特許第6354833号(P6354833)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6354833トナー用ポリエステル樹脂、トナー用ポリエステル樹脂の製造方法およびトナー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354833
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】トナー用ポリエステル樹脂、トナー用ポリエステル樹脂の製造方法およびトナー
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/133 20060101AFI20180702BHJP
   C08G 63/85 20060101ALI20180702BHJP
   G03G 9/08 20060101ALI20180702BHJP
   G03G 9/087 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   C08G63/133
   C08G63/85
   G03G9/08 381
   G03G9/087 331
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-504403(P2016-504403)
(86)(22)【出願日】2016年1月20日
(86)【国際出願番号】JP2016051532
(87)【国際公開番号】WO2016117590
(87)【国際公開日】20160728
【審査請求日】2016年1月29日
(31)【優先権主張番号】特願2015-9929(P2015-9929)
(32)【優先日】2015年1月22日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】田村 陽子
(72)【発明者】
【氏名】小澤 匡弘
(72)【発明者】
【氏名】近藤 晃史
【審査官】 尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−161467(JP,A)
【文献】 特開平06−128367(JP,A)
【文献】 特開昭61−188418(JP,A)
【文献】 特開昭61−188417(JP,A)
【文献】 特開2009−151101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00− 63/91
G03G 9/00− 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全酸成分由来の構成単位を100mol%としたときに、三価以上のカルボン酸由来の構成単位を40mol%以上60mol%以下含み、全酸成分由来の構成単位100mol部に対して、全アルコール成分由来の構成単位が144mol部以上182mol部以下であり、前記アルコール成分はすべて二価であり、かつ全アルコール成分を100mol%としたときにビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物を60mol%以上80mol%以下含有し、前記三価以上のカルボン酸はすべて三価であり、全酸成分中の三価のカルボン酸以外の残りの酸成分が二価であり、金属含有量が100ppm以下であるトナー用ポリエステル樹脂。
【請求項2】
前記金属が、Ti、Sb、Sn、Ge、Al、Zr、Mg、Zn、Ca、Pのいずれか1種以上である、請求項1に記載のトナー用ポリエステル樹脂。
【請求項3】
GPCを用いた分子量測定において、分子量5,000以下が38wt%以上、かつ分子量200,000以上が7wt%以上であり、ガラス転移温度が50℃以上である、請求項1または2に記載のトナー用ポリエステル樹脂。
【請求項4】
全酸成分由来の構成単位を100mol%としたときに、ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来の構成単位を90mol%以上含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のトナー用ポリエステル樹脂。
【請求項5】
前記ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物が、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物を含む、請求項4に記載のトナー用ポリエステル樹脂。
【請求項6】
軟化温度が125℃以下である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のトナー用ポリエステル樹脂。
【請求項7】
メチルエチルケトンおよび酢酸エチルに対する不溶分が5質量%未満である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のトナー用ポリエステル樹脂。
【請求項8】
請求項1に記載のトナー用ポリエステル樹脂の製造方法であって、
全酸成分を100mol%としたときに三価のカルボン酸成分を40mol%以上60mol%以下含有するカルボン酸成分と、アルコール成分とを、
全酸成分のカルボキシル基の数を1としたときに、全アルコール成分の水酸基の数が1.20以上1.40以下となる比率で用いて、
重合触媒を100ppm以下の条件で重合する、トナー用ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項9】
全アルコール成分を100mol%としたときの前記ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物の割合を60mol%以上77.8mol%以下とする、請求項8に記載のトナー用ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項10】
