(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6354993
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】シリコンウェーハ及びシリコンウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/322 20060101AFI20180702BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
H01L21/322 J
H01L21/322 R
H01L21/265 F
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-76828(P2015-76828)
(22)【出願日】2015年4月3日
(65)【公開番号】特開2016-197656(P2016-197656A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2017年4月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147935
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100080230
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 詔二
(72)【発明者】
【氏名】戸部 敏視
【審査官】
佐藤 靖史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−283022(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/076921(WO,A1)
【文献】
特開2010−109141(JP,A)
【文献】
特開2004−087665(JP,A)
【文献】
特開平10−242153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/322
H01L 21/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体デバイス作製用基板であるシリコンウェーハであって、
前記シリコンウェーハの表層近傍に形成された、ゲッタリング層として機能する炭素イオン注入層と、前記炭素イオン注入層より深い位置に形成された、ゲッタリング層として機能するボロンイオン注入層と、からなる2層のイオン注入層を有し、前記ボロンイオン注入層のドーズ量が、前記炭素イオン注入層の100倍以上107倍以下でありかつ1017cm−2以上であることを特徴とするシリコンウェーハ。
【請求項2】
半導体デバイス作製用基板であるシリコンウェーハの製造方法であって、
前記シリコンウェーハの表層近傍に、ゲッタリング層として機能する炭素イオン注入層を形成する工程と、前記炭素イオン注入層より深い位置に、ゲッタリング層として機能するボロンイオン注入層を予め形成する工程と、からなる2層のイオン注入層形成工程を有し、前記ボロンイオン注入層のドーズ量が、前記炭素イオン注入層の100倍以上107倍以下でありかつ1017cm−2以上であることを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高集積デバイスを作製するための半導体用シリコン基板であるシリコンウェーハとその製造方法に関し、特に有害不純物を除去するゲッタリング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路等のデバイスの高密度化、高集積化に伴い、デバイス動作の安定化が頓に望まれてきている。特にリーク電流や酸化膜耐圧等の特性値改善は重要な課題である。
【0003】
しかるに、半導体集積回路の製造工程において、望まれざる重金属、例えばCu、Fe、Niといった不純物に汚染される可能性が現在においても否定できていない。これらの重金属不純物はシリコン単結晶中に固溶、あるいは析出した状態で、前述のリーク電流や酸化膜耐圧特性を著しく劣化させることが広く知られている。
【0004】
これらの重金属不純物を除去する方法であるゲッタリング技術は多岐に渡って世に知られている。そのいずれの方法も、それぞれ異なる特徴を有し、除去可能な元素やその適用可能範囲といったものが存在するため、作製するデバイスの種類やその作製方法によって、最適なゲッタリング技術を持ったウェーハを使用する必要がある。
【0005】
その中で、イオン注入層をゲッタリング層として用いる手法は、古くから認識されているゲッタリング手法の一つである。このイオン注入層ゲッタリングは、デバイスを作製するウェーハ表面近傍の任意の深さに、異なるゲッタリング能力の層を配置することができ、デバイスの特徴を踏まえて、自由自在にゲッタリング層を設計、設置できる利点を生かしてよく用いられている。
