(2)に含まれるフィラーのメディアン径(D50)を除した値は、0.05〜0.15の範囲であることが好ましい。
【0022】
上記の方法で得たスラリー(2)とバインダーとを混合して、塗工液を作製する。
具体的には、スラリー(2)に、溶媒中にバインダーを溶解や膨潤させた液、もしくは樹脂の乳化液を、均一になるまで混合・分散することによって、塗工液が得られる。例えば、スリーワンモーター、ホモジナイザー、メディア型分散機、圧力式分散機など従来公知の分散機を使用して、スラリー(2)とバインダーとを混合する。
【0023】
塗工液作製工程で使用される溶媒は、上述のスラリー調整工程で用いた溶媒と同じ溶媒であってもよい。プロセスや環境負荷の観点から、水を主とした溶媒を用いることが好ましい。水と、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1−プロパノール、t−ブチルアルコール、アセトン、N−メチルピロリドンなどの有機溶媒との混合溶媒を用いると、ポリオレフィン基材多孔質フィルムへ塗工しやすい塗工液が得られるので、好ましい。特にアルコールと水の混合溶媒が好ましい。アルコールの中では比較的沸点が低く、取り扱い性に優れたエタノール、イソプロパノール、1−プロパノールがより好ましい。
【0024】
バインダーには、フィラー同士を結着し、ポリオレフィン基材多孔質フィルムと接着し、且つ、上記溶媒に溶解あるいは分散する材料を用いる。水系の塗工液を作製することができるため、バインダーに水溶性高分子を用いることが好ましい。
【0025】
バインダーとしては、親水性官能基を有する水溶性高分子が好ましい。水溶性高分子としては、カルボキシメチルセルロース、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、澱粉、ポリビニルアルコール、アクリル酸、アルギン酸等が挙げられる。カルボキシメチルセルロースは、カルボキシメチルセルロースの塩であってもよい。カルボキシメチルセルロースの塩としては、具体的にはカルボキシメチルセルロース金属塩が挙げられる。カルボキシメチルセルロースの金属塩は加熱形状維持特性に優れるため好ましく、とりわけ、カルボキシメチルセルロースナトリウムは汎用的で入手が容易であるためより好ましい。アクリル酸は、アクリル酸の塩であってもよい。アクリル酸の塩としては、アクリル酸の金属塩が挙げられ、とりわけ、アクリル酸ナトリウムが好ましい。アルギン酸は、アルギン酸の塩であってもよく、アルギン酸の塩としては、アルギン酸の金属塩が挙げられ、とりわけ、アルギン酸ナトリウムが好ましい。2種類以上の材料をバインダーとして用いてもよい。
塗工液の粘度が塗工に適した粘度となるように、適切な分子量を有するバインダーを選択すればよい。
【0026】
塗工液作製工程では、バインダー100重量部に対して、フィラーが好ましくは100〜10000重量部、より好ましくは1000〜5000重量部となるように、フィラーを含むスラリー(2)とバインダーとを混合する。こうして得られた塗工液によって耐熱層を形成することにより、イオン透過性と、粉落ちのしにくさとのバランスに優れる積層多孔質フィルムが得られる。粉落ちとは、積層多孔質フィルムからフィラーが剥がれる現象である。
【0027】
塗工液の固形分濃度は、5〜55重量%が好ましく、より好ましくは10〜50重量%である。
【0028】
本発明の目的を損なわない範囲で塗工液に界面活性剤、pH調整剤、分散剤、可塑剤等を添加することができる。
【0029】
塗工液を、A層の片面又は両面に塗工して塗膜を形成する工程と、該塗膜から溶媒を除去する工程とを含む方法によって、積層多孔質フィルムを製造する。
【0030】
(ポリオレフィン基材多孔質フィルム(A層))
A層は、ポリオレフィンから形成される。A層には、重量平均分子量が5×105〜15×106の高分子量成分が含まれていることが好ましい。ポリオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセンなどのオレフィンモノマーを単独重合または共重合して得られる重合体が挙げられる。主にエチレン由来の構成単位から構成される高分子量ポリエチレンが好ましい。
【0031】
A層の空隙率は、20〜80体積%が好ましく、さらに好ましくは30〜70体積%である。該空隙率が20体積%未満では電解液の保持量が少なくなる場合があり、80体積%を超えるとシャットダウンが生じる高温における無孔化が不十分となる、すなわち電池が激しく発熱したときに電流が遮断できなくなるおそれがある。
