特許第6355103号(P6355103)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6355103
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】加熱装置および加熱方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/56 20060101AFI20180702BHJP
   C21D 1/74 20060101ALI20180702BHJP
   F27D 7/02 20060101ALI20180702BHJP
   B22D 45/00 20060101ALI20180702BHJP
   F23D 14/02 20060101ALI20180702BHJP
   F23D 14/22 20060101ALI20180702BHJP
   F23C 3/00 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   C21D9/56 102
   C21D1/74 G
   F27D7/02 A
   B22D45/00 B
   F23D14/02 M
   F23D14/22 E
   F23C3/00 301
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-185541(P2014-185541)
(22)【出願日】2014年9月11日
(65)【公開番号】特開2016-56428(P2016-56428A)
(43)【公開日】2016年4月21日
【審査請求日】2017年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】白神 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】田中 大樹
(72)【発明者】
【氏名】毛笠 明志
(72)【発明者】
【氏名】堀 司
(72)【発明者】
【氏名】久角 喜徳
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭59−153360(JP,U)
【文献】 実開昭58−083452(JP,U)
【文献】 実公昭46−023703(JP,Y1)
【文献】 特開昭60−075526(JP,A)
【文献】 特開昭61−048534(JP,A)
【文献】 特開昭50−008710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/52− 9/66
C21D 1/02− 1/84
F27D 7/00−15/02
F23C 1/00− 9/08
F23D 14/00−14/84
B22D 33/00−47/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の燃焼室の壁面に軸方向に沿って開口するスリットから前記燃焼室の前記壁面の接線方向に向けて、酸化剤と燃料とを個別に、または混合して噴出させて旋回燃焼させる管状火炎バーナと、
前記燃焼室の径方向の中央部に、前記燃焼室の軸方向に沿って線状または棒状の被加熱材料を供給する材料供給部と、
前記燃焼室において当量比が1より大きくなるように酸化剤の前記燃焼室への供給量を制御する供給量制御手段とを有する加熱装置。
【請求項2】
前記燃焼室内に、前記燃焼室の径方向において前記壁面から前記燃焼室の中心軸に向かって順に、燃焼前の燃料と酸化剤とが存在する未燃焼領域と、燃料の燃焼反応が進行する火炎領域と、燃焼反応終了後の還元性の燃焼ガスが存在する燃焼ガス領域とが同心の層状に形成され、前記材料供給部は前記被加熱材料を前記燃焼ガス領域に供給する請求項1に記載の加熱装置。
【請求項3】
軸方向に隣接する複数段の前記管状火炎バーナを有し、前記供給量制御手段は、作動させる前記管状火炎バーナを選択する請求項1または2に記載の加熱装置。
【請求項4】
前記管状火炎バーナに対して被加熱材料の供給方向の上流側に配置され、前記管状火炎バーナにて生じる還元性の燃焼ガスを酸化剤と混合して燃焼させて被加熱材料を加熱する予熱部を有する請求項1ないし3のいずれか1項記載の加熱装置。
【請求項5】
前記予熱部は円筒状の予熱燃焼室を有し、前記予熱燃焼室の壁面に軸方向に沿って開口するスリットから前記予熱燃焼室の壁面の接線方向に向けて、酸化剤を噴出させて、前記管状火炎バーナにて生じる還元性の燃焼ガスを燃焼させる請求項4に記載の加熱装置。
【請求項6】
前記予熱部が前記管状火炎バーナにて生じる還元性の燃焼ガスに点火するパイロットバーナを有する請求項4または5に記載の加熱装置。
【請求項7】
前記管状火炎バーナに対して被加熱材料の供給方向の下流側に配置され、前記管状火炎バーナにて生じる還元性の燃焼ガスの被加熱材料の供給方向の下流側への流通を抑制する下流側流通抑制手段を有する請求項4ないし6のいずれか1項記載の加熱装置。
【請求項8】
前記管状火炎バーナが前記燃焼室の軸方向を鉛直方向に向けた状態で配置され、前記管状火炎バーナの前記燃焼室の下方に前記管状火炎バーナにて溶融された被加熱材料を貯留する保持炉を有する請求項1ないし6のいずれか1項記載の加熱装置。
【請求項9】
原材料を線状または棒状に成形して被加熱材料とし、前記材料供給部へ供給する成形機を有する請求項8に記載の加熱装置。
【請求項10】
前記管状火炎バーナに対して被加熱材料の供給方向の上流側に配置され、前記管状火炎バーナにて生じる還元性の燃焼ガスの被加熱材料の供給方向の上流側への流通を抑制する上流側流通抑制手段と、
前記管状火炎バーナに対して被加熱材料の供給方向の上流側に配置され、前記管状火炎バーナにて生じる還元性の燃焼ガスを酸化剤と混合して燃焼させて被加熱材料を加熱する予熱部と、
