(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
表面に熱融着性バインダーが複数配置された強化繊維基材であって、該強化繊維基材を構成する強化繊維の平均直径の300倍未満の投影面積円相当径を有する熱融着性バインダーの面積の合計が、該表面に配置された熱融着性バインダーの総面積に対して1%以上10%以下である強化繊維基材の製造方法であって、
強化繊維基材上に、バインダー透過孔による透過パターンを有し所要の厚みを有するバインダー透過シートを配する工程と、
バインダー透過シートの表面に粉末状バインダーを配する工程と、
バインダー透過孔に粉末状バインダーを貯留する工程と、
バインダー透過シートを強化繊維基材のバインダー塗布面から相対的に離間させる工程と、
この離間時に、透過孔に貯留されている粉末状バインダーを強化繊維基材のバインダー塗布面に転移させる工程、
を有する、表面に熱融着性バインダーが複数配置された強化繊維基材の製造方法。
所定の透過パターンを有する前記バインダー透過シートを連続的に用いて、実質的に同一な熱融着性バインダーの集合パターンを基材上に繰り返し配置させる、請求項1〜3のいずれかに記載の強化繊維基材の製造方法。
バインダー透過シートの開口率を調整することにより、1ドット状又は1ライン状のバインダー塗布量を制御することを含む、請求項3〜5のいずれかに記載の強化繊維基材の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、粉末状バインダーをドット状またはライン状に散布するにあたっては、ノズルやスプレーの散布口と強化繊維基材の散布面との間には必然的に所要の間隔が置かれる。
【0007】
そのため、この従来の散布手段により強化繊維基材の散布面に粉末状バインダーをドット状またはライン状に均等に散布しようとしても、バインダーはノズルやスプレーの散布口から強化繊維基材の散布面へ向けて拡がりをみせて飛散しやすく、作業環境によってはこの飛散が顕著となることがあった。
【0008】
このバインダーは、プリフォーム形成時には、これら基材間の接着部として機能するが、バインダーが強化繊維基材上に拡がりをみせて飛散すると、基材間に想定外に大きなフィルム層が形成されてしまうことがあり、この場合、RTM成形時において繊維強化基材積層物の厚み方向へのマトリックス樹脂の流動が阻害され、得られる成形物の品質が損なわれることがあった。
【0009】
また、このバインダー散布に際しては、前述の散布面以外へのバインダーの飛散を避けることが難しく、バインダー付与時の周辺の作業環境が低下する傾向にあり、この飛散を抑えるためにバインダーの散布速度を落とすと、プリフォームの生産性が損なわれる傾向にあった。
【0010】
本発明は、こうした課題を解決するためになされたものであって、その具体的な目的は、賦形布帛に優れた形状保持性とマトリックス樹脂含浸性を付与するとともに、優れた生産性を有する強化繊維基材の製造方法とを提供することであり、この強化繊維基材を用いた賦形布帛の製造方法、及び
この賦形布帛を用いた繊維強化プラスチック構造体
の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明の要旨は以下の通りである
。
【0013】
(
1)
表面に熱融着性バインダーが複数配置された強化繊維基材であって、該強化繊維基材を構成する強化繊維の平均直径の300倍未満の投影面積円相当径を有する熱融着性バインダーの面積の合計が、該表面に配置された熱融着性バインダーの総面積に対して1%以上10%以下である強化繊維基材の製造方法であって、
強化繊維基材上に、バインダー透過孔による透過パターンを有し所要の厚みを有するバインダー透過シートを配する工程と、
バインダー透過シートの表面に粉末状バインダーを配する工程と、
バインダー透過孔に粉末状バインダーを貯留する工程と、
バインダー透過シートを強化繊維基材のバインダー塗布面から相対的に離間させる工程と、
この離間時に、透過孔に貯留されている粉末状バインダーを強化繊維基材のバインダー塗布面に転移させる工程と
を有する、表面に熱融着性バインダーが
複数配置された強化繊維基材の製造方法。
(
2)さらに、上記の転移された粉末状バインダーを強化繊維基材上に融着させる工程を有する、(
1)記載の強化繊維基材の製造方法。
(
3)前記透過パターンが、ドット及び/又はライン形状を有する、前記(