【0032】
A層の厚みは、通常4〜50μmであり、好ましくは5〜30μmである。厚みが4μm未満であると、シャットダウンが不十分であるおそれがあり、50μmを超えると、積層多孔質フィルムの厚みが厚くなり、電池の電気容量が小さくなるおそれがある。
A層の孔の径は3μm以下が好ましく、1μm以下がさらに好ましい。
【0033】
A層は、A層の一方の面から他方の面まで気体や液体が透過可能な細孔を多数有する。透過率は、通常、ガーレ値で表される。本発明の積層多孔質フィルムのガーレ値は好ましくは30〜400秒/100ccの範囲であり、好ましくは、50〜300秒/100ccの範囲である。
【0034】
A層の製造方法は特に限定されるものではなく、例えば特開平7−29563号公報に記載されたように、熱可塑性樹脂に可塑剤を加えてフィルム成形した後、該可塑剤を適当な溶媒で除去する方法や、特開平7−304110号公報に記載されたように、公知の方法により製造した熱可塑性樹脂からなるフィルムを用い、該フィルムの構造的に弱い非晶部分を選択的に延伸して微細孔を形成する方法が挙げられる。例えば、A層が、超高分子量ポリエチレンおよび重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィンを含むポリオレフィン樹脂から形成される場合には、製造コストの観点から、以下に示すような方法により製造することが好ましい。
すなわち、(1)超高分子量ポリエチレン100重量部と、重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィン5〜200重量部と、炭酸カルシウム等の無機充填剤100〜400重量部とを混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る工程
(2)前記ポリオレフィン樹脂組成物を用いてシートを成形する工程
(3)工程(2)で得られたシート中から無機充填剤を除去する工程
(4)工程(3)で得られたシートを延伸してA層を得る工程
を含む方法である。
【0035】
(積層多孔質フィルムの製造)
塗工液をA層に塗工する方法は、均一にウェットコーティングできる方法であれば特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができる。例えば、キャピラリーコート法、スピンコート法、スリットダイコート法、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、バーコーター法、グラビアコーター法、ダイコーター法などを採用することができる。B層の厚さは塗膜の厚み、塗工液中のバインダー濃度とフィラー濃度の和で示される固形分濃度、フィラーのバインダーに対する比を調節することによって制御できる。
塗工液をA層に塗工する際に、A層を固定あるいは搬送する支持体には、樹脂製のフィルム、金属製のベルト、ドラム等を用いることができる。
【0036】
A層には、上記塗工液を塗工する前に親水化処理を行うことが好ましい。水の濃度が高い塗工液を塗工する場合は、特にA層に予め親水化処理を行うことが好ましい。親水化処理としては、酸やアルカリ等による薬剤処理、コロナ処理、プラズマ処理が挙げられる。
コロナ処理には、比較的短時間でA層を親水化できることに加え、コロナ放電によるポリオレフィン樹脂の改質がA層の表面近傍のみに限られ、A層内部の性質を変化させることないため、高い塗工性を確保できるという利点がある。したがって、コロナ処理が好ましい。
【0037】
塗膜から溶媒を除去する方法は、乾燥による方法が一般的である。溶媒の乾燥温度は、A層の透気度を低下させない温度が好ましく、通常、10〜120℃、好ましくは20〜80℃である。
【0038】
上記工程を経て、耐熱層(B層)がA層の上に形成される。
B層の厚みは、通常0.1μm以上20μm以下であり、好ましくは1μm以上15μm以下の範囲である。厚すぎると、積層多孔質フィルムの厚みが厚くなり、電池の電気容量が小さくなるおそれがある。薄すぎると、電池が激しく発熱したときにA層の熱収縮に抗しきれず積層多孔質フィルムが収縮するおそれがある。
B層をA層の両面に形成する場合、前記B層の厚みは2つのB層の合計厚みである。
【0039】
B層は、フィラーがバインダーで連結して形成された多孔質の層である。B層は、B層の一方の面から他方の面まで気体や液体が透過可能な細孔であって、フィラー同士の隙間が連結して形成された細孔を多数有する。
