特許第6355108号(P6355108)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6355108
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】燃料電池拘束部材
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20180702BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20180702BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20180702BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   H01M8/04 H
   C08L83/07
   C08L83/05
   C08K3/22
【請求項の数】2
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-246683(P2015-246683)
(22)【出願日】2015年12月17日
(65)【公開番号】特開2017-110138(P2017-110138A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2017年3月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊野 尚美
(72)【発明者】
【氏名】石井 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩
(72)【発明者】
【氏名】竹内 弘明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 靖之
(72)【発明者】
【氏名】松本 展明
(72)【発明者】
【氏名】坂本 晶
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−204259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04
C08L 83/07
C08L 83/05
C08K 3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.05〜30μmであり、動的光散乱法により測定した粒子径分布(体積基準)の積算値90%における粒子径D90と積算値10%における粒子径D10との比(ΔD=D90/D10)が1≦ΔD<100であり、球状シリカ微粒子及び球状アルミナ微粒子からなる群から選択される少なくとも1種の球状酸化物微粒子、
下記平均組成式(1):
SiO (1)
(式中、Rは1価の炭化水素基を表し、該炭化水素基は置換基を有していてもよい。)
で表される繰り返し単位を有し、1分子中に少なくとも1個のケイ素原子結合ビニル基を有するオルガノポリシロキサン、及び
下記平均組成式(2):
SiO (2)
(式中、Rは1価の炭化水素基を表し、該炭化水素基は置換基を有していてもよい。)
で表される繰り返し単位を有し、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
を含有する組成物の硬化物からなり、
該組成物の硬化物の25℃、大気圧条件下における全体積に対する前記球状酸化物微粒子の体積分率V(単位:体積%)が下記式(3):
11×log(D)+9≦V≦15×log(D)+16 (3)
(式中、Dは前記球状酸化物微粒子の平均粒子径(単位:nm)を表す。)
で表される条件を満たし、
前記ケイ素原子結合ビニル基の含有量が、前記オルガノポリシロキサン全量に対して0.05〜1.0質量%であり、
前記ケイ素原子結合水素原子の含有量が、前記オルガノハイドロジェンポリシロキサン全量に対して0.10〜1.0質量%であり、
動的粘弾性測定における前記組成物の硬化物の貯蔵弾性率が、測定周波数が10−2Hzの場合に1.5MPa以下であり、測定周波数が10Hzの場合に8.0MPa以上である、
シリコーンゴム組成物の硬化物からなることを特徴とする燃料電池拘束部材。
【請求項2】
前記平均組成式(1)で表される繰り返し単位がジメチルシロキサン単位であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池拘束部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンゴム組成物及びそれを用いた燃料電池拘束部材に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に搭載されている燃料電池スタックは、複数の単セルを積層させた積層体を備えるものである。この燃料電池スタックに、車両の衝突等により大きな衝撃が加わると、単セルの積層位置が大きくずれて給気システムが破損し、水素ガス等が漏れ、燃料電池セルの発電機能が停止する場合があった。
【0003】
このような衝撃による単セルの積層位置のずれを防止する方法として、特開2013−41845号公報(特許文献1)には、エンドプレートで挟持した燃料電池セル層(複数の単セル層)の4つの側面にスタックパネルを配置してケーシングし、さらに、スタックパネルの側面に荷重受け部材を結合した燃料電池スタックにおいて、荷重受け部材とスタックパネルとの間に隙間を設けて、荷重受け部材が受けた衝撃荷重をエンドプレートに分散させ、燃料電池セル層に衝撃荷重が直接伝わらないようにしたり、荷重受け部材とスタックパネルとの結合部に緩衝部材を挿入して、荷重受け部材が受けた衝撃荷重を緩和したりする方法が記載されている。
【0004】
また、特開2015−15220号公報(特許文献2)には、複数の単セルを積層させた積層体と、これを収容するケースと、このケースに一体的に形成された外部拘束部材とを備える燃料電池スタックにおいて、外部拘束部材と積層体との間に所定の隙間を設けることによって、通常使用時には、外部拘束部材と積層体との接触による単セルの変形や破損が防止でき、燃料電池スタックに大きな衝撃が加わった場合には、積層体が外部拘束部材に接触して単セルの積層位置のずれが防止できることが記載されている。また、特許文献2には、外部拘束部材等に対向する単セルの角に、緩衝用のゴム部材が設けられていること、また、外部拘束部材と積層体との間に、ゴム等によって構成される隙間調整部材を設けてもよいことが記載されている。このように、従来の燃料電池スタックにおいては、通常使用時の単セルの変形や破損の防止と、大きな衝撃が加わった場合の単セルの積層位置のずれの防止を両立させるためには、外部拘束部材と積層体との間に、所定の隙間や緩衝用ゴム部材、隙間調整部材を設ける必要があった。
【0005】
しかしながら、従来の有機ゴムによって構成される緩衝用ゴム部材や隙間調整部材は、大きな衝撃が加わると、貯蔵弾性率が低下して柔らかくなるため、外部拘束部材によるずれ防止性能が十分に発揮されない場合があった。また、外部拘束部材によるずれ防止性能を十分に発揮させるために、高い貯蔵弾性率を有する有機ゴムを緩衝用ゴム部材や隙間調整部材に使用した場合には、通常使用時に、使用環境による材料の膨張や収縮、車両の振動等によって、積層体が外部拘束部材や隙間調整部材と接触し、単セルが変形したり、破損したりする場合があった。このため、単セルの変形や破損と積層位置のずれの両方を防止することが可能な拘束部材が求められてきた。
【0006】
そこで、特開2015−82370号公報(特許文献3)には、急激な変形に対しては固体的に振る舞い、ゆっくりとした変形に対しては流動性を示すダイラタント流体が収容されている袋状部材を有する衝撃伝達部を、複数の単セルを積層させた積層体とそれを締結するための締結支持部との間に備えている燃料電池が提案されている。この燃料電池においては、通常使用時には、ダイラタント流体の流動性によって衝撃伝達部が変形し、単セルの変形や破損が防止され、大きな衝撃が加わった場合には、ダイラタント流体の固体的な振る舞いによって単セルの積層位置のずれが防止される。