前記上流側流通抑制手段に対して被加熱材料の供給方向の上流側まで、前記保持炉から燃焼ガスを送る燃焼ガス供給路とを有する請求項8または9に記載の加熱装置。
【請求項11】
前記保持炉は、溶融状態で貯留された被加熱材料が取り出される取出口と、前記取出口の近傍に設けられ燃焼ガスに点火するパイロットバーナとを有する請求項8ないし10のいずれか1項記載の加熱装置。
【請求項12】
円筒状の燃焼室の壁面に軸方向に沿って開口するスリットから前記燃焼室の前記壁面の接線方向に向けて、酸化剤と燃料とを個別に、または混合して噴出させて旋回燃焼させる管状火炎バーナを用いて、
前記燃焼室の径方向の中央部に、前記燃焼室の軸方向に沿って線状または棒状の被加熱材料を供給し、
前記燃焼室において当量比が1より大きくなるように酸化剤と燃料とを前記燃焼室へ噴出させて旋回燃焼させ、前記被加熱材料を加熱する加熱方法。
【請求項13】
前記燃焼室内に、前記燃焼室の径方向において前記壁面から前記燃焼室の中心軸に向かって順に、燃焼前の燃料と酸化剤とが存在する未燃焼領域と、燃料の燃焼反応が進行する火炎領域と、燃焼反応終了後の還元性の燃焼ガスが存在する燃焼ガス領域とを同心の層状に形成し、前記被加熱材料を前記燃焼ガス領域に供給する請求項12に記載の加熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線状または棒状の被加熱材料を加熱する加熱装置および加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鋼線やパイプ等、線状や棒状の金属材料の製造工程においては、金属組織の均一化、加工硬化の除去、浸炭処理や焼鈍等のため、金属材料に対して加熱処理が施される。その際、金属材料の酸化防止のために、真空中や還元雰囲気下にて加熱が行われる。
【0003】
特許文献1の連続真空浸炭装置では、複数の炉心管と電気ヒータを真空室内に配設し、第1の炉心管に浸炭ガス、第2の炉心管に不活性ガスを供給する。第1の炉心管を例えば1000℃に加熱した状態にて、金属線材を第1炉心管および第2炉心管の内部に挿入させる。すると、第1炉心管にて浸炭処理が進行し、第2炉心管にて炭素の拡散が進行する。真空中の処理であるので、表面酸化や粒界酸化を抑止して良好な浸炭が可能である。
【0004】
特許文献2の熱処理装置では、パイプの下方にバーナなどの加熱手段を設け、パイプ内に水素などの還元性ガスや窒素などの不活性ガスを供給する。そして、例えば700℃〜1150℃の範囲でパイプ内を走行する金属線材を加熱して、光輝焼鈍などの熱処理を施す。
【0005】
一方、アルミや亜鉛の溶解には、るつぼ炉等の工業炉が用いられる。特許文献3には、金属材料を溶解バーナにより溶解する溶解室と、溶解室から流入した溶湯を保持バーナによって所定温度に調整・保持する保持室と、保持室と連通し溶液を鋳造機へくみ出す汲出室により構成される溶解保持炉が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−248295号公報
【特許文献2】特開2008−133506号公報
【特許文献3】特開2005−76972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した熱処理装置においては、コストやエネルギー効率の面で多くの課題がある。すなわち特許文献1の連続真空浸炭装置では、金属線材の酸化を避けるために炉心管と電気ヒータを真空室内に設置し、炉心管に雰囲気ガスとして不活性ガスを供給しているため、装置の大型化・複雑化、雰囲気ガス供給のコストが問題となる。また、真空熱処理では対流による熱伝導が期待できないため、熱伝達の面で不利である。特許文献2の熱処理装置においても同様である。特許文献3の溶解保持炉においては、バーナからの完全燃焼ガスによる加熱によってアルミを溶解し、また溶解状態に保持しているので、溶湯表面に酸化膜が生成し、材料のロスが生じると共に、溶湯を用いて作成する製品が不良品となるリスクが存在する。さらにこれらの工業炉に共通して、その熱容量による蓄熱損失が大きく、また炉の外表面の面積が大きいため、表面積に比例する放熱損失も大きくなる。
【0008】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、被加熱材料の酸化を抑制しつつ、小型化が可能で、装置における熱損失を低減した加熱装置および加熱方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る加熱装置の特徴構成は、円筒状の燃焼室の壁面に軸方向に沿って開口するスリットから前記燃焼室の前記壁面の接線方向に向けて、酸化剤と燃料とを個別に、または混合して噴出させて旋回燃焼させる管状火炎バーナと、前記燃焼室の径方向の中央部に、前記燃焼室の軸方向に沿って線状または棒状の被加熱材料を供給する材料供給部と、前記燃焼室において当量比が1より大きくなるように酸化剤の前記燃焼室への供給量を制御する供給量制御手段とを有する点にある。
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係る加熱方法の特徴構成は、円筒状の燃焼室の壁面に軸方向に沿って開口するスリットから前記燃焼室の前記壁面の接線方向に向けて、酸化剤と燃料とを個別に、または混合して噴出させて旋回燃焼させる管状火炎バーナを用いて、前記燃焼室の径方向の中央部に、前記燃焼室の軸方向に沿って線状または棒状の被加熱材料を供給し、前記燃焼室において当量比が1より大きくなるように酸化剤と燃料とを前記燃焼室へ噴出させて旋回燃焼させ、前記被加熱材料を加熱する点にある。
【0011】