該細孔の孔径は、3μm以下が好ましく、1μm以下がさらに好ましい。細孔の孔径とは、細孔を球形に近似したときの球の直径の平均値である。孔径が3μmを超える場合には、正極や負極の主成分である炭素粉やその小片が脱落したときに、短絡しやすいなどの問題が生じるおそれがある。
B層の空隙率は30〜90体積%が好ましく、より好ましくは35〜85体積%である。
【0040】
(積層多孔質フィルム)
本発明の積層多孔質フィルムは、本発明の塗工液を用いて、前記した方法により得られる。本発明の積層多孔質フィルムは、ポリオレフィン基材多孔質フィルムと、フィラー及びバインダーを含む多孔質層からなる耐熱層とが積層された積層多孔質フィルムであって、該フィラーの式(1)で定義される親水性パラメータAが0.35〜0.65である積層多孔質フィルムである。
親水性パラメータA=BET/BET・・・・・(1)
BET:フィラーに水蒸気を吸着させて測定される1次吸着等温線から2次吸着等温線を差引いて得られる差吸着等温線から、BET法を用いて算出されたフィラーの比表面積
BET:フィラーに窒素を吸着させて測定される吸着等温線から、BET法を用いて算出されたフィラーの比表面積
【0041】
本発明の積層多孔質フィルムの厚みは、通常、5〜80μmであり、好ましくは、5〜50μmであり、特に好ましくは6〜35μmである。積層多孔質フィルムの厚みが5μm未満では破膜しやすくなり、80μmを超えると電池の電気容量が小さくなるおそれがある。
本発明の積層多孔質フィルムの空隙率は、通常、30〜85%であり、好ましくは40〜80%である。
本発明の積層多孔質フィルムの透気度は、50〜2000秒/100ccが好ましく、50〜1000秒/100ccがより好ましく、50〜300秒/100ccがさらに好ましい。透気度が2000秒/100cc以上となると、積層多孔質フィルムのイオン透過性、および電池の負荷特性が低くなるおそれがある。
【0042】
シャットダウンが生じる高温における、積層多孔質フィルムの寸法維持率は、A層のMD方向の寸法維持率とTD方向の寸法維持率の両方が、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。MD方向とは、A層を製造したときの長尺方向、TD方向とはA層を製造したときの幅方向のことをいう。寸法維持率が85%未満であると、シャットダウンが生じる高温において積層多孔質フィルムの熱収縮により、正−負極間で短絡を起こし、結果的にシャットダウン機能が不十分となるおそれがある。なお、シャットダウンが生じる高温とは80〜180℃の温度である。130〜160℃における寸法維持率が、前記の条件を満たすことが好ましい。
【0043】
本発明の積層多孔質フィルムは、A層とB層以外の、例えば、接着膜、保護膜等の多孔膜を本発明の目的を損なわない範囲で含んでもよい。
【0044】
本発明の積層多孔質フィルムは、電池、特に非水電解質二次電池のセパレータとして好適である。本発明の積層多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池は、サイクル特性に優れる。該非水電解液二次電池は、電池が激しく発熱した場合でもセパレータがシャットダウンするので、安全性の高い非水電解液二次電池である。
さらに本発明の非水電解液二次電池は、過充電特性、釘刺特性、耐衝撃特性などの安全性や、負荷特性などの電池特性にも優れると期待される。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において積層多孔質フィルムの物性等は以下の方法で測定した。
【0046】
(1)厚み測定(単位:μm):
積層多孔質フィルムの厚みは、株式会社ミツトヨ製の高精度デジタル測長機で測定した。
【0047】
(2)目付(単位:g/m2):
積層多孔質フィルムから一辺の長さ8cmの正方形を切り取った。該サンプルの重量W(g)を測定した。
目付(g/m2)=W/(0.08×0.08)で算出した。B層の目付は、同様に測定した積層多孔質フィルムの目付からA層の目付を差し引いて算出した。
【0048】
(3)粒径(メディアン径、D50)
日揮装株式会社製MICROTRAC (MODEL:MT-3300EXII)で測定した。
【0049】
(4)透気度:
JIS P8117 に準拠して、株式会社東洋精機製作所製のデジタルタイマー式ガーレ式デンソメータで測定した。
【0050】
(5)水蒸気吸着
<装置>
測定装置:BELSORP−aquaIII(日本ベル(株)製)
前処理装置:BELPREP−vacII(日本ベル(株)製)
