特許第6355010号(P6355010)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6355010
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】合成皮革
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/14 20060101AFI20180702BHJP
   B32B 9/02 20060101ALN20180702BHJP
   B32B 27/00 20060101ALN20180702BHJP
   B32B 27/40 20060101ALN20180702BHJP
   C08G 18/10 20060101ALN20180702BHJP
   C08G 18/30 20060101ALN20180702BHJP
   C08G 18/42 20060101ALN20180702BHJP
   C09J 5/06 20060101ALN20180702BHJP
   C09J 175/06 20060101ALN20180702BHJP
【FI】
   D06N3/14 101
   !B32B9/02
   !B32B27/00 D
   !B32B27/40
   !C08G18/10
   !C08G18/30 070
   !C08G18/42 030
   !C09J5/06
   !C09J175/06
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-520001(P2018-520001)
(86)(22)【出願日】2017年10月26日
(86)【国際出願番号】JP2017038611
【審査請求日】2018年4月18日
(31)【優先権主張番号】特願2016-244382(P2016-244382)
(32)【優先日】2016年12月16日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-244383(P2016-244383)
(32)【優先日】2016年12月16日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100159293
【弁理士】
【氏名又は名称】根岸 真
(72)【発明者】
【氏名】竹田 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】藤原 豊邦
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−1833(JP,A)
【文献】 特開2016−785(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/098178(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/045074(WO,A1)
【文献】 特開平9−309939(JP,A)
【文献】 特表2009−537669(JP,A)
【文献】 特開平10−77325(JP,A)
【文献】 特開2005−194353(JP,A)
【文献】 特開2014−181283(JP,A)
【文献】 特表2011−523608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N1/00−7/06
B32B1/00−43/00
C08G18/00−18/87
71/00−71/04
C09J1/00−5/10
9/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式ポリエステルポリオール(a1)を含むポリオール(A)、及び、ポリイソシアネート(B)の反応物である、イソシアネート基含有率が1.7〜5の範囲のホットメルトウレタンプレポリマー(i)を含有する湿気硬化型ポリウレタンホットメルト樹脂組成物により形成された層を有することを特徴とする合成皮革。
【請求項2】
前記ポリオール(A)が、更に、ポリオキシプロピレングリコール(a2)を含むものである請求項1記載の合成皮革。
【請求項3】
ヒンダードアミン化合物(ii)を更に含有するものである請求項1又は2記載の合成皮革。
【請求項4】
前記ヒンダードアミン化合物(ii)の含有量が、前記ホットメルトウレタンプレポリマー(i)100質量部に対して、0.01〜10質量部の範囲である請求項3記載の合成皮革。
【請求項5】
トリアゾール化合物(iii)を更に含有するものである請求項3又は4記載の合成皮革。
【請求項6】
前記トリアゾール化合物(iii)の含有量が、前記ホットメルトウレタンプレポリマー(i)100質量部に対して、0.01〜10質量部の範囲である請求項5記載の合成皮革。
【請求項7】
前記トリアゾール化合物(iii)が、ベンゾトリアゾール化合物である請求項5又は6記載の合成皮革。
【請求項8】
スプリットレザーである、請求項1〜7のいずれか1項記載の合成皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿気硬化型ポリウレタンホットメルト樹脂組成物の硬化物層を有する合成皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