前記ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物が、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物を含む、請求項9に記載のトナー用ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のトナー用ポリエステル樹脂を含むトナー。
【請求項12】
前記トナーがケミカルトナーである、請求項11に記載のトナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー用ポリエステル樹脂、トナー用ポリエステル樹脂の製造方法およびトナーに関する。
本願は、2015年1月22日に、日本に出願された特願2015−009929号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
電子写真印刷法および静電荷現像法により画像を得る方法においては、感光体上に形成された静電荷像をあらかじめ摩擦により帯電させたトナーによって現像したのち、定着が行われる。定着方式については、現像によって得られたトナー像を加圧および加熱されたローラーを用いて定着するヒートローラー方式と、電気オーブンまたはフラッシュビーム光を用いて定着する非接触定着方式とがある。これらのプロセスを問題なく通過するためには、トナーは、まず安定した帯電量を保持することが必要であり、次に紙への定着性が良好である必要がある。また、装置は加熱体である定着部を有し、装置内での温度が上昇するため、トナーがブロッキングしないことが必要である。また、連続印刷時においても装置の汚れや印刷面へのカブリなどが見られないこと、すなわちトナーの耐久性が必要である。
【0003】
さらに、ヒートローラー方式においては、省エネ化の観点から定着部の低温化が進み、トナーにはより低い温度で紙に定着する性能、つまり低温定着性が強く求められるようになってきた。加えて、装置のコンパクト化が進み、離型剤を塗布しないローラーが用いられるようになっており、トナーにはヒートローラーとの剥離性、すなわち耐オフセット性への要求が高まっている。
【0004】
トナー用バインダー樹脂は、最近では、強靭性、低温での定着性等に優れ、性能バランスの良いポリエステル樹脂が特に注目されている。
【0005】
近年、省エネルギー等の観点から、低温での定着性の良好なトナーを提供しうるバインダー樹脂が望まれ、ポリエステル樹脂としては、高温での耐ホットオフセット性との両立のために、3価以上のカルボン酸成分またはアルコール成分を用いて樹脂中に分岐、あるいは架橋構造を持たせる設計とすることが一般的に広く行われている。しかしながら、3価以上のモノマーを多く共重合する場合、重縮合反応を制御し難い課題がある。
【0006】
このような課題に対して、例えば先行文献1には、3価カルボン酸成分を多く共重合する場合でも、重縮合反応時に所定範囲の真空度に調節することで、反応系の急激な粘度上昇を抑える製造方法が示されている。また、例えば先行文献2には、脂肪族ジオールを特定量以上、および3価以上のカルボン酸を含有し、金属原子が特定量以下のトナー用ポリエステルが提案されている。先行文献2においては実質的に重合触媒を含有せず、透明性、帯電性に優れたトナー用バインダーであることが示されている。
【0007】
しかしながら、先行文献1においては、重合触媒としてジブチルスズオキサイドを用いており、安全面への懸念があった。また、先行技術1においては、ゲル化して所望の樹脂を得られず、また所望の樹脂を得られた例では長時間の重縮合反応時間を要するなど、製造条件としては改良の余地があるものであった。一方、先行文献2においては、アルコール成分として芳香族ジオールは未使用で、エチレングリコールのみを使用した例のみが示されており、耐ブロッキング性、帯電特性などトナー特性への弊害が懸念される。また、このような分子構造においては、一部に結晶構造が発現し易く、トナー特性に悪影響を及ぼすことが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−56974号公報
【特許文献2】特開2011−28170号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような状況を鑑み、環境保全、安全性に配慮しつつ、トナーとしての保存安定性、耐ホットオフセット性、低温定着性に優れたトナー用ポリエステル樹脂を生産性良くかつ安定して製造する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は、
(1)全酸成分由来の構成単位を100mol%としたときに、三価以上のカルボン酸由来の構成単位を40mol%以上60mol%以下含み、金属含有量が100ppm以下であるトナー用ポリエステル樹脂である。
(2)前記金属が、Ti、Sb、Sn、Ge、Al、Ze、Mg、Zn、Ca、Pのいずれか1種類以上である、(1)に記載のトナー用ポリエステル樹脂。
(3)また、本発明の要旨は、GPCを用いた分子量測定において、分子量5,000以下が38wt%以上、かつ分子量200,000以上が7wt%以上であり、ガラス転移温度が50℃以上であるトナー用ポリエステル樹脂である。
(4)全酸成分由来の構成単位を100mol%としたときに、ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来の構成単位を90mol%以上含む、(1)〜(3)のいずれか一項に記載のトナー用ポリエステル樹脂。
(5)前記ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物が、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物を含む、(4)に記載のトナー用ポリエステル樹脂。
(6)軟化温度が125℃以下である、(1)〜(5)のいずれかに記載のトナー用ポリエステル樹脂。
(7)メチルエチルケトンおよび酢酸エチルに対する不溶分が5質量%未満である、(1)〜(6)のいずれか一項に記載のトナー用ポリエステル樹脂。