<前処理方法>
ガラスチューブに入れたフィラーに、200℃で8時間、真空脱気を行った。
<測定条件>
吸着温度:298.15K
飽和蒸気圧:3.169kPa
吸着質断面積:0.125nm2
吸着質:純水
水の分子量:18.020
平衡待ち時間:500sec※
※吸着平衡状態(吸脱着の際の圧力変化が所定の値以下になる状態)に達してからの待ち時間
<測定方法>
定容法を用いて、水蒸気による吸着等温線を測定した。吸着温度で、前処理したフィラーが入っているガラスチューブに、水蒸気の相対圧が約0.3となるまで、水蒸気の相対圧を上げながら、水蒸気を供給した。水蒸気を供給しながら、フィラーへの水蒸気の吸着量を測定し、1次吸着等温線を得た。次いで、水蒸気の相対圧が約0.1になるまで、ガラスチューブ内の水蒸気の相対圧を下げながら、フィラーへの水蒸気の吸着量を測定した。
次にそのフィラーに、測定装置内において、吸着温度で2時間、脱気を行った。
1次吸着等温線を測定したときと同じ操作を行い、該フィラーの2次吸着等温線を得た。
<解析方法>
1次吸着等温線から2次吸着等温線を差引いて、差吸着等温線を得た。差吸着等温線から、BET法(多点法、相対圧約0.1〜0.3の範囲の7点)によって、フィラーの比表面積(BET)を算出した。
【0051】
(6)窒素吸着
<装置>
測定装置:BELSORP−mini(日本ベル(株)製)
前処理装置:BELPREP−vacII(日本ベル(株)製)
<前処理方法>
ガラスチューブに入れたフィラーに、200℃で8時間、真空脱気を行った。
<測定条件>
吸着温度:77K
吸着質:窒素
飽和蒸気圧:実測
吸着質断面積:0.162nm2
平衡待ち時間:500sec※
※吸着平衡状態(吸脱着の際の圧力変化が所定の値以下になる状態)に達してからの待ち時間
<測定方法>
定容法を用いて、窒素による吸着等温線を測定した。吸着温度で、前処理したフィラーが入っているガラスチューブに、窒素の相対圧が約0.5となるまで、窒素の相対圧を上げながら、窒素を供給した。窒素を供給しながら、フィラーへの窒素の吸着量を測定した。窒素の相対圧を上げる工程で測定したフィラーへの窒素の吸着量と、窒素の相対圧から、吸着等温線を得た。
<解析方法>
窒素による吸着等温線から、BET法(多点法、相対圧約0.1〜0.2の範囲の5点)によって、フィラーの比表面積(BET)を算出した。
【0052】
A層及びB層形成に使用したバインダー、フィラーは次の通りである。
<A層>
ポリエチレン製多孔質膜
超高分子量ポリエチレン粉末(340M、三井化学株式会社製)を70重量%、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP−0115、日本精鑞株式会社製)30重量%を混合して得られた超高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスの合計量100重量部に対して、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)0.4重量部、酸化防止剤(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)0.1重量部、ステアリン酸ナトリウム1.3重量部を加え、さらに全体積に対して38体積%となるように平均粒径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム株式会社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物を得た。該ポリオレフィン樹脂組成物を表面温度が150℃の一対のロールにて圧延しシートを作製した。このシートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬させることで炭酸カルシウムを溶解して、除去し、続いて105℃で6倍に延伸してポリオレフィン基材多孔質フィルムを得た。
「ポリオレフィン基材多孔質フィルム」
膜厚:17.1〜17.3μm
目付:7.1〜7.2g/m
<B層>
「バインダー」
・カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC):株式会社ダイセル製 CMC1110
「フィラー1」
・α−アルミナ:住友化学株式会社製 CA-30M(メディアン径(D50)=6.50μm)
「フィラー2」
・α−アルミナ:住友化学株式会社製 AKP3000(メディアン径(D50)=0.61μm)
【0053】