円筒状の燃焼室の壁面に軸方向に沿って開口するスリットから、燃焼室の壁面の接線方向に向けて、酸化剤と燃料とを個別に、または混合して噴出させて旋回燃焼させると、燃焼室に管状火炎が生成する。管状火炎の中心部の燃焼ガスは、断熱火炎温度がほぼ実現されているため高温となり、被加熱材料を短時間で加熱して所望の処理温度や溶融温度に到達させることができる。したがって、加熱装置の大きさと表面積を小さくすることができ、加熱装置における蓄熱損失と放熱損失を低減できる。
また、管状火炎が生成している燃焼室は内壁(壁面)が常温の未燃焼の混合気(酸化剤と燃料との混合気体)に覆われるため、外部への放熱損失がきわめて小さくなり、場合によっては断熱材を低減・省略することも可能となる。
すなわち管状火炎バーナを用いることにより、加熱装置の省エネルギーと省コストを実現できる。
【0012】
加えて、燃焼室において当量比が1より大きくなるように、酸化剤の燃焼室への供給量が制御されるので、管状火炎バーナの燃焼室における燃焼は燃料過剰の還元燃焼となる。管状火炎は層流火炎といわれているので、乱流火炎とは異なって、管状火炎の中心部の燃焼ガス層には局所的にも酸化雰囲気領域が形成されることがない。また管状火炎は、一般の工業用バーナよりも燃料過剰において、燃焼領域が広く、安定燃焼が可能であるため、本用途に好適である。そして材料供給部が、線状または棒状の被加熱材料を燃焼室の径方向の中央部に燃焼室の軸方向に沿って供給するので、被加熱材料に対して無酸化での加熱を行うことが可能となる。
【0013】
つまり上記特徴構成によれば、円筒状の燃焼室の壁面に軸方向に沿って開口するスリットから燃焼室の壁面の接線方向に向けて、酸素を含有する酸化剤と燃料とを個別に、または混合して噴出させて旋回燃焼させる管状火炎バーナにおいて、燃焼室において当量比が1より大きくなるように酸化剤と燃料とを燃焼室へ噴出させて旋回燃焼させ、燃焼室の径方向の中央部に、燃焼室の軸方向に沿って線状または棒状の被加熱材料を供給し、被加熱材料を加熱するので、加熱装置の小型化と放熱損失および蓄熱損失の低減を実現しつつ、被加熱材料に対する無酸化での加熱を行うことができる。
【0014】
本発明に係る加熱装置の別の特徴構成は、前記燃焼室内に、前記燃焼室の径方向において前記壁面から前記燃焼室の中心軸に向かって順に、燃焼前の燃料と酸化剤とが存在する未燃焼領域と、燃料の燃焼反応が進行する火炎領域と、燃焼反応終了後の還元性の燃焼ガスが存在する燃焼ガス領域とが同心の層状に形成され、前記材料供給部は前記被加熱材料を前記燃焼ガス領域に供給する点にある。
【0015】
本発明に係る加熱方法の別の特徴構成は、前記燃焼室内に、前記燃焼室の径方向において前記壁面から前記燃焼室の中心軸に向かって順に、燃焼前の燃料と酸化剤とが存在する未燃焼領域と、燃料が燃焼する火炎領域と、燃料が燃焼して生じる還元性の燃焼ガスが存在する燃焼ガス領域とを同心の層状に形成し、前記被加熱材料を前記燃焼ガス領域に供給する点にある。
【0016】
管状火炎バーナの燃焼室に、当量比が1より大きくなるように酸化剤と燃料とを噴出させると、管状火炎が生成し、燃焼室には、径方向において壁面から燃焼室の中心軸に向かって順に、燃焼前の燃料と酸化剤が存在する未燃焼領域と、燃料の燃焼反応が進行する火炎領域と、燃焼反応終了後の還元性の燃焼ガスが存在する燃焼ガス領域とが同心の層状に生じる。燃焼室の中心の燃焼ガス領域には、燃料過剰の乱流火炎のように酸化雰囲気が局所的に形成される恐れがない。すなわち上記特徴構成によれば、燃焼室に、燃焼室の径方向において壁面から燃焼室の中心軸に向かって順に、燃焼前の燃料と酸化剤とが存在する未燃焼領域と、燃料の燃焼反応が進行する火炎領域と、燃焼反応終了後の還元性の燃焼ガスが存在する燃焼ガス領域とを同心の層状に生じさせ、被加熱材料を燃焼ガス領域に供給することにより、無酸化での加熱処理を安定して行うことができる。なお管状火炎は、一般の工業用バーナよりも燃料過剰において、燃焼領域が広く、安定燃焼が可能であるため、本用途に好適である。すなわち管状火炎バーナにおいては、燃焼が還元燃焼領域で当量比の変動に対して安定しており、かつ、被処理物が局所的にも酸化雰囲気に晒されないのである。
【0017】
本発明に係る加熱装置の別の特徴構成は、軸方向に隣接する複数段の前記管状火炎バーナを有し、前記供給量制御手段は、作動させる前記管状火炎バーナを選択する点にある。
【0018】
上記特徴構成によれば、加熱装置は軸方向に隣接する複数段の管状火炎バーナを有し、供給量制御手段が、作動させる管状火炎バーナを選択するので、選択された管状火炎バーナからは管状火炎が生じ、選択されなかった管状火炎バーナからは管状火炎が生じない。すなわち作動させる管状火炎バーナの選択により、生成する管状火炎の軸方向の長さを変更することができ、被加熱材料の加熱に必要な長さの管状火炎を形成することができる。
【0019】
本発明に係る加熱装置の別の特徴構成は、前記管状火炎バーナに対して被加熱材料の供給方向の上流側に配置され、前記管状火炎バーナにて生じる還元性の燃焼ガスを酸化剤と混合して燃焼させて被加熱材料を加熱する予熱部を有する点にある。
【0020】
管状火炎バーナには燃焼室において当量比が1より大きくなるように酸化剤と燃料が供給されるため、管状火炎バーナにて生じる燃焼ガスには、未燃焼の燃料や、不完全燃焼により生じた一酸化炭素や水素が含まれている。上記特徴構成によれば、管状火炎バーナに対して被加熱材料の供給方向の上流側に予熱部が配置され、管状火炎バーナにて生じる還元性の燃焼ガスを酸化剤と混合して燃焼させて、被加熱材料を加熱するので、被加熱材料に対して管状火炎バーナにて加熱が行われる前に予熱を行うことができる。また、管状火炎バーナで燃焼されなかった燃料、すなわち未燃の可燃性ガスを予熱部で利用できるので、加熱装置の省エネルギー性を高めることができる。さらに、予熱部での燃焼により、燃焼ガス(排ガス)から可燃性の燃料および一酸化炭素が取り除かれるので、加熱装置の安全性を高めることができる。