(8)また、本発明の要旨は、全酸成分を100mol%としたときに、三価以上のカルボン酸成分を40mol%以上60mol%以下含有するカルボン酸成分と、アルコール成分とを、重合触媒を100ppm以下の条件で重合する、トナー用ポリエステル樹脂の製造方法である。
(9)全酸成分のカルボキシル基の数を1としたときの全アルコール成分の水酸基の数が1.20以上1.40以下となる比率で用いて重合を行う、(8)に記載のトナー用ポリエステル樹脂の製造方法。
(10)アルコール成分として、全アルコール成分を100mol%としたときに、ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物を60mol%以上80mol%部以下含有するアルコール成分を用いる、(8)または(9)に記載のトナー用ポリエステル樹脂の製造方法。
(11)前記ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物が、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物を含む、(10)に記載のトナー用ポリエステル樹脂の製造方法。
(12)(1)〜(7)のいずれかに記載のトナー用ポリエステル樹脂を含むトナー。
(13)前記トナーがケミカルトナーである、(12)に記載のトナー。
【発明の効果】
【0011】
本発明のトナー用ポリエステル樹脂は、環境保全、安全性に配慮しつつ、トナーとしての耐ホットオフセット性、低温定着性等に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のトナー用ポリエステル樹脂について説明する。
【0013】
(トナー用ポリエステル樹脂)
本発明のトナー用ポリエステル樹脂は、全酸成分由来の構成単位を100mol%としたときに、三価以上のカルボン酸由来の構成単位を40mol%以上60mol%以下含み、金属含有量が100ppm以下である。
前記金属としては、Ti、Sb、Sn、Ge、Al、Zr、Mg、Zn、Ca、P等の重合触媒由来の金属が挙げられる。
【0014】
本発明のトナー用ポリエステル樹脂は、全酸成分を100mol%としたときに三価以上のカルボン酸成分を40mol%以上60mol%以下が好ましく、40mol%以上55mol%以下がより好ましい。
三価以上のカルボン酸成分を40mol%以上含むことで、得られるトナーの定着性、耐ホットオフセット性が良好となる傾向にある。また、60mol%以下とすることで、重縮合反応時のゲル化反応を制御しやすくなる傾向にあり、また得られるトナーの保存性が良好となる傾向にある。
【0015】
本発明において使用できる三価以上のカルボン酸成分としては、トリメリット酸、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸またはこれらのエステルもしくは酸無水物等、ピロメリット酸、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、またはこれらのエステルもしくは酸無水物等が挙げられる。工業的に入手が容易な点で3価のカルボン酸が好ましく、トリメリット酸またはその酸無水物が特に好ましい。
【0016】
本発明のトナー用ポリエステル樹脂は、上記三価以上のカルボン酸の他に、芳香族多価カルボン酸や脂肪族多価カルボン酸等の多価カルボン酸を用いることができる。
多価カルボン酸として、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、イソフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジブチル、イソフタル酸ジブチル、またはこれらの酸無水物等の芳香族ジカルボン酸成分;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、イソデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、マレイン酸、フマル酸、またはこれらのエステルもしくは酸無水物等の脂肪族ジカルボン酸成分等を用いることができる。
【0017】
芳香族ジカルボン酸の使用量は、特に制限されないが、全酸成分を100mol%としたときに、35mol%以上60mol%以下用いることが好ましく、40mol%以上60mol%以下がより好ましい。芳香族ジカルボン酸の使用量が35mol%以上である場合に、トナーの保存安定性が良好となり、樹脂強度が向上する傾向にあり、60mol%以下である場合に、トナーの定着性や耐ホットオフセット性が良好である。芳香族ジカルボン酸の中でも、ハンドリング性およびコストの点でテレフタル酸やイソフタル酸が好ましい。
【0018】
本発明のトナー用ポリエステル樹脂はビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物由来の構成単位を含むことが好ましい。ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物由来の構成単位を含む場合、その含有量は、全アルコールを100mol%としたときに60mol%以上80mol%以下であることが好ましく、65mol%以上80mol%以下であることがより好ましい。60mol%以上とすることで、縮重合反応時のゲル化反応速度を制御しやすくなり、また得られるトナーの保存性、帯電性、耐久性が良好となる傾向にある。また、80mol%以下とすることで、反応性、コストの観点から好ましい。
【0019】