1)又は(
2)記載の強化繊維基材の製造方法。
(
4)所定の透過パターンを有する前記バインダー透過シートを連続的に用いて、実質的に同一な熱融着性バインダーの集合パターンを基材上に繰り返し配置させる、前記(
1)〜(
3)のいずれかに記載の強化繊維基材の製造方法。
(
5)
強化繊維基材上に、バインダー透過孔によるドット及び/又はライン形状の透過パターンを有し所要の厚みを有するバインダー透過シートを配する工程と、
バインダー透過シートの表面に粉末状バインダーを配する工程と、
バインダー透過孔に粉末状バインダーを貯留する工程と、
バインダー透過シートを強化繊維基材のバインダー塗布面から相対的に離間させる工程と、
この離間時に、透過孔に貯留されている粉末状バインダーを強化繊維基材のバインダー塗布面に転移させる工程とを有し、
前記バインダー透過孔に粉末状バインダーを貯留する工程において、ヘラによるバインダー透過シートへの押付力を調整することにより、1ドット状又は1ライン状のバインダーの塗布量を制御することを含む、
表面に熱融着性バインダーが配置された強化繊維基材の製造方法。
(
6)バインダー透過シートの開口率を調整することにより、1ドット状又は1ライン状のバインダーの塗布量を制御することを含む、前記(
3)〜(
5)のいずれかに記載の強化繊維基材の製造方法。
【0014】
(
7)前記(
1)〜(
6)のいずれかに記載の製造方法によって得た複数枚の強化繊維基材をバインダー配置面が同一面を向くように積層する工程と、
積層された複数枚の強化繊維基材を二以上の賦形金型間に挟んで加熱加圧して、各強化繊維基材を賦形すると同時にバインダーを融着させる工程と
を有する、賦形布帛の製造方法。
【0015】
(8)前記(7)に記載の製造方法により得た前記賦形布帛にマトリックス樹脂を含浸・硬化させる、繊維強化プラスチック構造体
の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、上述のとおりの基本的構成を備えているため、賦形布帛に優れた形状保持性とマトリックス樹脂含浸性を付与するとともに、優れた生産性を有する強化繊維基材とその製造方法とを提供することが可能であり、簡易な補助具を使って簡単な操作で周辺の環境の影響を受けずに、強化繊維基材上に所定のパターンをもって定量の粉末状バインダーをドット状またはライン状に正確に塗布することができ、粉末の飛散による周辺の作業環境の低下も避けることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の強化繊維基材を構成する強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、チラノ繊維、アラミド繊維、シリコンナイトライド繊維、高強度ポリエステル繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、ナイロン繊維、鉱物繊維などが挙げられる。これらの中でも、比強度及び比弾性に優れることから、炭素繊維が好ましい。強化繊維として炭素繊維を使用する場合は、その平均直径(単繊維)が、例えば、3〜20μm程度のものを使用することができる。
また、本発明の強化繊維基材は、上記の強化繊維を含む、織物、編物、ノンクリンプファブリック、不織布などの布帛から構成される。
【0019】
本発明の強化繊維基材の表面には、目的とする賦形布帛の形状に応じて設定した、所定の形状の熱融着性バインダーが配置される。
この熱融着性バインダーは、常温で固体である樹脂であり、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂から選択して用いることができる。
熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂などが挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などが挙げられる。
上記の樹脂は、RTMにおいて使用するマトリックス樹脂との相溶性等を考慮して、一種以上を適宜選択して使用することができる。
【0020】
この熱融着性バインダーは、上述の賦形布帛の製造時に、積層された強化繊維基材を加熱することでこれらを熱融着させ、この賦形布帛をRTMに供するまで、この賦形布帛の形状を保持させる機能を有するものである。