【0021】
本発明に係る加熱装置の別の特徴構成は、前記予熱部は円筒状の予熱燃焼室を有し、前記予熱燃焼室の壁面に軸方向に沿って開口するスリットから前記予熱燃焼室の壁面の接線方向に向けて、酸化剤を噴出させて、前記管状火炎バーナにて生じる還元性の燃焼ガスを燃焼させる点にある。
【0022】
上記特徴構成によれば、予熱部は円筒状の予熱燃焼室を有し、予熱燃焼室の壁面に軸方向に沿って開口するスリットから予熱燃焼室の壁面の接線方向に向けて酸化剤を噴出させて、管状火炎バーナにて生じる還元性の燃焼ガスを燃焼させるので、予熱燃焼室に円筒状の火炎が生成されて被加熱材料を効率的に加熱することができる。なお、予熱部での燃料となる燃焼ガスが予熱燃焼室に対して軸方向から供給された場合は、予熱燃焼室に生成する火炎は学術的な定義では管状火炎とは呼べないが、その場合であっても円筒状の火炎が生成して、被加熱材料を効率的に加熱することができる。
【0023】
本発明に係る加熱装置の別の特徴構成は、前記予熱部が前記管状火炎バーナにて生じる燃焼ガスに点火するパイロットバーナを有する点にある。
【0024】
管状火炎バーナで発生した可燃性ガス(燃焼ガス)は、組成によりあるいは温度によって、可燃限界の限界付近にある可能性がある。上記特徴構成によれば、予熱部が前記管状火炎バーナにて生じる燃焼ガスに点火するパイロットバーナを有するので、予熱部において吹き消えがあっても、常時点火のパイロットバーナにより管状火炎バーナから送られた燃焼ガスに確実に点火することができ、あるいはパイロットバーナから熱とラジカルを供給することで、予熱部における燃焼を安定的に継続させることができる。
【0025】
本発明に係る加熱装置の別の特徴構成は、前記管状火炎バーナに対して被加熱材料の供給方向の下流側に配置され、前記管状火炎バーナにて生じる還元性の燃焼ガスの被加熱材料の供給方向の下流側への流通を抑制する下流側流通抑制手段を有する点にある。
【0026】
上記特徴構成によれば、管状火炎バーナにて生じる燃焼ガスの被加熱材料の供給方向の下流側への流通を抑制する下流側流通抑制手段が、管状火炎バーナに対して被加熱材料の供給方向の下流側に配置されるので、燃焼ガスは管状火炎バーナに対して被加熱材料の供給方向の上流側へ流れることとなる。したがって、管状火炎バーナの被加熱材料の供給方向の上流側に配置された予熱部に対して燃焼ガスを効率的に送ることができる。また、管状火炎バーナにおいて被加熱材料の移動方向と燃焼ガスの流れる方向が逆になる(向流)ため、被加熱材料を効率的に加熱することができる。
【0027】
本発明に係る加熱装置の別の特徴構成は、前記管状火炎バーナが前記燃焼室の軸方向を鉛直方向に向けた状態で配置され、前記管状火炎バーナの前記燃焼室の下方に前記管状火炎バーナにて溶融された被加熱材料を貯留する保持炉を有する点にある。
【0028】
上記特徴構成によれば、管状火炎バーナが燃焼室の軸方向を鉛直方向に向けた状態で配置され、管状火炎バーナの燃焼室の下方に保持炉が配置されるので、管状火炎バーナで加熱され溶融した被加熱材料を管状火炎バーナの燃焼室の内壁に付着させることなく、保持炉に回収することができる。また、溶融した被加熱材料は重力により被加熱材料から下方へ分離されるので、管状火炎バーナで生じる熱を被加熱材料の溶融に有効利用することができ、ひいては加熱装置を小型化して蓄熱損失・放熱損失を低減することも可能となる。
【0029】
本発明に係る加熱装置の別の特徴構成は、原材料を線状または棒状に成形して被加熱材料とし、前記材料供給部へ供給する成形機を有する点にある。
【0030】
溶融に供されるアルミや亜鉛等の材料(原材料)は、通常はインゴット等に一次成形された状態で流通する。そのような原材料を線状または棒状に機械的に成形するのに要するエネルギーはそれほど大きくないため、原材料を線状または棒状に成形してから溶融することによる伝熱促進効果により相殺されうる。すなわち上記特徴構成によれば、原材料を線状または棒状に成形して被加熱材料とし、材料供給部へ供給する成形機を有するので、全体として省エネルギーな加熱装置を提供することができる。
【0031】
本発明に係る加熱装置の別の特徴構成は、前記管状火炎バーナに対して被加熱材料の供給方向の上流側に配置され、前記管状火炎バーナにて生じる還元性の燃焼ガスの被加熱材料の供給方向の上流側への流通を抑制する上流側流通抑制手段と、前記管状火炎バーナに対して被加熱材料の供給方向の上流側に配置され、前記管状火炎バーナにて生じる還元性の燃焼ガスを酸化剤と混合して燃焼させて被加熱材料を加熱する予熱部と、前記上流側流通抑制手段に対して被加熱材料の供給方向の上流側まで、前記保持炉から燃焼ガスを送る燃焼ガス供給路とを有する点にある。
【0032】
上記特徴構成によれば、管状火炎バーナにて生じる燃焼ガスの上流側への流通を抑制する上流側流通抑制手段が管状火炎バーナの上流側に配置されているため、燃焼ガスは管状火炎バーナの下方、すなわち管状火炎バーナの下流側に配置された保持炉へと流入する。これによって保持炉の内部が高温かつ還元性の燃焼ガスに満たされるので、保持炉に貯留された溶融済みの被加熱材料に対して、溶融状態を維持しつつ酸化を防止することができる。この場合、管状火炎バーナの上流側に配置される予熱部に対して直接には燃焼ガスが送られないが、保持炉から流通抑制手段の上流側まで燃焼ガスを送る燃焼ガス供給路を有することにより、保持炉から燃焼ガスを予熱部に送って燃焼させ、被加熱材料を予熱することができる。すなわち上記特徴構成により、管状火炎バーナで生じた燃焼ガスを保持炉と予熱部に順に導いて、燃焼ガスが持つ熱量と、還元性雰囲気と、燃料とを有効活用することができる。