湿気硬化型ポリウレタンホットメルト樹脂組成物は、機械的強度、柔軟性、接着性等に優れるため、合成皮革の製造に広く利用されている。中でも、床革、接着層、及び、表皮層を備えるスプリットレザーは、外観や風合いが天然皮革と近似していることから、近年の天然皮革の価格高騰に伴い、需要が増加している。
【0003】
前記スプリットレザーの接着層を形成する樹脂組成物としては、例えば、脂肪族ポリエステルポリオール等を原料として用いたホットメルトウレタンプレポリマーを含む組成物が開示されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0004】
しかしながら、かかる組成物では、接着強度の更なる向上が求められていた。また、スプリットレザー用途では、近年、意匠性の観点から、様々な彩色の表皮層を使用する場合があり、例えば、淡色な表皮層を使用した場合には、美観を損なわないよう、接着層には継時的な変色がない優れた耐候性も求められている。しかしながら、優れた耐候性、及び接着強度を両立する材料は未だ見出されていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−297985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、耐候性、及び接着強度に優れる湿気硬化型ポリウレタンホットメルト樹脂組成物の硬化物層を有する合成皮革を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、脂環式ポリエステルポリオール(a1)を含むポリオール(A)、及び、ポリイソシアネート(B)の反応物であるホットメルトウレタンプレポリマー(i)を含有する湿気硬化型ポリウレタンホットメルト樹脂組成物により形成された層を有することを特徴とする合成皮革を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の合成皮革は、接着強度(特に、初期接着強度)が強く耐候性の優れる層を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の合成皮革は、脂環式ポリエステルポリオール(a1)を含むポリオール(A)、及び、ポリイソシアネート(B)の反応物であるホットメルトウレタンプレポリマー(i)を含有する湿気硬化型ポリウレタンホットメルト樹脂組成物により形成された層を有するものである。
【0010】
前記脂環式ポリエステルポリオール(a1)は、優れた耐候性、及び接着強度を得るうえで必須の成分である。優れた初期の接着強度を得るうえでは、フタル酸のような芳香族化合物を原料とした芳香族ポリエステルポリオールが使用されることが一般的である。しかしながら、芳香族ポリエステルポリオールを用いた場合には、特に太陽光の継時照射により、変色する問題がある。一方、本発明では、脂環式ポリエステルポリオール(a1)を用いることにより、凝集力による良好な初期強度、及び耐候性(特に、太陽光の継時照射でも耐変色性)に優れる硬化物層を得ることができる。なお、本発明の実施例では、太陽光の短波長領域である295〜365nmを最も忠実にシュミレーションするUVA−340ランプを搭載したQUV促進耐候性試験機(Q−LAB Corporation社製)による耐候性試験の結果を示す。
【0011】
前記脂環式ポリエステルポリオール(a1)としては、例えば、水酸基を2個以上有する脂環式化合物と脂肪族多塩基酸との反応物、水酸基を2個以上有する脂肪族化合物と脂環式多塩基酸との反応物等が挙げられる。なお、かかる反応物は公知のエステル化反応により得ることができる。
【0012】
前記水酸基を2個以上有する脂環式化合物としては、例えば、シクロペンタンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA;これらのアルキレンオキサイド付加物等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、より一層優れた耐候性、及び接着強度が得られる点から、シクロヘキサンジメタノールを用いることが好ましい。
【0013】
前記脂肪族多塩基酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカン二酸、ドデカン二酸、エイコサ二酸、シトラコン酸、イタコン酸、無水シトラコン酸、無水イタコン酸等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0014】
前記水酸基を2個以上有する脂肪族化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチルプロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の化合物を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、より一層優れた耐候性、及び接着強度が得られる点から、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオールを用いることが好ましく、分岐構造を有することにより凝集力が一層高まり、より一層優れた耐候性、及び接着強度が得られる点から、ネオペンチルグリコール、及び/又は、3−メチル−1,5−ペンタンジオールがより好ましい。
【0015】