この熱融着性バインダーは、例えば、粉体の集合体が基材上に所定の形状に配置された状態であっても良いが、熱融着性バインダーの形状安定性や、強化繊維基材の積層時の作業性等に優れることから、所定の形状に一体化された状態で、強化繊維基材上に接着されているのが好ましい。上記のように粉体の熱融着性バインダーが基材上に配置されている場合には、この状態で、粉体の熱融着性バインダーを加熱することで溶融一体化させ、これを基材上に固定させることができる。
【0021】
本発明を構成する熱融着性バインダーの厚みは、目的とする賦形布帛の表面の凹凸を低減できることから、強化繊維の平均直径の300倍以下とするのが好ましい。
一方、強化繊維基材へのバインダー塗布の作業性や本発明の強化繊維基材の生産性を考慮する場合においては、本発明を構成する熱融着性バインダーの厚みは、600μm以下とするのが好ましく、300μm以下とするのがより好ましい。
【0022】
本発明の表面に熱融着性バインダーが配置された本発明の強化繊維基材においては、この強化繊維基材を構成する強化繊維の平均直径の300倍未満の投影面積円相当径を有する熱融着性バインダーの面積の合計が、該表面に配置された熱融着性バインダーの総面積に対して10%以下である必要がある。
【0023】
これは、この面積の合計が上記熱融着性バインダーの総面積の10%を超えると、上記の賦形布帛の形状保持性が損なわれる傾向にあるとともに、バインダー塗布時のバインダー飛散物に起因する、想定外の微小バインダー領域が、目的とするバインダーの周辺に多く形成されるために、RTMによる繊維強化プラスチック構造体の製造時における、RTM樹脂の層間流路が閉塞され、賦形布帛のマトリックス樹脂含浸性が低下する傾向にあるためである。好ましくは、8%以下であり、より好ましくは5%以下である。
【0024】
また、本発明の強化繊維基材においては、上記の面積の合計を上記熱融着性バインダーの総面積の1%以上とすることによって、この強化繊維基材の生産性を損ねることなく、上記の賦形布帛の形状保持性と繊維強化プラスチック構造体のマトリックス樹脂含浸性を維持させることができる。より好ましくは2%以上であり、さらに好ましくは3%以上である。
【0025】
ここで、投影面積円相当径とは、ヘイウッド径として知られている円相当径のことであり、本発明においては、強化繊維基材の表面に配置された個々の熱融着性バインダーにおける、強化繊維基材表面上への投影面積と等しい面積を持つ円の直径を意味する。
【0026】
本発明の強化繊維基材においては、この強化繊維基材の面積に対する、上記の熱融着性バインダーの総面積の比率が5〜70%の範囲であることが好ましい。
【0027】
これは、この比率を5%以上とすることによって、上記の賦形布帛を構成する強化繊維基材間のバインダー剥離強度が充分なレベルとなり、賦形布帛の形状保持性が良好となる傾向にあるためである。好ましくは10%以上であり、より好ましくは20%以上である。また、この比率を70%以下とすることによって、上記の賦形布帛を用いたRTMの際に、強化繊維基材間のマトリックス樹脂流路が閉塞されることに起因する、目的とする繊維強化プラスチック構造体のマトリックス樹脂含浸不良が生じにくくなる傾向にあるためである。好ましくは、60%以下であり、より好ましくは50%以下である。
【0028】
本発明の強化繊維基材においては、ふるい径が上記強化繊維の平均直径の3000倍以下である熱融着性バインダーが配置されるのが好ましい。これは、このふるい径が、上記強化繊維の平均直径の3000倍以下とすることによって、上記の賦形布帛を用いたRTMの際に、強化繊維基材間の樹脂流路が閉塞されることに起因する、目的とする繊維強化プラスチック構造体のマトリックス樹脂含浸不良が生じにくくなる傾向にあるためである。好ましくは、2500倍以下であり、より好ましくは2000倍以下である。
【0029】
また、本発明の強化繊維基材においては、バインダーとして基材上に配置される熱融着性バインダーのふるい径が、上記強化繊維の平均直径の300倍以上であることが、上記の賦形布帛の形状保持性に優れる傾向にあるので好ましい。より好ましくは500倍以上であり、さらに好ましくは800倍以上である。
【0030】
ここで、本発明におけるふるい径とは、強化繊維基材の表面に配置された、個々の熱融着性バインダーと同一形状の固形物を真円形の目開きを有するふるいに掛けた場合に、これを通過させることのできる目開きの最小値を意味する。
【0031】