本発明のトナー用ポリエステル樹脂において使用できるビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物としては、特に制限されないが、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物またはエチレンオキサイド付加物が挙げられ、付加モル数は2〜6が好ましい。具体的には、ポリオキシエチレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン−(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン−(2.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.4)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(3.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(6)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(2.2)−ポリオキシエチレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等が挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
また、本発明のトナー用ポリエステル樹脂においては、多価アルコールとして、脂肪族ジオール等を用いることができる。脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、イソソルバイドなどが挙げられる。これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができ、また、脂肪族ジオールと芳香族ジオールを組み合せて使用することもできる。
【0021】
また、多価アルコールとしては、これらのジオール以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で3価以上の多価アルコールを使用することもできる。3価以上の多価アルコールとしては、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサテトラロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、2−メチル−1,2,3−プロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールプロパン、1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼン等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンが特に好ましい。
【0022】
また、本発明のトナー用ポリエステル樹脂は、GPCを用いた分子量測定において、分子量5,000以下が38wt%以上、かつ分子量200,000以上が7wt%以上であり、ガラス転移温度が50℃以上である。分子量5000位以下38wt%以上であると、低温定着性に優れる。また、分子量200,000以上が7wt%以上であると、耐ホットオフセット性に優れる。本発明のトナー用ポリエステル樹脂は、金属含有量が100ppm以下であり、好ましくは50ppm以下であり、さらに好ましくは20ppm以下である。金属としては、Ti、Sb、Sn、Ge、Al、Zr、Mg、Zn、Ca、P等の重合触媒由来の金属が挙げられる。
重合触媒由来の金属含有量が100ppm以下であれば、重縮合時のゲル化反応等が制御されたポリエステル樹脂を得ることができる。
本発明のトナー用ポリエステル樹脂は、分子量5,000以下が38wt%以上、かつ分子量200,000以上が7wt%以上である。上記範囲であれば、低温定着性と耐ホットオフセット性に優れた効果を奏する。
本発明のトナー用ポリエステル樹脂は、メチルエチルケトンおよび酢酸エチルに対する不溶分が5質量%未満であることが好ましい。溶剤不溶分が5質量%未満であれば、溶剤に溶解する工程を含む製法で製造されるトナー向けに好適である。
【0023】
(トナー用ポリエステル樹脂の製造方法)
本発明のトナー用ポリエステル樹脂は、全酸成分を100mol%としたときに三価以上のカルボン酸成分を40mol%以上60mol%以下含有するカルボン酸成分と、アルコール成分とを、重合触媒を0ppm以上100ppm以下の条件で重合することができる。
また、本発明のトナー用ポリエステル樹脂の製造方法においては、カルボン酸成分とアルコール成分の比率を、全原料中のカルボキシル基数を1とした時の水酸基数は1.20以上1.40以下が好ましく、1.23以上1.35以下がより好ましい。
カルボキシル基数を1とした時の水酸基数を1.20以上とすることで、重縮合反応時のゲル化を制御しやすくなり、得られるトナーの定着性が良好となる傾向にある。また、1.40以下とすることで、反応性が良好となり、得られるトナーの保存性が良好となる傾向にある。
なお、カルボキシル基数は、酸無水物を用いる場合も無水化していないものと同様に算出したものである。また、水酸基数には、カルボキシル基中に存在するOH基は含まない。
【0024】
また、本発明の製造方法で得られるトナー用ポリエステル樹脂は、バインダー樹脂としての性能を考慮し、非晶質であることが好ましい。そのため、各原料成分の種類や比率を適宜調整することが重要である。
【0025】
本発明のトナー用ポリエステルは、重縮合反応時間に対するポリエステル樹脂の軟化温度の上昇速度が、0.1℃/分以上0.6℃/分以下の範囲であり、重縮合反応後に得られたポリエステル樹脂の軟化温度が125℃以下で製造することが好ましい。
本発明のように、全酸成分を100mol%としたときに三価以上のカルボン酸量を40mol%以上60mol%以下含有する場合、重合度が高まるとともに反応の進行速度も加速度的に高まるため、軟化温度を125℃を超えて高めようとすると、安定して樹脂を得ることが困難となる。軟化温度の下限は、耐ホットオフセット性の観点から、110℃以上であることが好ましい。
【0026】
本発明のトナー用ポリエステル樹脂の重合反応の方法としては、多価アルコールと多価カルボン酸およびその低級アルキルエステルを含むモノマー混合物を反応容器内に投入して、エステル化反応又はエステル交換反応にて水または低級アルキルアルコールを留去したのち、重縮合反応にてグリコールを除去しつつ重合度を高めて樹脂を得る方法が挙げられる。