【0007】
しかしながら、特許文献3の燃料電池においては、ダイラタント流体が袋状部材に収容されているため、袋状部材が破損した場合にはダイラタント流体が漏れ出すという問題があった。このため、単セルの変形や破損と積層位置のずれの両方を防止することが可能な固体状の拘束部材が求められてきた。
【0008】
一方、シリコーンゴムは、耐熱性、耐寒性、耐候性、電気絶縁性等に優れており、電気機器用部品、自動車用部品、医療関連部品、食品関連部品等、様々な用途に使用されている。このようなシリコーンゴムとしては、例えば、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、オルガノハイドロジェンシロキサン、アルミナやシリカ等の充填剤を含有するシリコーンゴム組成物が知られている(特開昭63−251466号公報(特許文献4)、特開平9−302230号公報(特許文献5)、特開平11−343417号公報(特許文献6)、特開2002−12768号公報(特許文献7)、特開2011−122000号公報(特許文献8))。
【0009】
また、シリコーンゴムは、ひずみ速度が速くなっても貯蔵弾性率が低下しにくい、或いは、やや高くなるという、通常の有機ゴムとは異なる特性も有しており、新たな用途への展開が期待されている。しかしながら、従来のシリコーンゴムは、ひずみ速度が速い場合の貯蔵弾性率が必ずしも高いものではなく、用途によっては、充填剤の配合量を増加させて、ひずみ速度が速い場合の貯蔵弾性率を高くする必要があった。また、充填剤の配合量が増加すると、ひずみ速度が遅い場合の貯蔵弾性率が必ずしも低いものではなかった。このように、従来のシリコーンゴム組成物においては、ひずみ速度が速い場合の貯蔵弾性率が高くなり、ひずみ速度が遅い場合の貯蔵弾性率が低くなるという両方の特性を満たす単一の硬化物を得ることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2013−41845号公報
【特許文献2】特開2015−15220号公報
【特許文献3】特開2015−82370号公報
【特許文献4】特開昭63−251466号公報
【特許文献5】特開平9−302230号公報
【特許文献6】特開平11−343417号公報
【特許文献7】特開2002−12768号公報
【特許文献8】特開2011−122000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ひずみ速度が遅い場合に硬化物の貯蔵弾性率が低くなり(動的粘弾性測定における測定周波数が10−2Hzの場合に硬化物の貯蔵弾性率が1.5MPa以下となり)、ひずみ速度が速い場合に硬化物の貯蔵弾性率が高くなる(動的粘弾性測定における測定周波数が10Hzの場合に硬化物の貯蔵弾性率が8.0MPa以上となる)シリコーンゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ケイ素原子結合アルケニル基の含有量が特定の範囲内にあるオルガノポリシロキサンと、ケイ素原子結合水素原子の含有量が特定の範囲内にあるオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを用いることによって、球状酸化物微粒子の体積分率を増加させても、ひずみ速度が遅い場合に硬化物の貯蔵弾性率が低くなるシリコーンゴム組成物が得られることを見出し、さらに、平均粒子径と体積分率とが特定の条件を満たすように球状酸化物微粒子を配合することによって、ひずみ速度が遅い場合には硬化物の貯蔵弾性率が低く、ひずみ速度が速い場合には硬化物の貯蔵弾性率が高くなるシリコーンゴム組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の燃料電池拘束部材は、
平均粒子径が0.05〜30μmであり、動的光散乱法により測定した粒子径分布(体積基準)の積算値90%における粒子径D90と積算値10%における粒子径D10との比(ΔD=D90/D10)が1≦ΔD<100であり、球状シリカ微粒子及び球状アルミナ微粒子からなる群から選択される少なくとも1種の球状酸化物微粒子、
下記平均組成式(1):
SiO (1)
(式中、Rは1価の炭化水素基を表し、該炭化水素基は置換基を有していてもよい。)
で表される繰り返し単位を有し、1分子中に少なくとも1個のケイ素原子結合ビニル基を有するオルガノポリシロキサン、及び
下記平均組成式(2):
SiO (2)
(式中、Rは1価の炭化水素基を表し、該炭化水素基は置換基を有していてもよい。)
で表される繰り返し単位を有し、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
を含有する組成物の硬化物からなり、
該組成物の硬化物の25℃、大気圧条件下における全体積に対する前記球状酸化物微粒子の体積分率V(単位:体積%)が下記式(3):
11×log(D)+9≦V≦15×log(D)+16 (3)
(式中、Dは前記球状酸化物微粒子の平均粒子径(単位:nm)を表す。)
で表される条件を満たし、
前記ケイ素原子結合ビニル基の含有量が、前記オルガノポリシロキサン全量に対して0.05〜1.0質量%であり、
前記ケイ素原子結合水素原子の含有量が、前記オルガノハイドロジェンポリシロキサン全量に対して0.10〜1.0質量%であり、
動的粘弾性測定における前記組成物の硬化物の貯蔵弾性率が、測定周波数が10−2Hzの場合に1.5MPa以下であり、測定周波数が10Hzの場合に8.0MPa以上である、
シリコーンゴム組成物の硬化物からなることを特徴とするものである。
【0014】
前記平均組成式(1)で表される繰り返し単位としてはジメチルシロキサン単位が好ましい。
【0016】
なお、本発明のシリコーンゴム組成物において、ひずみ速度が遅い場合には硬化物の貯蔵弾性率が低くなり、ひずみ速度が速い場合には硬化物の貯蔵弾性率が高くなる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明のシリコーンゴム組成物の硬化物において、球状酸化物微粒子は最密充填よりも疎な状態で配置されていると推察される。ひずみ速度が遅い場合には、微粒子同士が接触しない隙間を利用して微粒子同士の配置換えが可能であるため、本発明のシリコーンゴム組成物の硬化物は、貯蔵弾性率が低くなると推察される。一方、ひずみ速度が速い場合には、微粒子同士が配置換えされる時間がなく、微粒子同士が接触して力の伝達が起こるため、本発明のシリコーンゴム組成物の硬化物は、貯蔵弾性率が高くなると推察される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ひずみ速度が遅い場合には硬化物の貯蔵弾性率が低く(動的粘弾性測定における測定周波数が10−2Hzの場合に硬化物の貯蔵弾性率が1.5MPa以下となり)、ひずみ速度が速い場合には硬化物の貯蔵弾性率が高くなる(動的粘弾性測定における測定周波数が10Hzの場合に硬化物の貯蔵弾性率が8.0MPa以上となる)シリコーンゴム組成物を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明における球状酸化物微粒子の平均粒子径Dと体積分率Vとの関係を示すグラフである。
図2】球状酸化物微粒子の体積分率の下限値及び上限値を算出する際に測定した貯蔵弾性率G’と球状酸化物微粒子の平均粒子径Dとの関係を示すグラフである。
図3】実施例及び比較例で得られた成形品における球状酸化物微粒子の平均粒子径Dと体積分率Vと貯蔵弾性率G’との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0020】
先ず、本発明のシリコーンゴム組成物について説明する。本発明のシリコーンゴム組成物は、
平均粒子径が0.05〜30μmである球状酸化物微粒子、
