【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る加熱装置の特徴構成は、円筒状の燃焼室の壁面に軸方向に沿って開口するスリットから前記燃焼室の前記壁面の接線方向に向けて、酸化剤と燃料とを個別に、または混合して噴出させて旋回燃焼させる管状火炎バーナと、前記燃焼室の径方向の中央部に、前記燃焼室の軸方向に沿って線状または棒状の被加熱材料を供給する材料供給部と、前記燃焼室において当量比が1より大きくなるように酸化剤の前記燃焼室への供給量を制御する供給量制御手段とを有する点にある。
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係る加熱方法の特徴構成は、円筒状の燃焼室の壁面に軸方向に沿って開口するスリットから前記燃焼室の前記壁面の接線方向に向けて、酸化剤と燃料とを個別に、または混合して噴出させて旋回燃焼させる管状火炎バーナを用いて、前記燃焼室の径方向の中央部に、前記燃焼室の軸方向に沿って線状または棒状の被加熱材料を供給し、前記燃焼室において当量比が1より大きくなるように酸化剤と燃料とを前記燃焼室へ噴出させて旋回燃焼させ、前記被加熱材料を加熱する点にある。
【0011】
円筒状の燃焼室の壁面に軸方向に沿って開口するスリットから、燃焼室の壁面の接線方向に向けて、酸化剤と燃料とを個別に、または混合して噴出させて旋回燃焼させると、燃焼室に管状火炎が生成する。管状火炎の中心部の燃焼ガスは、断熱火炎温度がほぼ実現されているため高温となり、被加熱材料を短時間で加熱して所望の処理温度や溶融温度に到達させることができる。したがって、加熱装置の大きさと表面積を小さくすることができ、加熱装置における蓄熱損失と放熱損失を低減できる。
また、管状火炎が生成している燃焼室は内壁(壁面)が常温の未燃焼の混合気(酸化剤と燃料との混合気体)に覆われるため、外部への放熱損失がきわめて小さくなり、場合によっては断熱材を低減・省略することも可能となる。
すなわち管状火炎バーナを用いることにより、加熱装置の省エネルギーと省コストを実現できる。
【0012】
加えて、燃焼室において当量比が1より大きくなるように、酸化剤の燃焼室への供給量が制御されるので、管状火炎バーナの燃焼室における燃焼は燃料過剰の還元燃焼となる。管状火炎は層流火炎といわれているので、乱流火炎とは異なって、管状火炎の中心部の燃焼ガス層には局所的にも酸化雰囲気領域が形成されることがない。また管状火炎は、一般の工業用バーナよりも燃料過剰において、燃焼領域が広く、安定燃焼が可能であるため、本用途に好適である。そして材料供給部が、線状または棒状の被加熱材料を燃焼室の径方向の中央部に燃焼室の軸方向に沿って供給するので、被加熱材料に対して無酸化での加熱を行うことが可能となる。
【0013】
つまり上記特徴構成によれば、円筒状の燃焼室の壁面に軸方向に沿って開口するスリットから燃焼室の壁面の接線方向に向けて、酸素を含有する酸化剤と燃料とを個別に、または混合して噴出させて旋回燃焼させる管状火炎バーナにおいて、燃焼室において当量比が1より大きくなるように酸化剤と燃料とを燃焼室へ噴出させて旋回燃焼させ、燃焼室の径方向の中央部に、燃焼室の軸方向に沿って線状または棒状の被加熱材料を供給し、被加熱材料を加熱するので、加熱装置の小型化と放熱損失および蓄熱損失の低減を実現しつつ、被加熱材料に対する無酸化での加熱を行うことができる。
【0014】
本発明に係る加熱装置の別の特徴構成は、前記燃焼室内に、前記燃焼室の径方向において前記壁面から前記燃焼室の中心軸に向かって順に、燃焼前の燃料と酸化剤とが存在する未燃焼領域と、燃料の燃焼反応が進行する火炎領域と、燃焼反応終了後の還元性の燃焼ガスが存在する燃焼ガス領域とが同心の層状に形成され、前記材料供給部は前記被加熱材料を前記燃焼ガス領域に供給する点にある。
【0015】
本発明に係る加熱方法の別の特徴構成は、前記燃焼室内に、前記燃焼室の径方向において前記壁面から前記燃焼室の中心軸に向かって順に、燃焼前の燃料と酸化剤とが存在する未燃焼領域と、燃料が燃焼する火炎領域と、燃料が燃焼して生じる還元性の燃焼ガスが存在する燃焼ガス領域とを同心の層状に形成し、前記被加熱材料を前記燃焼ガス領域に供給する点にある。
【0016】