【0027】
本発明のトナー用ポリエステル樹脂の製造において、エステル化反応又はエステル交換反応の温度は、240℃以上280℃以下であることが好ましく、255℃以上270℃以下がより好ましい。240℃以上とすることで、生産性が向上するため好ましい。また280℃以下の場合に、樹脂の分解や、臭気の要因となる揮発分の副生成を抑制できる傾向にあるため好ましい。
【0028】
本発明のトナー用ポリエステル樹脂は、重縮合反応時間に対する軟化温度の上昇速度が0.1℃/分以上0.6℃/分以下の範囲であり、以下の式(1)で求められる条件で製造することが好ましい。
(重縮合反応終了点のポリエステル樹脂軟化温度:℃)−(重縮合反応終了前のポリエステル樹脂軟化温度:℃)÷(重縮合反応時間:分)・・・(1)
重縮合反応時間については、以下の基準で開始点、終了点を決定し、その間の時間を重縮合反応時間とする。なお予め、当該組成、反応装置、製造条件等における反応装置内の撹拌翼にかかるトルクと得られる軟化温度の相関を把握しておくことが必要である。
開始点:エステル化またはエステル交換反応終了後、反応系の温度を重縮合反応温度に調整したのち、系内を減圧し始めた時点。
終了点:反応装置の撹拌翼にかかるトルクが所望の軟化温度を示す値となるまで、所定の真空度で重縮合反応を進行させたのち、系内を常圧に戻すべく系内に窒素を導入し始めるとともに撹拌を停止した時点。
【0029】
重縮合反応時間に対する軟化温度の上昇速度を0.1℃/分以上とすることで、短時間で所望の軟化温度を有する樹脂を得られ、また臭気の要因となる揮発分の副生成を抑制できる傾向にある。
また、重縮合反応時間に対する軟化温度の上昇速度を0.6℃/分以下とすることで、反応系内の樹脂が所望の軟化温度を示す時間帯を十分に確保でき、所望の物性を有する樹脂を安定して得ることができる。
【0030】
重縮合反応時間に対する軟化温度の上昇速度を0.1℃/分以上0.6℃/分以下の範囲とするためには、以下のような手段があり、原料組成比率などを考慮して、単独で、または組み合わせて調整すればよい。ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の量が少ない、三価以上の酸成分の量が多い、カルボキシル基数を1とした時の水酸基数が少ない、といった、特に反応性優位な組成比率の場合の重合触媒は未使用かつ重縮合反応の温度を低く設定することが有効である。
1)重合触媒の量
重合触媒の量を適切に設定することにより、反応速度を調整することができる。
本発明のトナー用ポリエステル樹脂は、分岐構造を多く含み反応性に富む組成物を用いて製造されるため、重合触媒を100ppm以下の条件で反応させることが好ましく、50ppm以下がより好ましく、20ppm以下がさらに好ましい。
重合触媒を使用する場合は、例えば、チタンテトラアルコキシド、酸化チタン、酢酸スズ、酸化スズ、酢酸亜鉛、二硫化スズ、三酸化アンチモン、二酸化ゲルマニウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、アルミニウム化合物、リン化合物、ジルコニウム化合物等の公知の重合触媒を用いることができる。
2)重縮合反応の温度
反応温度を適切に設定することで、重縮合反応安定性、ゲル化制御性を確保することができる。
重縮合反応の温度は210℃以上250℃以下が好ましい。重縮合反応の温度が210℃以上であると、生産性が良好となる傾向にあるためであり、250℃以下の場合に、樹脂の分解を抑制でき生産性が良好となり、また臭気の要因となる揮発分の副生成を抑制できる傾向にあるためである。
【0031】
本発明のトナー用ポリエステル樹脂のガラス転移温度(以下、Tgという)は、特に制限されないが、50℃以上65℃以下が好ましい。Tgが50℃以上である場合に、トナーの耐ブロッキング性が良好となる傾向にあり、また、65℃以下である場合にトナーの定着性が良好となる傾向にある。
【0032】
また、本発明のトナー用非晶性ポリエステル樹脂の酸価は、特に制限されないが、25mgKOH/g以下が好ましく、20mgKOH/g以下がより好ましい。酸価が25mgKOH/g以下の場合にトナーの画像濃度が安定する傾向にある。
【0033】
次に、本発明のトナー用ポリエステル樹脂を用いたトナーについて説明する。
【0034】
本発明のトナー用ポリエステル樹脂は、トナーバインダーとして単独、または、他のトナーバインダー樹脂とブレンドして使用することができる。バインダー樹脂として、本発明のポリエステル樹脂以外のバインダー樹脂を用いる場合は、例えば、本発明のポリエステル樹脂以外のポリエステル樹脂、スチレン系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、環状オレフィン樹脂、メタクリル酸系樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができ、本発明の効果を損なわない範囲で、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0035】
本発明のトナーの製造方法については、特に制限されないが、例えば、本発明のトナー用ポリエステル樹脂を含むトナーバインダー樹脂、着色剤、離型剤、荷電制御剤、流動改質剤、および磁性体等を混合した後、2軸押出機などで溶融混練し、粗粉砕、微粉砕、分級を行い、必要に応じて無機粒子の外添処理等を行って製造することができる。また、上記工程において、微粉砕から分級の後にトナー粒子を球形にするなどの処理を行ってもよい。