【0033】
本発明に係る加熱装置の別の特徴構成は、前記保持炉は、溶融状態で貯留された被加熱材料が取り出される取出口と、前記取出口の近傍に設けられ燃焼ガスに点火するパイロットバーナとを有する点にある。
【0034】
管状火炎バーナから保持炉に供給される燃焼ガスは、未燃焼の燃料を含む上、燃料に炭化水素を用いる場合は不完全燃焼による一酸化炭素を含む場合があり、漏洩ガスの発火、爆発もしくは一酸化炭素中毒が発生する危険がある。上記特徴構成によれば、保持炉が被加熱材料(溶融状態)が取り出される取出口と、その近傍に設けられたパイロットバーナを有するので、取出口から溶融状態の被加熱材料を取り出す際には常時点火のパイロットバーナにより燃焼ガスに点火されるので、燃焼ガスが保持炉から外部に流出する事態を回避して、予期しない漏洩ガスの発火、爆発や一酸化炭素中毒事故を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】第1実施形態に係る加熱装置の斜視図
図2】第2実施形態に係る加熱装置の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0036】
〔第1実施形態〕
以下に図1を参照して加熱装置1および加熱方法について説明する。図1は、加熱装置1の構成を示す斜視図である。図1に示す通り、第1実施形態に係る加熱装置1は、その軸方向(図中の矢印A)に沿って、材料送出部F(材料供給部)と、導入部50と、予熱部40と、連結部51と、管状火炎バーナ10と、冷却部52と、材料回収部W(材料供給部)とを有する。導入部50と、予熱部40と、連結部51と、管状火炎バーナ10と、冷却部52は、いずれも同程度の内径をもつ管状の部材であり、その内部の筒状空間を連通させた状態にて、その軸同士を一直線上に沿わせた状態で、上記の順番で軸方向に連結接続されている。本実施形態では、材料送出部Fと材料回収部Wとで材料供給部を構成する。
【0037】
<材料送出部F>
材料送出部Fは、導入部50の開口部に被加熱材料Mを供給する。材料送出部Fから供給されて管状火炎バーナ10で加熱される被加熱材料Mは、線状のまたは棒状の材料であり、鋼鉄線や非鉄金属、例えば銅の細線等である。被加熱材料Mは、管状の導入部50、予熱部40、連結部51、管状火炎バーナ10、冷却部52の内部空間の中央付近を通過して、材料回収部Wへと送られる。すなわち材料送出部Fは、管状火炎バーナ10の内部空間である燃焼室11の径方向の中央部に、燃焼室11の軸方向に沿って被加熱材料Mを供給する。導入部50へ供給する被加熱材料Mは1本でもよいし、一度に複数(例えば、10本)の被加熱材料Mを導入部50へ供給してもよい。
以下、導入部50等の軸方向に沿った被加熱材料Mの供給方向の上流側を単に「上流側」と、被加熱材料Mの供給方向の下流側を単に「下流側」という。
【0038】
<導入部50>
導入部50は、内部に筒状の空間をもつ管状の部材であり、上流側の開口部から被加熱材料Mが供給される。連結部51はガス排出部Eを有する。導入部50の内部には、その下流に接続される予熱部40から、予熱部40での燃焼ガスの燃焼により生じる燃焼排ガスが流入するが、その燃焼排ガスはガス排出部Eを通じて加熱装置1の外部に排出される。
【0039】
<予熱部40>
予熱部40は、内部に筒状の予熱燃焼室41をもつ管状の部材であり、導入部50の下流側に連結して配置される。予熱燃焼室41の壁面には、軸方向に沿って開口するスリット42が設けられる。本実施形態ではスリット42は、予熱燃焼室41の軸に関して対称となる位置に2つ設けられているが、3つ以上設けることも可能である。なお、予熱量を増やす必要がある場合、あるいは未燃焼ガスが可燃範囲の濃度を下回る場合には、酸化剤に燃料を予混合させたり、スリットの一部を燃料供給用に使うことも可能である。
【0040】
スリット42には、酸化剤供給路32から酸化剤が供給され、その酸化剤がスリット42から予熱燃焼室41の壁面の接線方向にむけて噴出される。一方、予熱燃焼室41の下流側の開口からは、管状火炎バーナ10で生じた燃焼ガスが供給される。そして予熱燃焼室41の内部で酸化剤と燃焼ガスが混合され、図示しないパイロットバーナにより点火されて、燃焼ガスが燃焼する。すなわち予熱部40においては、酸化剤が予熱燃焼室41の周囲からその内壁の接線方向に旋回供給され、燃焼ガスが軸方向から供給されて、燃焼ガスが燃焼する。燃焼による火炎は円筒状となり、その火炎により被加熱材料Mが加熱される。予熱燃焼室41の内部は酸化雰囲気となる場合があるが、酸化剤の噴出量や噴出速度を適切に調整し、被加熱材料Mに酸化が生じない温度範囲にて予熱を行うことが可能である。
【0041】
なお、酸化剤供給路32には酸化剤の流量を制御する流量調整弁24が設けられ、流量調整弁24は制御装置20により制御される。すなわち制御装置20により、スリット42に供給される酸化剤の流量が制御される。
スリット42に供給される酸化剤としては、後述の管状火炎バーナ10に供給される酸化剤と同様のものが用いられる。
【0042】
<連結部51>
連結部51は、内部に筒状の空間をもつ管状の部材であり、予熱部40の下流側に連結して配置される。連結部51には、下流側に連結して配置される管状火炎バーナ10から火炎の一部と燃焼ガスが流入し、燃焼ガスは上流側の予熱部40に送られる。管状火炎バーナ10は被加熱材料Mの加熱や溶融に必要な所定の温度に所定時間保たれる必要があり、一方予熱部40は被加熱材料Mの酸化速度が問題とならないように、より低い温度に保つ必要がある。そのため連結部51は、必要となる長さや断熱性を備えて配置される。
【0043】
<管状火炎バーナ10>