管状火炎バーナの燃焼室に、当量比が1より大きくなるように酸化剤と燃料とを噴出させると、管状火炎が生成し、燃焼室には、径方向において壁面から燃焼室の中心軸に向かって順に、燃焼前の燃料と酸化剤が存在する未燃焼領域と、燃料の燃焼反応が進行する火炎領域と、燃焼反応終了後の還元性の燃焼ガスが存在する燃焼ガス領域とが同心の層状に生じる。燃焼室の中心の燃焼ガス領域には、燃料過剰の乱流火炎のように酸化雰囲気が局所的に形成される恐れがない。すなわち上記特徴構成によれば、燃焼室に、燃焼室の径方向において壁面から燃焼室の中心軸に向かって順に、燃焼前の燃料と酸化剤とが存在する未燃焼領域と、燃料の燃焼反応が進行する火炎領域と、燃焼反応終了後の還元性の燃焼ガスが存在する燃焼ガス領域とを同心の層状に生じさせ、被加熱材料を燃焼ガス領域に供給することにより、無酸化での加熱処理を安定して行うことができる。なお管状火炎は、一般の工業用バーナよりも燃料過剰において、燃焼領域が広く、安定燃焼が可能であるため、本用途に好適である。すなわち管状火炎バーナにおいては、燃焼が還元燃焼領域で当量比の変動に対して安定しており、かつ、被処理物が局所的にも酸化雰囲気に晒されないのである。
【0017】
本発明に係る加熱装置の別の特徴構成は、軸方向に隣接する複数段の前記管状火炎バーナを有し、前記供給量制御手段は、作動させる前記管状火炎バーナを選択する点にある。
【0018】
上記特徴構成によれば、加熱装置は軸方向に隣接する複数段の管状火炎バーナを有し、供給量制御手段が、作動させる管状火炎バーナを選択するので、選択された管状火炎バーナからは管状火炎が生じ、選択されなかった管状火炎バーナからは管状火炎が生じない。すなわち作動させる管状火炎バーナの選択により、生成する管状火炎の軸方向の長さを変更することができ、被加熱材料の加熱に必要な長さの管状火炎を形成することができる。
【0019】
本発明に係る加熱装置の別の特徴構成は、前記管状火炎バーナに対して被加熱材料の供給方向の上流側に配置され、前記管状火炎バーナにて生じる還元性の燃焼ガスを酸化剤と混合して燃焼させて被加熱材料を加熱する予熱部を有する点にある。
【0020】
管状火炎バーナには燃焼室において当量比が1より大きくなるように酸化剤と燃料が供給されるため、管状火炎バーナにて生じる燃焼ガスには、未燃焼の燃料や、不完全燃焼により生じた一酸化炭素や水素が含まれている。上記特徴構成によれば、管状火炎バーナに対して被加熱材料の供給方向の上流側に予熱部が配置され、管状火炎バーナにて生じる還元性の燃焼ガスを酸化剤と混合して燃焼させて、被加熱材料を加熱するので、被加熱材料に対して管状火炎バーナにて加熱が行われる前に予熱を行うことができる。また、管状火炎バーナで燃焼されなかった燃料、すなわち未燃の可燃性ガスを予熱部で利用できるので、加熱装置の省エネルギー性を高めることができる。さらに、予熱部での燃焼により、燃焼ガス(排ガス)から可燃性の燃料および一酸化炭素が取り除かれるので、加熱装置の安全性を高めることができる。
【0021】
本発明に係る加熱装置の別の特徴構成は、前記予熱部は円筒状の予熱燃焼室を有し、前記予熱燃焼室の壁面に軸方向に沿って開口するスリットから前記予熱燃焼室の壁面の接線方向に向けて、酸化剤を噴出させて、前記管状火炎バーナにて生じる還元性の燃焼ガスを燃焼させる点にある。
【0022】
上記特徴構成によれば、予熱部は円筒状の予熱燃焼室を有し、予熱燃焼室の壁面に軸方向に沿って開口するスリットから予熱燃焼室の壁面の接線方向に向けて酸化剤を噴出させて、管状火炎バーナにて生じる還元性の燃焼ガスを燃焼させるので、予熱燃焼室に円筒状の火炎が生成されて被加熱材料を効率的に加熱することができる。なお、予熱部での燃料となる燃焼ガスが予熱燃焼室に対して軸方向から供給された場合は、予熱燃焼室に生成する火炎は学術的な定義では管状火炎とは呼べないが、その場合であっても円筒状の火炎が生成して、被加熱材料を効率的に加熱することができる。
【0023】
本発明に係る加熱装置の別の特徴構成は、前記予熱部が前記管状火炎バーナにて生じる燃焼ガスに点火するパイロットバーナを有する点にある。
【0024】
管状火炎バーナで発生した可燃性ガス(燃焼ガス)は、組成によりあるいは温度によって、可燃限界の限界付近にある可能性がある。上記特徴構成によれば、予熱部が前記管状火炎バーナにて生じる燃焼ガスに点火するパイロットバーナを有するので、予熱部において吹き消えがあっても、常時点火のパイロットバーナにより管状火炎バーナから送られた燃焼ガスに確実に点火することができ、あるいはパイロットバーナから熱とラジカルを供給することで、予熱部における燃焼を安定的に継続させることができる。
【0025】
本発明に係る加熱装置の別の特徴構成は、前記管状火炎バーナに対して被加熱材料の供給方向の下流側に配置され、前記管状火炎バーナにて生じる還元性の燃焼ガスの被加熱材料の供給方向の下流側への流通を抑制する下流側流通抑制手段を有する点にある。