また、本発明のトナー用ポリエステル樹脂は、有機溶媒を用いたトナーの製造に用いてもよい。有機溶媒を用いたトナーの製造方法としては、例えば、ポリエステル樹脂およびその他のトナー配合物を含む材料を、ポリエステル樹脂が溶解可能な有機溶媒中に溶解又は分散させ、その溶解液又は分散液を分散安定剤を含有する水系媒体中に分散させて造粒した後、有機溶媒を除去し、得られた粒子を分離して洗浄、乾燥することによってトナー粒子を得る方法、ポリエステル樹脂を有機溶媒中に溶解させ、その溶解させた液を水系媒体中で乳化した後有機溶媒を除去し、ポリエステル乳化液を得たのち、その他のトナー配合物を微分散した水系媒体とあわせて、微粒子を凝集、熱融合させて粒子を得、得られた粒子を分離して洗浄、乾燥することによってトナー粒子を得る方法などが挙げられる。必要に応じて得られたトナー粒子に対して流動改質剤などの外添剤を添加することもできる。
【0036】
トナー化の際の、着色剤としては、カーボンブラック、ニグロシン、アニリンブルー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ハンザイエロー、ローダミン系染顔料、クロムイエロー、キナクリドン、ベンジジンイエロー、ローズベンガル、トリアリルメタン系染料、モノアゾ系、ジスアゾ系、縮合アゾ系染料もしくは顔料などを挙げることができる。これらの染料や顔料はそれぞれ単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。フルカラートナーの場合には、イエローとしてベンジジンイエロー、モノアゾ系染顔料、縮合アゾ系染顔料など、マゼンタとしてキナクリドン、ローダミン系染顔料、モノアゾ系染顔料など、シアンとしてフタロシアニンブルーなどが挙げられる。
【0037】
着色剤の含有量は、トナーの色調や画像濃度、熱特性の点から、トナー中2質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0038】
荷電制御剤としては、正帯電制御剤として4級アンモニウム塩や、塩基性もしくは電子供与性の有機物質等が挙げられ、負帯電制御剤として金属キレート類、含金属染料、酸性もしくは電子求引性の有機物質等が挙げられる。カラートナーの場合、帯電制御剤が無色ないし淡色で、トナーへの色調障害がないことが重要であり、例としてはサリチル酸またはアルキルサリチル酸のクロム、亜鉛、アルミニウム等との金属塩、金属錯体、アミド化合物、フェノール化合物、ナフトール化合物等が挙げられる。さらに、スチレン系、アクリル酸系、メタクリル酸系、スルホン酸基を有するビニル重合体を荷電制御剤として用いてもよい。
【0039】
荷電制御剤の含有量は、トナー中0.5質量%以上5質量%以下であるのが好ましい。荷電制御剤の含有量が0.5質量%以上の場合にトナーの帯電量が充分なレベルとなる傾向にあり、5質量%以下の場合に荷電制御剤の凝集による帯電量の低下が抑制される傾向にある。
【0040】
トナー化の際に添加する離型剤としては、カルナバワックス、ライスワックス、モンタンワックス、蜜蝋、ポリプロピレン系ワックス、ポリエチレン系ワックス、合成エステル系ワックス、パラフィンワックス、脂肪酸アミド、シリコーン系ワックス等を挙げることができ、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0041】
離型剤の含有量は、トナーの離型効果、保存性、定着性、発色性等を左右することから、トナー中0.3質量%以上15質量%以下であることが好ましく、1質量%以上13質量%以下がより好ましく、2質量%以上10質量%以下が特に好ましい。
【0042】
さらに流動改質剤などの添加剤としては、微粉末のシリカ、アルミナ、チタニア等の流動性向上剤、マグネタイト、フェライト、酸化セリウム、チタン酸ストロンチウム、導電性チタニア等の無機微粉末、スチレン樹脂、アクリル樹脂などの抵抗調節剤、滑剤などが挙げられ、これらは内添剤または外添剤として使用される。
【0043】
これらの添加剤の含有量は、特に制限されないが、トナー中0.05質量%以上10質量%以下が好ましい。これらの添加剤の含有量が0.05質量%以上の場合にトナーの性能改質効果が充分に得られる傾向にあり、10質量%以下の場合にトナーの画像安定性が良好となる傾向にある。
【実施例】
【0044】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の実施の態様がこれに限定されるものではない。また、本実施例で示される樹脂およびトナーの評価方法は以下の通りである。
【0045】
(A)樹脂の評価方法
(1)ガラス転移温度(Tg)
島津製作所(株)製示差走差熱量計DSC−60を用いて、昇温速度10℃/分で測定した時のチャートのベースラインとガラス転移温度近傍にある吸熱カーブの接線との交点の温度を求めた。
【0046】
(2)軟化温度(Tm)
島津製作所(株)製フローテスターCFT−500Dを用い、1mmφ×1mmのノズルにより、荷重196N(20Kgf)、昇温速度6℃/分の等速昇温下で測定した時、サンプル1.0g中の1/2が流出した温度を求めた。
【0047】
(3)酸価
サンプル約0.2gを枝付き三角フラスコ内に精秤し(A(g))、ベンジルアルコール20mlを加え、窒素雰囲気下として230℃のヒーターにて15分加熱し樹脂を溶解した。室温まで放冷後、クロロホルム20ml、指示薬としてクレゾールレッド溶液数滴を加え、0.02規定のKOH溶液にて滴定した(滴定量=B(ml)、KOH溶液の力価=p)。ブランク測定を同様に行い(滴定量=C(ml))、以下の式に従って算出した。
酸価(mgKOH/g)=(B−C)×0.02×56.11×p÷A
【0048】
(B)トナーの評価方法
(4)保存安定性
トナーを約5g秤量してサンプル瓶に投入し、これを50℃に保温された乾燥機に24時間放置し、トナーの凝集の程度を評価して耐ブロッキング性の指標とした。評価基準は以下の通りとした。
A(良好): サンプル瓶を逆さにするか、2〜3回叩くと分散する
B(使用可能): サンプル瓶を逆さにし、4〜5回叩くと分散する
C(劣る): サンプル瓶を逆さにし、5回叩いた際に分散しない
【0049】
(5)低温定着性