管状火炎バーナ10は、上流側の管状火炎バーナ10aと下流側の管状火炎バーナ10bとが軸方向に隣接して複数段(2段)設けられている。
管状火炎バーナ10aは、内部に筒状の燃焼室11aをもつ管状の部材であり、連結部51の下流側に連結して配置される。燃焼室11aの内壁部15a(壁面)には、軸方向に沿って開口するスリット12aが設けられる。そしてスリット12aから酸化剤と燃料との混合気体を燃焼室11へ噴出させて旋回燃焼させるように構成されている。
管状火炎バーナ10bは、内部に筒状の燃焼室11bをもつ管状の部材であり、管状火炎バーナ10aの下流側に連結して配置される。燃焼室11bの内壁部15b(壁面)には、軸方向に沿って開口するスリット12bが設けられる。そしてスリット12bから酸化剤と燃料との混合気体を燃焼室11へ噴出させて旋回燃焼させるように構成されている。
スリット12a、12bは、燃焼室11a、11bの軸に関して対称となる位置に、それぞれ2つずつ設けられているが、3つ以上設けることも可能である。
【0044】
管状火炎バーナ10に供給される燃料としては、水素または炭化水素を主とする気体燃料(例えば天然ガス)、あるいは、霧化または気化された液体燃料(例えば重油)を用いることができる。酸化剤としては、空気、気体の酸素(酸素100%)、酸素富化空気(例えば、体積比で40%以上の酸素を含む空気)もしくは炭酸ガスと酸素の混合気体を用いることができる。
【0045】
管状火炎バーナ10には、スリット12a、12bに燃料と酸化剤の混合気体を供給する燃料供給路30a、30bが接続される。燃料供給路30a、30bには、ベンチュリーミキサ26を介して、燃料を供給する燃料供給路30と酸化剤を供給する酸化剤供給路31が接続されている。燃料供給路30から供給された燃料と酸化剤供給路31から供給された酸化剤とがベンチュリーミキサ26で混合され、その混合気体が燃料供給路30a、30bを通じてスリット12a、12bに供給される。
【0046】
燃料供給路30a、30bには、それぞれを流通する混合気体の流量を調整する流量調整弁23a、23bが設けられている。燃料供給路30と酸化剤供給路31には、それぞれを流通する気体の流量を調整する流量調整弁21、22が設けられている。流量調整弁21、22の開度を調整することにより、ベンチュリーミキサ26で混合される燃料と酸化剤の当量比が変更・調整される。
【0047】
制御装置20は、流量調整弁21、22、23a、23bの開度を各別に調整可能に構成されている。すなわち制御装置20は、流量調整弁21、22の開度を調整することにより、スリット12a、12bから燃焼室11に噴出される酸化剤と燃料との混合比(当量比)を調整する。
本実施形態では、制御装置20(供給量制御手段)が、燃焼室11において当量比が1より大きくなるように、酸化剤の燃焼室11への供給量を制御する。より詳しくは、燃料の供給量を制御することにより管状火炎バーナ10a、10bにおける燃焼量(発熱量)を制御し、酸化剤の供給量を制御することにより燃焼室11a、11bにおける当量比を制御する。
【0048】
上述のように、管状火炎バーナ10a、10bにおいてスリット12a、12bから燃焼室11の壁面(内壁部15)の接線方向に向けて酸化剤と燃料とを当量比が1より大きくなるように混合して噴出させて旋回燃焼させると、燃焼室11a、11bには予混合の管状火炎が生成する。そして燃焼室11a、11bには、燃焼室11a、11bの径方向(図1中の矢印B方向)において内壁部15から軸に向かって順に、燃焼前の燃料が存在する未燃焼領域と、燃料が燃焼する火炎領域と、燃料が燃焼して生じる還元性の燃焼ガスが存在する燃焼ガス領域が生じる。そして、導入部50、予熱部40、連結部51を経由して材料送出部Fから送られてきた被加熱材料Mが、燃焼室11の中央部、すなわち燃焼ガス領域に供給され、高温の燃焼ガスにより無酸化状態で加熱される。
【0049】
制御装置20(供給量制御手段)は、オペレーターからの指示入力に基づいて、軸方向に隣接する管状火炎バーナ10a、10bから作動させる管状火炎バーナを選択し、流量調整弁23a、23bを制御して、選択された管状火炎バーナのスリットから酸化剤と燃料とを噴出させるよう構成されている。
例えば、融点が低い被加熱材料Mを溶融させずに焼き入れを行う場合には管状火炎バーナ10bのみを選択し、スリット12bから酸化剤と燃料とを噴出させる。そうすると、下流側のスリット12bから管状火炎が生成し、管状火炎バーナ10a、10bの両方を選択した場合に比べて管状火炎が短くなるので、被加熱材料Mの温度を過度に上昇させて溶融させることなく、適切な温度で焼き入れを行うことができる。
例えば、高温での焼鈍が必要な被加熱材料Mを加熱する場合には管状火炎バーナ10a、10bの両方を選択し、スリット12aと12bから酸化剤と燃料とを噴出させる。そうすると、スリット12aと12bの両方から管状火炎が生成し、それらが一体となった長い管状火炎が生成する。つまり、管状火炎バーナ10bのみを選択した場合に比べて管状火炎が長くなるので、被加熱材料Mを十分に加熱することができる。
なお本実施形態では、軸方向に隣接するスリットを2つ設けたが、1つ設けてもよいし、3つ以上設けてもよい。更には、燃料と酸化剤を別個のスリットから供給して、急速混合型の管状火炎バーナとしてもよい。
【0050】