このバインダーを目的として配置される熱融着性バインダーの形状は特に限定されるものではなく、例えば、ドット状や不連続なライン状でもよく、連続的なライン状であっても良い。
【0032】
本発明の強化繊維基材おいては、上記の賦形布帛の形状を考慮して、上記の熱融着性バインダーの形状やこの配置位置を適宜選択することができ、さらに、強化繊維基材の表面に実質的に同一な集合パターンを繰り返し配置させることによって、バインダー配置の高精度化と短時間化を両立させることができる。
【0033】
また、この強化繊維基材が積層された賦形布帛には、実質的に同一な熱融着性バインダーの集合パターンを各層に配置させることができるため、この品質が安定する。従って、この賦形布帛を使用することによって、物性のバラツキの少ない繊維強化プラスチック構造体を製造することができる。
【0034】
上記の本発明の強化繊維基材は、例えば、下記の工程を実施することによって製造することができる。
強化繊維基材上に、バインダー透過孔による透過パターンを有し所要の厚みを有するバインダー透過シートを配する工程、
バインダー透過シートの表面に粉末状バインダーを配する工程、
バインダー透過孔に粉末状バインダーを貯留する工程、
バインダー透過シートを強化繊維基材のバインダー塗布面から相対的に離間させる工程と、
この離間時に、透過孔に貯留されている粉末状バインダーを強化繊維基材のバインダー塗布面に転移させる工程。
【0035】
上記の工程を採用することによって、基材上への粉末バインダーの塗布ムラを抑制できるとともに、バインダーの飛散を抑制しながら、この塗布速度を向上させることができる。
また、上記の工程を採用することによって、バインダー透過シートに形成されるパターンにおけるバインダー透過孔の配置密度を適宜変更できるとともに、粉末バインダーの形状と寸法を設計通りに正確に再現させることができるため、賦形布帛の賦形形状やRTM時におけるマトリックス樹脂含浸性を考慮したバインダー塗布密度の調整が可能となる。
【0036】
上記の工程に加えて、さらに、上記の転移された粉末状バインダーを強化繊維基材上に融着させる工程を採用することもでき、これによって、製造される強化繊維基材上に配置された熱融着性バインダーの形状安定性や、賦形布帛の成形に際して強化繊維基材を積層する時の作業性等を向上させることができる。
【0037】
上記の工程で使用する粉末状バインダーは、常温で固形であり、加熱による熱融着性を発現するものを使用することができ、上記の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂から適宜選択することができる。
【0038】
また、この粉末状バインダーの平均粒子径は、10〜300μmの範囲であることが好ましい。これは、この平均粒子径を10μm以上とすることによって、バインダー塗布時におけるバインダーの飛散を抑制できる傾向にあるためである。より好ましくは30μm以上であり、さらに好ましくは50μm以上である。また、この平均粒子径を300μm以下とすることによって、バインダーと強化繊維基材との密着性が良好となる傾向にあるためである。より好ましくは250μm以下であり、さらに好ましくは200μm以下である。
【0039】
上記の工程で使用するバインダー透過シートにおいては、上記の賦形布帛の形状を考慮して、例えば、ドット及び/ 又はライン形状からなるバインダー透過孔による透過パターンを適宜選択することができる。
【0040】
また、このような所定の透過パターンを有するバインダー透過シートを連続的に用いて、実質的に同一なバインダーの集合パターンを基材上に繰り返し配置させることができ、これによって、バインダー配置の高精度化と短時間化を両立させることができる。
【0041】
このバインダー透過シートの素材は、特に限定されるものではなく、例えば、合成樹脂製モノフィラメントや紡績糸、ステンレススチール線等を使って織られたメッシュ織物や、多孔の合成樹脂板、金属板の中から適宜選択して使用することができるが、表面に凹凸のある強化繊維基材への追随性に優れる点から、メッシュ織物が好ましい。
ここでメッシュ織物を用いた場合のメッシュの目の大きさは、特に限定されるものではないが、粉末状バインダーのメッシュへの透過性の点から、100〜1000μmの範囲とするのが好ましい。
【0042】
また、このバインダー透過シートの厚みは、特に限定されるものではないが、強化繊維基材への追随性と耐久性の点から、30〜300μmの範囲とするのが好ましい。