前記脂環式多塩基酸としては、例えば、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、シクロヘキサンジアジペート等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、より一層優れた耐候性、及び接着強度が得られる点から、シクロヘキサンジカルボン酸、及び/又、シクロヘキサンジアジペートを用いることが好ましい。
【0016】
前記脂環式ポリエステルポリオール(a1)の数平均分子量としては、より一層優れた耐候性、及び接着強度が得られる点から、400〜10,000の範囲であることが好ましく、500〜5,000の範囲がより好ましく、600〜3,000の範囲が更に好ましい。なお、前記脂環式ポリエステルポリオール(a1)の数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により測定した値を示す。
【0017】
前記脂環式ポリエステルポリオール(a1)の含有量としては、より一層優れた耐候性、及び接着強度が得られる点から、前記ポリオール(A)中10質量%以上であることが好ましく、20〜80質量%の範囲が好ましく、30〜70質量%の範囲がより好ましく、30〜50質量%の範囲が更に好ましい。
【0018】
前記ポリオール(A)として、前記脂環式ポリエステルポリオール(a1)以外に用いることができるその他のポリオールとしては、例えば、前記脂環式ポリエステルポリオール(a1)以外のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリブタジエンポリオール、ダイマージオール、アクリルポリオール等を用いることができる。これらのポリオールは単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記脂環式ポリエステルポリオール(a1)と併用した場合に、前記(a1)由来の高粘度性を和らげ、低粘度化による塗工性を向上することができ、スプリットレザーの美観及び製造安定性を向上できる点から、ポリエーテルポリオールを用いることが好ましく、ポリオキシプロピレングリコール(a2)がより好ましい。
【0019】
前記ポリオキシプロピレングリコール(a2)を用いる場合の含有量としては、耐候性、及び接着強度を維持しつつ、低粘度性をより一層向上できる点から、ポリオール(A)中5〜90質量%の範囲であることが好ましく、10〜80質量%の範囲がより好ましく、30〜70質量%の範囲が更に好ましい。
【0020】
また、ポリオキシプロピレングリコール(a2)を用いる場合には、耐候性、接着強度、及び、低粘度性のバランスをより一層向上できる点から、脂肪族ポリエステルポリオール、及び/又はポリテトラメチレングリコールを併用することが好ましい。
【0021】
前記その他のポリオールの数平均分子量としては、機械的強度の点から、500〜10,000の範囲であることが好ましく、700〜5,000の範囲がより好ましい。また、前記その他のポリオールとして、ポリオキシプロピレングリコール(a2)を用いる場合には、その数平均分子量としては、低粘度性をより一層向上できる点から、1,100〜5,000の範囲であることが好ましく、1,500〜3,000の範囲がより好ましい。なお、前記その他のポリオールの数平均分子量は、前記脂環式ポリエステルポリオール(a1)の数平均分子量と同様に測定して得られた値を示す。
【0022】
前記ポリイソシアネート(B)としては、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタンジイソシアネートイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂肪族又は脂環族ポリイソシアネートなどを用いることができる。これらのポリイソシアネートは単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、優れた反応性、及び剥離強度が得られる点から、芳香族ポリイソシアネートを用いることが好ましく、ジフェニルメタンジイソシアネートがより好ましい。
【0023】
前記ポリイソシアネート(B)の使用量としては、ホットメルトウレタンプレポリマー(i)を構成する原料の合計質量中5〜40質量%の範囲であることが好ましく、10〜30質量%の範囲であることがより好ましい。
【0024】
前記ホットメルトウレタンプレポリマー(i)は、前記ポリオール(A)と前記ポリイソシアネート(B)とを反応させて得られるものであり、空気中や湿気硬化型ポリウレタンホットメルト樹脂組成物が塗布される基材中に存在する水分と反応して架橋構造を形成しうるイソシアネート基を有するものである。
【0025】
前記ホットメルトウレタンプレポリマー(i)の製造方法としては、例えば、前記ポリイソシアネート(B)の入った反応容器に、前記ポリオール(A)入れ、前記ポリイソシアネート(B)の有するイソシアネート基が、前記ポリオール(A)の有する水酸基に対して過剰となる条件で反応させることによって製造することができる。
【0026】
前記ホットメルトウレタンプレポリマー(i)を製造する際の、前記ポリイソシアネート(B)が有するイソシアネート基と前記ポリオール(A)が有する水酸基との当量比(イソシアネート基/水酸基)としては、より一層優れた剥離強度が得られる点から、1.1〜5の範囲であることが好ましく、1.5〜3の範囲であることがより好ましい。
【0027】