下記平均組成式(1):
SiO (1)
(式中、Rは1価の炭化水素基を表し、該炭化水素基は置換基を有していてもよい。)
で表される繰り返し単位を有し、1分子中に少なくとも1個のケイ素原子結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、及び
下記平均組成式(2):
SiO (2)
(式中、Rは1価の炭化水素基を表し、該炭化水素基は置換基を有していてもよい。)
で表される繰り返し単位を有し、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
を含有する組成物であり、
該組成物の硬化物の25℃、大気圧条件下における全体積に対する前記球状酸化物微粒子の体積分率V(単位:体積%)が下記式(3):
11×log(D)+9≦V≦15×log(D)+16 (3)
(式中、Dは前記球状酸化物微粒子の平均粒子径(単位:nm)を表す。)
で表される条件を満たし、
前記ケイ素原子結合アルケニル基の含有量が、前記オルガノポリシロキサン全量に対して0.05〜1.0質量%であり、
前記ケイ素原子結合水素原子の含有量が、前記オルガノハイドロジェンポリシロキサン全量に対して0.10〜1.0質量%である、
ことを特徴とするものである。
【0021】
(i)球状酸化物微粒子
本発明に用いられる球状酸化物微粒子(以下、「球状酸化物微粒子(i)」という。)としては特に制限はないが、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の酸化物、及びこれらの複合酸化物が挙げられる。このような酸化物微粒子としては、その形状が球状であれば、内部に空隙(例えば、中空、多孔質)を有するものであってもよい。また、これらの球状酸化物微粒子は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0022】
球状酸化物微粒子(i)の平均粒子径は0.05〜30μmである。球状酸化物微粒子(i)の平均粒子径が前記下限未満になると、微粒子同士の凝集が起こり、本発明の効果が発現せず、また、前記上限を超えると、球状酸化物微粒子(i)の配合量を増加させる必要があり、ゴムとしての特性が損なわれる。また、本発明の効果をより確実に発現させるという観点から、球状酸化物微粒子(i)の平均粒子径としては0.1〜15μmが好ましい。なお、本発明において、球状酸化物微粒子(i)の平均粒子径は、球状酸化物微粒子(i)の水分散液について動的光散乱法により測定した粒子径分布(体積基準)の積算値50%における粒子径D50である。
【0023】
球状酸化物微粒子(i)の粒子径分布としては、球状酸化物微粒子(i)の水分散液について動的光散乱法により測定した粒子径分布(体積基準)の積算値90%における粒子径D90と積算値10%における粒子径D10との比(ΔD=D90/D10)が1≦ΔD<100であることが好ましく、1≦ΔD<50であることがより好ましい。ΔDが前記範囲内にある、すなわち、粒子径が均一な球状酸化物微粒子(i)は、規則正しく配列しやすいため、ひずみ速度が速い場合に、微粒子同士が接触して力の伝達効果が発現し、シリコーンゴム組成物の硬化物が硬くなりやすい(測定周波数10Hzにおける貯蔵弾性率が8.0MPa以上となる)傾向にある。一方、100<ΔDになる、すなわち、粒子径が不均一な球状酸化物微粒子(i)は、不規則に配列しやすいため、ひずみ速度が速い場合に、微粒子同士の接触が十分ではなく、力の伝達効果が発現しにくく、シリコーンゴム組成物の硬化物が硬くなりにくい(測定周波数10Hzにおける貯蔵弾性率が8.0MPa未満となる)傾向にある。
【0024】
(ii)1分子中に少なくとも1個のケイ素原子結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン
本発明に用いられるアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン(以下、「アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)」という。)は、下記平均組成式(1):
SiO (1)
(式中、Rは1価の炭化水素基を表し、該炭化水素基は置換基を有していてもよい。)
で表される繰り返し単位を有するものである。前記平均組成式(1)中のRとしては、例えば、メチル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、ビニル基、アリル基、プロピニル基が挙げられる。また、前記アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)は、基本的には直鎖状のジオルガノポリシロキサンであるが、一部の分岐構造を含んでいてもよい。このようなアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)のうち、シリコーンゴム組成物の硬化物の硬度と可撓性の観点から、前記平均組成式(1)で表される繰り返し単位がジメチルシロキサン単位であるものが好ましい。
【0025】
また、前記アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)は、ケイ素原子に結合したアルケニル基(以下、「ケイ素原子結合アルケニル基」という。)を1分子中に少なくとも1個有するものである。ケイ素原子結合アルケニル基がオルガノポリシロキサン1分子中に1個未満になると、網目構造が形成されず、良好な硬化物が得られない。このようなケイ素原子結合アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロピニル基等が挙げられ、中でも、ヒドロシリル化反応の反応性が高いことから、ビニル基が好ましい。このアルケニル基は、ケイ素原子に結合していれば、オルガノポリシロキサン分子中のどこに存在していてもよいが、分子末端に存在していることが好ましい。
【0026】
このようなアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)としては、例えば、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖のジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖のジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖のジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖のジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体等が挙げられる。これらのアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0027】
本発明において、ケイ素原子結合アルケニル基の含有量はアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)全量に対して0.05〜1.0質量%である。ケイ素原子結合アルケニル基の含有量が前記下限未満になると、得られるシリコーンゴム組成物の硬化物の貯蔵弾性率が低く、十分な機械的強度を有する硬化物が得られない。特に、ひずみ速度が速い場合に、シリコーンゴム組成物の硬化物が硬くならない(測定周波数10Hzにおける貯蔵弾性率が8.0MPa未満となる)。他方、ケイ素原子結合アルケニル基の含有量が前記上限を超えると、得られる硬化物の架橋密度が高くなりすぎる。特に、ひずみ速度が遅い場合に、シリコーンゴム組成物の硬化物が柔らかくならない(測定周波数10−2Hzにおける貯蔵弾性率が1.5MPaを超える)。また、本発明の効果をより確実に発現させるという観点から、ケイ素原子結合アルケニル基の含有量としては0.05〜0.5質量%がより好ましい。
【0028】