【0043】
また、上述のバインダー透過孔に粉末状バインダーを貯留する工程において、例えばヘラを用いてバインダー透過シートへの押付力を調整することで、1ドット状又は1ライン状のバインダーの塗布量を制御することによって、無孔領域の粉末状バインダーの膜形成を抑制することができ、RTM時の基材の厚さ方向のマトリックス樹脂の流動がスムーズとなる傾向にある。
【0044】
さらに、特定箇所のバインダー透過シートの開口率を変更することにより、例えば1ドット状又は1ライン状のバインダーの塗布量を調整することによって、強化繊維基材に対するバインダーの接着強度を的確に制御することができ、この接着強度を局所的に高めることもできるため、複雑な形状の賦形布帛であっても、これに充分な形態保持力を付与することができる。
【0045】
上記の賦形布帛は、上記工程によって製造される本発明の強化繊維基材を複数枚準備し、これらをバインダー配置面が同一面を向くように積層し、さらに、この積層された複数枚の強化繊維基材を二以上の賦形金型間に挟んで加熱加圧して、各強化繊維基材を賦形すると同時に強化繊維基材間に存在するバインダーを融着させることによって製造することができる。
この加熱加圧条件は、賦形布帛の形状やバインダーの種類等に応じて適宜選択することができる。
【0046】
RTMを利用して、本発明によって製造される賦形布帛にマトリックス樹脂を含浸・硬化させることによって、繊維強化プラスチック構造体を製造することができる。
このRTMの条件やマトリックス樹脂の種類は、繊維強化プラスチック構造体の形状や用途に応じて適宜選択することができる。
【0047】
以下、本発明に係る強化繊維基材及びその製造方法、並びに賦形布帛の形成方法の代表的な実施形態を図面を参照しながら説明する。本実施形態では、前記賦形布帛としてRTM時に使われるプリフォームの形成例について説明する。
【0048】
RTMでは、FRPの強化繊維基材として、上述の強化繊維からなる織物、編物、ノンクリンプファブリック、不織布などの布帛の表面に熱融着性バインダーが配置されたものを使用し、この強化繊維基材を複数枚積層して積層体を形成し、この積層体をプリフォーム形成金型の下型に載置して上型を下降させて加熱加圧し、所定の形状をもつプリフォーム(賦形布帛)を形成する。このとき、本実施形態では強化繊維基材の表面には、プリフォームの保形のため、成形型の加熱加圧により溶融して繊維同士を局部的に接合する熱可塑性樹脂製の粉末状バインダーがドット状に予め塗布された後に、加熱されることでフイルム状のバインダーとして配置されている。プリフォーム形成金型の一部をバッグフィルムで構成し型内を真空引きするなども可能である。ドット状に塗布されたバインダーが加熱溶融されて繊維同士を局部的に接合しても、RTM成形時において繊維強化基材積層物の厚み方向へのマトリックス樹脂の流路が確保されたプリフォームの形成が可能となる。
【0049】
次いで、前記プリフォームはFRP成形型に移され型締めしたのち、必要に応じ型内を減圧しつつ、前記プリフォームの端部から積層面に沿う方向に、あるいは積層面と直交する方向にマトリックス樹脂を注入することにより、該強化繊維基材の積層体内に樹脂を含浸させたのち、硬化又は固化してFRPを成形する。また成形型の一部をバッグフィルムで構成し型内を真空引きすることにより、マトリックス樹脂をプリフォームに含浸させる成形も可能である。
【0050】
図1は、本実施形態に係るプリフォームの具体的な形成方法の一部である強化繊維基材10の表面に粉末状バインダー11をドット状に塗布する様子を示している。この粉末状バインダー11の塗布工程では、一枚のバインダー透過シート12と、同バインダー透過シート12を緊張状態で接着固定する第1〜第4の4つの枠材13a〜13dからなる枠体13と、一枚の矩形板状のヘラ14とが使われる。前記バインダー透過シート12としては、通常はナイロン、テトロンなどの合成樹脂製モノフィラメントや紡績糸、ステンレススチール線などを使って織られたメッシュ織物が使われるが、場合によっては多孔の合成樹脂板、金属板が使われることもある。
【0051】
前記メッシュ織物からバインダー透過シート12を製作するには、所望のパターンに沿って作られるドット状のバインダー透過孔15の形成部分を残して全面にコーティング剤を塗布してメッシュの開口を塞ぎ、一部コーティング剤を除去してメッシュの開口(目)を形成する。粉末状バインダーは、コーティング剤が除去されたメッシュ部分の目を通して透過する。合成樹脂板や金属板の場合には、所望のパターンに沿って多数のバインダー透過孔15の配設位置を穿孔する。上記ヘラ14の材質は、ゴム製、木製、金属製のいずれかを選択するが、形状は一般に矩形状の平板が使われる。