【0026】
上記特徴構成によれば、管状火炎バーナにて生じる燃焼ガスの被加熱材料の供給方向の下流側への流通を抑制する下流側流通抑制手段が、管状火炎バーナに対して被加熱材料の供給方向の下流側に配置されるので、燃焼ガスは管状火炎バーナに対して被加熱材料の供給方向の上流側へ流れることとなる。したがって、管状火炎バーナの被加熱材料の供給方向の上流側に配置された予熱部に対して燃焼ガスを効率的に送ることができる。また、管状火炎バーナにおいて被加熱材料の移動方向と燃焼ガスの流れる方向が逆になる(向流)ため、被加熱材料を効率的に加熱することができる。
【0027】
本発明に係る加熱装置の別の特徴構成は、前記管状火炎バーナが前記燃焼室の軸方向を鉛直方向に向けた状態で配置され、前記管状火炎バーナの前記燃焼室の下方に前記管状火炎バーナにて溶融された被加熱材料を貯留する保持炉を有する点にある。
【0028】
上記特徴構成によれば、管状火炎バーナが燃焼室の軸方向を鉛直方向に向けた状態で配置され、管状火炎バーナの燃焼室の下方に保持炉が配置されるので、管状火炎バーナで加熱され溶融した被加熱材料を管状火炎バーナの燃焼室の内壁に付着させることなく、保持炉に回収することができる。また、溶融した被加熱材料は重力により被加熱材料から下方へ分離されるので、管状火炎バーナで生じる熱を被加熱材料の溶融に有効利用することができ、ひいては加熱装置を小型化して蓄熱損失・放熱損失を低減することも可能となる。
【0029】
本発明に係る加熱装置の別の特徴構成は、原材料を線状または棒状に成形して被加熱材料とし、前記材料供給部へ供給する成形機を有する点にある。
【0030】
溶融に供されるアルミや亜鉛等の材料(原材料)は、通常はインゴット等に一次成形された状態で流通する。そのような原材料を線状または棒状に機械的に成形するのに要するエネルギーはそれほど大きくないため、原材料を線状または棒状に成形してから溶融することによる伝熱促進効果により相殺されうる。すなわち上記特徴構成によれば、原材料を線状または棒状に成形して被加熱材料とし、材料供給部へ供給する成形機を有するので、全体として省エネルギーな加熱装置を提供することができる。
【0031】
本発明に係る加熱装置の別の特徴構成は、前記管状火炎バーナに対して被加熱材料の供給方向の上流側に配置され、前記管状火炎バーナにて生じる還元性の燃焼ガスの被加熱材料の供給方向の上流側への流通を抑制する上流側流通抑制手段と、前記管状火炎バーナに対して被加熱材料の供給方向の上流側に配置され、前記管状火炎バーナにて生じる還元性の燃焼ガスを酸化剤と混合して燃焼させて被加熱材料を加熱する予熱部と、前記上流側流通抑制手段に対して被加熱材料の供給方向の上流側まで、前記保持炉から燃焼ガスを送る燃焼ガス供給路とを有する点にある。
【0032】
上記特徴構成によれば、管状火炎バーナにて生じる燃焼ガスの上流側への流通を抑制する上流側流通抑制手段が管状火炎バーナの上流側に配置されているため、燃焼ガスは管状火炎バーナの下方、すなわち管状火炎バーナの下流側に配置された保持炉へと流入する。これによって保持炉の内部が高温かつ還元性の燃焼ガスに満たされるので、保持炉に貯留された溶融済みの被加熱材料に対して、溶融状態を維持しつつ酸化を防止することができる。この場合、管状火炎バーナの上流側に配置される予熱部に対して直接には燃焼ガスが送られないが、保持炉から流通抑制手段の上流側まで燃焼ガスを送る燃焼ガス供給路を有することにより、保持炉から燃焼ガスを予熱部に送って燃焼させ、被加熱材料を予熱することができる。すなわち上記特徴構成により、管状火炎バーナで生じた燃焼ガスを保持炉と予熱部に順に導いて、燃焼ガスが持つ熱量と、還元性雰囲気と、燃料とを有効活用することができる。
【0033】
本発明に係る加熱装置の別の特徴構成は、前記保持炉は、溶融状態で貯留された被加熱材料が取り出される取出口と、前記取出口の近傍に設けられ燃焼ガスに点火するパイロットバーナとを有する点にある。
【0034】
管状火炎バーナから保持炉に供給される燃焼ガスは、未燃焼の燃料を含む上、燃料に炭化水素を用いる場合は不完全燃焼による一酸化炭素を含む場合があり、漏洩ガスの発火、爆発もしくは一酸化炭素中毒が発生する危険がある。上記特徴構成によれば、保持炉が被加熱材料(溶融状態)が取り出される取出口と、その近傍に設けられたパイロットバーナを有するので、取出口から溶融状態の被加熱材料を取り出す際には常時点火のパイロットバーナにより燃焼ガスに点火されるので、燃焼ガスが保持炉から外部に流出する事態を回避して、予期しない漏洩ガスの発火、爆発や一酸化炭素中毒事故を防止することができる。