本発明に用いられるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)は、25℃において液状であることが好ましい。アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)の25℃における粘度としては、200〜3000mPaが好ましく、500〜2000mPaがより好ましい。粘度が前記下限未満のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)は、分子量が小さく、ゴム弾性を発現するために十分な分子長さを有しておらず、得られる硬化物が硬く、脆いものとなる傾向にある。特に、ひずみ速度が遅い場合に、シリコーンゴム組成物の硬化物が柔らかくならない(測定周波数10−2Hzにおける貯蔵弾性率が1.5MPaを超える)場合がある。他方、粘度が前記上限を超えるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)は、分子量が大きく、架橋点間距離が長く、得られる硬化物が柔らかくなり、機械的強度が不足する傾向にある。特に、ひずみ速度が速い場合に、シリコーンゴム組成物の硬化物が硬くならない(測定周波数10Hzにおける貯蔵弾性率が8.0MPa未満となる)場合がある。このようなアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)の粘度は、前記範囲内となるように、2種類以上のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)を混合して調整してもよい。
【0029】
また、前記アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)の平均重合度としては、50以上600未満が好ましい。平均重合度が前記下限未満のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)は、ゴム弾性を発現するために十分な分子長さを有しておらず、得られる硬化物が硬く、脆いものとなる傾向にある。特に、ひずみ速度が遅い場合に、シリコーンゴム組成物の硬化物が柔らかくならない(測定周波数10−2Hzにおける貯蔵弾性率が1.5MPaを超える)場合がある。他方、平均重合度が前記上限以上のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)は、架橋点間距離が長く、得られる硬化物が柔らかくなり、機械的強度が不足する傾向にある。特に、ひずみ速度が速い場合に、シリコーンゴム組成物の硬化物が硬くならない(測定周波数10Hzにおける貯蔵弾性率が8.0MPa未満となる)場合がある。また、本発明の効果をより確実に発現させるという観点から、前記アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)の平均重合度としては100以上500以下がより好ましい。
【0030】
(iii)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
本発明に用いられるオルガノハイドロジェンポリシロキサン(以下、「オルガノハイドロジェンポリシロキサン(iii)」という)は、下記平均組成式(2):
SiO (2)
(式中、Rは1価の炭化水素基を表し、該炭化水素基は置換基を有していてもよい。)
で表される繰り返し単位を有するものである。前記平均組成式(1)中のRとしては、例えば、水素原子、メチル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、ビニル基、アリル基、プロピニル基が挙げられる。また、前記オルガノハイドロジェンポリシロキサン(iii)の分子構造としては特に制限はなく、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよい。
【0031】
また、前記オルガノハイドロジェンポリシロキサン(iii)は、ケイ素原子に結合した水素原子(以下、「ケイ素原子結合水素原子」という。)を1分子中に少なくとも2個有するものである。ケイ素原子結合水素原子がオルガノハイドロジェンポリシロキサン1分子中に2個未満になると、網目構造が形成されず、良好な硬化物が得られない。このケイ素原子結合水素原子は、オルガノハイドロジェンポリシロキサン分子中のどこに存在していてもよい。
【0032】
このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサン(iii)としては、例えば、両末端トリメチルシロキシ基封鎖のメチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖のジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖のジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン環状共重合体等が挙げられる。これらのオルガノハイドロジェンポリシロキサン(iii)は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0033】
本発明において、ケイ素原子結合水素原子の含有量はオルガノハイドロジェンポリシロキサン(iii)全量に対して0.10〜1.0質量%である。ケイ素原子結合水素原子の含有量が前記下限未満になると、得られるシリコーンゴム組成物の硬化物の貯蔵弾性率が低く、十分な機械的強度を有する硬化物が得られない。特に、ひずみ速度が速い場合に、シリコーンゴム組成物の硬化物が硬くならない(測定周波数10Hzにおける貯蔵弾性率が8.0MPa未満となる)。他方、ケイ素原子結合水素原子の含有量が前記上限を超えると、得られる硬化物の架橋密度が高くなりすぎすぎる。特に、ひずみ速度が遅い場合に、シリコーンゴム組成物の硬化物が柔らかくならない(測定周波数10−2Hzにおける貯蔵弾性率が1.5MPaを超える)。また、本発明の効果をより確実に発現させるという観点から、ケイ素原子結合水素原子の含有量としては0.10〜0.60質量%がより好ましい。
【0034】
本発明に用いられるオルガノハイドロジェンポリシロキサン(iii)は、25℃において液状であることが好ましい。オルガノハイドロジェンポリシロキサン(iii)の25℃における粘度としては、200〜3000mPaが好ましく、500〜2000mPaがより好ましい。粘度が前記下限未満のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(iii)は、分子量が小さく、ゴム弾性を発現するために十分な分子長さを有しておらず、得られる硬化物が硬く、脆いものとなる傾向にある。特に、ひずみ速度が遅い場合に、シリコーンゴム組成物の硬化物が柔らかくならない(測定周波数10−2Hzにおける貯蔵弾性率が1.5MPaを超える)場合がある。他方、粘度が前記上限を超えるオルガノハイドロジェンポリシロキサン(iii)は、分子量が大きく、架橋点間距離が長く、得られる硬化物が柔らかくなり、機械的強度が不足する傾向にある。特に、ひずみ速度が速い場合に、シリコーンゴム組成物の硬化物が硬くならない(測定周波数10Hzにおける貯蔵弾性率が8.0MPa未満となる)場合がある。このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサン(iii)の粘度は、前記範囲内となるように、2種類以上のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(iii)を混合して調整してもよい。
【0035】