【0006】
このような事情から、最近のデバイス、特にCCD、CIS等のデバイスでは、イオン注入層がゲッタリングの目的で広く用いられている(例えば特許文献1)。というのは、これらのデバイスでは、除去対象となる元素の拡散速度が比較的遅いため、ゲッタリング層をバルクや裏面に配置すると、ゲッタリング層の存在する遠い位置まで表層から除去対象元素を移動させねばならなくなり、ゲッタリング層をデバイス層の直下、すなわちウェーハ表層近傍に任意に設計できるイオン注入層は便利であった。
【0007】
しかるに、イオン注入層によるゲッタリングには、大きな問題があった。それは、ゲッタリング層がイオン注入層であるため、広くても数μm程度の厚さであることであり、ゲッタリング可能な不純物量という観点では、従来のIG(Internal Gettering)法や、p/p
+エピウェーハを用いる手法と比べて著しく劣るものであった。また、表層近傍のみにゲッタリング層が配置されているということは、本来想定されていない裏面近傍に存在する比較的拡散の速い元素を表層近傍に引き寄せることになるため、理想的ゲッタリング層であるとは必ずしも言えない。このことは、表層近傍にゲッタリング層を設定することの多いイオン注入層の持つ欠点であり、それを補うため、狭い領域のみに局在して分布するゲッタリング層として、他のゲッタリング手法よりも単位体積当たりのゲッタリング能力を高くする必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−152304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来技術の問題に鑑みなされたもので、イオン注入層の持つ弱点を補うべく、イオン注入層の配置をできるだけ最適に行うことで、イオン注入層のゲッタリング能力を最大限に引き出せる構成を持つ半導体シリコンウェーハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のシリコンウェーハは、半導体デバイス作製用基板であるシリコンウェーハであって、前記シリコンウェーハの表層近傍に形成された、ゲッタリング層として機能する炭素イオン注入層と、前記炭素イオン注入層より深い位置に形成された、ゲッタリング層として機能するボロンイオン注入層と、からなる2層のイオン注入層を有
し、前記ボロンイオン注入層のドーズ量が、前記炭素イオン注入層の100倍以上107倍以下でありかつ1017cm−2以上であることを特徴とする。
【0011】
前記ボロンイオン注入層のドーズ量が、前記炭素イオン注入層の100倍以上10
7倍以下であることが好ましい。
【0012】
前記ボロンイオン注入層のドーズ量が、10
17cm
−2以上であること好ましい。前記ボロンイオン注入層のドーズ量の上限については特別の限定はないが、10
20cm
−2以下であることが好ましい。
【0013】
本発明のシリコンウェーハの製造方法は、半導体デバイス作製用基板であるシリコンウェーハの製造方法であって、前記シリコンウェーハの表層近傍に、ゲッタリング層として機能する炭素イオン注入層を形成する工程と、前記炭素イオン注入層より深い位置に、ゲッタリング層として機能するボロンイオン注入層を予め形成する工程と、からなる2層のイオン注入層形成工程を有
し、前記ボロンイオン注入層のドーズ量が、前記炭素イオン注入層の100倍以上107倍以下でありかつ1017cm−2以上であることを特徴とする。
【0014】
前記ボロンイオン注入層のドーズ量が、前記炭素イオン注入層の100倍以上10
7倍以下であることが好ましい。
【0015】
前記ボロンイオン注入層のドーズ量が、10
17cm
−2以上であること好ましい。前記ボロンイオン注入層のドーズ量の上限については特別の限定はないが、10
20cm
−2以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のシリコンウェーハ及びその製造方法によれば、イオン注入層の持つ弱点を補うべく、イオン注入層の配置をできるだけ最適に行うことで、イオン注入層のゲッタリング能力を最大限に引き出せる構成を持つ半導体シリコンウェーハを提供することができるという著大な効果を奏する。即ち、本発明によれば、従来のイオン注入層を有するシリコンウェーハよりもはるかに高いゲッタリング能力が発揮される良質なウェーハを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係るシリコンウェーハの一つの実施の形態を示す断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照しながら説明する。
図1に本発明に係るシリコンウェーハの一つの実施の形態を示す。
【0019】
図1において、符号10は本発明のシリコンウェーハである。シリコンウェーハ10は、半導体シリコン単結晶ウェーハ12の表面14の層である表層16の近傍に形成された、ゲッタリング層として機能する炭素イオン注入層18と、前記炭素イオン注入層18より深い位置に形成された、ゲッタリング層として機能するボロンイオン注入層20と、からなる2層のイオン注入層22を有している。前記炭素イオン注入層18は、表面14から0以上2μm以下の位置に形成されるのが好適である。前記ボロンイオン注入層20は、前記炭素イオン注入層18から0以上2μm以下の深い位置に形成されるのが好適である。
符号24はシリコンウェーハ10の裏面である。
【0020】
炭素イオン注入層は、既述したように最近のCCDやCISを作製するシリコンウェーハの表層近傍に設けることで、白キズと呼ばれる上記デバイス特有の欠陥形成の原因元素である金属を捕獲する目的で形成される。白キズの原因となる金属元素は、多種にわたっており、Fe、Cu、Niなどの従来から問題視されていた比較的拡散の速い元素と、Mo、Wなど拡散の遅い元素に大別できる。炭素イオン注入層は、これらの金属不純物が単独で存在し、かつ、不純物ゲッタリングのための十分な時間を費やせる場合には、ほとんどの金属不純物元素に対し有効なゲッタリング手法である。
【0021】
しかし、除去対象となる金属不純物が複数存在する場合、単独の炭素イオン注入層のみでは問題となることがわかった。それは、拡散の速い元素と遅い元素が混在する場合である。この場合、拡散の速い元素が、ゲッタリングが機能する初期段階において、優先的に炭素イオン注入層に捕獲されることになる。炭素イオン注入層が、不純物捕獲する機構については、ドーズ量依存性を含む形で詳細に理解されているが、概略的には、不純物捕獲前段階における炭素イオン注入層周囲の高い自由エネルギー状態を、不純物を捕獲することで自由エネルギーが下がり、安定化に向かうという過程が、そのゲッタリング機構である。
【0022】
したがって、拡散速度の異なる複数の不純物金属が存在する場合、拡散の速い元素が優先的に捕獲されることになり、その結果として、炭素イオン注入層周囲のエネルギーが下がった後では、他の元素を捕獲する駆動力が失われたことになり、初期段階よりゲッタリング能力は劣る。具体的に、FeとMoが同時に存在し、その両者の除去が必要な場合、Feが最初に炭素イオン注入層に捕獲された後には、Feよりも遅い拡散係数であるMoを炭素イオン注入層で効果的に捕獲することは難しいことになる。そこで、本発明者は、拡散の速い元素と遅い元素を同一のイオン注入層ではなく、別々のイオン注入層で個別に捕獲、除去する方法を見出した。
【0023】
拡散の速いFeやCuは、p型単結晶シリコン中でプラスの電荷を持っていることが知られている。このような元素は、フェルミ準位が低くなる、つまり、抵抗率が小さいほど固溶度が高くなる。言い換えれば、高濃度ボロン含有層では、Feの固溶度が低濃度ボロン含有層よりも高まるため、Feが高固溶度である高濃度ボロン含有層に移動することで、系全体の自由エネルギーを下げる働きをする。これがFeの高濃度ボロン含有層による偏析型ゲッタリング機構である。この機構を利用して、例えば、p/p+エピタキシャルウェーハにおける高濃度ボロン添加基板や、ボロンイオン注入層をFeのゲッタリング層として利用することが行われている。同様の特徴を持つCuも、この機構で高濃度ボロン層にゲッタリングできる。
【0024】
Fe、Cuはともに、Moに比較すれば、数桁も拡散が速いため、Moが拡散で到達しえないウェーハ深さ位置にボロンイオン注入層を配置すれば、そのボロンイオン注入層にFe、Cuのみが捕獲される。この条件に加え、ウェーハ表層近傍に炭素イオン注入層が存在すれば、この炭素イオン注入層で捕獲すべきFeやCu原子は、ボロンイオン注入層が存在しない場合に比べれば格段に低濃度となり、ボロンイオン注入層に捕獲されなかったMoを炭素イオン注入層に捕獲することが可能である。ただし、上述の機構を有効に機能させるためには、炭素イオン注入層も、3×10
15cm
-2以上の高濃度ドーズにおいて、Feを偏析型で捕獲することから、ボロンイオン注入層でFeを優先的に捕獲するためには、ボロンイオン注入層の能力を炭素イオン注入層よりも高く設計することが好ましい。そこで、本発明者らは、炭素注入層とボロン注入層をそれぞれ独立に配置し、ボロン注入層を炭素注入層より深い位置に配置し、かつ、好ましくはボロン注入層のゲッタリング能力を炭素注入層より強い状態にすることで、Fe、Cuなどの高速拡散元素とMo、Wなどの低速拡散元素を分離捕獲する方法を見出し、本発明を完成させた。本発明のシリコンウェーハ及びその製造方法を用いれば、CCDやCISなどのデバイス特有の白キズ原因元素を効果的に除去することが可能となる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0026】
(比較例1)
FZ法により、直径6インチ、方位<100>、p型、抵抗率が10Ωcmのシリコン単結晶の結晶棒を、引き上げ速度2mm/分で引き上げた。この結晶棒を加工してシリコンウェーハとし、そのシリコンウェーハに炭素を加速電圧70keV、ドーズ量3×10
15cm
-2でイオン注入した。その後、結晶性回復熱処理を窒素/酸素混合雰囲気にて1000℃/1時間の条件で実施し、さらにp型、抵抗率が10Ωcmのエピタキシャル層を10μm堆積した。このウェーハ表面に7×10
11cm
-2のFeを塗布した後、1000℃/1時間の拡散とFe捕獲のための熱処理を施し、室温まで急速冷却した。このウェーハの炭素イオン注入部に分布するFe濃度をSIMSで測定したところ、最大値で、2.5×10
16cm
-3であった。
【0027】
(比較例2)
FZ法により、直径6インチ、方位<100>、p型、抵抗率が10Ωcmのシリコン単結晶の結晶棒を、引き上げ速度2mm/分で引き上げた。この結晶棒を加工してシリコンウェーハとし、そのシリコンウェーハにボロンを加速電圧70keV、ドーズ量3×10
15cm
-2でイオン注入した。これに引き続き、炭素を加速電圧70keV、ドーズ量3×10
15cm
-2でイオン注入した。その後、結晶性回復熱処理を窒素/酸素混合雰囲気にて1000℃/1時間の条件で実施し、さらにp型、抵抗率が10Ωcmのエピタキシャル層を10μm堆積した。このウェーハ表面に7×10
11cm
-2のFeを塗布した後、1000℃/1時間の拡散とFe捕獲のための熱処理を施し、室温まで急速冷却した。このウェーハの炭素イオンとボロンイオン注入部に分布するFe濃度をSIMSで測定したところ、炭素注入部では最大値で、2.4×10
16cm
-3であり、ボロン注入部ではほとんどFeを検出できなかった。この場合、炭素イオン注入部に集積したFe濃度は比較例1における2.5×10
16cm
-3より小さくなり、炭素イオン注入部がFe以外の元素を引き寄せる余力が増えたことになるが、その差分は小さく、ボロンイオン注入層の設定が大きな効果を持つには至らないとわかった。
【0028】
(実施例1)
FZ法により、直径6インチ、方位<100>、p型、抵抗率が10Ωcmのシリコン単結晶の結晶棒を、引き上げ速度2mm/分で引き上げた。この結晶棒を加工してシリコンウェーハとし、そのシリコンウェーハにボロンを加速電圧70keV、ドーズ量3×10
17cm
-2でイオン注入した。これに引き続き、炭素を加速電圧70keV、ドーズ量3×10
15cm
-2でイオン注入した。その後、結晶性回復熱処理を窒素/酸素混合雰囲気にて1000℃/1時間の条件で実施し、さらにp型、抵抗率が10Ωcmのエピタキシャル層を10μm堆積した。このウェーハ表面に7×10
11cm
-2のFeを塗布した後、1000℃/1時間の拡散とFe捕獲のための熱処理を施し、室温まで急速冷却した。このウェーハの炭素イオンとボロンイオン注入部に分布するFe濃度をSIMSで測定したところ、炭素注入部では最大値で、1.7×10
16cm
-3であったのに対し、ボロン注入部でも、1.7×10
16cm
-3のFeを検出した。イオン注入部は、上に凸のピーク形状であり、その幅は炭素イオン注入部よりボロンイオン注入部の方が2倍程度広いため、実際に捕獲したFe原子数は、炭素イオン注入部よりボロンイオン注入部の方が多い。また、ボロンイオン注入部の存在により、炭素イオン注入部のFe濃度が比較例1、あるいは比較例2における同様な炭素イオン注入部のFe濃度より減少している分は、他の元素を捕獲するための余力となるため、この条件であれば、炭素イオン注入部がFeより拡散の遅い元素を十分に捕獲可能とわかった。
【0029】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、かつ同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。例えば、比較例、実施例では、Feを用いて、その効果を検証しているが、Cuなどの他元素に対しても同様の効果を持つことは言うまでもない。また、炭素より深い位置にボロンイオンを注入できる条件であれば、ボロンイオン注入を行う加速電圧は、炭素イオン注入の加速電圧と関わりなく設定することができる。他にも同様な効果を有するため本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0030】
10:本発明のシリコンウェーハ、12:半導体シリコン単結晶ウェーハ、14:表面、16:表層、18:炭素イオン注入層、20:ボロンイオン注入層、22:2層のイオン注入層、24:裏面。