以上の方法によって得られたホットメルトウレタンプレポリマー(i)のイソシアネート基含有率(以下、「NCO%」と略記する。)としては、より一層優れた剥離強度が得られる点から、1.7〜5の範囲であることが好ましく、1.8〜3の範囲がより好ましい。なお、前記ホットメルトウレタンプレポリマー(i)のNCO%は、JISK1603−1:2007に準拠し、電位差滴定法により測定した値を示す。
【0028】
本発明で用いる湿気硬化型ポリウレタンホットメルト樹脂組成物は、前記ホットメルトウレタンプレポリマーを必須成分として含有するが、必要に応じてその他の添加剤を含有してもよい。
【0029】
前記その他の添加剤としては、例えば、耐候安定剤、硬化触媒、粘着付与剤、可塑剤、充填材、染料、顔料、蛍光増白剤、シランカップリング剤、ワックス、熱可塑性樹脂等を用いることができる。これらの添加剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、より一層優れた耐候性が得られる点から、耐候安定剤を用いることが好ましい。
【0030】
前記耐候安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン化合物(ii)、トリアゾール化合物(iii)、ヒンダードフェノール化合物、リン化合物等を用いることができる。これらの耐候安定剤は単独で用いても2種以上を併用しても良い。これらの中でも、より一層優れた耐候性が得られる点から、ヒンダードアミン化合物(ii)を用いることが好ましく、ヒンダードアミン化合物(ii)及びトリアゾール化合物(iii)を用いることがより好ましい。
【0031】
前記ヒンダードアミン化合物(ii)は、光劣化で生じるラジカルを補足するものであり、例えば、セバシン酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)、セバシン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン−4−イル)、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、(混合2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル/トリデシル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、(混合1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル/トリデシル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、8−アセチル−3−ドデシル−7,7,9,9−テトラメチル−1,3,8−トリアザスピロ〔4.5〕デカン−2,4−ジオン等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0032】
前記ヒンダードアミン化合物(ii)の含有量としては、より一層優れた耐候性が得られる点から、前記ホットメルトウレタンプレポリマー(i)100質量部に対して、0.01〜10質量部の範囲であることが好ましく、0.05〜5質量部の範囲がより好ましく、0.1〜3質量部の範囲が更に好ましい。
【0033】
前記トリアゾール化合物(iii)は、変色を防止できるものであり、例えば、N,N−ビス(2−エチルヘキシル)−[(1,2,4−トリアゾール−1−イル)メチル]アミン;2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−アミル−5’−イソブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−イソブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−イソブチル−5’−プロピルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(1,1,3,3−テトラメチル)フェニル]ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール化合物などを用いる。これらのトリアゾール化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、より一層優れた耐候性が得られる点から、ベンゾトリアゾール化合物を用いることが好ましい。
【0034】
前記トリアゾール化合物(iii)を用いる場合の含有量としては、より一層優れた耐候性が得られる点から、前記ホットメルトウレタンプレポリマー(i)100質量部に対して、0.01〜10質量部の範囲であることが好ましく、0.05〜5質量部の範囲がより好ましく、0.1〜3質量部の範囲が更に好ましい。
【0035】
次に、本発明の合成皮革について説明する。
【0036】
本発明の合成皮革は、前記湿気硬化型ポリウレタンホットメルト樹脂組成物により形成された耐候性に優れる層を有するものである。これにより、前記層は太陽光等による継時劣化による変色がないため、特に需要が増加しているスプリットレザーの利用範囲を従来よりも広げることができる。
【0037】
前記スプリットレザーとしては、床革、接着層、及び、表皮層を備えるものであり、前記湿気硬化型ポリウレタンホットメルト樹脂組成物は、スプリットレザーの接着層として好適に使用できるものである。以下、接着層に前記湿気硬化型ポリウレタンホットメルト樹脂組成物を用いた場合のスプリットレザーの製造方法について説明する。