また、前記オルガノハイドロジェンポリシロキサン(iii)の平均重合度としては、50以上600未満が好ましい。平均重合度が前記下限未満のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(iii)は、ゴム弾性を発現するために十分な分子長さを有しておらず、得られる硬化物が硬く、脆いものとなる傾向にある。特に、ひずみ速度が遅い場合に、シリコーンゴム組成物の硬化物が柔らかくならない(測定周波数10−2Hzにおける貯蔵弾性率が1.5MPaを超える)場合がある。他方、平均重合度が前記上限以上のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(iii)は、架橋点間距離が長く、得られる硬化物が柔らかくなり、機械的強度が不足する傾向にある。特に、ひずみ速度が速い場合に、シリコーンゴム組成物の硬化物が硬くならない(測定周波数10Hzにおける貯蔵弾性率が8.0MPa未満となる)場合がある。また、本発明の効果をより確実に発現させるという観点から、前記オルガノハイドロジェンポリシロキサン(iii)の平均重合度としては100以上500以下がより好ましい。
【0036】
(iv)触媒
本発明のシリコーンゴム組成物においては、必要に応じて触媒(iv)を配合してもよい。このような触媒(iv)としては、ヒドロシリル化反応に用いられる白金族系触媒であれば特に制限はなく、例えば、Pt触媒(Speier触媒、Karstedt触媒、白金錯体(例えば、塩化白金酸をアルコール、キシレン、ケトン、オレフィン、シロキサン等に溶解させたもの)等)、Rh触媒(Wilkinson触媒等)、Pd触媒(Trost触媒等)が挙げられる。
【0037】
(v)添加剤
本発明のシリコーンゴム組成物においては、必要に応じて各種添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、顔料、充填剤、湿潤材、耐熱性向上剤、離型剤、接着性付与剤、可塑剤等が挙げられる。また、室温での硬化反応を制御するために、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン等の硬化調整剤やアセチレンアルコール(例えば、メチルイソブチノール)等の禁止剤を配合してもよい。
【0038】
(シリコーンゴム組成物)
本発明のシリコーンゴム組成物は、前記球状酸化物微粒子(i)、前記アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)、前記オルガノハイドロジェンポリシロキサン(iii)、及び必要に応じて前記触媒(iv)を含有するものである。本発明のシリコーンゴム組成物において、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)とオルガノハイドロジェンポリシロキサン(iii)との比率としては、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)中のケイ素原子結合アルケニル基1molに対して、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(iii)中のケイ素原子結合水素原子の量が0.5〜20molであることが好ましく、0.7〜5molであることがより好ましい。ケイ素原子結合水素原子の量が前記下限未満になると、架橋構造が十分に形成されないため、得られる硬化物の機械的強度が不足する傾向にある。特に、ひずみ速度が速い場合に、シリコーンゴム組成物の硬化物が硬くならない(測定周波数10Hzにおける貯蔵弾性率が8.0MPa未満となる)場合がある。他方、ケイ素原子結合水素原子の量が前記上限を超えると、架橋構造が多くなりすぎ、得られる硬化物が脆くなる傾向にある。特に、ひずみ速度が遅い場合に、シリコーンゴム組成物の硬化物が柔らかくならない(測定周波数10−2Hzにおける貯蔵弾性率が1.5MPaを超える)場合がある。
【0039】
なお、補強等の目的かつ本発明の効果を損なわない範囲で、アルケニル基を多量に含有するオルガノポリシロキサン、アルケニル基を含む表面処理剤で表面処理した球状酸化物微粒子やフィラーを使用する場合には、これらのアルケニル基に対応する量のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを追加することが好ましい。
【0040】
また、本発明のシリコーンゴム組成物において、球状酸化物微粒子(i)は、球状酸化物微粒子(i)の平均粒子径D(単位:nm)と、前記組成物の硬化物の25℃、大気圧条件下における全体積に対する球状酸化物微粒子(i)の体積分率V(単位:体積%)とが下記式(3):
11×log(D)+9≦V≦15×log(D)+16 (3)
で表される条件を満たすように配合する。これにより、球状酸化物微粒子(i)の体積分率Vを増加させること(好ましくは30体積%以上、より好ましくは35体積%以上、特に好ましくは40体積%以上)が可能となり、ひずみ速度が遅い場合には柔らかくなり、ひずみ速度が速い場合には硬くなる(測定周波数10−2Hzにおける貯蔵弾性率が1.5MPa以下かつ測定周波数10Hzにおける貯蔵弾性率が8.0MPa以上となる)シリコーンゴム硬化物が得られる。一方、V<11×log(D)+9になると、得られる硬化物が柔らかくなり、機械的強度が不足する。特に、ひずみ速度が速い場合に、シリコーンゴム組成物の硬化物が硬くならない(測定周波数10Hzにおける貯蔵弾性率が8.0MPa未満となる)。他方、V>15×log(D)+16になると、得られる硬化物が硬く、脆くなる。特に、ひずみ速度が遅い場合に、シリコーンゴム組成物の硬化物が柔らかくならない(測定周波数10−2Hzにおける貯蔵弾性率が1.5MPaを超える)。
【0041】
なお、前記式(3)で表される条件は以下のようにして決定される。すなわち、球状酸化物微粒子(i)、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)、及びオルガノハイドロジェンポリシロキサン(iii)を均一になるまで混練する。得られた混練物をステンレス製の板と厚さ5mmのスペーサーによって形成された凹部(40mm×40mm×5mm)に流し込んだ後、もう1枚のステンレス製の板を重ねてボルトで締め付けて固定し、120℃で120分間、オーブンで加熱して成形品を作製する。なお、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)のアルケニル基とオルガノハイドロジェンポリシロキサン(iii)の水素原子とのモル比は1.3〜1.8:1とする。
【0042】
得られた成形品からカッターナイフを用いて試験片(10mm×10mm×5mm)を切出し、動的粘弾性測定装置を用いて、測定温度:室温、ひずみ振幅:0.1%、試料変形モード:圧縮の条件で、周波数:0.1〜50Hzの範囲内の6水準の測定周波数おいて貯蔵弾性率を測定する。得られた結果に基づいて、貯蔵弾性率を測定周波数の1次関数として表して外挿し、測定周波数10−2Hz及び10Hzにおける貯蔵弾性率を求める。この測定を、球状酸化物微粒子(i)の体積分率Vを変化させて行い、得られた貯蔵弾性率(単位:Pa)を球状酸化物微粒子(i)の体積分率V(単位:体積%)に対してプロットし、この結果に基づいて、測定周波数10Hzにおける貯蔵弾性率が8.0MPa以上となる球状酸化物微粒子(i)の体積分率Vの範囲(下限値)並びに測定周波数10−2Hzにおける貯蔵弾性率が1.5MPa以下となる球状酸化物微粒子(i)の体積分率Vの範囲(上限値)を求める。
【0043】
平均粒子径Dが異なる球状酸化物微粒子(i)についても同様にして、測定周波数10Hzにおける貯蔵弾性率が8.0MPa以上となる球状酸化物微粒子(i)の体積分率Vの範囲(下限値)並びに測定周波数10−2Hzにおける貯蔵弾性率が1.5MPa以下となる球状酸化物微粒子(i)の体積分率Vの範囲(上限値)を求める。
【0044】
得られた結果に基づいて、球状酸化物微粒子(i)の平均粒子径D(単位:nm)と体積分率V(単位:体積%)の下限値及び上限値との関係式を求めると、それぞれ式(3a)及び(3b):
の下限値=11×log(D)+9 (3a)