実施例1
(1)スラリーの製造
実施例1のスラリーを以下の手順で作製した。
アルミナ濃度が30.0重量%となるように、フィラー1を攪拌されている水に添加して、スラリー(1)を得た。引き続き、AG MASCHINENFABRIK BASEL社製ダイノーミル(KDL−PILOT A型)を用いたパス方式における湿式粉砕条件(ディスク周速:10m/sec,ビーズ材質:ZrO2、ビーズ径:1.0mm、ビーズ充填率:85体積%(ダイノーミルのベッセル容積に対して)、流量0.5L/min、滞留時間:2.9min、スラリー温度:20℃〜40℃)でスラリー(1)を湿式粉砕して、スラリー(2)を得た。スラリー(2)中のアルミナのメディアン径(D50)は、0.66μmであった。次にスラリー(2)を乾燥して粉体を得た。該粉体の吸着等温線の測定を行い、解析を行った。該粉体の親水性パラメータAは、0.37であった(BET1=2.0m/g、BET=5.4m/g)。
(2)塗工液の製造
スラリー(2)、CMC、及び溶媒(水及びイソプロピルアルコール)を、アルミナ100重量部に対して、CMCが3重量部、固形分濃度(CMC+アルミナ)が27.7重量%、かつ、溶媒組成が水95重量%、イソプロピルアルコール5重量%となるように混合し、混合液を得た。高圧分散装置(株式会社スギノマシン製「スターバースト」)を用いた高圧分散条件(100MPa×3パス)にて該混合液を処理することで、塗工液(1)を作製した。
(3)積層多孔質フィルムの製造及び物性評価
20W/(m2/分)で、A層の片面にコロナ処理を行った。次いでコロナ処理を施したA層の面に、グラビアコーターを用いて、上記塗工液(1)を塗工し、塗膜を形成した。塗膜を乾燥することで、A層の片面にB層が積層された積層多孔質フィルム(1)を得た。
該積層多孔質フィルム(1)の物性を表1に示す。
(4)サイクル特性評価
<正極の作製>
正極活物質としてLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2を用いた。正極活物質90重量部と、アセチレンブラック6重量部と、ポリフッ化ビニリデン(呉羽化学社製)4重量部とを混合し、混合物を得た。該混合物をN−メチル−2−ピロリドンに分散させて、正極用スラリーを得た。正極用スラリーを、正極集電体であるアルミニウム箔に均一に塗布し、乾燥した。得られた積層体をプレス機により厚さ80μmに圧延した。圧延された積層体から、正極用スラリーを塗工しなかった部分(以下、未塗工部と称することもある)が13mm含まれるようにして、30mm×45mmのサンプルを切り出した。該サンプルを正極として使用した。正極における正極活物質層の密度は2.30g/cmであった。
<負極の作製>
負極活物質として、黒鉛粉末を用いた。黒鉛粉末98重量部に、増粘剤、バインダーとしてカルボキシメチルセルロース水溶液100重量部(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1重量%)、及び、スチレン・ブタジエンゴムの水性エマルジョン1重量部を加えて、負極用スラリーを得た。負極用スラリーを、負極集電体である厚さ20μmの圧延銅箔に塗布して乾燥した。得られた積層体を、プレス機により厚さ80μmに圧延した。圧延された積層体から、負極用スラリーを塗工しなかった部分(以下、未塗工部と称することもある)が13mm含まれるようにして、35mm×50mmのサンプルを切り出した。該サンプルを負極として使用した。負極における負極活物質層の密度は1.40g/cmであった。
<電解液>
電解液には、1MLiPF6−EC(エチレンカーボネート)−EMC(エチルメチルカーボネート)−DEC(ジエチルカーボネート)(EC:EMC:DECは体積比で3:5:2)を使用した。
<電池の作成>
未塗工部にニッケルタブを取り付けた正極と負極の間に、積層多孔質フィルム(1)のB層が正極と接するように積層多孔質フィルム(1)を配置した。正極、積層多孔質フィルム(1)、負極の順に積層された積層体を、アルミ層とヒートシール層とが積層されたアルミ製の袋に入れて、さらに該袋に上記電解液を1.00cc加えた。減圧しつつ、アルミ製袋をヒートシールして、電池を完成させた。
<サイクル試験>
充放電サイクルを経ていない新たな電池に対して、25℃で電圧範囲4.1〜2.7V、電流値0.2C(1時間率の放電容量による定格容量を1時間で放電する電流値を1Cとする、以下同様)にて4サイクル初期充放電を行った。
続いて、25℃で電圧範囲4.2〜2.7V、電流値1.0Cの定電流にて100サイクルの充放電を行った。