【0038】
前記床革としては、公知のものを用いることができ、例えば、牛、馬、羊、山羊、鹿、カンガルー等の天然皮革のうち、表皮と乳頭層とを取り除いた層から構成されるものを用いることができる。これらの床革は、公知の製革工程、鞣し工程、及び、染色・仕上げ工程を経たものを用いることが好ましい。前記床革の厚さとしては、使用される用途に応じて適宜決定されるが、例えば、0.1〜2mmの範囲である。
【0039】
前記床革の上に、前記接着層を形成する方法としては、例えば、前記床革上に、例えば、50〜130℃で溶融された前記湿気硬化型ポリウレタンホットメルト樹脂組成物を塗工する方法;離型紙上に、例えば、50〜130℃で溶融された前記湿気硬化型ポリウレタンホットメルト樹脂組成物を塗工し、その後、この硬化物層を前記床革に貼り合わせる方法;離型紙上に形成された表皮層上に、例えば、50〜130℃で溶融された前記湿気硬化型ポリウレタンホットメルト樹脂組成物を塗工し、その後、この硬化物層を前記床革に貼り合わせる方法などが挙げられる。
【0040】
前記いずれの方法においても、湿気硬化型ポリウレタンホットメルト樹脂組成物を塗工する方法としては、例えば、ロールコーター、ナイフコーター、スプレーコーター、グラビアコーター、コンマコーター、T−ダイコーター、アプリケーター等を用いる方法が挙げられる。
【0041】
前記湿気硬化型ポリウレタンホットメルト樹脂組成物を塗工後は、公知の方法により養生することができる。
【0042】
前記湿気硬化型ウレタンホットメルト樹脂組成物の硬化物層(接着層)の厚さとしては、例えば、5〜200μmの範囲である。
【0043】
前記表皮層を形成するための樹脂としては、公知のものを用いることができ、例えば、溶剤系ウレタン樹脂、水系ウレタン樹脂、無溶剤系ウレタン樹脂、溶剤系アクリル樹脂、水系アクリル樹脂等を用いることができる。これらの樹脂は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0044】
前記表皮層を形成するための樹脂中の溶媒を除去する際の加熱方法としては、例えば、50〜120℃の温度で、2〜20分間行う方法が挙げられる。
【0045】
前記表皮層の厚さとしては、例えば、5〜100μmの範囲である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。
【0047】
[実施例1]
温度計、撹拌機、不活性ガス導入口および還流冷却器を備えた四口フラスコに、脂環式ポリエステルポリオール(ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、及び、シクロヘキサンジカルボン酸を反応させたもの、数平均分子量;1,000、以下「脂環式PEs1」と略記する。)を40質量部、ポリオキシプロピレングリコール(数平均分子量;2,000、以下「PPG2000」と略記する。)を60質量部入れ、混合し、100℃で減圧加熱することにより、フラスコ内の水分が0.05質量%以下となるまで脱水した。
次いで、フラスコ内を90℃に冷却し、70℃で溶融した4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下「MDI」と略記する。)を26.5質量部加え、窒素雰囲気下でイソシアネート基含有量が一定となるまで110℃で約3時間反応させることによって、NCO%;2.4質量%のホットメルトウレタンプレポリマーを得た。
次に、離型紙上に、溶剤系ウレタン樹脂(DIC株式会社製「クリスボンTF−50P−C」)を乾燥後の膜厚が30μmとなるように塗工し、120℃で10分間乾燥させ、表皮層を得た。次いで、この表皮層上に、110℃で1時間溶融した前記ホットメルトウレタンプレポリマーを、コンマコーターを使用して厚さ30μmとなるように塗工した後、牛の天然皮革から表皮と乳頭層とを取り除き、製革された床革と貼り合わせ、その後、温度23℃、相対湿度65%の条件下で3日間放置し、スプリットレザーを得た。
【0048】
[実施例2〜4、比較例1〜2]
表1に示す通りのポリオール(A)とポリイソシアネート(B)との種類及び配合量にて、ホットメルトウレタンプレポリマーを得た以外は、実施例1と同様にしてスプリットレザーを得た。
【0049】
[実施例5]
温度計、撹拌機、不活性ガス導入口および還流冷却器を備えた四口フラスコに、脂環式PEs1を40質量部、PPG2000を60質量部入れ、混合し、100℃で減圧加熱することにより、フラスコ内の水分が0.05質量%以下となるまで脱水した。
次いで、フラスコ内を90℃に冷却し、70℃で溶融したMDIを26.5質量部加え、窒素雰囲気下でイソシアネート基含有量が一定となるまで110℃で約3時間反応させることによって、NCO%;2.4質量%のホットメルトウレタンプレポリマーを得た。これに、セバシン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン−4−イル)(三共株式会社製「サノールLS−765」、以下「LS−765」と略記する。)を0.5質量%配合し、湿気硬化型ポリウレタンホットメルト樹脂組成物を得た。