【0052】
これらの機器を使って、強化繊維基材10の表面に粉末状バインダー11をドット状に塗布するには、前記枠体13を介して前記バインダー透過シート12を前記強化繊維基材10のバインダー塗布面に載せたのち、前記バインダー透過シート12のバインダー塗布面の枠体13の第1の枠材13aに近接する一部領域に所定量の粉末状バインダー11を盛り上げて一塊として載せ、ヘラ14をバインダー透過シート12に押し付けながら、枠体13に沿って移動させる。バインダー11としては、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂などの加熱流動粉末や熱可塑性樹脂粉末を挙げることができる。このヘラ14の移動により、
図3に示すように、粉末状バインダー11はヘラ14によって押し拡げられながら前記バインダー透過シート12の全てのバインダー透過孔15に充填される。このとき、バインダー透過孔15に充填されなかった粉末状バインダー11は、ヘラ14の移動に連れてバインダー透過シート12上を第1枠材13aとは反対側の第3枠材13cへと追い払われ、バインダー透過シート12上に残るバインダー11を払拭しながら第3枠材13cの近接する一部領域に集まる。
【0053】
次に枠体13を強化繊維基材10のバインダーが塗布されていない領域に移動させ、ヘラ14の押し付け方向を反転させて第1枠材13aに向けて前述と同様にヘラ14を移動させ、第3枠材13cの近くに集積していた粉末状バインダー11を第1枠材13a近くに改めて集積する。バインダー透過孔15に充填された粉末状バインダー11の上面が均等面とされたのち、前記枠体13とともに前記バインダー透過シート12を持ち上げて、強化繊維基材10のバインダー塗布面から切り離す。この切り離し時に、前記バインダー透過孔15に充填されている粉末状バインダー11は自重によって強化繊維基材10のバインダー塗布面へと転移する。
図2は、この転移したときの強化繊維基材10上のバインダー11の形状とバインダー透過シート12の構造とを模式的に示している。
【0054】
ところで、強化繊維基材10は長短様々である。前記バインダー透過シート12及び枠体13の大きさに合わせて新たなバインダー透過シート12及び第1〜第4枠材13a〜13dを用意しておくのは困難である。上記の通り、
図1に示されたバインダー透過シート12及び枠体13と同じ機器を使って、例えば
図4に示された長尺の強化繊維基材10の全面に粉末状バインダー11をドット状に塗布しようとする場合には、同図に示すように、強化繊維基材10のバインダー11の塗布領域を二以上に分割して、その分割領域ごとに上述の塗布操作を行うことにより、適用可能となる。
図5は、バインダー塗布面にバインダー11がドット状に塗布された強化繊維基材10の一部を拡大して示すバインダー塗布面の平面図である。
【0055】
上述の説明から理解できるとおり、本発明の強化繊維基材10に対する粉末状バインダーの塗布操作によれば、その塗布形状、塗布寸法、塗布配置のいずれを取っても均整であり、例えばドット状のバインダー形状に大きなバラツキがなく、それらのドット間隔も均一になされるため、後のFRPの成形にあたってもマトリックス樹脂の流路が確保されている。こうして粉末状バインダー11がドット状に塗布された複数枚の強化繊維基材10は、
図6に示したようにバインダー塗布面を同一方向に向けて積み重ねた積層体がプリフォーム形成金型の下型6に載置され、加熱された上型5、下型6を型締め加圧し、又は赤外線やオーブンなどにより積層体を加熱して型締め加圧することにより、バインダー11を溶融させて積層体の構成繊維の一部を接合すると同時に、上型5及び下型6によって賦形されてプリフォーム(賦形布帛)が形成される。型を加熱して型締めする場合、積層体を賦形後、そのまま型をバインダー固化温度以下まで冷却することにより、プリフォーム形状が維持された状態でプリフォームを取り出すことができる。積層体を加熱する場合には、型をバインダー固化温度以下とし、型で積層体を挟むことにより賦形後冷却され、プリフォーム形状が維持されることになる。
【0056】