100サイクル後の放電容量維持率(100サイクル目の放電容量/初期充放電後、初回の放電容量×100)を表2に記載する。
【0054】
実施例2
(1)スラリーの製造
滞留時間を8.0minとした以外は、上記実施例1におけるスラリー(2)の製造方法と同様にして、メディアン径(D50)=0.43、親水性パラメータAが0.49(BET1=3.5m/g、BET=7.2m/g)であるアルミナを含むスラリー(3)を得た。
(2)塗工液の製造
スラリー(3)を使用した以外は、実施例1と同様な操作で、塗工液(2)を得た。
(3)積層多孔質フィルムの製造及び物性評価
塗工液2を使用した以外は、実施例1と同様な操作で、積層多孔質フィルム(2)を得た。
積層多孔質フィルム(2)の物性を表1に示す。
(4)サイクル特性評価
積層多孔質フィルム(2)を用いた以外は、実施例1と同様に、サイクル特性評価を実施した。結果を表2に記載する。
【0055】
比較例1
(1)フィラー
フィラーとして、フィラー2(BET1=1.5m/g、BET=4.7m/g、親水性パラメータA=0.32)を用いた。
(2)塗工液の製造
AKP3000、CMC及び溶媒(水及びイソプロピルアルコール)を、アルミナ100重量部に対して、CMCが3重量部、固形分濃度(CMC+アルミナ)が27.7重量%、かつ、溶媒組成が水95重量%、イソプロピルアルコール5重量%となるように混合し、混合液を得た。高圧分散装置(株式会社スギノマシン製「スターバースト」)を用いた高圧分散条件(100MPa×3パス)にて該混合液を処理することで、塗工液(3)を作製した。
(3)積層多孔質フィルムの製造及び物性評価
20W/(m2/分)で、A層の片面にコロナ処理を行った。次いでコロナ処理を施したA層の面に、グラビアコーターを用いて、上記塗工液(3)を塗工し、塗膜を形成した。塗膜を乾燥することで、A層の片面にB層が積層された積層多孔質フィルム(3)を得た。積層多孔質フィルム(3)の物性を表1に示す。
(4)サイクル特性評価
積層多孔質フィルム(3)を用いた以外は、実施例1及び2と同様に、サイクル特性評価を実施した。結果を表2に記載する。
【0056】
参考例1
滞留時間を12.0minとした以外は、上記実施例1におけるスラリー(2)の製造方法と同様にして、スラリー(4)を得た。スラリー(4)中のアルミナのメディアン径(D50)は、0.41μmであった。次にスラリー(4)を乾燥して粉体を得た。該粉体の吸着等温線の測定を行い、親水性パラメータAを算出したところ、0.57であった(BET=4.4m/g、BET=7.7m/g)。結果を表3に記載する。
【0057】
参考例2
滞留時間を16.0minとした以外は、上記実施例1におけるスラリー(2)の製造方法と同様にして、スラリー(5)を得た。スラリー(5)中のアルミナのメディアン径(D50)は、0.39μmであった。次にスラリー(5)を乾燥して粉体を得た。該粉体の吸着等温線の測定を行い、親水性パラメータAを算出したところ、0.63であった(BET=5.6m/g、BET=8.9m/g)。結果を表3に記載する。
【0058】
参考例3
滞留時間を20.0minとした以外は、上記実施例1におけるスラリー(2)の製造方法と同様にして、スラリー(6)を得た。スラリー(6)中のアルミナのメディアン径(D50)は、0.38μmであった。次にスラリー(6)を乾燥して粉体を得た。該粉体の吸着等温線の測定を行い、親水性パラメータAを測定したところ、0.63であった(BET=6.4m/g、BET=10.1m/g)。結果を表3に記載する。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
実施例1と実施例2の放電容量維持率は、比較例よりも良好であった。
【0063】
放電容量維持率が改善する理由は、次のように考えている。フィラーの親水性パラメータが0.35〜0.65の範囲である場合、フィラーの電解液への濡れ性が向上することで、サイクル中の電解液の液枯れを防止することができので、放電容量維持率が改善すると推測している。一方、親水性パラメータが0.65より大きい場合、フィラー表面の熱的、電気化学的安定性が低下し、放電容量維持率が悪化すると予想される。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、サイクル特性に優れた非水電解液二次電池用セパレータに適した、耐熱層を有する積層多孔質フィルム、及び前記耐熱層を形成するための塗工液を得ることができる。