の上限値=15×log(D)+16 (3b)
となる。
【0045】
したがって、動的粘弾性測定において、測定周波数が10Hzの場合に貯蔵弾性率が8.0MPa以上となり、測定周波数が10−2Hzの場合に貯蔵弾性率が1.5MPa以下となる球状酸化物微粒子(i)の体積分率V(単位:体積%)は、前記式(3)で表される条件を満たすもの(図1中の斜線部)となる。
【0046】
さらに、本発明のシリコーンゴム組成物において、触媒(iv)を配合する場合、その配合量としては、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)とオルガノハイドロジェンポリシロキサン(iii)との合計量に対して、白金系金属の量が0.1〜1000ppmとなる量が好ましく、1〜500ppmとなる量がより好ましい。触媒(iv)の配合量が前記下限未満になると、架橋反応が十分に進行しない場合があり、他方、前記上限を超える量を配合しても反応性は向上しない傾向にあり、経済的に好ましくない。
【0047】
(硬化物及びその用途)
このような本発明のシリコーンゴム組成物を硬化させることによって、ひずみ速度が遅い場合には柔らかくなり(測定周波数10−2Hzにおける貯蔵弾性率が1.5MPa以下となり)、ひずみ速度が速い場合には硬くなる(測定周波数10Hzにおける貯蔵弾性率が8.0MPa以上となる)シリコーンゴム硬化物が得られる。
【0048】
本発明のシリコーンゴム組成物の硬化条件としては、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)とオルガノハイドロジェンポリシロキサン(iii)とがヒドロキシル化反応して架橋構造を形成する条件であれば特に制限はないが、例えば、硬化温度としては20〜200℃が好ましい。また、触媒(iv)を配合することによってヒドロキシル化反応が促進されるため、この硬化温度を低くすることができる。硬化時間は、硬化温度に依存するが、通常、10分〜30時間に設定される。
【0049】
本発明のシリコーンゴム組成物の硬化物は、上述したように、ひずみ速度が遅い場合には柔らかくなり、ひずみ速度が速い場合には硬くなるものであるため、例えば、燃料電池スタックにおいて、複数の単セルを積層させた積層体とケースとの間に配置される部材(例えば、ケースに設置される外部拘束部材、単セルの角に設置される緩衝用ゴム部材、積層体とケースや外部拘束部材との隙間を埋める隙間調整剤等の燃料電池拘束部材)として使用することによって、燃料電池スタックの通常使用時には単セルの変形に追従できる柔らかさを発現して単セルの変形や破損を防ぐことができ、燃料電池スタックに大きな衝撃が加わった場合には硬さを発現して単セルの積層位置のずれを防止することが可能となる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、各物性の測定方法、及び実施例等で使用した原料を以下に示す。
【0051】
(1)平均粒子径及び粒子径分布の測定方法
球状酸化物微粒子(i)の水分散液(濃度:0.125質量%)を調製し、動的光散乱式粒度分布測定装置(大塚電子(株)製「ELS−Z」)を用いて25℃において球状酸化物微粒子(i)の粒子径分布(体積基準)を測定した。得られた粒子径分布(体積基準)の積算値50%の粒子径D50を球状酸化物微粒子(i)の平均粒子径Dとした。また、得られた粒子径分布(体積基準)から、積算値90%の粒子径D90と積算値10%の粒子径D10との比ΔD=D90/D10を求めた。
【0052】
(2)ケイ素原子結合アルケニル基含有量の測定方法
アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)のCDCl溶液(濃度:0.5質量%)を調製し、核磁気共鳴(NMR)装置(日本電子(株)製「JNM−ECX400P型」)を用いて周波数400MHzにおいてH−NMR測定を行なった。得られたH−NMRスペクトルのアルケニル基に由来するピークとその他の官能基に由来するピークの積分比から、水素原子の数を算出し、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)中のケイ素原子結合アルケニル基の含有量を求めた。
【0053】
(3)ケイ素原子結合水素原子含有量の測定方法
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(iii)のCDCl溶液(濃度:0.5質量%)を調製し、核磁気共鳴(NMR)装置(日本電子(株)製「JNM−ECX400P」)を用いて周波数400MHzにおいてH−NMR測定を行なった。得られたH−NMRスペクトルのケイ素原子結合水素原子に由来するピークとその他の官能基に由来するピークの積分比から、水素原子の数を算出し、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(iii)中のケイ素原子結合水素原子の含有量を求めた。
【0054】
(i)球状酸化物微粒子
・球状シリカ微粒子KE−P10
(株)日本触媒製アモルファスシリカ「シーホスターKE−P10」、真比重:2.0g/cm、平均粒子径D:100nm、ΔD:2.9。
・球状シリカ微粒子KE−P100
(株)日本触媒製アモルファスシリカ「シーホスターKE−P100」、真比重:2.0g/cm、平均粒子径D:1000nm、ΔD:1.4。
・球状シリカ微粒子KE−P250
(株)日本触媒製アモルファスシリカ「シーホスターKE−P250」、真比重:2.0g/cm、平均粒子径D:2500nm、ΔD:1.4。
・球状シリカ微粒子SO−E6
(株)アドマテックス製「SO−E6」、比重:2.3g/cm、平均粒子径D:1990nm、ΔD:4.0。
・球状アルミナ微粒子AO−809
(株)アドマテックス製「AO−809」、比重:3.7g/cm、平均粒子径D:12000nm、ΔD:50。
・球状シリカ混合微粒子
前記球状シリカ微粒子KE−P10と(株)日本触媒製アモルファスシリカ「シーホスターKE−P15」と(株)日本触媒製アモルファスシリカ「シーホスターKE−P20」とを体積比1:1:1で混合したもの、比重:2.0g/cm、平均粒子径D:150nm、ΔD:3.7。
【0055】
(ii)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン
・ビニル基末端ポリジメチルシロキサンDMS−V21
Gelest社製「DMS−V22」、比重:0.97g/cm、ケイ素原子結合ビニル基含有量:1.20質量%。
・ビニル基末端ポリジメチルシロキサンDMS−V22
Gelest社製「DMS−V22」、比重:0.97g/cm、ケイ素原子結合ビニル基含有量:0.60質量%。
・ビニル基末端ポリジメチルシロキサンDMS−V31
Gelest社製「DMS−V31」、比重:0.97g/cm、ケイ素原子結合ビニル基含有量:0.22質量%。
・ビニル基末端ポリジメチルシロキサンDMS−V33
Gelest社製「DMS−V33」、比重:0.97g/cm、ケイ素原子結合ビニル基含有量:0.13質量%。
・ビニル基末端ポリジメチルシロキサンDMS−V35
Gelest社製「DMS−V35」、比重:0.97g/cm、ケイ素原子結合ビニル基含有量:0.10質量%。
・ビニル基末端ポリジメチルシロキサンDMS−V46
Gelest社製「DMS−V46」、比重:0.97g/cm、ケイ素原子結合ビニル基含有量:0.04質量%。
・ビニル基含有ポリジメチルシロキサンKE−1051J(A)
信越シリコーン社製「KE−1051J(A)」、比重:0.97g/cm、ケイ素原子結合ビニル基含有量:0.24質量%。
・ビニル基含有ポリジメチルシロキサンKE−1012J(A)
信越シリコーン社製「KE−1012J(A)」、比重:0.97g/cm、ケイ素原子結合ビニル基含有量:0.35質量%。
【0056】
(iii)オルガノハイドロジェンポリシロキサン
・オルガノハイドロジェンポリシロキサンKE−1051J(B)