本発明にあっては、従来のように粉末状バインダーをノズルやスプレーをもって所要の高さから基材表面に散布したり流下させたりしていないため、バインダーの飛散により周辺の環境を悪化させることがなく、また周辺の環境による影響も受けることがない。すなわち、本発明に係る強化繊維基材の製造方法は、上述のとおりバインダー透過シート12を緊張状態で張られた枠体13とヘラ14とだけの極めて簡易な器具をもって実行される。強化繊維基材10への粉末状バインダー11を塗布するには、ヘラ14をバインダー透過シート12に押し付けながら移動させるだけの簡単な操作で、強化繊維基材10に所定のパターンをもって定量の粉末状バインダー11を所定の間隔をおいてドット状またはライン状に正確に塗布することができる。
【0057】
また、バインダー塗布後の強化繊維基材の取扱い性を向上させるため、積層前のバインダー塗布直後に赤外線加熱などで定着させることができる。本発明は、簡易な器具のため、自動化も容易であり、また所定形状に切り出した強化繊維基材にバインダーを塗布する工程だけでなく、強化繊維基材の製造工程の中で連続的にバインダーを塗布し、赤外線加熱などで定着させることもでき、ロール状の強化繊維基材を原反として、別工程で同様にバインダー塗布、定着も可能である。
【0058】
ここで、上述のとおりヘラ14によるバインダー透過シート12への押付力を調整し、あるいはバインダー透過シート12の開口率を調整することにより、1ドット状又は1ラインごとのバインダー11の塗布量を制御すれば、プリフォームとしての形態を確実に保持することができ、更には、バインダー透過シート12のパターンを構成するバインダー透過孔15の配置密度を調整することにより、強化繊維基材10におけるバインダーの接着強度が的確に制御でき、たとえ複雑な形態のプリフォームであっても、その形態保持力を局部的に高めることができる。
【0059】
本発明によれば、特にパターンどおりに粉末状バインダー11を塗布することができるため、強化繊維基材10の特定の部位における粉末状バインダー11の塗布量の増減調整が簡易にかつ確実に行える。また、粉末状バインダー11の塗布操作がヘラ14の摺動によるため、その押付け力を調整することにより無孔領域の粉末状バインダー11の膜形成が抑制でき、RTM成形法における積層された強化繊維基材10の厚さ方向のマトリックス樹脂の流動が円滑化される。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
(実施例1)
炭素繊維ノンクリンプファブリック(TK Industries社製、TKI300B127T、炭素繊維の平均直径:約7μm)に、粉体バインダー(Hexion社製Epikote 05390)を塗布するため、Φ6.2mm、ピッチ10mm、正方配列に開口するスクリーンを使用した。
ノンクリンプファブリックにスクリーンを乗せて密着させ、スクリーン上の一辺端部にバインダーを貯留し、ゴムヘラによって、貯留したバインダーを対向する辺へ、移動させるスクリーン印刷方式により、スクリーンの開口部を通して粉体バインダーをノンクリンプファブリックに転写させ、スクリーンを外して、バインダーを塗布した。
さらに、赤外線を照射してバインダーを溶融させた後に冷却することで、これを定着させ、ふるい径5.7〜6.3mmのドット状のバインダーの面積率が26%、投影面積円相当径が1.5〜1.8mmの微小ドット状のバインダーの面積率1.0%(熱融着性バインダーの総面積に対して3.7%)である強化繊維基材が得られた。
また、この強化繊維基材を複数枚準備し、これらのバインダー定着側が同一面を向くように積層した後に賦形金型間に挟んで加熱加圧することで、賦形布帛を得た。この賦形布帛は、充分な層間の接着強度を有しており、形状安定性に優れていた。
【0061】
(比較例1)
スクリーン印刷方式を行わず、ノンクリンプファブリック上に粉体バインダーを散布した以外は、実施例1と同様な条件で、ノンクリンプファブリックの面積に対するバインダーの総面積の比率が27%である強化繊維基材を製造した。
この強化繊維基材においては、投影面積円相当径が0.9〜1.7mmの微小ドットの強化繊維基材に対する面積率は、12.6%(熱融着性バインダーの総面積に対して46.7%)であった。
また、この強化繊維基材を複数枚準備し、これらのバインダー定着側が同一面を向くように積層した後に賦形金型間に挟んで加熱加圧することで賦形布帛を得たが、この賦形布帛は、形状安定性に劣っていた。