燃焼室11bの下流側の端部には、中央に被加熱材料Mが通過する通過穴14(オリフィス)を有する下流側壁部13(下流側流通抑制手段L)が設けられる。燃焼室11a、11bでは燃料が燃焼することにより燃焼ガスが生じるが、燃焼室11bの下流側の端部に下流側壁部13が存在するため、燃焼ガスが管状火炎バーナ10の下流側に配置される冷却部52に流入することが抑制され、燃焼ガスの大部分は管状火炎バーナ10の上流側へと流れ、連結部51を経由して予熱部40へ導かれる。すなわち、スリット12a、12bから噴出された酸化剤と燃料との混合気体は、図1において点線で描かれた螺旋状の矢印のように、旋回しつつ燃焼しながら上流側へと移動するので、酸化剤と燃料との混合気体(燃焼ガス)と被加熱材料Mとは、全体として逆の方向へ移動する(向流)。なお、通過穴14(オリフィス)の下流側に常時点火のパイロットバーナを設け、通過穴14(オリフィス)から漏出する燃焼ガスに点火するように構成してもよい。
【0051】
<冷却部52>
冷却部52は、内部に筒状の空間をもつ管状の部材であり、管状火炎バーナ10の下流側に連結して配置される。冷却部52は、冷却ガス供給路33が接続された冷却ガス導入部53と、冷却ガス排出部54とを有する。冷却部52の内部空間には、通過穴14を通って管状火炎バーナ10で加熱された被加熱材料Mが供給され、冷却ガス導入部53から導入された冷却ガスにより被加熱材料Mが冷却される。高温である被加熱材料Mの酸化を抑制するため、冷却ガスとしては窒素や希ガスなどの不活性ガスが用いられる。被加熱材料Mを冷却した冷却ガスは、冷却ガス排出部54から加熱装置1の外部へ排出される。なお、冷却ガス排出部54を設けず、冷却部52の下流側の開口部から冷却ガスを排出するように構成してもよい。また、冷却ガスに換えて水や油を噴霧して被加熱材料Mを冷却するように構成してもよい。あるいは、被加熱材料Mを油槽または水槽へ送り込んで急冷するように構成してもよい。
【0052】
<材料回収部W>
材料回収部Wは、冷却部52の下流側に配置され、冷却部52から送られる被加熱材料Mを回収して、例えばリールに巻き取りつつ、線状または棒状の被加熱材料Mに所定の張力を付与してたるみを少なくし、被加熱材料Mが管状火炎バーナ10等の管状部材に接触することを防止する。
【0053】
上述のように構成した加熱装置1においては、円筒状の燃焼室11の壁面に軸方向に沿って開口するスリット12a、12bから燃焼室11の壁面の接線方向に向けて、酸素を含有する酸化剤と燃料とを個別に、または混合して噴出させて旋回燃焼させる管状火炎バーナ10を用いて、燃焼室11の径方向の中央部に、燃焼室11の軸方向に沿って線状または棒状の被加熱材料Mを供給し、燃焼室11において当量比が1より大きくなるように酸化剤と燃料とを燃焼室へ噴出させて旋回燃焼させ、被加熱材料Mを加熱することができる。さらに、燃焼室11内に、燃焼室11の径方向において壁面から燃焼室11の中心軸に向かって順に、燃焼前の燃料が存在する未燃焼領域と、燃料が燃焼する火炎領域と、燃料が燃焼して生じる還元性の燃焼ガスが存在する燃焼ガス領域とを形成し、被加熱材料Mを燃焼ガス領域に供給して加熱することができる。
【0054】
〔第2実施形態〕
上述の第1実施形態では、管状火炎バーナ10をはじめとする管状部材を、その軸同士を一直線上に沿わせた状態で配置して、線状または棒状の被加熱材料Mを加熱した。本実施形態では、例えばアルミや亜鉛等の融点の比較的低い金属等を加熱して溶融させるにあたり、管状火炎バーナ10をはじめとする管状の部材を、その軸を鉛直方向に向けた状態で配置し、さらに管状火炎バーナ10の下方に管状火炎バーナ10にて溶融された被加熱材料Mを貯留する保持炉Kを設ける。
【0055】
以下に図2を参照して第2実施形態に係る加熱装置1について説明する。図2は、加熱装置1の構成を示す斜視図である。図2に示す通り、第2実施形態に係る加熱装置1は、その軸方向(図中の矢印A)に沿って、成形機Pと、材料送出部F(材料供給部)と、導入部50と、予熱部40と、連結部51と、管状火炎バーナ10と、保持炉Kとを有する。第1実施形態と構造・機能が共通するものについては第1実施形態と同じ符号を付し、詳細な説明を省略する場合がある。
【0056】
<成形機P>
成形機Pは、材料送出部Fの上流側に設けられ、インゴット等の原材料を、線状または棒状に機械的に成形して被加熱材料Mとし、材料送出部Fに供給する。成形機Pとしては、プレス装置やローラー式延伸装置等が用いられる。なお、成形機Pを材料送出部Fの上流側に設けず、加熱装置1とは別の場所で原材料を被加熱材料Mへと成形し、材料送出部Fに供給するように構成してもよい。
【0057】
<材料送出部F>
材料送出部Fは、成形機Pで成形されて線状または棒状となった被加熱材料Mを、導入部50の開口部に供給する。材料送出部Fは、図示しないモータにより駆動される2本のローラで構成され、回転するローラの間に被加熱材料Mを挟み込み、導入部50へ供給する。
【0058】
<連結部51>
連結部51は、燃焼ガス供給部135を有する。燃焼ガス供給部135は燃焼ガス供給路134と連結され、後述する保持炉Kの燃焼ガス排出部133から排出される燃焼ガスを連結部51の内部空間に導入する。その燃焼ガスは、後述する上流側壁部113の存在により、連結部51の上流側に配置された予熱部40へと導かれ、予熱部40において供給された酸化剤と混合されて燃焼する。
【0059】
<管状火炎バーナ10>
管状火炎バーナ10は、第1実施形態と異なり、その軸を鉛直方向に向けて配置される。したがって、管状火炎バーナ10で加熱され溶融された被加熱材料Mは、重力の作用により即時に被加熱材料Mと分離されて下方へと落下し、保持炉Kの保持室136にて溶融状態で保持される。
【0060】
本実施形態においても、第1実施形態と同様に、燃焼室11において当量比が1より大きくなるように酸化剤と燃料を混合して噴出・旋回燃焼させるので、燃焼室11に管状火炎が生じ、その中央部は還元雰囲気となり、供給された被加熱材料Mは無酸化の状態で溶融される。
【0061】