信越シリコーン社製「KE−1051J(B)」、比重:0.97g/cm、ケイ素原子結合水素原子含有量:0.14質量%。
・オルガノハイドロジェンポリシロキサンKE−1012J(B)
信越シリコーン社製「KE−1012J(B)」、比重:0.97g/cm、ケイ素原子結合水素原子含有量:0.19質量%。
・オルガノハイドロジェンポリシロキサンDMS−H21
Gelest社製「DMS−H21」、比重:0.97g/cm、ケイ素原子結合水素原子含有量:0.03質量%。
【0057】
(iv)触媒
白金錯体溶液(Gelest社製「SIP6830.0」)。
【0058】
<球状酸化物微粒子(i)の体積分率の下限値及び上限値の算出>
球状シリカ微粒子SO−E6とビニル基含有ポリジメチルシロキサンKE−1012J(A)とオルガノハイドロジェンポリシロキサンKE−1012J(B)とを均一になるまで混練した。得られた混練物をステンレス製の板と厚さ5mmのスペーサーによって形成された凹部(40mm×40mm×5mm)に流し込んだ後、もう1枚のステンレス製の板を重ねてボルトで締め付けて固定し、120℃で120分間、オーブンで加熱して成形品を作製した。なお、前記混練物は、ビニル基含有ポリジメチルシロキサンKE−1012J(A)のビニル基とオルガノハイドロジェンポリシロキサンKE−1012J(B)の水素原子とのモル比が1.8:1となるように、また、球状シリカ微粒子SO−E6の体積分率Vが、30体積%、39体積%、50体積%、56体積%、又は63体積%となるように調製した。
【0059】
得られた成形品からカッターナイフを用いて試験片(10mm×10mm×5mm)を切出し、各試験片について、動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御(株)製「DVA−220」)を用いて、測定温度:室温、ひずみ振幅:0.1%、試料変形モード:圧縮の条件で、周波数:0.1〜50Hzの範囲内の6水準の測定周波数おいて貯蔵弾性率G’を測定した。得られた結果に基づいて、貯蔵弾性率G’を測定周波数の1次関数として表して外挿し、測定周波数10−2Hz及び10Hzにおける貯蔵弾性率G’を求めた。得られた貯蔵弾性率G’(単位:Pa)を球状酸化物微粒子(i)の体積分率V(単位:体積%)に対してプロットし(図2)、この結果に基づいて、測定周波数10Hzにおける貯蔵弾性率G’が8.0MPa以上となる球状酸化物微粒子(i)の体積分率Vの範囲(下限値)並びに測定周波数10−2Hzにおける貯蔵弾性率G’が1.5MPa以下となる球状酸化物微粒子(i)の体積分率Vの範囲(上限値)を求めた。
【0060】
また、球状シリカ微粒子SO−E6の代わりに、平均粒子径が異なる他の球状酸化物微粒子(KE−P10、AO−809、混合微粒子)を用いた以外は上記と同様にして、球状酸化物微粒子(i)の体積分率Vの下限値及び上限値を求めた。
【0061】
得られた結果に基づいて、球状酸化物微粒子(i)の平均粒子径D(単位:nm)と体積分率V(単位:体積%)の下限値及び上限値との関係式を求めたところ、
の下限値=11×log(D)+9 (3a)
の上限値=15×log(D)+16 (3b)
となった。図1は、球状酸化物微粒子(i)の平均粒子径D(単位:nm)に対して、球状酸化物微粒子(i)の体積分率V(単位:体積%)の下限値及び上限値をプロットした結果、及び前記関係式(3a)及び(3b)を示したものである。
【0062】
(実施例1)
8.0gの球状シリカ微粒子SO−E6と1.0gのビニル基含有ポリジメチルシロキサンKE−1012J(A)と1.0gのオルガノハイドロジェンポリシロキサンKE−1012J(B)とを均一になるまで混練した。得られた混練物をステンレス製の板と厚さ5mmのスペーサーによって形成された凹部(40mm×40mm×5mm)に流し込んだ後、もう1枚のステンレス製の板を重ねてボルトで締め付けて固定し、120℃で120分間、オーブンで加熱して成形品を作製した。
【0063】
(実施例2)
混練物として、7.8gの球状シリカ微粒子SO−E6と1.3gのビニル基含有ポリジメチルシロキサンKE−1012J(A)と1.3gのオルガノハイドロジェンポリシロキサンKE−1012J(B)とを均一になるまで混練したものを用いた以外は、実施例1と同様にして成形品を作製した。
【0064】
(実施例3)
混練物として、8.4gの球状シリカ微粒子SO−E6と1.8gのビニル基含有ポリジメチルシロキサンKE−1012J(A)と1.8gのオルガノハイドロジェンポリシロキサンKE−1012J(B)とを均一になるまで混練したものを用いた以外は、実施例1と同様にして成形品を作製した。
【0065】
(実施例4)
混練物として、6.4gの球状シリカ微粒子KE−P10と3.0gのビニル基含有ポリジメチルシロキサンKE−1051J(A)と3.0gのオルガノハイドロジェンポリシロキサンKE−1051(B)とを均一になるまで混練したものを用いた以外は、実施例1と同様にして成形品を作製した。
【0066】
(実施例5)
混練物として、7.8gの球状シリカ微粒子KE−P100と2.1gのビニル基含有ポリジメチルシロキサンKE−1051J(A)と2.1gのオルガノハイドロジェンポリシロキサンKE−1051(B)とを均一になるまで混練したものを用いた以外は、実施例1と同様にして成形品を作製した。
【0067】
(実施例6)
混練物として、8.4gの球状シリカ微粒子KE−P250と1.8gのビニル基含有ポリジメチルシロキサンKE−1051J(A)と1.8gのオルガノハイドロジェンポリシロキサンKE−1051(B)とを均一になるまで混練したものを用いた以外は、実施例1と同様にして成形品を作製した。
【0068】
(実施例7)
混練物として、9.4gの球状シリカ微粒子KE−P100と1.3gのビニル基末端ポリジメチルシロキサンDMS−V22と3.9gのオルガノハイドロジェンポリシロキサンKE−1051J(B)と1μlの白金錯体溶液とを均一になるまで混練したものを用いた以外は、実施例1と同様にして成形品を作製した。
【0069】
(実施例8)
混練物として、7.4gの球状シリカ微粒子KE−P100と2.0gのビニル基末端ポリジメチルシロキサンDMS−V31と2.0gのオルガノハイドロジェンポリシロキサンKE−1051J(B)と1μlの白金錯体溶液とを均一になるまで混練したものを用いた以外は、実施例1と同様にして成形品を作製した。
【0070】
(実施例9)
混練物として、4.8gの球状シリカ微粒子KE−P100と1.6gのビニル基末端ポリジメチルシロキサンDMS−V33と1.0gのオルガノハイドロジェンポリシロキサンKE−1051J(B)と1μlの白金錯体溶液とを均一になるまで混練したものを用いた以外は、実施例1と同様にして成形品を作製した。
【0071】
(実施例10)
混練物として、5.2gの球状シリカ微粒子KE−P100と1.8gのビニル基末端ポリジメチルシロキサンDMS−V35と1.0gのオルガノハイドロジェンポリシロキサンKE−1051J(B)と1μlの白金錯体溶液とを均一になるまで混練したものを用いた以外は、実施例1と同様にして成形品を作製した。
【0072】
(実施例11)
混練物として、8.4gの球状シリカ混合微粒子と2.8gのビニル基含有ポリジメチルシロキサンKE−1051J(A)と2.8gのオルガノハイドロジェンポリシロキサンKE−1051J(B)とを均一になるまで混練したものを用いた以外は、実施例1と同様にして成形品を作製した。
【0073】
(実施例12)
混練物として、9.6gの球状アルミナ微粒子AO−809と1.0gのビニル基含有ポリジメチルシロキサンKE−1012J(A)と1.0gのオルガノハイドロジェンポリシロキサンKE−1012J(B)とを均一になるまで混練したものを用いた以外は、実施例1と同様にして成形品を作製した。
【0074】
(比較例1)