シリコーンオイルが塗布されていない定着ローラーを有し、ローラー速度を100mm/sに設定したローラー温度変更可能であるプリンターを用いて、テストパターンとして0.5mg/cmのトナー濃度にて縦4.5cm×横15cmのベタ画像を作成し、定着ローラーの温度を145℃に設定して定着させた。このテストパターン画像に対し、マクベス社製画像濃度計にて画像濃度を測定して記録した。濃度測定部分を縦に谷折りとして、保護紙を乗せた上から折り曲げ部に1kgの重りを5回滑らせて折り目をつけ、続いて同じ折り目で山折りとして、保護紙を乗せた上から折り曲げ部に1kgの重りを5回滑らせた。試験紙を伸ばし、折り曲げ部にセロハンテープ(日東電工CSシステム社 No.29)を貼りつけて5回なぞったのちゆっくりと剥がし、マクベス社製画像濃度計にて画像濃度を測定した。3箇所で同測定を行い、試験前後の画像濃度より各々の定着率を以下の式で算出し、3箇所の平均定着率をもとに以下の基準により評価した。
定着率=試験後の画像濃度/試験前の画像濃度×100(%)
A(非常に良好): 85%以上の定着率
B(良好): 75%以上85%未満の定着率
C(劣る): 75%未満の定着率または145℃でオフセット現象が発生し測定不可
【0050】
(6)耐ホットオフセット性
シリコーンオイルが塗布されていない定着ローラーを有し、ローラー速度30mm/sに設定したローラー温度変更可能であるプリンターを用いて、テストパターンとして0.5mg/cmのトナー濃度にて縦4.5cm×横15cmのベタ画像をローラー温度5℃毎に印刷した際、定着時にホットオフセット現象により定着ローラーにトナーが移行するときの最低温度をホットオフセット発生温度と定め、以下の基準を用いて耐ホットオフセット性を判断した。
A(非常に良好): 200℃でホットオフセットが発生しない
B(良好): ホットオフセット発生温度が185℃を超え200℃以下
C(劣る): ホットオフセット発生温度が185℃以下
【0051】
(7)画像安定性
25℃、80RH%の環境下において、シリコーンオイルが塗布されていない定着ローラーを有し、ローラー速度30mm/sに設定したローラー温度変更可能であるプリンターを用いて、テストパターンとして0.5mg/cmのトナー濃度にて縦4.5cm×横15cmのベタ画像を定着温度170℃で連続印刷し、1枚目と5000枚目の画像の変化を目視にて以下の条件で評価した。
A(良好): 画像濃度に変化がない、または影響が少ない
B(使用可能限界): 画像濃度に変化があり、添加剤による改良で使用できる限界である
C(劣る): 画像濃度が大きく変化する
【0052】
(8)溶剤溶解性
ポリエステル樹脂約0.5gを三角フラスコ内に精秤し(Ag)、フラスコ内にメチルエチルケトンまたは酢酸エチル50mlを加え、70℃のウォーターバスにて3時間加熱溶解した。この溶液を、セライト545をきつく充填し十分に乾燥した1GP100のガラスろ過器(Bg)を吸引しながら通過させてろ過し、アセトンを用いてガラスろ過器内に残存するメチルエチルケトンまたは酢酸エチル可溶分を十分に除去したのち、不溶分の残存したガラスろ過器を再度乾燥して重量を測定し(Cg)、以下の式に従って不溶分を算出した。
不溶分(質量%)=(C−B)/A×100
得られた値をもとに、以下の基準で評価した。
A: メチルエチルケトン、酢酸エチルとも、不溶分が3質量%以下
B: メチルエチルケトン、酢酸エチルとも、不溶分が5質量%以下
C: メチルエチルケトン、酢酸エチルのいずれか、不溶分が5質量%を超えている
【0053】
(9)分子量測定方法
サンプル瓶内にサンプル0.02g精秤し、テトラヒドロフランを加えて10gとして、0.2質量%の濃度に調整した。密栓して一晩放置し溶解させた後、孔径0.5μmのメンブレンフィルターを通過させてサンプル溶液とした。
東ソー社製HLC−8220GPCを使用し、以下の条件で測定し、10点の標準ポリスチレンにて作成した検量線より分子量値を換算した。
温調: 40℃
カラム: 東ソー社製 TSK guard column HXL−H、TSK gel GMHXL×3
流量: 1.0ml/min、サンプル量:100μl、検出器:RI
【0054】
(10)製造安定性の評価方法
次式で示される、重縮合反応時間に対する軟化温度の上昇速度から、以下の基準で求めた。
(重縮合反応終了点のポリエステル樹脂軟化温度:℃−重縮合反応終了前のポリエステル樹脂軟化温度:℃)÷(重縮合反応時間:分)・・・(式)
A(良好): 0.6℃/min以下であり、反応系内の樹脂が所望の軟化温度を示す時間帯を十分に確保できる。
B(製造可能): 0.6℃/minを超えて0.8/min以下であり、反応系内の樹脂が所望の軟化温度を示す時間帯を確保できる。
C(不良): 0.8/minを超えており、反応系内の樹脂が所望の軟化温度を示す時間帯を十分に確保できない。
【0055】
(11)元素(金属)分析
サンプルを約2g(精秤)を白金るつぼ(メタホウ酸リチウムにて融解後、塩酸で洗浄済み)に採取し、ホットプレート上で150℃で約6時間、穏やかに加熱したのち、マッフル炉にて800℃で1時間加熱し有機物を完全に燃焼させた。得られたサンプルをEDXに供試した。
<測定条件>
装置: SEM 日立ハイテクノロジー製 S−3400N
: EDX 堀場製作所製 EMAX
加速電圧: 15kV
導電性コーティング方法: 無蒸着
【0056】
(実施例1)
表1に示す仕込み組成の多価カルボン酸、多価アルコールを蒸留塔備え付けの反応容器に投入した。次いで、反応容器中の攪拌翼の回転数を200rpmに保ち、昇温を開始し、反応系内の温度が265℃になるように加熱しこの温度を保持した。反応系から水の留出がなくなるまでエステル化反応を行った。
次いで、反応系内の温度を下げて表1に示す重縮合反応温度に調整し、内容物を少量採取したのち、反応容器内を約20分かけて真空度を1kPa以下まで減圧し、反応系からジオール成分を留出させながら縮重合反応を行った。高真空状態を保持したまま反応を続け、重合度の上昇とともに反応系の粘度が上昇し、攪拌翼のトルクが所望の軟化温度を示す値となるまで重縮合反応を継続した。そして、所定のトルクを示した時点で反応系への窒素の導入を開始し、窒素導入直後に撹拌を停止した。窒素導入により反応系内を常圧に戻し、反応装置底部より反応物を取り出し、冷却してポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の特性値を表1に示す。