次に、離型紙上に、溶剤系ウレタン樹脂(DIC株式会社製「クリスボンTF−50P−C」)を乾燥後の膜厚が30μmとなるように塗工し、120℃で10分間乾燥させ、表皮層を得た。次いで、この表皮層上に、110℃で1時間溶融した前記湿気硬化型ポリウレタンホットメルト樹脂組成物を、コンマコーターを使用して厚さ30μmとなるように塗工した後、牛の天然皮革から表皮と乳頭層とを取り除き、製革された床革と貼り合わせ、その後、温度23℃、相対湿度65%の条件下で3日間放置し、スプリットレザーを得た。
【0050】
[実施例6]
前記湿気硬化型ポリウレタンホットメルト樹脂組成物において、ホットメルトウレタンプレポリマーに対して、ベンゾトリアゾール化合物(BASF社製「Tinuvin(登録商標)234」、以下「T234」と略記する。)を0.5質量%更に配合した以外は、実施例1と同様にして湿気硬化型ポリウレタンホットメルト樹脂組成物を得、スプリットレザーを作製した。
【0051】
[実施例7〜9]
表2に示す通りのポリオール(A)とポリイソシアネート(B)とヒンダードアミン化合物(ii)とトリアゾール化合物(iii)の種類及び配合量にて、湿気硬化型ポリウレタンホットメルト樹脂組成物を得た以外は、実施例6と同様にしてスプリットレザーを得た。
【0052】
[数平均分子量の測定方法]
実施例及び比較例で用いたポリオール等の数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により、下記の条件で測定した値を示す。
【0053】
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC−8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
【0054】
(標準ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−550」
【0055】
[耐候性の評価方法]
実施例、及び比較例にて得られたウレタンプレポリマーを110℃で1時間溶融した後、110℃にあらかじめ加温したホットプレート上に置いた離型紙上に100μmで塗工した。この塗工品を、25℃、湿度50%にて24時間保管しキュアを行うことでフィルムを得た。このフィルムを使用して、UVA−340電球(UV照射量:0.78W/m、温度45℃)を搭載したQUV促進耐候性試験機「QUV/basic」を使用してUV照射試験を行い、UV照射前後の変色の差(ΔE)により、耐候性の評価を以下のように評価した。
「4」;ΔEが10以下である。
「3」;ΔEが10を超えて13以下である。
「2」;ΔEが13を超えて15以下である。
「1」;ΔEが15を超える。
【0056】
[接着強度の評価方法]
実施例、及び比較例にて得られたウレタンプレポリマーを120℃で1時間溶融した後、110℃にあらかじめ加温したホットプレート上に置いたPETフィルムに100μmで塗工した。塗工後ただちにPETフィルムをホットプレートから外し、直ちに別のPETフィルムをハンドローラーにて貼り合わせた。貼り合わせ後、試験片を1インチ幅に裁断し、デジタルフォースゲージ(株式会社イマアダ製「DS2−220N」)を使用して、貼り合わせ1分後のPET間の剥離強度を測定し、初期強度を以下のように評価した。
「T」;5N/inch以上
「F」;5N/inch未満
【0057】
[低粘度性の測定方法]
実施例、及び、比較例で得られたウレタンプレポリマーを、120℃で1時間溶融した後、1mlをサンプリングし、コーンプレート粘度計(40Pコーン、ローター回転数;50rpm)にて溶融粘度を測定し、以下のように評価した。
「T」;4,000mPa・s未満
「F」;4,000mPa・s以上
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
表1中における略語は以下のものである。
「脂環式PEs2」:1,4−シクロヘキサンジメタノール、及び、アジピン酸を反応させたもの、数平均分子量;1,000
「芳香族PEs」;ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、及び無水テレフタル酸を反応させたもの、数平均分子量;1,000
「脂肪族PEs」;1,4−ブタンジオール、及びアジピン酸を反応させたもの、数平均分子量;1,000)
【0061】
本発明の合成皮革は、耐候性、接着強度、及び、低粘度性に優れる湿気硬化型ポリウレタンホットメルト樹脂組成物の硬化物層を有することが分かった。
【0062】
一方、比較例1は、脂環式ポリエステルポリオール(a1)の代わりに、芳香族ポリエステルポリオールを用いた態様であるが、接着強度には優れるものの、耐候性、及び低粘度性が不良であった。
【0063】
比較例2は、脂環式ポリエステルポリオール(a1)の代わりに、脂肪族ポリエステルポリオールを用いた態様であるが、接着強度が不良であった。
【要約】
本発明は、脂環式ポリエステルポリオール(a1)を含むポリオール(A)、及び、ポリイソシアネート(B)の反応物であるホットメルトウレタンプレポリマー(i)を含有する湿気硬化型ポリウレタンホットメルト樹脂組成物により形成された層を有することを特徴とする合成皮革を提供するものである。前記ポリオール(A)は、更に、ポリオキシプロピレングリコール(a2)を含むものである好ましい。前記湿気硬化型ポリウレタンホットメルト樹脂組成物は、更に、ヒンダードアミン化合物(ii)、トリアゾール化後会う物(iii)を含有することが好ましい。本発明の合成皮革は、耐候性、及び接着強度に優れるものであり、スプリットレザーとして好適に使用できるものである。