混練物として、7.2gの球状シリカ微粒子SO−E6と2.4gのビニル基含有ポリジメチルシロキサンKE−1012J(A)と2.4gのオルガノハイドロジェンポリシロキサンKE−1012J(B)とを均一になるまで混練したものを用いた以外は、実施例1と同様にして成形品を作製した。
【0075】
(比較例2)
混練物として、5.4gの球状シリカ微粒子KE−P10と3.3gのビニル基含有ポリジメチルシロキサンKE−1051J(A)と3.3gのオルガノハイドロジェンポリシロキサンKE−1051J(B)とを均一になるまで混練したものを用いた以外は、実施例1と同様にして成形品を作製した。
【0076】
(比較例3)
混練物として、8.0gの球状シリカ微粒子KE−P100と2.9gのビニル基含有ポリジメチルシロキサンKE−1051J(A)と2.9gのオルガノハイドロジェンポリシロキサンKE−1051J(B)とを均一になるまで混練したものを用いた以外は、実施例1と同様にして成形品を作製した。
【0077】
(比較例4)
混練物として、7.2gの球状シリカ微粒子KE−P250と2.4gのビニル基含有ポリジメチルシロキサンKE−1051J(A)と2.4gのオルガノハイドロジェンポリシロキサンKE−1051J(B)とを均一になるまで混練したものを用いた以外は、実施例1と同様にして成形品を作製した。
【0078】
(比較例5)
混練物として、9.4gの球状シリカ微粒子KE−P100と0.7gのビニル基末端ポリジメチルシロキサンDMS−V21と4.4gのオルガノハイドロジェンポリシロキサンKE−1051J(B)と1μlの白金錯体溶液とを均一になるまで混練したものを用いた以外は、実施例1と同様にして成形品を作製した。
【0079】
(比較例6)
混練物として、9.4gの球状シリカ微粒子KE−P100と0.9gのビニル基含有ポリジメチルシロキサンKE−1051J(A)と4.3gのオルガノハイドロジェンポリシロキサンDMS−H21とを均一になるまで混練したものを用いた以外は、実施例1と同様にして成形品を作製した。
【0080】
(比較例7)
混練物として、9.4gの球状シリカ微粒子KE−P100と4.3gのビニル基末端ポリジメチルシロキサンDMS−V46と0.9gのオルガノハイドロジェンポリシロキサンKE−1051J(B)と1μlの白金錯体溶液とを均一になるまで混練したものを用いた以外は、実施例1と同様にして成形品を作製した。
【0081】
(比較例8)
混練物として、10.8gの球状シリカ混合微粒子と2.3gのビニル基含有ポリジメチルシロキサンKE−1051J(A)と2.3gのオルガノハイドロジェンポリシロキサンKE−1051J(B)とを均一になるまで混練したものを用いた以外は、実施例1と同様にして成形品を作製した。
【0082】
(比較例9)
混練物として、8.6gの球状アルミナ微粒子AO−809と1.9gのビニル基含有ポリジメチルシロキサンKE−1012J(A)と1.9gのオルガノハイドロジェンポリシロキサンKE−1012J(B)とを均一になるまで混練したものを用いた以外は、実施例1と同様にして成形品を作製した。
【0083】
表1に、実施例及び比較例における各成分の種類と含有量をまとめた。さらに、各実施例及び各比較例において、各成分の含有量と比重から球状酸化物微粒子の体積分率Vを算出した。また、球状酸化物微粒子の平均粒子径Dを用いて前記関係式(3a)及び(3b)により体積分率Vの下限値と上限値を算出した。これらの結果を表2に示す。
【0084】
<貯蔵弾性率>
各実施例及び各比較例で得られた成形品からカッターナイフを用いて試験片(10mm×10mm×5mm)を切出し、各試験片について、動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御(株)製「DVA−220」)を用いて、測定温度:室温、ひずみ振幅:0.1%、試料変形モード:圧縮の条件で、測定周波数10−2Hz及び10Hzにおける貯蔵弾性率G’を測定した。その結果を表2に示す。また、球状酸化物微粒子の体積分率V(単位:体積%)と平均粒子径D(単位:nm)と貯蔵弾性率G’(単位:Pa)との関係を図3に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
表2及び図3に示した結果から明らかなように、球状酸化物微粒子の体積分率Vが前記式(3)で表される条件を満たし、かつアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)のケイ素原子結合アルケニル基の含有量及びオルガノハイドロジェンポリシロキサン(iii)のケイ素原子結合水素原子の含有量が所定の範囲内にあるシリコーンゴム組成物の硬化物(実施例1〜12)は、測定周波数10−2Hzにおける貯蔵弾性率G’が1.5MPa以下、測定周波数10Hzにおける貯蔵弾性率G’が8MPa以上となり、ひずみ速度が遅い場合には柔らかく、速い場合には硬くなるものであり、本発明のシリコーンゴム組成物は、例えば、通常使用時には単セルの変形や破損を防止することができ、大きな衝撃が加わった場合には単セルの積層位置のずれを防止することができる燃料電池拘束部材として適していることが確認された。
【0088】
一方、球状酸化物微粒子の体積分率Vが前記下限値未満のシリコーンゴム組成物の硬化物(比較例1〜4、9)は、測定周波数10Hzにおける貯蔵弾性率G’が8MPa未満となり、ひずみ速度が速い場合に十分に硬くならず、大きな衝撃が加わった場合に単セルの積層位置のずれを防止するための燃料電池拘束部材として適していないものであることがわかった。また、球状酸化物微粒子の体積分率Vが前記上限値を超えるシリコーンゴム組成物の硬化物(比較例8)は、測定周波数10−2Hzにおける貯蔵弾性率G’が1.5MPaを超過し、ひずみ速度が遅い場合に十分に柔らかくならず、通常使用時に単セルの変形や破損を防止するための燃料電池拘束部材として適していないものであることがわかった。さらに、球状酸化物微粒子の体積分率Vが前記式(3)で表される条件を満たす場合であっても、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)のケイ素原子結合アルケニル基の含有量が所定量より多いシリコーンゴム組成物の硬化物(比較例5)は、測定周波数10−2Hzにおける貯蔵弾性率G’が1.5MPaを超過し、ひずみ速度が遅い場合には十分に柔らかくならず、通常使用時に単セルの変形や破損を防止するための燃料電池拘束部材として適していないものであることがわかった。また、球状酸化物微粒子の体積分率Vが前記式(3)で表される条件を満たす場合であっても、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(iii)のケイ素原子結合水素原子の含有量が所定量より少ないシリコーンゴム組成物の硬化物(比較例6)及びアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ii)のケイ素原子結合アルケニル基の含有量が所定量より少ないシリコーンゴム組成物の硬化物(比較例7)は、測定周波数10Hzにおける硬化物の貯蔵弾性率G’が8MPa未満となり、ひずみ速度が速い場合には十分に硬くならず、大きな衝撃が加わった場合に単セルの積層位置のずれを防止するための燃料電池拘束部材として適していないものであることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上説明したように、本発明によれば、ひずみ速度が遅い場合には柔らかくなり、ひずみ速度が速い場合には硬くなる硬化物を形成することが可能なシリコーンゴム硬化物を得ることができる。
【0090】
したがって、本発明のシリコーンゴム組成物は、燃料電池スタックの通常使用時の単セルの変形や破損と、燃料電池スタックに大きな衝撃が加わった場合の単セルの積層位置のずれの両方を防止することが可能な燃料電池拘束部材、家電・精密機器の支持・緩衝部材、スポーツ用衝撃吸収素材等を形成することが可能な材料として有用である。
図1
図2
図3