【0057】
次に、上記で得られたポリエステル樹脂を用いて、トナー化を行った。トナーの配合には、ポリエステル樹脂を93質量部、キナクリドン顔料(クラリアント社製HOSTAPARM PINK E、C.I.番号:Pigment Red 122)を3質量部、カルナバワックス1号(東洋アドレ社製)3質量部、負帯電性の荷電制御剤(日本カーリット社製LR−147)1質量部を使用し、ヘンシェルミキサーで5分間混合した。次いで、得られた混合物を2軸混練機で溶融混練した。溶融混練は内温を樹脂の軟化温度に設定して行った。混練後、冷却してトナー魂を得、ジェットミル微粉砕機で10μm以下に微粉砕し、分級機にて3μm以下の微粒子をカットして粒径を整えた。得られた微粉末100質量部に対して、0.25質量部のシリカ(日本アエロジル社製R−972)を加え、ヘンシェルミキサーで混合して付着させ、最終的にトナーを得た。
得られたトナーについて前述の評価方法を用いてトナー評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0058】
(実施例2)〜(実施例6)、(比較例4)
反応容器に仕込む多価カルボン酸、多価アルコールを表1に示すとおりに変更した以外は実施例1と同様の方法でポリエステル樹脂を得、実施例1と同様の方法でトナー化を行った。得られた樹脂の特性値およびトナーの評価結果を表1に示す。
【0059】
(実施例7)
反応容器に仕込む多価カルボン酸、多価アルコールを表1に示すとおりに変更し、さらに表1に示す重合触媒を原料とともに投入する以外は実施例1と同様の方法でポリエステル樹脂を得、実施例1と同様の方法でトナー化を行った。得られた樹脂の特性値およびトナーの評価結果を表1に示す。
【0060】
(比較例1)
表1に示す仕込み組成の多価カルボン酸、多価アルコールを蒸留塔備え付けの反応容器に投入した。次いで、反応容器中の攪拌翼の回転数を200rpmに保ち、昇温を開始し、反応系内の温度が265℃になるように加熱しこの温度を保持した。エステル化反応末期、反応系から水の留出がなくなるより前にゲル化反応が進行して反応系のトルクが上昇をはじめ、その後加速度的にトルク上昇がみられたため、エステル化反応終了前であったが、撹拌を停止し、窒素により加圧して反応装置底部より内容物を取り出した。取り出し途中にも内容物の増粘が進み、一部は反応装置内で固化し取り出すことができなかった。また取り出すことのできた樹脂には未反応の粉体原料が粒子状に残存していた。
【0061】
(比較例2)
表1に示す仕込み組成の多価カルボン酸、多価アルコールおよび重合触媒を蒸留塔備え付けの反応容器に投入した。次いで、反応容器中の攪拌翼の回転数を200rpmに保ち、昇温を開始し、反応系内の温度が265℃になるように加熱しこの温度を保持した。反応系から水の留出がなくなるまでエステル化反応を行った。
次いで、反応系内の温度を下げて表1に示す重縮合温度に調整し、内容物を少量採取したのち、反応容器内を減圧した。減圧開始から5分後に真空度は40kPaに到達し、そのまま真空度を保持した。減圧開始直後から反応系の粘度上昇がみられ、減圧開始から15分後には攪拌翼のトルクが所望の軟化温度を示す値まで上昇したため、そこで反応系への窒素の導入を開始し、窒素導入直後に撹拌を停止した。窒素導入により反応系内を常圧に戻し、反応装置底部より反応物を取り出し、冷却してポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の特性値を表1に示す。
【0062】
次に、上記で得られたポリエステル樹脂を用いて、実施例1と同様の方法でトナー化を行った。トナーの評価結果を表1に示す。
【0063】
(比較例3)
表1に示す仕込み組成の多価カルボン酸、多価アルコールを蒸留塔備え付けの反応容器に投入した。次いで、反応容器中の攪拌翼の回転数を200rpmに保ち、昇温を開始し、反応系内の温度が265℃になるように加熱しこの温度を保持した。反応系から水の留出がなくなるまでエステル化反応を行った。
次いで、反応系内の温度を下げて表1に示す重縮合温度に調整し、内容物を少量採取したのち、反応容器内を減圧した。減圧開始から5分後に真空度は40kPaに到達し、そのまま真空度を保持して重縮合反応を進行させた。減圧開始から180分が経過しても所定の軟化温度を示す値まで撹拌翼のトルクは上昇しなかったため、そこで反応系への窒素の導入を開始し、窒素導入直後に撹拌を停止した。窒素導入により反応系内を常圧に戻し、反応装置底部より反応物を取り出し、冷却してポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の特性値を表1に示す。
【0064】
次に、上記で得られたポリエステル樹脂を用いて、実施例1と同様の方法でトナー化を行った。トナーの評価結果を表1に示す。
【0065】
実施例1〜実施例8の結果から、全酸成分を100mol%としたときに三価以上のカルボン酸成分が40mol%以上60mol%以下の範囲であり、重合触媒未使用(0ppm)又は100ppm以下の使用の場合、あるいは、GPCを用いた分子量測定において、分子量5,000以下が38wt%以上、かつ分子量200,000以上が7wt%以上である場合には、得られる樹脂を用いたトナーの特性は良好であった。
一方、比較例1〜2の結果から、全酸成分を100mol%としたときに三価以上のカルボン酸成分が35mol%と、40mol%より少ない場合は、分子量分布が狭くなる傾向にあり、低温定着性の確保が困難であった。
また、比較例3の結果から、全酸成分を100mol%としたときに三価以上のカルボン酸成分が65mol%と、60mol%を超えている場合は、得られる樹脂のTgが低下する傾向となり、保存安定性の確保が困難であった。
【0066】
【表1】
BPA−PO2.3付加物ポリオキシプロピレン−(2.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン