(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
純NiにCが添加された溶製材を用いて、熱間圧延および冷間圧延を行うことによって、0.005質量%以上0.50質量%以下のCと、Niと、不可避不純物とを含むNi合金から構成されるNi合金板材を作製し、
99質量%以上のCuを含む一対のCu板材により前記Ni合金板材を挟み込んだ状態で、圧延および拡散焼鈍を行うことによって、前記Ni合金から構成されるNi合金層と、前記Ni合金層の両面にそれぞれ接合され、99質量%以上のCuを含む一対のCu層と、を備えるクラッド材を作製する、二次電池の負極集電体用クラッド材の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1では、ニッケル基金属層の厚さをクラッド材の全体の厚さに対して変化させることによって、3層構造のクラッド材からなる負極集電体の機械的強度の向上を図っている。しかしながら、上記特許文献1のクラッド材では、銅層よりもニッケル基金属層の電気抵抗(体積抵抗率)が大きいので、銅層に対するニッケル基金属層の厚みの割合が大きくなるに従い、クラッド材の電気抵抗(体積抵抗率)が大きくなってしまう。このため、機械的強度の向上のために銅層に対するニッケル基金属層の厚みを大きくするのは、体積抵抗率が大きくなってしまうため限界がある。したがって、負極集電体のさらなる機械的強度の向上には、クラッド材の各層の厚み比率を変える以外の手段が要求されている。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、クラッド材の各層の厚み比率を変える以外の手段により、負極集電体の電気抵抗(体積抵抗率)が大きくなるのを抑制しながら、負極集電体のさらなる機械的強度の向上を図ることが可能な二次電池の負極集電体用クラッド材およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、上記した従来のクラッド材を構成する金属材料に特に着目して鋭意検討した結果、上記目的を達成可能な下記のような構成を見出した。この発明の第1の局面による二次電池の負極集電体用クラッド材は、0.005質量%以上0.50質量%以下のCと、Niと、不可避不純物とを含むNi合金から構成されるNi合金層と、Ni合金層の両面にそれぞれ接合され、99質量%以上のCuを含む一対のCu層と、を備える。
【0010】
この発明の第1の局面による二次電池の負極集電体用クラッド材では、上記のように、Ni合金層を、0.005質量%以上0.50質量%以下のC(炭素)と、Ni(ニッケル)と、不可避不純物とを含むNi合金から構成する。これにより、0.005質量%以上のCを含むNi合金からNi合金層を構成することによって、0.005質量%未満のCを含むNi合金からNi合金層を構成する場合と比べて、Ni合金の機械的強度を向上させることができる。この結果、Ni合金層とNi合金層の両面にそれぞれ接合された一対のCu層とを備えるクラッド材において、クラッド材の各層の厚み比率を変える以外の手段により、負極集電体の電気抵抗(体積抵抗率)が大きくなるのを抑制しながら、負極集電体のさらなる機械的強度の向上を図ることができる。
【0011】
また、第1の局面による二次電池の負極集電体用クラッド材では、0.50質量%以下のCを含むNi合金からNi合金層を構成することによって、クラッド材の作製に用いられるNi合金板材の作製時、および、クラッド材の作製時において、Ni合金板材およびクラッド材の圧延性が低下するのをそれぞれ抑制することができる。これにより、クラッド材を容易に所定の厚みに圧延することができるので、クラッド材を負極集電体として容易に用いることができる。
【0012】
上記第1の局面による二次電池の負極集電体用クラッド材において、好ましくは、Ni合金は、Cを0.005質量%以上0.40質量%以下含む。このように構成すれば、0.40質量%以下のCを含むNi合金からNi合金層を構成することによって、Ni合金板材およびクラッド材の圧延性が低下するのをより抑制することができる。
【0013】
上記第1の局面による二次電池の負極集電体用クラッド材において、好ましくは、Ni合金は、Cと、Niと、不可避不純物とのみから構成されている。このように構成すれば、Niに対してC以外の元素が実質的に添加されないNi合金になるので、Ni合金の体積抵抗率が大きくなるのを抑制することができる。
【0014】
この場合、好ましくは、Ni合金は、Cを0.005質量%以上0.20質量%以下含む。さらに好ましくは、Ni合金は、Cを0.10質量%以上0.20質量%以下含む。このように構成すれば、0.005質量%以上(より好ましくは0.10質量%以上)のCを含むNi合金からNi合金層を構成することによって、Ni合金の機械的強度を効果的に向上させることができるので、負極集電体の機械的強度を効果的に向上させることができる。また、0.20質量%以下のCを含むNi合金からNi合金層を構成することによって、Ni合金板材およびクラッド材の圧延性が低下するのを十分に抑制することができる。
【0015】
上記第1の局面による二次電池の負極集電体用クラッド材において、好ましくは、Ni合金は、Cと、Niと、Nbと、不可避不純物とのみから構成されている。このように構成すれば、Niに対してCだけでなくNbを添加することによって、Ni合金の機械的強度を一層向上させることができるので、負極集電体の機械的強度をより一層向上させることができる。
【0016】
上記Ni合金がCとNiとNbと不可避不純物とのみから構成されている構成において、好ましくは、Ni合金は、Nbを3.0質量%以上10.0質量%以下含む。さらに好ましくは、Ni合金は、Nbを4.7質量%以上5.5質量%以下含む。このように構成すれば、3.0質量%以上(より好ましくは4.7質量%以上)のNbを含むNi合金からNi合金層を構成することによって、Ni合金の機械的強度をより一層向上させることができるので、負極集電体の機械的強度をより一層向上させることができる。また、10.0質量%以下(より好ましくは5.5質量%以下)のNbを含むNi合金からNi合金層を構成することによって、Ni合金の体積抵抗率が大きくなるのを抑制することができるので、負極集電体の体積抵抗率が大きくなるのを抑制することができる。
【0017】
上記Ni合金がCとNiとNbと不可避不純物とのみから構成されている構成において、好ましくは、Ni合金は、Cを0.10質量%以上0.40質量%以下含む。さらに好ましくは、Ni合金は、Cを0.19質量%以上0.40質量%以下含む。このように構成すれば、0.10質量%以上(より好ましくは0.19質量%以上)のCとNbとを含むNi合金からNi合金層を構成することによって、Ni合金の機械的強度を効果的に向上させることができる。また、0.40質量%以下のCとNbとを含むNi合金からNi合金層を構成することによって、Nbが添加されているNi合金からNi合金層を構成する場合において、Ni合金板材およびクラッド材の圧延性が低下するのを十分に抑制することができる。
【0018】
この発明の第2の局面による二次電池の負極集電体用クラッド材の製造方法は、純NiにCが添加された溶製材を用いて、熱間圧延および冷間圧延を行うことによって、0.005質量%以上0.50質量%以下のCと、Niと、不可避不純物とを含むNi合金から構成されるNi合金板材を作製し、99質量%以上のCuを含む一対のCu板材によりNi合金板材を挟み込んだ状態で、圧延および拡散焼鈍を行うことによって、Ni合金から構成されるNi合金層と、Ni合金層の両面にそれぞれ接合され、99質量%以上のCuを含む一対のCu層と、を備えるクラッド材を作製する。
【0019】
この発明の第2の局面による二次電池の負極集電体用クラッド材の製造方法では、上記のように、純NiにCが添加された溶製材を用いて、熱間圧延および冷間圧延を行うことによって、0.005質量%以上0.50質量%以下のCと、Niと、不可避不純物とを含むNi合金から構成されるNi合金板材を作製する。これにより、クラッド材の各層の厚み比率を変える以外の手段により、電気抵抗(体積抵抗率)が大きくなるのを抑制しながら、さらなる機械的強度の向上を図ることが可能な負極集電体を作製することができる。また、純NiにCが添加された溶製材を用いて、熱間圧延および冷間圧延を行うことによって、浸炭によりNi合金板材にCを拡散させる場合と異なり、Ni合金板材の表面近傍だけでなくNi合金板材の全体にCを分散させることができるので、Ni合金板材の表面のみの機械的強度だけでなく、Ni合金板材(Ni合金層)の全体に亘って機械的強度を大きくすることができる。さらに、浸炭工程が不要になるので、負極集電体用クラッド材の製造工程を短縮することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、上記のように、クラッド材の各層の厚み比率を変える以外の手段により、負極集電体の電気抵抗(体積抵抗率)が大きくなるのを抑制しながら、負極集電体のさらなる機械的強度の向上を図ることが可能な二次電池の負極集電体用クラッド材およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
まず、
図1および
図2を参照して、本発明の一実施形態による負極集電体用クラッド材50(以下、「クラッド材50」という。)を用いた電池100の構造について説明する。
【0024】
(電池の構造)
本発明の一実施形態による電池100は、
図1に示すように、いわゆる円筒型のリチウムイオン二次電池である。この電池100は、円筒状の筐体1と、筐体1の開口を封止する蓋材2と、筐体1内に配置される蓄電要素3とを備えている。
【0025】
筐体1内には、蓄電要素3と電解液(図示せず)とが収容されている。蓋材2は、アルミニウム合金等から構成されており、電池100の正極端子(電池正極)を兼ねている。蓄電要素3は、正極4と、負極5と、正極4と負極5との間に配置された絶縁性のセパレータ6とが巻回されることによって形成されている。正極4は、マンガン酸リチウムなどの正極材料(正極活物質)と、アルミニウム箔からなる正極集電体とを含んでいる。正極集電体の表面には、バインダーなどにより正極材料が固定されている。また、正極4には、蓋材2と正極4とを電気的に接続するための正極リード材7が固定されている。
【0026】
負極5は、
図2に示すように、負極材料5aと、バインダーなどにより負極材料5aが固定される負極集電体5bとを含んでいる。負極材料5aは、たとえば、炭素、SnOまたはSiOなどのリチウムの挿入および脱離が可能な材料から構成されている。負極材料5aは、リチウムの挿入および脱離に応じて、それぞれ、膨張および収縮をする。
【0027】
負極集電体5bは、Ni合金から構成されるNi合金層51と、Ni合金層51の厚み方向(Z方向)の両面51aおよび51bにそれぞれ接合されたCu層52および53とを備える、3層構造のクラッド材50から構成されている。なお、Ni合金層51とCu層52との接合界面およびNi合金層51とCu層53との接合界面では、金属同士の原子レベルでの接合が生じている。また、Cu層52のNi合金層51と接合される側とは反対側の表面52a、および、Cu層53のNi合金層51と接合される側とは反対側の表面53aには、それぞれ、負極材料5aが固定されている。
【0028】
また、
図1に示すように、負極5には、筐体1の内底面1aと負極5とを電気的に接続するための負極リード材8が固定されている。具体的には、負極リード材8は、負極集電体5bに超音波溶接により接合されている。なお、負極リード材8は、負極材料5aが固定されていない箇所(図示せず)に接合されている。また、負極リード材8は、筐体1の内底面1aに抵抗溶接により接合されている。
【0029】
(Ni合金の組成)
ここで、本実施形態では、Ni合金層51を構成するNi合金は、0.005質量%以上0.50質量%以下のCと、Niと、不可避不純物とを含んでいる。この場合、Ni合金は、Cを約0.40質量%以下含むのが好ましい。
【0030】
また、本実施形態では、Ni合金層51を構成するNi合金は、Nb、Taなどの希少な元素が添加されていない合金から構成されてもよい。具体的には、Ni合金は、0.005質量%以上0.50質量%以下のCと、Niと、不可避不純物とのみから構成されてもよい。これにより、Niに対してC以外の元素が実質的に含まれていないので、Ni合金の体積抵抗率が大きくなるのを抑制することが可能である。
【0031】
この場合、CとNiと不可避不純物とのみから構成されるNi合金は、Cを約0.20質量%以下含むのが好ましい。これにより、Ni合金板材の作製時において、溶融Ni内にCを容易に溶け込ませることができるので、より確実にNi合金層51を形成することが可能である。また、CとNiと不可避不純物とのみから構成されるNi合金は、Cを0.10質量%以上含むのが好ましい。これにより、Ni合金にCを添加しない場合と比べて、Ni合金層51を有する3層構造のクラッド材50の機械的強度(引張強度)を約1.35倍以上に十分に向上させることが可能である。
【0032】
また、本実施形態では、Ni合金層51を構成するNi合金は、0.005質量%以上0.50質量%以下のCと、Niと、不可避不純物とに加えて、Nb、TaおよびCrのいずれか1種または複数種を10.0質量%以下含んでいてもよい。これにより、Ni合金層51およびクラッド材50の機械的強度を向上させることが可能である。
【0033】
この場合、好ましくは、Nb、TaおよびCrのいずれか1種または複数種を含むNi合金は、0.005質量%以上0.50質量%以下のCと、Niと、Nbと、不可避不純物とのみから構成するのがよい。さらに、Nbが添加されたNi合金は、Nbを3.0質量%以上(さらに好ましくは4.7質量%以上)含むのがより好ましい。これにより、Ni合金層51の機械的強度を向上させることが可能である。また、Nbが添加されたNi合金は、Nbを10.0質量%以下(さらに好ましくは5.5質量%以下)含むのがより好ましい。これにより、負極集電体5bの電気抵抗(体積抵抗率)が大きくなるのを抑制しながら、Ni合金層51およびクラッド材50の機械的強度を向上させることが可能である。
【0034】
また、Nbが添加されたNi合金は、Cを約0.40質量%以下含むのが好ましい。これにより、Ni合金板材の作製時において、溶融Ni内にCを容易に溶け込ませることができるので、より確実にNi合金層51を形成することが可能である。また、Nbが添加されたNi合金は、Cを0.10質量%以上含むのが好ましい。これにより、Ni合金にCを添加しない場合と比べて、Ni合金層51を有する3層構造のクラッド材50の機械的強度(引張強度)を約1.04倍以上に向上させることが可能である。さらに、Nbが添加されたNi合金は、Cを0.19質量%以上含むのがより好ましい。これにより、Ni合金にCを添加しない場合と比べて、Ni合金層51を有する3層構造のクラッド材50の機械的強度(引張強度)を約1.06倍以上により向上させることが可能である。
【0035】
なお、Ni合金には、不可避不純物として、Si、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)、Fe(鉄)、Mg(マグネシウム)、O(酸素)およびN(窒素)などが含まれることがある。しかし、不可避不純物を多く含むNi合金は体積抵抗率が大きくなってしまうことがあるので、不可避不純物の含有率は、0.50質量%以下が好ましく、0.20質量%以下がより好ましい。
【0036】
具体的には、Ni合金は、不可避不純物として、Siを0.02質量%以下含んでいてもよい。Ni合金は、不可避不純物として、Mnを0.05質量%以下含んでいてもよい。Ni合金は、不可避不純物として、Alを0.01質量%以下含んでいてもよい。Ni合金は、不可避不純物として、Feを0.02%以下含んでいてもよい。Ni合金は、不可避不純物として、Mgを0.01質量%以下含んでいてもよい。Ni合金は、不可避不純物として、Oを0.001質量%以下含んでいてもよい。Ni合金は、不可避不純物として、Nを0.001質量%以下含んでいてもよい。
【0037】
Cu層52および53は、共に、99質量%以上のCu(銅)を含んでいる。たとえば、Cu層52および53は、Cuを99.96質量%以上含む無酸素銅、Cuを99.75質量%以上含むりん脱酸銅、または、Cuを99.9質量%以上含むタフピッチ銅などから構成されている。なお、Cu層52とCu層53とは、同一の組成を有するCu材から形成されてもよいし、異なる組成を有するCu材から形成されてもよい。
【0038】
また、Z方向における、Cu層52とNi合金層51とCu層53との厚み比率(Cu層52の厚み:Ni合金層51の厚み:Cu層53の厚み)が、1:3:1になるようにクラッド材50が形成されている。なお、Cu層52とNi合金層51とCu層53との厚み比率は、1:3:1に限定されない。つまり、Ni合金層51の厚みがCu層52および53の厚みよりも大きい場合に限らず、Ni合金層51の厚みがCu層52および53の厚みよりも小さくてもよいし、等しくてもよい。また、Cu層52の厚みとCu層53の厚みとが異なってもよい。
【0039】
(負極集電体用クラッド材の製造工程)
次に、
図2〜
図5を参照して、負極集電体5bとして用いられるクラッド材50の製造工程について説明する。
【0040】
まず、0.005質量%以上0.50質量%以下のCが添加されたNi合金のインゴット151(
図4参照)を準備する。なお、Ni合金のインゴット151に、Nb、TaおよびCrのいずれか1種または複数種が添加されてもよい。このNi合金のインゴット151は、
図3に示すように、溶融炉101内の溶融NiにCなどの添加元素を含む添加材を添加した後に溶融Niを冷却することによって作製される。なお、Ni合金のインゴット151を、図示しないインゴットケースを用いて鋳塊として作製してもよいし、連続鋳造法により鋳片として作製してもよい。また、インゴット151は、特許請求の範囲の「溶製材」の一例である。
【0041】
そして、
図4に示すように、Ni合金のインゴット151に対して熱間圧延を行うことによって、Ni合金の熱間圧延板材251を作製する。具体的には、炉102内にNi合金のインゴット151を配置した状態で、Ni合金のインゴット151を、Ni合金の再結晶温度より高い熱間圧延温度に熱する。そして、熱せられたNi合金のインゴット151を炉102内から取り出して、圧延ロール103を用いて圧延を行うことによって熱間圧延を行う。これにより、Ni合金の熱間圧延板材251が作製される。この際、Ni合金の熱間圧延板材251の厚みは最終のNi合金板材の厚みの約10倍にしてよい。
【0042】
その後、Ni合金の熱間圧延板材251に対して冷間圧延を行う。具体的には、Ni合金の熱間圧延板材251を室温まで冷却し、冷却後の熱間圧延板材251を圧延ロール104を用いて圧延を行うことによって冷間圧延を行う。その後、冷間圧延による歪を除去するために、焼鈍を行う。そして、冷間圧延と焼鈍とを繰り返すことにより、所定の厚みを有するNi合金板材351を作製する。この際、Ni合金板材351の厚みを熱間圧延板材251の厚みの約0.1倍まで圧延してよい。
【0043】
また、99質量%以上のCuを含む一対のCu板材152および153を準備する。そして、
図5に示すように、一対のCu板材152および153とNi合金板材351とを接合する圧延接合工程を行う。具体的には、Ni合金板材351を一対のCu板材152および153によって厚み方向に挟み込んだ状態で、圧延ロール105を用いて圧延を行う。そして、一対のCu板材152および153とNi合金板材351とが接合された板材に対して、拡散焼鈍を行う。具体的には、一対のCu板材152および153とNi合金板材351とが接合された板材を、窒素雰囲気などの非酸化雰囲気にされた焼鈍炉106内を通過させる。これにより、一対のCu板材152および153とNi合金板材351とが接合された板材に対して、非酸化雰囲気下で拡散焼鈍が行われる。なお、非酸化雰囲気としては、窒素雰囲気以外に、水素雰囲気、水素および窒素の混合雰囲気またはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気などであってもよい。
【0044】
そして、一対のCu板材152および153とNi合金板材351とが接合された板材が所定の厚さになるまで、冷間での圧延工程と、非酸化雰囲気での焼鈍工程とを繰り返す。なお、拡散焼鈍および焼鈍が非酸化雰囲気で行われることによって、Cu層52の表面52aおよびCu層53の表面53aに厚みの大きな酸化物層が形成されるのが抑制されるので、酸化物層に起因して、クラッド材50の電気抵抗が大きくなるのを抑制することが可能である。
【0045】
これにより、
図2に示す、Ni合金から構成されるNi合金層51と、Ni合金層51にそれぞれ接合されたCu層52および53とを備えるクラッド材50が作製される。この際、Ni合金層51の厚みが、機械的強度の観点から、クラッド材50の全体の厚みに対して40%以上となるように、クラッド材50を作製することが好ましい。なお、拡散焼鈍を行うことにより、Ni合金層51とCu層52との接合界面およびNi合金層51とCu層53との接合界面に、金属同士の原子レベルでの接合が形成される。この際、クラッド材50の厚みは、最終の負極集電体5bの厚みと同じ、たとえば約5μm以上約50μm以下の厚みとする。その後、クラッド材50を所定の大きさに切断することにより、負極集電体5bが作製される。
【0046】
<本実施形態の効果>
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0047】
本実施形態では、上記のように、Ni合金層51を、0.005質量%以上0.50質量%以下のC(炭素)と、Ni(ニッケル)と、不可避不純物とを含むNi合金から構成する。これにより、0.005質量%以上のCを含むNi合金からNi合金層51を構成することによって、0.005質量%未満のCを含むNi合金からNi合金層を構成する場合と比べて、Ni合金の機械的強度を向上させることができる。この結果、Ni合金層51とNi合金層51の両面51aおよび51bにそれぞれ接合された一対のCu層52および53とを備えるクラッド材50において、クラッド材50の各層の厚み比率を変える以外の手段により、負極集電体5bの電気抵抗(体積抵抗率)が大きくなるのを抑制しながら、負極集電体5bのさらなる機械的強度の向上を図ることができる。
【0048】
また、本実施形態では、0.50質量%以下のCを含むNi合金からNi合金層51を構成する。これにより、クラッド材50の作製に用いられるNi合金板材351の作製時、および、クラッド材50の作製時において、Ni合金板材351およびクラッド材50の圧延性が低下するのをそれぞれ抑制することができる。これにより、クラッド材50を容易に所定の厚みに圧延することができるので、クラッド材50を負極集電体5bとして容易に用いることができる。
【0049】
また、本実施形態では、好ましくは、0.40質量%以下のCを含むNi合金からNi合金層51を構成する。このように構成すれば、Ni合金板材351およびクラッド材50の圧延性が低下するのをより抑制することができる。
【0050】
また、本実施形態では、好ましくは、Ni合金を、Cと、Niと、不可避不純物とのみから構成する。このように構成すれば、Niに対してC以外の元素が実質的に添加されないので、Ni合金の体積抵抗率が大きくなるのを抑制することができる。
【0051】
また、本実施形態では、好ましくは、Cと、Niと、不可避不純物とのみから構成されているNi合金が、0.005質量%以上(より好ましくは0.10質量%以上)のCを含む。このように構成すれば、Ni合金の機械的強度を効果的に向上させることができるので、負極集電体5bの機械的強度を効果的に向上させることができる。
【0052】
また、本実施形態では、好ましくは、Cと、Niと、不可避不純物とのみから構成されているNi合金が、0.20質量%以下のCを含む。このように構成すれば、Cと、Niと、不可避不純物とのみから構成されているNi合金からNi合金層を構成する場合において、Ni合金板材351およびクラッド材50の圧延性が低下するのを十分に抑制することができる。
【0053】
また、本実施形態では、好ましくは、Ni合金を、Cと、Niと、Nbと、不可避不純物とのみから構成する。このように構成すれば、Niに対してCだけでなくNbを添加することによって、Ni合金の機械的強度を一層向上させることができるので、負極集電体5bの機械的強度をより一層向上させることができる。
【0054】
また、本実施形態では、好ましくは、3.0質量%以上(より好ましくは4.7質量%以上)のNbを含むNi合金からNi合金層51を構成する。このように構成すれば、Ni合金の機械的強度をより一層向上させることができるので、負極集電体5bの機械的強度をより一層向上させることができる。
【0055】
また、本実施形態では、好ましくは、10.0質量%以下(より好ましくは5.5質量%以下)のNbを含むNi合金からNi合金層51を構成する。このように構成すれば、Ni合金の体積抵抗率が大きくなるのを抑制することができるので、負極集電体5bの体積抵抗率が大きくなるのを抑制することができる。
【0056】
また、本実施形態では、好ましくは、Cと、Niと、Nbと、不可避不純物とのみから構成されているNi合金が0.10質量%以上(より好ましくは0.19質量%以上)のCを含む。このように構成すれば、Ni合金の機械的強度を効果的に向上させることができる。
【0057】
また、本実施形態では、好ましくは、Cと、Niと、Nbと、不可避不純物とのみから構成されているNi合金が0.40質量%以下のCを含む。このように構成すれば、Ni合金板材351およびクラッド材50の圧延性が低下するのを十分に抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態の製造方法では、純NiにCが添加されたNi合金のインゴット151を用いて、熱間圧延および冷間圧延を行うことによって、Ni合金板材351を作製する。これにより、浸炭によりNi合金板材351にCを拡散させる場合と異なり、Ni合金板材351の表面近傍だけでなくNi合金板材351の全体にCを分散させることができるので、Ni合金板材351の表面のみの機械的強度だけでなく、Ni合金板材351(Ni合金層51)の全体に亘って機械的強度を大きくすることができる。さらに、浸炭工程が不要になるので、クラッド材50の製造工程を短縮することができる。
【0059】
[実施例]
次に、
図6を参照して、上記実施形態の効果を確認するために行った実験(第1〜第3実施例)について説明する。
【0060】
<第1実施例>
第1実施例では、Ni合金を、Cと、Niと、不可避不純物とのみから構成し、Cの組成を異ならせたNi合金板材を作製した。そして、作製したNi合金板材について、機械的強度の指標としての引張強度と、体積抵抗率とを測定した。また、Ni合金から構成されるNi合金層を一対のCu層で挟み込んだ3層構造のクラッド材を作製し、引張強度を測定した。また、クラッド材の体積抵抗率を厚み比率から算出した。
【0061】
(試験材のNi合金板材の作製)
まず、上記実施形態の製造方法に基づいて、下記表1に示す組成(残部はNiと不可避不純物)になるように試験材1〜7のNi合金板材を作製した。具体的には、試験材2〜7に関しては、所定の含有率になるように、溶融炉内の溶融NiにCを添加した後に溶融Niを冷却することによって、試験材のNi合金のインゴットを作製した。一方、試験材1に関しては、Cを添加せずにNi合金のインゴットを作製した。なお、試験材1のNi合金板材におけるCの含有率は、不可避不純物レベルの含有率であり、特許請求の範囲のNi合金の組成条件(0.005質量%以上)を満たしていない。また、試験材7のNi合金板材におけるCの含有率は、特許請求の範囲のNi合金の組成条件(0.50質量%以下)を満たしていない。
【0062】
そして、試験材のNi合金のインゴットを、Ni合金の再結晶温度より高い熱間圧延温度に熱した状態で熱間圧延することによって、Ni合金の熱間圧延板材を作製した。この際、熱間圧延板材の厚みが2mmになるように熱間圧延を行った。
【0063】
その後、熱間圧延において使用上問題ある程度には割れが生じなかった試験材(熱間圧延板材)に対して、室温(25℃)で冷間圧延を行った。その後、冷間圧延による歪を除去するために、焼鈍を行った。そして、冷間圧延と焼鈍とを繰り返すことにより、試験材のNi合金板材を作製した。なお、最後の冷間圧延時において、1mmの厚みを有するNi合金板材を、80%の圧下率で圧延した。これにより、Ni合金板材の厚みを0.2mmにした。
【0064】
そして、作製した試験材のNi合金板材の引張強度を測定した。具体的には、Ni合金板材の圧延方向が引張方向になるように、JIS Z2241に記載のJIS13B号の試験片を、試験材のNi合金板材から複数切り取った。そして、JIS Z2241に準拠して引張試験を行うことにより、複数の試験片の引張強度を測定した。そして、複数の試験片の引張強度の平均を、試験材のNi合金板材の引張強度とした。また、試験材の体積抵抗率を、JIS C2525に準拠して測定した。試験材の引張試験の結果(引張強度)および体積抵抗率を下記の表1に示す。
【0066】
(Ni合金の実験結果)
表1に示すように、試験材1〜4については、Ni合金板材が作製できた一方、試験材5〜7ではNi合金板材が作製できなかった。具体的には、試験材5〜7では、熱間圧延時において、使用上問題がある程度に割れが生じた。これは、添加された炭素の量が多いため、Ni合金の硬度が向上したものの、延性が低下したため、割れが生じたと考えられる。なお、試験材5および6に関しては、Ni合金内のCの含有率が試験材7と比べて小さいので、熱間圧延の条件の変更などにより、割れの発生を抑制することは可能であると考えられる。この観点から、本発明において、Cが0.50質量%以下であれば、Cと、Niと、不可避不純物とのみから構成されているNi合金の適用が可能であると考えられる。
【0067】
また、試験材1〜4においては、Cの含有率を大きくするに従い、Ni合金板材の引張強度が大きくなった。この結果、試験材1〜4のNi合金板材において、Cの含有率が0.005質量%以上の試験材2〜4のNi合金板材は、Cの含有率が0.005質量%未満の試験材1のNi合金板材よりも、引張強度が大きくなった。一方、Cの含有率を大きくするに従い、Ni合金板材の体積抵抗率も大きくなった。しかしながら、試験材2〜4のNi合金板材における体積抵抗率の増加の程度は、特に大きいものではないと考えられる。この点は、Ni合金板材(Ni合金)のみを負極用集電体として用いるのではなく、体積抵抗率の小さなCuから構成される一対のCu層とNi合金層との3層構造のクラッド材を負極用集電体として用いるので、Ni合金板材の体積抵抗率が多少大きくても問題ないと考えられる。
【0068】
(クラッド材の作製)
次に、作製した試験材の内、使用上問題がある程度に割れが生じなかった試験材1〜4を用いて、上記実施形態の製造方法に基づいて、クラッド材を作製した。具体的には、JIS H3100に準拠するC1020(無酸素銅)のCu板材を一対準備した。この際、Cu板材とNi合金板材の厚み比率(Cu板材の厚み:Ni合金板材の厚み:Cu板材の厚み)が1:3:1になるようにCu板材を準備した。
【0069】
そして、試験材1〜4の組成を有するNi合金板材を一対のCu板材によって厚み方向に挟み込んだ状態で圧延を行うことによって、一対のCu板材とNi合金板材とを圧接接合した。この際、一対のCu板材とNi合金板材との合計の厚みが0.5mmになるように冷間圧延を行った。そして、接合された一対のCu板材および試験材1〜4のNi合金板材に対して拡散焼鈍を行った。なお、拡散焼鈍は、窒素雰囲気(非酸化雰囲気)下において、3分間、850℃で保持することによって行った。そして、冷間圧延により、圧下率80%で圧延した。これにより、0.1mmの厚みを有し、Cu層とNi合金層とCu層とがこの順で積層された、比較例1および実施例1〜3の3層構造のクラッド材を作製した。なお、試験材1のNi合金板材を用いて比較例1のクラッド材を作製し、試験材2〜4のNi合金板材を用いて実施例1〜3のクラッド材をそれぞれ作製した。
【0070】
そして、比較例1および実施例1〜3のクラッド材に対して、上記試験材と同様の方法で、引張強度を測定した。また、比較例1および実施例1〜3のクラッド材の体積抵抗率を求めた。なお、Ni合金層の体積抵抗率は、表1のNi合金板材の体積抵抗率を参照し、Cu層の体積抵抗率は、1.71×10
-8(Ω・m)を用いた。比較例1および実施例1〜3のクラッド材の引張試験の結果(引張強度)および体積抵抗率を、下記の表2に示す。
【0072】
(クラッド材の実験結果)
表2に示すように、試験材2〜4をそれぞれ用いた実施例1〜3のクラッド材は、試験材1を用いた比較例1のクラッド材と比べて、引張強度が大きくなった。具体的には、実施例1〜3のクラッド材では、比較例1のクラッド材と比べて、引張強度が2%以上大きくなった。この結果、Ni合金がCを0.005質量%以上含むことによって、クラッド材の機械的強度を向上させることができることが確認できた。
【0073】
特に、実施例2および3のクラッド材(試験材3および4をそれぞれ用いたクラッド材)では、引張強度が34%以上も大きくなった。この結果、Ni合金がCを0.10質量%以上含むことによって、クラッド材の機械的強度を一層向上させることができることが確認できた。
【0074】
また、試験材2〜4をそれぞれ用いた実施例1〜3のクラッド材は、試験材1を用いた比較例1のクラッド材と比べて、体積抵抗率がほとんど変化しないか、または、わずかながら大きくなった。また、Ni合金におけるCの含有率が大きくなるに従い、クラッド材の体積抵抗率が大きくなった。しかしながら、実施例1〜3のクラッド材における体積抵抗率の増加割合は、比較例1のクラッド材の約6.5%未満であり、十分に小さいと考えられる。つまり、実施例1〜3のクラッド材を負極集電体としての使用する際に実用上問題ない程度の体積抵抗率の増加であると考えられる。
【0075】
これらの結果、特許請求の範囲のNi合金の組成条件を満たす実施例1〜3のクラッド材は、十分な機械的強度を有しており、かつ、体積抵抗率も十分に低いので、負極集電体として適した材料であることが確認できた。特に、実施例2および3のクラッド材は、より一層十分な機械的強度を有しており、負極集電体としてさらに適した材料であることが確認できた。さらに、実施例1〜3のクラッド材では、Cと、Niと、不可避不純物とのみから構成されたNi合金からNi合金層が構成されているため、安定的に供給可能でかつ安価にクラッド材を作製することが可能である。
【0076】
<第2実施例>
第2実施例では、Ni合金を、Cと、Niと、Nbと、不可避不純物とのみから構成し、Cの組成を異ならせたNi合金板材を作製した。そして、作製したNi合金板材について、第1実施例と同様に、機械的強度の指標としての引張強度と、体積抵抗率とを測定した。また、第1実施例と同様に、Ni合金から構成されるNi合金層を一対のCu層で挟み込んだ3層構造のクラッド材を作製し、引張強度を測定し、クラッド材の体積抵抗率を求めた。
【0077】
(試験材のNi合金板材の作製)
まず、下記表3に示す組成(残部はNiと不可避不純物)になるように試験材8〜15のNi合金板材を作製した。具体的には、試験材9〜15に関しては、所定の含有率になるように、溶融炉内の溶融NiにCとNbとを添加した状態で溶融Niを冷却することによって、試験材のNi合金のインゴットを作製した。なお、試験材8に関しては、Nbを添加する一方Cを添加せずにNi合金のインゴットを作製した。なお、試験材8のNi合金板材におけるCの含有率は、不可避不純物レベルの含有率であり、特許請求の範囲のNi合金の組成条件(0.005質量%以上)を満たしていない。また、試験材8〜15に関しては、Nbの含有率が5.00質量%程度になるように、Ni合金にNbを添加した。
【0078】
そして、第1実施例と同様にして、試験材のNi合金板材を作製した。このNi合金板材の作製時に、Cを0.47質量%含有する試験材15のNi合金では、使用上問題ある程度ではないものの、若干の割れが生じた。そして、第1実施例と同様にして、試験材のNi合金板材の引張強度と体積抵抗率とを測定した。試験材の引張試験の結果(引張強度)および体積抵抗率を下記の表3に示す。
【0080】
(Ni合金の実験結果)
表3に示すように、試験材8〜15においても、表1の試験材1〜4のNi合金板材と同様に、Cの含有率を大きくするに従い、Ni合金板材の引張強度が大きくなった。この結果、試験材8〜15のNi合金板材において、Cの含有率が0.005質量%以上の試験材9〜15のNi合金板材は、Cの含有率が0.005質量%未満の試験材8のNi合金板材よりも、引張強度が大きくなった。また、Cの含有率を大きくするに従い、Ni合金板材の体積抵抗率はほとんど変化しなかったもののCの含有率が0.10質量%程度を超えて大きくなると、逆に、Ni合金板材の体積抵抗率が小さくなった。
【0081】
また、試験材8〜15のNi合金板材では、Cの含有率を0.20質量%以上に大きくしているが、使用上問題がある程度に割れは生じなかった。これは、NbとCとの化合物(たとえば、NbC)がNi合金内で析出したことにより、NbとCとの化合物の分、Ni内のC単体の量が減少したので、Cによる延性低下の影響が表れにくくなったからであると考えられる。
【0082】
また、試験材8〜15のNi合金板材では、試験材1〜4のNi合金板材と比べて、引張強度が大きくなった。これは、Cの添加による機械的強度の向上に加えて、Nbによる固溶強化の影響などにより、Ni合金板材の機械的強度がさらに向上したからであると考えられる。
【0083】
また、試験材8〜15のNi合金板材では、試験材1〜4のNi合金板材と比べて、体積抵抗率が大きくなった。これは、Niよりも抵抗が大きなNbがNi合金に含有されたからであると考えられる。なお、試験材9〜15のNi合金板材における体積抵抗率の増加はほとんどなく、Cが0.50質量%以下で含まれることによる体積抵抗率への悪影響はないと考えられる。さらに、Ni合金板材(Ni合金)のみを負極用集電体として用いるのではなく、一対のCu層とNi合金層との3層構造のクラッド材を負極用集電体として用いるので、Ni合金板材の体積抵抗率が多少大きくても問題ないと考えられる。
【0084】
(クラッド材の作製)
次に、作製した試験材8〜15を用いて、第1実施例と同様にして、比較例2および実施例4〜10の3層構造のクラッド材を作製した。なお、試験材8のNi合金板材を用いて比較例2のクラッド材を作製し、試験材9〜15のNi合金板材を用いて実施例4〜10のクラッド材をそれぞれ作製した。
【0085】
そして、比較例2および実施例4〜10のクラッド材に対して、上記試験材と同様の方法で、引張強度を測定した。また、比較例2および実施例4〜10のクラッド材の体積抵抗率を求めた。比較例2および実施例4〜10のクラッド材の引張試験の結果(引張強度)および体積抵抗率を下記の表4に示す。
【0087】
(クラッド材の実験結果)
表4に示すように、試験材9〜15をそれぞれ用いた実施例4〜10のクラッド材は、試験材8を用いた比較例2のクラッド材と比べて、引張強度が大きくなった。具体的には、実施例4〜10のクラッド材では、比較例2のクラッド材と比べて、引張強度が1.5%以上大きくなった。この結果、Cと、Niと、Nbと、不可避不純物とのみから構成されたNi合金がCを0.005質量%以上含むことによって、クラッド材の機械的強度を向上させることができることが確認できた。
【0088】
特に、実施例7〜10のクラッド材(試験材12〜15をそれぞれ用いたクラッド材)では、引張強度が6%以上も大きくなった。この結果、Cと、Niと、Nbと、不可避不純物とのみから構成されているNi合金がCを0.19質量%以上含むことによって、クラッド材の機械的強度を一層向上させることができることが確認できた。
【0089】
また、試験材9〜15をそれぞれ用いた実施例4〜10のクラッド材は、試験材8を用いた比較例2のクラッド材と比べて、体積抵抗率がほとんど変化しないか、または、体積抵抗率が減少した。
【0090】
これらの結果、特許請求の範囲のNi合金の組成条件を満たす実施例4〜10のクラッド材は、十分な機械的強度を有しており、かつ、体積抵抗率も十分に低いので、負極集電体として適した材料であることが確認できた。特に、実施例7〜10のクラッド材は、より一層十分な機械的強度を有しているので、負極集電体としてより適した材料であることが確認できた。さらに、実施例8〜10のクラッド材は、さらに一層十分な機械的強度を有するとともに、体積抵抗率を小さくすることができるので、負極集電体としてさらに適した材料であることが確認できた。
【0091】
また、Cと、Niと、Nbと、不可避不純物とのみから構成されているNi合金を用いた実施例4〜10のクラッド材では、Cと、Niと、不可避不純物とのみから構成されているNi合金を用いた実施例1〜3のクラッド材と比べて、引張強度が大きくなった一方、体積抵抗率も大きくなった。この結果、機械的強度がより重要視される場合には、約590MPa以上約810MPa以下の程度の引張強度が得られることが分った実施例1〜3よりも、約910MPa以上約990MPa以下の程度の引張強度が得られることが分った実施例4〜10のように、Cと、Niと、Nbと、不可避不純物とのみから構成されているNi合金を用いたクラッド材を負極用集電体として用いるのが好ましいことが判明した。また、体積抵抗率がより重要視される場合には、約3.7×10
-8Ω・m以上約3.9×10
-8Ω・m以下の程度の体積抵抗率が得られることが分った実施例4〜10よりも、約3.2×10
-8Ω・m以上約3.4×10
-8Ω・m以下の程度の体積抵抗率が得られることが分った実施例1〜3のように、Cと、Niと、不可避不純物とのみから構成されているNi合金を用いたクラッド材を負極用集電体として用いるのが好ましいことが判明した。
【0092】
なお、第2実施例では、Nbの含有率が略5質量%程度になるようにNi合金に添加した例を示したが、Ni合金にNbが所定の範囲で添加されていれば、機械的強度の向上を図りつつ、体積抵抗率が小さなNi合金(クラッド材)を作製することが可能であると考えられる。この場合、Nbが3.0質量%以上になるようにNi合金に添加するのが好ましく、Nbが4.7質量%以上になるようにNi合金に添加するのがより好ましいと考えられる。また、Nbは希少な元素であるので、安定供給とコスト低減の観点から、Nbが10.0質量%以下になるようにNi合金に添加するのが好ましく、Nbが5.5質量%以下になるようにNi合金に添加するのがより好ましいと考えられる。
【0093】
<第3実施例>
第3実施例では、上記第1実施例で作製した試験材4のNi合金板材とCu板材とを用いて、Ni合金層の厚み比率の異なる複数の3層構造のクラッド材を作製した。なお、クラッド材の作製方法は、Cu層とNi合金層とCu層との厚み比率(Cu層の厚み:Ni合金層の厚み:Cu層の厚み)を適宜異ならせる点以外は、第1実施例と同様にした。そして、上記第1実施例と同様の方法で、厚み比率を異ならせたクラッド材の引張強度を各々測定した。また、厚み比率を異ならせたクラッド材の体積抵抗率を各々求めた。クラッド材の引張強度および体積抵抗率を
図6に示す。なお、
図6におけるNi合金層の厚み比率は、Ni合金層の厚みをクラッド材の厚みで除した値であり、Ni合金層の厚みが大きくなるにつれて大きくなる値である。
【0094】
図6に示すように、クラッド材の引張強度は、Ni合金層の厚み比率を大きくするに従い、1次関数的に大きくなった。一方、クラッド材の体積抵抗率は、Ni合金層の厚み比率を大きくするに従い、2次関数的に大きくなった。このことから、機械的強度を大きくするためにNi合金層の厚み比率を大きくすると、体積抵抗率の増加率が大きくなりやすいので、体積抵抗率の増加率を抑制しつつ負極集電体の機械的強度をさらに向上させるためには、クラッド材の各層の厚み比率を変える以外の手段が必要になることが確認できた。そして、本願発明のように、Ni合金層を構成するNi合金がCを0.005質量%以上0.50質量%以下含むことにより、クラッド材の各層の厚み比率を変える以外の手段により、負極集電体のさらなる機械的強度の向上が可能であることを確認することができた。
【0095】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0096】
たとえば、上記実施形態では、クラッド材50(負極集電体用クラッド材)から構成された負極集電体5bをリチウムイオン二次電池(電池100)に適用した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、負極集電体用クラッド材から構成された負極集電体をリチウムイオン二次電池以外の二次電池に適用してもよい。たとえば、負極集電体をナトリウムイオン二次電池またはマグネシウム二次電池などに適用してもよい。
【課題】クラッド材の各層の厚み比率を変える以外の手段により、負極集電体の電気抵抗(体積抵抗率)が大きくなるのを抑制しながら、負極集電体のさらなる機械的強度の向上を図ることが可能な二次電池の負極集電体用クラッド材を提供する。
【解決手段】この二次電池の負極集電体用クラッド材50は、0.005質量%以上0.50質量%以下のCと、Niと、不可避不純物とを含むNi合金から構成されるNi合金層51と、Ni合金層の両面にそれぞれ接合され、99質量%以上のCuを含む一対のCu層52および53と、を備える。