管状火炎バーナ10には、第1実施形態とは異なり、燃焼室11aの上流側の端部に、中央に被加熱材料Mが通過する通過穴114(オリフィス)を有する上流側壁部113(上流側流通抑制手段U)が設けられる。上流側壁部113の存在により、燃焼ガスが管状火炎バーナ10の上流側に配置される連結部51に流入することが抑制され、燃焼ガスの大部分は管状火炎バーナ10の下流側へと流れ、保持炉Kへ導かれる。すなわち、スリット12a、12bから噴出された酸化剤と燃料との混合気体は、図2において点線で描かれた螺旋状の矢印のように、旋回しつつ燃焼しながら下流側へと移動するので、酸化剤と燃料との混合気体(燃焼ガス)と被加熱材料Mとは、全体として同じ方向へ移動する。
【0062】
<保持炉K>
保持炉Kは、管状火炎バーナ10の下方に、その内部の保持室136と管状火炎バーナ10の燃焼室11とを連通させた状態で配置される。保持室136には、管状火炎バーナ10から溶解状態の被加熱材料Mと、燃料の燃焼により生じた燃焼ガスが供給される。保持室136の内部には高温の燃焼ガスが充満するので、溶融した被加熱材料Mが溶融状態を保ったまま貯留される。また、燃焼ガスは還元性雰囲気のため、保持室136における被加熱材料Mの酸化が抑制される。保持炉Kにおいて被加熱材料Mが溶融状態を保ったまま貯留される間に、合金を形成する他の微量成分を加えて合金の溶湯とされ、また貯留の間に合金組成と温度の安定化が行われる。
【0063】
保持炉Kには、燃焼ガス排出部133が備えられる。燃焼ガス排出部133は、保持室136に満たされた燃焼ガスを燃焼ガス供給路134へ導き、燃焼ガス供給部135、連結部51を経て、予熱部40に供給する。
【0064】
また保持炉Kは、溶融状態の被加熱材料Mを取り出すための取出口137と、取出口137の近傍に設けられたパイロットバーナ(図示なし)を有する。管状火炎バーナ10から保持室136に供給された燃焼ガスには、管状火炎バーナ10での燃焼が酸素と燃料との当量比を1より大きい状態とした燃焼のため、未燃焼の燃料が含まれている。また、燃料として炭化水素を用いる場合には、不完全燃焼により一酸化炭素が含まれている場合がある。取出口137の近傍にパイロットバーナを設けておくと、取出口137から被加熱材料Mを取り出す場合には燃焼ガスに点火されるので、予期しない引火や一酸化炭素中毒事故を防止することができ安全である。
【0065】
〔別実施形態〕
(1)
上述の第1実施形態、第2実施形態においては、ベンチュリーミキサ26にて燃料と酸化剤とを混合して、管状火炎バーナ10のスリット12a、12bから噴出させたが、酸化剤と燃料とを個別に管状火炎バーナ10のスリット12a、12bから噴出させても良い。例えば、燃焼室11の軸に関して対称となる位置に2つ設けられたスリット12aのうち、一方から酸化剤、他方から燃料を噴出させ、燃焼室11の内部において急速混合させるよう構成してもよい。スリット12bについても同様である。この場合、いわゆる逆火が生じないので、安全に燃焼を行わせることができる。
【0066】
(2)
上述の第1実施形態、第2実施形態においては、制御装置20(供給量制御手段)が流量調整弁21および流量調整弁24を制御して、燃焼室11における当量比が1より大きくなるように酸化剤の燃焼室11への供給量を制御したが、流量調整弁21および流量調整弁24を手動で調整して、燃焼室11における当量比が1より大きくなるように酸化剤と燃料とを燃焼室11へ噴出させてもよい。
【0067】
(3)
第1実施形態および第2実施形態において、管状火炎バーナ10のスリット12a、12bに供給される酸化剤と、予熱部40のスリット42に供給される酸化剤とは、同一の組成であってもよいし、異なる組成であってもよい。例えば、管状火炎バーナ10のスリット12a、12bには酸素富化空気を供給し、予熱部40のスリット42には空気を供給してもよい。
【0068】
(4)
第2実施形態において、燃焼ガス供給路134またはガス排出部Eの下流側にブロアを設け、保持室136から燃焼ガスを吸引し、保持室136の内部を負圧としてもよい。あるいは、ガス排出部Eを煙突に接続してそのドラフト効果により燃焼ガスを吸引してもよい。この場合、燃焼ガスが取出口137から漏れ出るのを抑制するため、より安全性の高い加熱装置1を実現できる。
【0069】
(5)
第1実施形態においては燃焼室11の下流側の端部にオリフィスを有する下流側壁部13(下流側流通抑制手段L)が設けられ、燃焼ガスの大部分が管状火炎バーナ10の上流側へと導かれた。これに換えて、あるいは加えて、ガス排出部Eを煙突に接続してそのドラフト効果により燃焼ガスを上流側へと導いてもよいし、ガス排出部Eに誘引ファンを設けて吸引することにより燃焼ガスを上流側へと導いてもよい。第2実施形態においても同様である。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の加熱装置および加熱方法は、線状または棒状の被加熱材料の加熱の際に酸化を抑制して、製品の品質と歩留まりを向上させると共に、装置の小型化、省エネルギー、省コスト化が可能なものとして有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 :加熱装置
10a :管状火炎バーナ
10b :管状火炎バーナ
11 :燃焼室
12a :スリット
12b :スリット
13 :下流側壁部(下流側流通抑制手段L)
14 :通過穴(下流側流通抑制手段L)
15 :内壁部
20 :制御装置(供給量制御手段)
40 :予熱部
41 :予熱燃焼室
42 :スリット
113 :上流側壁部(上流側流通抑制手段U)
114 :通過穴(上流側流通抑制手段U)
134 :燃焼ガス供給路
136 :保持室
137 :取出口
F :材料送出部(材料供給部)
K :保持炉
M :被加熱材料
P :成形機
W :材料回収部(材料供給部)
図1
図2